説明

巻上機の耐震構造

【課題】部品点数を低減して据付作業性を改善した巻上機の耐震構造を提供する。
【解決手段】エレベータの巻上機1と機械台4との間に介装した防振部材3aのうち上部プレート13とゴムブロック15とに形成した貫通穴13a,15aに、円筒状のスペーサ16を貫通穴13aの外周面との間に間隙G1を形成しつつ挿入する一方、そのスペーサ16の上端には上部プレート13の上方に間隙G2を隔てて対向するストッパプレート17を重合させ、防振部材3aの下部プレート14と機械台4とを固定する両ねじボルト12により、スペーサ16およびストッパプレート17を下部プレート14とともに機械台4に締結する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエレベータにおける巻上機の耐震構造に関し、特に、巻上機とそれを支持する機械台との間に可撓性の防振体を介装するとともに、その防振体の地震時における過剰な撓み変形を規制して当該防振体の破断を防止するようにした巻上機の耐震構造に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の巻上機の耐震構造として、例えば特許文献1に記載の技術が提案されている。この特許文献1に記載の技術(特に第1図および第2図参照。)では、機械室の床上に設置された機械台と巻上機が固定された台との間に防振ゴムを介装することにより、巻上機から発生する振動が機械台に伝播するのを防止している。また、地震時に巻上機が大きく振動することにより、上記防振ゴムが大きく変形して破断する虞があるため、防振ゴムの過剰な撓み変形を防止するための阻止具が上記台と機械台との間に設けられている。
【0003】
この阻止具は、機械台に固定された基部と、上記台の下部フランジに設けられた穴を挿通して基部にねじ込まれたボルトと、から構成されており、地震によって巻上機が加振されたときに、上記ボルトと上記台との接触をもって防振ゴムの過度な変形を阻止して巻上機の転倒を防ぐようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実公昭60−30281号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、上記阻止具と防振ゴムとがそれぞれ独立して設けられているため、部品点数が増加してその組付作業が煩雑となるという問題があった。
【0006】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであって、巻上機の耐震性を確保しつつも、部品点数を低減して据付作業性を改善した巻上機の耐震構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明は、上部プレートと下部プレートとの間に可撓性の防振体を配置してなる防振部材をエレベータの巻上機と機械台との間に介装し、上部プレートを巻上機に、下部プレートを機械台にそれぞれ固定した巻上機の耐震構造において、上記両プレートのうち一方のプレートと防振体とにそれぞれ形成した貫通穴に、筒状のスペーサが上記貫通穴の外周面との間に所定の間隙を形成しつつ挿入され、そのスペーサの一端が上記両プレートのうち他方のプレートに着座している一方、そのスペーサの他端には上記一方のプレートと所定の間隙を隔てて対向するストッパ部材が重合していて、上記他方のプレートを巻上機および機械台の一方と固定する取付ボルトが、上記ストッパ部材およびスペーサを挿通しつつ、それらストッパ部材およびスペーサを上記他方のプレートとともに上記機械台および巻上機の一方に対して締結していることを特徴としている。
【0008】
具体的には請求項2に記載の発明のように、上記取付ボルトの挿通する貫通穴を上記他方のプレートに形成し、その他方のプレートのうち上記貫通穴の周縁部に上記スペーサの一端を着座させるとよい。
【0009】
したがって、少なくとも請求項1に記載の発明では、上記他方のプレートを取付ボルトによって機械台または巻上機に対して締結することにより、上記スペーサの外周面が上記貫通穴の外周面に対して水平方向で所定の間隙を隔てて対峙する一方、上記ストッパ部材が上記一方のプレートに対して上下方向で所定の間隙を隔てて対峙することになる。
【0010】
そして、例えば地震時の横揺れにより、上記防振体の変形に基づいて巻上機が機械台に対して水平方向に相対変位した場合には、上記スペーサが一方のプレートのうち貫通穴の外周面に当接し、上記防振体の変形が規制されることになる。また、例えば地震時の縦揺れにより、上記防振体の変形に基づいて巻上機が機械台に対して上下方向に相対変位した場合には、上記ストッパ部材が一方のプレートに当接し、上記防振体の変形が規制されることになる。これにより、上記防振体の過剰な撓み変形が規制され、当該防振体の破断が防止されることになる。
【0011】
ここで、上記巻上機の据え付けにあたっては、上記スペーサの外周面と上記貫通穴の外周面との間に所定の隙間を確保すべく微調整を行うことになるが、この作業性を考慮した場合には、請求項3に記載の発明のように、上記スペーサの内周面と上記取付ボルトとの間に間隙を設けることが望ましい。この請求項3に記載の発明では、上記スペーサに取付ボルトが挿通した仮止め状態で、そのスペーサを単独で径方向へ移動させることにより、当該スペーサの外周面と上記一方のプレートにおける貫通穴の外周面との間の間隙を微調整できるようになる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、上記他方のプレートと機械台または巻上機とを固定する取付ボルトにより、上記スペーサおよびストッパ部材をいわゆる共締めの形態をもって固定することで、そのスペーサおよびストッパ部材によって上記防振体の過度な変形を阻止できるようになるから、巻上機の据付時に組み付けるべき部品の点数を削減して巻上機の据付作業性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施の形態としてエレベータの巻上機を示す図。
【図2】図1におけるA部の拡大図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は、本発明の好適な実施の形態を示す図であって、本発明に係る耐震構造が適用された巻上機を示している。図1に示すように、エレベータの巻上機1はフレーム2を母体として構成されており、そのフレーム2は、当該巻上機1の軸心方向で一対の防振部材3a,3bを介して機械台4に支持されている。なお、機械台4は、機械室の床上に設置してもよいほか、いわゆるマシンルームレスタイプのエレベータにあっては、例えばカウンターウエイトの昇降を案内するガイドレールの上端部に設置することも可能である。
【0015】
巻上機1のフレーム2は、一方の防振部材3a上に着座する電動機支持部5と、他方の防振部材3b上に着座するブレーキ支持部6と、それら両支持部5,6同士を連結するブリッジ部7と、を有していて、電動機支持部5のうち反ブレーキ支持部6側に形成された電動機装着面5aに電動機8が装着されている一方、ブレーキ支持部6のうち反電動機支持部5側に形成されたブレーキ装着面6aに電磁ブレーキ9が装着されている。なお、電動機支持部5とブレーキ支持部6との間には、カバー部材10およびブリッジ部7に覆われた図示外の主シーブが配置されている。
【0016】
図2は、以上のように構成された巻上機の耐震構造を示す図であって、図1におけるA部の拡大図である。なお、図2では両防振部材3a,3bのうち一方の防振部材3aを機械台4および巻上機1に固定する構造を代表例として図示しているが、他方の防振部材3bも同様の構造によって機械台4および巻上機1に固定されているものである。
【0017】
図2に示すように、防振部材3aは、六角ボルト11をもって電動機支持部5に締結された上部プレート13と、取付ボルトたる両ねじボルト12をもって機械台4に締結された下部プレート14と、両プレート13,14間に設けられた可撓性の防振体であるゴムブロック15と、を備えていて、両プレート13,14はゴムブロック15の上下両面にそれぞれ加硫接着されている。
【0018】
両プレート13,14およびゴムブロック15には円形の貫通穴13a,14a,15aがそれぞれ形成されており、上部プレート13およびゴムブロック15の貫通穴13a,15aは、下部プレート14の貫通穴14aよりも大径に設定されている。これにより、下部プレート14のうち貫通穴14aの周縁部が内向きのフランジ状に張り出していて、ゴムブロック15aの貫通穴15aと下部プレート14の貫通穴14aとの間に略水平な環状の着座面14bが上向きに形成されている。
【0019】
そして、上部プレート13およびゴムブロック15の貫通穴13a,15aには略円筒状のスペーサ16が上方から挿入され、そのスペーサ16の下端部が着座面14bに着座している。このスペーサ16は、当該スペーサ16の軸心が上部プレート13における貫通穴13aの軸心と略一致するように位置決められており、これにより、スペーサ16の外周面と上部プレート13における貫通穴13aの外周面との間に、径方向の間隙G1が周方向で略均一に形成されている。
【0020】
また、スペーサ16の上端部には、上部プレート13の上面に所定量の間隙G2を隔てて対峙する略偏平リング状のストッパプレート17がストッパ部材として重合している。つまり、スペーサ16の長さは、そのスペーサ16の下端部が着座面14bに着座した状態で、当該スペーサ16の上端部が上部プレート13から所定量だけ上方に突出するように設定されている。
【0021】
一方、下部プレート14と機械台4とを締結する両ねじボルト12は、機械台4の上壁部4aおよび下壁部4bにそれぞれ形成された貫通穴4c,4dと、下部プレート14の貫通穴14aとに加えてスペーサ16およびストッパプレート17の内周側をそれぞれ挿通していて、この両ねじボルト12とスペーサ16の間には径方向の間隙G3が設けられている。
【0022】
また、両ねじボルト12の上端部に形成された上側ねじ部12aがストッパプレート17から上方に突出している一方、両ねじボルトの下端部に形成された下側ねじ部12bが機械台4の下壁部4bから下方に突出していて、その両ねじボルト12の両ねじ部12a,12bにそれぞれ螺合するナット18,19により、ストッパプレート17とスペーサ16とを下部プレート14とともに機械台4に対して締結している。なお、20はナット19と機械台4との間に設けられたワッシャであって、21はナット19の下側に重ねて下側ねじ部12bに螺着した止めナットである。
【0023】
ここで、以上のように構成した防振構造をもって巻上機1を機械台4に固定するにあたっては、まず、機械台4側の貫通穴4c,4dと下部プレート14の貫通穴14aとの軸心を一致させるように一方の防振部材3aを位置決めしつつ、機械台4上にその防振部材3aを載置する。その上で、上部プレート13およびゴムブロック15の貫通穴13a,15aにスペーサ16を挿入するとともに、そのスペーサ16の上端にストッパプレート17を重合させ、両ねじボルト12および両ナット18,19をもって下部プレート14とスペーサ16およびストッパプレート17を機械台4に対していわゆる共締めの形態をもって仮止めする。
【0024】
そして、この状態で、上部プレート13の貫通穴13aに対するスペーサ16の相対位置を間隙G3の範囲内で径方向に微調整し、両者の間に所定の隙間G1を確保した上で、両ナット18,19を回転操作して下部プレート14とスペーサ16およびストッパプレート17を機械台4に対して締結するとともに、止めナット21をもってナット19の緩み止めを施すことになる。なお、他方の防振部材3bも同様の手順をもって機械台4に固定されることになる。
【0025】
このようにして機械台4に両防振部材3a,3bを固定したならば、例えば図示外のホイストをもって上部プレート13の上方から巻上機1を吊り降ろし、その巻上機1のうち電動機支持部5を防振部材3a上に、ブレーキ支持部6を防振部材3b上にそれぞれ着座させた上で、六角ボルト11によって巻上機1を両防振部材3a,3bの上部プレート13に固定する。これにより、巻上機1が安定した状態で機械台4に支持されることになる。
【0026】
したがって、この据付状態では、エレベータの通常運行時においては、巻上機1が発生する振動をゴムブロック15によって吸収することにより、その振動の機械台4への伝播が有効に防止されることになる。また、スペーサ16と上部プレート13との間およびストッパプレート17と上部プレート13との間にそれぞれ所定の間隙G1,G2を設けてあるため、巻上機1の起動または停止時のショックによって上部プレート13がスペーサ16およびストッパプレート17と接触することはない。
【0027】
一方で、地震時に巻上機1が横揺れし、ゴムブロック15に比較的強い水平方向の力が作用した場合には、スペーサ16の外周面と上部プレート13との当接をもってゴムブロック15の過度な変形が抑止され、巻上機1の機械台4に対する相対変位が水平方向で規制されることになる。また、地震時に巻上機1が縦揺れし、ゴムブロック15に比較的強い上下方向の力が作用した場合には、ストッパプレート17と上部プレート13との当接をもってゴムブロック15の過度な変形が抑止され、巻上機1の機械台4に対する相対変位が上下方向で規制されることになる。これにより、地震発生時にもゴムブロック15に過度な力が作用することがなく、巻上機1の転倒が防止されるようになっている。
【0028】
また、この据付状態では、両プレート13,14間に絶縁体であるゴムブロック15が介在しているとともに、スペーサ16と上部プレート13の間およびストッパプレート17と上部プレート13との間にはそれぞれ隙間G1,G2を設けられているため、巻上機1と機械台4との間が電気的に確実に絶縁されている。
【0029】
したがって、以上のように構成した巻上機1の耐震構造によれば、地震時に巻上機1の転倒を防止することになるスペーサ16およびストッパプレート17を、両ねじボルト12によって下部プレート13とともに機械台4に固定するようになっているため、巻上機1の据付作業を容易に行えるようになる。
【0030】
また、地震時における巻上機1の転倒を防止することになるスペーサ16およびストッパプレート17が、通常運行時における巻上機1の振動を吸収するゴムブロック15と水平投影面上で略同位置に配置されているため、省スペース化の上で有利になるメリットがある。
【0031】
さらに、通常運行時においては、スペーサ16と上部プレート13の間およびストッパプレート17と上部プレート13の間にそれぞれ設けられた隙間G1,G2により、巻上機1と機械台4との間が電気的に絶縁されているため、意図しない地絡による不具合の発生を防止し、エレベータの安全性を高めることができるメリットがある。
【0032】
なお、本実施の形態では、スペーサ16およびストッパプレート17を下部プレート14とともに機械台4に締結しているが、スペーサ16およびストッパプレート17を上部プレート13とともに機械台1に締結するように構成することも可能である。
【符号の説明】
【0033】
1…巻上機
3a…防振部材
3b…防振部材
4…機械台
4a…貫通穴
12…両ねじボルト(取付ボルト)
13…上部プレート
13a…貫通穴
14…下部プレート
14a…貫通穴
15…ゴムブロック(防振体)
15a…貫通穴
16…スペーサ
17…ストッパプレート(ストッパ部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部プレートと下部プレートとの間に可撓性の防振体を配置してなる防振部材をエレベータの巻上機と機械台との間に介装し、上部プレートを巻上機に、下部プレートを機械台にそれぞれ固定した巻上機の耐震構造において、
上記両プレートのうち一方のプレートと防振体とにそれぞれ形成した貫通穴に、筒状のスペーサが上記貫通穴の外周面との間に所定の間隙を形成しつつ挿入され、そのスペーサの一端が上記両プレートのうち他方のプレートに着座している一方、そのスペーサの他端には上記一方のプレートと所定の間隙を隔てて対向するストッパ部材が重合していて、
上記他方のプレートを巻上機および機械台の一方と固定する取付ボルトが、上記ストッパ部材およびスペーサを挿通しつつ、それらストッパ部材およびスペーサを上記他方のプレートとともに上記機械台および巻上機の一方に対して締結していることを特徴とする巻上機の耐震構造。
【請求項2】
上記取付ボルトの挿通する貫通穴が上記他方のプレートに形成されていて、その他方のプレートのうち上記貫通穴の周縁部に上記スペーサの一端が着座していることを特徴とする請求項1に記載の巻上機の耐震構造。
【請求項3】
上記スペーサの内周面と上記取付ボルトとの間に間隙が設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載の巻上機の耐震構造。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−184763(P2010−184763A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−29269(P2009−29269)
【出願日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【出願人】(000228246)日本オーチス・エレベータ株式会社 (61)
【Fターム(参考)】