説明

希土類ケイ酸塩系蛍光体の製造方法

【課題】 希土類ケイ酸塩系蛍光体の新規な製造方法を提供する。
【解決手段】 1)希土類カルボン酸のアルコキシアルコール付加物にケイ素アルコキシドおよび付活剤元素の化合物を添加して混合する工程、2)得られた混合液に水分を作用させて混合液をゲル化する工程、および3)得られたゲル体を熱分解する工程、からなる組成式:LuxyGdzSiOp:aA,bLで表される蛍光体の製造法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、希土類ケイ酸塩系蛍光体の新規な製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、希土類ケイ酸塩(Ln2SiO5:A、但し、LnはY、Gdおよび/またはLuであり、AはCe、Sm、Eu、Tbおよび/またはZrである)系蛍光体は、放射線または紫外線を吸収蓄積(一次励起)したのち可視光線や赤外線などの電磁波の照射(二次励起)を受けると、可視領域に輝尽発光を示す輝尽性蛍光体であることが知られている(非特許文献1等)。そして、輝尽性蛍光体を用いる放射線画像記録再生方法において、放射線像変換パネル(イメージングプレートともいう)用の蛍光体としての利用が提案されている(特許文献1、2等)。
【0003】
放射線画像記録再生方法は、輝尽性蛍光体等の蓄積性蛍光体を含有するシート状の放射線像変換パネルに、被検体を透過したあるいは被検体から発せられた放射線を照射して被検体の放射線画像情報を一旦蓄積記録した後、パネルにレーザ光などの励起光を走査して順次発光光として放出させ、そしてこの発光光を光電的に読み取って画像信号を得ることからなる方法であり、広く実用に供されている。読み取りを終えたパネルは、残存する放射線エネルギーの消去が行われた後、次の撮影のために備えられて繰り返し使用される。
【0004】
放射線画像記録再生方法の別法として、従来の蓄積性蛍光体における放射線吸収機能とエネルギー蓄積機能とを分離して、少なくとも蓄積性蛍光体(エネルギー蓄積用蛍光体)を含有する放射線像変換パネルと、放射線を吸収して紫外乃至可視領域に発光を示す蛍光体(放射線吸収用蛍光体)を含有する蛍光スクリーンとの組合せを用いる放射線画像形成方法が提案されている(特許文献3)。この方法は、被検体を透過などした放射線をまず、該スクリーンまたはパネルの放射線吸収用蛍光体により紫外乃至可視領域の光に変換した後、その光をパネルのエネルギー蓄積用蛍光体にて放射線画像情報として蓄積記録する。次いで、このパネルに励起光を走査して発光光を放出させ、この発光光を光電的に読み取って画像信号を得るものである。
【0005】
放射線画像記録再生方法(放射線画像形成方法)において、少ない放射線量でより鮮明な画像を得るには、放射線像変換パネル(または蛍光スクリーン)の蛍光体層を高密度にして放射線に対する吸収効率を高めることが重要であり、そのためには蛍光体自体に真密度の高いものを使用することが望ましい。例えば、ルテチウムのケイ酸塩は真密度が7.4g/cm2と高い。しかし、ルテチウムを主体とするケイ酸塩系蛍光体は融点が2000℃を超え、その製造法の多くはこのような高温で原料を溶融し、これから引き上げ法により単結晶を得る方法である。従って、密度の高い上記のような希土類ケイ酸塩系蛍光体、特にルテチウム等の重希土類を含むケイ酸塩系蛍光体のより簡便な製造法が望まれている。
【0006】
また、上記希土類ケイ酸塩系蛍光体は、X線等の放射線を吸収して可視領域に瞬時発光を示すことも知られていて、放射線吸収率の高い高密度の蛍光体を必要とするシンチレータへの適用が検討されている(非特許文献2〜4)。
【0007】
非特許文献1には、Y2SiO5:(Ce,Sm)蛍光体の製造法(固相反応法)として、Y23、CeO2、Sm23、SiO2、及びフラックスとしてNH4Fを混合した後、混合物を焼成する方法が開示されている。
【0008】
特許文献1には、次式: YxLuyGdzSiO5:aA,bB(ただし、x+y+z=2、x>0、y≧0、z≧0であり、AはCeおよび/またはTbであり、BはZrおよび/またはSmであり、aは2×10-5<a<0.02であり、そしてbは2×10-5<b<0.02である)で表される輝尽性蛍光体が開示されている。この蛍光体の製造法(ゾルゲル法)として、Y23およびLu23、CeO2および/またはTbO2、Zrおよび/またはSmの酸化物または硝酸塩を希硝酸に溶解した後、溶液をアルコールとテトラエチルオルトケイ酸塩に完全に混合し、混合液に希アンモニアを添加してゲルを生成させ、次いでゲルを熱処理する(温度1400〜1600℃)方法が記載されている。
【0009】
特許文献2には、次式: Y2-xLnxSiO5・yM:zAc(ただし、LnはY、GdおよびLuからなる群より選ばれる少なくとも一種の希土類元素を表し、AcはEu、Ce、SmおよびZrからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素を表し、MはAlおよびMgからなる少なくとも一種の元素を表し、そしてx、yおよびzはそれぞれ0<x≦2、0<y≦1.0、および0<z≦0.1の数値を表す)で表される輝尽性蛍光体が開示されている。この蛍光体の製造法(固相反応法)として、Y23および/またはLn23、SiO2、およびAcの酸化物を混合し、これに更にAlF3および/またはMgF2を加えて固相撹拌した後、原料組成物を焼成する方法が記載されている。
【0010】
非特許文献4には、金属ルテチウムとイソプロパノールとの反応でルテチウムイソプロポキシドを生成させた後、これをテトラエトキシシラン、硝酸セリウムおよびイソプロパノールと混合し、水分によりゲル化し、次いで焼成してルテチウムケイ酸塩蛍光体を得る方法が開示されている。
【特許文献1】特開平2−300696号公報
【特許文献2】特許第3290497号公報
【特許文献3】特開2001−255610号公報
【非特許文献1】メイジャリンク、外、ジャーナル・オブ・フィジクス・ディ:アプライド・フィジクス(J. Phys. D: Appl. Phys.)第24巻、1991年、p.997−1002
【非特許文献2】「ヌクレア・インストルメンツ・アンド・メソッド・イン・フィジクス・リサーチA(Nuclear Instruments and Methods in Physics Research A)」第416巻、1998年、p.333
【非特許文献3】「IEEE・トランスアクションズ・オン・ヌクレア・サイエンス(IEEE Transactions on Nuclear Science)」第41巻、第4号、1994年、p.689
【非特許文献4】「IEEE・トランスアクションズ・オン・ヌクレア・サイエンス(IEEE Transactions on Nuclear Science)」第47巻、第6号、2000年、p.1781
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、希土類ケイ酸塩系蛍光体の新規な製造方法を提供することにある。
本発明は特に、放射線吸収率が高く、輝尽発光強度の高い希土類ケイ酸塩系蛍光体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、希土類ケイ酸塩、特にルテチウム等の重希土類ケイ酸塩系蛍光体の製造法について検討を重ねた結果、従来は非常に高温での溶融又は焼成工程を経なければ、優れた発光特性を得ることが困難であった希土類ケイ酸塩系蛍光体を、比較的低温で簡便に製造できること、また従来、低温プロセスとして知られるアルコキシド化合物を用いるゾルゲル法に対してもより簡便な工程であって、そして得られた蛍光体は化学的に安定で、耐湿性が高く、かつ優れた発光特性を示すことを見い出し、本発明に到達したものである。
【0013】
従って、本発明は、下記基本組成式(I)を有する蛍光体を製造するための少なくとも下記の工程からなる方法にある。
【0014】
基本組成式(I):

LuxyGdzSiOp:aA,bL …(I)
【0015】
[AはCe、Pr、Nd、Sm、Eu、Tb、Dy、Ho、Er、Tm及びYbからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素を表し;Lは、Aと同一であることなく、Zr、Nb、Hf、Ta、Sn、Sm、Tm及びYbからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素を表わし;x、yおよびzはそれぞれ、x≧0、y≧0、z≧0であって、かつ1.5≦x+y+z≦2.2を満足する数値を表し;pは化合物の電荷を0にするに足りる数値を表し;そしてaは2×10-5<a<2×10-2の範囲内の数値を表し、bは0≦b<1×10-2の範囲内の数値を表す]
を有する蛍光体を製造するための少なくとも下記の工程からなる方法:
【0016】
1)下記式(II):

M(R2−COO)3・(R1O(CH2nOH)p …(II)
【0017】
[MはLu、YおよびGdからなる群より選ばれる少なくとも一種の希土類元素を表し;R1は炭素原子数1〜4の脂肪族炭化水素基または炭素原子数3〜6の置換脂肪族炭化水素基を表し;R2は水素または炭素原子数1〜4の置換又は未置換の脂肪族炭化水素基を表し;nは2または3を表し;そしてpは0.5〜3の範囲の数値を表わす]
で表される希土類カルボン酸塩のアルコキシアルコール付加物に、下記式(III):
【0018】

Si(OR34 …(III)

[ここで、R3は炭素原子数1〜4の脂肪族炭化水素基を表す]
【0019】
で表されるケイ素アルコキシド、および上記A元素の化合物あるいはA元素の化合物とL元素の化合物とを組合せて添加して混合する工程、
2)得られた混合液に水分を作用させてゲル化する工程、および
3)得られたゲル体を熱分解する工程。
【発明の効果】
【0020】
本発明の方法によれば、希土類カルボン酸塩のアルコキシアルコール付加物を原料としたゾルゲル反応により得られるゲル体を熱分解することによって、希土類ケイ酸塩系蛍光体を従来よりも低い温度で、容易に製造することができる。また、得られた蛍光体、特にルテチウムを含有する蛍光体は、高い放射線吸収率および高い輝尽発光強度を示し、かつ化学的に安定で、耐湿性が高いものである。従って、本発明に係る蛍光体は、放射線画像記録再生方法および放射線画像形成方法用の輝尽性蛍光体として、またシンチレータや放射線増感スクリーンを用いる放射線写真撮影法用の蛍光体として有利に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明の蛍光体の製造方法において、式(II)で表される希土類カルボン酸塩のアルコキシアルコール付加物は、希土類酢酸塩のメトキシエタノール付加物及び/又はエトキシエタノール付加物であることが好ましい。また、式(III)におけるR2はエチル基であることが好ましい。
【0022】
本発明の蛍光体の製造方法により得られる蛍光体は、下記基本組成式(IV)で表される蛍光体であることが好ましい。
【0023】
さらに、下記式(IV)において、付活剤A’は共付活剤を伴う(A",A'")の組合せであることが好ましく、ここで、A"はCeおよび/またはSmであり、A'"はTbおよび/またはZrである。このとき、A"は可視発光のための発光中心であり、そしてA'"は輝尽発光のための共付活剤である。

LuxSiOp:aA’ …(IV)
【0024】
[A’はCe、Sm、TbおよびZrからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素を表し;xは1.5≦x≦2.2の範囲内の数値を表し;pは化合物の電荷を0にするに足りる数値を表し;そしてaは2×10-5<a<6×10-2の範囲内の数値を表す]
【0025】
本発明の蛍光体の製造方法は、下記工程からなることが好ましい:
1)ルテチウム、イットリウム及び/又はガドリニウムのエトキシエトキシドに、テトラエトキシシランおよび上記A元素の化合物を添加して混合する工程、
2)得られた混合液に水分を作用させてゲル化する工程、および
3)得られたゲル体を熱分解する工程。
【0026】
以下に、本発明の蛍光体の製造方法について詳細に説明する。
(1)混合工程
希土類カルボン酸塩のアルコキシアルコール付加物に、ケイ素アルコキシドおよび付活剤成分である化合物を添加して混合する。
【0027】
希土類カルボン酸塩のアルコキシアルコール付加物としては、下記式(II)で表される化合物が用いられる。
【0028】

M(R2−COO)3・(R1O(CH2nOH)p …(II)
【0029】
[MはLu、YおよびGdからなる群より選ばれる少なくとも一種の希土類元素を表し;R1は炭素数1〜4の脂肪族炭化水素基または炭素数3〜6の置換脂肪族炭化水素基を表し;R2は水素または炭素数1〜4の置換又は未置換の脂肪族炭化水素基を表し;nは2または3を表し;そしてpは0.5〜3の範囲の数値を表わす]
【0030】
好ましい希土類カルボン酸塩のアルコキシアルコール付加物としては、ルテチウム、イットリウム及び/又はガドリニウムの酢酸塩のエトキシメトキシアルコール付加物及びエトキシエタノール付加物を挙げることができる。特に好ましくは、ルテチウム、イットリウム及び/又はガドリニウムのエトキシエタノール付加物である。目的とする蛍光体の組成に応じて、単独もしくは二種以上を組み合わせて使用される。なお、蛍光体母体を構成する希土類元素は、ルテチウムもしくはルテチウムとイットリウムの組合せであることが好ましい。
【0031】
これらの希土類酢酸塩のアルコキシアルコール付加物は、下記の方法により合成することができる。すなわち、希土類カルボン酸塩とアルコキシアルコールとを一緒に加熱還流しながら、その一部を留去することによって合成することができる。この方法によれば、一ポットの簡易な工程で高純度の希土類カルボン酸塩のアルコキシアルコール附加物を高収率で得ることができる。
【0032】
希土類カルボン酸のアルコキシアルコール付加物は粘稠な液状物質であるので、混合に先立ってメトキシエタノール、エトキシエタノール、アセトニトリルなどの溶媒に溶解した溶液とすることが好ましい。あるいは、希土類カルボン酸塩のアルコキシアルコール付加物を蛍光体製造の前段階として合成容器の中で調製し、これを用いて引き続き合成を行うこともできる。
【0033】
ケイ素アルコキシドとしては、下記式(III)の化合物が用いられる。
【0034】

Si(OR34 …(III)
【0035】
[ここで、R3は炭素原子数1〜4の脂肪族炭化水素基を表す]
【0036】
好ましいケイ素アルコキシド(アルコキシシラン)としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラ−n−プロポキシシラン、およびテトライソブトキシシラン等を挙げることができる。なかでもテトラエトキシシランが好ましく使用される。
【0037】
これらのケイ素アルコキシドは一般に、上記希土類アルコキシアルコキシド中の希土類元素に対して45乃至67モル%の範囲で添加される。
【0038】
付活剤化合物は、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Ybおよび/またはZrの可溶性塩であり、硝酸塩または酢酸塩であることが好ましい。これら元素のアルコキシド化合物(例えば、エトキシ化合物、イソプロポキシ化合物)であってもよい。蛍光体の付活剤組成に応じて、一種もしくは二種以上の組合せで用いられる。好ましい付活剤元素は、Ce、CeとSmもしくはCeとZrの組合せである。
【0039】
これらの付活剤化合物は付活剤元素に換算して、蛍光体母体成分である上記希土類カルボン酸塩のアルコキシアルコール付加物中の希土類元素(Lu、Y、Gd)に対して、0.001乃至3モル%の範囲、好ましくは0.03乃至0.3モル%の範囲で添加される。
【0040】
上記のケイ素アルコキシドおよび付活剤化合物は、イソプロパノールなどの溶媒に溶解した後、希土類カルボン酸のアルコキシアルコール付加物の溶液に添加混合することが好ましい。また、添加混合後、混合溶液を更に加熱して溶液の均一性を高めることが好ましい。
【0041】
(2)ゲル化工程
上記の混合液に水分を作用させて混合液をゲル化する。
混合液のゲル化は、混合液に水混和性溶媒で希釈した水を加える、あるいは適度な湿度の大気にさらすなどにより行なうことができる。ゲル化に先立って、過剰の溶媒を留去することが好ましい。この際、残留溶媒の量は希土類カルボン酸塩のアルコキシアルコール付加物に対する容積比で5倍以下、好ましくは等倍以下である。
【0042】
水混和性溶媒に添加した水を加える場合には、水の量は希土類カルボン酸塩のアルコキシアルコール付加物に対して0.1倍モルから5倍モルの範囲、好ましくは0.5倍モルから4倍モルの範囲である。添加に際しては、液を強く攪拌しながら添加することが好ましい。
【0043】
混合液を湿度を有する大気にさらすことでゲル化を行なわせる場合には、混合液を薄い液層として広げ、これを適度な湿度に調整した雰囲気に一定時間さらすことで行なう方法などが利用できる。
【0044】
(3)熱分解工程
ゲル化により得られたゲル体を熱分解する。
熱分解は、ゲル体をアルミナるつぼ、白金るつぼ、石英ボートなどの耐熱性容器に充填し、これを電気炉の炉芯に入れて焼成することにより行う。焼成温度は、一般に800乃至1700℃の範囲にある。焼成時間は、充填量、焼成温度および炉からの取出し温度などによっても異なるが、一般には1乃至18時間が適当であり、好ましくは2乃至8時間である。焼成雰囲気は、大気雰囲気、窒素雰囲気、カーボンが存在する雰囲気、水素と水蒸気が共存する雰囲気、あるいは一酸化炭素/二酸化炭素が共存する雰囲気を使用することができる。焼成は一段階で行ってもよいが、温度と雰囲気を調節した多段階で行うこともできる。
【0045】
焼成に先立って、ゲル体を粉砕して粒子状にしてもよい。また、焼成をより効率良く行うために、フラックスとして少量のフッ化物(例えば、NH4F、AlF3、MgF2)をゲル体に添加してもよい。
【0046】
焼成過程で、ゲル体中の有機成分の熱分解および/または脱水により、ゲル体は複合酸化物であるケイ酸塩化合物に変換される。
【0047】
得られた焼成物には、必要に応じて更に粉砕、篩分けなど蛍光体の製造における各種の一般的な操作を行ってもよい。さらに、発光特性を改善する目的で、これら操作の後に粒子間の燒結が起きない範囲の温度で焼成物にアニール処理を行ってもよい。
【0048】
このようにして、前記基本組成式(I)を有する希土類ケイ酸塩系蛍光体が得られる。本発明において蛍光体は、放射線吸収率および発光強度の点から、蛍光体母体成分として主にルテチウムを含有していることが好ましく、特には好ましくは下記基本組成式(IV)を有するものである。
【0049】

LuxSiOp:aA’,bL’ …(IV)
【0050】
[ここで、A’はCe及び/又はTbを表わし;L’は、A’と同一であることなく、Zr、Hf、Sm及びYbからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素を表し;xは1.5≦x≦2.2の範囲内の数値を表し;pは化合物の電荷を0にするに足りる数値を表し;そしてaは2×10-5<a<2×10-2の範囲内の数値を表し、bは0≦b<1×10-2の範囲内の数値を表す]
【0051】
本発明において、得られた蛍光体の結晶構造はX線回折法により同定することができる。例えば、主成分としてルテチウムを含有するケイ酸塩系蛍光体は、JCPDSカード番号No.410239の回折パターンを示す。あるいは、本発明の蛍光体は結晶構造とアモルファス構造との複合構造であってもよい。
【0052】
蛍光体の平均粒子径は、一般には0.05μm以上、20μm以下であり、好ましくは0.5μm以上、10μm以下である。蛍光体粒子は、単一の結晶から構成することも可能であるし、あるいはより微細な10nm以上、500nm以下の粒子径の結晶子からなる多結晶もしくは微結晶の凝集した二次粒子から構成することもできる。
【0053】
このようにして本発明の方法に従って製造した希土類ケイ酸塩系蛍光体は、紫外光から放射線に至る広い範囲の電磁波の照射により輝尽発光を示し、公知の各種の用途に使用することができるが、特に前述した放射線像変換パネルを用いる放射線画像記録再生方法、並びに放射線像変換パネルと蛍光スクリーンとの組合せ(パネルとスクリーンとが一体化されていてもよい)を用いる放射線画像形成方法に有利に使用することができる。
【0054】
以下に、本発明に係る蛍光体を含有する放射線像変換パネルについて述べる。
本発明に係る輝尽性蛍光体に放射線を吸収蓄積させる放射線像変換パネルは、少なくとも輝尽性蛍光体層を有する。該蛍光体層は自立性膜の形態でもよいが、通常は支持体上に付設される。さらに、蛍光体層の表面にこれに隣接して保護層を付設するのが好ましい。また、画像の鮮鋭度を向上させる為に、蛍光体層および/または保護層は、励起光を吸収し、輝尽発光光は吸収しないような着色剤を含んでいてもよいし、あるいはこの着色剤を含む独立した中間層が設けられていてもよい。その他必要に応じて、これらの他に光反射層、密着改良層その他の中間層を設置してもよい。
【0055】
放射線像変換パネルの別な形態では、画像様の放射線を吸収して紫外乃至可視領域の瞬時発光をする蛍光体を含有する放射線吸収性蛍光体層とこれに隣接し、該放射線吸収性蛍光体層から放出される発光光を吸収して輝尽発光を示す本発明に係る輝尽性蛍光体を含有する蓄積性蛍光体層とが一対として形成される。その他、支持体、保護層、その他の中間層は前記形態の放射線像変換パネルと同様である。
【0056】
(支持体)
本発明の放射線記録材料に用いられる支持体は、平面性のよい材料であれば目的に応じて任意の材料を用いることが可能である。例えば高分子シートあるいはアルミニウム等の金属板、セラミック板、ガラス板等を挙げることができる。支持体は透明であってもよく、あるいは支持体に、励起光もしくは輝尽発光光を反射させるための光反射性材料(例、アルミナ粒子、二酸化チタン粒子、硫酸バリウム粒子)を充填してもよく、あるいは空隙を設けてもよい。または、支持体に励起光もしくは輝尽発光光を吸収させるため光吸収性材料(例、カーボンブラック)を充填してもよい。
【0057】
高分子シートの好ましい例としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、アラミド樹脂、ポリイミド樹脂などの各種樹脂材料を挙げることができる。
【0058】
これらの好ましい厚みは50μmから1mmであり、更に好ましくは120から350μmである。この高分子支持体は、炭素繊維シートやアルミニウムシートなどの基板に付設されていてもよい。
【0059】
(保護層)
蛍光体層の表面には、蛍光体層を物理的および化学的に保護するために透明な保護層を設けてもよい。保護層は、励起光の入射や輝尽発光光の出射に殆ど影響を与えないように、光吸収を実質的に示さないことが望ましく、また外部から与えられる物理的衝撃や化学的影響から放射線像変換パネルを充分に保護することができるように、化学的に安定でかつ高い物理的強度を持つことが望ましい。保護層としては、セルロース誘導体、ポリメチルメタクリレート、有機溶媒可溶性フッ素系樹脂などのような透明な有機高分子物質を適当な溶媒に溶解させて調製した溶液を蛍光体層の上に塗布することで形成されたもの、あるいはポリエチレンテレフタレートなどの有機高分子フィルムや透明なガラス板などの保護層形成用シートを別に形成して蛍光体層の表面に適当な接着剤を用いて設けたもの、あるいは無機化合物を蒸着などによって蛍光体層上に成膜したものなどが用いられる。また、保護層中にはパーフルオロオレフィン樹脂粉末、シリコーン樹脂粉末等の滑り剤、およびポリイソシアネート等の架橋剤など各種の添加剤が分散含有されていてもよい。
【0060】
形成される放射線画像の鮮鋭度を高めるためには、保護層を一定範囲で光散乱性とすることが望ましい。一般に保護層の光散乱長は、輝尽性蛍光体からの発光光の主発光波長において5乃至80μmの範囲にあり、好ましくは10乃至70μmの範囲にある。光散乱性の保護層は、上記保護層用材料中に光散乱性微粒子を分散、含有させることによって形成することができる。光散乱性微粒子としては、光屈折率が1.6以上であり、粒子径が0.1乃至1.0μmの範囲にあるのが好ましい。特に好ましくは光屈折率は1.9以上であり、粒子径は0.1乃至0.5μmの範囲である。好適な光散乱性微粒子の例としては、ベンゾグアナミン樹脂粒子、メラミンホルムアルデヒド縮合樹脂粒子、酸化亜鉛、硫化亜鉛、酸化チタンおよび炭酸鉛の微粒子を挙げることができる。
【0061】
保護層の表面にはさらに、保護層の耐汚染性を高めるためにフッ素樹脂塗布層を設けてもよい。フッ素樹脂塗布層は、フッ素樹脂を有機溶媒に溶解(または分散)させて調製したフッ素樹脂溶液を保護層の表面に塗布し、乾燥することにより形成することができる。フッ素樹脂は単独で使用してもよいが、通常はフッ素樹脂と膜形成性の高い樹脂との混合物として使用する。また、ポリシロキサン骨格を持つオリゴマーあるいはパーフルオロアルキル基を持つオリゴマーを併用することもできる。フッ素樹脂塗布層には、干渉むらを低減させて更に放射線画像の画質を向上させるために、微粒子フィラーを充填することもできる。フッ素樹脂塗布層の層厚は通常は0.5μm乃至20μmの範囲にある。フッ素樹脂塗布層の形成に際しては、架橋剤、硬膜剤、黄変防止剤などのような添加成分を用いることができる。特に架橋剤の添加は、フッ素樹脂塗布層の耐久性の向上に有利である。
【0062】
放射線像変換パネルのカセッテへの挿入と引き出し時の取り扱い性を高めるために、保護層またはフッ素樹脂塗布層はその最大摩擦係数が0.18以下とすることも好ましい。特に好ましくは0.12以下である。また、表面の平均粗さが0.05乃至0.5μmの範囲にあることが好ましく、特に好ましくは0.1乃至0.3μmの範囲である。例えば、保護層またはフッ素樹脂塗布層の表面に、エンボス処理を行うことなどにより微小な凹凸を設けてもよい。
【0063】
放射線像変換パネルの帯電による放電によるスタチックマークの発生を防ぐ為に保護層中にあるいはこれと独立した層の中に帯電防止材料を含有させることも好ましい。また、放射線撮影に際してはカセッテに記録材料を挿入する前に除電することが好ましい。
【0064】
保護層の層厚は、一般には約1μmから20μmの範囲にあり、好ましくは3から15μmの範囲である。
【0065】
(蛍光体層)
本発明になる蛍光体層は、通常は結合剤中に蛍光体粒子を分散されてなる層であるが、これ以外に結合剤を含まず蛍光体粒子相互の付着力で形成された膜、あるいはこうした膜中の蛍光体粒子の間隙に後から高分子材料を含浸せしめた膜の形態であってもよい。以下に結合剤で分散されてなる蛍光体層の形成方法を具体的に示す。
【0066】
まず、蛍光体粒子と結合剤とを溶剤に加え、これを十分に混合して、結合剤溶液中に放射線吸収蛍光体粒子が均一に分散した塗布液を調製する。蛍光体粒子を分散する結合剤については様々な種類の樹脂材料が知られており、本発明においても、それらの公知の樹脂を中心とした任意の樹脂材料から適宜選択して用いることができる。これらの例としては、アラビアゴム、デキストラン、ポリビニル酢酸、ヒドロキシエチルセルロース、ポリメチルメタクリレート、ポリブチルメタクリレート、ポリウレタン、ポリビニルアルコールなどが挙げられるがこれに限定されるものではない。塗布液における結合剤と蛍光体との混合比は、目的とする放射線像変換パネルの特性、蛍光体の種類などによって異なるが、一般には結合剤と蛍光体との混合比率(結合剤/蛍光体)は、1から0.01(重量比)の範囲から選ばれる。なお、塗布液にはさらに、塗布液中における蛍光体の分散性を向上させるための分散剤、形成後の蛍光体層中における結合剤と蛍光体との間の結合力を向上させるための可塑剤、蛍光体層の変色を防止するための黄変防止剤、硬化剤、架橋剤など各種の添加剤が混合されていてもよい。
【0067】
このようにして調製された塗布液を次に、支持体に均一に塗布することにより塗膜を形成する。塗布操作は、通常の塗布手段、たとえばドクターブレード、ロールコータ、ナイフコータなどを用いる方法により行うことができる。この塗膜を乾燥して、支持体上への蛍光体層の形成を完了する。なお、蛍光体層は、必ずしも、支持体上に塗布液を直接塗布して形成する必要はなく、例えば、別にガラス板、金属板、プラスチックシートなどの仮支持体上に塗布液を塗布し乾燥することにより蛍光体層を形成した後、これを支持体上に押圧するか、あるいは接着剤を用いるなどして支持体上に蛍光体層を接合する方法を利用してもよい。
【0068】
蛍光体層は単一層として付設される外、必要に応じて複数の層から形成されてもよい。例えば蛍光体層中での光の散乱を制御する目的で同一組成で粒子径の異なる二種類の蛍光体層を設置することも好ましい。また、放射線吸収性蛍光体層と蓄積性蛍光体層とを分離し、前者からの紫外線発光を後者の蓄積性蛍光体層に入射させる形態の放射線像変換パネルの場合にも、放射線吸収性蛍光体層と蓄積性蛍光体層とを、上記の方法により順次付設することができる。
【0069】
本発明に係る輝尽性蛍光層の厚みは、放射線像変換パネルの構成により異なる。輝尽性蛍光層で放射線を吸収する一般的な形態では、蛍光体層の厚みは、一般には50から500μmの範囲にあり、好ましくは100乃至300μmの範囲にある。放射線吸収性蛍光体層と蓄積性蛍光体層とを設ける形態においては該蓄積性蛍光層の厚みは1から50μm、好ましくは5から20μmが好ましい。
【0070】
(瞬時発光蛍光体)
本発明で放射線吸収性蛍光体層と蓄積性蛍光体層とを分離し、前者からの紫外線発光を後者の蓄積性蛍光体層に入射させる形態の放射線像変換パネルに於いて、前者の放射線吸収性蛍光体層に用いられる蛍光体は、母体の主成分として、原子番号が37以上の元素を含む蛍光体であり且つ、本発明になる蛍光体よりも高い真密度を有す瞬時発光の蛍光体である。好ましい例としては、LnTaO4:(Nb,Gd,Tm)系、LuAlO3:Ce、Lu23:Gdなどを挙げることができる。瞬時発光蛍光体層の厚みは、一般には50から500μmの範囲にあり、好ましくは100から300μmの範囲にある。
【0071】
マッチングの点から、瞬時発光性蛍光体の発光波長領域と輝尽性蛍光体の一次励起波長領域とは70%以上重なっていることが好ましい。この規定において各波長領域は、発光スペクトルまたは励起スペクトルのピーク値の10%以上の値を有する波長範囲を意味する。
【0072】
本発明に係る蛍光体層は、蛍光体とこれを分散状態で含有支持する結合剤とからなるのものばかりでなく、結合剤を含まないで蛍光体の凝集体のみから構成されるもの、あるいは蛍光体の凝集体の間隙に高分子物質が含浸されている蛍光体層などでもよい。
【0073】
(隔壁)
本発明の放射線像変換パネルにおいては、蓄積性蛍光体層および/または放射線吸収性蛍光体層には必要に応じて、光の散乱を抑制し画像の鮮鋭度を高める為に隔壁を設けることもできる。隔壁は蛍光体層を平面方向に沿って細分区画するように設置される。蛍光体層は層厚が比較的厚いので、隔壁を設けることにより発光光の拡散を有効に防止することができる。隔壁は縞状、格子状など任意の形状で設けることができ、あるいは円形、六角形など任意の形状の放射線吸収蛍光体が充填された領域を隔壁が囲むように形成されてもよい。また、隔壁の頂部と底部はともに蛍光体層の両表面に露出していてもよいし、あるいは頂部と底部の両方あるいはいずれか一方が蛍光体層に埋没していてもよい。
【0074】
隔壁は、例えばアルミニウム、チタン、ステンレスなど金属製の板、酸化アルミニウム、ケイ酸アルミニウムなどセラミックス製の板、あるいは感光性樹脂など有機高分子物質からなるシートに好適なエッチング処理をすることにより、多数の凹部(穴)もしくは透孔が形成されたハニカム状のシートを用意し、このハニカム状シートの上に上記の蛍光体層を載せたのち加熱圧縮することにより、ハニカム状シートを蛍光体層の中に押し込んで形成することができる。或は、蛍光粒子を分散含有する結合剤からなる多数の薄膜状の蛍光体シートと高分子物質からなる多数の薄膜状の隔壁用シートをそれぞれ形成し、蛍光体シートと隔壁用シートを交互に多数枚積層した後、積層方向に垂直に裁断することからなる積層スライス法によっても形成することができる。隔壁には、酸化アルミニウム、二酸化チタン等の低光吸収性微粒子が分散含有されていてもよいし、或は放射線吸収蛍光体からの発光光を選択的に吸収するような着色剤で着色されていてもよい。あるいは、隔壁を蛍光体層材料(ただし、結合剤:蛍光体の比率及び/又は粒子サイズは、蛍光体層を形成する場合とは変える)から形成してもよい。
【0075】
本発明に係る放射線像変換パネルには必要に応じて、特願2002−092502号に記載された選択的反射層、拡散反射層などを付設することもできる。
【0076】
(着色)
放射線画像の鮮鋭度を高める目的で、上記放射線像変換パネルの少なくともいずれかの層を、瞬時発光蛍光体からの発光光および/または輝尽性蛍光体の二次励起光(潜像(蓄積放射線画像)の読み取り時に用いる)を吸収する着色剤、あるいは場合により、輝尽性蛍光体から放出される発光光の一部を吸収する着色剤によって着色してもよい。具体的には、蛍光体層、保護層、更に下塗層などの中間層を、瞬時発光蛍光体からの発光光および/または輝尽性蛍光体の二次励起光を吸収する着色剤で着色することが望ましい。着色は、上記の層のいずれか一つだけであってもよいし、あるいは部分的であってもよく、また任意に組み合わせてもよい。着色剤は、後述の光電子倍増管を用いた点検出系では、輝尽性蛍光体からの発光光を吸収しないものであることが望ましい。
【0077】
輝尽性蛍光体が画像様の放射線を直接吸収する形態の放射線像変換パネルにおいては、着色剤は二次励起光を透過せず、輝尽発光を透過するように、用いられる蛍光体の特性に応じて選択される。通常は青から緑色の光を透過し、赤色の光を透過しないような着色剤が用いられる。
【0078】
放射線を吸収する瞬時発光性の蛍光体とこれからの発光を吸収し輝尽性を示す蛍光体とが組み合わされてなる放射線像変換パネルにおいては、着色剤はこの瞬時発光光と二次励起光の双方を吸収するように選択される。例えば、瞬時発光蛍光体からの発光光が緑色発光光であり、輝尽性蛍光体が緑色光を吸収し、近赤外光で二次励起されて、赤色の発光光を放出する場合には、緑色領域および近赤外領域の光を吸収し、赤色領域の光を吸収しない着色剤が好ましい(点検出系で用いられる場合)。二種類以上の着色剤を組み合わせて使用してもよい。
【0079】
上記の目的に適した赤色着色剤の例としては、カドミウムレッド、べんがら、モリブデンレッドなどの無機顔料を挙げることができる。ただし、これらの赤色着色剤は近赤外領域の光を殆ど吸収しないので、特開平11−109126号公報に記載されているシアニン色素、インドアニリン色素、スクアリリウム色素などの近赤外吸収材料を併用することが望ましい。
【0080】
また例えば、瞬時発光蛍光体からの発光光が近紫外発光光であり、輝尽性蛍光体が近紫外光を吸収し、赤色光で励起されて、青乃至緑色の発光光を放出する場合には、近紫外領域および赤色領域の光を吸収し、青乃至緑色領域の光を吸収しない着色剤が好ましい(点検出系で用いられる場合)。
【0081】
あるいは、放射線画像情報の読み取りを光電子増倍管等を用いる点検出の代わりに、ラインセンサ等を用いるライン検出により行う場合には、瞬時発光蛍光体層、さらに下塗層などの中間層は、瞬時発光蛍光体からの発光光、輝尽性蛍光体の二次励起光、および/または輝尽性蛍光体からの発光光を吸収する着色剤で着色することが望ましい。輝尽性蛍光体からの発光光のうち励起部分よりも広がった分が画像のボケを招くからである。
【0082】
着色剤としては、放射線吸収蛍光体からの発光が緑色発光、輝尽性蛍光体の二次励起光が近赤外光、そして輝尽性蛍光体からの発光が赤色発光である場合には、緑色、赤色および/または近赤外領域の光を吸収する着色剤が好ましい。すなわち、赤色、青乃至緑色または灰色の着色剤であって近赤外吸収を有する着色剤が好ましい。適した赤色着色剤としては、上記の着色剤を用いることができる。上記の青乃至緑色着色剤と近赤外吸収材料とを組み合わせてもよい。灰色着色剤の例としては、カーボンブラック、Cu−Fe−Mn酸化物を挙げることができる。
【実施例】
【0083】
[実施例1] Lu2SiO5:0.001Ce,0.000025Zr蛍光体
ルテチウム酢酸塩のエトキシエタノール付加物22.1gをエトキシエタノール500mlに溶解し、これにテトラエトキシシラン5.26mlと硝酸セリウム六水和物10.8mgをイソプロパノール50mlに溶解した液、及びテトライソプロポキシジルコニウム0.4mgをイソプロパノール5mlに溶かした液を添加した後、これを2時間に渡って還流しながら充分に混合した。その後、約10mmHgの減圧下、90℃で混合液から溶媒を減圧留去して、黄色の粘稠なプレカーサ液を得た。プレカーサ液をガラス製シャーレに広げて大気湿度に約10時間晒して、黄色透明なガラス状のゲルを得た。
【0084】
得られたゲル体を粉砕して粒子径を揃えた後、アルミナるつぼに充填し、これをマッフル炉の炉芯に入れて1200℃、大気雰囲気下で1時間焼成し、次いで環状炉により、3%の水素を含む湿窒素ガスを通気しながら、1400℃で4時間再度焼成して、本発明に従うLu2SiO5:0.001Ce,0.000025Zr蛍光体を得た。
【0085】
得られた蛍光体粉末について、X線回折法により結晶構造を調べたところ、JCPDSカード番号No.410239の回折パターンを示し、ルテチウムケイ酸塩の結晶構造を有していた。
【0086】
また、蛍光体粉末を250μmの窪みを有する測定ホルダに充填し、これに40kVpのX線を4.6J/m2(200mR)の量で照射し、その10秒後にHe−Neレーザ光(波長633nm)を照射して、蛍光体から放出される輝尽発光光を光学フィルタ(B−410)を通して光電子増倍管で受光した。蛍光体は、極大波長が400nmの輝尽発光を示した。
【0087】
[実施例2]
実施例1の蛍光体を用いて下記の方法により放射線変換パネルを作製した。
(蛍光体層塗布液の調製)
実施例1の蛍光体356g、ポリウレタン樹脂(住友バイエルウレタン(株)製、デスモラック4125)15.8g、およびビスフェノールA型エポキシ樹脂2.0gをメチルエチルケトン−トルエン(1:1)混合溶液に添加し、プロペラ型ミキサーによって分散し、蛍光体層用塗布液を調製した。
【0088】
(保護層用塗布液の調製)
フルオロエチレン−ビニルエーテル共重合体(旭硝子(株)製、ルミフロンLF100)70g、イソシアネート(住友バイエルウレタン(株)製、デスモジュールZ4370)25g、ビスフェノールA型エポキシ樹脂5g、およびシリコーン樹脂粉末(KMP−590、信越化学製、1〜2μm径)10gをトルエン−イソプロパノール(1:1)混合溶媒に添加して塗布液とした。
【0089】
(蛍光体層及び保護層の形成)
下塗り付きのポリエチレンテレフタレートフイルム上に蛍光体層用の塗布液を、乾燥後の厚みが350μmになるように塗布し100℃で15分乾燥した。乾燥後に保護層用の塗布液を乾燥後の厚みが10μmとなるように塗布し、120℃で30分乾燥した。このようにして、支持体、蛍光体層および保護層からなる放射線像変換パネルを得た。
【0090】
(放射線像パターンの検出試験)
得られた放射線画像変換パネルに、80kvの管電圧のX線発生管より1mRの線量でスポット状に照射した。30秒後に半導体レーザーを用い、633nmの波長のビームでスキャンした。輝尽発光は380nmから500nmの光を透過するバンドパスフィルターを通して、光電子増倍管で検出した。放射線の照射されたスポット部と非照射部との信号強度の差は十分大きく、画像変換パネルとして用いるのに十分なディスクリミネーションであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基本組成式(I):

LuxyGdzSiOp:aA,bL …(I)

[AはCe、Pr、Nd、Sm、Eu、Tb、Dy、Ho、Er、Tm及びYbからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素を表し;Lは、Aと同一であることなく、Zr、Nb、Hf、Ta、Sn、Sm、Tm及びYbからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素を表わし;x、yおよびzはそれぞれ、x≧0、y≧0、z≧0であって、かつ1.5≦x+y+z≦2.2を満足する数値を表し;pは化合物の電荷を0にするに足りる数値を表し;そしてaは2×10-5<a<2×10-2の範囲内の数値を表し、bは0≦b<1×10-2の範囲内の数値を表す]
を有する蛍光体を製造するための少なくとも下記の工程からなる方法:
1)下記式(II):

M(R2−COO)3・(R1O(CH2nOH)p …(II)

[MはLu、YおよびGdからなる群より選ばれる少なくとも一種の希土類元素を表し;R1は炭素原子数1〜4の脂肪族炭化水素基または炭素原子数3〜6の置換脂肪族炭化水素基を表し;R2は水素または炭素原子数1〜4の置換又は未置換の脂肪族炭化水素基を表し;nは2または3を表し;そしてpは0.5〜3の範囲の数値を表わす]
で表される希土類カルボン酸塩のアルコキシアルコール付加物に、下記式(III):

Si(OR34 …(III)

[ここで、R3は炭素原子数1〜4の脂肪族炭化水素基を表す]
で表されるケイ素アルコキシド、および上記A元素の化合物あるいはA元素の化合物とL元素の化合物とを組合せて添加して混合する工程、
2)得られた混合液に水分を作用させてゲル化する工程、および
3)得られたゲル体を熱分解する工程。
【請求項2】
式(II)で表される希土類カルボン酸塩のアルコキシアルコール付加物が、希土類酢酸塩のメトキシエタノール付加物および/またはエトキシエタノール付加物である請求項1に記載の蛍光体の製造方法。
【請求項3】
式(III)においてR2がメチル基あるいはエチル基である請求項1または2に記載の蛍光体の製造方法。
【請求項4】
1)ルテチウム、イットリウム及び/又はガドリニウムの酢酸塩のエトキシエタノール付加物に、テトラエトキシシランおよび上記A元素の化合物あるいはA元素の化合物とL元素の化合物とを組合せてを添加して混合する工程、
2)得られた混合液に水分を作用させてゲル化する工程、および
3)得られたゲル体を熱分解する工程、
からなる請求項1乃至3のいずれかの項に記載の蛍光体の製造方法。
【請求項5】
蛍光体が、下記基本組成式(IV):

LuxSiOp:aA’,bL’ …(IV)

[ここで、A’はCe及び/又はTbを表わし;L’は、A’と同一であることなく、Zr、Hf、Sm及びYbからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素を表し;xは1.5≦x≦2.2の範囲内の数値を表し;pは化合物の電荷を0にするに足りる数値を表し;そしてaは2×10-5<a<2×10-2の範囲内の数値を表し、bは0≦b<1×10-2の範囲内の数値を表す]
で表される蛍光体である請求項1乃至4のいずれかの項に記載の蛍光体の製造方法。

【公開番号】特開2006−83275(P2006−83275A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−268805(P2004−268805)
【出願日】平成16年9月15日(2004.9.15)
【出願人】(000005201)富士写真フイルム株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】