説明

布材の製造方法

【課題】通電手段と導電線材を、より接続性良く電気的につなげることにある。
【解決手段】布材10の一部を導電線材20で構成するとともに、一部とは異なる布材10の他部を、導電線材20よりも燃焼又は溶融しやすい他の線材にて構成して、加熱手段によって、他の線材を溶融又は燃焼させて除去することにより、導電線材20の被接続部22を露出させる第1工程と、露出した被接続部22に通電手段18を電気的につなげる第2工程を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電線材と通電手段を有する布材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の布材として特許文献1及び特許文献2に記載の織物が公知である。例えば特許文献1の織物は、通電可能な導電線材と、導電線材に電力を供給可能な通電手段とを有する。導電線材は、ステンレス繊維や炭素繊維などの導電性繊維と、導電性繊維を被覆する非導電性繊維の層(綿やポリエステルなどの絶縁層)とからなる。
そして経糸と緯糸に導電線材を用いて織物を織製したのち、導電線材の被接続部に通電手段を電気的につなげる。経糸と緯糸の交差部分は、導電性繊維の間に絶縁層が介在することにより、コンデンサとしての機能を備える。
特許文献1の織物は、例えば車両用シートの表皮材として使用可能である。そして表皮材としての織物を通電状態として、交差部分(コンデンサ)の静電容量を測定することにより、シート上の乗員の有無等を検知することができる。
【0003】
ところで特許文献1の技術では、導電線材が絶縁層で被覆されている。このため通電手段の接続作業の前に、導電線材の被接続部から絶縁層を除去する必要があり、通電手段の接続作業に手間取ることがあった。
そこで特許文献2には、ヒータとして使用可能な織物の開示がある。この織物は、主構成としての非導電糸(絶縁繊維などの他の線材)と、導電糸(導電線材)にて構成される。この導電糸は、通電により発熱可能な導電線材であり、例えば金属、合金、導電性プラスチックの導線又は炭素繊維にて構成される。
そして経糸又は緯糸の一部に導電線材を用いて織物を織製したのち、導電線材の被接続部に通電手段を電気的につなげる。このとき通電手段を織物に熱溶着又は貼着することで、導電線材と通電手段を直接的につなげることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−234716号公報
【特許文献2】特開2007−227384号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら特許文献2の技術においても、織物の主構成である非導電糸が、導電線材と通電手段の接触の邪魔となるなどして、両者の接続抵抗が大きくなる(接続性が悪化する)ことがあった。
本発明は上述の点に鑑みて創案されたものであり、本発明が解決しようとする課題は、通電手段と導電線材を、より接続性良く電気的につなげることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための手段として、第1発明は、通電可能な導電線材と、導電線材に電力を供給可能な通電手段とを備える布材の製造方法である。
そして本発明では、布材の一部を導電線材で構成するとともに、一部とは異なる布材の他部を、導電線材よりも燃焼又は溶融しやすい他の線材にて構成する。そして導電線材に通電手段を電気的につなげるのであるが、この種の構成では、他の線材に極力邪魔されることなく、導電線材と通電手段を接続性良くつなげることが望まれる。
【0007】
そこで本発明では、下記2つの工程によって、導電線材と通電手段を電気的につなげることとした。
第1工程:加熱手段によって、他の線材を溶融又は燃焼させて除去することにより、導電線材の被接続部を露出させる。
第2工程:露出した被接続部に通電手段(帯状又は線状の通電手段)を電気的につなげる。
本発明によれば、他の線材を予め除去することで、他の線材に極力邪魔されることなく導電線材と通電手段を電気的につなげることができる。
【0008】
第2発明の布材の製造方法は、第1発明の布材の製造方法であって、上述の布材が複数の導電線材(通電の必要な第一の導電線材、通電の不要な第二の導電線材)を有する。
そこで本発明では、上述の第1工程において、第一の導電線材の被接続部を露出させるとともに、第二の導電線材の被接続部を加熱手段によって燃焼又は溶融させて除去することとした。
本発明によれば、比較的簡単な作業によって、第一の導電線材の被接続部だけを露出させることができる。
【0009】
第3発明の布材の製造方法は、第1発明の布材の製造方法であって、上述の第1工程において、加熱手段によって他の線材をスポット状に溶融又は燃焼して除去することにより、(布材の外形形状を極力維持しつつ)導電線材の被接続部を露出させる。
そして第2工程において、上述の通電手段を、露出した被接続部と電気的につなげつつ布材に取付ける。このとき布材の外形形状を極力維持したことから、比較的簡単に通電手段を布材に取付けることができる。
【0010】
第4発明の布材の製造方法は、第3発明の布材の製造方法であって、上述の布材が複数の導電線材(第一の導電線材、第二の導電線材)を有する。
そこで本発明では、上述の第1工程において、第一の導電線材の被接続部をスポット状に露出させるとともに、第二の導電線材の被接続部を非露出状態で維持することとした。
本発明によれば、さらに簡単な作業によって、第一の導電線材の被接続部だけを露出させることができる。
【0011】
第5発明の布材の製造方法は、第1発明〜第4発明のいずれかの布材の製造方法であって、上述の第2工程において、帯状の通電手段を、(導電線材の被接続部に電気的につなげつつ)布材に取付けることとした。
本発明では、通電手段を布材に取付けることにより、通電手段と導電線材の相対的な位置関係が好適に維持されて、両者の接続安定性が向上する。
【0012】
第6発明の布材の製造方法は、第1発明〜第5発明のいずれかの布材の製造方法であって、上述の通電手段が、通電可能な導線と、弾縮性を有する支持体を有する。
そして本発明の第2工程では、ミシンを用いて、支持体を布材に縫製して取付ける。このときミシンの上糸又は下糸の少なくとも一方に導線を用いて、導電線材の被接続部に導線を電気的につなげることとした。
本発明では、ミシンによる縫製作業(より簡単な作業)によって、支持体を布材に縫製して取付けると同時に、導電線材の被接続部と導線を電気的につなげることができる。このとき支持体の弾性力によって、ミシン糸としての導線を導電線材に押圧することにより、導電線材の被接続部に通電手段を接続性良く電気的につなげる構成とした。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る第1発明によれば、導電線材と通電手段を、より接続性良く電気的につなげることができる。また第2発明によれば、比較的簡単な作業によって、通電の必要な導電線材に通電手段をつなげることができる。また第3発明によれば、通電手段の取付け安定性が向上する。また第4発明によれば、さらに簡単な作業によって、通電の必要な導電線材に通電手段をつなげることができる。また第5発明によれば、導電線材と通電手段の接続安定性が向上する。そして第6発明によれば、より簡単な作業によって、導電線材と通電手段を接続性良く電気的につなげることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】車両用シートの斜視図である。
【図2】表皮材裏面の一部透視正面図である。
【図3】(a)〜(c)は、製造工程を示す布材の概略正面図である。
【図4】(a)及び(b)は、別の製造工程を示す布材の正面図である。
【図5】(a)は、布材の正面図であり、(b)は、布材の縦断面図である。
【図6】(a)は、別例の布材の正面図であり、(b)は、別例の布材の縦断面図である。
【図7】(a)及び(b)は、第二の実施形態に係る製造工程を示す布材の概略正面図である。
【図8】(a)及び(b)は、第二の実施形態に係る別の製造工程を示す布材の正面図である。
【図9】(a)は、第二の実施形態に係る布材の正面図であり、(b)は、布材の縦断面図である。
【図10】(a)は、第二の実施形態に係る別例の布材の正面図であり、(b)は、別例の布材の縦断面図である。
【図11】(a)は、第三の実施形態に係る布材の正面図であり、(b)は、布材の縦断面図である。
【図12】第三の実施形態に係る通電手段と導電線材の縦断面図である。
【図13】縫製回数と抵抗値の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態を、図1〜図13を参照して説明する。各図では、便宜上、一部の導電線材にのみ符号を付すことがある。
また各図には、適宜、車両用シート前方に符号F、車両用シート後方に符号B、車両用シート側方に符号L、車両用シート上方に符号UP、車両用シート下方に符号DWを付すこととする。
【0016】
<第一の実施形態>
図1の車両用シート2は、シートクッション4とシートバック6とヘッドレスト8を有する。これら部材は、各々、シート外形をなすクッション材(4P,6P,8P、図示省略)と、クッション材を被覆する表皮材(4S,6S,8S)を有する。そして各表皮材は、典型的に複数の表皮ピースを袋状に縫合して構成される。
そして本実施形態では、シートクッション4の着座側の表皮材4Sが、導電線材20を備える布材10(詳細後述)にて構成されている(図2を参照)。そしてこの布材10は、導電線材20に通電手段18を電気的につなげることで、静電容量式センサの電極又はヒータとして機能するのであるが、このとき導電線材20と通電手段18を接続性良くつなげることが望まれる。
そこで本実施形態では、後述する各工程によって、導電線材20と通電手段18を接続性良く電気的につなげることとした。
【0017】
[布材の製造方法]
本実施形態では、布材10から表皮ピース4SPを作製(前工程)したのち、下記の2工程によって通電手段18と導電線材20を電気的につなげることとした(図2及び図3を参照)。
第1工程:加熱手段によって他の線材を溶融又は燃焼させて、導電線材20の被接続部22を残しつつ布材10から他の線材(後述の布片10e)を除去する。
第2工程:通電手段18を、露出した導電線材20の被接続部22(複数又は単数)に電気的につなげる。
【0018】
[前工程]
前工程では、導電線材20と他の線材を用いて布材10を作製する。この布材10は、織物、編物、不織布及び組紐(組物)のいずれでもよい(布材10の詳細な作製方法は後述する)。
また後述するように、表皮材4Sとして布材10を用いる場合には、適宜パッド材14や裏基布16を用いることができる。以下、各構成を説明する。
【0019】
(他の線材)
他の線材は、後述の導電線材20よりも燃焼又は溶融しやすい線材であり、布材10の主構成として使用することができる。
そして他の線材は、後述の導電線材20よりも低融点であるか、又は限界酸素指数(LOI)が26未満の線材であることが望ましい。
ここで限界酸素指数(LOI)とは、絶縁繊維などの線材が燃焼を持続するために必要な最小酸素量から求めた酸素濃度の指数(O2%)である。限界酸素指数(LOI)は、「JIS K 7201 高分子材料の酸素指数燃焼試験方法」や、「JIS L 1091(1999) 8.5E−2法(酸素指数法試験)」に準拠して測定できる。
【0020】
上記他の線材(材質)として、植物系及び動物系の天然繊維、熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂からなる化学繊維及びこれらの混紡繊維を例示できる。これら繊維は、比抵抗が108Ω・cmを超える絶縁繊維である。そして絶縁繊維の線材(紡績糸、フィラメント、延伸糸又は伸縮加工糸(仮撚加工糸や座屈糸)などの線材)を布材10の構成として使用することができる。
そして一般的な天然繊維はLOIが26未満であることが多い。例えば綿のLOIは18〜20であり、羊毛のLOIは24〜25である。そして天然繊維では、綿、麻又は羊毛が風合いに優れるため、布材10の構成として用いることが好ましい。
【0021】
また一般的な化学繊維は、導電繊維よりも低融点であることが多い。そしてLOIが26未満の化学繊維として、例えばポリエステル(LOI:18〜20)や、ナイロン(LOI:20〜22)を例示できる。
そして化学繊維では、ポリエステル繊維やポリエチレン繊維(例えばポリエチレンテレフタレートのフィラメント)は耐久性と耐光性と強度に優れるため、布材10の構成として用いることが好ましい。
【0022】
(導電線材)
導電線材20は、通電可能な導電性の線材であり、典型的に比抵抗が100〜10-12Ω・cmである。「比抵抗(体積抵抗率)」とは、どのような材料が電気を通しにくいかを比較するために用いられる物性値であり、例えば「JIS K−7194」に準拠して測定することができる。この導電線材20を布材10に取付けることで、布材10自体を、静電容量式センサの電極やヒータとして用いることができる。
上述の導電線材20として、金属線(例えば金属や合金などの導電糸)、炭素繊維のフィラメント及びメッキ線材(後述)を例示できる。また導電線材20に他の線材を撚り合せる(カバリングする)こともできる。
ここで炭素繊維とは、ポリアクリロニトリル系炭素繊維(PAN系炭素繊維)やピッチ系炭素繊維である。なかでも焼成温度1000℃以上の炭素繊維(炭素化繊維、黒鉛化繊維、黒鉛繊維)は良好な電気伝導性を有するため、本実施形態の導電線材20として好適に使用できる。
【0023】
また金属線の材質として、金、銀、銅、黄銅、白金、鉄、鋼、亜鉛、錫、ニッケル、ステンレス、アルミニウム及びタングステンを例示できる。なかでもステンレス製の金属線は、耐食性及び強度に優れることから、本実施形態の導電線材20として好適に使用することができる。
ここで鋼種は特に限定しないが、SUSNo304、SUSNo.316及びSUSNo.316Lを例示できる。SUSNo304は汎用性が高く、SUSNo.316及びSUSNo.316Lはモリブテンが含まれるため耐食性に優れる。
【0024】
ここで金属線の線径は特に限定しないが、強度や柔軟性を考慮すると、φ10〜150μmの金属線を用いることが好ましい。なお線径が小さい金属線ほど、柔軟性に優れる導電線材20となる。
そして導電線材20として、他の線材の芯糸に対して、S又はZ撚方向に金属線(鞘糸)をカバリングしたカバリング糸を使用できる。すなわち線径の細い金属線(導電糸等)は、柔軟性に優れるが、引張強度が十分でない場合には、例えば芯糸にポリエステルフィラメントを用い、その鞘糸としてS及びZ撚方向にカバリングすることによって引張強度の補強ができる。
【0025】
また導電線材20は、金属線(芯部)と、樹脂層の鞘部を有することが好ましい。すなわち細径の金属線(導電糸等)は、表面積が広く、錆による影響が大きい。したがって、樹脂コーティングが行われることが好ましい。コーティングのし易さ、耐久性、接続部での除去のし易さから樹脂によるコーティングが好ましい。
樹脂としては、ウレタン、アクリル、シリコーン、ポリエステルなど特に限定はないが、ポリウレタンが耐久性から好ましい。またコーティング(樹脂層)の厚さは、ポリマー種や耐久性、用途に応じて選択することができ、例えば0.05〜500μm程度に設定することができる。
コーティング方法は特に限定しないが、ポリマー分散液中に金属線を通してポリマーを付着させ、熱をかけて固着させる方法が好ましい。またポリマー粉末やポリマー溶融物を金属線に付着させたのち、必要に応じて加熱などして固着させることもできる。そして金属線へのこれら樹脂コーティングも本実施形態の加熱手段(後述)によって溶融又は燃焼させて除去することによって導電線材20の被接続部22を露出させることができる。
【0026】
そして本実施形態の導電線材20は、他の線材よりも高融点を有する線材であるか、または限界酸素指数(LOI)が26以上の線材である。
金属や合金などの導電糸は、典型的に天然繊維や合成繊維よりも高融点である。また金属や合金などの導電糸のLOIは典型的に26以上である(例えばステンレス繊維のLOIは49.6である)。
そして炭素繊維(PAN系炭素繊維及びピッチ系炭素繊維)は、非溶融性であるとともに、そのLOIが60.0以上である。
【0027】
そしてメッキ線材は、非導電性又は導電性の線材(芯部)と、金属又は合金のメッキ部を有する。メッキ部を形成することで、非導電性の線材を導電化できる。また導電性の線材にメッキ部を形成することで、その耐久性を向上させることができる。
非導電性の線材(芯部)として、パラ系アラミド繊維(LOI:29)、メタ系アラミドPBO繊維(LOI:68)、ポリアクリレート繊維(LOI:28)、PPS繊維(LOI:34)、PEEK繊維(LOI:33)、ポリイミド繊維(LOI:36)、ガラス繊維、アルミナ繊維、炭化珪素繊維及びポロン繊維を例示できる。
【0028】
またメッキ部は、芯部表面の全体または一部に形成することができる。メッキ部の形成方法(無電解メッキや電気メッキ等)は、芯部の材質に応じて適宜選択できる。
メッキ処理に用いられる金属として、スズ(Sn)、ニッケル(Ni)、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、鉄(Fe)、鉛(Pb)、白金(Pt)、亜鉛(Zn)、クロム(Cr)、コバルト(Co)及びパラジウム(Pd)を例示できる。またメッキ処理に用いられる合金として、Ni-Sn、Cu-Ni、Cu-Sn、Cu-Sn、Cu-Zn及びFe-Niを例示できる。
【0029】
(布材の作製)
本実施形態では、布材10の一部を導電線材20で構成するとともに、布材10の他部を他の線材にて構成する(図3を参照)。
ここで布材10は、織物、編物、不織布又は組紐(組物)のいずれでもよい。例えば布材10としての織物は、平織物、斜文織物又は朱子織物等のいかなる構成の織物でもよい。また布材10としての編物は、経編、丸編又は横編等のいかなる構成の編物でもよい。そして布材10としての不織布は、いかなるウェブ形成技術、いかなるウェブ結合技術によって製造した不織布でもよい。
【0030】
そして布材10としての織物を作製する場合、緯糸(経糸)の一部又は全部を導電線材20で構成するとともに、残りの緯糸と経糸を他の線材で構成することができる。
例えば導電線材20(緯糸)を、複数又は単数の他の線材(緯糸)毎に打込むことができる。また導電線材20(経糸)を、複数又は単数の他の線材(経糸)毎に配置することもできる。
さらに上述の場合には、布材10の裏面側に、表面側(着座側)よりも多くの導電線材20を配置させることが好ましい。例えば朱子織物を用いることで、布材10裏面に導電線材20(緯糸)の大部分を配置することができる。このように布材10の表面(着座)側に導電線材20が極力露出しない構成として、摩擦や摩耗に対する導電線材20の耐久性を向上させることができる。
【0031】
また布材10としての編物を作製する場合、タテ編又はヨコ編に限定されず、構成糸の一部に導電線材20を用いるとともに、他の構成糸に他の線材を用いる。
そして組紐(経糸のみで作製された布材)では、その経糸の一部に導電線材20を用いることができる。
【0032】
また織物、編物、不織布の裏面に導電線材20を貼り付けることにより、本実施形態の布材10を作製することができる。貼付方法は特に限定しないが、刺繍や縫付け等のステッチボンド(縫着)、接着剤を用いたケミカルボンド、低融点のポリマーを用いたサーマルボンド等の手法を例示することができる。
【0033】
そして表皮材4Sとして布材10を用いる場合には、複数の導電線材20を平行に配置することが好ましい(図2を参照)。例えば布材10にヒータ機能を持たせる場合、導電線材20同士の間隔寸法(W1)を1mm〜60mmに設定することができる。
また布材10にセンサ(電極)機能を持たせる場合、導電線材20同士の間隔寸法(W1)を60mmの範囲内に設定することが望ましい。導電線材20同士の間隔寸法(W1)が60mmを超えると、布材10のセンサ機能が悪化(静電容量が低下)して電極として機能しないおそれがある。好ましくは導電線材20の間隔寸法(W1)の上限値を30mmとすることで、布材10がより好適なセンサ機能(静電容量)を備える。
【0034】
(表皮ピースの作製)
表皮材4Sは、典型的に複数の表皮ピースから構成される。本実施形態では、表皮材4Sの着座側をなす表皮ピース4SPに布材10を使用する。
そして布材10を表皮材4Sに用いる場合、シートの着座性を考慮して、布材10の裏面にバッキングを施したり(樹脂層を形成したり)、パッド材14や裏基布16を配設したりすることが好ましい(図2を参照)。
この種のパッド材14は、柔軟性を備える多孔性の部材であり、例えば含気率の高いウレタンパッドや、軟質ウレタンフォームからなるスラブウレタンフォームを用いることができる。また裏基布16は、例えば織編物や不織布(他の線材)にて構成できる。
そして布材10とパッド材14と裏基布16をこの順で積層して接合手段により一体化したのち、所定の形状にカットする(表皮ピース4SPを形成する)ことが好ましく行われる。接合手段としては、ラミネート加工(溶着)、縫着、接着などの手法を例示することができる。
【0035】
[第1工程]
第1工程では、後述の加熱手段(図示省略)を用いて、他の線材を溶融又は燃焼させて除去することにより、導電線材20の被接続部22を露出させる(図3を参照)。
このとき加熱手段の温度や出力などを適宜設定することにより、導電線材20を極力燃焼(溶融)又は断線させることなく、他の線材を燃焼(溶融)させることが望ましい。
【0036】
(加熱手段)
上述の加熱手段として、布材10と物理的に接触可能な加熱装置(パンチ機構やハサミ機構等)や、レーザなどの光学的な加熱手段を例示できる。なかでもレーザは正確な温度(出力)制御が可能であり、本実施形態の加熱手段として好適に用いることができる。
ここでレーザの種類は特に限定しないが、CO2レーザ、YAGレーザ、エキシマレーザ、UVレーザ、半導体レーザ、ファイバレーザ、LDレーザ、LD励起固体レーザを例示できる。なかでも有機物(他の線材)への吸収が高いCO2レーザが好ましい。
【0037】
またレーザは、布材10の表裏面のいずれからも照射可能である。布材10の表面側(表材としての布材側)からレーザを照射する場合には、導電線材20の位置をセンシングしつつレーザを照射することが望ましい。なかでも布材10の裏面側(パッド材14又は裏基布16側)からレーザを照射し、表面側を固定面に固定させることで、レーザの焦点を布材10に合わせやすいため好ましい。
またレーザの照射とともに不活性ガスを布材10に吹付けることもできる。不活性ガス(窒素やヘリウムなど)の存在下で第1工程を行うことで、導電線材20の燃焼(溶融)を好適に防止又は低減することができる。
【0038】
そして加熱手段の設定温度などを適宜調節することで、導電線材20を残存させつつ他の線材だけを燃焼(溶融)させたり、導電線材20を燃焼(溶融)させたりすることができる(後述の変形例を参照)。
例えば三菱炭酸ガスレーザ加工機(形式:2512H2、発信機形式名:25SRP、レーザ定格出力:1000W)を加熱手段として使用する。このときレーザ加工機の照射条件を、出力15W以上25W未満(周波数200Hz,加工速度1500mm/min)に設定することで、導電線材20を極力残存させつつ他の線材を燃焼(溶融)させることができる。また照射条件を、出力25W(周波数200Hz,加工速度500mm/min)以上に設定することで、導電線材20を燃焼(溶融)又は切断させることができる。
【0039】
そして本実施形態では、加熱手段によって他の線材だけを溶融(燃焼)させて、布材10(表皮ピース4SP)の両側に一対の切れ目を形成する(図3を参照)。
このとき他の線材は、加熱手段によって切断されるが、導電線材20は切断されることなくそのままの状態で残存する。そこで布材本体10bから布片10eを剥き取ることにより、導電線材20の側部(被接続部22)を露出させることができる。
なお布材10が、パッド材14と裏基布16を有する場合には、これらパッド材14と裏基布16を加熱手段にて同時に切断することができる。
【0040】
[第2工程]
第2工程では、露出した導電線材20の被接続部22に通電手段18を取付ける(図2、図5、図6を参照)。通電手段18によって導電線材20に電力を供給することで、布材10が、センサの電極又はヒータとして機能することができる。
ここで通電手段18は、導電線材20と電源を電気的につなげる部材であり、帯状の通電手段18(第一の通電手段18f、後述する第二の通電手段18s又は第三の通電手段18t)や、線状の通電手段18を例示することができる。
【0041】
例えば第一の通電手段18fは、帯状の支持体19aとメッキ層19bと導線19cを備える(図5を参照)。
本実施形態の支持体19aは、導線19cの配索方向に長尺な帯状(例えばシート前後方向に長尺な帯状)であり、布帛にて構成することができる。
またメッキ層19bは、電気伝導性を有する金属又は合金を有する層であり、支持体19a(被めっき体)に設けられる。メッキ層19bは、支持体19a全体に形成してもよく、支持体19aの一面(導電線材を臨む面)にのみ形成してもよい。
そして導線19cとして、金属や合金などの導電糸、メッキ線材を例示できる。なお導線19cは、支持体19a上に直線状に配置されていてもよいが、例えば周期的に揺動させるなどして波状に配置することもできる。
【0042】
なお導線19cは、導電線材20よりも比抵抗が低いことが好ましい。導線19cの電気抵抗を導電線材20よりも低くすることで、通電時における通電手段18の発熱を防止又は低減することができる。
ここで導線19cの比抵抗は、導電線材20の比抵抗によって適宜設定することができる。典型的には、導線19cの比抵抗を1.4〜15×10-8Ω・mに設定することで、通電時における通電手段18の発熱を防止又は低減することができる。
【0043】
(通電手段の配設)
図2及び図5を参照して、第一の通電手段18fを布材10の両端に各々配置したのち、被接続部22に電気的に並列につなげる。このときメッキ層19b及び導線19cを被接続部22と接触させて取付ける(かがり縫いする)。そして布材10側部に支持体19aを縫着する(取付ける)ことにより、第一の通電手段18fと導電線材20の相対的な位置関係が好適に維持されて、両者の電気的な接続安定性が向上する。
そして第一の通電手段18fに電源ケーブル9aの端子をつなげて、複数の導電線材20の電気回路を布材10に形成する。本実施形態では、一対の第一の通電手段18fによって、複数の導電線材20の並列回路を形成することにより、比較的低電圧で複数の導電線材20を通電(発熱)させることができる。
【0044】
(別例)
別例では、帯状の支持体19a(布帛)と、メッキ層19bを有する第二の通電手段18sを用いる(図6を参照)。そして第二の通電手段18sを布材10の両端に各々配置したのち、被接続部22に電気的に並列につなげる。このときメッキ層19bを被接続部22と接触させて取付ける(本縫いする)。そして布材10側部に支持体19aを縫着する(取付ける)ことにより、第二の通電手段18sと被接続部22の相対的な位置関係が好適に維持されて、両者の電気的な接続安定性が向上する。
本別例では、メッキ層19bと導電線材20がより広い接触面積で電気的につながり、導電線材20と通電手段18の接触抵抗を低減することができる。
【0045】
[変形例]
ところで車両用シート2では、乗員との接触部(例えば腰部や肩部)の導電線材20を通電する一方、その他の部分は非通電状態にしたいとの要請がある。例えば図4を参照して、表皮ピース5SP(布材10)には、上記接触部の導電線材(第一の導電線材20f)と、接触部以外の導電線材(第二の導電線材20s)がある。
そこで本変形例では、第1工程において第二の導電線材20sの被接続部22を加熱手段によって燃焼又は溶融させて除去することにより、第一の導電線材20fの被接続部22だけを露出させる構成とした。
そして第2工程において、第一の導電線材20fにのみ通電手段18を電気的につなげることで、第一の導電線材20fを通電可能とする一方、第二の導電線材20sを通電不能とすることができる。
本変形例では、必要な導電線材(第一の導電線材20f)にのみ通電することで、布材10(ヒータやセンサ)の消費電力を極力抑えることができる。
【0046】
以上説明したとおり、本実施形態では、第1工程及び第2工程(簡単な接続作業)によって、他の線材に極力邪魔されることなく導電線材20と通電手段18を電気的につなげることができる。このため本実施形態によれば、導電線材20と通電手段18を、より接続性良く電気的につなげることができる。
また布材10は、導電線材20を通電状態とすることで静電容量式センサの電極又はヒータとして機能し、車両用シート2の表皮材4Sとして好適に使用できる。
そして本実施形態では、比較的簡単に、通電の必要な第一の導電線材20fを残しつつ、通電の不要な第二の導電線材20sを除去することができる。このため本実施形態の布材10は、消費電力を極力抑えつつヒータやセンサとして機能することができる。
【0047】
<第二の実施形態>
本実施形態の布材10は、第一の実施形態の布材とほぼ同一の基本構成を備えるため、共通の構造等は対応する符号を付して詳細な説明を省略する。
[第1工程]
本実施形態では、加熱手段によって他の線材をスポット状に溶融又は燃焼して、孔部30(閉鎖状の貫通孔)から被接続部22を露出させる(図7を参照)。なお布材10が、パッド材14と裏基布16を有する場合には、これらパッド材14と裏基布16を貫通する孔部30を形成することができる。
【0048】
そして上記第1工程では、導電線材20以外の線材等をすべて溶融又は燃焼させることができる。例えばカバリングされた導電線材20や、被覆層を有する導電線材20であっても、同工程時にカバリング糸や被覆層を溶融(燃焼)除去できる(被接続部22を更に好適に露出させることができる)。
また被接続部22の両端は、布材10によって支持されているため、被接続部22が曲がったりよれたりしない(他の被接続部22と混線しにくい構成である)。
【0049】
[第2工程]
そして第2工程において、導線19c(線状の通電手段18)を、孔部30から露出した被接続部22と電気的につなげる。
例えば図9を参照して、導線19cを、孔部30を横切るように布材10に配置したのち、固定手段40によって被接続部22と固定する。なお固定手段40として導電糸やリング部材を例示することができる。
そして布材10上に導線19cを縫着する(取付ける)。このとき本実施形態では、他の線材(布材10の外形形状)が極力維持されるため、導線19cを、比較的簡単に布材10に取付けることができる。
【0050】
(別例)
別例では、布材10の両端から被接続部22を露出させる(図10を参照)。
このとき加熱手段によって他の線材をスポット状に溶融又は燃焼して、溝部32(開放状の貫通孔)から被接続部22を露出させる。そして導線19cを、溝部32を横切るように布材10に配置したのち、固定手段40によって被接続部22と固定する。
そして布材10上に導線19cを縫着する(取付ける)。このとき本別例においても、他の線材(布材10の外形形状)が極力維持されるため、導線19cを、比較的簡単に布材10に取付けることができる。
また本別例では、導線19cを、布材10の側方にかがり縫いして取付けることもできる。こうすれば布材10端部のほつれを同時に防止又は低減することができる。
【0051】
[変形例]
そして車両用シート2では、上述の通り、乗員との接触部の導電線材20を通電する一方、その他の部分は非通電状態にしたいとの要請がある。
そこで本変形例の表皮ピース5SPでは、図8を参照して、第一の導電線材20fの被接続部22をスポット状に露出させるとともに、第二の導電線材20sの被接続部を非露出状態で維持する構成とした。
このように本実施形態では、さらに簡単な作業(例えばレーザの照射と非照射の繰返し)によって、第一の導電線材20fを露出状態とするとともに、第二の導電線材20sを非露出状態とすることができる。
【0052】
<第三の実施形態>
本実施形態の布材10は、第一の実施形態等の布材とほぼ同一の基本構成を備えるため、共通の構造等は対応する符号を付して詳細な説明を省略する。
本実施形態では、支持体19aと導線19cを有する第三の通電手段18t(以下、単に通電手段18tと呼ぶ)を使用する(図11及び図12を参照)。
そして本実施形態では、ミシン(工業用ミシン又は家庭用ミシン)を用いて支持体19aを被接続部22に縫製して取付ける(縫製線SEW)。このとき導線19cをミシン糸に使用することで、導電線材20と導線19cを電気的につなげる構成とした。
【0053】
(支持体)
本実施形態の支持体19aは弾縮性を有する帯状部材である。そして縫製にあたり、支持体19aは布材10と縫製して固定して接続部が導電線材20に過大な力が掛からないようにする。また後述するように支持体19aの弾縮性によって、導電線材20に導線19cが押付けられるため、両部材の接触安定性が向上する。
そして支持体19aは、所定の圧縮特性(圧縮残留ひずみ,硬さ)を有することが好ましい。例えば本実施形態では、支持体19aの硬さを75〜2000Nに設定することができ、好ましくは100N以上、さらに好ましくは200N以上に設定する。
また支持体19aの圧縮残留ひずみを1〜9%(比較的低い値)に設定することができ、好ましくは7%以下、さらに好ましくは5%以下に設定する。このように圧縮残留ひずみの低い支持体19aを使用することで、導電線材20と導線19cの接圧を好適に高めることができる。
ここで支持体19aの硬さは、「JIS K 6400 6.」に準拠して測定できる。また圧縮残留ひずみは、「JIS K 6400 7.」に準拠して測定できる。
【0054】
支持体19aの材質や厚みは特に限定しない。支持体19a(材質)として、ゴム(天然ゴム,合成ゴム)、エラストマ、スラブウレタンなどの発泡性樹脂、嵩高の不織布及び嵩高の織編物を例示できる。なかでもスラブウレタンや天然ゴム発泡体は、適度な圧縮特性を有するとともに、布材10への縫製作業が容易である。
例えば支持体19aとして、スラブウレタン(タイプ:EMM、厚み:5.0mm)、スラブウレタン(タイプ:EL68H、厚み:4.3mm)、天然ゴム発泡体(厚み5.0〜10.0mm)を用いることができる。
【0055】
(導線)
本実施形態の導線19cは、ミシン糸として使用可能な柔軟性を有することが好ましい。例えば導線19c(材質)として、金、銀、銅、黄銅、白金、鉄、鋼、亜鉛、錫、ニッケル、ステンレス、アルミニウム及びタングステンを例示できる。なかでも銅製の導線19c(銅線)は、作製しやすく安価であることから、本実施形態の導線19cとして好適に使用することができる。
また導線19cに、上記材質のメッキ層を形成することができる。メッキ層を導線19cに形成することで、導電線材20との接触抵抗を低減できるとともに、導線19cの耐腐食性を向上させることができる。なおメッキ層の材質は特に限定しないが、比較的安価である錫や銀のメッキ層を好適に使用することができる。
また他の線材表面にメッキ層を形成してなる線材を、本実施形態の導線19cとして用いることもできる。
【0056】
導線19cの太さは特に限定しないが、例えばφ0.01mm〜φ2.0mmであることが好ましい。また本実施形態の導線19c(ミシン糸)として、単数の導線19c(単糸)や、複数の導線19cを撚り合わせた撚糸を用いることができる。例えば一般的な縫製針(ミシン針)を使用する場合、ミシン糸として、導線19c(φ0.05mm)を7〜22本撚り合わせた撚糸を用いることができる。
ここで導線19c(撚糸)の撚り数は特に限定しないが、30〜200回/mであることが好ましい。撚り数が30回/m未満であると、縫製時などに導線19cが分解する(隣り合う導線19c同士が擦れ合うことで撚糸がバラける)ことがあり、縫製作業に手間取ることがある。また撚り数が200回/mよりも多いと、導電線材20との接触面積が極端に低下する傾向にある。そして導線19c(撚糸)の撚り数を50〜150回/m(ピッチ:7〜10mm)に設定することで、導電線材20との接触面積を好適に確保するとともに、縫製時の導線19cの分解を防止又は低減できる。
【0057】
(導線の縫製方法)
導線19cの縫製方法(ステッチ形式)は特に限定しないが、本縫い、単環縫い、手縫い、二重環縫い、縁飾り縫い及び扁平縫いを例示できる。なかでも本縫いは、導線19c(比較的剛性に優れる線材)に適したステッチ形式である。
ここで本縫いでは、2種のミシン糸(上糸、下糸)を用いる。上糸とは、ミシン針に取付ける糸であり、下糸とは、上糸のループに通す糸である。これら上糸と下糸の少なくとも一方に導線19cを使用することで、本縫いによる縫製線SEWを形成することができる(図11を参照)。
また上糸と下糸のいずれか一方に導線19cを使用して、前記一方とは異なる他方に他の線材21を使用することもできる(図12を参照)。このとき導線19cは、一般的な縫製糸(ポリスエステルや綿)に比して低伸度且つ高剛性であるため、下糸として使用することが好ましい。他の線材21(材質や太さ)は特に限定しないが、強度や耐久性に優れるナイロンやポリエステル(太さ8#、20#程度)を使用することが好ましい。
なおミシンとして各種の工業用ミシンを使用することができる。例えば本縫い可能なミシンとして、1本針本縫いミシンと2本針本縫いミシンを例示できる。
【0058】
(縫製線の配設形態)
縫製線SEWの形態(本数、縫いピッチ、縫い糸間隔、縫製部の幅、縫製形状)は特に限定しない(図11及び図12を参照)。
縫製線SEWの本数は単数でもよいが、導電線材20の抵抗値を低減する観点から、複数の縫製線SEWを支持体19aに形成することが好ましい(図13を参照)。
また典型的な縫製線SEWの縫いピッチは2.0mm前後である。縫い糸間隔(縫製線同士の隙間間隔)は4mm前後であり、縫製部の幅(複数の縫製線全体の配置幅)は20mm前後である。そして本実施形態では、縫い糸間隔を調整するなどして縫製部の幅を狭めることにより(比較的簡単な作業により)、通電手段18tをコンパクト化することができる。
また縫製線SEWの縫製形状(上方視)は、直線状や蛇行状などの各種形状を取り得る。なかでも縫製線SEWを直線状とすることで、複数の縫製線SEWを支持体19a上にコンパクトに形成することができる。
【0059】
(通電手段の配設)
図11及び図12を参照して、支持体19aの中央部分(縫製部)を被接続部22に対面配置する。そして表皮ピース4SP(布材10)の末端部に支持体19a側部を縫付ける(縫製線sew)。
つぎにミシン糸(21,19c)を用いて、支持体19aの中央部分(縫製部)を、被接続部22に本縫いにて取付ける(縫製線SEW)。そして本実施形態では、下糸(被接続部22を臨む側の糸)に導線19cを使用するとともに、他の線材21を上糸に使用することで、導電線材20と導線19cを直接的に接触させることができる。このとき上糸よりも下糸のテンションを高くすることが好ましい。こうすれば上糸による下糸の張引が極力阻止される。このため下糸(導線19c)が側面視で直線的に配置することで、導電線材20との接触面積を増大させることができる。
そして本実施形態では、複数の縫製線SEW(直線状)が支持体19aにコンパクトに形成される。さらに本実施形態では、支持体19aの弾縮性によって、導電線材20に導線19cが押付けられて、導電線材20と導線19cの接触性が向上する。これにより被接続部22と通電手段18tの接続安定性を向上させることができる。
【0060】
ここで本実施形態では、一対の通電手段18tを、表皮ピース4SP(布材10)の対向配置する二つの末端部に各々配設する(図2を参照)。このとき本実施形態では、表皮ピース4SPの末端部(縫合線)よりも外側に導線19cを配置することができる(図11及び図12を参照)。こうすることで乗員に対する違和感をなくすことができるとともに、両末端部の間(比較的広い範囲)の導電線材20を通電状態とすることができる。
また通電手段18tを表皮ピース4SP(布材10)の末端部に配置したことで、乗員の着座動作などによるシートの機械的負荷が通電手段18tにかかりにくくなる(通電手段18tの耐久性が向上する)。
【0061】
さらに本実施形態では、支持体19aから引き出した下糸(導線19c)を、ECUや電源9に直接的に接続することができる(図2を参照)。
すなわち一般的には縫製の終点の直近でミシン糸を切断するが、本実施形態では、縫製が終了したのち一定の長さだけ下糸(導線19c)を支持体19aから引き出す(図11を参照)。そして引き出した複数の下糸(導線19c)を収束して束ねることで、ECUや電源9のコネクタに挿入接続することができる(通電手段18tの配設作業を比較的簡便に行うことができる)。
【0062】
以下、本実施形態を実施例に基づいて説明するが、本発明は実施例に限定されない。
[実施例1]
実施例1の導電線材として、炭素繊維(東レ社製「トレカ(登録商標)T300−1K−50A」)の芯糸と、ナイロン6の下糸巻きつけ糸(22dtex−7フィラメント)と、融着糸(110dtex−10フィラメント、東レ社製、「エルダー(登録商標)」)の上糸巻きつけ糸を用いた。
そしてカバリング糸(下糸巻きつけ糸)と融着糸(上糸巻きつけ糸)を、撚数400T/mに設定して、芯糸に対してSZ撚ダブルカバリングを行ったものを実施例1の導電線材とした。
【0063】
また布材を構成する糸として、先染め(アイボリー)ポリエチレンテレフタレート(PET)の仮撚加工糸(167dtex/2−48フィラメント)の経糸と、先染め(アイボリー)PETの仮撚加工糸(84dtex/2−36フィラメント)の第1緯糸と、先染め(アイボリー)PETの仮撚加工糸(470dtex−96フィラメント)の第2緯糸を使用した。
そして経糸を整経したのち、ジャガード織機にて第1緯糸と第2緯糸(緯糸)を交互に打ち込む(柄を表現する)中で、緯糸38本に1本の周期で導電線材を打ち込んだ。
このとき経糸8本毎に導電線材を打ち込み、経糸8本に1本の割合で導電線材を布材表面に配置した。このとき布材の柄を考慮して、経糸の浮き柄同士の間(凹部分)に表側の導電線材を配置した。
【0064】
つぎに布材に対して、公知の仕上げ加工(起毛、剪毛)を行ったのち、バッキング剤を裏面に付与して乾燥したものを実施例1の布材とした。バッキング剤として、ブチルアクリレートとアクリロニトリルから合成されたアクリル系ポリマーと難燃剤を主成分とするものを用いた。そしてバッキング剤の付与量は45g/m2とし、乾燥温度は150℃×1minとした。布材の仕上げ密度は、経/緯=141/98本/2.54cmであった。導電線材同士の間隔寸法(W1)は10mmであった。
そして布材の裏面に、ウレタンシートのパッド材(厚み5mm)と、ハーフトリコット(18dtexのナイロン6)の裏基布を配置したのち、フレームラミネーションにより一体化した(表皮ピースに相当する布材を作製した)。
【0065】
(接続例1)
本接続例では、第一の実施形態(変形例)に基づいて、導電線材と通電手段を電気的につなげることとした。
加熱手段として、三菱炭酸ガスレーザ加工機(形式:2512H2、発信機形式名:25SRP、レーザ定格出力:1000W)を使用した。
そして実施例1の布材にレーザを照射して、シート座面メイン用に、所定寸法のピースを切り出した(図3(a)を参照)。このときのレーザの照射条件は、速度500mm/分、出力30W、Duty7.7%、周波数200Hzとした。
つぎに布材ピース(裏面側)にレーザを照射して、その両側に一対の切れ目を形成した(図3(c)を参照)。レーザの照射条件は、速度1500mm/分、出力20W、Duty7.7%、周波数200Hzとした。このとき絶縁繊維であるPET糸(布材の他の線材)は、加熱手段によって溶融して切断されたが、炭素繊維(導電線材)は切断されることなくそのままの状態で残存した。
【0066】
さらに図4(b)を参照して、非通電状態の導電線材(第二の導電線材20s)を選択的に作製した。すなわち上記記載の一対の切れ目を形成したのと同じ位置をトレースしながら、特定の導電線材20に対してのみ選択的にレーザを照射して、第二の導電線材20sとした。このときのレーザの照射条件は、速度500mm/分、出力30W、Duty7.7%、周波数200Hzとした。
【0067】
そして布材ピース本体から布片を剥き取ることにより、導電線材の側部(被接続部)を露出させた。
そして布材の裏面から不織布(支持体)を縫製したのち、不織布に乗っている導電線材の被接続部の上に導線を配置し、被接続部と導線を縫製によって密着させて接続した(第二の通電手段と被接続部を電気的につなげた)。
【0068】
(接続例2)
本接続例では、第二の実施形態に基づいて、導電線材と通電手段を電気的につなげることとした。
加熱手段として、三菱炭酸ガスレーザ加工機(形式:505GT、発信機形式名:5003D、レーザ定格出力:0.2kW、ガルバノヘッド付き)を使用した。レーザの照射条件は、出力5.9W、周波数200Hz、パルス幅12μsecとした。
そして実施例1の布材にレーザを照射して、シート座面メイン用に、所定寸法のピースを切り出した(図2を参照)。
そして導電線材の位置をセンシングしつつ、レーザによってPET(他の線材)をスポット状に溶融又は燃焼して、孔部(閉鎖状の貫通孔)から炭素繊維(被接続部)を露出させた(図7を参照)。孔部の径寸法は、導電線材の配索方向の幅寸法:20mm、長さ寸法:4mmとした。そして孔部では、絶縁繊維であるPET糸(他の線材)は、加熱手段によって溶融除去されたが、炭素繊維(導電線材)は切断されることなくそのままの状態で残存した。
そして孔部から露出した被接続部の上に導線(線状の通電手段)を配置し、両者を縫製によって接続した。
【0069】
[実施例2]
実施例2の導電線材として、ステンレス(SUS304)繊維(12μm径、100フィラメント)の芯糸と、先染め(アイボリー)PETの仮撚加工糸(167dtex/2−48フィラメント)の鞘糸を用いた。ステンレス繊維として、日本電線社製の「ナスロン(登録商標)」を用いた。
そして鞘糸の撚数を200T/mに設定して、芯糸にカバリングしたものを実施例2の導電線材とした。
【0070】
また布材を構成する糸として、先染め(アイボリー)PETの仮撚加工糸(167dtex/2−48フィラメント)の経糸と、先染め(アイボリー)PETの仮撚加工糸(84dtex/2−36フィラメント)の第1緯糸と、先染め(アイボリー)PETの仮撚加工糸(470dtex−96フィラメント)の第2緯糸を使用した。
そして経糸を整経したのち、ジャガード織機にて第1緯糸と第2緯糸(緯糸)を交互に打ち込む(柄を表現する)中で、緯糸19本に1本の周期で導電線材を打ち込んだ。
そして実施例1と同様の手法にて、実施例2の布材を作製した。
【0071】
(接続例3)
本接続例では、第一の実施形態に基づいて、導電線材と通電手段を電気的につなげることとした。レーザとして、三菱炭酸ガスレーザ加工機(形式:2512H2)を用いた。
そして実施例2の布材にレーザを照射して、シート座面メイン用に、所定寸法のピースを切り出した。このときのレーザの照射条件は、速度500mm/分、出力30W、Duty7.7%、周波数200Hzとした。
そして布材ピース(裏面側)にレーザを照射して、布材ピースの片側にのみ切れ目を形成した。レーザの照射条件は、速度1500mm/分、出力15W、Duty7.7%、周波数200Hzとした。このとき絶縁繊維であるPET糸(布材の他の線材)は、加熱手段によって溶融して切断されたが、ステンレス繊維(導電線材)は切断されることなくそのままの状態で残存した。
【0072】
つぎに通電手段と被接続部を電気的につなげた。本接続例では、無電解メッキにて銅及びニッケルを全面にメッキしたPET織物(表面抵抗値:0.05Ω/sq)を第二の通電手段として用いた(図6を参照)。そして布材側と被接続部を共に縫製して、被接続部と第二の通電手段を電気的につなげた。
【0073】
[実施例3]
本実施例の布材として実施例2の布材を用いた。
そして布材の裏面に、ウレタンシートのパッド材(厚み5mm)と、ハーフトリコット(18dtexのナイロン6)の裏基布を配置したのち、フレームラミネーションにより一体化した。そして接続例3と同一の手法にて、緯糸方向の幅が100mmとなるように1対の切れ目を形成し、導電線材の側部(被接続部)を布材から露出させた。
【0074】
本実施例の通電手段として、第三の通電手段(支持体、導線)を使用した。導線として、錫メッキ銅線を使用するとともに、支持体として、ウレタンシート(イノアック社製「HR−90」、厚み:5mm、圧縮残留ひずみ:3%、硬さ:441N)を使用した。
またミシンとして、2本針本縫いミシン(三菱「LU2−4430」)を使用した。そしてミシンにミシン糸を一本のみ通して、布材の片端に支持体の側部を縫製・接合した(図11の縫製線sew)。このときミシン糸(上糸と下糸)に、#8ポリエステル縫い糸を使用した。そして支持体の中央部分を被接続部に対面配置して、支持体の下側に被接続部(導電線材)を配置した。
つぎに支持体の中央部分を被接続部に本縫いにて取付けた(図11の縫製線SEW)。このとき下糸(被接続部を臨む側の糸)に導線を使用するとともに、上糸に、#8ポリエステル縫い糸(他の線材)を使用した。そして縫い目が重ならないように、少しずつ縫製位置をズラしながら支持体を4回縫製した(4本の縫製線SEWを形成した)。
【0075】
[実施例4]
本実施例の導電線材としてPETの仮撚加工糸(330dtex−72フィラメント)を芯糸にして、ステンレス繊維(SUS316、50μm径)を鞘糸としてS撚およびZ撚に各1本づつカバリングしたカバリング糸を用いた。
なおステンレス繊維には3μm厚のウレタンコーティングが施されていた。実施例2の導電線材を本実施例のカバリング糸に変えて同様の手法にて実施例4の布材を作成した。
これを接続例3にしたがってステンレス繊維を残しながら他の線材を取り除き、通電手段と被接続部を電気的につなげた。
【0076】
[接続抵抗の測定試験]
導電線材の接続抵抗の測定器として、LCRメーター(ZM2353)を使用した。
そして実施例3に係る布材の片端に縫製した導線と反対側にある導電線材1本ずつの抵抗値(n=10)を測定した。
【0077】
[結果及び考察]
実施例1の布材では、導電線材(炭素繊維)が表材表面にほとんど現われておらず、布材自体の有する良好な意匠性と風合いを維持していた。そして実施例1では、上述の接続例1及び接続例2のいずれにおいても、導電線材の被接続部を好適に露出させることができた。
また実施例2及び4の布材でも、導電線材(ステンレス繊維)が表材表面に現われておらず、良好な意匠性を維持していた。そして実施例2及び4でも、上述の接続例3において、導電線材の被接続部を好適に露出させることができた。そして接続例3では、通電手段と被接続部の相対位置関係が良好に維持されて、布材を静電容量式センサの電極として機能させることができた。
このことから実施例1、2及び4によれば、シート特性に悪影響を極力及ぼすことなく、導電線材と通電手段を接続性良く電気的につなげられることがわかった。
【0078】
そして実施例3では、縫製回数(縫製線)の増加に従い、測定した抵抗値が減少することがわかった(図13を参照)。すなわち導電線材と導線の接続抵抗が減少していることを意味する。そして縫製回数(縫製線)を2以上に設定することで、導電線材と導線とのの接続抵抗を有効に低減させることができた。
【0079】
本実施形態の織物は、上述した実施形態に限定されるものではなく、その他各種の実施形態を取り得る。
(1)本実施形態では、表皮ピース4SP等に布材10を使用する例を説明した。本実施形態の布材は、天板メイン部、天板サイド部、かまち部、背裏部、及びヘッドレストなどの車両用シートの各種構成の表皮材(例えば4S,6S,8S)として使用することができる。また車両用シートのほか、天井部、ドア部、ハンドルなどの車両の各種構成の表皮材4Sとして使用することができる。さらに布材10は、家具用、家電用シートの表皮材として使用することができる。
また本実施形態では、表皮材4Sの着座側に布材10を用いた。これとは異なり、裏基布として布材を用いてもよい。
【0080】
(2)また本実施形態では、布材10に対して導電線材20を波状に配設した。この導電線材は、直線状やジグザグ状などの各種状態で布材に配設できる。
(3)また本実施形態では、布材10に対して、複数の導電線材20をシート幅方向に並列配置する例を説明した。複数の導電線材の配置関係は特に限定されるものではなく、例えばシート前後方向に並列配置してもよい。この場合には一対の通電手段をシート前後に配置する。
(4)また本実施形態では、導電線材の両端部に被接続部を設ける例を説明したが、被接続部の位置を限定する趣旨ではない。
(5)また接続例1では、第一の導電線材と第二の導電線材を切り分けるのに2回レーザを照射したが、レーザの照射条件(速度や出力等)を限定する趣旨ではない。例えばレーザの照射条件(速度や出力等)を布材の部位毎に変えることによって、第一の導電線材と第二の導電線材を1回のレーザ照射で切り分けることができる。
【符号の説明】
【0081】
2 車両用シート
4 シートクッション
6 シートバック
8 ヘッドレスト
10 布材
18 通電手段
20 導電線材
20f 第一の導電線材
20s 第二の導電線材
22 被接続部
30 孔部
32 溝部
40 固定手段


【特許請求の範囲】
【請求項1】
通電可能な導電線材と、前記導電線材に電力を供給可能な通電手段とを備える布材の製造方法において、
前記布材の一部を前記導電線材で構成するとともに、前記一部とは異なる前記布材の他部を、前記導電線材よりも燃焼又は溶融しやすい他の線材にて構成して、
加熱手段によって、前記他の線材を溶融又は燃焼させて除去することにより、前記導電線材の被接続部を露出させる第1工程と、
露出した前記被接続部に前記通電手段を電気的につなげる第2工程を備える布材の製造方法。
【請求項2】
前記布材が、通電の必要な第一の導電線材と、通電の不要な第二の導電線材を有し、
前記第1工程において、前記第一の導電線材の被接続部を露出させるとともに、前記第二の導電線材の被接続部を前記加熱手段によって燃焼又は溶融させて除去する請求項1に記載の布材の製造方法。
【請求項3】
前記第1工程において、前記加熱手段によって前記他の線材をスポット状に溶融又は燃焼して除去することにより、前記導電線材の被接続部を露出させる請求項1に記載の布材の製造方法。
【請求項4】
前記布材が、通電の必要な第一の導電線材と、通電の不要な第二の導電線材を有し、
前記第1工程において、前記第一の導電線材の被接続部をスポット状に露出させるとともに、前記第二の導電線材の被接続部を非露出状態で維持する請求項3に記載の布材の製造方法。
【請求項5】
前記第2工程において、帯状の前記通電手段を前記布材に取付ける請求項1〜請求項4のいずれかに記載の布材の製造方法。
【請求項6】
前記通電手段が、通電可能な導線と、弾縮性を有する支持体を有し、
前記第2工程において、ミシンを用いて、前記支持体を前記布材に縫製して取付けるに際して、前記ミシンの上糸又は下糸の少なくとも一方に前記導線を用いて、前記導電線材の被接続部に前記導線を電気的につなげる請求項1〜請求項5のいずれかに記載の布材の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−261143(P2010−261143A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−279307(P2009−279307)
【出願日】平成21年12月9日(2009.12.9)
【出願人】(000241500)トヨタ紡織株式会社 (2,945)
【Fターム(参考)】