説明

帯電散布ヘッド

【課題】水系消火剤の少ない散布量で効率的に火災の消火と抑制を可能とする。
【解決手段】水系の消火剤を、防護エリアAに設置され帯電散布ヘッド10に配管16を介して水系の消火剤を加圧供給し、帯電散布ヘッド10から消火剤の噴射粒子に帯電させて散布する。帯電散布ヘッド10には電圧印加部15からパルス状または交流的に帯電電圧が印加され、水側電極部と誘導電極部との間に電圧を加えることにより生ずる外部電界を、噴射過程にある消火剤に印加して、噴射粒子を帯電させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水、海水、消火薬剤を含有した水系の消火剤を散布する帯電散布ヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の水系の火災防災設備には、スプリンクラー消火や水噴霧消火設備、ウォーターミスト消火設備などがある。特にウォーターミスト消火設備は水の粒子をスプリンクラー設備や水噴霧設備と比べて数分の1の20〜200μmと小さくして、空間に放出することで、冷却効果と蒸発水による酸素供給の阻害効果により、少ない水量での消火効果を期待したものである。
【0003】
近年、水を消火剤として用いるスプリンクラー消火設備や水噴霧消火設備、あるいはウォーターミスト消火設備にあっては、二酸化炭素や窒素などのガス系消火剤などと比較して、環境及び人体にやさしい水を消火剤としていることから、見直されているところである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−192320号公報
【特許文献2】特開平10−118214号公報
【特許文献3】特開昭58−174258号公報
【特許文献4】特開2005−287655号公報
【特許文献5】特開昭03−186276号公報
【特許文献6】特開昭03−186277号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のスプリンクラー消火設備や水噴霧消火設備にあっては、高い消火能力を有していることは一般の認めるところであるが、消火能力を確保するために放射水量が多くなり、消火時及び消火後の水濡れ被害を低減することが課題となっている。
【0006】
一方、水濡れ被害が少ないとされるウォーターミスト消火設備にあっては、空間に比較的小さな水の粒子を充満させて、冷却効果と蒸発水による酸素供給の阻害効果をねらったものであるが、消火能力はあまり高くないのが実情である。
【0007】
要因として高温燃焼物体に接する高温空気の分子運動により、小さな水粒子ははじかれてしまい、燃焼面に付着して濡らす効果が少ないためと推定されている。
【0008】
本発明は、水系消火剤の少ない散布量で効率的に火災の消火と抑制を可能とする帯電散布ヘッドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、防護区画に設置され、消火剤供給設備により供給された水系の消火剤の噴射粒子に帯電させて散布する帯電散布ヘッドに於いて、
水系の消火剤を供給する配管に接続され、水系の消火剤を外部の噴射空間へ噴射することで粒子に変換して散布する噴射ノズルと、
噴射空間に配置した誘導電極部と、
配管と噴射ノズルとの間に導電性の材料を使用して配置され、噴射ノズルに供給される前記水系の消火剤に接触する水側電極部と、
を備え、
誘導電極部と水側電極部との間に帯電電圧を加えることにより生じる外部電界を、噴射空間で粒子への変換過程にある水系の消火剤に印加して、噴射粒子を帯電させることを特徴とする。
【0010】
また本発明は、防護区画に設置され、消火剤供給設備により供給された水系の消火剤の噴射粒子に帯電させて散布する帯電散布ヘッドに於いて、
水系の消火剤を供給する配管に接続され、水系の消火剤を外部の噴射空間へ噴射することで粒子に変換して散布する噴射ノズルと、
噴射空間に配置した誘導電極部と、
配管の噴射ノズルを接続する側に導電性の材料を使用して配置され、噴射ノズルに供給される水系の消火剤に接触する水側電極部と、
を備え、
誘導電極部と水側電極部との間に帯電電圧を加えることにより生じる外部電界を、噴射空間で粒子への変換過程にある水系の消火剤に印加して、噴射粒子を帯電させることを特徴とする。
【0011】
ここで、誘導電極部は、導電性を有する金属、導電性を有する樹脂又は導電性を有するゴムのいずれか又は複合体であって、リング形状、円筒形状、垂直平板形状、平行板形状、線形状又は金網状のいずれかの形状である。
【0012】
水側電極部の電圧をゼロボルトとして且つアースに落とし、誘導電極部に所定の帯電電圧を印加する。
【0013】
誘導電極部の一部又は全部を絶縁性材料で被覆する。
【0014】
水系の消火剤は、水、海水、消火力を強化する薬剤を含有した水である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、帯電散布ヘッドから散布する水粒子を帯電させることにより、クーロン力により高温燃焼面への水粒子の付着はもとより、燃焼材のあらゆる面への水粒子の付着がおこり、帯電していない通常の水粒子と比較して、濡らし効果が大幅に増大して消火力を高めることができる。
【0016】
また、例えばマイナス電荷のみで帯電散布した場合、空間中での水粒子間には斥力が働き、衝突会合して成長落下する確率が小さく、空間中に滞留する水粒子密度が多いことも消火力が高い要因となっている。
【0017】
本願発明者が消火実験を行ったところ、従来の非帯電散布と比較して、当初の予想を超える画期的な消火性能の向上が確認されている。本発明の帯電散布によれば、従来の非帯電散布時の約1/4の消火水量により同等の消火効果が得られている。
【0018】
また本発明の帯電散布によれば、従来の非帯電散布と比較して火災時に発生した煙の消煙性能が大幅に向上することが実験的に確認され、これは当初予想し得なかった画期的な結果である。本発明の帯電散布によれば、従来の非帯電散布時の約1/5の消火水量により同等の消煙効果が得られている。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明による火災防災設備の実施形態を示した説明図
【図2】図1の防護エリアAを取り出して示した説明図
【図3】リング誘導電極部を用いた帯電散布ヘッドの実施形態を示した説明図
【図4】火災による煙が電荷を帯びていることを確認する実験結果を示した説明図
【図5】本実施形態による消煙効果を確認する実験結果を示したグラフ図
【図6】本実施形態の帯電散布ヘッドに供給する印加電圧を示したタイムチャート図
【図7】円筒状誘導電極部を用いた帯電散布ヘッドの他の実施形態を示した説明図
【図8】金網状誘導電極部を用いた帯電散布ヘッドの他の実施形態を示した説明図
【図9】平行板誘導電極部を用いた帯電散布ヘッドの他の実施形態を示した説明図
【図10】針状誘導電極部を用いた帯電散布ヘッドの他の実施形態を示した説明図
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1は本発明による火災防災設備の実施形態を示した説明図である。図1において、建物内の例えばコンピュータルームなどの防護エリアA及びBの天井側には、本実施形態による帯電散布ヘッド10が設置されている。
【0021】
帯電散布ヘッド10に対しては、消火剤供給設備として機能する水源14に対し設置されたポンプユニット12の突出側から手動弁(仕切弁)13を介して配管16が接続され、配管16は分岐後に調圧弁30及び自動開閉弁32を介して、防護エリアA,Bのそれぞれに設置した帯電散布ヘッド10に接続している。
【0022】
防護エリアA,Bのそれぞれには、帯電散布ヘッド10からの散布を制御する専用火災感知器18が設置されている。また防護エリアA,Bのそれぞれに対しては連動制御中継装置20が設けられ、更に帯電散布ヘッド10からの散布制御を手動操作で行うための手動操作箱22が設けられている。
【0023】
連動制御中継装置20に対しては、専用火災感知器18及び手動操作箱22からの信号線が接続されると共に、帯電散布ヘッド10に帯電駆動のための電圧を印加するための信号線、及び自動開閉弁32を開閉制御するための信号線が引き出されている。
【0024】
更に防護エリアAには自動火災報知設備の火災感知器26が設置され、自動火災報知設備の受信機28からの感知器回線に接続している。なお、防護エリアBについては自動火災報知設備の火災感知器26を設けていないが、必要に応じて設けてもよいことはもちろんである。
【0025】
防護エリアA,Bに対応して設置した連動制御中継装置20は、システム監視制御盤24に信号線接続されている。システム監視制御盤24に対しては自動火災報知設備の受信機28も接続されている。更にシステム監視制御盤24はポンプユニット12を信号線接続し、ポンプユニット12におけるポンプ起動停止を制御する。
【0026】
図2は図1の防護エリアAを取り出して示した説明図である。防護エリアAの天井側には帯電散布ヘッド10が設置されている。帯電散布ヘッド10に対しては、図1に示したポンプユニット12からの配管16が調圧弁30及び自動開閉弁32を介して接続されている。
【0027】
また帯電散布ヘッド10の上部には電圧印加部15が設置されており、後の説明で明らかにするように、帯電散布ヘッド10に所定の電圧を印加して、帯電散布ヘッド10から噴射する消火剤を帯電させて散布できるようにしている。また防護エリアAの天井側には専用火災感知器18が設置され、併せて自動火災報知設備の火災感知器26も接続されている。
【0028】
図3は図1及び図2に示した帯電散布ヘッド10の実施形態であり、この実施形態にあってはリング誘導電極部を用いたことを特徴とする。
【0029】
図3(A)において、帯電散布ヘッド10はポンプユニット12からの配管に接続した立下り配管34の先端にヘッド本体36をねじ込み固定している。ヘッド本体36の先端内側には、絶縁部材41を介して、円筒状の水側電極部40が組み込まれている。
【0030】
水側電極部40に対しては、図2に示したように、上部に設置している電圧印加部15よりアースケーブル50が引き出され、ヘッド本体36の内側に絶縁部材41を介して設置した水側電極部40に接続されている。このアースケーブル50による接続で、水側電極部40は印加電圧を0ボルトとし、且つアース側に落とすようにしている。
【0031】
水側電極部40の下側には噴射ノズル38が設けられる。噴射ノズル38は、水側電極部40側の内部に設けたノズル回転子38aと、先端側に設けたノズルヘッド38bで構成される。
【0032】
噴射ノズル38は、図1のポンプユニット12から加圧供給された水系の消火剤の供給を立下り配管34から受け、ノズル本体38aを通過してノズルヘッド38bから外部に噴射される際に、水系消火薬剤を粒子に変換して散布する。本実施形態において、噴射ノズル38から散布される散布パターンは、いわゆるフルコーンの形状を持つことになる。
【0033】
噴射ノズル38に対しては、固定部材43を介して、絶縁性材料を用いたカバー42がビス止めにより固定される。カバー42はほぼ円筒状の部材であり、下側の開口部にストッパリング46のネジ止めによりリング状誘導電極部44を組み込んでいる。
【0034】
リング状誘導電極部44は、図3(B)に取り出して示すように、リング状本体の中央に噴射ノズル38からの噴射粒子を通過させる開口45を形成している。
【0035】
カバー42の下部に配置したリング状誘導電極部44に対しては、図2に示した上部の電圧印加部15より電圧印加ケーブル48が引き出され、電極印加ケーブル48は絶縁性材料からなるカバー42を貫通してリング状誘導電極部44に接続され、電圧を印加できるようにしている。
【0036】
ここで、本実施形態の帯電散布ヘッド10に使用している水側電極部40及びリング状誘導電極部44としては、導電性を有する金属以外に、導電性を有する樹脂、導電性を有するゴムであってもよく、更にこれらの組合せであってもよい。
【0037】
帯電散布ヘッド10から水系の消火薬剤を散布する際には、図2に示した電圧印加部15が図1に示す連動制御中継装置20からの制御信号により動作し、水側電極部40を0ボルトとなるアース側とし、リング状誘導電極部44に対し例えば20キロボルトを超えない直流、交流又はパルス状となる印加電圧を印加する。
【0038】
このように水側電極部40とリング状誘導電極部44との間に例えば数キロボルトとなる電圧が加えられると、この電圧印加によって両電極間に外部電界が生じ、噴射ノズル38から水系の消火剤が噴射粒子に変換される噴射過程を通じて噴射粒子が帯電され、帯電された噴射粒子を外部に散布することができる。
【0039】
次に図1の実施形態における監視動作を説明する。いま、防護エリアAにおいて火災Fが発生したとすると、例えば専用火災感知器18が火災を検出して火災検出信号を連動制御中継装置20を介してシステム監視制御盤24に送る。
【0040】
システム監視制御盤24は防護エリアAに設置している専用火災感知器18の発報を受信するとポンプユニット12を起動し、水源14から消火用水を汲み上げてポンプユニット12により加圧し、配管16に供給する。
【0041】
同時にシステム監視制御盤24は、防護エリアAに対応して設けている連動制御中継装置20に対し帯電散布ヘッド10の起動信号を出力する。この起動信号を受けて、連動制御中継装置20は自動開閉弁32を開放動作し、これによって調圧弁30により調圧された一定圧力の水系の消火剤が、開放した自動開閉弁32を介して帯電散布ヘッド10に供給され、図2に取り出して示すように、帯電散布ヘッド10から防護エリアAに噴射粒子として散布される。
【0042】
同時に連動制御中継装置20は、図2に示す帯電散布ヘッド10に設けている電圧印加部15に対し起動信号を送り、この起動信号を受けて電圧印加部15は、帯電散布ヘッド10に対し例えば数キロボルトとなる直流、交流又はパルス状となる印加電圧を供給する。
【0043】
このため図3(A)に示した帯電散布ヘッド10にあっては、噴射ノズル38から加圧された水系の消火薬剤を噴射により噴射粒子に変換して散布する際に、アースケーブル50が接続された水側電極部40を0ボルトとして、電圧印加ケーブル48が接続されたリング状誘導電極部44側に数キロボルトの電圧が印加され、この電圧印加により生じた外部電界を、噴射ノズル38から噴射されてリング状誘導電極部44の開口45を通過する噴射過程にある水系の消火剤に印加し、噴射により変換された噴射粒子を帯電させて散布することができる。
【0044】
図2に取り出して示すように、帯電散布ヘッド10から火災Fが発生している防護エリアAに向けて噴射された水粒子は、水粒子が帯電しているため、帯電によるクーロン力により火災Fによる高温燃焼源に効率良く付着すると同時に、燃焼材のあらゆる面への付着が起こり、従来の非帯電の水粒子を散布した場合に比べ、燃焼材に対する濡らし効果が大幅に増大し、高い消火能力が発揮される。
【0045】
更に図3(A)の帯電散布ヘッド10にあっては、例えば水側電極部40を0ボルトとし、リング状誘導電極部44に対しプラスの電圧をパルス的に印加したような場合には、散布される水粒子はマイナスの電荷のみに帯電した散布となる。このようにマイナスの電荷のみに帯電した水粒子を散布した場合には、空間中で帯電した水粒子間には斥力が働き、これによって水粒子が衝突会合して成長落下する確率が小さくなり、空間中に滞留する水粒子の密度が高くなり、これによって高い消火能力が発揮される。
【0046】
更に、防護エリアAに帯電散布ヘッド10から帯電した水粒子を散布することで、火災Fにより発生した煙を効率的に消す消煙効果が得られる。
【0047】
このような本実施形態における消煙効果は、従来の水粒子の散布による消煙効果が水粒子と煙粒子との確率的な衝突による捕捉作用であることに対し、本実施形態にあっては、散布している水粒子を帯電させることにより、同じく帯電状態にある煙粒子を水粒子がクーロン力によって捕集し、これによって大幅な消煙作用が発揮される。
【0048】
ここで本実施形態の帯電散布ヘッド10から散布する水粒子の粒子径としては、例えば図3(A)の噴射ノズル38を使用した場合の粒子径としてはさまざまな粒子径のものが含まれており、本実施形態にあっては水粒子の粒子径については特に規定するものではないが、クーロン力による燃焼物質への付着の有利性を考慮すると、200μm程度以下の水粒子が多く含まれるような噴射ノズル38を用いることが望ましい。
【0049】
次に本実施形態による消火効果を説明する。既に説明したように、本実施形態の帯電散布ヘッド10を使用した噴射粒子に帯電させた散布にあっては、水粒子を帯電させることにより、クーロン力により高燃焼面への付着はもとより燃焼材のあらゆる面への付着が起こり、従来の非帯電水粒子と比較して濡らし効果が大幅に増大するため、高い消火力が得られている。
【0050】
更に、例えばマイナス電荷のみに帯電放射した場合には、空間中での水粒子間には斥力が働き、衝突会合して成長落下する確率が小さくなり、空気中に滞留する水粒子密度が高くなることも消火能力が高い要因となっている。
【0051】
このような理由により、本実施形態の帯電散布ヘッドを用いた水粒子の帯電放射にあっては、従来の非帯電による水粒子の散布に比較して消火性能が大幅に向上する。
【0052】
本願発明者にあっては、消火性能の向上を確認するため次の消火実験を行っている。
(実験例1)
木材クリブ火災の消火試験結果
実験条件
ノズル噴射量:8リットル/分at1MPa
誘導電極電圧:2キロボルト
火災模型:12ミリメートル角、150ミリメートル角材×22本
着火剤:nヘプタン着火
消火時間
帯電あり:14秒
帯電なし:54秒
【0053】
この実験結果から、本実施形態による帯電散布にあっては、非帯電散布時の約26パーセントの消火水量、即ち約4分の1の消火水量で、同等の消火効果が得られている。
【0054】
次に本実施形態における帯電散布による消煙効果を説明する。本実施形態の帯電散布は従来の非帯電散布と比較して、火災時に発生した煙の消煙性能が大幅に向上する。
【0055】
本願発明者らは、火災による煙が電荷を帯びていることを実験により確認している。図4(A)は通過型ファラデーゲージによって測定した煙の電荷状態を示すシンクロスコープの写真である。
【0056】
図4(A)は煙なしの状態での通過型ファラデーゲージの出力であり、ほぼ一定のノイズレベルに収まっている。
【0057】
図4(B)は煙を通したときの通過型ファラデーゲージの出力であり、シンクロスコープ波形は画面上で大きく振っており、煙粒子の帯電状態が顕著であることを示している。
【0058】
本実施形態による帯電散布によって高い消煙効果が得られる理由は、従来の非帯電散布による煙の捕捉は煙粒子と水粒子の確率的な衝突による捕捉手段であることに対し、本実施形態にあっては水粒子を帯電させることにより、図4(B)のシンクロスコープ波形から明らかなように、帯電状態にある煙粒子をクーロン力によって捕集するため、消煙効果が増大している。
【0059】
例えば帯電状態にある水粒子が100〜200μmであったとすると、同じく帯電状態にある煙粒子は1〜2μmであり、水粒子が周囲に存在する多数の小さな煙粒子をクーロン力により捕集することとなり、その結果、大きな消煙効果が得られることになる。
【0060】
この本実施形態による消煙効果の増大を確認するため、次の実験を行っている。
(実験例2)
ノズル噴射量:8リットル/分at1MPa
誘導電極電圧:2キロボルト
放水パターン:パルス状印加放水
火災模型:1.8立方メートルの閉鎖空間内でガソリン50ミリリットルを燃焼させて煙を充満させた後、60秒放水と120秒のインターバルで5サイクルの散布を実施して、煙の濃度推移を測定
【0061】
図5は実験例2による実験結果を示したグラフ図である。図5の実験結果は、横軸に経過時間、縦軸に煙濃度を示している。また実験特性100が本実施形態による帯電散布であり、実験特性200が従来の非帯電による散布である。
【0062】
図5において、時刻t1でガソリンに点火すると、実験特性100,200に示すように煙濃度は急激に増加し、実際、外部から観察していると閉鎖空間内は燃焼した煙で真っ黒く、まったく見えない状態になっている。
【0063】
続いて時刻t2で散布を開始する。本実施形態の実験特性100にあっては、まず時刻t2からt3まで1回目の帯電散布を行っており、この1回目の帯電散布で煙濃度は1.3パーセントに急激に低下している。
【0064】
この時刻t2からt3への煙濃度の変化は、視覚的に見ていると真っ黒であった閉鎖空間内の煙の状態が、見る見るうちに煙が消えて少し中が見える状態となる急激な消煙作用であり、これが僅か60秒の帯電散布の間に行われている。
【0065】
続いて120秒のインターバルを終えた後、時刻t4〜t5で2回目の帯電散布を行い、以下、t6〜t7、t8〜t9、t10〜t11というように帯電散布を繰り返すと、帯電散布の回数の増加に伴って煙濃度は、例えば5回目の帯電散布でほぼ0パーセント、即ちまったく煙のない状態に消煙することができる。
【0066】
これに対し非帯電散布となる従来特性200にあっては、本実施形態の実験特性と同様、時刻t2〜t3、時刻t4〜t5、時刻t6〜t7、時刻t8〜t9及び時刻t10〜t11の5回に亘り、非帯電散布を120秒のインターバルをおいて行っているが、煙濃度の低下は緩やかであり、本実施形態の実験特性100に対し、従来の非帯電の実験特性200にあってはほぼ倍の煙濃度であり、この実験結果の比較から、本実施形態にあっては大幅な消煙効果が得られることが確認されている。
【0067】
図5に示す実験結果から明らかになった本実施形態による消煙効果は、本願発明者らが、当初、帯電散布を火災の消火に導入する着想を得た段階では、消火効果についてはある程度の見通しを持っていたが、消煙効果についてはまったく予測していなかった顕著な結果であった。
【0068】
ちなみに図5の実験結果によれば、同じ散布水量の条件で帯電散布と非帯電散布のときの煙濃度の時間推移の結果から、本実施形態による帯電散布によれば、従来の非帯電散布のときの約5分の1の散布水量で同等の消煙効果が得られることが確認できている。
【0069】
図6は本実施形態の電圧印加部15から帯電散布ヘッド10に加える印加電圧を示したタイムチャートである。
【0070】
図6(A)は+Vの直流電圧を印加する場合であり、この場合には、マイナスに帯電した水粒子が連続的に散布される。
【0071】
図6(B)は−Vの直流電圧を印加する場合であり、この場合には、プラスに帯電した水粒子が連続的に散布される。
【0072】
図6(C)は±Vの交流電圧を印加する場合であり、この場合には、プラスの半サイクルの期間に交流電圧の変化に応じてマイナスに帯電した水粒子が連続的に散布され、マイナスの半サイクルの期間に交流電圧の変化に応じてプラスに帯電した水粒子が連続的に散布される。
【0073】
図6(D)は+Vのパルス状電圧を所定のインターバルを空けて印加する場合であり、この場合には、マイナスに帯電した水粒子が間欠的に散布され、電圧を印加していない期間には、帯電していない水粒子の散布となる。
【0074】
図6(E)は−Vのパルス状電圧を所定のインターバルを空けて印加する場合であり、この場合には、プラスに帯電した水粒子が間欠的に散布され、電圧を印加していない期間には、帯電していない水粒子の散布となる。
【0075】
図6(F)は±Vのパルス状電圧を所定のインターバルを空けて交互に印加する場合であり、この場合には、マイナスに帯電した水粒子とプラスに帯電した水粒子がインターバルを置いて交互に散布され、電圧を印加していない期間には、帯電していない水粒子の散布となる。
【0076】
図6に示した帯電電圧を帯電散布ヘッド10に供給する電圧印加部15としては、制御入力付きの市販の昇圧ユニットを利用することができる。市販の昇圧ユニットには、入力にDC0〜20ボルトを加えると出力にDC0〜20キロボルトを出力するものがあり、このような市販ユニットが利用できる。
【0077】
図7は円筒状誘導電極部を用いた帯電散布ヘッドの他の実施形態を示した説明図である。図7(A)において、本実施形態の帯電散布ヘッド10は、立下り配管34の先端にヘッド本体36をネジ止め固定し、ヘッド本体36の内側に絶縁部材41を介して水側電極部40を配置し、ここに上部からアースケーブル50を接続している。
【0078】
水側電極部40の下側には噴射ノズル38が配置され、噴射ノズル38はノズル本体(回転子)38aとノズルヘッド38bで構成される。ノズルヘッド38bの下部外側には固定部材43を介して円筒状のカバー56が取り付けられる。カバー56の下端の開口部には、ストッパリング58のビス止め固定により内部に円筒状誘導電極部52を配置している。
【0079】
円筒状誘導電極部52は、図7(B)に取り出して示す平面図のように、円筒体の内側に貫通穴54を形成している。円筒状誘導電極部52に対しては、絶縁性材料を用いたカバー56を貫通してケーブル48が接続され、帯電のための印加電圧が供給される。
【0080】
この円筒状誘導電極部52を用いた帯電散布ヘッド10にあっても、噴射ノズル38から加圧された水系消火剤を噴射して水粒子を散布する際に、水側電極部40を0ボルトとして円筒状誘導電極部52に例えば数キロボルトの電圧が印加され、これによって生ずる外部電界が形成される円筒状誘導電極部52の貫通穴54の空間を、噴射ノズル38から放射された水粒子が通過する噴射過程で帯電させ、帯電した水粒子を散布することができる。
【0081】
図8は金網状誘導電極部を用いた帯電散布ヘッドの他の実施形態を示した説明図である。図8(A)の帯電散布ヘッド10にあっては、立下り配管34の下部にヘッド本体36をネジ止め固定し、その内部に絶縁部材41を介して水側電極部40を配置し、ここにアースケーブル50を接続している。噴射ノズル38の下側には固定部材43を介してカバー62が取り付けられ、カバー62の内部の開口部に金網状誘導電極部60を取り付けている。
【0082】
金網状誘導電極部60は図8(B)に取り出して示す平面形状を持ち、所定のメッシュを持った金属性の金網を使用している。カバー62は絶縁性材料であり、電圧印加ケーブル48をカバー62を貫通して金網状誘導電極部60に接続することで電圧を印加できるようにしている。
【0083】
図8の実施形態にあっても、噴射ノズル38から水系消火剤を噴射して水粒子に変換する際に、水側電極部40を0ボルトとして金網状誘導電極部60側に数キロボルトといった電圧をパルス状あるいは交流状に印加することで、噴射ノズル38からの噴射空間に外部電界を発生し、ここを通過する噴射粒子に金網状誘導電極部60の網目開口部を通過する際に帯電させて、帯電した水粒子を散布することができる。
【0084】
図9は平行板誘導電極部を用いた帯電散布ヘッドの実施形態を示した説明図である。図9の帯電散布ヘッド10にあっては、立下り配管34の下部に噴射ノズル68をネジ止め固定している。この実施形態で、水側電極部は立下り配管34そのものを使用しており、したがって立下り配管34に対し接続リング66を使用して、アースケーブル50を直接接続している。
【0085】
噴射ノズル68の下部にはリングホルダ70がビス止め固定され、リングホルダ70に対しては下側に片持ちで吊り下げた状態で一対の板状のホルダ72a,72bが平行配置されている。ホルダ72a,72bの内側の相対面には平行板誘導電極部74a,74bが固定されている。平行板誘導電極部74a,74bは、その下側から見た平面図は図9(B)に示すように平行配置されている。
【0086】
ホルダ72a,72bは絶縁性材料であり、ここを貫通して電圧印加ケーブル48を分岐部76で分岐した分岐ケーブル48a,48bをそれぞれ平行板誘導電極部74a、74bに接続することで、数キロボルトといった印加電圧を加えるようにしている。
【0087】
この図9の帯電散布ヘッド10にあっても、噴射ノズル68から水系の消火剤を噴射して噴射粒子として散布する際に、水側電極部となる立下り配管34と先端側に平行配置された平行板誘導電極部74a,74bとの間に数キロボルトといった電圧を印加することで、平行板誘導電極部74a,74bに挟まれた空間に外部電界を発生し、この外部電界を噴射ノズル68から噴射された水粒子が通過する過程で噴射水粒子に帯電させ、帯電した水粒子を散布することができる。
【0088】
図10は針状誘導電極部を用いた帯電散布ヘッドの他の実施形態を示した説明図である。図10(A)の帯電散布ヘッド10にあっては、水側電極部として使用する立下り配管34の先端に噴射ノズル68をねじ込み固定し、立下り配管34に対しては接続リング66の取り付けでアースケーブル50を電気的に接続している。
【0089】
噴射ノズル68の先端側には、固定部材43を介してリングホルダ80が取り付けられる。リングホルダ80の下部には針状誘導電極部78が取り付けられている。針状誘導電極部78は逆L字型に屈曲し、先端を噴射ノズル68の開口部に向けて斜めに屈曲させた針形状を持ち、その下方から見た平面図は図10(B)のようになる。
【0090】
リングホルダ80に取り付けられた針状誘導電極部78に対しては、電圧印加ケーブル48が電気的に接続されている。
【0091】
この実施形態にあっても、噴射ノズル68から水系消火剤を噴射して水粒子に変換して散布する際に、水側電極部として機能する立下り配管34とノズル先端側に配置した針状誘導電極部78との間に数キロボルトといった電圧を印加することで、ノズル開口部と針状誘導電極部78の先端との間の空間に外部電界を発生し、ここを噴射ノズル68から噴射された水粒子に変換する噴射過程で噴射粒子が帯電され、帯電水粒子として散布することができる。
【0092】
なお本実施形態で使用する帯電散布ヘッド10としては、上記の実施形態に示したさまざまな構造を適用できるが、これに限定されず、適宜の構造の帯電散布ヘッドを使用することができる。
【0093】
また帯電散布ヘッドに印加する帯電電圧も、水側電極部を0ボルトとして誘導電極部側をプラスマイナスの印加電圧とするか、プラスのみの印加電圧とするか、あるいはマイナスのみの印加電圧とするかは、消火対象とする燃焼部材側の状況に応じて、必要に応じて適宜に定めることができる。
【0094】
また本発明はその目的と利点を損なうことのない適宜の変形を含み、更に上記の実施形態に示した数値による限定は受けない。
【符号の説明】
【0095】
10:帯電散布ヘッド
12:ポンプユニット
13:手動弁
14:水源
15:電圧印加部
16:配管
18:専用火災感知器
20:連動制御中継装置
22:手動操作箱
24:システム監視制御盤
26:火災感知器
28:受信機
30:調圧弁
32:自動開閉弁
34:立下り配管
36:ヘッド本体
38,68:噴射ノズル
38a:ノズル回転子
38b:ノズルヘッド
40:水側電極部
41:絶縁部材
43:固定部材
42,56,62:カバー
44:リング状誘導電極部
45:開口
46,58,674:ストッパリング
48:電圧印加ケーブル
50:アースケーブル
52:円筒状誘導電極部
54:貫通穴
60:金網状誘導電極部
66:接続リング
70,80:リングホルダ
72a,72b:ホルダ
74a,74b:平行板誘導電極部
76:分岐部
78:針状誘導電極部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
防護区画に設置され、消火剤供給設備により供給された水系の消火剤の噴射粒子に帯電させて散布する帯電散布ヘッドに於いて、
前記水系の消火剤を供給する配管に接続され、前記水系の消火剤を外部の噴射空間へ噴射することで粒子に変換して散布する噴射ノズルと、
前記噴射空間に配置した誘導電極部と、
前記配管と前記噴射ノズルとの間に導電性の材料を使用して配置され、前記噴射ノズルに供給される前記水系の消火剤に接触する水側電極部と、
を備え、
前記誘導電極部と水側電極部との間に前記帯電電圧を加えることにより生じる外部電界を、前記噴射空間で粒子への変換過程にある水系の消火剤に印加して、前記噴射粒子を帯電させることを特徴とする帯電散布ヘッド。
【請求項2】
防護区画に設置され、消火剤供給設備により供給された水系の消火剤の噴射粒子に帯電させて散布する帯電散布ヘッドに於いて、
前記水系の消火剤を供給する配管に接続され、前記水系の消火剤を外部の噴射空間へ噴射することで粒子に変換して散布する噴射ノズルと、
前記噴射空間に配置した誘導電極部と、
前記配管の前記噴射ノズルを接続する側に導電性の材料を使用して配置され、前記噴射ノズルに供給される前記水系の消火剤に接触する水側電極部と、
を備え、
前記誘導電極部と水側電極部との間に前記帯電電圧を加えることにより生じる外部電界を、前記噴射空間で粒子への変換過程にある水系の消火剤に印加して、前記噴射粒子を帯電させることを特徴とする帯電散布ヘッド。
【請求項3】
請求項1又は2記載の帯電散布ヘッドに於いて、前記誘導電極部は、導電性を有する金属、導電性を有する樹脂又は導電性を有するゴムのいずれか又は複合体であって、リング形状、円筒形状、垂直平板形状、平行板形状、線形状又は金網状のいずれかの形状であることを特徴とする帯電散布ヘッド。
【請求項4】
請求項1又は2記載の帯電散布ヘッドに於いて、前記水側電極部の電圧をゼロボルトとして且つアースに落とし、前記誘導電極部に所定の帯電電圧を印加することを特徴とする帯電散布ヘッド。
【請求項5】
請求項1又は2記載の帯電散布ヘッドに於いて、前記誘導電極の一部又は全部を絶縁性材料で被覆したことを特徴とする帯電散布ヘッド。
【請求項6】
請求項1又は2記載の帯電散布ヘッドに於いて、前記水系の消火剤は、水、海水、消火力を強化する薬剤を含有した水であることを特徴とする帯電散布ヘッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−183319(P2012−183319A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−97412(P2012−97412)
【出願日】平成24年4月23日(2012.4.23)
【分割の表示】特願2007−279865(P2007−279865)の分割
【原出願日】平成19年10月29日(2007.10.29)
【出願人】(000003403)ホーチキ株式会社 (792)
【Fターム(参考)】