説明

帯状金属板の塗装方法

【課題】非晶質ポリエチレンナフタレート系樹脂を薄く且つ均一な厚みで塗装すること。
【解決手段】非晶質ポリエチレンナフタレート系樹脂を溶媒中に分散させた樹脂塗料3を貯留する塗料パン2に、供給ロール4の一部を浸漬させて回転させ、該塗料パン2内の塗料3を、該供給ロール4の上方位置で該供給ロール4と間隙を置いて対面している塗装ロール5に供給し、該塗装ロール5によって、該塗装ロール5とバックアップロール6との間の間隙を走行する帯状金属板7上に該塗料3を均一且つ薄膜状に塗装する方法であって、該塗装ロール5を該帯状金属板7の走行する方向と反対方向に回転させると共に、該帯状金属板7の走行速度に対する該塗装ロール5の周速比を1.8倍乃至2.3倍とし、該帯状金属板7の走行速度に対する該供給ロール4の周速比を1.2倍乃至1.4倍とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗料固形分の全部又は大部分がジカルボン酸成分とグリコール成分から成り、そのジカルボン酸成分がナフタレンジカルボン酸とテレフタル酸とから成り、またグリコール成分がエチレングリコールとシクロヘキサンジメタノール(1,4−シクロヘキサンジメタノール)とから成る4元系非晶質のポリエチレンナフタレート系樹脂を主体とする樹脂微粒子を溶媒中に分散させた塗料を使用し、その塗料を帯状金属板に均一且つ薄膜状に塗装する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、包装容器、電気部品、自動車部品等を製造する帯状金属板に塗料を塗装する代わりに、ポリエステル樹脂のような熱可塑性樹脂フィルムを予め帯状金属板にラミネートさせることにより、この帯状金属板の片面又は両面を熱可塑性樹脂被膜で被覆することが行われており、この被覆帯状金属板から包装容器や電機部品等の部品を成形することにより成形後の塗装(すなわち、後塗装)を省略することが広く行われるようになって来た。
【0003】
樹脂被覆金属板を使用した成形加工の例として、例えば、包装容器の場合について述べると、先ず、打ち抜き絞り加工により浅いカップを成形し、その浅いカップに対して、更に再絞り加工を1回又は2回以上行うことにより、更に小径でカップの高さ方向寸法が大きい(直径に対して高さが約1.5倍〜3.0倍程度)底付きのシームレス缶を成形する加工や、打ち抜き絞り加工した後に凹部及び凸部の成形加工とスコア刻設加工等により缶蓋を成形する加工等が従来知られている。このような加工を樹脂被覆金属板に施した場合には、その成形加工により金属板だけでなく、金属板の表面を被覆している樹脂被膜にも応力が掛かるため、製品表面からの樹脂被膜の剥離防止等の観点から、その応力を緩和するために樹脂被膜を形成している樹脂のガラス転移点以上の温度に所定時間加熱する熱処理を行って応力を解消することが望ましい。
【0004】
そして、金属板の表面を被覆している樹脂被膜が、ポリエチレンテレフタレートを主体とするポリエステル樹脂のような熱可塑性樹脂の場合には、成形加工によってたとえ表面に浅い傷付き等(削れや筋状の傷等)が発生したとしても、この熱処理によって樹脂被膜が軟化して傷付き部分等が付随的に修復され、特に、熱処理温度を被膜樹脂の融点付近の温度又は融点以上の温度にすることにより、ほぼ完全に傷を修復できるという利点がある。
【0005】
ところで、このような熱可塑性樹脂フィルムを帯状金属板にラミネートする方法としては、予め溶融した熱可塑性樹脂を押出機のTダイから幅広に押し出し、所定温度に冷却させて形成した熱可塑性樹脂フィルムを、1軸又は2軸方向に延伸させて薄膜状にした後に、この熱可塑性樹脂フィルムを加熱した帯状金属板に直接又は接着剤層を介してラミネートする方法と、押出機のTダイから幅広に押し出した溶融状態の熱可塑性樹脂フィルムを直接に帯状金属板上に供給してラミネートする方法とがある。しかしながら、どちらの方法を採用するにしてもかなり大掛かりなラミネート設備を新設する必要がある。また、後者の押し出しフィルムラミネート方法を採用した場合には、溶融押し出し法だけでは薄い膜状のフィルムが形成できないので、必然的にかなり厚い熱可塑性樹脂フィルムを帯状金属板上にラミネートすることになり、熱可塑性樹脂の使用量が多くなり、余分に樹脂を使用する結果になる。
【0006】
さて、熱可塑性樹脂を帯状金属板にラミネートする方法は、塗装方法に比べると、大気汚染や環境汚染の原因となる有機溶剤を使用しないことから、環境に優しい樹脂被覆方法である。しかしながら、金属板にラミネートする熱可塑性樹脂は、通常、商業的には10μm以上の厚さのフィルムに限られており、これよりも薄いフィルム、例えば、5μm以下のフィルムを均一な膜厚を維持しつつ連続して製造すること自体が難しく、仮に製膜できたとしても、この薄いフィルムを帯状金属板にラミネートする際に破断し易くなって歩留まりが悪くなる等生産性が低下し、またそのフィルムの取り扱いが難しくなるという問題がある。したがって、厚さが5μmや4μmの熱可塑性樹脂フィルムは現実には製造が困難であり、仮に製造できたとしても非常に高価なものとなってしまい、更にこのフィルムを帯状金属板にラミネートしたものは、厚さが10μmのフィルムをラミネートした帯状金属板よりも高価な物となり、廉価な通常の包装容器等には使用できない。
【0007】
一方、ラミネート方法以外の方法で熱可塑性樹脂被膜により金属板を被覆する方法の一例が特許文献1乃至特許文献6に記載されている。特許文献1及び特許文献2では、熱可塑性樹脂の微粉末を有機溶剤に分散させた塗料(スラリー塗料)を金属缶の補修塗料(加工により塗膜が傷付いた箇所又は加工前の塗装を省略した箇所に後塗装する塗料)として、金属缶の一部分(溶接継目部)又はその部材(缶蓋のスコアを刻設した部分)若しくは金属缶用材料に厚く塗装することが提案されている。
【0008】
上記の特許文献1及び特許文献2に記載された方法では、数μm〜十数μmの粒径の熱可塑性樹脂粉体を溶媒中に分散させた塗料を、予め50℃以上又は100℃以上の温度に加熱しておいた金属缶の溶接継目部やイージーオープン缶蓋のスコア線部分の補修塗料として使用し、あるいは100℃以上に加熱しておいた2ピース缶の内面塗料として使用している。しかしながら、その塗膜厚は数十μm〜百μmと非常に厚く、帯状金属板の略全面に均一に塗装する場合の塗料としては厚過ぎて非常にコスト高となってしまう。
【0009】
また、特許文献3には、希釈剤中に分散した状態の粒径が0.1μm〜500μmの熱可塑性樹脂(結晶化性重合体)に熱硬化性樹脂(硬化性材料)を混合した塗料を金属板に塗装し、6〜17μmの膜厚の塗膜を得たことが記載されている。
【0010】
更に、特許文献4には、平均1次粒子径が10〜1000nmの熱可塑性樹脂を有機溶媒中に分散させた塗料を金属板等に塗装することによって、乾燥後の塗膜の重量が0.1〜50g/m2、好ましくは1〜50g/m2、より好ましくは3〜20g/m2となるように調整されることが記載されている。更に、特許文献4と同様の内容が特許文献5及び特許文献6にも記載されている。
【0011】
【特許文献1】特開昭54−144442号公報
【特許文献2】特開昭55−11038号公報
【特許文献3】特開平6−16953号公報
【特許文献4】国際公開第2005/019363号パンフレット
【特許文献5】特開2006−45542号公報
【特許文献6】特開2006−45543号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
前述したように、成形加工に使用する帯状金属板表面を被覆している熱可塑性樹脂被膜が10μm以上の厚さを必要とする場合には、フィルムラミネート方法によって容易に得ることができる。しかしながら、ラミネート方法では、熱可塑性樹脂被膜が5μm以下(例えば、1〜5μm)の膜厚で良い場合であっても、10μm以上の膜厚のものを使用せざるを得ないという問題があった。また、特許文献1及び特許文献2に記載されている方法は、数十μm〜十数μmの膜厚の塗膜になってしまうので、幅広の帯状金属板に均一に塗装する場合には使用できない。
【0013】
尚、本願発明者等の研究の結果、ポリエチレンテレフタレートを主体とする熱可塑性ポリエステル樹脂は、1.0〜5.0μmの膜厚とした場合、炭酸飲料や高酸性飲料等の比較的腐食性の高い内容物及びビール等を収容する金属容器の内面側被膜としては、耐腐食性が不足することが判明した。即ち、ポリエチレンテレフタレート系樹脂から成る1.0〜5.0μmの塗膜を備えたアルミニウム合金板の試験片(6cm×6cm)を、ガラス容器内に収容した炭酸飲料や高酸性飲料及びビール等の飲料中に浸漬し、その状態で、55℃で30日間恒温室に保管したところ、ポリエチレンテレフタレート樹脂で被覆したアルミニウム合金板は、塗膜面全面にブリスター状の塗膜の浮き上がりが発生した。このようなブリスター状の塗膜の浮き上がりは、比較的腐食性が弱いビール中に浸漬したものにも多数発生した。しかしながら、4元系非晶質のポリエチレンナフタレート系樹脂、即ち、ジカルボン酸成分がナフタレンジカルボン酸とテレフタル酸とから成り、グリコール成分がエチレングリコールとシクロヘキサンジメタノールから成るポリエチレンナフタレート系樹脂を使用した被覆アルミニウム合金板の場合には、同様の試験を行っても、塗膜面にブリスター状の塗膜浮きは全く発生しなかった。従って、金属容器用の塗膜用樹脂として、4元系非晶質のポリエチレンナフタレート系樹脂を採用した場合には、金属容器の内面被膜の膜厚が約1.0〜5.0μm程度の厚さであっても、炭酸飲料や高酸性飲料及びビール等による腐食に十分耐え得ることが判明した。
【0014】
更に、特許文献3には、熱可塑性樹脂を主体とする樹脂被膜の膜厚が6〜17μmのものが得られた旨の記載はあるが、その塗装方法は、塗膜の基本的物性または性能を調査・確認するための塗装試験法で使用するバーコーターと呼ばれる塗装具を使用して比較的小さな金属板に手塗りする塗装方法であり、連続して延びている長い帯状金属板にそのまま適用することは不可能である。また、この特許文献3には、塗料組成物の作成方法について、かなり詳細に記載されているが、得られた塗料を実際に塗装する条件等については、刷毛塗り法、噴霧法、浸漬法、ロールコーディング法が使用できる旨が記載されているだけで、その具体的塗装条件については全く記載されていない。
【0015】
また、特許文献4、特許文献5及び特許文献6には、平均1次粒子径が10〜1000nmの熱可塑性樹脂を得る方法と、この熱可塑性樹脂微粒子を有機溶媒中に分散させて塗料にする方法とについて、かなり詳細に記載されている。しかしながら、その塗料を塗装する具体的手段の例示は、塗料の基本的物性または性能を調査・確認するための塗装方法であるバーコーターを使用した手塗り法だけであり、バーコーターを使用した手塗り法の実施例として、3μm、4μm、5μm、10μmの膜厚を得られたことが例示されている。塗装方法としてはロールコート法、スプレーコート法、刷毛塗り法、ヘラ塗り法、浸漬塗装法、電着塗装法、静電塗装法などが例示されているが、実際の塗装条件、例えば、ロールコーディング法による塗装条件については全く記載がなされていない。
【0016】
ところで、帯状金属板への塗装は、一般的に、図3と図4とに示すような、ロールコーティング装置が使用されている。先ず、図3に示されているのは、帯状金属板26にナチュラルコートを施すロール塗装装置(ロールコーター)の概略図である。図3における符号21は塗料パンを示し、塗料22を貯留する。符号23は供給ロール(ピックアップロール)を示し、塗料パン21内の塗料22中に下側部分が浸漬されており、塗料パン21から塗料22を汲み上げる。符号24は塗装ロール(アプリケーターロール)を示し、供給ロール23の上方部分と極僅かな間隙を介して対面すると共に、対面している側では外周面が供給ロール23と同じ方向へ移動する回転をする。この塗装ロール24は、供給ロール23側とは反対の側で帯状金属板26が通過できるだけの少しの間隙を介してバックアップロール25と対面しており、そのバックアップロール25と対面している側では、外周面が塗装ロール24と同じ方向へ移動するように回転している。したがって、塗装ロール24とバックアップロール25との狭い間隙を塗装ロール24の移動方向と同じ方向に走行する帯状金属板26に、供給ロール23が汲み上げた塗料22aを塗装する。
【0017】
次に、図4に示されているのは、帯状金属板36にリバースコートを施すロール塗装装置(ロールコーター)の概略図である。図4において、符号31は塗料パンを示し、塗料パン31に塗料32が貯留されている。また、符号33は供給ロール(ピックアップロール)を示し、この供給ロール33の下側部分が、塗料32中に浸漬され、供給ロール33が回転することにより塗料パン31中の塗料32を汲み上げるようになっている。また、符号34は塗装ロールを示し、この塗装ロール34は、供給ロール33の上方部分と極僅かな間隙を介して対面すると共に、対面している側では外周面が供給ロール33と同じ方向へ移動するように回転する。この塗装ロール34は、供給ロール33側と反対の側で少しの間隙を挟んで対面しているバックアップロール35とは、外周面が反対方向へ移動するように回転する。即ち、塗装ロール34とバックアップロール35とは、それぞれの外周面が、その対面している側では、互いに反対方向へ移動するように回転する。そして、塗装ロール34とバックアップロール35との間隙を塗装ロール34の外周面の移動方向と反対方向に走行する帯状金属板36に、供給ロール33が汲み上げた塗料32aが塗布される。
【0018】
尚、このタイプの塗装装置には、図示しないが、塗装ロール34から離れた位置に、供給ロール33と接触して余分な塗料を掻き取る役目をする掻き落とし用ロールであるドクターロールを設ける場合もある。
【0019】
さて、前述したような塗装装置に通常の溶液タイプの熱硬化性塗料を用いた場合には、帯状金属板を110m/分〜180m/分の速度で塗装ロールとバックアップロールの間で走行させ、該帯状金属板の走行速度に対して塗装ロールの周速比を1.05倍〜1.3倍程度にし、更に、該帯状金属板の走行速度に対して供給ロールの周速比を0.4倍〜0.8倍程度に調整すると、前述した供給ロールの回転に伴って塗料パン中の塗料が該供給ロールの周囲に付着して持ち上げられ、上方位置で、該供給ロールの回転速度の約1.4倍程度の速度で回転している塗装ロールに塗料を受け渡すので、該塗装ロールから帯状金属板に均一で薄い膜厚の塗装を行うことができる。
【0020】
しかしながら、本発明者等の実験によると、本発明の対象とする4元系非晶質のポリエチレンナフタレート系樹脂を主体とする樹脂微粒子を有機溶媒に分散させた塗料は、チキソトロピー性またはチキソトロピック性が極めて高いので、従来の溶液タイプの塗料の技術常識を取り入れた、帯状金属板の走行速度に対して0.4〜0.8倍の供給ロールの周速比では、殆ど塗料を塗装ロールに供給できず、従って、帯状金属板には満足すべき塗装ができなかった。更に、帯状金属板の走行速度に対する供給ロールの周速比を2割程度アップしても満足すべき塗装に必要な量の塗料を塗装ロールに供給できなかった。
【0021】
従って、本発明の目的は、上記従来技術の問題点を解消することであり、具体的には、4元系非晶質のポリエチレンナフタレート系樹脂を主体とする樹脂の平均1次粒径10〜1000nmの微粒子を有機溶媒に分散させた塗料を帯状金属板に連続的に且つ均一な薄膜状にロール塗装する方法を提供することである。更に、本発明の目的は、そのような4元系非晶質のポリエチレンナフタレート系樹脂を主体とする樹脂の微粒子を有機溶剤に分散させた塗料を帯状金属板に連続的に且つ均一な薄膜状にロール塗装し、更にまた、所定の加熱処理により金属板表面との密着性と加工性の良好な塗膜を形成する方法を提供することである。
【0022】
尚、この明細書で説明している樹脂の1次粒子とは、それ以上に分散できない状態の粒子であり、1次粒子が凝集した状態の2次粒子とは区別されるものである。平均1次粒子径は、小さくなる程得られる懸濁液の粘度が高くなる傾向があり、また得られる塗膜の膜厚が薄くなる。一方、平均1次粒子径が大きくなると、得られる塗膜の膜厚が厚くなる。平均1次粒子径が10nm未満であると、得られる懸濁液の粘度が高くなり過ぎて塗装操作が困難になる。一方、平均1次粒子径が1000nmを超えると、塗膜の膜厚が厚くなり、薄膜にしようとすると連続膜にならない等の問題が発生し易くなる。そのため、使用する4元系非晶質のポリエチレンナフタレート系樹脂を主体とする樹脂の平均1次粒子径は、10〜1000nmである必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明者等は、上記目的を達成するために何回かの実験と追試を重ねた結果、下記に示す本発明を完成するに至った。すなわち、請求項1の発明は、ジカルボン酸成分がナフタレンジカルボン酸とテレフタル酸とから成り、グリコール成分がエチレングリコールとシクロヘキサンジメタノールとから成る4元系非晶質のポリエチレンナフタレート系樹脂を主体とする樹脂成分を含有し、かつその樹脂成分の平均1次粒子径10〜1000nmの粒子を溶媒中に分散させた樹脂塗料を使用し、塗料パン内に貯留されている前記樹脂塗料中に、供給ロールの下方部分を浸漬させて回転させることにより、前記樹脂塗料を、前記供給ロールの上方位置で該供給ロールと狭い間隙を置いて対面している塗装ロールに供給し、該塗装ロールとバックアップロールとの間の狭い間隙を走行する帯状金属板上に前記塗装ロールによって前記樹脂塗料を均一且つ薄膜状に塗装する方法において、前記塗装ロールを前記帯状金属板の走行する方向とは反対方向に回転させると共に、前記帯状金属板の走行速度に対する前記塗装ロールの周速比を1.8倍乃至2.3倍とし、前記帯状金属板の走行速度に対する前記供給ロールの周速比を1.2倍乃至1.4倍とすることを特徴とするものである。
【0024】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記帯状金属板の走行速度は、120m/分〜170m/分であることを特徴とする帯状金属板の塗装方法である。
【0025】
請求項3の発明は、請求項1または2の発明において、前記樹脂塗料を薄膜状に塗装した前記帯状金属板を高温に加熱した状態の加熱炉内に通過させて、前記帯状金属板表面に形成された前記樹脂塗料の塗膜中の溶媒を乾燥気化させると共に、該塗膜中の4元系非晶質のポリエチレンナフタレート系樹脂の少なくとも大部分を溶融させ、その後、前記帯状金属板を冷却することにより前記塗膜表面を平滑状態にすることを特徴とする帯状金属板の塗装方法である。
【発明の効果】
【0026】
請求項1の発明によれば、帯状金属板の走行速度に対する供給ロールの周速比を1.2倍乃至1.4倍にしたことにより、塗装に十分な量の塗料を塗料パンから供給ロールによって持ち上げて、もしくは汲み上げて塗装ロールに供給することができるようになる。そのため、4元系非晶質のポリエチレンナフタレート系樹脂を主体とする樹脂の非常に細かな微粒子を溶剤中に分散させたチキソトロピー性の高い塗料を、乾燥後の膜厚が1μm〜5μmのような薄い膜厚で、しかも均一な厚さの塗膜になるように帯状金属板上に連続的に塗装することが可能となる。そして、塗装を施した後の帯状金属板の塗膜面に対して、所定の加熱乾燥工程を施した後に得られる塗膜は、帯状金属板の幅方向及び長手方向共に表面状態にむらがなく、また、フロー目もなく、平滑であり、しかも気泡の発生も無く、さらには金属板上の塗膜は膜厚に大きなバラツキがない。
【0027】
尚、帯状金属板の走行速度に対する供給ロールの周速比が1.2倍未満の場合には、供給ロールによる塗料の持ち上げ量が不足して、塗装ロールによる塗装が均一には成り難くなり、その結果、塗膜が殆どない部分が生じたり、縦筋状の塗装むらやフロー目が目立つようになる。また、狙った塗布量が確保できず、塗膜性能を電気的に試験する測定方法であるQTV(Quick Test Value)測定の試験結果が悪くなる。一方、この周速比が1.4倍を超える場合には、供給ロールによる塗料の持ち上げ量が多くなり過ぎて塗布量が均一になり難くなり、塗膜の均一性が得られ難くなる。そのため、縦筋状の塗装むらが発生し、QTVの試験結果も悪くなってしまう。
【0028】
また、帯状金属板の走行速度に対する塗装ロールの周速比を1.8倍乃至2.3倍にしたことにより、供給ロールが塗料パンから持ち上げてきた塗料を塗装ロールがスムーズに受け取って帯状金属板に連続的に受け渡すことができるので、均一な厚さの塗膜を連続的に帯状金属板の上に形成することができる。
【0029】
尚、帯状金属板の走行速度に対する塗装ロールの周速比が1.8倍未満である場合には、供給ロールが持ち上げてきた塗料、即ち供給ロールが塗装ロールに供給する塗料を、塗装ロールがスムーズに受け取って帯状金属板に受け渡すことができなくなる。その結果、塗膜量がばらついて均一な膜厚を確保できなくなる。
【0030】
一方、帯状金属板の走行速度に対する塗装ロールの周速比が2.3倍を超える場合には、塗装ロールからの塗料の飛散が激しくなり、塗装ロール付近が塗料で汚れたり、塗装した後の帯状金属板の表面に飛び散った塗料によって斑模様が生じる等の弊害が発生する。
【0031】
また、請求項2の発明によれば、帯状金属板の走行速度を120m/分〜170m/分としたことにより、従来の溶液タイプの熱硬化型塗料と同等の高速塗装を実施できる。その場合にも、得られる塗膜面に肌荒れやフロー目が目立つことはなく、しかも均一な膜厚の塗膜を得ることができる。
【0032】
更に、請求項3の発明によれば、前記樹脂塗料を薄膜状に塗装した帯状金属板を高温に加熱した状態の加熱炉内に通過させて、該帯状金属板表面に塗装された該塗膜中の溶媒を乾燥気化させると共に、該塗膜中の4元系非晶質のポリエチレンナフタレート系樹脂の少なくとも大部分を溶融させ、その後、該帯状金属板を急冷させるので、塗膜中の4元系非晶質のポリエチレンナフタレート系樹脂層が薄膜化且つ平滑化される。したがって、この帯状金属板から金属缶や缶蓋等を成形加工する際における金属板表面の塗膜の加工追従性が高くなるという利点がある。その成形加工は、例えば、上記の帯状金属板から打ち抜き絞り加工を行ってカップを成形し、更に再絞り加工及び/又は再絞りしごき加工等を行うことにより、キャップや絞り缶、深絞り缶、さらには絞りしごき缶等を成形する加工であり、また、成形した深絞り缶又は絞りしごき缶を更に加工してボトル型缶を成形する加工である。あるいは、上記の帯状金属板から打ち抜き絞り加工を行って缶蓋の基本的形状を備えたべーシック蓋を成形し、そのべーシック蓋に、絞り加工、ビード加工、スコア加工、開口部の打ち抜き加工、開口部のカール加工、開口部を閉鎖するフィルム状蓋の貼り付け加工、蓋の外周部のカーリング加工等の内の2つ以上の加工を行うことにより、底蓋用缶蓋や破断容易缶蓋、開口容易缶蓋等を成形する加工である。また、請求項3の発明によれば、フィルム状蓋を構成する樹脂と塗膜構成樹脂との樹脂同士の組み合わせを適切に選択することにより、言い換えれば接着性が良好な樹脂同士となるように選択しておくことにより、予め形成しておく開口部をフィルム状蓋で封鎖する場合に、フィルム状蓋と開口部との接着性も高くなるという利点がある。
【0033】
尚、塗膜の熱可塑性樹脂を溶融した後に急冷する手段としては、常温程度の空気又は常温より低温の空気を帯状金属板の表面に吹き付けて塗膜を冷却する方法である空冷法と、帯状金属板を冷水中を通過させて塗膜を冷却する水冷法とを採用することができる。例えば、両方法の併用、例えば、最初に空冷法で帯状金属板の温度を130℃〜120℃程度にまで冷却した後に、帯状金属板を冷水中を通過させることにより45℃又はそれ以下の温度にしてから、帯状金属板を水中から取り出して表面の水分を乾燥させるようにしてもよい。付言すると、水中から取り出す時の帯状金属板の温度は、その表面の水分を除去し易くするために35℃以上が好ましい。
【0034】
本発明における4元系非晶質のポリエチレンナフタレート系樹脂であるポリエステル共重合体は、ジカルボン酸成分として、2,6−ナフタレンジカルボン酸もしくはその低級アルキルエステルとテレフタル酸もしくはその低級アルキルエステルを使用し、グリコール成分として、エチレングリコールと1,4−シクロヘキサンジメタノールを使用して製造することができる。
【0035】
上記のポリエステル共重合体の製造は、ジカルボン酸成分とグリコール成分とをエステル交換反応をさせる第1工程と、この第1工程で得られた反応生成物の低重合体を更に重縮合させる第2工程とに分けて行う。
【0036】
第1工程について説明すると、上記の2,6−ナフタレンジカルボン酸成分と反応させるのは、エチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノールの何れかであってよく、あるいは両者を組み合わせた混合物であってもよい。また、テレフタル酸成分と反応させるのは、エチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノールの何れかであってよく、あるいは両者を組み合わせた混合物であってもよい。また、2,6−ナフタレンジカルボン酸成分のエステル交換反応とテレフタル酸成分のエステル交換反応とは別々に行なってもよい。また、一方のエステル交換反応を先行させて行い、その反応の途中あるいは終了後に他方のエステル交換反応生成物を混合してもよい。
【0037】
好ましい一つの方法は、2,6−ナフタレンジカルボン酸成分とエチレングリコールを組み合わせ、テレフタル酸成分には1,4−シクロヘキサジメタノールを組み合わせて両者を別々にエステル交換反応させ、それぞれのエステル交換低重合体を得てこれを第2工程に供する方法である。
【0038】
エステル化反応は2,6−ナフタレンジカルボン酸成分、テレフタル酸成分と、およそ0.8倍モル以上、好ましくは1〜5倍モルのグリコール成分とを反応させることにより達成される。第1工程のエステル交換反応によるエステル交換合成方法は、反応容器内で実施可能な公知の方法に従って行うことができる。
【0039】
エステル交換反応に用いられる触媒は、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステルの合成に使用できるものであればよく、例えば、Li、Na、K、Mg、Ca、Sr、Ba、Zn、Ge、Ti、Cr、Mn、Sb、Coから成る群から選ばれた金属のカルボン酸アルコラート、酸化物又は酢酸塩等の塩を挙げることができる。これらは単独であってもよく、2種以上を混合させて使用することもできる。触媒使用量はジカルボン酸成分に対し10〜1000mmol(ミリモル)%程度である。エステル交換反応に適した温度は、150〜260℃の範囲であり、好ましくは220〜240℃の範囲である。反応時間は所定の反応率以上、通常80%以上に達する迄であり、反応の結果生成する低級アルコールの留出が殆どなくなるまで行えばよい。
【0040】
第2工程について説明すると、第2工程は、第1工程により得られた低重合体物を減圧下で加熱し、重縮合反応を行う。本発明では、第2工程を開始する前後、具体的には、第1工程が実質的に終了した後で、且つ極限粘度(固有粘度)0.2dl/gを超えない時期に重縮合触媒として例えば、Sbの他にMn、Ge、Sn、Tiから成る群から選ばれた金属のカルボン酸、アルコラート又は酸化物等の1種又は2種以上を添加して重縮合反応を行う。触媒の使用量はジカルボン酸成分に対し10〜1000mmol(ミリモル)%程度でよい。この時、必要に応じて、各種の添加剤、例えば耐光剤、熱安定剤、静電防止剤、遮光剤、顔料等を単独あるいは幾つかを組み合わせて添加することができる。
【0041】
重縮合触媒を添加した後、脱グリコール反応により高重合度の共重合体を得る第2工程に入る。
【0042】
第2工程の重合反応は、反応の進行と共に系を加熱し反応温度を徐々に上げていく。つまり反応開始時200〜250℃で最終的には、270〜310℃程度迄加熱する。また、反応系内も徐々に減圧状態にし、反応開始時は常圧で最終的には1.3kPa以下、好ましくは0.13kPa以下とするのがよい。更に、この溶解法による重合反応の所要時間は、得られる生成物の極限粘度により決められる。しかしながら、あまり長くては経済的に不利になると共に、熱分解反応も同時に進行するので、0.5〜5時間、好ましくは1〜4時間で行う。
【0043】
重合が終了すると、ポリエステル共重合体のポリマーは、窒素ガスで加圧された反応容器内から吐出され、冷却、切断された後、所望の形状に揃えられる。続いて、ポリエステル共重合体であるポリエチレンナフタレート系樹脂は、空気又は不活性ガス流通下又は減圧下で乾燥される。乾燥温度、乾燥時間等の乾燥条件、乾燥方法、乾燥設備等は、熱可塑性ポリエステルの乾燥で使用されているものを適宜選択して使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0044】
次に、本発明の実施態様を説明する。図1は、本発明の塗装方法を実施するためのロール塗装装置の要部を示す斜視図であり、図2は、図1に示すロール塗装装置の各ロールと帯状金属板との関係を示す概略図(図1の背面側から見た状態の概略図)である。図1と図2とにおいて、符号1は塗料パンを示し、塗料パン1に塗料2が貯留される。また、符号3は供給ロール(またはピックアップロール)を示し、この供給ロール3はその下側部分の一部を塗料パン1の塗料2中に浸漬させており、その回転力により塗料パン1中の塗料2を汲み上げて、上方位置で狭い間隙で対面している塗装ロール(またはアプリケーターロール)4に供給するようになっている。符号5はバックアップロール(または支持ロール)を示し、帯状金属板6が通過できる僅かな間隙を隔てて前記塗装ロール4に対面している。供給ロール3と塗装ロール4及びバックアップロール5とは、それぞれ図1および図2の矢印の方向に回転し、帯状金属板6は、矢印の方向に移動する。尚、図2における符号2’は供給ロール3によって汲み上げられた塗料を示す。また、本実施態様では、供給ロール3には外表面が金属面となっている金属ロールを用い、塗装ロール4には外表面に硬度40のブチルゴムが被覆されているゴムロールを用い、バックアップロール5には外表面が金属面の金属ロールを用いた。
【0045】
更に、符号7はDCモーターを示し、供給ロール3をその軸心を中心にして回転させる。符号8は他のDCモーターを示し、このDCモーター8は、塗装ロール4をその軸心を中心にして回転させるようになっている。また、これらのモーター7,8のそれぞれとロール3,4との回転数を調整するための速度可変ボリュームの摘みを備えている。
【0046】
また、符号9は、供給ロール3と塗装ロール4との間のニップ圧を調整するための摘みを示し、符号10は、バックアップロール5と塗装ロール4との間のニップ圧を調整するための摘みを示し、更に符号11はステッピングモータを示し、供給ロール3と塗装ロール4との間のニップ圧を調整するために、上記の摘み9の操作により動作して、供給ロール3を塗装ロール4側に対して接近又は離隔する方向へ移動させるように構成されている。符号12はハーモニックドライブを示し、バックアップロール5と塗装ロール4との間のニップ圧を調整駆動するために、上記の摘み10の操作により動作して、塗装ロール4及び供給ロール3をバックアップロール5側に対して接近又は離隔する方向へ移動させるように構成されている。
【0047】
更に、符号17は、供給ロール3の回転数を可変調整する速度可変ボリュームであり、また、符号18は、塗装ロール4の回転数を可変調整する速度可変ボリュームである。
【0048】
[実施例及び比較例]
次に、本発明の塗装方法を実施例と比較例とによって説明する。なお、本発明はこれらに限定されるものではない。また、下記の実施例と比較例において使用した熱可塑性樹脂の極限粘度とその樹脂の組成比及びその樹脂の平均1次粒子径は下記の方法で測定した。
【0049】
[塗装に使用する熱可塑性樹脂の極限粘度(または固有粘度)の測定]
フェノール:テトラクロロエタン=60:40(重量比)の混合液中に、塗装に使用する熱可塑性樹脂(ポリエチレンナフタレート系樹脂)を溶解させ、この溶液の極限粘度を、サン電子工業(株)製の自動粘度計(AVL−6C)を使用して測定した(20℃にて)。
有機溶媒中に分散させる熱可塑性樹脂(ポリエチレンナフタレート系樹脂)の微粒子を塩基性溶液中で加水分解した。それをクロマトグラフィーにより、2,6−ナフタレンジカルボン酸/テレフタル酸、1,4−シクロヘキサンジメタノール/エチレングリコール各成分の定量を行い、組成比を以下の如く決定した。2,6−ナフタレンジカルボン酸(2,6NDCA)85mol%/テレフタル酸(TPA)15mol%、エチレングリコール(EG)60mol%/1,4−シクロヘキサンジメタノール(1,4−CHDM)40mol%。
【0050】
塗装に使用した熱可塑性樹脂の粒子の形態や大きさは、走査型電子顕微鏡(JSM−639OLA、日本電子株式会社製)により測定し、粒子径とその分布については動的光散乱式粒径分布測定装置(LB−550、株式会社堀場製作所製)を用いて測定した。これらによって平均1次粒子径が導き出される。
【実施例1】
【0051】
厚さ0.300mm、幅が956mm、長さ3000mの3004H191アルミニウム合金板のコイル巻きしたもの(両面に燐酸クロメート処理を施してあるもの)を準備し、このコイル巻きしたものを巻き解きつつ、120m/分の速度でアルミニウム合金板を走行させながら、図1に示されている塗装装置によって、一方の表面に、下記の条件で下記の塗料を、乾燥後の目標膜厚が1.5μmとなるように塗装した後、最高温度ゾーンが約266℃に設定され、最低温度ゾーンが30℃の空気を吹き付ける冷却ゾーンを有するオーブン内を通過させて、このアルミニウム合金板表面に塗装された塗膜を乾燥させると共に溶融させた後、急冷して塗膜を平滑化させた。
・供給ロールの直径・・・・・・250mm
・塗装ロールの直径・・・・・・264mm
・供給ロールと塗装ロール間のニップ圧・・・・・・・441ニュートン(N)
・供給ロールの回転数・・・・214rpm
・塗装ロールの回転数・・・・333rpm
・供給ロールの周速・・・・・168m/分
・塗装ロールの周速・・・・・276m/分
・アルミニウム合金板の走行速度に対する供給ロールの周速比・・・1.40倍
・アルミニウム合金板の走行速度に対する塗装ロールの周速比・・・2.30倍
・使用した塗料
熱可塑性樹脂・・・4元系非晶質のポリエチレンテレフタレート系樹脂〔樹脂成分として、ジカルボン酸成分が2,6−ナフタレンジカルボン酸(2,6NDCA)85mol%とテレフタル酸(TPA)15mol%、グリコール成分がエチレングリコール(EG)60mol%と1,4−シクロヘキサンジメタノール(1,4−CHDM)40mol%から成り、極限粘度(IV)が0.62dl/gで、ガラス転移点(Tg)が110℃、融点なし(非晶質)
熱可塑性樹脂の一次平均粒子径・・・・・約300nm(100〜500nm)
塗料中の樹脂固形分の比率・・・・10重量%
使用した溶剤・・・・・・・・・・ジメチルアセトアミド(DMAC)60重量%とエチルアルコール30重量%との混合物
【0052】
上記組成の塗料を使用して上記方法で塗装を施した後、乾燥させた。得られた塗膜の表面状態を目視して評価すると共に、塗装金属板から、縦3cm、横3cmの試験片(3cmX3cm=9cm2)を切り取り、この試験片に対して下記方法によってQTV(Quick Test Value)測定を行った。測定数は5個である(以下の実施例2〜6と比較例1〜6も同様)。
【0053】
先ず、底部に貫通口を備えたプラスチック製容器の中央部に円形鉄板を収容すると共に、この鉄板の下面に連結された通電体を、容器底壁の貫通口から底壁外面側へ突出させ、更に容器側壁近傍位置まで延長して一方の電極端子とした(容器底部の貫通口と通電体との間隙部分はシール材によって密封状態にしてある)ものを用意し、この容器の鉄板上に鉄板とほぼ同じ直径の浸透性の良いスポンジを載置した後、この容器内に、1%の食塩水に少量の界面活性剤(例えば、日本油脂(株)のラピゾールA−80)を添加した電解液をスポンジの高さの半分程度まで注入してから、塗装金属板の試験片(3cm×3cm)を塗膜面をスポンジ側にして載置し、軽くスポンジ面に押し付け、その後、直流電源と電流計と2つの電極とから成る電流測定器(QTV測定装置)の一方の電極に連結したワニ口(鰐口)クリップにより、容器側壁近傍位置の電極端子に連結し、もう一方の電極と連結したワニ口クリップにより試験片を挟んでから、両電極間に3秒間、6Vの電圧を掛け、流れた電流値を測定する。塗膜に全く欠陥がなければ電流は殆ど流れず(通電量が少なく)、一方塗膜が不連続である等の欠陥があれば多量の電流が流れる(通電量が多くなる)ことになる。このQTV測定では、測定数5個の一つでも通電量が1mAを超えた場合には、不合格と判定した。その結果を表1に示す(QTVの測定値は5個の測定値の上限と下限の値を示す)。
【実施例2】
【0054】
アルミニウム合金板の走行速度を150m/分にしたことと、供給ロールの回転数を229rpm、塗装ロールの回転数を380rpmにした以外は、塗装装置の条件及び塗料の条件は実施例1と全く同じ条件で塗装し、同じ加熱・冷却条件で塗膜を形成させた。また塗膜性能試験も実施例1と同様に行った。
・供給ロールの回転数・・・・・・229rpm
・塗装ロールの回転数・・・・・・380rpm
・供給ロールの周速・・・・・・180m/分
・塗装ロールの周速・・・・・・315m/分
・アルミニウム合金板の走行速度に対する供給ロールの周速比・・・1.20倍
・アルミニウム合金板の走行速度に対する塗装ロールの周速比・・・2.10倍
得られた塗膜の表面状態を目視して評価すると共にQTVを測定した。その結果を表1に示す。
【実施例3】
【0055】
アルミニウム合金板の走行速度を170m/分にしたこと、供給ロールの回転数を260rpmにしたこと、塗装ロールの回転数を379rpmにしたこと以外は、全て実施例2と同じ条件で塗装した。塗装を行ったアルミニウム合金板をオーブン内を通過させて加熱・冷却して塗膜を形成させた。また塗膜性能試験も実施例2と同様に行った。
・供給ロールの回転数・・・・・・260rpm
・塗装ロールの回転数・・・・・・379rpm
・供給ロールの周速・・・・・・204m/分
・塗装ロールの周速・・・・・・314m/分
・アルミニウム合金板の走行速度に対する供給ロールの周速比・・・1.20倍
・アルミニウム合金板の走行速度に対する塗装ロールの周速比・・・1.85倍
得られた塗膜の表面状態を目視して評価すると共に試験片についてQTV測定を行った。その結果を表1に示す。
【実施例4】
【0056】
塗装ロールの回転数を389rpmにしたこと以外は、全て実施例3と同じ条件で塗装し、同じ加熱・冷却条件で塗膜を形成させた。また塗膜性能試験も実施例3と同様に行った。
・供給ロールの回転数・・・・・・・260rpm
・塗装ロールの回転数・・・・・・・389rpm
・供給ロールの周速・・・・・・・204m/分
・塗装ロールの周速・・・・・・・322m/分
・アルミニウム合金板の走行速度に対する供給ロールの周速比・・・1.20倍
・アルミニウム合金板の走行速度に対する塗装ロールの周速比・・・1.89倍
得られた塗膜の表面状態を目視して評価すると共に試験片についてQTV測定を行った。その結果を表1に示す。
【実施例5】
【0057】
供給ロールの回転数を281rpmにしたこと以外は、実施例4と全く同じ条件で塗装し、同じ加熱・冷却条件で塗膜を形成させた。また塗膜性能試験も実施例4と同様に行った。
・供給ロールの回転数・・・・・・・281rpm
・塗装ロールの回転数・・・・・・・389rpm
・供給ロールの周速・・・・・・・221m/分
・塗装ロールの周速・・・・・・・322m/分
・アルミニウム合金板の走行速度に対する供給ロールの周速比・・・1.30倍
・アルミニウム合金板の走行速度に対する塗装ロールの周速比・・・1.89倍
得られた塗膜の表面状態を目視して評価すると共に試験片についてQTV測定を行った。その結果を表1に示す。
【実施例6】
【0058】
塗装ロールを、ロールの直径が268mmのものに変更したこと以外の塗装装置の条件及び塗料の条件は、実施例5と全く同一の条件にし、更に、塗膜の乾燥・冷却条件も実施例5と同一にして塗膜を形成させた。また塗膜性能試験も実施例5と同様に行った。
・供給ロールの回転数・・・・・・281rpm
・塗装ロールの回転数・・・・・・389rpm
・供給ロールの周速・・・・・・221m/分
・塗装ロールの周速・・・・・・327m/分
・アルミニウム合金板の走行速度に対する供給ロールの周速比・・・1.30倍
・アルミニウム合金板の走行速度に対する塗装ロールの周速比・・・1.92倍
得られた塗膜の表面状態を目視して評価すると共に試験片についてQTV測定を行った。その結果を表1に示す。
【比較例1】
【0059】
供給ロールの回転数を138rpm、塗装ロールの回転数を260rpmにしたこと以外は、塗装装置の条件及び塗料の条件は実施例1と全く同じ条件で塗装し、同じ加熱・冷却条件で塗膜を形成させた。また塗膜性能試験も実施例1と同様に行った。
・供給ロールの回転数・・・・・・・138rpm
・塗装ロールの回転数・・・・・・・260rpm
・供給ロールの周速・・・・・・・108m/分
・塗装ロールの周速・・・・・・・216m/分
・アルミニウム合金板の走行速度に対する供給ロールの周速比・・・0.90倍
・アルミニウム合金板の走行速度に対する塗装ロールの周速比・・・1.80倍
得られた塗膜の表面状態を目視して評価すると共に試験片についてQTV測定を行った。その結果を表1に示す。
【比較例2】
【0060】
アルミニウム合金板の走行速度を150m/分、供給ロールの回転数を286rpm、塗装ロールの回転数を344rpmにしたこと以外の塗装装置の条件及び塗料の条件は比較例1と全く同じ条件で塗装し、同じ加熱・冷却条件で塗膜を形成させた。また塗膜性能試験も比較例1と同様に行った。
・供給ロールの回転数・・・・・・・286rpm
・塗装ロールの回転数・・・・・・・344rpm
・供給ロールの周速・・・・・・・225m/分
・塗装ロールの周速・・・・・・・285m/分
・アルミニウム合金板の走行速度に対する供給ロールの周速比・・・1.50倍
・アルミニウム合金板の走行速度に対する塗装ロールの周速比・・・1.90倍
得られた塗膜の表面状態を目視して評価すると共に試験片についてQTV測定を行った。その結果を表1に示す。
【比較例3】
【0061】
アルミニウム合金板の走行速度を170m/分、供給ロールの回転数を152rpm、塗装ロールの回転数を266rpmにした以外の塗装装置の条件及び塗料の条件は比較例1と全く同じ条件で塗装し、更に同じ加熱・冷却条件で塗膜を形成させた。また塗膜性能試験も比較例1と同様に行った。
・供給ロールの回転数・・・・・・152rpm
・塗装ロールの回転数・・・・・・266rpm
・供給ロールの周速・・・・・・119m/分
・塗装ロールの周速・・・・・・221m/分
・アルミニウム合金板の走行速度に対する供給ロールの周速比・・・0.70倍
・アルミニウム合金板の走行速度に対する塗装ロールの周速比・・・1,30倍
得られた塗膜の表面状態を目視して評価すると共に試験片についてQTV測定を行った。その結果を表1に示す。
【比較例4】
【0062】
供給ロールの回転数を216rpm、塗装ロールの回転数を328rpmにしたこと以外は、塗装装置の条件及び塗料の条件は比較例3と全く同じ条件で塗装し、更に同じ加熱・冷却条件で塗膜を形成させた。また塗膜性能試験も比較例3と同様に行った。
・供給ロールの回転数・・・・・・216rpm
・塗装ロールの回転数・・・・・・328rpm
・供給ロールの周速・・・・・・170m/分
・塗装ロールの周速・・・・・・272m/分
・アルミニウム合金板の走行速度に対する供給ロールの周速比・・・1.00倍
・アルミニウム合金板の走行速度に対する塗装ロールの周速比・・・1.60倍
得られた塗膜の表面状態を目視して評価すると共に試験片についてQTV測定を行った。その結果を表1に示す。
【比較例5】
【0063】
塗装ロールの回転数を389rpmにした以外の塗装装置の条件及び塗料の条件は比較例4と全く同じ条件で塗装し、更に同じ加熱・冷却条件で塗膜を形成させた。また塗膜性能試験も比較例4と同様に行った。
・供給ロールの回転数・・・・・・216rpm
・塗装ロールの回転数・・・・・・389rpm
・供給ロールの周速・・・・・・170m/分
・塗装ロールの周速・・・・・・322m/分
・アルミニウム合金板の走行速度に対する供給ロールの周速比・・・1.00倍
・アルミニウム合金板の走行速度に対する塗装ロールの周速比・・・1.89倍
得られた塗膜の表面状態を目視して評価すると共に試験片についてQTV測定を行った。その結果を表1に示す。
【比較例6】
【0064】
供給ロールの回転数を238rpmにしたこと以外の塗装装置の条件及び塗料の条件は比較例5と全く同じ条件で塗装し、更に同じ加熱・冷却条件で塗膜を形成させた。また塗膜性能試験も比較例5と同様に行った。
・供給ロールの回転数・・・・・・238rpm
・塗装ロールの回転数・・・・・・389rpm
・供給ロールの周速・・・・・・187m/分
・塗装ロールの周速・・・・・・322m/分
・アルミニウム合金板の走行速度に対する供給ロールの周速比・・・1.10倍
・アルミニウム合金板の走行速度に対する塗装ロールの周速比・・・1.89倍
得られた塗膜の表面状態を目視して評価すると共に試験片についてQTV測定を行った。その結果を表1に示す。
【表1】

【0065】
本実施例及び比較例において、帯状金属板の走行速度に対する塗装ロールの周速比が2.30までしか実施しなかったのは、2.30を超えると、塗装ロールからの塗料の飛散が激しくなり、塗装の安定生産ができなくなるためである。また、金属板の走行速度を170m/分までとしたのは、使用した塗装装置の能力上の理由からである。
【0066】
表1に示す実施例1〜6と比較例1〜6との結果から、帯状金属板にチキソトロピック性に富む塗料が帯状金属板の表面に、薄く且つ均一に塗装できる条件は、走行速度に対する供給ロールの周速比が、1.20〜1.40の範囲内にあり、しかも、帯状金属板の走行速度に対する塗装ロールの周速比が、1.80〜2.30の範囲内にある時であることが読み取れる(理解できる)。
【0067】
即ち、帯状金属板の走行速度に対する塗装ロールの周速比が、1.80〜1.90の範囲内であっても、帯状金属板の走行速度に対する供給ロールの周速比が1.20〜1.40の範囲外である(例えば、比較例1、比較例2、比較例5、比較例6)と、塗膜の厚さむらがあったり、塗膜が薄すぎる箇所が発生し、耐食性が悪くなってしまう(通電値が大きくなる)。一方、実施例1〜6は、塗膜表面の状態がむらが全く認められず、また、平板通電値(mA)の値も、0.1〜0.8mAの範囲内と少ないので、この塗膜を備えた金属板で、飲料や食品や薬品の容器を製造した場合には、耐食性が良好になることが理解できる。
【0068】
以上説明したように、本発明の塗装方法は、4元系非晶質のポリエチレンナフタレート系樹脂を主体とする平均1次粒子径10〜1000nmの樹脂微粒子を溶媒中に分散させた樹脂塗料中に、供給ロールの下側部分を浸漬させて回転させることにより、該塗料を、該供給ロールの上方位置で該供給ロールと狭い間隙を置いて対面している塗装ロールに供給し、該塗装ロールによって、該塗装ロールとバックアップロールとの間の狭い間隙を走行する帯状金属板上に該塗料を均一且つ薄膜状に塗装する方法であって、該帯状金属板の走行速度に対する該供給ロールの周速比が1.2倍乃至1.4倍となるように、供給ロールを高速回転させて、該非晶質のポリエステル系樹脂粒子から成る塗料を汲み上げる作用を行うようにしていることにより、溶剤に分散されている該非晶質のポリエチレンナフタレート系樹脂粒子が液体と同様な性質を有するようになり、この供給ロールによって塗装に必要な量の塗料が十分に汲み上げられる(供給ロールの周囲に付着して汲み上げられる)ことになる。そして、該供給ロールと狭い間隙を介して対面するように該塗装ロールが配置されており、該塗装ロールをその外周面が該帯状金属板の走行する方向と反対方向に走行するように回転させると共に、該帯状金属板の走行速度に対する該塗装ロールの周速比を1.8倍乃至2.3倍としている(塗装ロールの周速を供給ロールの周速よりも高速にしている)ので、汲み上げられた塗料が狭い間隙を介して対面している塗装ロールに受け渡されると共に、該塗装ロールの回転方向と反対方向に走行する帯状金属板に薄く且つ均一な厚さになるように付着されることになり、その後、塗膜を加熱乾燥させた後、冷却させると、帯状金属板の表面に薄く塗装された塗膜は、均一且つ平滑な表面を有することになる。即ち、本発明の塗装方法によれば、帯状金属板の表面に、膜厚薄く、表面が平滑な塗膜が得られるのである。
【0069】
上記実施例では、塗料の樹脂固形分がすべて熱可塑性樹脂(4元系非晶質のポリエチレンナフタレート系樹脂)である場合について説明したが、本発明では、熱可塑性樹脂粒子に、硬化剤、熱硬化性樹脂などの添加剤を加えてもよい。即ち、塗膜の密着性、塗膜の耐傷付き性、塗膜の耐破断性等を向上させるという観点から、熱硬化性樹脂などを加えることが好ましい場合がある。好ましい熱硬化性樹脂としては、不飽和ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂等を例示でき、これらを単独又は2種以上を混合して添加できる。熱硬化性樹脂の添加量としては、熱可塑性樹脂粒子100重量部に対して、1〜20重量部が好ましく、5〜15重量部がより好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】この発明におけるロール塗装装置の要部を示す斜視図である。
【図2】この発明におけるロール塗装装置の各ロールと帯状金属板との関係を模式的に示す図である。
【図3】帯状金属板にナチュラルコートを施すロールコーターを模式的に示す図である。
【図4】帯状金属板にリバースコートを施すロールコーターを模式的に示す図である。
【符号の説明】
【0071】
1…塗料パン、 2…塗料、 3…供給ロール、 4…塗装ロール、 5…バックアップロール、 6…帯状金属板。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジカルボン酸成分がナフタレンジカルボン酸とテレフタル酸とから成り、グリコール成分がエチレングリコールとシクロヘキサンジメタノールとから成る4元系非晶質のポリエチレンナフタレート系樹脂を主体とする樹脂成分を含有し、かつその樹脂成分の平均1次粒子径10〜1000nmの粒子を溶媒中に分散させた樹脂塗料を使用し、塗料パン内に貯留されている前記樹脂塗料中に、供給ロールの下方部分を浸漬させて回転させることにより、前記樹脂塗料を、前記供給ロールの上方位置で該供給ロールと狭い間隙を置いて対面している塗装ロールに供給し、該塗装ロールとバックアップロールとの間の狭い間隙を走行する帯状金属板上に前記塗装ロールによって前記樹脂塗料を均一且つ薄膜状に塗装する方法において、
前記塗装ロールを前記帯状金属板の走行する方向とは反対方向に回転させると共に、前記帯状金属板の走行速度に対する前記塗装ロールの周速比を1.8倍乃至2.3倍とし、
前記帯状金属板の走行速度に対する前記供給ロールの周速比を1.2倍乃至1.4倍とする
ことを特徴とする帯状金属板の塗装方法。
【請求項2】
前記帯状金属板の走行速度は、120m/分〜170m/分であることを特徴とする請求項1に記載の帯状金属板の塗装方法。
【請求項3】
前記樹脂塗料を薄膜状に塗装した前記帯状金属板を高温に加熱した状態の加熱炉内に通過させて、前記帯状金属板表面に形成された前記樹脂塗料の塗膜中の溶媒を乾燥気化させると共に、該塗膜中の前記4元系非晶質のポリエチレンナフタレート系樹脂の少なくとも大部分を溶融させ、その後、前記帯状金属板を冷却することにより前記塗膜表面を平滑状態にすることを特徴とする請求項1または2に記載の帯状金属板の塗装方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−75896(P2010−75896A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−250168(P2008−250168)
【出願日】平成20年9月29日(2008.9.29)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.ハーモニックドライブ
【出願人】(000208455)大和製罐株式会社 (309)
【出願人】(591176225)桜宮化学株式会社 (22)
【Fターム(参考)】