説明

差動伝送押出フラットケーブル

【課題】 伝送特性を要求される差動伝送ラインに、低静電容量に特化したDDCラインを含めることのできる差動伝送押出フラットケーブルを得る。
【解決手段】 2本を一組として差動伝送する複数の信号線対からなる差動伝送用導体3を、フラット状に配列して絶縁樹脂12で押出被覆する。差動伝送用導体3を覆うシールド13を、絶縁樹脂12の外側に設ける。静電容量を小さくすべき低容量線の低容量線用導体4を、シールド13の外に設ける。シールド13と低容量線用導体4を、外被15で一体に押出被覆する。低容量線用導体4からシールド13までの距離Lを、差動伝送用導体3からシールド13までの距離Aよりも長く設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デジタルデータ等を高速伝送する差動伝送押出フラットケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
デジタルデータを高速で伝送しようとする場合、データ信号を高レベルから低レベル(あるいは低レベルから高レベル)に移行するまでの時間(遷移時間と言われている)を短くする必要がある。遷移時間を短くするには、信号振幅を小さくすればよい。しかし、信号振幅を小さくすると、外部雑音に弱くなるという問題がある。そこで、1対の信号線を使って逆位相の信号を伝送し、データ受信側では、伝送信号の差分をデータとする差動伝送方法が知られている。この方法は、伝送信号の受信側で、逆位相の信号の差分を出力するものである。この差分出力は、受信側での信号振幅が2倍となる。伝送路中で入り込むノイズは一対の信号線に同じように重畳されるため相殺される。
【0003】
上記の信号伝送は、低電圧差動信号方式(LVDS:Low Voltage Differential Signaling)と言われているもので、データ信号を一対の導線で小さい電圧変化の差動信号で伝送し、高速・低消費電力・低ノイズを実現することができる。このような信号伝送方式は、1本のケーブルで映像信号・音声信号・制御信号を伝送する統合インタフェイスであるHDMI(High-Definition Multimedia Interface)およびパソコンとハードディスクを接続するインタフェイスであるシリアルATA(Advanced Technology Attachment)などに使用するのに効率的であるとされている。
【0004】
上記のような用途で、高速差動信号を伝送するのに、例えば、特許文献1に開示のようなケーブルを使用することが知られている。このケーブルには、例えば、図5に示すような差動ケーブルの複数本を、スダレ状に並べたスダレケーブルと称されているものがある。このスダレケーブル509は、図5(a)に示すような一対の信号線をシールドしてなる差動ケーブル508を、図5(b)に示すように、複数本平行一列に並べて隣り合う差動ケーブル同士を熱融着させて形成される。
【0005】
各差動ケーブル508は、中心導体501を誘電体層502で被覆し、その外周にスキン層503を設けて信号線とし、この信号線の2本(504a,504b)を平行に並べて形成される。次いで、平行に並べられた信号線504aと504bの両外側には、ドレイン線505a,505bが配設される。そして、この配置構造を保持しつつ、その外周に金属箔テープからなる外部導体506が巻き付けられ、さらにその外側をジャケット層507で被覆して最終構造とされる。
【0006】
中心導体501は、例えば、7本の銀メッキ軟銅線を撚って、外径が0.609mm(AWG24番)とした撚り線が用いられる。誘電体層502は、多孔質PTFE(四フッ化エチレン樹脂)テープを0.37mmの厚さで中心導体501の外周に被覆して形成される。スキン層503は、厚さが0.09mmのFEP(四フッ化エチレン−六フッ化プロピレン共重合体樹脂)で形成され、誘電体層502の外面を覆っている。
【0007】
ドレイン線505a,505bは、中心導体501よりも細径で、7本の銀メッキ軟銅線を撚って外径が0.306mm(AWG30番)とした撚り線が用いられる。外部導体506は、金属蒸着テープ等を螺旋状、または、縦添えで巻き付けて形成される。ジャケット層507は、厚さ0.25mmでノンハロゲン難燃性オレフィン樹脂で形成され、長径側の外径を4.3mmとし、これを複数組平行一列に並べて長径側の側面同士を融着し、一体化させている。
【特許文献1】特開2002−304921号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
プラズマディスプレイや液晶ディスプレイが大型化するにつれて、その機器内配線材として使用される信号伝送ケーブルも長くなる。現在、数十cm程度の長さで配線されているのを、例えば、2m以上の長さで配線しようとする。この場合、伝送損失の問題が生じ、現行のケーブルを単に長くすればよいということでは対応することが難しくなる。例えば、信号伝送ケーブルが高周波領域で使用される場合、信号線を被覆している誘電体層の誘電損失も、周波数が高くなるにつれて大きくなる。特に、HDMIの使用周波数は825MHz以上であり、この場合の伝送損失は、無視することができない値となる。信号伝送ケーブルの伝送損失の増加を回避するには、中心導体等の太さを大きくする必要があるが、取り扱い性、配線スペースの問題から、ケーブル径を増加させることなく低損失化された差動伝送押出フラットケーブルの要請がある。
【0009】
また、HDMI規格では、DDC(Display Data Channel)ラインの静電容量の上限が決まっており、ケーブルアッセンブリにおけるSDA(シリアルデータ入力線)−GND間、およびSCL(シリアルクロック入力線)−GND間の静電容量を700pF/mにする必要がある。このため、電線に対しては一般的に100pF/m以下が要求され、30〜60pF/m程度が求められる場合もある。従来、丸ケーブルでは、DDCラインは、中心近くに配線されたグランドまでの距離をとって静電容量を小さくしていたが、フラットケーブルでは同様の対応をとることができなかった。
本発明は上記状況に鑑みてなされたもので、伝送特性を要求される差動伝送ラインに、低静電容量に特化したDDCラインを含めることのできる差動伝送押出フラットケーブルを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る上記目的は、下記構成により達成される。
(1) 2本を一組として差動伝送する複数の信号線対を構成する差動伝送用導体がフラット状に配列されて絶縁樹脂で押出被覆され、
シールドが前記絶縁樹脂の外側に設けられ、
前記シールドとの静電容量が小さい低容量線用導体が前記シールドの外に設けられ、
前記シールドと前記低容量線用導体が外被で一体に押出被覆され、
前記低容量線用導体から前記シールドまでの距離が前記差動伝送用導体から前記シールドまでの距離よりも長いことを特徴とする差動伝送押出フラットケーブル。
【0011】
この差動伝送押出フラットケーブルによれば、低容量線用導体をシールドの外に設け、低容量線用導体からシールドまでの距離を、差動伝送用導体からシールドまでの距離よりも長くすることで、低容量線用導体の静電容量が下がり、伝送特性の要求される差動伝送ラインに、低静電容量に特化したDDCラインを含めることが可能となる。
【0012】
(2) (1)の差動伝送押出フラットケーブルの少なくとも一端に電気コネクタを接続した差動伝送押出フラットケーブルであって、
前記シールド内の導体のピッチが一定に設定され、
前記低容量線用導体からそれに一番近いシールド内の前記差動伝送用導体までの距離が、前記シールド内の前記差動伝送用導体のピッチの整数倍であり、
前記電気コネクタの電気接触ピンが前記シールド内の前記差動伝送用導体のピッチと同一のピッチで配列され、
前記差動伝送用導体および前記低容量線用導体が前記電気接触ピンにそれぞれ接続されたことを特徴とする差動伝送押出フラットケーブル。
【0013】
この差動伝送押出フラットケーブルによれば、端部に電気コネクタが接続されることで、種々のシステムへの接続が容易に行えるようになる。また、低容量線用導体がシールド層内の差動伝送用導体から離れてあるが、その間隔を一定ピッチの整数倍とすることで、その間のピンを飛ばす(捨てピンとする)だけで接続が可能となる。
【0014】
(3) 前記絶縁樹脂がポリオレフィン樹脂からなり、
前記外被がポリウレタンとEVAとの混合樹脂であることを特徴とする(1)又は(2)の差動伝送押出フラットケーブルル。
【0015】
この差動伝送押出フラットケーブルによれば、外被が難燃性のものであるので、垂直難燃試験に合格することができる。ハロゲンフリーの素材に拘らなければPVCでもよい。外被は難燃性を持たすという機能だけではなく、機械的強度向上が主たる作用となる。難燃でなくても機械強度が向上すればよいという用途であれば、ポリオレフィン(ポリエチレンやポリプロピレン)であってもよい。
【0016】
(4) 前記絶縁樹脂に、カーボンブラックが0.1重量%〜0.5重量%添加されていることを特徴とする(1)〜(3)のいずれか1つの差動伝送押出フラットケーブル。
【0017】
この差動伝送押出フラットケーブル又はコネクタ付差動伝送押出フラットケーブルによれば、YAGレーザが内部の導体に影響を与えることなく、シールドである金属箔テープのみを切断することができる。また、絶縁体をCOレーザで切断できる。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る差動伝送押出フラットケーブルによれば、差動伝送用導体を被覆した絶縁樹脂をシールドで覆い、シールドと、その外に設けた低容量線用導体とを外被で一体に押出被覆し、低容量線用導体からシールドまでの距離を、差動伝送用導体からシールドまでの距離よりも長く設定したので、減衰、インピーダンス等の伝送特性を要求される差動伝送ラインに、低静電容量に特化したDDCラインを含めるフラットケーブルの一括化を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明に係る差動伝送押出フラットケーブルの好適な実施の形態を図面を参照して説明する。
図1は本発明に係る差動伝送押出フラットケーブルの断面図、図2はシールド接着部の拡大図である。
本実施の形態による差動伝送押出フラットケーブル1は、2本を一組として差動伝送する複数の信号線対からなる差動伝送用導体群2と、この差動伝送用導体群2の差動伝送用導体3より離間して低容量線用導体4がフラット状に配列される。差動伝送用導体群2は、絶縁樹脂12で押出被覆され、差動伝送用導体3を覆うシールドである金属箔テープ13が、絶縁樹脂12の外側に設けられている。
【0020】
低容量線用導体4は、金属箔テープ13との間の静電容量を下げることを目的として金属箔テープ13の外に設けられる。低容量線用導体4は、導体のままでもよいが、絶縁体(不図示)で被覆されてもよい。絶縁体材料としては、融点が比較的高い材料が好ましく、例えば、フッ素系材料が細径の導体に対しても引き落としで押出し成形できるので好ましい。金属箔テープ13と低容量線用導体4は、外被15で一体に押出被覆されている。そして、低容量線用導体4から金属箔テープ13までの距離Lが、フラットケーブル1の厚さ方向の差動伝送用導体3と金属箔テープ13との距離Aよりも長くなるように配置されている。差動伝送用導体群2には、差動伝送でないシングルエンドの信号線6や、給電線7が混在してもよい。
【0021】
静電容量を下げるための低容量線用導体4を金属箔テープ13の外に設け、低容量線用導体4から金属箔テープ13までの距離Lを、差動伝送用導体3からシールドまでの離間距離Aよりも長くすることで、低容量線用導体4と金属箔テープ13との間の静電容量が下がり、伝送特性の要求される差動伝送ラインに、低静電容量に特化したDDCラインを含めることが可能となっている。なお、図において、Sp,Snは信号線、S1,S2,・・・は信号線対、Gはグランド線を示す。
【0022】
本発明の差動伝送押出フラットケーブル1は、必要に応じて、ドレイン線8が金属箔テープ13に電気的に接触するように、絶縁樹脂12との間に配設される。なお、このドレイン線8は、差動伝送用導体群2の側縁の片側または両側に配設されるのが好ましい。
【0023】
差動伝送用導体3は、銅やアルミ等の電気良導体またはこれらに錫や銀メッキを施した単心線あるいは撚り線を用いることができる。差動伝送用導体3は、丸線形状のもの、または丸線を撚ったものが望ましい。フラットケーブルには、平形導体を用いるものもあるが、丸線形状の導体を使用することにより、差動伝送される信号間のカップリングを強くすることができる。また、信号間のカップリングを強くすることで、シールド導体(金属箔テープ13)に誘起される渦電流、および、それによるジュール損失を小さくし、低減衰とすることができる。
【0024】
また、差動伝送用導体3は、可撓性の点からは単心線より撚り線の方が好ましく、例えば、外径0.06mmの導線を7本撚り(AWG34番に相当、外径0.18mm)したものを用いることができる。なお、差動伝送用導体3としては、導体サイズがAWG31〜40の範囲のものを使用することができる。この電気導体は、所定のピッチPで同一平面上で、平行一列に並べて、押出し成形による絶縁樹脂12で一体に被覆して、フラット状の多心絶縁ケーブル形状とされる。
【0025】
絶縁樹脂12は、差動伝送用導体3間を電気的に絶縁するとともに、高周波領域での使用に対しては、差動伝送用導体3間および金属箔テープ13との間に介在して、静電結合を形成するコンデンサとして機能する。このため、絶縁樹脂12は誘電体とも言われ、その誘電正接(tanδ)および比誘電率(ε)は、伝送ケーブルの特性を左右するパラメータともなる。絶縁樹脂12の誘電正接は、誘電損失を少なくするという点から小さい方が望ましく、また、比誘電率は低容量とするためには小さい方が望ましい。
【0026】
したがって、絶縁樹脂12の誘電正接および比誘電率のいずれも、低い方が伝送損失も小さく、高周波の信号を効率よく伝送することができると言える。しかし、機器との接続で所定のインピーダンスを確保することも必要で、誘電体材料と形状的な組み合わせで考慮する必要がある。
【0027】
本発明においては、例えば、この絶縁樹脂12には、ポリオレフィン系の樹脂が用いられ、例えば、ポリエチレン樹脂等を用いることができる。ポリエチレン樹脂は、誘電正接が4×10−4程度であり、比誘電率が2.3〜2.4で、ポリエステル樹脂(例えば、PETで誘電正接が2×10−3 程度、比誘電率が2.9〜3.0 )より小さく、好ましい材料と言える。なお、この絶縁樹脂12は、所定の間隔で配列された複数本の差動伝送用導体3に対して、押出機を用いて押出し成形されていることが望ましい。絶縁樹脂12が、ポリエチレンを押出し成形されたものであると、高周波信号の誘電損失を低減できる。
【0028】
絶縁樹脂12を押出し成形する場合、絶縁樹脂12の上下の平面は、差動伝送用導体3間で凹みが生じないようなフラットな面で形成されていることが望ましい。これにより、各差動伝送用導体3と絶縁樹脂12の外周に巻き付けられる金属箔テープ13との間隔を一定にし、均一なインピーダンスとすることができる。
【0029】
金属箔テープ13は、上記のように差動伝送用導体3のうちの信号線との間で、所定の静電容量分布を形成して、所定のインピーダンスが得られるようにしている。この他、金属箔テープ13は、絶縁樹脂12の外周を覆って、外部からの雑音信号(ノイズ信号)の侵入あるいは外部への信号の漏出を防止するシールド導体としての機能を備えている。
【0030】
この金属箔テープ13は、図2に示すアルミまたは銅などの金属箔13aをポリエチレンテレフタレート(PET)等のプラスチック基材13bに貼り合わせて或いは蒸着して形成される。金属箔13aおよびプラスチック基材13bには、厚さが数μm〜数十μmのものが使用可能で、金属箔テープ13の全体としての厚さは、0.01mm〜0.05mmのものが使用される。例えば、金属箔13aとして厚さ9μmの銅箔を用い、テープ基材13bとして厚さ6μmのPETを用いて、全体厚さが15μmのCuPETテープとしたものを使用することができる。
【0031】
この金属箔テープ13は、その金属箔面を内側にして、絶縁樹脂12に縦添えされ絶縁樹脂12の幅で折り曲げられて、少なくともその重ね合わせ部分は接着剤13cにより接着固定される。金属箔テープ13の金属箔面を内側とすることにより、ケーブル外面に金属箔が露出しないため、外被15がなくてもケーブルとしての一定範囲の耐久性を持たせることができる。また、金属箔テープ13は、差動伝送用導体3との間でインピーダンス整合をとる必要があるため、差動伝送用導体3との離間距離Aが一定である必要がある。このためには、金属箔テープ13の外周を外被15で覆わない場合は、金属箔テープ13は、絶縁樹脂12にしっかりと貼り付いていることが好ましい。なお、両者を貼り付けるための接着剤は、例えば、ポリエステル系の接着剤を使用することができる。
【0032】
金属箔テープ13の外周が外被15で被覆される場合、金属箔テープ13は、その金属箔面が外側になるように巻き付けてもよい。この場合、外被15で覆うことにより保護され耐久性を持たせることができる。また、金属箔テープ13が、金属箔面が外側になるように巻き付けられた場合、ドレイン線8は、金属箔テープ13の外側に配設する。そして、外被15で金属箔面に接するように押し付ける形態とされる。外被15で金属箔テープ13を覆う場合は、金属箔テープ13は絶縁樹脂12に必ずしも接着しなくてよい。
【0033】
本発明による差動伝送押出フラットケーブル1は、隣り合う差動伝送用導体3の2本を一組として、1つの信号線対とされたものである。信号線対は、複数(例えば、6対のS1〜S6)であっても良い。そして、これらの信号線対を形成する一方の信号線(Sp1〜Sp6)が正電位の信号用,他方の信号線(Sn1〜Sn6)が反対の負電位の信号用とされる。また、差動伝送用導体3の本数に余裕がある場合は、各信号線対S1,S2,・・・の間の電気導体をグランド線Gとして、隣り合う信号線対S1,S2,・・・間の信号の結合を低減し、クロストークが生じないようにしてもよい。グランド線Gは、信号線と同じものを使用する。
【0034】
上述の差動伝送押出フラットケーブル1を用いた伝送路において、送信側では、例えば、上記の信号線対S1では、信号線Sp1で極性が正レベルの(+V1)信号を伝送し、信号線Sn1で極性が負レベルの(−V1)信号を伝送する。そして、受信側では、両者の信号レベルの差「(+V1)−(−V1)」をとることにより、2V1のレベル信号を受信することができる。また、伝送経路中で侵入する外部雑音信号は、信号線Sp1とSn1に同相で加わるが、受信側で差信号をとることによりキャンセルされる。信号線対S1,S2,・・・は、複数を平行一列に並べる形態で設けられ、それぞれの信号線対(S1〜S6)は、互いに異なる信号を個別に伝送することができる。
【0035】
各信号線対S1,S2,・・・間に配されたグランド線Gは、グランド電位とされる。グランド線Gは、各信号線対(S1〜S6)の両側を挟むように配され、信号線SpとSnの両者に対して電気的、物理的にバランスする配置状態とするのが好ましい。しかし、ケーブル両端に位置する信号線対S1とS6の外側は、信号線対Sが存在しないことから省略することもできる。また、この他に、信号線対Sに影響を与えない形態で、例えば、信号線群の配列ピッチの数倍の距離をおいたところに電源線等を備えていてもよい。
【0036】
信号線Sp,Sn、およびグランド線Gを形成する差動伝送用導体3の配列ピッチPは、電気的な絶縁が確保できる距離で、また、信号線SpとSnとの間の結合度を考慮すると、差動伝送用導体3の外径が0.18mm(AWG34番相当)の場合、0.5mm程度とすることができる。また、絶縁樹脂12の被覆幅D1は、インピーダンスが所定値(例えば、100Ω)となるように、絶縁樹脂12の誘電率を考慮して選択される。また、外被15を有する場合、外被15の被覆厚さは0.2mm程度で、内部の差動伝送用導体3の太さ、絶縁樹脂12の被覆厚さによるが、被覆幅D2は1.0mm〜3.0mm程度とされる。
【0037】
上記の構成において、インピーダンスを大きくするには、差動伝送用導体3の径を細くするか、または絶縁樹脂12の厚さを大きくするが、伝送損失の点からは絶縁樹脂12の厚さを増加させるのが好ましい。反対にインピーダンスを小さくするには、差動伝送用導体3の径を太くするか、または絶縁樹脂12の厚さを小さくするが、伝送損失の点からは差動伝送用導体3の太さを増加させるのが好ましい。
【0038】
また、ケーブルの伝送損失としては、通常、5.0dB/使用長まで許容される。2mの使用長では、2.5dB/mが許容される。また、伝送損失は、使用周波数によっても異なるが、例えば、HDMIの使用周波数825MHzにおいて、差動伝送用導体3を7本撚り線で外径が0.18mm(AWG34番相当、)を用い、導体ピッチPを0.5mm、絶縁樹脂12の厚さD1を導体ピッチPと同じ0.5mmとする。そして、絶縁樹脂12にポリエチレンを用いた場合、伝送損失は1.5dB〜2.0dB/mと推定される。
【0039】
上記の構成において、低容量線用導体4の導体サイズと、低容量線用導体4から金属箔テープ13までの距離Lと、静電容量との関係は、以下のようになる。
低容量線用導体4の外径が0.05mmの場合、外被15にポリエチレン樹脂(比誘電率ε=2.3)を使用し、低容量線用導体4から金属箔テープ13までの距離Lが1.0mm以上であると、低容量線用導体4と金属箔テープ13との間の静電容量を35pF/m以下にできる。距離Lが2.0mm以上となると、静電容量を30pF/m以下にできる。一方、外被15に後述するポリウレタン樹脂とエチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)樹脂との混合樹脂(比誘電率ε=3.2)を用いると、上記距離Lが1.0mm以上で、静電容量を50pF/m以下にでき、距離Lが2.0mm以上では静電容量を40pF/m以下にでき、距離Lが9.0mm以上では静電容量を30pF/m以下にできる。
【0040】
また、低容量線用導体4の外径を0.063mmとし、外被15に上記のポリエチレン樹脂を使用し、低容量線用導体4から金属箔テープ13までの距離Lが1.0mm以上であると、静電容量を40pF/m以下にでき、距離Lが2.0mm以上では静電容量を30pF/m以下にできる。外被15に上記の混合樹脂(比誘電率ε=3.2)を用いると、距離Lが1.0mm以上では静電容量を50pF/m以下にでき、距離Lが2.0mm以上では静電容量を45pF/m以下にでき、距離Lが10.0mm以上では静電容量を30pF/m以下にできる。
【0041】
同様に、低容量線用導体4の外径を0.254mmとし、外被15に上記のポリエチレン樹脂を使用し、低容量線用導体4から金属箔テープ13までの距離Lが1.0mm以上であると、静電容量を60pF/m以下にでき、距離Lが2.0mm以上では静電容量を45pF/m以下にでき、距離Lが9.0mm以上では静電容量を30pF/m以下にできる。一方、外被15が上記の混合樹脂であると、距離Lが1.0mm以上では静電容量を85pF/m以下にでき、距離Lが2.0mm以上では静電容量を65pF/m以下にできる。
以上のことから、低容量線用導体4の距離Lが離れる程、静電容量が下がることが分かる。また、低容量線用導体4の外径が細い程(実質的に距離が離れるのと同義)、静電容量が下がることが分かる。また、外被15にポリウレタン樹脂とEVA樹脂との混合樹脂を用いた場合には、ポリエチレン樹脂を用いた場合よりも静電容量が10〜20pF/m程度高くなることが分かる。
【0042】
他方、図5に示すような極細の同軸構造を用いたスダレケーブルで、上記と同じ導体ピッチを0.5mmで形成し、100Ωのインピーダンスを得るには、中央導体の太さを外径0.03mmの7本撚り(AWG40番に相当、外径0.09mm)の細径にする必要がある。この結果、上記と同じ使用周波数825MHzにおける伝送損失は、4dB〜5dB/mとなり、本発明の場合と比べて2倍の損失となる。他方、従来構造で、本願発明と同等の伝送損失となるようにするには、スダレケーブルの幅、厚さが増大し、配線スペースが増大し、取り扱い性も低下する。
【0043】
また、近年は、難燃性を備えたケーブルの要求が高く、UL規格の垂直燃焼試験VW−1に合格する硬度の難燃性ケーブルが求められている。
金属箔テープ13の巻き付けの重なり量が少ないと、燃焼試験中に重なり部分の接着剤が融解する。そして、この重なり部分からテープ内側のポリエチレン樹脂が気化して洩れ出し、これが燃焼してケーブルの延焼を助長することになる。
【0044】
これに対して、図3に示すように、金属箔テープ13の巻き付けの重なり部分を大きくした差動伝送押出フラットケーブル1Aは垂直難燃試験に合格することができる。試験の結果、金属箔テープ13を1.5重に巻き付け、巻き付けの重なり部分を0.5巻きとすることで、燃焼ガスの漏れを抑制することができた。したがって、金属箔テープ13は、絶縁体の外周に1.5重以上に巻き付け、巻き付けの重なり部分を0.5巻き分以上とするのが好ましい。
【0045】
また、金属箔テープ13の金属箔は、アルミ箔の場合、7μmでは穴があき難燃性試験に不合格となり、10μm以上の厚さが必要であった。銅箔の場合は、7μmの厚さで難燃性試験に合格した。したがって、難燃性を高めるには、銅箔テープを用いるのが好ましい。
【0046】
外被15は、ジャケットとも言われ、金属箔テープ13を含めてケーブル全体の保護のために設けられる。この外被15は、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン或いは後述のポリウレタン樹脂とエチレン酢酸ビニル共重合樹脂との混合樹脂等を、押出機を用いて押出し成形するか、樹脂テープを巻き付けて形成することができる。外被15は、金属箔テープ13を電気的に絶縁して保護するとともに、その機械的強度を補強し、屈曲等に耐える強度をさらに強める。
【0047】
外被15を有するケーブルでは、外被材料に難燃性のものを用いることにより、難燃性を高めることができる。難燃性の外被15としては、従来、ハロゲン系難燃剤を添加した難燃ポリエチレンやポリ塩化ビニル樹脂が用いられているが、環境問題からハロゲンを含まないハロゲンフリーの難燃性ケーブルの要求が高くなっている。本発明においては、ケーブルの外被15として、ポリウレタン樹脂とエチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)樹脂との混合樹脂(例えば、特開2008−117609号公報参照)を用いて、ケーブルの難燃化を実現している。難燃性の外被15で金属箔テープ13を覆う場合は金属箔テープ13は一部重なってさえいればよい。
【0048】
外被15を難燃性のものにすると共通シールドを1.5重に巻かなくてもよい。ハロゲンフリーの素材に拘らなければPVCでもよい。外被15は難燃性を持たすという機能だけではなく、機械的強度向上が主たる作用となる。難燃でなくても機械強度が向上すればよいという用途であれば、ポリオレフィン(ポリエチレンやポリプロピレン)であってもよい。
【0049】
上記のように構成された差動伝送押出フラットケーブル1は、低静電容量に特化したDDCラインを含むと同時に、従来の丸ケーブルに比べ、機器内に配線する際にフラットな面を機器内壁面に当てることで配線作業性が良好となる。また導体に撚りを伴わない押出し成形で製造できて生産性に優れ、低コストで生産できる。導体断面積が同じで心数も同じである丸ケーブルよりも断面積を小さくして、配線空間が狭小になるといった効果を有する。又、差動伝送線とDDCラインとを一つのケーブルに含むことができて一つのコネクタで差動伝送線とラインとを基板等に接続することができるので配線作業が容易である。コネクタを接続する場所を小さくできるので、機器の小型化に有効である。
【0050】
差動伝送押出フラットケーブル1は、コネクタ接続等のための端末形成に際し、金属箔テープ13をYAGレーザにて切断することが望ましい。しかし、絶縁樹脂12が透明ないし自然色であると、YAGレーザで金属箔テープ13を切断するときに絶縁樹脂12の内部の導体を劣化させることがある。そこで、絶縁樹脂12を着色してYAGレーザが透過しにくくすると、今度はCOレーザによって絶縁樹脂12を切断しにくくなる。
【0051】
このため、絶縁樹脂12にはカーボンブラックを0.15wt%程度(0.1重量%〜0.5重量%)添加して、絶縁樹脂12の色を薄黒とするのが望ましい。この程度のカーボンブラックの添加量であれば、YAGレーザが内部の導体に影響を与えることなく、金属箔テープ13のみを切断することができる。また、絶縁樹脂12に対しては、COレーザによる切断が確保できる。
【0052】
シールド導体を有するフラットケーブルでは、外被の有無に関係なく、極端に折り曲げ(最小曲げ径以下での曲げ)られると、シールド導体を形成している金属箔テープ13に亀裂が入ったり切断されたりすることがある。このため、ケーブルが所定の曲げ半径以下の半径で曲げられないように、折り曲げられる箇所には、金属箔テープ13が切断しない最小曲げ半径よりも大きな曲げ半径とする曲げ規制手段(不図示)を備えていることが望まれる。
【0053】
曲げ規制部材を備えることで、最小曲げ径以下で曲げられることによる、共通シールドを形成している金属箔テープ13の亀裂や切断が防止される。外被15があってもなくても、極端に折り曲げれば(最小曲げ半径以上に折り曲げれば)、金属箔テープ13が切れる。金属箔テープ13が切れないように最小曲げ半径以上の半径を有する曲げ規制部材を曲げ部にあてがって固定する。例えば、曲げ規制部材である棒等を接着し、接着テープを折り曲げ部に巻いて(棒がくるまれるように)固定する。90°に折り曲げる場合は、1.5mm程度が金属箔テープ13(CuPETの銅)に亀裂が入らない下限の曲げ半径となる。また、180°に折り曲げる、つまり重ねてたたむ場合は、2.5mm程度がCuPETの銅に亀裂が入らない下限の曲げ半径となる。
【0054】
図4はコネクタ付の差動伝送押出フラットケーブルの平面図である。
差動伝送押出フラットケーブル1は、両端に接続された電気コネクタ20,21とによりコネクタ付の差動伝送押出フラットケーブル1Bを構成する。電気コネクタ20,21に接続するための差動伝送押出フラットケーブル1の端末処理は、外被15がある場合、外被15をCOレーザで切って除去する。金属箔テープ13はYAGレーザで切って除去する。YAGレーザで金属箔テープ13を切るときには内部の絶縁樹脂12を劣化させないようにする。絶縁樹脂12はCOレーザで切って除去する。
【0055】
端末処理のなされた差動伝送押出フラットケーブル1の各導体(差動伝送用導体3、低容量線用導体4、グランド線G、シングルエンド信号線6、給電線7、ドレイン線8)には、電気コネクタ20,21の電気接触ピンが接続される。ここで、差動伝送押出フラットケーブル1は、金属箔テープ13内の導体のピッチpが一定に設定されている。
【0056】
差動伝送押出フラットケーブル1は、低容量線用導体4からそれに一番近い金属箔テープ13内の差動伝送用導体3までの距離は、金属箔テープ13内の導体(差動伝送用導体3)のピッチPの整数倍(n×P;但しnは整数)となっている。また、電気コネクタ20,21は、電気接触ピンが金属箔テープ13内の導体のピッチpと同一のピッチで配列される。これにより、ピッチPで配列された各導体がピッチPで配列された電気接触ピンに一対一で接続されるようになされている。
【0057】
差動伝送押出フラットケーブル1では、低容量線用導体4が金属箔テープ13内の導体から離れているが、その間隔を一定ピッチの整数倍とすることで、その間の電気接触ピンを飛ばす(捨てピンとする)だけで接続が可能となる。例えば、図1に示すように、低容量線用導体4からそれに一番近い金属箔テープ13内の導体(ドレイン線8を除く)Gまでの距離を、一定のピッチPの3倍とする。すると、低容量線用導体4を接続する電気接触ピン17aとその横の金属箔テープ13内の導体Gを接続する電気接触ピン17dの間には捨てピン17b,17cが2本生じる(飛ばされる)。
【0058】
こうすると、低容量線用導体4をまっすぐ伸ばして例えば電気コネクタ20の電気接触ピン17aに接続できる。電気コネクタ20の電気接触ピン17の間隔も一定でよくなる。電気コネクタ20の電気接触ピン17の配置を差動伝送押出フラットケーブル1の各導体の配列に合わせる必要がなくなり、複数種類のケーブルで電気コネクタ20を共用できる(電気接触ピン17の数が余れば捨てピンとすればよい)ので、電気コネクタ20,21のコストを低減できる。なお、ドレイン線8は電気接触ピン17cに落とした後、電気接触ピン17dまで取り回す。
【0059】
このようにして得たコネクタ付の差動伝送押出フラットケーブル1Bによれば、伝送特性が要求される差動伝送ラインに、低静電容量に特化したDDCラインを含めると同時に、機器内での配線取り回しと、機器とのコネクタ接続とによる作業が容易となり、配線作業性の向上が図れる。また、コネクタは外形寸法が小型化される。
【0060】
したがって、本実施の形態による差動伝送押出フラットケーブル1によれば、差動伝送用導体3を被覆した絶縁樹脂12をシールド(金属箔テープ13)で覆い、金属箔テープ13と、その外に設けた低容量線用導体4とを外被15で一体に押出被覆し、低容量線用導体4から金属箔テープ13までの距離Lを、差動伝送用導体3から金属箔テープ13までの離間距離Aよりも長く設定したので、減衰、インピーダンス等の伝送特性を要求される差動伝送ラインに、低静電容量に特化したDDCラインを含めるフラットケーブルを実現できる。例えば、低容量線用導体径を0.05mmとし、外被にポリエチレン樹脂を使用して、低容量線用導体から金属箔テープまでの距離を2.0mm以上にすれば、静電容量を30pF/m以下にすることができ、静電容量を小さくしたい要求に対して、フラットケーブルで実現できる。
【0061】
この結果、HDMI配線を一つのフラットケーブル1とし、差動伝送ラインは高カップリングの低ロス配線となり、DDCラインは低静電量を実現する、今までにない差動伝送押出フラットケーブル1を実現させることができる。しかも、フラットケーブルであることにより、配線の取り回し等に優れ、コネクタ接続と相まって配線作業を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明に係る差動伝送押出フラットケーブルの断面図である。
【図2】シールド接着部の拡大図である。
【図3】シールドが1.5重巻かれた変形例に係る差動伝送押出フラットケーブルの断面図である。
【図4】コネクタ付差動伝送押出フラットケーブルの平面図である。
【図5】(a)は従来の差動伝送押出フラットケーブルの正面図、(b)はその斜視図である。
【符号の説明】
【0063】
1 差動伝送押出フラットケーブル
1B コネクタ付差動伝送押出フラットケーブル
3 差動伝送用導体
4 低容量線用導体
12 絶縁樹脂
13 金属箔テープ(シールド)
15 外被
17 電気接触ピン
20,21 電気コネクタ
A 差動伝送用導体からシールドまでの距離
L 低容量線用導体からシールドまでの距離
S1,S2,・・・ 信号線対
p 導体のピッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2本を一組として差動伝送する複数の信号線対を構成する差動伝送用導体がフラット状に配列されて絶縁樹脂で押出被覆され、
シールドが前記絶縁樹脂の外側に設けられ、
前記シールドとの静電容量が小さい低容量線用導体が前記シールドの外に設けられ、
前記シールドと前記低容量線用導体が外被で一体に押出被覆され、
前記低容量線用導体から前記シールドまでの距離が前記差動伝送用導体から前記シールドまでの距離よりも長いことを特徴とする差動伝送押出フラットケーブル。
【請求項2】
請求項1記載の差動伝送押出フラットケーブルの少なくとも一端に電気コネクタを接続した差動伝送押出フラットケーブルであって、
前記シールド内の導体のピッチが一定に設定され、
前記低容量線用導体からそれに一番近いシールド内の前記差動伝送用導体までの距離が、前記シールド内の前記差動伝送用導体のピッチの整数倍であり、
前記電気コネクタの電気接触ピンが前記シールド内の前記差動伝送用導体のピッチと同一のピッチで配列され、
前記差動伝送用導体および前記低容量線用導体が前記電気接触ピンにそれぞれ接続されたことを特徴とする差動伝送押出フラットケーブル。
【請求項3】
前記絶縁樹脂がポリオレフィン樹脂からなり、
前記外被がポリウレタンとEVAとの混合樹脂であることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の差動伝送押出フラットケーブル。
【請求項4】
前記絶縁樹脂に、カーボンブラックが0.1重量%〜0.5重量%添加されていることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項記載の差動伝送押出フラットケーブル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−92805(P2010−92805A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−264132(P2008−264132)
【出願日】平成20年10月10日(2008.10.10)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】