説明

希土類炭酸塩粒子の製造方法

【課題】希土類炭酸塩粒子の製造方法であって、単分散且つ真球状粒子の製造に適した希土類炭酸塩粒子の製造方法を提供する。
【解決手段】希土類元素の鉱酸溶液に尿素を添加した原料溶液に、マイクロ波を照射することにより当該原料溶液を加熱する希土類炭酸塩粒子の製造方法であって、
(1)前記希土類元素がLa、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm又はEu(Aグループ)の場合には、前記加熱温度を70〜80℃とし、
(2)前記希土類元素がGd又はTb(Bグループ)の場合には、前記加熱温度を70〜90℃とし、
(3)前記希土類元素がDy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu又はY(Cグループ)の場合には、前記加熱温度を70〜100℃とし、
(4)前記希土類元素がランタノイド元素にイットリウムを加えた16元素から選択される2種以上の場合には、前記加熱温度を70〜80℃とする、
ことを特徴とする製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子材料、蛍光体、触媒等の原料として有用な希土類炭酸塩粒子の製造方法であって、特に単分散且つ真球状粒子の製造に適した希土類炭酸塩粒子の製造方法に関する。なお、本明細書で言う希土類元素は、原子番号57〜71のランタノイド元素にイットリウムを加えた16元素である。
【背景技術】
【0002】
分析化学で使用される均一沈殿剤である尿素は、種々の均一な粒子径をもつ無機系粒子(単分散粒子)の製造に使用される。尿素を用いた希土類元素の塩基性炭酸塩粒子の製造としては、ガドリニウム、ユウロピウム、テルビウム、サマリウム及びセリウム(非特許文献1)とイットリウム(非公開文献2)の塩基性炭酸塩粒子の製造が知られている。これらの文献では、空気乾燥器及びホットプレートによる加熱により目的粒子が製造されている。
【0003】
マイクロ波加熱は、均一且つ迅速な加熱手段として種々の粒子の製造に使用されている。マイクロ波加熱を希土類塩基性炭酸塩粒子の製造に用いた例としては、次の2件が知られている。1件は希土類酸化物蛍光体(特許文献1)の製造であり、他の1件は酸化イットリウム粉末(特許文献2)の製造である。
【0004】
前者はイットリウム蛍光体の製造を目的としているため、3成分系の炭酸塩粒子が製造されている。そして、炭酸塩粒子の形態を制御する工夫については何ら教示されていない。後者は酸化イットリウム粒子の原料であるイットリウム塩粒子を製造している。この特許文献2で得られる粒子は真球状ではなく、針状粒子が集合したイガグリ状である(特許文献2の[0014]段落等)。
【0005】
電子材料又は蛍光体への応用を考慮すると、従来品よりも単分散且つ真球状粒子の希土類炭酸塩粒子を製造することが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004-224806号公報
【特許文献2】特開2008-189489号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】E. Matijec, W. P. Hsu, J. Colloid Interface Sci., 118, 1987, 506.
【非特許文献2】D. Sordelet, M. Akinc, J. Colloid Interface Sci., 122, 1988, 47.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、希土類炭酸塩粒子の製造方法であって、単分散且つ真球状粒子の製造に適した希土類炭酸塩粒子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、使用する希土類元素の種類に応じた特定の製造条件を採用する場合には、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明は下記の希土類炭酸塩粒子の製造方法に関する。
1.希土類元素の鉱酸溶液に尿素を添加した原料溶液に、マイクロ波を照射することにより当該原料溶液を加熱する希土類炭酸塩粒子の製造方法であって、
前記希土類元素がLa、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm又はEu(Aグループ)であり、前記加熱温度が70〜80℃であることを特徴とする製造方法。
2.希土類元素の鉱酸溶液に尿素を添加した原料溶液に、マイクロ波を照射することにより当該原料溶液を加熱する希土類炭酸塩粒子の製造方法であって、
前記希土類元素がGd又はTb(Bグループ)であり、前記加熱温度が70〜90℃であることを特徴とする製造方法。
3.希土類元素の鉱酸溶液に尿素を添加した原料溶液に、マイクロ波を照射することにより当該原料溶液を加熱する希土類炭酸塩粒子の製造方法であって、
前記希土類元素がDy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu又はY(Cグループ)であり、前記加熱温度が70〜100℃であることを特徴とする製造方法。
4.希土類元素の鉱酸溶液に尿素を添加した原料溶液に、マイクロ波を照射することにより当該原料溶液を加熱する希土類炭酸塩粒子の製造方法であって、
前記希土類元素が、ランタノイド元素にイットリウムを加えた16元素から選択される2種以上であり、前記加熱温度が70〜80℃であることを特徴とする製造方法。
5.前記炭酸塩は、塩基性炭酸塩及び/又はオキシ炭酸塩である、上記項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
6.前記希土類炭酸塩粒子は、平均粒子径が0.05〜1μmであり、粒度分布の変動係数が15%以内である、上記項1〜5のいずれかに記載の製造方法。
7.前記原料溶液について、
(1)希土類イオン濃度が0.001〜0.1mol/Lであり、
(2)尿素/希土類のモル比が5〜200であり、
(3)液量が0.1〜50Lである、
上記項1〜6のいずれかに記載の製造方法。
8.連続反応装置を用いて行う、上記項1〜7のいずれかに記載の製造方法。
【0011】

以下、本発明の製造方法について詳細に説明する。
【0012】
本発明の希土類炭酸塩粒子の製造方法は、希土類元素の鉱酸溶液に尿素を添加した原料溶液に、マイクロ波を照射することにより当該原料溶液を加熱する希土類炭酸塩粒子の製造方法であって、前記希土類元素の種類(グループ)に応じた加熱温度(反応温度)を採用するところに特徴がある。このように、希土類元素の種類に応じた加熱温度を採用することにより、単分散且つ真球状の希土類炭酸塩粒子を製造することができる。
【0013】
本発明で用いる希土類元素は、冒頭に記載した通り、ランタノイド元素にイットリウムを加えた16元素である。イットリウムは、ランタノイド元素ではないがイオン半径が似通っているので希土類元素に含めている。イオン半径の点ではYはHoとErの間に位置する。即ち16元素の希土類は、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Y、Er、Tm、Yb、Luの順にイオン半径及びアルカリ度が小さくなる。
【0014】
希土類元素は、最外殻電子が同じで類似の性質を示すことが知られているが、希土類元素イオン溶液から炭酸塩粒子を同じ条件下で製造すると、希土類元素によって異なる組成と構造をもつ炭酸塩粒子が生成する。これは、希土類元素のイオン半径によって水和状態が異なることが原因と考えられる。詳細には、希土類元素は、イオン半径と電子配置に応じて反応性が変化し、上記イオン半径の順では、La〜Eu(Aグループ)、Gd及びTb(Bグループ)及びDy〜Lu(Yを含む、Cグループ)の3つのグループに大別される。本発明では、上記A〜Cの3グループごとに、単分散且つ真球状の希土類炭酸塩粒子を得るための条件分けを行う。
【0015】
本発明では、Aグループの希土類元素を用いる場合には、原料溶液の加熱温度として70〜80℃を採用する。また、Bグループの希土類元素を用いる場合には、原料溶液の加熱温度として70〜90℃を採用する。また、Cグループの希土類元素を用いる場合には、原料溶液の加熱温度として70〜100℃を採用する。また、AグループからCグループの中から選択される2種以上の希土類元素を用いる場合には、原料溶液の加熱温度として70〜80℃を採用する。このように、希土類元素の種類(グループ)に応じて加熱温度を選択することにより、単分散且つ真球状の希土類炭酸塩粒子が得られる。
【0016】
本発明では、原料の希土類元素としては、希土類元素の酸化物が使用できる。当該酸化物は、希土類元素を1種又は2種以上含むものが使用できる。この希土類元素を溶解する鉱酸(無機酸)としては限定されないが、硝酸又は塩酸が使用でき、この中でも溶液の調製が容易な点で硝酸が好ましい。溶解する際は、化学量論量よりも多い量を用いればよいが、化学量論量から5%ほど多い量で溶解することが好ましい。溶解後はそのまま溶液を用いてもよく、又は溶解後白煙を生じるまで蒸発乾固させた後に水を加えてもよい。
【0017】
原料溶液の希土類イオン濃度は限定的ではないが、0.001〜0.1mol/Lの範囲が好ましい。0.001mol/L未満では収量が小さく効率的でない。0.1mol/Lを超える濃度では凝集が見られ、球状粒子以外の粒子が混在する傾向がある。この中でも、Aグループでは、0.001〜0.01mol/Lの範囲が好ましく、Bグループでは、0.001〜0.05mol/Lの範囲が好ましく、Cグループでは、0.001〜0.1mol/Lの範囲が好ましい。
【0018】
原料溶液の尿素量は限定的ではないが、尿素/希土類のモル比は5〜200が好ましく、10〜50がより好ましい。尿素/希土類のモル比が5未満の場合には、均一沈殿を行うには尿素分解量が少なく効果が小さい。200を超える場合には、反応には影響はないがコスト的に不利である。
【0019】
グループごとの尿素/希土類のモル比の最適値に関しては、モル比が大きくなるほど得られる粒子の粒子径が小さくなる傾向があり、且つ、希土類元素のイオン半径が小さくなるほどモル比変化の影響を大きく受けることから、Cグループでは、モル比5〜200が好ましく、特に10〜50がより好ましい。BグループからAグループに推移するに従い、得られる粒子の粒子径への影響が小さくなるから、BグループからAグループにかけて、モル比は10〜50の範囲が好ましく、コスト面から10付近がより好ましい。
【0020】
原料溶液の液量は限定的ではないが、0.1〜50Lが好ましく、0.1〜5Lがより好ましい。液量が0.1L未満では得られる粒子量が少なく効率的でない。50Lを超えると、連続反応を行う場合でも1反応スケールでは効率を上げるために大型のマイクロ波反応装置が必要となる。
【0021】
2L以上では、均一反応を行うのであれば、マイクロ波照射領域をキャピラリ径5〜10mmとして、流速5〜30ml/minで反応液を連続的に流して反応を進行させる連続反応が好ましい。このとき、流速5ml/min未満では効率が悪く、30ml/minを超えると未反応物が多くなる。連続反応させる場合には連続反応装置を用いて行える。
【0022】
グループごとに最適量を説明すると、Aグループでは1L以内が好ましい。Cグループでは、Aグループよりも高温の加熱温度を採用でき、尿素/希土類モル比も選択の幅が広いことから5L以内が好ましい。Bグループでは、Aグループ及びCグループの中間に位置する量として2L前後が好ましい。なお、これらの数値は各種条件により変わり得る数値であり、反応条件を設定する際の目安として考慮する。
【0023】
上記原料溶液を加熱する手段として、本発明ではマイクロ波照射を用いる。マイクロ波反応装置は、一般に最大出力が700Wであり0〜700Wの範囲で調整可能である。この出力は反応温度、原料溶液の液量に応じて変え得るが、出力自体は得られる粒径形状に顕著な影響を与えない。
【0024】
反応時間は、反応液量により変化するが、1Lであれば0.5〜5時間、好ましくは0.5〜2時間の範囲で目的とする粒子形状と大きさに応じて選択することができる。0.5時間未満では粒子の収率が悪くなり、5時間を超えると生産量の問題や従来の加熱時間と変わる点がなく効率的とは言えない。更に、反応時間が長くなると球状粒子以外の不定形の結晶性のある棒状や板状の粒子が生じ易くなり凝集が生じるようになる。
【0025】
グループごとの最適時間を説明すると、Cグループでは5時間以内の範囲で幅広く調整できるが、Bグループ、Aグループに推移するに従い、球状粒子を得る条件範囲が狭くなり、加熱時間が長くなると不定形の粒子が析出し易くなるため短時間で反応を終わらせる必要がある。従って、Bグループ、Aグループの反応時間は1〜2時間の範囲で設定することが好ましい。
【0026】
なお、希土類元素を2種以上併用する場合には、上記Aグループの反応条件を採用することが好ましい。これにより、希土類元素を2種以上含有する炭酸塩粒子についても単分散且つ真球状で作製することができる。
【0027】
上記反応により得られる粒子は、SEM(走査型電子顕微鏡観察)、XRD(X線回折)、FTIR(フーリエ変換型赤外分光分析)、TG-DTA(熱分析)によって分析することができる。
【0028】
上記で得られる炭酸塩粒子は、塩基性炭酸塩及び/又はオキシ炭酸塩である。この炭酸塩粒子は、平均粒子径が0.05〜1μmであって、粒度分布の変動係数が15%以内であることが好ましい。この変動係数(CV値)は、次式で示される通り、標準偏差を平均値で除した値である。
【0029】
変動係数(CV値)=標準偏差/平均値
本明細書における平均粒子径は、ディスク遠心式粒度分布測定装置(「model DC20000」、米国CPS Instruments社製)を用いてディスク遠心沈降光透過方式により測定した値である。また、変動係数は、標準偏差/平均値により計算した値である。変動係数が特に10%以下の粒子であれば、コロイド結晶の原料として光学材料に応用でき、2成分系であればY−Eu等の蛍光体材料にもなり得る。Gd粒子であればDDS(薬物搬送システム)などにも使用できる。また、希土類ガラスの原料や研磨材にも利用できる。
【0030】
上記炭酸塩粒子は、加熱脱水又は分解することにより、単分散で真球状の希土類酸化物粒子となる。加熱脱水又は分解の条件は限定されないが、加熱温度は300〜600℃が好ましく、加熱時間は0.5〜2時間が好ましい。加熱脱水又は分解により得られる希土類酸化物粒子の平均粒子径は、加熱前の平均粒子径の5〜10%程度小さくなる。
【発明の効果】
【0031】
本発明の希土類炭酸塩粒子の製造方法は、希土類元素の鉱酸溶液に尿素を添加した原料溶液に、マイクロ波を照射することにより当該原料溶液を加熱する希土類炭酸塩粒子の製造方法であって、前記希土類元素の種類(グループ)に応じた加熱温度を採用するところに特徴がある。このように、希土類元素の種類に応じた加熱温度を採用することにより、単分散且つ真球状の希土類炭酸塩粒子を製造することができる。
【0032】
本発明により、蛍光材、電子材料等で有用な希土類元素の酸化物粒子の原料である希土類元素塩基性炭酸塩粒子の形態が可能になり、より高性能な材料を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】製造例6で作製した1元系粒子(Y)のSEM像である。
【図2】製造例6で作製した2元系粒子(0.95Y-0.05Ho、0.95Y-0.05Pr)のSEM像である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下に製造例を示して本発明を具体的に説明する。但し、本発明は製造例に限定されない。
【0035】
製造例1
希土類元素の酸化物を所定量の濃硝酸に溶解し(但しCeの場合は濃硫酸に溶解し)、白煙が生じなくなるまで加熱した。冷却後水に溶かした。この溶液をメスフラスコにとり尿素を所定量加え、水を加えて1Lとした。この溶液をパイレックス(登録商標)ガラス製の反応容器に移し、マイクロ波反応装置(「μリアクター」、四国計測製)にセットし、マイクロ波(2.54GHz, 700W)で所定時間加熱した。
【0036】
生成した粒子を濾過・水洗し、100℃で乾燥した。得られた粒子をSEM(「S-4100」、日立製)、XRD(「XRD-6100」、島津製)、FTIR(「IRpretege-21」、島津製)、TG-DTA(「DTG-60H」、島津製)、ディスク遠心式粒度分布測定装置(「model DC20000」、米国CPS Instruments社製)により調べた。
【0037】
反応条件としては、希土類イオン濃度を0.004mol/Lとし、尿素添加量については尿素/金属のモル比を10とし、反応液量0.3Lとし、反応温度80℃、90℃又は100℃とし、反応時間5時間とした。得られた粒子の形状及び粒度分布の変動係数(CV値)を、希土類イオンのイオン半径順に下記表1に示す。
【0038】
表1から明らかなように、100℃ではDy(イオン半径:91pm)より小さい元素では大きさの揃った真球状粒子が得られた。一方、Tb(イオン半径:92pm)より大きい元素では、棒状又は板状に近い粒子が得られた。90℃ではGd(イオン半径:94pm)より小さい元素では粒状粒子が得られたが、Eu(イオン半径:96pm)より大きい粒子では棒状又は板状粒子が得られた。80℃では希土類元素の種類によらず球状粒子が得られた。
【0039】
以上のように、得られる粒子の形態は、希土類元素のイオン半径と加熱温度に依存して変化することが分かる。得られた球状粒子は、粒度分布の変動係数が15%以内であり、粒度のバラツキが小さく粒子径が揃っていた。
【0040】
得られた粒子をXRDで分析したところ、球状粒子は非晶質の塩基性炭酸塩又はオキシ炭酸塩であり、棒状粒子又は板状粒子は結晶性の塩基性炭酸塩又はオキシ炭酸塩であった。
【0041】
【表1】

【0042】
〔表1中のCV値は、粒子径100〜110nmの範囲の粒子を選択して測定した値である。〕
製造例2(尿素量による粒子径制御)
Yb3+濃度が0.004mol/L、反応温度100℃、5時間の反応で、尿素添加量を尿素/Yb=10(モル比)から30(モル比)に増やすと、得られる球状粒子の平均粒子径が288nmから134nmになった。これは、尿素添加量を増やすことにより核生成が促進されて小さい粒子が生成し易くなることが理由と考えられる。
【0043】
3+の場合は、尿素添加量を尿素/Y=10(モル比)から30(モル比)に増やすと、得られる球状粒子の平均粒子径が200nmから175nmに減少するがYb3+と比べると減少量が少ない。
【0044】
以上より、イオン半径が小さい希土類元素ほど尿素量の影響が大きく、尿素添加量の調整により平均粒子径の制御ができることが分かる。
【0045】
製造例3(加熱温度による粒子径制御)
Tb3+濃度が0.004mol/L、尿素/Tb=10(モル比)、反応液量0.5L、5時間の反応において、反応温度が100℃の場合には大きい不定形粒子(塩基性炭酸塩)が得られた。
【0046】
他方、反応温度が90℃では平均粒子径850nmと200nmの2種類の真球状粒子の混合物が得られた。また、反応温度が80℃では90℃で得られた粒子よりも粒子径分布が狭くなり、反応温度が低いほど粒子径が揃った。
【0047】
以上より、反応温度が低いほど単分散粒子が生成し易いことが分かる、また、イオン半径が小さいほど結晶化し易く、低温で真球状粒子が得られ易い。
【0048】
製造例4(希土類イオン濃度による粒子形状制御)
3+濃度を0.01mol/L、0.02mol/L又は0.05mol/Lとし、尿素/Y=30(モル比)とし、反応液量0.5Lとし、反応温度100℃とし、3時間反応させた。
【0049】
0.01mol/Lでは平均粒子径298nmの真球状粒子が得られ、0.02mol/Lでは平均粒子径255nmの球状粒子と不定形粒子の混合物が得られ、0.05mol/Lでは平均粒子径213nmの、球状に近い粒子の凝結体と大きい板状粒子の混合物が得られた。
【0050】
以上より、希土類イオン濃度が低濃度であるほど粒径の揃った真球状粒子が得られ易いことが分かる。
【0051】
製造例5(反応時間による粒子径制御)
3+濃度を0.02mol/Lとし、尿素/Y=30(モル比)とし、反応液量0.5Lとし、反応温度90℃とし、1〜3時間反応させた。
【0052】
1時間では平均粒径227nmの粒径の揃った真球状粒子が得られ、2時間では平均粒径273nmの球状粒子と不定形粒子の混合物が得られ、3時間では大きな薄板状粒子のみが得られた。
【0053】
XRDで分析したところ、球状粒子は非晶質の塩基性炭酸塩Y(OH)COであり、板状粒子は結晶性の塩基性炭酸塩Y(OH)COであった。
【0054】
以上より、反応時間が長いほど結晶化が進むため、粒径が揃った球状粒子を得るためには反応時間を短くすることが有効であることが分かる。
【0055】
製造例6(2元系粒子の製造)
2元系の球状粒子として、0.95Y−0.05Ho(モル比)及び0.95Y−0.05Pr(モル比)を作製した。製造条件としては、希土類イオン濃度0.02mol/Lとし、尿素/Y=20(モル比)とし、反応液量0.5Lとし、反応温度100℃とし、2時間の反応で製造した。
【0056】
得られた粒子はいずれも真球状であった。0.95Y−0.05Ho及び0.95Y−0.05PrのSEM観察像(前者Y-Ho、後者Y-Pr)を図2に示す。参考として、希土類元素をYのみとし、他の製造条件は同じとして得られた1元系粒子のSEM観察像を図1に示す。2元系粒子の方が1元系粒子よりも粒径が大きいことが分かる。
【0057】
製造例7(連続反応装置の利用)
連続反応装置を用いて、Gd3+濃度0.02mol/L、尿素/Gd=20(モル比)、反応温度100℃、反応液量10L、流速30ml/minの条件で反応させた。
【0058】
これにより、平均粒子径0.5μmで単分散且つ真球状の塩基性炭酸塩球状粒子が得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
希土類元素の鉱酸溶液に尿素を添加した原料溶液に、マイクロ波を照射することにより当該原料溶液を加熱する希土類炭酸塩粒子の製造方法であって、
前記希土類元素がLa、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm又はEu(Aグループ)であり、前記加熱温度が70〜80℃であることを特徴とする製造方法。
【請求項2】
希土類元素の鉱酸溶液に尿素を添加した原料溶液に、マイクロ波を照射することにより当該原料溶液を加熱する希土類炭酸塩粒子の製造方法であって、
前記希土類元素がGd又はTb(Bグループ)であり、前記加熱温度が70〜90℃であることを特徴とする製造方法。
【請求項3】
希土類元素の鉱酸溶液に尿素を添加した原料溶液に、マイクロ波を照射することにより当該原料溶液を加熱する希土類炭酸塩粒子の製造方法であって、
前記希土類元素がDy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu又はY(Cグループ)であり、前記加熱温度が70〜100℃であることを特徴とする製造方法。
【請求項4】
希土類元素の鉱酸溶液に尿素を添加した原料溶液に、マイクロ波を照射することにより当該原料溶液を加熱する希土類炭酸塩粒子の製造方法であって、
前記希土類元素が、ランタノイド元素にイットリウムを加えた16元素から選択される2種以上であり、前記加熱温度が70〜80℃であることを特徴とする製造方法。
【請求項5】
前記炭酸塩は、塩基性炭酸塩及び/又はオキシ炭酸塩である、請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
前記希土類炭酸塩粒子は、平均粒子径が0.05〜1μmであり、粒度分布の変動係数が15%以内である、請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
前記原料溶液について、
(1)希土類イオン濃度が0.001〜0.1mol/Lであり、
(2)尿素/希土類のモル比が5〜200であり、
(3)液量が0.1〜50Lである、
請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
連続反応装置を用いて行う、請求項1〜7のいずれかに記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−42512(P2011−42512A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−189866(P2009−189866)
【出願日】平成21年8月19日(2009.8.19)
【出願人】(391003598)富士化学株式会社 (40)
【Fターム(参考)】