説明

希ガス抽出方法

【課題】適切な真空引き時間を合理的に決定することによって岩石コアの間隙水に溶存している希ガスを正確に且つ効率的に抽出する。
【解決手段】地中から採取した岩石コア2を容器3に密封した後に容器3内を真空ポンプで真空引きし、容器内の圧力変化を検出し、容器3内の圧力が段階的に変化していく過程でその変化が4段階目に到達したことを確認すると同時に真空引きを停止することにより、岩石コア2周辺の空気が確実に排気されてから岩石コア2内部の希ガスが容器3内に拡散される。これによって、岩石コア2周辺の空気を十分に排気し、岩石コア2内部のHe濃度の損失を最小限に抑えることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、希ガス抽出方法に関する。さらに詳述すると、本発明は、岩石コアの間隙水に溶存している希ガスを抽出する希ガス抽出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地中から採取した岩石コアの間隙水に溶存している希ガス、例えばHeあるいはNe等を測定することにより、地下水の滞留時間を推測することができることが知られている。岩石コアの間隙水に溶存している希ガスを測定する技術としては例えば特許文献1が知られている。この特許文献1の技術は、地中から岩石コアを採取し、その岩石コアを真空容器に封入してからその真空容器を真空ポンプで真空引きし、岩石コアの間隙水に溶存している希ガスを真空容器内で十分に拡散させてから真空容器内の希ガスを測定するといった技術である。
【特許文献1】特開2003−262575号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献1の技術は、真空容器を真空引きする時間(以下、真空引き時間と記述)の目安が合理的に示されていない。このように適切な真空引き時間が決定されていない場合には岩石コアの内部から拡散される希ガスの量を正確に把握することができないといった問題が生じる。つまり、真空引き時間が短すぎる場合には真空容器内の岩石コア外部の空気を十分に取り除くことができず、真空引き時間が長すぎる場合には岩石コア内部の希ガスを損失してしまうといった問題が生じる。最適な真空引き時間を決定する方法として、地中から複数の岩石コアを採取し、それらの岩石コアのそれぞれに対して真空引き時間を変えて真空引きを行なうことで最適な真空引き時間を決定する方法も考えられるが、この方法では複数の岩石コアが必要となるため、岩石コアの採取量が限られるような場合には対応することができない。
【0004】
そこで本発明は、適切な真空引き時間を合理的に決定することによって岩石コアの間隙水に溶存している希ガスを正確に且つ効率的に抽出することができる岩石コアの希ガス抽出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
かかる目的を達成するために、本発明者等は岩石コアを密封した容器内を真空引きしていく過程で容器内の圧力と間隙水の蒸発量と間隙水中の希ガス濃度とを測定し、これらの相関関係を調べた。
【0006】
その結果、本発明者等は、真空引きによって容器内の圧力が4つの段階、つまり、真空引きによって容器内の圧力が急激に降下する第1段階、一時的に圧力の下降が収まり圧力が一定になる第2段階、再度圧力が急降下する第3段階、圧力がこれ以上降下することなく圧力が一定になる第4段階の順に変化することを知り得た。また、真空引きによって間隙水の蒸発速度が2つの段階、つまり、急激に蒸発する第1段階、緩やかに蒸発する第2段階の順に変化することを知り得た。そして、容器内の圧力が第3段階から第4段階に変化する時間と蒸発速度が第1段階から第2段階に変化する時間とが一致することを知見するに至った。さらに、容器内の圧力が第4段階に入ると間隙水中の希ガスの濃度低下が顕著になることを知見するに至った。これらの知見は岩石コアの種類を変えた場合にも同じように得ることができた。
【0007】
本発明はかかる知見に基づいて成されたものである。本発明の希ガス抽出方法は、地中から採取した岩石コアを容器に密封した後に容器内を真空引きすることによって岩石コア中の間隙水から希ガスを抽出するものであり、容器内の圧力変化を検出し、真空引きによって容器内の圧力が段階的に変化していく過程でその変化が4段階目に到達したことを契機に真空引きを停止するようにしている。ここで、岩石コアの表面や表面近傍の水であれば、岩石コアの表面や表面近傍から直接蒸発して排気され、水の蒸発とともに希ガスは気相に移ると考えられるため、岩石コアの表面や表面近傍における水と希ガスとの排気のされ方には大きな差は生じないと考えられる。このことから、真空引きが開始されてから容器内の圧力が4段階目に入るまでの過程、つまり容器内の圧力の第1〜3段階の過程においては水の蒸発は岩石コアの表面や表面近傍で起こるものが支配的であると考えられる。他方、容器内の圧力が第4段階に入ると水の蒸発は岩石コアの内部で起こるものが支配的であると考えられる。岩石コアの内部において水が気化する場合、つまりコア表面へと移動し排気される場合には、先ず岩石コアの内部から表面まで移行するという過程を経る。このとき希ガス分子は水分子に比べて小さいため、岩石の間隙という狭小な空間を通過する際、水分子よりも早く移動することが考えられる。このことから容器内の圧力が第4段階に入ると希ガスの排気される速度が水の排気される速度よりも大きくなり、間隙水の希ガス濃度が顕著に減少すると考えられる。したがって、容器内の圧力が4段階目に到達したことを確認すると同時に真空引きを停止することにより、岩石コア周辺の空気が確実に排気されてから岩石コア内部の希ガスが容器内に拡散される。
【発明の効果】
【0008】
本発明の希ガス抽出方法によれば、適切な真空引き時間、つまり岩石コア周辺の空気を十分に排気するとともに岩石コア内部の希ガス濃度の損失を最小限に抑えるような真空引き時間を合理的に決定することができるので、岩石コアの間隙水に溶存している希ガスを正確に且つ効率的に抽出することができる。これによって地下水の滞留時間をより一層正確に評価することができるので、例えば高レベル放射性廃棄物を地中に処分する場合にはその地中が処分場として適しているか否かを従来よりも正確に判断することができる。また、温泉の寿命や温泉が存在している場所などをより一層正確に把握することができる。また、岩石コアが1つであってもその岩石コアの間隙水に溶存している希ガスを正確に抽出することができるので、岩石コアの採掘量が限られるような場所、例えば透水性が低く岩石コアを採掘することが難しい場所であってもそこから岩石コアを1つだけ得ることができればそこの地下水の滞留時間を正確に評価することができる。さらに、地中から複数の岩石コアを採掘する必要がないので作業時間の短縮を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の構成を図面に示す最良の形態に基づいて詳細に説明する。
【0010】
本発明の希ガス抽出方法は、地中から採取した岩石コア2を容器3に密封した後に容器3内を真空ポンプ(図示省略)で真空引きすることによって岩石コア2中の間隙水から希ガスであるヘリウム(以下、Heと記述)を抽出するものであり、容器内の圧力変化を検出し、真空引きによって容器3内の圧力が段階的に変化していく過程でその変化が4段階目に到達したことを契機に真空引きを停止するものである。なお、本実施形態における岩石コアは、ボーリングによって地中から掘削された岩石を岩石整形装置(図示省略)を用いて容器3に封入可能なサイズで且つ一定の大きさに整形されたものを示す。
【0011】
図1に本発明の希ガス抽出方法を実施する希ガス抽出装置の一例を示す。希ガス抽出装置1は、岩石コア2の間隙水に溶存しているHeを抽出するものである。この装置1は、岩石コア2を密封する容器3と、この容器3内を真空引きする真空ポンプ(図示省略)と、容器3の上部に形成されている小孔(図示省略)に接続され、容器3と真空ポンプとを接続する真空引き用パイプ4と、この真空引き用パイプ4の途中に取り付けられ、開閉操作を行なうことによって容器3内の気密性を保持したり、その気密状態を解除して容器3内を開放したりするバルブ6と、容器3に取り付けられ、容器3内の圧力を検出する圧力計5とを備えている。岩石コア2を容器3内に密封して容器3内を真空引きする場合、先ず、岩石コア2を容器3の所定位置にセットする。そしてバルブ6を開放状態して真空ポンプによって真空引きを行なう。真空引き後はバルブ6を閉じ状態にする。これによって容器3は密封された状態となり、岩石コア2中の間隙水に溶存しているHeが容器3内に拡散され、Heが抽出可能となる。なお、容器3は気密状態が保持され且つ真空ポンプによる真空引きに耐え得るような構造になっていれば良く、具体的には特許文献1に開示されている真空容器のような構造になっていれば良い。また、本実施形態では容器3内の気密性を保持したり、その気密状態を解除したりするためにバルブ6を用いたが、真空引き用パイプ4を圧潰可能な素材で形成し、真空引き用パイプ4をクランプで強圧することによって容器3内の気密性を保持したり、その気密状態を解除したりするようにしても良い。
【0012】
本発明者等は、上記の装置1を用いて岩石コア2を密封した容器3内を真空引きしていく過程で、容器3内の圧力と、間隙水が真空ポンプによって気化し岩石コア2の外部に排気される量(以下、間隙水の蒸発量)と、間隙水中のHe濃度とを測定し、これらの相関関係を調べた。その結果、本発明者等は、岩石コア2を容器3に密封した後に容器3内を真空ポンプによって真空引きしていくと容器2内の圧力が4つの段階、つまり、真空引きによって容器2内の圧力が急激に降下する第1段階、一時的に圧力の下降が収まり圧力が一定になる第2段階、再度圧力が急降下する第3段階、圧力がこれ以上降下することなく圧力が一定になる第4段階の順に変化することを知り得た。また、真空引きによって間隙水の蒸発速度が2つの段階、つまり、急激に蒸発する第1段階、緩やかに蒸発する第2段階の順に変化することを知り得た。そして、容器3内の圧力が第3段階から第4段階に変化する時間と蒸発速度が第1段階から第2段階に変化する時間とが一致することを知見するに至った。さらに、容器3内の圧力が第4段階に入ると間隙水中のHeの濃度低下が顕著になることを知見するに至った。これらの知見は岩石コア2の種類を変えた場合にも同じように得ることができた。
【0013】
上記の知見によれば、岩石コア2の表面や表面近傍の水であれば、岩石コア2の表面や表面近傍から直接蒸発して排気され、水の蒸発とともにHeは気相に移ると考えられるため、岩石コア2の表面や表面近傍における水とHeとの排気のされ方には大きな差は生じないと考えられる。このことから、容器3内の圧力の第1〜3段階の過程においては水の蒸発は岩石コア2の表面や表面近傍で起こるものが支配的であると考えられる。他方、容器3内の圧力が第4段階に入ると水の蒸発は岩石コア2の内部で起こるものが支配的であると考えられる。岩石コア2の内部において水が気化する場合、つまり岩石コア2の表面へと移動し排気される場合には、先ず岩石コア2の内部から表面まで移行するという過程を経る。このときHe分子は水分子に比べて小さいため、岩石の間隙という狭小な空間を通過する際、水分子よりも早く移動することが考えられる。このことから容器3内の圧力が第4段階に入ると希ガスの排気される速度が水の排気される速度よりも大きくなり、間隙水のHe濃度が顕著に減少すると考えられる。したがって、容器3内の圧力が第4段階に入ったことを確認すると同時に真空引きを停止することにより、岩石コア2周辺の空気が確実に排気されてから岩石コア2内部の希ガスが容器3内に拡散される。これによって、岩石コア2周辺の空気を十分に排気し、岩石コア2内部のHe濃度の損失を最小限に抑えることができる。このように岩石コア2から希ガスを抽出するにあたって最適な真空引き時間を合理的に決定することができるので、岩石コア2の間隙水に溶存しているHeを正確に且つ効率的に抽出することができる。
【0014】
なお、上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば上述した実施形態では岩石コア2から希ガスであるHeを抽出する例を挙げて説明したが、本発明の希ガス抽出方法は、He以外の希ガス、例えばNeなどの抽出する場合についても適用可能である。
【実施例】
【0015】
図1に示す装置1を用いて互いに透水性の異なる4種類の岩石コアを対象にして、真空引き時間と、容器内の圧力と、間隙水の挙動と、岩石コアの間隙水中のHeの濃度との相関関係を明らかにするための試験を行なった。上記の4種類の岩石コアとして、北海道幌延地区の幌延泥岩のコアと、吉井砂岩のコアと、来待砂岩のコアと、和泉砂岩のコアとを用いた。これらの岩石コアについて、水やHeの岩石コアからの漏出に関与すると考えられる物性値である空隙率と透水係数を表1に示す。試験を短期間で行なうために全ての岩石コアを厚さ1cm直径5cmの円柱状に整形し、試験用の試料とした。サンプルとして採用したHCD−2孔のボーリングコアの岩種は珪質頁岩であり、深度約300mから泥水掘りされた。採取後のコアの乾燥・変質を防ぐために、採取地で密封してから実験室に移送した岩石コアを実験室内で開封し、試験に供した。なお、本実施例の試験で使用した真空ポンプは、Sato Vacuum Machine 社製SW20のロータリーポンプである。このロータリーポンプの排気量は20リットル/分、最高到達真空度は1.0×10−1Paである。また、容器3は、円筒椀状の厚さが5mm程度のステンレス製のケースと、円板状の厚さが5mm程度のステンレス製の基台とからなる。ケースは基台との間が気密になるように金属パッキン、ボルト、ナット、ばね座金などによって基台に取り付けられている。ケースの上部に形成されている小孔(図示省略)には真空引き用パイプ4が半田付け等によって接続されている。この真空引き用パイプ4は肉厚1mm程度のなまし銅管からなる。また、本実施例では真空引き後は鋼製のクランプで真空引き用パイプ4を圧潰することによって容器3を密封するようにした。
【0016】
【表1】

【0017】
先ず、真空引き時間と容器3内の圧力と間隙水の蒸発量との相関関係を明らかにするために下記の手順で試験を行なった。
【0018】
整形した岩石コアの表面の汚れをふき取り、岩石コアを110℃で48時間乾燥させた。この時点で岩石コアの重量を測定し、乾燥時重量を評価した。乾燥させた岩石コアを約半日真空下におき、十分に脱気した。さらに真空引きをしたままの状態で岩石コアを水に浸漬して半日間静置し、岩石コアの間隙を十分に水で飽和させた。
【0019】
次に岩石コアの間隙を水で飽和させた岩石コアを水から取り出し、キムタオル(登録商標)で表面の水を拭き取ったあと、この時点における岩石コアの重量を測定した。重量測定後、岩石コアを容器3に封入し、真空ポンプをつないで所定の時間真空引きした。このとき、所定の経過時間毎に容器3に取り付けられた圧力計5の値を記録した。
【0020】
所定の時間経過後、真空ポンプを止めて岩石コアを取り出し、重量を測定した。乾燥時の岩石コアの重量と真空引き後の岩石コアの重量との差から、ある時間真空引きを行った場合の間隙水の蒸発量を評価した。
【0021】
真空引き時間と、間隙水の蒸発量と、容器3内の圧力変動との関係を図2に示す。図2における横軸の「吸引時間」とは真空引き時間のことを示している。また、左縦軸は容器3内の圧力を示している。右縦軸の「蒸発した水の割合」とは水で飽和したときの間隙水の量を100%としたときの真空引きによる間隙水の蒸発量を示している。また、●のプロットは圧力、■のプロットは蒸発した水の割合を示す。図2から明らかなように、真空引き時間とともに間隙水の蒸発・排気は進行し、10分経過後には最も間隙水の蒸発量の少ない幌延地区の岩石コアでは約10%、最も間隙水の蒸発量の多い吉井砂岩コアでは約30%の間隙水が蒸発し排気されることが分かった。
【0022】
間隙水が真空引きによって蒸発し、岩石コアの外部へ排気される速度(以下、本実施例では「間隙水の蒸発速度」と記述する)は、全ての種類の岩石コアにおいて2段階に分類することができる。真空引きを開始してから約1〜3分間は図2における「蒸発した水の割合」対「吸引時間」の直線における傾きはそれ以降の傾きに比べて大きく、岩石コアから急激に水が気化し排気されていることが示唆される。一方、1〜3分以降の真空引きにおいては、最初に比べて「蒸発した水の割合」対「吸引時間」の直線の傾きは緩やかになり、間隙水の蒸発速度が緩やかになることが分かる。間隙水の蒸発速度と容器3内の圧力変動とを比較すると、圧力が下降して圧力の平衡値に達する時間と、間隙水の蒸発速度が変化する時間とはほぼ一致していることが分かる。
【0023】
さらに真空引き中の容器3内の圧力変動の経時変化についてより詳細に測定した代表的な例を図3に示す。さらに、岩石コアを入れない場合、および乾燥した岩石コアを入れた場合の圧力変動を合わせて図4に示す。図3から分かるように、岩石コアを封入して真空引きした場合の容器3の圧力変動には4つの段階α〜δがある。つまり、真空引きによって急激に容器内圧力が降下する第一段階(0〜15秒)α、一旦圧力の下降が収まり圧力が一定になる第二段階(15〜30秒)β、また圧力が急降下する第三段階(30秒〜2分)γ、圧力がこれ以上落ちなくなる第四段階(2分〜10分)δである。このような圧力の変動傾向は試験を行った全ての岩石コアにおいて観察された。他方、図4において容器3に何も入れない、あるいは乾燥した岩石コアを入れた場合の容器3内の圧力は、上述した4つの段階を経ることなく単調に減衰している。このことから、飽和He溶液を含む岩石コアを入れた場合の圧力変動における4つの段階は、岩石コア内の間隙水あるいは溶存ガスの影響によるものであると考えることができる。
【0024】
このような容器3内の圧力変動と間隙水の蒸発速度について以下その関連性を考える。圧力変動における第三段階γが終了する時間と間隙水の蒸発速度が変化する時間は、全ての岩石コアにおいてほぼ一致している。初期の比較的大きな間隙水の蒸発速度は岩石コアの性質に大きな依存性がないが、1〜3分以降の緩やかな蒸発速度は表2に示すように岩石の透水係数が大きいほど増加する傾向にある。このことから、1〜3分以降の緩やかな水の蒸発は岩石内部から水が気化、つまり水が岩石の中を移動して排気される過程を示しており、初期の比較的大きな速度での蒸発は岩石コアの表面から水が気化して排気される過程を示していると推察することができる。なお、表2は蒸発速度と透水係数の関係を示すものであり、ここでCpは透水係数(m/s)、D-1は初期の蒸発速度(%/s)、D-2は1〜3分以降の緩やかな蒸発速度(%/s)を示している。
【表2】

【0025】
このように、間隙水の蒸発速度と圧力変動をあわせて考えると、岩石コアの真空引き中に容器3内では下記のような事象が起きていると推測される。
【0026】
a)第一段階(0〜15秒):真空引きをスタートし、容器や真空引きするためのホース内部の空気をポンプが排気し急激に系の真空度が上がる。
b)第二段階(15〜30秒):岩石コアの表面に付着した水分およびポンプによる真空引きの影響が及ぶ範囲の水(岩石コアの表面に対してオープンなポアなど)が気化し、発生する水蒸気の量とポンプ排気量とのバランスがとれるため、10〜15秒程度圧力が安定する。
c)第三段階(30秒〜3分):岩石コアの表面に付着した水分およびポンプによる真空引きの影響が及ぶ範囲の水が真空引きによって失われ、気化によって発生する水蒸気の量より排気量が大きくなり、圧力は減少する。
d)第四段階(3分〜10分):容器3内の圧力は、何も入れない、あるいは乾燥した岩石コアを入れたときに到達する最小圧力にまで到達する。これは、岩石コアからの水蒸気の発生量がごくわずかとなり、乾燥した岩石コアを入れた場合とほとんど同じ状態になるためであると考えられる。また、岩石コア内部の間隙水が岩石コアの表面に移動する過程および岩石コア内部への熱輸送が水の気化つまり排気の律速になり、間隙水の蒸発速度が見かけ上遅くなるものと考えられる。
【0027】
上記の結果から分かるように、真空引きを開始した時点から間隙水は真空引きによって排気されはじめ、真空引き時間の増加に伴って排気される間隙水の量は確実に増加する。このため、岩石コア中の間隙水やそこに溶解している希ガスを散逸させないという観点では真空引き時間は短いほど良いことがわかる。他方、大気による汚染を考えると岩石コア周辺の空気の影響が確実に排除されるまで、つまり圧力がなるべく低くなるまで吸引を続けるのが良い。
【0028】
このように、希ガスの散逸と大気による汚染の双方を最小限に抑えることを考えるため、次の試験ではHe飽和溶液への浸漬によって間隙水をHe飽和溶液とした幌延地区の岩石コアを用いてその岩石コアの間隙水のHe濃度を測定し、その結果と上記の試験で得られた結果とを合わせて最適な真空引き時間の基準を示すことを試みた。
【0029】
自然に存在する岩石において、間隙水中のHe濃度が既知でありかつ濃度が均一な試料を手に入れることは困難である。そこで本試験においては、He飽和水に幌延泥岩コアを浸漬することで、人工的に間隙水がHe飽和水であるような岩石コアを作製してこれを標準試料として検証のための試験に用いることにした。
【0030】
整形した岩石コアは、表面の汚れをふき取って一旦110℃で48時間乾燥させた。この後岩石を約半日真空下におき、十分に脱気をした。さらに真空引きをしたままの状態で岩石コアを水に漬けて半日間静置し、十分に水を浸透させた。このあと、水で飽和した岩石コアをHe飽和溶液の中に入れ、10日以上静置した。He飽和溶液はHeガスを水にバブリングし、常に1気圧のHeが水と接するようにして作製した。なお、既行の研究(参考文献;喜多 治之, 岩井 孝幸, 中嶋 悟. (1989) 花崗岩および凝灰岩間隙水中のイオンの拡散係数測定. 応用地質30, 26-32)(参考文献;長谷川 琢磨, 大山 隆弘, 中田 弘太郎. (2005) 平成15年度地層処分技術調査等(地下水年代測定技術調査)報告書)によって岩石コアをHe飽和溶液に1週間浸漬することでHeは十分にコアの内部に拡散し平衡に達することが分かっている。よって、10日以上He飽和水に浸漬した岩石コア内部の間隙水は全てHe飽和水となっていると考えて良い。
【0031】
He飽和水に浸漬した岩石コアについて間隙水のHe濃度を測定するために下記の手順で試験を行なった。
【0032】
He飽和水に浸漬した試料を取り出し、表面に付着した水をふき取った。間隙水を含んだ岩石コアの重さを定量し、容器3内に静置した。
【0033】
次に岩石コアを入れた容器3を密封し、真空ポンプで容器を所定の時間真空引きした。このとき必要に応じて圧力の変化を時間ごとに記録した。所定の時間経過後、容器3の出口を鉄製のクランプで閉じて密封した。
【0034】
次に容器3を約2週間静置し、岩石コア内のHeを容器内の空間に十分に拡散させた。2週間が経過して拡散が平衡に達した試料について、希ガス質量分析器の測定に供した。
【0035】
測定後、岩石コアを取り出し、乾燥後の重量を測定して間隙水量を算出した。ここで算出した間隙水量と希ガス質量分析器で評価した希ガスの量をあわせて、間隙水中の希ガス濃度を評価した。
【0036】
岩石コアのサンプルを採取すると同時に岩石コアを浸漬したHe飽和水を銅製のなまし管に採取し、He飽和水に含まれるHe濃度を測定した。He濃度の測定はVG5400とその前処理ラインを合わせた地下水年代測定設備を用いて行った。なお、上記の「VG5400」とは、GV社から販売されている希ガスの質量分析装置の名称である。この質量分析装置は装置内に導入されたガスに含まれる希ガスの重さと存在量を測定するものである。また、上記の「前処理ライン」とは、ガスをVG5400に導入する際の、地下水やコアなどのサンプルからガスだけを取り出し、次いで、取り出されたガスのうち、測定するガスだけを抽出する、という二つの作業を行なうラインのことを示す。また、上記の「地下水年代測定設備」とは「VG5400」と「前処理ライン」とを合わせた総称である。
【0037】
吸引時間とコア中の間隙水中のHe濃度について、実験的に定量した結果を表3にまとめる。表3において、CHe‐pは評価された間隙水中のHe濃度(ccSTP/gw)、RsはHe飽和水に対する間隙水He濃度の割合(%)を示している。
【0038】
【表3】

【0039】
銅管で採取したHe飽和水の値と容器3に封入する方法で評価された岩石コアの間隙水中のHe濃度とを比較すると、吸引時間1〜3分では飽和水に対して99%程度の極めて飽和水に近い値を示すことが分かる。また、5分以内の真空引き時間であれば、真空引きによって生じるHe濃度の低下は3%程度に抑えられる。岩石コアはHeの拡散が平衡に達するまで十分にHe飽和溶液に浸漬してあるので、吸引前の間隙水中のHe濃度は銅管で採取したHeの飽和濃度と等しいと考えて良い。よって、間隙水と飽和水の濃度が等しいというこの結果は、採取した岩石コアを容器3へ封入してHeなどの希ガスを岩石コアの外部へと拡散させて抽出した後、容器3内に拡散した希ガスを評価するという手法によってある程度正確に岩石コアの間隙水中の希ガス特性を評価可能であるということを示唆している。
【0040】
表3に基づいて間隙水と飽和水とのHe濃度の差の吸引時間による変化を図5に示す。図5の縦軸は評価された間隙水と飽和水とのHe濃度の差を飽和水の濃度で標準化した結果を示している。図5から明らかなように、幌延泥岩においては吸引開始から3分経過後までは間隙水のHe濃度はほとんどHe飽和濃度と変わりがないが、3分後から徐々に差が大きくなり、5〜10分でその差は顕著に増加する。
【0041】
この試験では、容器3に封入する前の岩石コアの重量と測定後の岩石コアの重量、および乾燥させた後の岩石コアの重量を測定し、乾燥前後の重量差から間隙水量を決定している。このため、真空引きに対して水とHeが全く同じように排気されれば、実際にはHeが岩石コア中から散逸しても結果的に間隙水中He濃度はほとんど変化しない。吸引によって岩石コアから蒸発した間隙水、および間隙水中Heの割合を表4にまとめる。表4における真空引きによって蒸発した間隙水中Heの割合は数式1によって計算した。つまり、真空引きによって蒸発した水と同時に溶存したHeが全て失われたものとした。ここで、数式1のCは飽和溶液中のHe濃度(ccSTP/gw)、Cはある時間における間隙水中のHe濃度(ccSTP/g water)、Wはある時間における蒸発した間隙水の真空引き前の間隙水量に対する割合を示す。
<数1>
(真空引きによって失われた間隙水中Heの割合)=(C−C・W)/C
【0042】
【表4】

【0043】
図6は表4における真空引きによって蒸発した間隙水量と真空引きで排気されたHe量の関係を示す。図6の横軸は、表4における真空引きによって蒸発した間隙水量の真空引き前の間隙水量に対する割合(%)を示し、縦軸は真空引きによって蒸発した間隙水中He量の吸引前のHe量に対する割合(%)を示す。なお、間隙水量、He量はともに初期にコア中に存在した量で標準化している。また、図6における直線は水とHeの挙動が一致した場合の結果を表したものである。
【0044】
表4および図6によれば、真空引き時間が3分以上ではプロットした結果は上記の直線からのずれ始め、5〜10分の吸引時間で水よりも速く容器3からHeが排気されていることを示している。このことから、図5において、濃度が3分以降で減少し始めるのは幌延泥岩コアにおいては水とHeの排気され方が3分以降で顕著に乖離するためであると考えられる。
【0045】
次に、間隙水の蒸発速度とHeの排気速度の差が3分以降に顕著になる原因について上述の間隙水の蒸発速度と容器内圧力の真空引き時間による変化とをあわせて考察する。
【0046】
水の蒸発速度と容器3内の圧力の真空引き時間による変化との関係から、吸引開始から3分程度以前(幌延泥岩において)、つまり第三段階までにおいては水の蒸発は岩石コアの表面や表面近傍で起こるものが支配的であると考えられる。図7(a)(b)に示すように水とHeの蒸発のフロント面7が岩石コアの表面あるいはその近傍であれば、即ち岩石コア表面に付着している水あるいは岩石コア表面の近傍例えば岩石の掘削・成型で岩石を切断したときにその切断表面に対してオープンになっているポア、所謂ダメージゾーン・オープンポアに付着している水であれば、その部分から直接蒸発して排気されると考えられ、また、岩石コアの表面あるいはその近傍は水が圧倒的に多い中に僅かにHeが溶存しているという状態であることから水の蒸発とともにHeは気相に移ると考えられるため、Heとの排気され方に大きな差は生じにくい。なお、図7(a)(b)において、矢印Aは岩石コア表面からの水の蒸発方向を示し、矢印Bはダメージゾーン・オープンポアからの水の蒸発方向を示す。また、図7(c)において、矢印Cは岩石コア内部の水の移動方向を示し、矢印Dは岩石コア内部のHeの移動方向を示す。
【0047】
図7(c)に示すように、水とHeの蒸発のフロント面7が岩石コア内部に移った場合つまり水とHeがともに岩石コアの内部で蒸発し、岩石コア表面へと移動し排気される場合、He分子は水分子に比べて小さいため、岩石の間隙という狭小な空間を通過する際、より速く移動すると考えられる。実際にHeが空気中を拡散するときの拡散係数と水蒸気が空気中を拡散する拡散係数とを比較すると、He拡散係数は水分子の拡散係数の3倍もの大きさである(参考文献;大江 修造. (2002) 物性推算法第10章「2成分系における拡散係数の推算」, データブック出版社, 291P)。また、気体で岩石コアを透過する際にHeは希ガスであり岩石コアとほとんど相互作用しないと考えられる一方、水蒸気は岩石コアとの固気界面で電気的・化学的相互作用が生じる可能性がある。これらのことから気体のHeは水蒸気に比べて速く岩石コア中を通過することができると考えられる。このため、水およびHeの気化が支配的に起こる箇所が岩石コアの表面から内部へと移る3分以降にはHe濃度は見かけ上減少し始め、真空引き時間の経過とともに水分とHeが岩石コアのさらに内部から移動するようになる。これによって、岩石コアの外部へとHeの排気される速度は水が排気される速度よりもさらに大きくなり、間隙水のHe濃度は見かけ上さらに大きく減少する。因みに、水やHeが蒸発するためには水やHeの蒸発が起きている気体と液体との界面に岩石コアの表面やその周囲から熱エネルギーが供給されるが、この供給速度とポンプの吸引能力は共に、岩石コアから水やHeが蒸発する際の蒸発速度を決定する要因となる。
【0048】
幌延泥岩の試料においては、表3のRsの値から、吸引が3分以内であればHe濃度の減少は2%以内、5分以内であれば4%以内であり、5分以内の真空引きであれば希ガスの評価に十分に耐え得ると考えられる。
【0049】
なお、この試験では容器3内に残存する大気による汚染の影響を考慮するため、Heと同時にネオン(以下、Neと記述)を測定した。今回の試験に用いた岩石コアには平均して9.5g程度の間隙水が含まれるので、岩石コア中に存在するHeの量は標準状態において8.27×10−2(ccSTP)である。他方、大気中には体積比で18.2(ppm)のNeが含まれ、容器3の容積が196.2(ccSTP)であることから吸引前の容器3には3.57×10−3(cc)のNeが含まれていることが分かった。このため、ポンプによる排気が十分でなく、空気が残留していた場合にはNeを検出できる可能性がある。しかし、本試験において1分以上の吸引を行った岩石コアにおいては、測定装置が示すNeの出力はすべてバックグランド値以下であった。このことから、今回試験を行った条件下においては、1分以上の吸引で十分に大気の影響を除去できたと考えられる。
【0050】
以上の試験によれば、容器3内に残存する大気の影響を除外するために容器3を吸引する時間は1〜5分であることが分かった。実際の現場においては岩石の種類やコアの大きさが異なるため、圧力によって決定し、圧力が「第四段階」に入った直後に真空引きを停止すれば良いことが分かった。このように圧力をモニターして第四段階を判断することにより、未知試料の採取でも現場において最適な真空引き時間を決定することができる。また、本実施例ではHeを測定の対象の希ガスとしたが、本発明の希ガス抽出方法を用いることにより他の希ガスについての最適な真空引き時間も決定することができる。
【0051】
次に、上記の試験で確立した希ガス抽出方法を北海道幌延地区で掘削したボーリング孔がHCD−2孔の岩石コアに適用し、He(Heの濃度、He/Heの比)の深度分布特性を明らかするための試験を行なった。
【0052】
この試験では上記の試験で確立した希ガス抽出方法を1カ所のボーリングサイトに対して適用し、下記のような手順を経て希ガスの特性を評価した。
【0053】
ボーリングによって岩石コアが引き上げられたあと、その岩石コアを観察し、なるべく亀裂の少ない健全部を選んで約9cmにカットした。このとき引き上げられた岩石コアのうち、掘削深度の深い岩石コア健全部を選び、極力掘削水に曝された時間の短い岩石コアを選ぶようにした。
【0054】
カットした岩石コアの表面の掘削水・泥をキムタオルで十分に除去したあと、容器3に入れ、容器を密封して真空ポンプにつないだ。
【0055】
長さ9cmの岩石コアにおいては、約2分で真空が「第四段階」に達することが分かった。このため、2個の岩石コアをそれぞれ3及び4分間吸引した後、容器3に取り付けられた真空引き用パイプ4をクランプで閉じた。
【0056】
岩石コア封入後2ヶ月以上が経過した試料について、容器3内に抽出された希ガスの特性を評価した。
【0057】
今回測定を行った希ガスの特性はHeの絶対量(He)、Heの同位体比(He/He)、Neの絶対量である。ここでNeは空気中に体積比で18.2ppm含まれており、地下中ではほとんど発生しない。このためNeの絶対量は、希ガス抽出の過程における大気による汚染の有無や容器の健全性の指標となる値である。このため、Neの絶対量が1×10−6(ccSTP/gw)を超えるような試料については何らかの原因で空気の汚染があったものと判断し、評価から除外した。また、本試験においては深度550mにおいては既行の研究(参考文献;宮川 公雄, 木方 建造, 金内 昌直.(2004)コントロールボーリング用透水試験・採水複合試験ツールの開発(その2)-幌延地点における適用について-. 日本応用地質学会平成16年度発表会予稿集,77-80)によって開発された手法に基づいて地下水サンプルを取得することができた。このため、地下水の状態で試料を採取した場合の評価結果と岩石コアの状態で試料を採取した場合の評価結果とを比較し、原位置試験においても本試験の適用性を検討した。
【0058】
図8はHCD−2孔における評価結果を示すものであり、■のプロットはコアサンプルによる評価値を示し、●のプロットは水サンプルによる評価値を示し、▲のプロットはコアサンプル(フェルールに異常)による評価値を示す。また、図8(a)中の直線は大気平衡濃度を示し、図8(b)中の上下の直線のうち、上の直線は大気平衡値、下の直線はU、Thのα崩壊起源を示す。図8(a)から、大気平衡値のHe濃度が約5.0×10−8(ccSTP/gw)であるのに対し、今回評価されたコア間隙水中のHe濃度は2.0×10−6〜1.0×10−5(ccSTP/gw)の範囲にあり、大気平衡値の40〜200倍のHeを含んでいることが分かる。このため、これらの地下水に大気由来のHeだけでなく、地中で発生したHeが蓄積していることは明らかである。また、Heの濃度は深度方向に向かって傾向的に変化をする様子はなく、ほぼ一定、あるいは深度方向に対して微増とみなすことができる。他方、採取したコアから圧縮抽水し、抽水した水の一般水質分析の結果から、HCD−2孔においては地下水の動きは上からの浸透が支配的であることが示唆されている(参考文献;長谷川 琢磨, 大山 隆弘, 中田 弘太郎. (2005) 平成15年度地層処分技術調査等(地下水年代測定技術調査)報告書)。よってHeの濃度分布は、少なくとも300〜500m程度の深度帯においては、地下水はほとんど動いていない、あるいは深度方向に対して非常に緩やかに移動していることを示唆している。
【0059】
Heが蓄積する要因として、地下水が接する岩石中のウラン(以下、Uと記述)とトリウム(以下、Thと記述)のα崩壊によるHe発生に加え、系によっては外部He源からの流れ込みを考慮する必要がある(参考文献;Torgersen T. and Clarke W. B. (1985) Helium accumulation in groundwater, I: An evaluation of sources and the continental flux of crustal 4He in the Great Artesian Basin, Australia. Geochim Cosmochim. Acta 49, 1211-1218)。仮に外部からの流れ込みがない場合、その場でのHe蓄積速度はU及びThの濃度を用いて数式2で算出することが可能である。この数式2において、HeacはHeの蓄積速度(ccSTP/gw/y)、φは空隙率、[U]は地下水が接する岩石中のU濃度をppmで表したもの、[Th]は地下水が接する岩石中のTh濃度をppmで表したもの、λHeはHeの放出係数である。なお、岩石中ではすでにHeが飽和していると考えられるため、放出係数を1.0とみなす。
【数2】

【0060】
試験を行った幌延泥岩においてφ=35.7%、[U]=4.7ppm、[Th]=6.0ppmを数式2に代入して計算すると、Heac=2.5×10−12(ccSTP/gw/y)を得ることができる。この値を基に計算を行うと、幌延泥岩に含まれる地下水の滞留時間は200〜500万年と評価することができる。
【0061】
次に、図8(b)を参照しながらHe/He比について検討する。通常、U及びThのα崩壊によって岩石から発生するHeはHe/He比が10−8オーダーになる(参考文献;馬原 保典. (1997) 溶存希ガスを用いた地下水年代測定法の開発−溶存希ガス地下水調査法の体系化−. 電力中央研究所研究報告U97052.)。今回評価したHe/He比の値は、7〜8×10−7であり、岩石からの発生だけを考えるには高い値を示している。マントル起源のHeの場合、その同位体比は10−5程度に達することもあり、日本列島の火山ガスに含まれる上部マントル期限の同位体比は10×10−5と考えられている(参考文献;Nagao, K., Takaoka N., and Matsybayashi, O. (1981) Rare gas isotopic compositions in natural gases of Japan. Earth Planet Sci. Lett., 53, 175-188 )。石油井戸においては、マントル起源と考えられるこのような高いHe/He比をもったHeが観測されている例は多く紹介されている(参考文献;Kita, I., Nagao K., Taguchi, S., Nitta, K. and Hasegawa H. (1993) Emission of magmatic He with different 3He/4He ratios from Unzen volcanic area, Japan. Geochem. J., 27-251-259. )。今回掘削を行ったボーリングにおいても掘削時に石油が観察されており、サイト全体がマントル起源のHeの影響を受けている可能性が高い。外部からの(マントル由来の)Heの流入を考慮した場合、地下水年代は先に概算した200〜500万年という値よりも小さくなると考えられる。
【0062】
深度550mにおいてHeが脱ガスしないように注意深く取得した地下水サンプルにおける評価値と、コアの状態で取得したサンプルにおける評価値とは、図8(a)(b)に示すようにHe濃度(絶対量)、He/Heともに近い値を示した。これは本発明の希ガス抽出方法を用いて岩石の間隙水に溶存する希ガスの特性値を十分に評価可能であることを示唆する結果である。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の希ガス抽出方法を実施する希ガス抽出装置の構造の要部を示す概略縦断面図である。
【図2】真空引き時間と蒸発する水の量と容器内の圧力変動との相関関係を示すグラフであり、(a)は幌延泥岩、(b)は吉井砂岩、(c)は来待砂岩、(d)は和泉砂岩に関するグラフである。
【図3】吉井砂岩が容器に封入した場合の真空引き時間と容器内の圧力変動の関係を示すグラフである。
【図4】(a)は岩石コアを容器に入れない場合の真空引き時間と容器内の圧力変動の関係を示すグラフであり、(b)は乾燥した来待砂岩を容器に封入した場合の真空引き時間と容器内の圧力変動の関係を示すグラフである。
【図5】真空引き時間と間隙水中He濃度の飽和水He濃度からのずれの関係を示すグラフである。
【図6】蒸発した間隙水量と真空引きで排気されたHe量の関係を示すグラフである。
【図7】第2〜4段階におけるHeと水の挙動を示す概念図であり、(a)は第2段階、(b)は第3段階、(c)は第4段階を示す。
【図8】HCD−2孔におけるHeの鉛直プロファイルであり、(a)はHe(Heの絶対量)と深さの関係を示し、(b)はHe/He比と深さの関係を示す。
【符号の説明】
【0064】
1 希ガス抽出装置
2 岩石コア
3 容器
4 真空引き用パイプ
5 圧力計
6 バルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地中から採取した岩石コアを容器に密封した後に前記容器内を真空引きすることによって前記岩石コア中の間隙水から希ガスを抽出する希ガス抽出方法において、前記容器内の圧力変化を検出し、前記真空引きによって前記容器内の圧力が段階的に変化していく過程でその変化が4段階目に到達したことを契機に前記真空引きを停止することを特徴とする希ガス抽出方法。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図3】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−199033(P2007−199033A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−20924(P2006−20924)
【出願日】平成18年1月30日(2006.1.30)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2005年10月20日・21日 日本地下水学会主催の「2005年秋季講演会」において文書をもって発表
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成17年度経済産業省委託研究「地層処分技術調査等(岩盤中物質移行特性原位置評価技術高度化調査)」、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける出願
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)
【Fターム(参考)】