説明

帯状金属板の通板ロール装置の制御装置、方法及びプログラム

【課題】ブライドルロールと搬送板とのスリップを抑制し、安定的に通板操業を継続させるための技術を提供する。
【解決手段】ブライドルロールの駆動ロール2、3及びその上流側の駆動ロール11と、駆動モータ4、5及び12と、速度制御器6、7及び13と、駆動モータ2、3の負荷トルク測定値に基づいて負荷バランスを制御する負荷バランス制御器21と、駆動モータ2、3の負荷トルク測定値に基づいて駆動ロール2でのスリップの発生を検出するスリップ検出器16と、駆動ロール11の回転速度を制御するものであって、駆動ロール4でのスリップの発生が検出されたとき、駆動モータ2、3の負荷トルク測定値の差分値を用いて、駆動ロール4のスリップを抑制するための速度設定補正量を演算して速度基準値に加算し、駆動ロール11の速度制御器13へ出力するスリップ抑制制御器17とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば鋼材やアルミ材等の帯状金属板を連続的に処理するための、複数のブライドルロールによって搬送する連続処理ラインにおける、帯状金属板の通板ロール装置の制御装置、方法及びプログラムに関し、特にブライドルロールと帯状金属板とのスリップを抑制し、安定的に通板操業を継続させるための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
図5に示すような連続した帯状金属板(板材)51を搬送処理する連続処理ラインにおけるブライドルロールは、一般に複数本のロール52、53より構成される。ロール52、53それぞれを回転させる駆動モータ54、55には、板材搬送速度基準値とそれぞれのロール径の測定値やギヤ比に基づいて回転速度設定値a,bが与えられ、速度制御器56、57によって速度制御が実施される。
【0003】
通常このような設備においては、複数本あるロール52、53それぞれのロール径測定誤差によるロール周速の不均一や、各ロール52、53の表面と帯状金属板(搬送板)51との間の摩擦係数の個体差により、駆動モータ54、55の負荷の配分が不均一となる状況が発生する。この負荷の配分の不均一(アンバランス)が過度に発生すると、過負荷状態のロールが搬送板51との接触を保てなくなりスリップが発生し、安定した通板操業が継続できなくなることがある。
【0004】
この問題に対しては、特許文献1や特許文献2には、ロール52、53それぞれの駆動モータ54、55の負荷が均一もしくはある所望の配分になるように、それぞれの駆動モータ54、55へ与える回転速度設定値a,bを増減させるという負荷バランス制御方法が開示されている。これらの文献に記載された手法は、例えば図5におけるロール52の負荷が相対的に低くなった場合、ロール52の周速がロール53の周速と比較して相対的に低いと見なせるため、当該ロール52の駆動モータ54に設定する回転速度設定値aを増加方向に補正するか、ロール53の駆動モータ55に設定する回転速度設定値bを減少方向に補正するかして、各ロール52、53の負荷分担をバランス化させるものであり、効果を発揮している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−346157号公報
【特許文献2】特開平11−334956号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、帯状金属板を搬送するブライドルロールは、板をロールに巻き付けた状態で回転させるが、この際に、帯状金属板より剥離したスケールや帯状金属板に付着していた異物が板とロールの間に挟み込まれると、帯状金属板に傷が発生するという品質上の問題が起こる。そこで、図5に示すように、スケールや異物を除去するための水スプレー10をブライドルロールの入側に設置する場合がある。
【0007】
しかしながら、水スプレー10をブライドルロールの入側に設置する場合には、水スプレー噴射によるロールと板との摩擦係数の低下により、高速通板時において入側ロール52と搬送板51との間にスリップが発生するという問題があった。
【0008】
そして、ロール52、53の負荷分担のアンバランスによるスリップを抑制するための上記の従来のブライドルロールの制御手法をこのような状況下で適用したとき、例えばロール52にてスリップが発生した場合、ロール52の駆動モータ54の負荷が低下するため、ロール52の回転速度設定を相対的に増加させる方向に作用してしまい、スリップが助長されるという問題が発生する虞があった。
【0009】
本発明の上記のような従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、ブライドルロールによって連続した帯状金属板を搬送する際に、例えばブライドルロールの入側における搬送板への水スプレー噴射等の外乱による、ブライドルロールと搬送板とのスリップを抑制し、安定的に通板操業を継続させるための技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の帯状金属板の通板ロール装置の制御装置は、複数の駆動ロールからなるブライドルロール及びその上流側の駆動ロール、並びに、前記駆動ロールそれぞれを回転駆動する駆動モータを有する帯状金属板の通板ロール装置の制御装置であって、
前記ブライドルロールの入側又は出側の帯状金属板の張力が予め設定した値になるように速度補正値を求める張力制御手段と、
前記速度補正値と予め設定した速度基準値とに基づいて、前記ブライドルロールの駆動モータそれぞれを駆動、制御する複数の速度制御手段と、
前記速度基準値に基づいて、前記上流側の駆動モータを駆動、制御する速度制御手段と、
前記ブライドルロールの駆動モータの負荷トルクを測定する負荷トルク検出手段と、
前記負荷トルク検出手段によって測定された負荷トルクに基づいて前記ブライドルロールの各駆動ロール間の負荷バランスを制御する負荷バランス制御手段と、
前記負荷トルク検出手段によって測定された負荷トルクに基づいて前記ブライドルロールの入側の駆動ロールでのスリップの発生を検出するスリップ検出手段と、
前記上流側の駆動ロールの回転速度を制御するものであって、前記スリップ検出手段によって前記ブライドルロールの入側の駆動ロールでのスリップの発生が検出されたとき、前記負荷トルク検出手段によって測定された負荷トルクの差分値を用いて、前記ブライドルロールの入側の駆動ロールのスリップを抑制するための速度設定補正量を演算して前記速度基準値に加算し、前記上流側の駆動ロールの速度制御手段へ出力するスリップ抑制制御手段と、を具備することを特徴とする。
また、本発明の帯状金属板の通板ロール装置の制御装置の他の特徴とするところは、前記スリップ抑制制御手段は、
前記複数の駆動ロールからなるブライドルロールを駆動する各駆動モータの負荷トルクの差分値を演算する演算手段と、
前記ブライドルロールの入側の駆動ロールと前記通板している帯状金属板とのスリップが発生している期間の負荷トルクの差分値を抽出するためのリミッタ手段と、
前記ブライドルロールの負荷トルクの差分値に基づいて、前記ブライドルロールの入側の駆動ロールのスリップを抑制するための前記上流側の駆動ロールへの速度設定補正量を計算して出力する速度設定制御手段と、
前記スリップ検出手段によってスリップの解消が検出された際に、その前後で当該スリップ抑制制御手段の出力が不連続的に切り替わらないように、スリップ抑制制御機能が停止する直前の前記速度設定制御手段の出力値を保持するロックオン手段と、
前記速度設定制御手段の出力値と前記ロックオン手段で保持した値とを加算する第1の加算手段と、
前記第1の加算手段から出力される速度設定補正量と前記速度基準値と加算する第2の加算手段と、を具備することを特徴とする請求項1に記載の帯状金属板の通板ロール装置の制御装置。
また、本発明の帯状金属板の通板ロール装置の制御装置の他の特徴とするところは、前記スリップ検出手段によってスリップの発生が検出された際に、前記負荷バランス制御手段の出力を保持させ、前記負荷バランス制御手段の演算処理を停止させる制御切換手段を具備することを特徴とする。
本発明の帯状金属板の通板ロール装置の制御方法は、複数の駆動ロールからなるブライドルロール及びその上流側の駆動ロールと、前記駆動ロールそれぞれを回転駆動する駆動モータと、前記ブライドルロールの入側又は出側の帯状金属板の張力が予め設定した値になるように速度補正値を求める張力制御手段と、前記速度補正値と予め設定した速度基準値とに基づいて、前記ブライドルロールの駆動モータそれぞれを駆動、制御する複数の速度制御手段と、前記速度基準値に基づいて、前記上流側の駆動モータを駆動、制御する速度制御手段と、前記ブライドルロールの駆動モータの負荷トルクを測定する負荷トルク検出手段とを具備する帯状金属板の通板ロール装置の制御方法であって、
前記負荷トルク検出手段によって測定された負荷トルクに基づいて前記ブライドルロールの各駆動ロール間の負荷バランスを制御する負荷バランス制御工程と、
前記負荷トルク検出手段によって測定された負荷トルクに基づいて前記ブライドルロールの入側の駆動ロールでのスリップの発生を検出するスリップ検出工程と、
前記上流側の駆動ロールの回転速度を制御するものであって、前記スリップ検出工程によって前記ブライドルロールの入側の駆動ロールでのスリップの発生が検出されたとき、前記負荷トルク検出手段によって測定された負荷トルクの差分値を用いて、前記ブライドルロールの入側の駆動ロールのスリップを抑制するための速度設定補正量を演算して前記速度基準値に加算し、前記上流側の駆動ロールの速度制御手段へ出力するスリップ抑制制御工程と、を有することを特徴とする。
本発明のプログラムは、複数の駆動ロールからなるブライドルロール及びその上流側の駆動ロールと、前記駆動ロールそれぞれを回転駆動する駆動モータと、前記ブライドルロールの入側又は出側の帯状金属板の張力が予め設定した値になるように速度補正値を求める張力制御手段と、前記速度補正値と予め設定した速度基準値とに基づいて、前記ブライドルロールの駆動モータそれぞれを駆動、制御する複数の速度制御手段と、前記速度基準値に基づいて、前記上流側の駆動モータを駆動、制御する速度制御手段と、前記ブライドルロールの駆動モータの負荷トルクを測定する負荷トルク検出手段とを具備する帯状金属板の通板ロール装置を制御するためのプログラムであって、
前記負荷トルク検出手段によって測定された負荷トルクに基づいて前記ブライドルロールの各駆動ロール間の負荷バランスを制御する負荷バランス制御処理と、
前記負荷トルク検出手段によって測定された負荷トルクに基づいて前記ブライドルロールの入側の駆動ロールでのスリップの発生を検出するスリップ検出処理と、
前記上流側の駆動ロールの回転速度を制御するものであって、前記スリップ検出処理によって前記ブライドルロールの入側の駆動ロールでのスリップの発生が検出されたとき、前記負荷トルク検出手段によって測定された負荷トルクの差分値を用いて、前記ブライドルロールの入側の駆動ロールのスリップを抑制するための速度設定補正量を演算して前記速度基準値に加算し、前記上流側の駆動ロールの速度制御手段へ出力するスリップ抑制制御処理と、をコンピュータに実行させる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、従来手法では抑制が不可能な、ブライドルロールの入側における水スプレー噴射等の外乱によるブライドルロールの入側の駆動ロールと帯状金属板とのスリップを、ブライドルロールの上流側の駆動ロールの速度を調整することにより抑制することができるので、安定的に通板操業を継続させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施形態に係る帯状金属板の通板ロール装置及びその制御装置の概略構成を示す図である。
【図2】実施形態におけるスリップ検出器による処理内容を示すフローチャートである。
【図3】実施形態におけるスリップ抑制制御器の構成を示すブロック図である。
【図4】本発明を実施した場合における操業状態の一例を示す特性図である。
【図5】連続した帯状金属板を搬送処理する連続ラインにおけるブライドルロールの構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明する。本実施形態においては、帯状金属板が鋼板1であり、ブライドルロールの駆動ロール2、3の上流側(前段)の駆動ロールは、上下のロールにより鋼板を挟み込みながら搬送するピンチロール11である場合を例にして説明する。
【0014】
図1に、実施形態に係る帯状金属板の通板ロール装置及びその制御装置の概略構成を示す。図1において、鋼板1は、ブライドルロールの駆動ロール2、3及びその上流側のピンチロール11によって図1の左から右方向へ移送される。これらの駆動ロール2、3及び11はそれぞれ駆動モータ4、5及び12によって回転駆動される。また、これらの駆動モータ4、5及び12はそれぞれ速度制御器(ASR)6、7及び13によって所定の回転速度になるように速度制御される。
【0015】
また、ブライドルロール(駆動ロール2、3)に侵入する直前(例えば2〜3m手前)で、スケールや異物を除去する目的でスプレー装置10により水が鋼板1に向けて噴射される。
【0016】
さらに、ブライドルロールの駆動ロール2、3それぞれを駆動する駆動モータ4、5の負荷トルクは、負荷トルク検出器14、15によってそれぞれTLE及びTLDとして測定される。スリップが発生していないときには、これら負荷トルク測定値TLE,TLDに基づいて、負荷バランス制御器21によって負荷バランス制御される。負荷バランス制御では、各駆動ロール2、3の駆動モータ4、5の負荷バランスが均一或いは予め設定された負荷分布になるように、従属側の駆動ロール2の駆動モータ4への速度設定値を調整する等する。
【0017】
ここで、ブライドルロールの駆動ロール2、3それぞれに与えられる速度設定値A,Bは、通常、当該セクションの速度基準値V0に、ブライドルロールの入側又は出側の鋼板張力が予め設定した値Fになるように動作する、張力制御器(ATR)22からの速度補正値V1を加えた値(V0+V1)が用いられる。張力制御器(ATR)22は、張力計(図示せず)からの張力実績値と、プロコンや作業者によって入力されて設定される張力目標値とに基づいて張力制御する。
【0018】
図1に示すように、本実施形態では、スリップ検出器16と、スリップ抑制制御器17と、制御切換器20とを具備する。スリップ検出器16は、負荷トルク検出器14、15によって測定された駆動モータ4、5の負荷トルク測定値TLE,TLDが入力され、当該負荷トルク測定値TLE,TLDに基づいてブライドルロールの入側の駆動ロール2と鋼板1とのスリップの発生を検出し、スリップ検出信号を出力する。ここでは、スリップ検出信号の値は、例えばスリップが発生しているときには1、スリップが発生していないときには0とする。
【0019】
スリップ抑制制御器17は、ブライドルロールの駆動ロール2、3の上流側のピンチロール11の回転速度を調整することにより当該スリップを抑制する。具体的に、スリップ抑制制御器17は、スリップ検出器16によってブライドルロールの入側の駆動ロール2でのスリップの発生が検出されたとき、すなわちスリップ検出信号がスリップの発生を表すものであるとき、負荷トルク測定値TLE,TLDの差分値を用いて、ブライドルロールの入側の駆動ロール2のスリップを抑制するための速度設定補正量Vcmpを演算して速度基準値V0に加算し、ピンチロール11の速度制御器(ASR)13へ出力する。
【0020】
制御切換器20は、スリップ検出器16によってブライドルロールの入側の駆動ロール2でのスリップの発生が検出されたとき、すなわちスリップ検出信号がスリップの発生を表すものであるとき、負荷バランス制御器21の出力を保持(ラッチ)させ、負荷バランス制御器21内の演算処理を停止させ、スリップ抑制制御器17の動作との制御的な干渉を防ぐ。
【0021】
各機器の構成・動作・機能を詳細に説明する。駆動モータ4、5の負荷トルク検出器14、15それぞれは、モータ電流値計測器、及びモータ特性よりモータ電流実績値から負荷トルクを計算する演算器により構成される。負荷トルク検出器14、15によって測定された負荷トルク測定値TLE,TLDは負荷バランス制御器21及びスリップ検出器16に入力される。
【0022】
スリップ検出器16では、負荷トルク検出器14、15から入力される負荷トルク測定値TLE,TLDに基づいてブライドルロールの入側の駆動ロール2でのスリップの発生を検出し、スリップ検出信号を出力する。図2に、スリップ検出器16による処理内容を示す。ステップS1にて、入側の駆動ロール2の負荷トルク測定値TLEが、出側の駆動ロール3の負荷トルク測定値TLDと比較して著しく低下しているか否か(入側の駆動ロール2の負荷トルクTLEの低下状態にあるか否か)を判定する。そして、入側の駆動ロール2の負荷トルクTLEの低下状態が予め設定した一定期間T1(スリップ状態検出タイマ)継続していれば、ステップS3にて入側の駆動ロール2と鋼板1とのスリップの発生を検出する。
【0023】
その後、ステップS4及びS5にて、入側の駆動ロール2の負荷トルクTLEの低下状態が予め設定した一定時間T2(スリップ解消検出タイマ)以上発生していなければ、ステップS6にてスリップの解消を検出する。
【0024】
なお、図2のステップS1及びS4におけるスリップ検出レベル設定値(閾値)αは、入側の駆動ロール2の負荷トルク測定値TLEが出側の駆動ロール3の負荷トルク測定値TLDに対してどの程度低下した場合にスリップの発生の検出とするかを定義するために予め設定する値(すなわち比率)である。スリップ検出レベル設定値(閾値)αは実際にスリップが発生した際における実績より設定する値であり、通常は0.7以下程度とすればよい。また、図3のステップS2及びS5における、継続時間の判定基準であるスリップ状態検出タイマ値T1及びスリップ解消検出タイマ値T2も経験的に予め設定する値であり、通常0.5〜1秒程度とすればよい。
【0025】
次に、図3を参照して、スリップ抑制制御器17の内部構成を説明する。スリップ検出器16によってスリップの発生が検出された場合に、スリップ検出信号(スリップが発生しているときには1、スリップが発生していないときには0)が出力されて、スリップ抑制制御器17内の制御入切を切り替えるスイッチ41が有効(ON)となる。
【0026】
減算器40は、負荷トルク検出器14、15から入力される入側の駆動ロール2の負荷トルク測定値TLEと出側の駆動ロール3の負荷トルク測定値TLDとの差分値(TLD−TLE)を演算する。
【0027】
速度設定制御器43は、スイッチ41が有効(ON)である場合、負荷トルク測定値TLE,TLDの差分値(TLD−TLE)を用いてピンチロール11への速度設定補正量Vcmpを計算して出力する。ここで、速度設定制御器43での処理自体は一般的なPI制御器でもよく、各制御ゲインは、ブライドルロールの駆動ロール2、3での張力落差が正(すなわちブライドル出側セクションの張力<ブライドル入側セクションの張力)の場合は0以上、張力落差が負(すなわちブライドル出側セクションの張力>ブライドル入側セクションの張力)の場合は0以下の値でそれぞれ任意に設定する。
【0028】
また、速度設定制御器43は、スイッチ41が無効(OFF)である場合、出力値である速度設定補正量Vcmpが0で固定されるように処理する。そのためにスイッチ41が無効(OFF)のときには、速度設定制御器43に0値が入力されるようにしてもよい。
【0029】
なお、スリップ抑制制御器17の制御対象である、入側の駆動ロール2と鋼板1とのスリップが発生したときはTLE<TLDであり、それ以外の状況下では当該スリップ抑制制御機能が動作する必要がない。そこで、減算器40での演算結果(TLD−TLE)にはリミッタ42によって減算結果が正(TLE<TLD)のみ有意(非0、正値)となるように、スリップ検出器16から入力されるスリップ検出信号に基づいて(例えば0→1への変化によりトリガーされて)数値処理を行う。すなわち、ブライドルロールの入側の駆動ロール2と通板している鋼板1とのスリップが発生している期間の負荷トルクの差分値を抽出するためにリミッタ42が設けられている。
【0030】
また、ロックオン器45は、当該スリップ抑制制御器17が動作開始或いは動作終了する際に不連続的に速度設定補正量Vcmpが変化しないようにする目的で設置される。スリップが解消されてスリップ抑制制御機能が停止する際に、スリップ検出器16から入力されるスリップ検出信号に基づいて(例えば1→0への変化によりトリガーされて)停止直前の速度設定補正量Vcmpを記憶して保持する機能(ロックオン機能)を有しており、当該出力は第1の加算器44によって速度設定制御器43での出力値に加算される。
【0031】
第1の加算器44から出力される速度設定補正量Vcmpと速度基準値V0とは第2の加算器46によって加算されて、ピンチロール11の速度制御器(ASR)13へ出力される。
【0032】
図1において、ブライドルロールの入側の駆動ロール2が、スプレー装置10による鋼板1面への水スプレー噴射等の影響により鋼板1との間でスリップ現象を起こしている場合、従来手法の負荷バランス制御は前記の理由により有効に動作できないどころか、かえってスリップ現象を助長してしまう。そこで、スリップ検出器16によってスリップの発生が検出されている期間は、スリップ検出器16からのスリップ検出信号に基づいて(例えば0→1への変化によりトリガーされて)、制御切換器20によってスリップが発生する前の負荷バランス制御器21の最終出力を保持し、駆動モータ4の速度制御器(ASR)6への入力値を一定にする。そして、スリップ抑制制御器17によってピンチロール11の回転速度を調整することにより当該スリップを抑制する。その後、スリップ検出器16によってスリップの解消が検出されたときには、スリップ検出器16からのスリップ検出信号に基づいて(例えば1→0への変化によりトリガーされて)、前記保持した最終出力をクリアし、負荷バランス制御器21からの制御出力を駆動モータ4の速度制御器(ASR)6へ出力する。
【0033】
上記した通板ロール装置の制御を実施したときの制御性能の例を説明する。ブライドルロール負荷電流(駆動モータに供給される駆動電流)基づく負荷トルク測定値の時間変化の推移の一例を図4に示す。当該例では図5と同様な設備構成を有する酸洗ライン入側設備において、ブライドルロールの入側において鋼板に水スプレーを散水した状態で、ライン速度を加速させた。なお、本手法における上述のスリップ検出レベル設定値(閾値)αは0.7に、スリップ状態検出タイマ値T1及びスリップ解消検出タイマ値T2はどちらも0.5秒とした。
【0034】
図4に示すように、ライン速度が上昇するに従い、時刻17秒付近でブライドルロールの入側での水スプレー噴射の影響による入側の駆動ロールのスリップが生じ、当該駆動モータの負荷トルクが急減している。しかしながら、時刻18秒付近でスリップの発生を検出してスリップ抑制制御が開始され、速やかに入側駆動モータの負荷トルクが復帰、すなわちスリップ状態が解消され、安定的に高速通板操業が継続させている。なお、時刻25秒付近で通板速度が減速に転じているが、これは他セクションとの同期速度移行に伴うもので、ブライドルロールのスリップとは無関係である。
【0035】
以上のようにして、ブライドルロールの入側の駆動ロール2のスリップに応じてピンチロール11の回転速度を補正し、入側の駆動ロール2における入側と出側の鋼板張力の落差を減少させることにより、水侵入により低下した摩擦係数のもとでも、入側の駆動ロール2が鋼板1との接触を保てるようになる。したがって、従来の負荷バランス制御では対応が不可能であった、水スプレー噴射に起因したブライドルロールと搬送板とのスリップを抑制が実現でき、安定的に通板操業を継続させることができる。
【0036】
なお、本発明を実施するための形態として、帯状金属板の通板ロール装置の制御装置を構成する各部・各機器の機能及び処理フローを詳細に説明したが、上記の処理フローからなる工程で構成されるブライドルロールのスリップ抑制制御方法も本発明の一つである。
【0037】
また、図1におけるスリップ検出器16においては、駆動モータの負荷トルクの測定値を用いてスリップを検出したが、負荷電流の測定値を用いてもよい。
【0038】
また、本発明を適用した帯状金属板の通板ロール装置の制御は、負荷トルク検出器14、15や各速度制御器6、7及び13とのI/O部、キーボードやマウス、及び記憶装置を具備するパーソナルコンピュータ又はPLC(Programmable Logic Computer)を用いて構成して、実行することができる。そして、上記の各部、機器で行う演算等の処理及び工程を実行するためのコンピュータソフトウェア(プログラム)を作成して、これらパーソナルコンピュータ又はPLCにロードして実行させることにより実現することが可能となる。
【0039】
なお、帯状金属板はアルミ、銅等の他の金属板であっても本発明を適用できることは明らかである。また、ブライドルロールの上流側の駆動ロールは、上下に複数のロールを有したレベリングロールや前段のブライドルロールであっても本発明を適用できることは明らかである。また、ブライドルロールは3個以上の駆動ロールで構成される場合もある。
【符号の説明】
【0040】
1:鋼板(帯状金属板)、2:ブライドルロールの入側の駆動ロール、3:ブライドルロールの出側の駆動ロール、4:駆動モータ、5:駆動モータ、6:速度制御手段である速度制御器(ASR)、7:速度制御手段である速度制御器(ASR)、10:スプレー装置、11:ピンチロール(ブライドルロールの上流側の駆動ロール)、12:駆動モータ、13:速度制御手段である速度制御器(ASR)、14:負荷トルク検出手段である負荷トルク検出器、15:負荷トルク検出手段である負荷トルク検出器、16:スリップ検出手段であるスリップ検出器、17:スリップ抑制制御手段であるスリップ抑制制御器、20:制御切換手段である制御切換器、21:負荷バランス制御手段である負荷バランス制御器、22:張力制御手段である張力制御器、40:演算手段である減算器、41:制御入切を切り替えるスイッチ、42:リミッタ手段であるリミッタ、43:速度設定制御手段である速度設定制御器、44:第1の加算手段である第1の加算器、45:ロックオン手段であるロックオン器、46:第2の加算手段である第2の加算器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の駆動ロールからなるブライドルロール及びその上流側の駆動ロール、並びに、前記駆動ロールそれぞれを回転駆動する駆動モータを有する帯状金属板の通板ロール装置の制御装置であって、
前記ブライドルロールの入側又は出側の帯状金属板の張力が予め設定した値になるように速度補正値を求める張力制御手段と、
前記速度補正値と予め設定した速度基準値とに基づいて、前記ブライドルロールの駆動モータそれぞれを駆動、制御する複数の速度制御手段と、
前記速度基準値に基づいて、前記上流側の駆動モータを駆動、制御する速度制御手段と、
前記ブライドルロールの駆動モータの負荷トルクを測定する負荷トルク検出手段と、
前記負荷トルク検出手段によって測定された負荷トルクに基づいて前記ブライドルロールの各駆動ロール間の負荷バランスを制御する負荷バランス制御手段と、
前記負荷トルク検出手段によって測定された負荷トルクに基づいて前記ブライドルロールの入側の駆動ロールでのスリップの発生を検出するスリップ検出手段と、
前記上流側の駆動ロールの回転速度を制御するものであって、前記スリップ検出手段によって前記ブライドルロールの入側の駆動ロールでのスリップの発生が検出されたとき、前記負荷トルク検出手段によって測定された負荷トルクの差分値を用いて、前記ブライドルロールの入側の駆動ロールのスリップを抑制するための速度設定補正量を演算して前記速度基準値に加算し、前記上流側の駆動ロールの速度制御手段へ出力するスリップ抑制制御手段と、を具備することを特徴とする帯状金属板の通板ロール装置の制御装置。
【請求項2】
前記スリップ抑制制御手段は、
前記複数の駆動ロールからなるブライドルロールを駆動する各駆動モータの負荷トルクの差分値を演算する演算手段と、
前記ブライドルロールの入側の駆動ロールと前記通板している帯状金属板とのスリップが発生している期間の負荷トルクの差分値を抽出するためのリミッタ手段と、
前記ブライドルロールの負荷トルクの差分値に基づいて、前記ブライドルロールの入側の駆動ロールのスリップを抑制するための前記上流側の駆動ロールへの速度設定補正量を計算して出力する速度設定制御手段と、
前記スリップ検出手段によってスリップの解消が検出された際に、その前後で当該スリップ抑制制御手段の出力が不連続的に切り替わらないように、スリップ抑制制御機能が停止する直前の前記速度設定制御手段の出力値を保持するロックオン手段と、
前記速度設定制御手段の出力値と前記ロックオン手段で保持した値とを加算する第1の加算手段と、
前記第1の加算手段から出力される速度設定補正量と前記速度基準値と加算する第2の加算手段と、を具備することを特徴とする請求項1に記載の帯状金属板の通板ロール装置の制御装置。
【請求項3】
前記スリップ検出手段によってスリップの発生が検出された際に、前記負荷バランス制御手段の出力を保持させ、前記負荷バランス制御手段の演算処理を停止させる制御切換手段を具備することを特徴とする請求項1又は2に記載の帯状金属板の通板ロール装置の制御装置。
【請求項4】
複数の駆動ロールからなるブライドルロール及びその上流側の駆動ロールと、
前記駆動ロールそれぞれを回転駆動する駆動モータと、
前記ブライドルロールの入側又は出側の帯状金属板の張力が予め設定した値になるように速度補正値を求める張力制御手段と、
前記速度補正値と予め設定した速度基準値とに基づいて、前記ブライドルロールの駆動モータそれぞれを駆動、制御する複数の速度制御手段と、
前記速度基準値に基づいて、前記上流側の駆動モータを駆動、制御する速度制御手段と、
前記ブライドルロールの駆動モータの負荷トルクを測定する負荷トルク検出手段とを具備する帯状金属板の通板ロール装置の制御方法であって、
前記負荷トルク検出手段によって測定された負荷トルクに基づいて前記ブライドルロールの各駆動ロール間の負荷バランスを制御する負荷バランス制御工程と、
前記負荷トルク検出手段によって測定された負荷トルクに基づいて前記ブライドルロールの入側の駆動ロールでのスリップの発生を検出するスリップ検出工程と、
前記上流側の駆動ロールの回転速度を制御するものであって、前記スリップ検出工程によって前記ブライドルロールの入側の駆動ロールでのスリップの発生が検出されたとき、前記負荷トルク検出手段によって測定された負荷トルクの差分値を用いて、前記ブライドルロールの入側の駆動ロールのスリップを抑制するための速度設定補正量を演算して前記速度基準値に加算し、前記上流側の駆動ロールの速度制御手段へ出力するスリップ抑制制御工程と、を有することを特徴とする帯状金属板の通板ロール装置の制御方法。
【請求項5】
複数の駆動ロールからなるブライドルロール及びその上流側の駆動ロールと、
前記駆動ロールそれぞれを回転駆動する駆動モータと、
前記ブライドルロールの入側又は出側の帯状金属板の張力が予め設定した値になるように速度補正値を求める張力制御手段と、
前記速度補正値と予め設定した速度基準値とに基づいて、前記ブライドルロールの駆動モータそれぞれを駆動、制御する複数の速度制御手段と、
前記速度基準値に基づいて、前記上流側の駆動モータを駆動、制御する速度制御手段と、
前記ブライドルロールの駆動モータの負荷トルクを測定する負荷トルク検出手段とを具備する帯状金属板の通板ロール装置を制御するためのプログラムであって、
前記負荷トルク検出手段によって測定された負荷トルクに基づいて前記ブライドルロールの各駆動ロール間の負荷バランスを制御する負荷バランス制御処理と、
前記負荷トルク検出手段によって測定された負荷トルクに基づいて前記ブライドルロールの入側の駆動ロールでのスリップの発生を検出するスリップ検出処理と、
前記上流側の駆動ロールの回転速度を制御するものであって、前記スリップ検出処理によって前記ブライドルロールの入側の駆動ロールでのスリップの発生が検出されたとき、前記負荷トルク検出手段によって測定された負荷トルクの差分値を用いて、前記ブライドルロールの入側の駆動ロールのスリップを抑制するための速度設定補正量を演算して前記速度基準値に加算し、前記上流側の駆動ロールの速度制御手段へ出力するスリップ抑制制御処理と、をコンピュータに実行させるためのプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−143992(P2011−143992A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−5307(P2010−5307)
【出願日】平成22年1月13日(2010.1.13)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】