説明

巻線装置及び巻線方法

【課題】安定した巻線を行うことができる巻線装置を提供すること。
【解決手段】線材を繰り出すノズル11と、ノズル11を支持するヘッド12と、ヘッド12を支持するヘッド支持軸13と、ヘッド支持軸13と同軸上に配置され、かつヘッド支持軸13に対して軸中心の回転は独立であると共に軸方向は連結されたトラバース軸14と、ヘッド支持軸13及びトラバース軸14のいずれか一方を軸中心に回動することによってその回動が他方の軸に伝達し、かつ他方の軸を軸中心に回動してもその回動が一方の軸には伝達しないように双方の軸を連結する軸連結機構15と、一方の軸を回動することによって一方の軸に同期して他方の軸を回動させヘッド12を軸中心に回動するヘッド回動機構16と、双方の軸を軸方向に移動することによってヘッド12を軸方向に移動するヘッド軸方向移動機構17と、他方の軸を回動することによって他方の軸を一方の軸に対して相対回動させノズル11を軸半径方向に移動するノズル移動機構18とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、巻線装置及び巻線方法に関するものであり、特には、ステータコイルを製造する巻線装置及び巻線方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
本出願人はステータコイルを製造する巻線装置に関する特許出願を行っている(特許文献1)。
【0003】
特許文献1に記載の巻線装置は、ノズルを支持するヘッドを回転するヘッド支持軸と、ヘッド支持軸に対して相対回転するトラバース軸と、それぞれの軸を回転させる軸回転モータと、ヘッド支持軸端部に設けられたガイド板と、トラバース軸端部に設けられたカム板と、ガイド板に設けられたガイド溝に摺動可能に係合するスライド部を有すると共に、カム板のカム溝に係合するカムフォロワを有するノズルホルダとを備える。
【0004】
この巻線装置において、それぞれの軸回転モータを同じ速度で回転させれば、ヘッド支持軸とトラバース軸とは一緒に回転し、ノズルはステータの周方向に回動する。
【0005】
また、それぞれの軸回転モータを異なる速度で回転させれば、ヘッド支持軸端部のガイド板に対してトラバース軸端部のカム板が相対回転し、ノズルホルダはステータの径方向に移動する。このように、それぞれの軸回転モータを異なる速度で回転させることによって、ノズルをステータの径方向に移動させ、線材に送りをかける。
【特許文献1】特開2002−208530
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載の巻線装置では、ノズルをステータの周方向に回動させるためには、二つの軸回転モータを同じ速度で回転させる必要があるが、このとき二つの軸回転モータの速度が少しでも異なると、ノズルは径方向に移動してしまいステータの磁極に安定した巻線を行うことができない。
【0007】
また、ノズルをステータの径方向に移動させるためには、二つの軸回転モータを異なる速度で回転させる必要があるため、ヘッド支持軸が高速度で回転している場合には、トラバース軸をそれ以上の速度で回転させなければならない場合も生じる。この場合には、トラバース軸の軸回転モータがヘッド支持軸の回転速度に追従できなくなることもあり、ステータの磁極に安定した巻線を行うことができない。
【0008】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、安定した巻線を行うことができる巻線装置及び巻線方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、磁極に線材を巻線する巻線装置において、線材を繰り出すノズルと、前記ノズルを支持するヘッドと、前記ヘッドを支持する第一の軸と、前記第一の軸と同軸上に配置され、かつ前記第一の軸に対して軸中心の回転は独立であると共に軸方向は連結された第二の軸と、前記第一の軸及び前記第二の軸のいずれか一方を軸中心に回動することによってその回動が他方の軸に伝達し、かつ前記他方の軸を軸中心に回動してもその回動が前記一方の軸には伝達しないように前記第一の軸と前記第二の軸を連結する軸連結手段と、前記一方の軸を回動することによって前記一方の軸に同期して前記他方の軸を回動させ前記ヘッドを前記軸中心に回動するヘッド回動手段と、前記第一の軸及び前記第二の軸を軸方向に移動することによって前記ヘッドを前記軸方向に移動するヘッド軸方向移動手段と、前記他方の軸を回動することによって当該他方の軸を前記一方の軸に対して相対回動させ前記ノズルを前記軸半径方向に移動するノズル移動手段とを備えることを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る巻線方法は、線材を繰り出すノズルと、前記ノズルを支持するヘッドと、前記ヘッドを支持する第一の軸と、前記第一の軸と同軸上に配置され、かつ前記第一の軸に対して軸中心の回転は独立であると共に軸方向は連結された第二の軸と、前記第一の軸及び前記第二の軸のいずれか一方を軸中心に回動することによってその回動が他方の軸に伝達し、かつ前記他方の軸を軸中心に回動してもその回動が前記一方の軸には伝達しないように前記第一の軸と前記第二の軸を連結する軸連結手段とを備え、前記一方の軸を回動することによって前記一方の軸に同期して前記他方の軸を回動させ前記ヘッドを前記軸中心に回動する動作と、前記第一の軸及び前記第二の軸を軸方向に移動することによって前記ヘッドを前記軸方向に移動する動作と、前記他方の軸を回動することによって当該他方の軸を前記一方の軸に対して相対回動させ前記ノズルを前記軸半径方向に移動する動作とを組み合わせて磁極に線材を巻線することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、第一の軸及び第二の軸のいずれか一方を軸中心に回動することによってその回動が他方の軸に伝達するため、第一の軸と第二の軸とを同じ速度で回動させることができ、また、他方の軸を軸中心に回動してもその回動が一方の軸には伝達しないため、他方の軸を一方の軸に対して相対回動させることができる。したがって、磁極に対して安定した巻線を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
【0013】
図1〜図3を参照して本発明の実施の形態に係る巻線装置100について説明する。図1は巻線装置100を示す斜視図であり、図2は巻線装置100を示す断面図であり、図3はヘッド周辺を示す分解斜視図である。
【0014】
巻線装置100は、磁極1に線材2を自動的に巻線する装置であり、本実施の形態ではインナーロータ型モータにおけるステータ3の磁極1に対して線材2を巻線する装置について説明する。
【0015】
巻線装置100は、ステータ3を支持するステータ支持台4と、ステータ支持台4を回転駆動する割り出しモータ5とを備える。ステータ支持台4及び割り出しモータ5は、架台6の上段7に配置される。
【0016】
ステータ3は、環状のヨーク部3aと、当該ヨーク部内周からステータ3の中心に向かって延びる複数の磁極1とを備え、各磁極1に線材2が巻線されてステータコイルが形成される。
【0017】
ステータ支持台4は、割り出しモータ5の出力軸に連結された歯車9と噛み合う歯4aを外周に有し、割り出しモータ5の駆動によって回転する。
【0018】
巻線装置100は、線材2を繰り出す複数のノズル11と、複数のノズル11を支持するヘッド12と、ヘッド12を支持する第一の軸としてのヘッド支持軸13と、ヘッド支持軸13と同軸上に配置された第二の軸としてのトラバース軸14と、ヘッド支持軸13とトラバース軸14を連結する軸連結手段としての軸連結機構15と、ヘッド12をヘッド支持軸13の軸中心に回動するヘッド回動手段としてのヘッド回動機構16と、ヘッド12をヘッド支持軸13の軸方向に移動するヘッド軸方向移動手段としてのヘッド軸方向移動機構17と、ノズル11をヘッド支持軸13の軸半径方向に移動するノズル移動手段としてのノズル移動機構18とを備える。
【0019】
巻線装置100は、ヘッド回動機構16、ヘッド軸方向移動機構17、及びノズル移動機構18を動作することによって、ノズル11を動作させノズル11から繰り出される線材2を磁極1の周りに巻線する。以下に、巻線装置100の詳細な構成について説明する。
【0020】
複数のノズル11は、ノズルホルダ21に保持され、ステータ3の磁極1に向かって放射状に延在して配置される。
【0021】
ヘッド12は、ステータ3の内側開口部に配置され、ステータ3と同心上に配置された円板形状のガイド板22を備え、ノズルホルダ21はガイド板22に支持される。
【0022】
ヘッド支持軸13は円筒形状であり、一端がヘッド12のガイド板22の中心に結合している。したがって、ヘッド支持軸13が軸中心に回動することによって、ヘッド12もヘッド支持軸13の軸中心に回動する。図示しない線材供給源から供給される複数本の線材2は、ヘッド支持軸13の他端からヘッド支持軸13内へ導入され、ヘッド12付近に設けられた開口部13bから引き出されノズル11に保持される。
【0023】
トラバース軸14は、円筒形状であり、ヘッド支持軸13がトラバース軸14の円筒内を挿通する態様で配置される。トラバース軸14とヘッド支持軸13とは、トラバース軸14内周に設けられた溝14aとヘッド支持軸13外周に設けられた凸部13aとが嵌合することによって連結される。これにより、トラバース軸14は、ヘッド支持軸13に対して軸中心の回転は独立であると共に軸方向は連結された状態となる。
【0024】
トラバース軸14の一端は、円板形状のカム板23の中心に結合している。したがって、トラバース軸14が軸中心に回動することによって、カム板23がトラバース軸14の軸中心に回動する。カム板23は、ノズルホルダ21を介してガイド板22とは反対側にガイド板22と平行に配置され、カム板23をヘッド支持軸13と一体のガイド板22に対して相対回転させることによって、ノズル11がヘッド支持軸13の軸半径方向に移動するように構成されている。
【0025】
ノズル11をヘッド支持軸13の軸半径方向に移動可能とする具体的な機構について図3を参照して説明する。ヘッド支持軸13の一端に結合されたガイド板22には、ノズル11の数と同数の半径方向に放射状に延びるガイド溝51が形成される。また、トラバース軸14の一端に結合されたカム板23には、中心付近から外縁方向に湾曲して渦巻き状に延びるカム溝52が形成される。
【0026】
ノズル11を保持するノズルホルダ21は、ガイド板22のガイド溝51に摺動可能に嵌合するスライド部53と、カム板23のカム溝52に係合するローラ形のカムフォロア54とを有する。これにより、カム板23がガイド板22に対して相対回転することによって、カムフォロア54が渦巻き状のカム溝52に沿って移動し、ノズルホルダ21はガイド溝51に沿ってガイド板22の半径方向、つまりヘッド支持軸13の軸半径方向に移動する。
【0027】
このように、トラバース軸14をヘッド支持軸13に対して相対回転させれば、ノズル11はヘッド支持軸13の軸半径方向に移動し、トラバース軸14をヘッド支持軸13に対して同期して回転させれば、ノズル11はヘッド支持軸13の軸半径方向には移動しない。
【0028】
軸連結機構15は、ヘッド支持軸13と連結した第一の歯車機構25と、トラバース軸14と連結した第二の歯車機構26と、第一の歯車機構25と第二の歯車機構を連結する連結部材としての連結軸27とを備える。
【0029】
第一の歯車機構25は、外周に歯が形成された太陽歯車25aと、太陽歯車25aを囲み内周に歯が形成された環状の内歯歯車25bと、太陽歯車25aと内歯歯車25bの間に配置され外周に形成された歯が双方の歯と噛み合う複数の遊星歯車25cとを有する。ヘッド支持軸13は、太陽歯車25aを挿通し、ヘッド支持軸13の外周に形成されたスプライン28に太陽歯車25aの内周が結合する。なお、内歯歯車25bは、締結ボルト60によって架台6の上段7に回転不能に固定される。
【0030】
第二の歯車機構26は、外周に歯が形成された太陽歯車26aと、太陽歯車26aを囲み内周に歯が形成された環状の内歯歯車26bと、太陽歯車26aと内歯歯車26bの間に配置され外周に形成された歯が双方の歯と噛み合う複数の遊星歯車26cとを有する。トラバース軸14は、太陽歯車26aを挿通し、トラバース軸14の外周に形成されたスプライン29に太陽歯車26aの内周が結合する。
【0031】
連結軸27は、第一の歯車機構25における遊星歯車25cと第二の歯車機構26における遊星歯車26cとの双方をころがり軸受61を介して挿通し両者を連結する。これにより、遊星歯車25c及び遊星歯車26cは、太陽歯車25a及び太陽歯車26aの周囲を同期して公転可能であり、かつそれぞれ互いに独立に自転可能である。
【0032】
このように、軸連結機構15を構成することによって、第一の歯車機構25の太陽歯車25aを回転した場合には、太陽歯車25a内周にスプライン結合したヘッド支持軸13が軸中心に回転する。また、第一の歯車機構25の内歯歯車25bは固定されているので、遊星歯車25cは自転しながら内歯歯車25bの内周に沿って公転する。
【0033】
第一の歯車機構25の遊星歯車25cが公転することによって、遊星歯車25cと連結軸27にて連結されている第二の歯車機構26の遊星歯車26cも自転しながら内歯歯車26bの内周に沿って公転する。これにより、第二の歯車機構26の遊星歯車26aが回転し、遊星歯車26a内周にスプライン結合したトラバース軸14も軸中心に回転する。このように、第一の歯車機構25における回転は第二の歯車機構26へ伝達する。なお、このとき、第二の歯車機構26の内歯歯車26bは、回転せず静止した状態である。
【0034】
また、第二の歯車機構26の内歯歯車26bを回転した場合には、第二の歯車機構26の遊星歯車26cが自転し、第二の歯車機構26の太陽歯車26aが回転する。これにより、太陽歯車26a内周にスプライン結合したトラバース軸14は軸中心に回転する。このとき、内歯歯車26b及び太陽歯車26aの双方が回転するため、遊星歯車26cは公転しない。このため、第二の歯車機構26における回転は第一の歯車機構25へは伝達しない。
【0035】
以上のように、軸連結機構15は、第一の歯車機構25における太陽歯車25aを回転させ、ヘッド支持軸13を軸中心に回転させることによって、ヘッド支持軸13に同期してトラバース軸14も軸中心に回転させることができる。また、第二の歯車機構26における内歯歯車26bを回転させ、トラバース軸14を軸中心に回転させることによって、トラバース軸14をヘッド支持軸13に対して相対回転させることができる。
【0036】
ヘッド回動機構16は、ヘッド支持軸回動モータ35と、ヘッド支持軸回動モータ35の出力軸34に連結されたカムフォロア33と、第一の歯車機構25の太陽歯車25aに結合されカムフォロア33に形成されたガイド溝32に案内されるカムガイド31とを備える。なお、ヘッド支持軸回動モータ35は、架台6の上段7に連結する筐体36に支持される。
【0037】
ヘッド支持軸回動モータ35の回転にてカムフォロア33が回転することによって、カムガイド31がカムフォロア33のガイド溝32に沿って案内される。これにより、太陽歯車25aにスプライン結合したヘッド支持軸13は軸中心に往復回動し、ヘッド支持軸13端部のヘッド12も軸中心に往復回動する。
【0038】
ヘッド軸方向移動機構17は、ヘッド支持軸移動モータ37と、ヘッド支持軸移動モータ37を支持する支持板38と、ヘッド支持軸移動モータ37の出力軸39に連結された円板40と、リンク41とを備える。リンク41の一端41aは円板40の外縁に回転可能に連係され、他端41bはヘッド支持軸13におけるヘッド12が設けられた端部と逆端近傍に回転可能に連係される。なお、支持板38は架台6の下段8に配置される。
【0039】
ヘッド支持軸移動モータ37の回転にて円板40が回転することによって、リンク41の一端41aが円板40の外縁に沿って移動する。これにより、リンク41の他端41bが連係されたヘッド支持軸13は軸方向に往復運動し、ヘッド支持軸13端部のヘッド12も軸方向に往復運動する。なお、トラバース軸14は、ヘッド支持軸13に対して溝14a及び凸部13aの嵌合によって軸方向は連結されているため、ヘッド支持軸13と共に軸方向に往復運動する。このように、ヘッド軸方向移動機構17は、円板40の回転運動をヘッド支持軸13及びトラバース軸14の往復運動に変換するクランク機構である。
【0040】
なお、ヘッド軸方向移動機構17をモータとボールねじを用いて、ヘッド支持軸13及びトラバース軸14を往復運動させる構成としてもよい。
【0041】
ノズル移動機構18は、上記したノズル11をヘッド支持軸13の軸半径方向に移動可能とする機構、すなわち、ガイド板22、ガイド溝51、カム板23、カム溝52、スライド部53、及びカムフォロア54の他に、トラバース軸14をヘッド支持軸13に対して相対回転させるトラバース軸回動機構43を備える。
【0042】
トラバース軸回動機構43は、トラバース軸回動モータ44と、トラバース軸回動モータ44の出力軸45に連結されたプーリー46と、プーリー46と第二の歯車機構26の内歯歯車26bとを連結するベルト47とを備える。なお、トラバース軸回動モータ44は架台6の上段7に配置される。
【0043】
トラバース軸回動モータ44の回転にてプーリー46が回転することによって、その回転がベルト47を介して第二の歯車機構26の内歯歯車26bに伝わり、内歯歯車26bが回転する。これにより、第二の歯車機構26の遊星歯車26cが自転し、第二の歯車機構26の太陽歯車26aが回転する。そして、太陽歯車26a内周にスプライン結合したトラバース軸14が軸中心に回転する。このとき、遊星歯車26cは公転しないため、第二の歯車機構26における回転は第一の歯車機構25へは伝達しない。したがって、トラバース軸14はヘッド支持軸13に対して相対回転し、ノズル11はヘッド支持軸13の軸半径方向に移動する。
【0044】
次に、巻線装置100の巻線動作について説明する。なお、巻線動作は、巻線装置100に搭載された図示しないコントローラにて制御される。
【0045】
まず、ステータ支持台4にステータ3を固定し、割り出しモータ5を駆動することによってステータ3を所定の位置に配置する。
【0046】
線材供給源から供給される複数本の線材2を、ヘッド支持軸13の下端からヘッド支持軸13内へ導入し、ヘッド12付近に設けられた開口部13bから引き出す。さらに、ノズル11に通しノズル先端から引き出す。なお、ノズル11先端から引き出された線材2は図示しないクランプにより保持される。
【0047】
巻線装置100は複数のノズル11を備えるため、同時に複数の磁極1への巻線が行われる。磁極1への線材2の巻線は、ノズル11を磁極1の周囲を移動させ線材2を磁極1へ巻回す動作と、ノズル11を磁極1の長手方向に移動させ線材2を磁極1の長手方向に線径分送る動作とを組み合わせることによって行う。つまり、線材2を磁極1の周囲を1周させた後、線材2を磁極1の長手方向に線径分送るという動作を繰り返すことによって磁極1に線材2を巻線する。
【0048】
また、ノズル11を磁極1の周囲を移動させるには、ノズル11を磁極1の幅方向に移動する動作と、ノズル11を磁極1の高さ方向に移動する動作とを組み合わせることによって行う。
【0049】
まず、ノズル11を磁極1の幅方向に移動する動作について説明する。ヘッド回動機構16におけるヘッド支持軸回動モータ35を駆動しカムフォロア33を回転することによって、カムガイド31がカムフォロア33のガイド溝32に沿って案内され、第一の歯車機構25の太陽歯車25aを介してヘッド支持軸13は軸中心に往復回動する。これにより、ヘッド12も軸中心に往復回動するため、ヘッド12に支持されたノズル11は磁極1の幅方向に往復回動する。
【0050】
このとき、第一の歯車機構25の太陽歯車25aの回転は、上記したように軸連結機構15によって第二の歯車機構26に伝達されるため、第二の歯車機構26の太陽歯車26aにスプライン結合したトラバース軸14もヘッド支持軸13に同期して往復回動する。したがって、トラバース軸14の回動がヘッド支持軸13の回動とずれる様なことが生じないため、ノズル11がヘッド支持軸13の軸半径方向に移動することはなく安定した巻線を行うことができる。
【0051】
次に、ノズル11を磁極1の高さ方向に移動する動作について説明する。ヘッド軸方向移動機構17におけるヘッド支持軸移動モータ37を駆動することによって円板40を回転させ、その回転をクランク機構によってヘッド支持軸13及びトラバース軸14の軸方向への往復運動に変換する。これにより、ヘッド12も軸方向に往復運動するため、ヘッド12に支持されたノズル11は磁極1の高さ方向に往復運動する。
【0052】
このように、ヘッド支持軸回動モータ35及びヘッド支持軸移動モータ37の駆動を制御することによって、ノズル11を磁極1の周囲を移動させることができ、線材2を磁極1の周囲に巻回すことができる。
【0053】
次に、ノズル11を磁極1の長手方向に移動する動作について説明する。トラバース軸回動機構43におけるトラバース軸回動モータ44を駆動し第二の歯車機構26の内歯歯車26bを回動させることによって、第二の歯車機構26の太陽歯車26aを回動させ、太陽歯車26aにスプライン結合するトラバース軸14を軸中心に回動する。
【0054】
このとき、第二の歯車機構26の遊星歯車26cは上記したように自転するが公転はしない。このため、第二の歯車機構26の回転は、第一の歯車機構25へ伝達されないため、ヘッド支持軸13にも伝達されない。したがって、トラバース軸14はヘッド支持軸13に対して相対回動することになり、ガイド板22とカム板23の間に配置されたノズルホルダ21は、ガイド溝51に沿ってヘッド支持軸13の軸半径方向に移動する。このように、トラバース軸回動モータ44を線材2の線径分の送りに相当する所定角度回転させることによって、ノズル11は磁極1の長手方向に移動し、線材2を磁極1の長手方向に線径分送ることができる。
【0055】
ヘッド支持軸回動モータ35及びヘッド支持軸移動モータ37を駆動し線材2を磁極1の周囲に巻回しながらトラバース軸回動モータ44を駆動し線材2に送りをかける場合には、トラバース軸回動モータ44が連結している第二の歯車機構26の内歯歯車26bは静止した状態であるため、トラバース軸回動モータ44を駆動することによって迅速に線材2に送りをかけることができる。つまり、トラバース軸回動モータ44をヘッド支持軸13の回動速度に合わせて回動させる必要がなく、トラバース軸回動モータ44を駆動することによって、トラバース軸14にはヘッド支持軸13と同期している回動速度に重畳する回動速度が加えられ、ヘッド支持軸13に対して相対回動する。
【0056】
以上のように、ヘッド支持軸回動モータ35、ヘッド支持軸移動モータ37、トラバース軸回動モータ44を制御することによって線材2を磁極1に巻線することができる。
【0057】
以上の実施の形態1に係る巻線装置100によれば、線材2を磁極1の周囲に巻回すときには、ヘッド支持軸13の回動に同期してトラバース軸14が回動するため、両者の回動にずれが生じることがない。また、線材2を磁極1の長手方向に送るときには、トラバース軸14だけを回動させることができるため、トラバース軸14をヘッド支持軸13に対して容易に相対回動させることができる。したがって、磁極1に対して安定した巻線を行うことができる。
【0058】
以下に本実施の形態の他の態様について説明する。
【0059】
本実施の形態では、軸連結機構15における第一の歯車機構25の内歯歯車25bを回転不能に固定し、かつヘッド回動機構16をヘッド支持軸13にスプライン結合する第一の歯車機構25の太陽歯車25aに連結し、ノズル移動機構18のトラバース軸回動機構43を第二の歯車機構26の内歯歯車26bに連結する構成とした。しかし、軸連結機構15における第二の歯車機構26の内歯歯車26bを回転不能に固定し、かつヘッド回動機構16をトラバース軸14にスプライン結合する第二の歯車機構26の太陽歯車26aに連結し、ノズル移動機構18のトラバース軸回動機構43を第一の歯車機構25の内歯歯車25bに連結する構成とすることも可能である。
【0060】
つまり、線材2を磁極1の周囲に巻回すときには、トラバース軸14の回動に同期してヘッド支持軸13を回動させ、また、線材2を磁極1の長手方向に送るときには、ヘッド支持軸13をトラバース軸14に対して相対回動させるように構成する。このように構成しても上記実施の形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0061】
また、軸連結機構15を以下のように構成することもできる。第一の歯車機構25において、太陽歯車25aを回転不能に固定すると共に、内歯歯車25bをヘッド支持軸13にスプライン結合し、ヘッド回動機構16におけるカムフォロア33のガイド溝32に案内されるカムガイド31を内歯歯車25bに結合する。さらに、第二の歯車機構26において、太陽歯車26aにトラバース軸回動機構43におけるプーリー46を連結すると共に、内歯歯車26bをトラバース軸14にスプライン結合する。このように構成しても上記実施の形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0062】
本発明は上記の実施の形態に限定されずに、その技術的な思想の範囲内において種々の変更がなしうることは明白である。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明は、ステータコイルを製造する巻線装置に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の実施の形態に係る巻線装置100を示す斜視図である。
【図2】同じく巻線装置100を示す断面図である。
【図3】ヘッド周辺を示す分解斜視図である。
【符号の説明】
【0065】
100 巻線装置
1 磁極
2 線材
3 ステータ
11 ノズル
12 ヘッド
13 ヘッド支持軸
14 トラバース軸
15 軸連結機構
16 ヘッド回動機構
17 ヘッド軸方向移動機構
18 ノズル移動機構
21 ノズルホルダ
22 ガイド板
23 カム板
25 第一の歯車機構
26 第二の歯車機構
25a,26a 太陽歯車
25b,26b 内歯歯車
25a,26b 遊星歯車
27 連結軸
28,29 スプライン
43 トラバース軸回動機構
51 ガイド溝
52 カム溝
53 スライド部
54 カムフォロア

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁極に線材を巻線する巻線装置において、
線材を繰り出すノズルと、
前記ノズルを支持するヘッドと、
前記ヘッドを支持する第一の軸と、
前記第一の軸と同軸上に配置され、かつ前記第一の軸に対して軸中心の回転は独立であると共に軸方向は連結された第二の軸と、
前記第一の軸及び前記第二の軸のいずれか一方を軸中心に回動することによってその回動が他方の軸に伝達し、かつ前記他方の軸を軸中心に回動してもその回動が前記一方の軸には伝達しないように前記第一の軸と前記第二の軸を連結する軸連結手段と、
前記一方の軸を回動することによって前記一方の軸に同期して前記他方の軸を回動させ前記ヘッドを前記軸中心に回動するヘッド回動手段と、
前記第一の軸及び前記第二の軸を軸方向に移動することによって前記ヘッドを前記軸方向に移動するヘッド軸方向移動手段と、
前記他方の軸を回動することによって当該他方の軸を前記一方の軸に対して相対回動させ前記ノズルを前記軸半径方向に移動するノズル移動手段と、
を備えることを特徴とする巻線装置。
【請求項2】
前記軸連結手段は、
前記一方の軸に結合した太陽歯車と、当該太陽歯車を囲み回転不能に固定された環状の内歯歯車と、前記太陽歯車と前記内歯歯車の間に配置され双方に噛み合う複数の遊星歯車とを有する第一の歯車機構と、
前記他方の軸に結合した太陽歯車と、当該太陽歯車を囲む環状の内歯歯車と、前記太陽歯車と前記内歯歯車の間に配置され双方に噛み合う複数の遊星歯車とを有する第二の歯車機構と、
前記第一の歯車機構における遊星歯車と前記第二の歯車機構における遊星歯車とを同期して公転可能、かつ互いに独立に自転可能に連結する連結部材と、を備え、
前記ヘッド回動手段は、前記第一の歯車機構における太陽歯車を回動させ前記一方の軸を回動させることによって前記一方の軸に同期して前記他方の軸を回動させる手段であり、
ノズル移動手段は、前記第二の歯車機構における内歯歯車を回動させ前記他方の軸を回動させることによって前記他方の軸を前記一方の軸に対して相対回動させる手段であることを特徴とする請求項1に記載の巻線装置。
【請求項3】
前記軸連結手段は、
前記一方の軸に結合した環状の内歯歯車と、当該内歯歯車に囲まれ回転不能に固定された太陽歯車と、前記内歯歯車と前記太陽歯車の間に配置され双方に噛み合う複数の遊星歯車とを有する第一の歯車機構と、
前記他方の軸に結合した環状の内歯歯車と、当該内歯歯車に囲まれた太陽歯車と、前記内歯歯車と前記太陽歯車の間に配置され双方に噛み合う複数の遊星歯車とを有する第二の歯車機構と、
前記第一の歯車機構における遊星歯車と前記第二の歯車機構における遊星歯車とを同期して公転可能、かつ互いに独立に自転可能に連結する連結部材と、を備え、
前記ヘッド回動手段は、前記第一の歯車機構における内歯歯車を回動させ前記一方の軸を回動させることによって前記一方の軸に同期して前記他方の軸を回動させる手段であり、
ノズル移動手段は、前記第二の歯車機構における太陽歯車を回動させ前記他方の軸を回動させることによって前記他方の軸を前記一方の軸に対して相対回動させる手段であることを特徴とする請求項1に記載の巻線装置。
【請求項4】
線材を繰り出すノズルと、
前記ノズルを支持するヘッドと、
前記ヘッドを支持する第一の軸と、
前記第一の軸と同軸上に配置され、かつ前記第一の軸に対して軸中心の回転は独立であると共に軸方向は連結された第二の軸と、
前記第一の軸及び前記第二の軸のいずれか一方を軸中心に回動することによってその回動が他方の軸に伝達し、かつ前記他方の軸を軸中心に回動してもその回動が前記一方の軸には伝達しないように前記第一の軸と前記第二の軸を連結する軸連結手段と、を備え、
前記一方の軸を回動することによって前記一方の軸に同期して前記他方の軸を回動させ前記ヘッドを前記軸中心に回動する動作と、
前記第一の軸及び前記第二の軸を軸方向に移動することによって前記ヘッドを前記軸方向に移動する動作と、
前記他方の軸を回動することによって当該他方の軸を前記一方の軸に対して相対回動させ前記ノズルを前記軸半径方向に移動する動作と、
を組み合わせて磁極に線材を巻線することを特徴とする巻線方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−103416(P2007−103416A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−287590(P2005−287590)
【出願日】平成17年9月30日(2005.9.30)
【出願人】(000227537)日特エンジニアリング株式会社 (106)
【Fターム(参考)】