説明

巻取機用ガイド装置、強化繊維束の巻き取り方法ならびに強化繊維束の巻体

【課題】トウボリュームの大きい強化繊維であっても、テープ状に拡幅された強化繊維束を撚りのない状態で、安定してボビンに巻き取ることができる強化繊維束の巻取機用のガイド装置、および、トウ幅の安定した強化繊維束の巻体を目的とする。
【解決手段】繊度12000〜40000dtexの強化繊維束をトラバースさせて巻取機に導くガイド装置10が、ボビンの軸方向と平行に往復動するガイドスタンド12を有し、ガイドスタンド12は強化繊維束の進行方向Dに対して軸方向を直交させて設置された第一ガイドロール対20と、第一ガイドロール対20の下流側に、進行方向Dに対して軸方向を直交させ、かつ、第一ガイドロール対20のガイドロールの軸方向と直交させて設置された第二ガイドロール対30とを有し、第二ガイドロール対30は、円柱形状の第二ガイドロール32と、鼓形状の第二ガイドロール34とすることよりなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、巻取機用ガイド装置、強化繊維束の巻き取り方法ならびに強化繊維束の巻体に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維は、その形態及び特性から繊維そのものだけで使用されることは少なく、大部分は繊維束を複数本平行に引き揃えた後、エポキシ樹脂等の樹脂を含浸させ(一般にはこれをプリプレグという)、これを円筒状に巻いたり、あるいは被成形物に被せた後、樹脂を硬化させて繊維強化プラスチック成形体として製品化する。
炭素繊維は他の強化繊維材料に比べて軽量で、且つ、高強度であるため、この特性を更に生かすために、炭素繊維にエポキシ等の樹脂を含浸したプリプレグを軽量化させる検討がなされている。炭素繊維プリプレグを軽量化させるためには、炭素繊維を薄く広げる必要があり、このためにプリプレグ製造に当たっては、様々な対応がなされている。
ここで、プリプレグの製造工程に供給される炭素繊維等の強化繊維束が、予め一定幅に広げられたものであれば、即ち、ボビンに巻き取られている強化繊維束が拡幅されたテープ状であれば、プリプレグの製造工程において強化繊維束の幅を広げるという作業を省くことができる。このため、最近では薄物プリプレグの成形用として、予め拡幅されたテープ状の強化繊維束がボビンに巻き取られた巻体を用いることが多くなっている。
このようなテープ状の強化繊維束は、強化繊維束の製造段階の最後において、エポキシ樹脂等を主成分とするサイジング剤を含浸させ、ニップロールによる絞り、あるいは乾熱ロールへの接触により幅出しを行った後、乾燥させることにより製造される。こうして製造されたテープ状の強化繊維束は、製品形態としてボビンに巻きとられた巻体の形態をとる。
【0003】
巻取機では、強化繊維束がボビンの長さ方向に均一に巻き付けられるよう、ボビンの軸に平行に強化繊維束をトラバースさせている。ところで、かかる既存の巻取機ではテープ状の繊維束形態を維持することは考慮されていない。このため、この一般繊維用の巻取機に一般繊維用の汎用ガイドを用いて、拡幅された強化繊維束をボビンへ巻き取ろうとすると、トラバースさせるときに強化繊維束が幅方向に押えられて収束したり、軸方向の捻じれ等が生じたりする。そして、拡幅されたテープ状の繊維束形態が崩れて巻き取られてしまい、薄物プリプレグの成形用という上記目的に適応することができなくなる。
そこで、既存の巻取機を用いて、このような拡幅されたテープ状の強化繊維束を、その形態を保ったままボビンに巻き取るための提案がなされている。従来、既存の巻取機にガイド装置をトラバースガイドとして取り付ける方法が提案されている(例えば特許文献1〜6)。
【0004】
特許文献1に記載されているガイド装置では、ボビンの軸と平行に配されたトラバースアームに直交して立設され、前記トラバースアームに沿って摺動するプレート部材を有し、同プレート部材の上下に強化繊維束をガイドするガイドロールが配されている。下部のガイドロールは巻取ボビンの軸と平行に配されており、上部には、同ボビンの軸と直交して一対の平行なガイドロールが配されている。拡幅された強化繊維束は上下のガイド部材の間で軸線方向に90°捻転されるが、これら上下のガイドロールの間を通すことにより、テープ状の強化繊維束はその拡幅形態を保持した状態でボビンに巻き取ることができる巻取機用ガイド装置が提案されている。
特許文献2に記載されているガイド装置では、トラバースアームに沿って往復動するプレート部材の上部に、軸線が互いに直交して配された複数の円錐状をなすガイドが配され、プレート部材の下部には巻取ボビンとほぼ平行な軸線を有する一対の平行なガイドロールが配されている。上部に配された円錐状のガイドによって強化繊維束が軸線方向に90°捻転され、強化繊維束は下部に配された一対のガイドロールに直交して送られ、同ロールに掛け回されてから前記ボビンに巻き取られる巻取機用ガイド装置が提案されている。
特許文献3に記載されているガイド装置では、巻取ボビンの回転軸に平行に往復動するガイドスタンドと、該ガイドスタンドの上部にその回転軸が巻取ボビンの回転軸と直交して配置された一対の上部ガイドロールと、前記ガイドスタンドの下部にその回転軸が巻取ボビンの回転軸と平行に配された一対の下部ガイドロールと、その間に繊維束を軸線方向に90°捻転させるための円錐状ガイドロールとを有する強化繊維束の巻取機用ガイド装置が提案されている。
特許文献4に記載されているガイド装置では、巻取ボビンの回転軸と実質的に直角に捻れた位置に回転軸が配されたガイドロールと、前記巻取ボビンの回転軸と実質的に平行に回転軸が配された最終のガイドロールとを有し、最終のガイドロールと糸条との接触長が規定された巻取機用綾振りガイド装置が提案されている。
特許文献5に記載されているガイド装置では、強化繊維束をボビンに巻き取る際に綾振りを行うガイド装置であって、強化繊維束を案内する複数のガイド部材の少なくとも1つが浮動支持されており、かつ、そのガイド部材が綾振りに伴う強化繊維束張力の増減を緩和する方向に変位可能に構成されていることを特徴とする巻取機用綾振りガイド装置、および、それを用いた巻取機と炭素繊維束パッケージの製造方法が提案されている。
特許文献6に記載されているガイド装置では、強化繊維束を案内するトラバースガイドと、該トラバースガイドのトラバース機構とを有し、該トラバースガイドは少なくとも巻取ボビンの回転軸と実質的に直角に捻れた位置に回転軸が配されたガイドロールと、前記巻取ボビンの回転軸と実質的に平行に回転軸方向が配された自由回転最終ガイドロールを有するとともに、該自由回転最終ガイドロールはそのガイド位置の調整機構を有してなる強化繊維束の綾振り装置が提案されている。さらに、該綾振り装置を用いた強化繊維束の巻取機、強化繊維束パッケージの製造装置、製造方法が提案されている。
近年では、炭素繊維の利用は建築、土木、自動車、エネルギー、コンパウンド等の一般産業用途にまで使用されるようになり、高強度・高弾性率で、より安価で生産性に優れたトウボリュームの大きい繊維束が強く求められている。
【特許文献1】特開平4−119123号公報
【特許文献2】特開平10−330038号公報
【特許文献3】特開2001−348166号公報
【特許文献4】特開2004−155590号公報
【特許文献5】特開2005−225644号公報
【特許文献6】特開2006−89154号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述の技術では、特にトウボリュームの大きい、つまりトウ幅が広く厚みのある扁平糸状を巻き取るには、その性能は必ずしも充分ではなかった。トウボリュームの大きい強化繊維束は、その繊維量のためにトウ幅が広がる傾向があるが、強化繊維束を用いた複合材料の、強度発現性の観点から、巻き取り時におけるトウ幅の収束や、捻れを防止するために、強化繊維束のトウ幅、厚みを制限する必要性があった。
本発明は、かかる問題を解決するためになされたものであり、トウボリュームの大きい強化繊維であっても、テープ状に拡幅された強化繊維束を撚りのない状態で、安定してボビンに巻き取ることができる強化繊維束の巻取機用のガイド装置、強化繊維の巻き取り方法、および、トウ幅の安定した強化繊維束の巻体を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の巻取機用のガイド装置は、繊度12000〜40000dtexの強化繊維束をトラバースさせて巻取機に導く巻取機用のガイド装置であって、巻き取り用のボビンの軸方向と平行に往復動するガイドスタンドを有し、前記ガイドスタンドは、強化繊維束の進行方向に対して軸方向を直交させて設置された一対の第一ガイドロール対と、前記第一ガイドロール対の下流側に、強化繊維束の進行方向に対して軸方向を直交させ、かつ、前記第一ガイドロール対のガイドロールの軸方向と直交させて設置された一対の第二ガイドロール対とを有し、前記第二ガイドロール対は、上流側のガイドロールが円柱形状であり、下流側のガイドロールが鼓形状であることを特徴とする。
【0007】
本発明の強化繊維の巻き取り方法は、前記ガイド装置を用い、繊度12000〜40000dtexの強化繊維束を巻取機に導き、トウ幅変動率10%以下で巻き取ることを特徴とする。
【0008】
本発明の強化繊維束の巻体は、前記ガイド装置を用い、繊度12000〜40000dtexの強化繊維束が巻取機に導かれて巻き取られたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の巻取機用のガイド装置および強化繊維束の巻き取り方法によれば、トウボリュームの大きい強化繊維束であっても、テープ状に拡幅された強化繊維束を撚りのない状態で、安定してボビンに巻き取ることができ、安定したトウ幅の強化繊維束の巻体を得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の実施形態の一例について、図1、2を用いて説明する。図1は本発明の実施形態にかかるガイド装置10側面の拡大図である。図2は発明の実施形態にかかるガイド装置10が設置された巻取機8の模式図である。
図1に示すとおり、ガイド装置10は、ガイドスタンド12と、第一ガイドロール22、24とが同一の軸方向で設置され構成されている第一ガイドロール対20と、第二ガイドロール32、34とが同一の軸方向で設置され構成されている第二ガイドロール対30とを有する。ガイドスタンド12の、強化繊維束の進行方向Dの上流側には、第一ガイドロール対20が、第一ガイドロール22の軸23と、第一ガイドロール24の軸25がガイドスタンド12の表面と平行、かつ、強化繊維束の進行方向Dと直交する方向に設置されている。ガイドスタンド12の強化繊維束の進行方向Dの下流側には、第二ガイドロール対30が、第二ガイドロール32の軸33と第二ガイドロール34の軸35とが、ガイドスタンド12の面の垂直方向、かつ、前記軸23、25と直交する方向で設置されている。
第一ガイドロール対20と、第二ガイドロール対30との中間には、トラバースガイド14が設置されている。第二ガイドロール32と第二ガイドロール34との中間には、図5に概略的に示す側面形状を持つフック状ガイド16が設置されている。
【0011】
次に図2を用いて、巻取機8について説明する。巻取機8は固定ガイドロール40、42と、ガイド装置10と、巻取機プレッシャーロール52と、ボビン50を設置する軸51とが順に設置されている。
固定ガイドロール40は、軸41が固定ガイドロール42の軸43と平行、かつ強化繊維束の進行方向Dと直交するように設置されている。ガイド装置10のガイドスタンド12は、軸43、および、ボビン50の軸51と直交する方向に立設され、軸51と平行にボビン50の両端面間を往復動するトラバース装置と接続されている。こうして、第一ガイドロール対20は、軸43、および、軸51に対して直交する方向に設置され、第二ガイドロール対30は、軸51と平行となるように設置されている。巻取機プレッシャーロール52は、軸53が軸51と平行、かつ、巻取機プレッシャーロール52の周面が、ボビン50の巻取面と接するようにして、設置されている。
【0012】
ガイドスタンド12の大きさは特に限定されないが、固定ガイドロール42とボビン50との間隔に応じて適宜設定されるものであり、巻取機8に応じて決定されることが好ましい。
【0013】
第二ガイドロール32、34は走行させる強化繊維束の張力に対して充分な強度が保証されるものであればよく、炭素鋼、ステンレス鋼、セラミックス、アルミニウムなどが挙げられる。このうち、軽量であるという点からはアルミニウムが優れているが、単糸巻き付け時にはカッターナイフを使用することがあるため、そのような場合にも損傷の少ないステンレス鋼を用いることが好ましい。さらには、単糸巻き付きを防止する観点から、ハードクロムによる梨地仕上げ等の表面処理を施すことが好ましい。
第二ガイドロール対30の内、上流側に設置されている第二ガイドロール32の形状は、円柱形状である。円柱形状とは、図3に示すとおり、両端面の間の周面が同一半径の円周で形成されている形状である。
第二ガイドロール対30の内、下流側に設置されている第二ガイドロール34の形状は、鼓形状である。鼓形状とは、図4に示すように、周面の円周が、両端面から中央部方向に向かって徐々に半径が短くなるような形状、即ち第二ガイドロール34の軸方向の断面において、中央部が凹んで湾曲した形状である。凹みの程度は特に限定されず、巻き取る強化繊維束のトウ幅等を考慮して決定することができる。第二ガイドロール32、34の直径、周面の幅は特に限定されず、走行させる強化繊維束のトウ幅、フィラメント数に応じて決定することが好ましい。
【0014】
第一ガイドロール22、24の材質は、第二ガイドロール32と同様である。
第一ガイドロール対20の内、上流側に設置されている第一ガイドロール22の形状は、鼓形状であり第二ガイドロール34と同様である。
第一ガイドロール対20の内、下流側に設置されている第一ガイドロール24の形状は円柱形状であり、第二ガイドロール32と同様である。
【0015】
巻取機8を用いた強化繊維束の巻き取り方法について、図2を用いて説明する。
強化繊維束Fは、固定ガイドロール40の周面に沿って移送され、次いで、固定ガイドロール42で巻き取られるようにして方向を変えて、進行方向Dで、ガイド装置10に供給される。ガイド装置10に供給された強化繊維束Fは、第一ガイドロール22、24の順に掛け回される。この際、第一ガイドロール22、24と、固定ガイドロール42とは、直交する軸方向で設置されているため、固定ガイドロール42を通過した強化繊維束Fは、その軸線方向に90°捻転されながら、移送される。このように、第一ガイドロール22、24は、固定ガイドロール42と直交させ、即ち、トラバース(綾振り)方向と直交する軸方向で設置されているため、強化繊維束Fは、第一ガイドロール22、24の周面に沿ってトラバース方向に供給されることとなり、強化繊維束Fは安定した状態でトラバースされる。
次いで、90°に捻転された強化繊維束Fは、第二ガイドロール32、34の順に掛け回される。そして、第二ガイドロール32、34と、第一ガイドロール24とは、直交する軸方向で設置されているため、強化繊維束Fは、その軸線方向に90°捻転される。この際、強化繊維束Fは、第二ガイドロール32が円柱形状であるために、幅方向に均等に張力がかけられ、一定のトウ幅に制御される。次いで、強化繊維束Fは、フック状ガイド16の開口部17を通過して、鼓形状の第二ガイドロール34の湾曲周面に添って移送される。そして、強化繊維束Fは、トラバース装置の往復動によって、ボビン50周面の幅方向に均等に分配され、巻取機プレッシャーロール52によってボビン50に押圧されながら、ボビン50に巻き取られて、強化繊維束の巻体が得られる。
【0016】
本発明における強化繊維束とは、サイジング処理によりサイジング剤を付与した炭素繊維束をいう。本発明に用いる強化繊維束Fは、繊度12000〜40000dtex(デシテックス)であり、より好ましくは15000〜40000dtexである。上記範囲内であると、巻き取り時点でのトウ幅が安定し、撚りが多くなることがない。強化繊維束Fの繊度dtexは、単糸繊度(dtex)×フィラメント数(本)で表される。
強化繊維束Fの繊度を12000〜40000dtexにするには、太デニールの前駆体繊維束を出発物質として焼成し、あるいは、いくつかの少フィラメント数の前駆体繊維束を焼成工程の途中でワインダーで巻き終わるまでに合糸し、サイジング剤を含浸させたものを用いる方法が挙げられる。また、一旦強化繊維束として巻き取ったものをクリールから引き出して合糸しながら巻き取る方法などがあるが、いずれかに限定されるものではない。
【0017】
炭素繊維束は特に限定されないが、例えば、ポリアクリロニトリル(PAN)系、レーヨン系あるいはピッチ系等の公知の炭素繊維フィラメントが、数千から数万本束になったものを挙げることができる。
【0018】
サイジング処理に用いるサイジング処理液は特に限定されず、種々の高次加工に適した特性を有するものを選択することができる。例えば、均一に糸条に含浸するためには、サイジング剤を含む溶液、エマルジョンまたはサスペンジョン状態としたサイジング処理液とできるもので、それを炭素化繊維束に付着させて、乾燥装置内で溶媒または分散媒を乾燥除去できるものであれば良い。
【0019】
サイジング処理液中のサイジング剤の主成分としては特に限定されず、エポキシ樹脂、エポキシ変性ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂、ビスマレイミド樹脂、ウレタン変性エポキシ樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルピロリドン樹脂、ポリエーテルサルフォン樹脂などが挙げられ、これらを二種以上の組み合わせて用いても良い。
【0020】
強化繊維束Fのトウ幅は特に限定されることなく、強化繊維束の巻体に求めるトウ幅に応じて決定することができる。
【0021】
第一ガイドロール対20と、第二ガイドロール対30とは、中心軸が空間的に捻れた位置にある。しかし、いずれのガイドロールにあっても強化繊維束Fが、周面の中央部に添って移送されるように調整する必要がある。ガイドロールの周面の中央部からずれた位置を強化繊維束Fが通る場合には、強化繊維束Fのトウ幅を狭める力が作用し、トウ幅を広げたまま、走行を安定させることができなくなるためである。
【0022】
上述のガイド装置10によれば、第二ガイドロール対30を円柱形状のガイドロールと鼓形状のガイドロールとの組み合わせとすることで、トラバースにより捻れることなく、12000〜40000dtexというトウボリュームの大きい強化繊維束を広いトウ幅のまま、撚りのない状態で巻きとることができる。
さらに、第一ガイドロール対20を鼓形状と円柱形状との組み合わせとすることで、強化繊維束は、周面形状の異なる2つの第一ガイドロール22、24を通過する際に、トラバースが相殺される。第一ガイドロール対20の中で、上流側に位置する第一ガイドロール22が鼓形状であるために、トラバースの動きにも強化繊維束が捻れることなく追従できる。そして、第一ガイドロール対20の中で、下流側に位置する第一ガイドロール24が円柱形状であるため、より安定して、拡幅された強化繊維束の形態を維持することができる。
【0023】
上述のガイド装置10を用いて巻取機8に導かれて製造された強化繊維束の巻体は、巻き取られる段階で撚りを有していないため、極めて安定した巻き形状である。そして、強化繊維束の巻体から繰り出される強化繊維束は、幅が広く、トウ幅の変動率が10%以内であり、極めて安定したトウ幅で強化繊維束を供給することができる。このため、開繊等を行うことなしに、強化繊維プリプレグや、ドラムワインドおよびフィラメントワインドによる成型品製造に適用できる。
ここで、「撚りを有していない」とは、強化繊維束に撚りが全くないか、強化繊維束1m当たりの撚りが0.4ターン以下であることを意味する。また、変動率とは、25cm毎のトウ幅を100点測定し、下記(1)式により求まる値である。
【0024】
トウ幅の変動率(%)=(トウ幅の標準偏差/トウ幅の平均値)×100・・・(1)
【0025】
上述の実施形態における第二ガイドロール32、34は、軸33および軸35が軸51と平行であり、かつ、立設されているガイドスタンド12の長さ方向の形状に概略添って並んで設置されている。即ち、第二ガイドロール32と第二ガイドロール34とは、その周面の一部がボビン50の周面と対向するように、上下方向に並んで設置されている。このような第二ガイドロール32、34の配置において、第一ガイドロール対20から移送された強化繊維束Fは、第二ガイドロール32のボビン50側の周面に添って移送された後、第二ガイドロール34に巻き取られるようにして進行方向を変え第二ガイドロール34のボビン50とは反対側の周面に添って移送される。そして、第二ガイドロール34の周面に添って移送された強化繊維束F1は、巻取機プレッシャーロール52に巻き取られるようにしてボビン50に押圧され、ボビン50に巻き取られる。
【0026】
しかし、第二ガイドロール対30への強化繊維束の掛け回し方はこれに限られず、例えば、図6の実施形態のように強化繊維束を第二ガイドロール32、34に交互に掛け回してもよい。図6の実施形態では、まず、第一ガイドロール対20から移送された強化繊維束F1は、第二ガイドロール32のボビン50とは反対側の周面に添って移送された後、第二ガイドロール34に巻き取られるようにして進行方向を変え、第二ガイドロール34のボビン50側の周面に添って移送される。そして、第二ガイドロール34の周面に添って移送された強化繊維束F1は、巻取機プレッシャーロール52によりボビン50に押圧され、ボビン50に巻き取られる。このように強化繊維束F1を第二ガイドロール対30に掛け回すことで、第一ガイドロール対20から供給された強化繊維束F1が第二ガイドロール32に掛け回される際に強化繊維束F1に加わる張力、および、第二ガイドロール32から第二ガイドロール34に掛け回される際に強化繊維束F1に加わる張力が適度に緩和される。この結果、巻取機8は、より広いトウ幅でより安定的に強化繊維束F1をボビン50に巻き取ることができる。
【0027】
上述の実施形態では、巻取機8は強化繊維束Fの走行方向に直交してボビン50が設置され、ボビン50への巻き取り時に強化繊維束Fに撚りの付与されないタイプの巻取機であるが、ガイド装置10はかかる巻取機8用に限定されるものではない。例えば、強化繊維束Fの走行方向に対して平行にボビンが設置され、巻き取り時に強化繊維束に90°の撚りを付与するタイプの巻取機にも適用可能である。この場合、上方の固定ガイドロール40、42と、ガイド装置10の第一ガイドロール22、24とが平行になるようにガイド装置10が設置され、固定ガイドロール40、42とガイド装置10との間では強化繊維束Fは捻転されない。
【0028】
本発明の巻取機用ガイド装置は、拡幅された偏平なテープ状の強化繊維束、特に炭素繊維束を巻き取る場合に適しているが、勿論、アラミド繊維束、黒鉛化繊維束、ガラス繊維束など各種の強化繊維束にも適用可能である。
【実施例】
【0029】
以下、本発明について実施例を挙げて具体的に説明するが、実施例に限定されるものではない。
【0030】
<巻取時点でのトウ幅および変動率>
張力をかけずに、強化繊維束の巻体から連続的に強化繊維束を引き出し、25cmごとのトウ幅を100点測定した。100点の測定値を用い平均値を算出した。また、トウ幅の変動率を下記(1)式から算出した。
【0031】
トウ幅の変動率(%)=(トウ幅の標準偏差/トウ幅の平均値)×100・・・(1)
【0032】
(実施例1)
図6に示すガイド装置10と同様に、第二ガイドロール対の内、上流側に位置する第二ガイドロールを円柱形状のガイドロール(図3)とし、下流側に位置する第二ガイドロールを鼓形状のガイドロール(図4)としたガイド装置Aを製作した。このガイド装置Aを神津製作所製のEKTW型巻取機に設置し、巻取機Aとした。
巻取機Aを用い、繊度33000dtex、フィラメント数50000本の強化繊維束を紙製巻取ボビン(紙管)に巻き取り、強化繊維束の巻体A−1を得た。ここで紙管としては内径82mm、長さ280mmのものを使用した。
得られた強化繊維束の巻体A−1について、トウ幅、変動率を測定し、その結果を表1に示す。
【0033】
(実施例2)
繊度15883dtex、フィラメント数24000本の強化繊維束を用いた以外は、実施例1と同様にして強化繊維束の巻体A−2を製造し、トウ幅と変動率を測定した。その結果を表1に示す。
【0034】
(比較例1)
第二ガイドロール対の内、上流側に位置する第二ガイドロールを太鼓形状のガイドロール60(図7)とした以外は、実施例1と同様にして強化繊維束の巻体Bを製造し、トウ幅と変動率を測定した。その結果を表1に示す。なお、太鼓形状とは、周面の円周が両端面から中央部方向に向かって徐々に半径が長くなるような形状、即ち図7のように、ガイドロール60の軸方向の断面において、両端面よりも中央部が膨らんだ形状である。
【0035】
(比較例2)
繊度9889dtex、フィラメント数15000本の強化繊維束を用いた以外は、実施例1と同様にして強化繊維束の巻体Cを製造し、トウ幅と変動率を測定した。その結果を表1に示す。
【0036】
(比較例3)
繊度9889dtex、フィラメント数15000本の強化繊維束を用いた以外は、比較例1と同様にして強化繊維束の巻体Dを製造し、トウ幅と変動率を測定した、その結果を表1に示す。
【0037】
(比較例4)
繊度15833dtex、フィラメント数24000本の強化繊維束を用いた以外は、比較例1と同様にして強化繊維束の巻体Eを製造し、トウ幅と変動率を測定した。その結果を表1に示す。
【0038】
【表1】

【0039】
第二ガイドロール対を円柱形状と鼓形状との組み合わせとした実施例1では、10.2mmという広いトウ幅で、かつ変動率6.9%と、安定したトウ幅の強化繊維束の巻体が得られた。また、得られた強化繊維束の巻体A−1の撚りは少なく、安定した巻形状であった。
強化繊維束に繊度15883dtexの強化繊維束を用いた実施例2では、8.6mmという広いトウ幅で、かつ変動率8.8%と、安定したトウ幅の強化繊維束の巻体が得られた。また、得られた強化繊維束の巻体A−2の撚りは少なく、安定した巻形状であった。
一方、第二ガイドロール対を太鼓形状と鼓形状との組み合わせとした比較例1では、実施例1と同一繊度の強化繊維束を用いたが、10.4mmという広いトウ幅であったものの、変動率は10%を超えていた。得られた強化繊維束の巻体Bは、撚りが非常に多く、巻形状は不安定であった。
第二ガイドロール対を円柱形状と鼓形状との組み合わせとし、繊度12000dtex未満の強化繊維束を用いた比較例2では、トウ幅が著しく狭くなり、かつ、変動率が16.5%とトウ幅は不安定であった。得られた強化繊維束の巻体Cは、撚りが非常に多く、巻き形状は不安定であった。
第二ガイドロール対を太鼓形状と鼓形状との組み合わせとし、繊度12000dtex未満の強化繊維束を用いた比較例3では、変動率は6.3%であり、強化繊維束の巻体Dの形状は安定していた。一方、繊度を15833dtexとした比較例4では、トウ幅は広がったものの、変動率は13.2%となり、安定したトウ幅を得ることができなかった。加えて、得られた強化繊維束の巻体Eは、撚りが非常に多く巻形状は不安定であった。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の実施形態にかかるガイド装置側面の拡大図である。
【図2】本発明の実施形態にかかるガイド装置が取り付けられた巻取機を示す模式図である。
【図3】本発明の実施形態にかかる円柱形状の第二ガイドロールの側面図である。
【図4】本発明の実施形態にかかる鼓形状の第二ガイドロールの側面図である。
【図5】本発明の実施形態のガイド装置のフック状ガイドの天面図である。
【図6】本発明の実施形態にかかるガイド装置が取り付けられた巻取機を示す模式図である。
【図7】比較例に用いた太鼓形状のガイドロールの側面図である。
【符号の説明】
【0041】
8 巻取機
10 ガイド装置
12 ガイドスタンド
20 第一ガイドロール対
22、24 第一ガイドロール
30 第二ガイドロール対
32、34 第二ガイドロール
50 ボビン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊度12000〜40000dtexの強化繊維束をトラバースさせて巻取機に導く巻取機用のガイド装置であって、
巻き取り用のボビンの軸方向と平行に往復動するガイドスタンドを有し、
前記ガイドスタンドは、強化繊維束の進行方向に対して軸方向を直交させて設置された一対の第一ガイドロール対と、前記第一ガイドロール対の下流側に、強化繊維束の進行方向に対して軸方向を直交させ、かつ、前記第一ガイドロール対のガイドロールの軸方向と直交させて設置された一対の第二ガイドロール対とを有し、
前記第二ガイドロール対は、上流側のガイドロールが円柱形状であり、下流側のガイドロールが鼓形状であることを特徴とする、巻取機用のガイド装置。
【請求項2】
請求項1に記載のガイド装置を用い、繊度12000〜40000dtexの強化繊維束を巻取機に導き、トウ幅変動率10%以下で巻き取る、強化繊維束の巻き取り方法。
【請求項3】
請求項1に記載のガイド装置を用い、繊度12000〜40000dtexの強化繊維束が巻取機に導かれて、トウ幅変動率10%以下で巻き取られた、強化繊維束の巻体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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