説明

布ドローオフ装置

【課題】織機において織物の滑りを軽減または発生しないようにする布ドローオフ装置を提供すること。
【解決手段】織機において織物8を巻き取るための布ドローオフ装置10であって、織物がそのまわりで導かれる2つの被駆動ドローイン・ローラ3、5、および任意選択で、あるいは場合によって、織物を2つのドローイン・ローラに押し付けるためのそれぞれの加圧ローラ4、6を含む布ドローオフ装置10が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の前文に記載されたような、織機において布を引き取るための布のテークアップ(巻取り)またはドローオフ(引取り)装置、ならびにこの種の布ドローオフ装置を備えた織機に関する。
【背景技術】
【0002】
今日、布の品質に対して高い要求が出されている。これは、例えば自動車業界におけるエアバッグ用の織物(ファブリック)などのような技術的な織物に対して、ある程度まで当てはまる。この種の織物では、とりわけ横糸密度を正確に維持することが重要である。必要な横糸密度を得るために、比較的高い織物張力が作り出されなければならない。これは、布ドローオフ装置に対して厳しい要求を置く。なぜなら、一方では、あまり安く購入できない織物すなわちツルツルした織物は損傷してはならず、他方では、そのような織物はいかなる状況でも滑ってはならないからである。これらの要求の下、従来の布ドローオフ装置は、織物の滑りを完全に防ぐことができないという点においてその限界に達している。織物が滑ったとたん、織物のドローオフによって制御される横糸密度はもはや正確ではなくなる。織機が一時的に停止した場合には、織物が滑って戻ることによってストップ・マークが生じることがあり、あるいはより厳しい場合には機械に損傷を与えることがある。
【0003】
エアバッグの場合のように2つの織物層を同時に上下にして織るときには、さらに他の問題が生じる。布ドローオフ装置において「引き」が織物層の一方のみに生じた場合、織物層の間のずれ、したがって折り目が発生する可能性がある。この場合、2つの織物層は、許容できない異なる横糸密度を有している。
【0004】
従来型の布ドローオフ装置は、スイス特許第619497号明細書(CH−619497)に記載されている。記載された布ドローオフ装置は、織物がそのまわりに導かれる織物ドローオフ・ローラ(以下ではドローイン・ローラと呼ぶ)、およびドローイン・ローラに押し付けられる転向ローラ(以下では加圧ローラと呼ぶ)を含む。さらに、スイス特許第619497号明細書に記載された布ドローオフ装置は、ドローイン・ローラに対するラップ角度(巻き付け角度)βを大きくするために、ブレスト・ビームとドローイン・ローラの間のドローイン・ローラおよび加圧ローラの近くに配置された、追加の織物転向ポイントを含む。この手段によって、ドローイン・ローラ上で起こり得る織物の滑りを軽減することができる。しかし、前の項で説明したように、すべての場合にドローイン・ローラ上での織物の滑りを完全になくすには、この手段では不十分である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、織機において布を引き出すための布ドローオフ装置を利用可能とすることであり、それによって布ドローオフ装置での織物の滑りを軽減または発生しないようにすることである。さらに、布ドローオフ装置は、2層の織物を引き出すのにも適したものとすべきである。本発明の他の目的は、この種の布ドローオフ装置を有する織機を利用可能にすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的は、本発明に従って、請求項1に特徴を述べる布ドローオフ装置、および請求項10に特徴を述べる織機によって達成される。
【0007】
織機において織物を巻き取るための布ドローオフ装置は、織物がそのまわりで導かれる第1の被駆動ドローイン・ローラ、およびさらに、織物がそのまわりで導かれる第2の被駆動ドローイン・ローラを含む。ドローイン・ローラに対するラップ角度、すなわち、それぞれの場合に織物がドローイン・ローラに接触した状態にある角度はできるだけ大きいことが好ましく、例えば100°〜356°、有利には180°〜350°である。好ましい実施例では、布ドローオフ装置は、織物を第1または第2のドローイン・ローラに押し付けるために少なくとも1つの加圧ローラも含んでいる。
【0008】
他の好ましい実施例では、第1および第2のドローイン・ローラはそれぞれ、例えばドライブ・シャフト、および/または歯車、および/またはチェーン・スプロケットなど、互いに連結された駆動手段に接続される。連結は、例えばそれぞれのチェーン・スプロケットおよびチェーンによって行うことができる。駆動手段は、第1の変形形態では、ドローイン・ローラが同じ回転方向を有するように設計され、第2の変形形態では、ドローイン・ローラが反対の回転方向を有するように設計される。2つのドローイン・ローラの少なくとも1つを、スリップ連結または摩擦クラッチによってそれぞれの駆動手段に接続することが好ましい。
【0009】
第2のドローイン・ローラを、第1のドローイン・ローラからある距離をおいて配置することが好ましく、またドローイン・ローラを上下に配置することが好ましく、それによって、例えば2つのドローイン・ローラのうちの1つを、クロス・ビームに代えて織機に取り付けることが可能になる。
【0010】
他の好ましい実施例では、布ドローオフ装置はさらに、第1のドローイン・ローラの前に配置された転向ローラまたは転向バーを含む。転向ローラまたは転向バーは、例えば硬質のクロム層など、つや消しまたはブラスト処理が可能な低摩擦コーティングを備え、低い摩擦を有するように設計されることが好ましい。
【0011】
他の好ましい実施例では、布ドローオフ装置はさらに、反対向きに移動する織物の部分が互いに接触しないように、第1のドローイン・ローラと第2のドローイン・ローラの間に配置された転向装置を含む。特にドローイン・ローラを上下に配置したときには、上側のドローイン・ローラまたは上側の加圧ローラから来る織物部分が、下側のドローイン・ローラへ向かう途中で上側のドローイン・ローラのまわりに導かれる布と接触する確率が高まり、接触点における織物の部分の移送方向が互いに反対であるため、それによって望ましくない摩擦応力、あるいは2層の織物の場合には織物層の相互のずれが生じる恐れがある。第1のドローイン・ローラと第2のドローイン・ローラの間に転向装置を追加することによって、反対向きに移動する織物の部分が互いに接触する状況を防ぐことが可能になる。
【0012】
他の好ましい実施例では、加圧ローラの少なくとも1つが、それぞれのドローイン・ローラの上に実質的に垂直に配置される。実質的に垂直に配置することにより、それぞれの加圧ローラの重量によって発生する押圧力が最大になる。ドローイン・ローラを上下に配置し、上側の加圧ローラを上側のドローイン・ローラの上に実質的に垂直に配置した場合には、第1のドローイン・ローラと第2のドローイン・ローラの間の織物部分に作用する張力によって、上側の加圧ローラの押圧力を強める別の力の成分が生じる。
【0013】
さらに本発明は、前述の実施例の任意のものによる布ドローオフ装置を有する織機を含む。
【0014】
本発明による布ドローオフ装置は、布ドローオフ装置における織物の滑りを軽減または発生しないようにするという利点を有する。さらに、例えば前述のように織物の転向が低い摩擦を伴うように設計されているため、2層の織物の場合における折り目の発生を許容できる程度まで減らすことが可能になる。さらに、ドローオフ装置の後ろでいつでも、製織工程を妨げずに織物を切断することが可能であり、このことはとりわけ、ドローオフ動作を助けるためのクロス・ビームおよび外部のドローオフ装置が設けられていないときに有利である。本発明による布ドローオフ装置は、有利には同じ設計である2つの別々の布ドローオフ装置から形成することができる。例えば、それぞれがドローイン・ローラおよび加圧ローラを有する2つの従来型の布ドローオフ装置とすることができる。これによって、簡単かつ経済的な製造が可能になる。
【0015】
実施例についての先の記述は、単に実施例として役立つにすぎない。他の有利な実施例は、従属請求項および図面から得られる。さらに、新規の実施例を作成するために、記載または図示した実施例の個々の特徴を、本発明の文脈において互いに組み合わせることも可能である。
【0016】
以下では例示的な実施例および図面を参照して、本発明をさらに詳しく説明する。
【実施例】
【0017】
本発明による布ドローオフ装置の例示的な実施例を有する織機について図1に示した図では、織機は、そこから縦糸が送られるワープ・ビーム15、縦糸を転向させるバックレスト・ローラ14、および個々の縦糸を上下させることによって杼口11を形成する杼口形成装置13を含む。さらに、図示した織機は、杼口11に挿入された横糸を布端まで筬打ちするために筬12(図示していない)を含む。このように形成された織物8は、織物8がそのまわりに導かれる2つの被駆動ドローイン・ローラ3、5を含む布ドローオフ装置10によって、織物サポート1上で引き出される。図1に示した織機は、単なる実施例と考えるべきである。本発明の文脈から逸脱することなく、個々の構成要素の修正および図示した配置の変更が可能である。図1に示した利用法では、織機で製造された織物8は、バッチ・ワインダ21へ導かれる。この利用法も単なる実施例にすぎない。
【0018】
図2は、図1に示した本発明による布ドローオフ装置の例示的な実施例の詳細図である。図2では、織物8は織物サポート1および転向ローラまたは転向バー2の上を通して、布ドローオフ装置10へ導かれる。図では、引き出す方向を矢印9によって示してある。本発明による布ドローオフ装置は、織物がそのまわりに導かれる第1の被駆動ドローイン・ローラ3、さらに織物がそのまわりに導かれる第2の被駆動ドローイン・ローラ5を含む。有利な変形形態では、ドローイン・ローラ3、5は互いに所定の距離をおいて配置されること、例えば図2に示すように上下に配置することができる。有利な実施例では、布ドローオフ装置は、織物をそれぞれのドローイン・ローラ3、5に押し付けるために、それぞれに加圧するためのローラ4、6も含む。布ドローオフ装置10は、例えば、それぞれがドローイン・ローラ3、5および加圧ローラ4、6を含む2つの別々の布ドローオフ装置で構成することも可能である。有利な変形形態では、当該織機にクロス・ビームが設けられていない場合、クロス・ビームの代わりに下側のドローイン・ローラ5を取り付けることができる。
【0019】
他の有利な変形形態では、加圧ローラの少なくとも1つが、それぞれのドローイン・ローラの上に実質的に垂直に配置される。例えば図2では、上側の加圧ローラ4が、上側のドローイン・ローラ3の上に実質的に垂直に配置されている。したがって上側の加圧ローラの全重量を押圧力に利用することができる。例えば図2に示すように第2のドローイン・ローラが第1のドローイン・ローラ3の下に配置されていると、第2のドローイン・ローラ5が織物に発生させる張力を用いて第1の加圧ローラ4の押圧力をさらに高めることができる。
【0020】
例示的な実施例では、ドローイン・ローラ3、5はそれぞれ、例えばドライブ・シャフト、または歯車、またはチェーン・スプロケットなど互いに連結された駆動手段に接続される。駆動手段、したがってドローイン・ローラの連結は、例えばチェーンによって接続された2つのチェーン・スプロケットによって単に機械的に、あるいは同期化によって電気的に行うことができる。駆動手段は、第1の変形形態では、ドローイン・ローラ3、5が同じ回転方向を有するように連結され、第2の変形形態では、ドローイン・ローラの回転方向が反対になるように連結される。例えば2層の織物など回転方向が反対である場合、張力をいったんは上層に、いったんは下層に加えることができる。他の有利な変形形態では、例えば2つのドローイン・ローラの少なくとも1つがスリップ連結または摩擦クラッチによってそれぞれの駆動手段に接続されていること、および/または駆動手段の少なくとも1つが摩擦クラッチを備えていることにより、駆動手段相互間の連結がリジッドにならないように設計される。
【0021】
図2に示すように、布ドローオフ装置は、第1のドローイン・ローラ3の前に配置された転向ローラまたは転向バー2を有することができる。この場合、転向ローラまたは転向バーは、例えば低摩擦および/またはつや消し処理された硬質のクロム層などのスライド・コーティングを備えているために、低い摩擦を有するように設計すると有利である。さらに、それぞれの織物部分の間での接触を回避するために、布ドローオフ装置の第1のドローイン・ローラ3と第2のドローイン・ローラ5の間に、例えばローラまたはバーまたは区分材(セクション)の形の転向装置7を設けることができる。この転向装置がない場合、通常、接触し得る箇所での織物部分の移動方向が反対になるため、接触点に望ましくない摩擦応力が生じる。第1のドローイン・ローラと第2のドローイン・ローラの間の転向装置7も、低摩擦設計のものにすると有利である。
【0022】
本発明による布ドローオフ装置を有する織機は、例えば横糸密度を正確に維持しなければならない技術を必要とする織物など、高品質の織物の製造に適している。したがって、装備された織機も2層の織物の製造に適しており、従来型の織機に比べて織物の層間のずれによる折り目の発生が少なくなる。さらに、布ドローオフ装置が既に第1の被駆動ドローイン・ローラを有しており、一方、他の通常のクロス・ビームを、織物がそのまわりに導かれる第2のドローイン・ローラに置き換える場合には、本発明による布ドローオフ装置を織機に簡単に取り付けることができ、これは特に有利である。この場合、一般に存在するクロス・ビームを、第2のドローイン・ローラ用の駆動装置として用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明による布ドローオフ装置の例示的な実施例を有する織機の概略図である。
【図2】図1に示した布ドローオフ装置の例示的な実施例の詳細図である。
【符号の説明】
【0024】
1 織物サポート
2 転向ローラ、転向バー
3、5 被駆動ドローイン・ローラ
4、6 加圧ローラ
7 転向装置
8 織物
10 布ドローオフ装置
11 杼口
12 筬
13 杼口形成装置
14 バックレスト・ローラ
15 ワープ・ビーム
21 バッチ・ワインダ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
織機において織物を引き取るための布ドローオフ装置であって、前記織物がそのまわりで導かれる第1の被駆動ドローイン・ローラを有する布ドローオフ装置において、前記織物がそのまわりで導かれる第2の被駆動ドローイン・ローラをさらに含むことを特徴とする布ドローオフ装置。
【請求項2】
前記織物を前記第1または第2のドローイン・ローラに押し付けるために、少なくとも1つの加圧ローラをさらに含む請求項1に記載の布ドローオフ装置。
【請求項3】
前記第1および第2のドローイン・ローラのそれぞれが駆動手段に接続されており、また前記第1および第2のドローイン・ローラは、互いに連結されており、且つ/または前記ドローイン・ローラが同じ回転方向を有するように設計されている請求項1または請求項2に記載の布ドローオフ装置。
【請求項4】
前記駆動手段は、前記ドローイン・ローラが反対の回転方向を有するように設計されている請求項3に記載の布ドローオフ装置。
【請求項5】
前記2つのドローイン・ローラの少なくとも1つが、摩擦クラッチによってそれぞれの前記駆動手段に接続されている請求項3または請求項4のいずれか一項に記載の布ドローオフ装置。
【請求項6】
前記第2のドローイン・ローラは、前記第1のドローイン・ローラから所定の距離をおいて配置されており、且つ/または前記ドローイン・ローラは上下に配置されており、且つ/または前記2つのドローイン・ローラのうちの1つは、クロス・ビームに代えて、織機に取り付けられている請求項1から請求項5までのいずれか一項に記載の布ドローオフ装置。
【請求項7】
前記布ドローオフ装置が、前記第1のドローイン・ローラの前に配置された転向ローラまたは転向バーを含み、とりわけ、例えば低摩擦コーティングを備えている点で低い摩擦を有するように設計された転向ローラまたは転向バーを含む請求項1から請求項6までのいずれか一項に記載の布ドローオフ装置。
【請求項8】
反対向きに移動する織物の部分が互いに接触しないように、前記第1のドローイン・ローラと前記第2のドローイン・ローラとの間に配置された転向装置をさらに含む請求項1から請求項7までのいずれか一項に記載の布ドローオフ装置。
【請求項9】
前記加圧ローラのうちの少なくとも1つが、それぞれの前記ドローイン・ローラの上に実質的に垂直に配置されている請求項2から請求項8までのいずれか一項に記載の布ドローオフ装置。
【請求項10】
請求項1から請求項9までのいずれか一項に記載の布ドローオフ装置を含む織機。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−144335(P2008−144335A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2006−357194(P2006−357194)
【出願日】平成18年12月12日(2006.12.12)
【出願人】(593125805)ズルテックス アクチェンゲゼルシャフト (19)
【Fターム(参考)】