説明

希釈・分散方式による岩石の間隙水抽出装置

【課題】岩石からの間隙水の抽出を促進し、効率的に間隙水を抽出することができる希釈・分散方式による岩石の間隙水抽出装置を提供する。
【解決手段】岩石21を浸漬する超純水22が貯留される収納容器10と、収納容器10に貯留された超純水22を攪拌する攪拌子12及びスターラ13と、超純水22を採取するシリンジ18とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、希釈・分散方式による岩石の間隙水抽出装置に関し、特に、岩石の間隙水の組成を調査するのに用いて好適なものである。
【背景技術】
【0002】
近年、地下深部の堆積岩を利用した地下施設の研究が進められている。特に、堆積岩は割れ目が少なく、放射性廃棄物の地層処分の母岩として遮蔽性や自己シール機能などの優れた天然バリア特性を持つことから、地下深部の放射性廃棄物処分施設調査への適用を目的とし、研究が各国で進められている。
【0003】
しかしながら堆積岩は間隙率が大きく、間隙水を多く含むため、その利用には、地盤内での水の動きを正確に把握しておくために、地盤の三次元水理地質構造モデルを構築する必要がある。そして、堆積岩地盤の詳細な水理地質構造モデルを構築するには、対象となる地盤の地質、水理、地化学特性を正確に評価することが必要となる。このうち地化学特性については、対象となる地盤に賦存する地下水を原位置で採取し、分析することにより地下水の水質を正確に把握することが重要となる。
【0004】
たとえば深部堆積岩から地下水組成を知るために行われるボーリング掘削では泥水によって地下水が汚染され、原位置地下水を採取することが困難となる。他にも、地盤に高透水層が何層も存在する場合、各地層ごとの間隙水圧の差によって孔内上下に向かう地下水流が生じ、初期状態の地下水を採取することが困難となる。逆に、地盤が低透水の場合、原位置採水装置の能力では地下水の採取が困難であるか長時間を要する。さらに、特定の深度の原位置地下水を採取するためにはパッカーシステムを併用する等の特殊な採水装置が必要であり、費用も膨大となり採水深度が限られる。
【0005】
一方、堆積岩軟岩地盤の地下水は主として岩石の間隙に賦存しており、地盤が低透水の場合には、岩石コアの間隙中から抽出された間隙水が原位置地下水の組成を反映することが多く、地下水水質調査の補完的手段として位置付けることができる。
【0006】
堆積岩の間隙水を抽水する技術としては、遠心分離法及び圧密法が挙げられる。
【0007】
しかしながら、いずれの抽出法も、抽出される水が間隙中に残留するため、間隙水採取量は少なく、数cc水を必要とする分析のために大量の岩石を処理しなければならない場合があるなど作業が煩雑となり、かつ試料が増えることから採取点が広範囲となり採水される間隙水の組成にバラツキを与える原因となる。
【0008】
また、岩石を間隙水の抽出に適した形に成形するときは、岩石の間隙水が蒸発するので、極力短時間で岩石を成形することが必要とされる。このため、岩石の間隙水を抽出する装置としては、岩石の成形を要さないか、又は簡易な成形で済むものが望まれている。
【0009】
【非特許文献1】木方建造・大山隆弘・馬原保典:圧密型岩石抽水装置の製作と深部堆積岩への適用、応用地質、第40巻、第5号、260〜269頁、1999年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記状況に鑑みてなされたもので、岩石からの間隙水の抽出を促進し、効率的に間隙水を抽出することができる希釈・分散方式による岩石の間隙水抽出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するための請求項1に係る本発明の希釈・分散方式による岩石の間隙水抽出装置は、岩石の間隙水を希釈させる流体と当該岩石とを混合させ一緒に収納する収納容器と、前記流体を攪拌して前記岩石に含まれる間隙水の流体への分散を促進する攪拌手段とを備えることを特徴とする。
【0012】
請求項1に係る本発明では、岩石が収納容器に収納され、岩石が流体に浸漬されると、岩石の間隙水に含まれる各種成分は流体に抽出される。この結果、収納容器の流体は、間隙水を希釈したものとなる。これにより、間隙水を分析するに際し、流体を改めて水等で希釈する必要は無く、効率的に間隙水の分析を行うことができる。また、攪拌手段により、岩石の間隙水から希釈溶液への元素の分散は促進されるので、より効率的に間隙水を分析できる。
【0013】
そして、請求項2に係る本発明の希釈・分散方式による岩石の間隙水抽出装置は、請求項1に記載の希釈・分散方式による岩石の間隙水抽出装置において、前記流体を採取する採取手段を備えたことを特徴とする。
【0014】
請求項2に係る本発明では、収納容器内に岩石を収納したまま、岩石の間隙水を採取手段により採取できる。これにより、流体により希釈される間隙水の水質変化を連続的に観察することができる。
【0015】
また、請求項3に係る本発明の希釈・分散方式による岩石の間隙水抽出装置は、請求項1又は請求項2に記載の希釈・分散方式による岩石の間隙水抽出装置において、前記攪拌手段は、前記収納容器に配置された攪拌子を具備するマグネティックスターラであり、前記収納容器には、前記岩石が載置される台座部と前記台座部を支持する脚部とから構成される支持台が立設され、前記支持台の台座部には、前記岩石の径よりも小さな径の貫通孔が設けられていることを特徴とする。
【0016】
請求項3に係る本発明では、支持台を介して岩石が収納容器内に収納されるので、攪拌子の回動が岩石に阻害されることはない。
【0017】
また、請求項4に係る本発明の岩石の間隙水の採取方法は、請求項2又は請求項3に記載する希釈・分散方式による岩石の間隙水抽出装置を用いた岩石の間隙水の採取方法であって、流体に岩石を浸漬すると共に前記攪拌手段により流体を攪拌する工程と、前記攪拌手段を停止させる工程と、前記採取手段で前記収納容器から岩石の間隙水を抽出する工程とを備えることを特徴とする。
【0018】
請求項4に係る本発明では、流体に岩石を浸漬させることで岩石の間隙水が当該流体に抽出され、攪拌手段で攪拌させることで抽出が促進される。また、攪拌手段を停止させることで、液体中の岩石の懸濁物が収納容器の下に沈降する。その後、採取手段により収納容器内の流体を取り出す。取り出した流体の組成は抽出した流体を分析することで求められる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の希釈・分散方式による岩石の間隙水抽出装置及び岩石の間隙水の採取方法は、岩石の間隙水を抽出して効率的に分析することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下本発明の実施形態例を図面に基づいて説明する。図1には本発明の実施形態に係る希釈・分散方式による岩石の間隙水抽出装置の分解斜視、図2には希釈・分散方式による岩石の間隙水抽出装置の使用時の態様、図3には岩石の間隙水が抽出される態様を示してある。なお、図示の実施形態例は例示であり、本発明は以下の説明に限定されない。
【0021】
図1に基づいて希釈・分散方式による岩石の間隙水抽出装置の全体構成を説明する。
【0022】
図1に示すように、本実施形態に係る希釈・分散方式による岩石の間隙水抽出装置は、収納容器10を備えている。収納容器10は、内部に攪拌子12及び支持台14を収納し得る形状に形成された円筒形の容器である。収納容器10には、収納容器10の開口を塞ぐ蓋11が着脱自在に取付けられ、蓋11の側面には、環状のゴムリング26が嵌合されている。ゴムリング26は、蓋11の側面と収納容器10の内面との間隙を埋めるものである。また、蓋11は、ゴムリング26を介して、収納容器10の内面に沿って摺動する。すなわち、蓋11は、収納容器10の開口を塞いだ状態で、上下に移動自在になっている。なお、収納容器10及び蓋11は、耐食の合金、例えばニッケルを主成分とするハステロイ(登録商標)で好適に形成することができる。
【0023】
攪拌子12は、スターラ13と共に攪拌手段を構成するものである。本実施形態では、いわゆるマグネティックスターラを用いている。攪拌子12は、平面視で十字型に形成した平板部材であり、収納容器10内の底部に配設される。
【0024】
スターラ13は、上面に収納容器10が載置され、収納容器10内に配設された攪拌子12を磁力で回動させるものである。詳言すると、スターラ13には、棒状の磁石(図示せず)が設けられており、この磁石は駆動用モータ(図示せず)により水平面内で回動させられる。駆動用モータが回動すると、スターラ13の磁石も回動するので、収納容器10内の攪拌子12は、スターラ13の磁石の回動にあわせて回動する。
【0025】
支持台14は、台座部15と、複数の脚部16(本実施形態では4本)とを具備している。台座部15は、平板部材であり、台座部15の上面には、岩石が載置される。台座部15には、厚さ方向に貫通する貫通孔17が複数個設けられている。この貫通孔17の直径は、台座部15に載置される岩石の径よりも小さい。また、脚部16は、台座部15の下面に取付けられ、先端が下方に向けて延設されている。
【0026】
なお、支持台14の脚部16は、収納容器10内に支持台14が配設されたとき、攪拌子12の回動を阻害しない程度の空間が台座部15の下方に確保されるように形成されている。
【0027】
本実施形態の間隙水抽出装置には、採取手段の一例であるシリンジ18が設けられている。また、蓋11には、厚さ方向に貫通する取水口19が設けられ、シリンジ18は、取水口19を介して収納容器10内部に連通している。
【0028】
図2に基づいて希釈・分散方式による岩石の間隙水抽出装置の使用時の態様を説明する。
【0029】
図2に示すように、スターラ13の上面には、収納容器10が載置されている。収納容器10内の底部には、攪拌子12が配設され、攪拌子12を覆うように支持台14が配設されている。更に、支持台14の台座部15には、岩石21が載置されている。
【0030】
ここで収納容器10に予め重量を計測した流体の一例である超純水22を注ぎ込み、岩石21を浸潰させる。収納容器10の開口を蓋11で塞ぎ、収納容器10内の上部に溜まった大気を取水口19を介してシリンジ18から排気させる。このとき、収納容器10に溜まった大気と一緒に超純水22がシリンジ18に排出させられた場合は、シリンジ風体とシリンジの総重量から排出させられた超純水22の重量を測定した上で、これは廃棄する。
【0031】
スターラ13の駆動用モータの回動により攪拌子12が回動すると、超純水22が攪拌される。なお、支持台14の貫通孔17は、攪拌子12により攪拌される超純水22の通り道となるものであり、超純水22の攪拌を円滑にするために設けられている。
【0032】
攪拌により、岩石21に含まれる間隙水が岩石21外に流出し、超純水22に混合し、次第に超純水22は、間隙水を希釈したものとなる。以下、超純水22で希釈された間隙水を希釈間隙水と称する。
【0033】
収納容器10内の希釈間隙水(超純水22)の採取に際しては、スターラ13を停止して攪拌を停止させ、岩石21の懸濁物を収納容器10の下に沈降させたうえで、収納容器10を塞ぐ蓋11を下方に移動させることにより行う。蓋11の移動により、希釈間隙水(超純水22)は蓋11に押圧され、シリンジ18に押出される。このように、シリンジ18は、大気との接触なしに希釈間隙水の採取を可能としている。
【0034】
この希釈間隙水の組成は、別途求めた岩石の含水比から抽出に使用した岩石に含まれる間隙水の量を算出し、当該間隙水を希釈させる超純水との混合比を計算し、この混合比を抽出した希釈間隙水の分析値に乗ずることで求められる。
【0035】
この希釈間隙水の組成(X)は、別途求めた岩石の含水比から抽出に使用した岩石に含まれる間隙水の量(g)(A)を算出し、当該間隙水(B)を希釈させる超純水(g)(C)との混合比(D)を計算し、この混合比(D)を抽出した希釈間隙水の分析値(E)に乗ずることで求められる(下記数1参照)。
【0036】
【数1】

【0037】
上記構成の希釈・分散方式による岩石の間隙水抽出装置では、岩石21は超純水22に浸漬されるので、岩石21に含まれる間隙水から、当該間隙水に溶存する成分が、岩石21外部に抽出され、超純水22に混合する。すなわち、超純水22は間隙水を希釈したものとなる。そして、間隙水の成分が溶存する超純水22をシリンジ18に採取できるので、岩石21の間隙水を分析することが可能となっている。
【0038】
また、スターラ13を稼働させると攪拌子12の回動により、収納容器10内の超純水22が攪拌されるので、岩石21の間隙水の抽出を短時間で行える。
【0039】
図3に基づいて、岩石21の間隙水の抽出を短時間で行えることを詳細に説明する。
【0040】
図3に示すように、岩石21の間隙には、地下水等の間隙水23が存在する。間隙水には、間隙水の成分の一例であるナトリウム(Na)が溶存している。一方、収納容器10(図1、図2参照)には希釈された間隙水を分析する方法(イオンクロマトグラフやICP分析)ではイオンの存在を検知できない超純水22が貯留されている。間隙水23と超純水22とではナトリウムイオンの濃度が異なるので、この濃度の勾配により、ナトリウムイオンが超純水22に移動することになる。
【0041】
ここで、攪拌子12による超純水22の攪拌が行われないとすると、岩石21の近傍においては超純水22のナトリウムイオンの濃度は高くなる。したがって、ナトリウムイオンの濃度の勾配が小さくなることになるので、ナトリウムイオンが超純水22に抽出し難くなる。もちろん、超純水22のナトリウムイオンの濃度は徐々に均質化するが、時間が掛かる。
【0042】
一方、攪拌子12により超純水22の攪拌が行われると、超純水22のナトリウムイオンの濃度が均質化されるので、岩石21の近傍にてナトリウムイオンの濃度の勾配が小さくならず、岩石21の間隙水23のナトリウムイオンの抽出を短時間で行える。
【0043】
以上説明したように、本実施形態の希釈・分散方式による岩石の間隙水抽出装置では、岩石21の間隙水23からナトリウムイオン等の各種成分が超純水22に抽出し、シリンジ18で希釈間隙水として採取することができる。この結果、岩石21の間隙水23の水質を分析することができる。また、攪拌子12及びスターラ13を用いることで、短時間で間隙水23の抽出を行える。
【0044】
また、岩石21から抽出したイオンナトリウムなどの各種成分は、超純水22に溶け込むことになるので、岩石21の間隙水23は超純水22で希釈されたことになる。よって、従来技術においては、間隙水を抽出し、この間隙水を分析するに際し、間隙水を水で希釈するという作業を要していたが、本発明では希釈する作業は不要となるので、効率的に間隙水を分析できる。
【0045】
他に、図2に示したように、岩石21は、収納容器10内に収まればよく、岩石21の成形に複雑な作業は要求されないので、岩石21の成形時に間隙水が蒸発することを極力抑えることができる。
【0046】
更に、収納容器10に封止されたままの水をシリンジ18で採取できるので、超純水22の水質の変化を連続的に観察することができる。
【0047】
なお、収納容器10としては、本実施形態により示されたものに限定されない。例えば、シリンジであってもよい。シリンジは、容積が可変であるため、試料の大きさにあわせた容積の収納容器を提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、岩石に含まれる間隙水を採取し、検証する産業分野で利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の実施形態に係る希釈・分散方式による岩石の間隙水抽出装置の分解斜視図である。
【図2】希釈・分散方式による岩石の間隙水抽出装置の使用時の態様を示す図である。
【図3】岩石の間隙水が抽出される態様を示す概念図である。
【符号の説明】
【0050】
10 収納容器
11 蓋
12 攪拌子
13 スターラ
14 支持台
15 台座部
16 脚部
17 貫通孔
18 シリンジ
19 取水口
21 岩石
22 超純水
23 間隙水
26 ゴムリング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
岩石の間隙水を希釈させる流体と当該岩石とを混合させ一緒に収納する収納容器と、
前記流体を攪拌して前記岩石に含まれる間隙水の流体への分散を促進する攪拌手段とを備えることを特徴とする希釈・分散方式による岩石の間隙水抽出装置。
【請求項2】
請求項1に記載の希釈・分散方式による岩石の間隙水抽出装置において、
前記流体を採取する採取手段を備えたことを特徴とする希釈・分散方式による岩石の間隙水抽出装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の希釈・分散方式による岩石の間隙水抽出装置において、
前記攪拌手段は、前記収納容器に配置された攪拌子を具備するマグネティックスターラであり、
前記収納容器には、前記岩石が載置される台座部と前記台座部を支持する脚部とから構成される支持台が立設され、
前記支持台の台座部には、前記岩石の径よりも小さな径の貫通孔が設けられていることを特徴とする希釈・分散方式による岩石の間隙水抽出装置。
【請求項4】
請求項2又は請求項3に記載する希釈・分散方式による岩石の間隙水抽出装置を用いた岩石の間隙水の採取方法であって、
流体に岩石を浸漬すると共に前記攪拌手段により流体を攪拌する工程と、
前記攪拌手段を停止させる工程と、
前記採取手段で前記収納容器から岩石の間隙水を抽出する工程と
を備えることを特徴とする岩石の間隙水の採取方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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