説明

差圧伝送器

【課題】作業効率よく零点調整が行える差圧伝送器を提供すること。
【解決手段】切換可能な内蔵指示計が表示する変数を確認しながらパルス列を生成する外部零点調整機構を回転操作して所望の零点調整対象変数の零点調整を行うように構成された差圧伝送器において、前記外部零点調整機構の回転操作を検出する零点調整検出部と、この零点調整検出部の回転操作検出出力に基づき前記内蔵指示計が表示する変数を零点調整対象の変数に切り換える表示選択制御部、を設けたことを特徴とするもの。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、差圧伝送器に関し、詳しくは、零点調整の改良に関する。
【0002】
差圧伝送器は、管路に設けられた絞り機構の前後に発生する差圧を測定して、測定対象流体の流量や液位や圧力などを求めるものであり、石油や化学などの各種プラントや、上下水道などで広く用いられている。
【0003】
ところで、差圧伝送器の所定の測定精度を維持するために、定期的にあるいは必要に応じて随時、実入力に基づく校正や零点調整が行われている。
【0004】
図5は、従来の差圧伝送器の零点調整を説明するための等価回路図である。図5において、差圧伝送器本体1には、図示しない差圧検出部に測定対象流体の高圧側の圧力を入力する高圧入力口PHと、低圧側の圧力を入力する低圧入力口PLが設けられている。高圧入力口PHには高圧導圧管2が接続され、低圧入力口PLには低圧導圧管3が接続されている。
【0005】
高圧入力口PHと高圧導圧管2の間にはスリーウェイバルブ4を構成する高圧バルブ41が接続され、低圧入力口PLと低圧導圧管3の間にはスリーウェイバルブ4を構成する低圧バルブ42が接続され、これら高圧バルブ41と低圧バルブ42の出力口には高圧入力口PHと低圧入力口PLの圧力を等しくするための等圧バルブ43が接続されている。
【0006】
さらに、差圧伝送器本体1には、高圧入力と低圧入力との差圧に応じた電気信号を出力する差動アンプ5が接続されている。
【0007】
このような構成において、通常の差圧測定にあたっては、スリーウェイバルブ4の等圧バルブ43を閉じて、高圧バルブ41と低圧バルブ42を開く。これにより、差圧伝送器本体1の高圧入力口PHには高圧導圧管2および高圧バルブ41を介して高圧側の圧力が入力され、差圧伝送器本体1の低圧入力口PLには低圧導圧管3および低圧バルブ42を介して低圧側の圧力が入力される。
【0008】
差圧伝送器本体1の差圧検出部は、高圧入力口PHに入力される高圧側の圧力と低圧入力口PLに入力される低圧側の圧力との差圧を検出し、その検出信号を差動アンプ5を介して図示しない差圧伝送系に出力する。
【0009】
ところで、このように構成されている差圧伝送器を用いて高精度の圧力測定結果を得るためには、定期的に、零点調整およびスパン調整を行う必要がある。
【0010】
零点調整にあたっては、スリーウェイバルブ4の高圧バルブ41と低圧バルブ42を閉じて等圧バルブ43を開く。この結果、差圧伝送器本体1の高圧入力口PHと低圧入力口PLの圧力は等しくなり、差圧は零になる。この状態で、差圧伝送器本体1の出力信号が0%になるように、差動アンプ5に設けられている零点調整用可変抵抗器6の抵抗値を調整する。
【0011】
スパン調整にあたっては、零点調整後に、再びスリーウェイバルブ4の等圧バルブ43を閉じて高圧バルブ41と低圧バルブ42を開き、通常の差圧測定状態に設定する。そして、差圧伝送器本体1の高圧入力口PHと低圧入力口PLとの間にフルスパン(100%)の実圧力を入力し、差圧伝送器本体1の出力信号が100%になるように、差動アンプ5に設けられているスパン調整用可変抵抗器7の抵抗値を調整する。
【0012】
図5ではアナログ信号で動作する差圧伝送器の例を示したが、近年はデジタル信号で動作するように構成されたものも広く用いられている。
【0013】
図6はデジタル信号で動作するように構成された従来の差圧伝送器の一例を示すブロック図、図7はその外観図である。図6および図7において、差圧センサ8および温度センサ9で測定されるアナログ信号のプロセス値は、図示しないA/D変換器でデジタル信号に変換されて演算回路部11に入力される。
【0014】
外部零点調整機構10は、回転軸が左右いずれの方向にも所定角度(たとえば90度)回転するごとにパルスを発生してパルス列を形成するように構成されたものであって、ユーザーが内蔵指示計14の指示値を確認しながら回転軸を回転調整できるように、回転軸の頭部が外部に露出するようにして内蔵指示計14の近傍に設けられている。この外部零点調整機構10で生成されるパルス列信号も、演算回路部11に入力される。
【0015】
演算回路部11には、記憶回路部12も接続されている。記憶回路部12には、差圧、静圧、温度などの演算に必要な係数や、各種の設定値が格納保存されている。演算回路部11は、差圧センサ8および温度センサ9で測定されたプロセス値のデジタルデータや、記憶回路部12から取り込む係数データや、外部零点調整機構10から入力される零点調整用のパルス列信号に基づき、差圧、静圧、温度などの測定データを演算して表示選択部13に出力する。また各種の診断なども行うとともに警報の有無も判定し、それらの結果を指示計14に直接出力して表示する。
【0016】
表示選択部13は、演算回路部11から入力される選択制御信号にしたがって切換駆動され、演算回路部11から出力される差圧、静圧、温度のいずれか一つを選択して内蔵されている指示計14に出力して表示する。
【0017】
なお、表示選択部13の選択対象は、ユーザーが任意に設定したり、自動的に切換掃引することもできる。ユーザーが任意に設定した内容は記憶回路部12に格納保存され、電源をONにしたときに表示選択部13の選択制御信号として読み出される。
【0018】
また、演算回路部11から演算される差圧、静圧、温度、警報などは、内蔵指示計14のみに出力されるものではなく、無線や有線による通信や、4−20mAの2線式伝送路や、接点信号などとしても出力されるが、これらは図示しない。
【0019】
これら演算回路部11、記憶回路部12、表示選択部13などは、CPU基板15に設けられている。
【0020】
CPU基板15上には内蔵指示計14が重ね合わせるようにして取り付けられ、これらCPU基板15と内蔵指示計14を内包するようにしてアンプ部カバー16がアンプ部ハウジング17の開口部にネジ止めされる。
【0021】
特許文献1には、差圧伝送器本体の零点調整を、あらかじめ設定されている所定の時刻になったら、人手を介することなく自動的に行う技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0022】
【特許文献1】特開平5−60638号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
図6の構成では、外部零点調整機構10で零点調整を行う対象の変数を差圧としているが、内蔵指示計14は差圧のみを表示するものではなく、表示選択部13の切換選択に応じて、静圧、温度なども表示できる。
【0024】
これらから、ユーザーが外部零点調整機構10を回転操作して差圧の零点調整を行うのにあたり、表示選択部13の選択対象として差圧以外の変数が選択設定されていると、内蔵指示計14には差圧以外の変数が表示されていることから、ユーザーは外部零点調整機構10を回転操作したときの零点調整対象変数の調整量を内蔵指示計14の表示値から把握することができない。
【0025】
このような不都合を回避するためには、ユーザーは内蔵指示計14が表示する変数をたとえば図示しない通信手段を用いてあらかじめ零点調整を行う対象の変数である差圧に設定して零点調整を行い、零点調整後、内蔵指示計14が表示する変数を再び通信手段を用いて元の選択対象の変数に再設定しなければならず、非常に手間がかかることになる。
【0026】
本発明は、このような従来の問題点に着目したものであり、その目的は、作業効率よく零点調整が行える差圧伝送器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0027】
このような課題を達成する請求項1の発明は、
切換可能な内蔵指示計が表示する変数を確認しながらパルス列を生成する外部零点調整機構を回転操作して所望の零点調整対象変数の零点調整を行うように構成された差圧伝送器において、
前記外部零点調整機構の回転操作を検出する零点調整検出部と、
この零点調整検出部の回転操作検出出力に基づき前記内蔵指示計が表示する変数を零点調整対象の変数に切り換える表示選択制御部、
を設けたことを特徴とする。
【0028】
請求項2の発明は、請求項1に記載の差圧伝送器において、
前記内蔵指示計は表示周期も切換可能に構成され、前記零点調整検出部の回転操作検出出力に基づき零点調整期間中における前記内蔵指示計の零点調整対象変数の表示周期を最短に切り換えることを特徴とする。
【0029】
請求項3の発明は、請求項1または請求項2に記載の差圧伝送器において、
前記零点調整対象は、差圧と静圧および温度のいずれかであることを特徴とする。
【0030】
請求項4の発明は、請求項1から請求項3のいずれかに記載の差圧伝送器において、
前記零点調整終了後の所定時間、前記内蔵指示計は零点調整対象の変数の表示を継続することを特徴とする。
【発明の効果】
【0031】
これにより、零点調整対象変数の零点調整にあたって、ユーザーは外部零点調整機構を回転操作するだけでよく、効率よく零点調整が行える。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の一実施例を示す構成説明図である。
【図2】従来の差圧伝送器の一例を示す構成説明図である。
【図3】従来の差圧伝送器の他の例を示す構成説明図である。
【図4】本発明の一実施例を示す構成説明図である。
【図5】従来の差圧伝送器の零点調整を説明するための等価回路図である。
【図6】デジタル信号で動作するように構成された従来の差圧伝送器の一例を示すブロック図である。
【図7】図6の外観図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、本発明について、図面を用いて説明する。図1は本発明の一実施例を示すブロック図であり、図6と共通する部分には同一の符号を付けている。図1と図6の相違点は、図1の演算回路部11には、零点調整検出部11aと表示選択制御部11bを設けていることである。
【0034】
図1において、演算回路部11には、零点調整検出部11aと表示選択制御部11bが設けられている。また、記憶回路部12には、零点調整対象の変数を特定するための零点調整対象データ12aも格納されている。
【0035】
零点調整検出部11aは、ユーザーによる外部零点調整機構10の回転軸の回転操作を検出する。具体的には、外部零点調整機構10の回転軸の回転操作に伴って生成出力されるパルス列の変化の有無に基づいて零点調整中か零点調整が終了したかを判断し、零点調整状態に関連してたとえば零点調整中であればHレベル、それ以外はLレベルに2値化された検出信号を表示選択制御部11bに出力する。
【0036】
表示選択制御部11bは、零点調整検出部11aから零点調整中に対応したたとえばHレベルの検出信号が入力されると、記憶回路部12に設定格納されている零点調整対象の変数を特定するための零点調整対象データ12aを読み出して、現時点で内蔵指示計14が表示している変数(たとえば静圧)を強制的に零点調整対象データ12aが表している零点調整対象の変数(たとえば差圧)に切り換える。そして、零点調整が終了すると、内蔵指示計14が表示している変数(たとえば差圧)を再び元の表示していた変数(たとえば静圧)に戻す。
【0037】
図2は図1の動作を説明するタイミングチャートであり、(A)は内蔵指示計14が表示している変数を示し、(B)は外部零点調整機構10の動作状態を示している。
【0038】
内蔵指示計14は、時刻t1でユーザーが零点調整を行う以外の通常状態では、変数として静圧を表示しているとする。時刻t1でユーザーが外部零点調整機構10の回転軸を回転操作を開始すると、零点調整検出部11aから零点調整中を表す検出信号が表示選択制御部11bに出力される。表示選択制御部11bは、記憶回路部12から読み出した零点調整対象データ12aに基づき内蔵指示計14が表示する変数を静圧から強制的に差圧に切り換える。
【0039】
これにより、ユーザーは、内蔵指示計14に表示される差圧の値を確認しながら外部零点調整機構10の回転軸を回転操作することができ、効率よく零点調整が行える。
【0040】
時刻t2でユーザーによる零点調整が終了しても、内蔵指示計14は、さらに時刻t3までの時間Tは差圧表示を継続する。この継続時間Tは、ユーザーが外部零点調整を行った場合には、一般的に調整終了後の数秒間は差圧値を確認することが行われていることを考慮したヒステリシス時間である。
【0041】
所定のヒステリシス時間Tが経過した時刻t3において、表示選択制御部11bは、内蔵指示計14が表示する変数を再び元の静圧に切り換える。
【0042】
このように構成することにより、内蔵指示計14が差圧でない変数を表示している場合でも、通信による設定変更作業をすることなく外部零点調整機構10の回転軸を回転操作するだけで、内蔵指示計14が表示する変数は自動的に差圧に変更されることになり、零点調整に要するユーザーの作業工数を従来に比べて大幅に短縮できる。
【0043】
なお、上記実施例では、外部零点調整機構10の回転軸の回転操作が差圧測定時における零点調整の場合について、外部零点調整中は内蔵指示計14の表示が自動的に差圧に切り換わる例を説明したが、静圧用や温度用やその他のプロセス変量用の外部零点調整が用意されている場合には、外部零点調整中の内蔵指示計14の表示をそれらの零点調整の対象となる所定のプロセス値に切り換えて固定すればよい。
【0044】
図3は本発明の他の実施例を示すブロック図であり、図1と共通する部分には同一の符号を付けている。図1と図3の相違点は、図3の記憶回路部12には、零点調整対象の変数を特定するための零点調整対象データ12aに加えて、表示周期設定データ12bも格納されていることである。
【0045】
内蔵指示計14の表示周期は、ユーザーが任意に設定することが可能であり、その設定値は記憶回路部12に表示周期設定データ12bとして保存されている。そして、表示周期設定データ12bとしては、ユーザーが任意に設定する設定値の他に、最短周期データも格納されている。
【0046】
図4は、図3の動作を説明するタイミングチャートであり、(A)は内蔵指示計14の表示周期を示し、(B)は外部零点調整機構10の動作状態を示している。
【0047】
内蔵指示計14は、時刻t1でユーザーが零点調整を行う以外の通常状態では、記憶回路部12の表示周期設定データ12bから読み出されるユーザーの設定周期データ(たとえば2秒)に基づいて表示データを更新表示している。
【0048】
時刻t1でユーザーが外部零点調整機構10の回転軸の回転操作を開始すると、零点調整検出部11aから零点調整中を表す検出信号が表示選択制御部11bに出力される。表示選択制御部11bは、零点調整中を表す検出信号が入力されると、記憶回路部12の表示周期設定データ12bから読み出されているユーザーの設定周期データを最短周期データ(たとえば0.1秒)に切り換える。
【0049】
これにより、内蔵指示計14の表示は、ユーザーによる回転軸の回転操作に直ちに応答する形態で更新されることになり、ユーザーは内蔵指示計14に表示される差圧の値を確認しながら外部零点調整機構10の回転軸を回転操作することができ、短時間で効率よく零点調整が行える。
【0050】
時刻t2でユーザーによる零点調整が終了すると、表示選択制御部11bは、記憶回路部12の表示周期設定データ12bから読み出されている最短周期データを再びユーザーの設定周期データに切り換える。
【0051】
このように構成することにより、ユーザーが外部零点調整機構10の回転軸の回転操作を行うときは内蔵指示計14の表示更新周期が早くなるので、従来よりも短時間で零点調整が行える。
【0052】
以上説明したように、本発明によれば、外部零点調整機構を使用して零点調整を行うのにあたり、零点調整を行っている間は内蔵指示計に表示される変数を自動的にその零点調整対象の変数に切り換えるとともに、内蔵指示計の表示更新周期を自動的に最短周期に切り換えることができ、効率よく零点調整が行える差圧伝送器が実現できる。
【符号の説明】
【0053】
8 差圧センサ
9 温度センサ
10 外部零点調整機構
11 演算回路部
11a 零点調整検出部
11b 表示選択制御部
12 記憶回路部
12a 零点調整対象データ
12b 表示周期設定データ
13 表示選択部
14 内蔵指示計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
切換可能な内蔵指示計が表示する変数を確認しながらパルス列を生成する外部零点調整機構を回転操作して所望の零点調整対象変数の零点調整を行うように構成された差圧伝送器において、
前記外部零点調整機構の回転操作を検出する零点調整検出部と、
この零点調整検出部の回転操作検出出力に基づき前記内蔵指示計が表示する変数を零点調整対象の変数に切り換える表示選択制御部、
を設けたことを特徴とする差圧伝送器。
【請求項2】
前記内蔵指示計は表示周期も切換可能に構成され、前記零点調整検出部の回転操作検出出力に基づき零点調整期間中における前記内蔵指示計の零点調整対象変数の表示周期を最短に切り換えることを特徴とする請求項1に記載の差圧伝送器。
【請求項3】
前記零点調整対象は、差圧と静圧および温度のいずれかであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の差圧伝送器。
【請求項4】
前記零点調整終了後の所定時間、前記内蔵指示計は零点調整対象の変数の表示を継続することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の差圧伝送器。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate