説明

帯電防止性アクリル系樹脂組成物およびフィルム、シート

【課題】 本発明は、帯電防止剤の滲出による被着体の汚染や帯電防止効果の減衰が少なく、さらにフィルム、シートの物性や成形性を損なうことのない帯電防止性アクリル系樹脂組成物を提供し、該帯電防止性アクリル系樹脂組成物より形成されるフィルム、シートを提供することを目的とする
【解決手段】 係る目的を達成する本発明の帯電防止性アクリル系樹脂組成物が、10〜80重量%のアクリル樹脂(a1)と90〜20重量%のアクリル系ゴム状粒子(a2)とからなるアクリル系ポリマー混合物(A)に高分子型帯電防止剤(B)を添加してなり、また本発明のフィルムおよびシートが上記帯電防止性アクリル系樹脂組成物より形成され、さらに本発明のダイシング用粘着テープの基材フィルムが上記帯電防止性アクリル系樹脂組成物より形成され、また、さらに本発明のバックグラインド用粘着テープの基材フィルムが上記帯電防止性アクリル系樹脂組成物より形成されることとしたことである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、帯電防止性能を有するアクリル系樹脂組成物及び該アクリル系樹脂組成物より形成されるフィルム、シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
各種高分子材料は一般的に高い電気絶縁性を有するために帯電しやすく、ほこりの付着などの問題があることから、界面活性剤等の低分子量型の帯電防止剤が添加され、帯電によるほこりの付着を防止している。
【0003】
しかし、低分子量型の帯電防止剤は表面に滲出することによってその帯電防止効果を発揮しているが、そのために永続的に帯電防止性能が要求される用途や滲出する低分子量帯電防止剤による被接着体への汚染が嫌われる用途では、低分子型帯電防止剤を使用することはできない。
【0004】
このような低分子量型帯電防止剤による汚染が嫌われる用途して半導体製造プロセス用粘着テープなどが挙げられる。
一方、近年高性能半導体チップでは、消費電力の低減や高速動作が図られているが、そのために駆動電圧の低減や保護回路の省略などにより、静電気破壊を受けやすくなってきている。そのため、従来の各種イオナイザーなどの静電対策設備では十分な信頼性が得られにくくなってきており、粘着テープ自体への帯電防止性能が求められてきている。
【0005】
半導体製造プロセス用の粘着テープとしては、ダイシング用粘着テープやバックグラインド用粘着テープなどがある。ダイシングテープとは、薄い円盤状に形成された半導体ウエハを小片のチップに切断分離する(これを「ダイシング」と称する。)際に、半導体ウエハを固定するために用いられるものである。バックグラインド用粘着テープとは、パターンを形成した半導体ウエハを研磨するバックグラインド工程において、パターン面を保護し、同時に研磨により薄肉化した半導体ウエハを保持するためものである。
【0006】
ダイシング粘着テープ用基材フィルムやバックグラインド粘着テープ用基材フィルムのように被着体への汚染が問題となる半導体製造プロセス用フィルムや永続的な帯電防止機能を求められる用途においては、低分子型帯電防止剤の滲出による汚染や帯電防止性能の減衰が起こらないことが要求されている。
【0007】
上記の要求を満足させる方法して、オレフィンなどの熱可塑性合成樹脂に高分子型帯電防止剤を添加する方法が採用され、高分子型帯電防止剤としてポリエーテルエステルアミドなどが使用されている(特許文献1および2を参照)。しかし、オレフィンなどの熱可塑性合成樹脂とポリエーテルエステルアミドとの相溶性が悪いために、酸変性ポリオレフィンを併用する方法が知られている。しかしこの方法では、ポリエーテルエステルアミドが配向しにくく、効果的に通電回路を形成することが出来ず少量の添加では十分な帯電防止効果が得られなかった。そのため、ポリエーテルエステルアミド等の高分子型帯電防止剤を多量に添加する必要があった。その結果、加工時のロール粘着などの成形加工性の悪化や仕上がったフィルム、シートの機械物性の低下などの問題を招いていた。
【0008】
特にカレンダー法にてフィルムおよびシートを成形する際には、カレンダーロールからの剥離性が成形加工上重要となるが、帯電防止効果が得られる程度の帯電防止剤を添加した組成物をカレンダー法にて成形加工するとカレンダーロール等に粘着し成形加工できないといった致命的な問題がある。
【0009】
また、ダイシング用粘着テープでは、チッピング性やエキスパンド性といった性能が要求されるために、多量の高分子量帯電防止剤を添加することでこれらの特性が低下するといった問題があり一般的には使用されていない。
【0010】
ダイシングでは、回転するブレードと呼ばれる丸刃を高速回転させることによって、ウエハを所定のサイズに切断している。しかしこのようにウエハをダイシングした際に、振動や衝撃によってウエハの裏面にチッピング言われるクラックを生じる。近年、ウエハの薄膜化が進んでおり、チッピングは半導体チップの大きな強度低下を招き、その歩留まりを大きく低下させると言った問題が発生してきている。そのため、粘着テープの基材フィルムには、ダイシング時の振動や衝撃を吸収しチッピングを防止することが求められている。
【0011】
さらに、ダイシングの後にエキスパンド工程があり、切断されたチップに貼着されている粘着テープを延伸することが行なわれ、チップ間の間隔を広げてチップのピックアップを容易にしている。従って、このエキスパンド工程において粘着テープが均一に延伸されないと、チップをピックアップする際のピックアップミスにつながり、半導体素子の製造における歩留まり率が低下する。そのため、粘着テープの基材フィルムには、均一に延伸することが求められている。
【0012】
このようにダイシング粘着テープには、チッピングを防止するための適度な振動および衝撃吸収性とエキスパンドするときの均一な延伸性が求められ、さらに半導体チップへの汚染の少ない高分子型帯電防止剤を使用した基材フィルムが求められている。
【0013】
また、バックグラインド工程においては、シリコン、ガリウム、砒素などからなるウエハが元来脆いものであることに加えて、それが薄肉に研磨され、さらに片面にパターンを形成していることによる凹凸があることから、ウエハの研磨時に加えられる外力によって、ウエハが破損するという問題がしばしば発生する。
【0014】
このようにバックグラインド用粘着テープには研磨時の振動及び衝撃吸収性と半導体チップへの汚染の少ない高分子型帯電防止剤を使用した基材フィルムが求められている。
【0015】
【特許文献1】特開平1−016234号公報
【特許文献2】特開平3−290464号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は上述のような課題を解決しようとするものであって、帯電防止剤の滲出による被着体の汚染や帯電防止効果の減衰が少なく、物性や成形加工性の優れた帯電防止アクリル系樹脂組成物及びフィルム、シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
係る目的を達成する本発明の帯電防止性アクリル系樹脂組成物は、10〜80重量%のアクリル樹脂(a1)と90〜20重量%のアクリル系ゴム状粒子(a2)とからなるアクリル系ポリマー混合物(A)に高分子型帯電防止剤(B)を添加してなることを特徴とし(請求項1)、また本発明のフィルムおよびシートが前記帯電防止性アクリル系樹脂組成物より形成されることを特徴とし(請求項2)、さらに本発明のダイシング用粘着テープの基材フィルムが前記帯電防止性アクリル系樹脂組成物より形成されることを特徴とし(請求項3)、また、さらに本発明のバックグラインド用粘着テープの基材フィルムが前記帯電防止性アクリル系樹脂組成物より形成されることを特徴とする (請求項4) 。
【発明の効果】
【0018】
本発明の帯電防止性アクリル樹脂組成物によれば、高分子型帯電防止剤の少量添加でも十分な帯電防止性能が得られ、低分子量型帯電防止剤のように滲出による経時での帯電防止性能の低下や、被着体への汚染も防止することができる。
【0019】
さらに、本発明のフィルムやシートは、上記帯電防止性アクリル樹脂組成物から形成されるため、物性、成形加工性に優れており、安価に生産することができる。
また、本発明のダイシング用粘着テープやバックグラインド用粘着テープ用の基材フィルムは、上記帯電防止アクリル樹脂組成物から形成されているため、十分な帯電防止性能、低汚染性を有する上に、振動及び衝撃吸収性、均一延伸性を併せ持つフィルムとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の好適実施の態様について詳細に説明する。
本発明で使用するアクリル樹脂(a1)とアクリル系ゴム状粒子(a2)の比率は、10〜80重量%のアクリル樹脂(a1)と90〜20重量%のアクリル系ゴム状粒子(a2)からなることが必要で、より少量の帯電防止剤の添加で帯電防止性能が得られるようにするには、10〜50重量%のアクリル樹脂(a1)と90〜50重量%のアクリル系ゴム状粒子(a2)であることがより好ましい。
【0021】
アクリル系樹脂(a1)が80重量%より大きい場合、少量の添加で帯電防止効果が得られにくくなり、アクリル樹脂(a1)が10重量%未満の場合、成形加工性の低下や仕上ったフィルム、シートの剛性が不足することになる。
【0022】
アクリル系ポリマー混合物(A)と高分子型帯電防止剤(B)の比率は、特に限定されないが、帯電防止性アクリル系組成物100重量%中に高分子型帯電防止剤(B)が5重量%以上となるように添加すれば帯電防止性能が十分に得られ、25重量%以下であれば加工性および機械物性への影響も少ないために5重量%以上25重量%以下が好ましく、より好ましくは7重量%以上20重量%以下である。
【0023】
本発明で用いられるアクリル系ポリマー混合物(A)中のアクリル樹脂(a1)は、特に限定されないがポリメチルメタクリレート、メチルメタクリレート−スチレン共重合体等が挙げられる。またアクリル系ゴム状粒子(a2)は、特に限定されないがアクリル酸エステルとこれと共重合可能な多官能性単量体および他の単官能性単量体からなる単量体混合物によって形成されるゴム弾性を有する層を含む樹脂組成物等が挙げられる。
【0024】
前記アクリル系ゴム状粒子(a2)を形成するアクリル酸エステルの具体例としては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、s−ブチルアクリレート、t−ブチルアクリレート、ペンチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、オクチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、ドデシルアクリレート、オクタデシルアクリレート等のアクリル酸とC1〜C18の飽和脂肪族アルコールとのエステル; シクロヘキシルアクリレート等のアクリル酸とC5又はC6の脂環式アルコールとのエステル;フェニルアクリレート等のアクリル酸とフェノール類とのエステル;ベンジルアクリレート等のアクリル酸と芳香族アルコールとのエステルなどが挙げられる。
【0025】
前記アクリル系ゴム状粒子 (a2)を形成するために用いられる多官能性単量体は、分子内に炭素−炭素二重結合を2個以上有する単量体であり、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、桂皮酸等の不飽和モノカルボン酸とアリルアルコール、メタリルアルコール等の不飽和アルコールとのエステル;前記の不飽和モノカルボン酸とエチレングリコール、ブタンジオール、ヘキサンジオール等のグリコールとのジエステル;フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、マレイン酸等のジカルボン酸と前記の不飽和アルコールとのエステル等が包含され、具体的には、アクリル酸アリル、アクリル酸メタリル、メタクリル酸アリル、メタクリル酸メタリル、桂皮酸アリル、桂皮酸メタリル、マレイン酸ジアリル、フタル酸ジアリル、テレフタル酸ジアリル、イソフタル酸ジアリル、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの多官能性単量体の中でも、メタクリル酸アリルが特に好ましい。なお、前記の「ジ(メタ)アクリレート」は、「ジアクリレート」と「ジメタクリレート」との総称を意味する。
【0026】
前記アクリル系ゴム状粒子(a2)を形成する、アクリル酸エステル及び多官能性単量体以外に、アクリル酸エステルと共重合可能な他の単官能性単量体を併用することができる。該他の単官能性単量体としては、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n−プロピルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、ペンチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、オクチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ドデシルメタクリレート、ミリスチルメタクリレート、パルミチルメタクリレート、ステアリルメタクリレート、ベヘニルメタクリレート等のメタクリル酸とC1〜C22の飽和脂肪族アルコールとのエステル;シクロヘキシルメタクリレート等のメタクリル酸とC5又はC6の脂環式アルコールとのエステル;フェニルメタクリレート等のメタクリル酸とフェノール類とのエステル、ベンジルメタクリレート等のメタクリル酸と芳香族アルコールとのエステルなどのメタクリル酸エステルが代表的であるが、他にも、スチレン、α−メチルスチレン、1−ビニルナフタレン、3−メチルスチレン、4−プロピルスチレン、4−シクロヘキシルスチレン、4−ドデシルスチレン、2−エチル−4−ベンジルスチレン、4−(フェニルブチル)スチレン、ハロゲン化スチレン等の芳香族ビニル系単量体;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル系単量体;ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチルブタジエン、2−メチル−3−エチルブタジエン、1,3−ペンタジエン、3−メチル−1,3−ペンタジエン、2−エチル−1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエン、2−メチル−1,3−ヘキサジエン、3,4−ジメチル−1,3−ヘキサジエン、1,3−ヘプタジエン、3−メチル−1,3−ヘプタジエン、1,3−オクタジエン、シクロペンタジエン、クロロプレン、ミルセン等の共役ジエン系単量体等が挙げられる。
【0027】
本発明におけるアクリル系ポリマー混合物(A)のアクリル系ゴム状粒子(a2)の平均粒子径は特には限定されないが、透明性やフィルムの製造時の成形加工性の点から150nm以下が好ましく、さらに好ましくは80nm〜120nmの範囲である。
【0028】
本発明で使用される高分子型帯電防止剤(B)としては、特に限定されないが、少量添加で帯電防止性能を得るという点では、親水性ブロックと疎水性ブロックからなるブロック共重合体が好ましい。
【0029】
親水性ブロックと疎水性ブロックからなるブロック共重合体は、親水性ブロックと疎水性ブロックがエステル結合、イミド結合、アミド結合、エーテル結合、ウレタン結合などの結合を介して繰り返し交互に結合したものであり、疎水性ブロックとしては、ポリオレフィンなどが挙げられ、親水性ブロックとしては、ポリエーテル、ポリエーテル含有親水性ポリマー、カチオン性ポリマーおよびアニオン性ポリマーなどが挙げられる。
【0030】
前記ポリエーテルとしては、ポリエーテルジオール、ポリエーテルジアミン、およびこれらの変性物が使用できる。前記ポリエーテル含有親水ポリマーとしては、ポリエーテルセグメント形成成分としてポリエーテルジオールのセグメントを有するポリエーテルエステルアミド、同じくポリエーテルジオールのセグメントを有するポリエーテルアミドイミド、同じくポリエーテルジオールのセグメントを有するポリエーテルエステル、同じくポリエーテルジアミンのセグメントを有するポリエーテルアミド、同じくポリエーテルジオールまたはポリエーテルジアミンのセグメントを有するポリエーテルウレタンが使用できる。前記カチオン性ポリマーとして、カチオン性基を分子内に有するカチオン性ポリマーが使用できる。前記カチオン性基としては、4級アンモニウム塩およびホスホニウム塩を有する基が挙げられる。前記アニオン性ポリマーとしては、スルホン酸基を有するジカルボン酸とジオールまたはポリエーテルとを必須構成単位とし、かつ分子内に2〜80個のスルホン酸基を有するアニオン性ポリマーなどが使用できる。
【0031】
更に、本発明の帯電防止性アクリル系樹脂組成物には、目的を損なわない範囲で、ベンゾフェノン系、ベンゾエート系、ベンゾトリアゾール系、シアノアクリレート系、ヒンダードアミン系などの従来公知の紫外線吸収剤、シリカ、クレー、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、ガラスビーズ、タルクなどの充填剤、難燃剤、抗菌剤、防カビ剤などを適宜配合することができる。
【0032】
また、本発明の帯電防止性アクリル系樹脂組成物はフィルムやシートのなどの形で使用できる。本発明のアクリル系ポリマー混合物のアクリル樹脂(a1)とアクリル系ゴム粒子(a2)の比率を変えることで様々な硬さに対応することが可能である。さらに、帯電防止性アクリル系樹脂組成物は透明性を有しているために、透明性を要求される用途にも好適に使用できる。
【0033】
本発明の帯電防止性アクリル系樹脂組成物より形成されるフィルムやシートは、マスキングテープやマーキングフィルムなどの産業用途、ダイシング用粘着テープ、バックグラインド用粘着テープなど半導体製造用途、保護フィルムなどの基材フィルムやシートに広く使用することができ、衝撃及び振動吸収性、均一延伸性を有し、低分子量化合物による汚染の少ない高分子型帯電防止剤を少量添加することで十分な帯電防止効果が得られるため、半導体製造用途に好適に使用できる。
【0034】
ここで、ダイシング用粘着テープの基材フィルムとしては、アクリル系ポリマー混合物については、アクリル樹脂(a1)10〜40重量%とアクリル系ゴム状粒子(a2)90〜60重量%とすることが好ましく、加えて、tanδの10℃以上40℃以下での値を0.1以上にすることが好ましい。上記の範囲を選定することにより、より効率的に振動を吸収することができ、かつフィルムの引張試験における応力−ひずみ曲線での任意の点においてその傾きが負ならならず、より均一に延伸することができるようになる。
【0035】
バックグラインド用粘着テープの基材フィルムとしては、アクリル樹脂(a1)10〜60重量%とアクリル系ゴム状粒子(a2)90〜40重量%とすることが好ましく、加わえて、衝撃や振動吸収の指標として使用されるtanδの10℃以上40℃以下での値を0.1以上にすることが好ましい。上記の範囲を選定することにより、効果的に振動及び衝撃を吸収することができるようになる。
【0036】
上記tanδは、固体動的粘弾性測定装置により周波数10Hz、昇温速度4℃/minで貯蔵弾性率(E‘)と損失弾性率(E“)の温度依存性を測定し、式tanδ=E”/E’で規定される。tanδは材料に力が加えられた時に材料がどのくらいエネルギーを吸収するかを示しており、tanδの値が大きいほどエネルギーをより吸収し、衝撃に対する反発が小さくなる。
【0037】
上記基材フィルムの引張試験における応力−ひずみ曲線は、基材フィルムを幅19mm長さ150mmに打ち抜いて試験片とし、チャック間50mm、引張速度200mm/minで試験を行うことで作成できる。
【0038】
また本発明の帯電防止性アクリル系樹脂組成物より形成されるフィルムやシートは、単層および多層で使用することができる。単層で要求特性が満足されれば、単層で使用することで製造コストを抑えられ好ましい。単層では要求性能を満足できない時は、多層で使用することも出来る。具体的には帯電防止性アクリル系樹脂組成物からなる層と合成樹脂組成物からなる層との2層構造や、帯電防止性アクリル系樹脂組成物からなる層の上下に、1種類以上の合成樹脂組成物からなる層を積層してなる3層構造や帯電防止性アクリル系樹脂組成物からなる層に異なる2種類の合成樹脂組成物からなら層を積層する3層構造でも使用できる。さらに、これらの3層構造にさらに積層し4層以上の層構造を持つようにしてもよい。
【0039】
ここで使用する上記合成樹脂組成物は特には限定されないが、オレフィン系樹脂、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂、ABS、MBS、ポリウレタン、ポリエステル、ポリイミド、ポリアミド、天然ゴム、合成ゴムなどが挙げられる。
【0040】
また本発明の帯電防止性アクリル系樹脂組成物からなるフィルムやシートの成形は、特に限定されないが、押出成形法、カレンダー成形法、インフレーション成形法などの方法が利用できる。
【0041】
多層化フィルムやシートを製造する場合、成形法としては多層のTダイ押出法が利用される。しかし、単層のフィルムやシートで、要求性能が満足できれば、一般的なTダイ押出成形法やカレンダー成形法が適用でき、その中でも、カレンダー成形で生産することができれば、高速生産のメリットを生かし、コスト面でさらに優位となる。カレンダー成形は、溶融樹脂を加熱した金属ロール(カレンダーロール)で圧延することによって所望の厚さのシートやフィルムを作製する成形方法であり、押出成形におけるダイス近傍で発生するトラブルがなく、成形されるフィルムやシートの厚み精度が良好で品質的に優れたものが比較的容易に作製できる。加えて、成形速度が速く生産性に優れているので、同じ規格の製品を多量に生産するのに適した成形法である。
【0042】
また、特にカレンダー成形法でフィルムやシートを作製する場合、酸化防止剤や金属ロールから溶融樹脂が剥離するための離型剤(滑剤)等の添加剤を樹脂に配合すること好ましい。添加する滑剤として特に限定されないが、金属石鹸系化合物、アミド系化合物、エチレンビスアマイド系化合物、ポリエチレンワックスなどが使用できる。好適には、より剥離性が優れるという観点から、例えば、ベヘン酸やモンタン酸などの炭素数が21以上の脂肪酸、ステアリン酸アミド、オレイン酸アミド、エルカ酸アミドなどのアミド系化合物、エチレンビスステアリン酸アマイド、エチレンビスオレイン酸アマイド、エチレンビスエルカ酸アマイドなどのエチレンビスアマイド系化合物、モンタン酸とエチレングリコールのジエステル、高分子複合エステルなどのエステル系化合物、ステアリン酸亜鉛、ベヘン酸亜鉛、ベヘン酸マグネシウムなどの金属石鹸、ポリエチレンワックスなどが挙げられる。
【0043】
一方、基材フィルムがウエハダイシング用粘着テープおよびバックグラインド用粘着テープなどの用途に使用される場合には、配合できる添加剤の種類や量が限定される。具体的には、リンを含む化合物や金属および金属イオンが遊離する物質は、それらが基材フィルムから移行してウエハ表面を汚染することが懸念されるので、基本的には配合しないことが望ましく、添加する場合にはある抽出条件で抽出される量に限定される。好適な滑剤としては、高温の金属ロールから剥離できるという点を考慮すると、例えば、ベヘン酸やモンタン酸などの炭素数が21以上の脂肪酸、ステアリン酸アミド、オレイン酸アミド、エルカ酸アミドなどのアミド系化合物、エチレンビスステアリン酸アマイド、エチレンビスオレイン酸アマイド、エチレンビスエルカ酸アマイドなどのエチレンビスアマイド系化合物、モンタン酸とエチレングリコールのジエステル、高分子複合エステルなどのエステル系化合物、ステアリン酸亜鉛、ベヘン酸亜鉛、ベヘン酸マグネシウムなどの金属石鹸、ポリエチレンワックスなどが挙げられる。また、好適な酸化防止剤としては、例えば、ヒンダードフェノール系化合物、チオエーテル系化合物、アミン系化合物、ラクトン系化合物などが挙げられる。
【0044】
また、フィルムやシートを押出成形法により作製する場合、カレンダー成形法に比べて、高温の溶融樹脂が外気に触れることが少なく、しかも溶融樹脂が高温の金属ロールと接触することもないことから、一般には、樹脂ペレットに既に添加されている以上に酸化防止剤を添加することはなく、滑剤を添加することもない。従って、フィルム、シート加工の面ではカレンダー成形法より容易であるが、生産速度がカレンダー成形法に比べて遅くなる。
【0045】
フィルムやシートをカレンダー成形法または押出成形法のいずれで作製する場合でもその厚さについては特に限定されないが、用途に応じた厚みを適時選択すればよいが、20μm〜2000μmの厚さが好適である。20μm未満や2000μmより厚くなると加工が困難となるため好ましくない。
ダイシング用粘着テープの基材フィルムやバックグラインド用粘着テープの基材フィルムでは、70μm〜500μmの厚さが好適である。厚さが70μmより薄いと、剛性がなく当該基材フィルムに粘着剤を塗布する際やウエハに貼着する際の作業性に劣る。かといって、500μmより厚くすると透明性が低下してダイシング状態の視認性が悪くなるだけでなく、材料コストがアップしてしまう。
【0046】
また、本発明のフィルムやシートを作製する際には、樹脂ペレットおよび添加剤を単純に混ぜ合わせたものを材料として用いてもよく、予め混練機で溶融混練したものでもよい。更に、添加剤を樹脂に高濃度で配合した通常、マスターバッチと称される材料を前もって調整し、これらを単純に混合するか、または樹脂ペレットとマスターバッチを溶融混練したものを用いてもよい。ここで使用される混練機としては公知の装置が使用できるが、取り扱いが容易で均一な分散が可能であるロール、1軸または2軸押出機、ニーダー、コニーダー、プラネタリーミキサー、バンバリーミキサーなどが好ましく用いられる。
【実施例】
【0047】
次に、具体的な実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0048】
<実施例1>
アクリル系ポリマー混合物(A)として、アクリル系樹脂(a1)20重量%とアクリル系ゴム粒子(a2)80重量%であるパラペットSA−FW001(クラレ社製)(以下、これを[A1]と記す。)を64重量部と、アクリル系樹脂(a1)50重量%とアクリル系ゴム粒子(a2)50重量%であるパラペットGR−F(クラレ社製)(以下、これを[A2]と記す。)16重量部と、高分子型帯電防止剤としてペレスタット300(三洋化成工業社製)(以下これを[B1]と記す)を20重量部とに、酸化防止剤AO−60(旭電化社製)0.1重量部および滑剤としてモンタン酸エステルであるリコワックスE(クラリアントジャパン社製)0.3重量部をドライブレンドした後に、バンバリーミキサーで混練し180℃に設定したカレンダー成形機にて厚さ100μmのフィルムを得た。得られたフィルムの評価結果を表1に記す。
表1から明らかなように、実施例1は、帯電防止性能、成形性、引張試験による評価、tanδによる評価が共に優れており、マスキングテープ、マーキングフィルムなどの産業用途、ダイシング用粘着テープ、バックグラインド用粘着テープなど半導体製造用途、保護フィルムなどの基材フィルム、シートに使用することができる。
【0049】
<実施例2>
アクリル系ポリマー混合物(A)として、 [A1]72重量部と[A2]18重量部にし、高分子型帯電防止剤としてペレスタット303(三洋化成工業社製)(以下これを[B2]と記す。)を10重量部とすること以外は、実施例1と同様にして厚さ100μmのフィルムを得た。得られたフィルムの評価結果を表1に記す。
表1から明らかなように、実施例2も、帯電防止性能、成形性、引張試験による評価、tanδによる評価が共に優れており、マスキングテープ、マーキングフィルムなどの産業用途、ダイシング用粘着テープ、バックグラインド用粘着テープなど半導体製造用途、保護フィルムなどの基材フィルム、シートに使用することができる。
【0050】
<実施例3>
アクリル系ポリマー混合物(A)として、 [A1]89.5重量部とアクリル系樹脂100重量%のGF(クラレ社製)(以下、これを[A3]と記す。)9.5重量部にし、高分子型帯電防止剤としてペレスタット230(三洋化成工業社製)(以下これを[B3]と記す。)を5重量部とすること以外は、実施例1と同様にして厚さ100μmのフィルムを得た。得られたフィルムの評価結果を表1に記す。
表1から明らかなように、実施例3も、帯電防止性能、成形性、引張試験による評価、tanδによる評価が共に優れており、マスキングテープ、マーキングフィルムなどの産業用途、ダイシング用粘着テープ、バックグラインド用粘着テープなど半導体製造用途、保護フィルムなどの基材フィルム、シートに使用することができる。
【0051】
<実施例4>
アクリル系ポリマー混合物(A)として、 [A1]72重量部と[A3]18重量部にし、高分子型帯電防止剤として[B1]10重量部とすること以外は実施例1と同様にして厚さ100μmのフィルムを得た。得られたフィルムの評価結果を表1に記す。
表1から明らかなように、実施例4は、引張試験による評価の点で劣り、半導体製造用途のダイシング用粘着テープには不向きであるが、他の評価項目の帯電防止性能、成形性、tanδによる評価は優れており、マスキングテープ、マーキングフィルムなどの産業用途、バックグラインド用粘着テープなど半導体製造用途、保護フィルムなどの基材フィルム、シートに使用することができる。
【0052】
<実施例5>
アクリル系ポリマー混合物(A)として、 [A1]36重量部と[A3]54重量部にし、高分子型帯電防止剤として[B1]10重量部とすること以外は、実施例1と同様にして厚さ100μmのフィルムを得た。得られたフィルムの評価結果を表1に記す。
表1から明らかなように、実施例5は、引張試験による評価、tanδによる評価の点で劣り、半導体製造用途のダイシング用粘着テープ、バックグラインド用粘着テープには不向きであるが、他の評価項目の帯電防止性能、成形性は優れており、マスキングテープ、マーキングフィルムなどの産業用途、保護フィルムなどの基材フィルム、シートに使用することができる。
【0053】
各評価項目の良否に関する判定は下記の基準に従った。
[帯電防止性能の評価]
フィルム、シートを100mm角にカットして、温度20℃で63%RHの恒温室にて、超高抵抗計(アドバンテスト社製 R8340A)を用いて、表面固有抵抗値の測定を行い以下の基準にて評価した。
評価基準
◎:表面固有抵抗値が1010Ω未満
○:表面固有抵抗値が1011以上〜1014Ω未満
×:表面固有抵抗値が1014Ω以上
[成形性の評価]
カレンダーロールでの加工において、ロールへの粘着性を以下の基準にて評価した。
評価基準
○:容易に剥離できる。
×:ロールに粘着し剥離できない。
[引張試験による評価]
フィルム、シートを幅19mm、長さ150mmの試験片を作成し、引張速度200mm/minで試験を行い、得られた応力−ひずみ曲線から任意の点における傾きについて評価した。
評価基準
○:応力−ひずみ曲線おいて、任意の点における傾きが負にならない。
×:応力−ひずみ曲線おいて、その傾きが負になる点がある。
[tanδによる評価]
tanδは、固体動的粘弾性測定装置により周波数10Hz、昇温速度4℃/minで貯蔵弾性率(E‘)と損失弾性率(E“)の温度依存性を測定し、式tanδ=E“/E‘で規定される。10℃以上40℃以下のtanδについて以下の基準にて評価した。
評価基準
◎:10℃以上40℃以下の範囲のtanδが0.2以上
○:10℃以上40℃以下の範囲のtanδが0.1以上
×:10℃以上40℃以下の範囲のtanδが0.1未満
【0054】
<比較例1>
アクリル系ポリマー混合物(A)として [A3]90重量部と高分子型帯電防止剤として[B1]10重量部とすること以外は、実施例1と同様にして厚さ100μmのフィルムを得た。得られたフィルムの評価結果を表2に記す。
比較例1では十分な帯電防止性能が得られていないことがわかる。
【0055】
<比較例2>
アクリル系ポリマー混合物(A)として [A3]70重量部と高分子型帯電防止剤として[B1]30重量部とすること以外は、実施例1と同様にして厚さ100μmのフィルムを得た。得られたフィルムの評価結果を表2に記す。
比較例2では十分な帯電防止性能は得られているが、ロールに粘着して成形性に問題があった。
【0056】
<比較例3>
アクリル系ポリマー混合物(A)として [A1]19.8重量部と[A2]79.2重量部にし、高分子型帯電防止剤として[B1]1重量部とすること以外は、実施例1と同様にして厚さ100μmのフィルムを得た。得られたフィルムの評価結果を表2に記す。
比較例3では十分な帯電防止性能が得られていないことがわかる。
【0057】
<比較例4>
アクリル系ポリマー混合物(A)の替わりにオレフィン系樹脂であるEG8003(ダウケミカル社製)(以下、これを[C1]と記す。)90重量部と高分子型帯電防止剤として [B1]10重量とすること以外は、実施例1と同様にして厚さ100μmのフィルムを得た。得られたフィルムの評価結果を表2に記す。
比較例4では十分な帯電防止性能が得られていないことがわかる。
【0058】
<比較例5>
アクリル系ポリマー混合物(A)の替わりに [C1]70重量部と高分子型帯電防止剤として[B1]30重量部とすること以外は、実施例1と同様にして厚さ100μmのフィルムを得た。得られたフィルムの評価結果を表2に記す。
比較例5では十分な帯電防止性能は得られているが、ロールに粘着して成形性に問題があった。
【0059】
【表1】







【0060】
【表2】


【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明による帯電防止性アクリル系樹脂組成物は、高分子型帯電防止剤の少量添加で十分な帯電防止性能が得られ、さらに帯電防止剤の滲出による帯電防止性能の低下や被着体への汚染がなく、さらに成形性、物性に優れるため、フィルムおよびシート分野に広く利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
10〜80重量%のアクリル樹脂(a1)と90〜20重量%のアクリル系ゴム状粒子(a2)とからなるアクリル系ポリマー混合物(A)に高分子型帯電防止剤(B)を添加してなることを特徴とする帯電防止性アクリル系樹脂組成物
【請求項2】
請求項1に記載の帯電防止性アクリル系樹脂組成物から形成されることを特徴とするフィルムおよびシート
【請求項3】
請求項1に記載の帯電防止性アクリル系樹脂組成物より形成されることを特徴とするダイシング用粘着テープの基材フィルム
【請求項4】
請求項1に記載の帯電防止性アクリル系樹脂組成物より形成されることを特徴とするバックグラインド用粘着テープの基材フィルム








【公開番号】特開2006−290958(P2006−290958A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−110885(P2005−110885)
【出願日】平成17年4月7日(2005.4.7)
【出願人】(000010010)ロンシール工業株式会社 (84)
【Fターム(参考)】