説明

希土類元素の抽出・分離方法

【課題】ネオジム/プラセオジムのように隣接した希土類元素を良好に抽出・分離することができる希土類元素の抽出・分離方法を提供する。
【解決手段】ジグリコールアミド酸を抽出剤とし、低極性アルコールを溶媒とする有機相と、2種以上の希土類元素を含む水溶液からなる水相とをpH3以下の酸性条件下で接触させ、向流多段ミキサーセトラーを用いて溶媒抽出する。希土類元素溶液1と有機相2とアルカリ水溶液3をそれぞれの配管から抽出部Aに導入し、酸水溶液4,6をそれぞれの配管から、スクラブ部Bと逆抽出部Cに導入する。有機相に抽出されずに残留した希土類元素を含む水相5、有機相に抽出された希土類元素を逆抽出した水溶液7が回収される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、希土類元素、特に軽希土類元素(La,Ce,Pr,Nd,Sm,Eu)の中の少なくとも2種以上、又は該軽希土類元素の中の少なくとも1種以上とそれ以外の希土類元素(Yを含む)の少なくとも1種以上を抽出・分離する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、Nd磁石を代表とする希土類磁石は、ハードディスク用やエアコン用、ハイブリッド車等に使用される各種モーターやセンサー等に広く使用されるようになっている。
しかし、希土類磁石の原料である希土類元素の現状は、その産出国がほぼ限定されており、近い将来需要が供給を上回ることも予想され、資源的な危機が叫ばれている。そこで、希土類磁石の生産時に発生する磁石粉末や屑及び不良スクラップ、更には市中より回収された製品から有価物である希土類元素の再生(リサイクル)、新たな希土類鉱床の探査や開発が強く求められている。
【0003】
希土類磁石に用いられる希土類元素は、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)等が挙げられるが、これら希土類元素の分離には、イオン交換樹脂法(固−液抽出法)や溶媒抽出法(液−液抽出法)が知られている。工業的な希土類元素の精製分離には、連続的な工程により効率的に大量処理が可能であるため、主に溶媒抽出法が用いられている。
溶媒抽出法とは、分離を目的とする金属元素を含む水溶液からなる水相と特定の金属元素を抽出する抽出剤及びそれを希釈するための有機溶媒からなる有機相を接触させることで、金属元素を抽出剤に抽出させて分離する方法である。
【0004】
従来、その抽出剤としてはTBP(燐酸トリブチル)、カルボン酸(バーサティックアシッド10)、燐酸エステル、ホスホン酸化合物、ホスフィン酸化合物等が用いられている。例えば、燐酸エステルとしてはジ−2−エチルヘキシルリン酸[di−2−ethylhexyl−phosphoric−acid(D2EHPA)]等が使用され、ホスホン酸化合物としては2−エチルヘキシルリン酸モノ−2−エチルヘキシルエステル[2−ethylhexyl−phosphoric acid−mono−2−ethylhexyl ester(PC−88A:大八化学工業社製商品名)]等が使用され、ホスフィン酸化合物としてはビス(2,4,4−トリメチルペンチル)リン酸[bis(2,4,4−trimethylpentyl)phosphoric acid(Cyanex272:American Cyanamid社製商品名]等が市販され、一般的に使用されている。
【0005】
溶媒抽出法の分離効率は、抽出剤の性能、特に分離係数によって決まる。即ち、分離係数が大きいほど溶媒抽出法の分離効率は高くなり、分離工程の簡略化、分離設備の小規模化となり、結果的に工程の効率化及びコストダウンに繋がる。一方、分離係数が小さいと、分離工程が複雑となり、更に分離設備が大規模となってしまう。
【0006】
現在、市販され実用化されている抽出剤のうちで希土類元素に対する分離係数が大きいと言われるPC−88Aでも、隣接した元素間の分離係数は小さく、例えば、希土類元素の中でも最も分離が困難とも言われるネオジム/プラセオジムの分離係数は2より小さく、約1.4である。この分離係数は、ネオジム/プラセオジムを分離するために十分なものではなく、それらを十分な純度で分離するためには、大規模な設備が必要となり、多大なコストがかかることになる。そのため、これら元素を精製・分離する際には、従来よりも分離係数の大きな抽出剤及び抽出・分離方法の開発が待望されている。
【0007】
希土類元素、特に軽希土類元素であるランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)に対し分離係数の大きな抽出剤としては、ジグリコールアミド酸が知られている(特許文献1:特開2007−327085号公報)。その抽出剤を用いて溶媒抽出を行うことにより、希土類元素、特に軽希土類元素の抽出・分離工程は、効率化を図ることができる。しかし、それを用いた希土類元素の抽出・分離方法は、実験レベルにおいて良好な結果が得られているものの、ジグリコールアミド酸が、市販、実用化されているD2EHPA、PC−88A、Cyanex272と化学的性質が異なることから、実用化されるべき様々な条件が見出されておらず、工業化に至っていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−327085号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記した問題を解決した希土類元素の抽出・分離方法を提供するもので、従来の抽出・分離方法より、希土類元素、特にネオジム/プラセオジムのように隣接した希土類元素を良好に抽出・分離することができる希土類元素の抽出・分離方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、ジグリコールアミド酸を抽出剤とし、溶媒として極性の低いアルコールを用いた有機相と、抽出すべき希土類元素を含む水溶液である水相を、向流多段ミキサーセトラー等を用いて溶媒抽出することで、特にネオジム/プラセオジムのように隣接した軽希土類元素に対し良好な分離性能をもつという、希土類元素の抽出・分離方法を見出し、この方法が、多種の希土類元素混合物から、特定の希土類元素を選択的に分離するに際し有効であることを知見し、本発明をなすに至った。
【0011】
即ち、本発明は、前記問題を解決する方法として下記の希土類元素の抽出・分離方法を提供する。
請求項1:
下記一般式(1)
【化1】


(式中、R1及びR2は、互いに同一又は異種のアルキル基であり、少なくとも一方は炭素数6以上の直鎖又は分岐鎖状のアルキル基を示す。)
で表されるジグリコールアミド酸を抽出剤とし、下記一般式(2)
n2n+1OH (2)
(式中、nは5〜8の整数である。)
で表される低極性アルコールを溶媒とする有機相と、2種以上の希土類元素を含む水溶液からなる水相とをpH3以下の酸性条件下で接触させることにより、前記希土類元素のうち抽出すべき希土類元素を前記有機相に抽出し、その後この有機相を酸水溶液にて逆抽出することで前記有機相に抽出した希土類元素を回収すると共に、前記有機相に抽出されずに前記水相中に残留した希土類元素を回収することを特徴とする希土類元素の抽出・分離方法。
請求項2:
抽出及び逆抽出処理を向流多段ミキサーセトラーによって行うことを特徴とする請求項1記載の希土類元素の抽出・分離方法。
請求項3:
有機相と水相とを有機相に用いた式(2)の低極性アルコールの引火点より低い温度で接触させることを特徴とする請求項1又は2記載の希土類元素の抽出・分離方法。
請求項4:
水相に含まれる抽出・分離すべき希土類元素が、La,Ce,Pr,Nd,Sm及びEuから選ばれる軽希土類元素の中の少なくとも2種、又は前記軽希土類元素の中の少なくとも1種とそれ以外のYを含む希土類元素の中の少なくとも1種とであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の希土類元素の抽出・分離方法。
請求項5:
水相に含まれる希土類元素が、Nd及びPrであり、Ndを有機相に抽出すると共に、Prを水相に残留させることによりNdとPrとを分離するようにしたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の希土類元素の抽出・分離方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の抽出剤・抽出溶剤を用いた抽出方法は、分離係数が大きく、分離効率よく、希土類元素を抽出・分離できるので初期投資が抑えられ、工業的利用価値が大きい。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】向流多段ミキサーセトラーの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明において、抽出剤としては、下記一般式(1)
【化2】


で表されるジグリコールアミド酸を用いる。
【0015】
ここで、R1及びR2は、互いに同一又は異種のアルキル基であるが、少なくとも一方は、炭素数6以上、好ましくは6〜18、より好ましくは7〜12の直鎖又は分岐鎖状のアルキル基である。炭素数が6未満の場合、親油性が十分でないため、有機相の安定性に欠くことになり、水相との分相性が不良となるばかりか、抽出剤自身の水相への溶解が無視できなくなり、抽出剤の役割を果たすことができない。また、炭素数が過剰に大きい場合には、その抽出剤の製造コストが高くなるにも拘わらず、基本性能である抽出能、分離能そのものの向上には寄与しない。なお、R1及びR2については、親油性が確保されるのであれば、一方が炭素数6以上であれば他方は6未満であってもよい。例えば、より好適なものとして、2つのオクチル基(−C817)を導入した化合物、N,N−ジオクチル−3−オキサペンタン−1,5−アミド酸:ジオクチルジグリコールアミド酸[N,N−ジオクチル−3−オキサペンタン−1,5−アミッド酸:ジオクチルジグリコールアミッド酸(N,N−dioctyl−3−oxapentane−1,5−amicacid:dioctyldiglycolamicacid、以下DODGAAと称する)]が挙げられる。
【0016】
通常の有機相は、抽出剤と無極性溶媒からなる。その無極性溶媒は、水への溶解度が低く、抽出剤への溶解度が高く、比重が軽く、更に抽出能力が向上するのに適したものが選択される。例えば、トルエン、キシレン、ヘキサン、イソドデカン、ケロシン等である。
しかし、トルエン、キシレン、ヘキサン等は、いずれも揮発性が高く、更に、引火点が20℃より低いため、取り扱いに注意が必要である。また、揮発性が低く引火点が20℃より高いイソドデカンやケロシン等は、実操業上の条件である約0.2mol/Lの希土類水溶液を処理するために最低限必要なDODGAA抽出濃度0.4mol/L以上の濃度を用いた場合、分相に時間がかかるため、有機相、水相の流量が制限される。そのため生産性が上げられない。
【0017】
そのため、本発明の有機相は、上記ジグリコールアミド酸の溶媒として下記一般式(2)
n2n+1OH (2)
(式中、nは5〜8の整数である。)
で表される直鎖又は分岐鎖状の液状である低極性アルコールを使用する。そうすることで、抽出剤濃度0.4mol/L以上の有機相が得られ、実操業上の希土類水溶液中の希土類元素濃度である約0.2mol/Lの処理が可能である。nが5未満のアルコールの場合、極性・水和性が高く、溶媒抽出において水相中に溶解するため、有機相・水相の分相が十分でなく、加えて、有機相中の抽出剤濃度が不安定となり、その制御をすることができないため適さない。本発明に用いるアルコールは直鎖状、分岐鎖状は問わないが、直鎖状の構造を持つアルコールでnが12以上の場合、室温において固体となってしまうため不適である。また、加温によって液体化したとしても、ジグリコールアミド酸との極性が合わないため、その溶解度が低下し、液のゲル化が起こるため適さない。直鎖状の構造を持つアルコールの場合、好ましくは、5≦n≦8の1−ペンタノール、1−ヘキサノール、1−ヘプタノール、1−オクタノールであり、それらは、水への溶解度が低く、抽出剤であるジグリコールアミド酸への溶解度が高く、比重が軽く、更に引火点も高いため適している。
【0018】
本発明の有機相中の抽出剤濃度COは、0.1mol/L≦CO≦1.5mol/Lであることが好ましい。CO<0.1mol/Lの場合、抽出剤濃度が低すぎるため、実操業上の希土類水溶液中の希土類元素濃度の処理が不可となり、実際、0.05mol/L以下の濃度の希土類水溶液しか処理できないため、効率的でなく、結果的に分離設備の大規模化を招き、コスト高となってしまうおそれがある。また、そもそも前記アルコールに対するジグリコールアミド酸自身の溶解度により、抽出剤濃度CO>1.5mol/Lとするのは困難であり、エントレーナーとなるべき溶媒やジオクチルスルホコハク酸ナトリウム等の界面活性剤の添加が必要となり、安定した操業を制御する条件がより複雑化するおそれがある。そのため、効率的な抽出・分離を行うための有機相中の抽出剤濃度COとして、好ましくは0.2mol/L≦CO≦1.0mol/Lである。
【0019】
一方、上記抽出剤によって抽出すべき希土類元素は、水溶液として水相中に含まれる。この場合、希土類元素は、水溶性塩、例えば塩化物(PrCl3,NdCl3等)などの形態で使用することができる。
【0020】
本発明に用いる抽出剤のジグリコールアミド酸の中でも、特にDODGAAは、軽希土類元素における分離性、軽希土類元素とそれ以外の希土類元素の分離性は非常に優れている。しかし、軽希土類元素以外、即ち、重希土類元素における分離性は、市販、実用化されているD2EHPA、PC−88A、Cyanex272に比べ劣るため、本発明の水相に含まれ、抽出・分離する希土類元素は、軽希土類元素(La,Ce,Pr,Nd,Sm,Eu)の中の少なくとも2種以上、又は、軽希土類元素の少なくとも1種以上とそれ以外の希土類元素(Yを含む)の少なくとも1種以上からなることが好ましい。なお、前記それ以外のYを含む希土類元素としては、Y,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Lu等が挙げられる。
この場合、本発明においては、特定の希土類元素を前記有機相に抽出し得るもので、例えばNdとPrとの抽出・分離においては、Ndが優先的に有機相に抽出されるものである。
【0021】
溶媒抽出における希土類元素の抽出のし易さは、そのイオン半径に依存し、更に、抽出される元素のうち、イオン半径が小さいものが有機相に抽出される。そのため、例えば、隣り合う2つの軽希土類元素を抽出した場合、下記の通りとなる。
組み合わせ 有機相に抽出される元素
La/Ce Ce
Ce/Pr Pr
Pr/Nd Nd
Nd/Sm Sm
Sm/Eu Eu
【0022】
水相に含まれる希土類元素濃度CAは、0.01mol/L≦CA≦0.7mol/Lであることが好ましい。CA<0.01mol/Lの場合、抽出・分離における抽出能、分離能そのものには問題はないが、希土類元素濃度CAが希薄であるため、十分な量の目的物(希土類元素)を得るためには大量の水相が必要となる。その結果、分離設備の大規模化を招き、コスト高を招いてしまうおそれがある。CA>0.7mol/Lの場合、抽出すべき希土類元素濃度につりあう有機相のジグリコールアミド酸濃度を得ることは困難であり、結果、希土類元素濃度に対し抽出剤であるジグリコールアミド酸が十分でないため、有機相の凝固が起こり溶媒抽出による分離精製ができないおそれがある。
【0023】
ここで、本発明においては、有機相中の抽出剤濃度CO、水相中の希土類元素濃度CAの比率C0/CAを2≦C0/CA≦10とすることが好ましい。比率C0/CA<2であると、希土類元素濃度に対し抽出剤であるジグリコールアミド酸濃度が十分でないため、有機相の凝固が起こり、溶媒抽出による分離精製ができない場合がある。また、比率C0/CA>10であると、基本性能である抽出能、分離能そのものの向上には寄与しないが、水相濃度に対し有機相濃度が高すぎるためコスト高となる。
【0024】
また、抽出工程時の抽出層(有機相・水相)のpHは3以下に制御する。pHが3を超えると希土類元素が希土類水酸化物を形成し沈殿物となってしまうため、有機相と水相を接触させる際、抽出・分離が不可となってしまう。結果、分相不良が起こり、抽出工程に問題が発生する。また、pHが強酸の場合、平衡酸濃度を調整する際に使用する塩基等の使用量が多くなるため好ましくなく、抽出工程時の抽出層(有機相・水相)のpHは好ましくは1〜3である。
【0025】
更に、抽出工程時の抽出層(有機相・水相)の温度は、有機相を構成する前記アルコールの引火点以下に制御する。その温度は、より高いほうが有機相への抽出剤の溶解度が高くなり、有機相−水相の分離が良好となるが、引火点による火災を防止するため、用いる溶媒の引火点を超えないことが必要であり、引火点−(5〜10)℃で制御することが好ましい。
【0026】
本発明において、抽出剤・希釈剤からなる有機相と、分離すべき希土類元素を含む水溶液とを効率よく接触させ、効率的な抽出・分離を行うために図1に示すような向流多段ミキサーセトラーを用いることが好ましい。
図1において、Aは抽出部、Bはスクラブ部、Cは逆抽出部でそれぞれの段数は適宜設定される。1〜8はミキサーセトラーへの流入、又は流出する流れを示し、配管である。1より希土類元素溶液、2より抽出剤を含有する有機相、3より水酸化ナトリウム水溶液等のアルカリ水溶液、4,6より塩酸水溶液等の酸水溶液を導入し、5より有機相に抽出されずに残留した希土類元素を含む水相、7より有機相に抽出された希土類元素を逆抽出した水溶液を回収する。抽出部Aにおいては水相のpHを希土類元素の種類に応じて調整し、希土類元素を有機相と水相に分離する。スクラブ部Bにおいては、有機相中に少量溶解している水相に残留すべき希土類元素だけを選択的に抽出する酸水溶液を用いて、有機相を洗浄する。逆抽出部Cにおいては、有機相に抽出された希土類元素を酸水溶液中に逆抽出する。また8より希土類元素を逆抽出した抽出剤を循環させ再利用することができる。
【0027】
この場合、抽出部Aにおいて、希土類元素溶液1と抽出剤を含有する有機相2とを接触させて抽出を行い、希土類元素溶液1中の特定の希土類元素を有機相2に抽出し、有機相2に抽出されずに残った希土類元素を含む水相5を抽出部Aより排出、回収する。なお、アルカリ水溶液3は平衡酸濃度調整の目的で導入するものである。上記特定の希土類元素を抽出した有機相2はスクラブ部Bに導入され、ここで有機相2中に少量溶解している水相に残るべき希土類元素だけを選択的に抽出するようにpH調整された酸水溶液4(例えば、Nd/Prの抽出・分離の場合、pHを1〜2に調整することによりPrが選択的に分離される)を用いて有機相2を洗浄し、上記水相に残るべき希土類元素だけを選択的に抽出した酸水溶液4は、抽出部Aに導入されると共に、洗浄された有機相2は、逆抽出部Cに導入され、ここで有機相2中の希土類元素を所用のpHに調整された酸水溶液6により逆抽出し、得られた希土類元素を含む水溶液7を排出、回収する。希土類元素が逆抽出された有機相2(8)は抽出部Aに循環される。
【実施例】
【0028】
以下、実施例と比較例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0029】
[実施例1]
(希土類金属の相互分離)
本発明による溶媒抽出を行った場合における、混合希土類金属の分離性能を調べる試験を行った。
DODGAAを1−ヘキサノールで溶解し、0.3mol/Lの濃度溶液を調製して有機相とした。
希土類金属として、Pr:Nd=1:1モル比でPr+Nd=0.1mol/Lとなる塩化プラセオジムと塩化ネオジムの混合溶液を調製した。上記有機相100mlと水相100mlを分液漏斗に入れ、室温(20℃)で約20分間振盪し、抽出処理を行い、平衡に達した後、有機相と水相を分離した。更に、有機相100mlは5N−塩酸100mlと共に分液漏斗に入れ、室温(20℃)で約20分間振盪し、有機相に抽出された希土類元素を塩酸水溶液中に逆抽出した。水相と逆抽出した塩酸水溶液中のプラセオジムとネオジムの濃度をICP発光分析装置(ICP−7500:島津製作所(株)製商品名)で測定したところ、[Nd]org.=0.028mol/L、[Nd]aqua=0.022mol/L、[Pr]org.=0.017mol/L、[Pr]aqua=0.033mol/Lであった。この結果から、DODGAA1−ヘキサノール溶液のネオジム/プラセオジムの分離係数は2.5であった。
【0030】
[実施例2〜6]
(有機相−水相の分離)
本発明による溶媒抽出を行った場合における、有機相・水相温度と有機相−水相の分離にかかる時間(分相状態)を調べる試験を行った。
DODGAAを1−ヘキサノールで溶解し、0.3mol/Lの濃度溶液を調製して有機相とした。
希土類金属として、Pr:Nd=1:1モル比でPr+Nd=0.1mol/Lとなる塩化プラセオジムと塩化ネオジムの混合溶液を調製した。上記有機相100mlと水相100mlを分液漏斗に入れ、所定の温度で約20分間振盪し、抽出処理を行い、平衡に達した後、有機相と水相を分離した。その有機相・水相温度と有機相−水相の分離にかかる時間(分相状態)を調べた結果を表1に示す。有機相・水相温度が1−ヘキサノール引火点(約63℃)に近いほど有機相−水相の分離にかかる時間が短く、良好な結果となった。
【0031】
【表1】

【0032】
[実施例7〜10、比較例1,2]
(各種溶剤と希土類相互の分離、有機相−水相の分離)
本発明による溶媒抽出を行った場合における、溶剤の種類と希土類相互の分離性能、有機相−水相の分離にかかる時間(分相状態)を調べる試験を行った。
DODGAAを各種溶剤(アルコール)で溶解し、0.3mol/Lの濃度溶液を調製して有機相とした。
希土類金属として、Pr:Nd=1:1モル比でPr+Nd=0.1mol/Lとなる塩化プラセオジムと塩化ネオジムの混合溶液を調製した。上記有機相100mlと水相100mlを分液漏斗に入れ、室温(20℃)で約20分間振盪し、抽出処理を行い、平衡に達した後、有機相と水相を分離した。更に、有機相100mlは5N−塩酸100mlと共に分液漏斗に入れ、室温(20℃)で約20分間振盪し、有機相に抽出された希土類元素を塩酸水溶液中に逆抽出した。水相と逆抽出した塩酸水溶液中のプラセオジムとネオジムの濃度をICP発光分析装置(ICP−7500:島津製作所(株)製商品名)で測定した分離係数(Nd/Pr)と分相状態を表2に示す。DODGAAの溶剤として1−ペンタノール、1−ヘキサノール、1−ヘプタノール、1−オクタノールを用いたネオジム/プラセオジムの分離係数は2.5であった。また、下記式(2)
n2n+1OH (2)
で表されるnの値が5〜8までのアルコールは有機相−水相の分離が可能であったが、n=9(ノナノール)、n=10(デカノール)は有機相−水相の分離ができなかった。
【0033】
【表2】

【0034】
[実施例11]
以下、図1のミキサーセトラー抽出装置を用いた例を示す。
実施例1と同じ0.3mol/LのDODGAA1−ヘキサノール溶液を有機相とし、ネオジム:プラセオジム=1:1モル比でネオジム+プラセオジム=0.1mol/Lとなる塩化ネオジムと塩化プラセオジムの混合溶液を水相とした。
図1において、Aを24段、Bを24段、Cを8段とした向流多段ミキサーセトラーで、上記有機相と水相を混合して室温(20℃)で抽出させ、定常状態に達した後、有機相中の希土類元素を塩酸水溶液中に逆抽出し、水相と逆抽出した塩酸水溶液中のネオジムとプラセオジムの濃度を前記したICP発光分析装置で測定した。逆抽出した塩酸水溶液中のネオジム濃度は0.2mol/L、プラセオジム濃度は0.0002mol/Lで、水相中のプラセオジム濃度は0.04mol/L、ネオジム濃度は0.0002mol/Lであり、逆抽出した塩酸水溶液中のネオジム純度[Nd/(Nd+Pr)]は99.9%であった。この結果から、DODGAA1−ヘキサノール溶液のネオジム/プラセオジムの分離係数は2.5であった。
なお、図1のミキサーセトラー抽出装置において、1より塩化ネオジム+塩化プラセオジムの混合溶液を流量15リットル/hで、2より抽出剤の0.3MのDODGAA1−ヘキサノール溶液を流量6リットル/hで、3より4mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を0.75リットル/hで導入し、5より水相を16.75リットル/hで回収し、6より4mol/Lの塩酸水溶液を流量3リットル/hで導入し、7より逆抽出したネオジムを含む塩酸水溶液を流量3リットル/hで回収した。また、抽出剤は8より循環させ、再利用した。
【0035】
[比較例3]
PC−88A−ケロシン溶液が1mol/Lに調整されたものを有機相とし、ネオジム:プラセオジム=1:1モル比でネオジム+プラセオジム=0.1mol/Lとなる塩化ネオジムと塩化プラセオジム混合溶液を水相とした。図1において、Aを72段、Bを72段、Cを8段とした向流多段ミキサーセトラーを用い、実施例11と同様にして、水相と逆抽出した塩酸水溶液中のネオジムとプラセオジムの濃度を前記したICP発光分析装置で測定した。逆抽出した塩酸水溶液中のネオジム濃度は0.2mol/L、プラセオジム濃度は0.0002mol/Lで、水相中のプラセオジム濃度は0.04mol/L、ネオジム濃度は0.0002mol/Lであり、逆抽出した塩酸水溶液中のネオジム純度[Nd/(Nd+Pr)]は99.9%であった。この結果から、PC−88A−ケロシン溶液のネオジム/プラセオジムの分離係数は1.4であった。
なお、抽出剤のPC−88A−ケロシン溶液は実施例と同様に流量6リットル/hで導入した。
【0036】
以上のように、本発明の分離係数の大きい抽出剤を用いると、同じ純度で同じ量を処理するのに抽出段数が少なくてすみ、初期投資が抑えられる。
【0037】
このように極性の低いアルコールで高濃度DODGAAを溶解し、0.02〜0.5M程度の希土類混合水溶液からミキサーセトラーを用い、溶媒抽出方法により低コストで精製分離が可能となった。この溶媒は極性の低いアルコール同士の混合、又は極性の低いアルコールとアルカン系溶媒の混合でも達成できる。
【符号の説明】
【0038】
1 希土類元素溶液又はこれを導入する配管
2 抽出剤を含有する有機相又はこれを導入する配管
3 アルカリ水溶液又はこれを導入する配管
4 酸水溶液又はこれを導入する配管
5 有機相に抽出されずに残留した希土類元素を含む水相又はこれを回収する配管
6 酸水溶液又はこれを導入する配管
7 有機相に抽出された希土類元素を逆抽出した水溶液又はこれを回収する配管
8 抽出剤又はこれを循環させる配管
A 抽出部
B スクラブ部
C 逆抽出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)
【化1】


(式中、R1及びR2は、互いに同一又は異種のアルキル基であり、少なくとも一方は炭素数6以上の直鎖又は分岐鎖状のアルキル基を示す。)
で表されるジグリコールアミド酸を抽出剤とし、下記一般式(2)
n2n+1OH (2)
(式中、nは5〜8の整数である。)
で表される低極性アルコールを溶媒とする有機相と、2種以上の希土類元素を含む水溶液からなる水相とをpH3以下の酸性条件下で接触させることにより、前記希土類元素のうち抽出すべき希土類元素を前記有機相に抽出し、その後この有機相を酸水溶液にて逆抽出することで前記有機相に抽出した希土類元素を回収すると共に、前記有機相に抽出されずに前記水相中に残留した希土類元素を回収することを特徴とする希土類元素の抽出・分離方法。
【請求項2】
抽出及び逆抽出処理を向流多段ミキサーセトラーによって行うことを特徴とする請求項1記載の希土類元素の抽出・分離方法。
【請求項3】
有機相と水相とを有機相に用いた式(2)の低極性アルコールの引火点より低い温度で接触させることを特徴とする請求項1又は2記載の希土類元素の抽出・分離方法。
【請求項4】
水相に含まれる抽出・分離すべき希土類元素が、La,Ce,Pr,Nd,Sm及びEuから選ばれる軽希土類元素の中の少なくとも2種、又は前記軽希土類元素の中の少なくとも1種とそれ以外のYを含む希土類元素の中の少なくとも1種とであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の希土類元素の抽出・分離方法。
【請求項5】
水相に含まれる希土類元素が、Nd及びPrであり、Ndを有機相に抽出すると共に、Prを水相に残留させることによりNdとPrとを分離するようにしたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の希土類元素の抽出・分離方法。

【図1】
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