説明

帯状フレキシブル材の搬送装置

【課題】帯状フィルム材を、テンションローラを通して搬送する際、帯状フィルム材のスリップ防止を図ることによって帯状フィルム材に傷を発生させないこと。
【解決手段】搬送装置内に、スリップ防止機能を備えたブレーキローラ装置を配置する。ブレーキローラ装置に、固定軸部16と多数の吸着孔171を形成した回動ローラ17とを備える吸着ローラ15を装着する。固定軸部16は、支持台に把持される小径軸部161と回動ローラ17に内嵌するロール部162を備える。小径軸部161とローラ部162に空気通路163を形成するとともにローラ部162の外周面の一部に平面部164を形成する。平面部164と回動ローラ17の内周面との間に空気室21を設けることによって、空気室21に対向する回動ローラ17の吸着孔171から帯状フィルム材を吸着させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、帯状フレキシブル材の搬送装置に関し、さらに、帯状フレキシブル材が帯状フィルム材であって、帯状フィルム材を搬送する際に、帯状フィルム材がテンションローラとの間でスリップすることを防止するためのスリップ防止装置を備えた帯状フィルム材の搬送装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、柔軟性を有する基板としてフィルム材で形成された基板が電子機器に多用されるようになってきた。このフィルム材を、例えば、プレス機械で加工する際、生産性を向上するために、コイル状に巻装された状態でフィルム材を巻戻し、加工後に巻き取るようにしたプレスラインが設置されている。このプレスラインでは、送り装置で搬送されたフィルム材を、テンションを掛けながら送るように構成されている。フィルム材は、柔軟性を有するとともに薄板状に形成されているために搬送時においては滑り易いことから、テンションローラでテンションを掛けながら送る際にスリップし易く、また、幅の広いフィルム材ではシワを形成してしまうことがあった。フィルム材が、テンションローラとの間でスリップすると、フィルム材自体に傷をつけてしまうことになり、不良品を作ることとなっていた。このために従来においては、テンションローラに空気孔を形成して、フィルム材を吸着することが行われていた。
【0003】
例えば、図8に示すテンションローラ(以下、吸着ローラという。)30は、加工していない帯状紙部材を送るものに適用され、固定軸部31と、固定軸部31の外周面に外嵌する回動ローラ32とを備えている。回動ローラ32には、幅方向の所定寸法内で全周面にわたって多数の空気孔(又は吸着孔)33が形成されている。固定軸部31には、端面から中央部に向かって軸方向に沿って空気通路34が形成されている。空気通路34は、先端部において回動ローラ32の吸着孔33に向かって、軸方向と直交する方向に屈曲して形成されている。そして、固定軸部31の端面に図示しないホースを接続して図示しない吸引機に連結することによって、吸引機の作動で、回動ローラ32の吸着孔33から空気を吸込んでフィルム材を回動ローラ32の外周面に密着できるように構成されていた。
【0004】
また、フィルム材のシワ防止構造が、特許文献1によって知られている。これによると、シワ防止構造は、平面加工された吸着プレートを備えてフィルム材をトルク制御駆動モータで搬送するように構成している。このモータは、平面プレートの両側に設置され、搬送されるフィルム材に張力を付与して弛み防止をするとともに、フィルム材の幅方向に、フィルム材の搬送方向と直交する方向に張力を付勢する引っ張り機構を配置させている。これによって、フィルム材は、搬送方向と、搬送方向と直交する方向に張力が付与されるから、シワ防止を行うことができることとなっていた。つまり、フィルム材の加工時にフィルム材のシワ防止を行ってフィルム材を平坦状にしているものである。
【特許文献1】特開平10−1243号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、プレスラインでフィルム材を加工する際、通常、コイル状のフィルム材を巻き解し、プレス加工した後、再び巻き取る工程で行われることが一般的である。この一連の工程の中では、フィルム材に緩みや弛みが発生することにより、プレス加工工程やフィルム材を巻き取る巻取り工程で不具合が生じることとなる。つまり、プレス加工の際にフィルム材に緩みや弛みが発生していると正確な加工ができない現象が発生する。また、加工が終了したフィルム材は、一定の硬さに巻取りしないと、コイル状にしてから巻きずれ、横ずれが発生してフィルム材の表面に傷が付いてしまう。
【0006】
このため、プレス加工の前後にフィルム材にテンションを加えるためのブレーキローラが必要となる。このとき、ブレーキローラにはフィルム材のテンションに応じて強さを変えるブレーキ部位が連結される。しかし、ローラの回転トルクが大きくなるにしたがい、ブレーキローラの外周面と、フィルム材との間にスリップが発生するようになる。この現象を回避するため、フィルム材をブレーキローラに巻き付ける角度を大きくする手段を採用しているのが一般的になっている。しかし、フィルム材をブレーキローラの外周面全周にわたって巻き付けることは構造上不可能であり、図8に示す吸着ローラ30の全周面に形成された吸着孔33は、フィルム材に接触しない箇所が発生する。
【0007】
フィルム材に接触しない吸着孔33は、外部の空気を吸込むことになるから、実際に吸着ローラ30の吸着孔33からフィルム材を吸着する吸着力は低減してしまい、その結果、フィルム材が移動する際、吸着ローラ30が同じ周速を保持して回転することができず、スリップ現象を起こしてしまうこととなっていた。また、例えば孔加工が施されたフィルム材を送る際にも、吸着ローラ30に当接しているフィルム材の部位には、加工した孔から空気を吸込むことになるから、その部位においても、スリップを発生し易いこととなっていた。そのために、吸着ローラ30の見直しが要望されていた。
【0008】
また、特許文献1の場合、吸着プレートではフィルム材を吸着できるものの、吸着プレートで吸着する時点はフィルム材の停止時であり、フィルム材の移動時に吸着しているものではない。つまり、供給ローラ自体でフィルム材を吸着しているわけではない。そのため供給ローラとフィルム材との間でスリップ現象を起こす可能性がある。供給ローラとフィルム材との間でスリップ現象を起こすと、やはりフィルム材に傷を発生させて不良品を作ることとなっていた。
【0009】
さらに、プレス加工の際にフィルム材を緊張させる手段として、送り装置でフィルム材を送った後に、ダンサローラ機構を設けてフィルム材の緩みや弛みを防止することも一部で行われていた。しかし、ダンサローラを使用する場合、送り装置がフィルム材を急速に送るため、ダンサローラ機構によっては形成されるループが、急速に下方に下がり、ダンサローラ自体も重力で下降することになる。これによって、プレス加工済製品に変形を発生させたり、材料の伸びが発生したりすることとなって、製品不良につながる虞があった。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上述の課題を解決するものであり、加工していないフィルム材を加工機に向かって送る際、フィルム材に傷を発生させないで加工機に送るとともに、加工したフィルム材を巻装する場合においても、フィルム材に傷を発生しない帯状フレキシブル材の搬送装置を提供することを目的とする。そのため、以下のように構成するものである。すなわち、
請求項1記載の発明では、帯状フレキシブル材を加工する加工機と、前記加工機にコイル状の前記帯状フレキシブル材を巻き解して搬送する供給装置と、前記加工機で加工された前記帯状フレキシブル材を巻き取る巻取り装置とを備え、前記帯状フレキシブル材を、テンションローラを通して送る際に、前記帯状フレキシブル材がスリップすることを防止するためのスリップ防止装置を備えた帯状フレキシブル材の搬送装置であって、前記スリップ防止装置が、支持台に支持された固定軸部と、前記固定軸部に回動可能に外嵌する回動ローラと、前記回動ローラに連結されて前記回動ローラの回転トルクを調整可能なブレーキ部と、を備えて構成され、前記固定軸部には、吸引機に接続された空気通路が形成され、前記回動ローラには、内周面から外周面に向かって多数の吸着孔が全周にわたって形成され、前記固定軸部と前記回動ローラとの間には、前記固定軸部の空気通路に連接される空気室が、一部の前記吸着孔に対向して形成されていることを特徴とするものである。
【0011】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明に係るものであって、前記空気室が、前記固定軸部の外周面の一部を切り欠いた部位と前記回動ローラの内周面との間に形成されていることを特徴としている。
【0012】
請求項3記載の発明は、請求項2記載の発明に係るものであって、前記切り欠いた部位における軸方向の幅の長さが、多数に形成された前記可動ローラの吸着孔の軸方向の幅の長さより長く形成されていることを特徴としている。
【0013】
請求項4記載の発明は、請求項1乃至3記載の発明に係るものであって、前記スリップ防止装置は、前記加工機と前記供給装置及び前記加工機と前記巻取り装置との間にそれぞれ配設されていることを特徴としている。
【0014】
請求項5記載の発明は、請求項4記載の発明に係るものであって、前記加工機の出口側には前記加工機で加工された前記帯状フレキシブル材を搬送する送り装置が配設され、前記送り装置と前記巻取り装置の入口側に配設された前記スリップ防止装置との間には、前記回動ローラの回転トルクを調整可能なブレーキ部及び前記回動ローラを回動可能なモータを装着した第2のスリップ防止装置が配設されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0015】
本発明の請求項1記載の構成によれば、コイル状の帯状フレキシブル材は供給装置で解されてスリップ防止装置を通って加工機に供給され、加工機で加工された後、スリップ防止装置を通って巻取り装置に巻き取られる。この際、スリップ防止装置においては、帯状フレキシブル材は、回動ローラに吸着されつつ回動ローラの外周面に巻回されながら搬送される。
【0016】
回動ローラには、幅方向の所定範囲の長さ分、全周にわたって多数の吸着孔が形成されている。回動ローラは、ブレーキ部によって回転トルクが調整された状態で、固定軸部に対して回動可能に設けられている。回動ローラの外周面を走行する帯状フレキシブル材は、全周にわたって形成された吸着孔のいずれかの吸着孔によって吸着される。加工機から搬送された帯状フレキシブル材は、吸着孔で吸着されつつ回動ローラの回転により前方に向かって走行する。
【0017】
一方、固定軸部の外周面と回動ローラとの間には空気室が形成され、吸引機の作動によって負圧室が形成されることとなる。この空気室は、回動ローラの吸着孔に対向する位置において固定軸部の外周面の一部に形成されることから、固定軸に対して回動する回動ローラの吸着孔が空気室を通るときに帯状フレキシブル材を吸引することになる。そのため、回動ローラの全周面にわたって吸着孔が形成されていても、空気を吸引するのは、空気室に対向する位置に移動される吸着孔によるから、空気室に移動しない他の吸着孔から空気を吸込まない。従って、帯状フレキシブル材の吸着は集中的に行われることとなって、帯状フレキシブル材を密着させることができスリップ現象を起こさない。
【0018】
また、本発明の請求項2の構成によれば、空気室は、固定軸部の外周面に切り欠いた部位を形成することによって回動ローラの内周面との間で形成される。したがって、空気室を容易に形成できることから廉価なコストで搬送装置を製作することができる。
【0019】
また、本発明の請求項3の構成によれば、空気室の軸方向における幅の長さが、回動ローラの軸方向における吸着孔の幅の長さより長く形成されているため、可動ローラに形成された吸着孔は、切り欠いた部位内、つまり空気室内に空気を導入できることとなって、空気の外部への漏れを防止でき吸着効率を向上することができる。
【0020】
また、本発明の請求項4の構成によれば、このスリップ防止装置を備えた送りローラは、加工機で加工されていない無垢の帯状フレキシブル材を送る場合や加工機で加工されて孔があいている帯状フレキシブル材を送る場合において、帯状フレキシブル材を確実に回動ローラに密着させて、スリップ現象を起こすことなく前方に搬送することができる。
【0021】
さらに本発明の請求項5の構成によれば、送り装置の出口と巻取り装置の入口側に配設されたスリップ防止装置との間に第2のスリップ防止装置を配設する。第2のスリップ防止装置に配設されたモータが、回動ローラを加工機の送り速度より速い速度で回転させることによって、巻取り装置の入口側に配設されたスリップ防止装置との間で、一定の張力を付加することができる。つまり、前述のスリップ防止装置のブレーキを強くして帯状フレキシブル材を停止している状態にセットすることによって、送り装置の搬送停止持に帯状フレキシブル材を送らないリリース状態にあっても、帯状フレキシブル材は、張力のかかった状態で停止して加工を正確に行なうことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
次に、本発明の帯状フレキシブル材の搬送装置の実施形態について図面に基づいて説明する。なお、実施形態において、帯状フレキシブル材は、樹脂製のフィルム材で説明し、加工機はプレス機で説明するものとする。もちろん、樹脂製のフィルム材に限定するものではなく、フレキシブル状に形成され、傷の発生を嫌うものであれば、例えば金属製の材料又は紙製の材料においても適用できるものである。
【0023】
図1は、帯状フレキシブル材の搬送装置の実施形態としてフィルム材のプレス加工ラインMの全体を示す正面図であり、プレス機1を間にして、供給装置(以下、アンコイラという)3と巻取り装置5が一対配置されている。
【0024】
アンコイラ3には、加工されていない無垢の帯状フィルム材(以下、帯状フィルム材という。)F1がリール4に巻装されている。帯状フィルム材F1は、リール4から巻き解されてピンチローラ2で走行案内されながら、アンコイラ3の出口側に配置されたスリップ防止装置としてのテンションローラ(以下、ブレーキローラ装置という。)10で、ブレーキをかけられながら、送り装置7によりプレス機1に送られる。プレス機1の両側には、アンコイラ3側に送りガイド6が装着され、巻取り装置5側に前述の送り装置7が装着されている。巻取り装置5には、入口側にブレーキローラ装置10を配置するとともに、プレス機1で加工された加工済フィルムFを巻き取る巻取りリール8が配置されている。
【0025】
ブレーキローラ装置10は、アンコイラ3の出口側と巻取り装置5の入口側のそれぞれに配置されている。送り装置7側と巻取り装置5側に配置された一方のブレーキローラ装置10との間には、第2のブレーキローラ装置10Aが配置されている。第2のブレーキローラ装置10Aと、巻取り装置5側のブレーキローラ装置10との間には、ループ9が形成されている。
【0026】
図2は、本発明を実施するためのブレーキローラ装置10を示すものであり、ブレーキローラ装置10は、架台11に支持されるとともに吸着ローラ15を備えている。吸着ローラ15は、固定軸部16と回動ローラ17とを備えて構成され、固定軸部16が架台11に装着された一対の軸把持部121、121を備えた固定軸部側支持台12に支持されている。回動ローラ17は、一端に駆動軸18が装着され、駆動軸18が回動ローラ側支持台13に回動可能に支持されている。回動ローラ側支持台13に支持された駆動軸18の先端軸部は、カップリング19を介してブレーキ部20が装着され、回動ローラ17の回転トルクを調整可能に構成されている。
【0027】
図3は、本発明を実施するための第2のブレーキローラ装置10Aを示すものであり、ブレーキローラ装置10の構成に加えて、回動ローラ17を回動可能に配置する駆動モータ22を備えている。つまり、第2のブレーキローラ装置10Aは、架台11に支持されるとともに吸着ローラ15を備えている。吸着ローラ15は、固定軸部16と回動ローラ17とを備えて構成され、固定軸部16が架台11に装着された一対の軸把持部121、121を備えた固定軸部側支持台12に支持されている。回動ローラ17の一端に駆動軸18が装着され、駆動軸18が回動ローラ側支持台13に回動可能に支持されている。
【0028】
回動ローラ側支持台13に支持された回動ローラ17の先端軸部は、カップリング19を介してブレーキ部20が装着され、さらにブレーキ部20の先端に駆動モータ22が装着されている。ブレーキ部20は、回動ローラ17の回転トルクを調整可能に構成され、駆動モータ22は回動ローラ17を回動可能に配置されている。
【0029】
ブレーキローラ装置10及び第2のブレーキローラ装置10Aを構成する吸着ローラ15の固定軸部16は、図4〜5に示すように、軸把持部121(図2、3参照)に把持される小径軸部161と回動ローラ17に内嵌されるローラ部162を備えている。小径軸部161はローラ部162の一端側に配置され、2個一対の軸把持部121、121に把持されて固定されている。小径軸部161とローラ部162内には、軸心を通る空気通路163が軸心に沿って形成されている。空気通路163は、軸心に沿って形成される第1の通路163aと、ローラ部162内でローラ部162の径方向に向かって直交する第2の通路163bとで形成されている。一方、ローラ部162の外周面の一部には、平面状に切り欠かれた平面部164が形成され、空気通路163の第2の通路163bが平面部164に連通されている。また、空気通路163は、図示しない吸引機にホースを介して接続され、吸引機の作用で空気通路163内の空気を吸引する。これによって空気通路163内は真空となって、帯状フィルム材F1あるいは加工済フィルムFを回動ローラ17上に密着させて走行させる。
【0030】
回動ローラ17は、ウレタンゴム等の弾性部材で形成され、固定軸部16のローラ部162に軸受を介して外嵌する円筒状に形成されている。回動ローラ17の幅方向の所定寸法内に全周にわたって多数の吸着孔171が並列状に形成されるとともに、固定軸部16の小径軸部161と反対側の端面に駆動軸18が装着されている。駆動軸18は、回動ローラ17の端面にねじ手段で固定されるとともに、固定軸部16端面側に凹部181が形成されている。凹部181内に軸受が配置されて、ローラ部162の端面から突出する突出軸162aに対して回動可能に外嵌されるとともに、回動ローラ側支持台13に回動可能に支持される回動軸部182を備えている。回動軸部182は、回動ローラ側支持台13に軸受を介して回動可能に内嵌されるとともに、回動軸部182の先端には回動軸部182より小径の先端軸部183が形成されている。先端軸部183はカップリング19を介してブレーキ部20に連結されている。ブレーキ部20は、回動軸部182の回転トルクを調整可能に構成されている。
【0031】
固定軸部16に形成されたローラ部162の平面部164の幅方向に延設する長さは、回動ローラ17に形成された多数の吸着孔171の幅方向の長さより長く形成され、この平面部164を形成することにより、固定軸部16と回動ローラ17との間に空間部が形成されることになる。この空間部が空気室21として形成されることとなる。
【0032】
次に、上述のように構成されたプレス加工ライン及びブレーキローラ装置10、第2のブレーキローラ装置10Aの作用について説明する。このプレス加工ラインMは、図示しない制御装置によって作動される。作動前の準備工程によって帯状フィルム材F1をアンコイラ3、プレス機1、巻取り装置5に通した後、制御装置の起動ボタンを押すことによって、リール4、巻取りリール8、ブレーキローラ装置10がともに回転され、帯状フィルム材F1がプレス機1に向かって送給される。帯状フィルム材F1は、プレス機1で所定の加工が行なわれ、加工済フィルムFとして巻取りリール8で巻き取られる。この際、帯状フィルム材F1は、アンコイラ3側に配置されたブレーキローラ装置10上を走行することになる。
【0033】
ブレーキローラ装置10に形成された空気室21は、帯状フィルム材F1(又は加工済フィルムF)と回動ローラ17の外周面との接触部位に対向するように形成されている。
【0034】
つまり、アンコイラ3側に配置されたブレーキローラ装置10の場合、図6に示すように、帯状フィルム材F1は、下方から上方に向かって流れ、吸着ローラ15における回動ローラ17の外周面の一部を巻回した後、水平方向に向かって流れる。そのため、第2の通路163b及び空気室21が略45度斜め上方に沿って配置される。
【0035】
ブレーキローラ装置10が作動されると、吸着ローラ15における回動軸部182が一方の方向に回転するとともに、吸引機が作動して空気通路163内の空気を吸込んで空気室21を真空状態にする。回動軸部182は、回動軸部182の回転トルクを重くするか又は軽くするかによって、ブレーキ部20で調整されている。これによって、空気室21は負圧状態となり回動ローラ17の吸着孔171から空気を吸込み、回動ローラ17に巻き付けられた位置にある吸着孔171によって帯状フィルム材F1が回動ローラ17に密着される。帯状フィルム材F1は送り装置7によって前方に移動されている。吸着により回動ローラ17に密着された帯状フィルム材F1は、回動ローラ17が回転することによりアンコイラ3側のブレーキローラ装置10のブレーキ部20の作動によりテンションがかかった状態で、前方のプレス機1に向かって走行する。
【0036】
この際、帯状フィルム材F1が回動ローラ17に巻き付けられていない位置にある吸着孔171は、固定軸部16のローラ部162とわずかな隙間はあるものの、ローラ部162に妨げられて外からの空気をほとんど吸込まない。したがって、帯状フィルム材F1を回動ローラ17の外周面に吸着させる吸着力は、空気室21に対向する部位において集中的に発揮できて、帯状フィルム材F1を確実に吸着することができる。
【0037】
次に、プレス機1で加工された加工済フィルムFは、送り装置7で巻取り装置5側に送給される。この際、第2のブレーキローラ装置10Aに配置された駆動モータ22は、回動ローラ17をプレス機1の送り速度より速い速度で回転させている。これによって、送り装置7と巻取り装置5側のブレーキローラ装置10との間で、加工済フィルムFに、一定の張力を付加することができる。
【0038】
つまり、間欠運動する送り装置7が、送り装置7の推力により加工済フィルムFの搬送を停止した状態から搬送開始する際に、張力を付与されて停止状態にある加工済フィルムFを把持できることから、加工済フィルムFに緩みや弛みを生じさせない。また、送り装置7が搬送された加工済フィルムFの搬送を停止する際に、回動ローラ17はブレーキ部20でトルク調整されているから、送り装置7の推力による加工済フィルムFの搬送を停止することによって、加工済フィルムFは緩みや弛みを発生させずに停止する。
【0039】
第2のブレーキローラ装置10Aを通過した加工済フィルムFは、ループ9を介して巻取り装置側のブレーキローラ装置10に送給される。このブレーキローラ装置10の場合、図7に示すように、加工済フィルムFは下方から上方に向かって流れ、回動ローラ17の上端部を巻回した後、下方に向かって流れる。そのため、吸着ローラ15における空気通路163の第2の通路163b及び空気室21は略上方に向かって配置されることとなる。
【0040】
なお、実施形態の空気室21の大きさは、図5に示すように、固定軸部16の平面部164の幅寸法の長さLによって設定されている。つまり、平面部164の幅寸法の長さLは、空気通路163の第1の通路163aの中心位置Cから平面部164の両端部を結ぶ直線の間で形成された角度Θによって設定され、角度Θが略60°〜90°となるように形成されている。
【0041】
この巻取り装置5側のブレーキローラ装置10の作用は、アンコイラ3側の作用と同様であり、つまり、巻取り装置5側のブレーキローラ装置10が作動されると、吸着ローラ15における回動軸部182が一方の方向に回転するとともに、吸引機が作動して空気通路163内の空気を吸込んで空気室21を真空状態にする。回動軸部182は、回動軸部182の回転トルクを重くするか又は軽くするかによって、ブレーキ部20で調整されている。これによって、空気室21は負圧状態となり回動ローラ17の吸着孔171から空気を吸込み、回動ローラ17に巻き付けられた位置にある吸着孔171によって加工済フィルムFが回動ローラ17に密着される。加工済フィルムFは巻取り装置5のモータで巻き取られることにより移動されている。吸着により回動ローラ17に密着された加工済フィルムFは、回動ローラ17が回転することにより巻取り装置5側のブレーキローラ装置10のブレーキ部20の作動によりテンションがかかった状態で、巻取りリール8に向かって走行する。これによって、加工済フィルムFは巻取りリール8に巻き取られることとなる。
【0042】
上述のように、実施形態のブレーキローラ装置10は、吸着ローラ15内に負圧を形成することによって、帯状フィルム材F1(又は加工済フィルムF)を回動ローラ17に吸着可能に構成することが可能となる。例えば、固定軸部16と回動ローラ17との一部に空気室21を設けることによって帯状フィルム材F1(又は加工済フィルムF)を回動ローラ17の外周面に確実に密着させることができる。そのため、スリップ現象を発生しないことから、帯状フィルム材F1(又は加工済フィルムF)を回動ローラ17によって傷を付ける虞がない。
【0043】
また、送り装置7と巻取り装置5側のブレーキローラ装置10との間に駆動モータ22を装着した第2のブレーキローラ装置10Aを配置して、第2のブレーキローラ装置10Aの回動ローラ17をプレス機1の送り速度より速く回転させることによって、送り装置7とアンコイラ3側のブレーキローラ装置10との間で、プレス機1から搬送された加工済フィルムFに張力を付与することができる。したがって、送り装置7のリリース時においては、張力が付加された加工済フィルムFを移動させることなく停止状態にセットすることができることから、送り装置7が、加工済フィルムFを搬送停止状態から搬送させる際に、停止状態にある加工済フィルムFを確実に把持して送給することができる。そのため、重力で加工済フィルムFを移動させる虞のあるダンサローラを装着しないで構成することができる。
【0044】
さらに、回動ローラ17の回転はブレーキ部20によって回転トルクが調整されるから、帯状フィルム材F1の幅や厚みの寸法、あるいは表面租度がそれぞれ別に形成されていても、適度な回転トルクで帯状フィルム材F1又は加工済フィルムFを送ることができる。
【0045】
なお、ブレーキ部20の代わりにトルク制御モータを取り付けてもよい。トルク制御モータを取り付けることによって、フィルム材のバタツキを防止することができる。つまり、薄板状の帯状フィルム材F1(又は加工済フィルムF)は、アンコイラ3内の吸着ローラ15を通って、プレス機1に搬送される間、あるいは、プレス機1から搬出されて巻取り装置5の吸着ローラ15に搬送される間に、バタツキ現象が発生し易い。この間に帯状フィルム材F1(又は加工済フィルムF)に搬送方向に沿って張力を付与することによって、バタツキ現象は防止される。この搬送方向の張力を、トルク制御モータの回転トルク調整で付与ことによって、高速時においても材料のバタツキ現象を防止することができることとなる。バタツキ現象が発生すると材料に傷を付け易くなるため、必要に応じて、ブレーキ部20の代わりにトルク制御モータを取り付けることが望ましい。
【0046】
また、空気室21の、固定軸部16の軸心に対する角度位置は、帯状フィルム材F1(又は加工済フィルムF)の流れる方向に沿って適宜調整されることが望ましい。また、空気室21の形状は、固定軸部16のローラ部162の外周面と回動ローラ17の内周面との間に空間部を形成するものであれば、特にローラ部162の外周面を平面状に形成するものでなくてもよい。
【0047】
また、吸着ローラ15の構成を上述の形態に限定するものではない。例えば、固定軸部16の両端に小径軸部161を設けて架台11に支持するとともに、回動ローラ17をローラ部162に回動可能に装着する。そして、回動ローラ17を駆動する駆動軸18を固定軸部16におけるいずれか一方の小径軸部161に回動可能に配置して、ブレーキ部20あるいはトルク制御モータに連結手段を介して連結させてもよい。
【0048】
さらに、帯状フィルム材を加工する加工機は、プレス機でなくても他の加工機でも適用することはできる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明のフレキシブル部材の搬送装置を含めたプレス加工ライン全体を示す正面図である。
【図2】図1におけるブレーキローラ装置を示す一部正面断面図である。
【図3】図1における第2のブレーキローラ装置を示す一部正面断面図である。
【図4】図2における吸着ローラの構成を示す一部正面断面図である。
【図5】同断面図である。
【図6】アンコイラ側に配置した吸着ローラにおける空気室の位置を示す断面図である。
【図7】巻取り装置側に配置した吸着ローラにおける空気室の位置を示す断面図である。
【図8】従来の吸着ローラを示す一部断面図である。
【符号の説明】
【0050】
1、プレス機
3、アンコイラ
4、リール
5、巻取り装置
8、巻取りリール
10、ブレーキローラ装置
10A、第2のブレーキローラ装置
15、吸着ローラ
16、固定軸部
161、小径軸部
162、ローラ部
163、空気通路
164、平面部
17、回動ローラ
171、吸着孔
18、駆動軸
20、ブレーキ部
21、空気室
22、駆動モータ
M、プレス加工ライン
F、加工済フィルム
F1、帯状フィルム材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
帯状フレキシブル材を加工する加工機と、前記加工機にコイル状の前記帯状フレキシブル材を巻き解して搬送する供給装置と、前記加工機で加工された前記帯状フレキシブル材を巻き取る巻取り装置とを備え、前記帯状フレキシブル材を、テンションローラを通して送る際に、前記帯状フレキシブル材がスリップすることを防止するためのスリップ防止装置を備えた帯状フレキシブル材の搬送装置であって、
前記スリップ防止装置が、支持台に支持された固定軸部と、前記固定軸部に回動可能に外嵌する回動ローラと、前記回動ローラに連結されて前記回動ローラの回転トルクを調整可能なブレーキ部と、を備えて構成され、
前記固定軸部には、吸引機に接続された空気通路が形成され、
前記回動ローラには、内周面から外周面に向かって多数の吸着孔が全周にわたって形成され、
前記固定軸部と前記回動ローラとの間には、前記固定軸部の空気通路に連接される空気室が、一部の前記吸着孔に対向して形成されていることを特徴とする帯状フレキシブル材の搬送装置。
【請求項2】
前記空気室が、前記固定軸部の外周面の一部を切り欠いた部位と前記回動ローラの内周面との間に形成されていることを特徴とする請求項1記載の帯状フレキシブル材の搬送装置。
【請求項3】
前記切り欠いた部位における軸方向の幅の長さが、多数に形成された前記可動ローラの吸着孔の軸方向の幅の長さより長く形成されていることを特徴とする請求項2記載の帯状フレキシブル材の搬送装置。
【請求項4】
前記スリップ防止装置は、前記加工機と前記供給装置及び前記加工機と前記巻取り装置との間にそれぞれ配設されていることを特徴とする請求項1,2又は3のいずれかに記載の帯状フレキシブル材の搬送装置。
【請求項5】
前記加工機の出口側には前記加工機で加工された前記帯状フレキシブル材を搬送する送り装置が配設され、前記送り装置と前記巻取り装置の入口側に配設された前記スリップ防止装置との間には、前記回動ローラの回転トルクを調整可能なブレーキ部及び前記回動ローラを回動可能なモータを装着した第2のスリップ防止装置が配設されていることを特徴とする請求項4記載の帯状フレキシブル材の搬送装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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