説明

差動信号用ケーブル

【課題】10Gbps以上の高速伝送に用いられる差動信号用ケーブルにおいて、その周波数特性にて減衰量が急激に増加せず、かつ、屈曲に対しても十分に耐えられ、かつ、安定的な生産が可能な差動信号用ケーブルを提供する。
【解決手段】並行配置された一対の絶縁電線2と、該一対の絶縁電線2の周囲に一括して金属箔付きテープ3を螺旋状に巻き付けて形成されるシールド層4と、を備えた差動信号用ケーブルにおいて、シールド層4は、金属箔付きテープ3を、金属箔3bが設けられた側の面が外側となるように長手方向に沿って折り曲げ、該折り曲げにより折り返された部分である折り返し部5の少なくとも一部が螺旋状の重なり部分に位置するように、一対の絶縁電線2の周囲に巻き付けて形成されるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、10Gbps以上の高速デジタル信号を数mから数十m伝送させる信号波形劣化の小さい差動信号用ケーブルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
数Gbps以上の高速デジタル信号を扱う、サーバ・ルータ・ストレージ製品において、機器間、あるいは、機器内の基板間の信号伝送には差動信号による伝送が用いられており、その電気的接続には差動信号用ケーブルが用いられている。
【0003】
差動信号による伝送では、位相を180度反転させた信号を2つの導線で伝送し、受信側で受信した各信号の差分を合成・出力する。2つの導線に流れる電流は互いに逆方向を向いて流れるため、伝送線路から放射される電磁波を小さくでき、また、外部から受けたノイズは2つの導線に等しく重畳するので、受信側で差分を合成出力することで、ノイズによる影響を打ち消すことができる。これらの理由から、高速信号には、差動信号による伝送がよく用いられる。
【0004】
差動信号用ケーブルとして、導線を絶縁体で被覆した2本の絶縁電線を撚り合わせて対にしたツイストペアケーブルがある。ツイストペアケーブルは、安価で平衡性に優れており、曲げも容易であるため、中距離の信号伝送に広く用いられている。しかし、このツイストペアケーブルは、一般的に、グランドに相当する導体が無いので、ケーブルの近くに置かれた金属の影響を受け易く、ケーブルの特性インピーダンスが安定しないという問題がある。そのため、数GHzの高周波領域では、信号波形が崩れ易く、数Gbps以上の伝送線路にはあまり用いられることがない。
【0005】
一方、2本の絶縁電線を撚らずに並行して並べて、これをシールド層で覆ったケーブルをツイナックスケーブルと呼ぶ。ツイナックスケーブルは、ツイストペアケーブルに比べて2本の導線間の物理長の差が少なく、また、シールド層が2本の絶縁電線を覆うように設けられているので、ケーブル付近に金属を置いても特性インピーダンスが不安定になることもなく、ノイズ耐性も高い。ツイナックスケーブルは、比較的、高速で短距離の信号伝送に用いられており、シールド層には、金属箔付きテープや、編組状の素線で覆ったものが用いられる。また、ドレイン線等を付け合わせることもある。
【0006】
例えば、図3に示す差動信号用ケーブル31は、特許文献1で開示されたツイナックスケーブルの一例を示すものである。この差動信号用ケーブル31では、信号用の導線32を絶縁体33で絶縁した2本の絶縁電線34に、ドレイン線35を縦添えし、プラスチックテープ(プラスチックフィルム)36に金属箔37を貼り付けた金属箔付きテープ38を螺旋状に巻き付け、その周囲をジャケット39で被覆して、内部を保護している。
【0007】
また、図4(a),(b)に示す差動信号用ケーブル41は、図3の差動信号用ケーブル31と同じく、特許文献1で開示されたツイナックスケーブルの一例を示すものである。この差動信号用ケーブル41では、信号用の導線42を絶縁体43で絶縁した2本の絶縁電線44を、プラスチックテープ45に金属箔46を貼り付けた金属箔付きテープ47を縦添え(シガレット巻き)している。金属箔付きテープ47と絶縁電線44の間にはドレイン線48が配置され、ドレイン線48が金属箔付きテープ47の導電面(金属箔46)と接触され接地されるようになっている。さらに、金属箔付きテープ47の外側は、ジャケット49で被覆され、内部を保護している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−289047号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述のように、差動信号を伝送させるために、ツイナックスケーブルが一般に用いられている。
【0010】
しかし、図3の差動信号用ケーブル31のように、金属箔付きテープ38を螺旋状に巻き付けてシールド層を形成した場合、ケーブル減衰量の周波数特性において、図5に示すような、急激な落ち込み(減衰量の急激な増加)、すなわち「サックアウト」が生じてしまう。
【0011】
これは、図6に示すように、金属箔付きテープ38が金属箔37とプラスチックテープ36の2層からなるため、金属箔付きテープ38を螺旋状に巻き付けたときに重なり合った部分では、巻きの内側に位置する金属箔付きテープ38と、巻きの外側に位置する金属箔付きテープ38の金属箔37同士が、プラスチックテープ36で絶縁されている状態となり、かつ、この構造が周期的に繰返し存在することに起因する。
【0012】
通常、30mm程度の巻き付けピッチでは12GHzあたりに減衰領域が現れるので、数Gbpsの伝送では、そこまで高い周波数領域までは必要なく問題がなかったが、次世代の10Gbps以上の高速信号伝送用途においては、その影響を大きく受け、例えば、25Gbpsの信号では、その基本波は12.5GHzとなるので、12GHz周辺のサックアウトで信号が大きく減衰してしまうことになる。
【0013】
一方、図4の差動信号用ケーブル41のように、金属箔付きテープ47を縦添えする場合には、周期的に金属箔46が重なる部分が無いので、上述のような「サックアウト」は生じない。しかし、縦添えの場合、差動信号用ケーブル41を屈曲したときに、構造的に金属箔付きテープ47の伸び・縮みを吸収することができないため、金属箔付きテープ47が撓んだり、シワが寄ったり、あるいは、断裂してしまったりすることが多々ある。
【0014】
撓み、シワ寄り等が発生すると、ケーブルの対称性が崩れるので、2つの導線42の伝播時間差である「スキュー」が増加したり、対称性が崩れた部分から電磁界が漏れることからEMI(Electromagnetic Interference)量が増加したりする問題が生じる。
【0015】
そのため、金属箔付きテープ47を縦添えした差動信号用ケーブル41は、殆ど屈曲させないような用途にしか用いることができない。また、このような現象(金属箔付きテープ47の撓み、シワ寄り等)は、ケーブル完成後のみならず、ケーブル製造工程中の「巻き取り工程」「撚り工程」などでも発生し、製品の歩留り低下にも影響するため、安定した生産が非常に難しいという問題もある。
【0016】
本発明は、上記事情に鑑み為されたものであり、10Gbps以上の高速伝送に用いられる差動信号用ケーブルにおいて、その周波数特性にて減衰量が急激に増加せず、かつ、屈曲に対しても十分に耐えられ、かつ、安定的な生産が可能な差動信号用ケーブルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は上記目的を達成するために創案されたものであり、並行配置された一対の絶縁電線と、該一対の絶縁電線の周囲に一括して金属箔付きテープを螺旋状に巻き付けて形成されるシールド層と、を備えた差動信号用ケーブルにおいて、前記金属箔付きテープを、金属箔が設けられた側の面が外側となるように長手方向に沿って折り曲げ、該折り曲げにより折り返された部分である折り返し部の少なくとも一部が螺旋状の重なり部分に位置するように、前記金属箔付きテープを前記一対の絶縁電線の周囲に巻き付けて、前記シールド層を形成した差動信号用ケーブルである。
【0018】
前記重なり部分の幅が、前記金属箔付きテープのテープ幅の1/4以上であるとよい。
【0019】
前記折り返し部の幅が、前記金属箔付きテープのテープ幅の1/4以上であるとよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、10Gbps以上の高速伝送に用いられる差動信号用ケーブルにおいて、その周波数特性にて減衰量が急激に増加せず、かつ、屈曲に対しても十分に耐えられ、かつ、安定的な生産が可能な差動信号用ケーブルを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施の形態に係る差動信号用ケーブルの斜視図である。
【図2】図1の差動信号用ケーブルにおいて、金属箔付きテープの巻き付け状態を示す縦断面図である。
【図3】従来の差動信号用ケーブルの斜視図である。
【図4】従来の差動信号用ケーブルを示す図であり、(a)は斜視図、(b)は横断面図である。
【図5】図3の従来の差動信号用ケーブルのケーブル減衰量の周波数特性を示す図であり、減衰量の急激な増加である「サックアウト」が生じることを説明する図である。
【図6】図3の従来の差動信号用ケーブルの金属箔付きテープの巻き付け状態を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態を添付図面にしたがって説明する。
【0023】
図1は、本実施の形態に係る差動信号用ケーブルの斜視図であり、図2はその金属箔付きテープの巻き付け状態を示す縦断面図である。
【0024】
図1,2に示すように、差動信号用ケーブル1は、並行配置された一対の絶縁電線2と、該一対の絶縁電線2の周囲に一括して金属箔付きテープ3を螺旋状に巻き付けて形成されるシールド層4と、を備えている。
【0025】
絶縁電線2は、信号用となる導線2aを所定の誘電率を有する絶縁体2bで被覆してなる。
【0026】
信号用の導線2aとしては、銅などの電気良導体、または、これらの電気良導体にメッキ等を施した単線を用いる。なお、屈曲特性を重視する場合には、導線2aとして撚線を用いてもよい。
【0027】
絶縁体2bに用いる材料としては、誘電率、誘電正接の小さいものを用いることが望ましく、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、パーフロロアルコキシ(PFA)、ポリエチレン等を用いるとよい。また、誘電率、誘電正接を小さくするため、絶縁体2bに発泡絶縁樹脂を用いてもよい。発泡絶縁樹脂を用いる場合は、成型前に発泡剤を練り込み、成型時の温度によって発泡度を制御する方法、窒素等のガスを成型圧力で注入しておき、圧力解放時に発泡させる方法等、公知の方法を用いて絶縁体2bを形成するとよい。
【0028】
シールド層4に用いる金属箔付きテープ3としては、ポリエチレンテープ等のプラスチックテープ(プラスチックフィルム)3aの一方の面に、銅、アルミ等の金属箔3bを接着、蒸着等により貼り合わせたものを用いる。
【0029】
本実施の形態に係る差動信号用ケーブル1では、シールド層4は、金属箔付きテープ3を、金属箔3bが設けられた側の面が外側となるように長手方向に沿って折り曲げ、該折り曲げにより折り返された部分である折り返し部5の少なくとも一部が螺旋状の重なり部分に位置するように、一対の絶縁電線2の周囲に巻き付けて形成される。
【0030】
本実施の形態では、折り返し部5が巻きの内側(絶縁体2側)となるように、すなわち、折り返し部5以外の金属箔付きテープ3では金属箔3bが巻きの外側に位置するように、金属箔付きテープ3を巻き付けた。ただし、これに限らず、折り返し部5の少なくとも一部が螺旋状の重なり部分に位置していれば、折り返し部5が巻きの外側となるように、金属箔付きテープ3を巻き付けてもよい。
【0031】
このとき、金属箔付きテープ3を螺旋状に巻く際の重なり部分の幅(いわゆるラップ率)は、金属箔付きテープ3のテープ幅の1/4以上であることが望ましい。また、金属箔付きテープ3を折り曲げる幅、すなわち折り返し部5の幅は、金属箔付きテープ3のテープ幅の1/4以上であることが望ましい。
【0032】
重なり部分の幅、および折り返し部5の幅を金属箔付きテープ3のテープ幅の1/4以上とするのは、重なり部分において巻きの内側(絶縁体2側)に位置する金属箔付きテープ3の金属箔3bと、巻きの外側(絶縁体2側)に位置する金属箔付きテープ3の折り返し部5の金属箔3bとを、十分に接触させるように強固に巻き付け固定するためである。
【0033】
なお、重なり部分において、巻きの内側と外側の金属箔付きテープ3の折り返し部5が重なり合ってしまうと、シールド層4が厚くなり好ましくないので、重なり部分の幅は、金属箔付きテープ3のテープ幅から折り返し部5の幅を減じた長さ、すなわち折り返し部5が重なっていない部分の幅よりも小さいことが望ましい。本実施の形態では、重なり部分の幅及び折り返し部5の幅が最も大きくなるよう、重なり部分の幅及び折り返し部5の幅を、共に金属箔付きテープ3のテープ幅の1/3程度(実際には、金属箔付きテープ3の重なり部分での湾曲等を考慮して、テープ幅の1/3よりも若干小さい幅)としている。
【0034】
シールド層4の外周には、図示していないが、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、フッ素樹脂等の熱可塑性樹脂を押出被覆して、ジャケット(外皮)を形成するとよい。
【0035】
本実施の形態の作用を説明する。
【0036】
本実施の形態に係る差動信号用ケーブル1では、金属箔付きテープ3を、金属箔3bが設けられた側の面が外側となるように長手方向に沿って折り曲げ、その折り返し部5の少なくとも一部が螺旋状の重なり部分に位置するように、一対の絶縁電線2の周囲に巻き付けてシールド層4を形成している。
【0037】
このように構成することで、折り返し部5の金属箔3bが、巻きの内側に位置する1ピッチ前の金属箔付きテープ3の金属箔3bと常に接触・導通している状態となり、信号の伝送に伴ってシールド層4に流れる電流は、図2に矢印21で示すように、ケーブル長手方向に沿って流れ、電流の流れがプラスチックテープ3aで制限されることが無くなる。
【0038】
よって、差動信号用ケーブル1によれば、金属箔付きテープ3を螺旋状に巻く構造でありながら、金属箔付きテープ3を縦添えした場合と同様に、ケーブル長手方向に周期的な絶縁部分が存在しなくなり、サックアウトが生じなくなる。つまり、本発明によれば、10Gbps以上の高速伝送に用いたとしても、周波数特性にて減衰量が急激に増加しない(つまり減衰量の小さい)差動信号用ケーブル1を実現でき、その結果、機器間、及び機器内の高速信号伝送が可能となり、これら電子機器の性能向上に寄与する。
【0039】
さらに、差動信号用ケーブル1では、シールド層4が金属箔付きテープ3を螺旋状に巻く構造であるため、金属箔付きテープ3を縦添えした場合のように、屈曲しても金属箔付きテープ3が撓んだり、シワになったりすることが少なく、また、シールド層4の断裂も殆ど発生しない。つまり、本発明によれば、屈曲に対しても十分に耐えられ、かつ、安定的な生産が可能な差動信号用ケーブル1を実現できる。
【0040】
本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加え得ることは勿論である。
【0041】
例えば、上記実施の形態では、一対の絶縁電線2を並列配置し、その周囲に金属箔付きテープ3を巻き付けてシールド層4を形成する場合を説明したが、1対の絶縁電線2に代えて、並行配置された一対の導線の周囲を絶縁体で一括被覆した2心の絶縁電線を用いることも可能である。
【0042】
また、上記実施の形態では言及しなかったが、必要に応じてドレイン線等を付け合せるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0043】
1 差動信号用ケーブル
2 絶縁電線
2a 導線
2b 絶縁体
3 金属箔付きテープ
3a プラスチックテープ
3b 金属箔
4 シールド層
5 折り返し部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
並行配置された一対の絶縁電線と、
該一対の絶縁電線の周囲に一括して金属箔付きテープを螺旋状に巻き付けて形成されるシールド層と、
を備えた差動信号用ケーブルにおいて、
前記シールド層は、
前記金属箔付きテープを、金属箔が設けられた側の面が外側となるように長手方向に沿って折り曲げ、該折り曲げにより折り返された部分である折り返し部の少なくとも一部が螺旋状の重なり部分に位置するように、前記一対の絶縁電線の周囲に巻き付けて形成される
ことを特徴とする差動信号用ケーブル。
【請求項2】
前記重なり部分の幅が、前記金属箔付きテープのテープ幅の1/4以上である請求項1記載の差動信号用ケーブル。
【請求項3】
前記折り返し部の幅が、前記金属箔付きテープのテープ幅の1/4以上である請求項1または2記載の差動信号用ケーブル。

【図1】
image rotate

【図3】
image rotate

【図5】
image rotate

【図2】
image rotate

【図4】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2012−133991(P2012−133991A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−284738(P2010−284738)
【出願日】平成22年12月21日(2010.12.21)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】