説明

帯電防止性光硬化型樹脂組成物、及び、それを用いた帯電防止膜及び物品

【課題】優れた透明性と耐擦傷性及び高度な帯電防止性を兼ね備えた帯電防止膜を形成可能な帯電防止性光硬化型樹脂組成物を提供する。
【解決手段】4級アンモニウム塩基を有する繰り返し単位からなるセグメント(a1)とオルガノポリシロキサンを有するセグメント(a2)とを少なくとも含有するブロック共重合体(A)、及び2個以上のエチレン性不飽和結合を有する重合性化合物(B)を含む、帯電防止性光硬化型樹脂組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、帯電防止性光硬化型樹脂組成物、並びにそれを用いた帯電防止膜及び物品に関し、特に、光学フィルム等の帯電防止材料として使用できる帯電防止性光硬化型樹脂組成物、及びそれを用いた光学フィルム等の物品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
合成樹脂は、軽量性、易加工性、耐衝撃性、透明性などが優れているため、容器、インストルメントパネル、包装材、ハウジングの他、電化製品や光学フィルムにも適用されている。一般に、合成樹脂は表面硬度が低いため傷がつき易く、例えばポリカーボネートの様な透明な樹脂の場合は、その樹脂が持つ本来の透明性あるいは外観が著しく損なわれるという欠点がある。このため、プラスチック製品の表面に光硬化型材料から成るコート層が設けられる。
【0003】
しかしながら、市販の光硬化型材料は表面固有抵抗値が高く静電気が発生し易いという大きな欠点を有している。すなわち、静電気の発生は埃の製品への付着を促進し、製品の美観、透明性を損なう原因となっている。また、例えば、各種ディスプレイに用いられる光学フィルムは、その固有の機能の他に、表面に発生する静電気が原因で生じる障害を取り除くために、帯電防止性が必要とされる。従って、帯電防止性の光硬化型材料が求められている。
【0004】
帯電防止性を具備した光硬化型材料としては、例えば、特許文献1及び特許文献2に、四級アンモニウム塩を有する共重合体と多官能(メタ)アクリル酸エステルを含有する被覆組成物が提案されている。また、特許文献3には、1個のカルボキシル基と1個以上のアクリロイル基とを有する(メタ)アクリレート(A)及びN,N−ジアルキルアミノ基(但しアルキル基は相互に異なっていてもよい)と4級アンモニウム塩基とを有する重合体(B)を含有し、(メタ)アクリレート(A)中のカルボキシル基と重合体(B)中のN,N−ジアルキルアミノ基の当量比が1/10〜10/1の範囲であることを特徴とする活性エネルギー線硬化性材料が提案されている。
【0005】
しかしながら、従来の帯電防止性を付与する光硬化性材料においては、帯電防止機能を有する成分を光硬化性材料中に多量に添加しなければ充分な帯電防止性能が得られなかったため、得られた硬化膜の透明性や耐擦傷性等の膜強度を犠牲にしなければならなかった。特に、光学フィルム等の物品に対しては、優れた透明性や耐擦傷性等の膜強度が求められる。
【0006】
【特許文献1】特開平6−73305号公報
【特許文献2】特開平6−180859号公報
【特許文献3】特開2002−121208号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記実状を鑑みて成し遂げられたものであり、その目的は、優れた透明性と耐擦傷性及び高度な帯電防止性を兼ね備えた帯電防止膜を形成可能な帯電防止性光硬化型樹脂組成物、並びに、当該帯電防止性光硬化型樹脂組成物を用いた帯電防止膜及び物品を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は、4級アンモニウム塩基を有する繰り返し単位からなるセグメント(a1)とオルガノポリシロキサンを有するセグメント(a2)とを少なくとも含有するブロック共重合体(A)、及び2個以上のエチレン性不飽和結合を有する重合性化合物(B)を含む、帯電防止性光硬化型樹脂組成物を提供する。
本発明によれば、4級アンモニウム塩基を有する繰り返し単位からなるセグメント(a1)とオルガノポリシロキサンを有するセグメント(a2)とを少なくとも含有するブロック共重合体(A)、及び2個以上のエチレン性不飽和結合を有する重合性化合物(B)が用いられていることにより、優れた透明性と耐擦傷性及び高度な帯電防止性を兼ね備えた帯電防止膜を形成可能な帯電防止性光硬化型樹脂組成物を得ることができる。
【0009】
本発明に係る帯電防止性光硬化型樹脂組成物においては、前記ブロック共重合体(A)が、N,N−ジアルキルアミノ基を実質的に含有しないことが好ましい。
本発明に係る帯電防止性光硬化型樹脂組成物においては、前記ブロック共重合体(A)が当該樹脂組成物の全固形分中に0.05〜20重量%含有されていることが、優れた透明性と耐擦傷性及び高度な帯電防止性を兼ね備えた帯電防止膜を実現する点から好ましい。
【0010】
本発明に係る帯電防止性光硬化型樹脂組成物においては、前記ブロック共重合体(A)が、4級アンモニウム塩基を有する繰り返し単位からなるセグメント(a1)を20〜80重量%、オルガノポリシロキサンを有するセグメント(a2)を1〜70重量%、炭化水素基を有する繰り返し単位からなるセグメント(a3)を1〜70重量%含有することが、優れた透明性と耐擦傷性及び高度な帯電防止性を兼ね備えた帯電防止膜を実現する点から好ましい。
【0011】
また上記課題を解決するために、本発明は、前記本発明に係る帯電防止性光硬化型樹脂組成物の硬化膜からなる帯電防止膜を提供する。
本発明に係る帯電防止膜においては、前記帯電防止性光硬化型樹脂組成物の硬化膜において、前記ブロック共重合体(A)が当該硬化膜表面に偏在していることが、優れた透明性と耐擦傷性及び高度な帯電防止性を兼ね備える点から好ましい。
また、本発明に係る帯電防止膜においては、JIS K7136:2000に準じたヘイズ値が1.8%以下であることが、透明性の点から好ましい。
【0012】
更に上記課題を解決するために、本発明は、前記本発明に係る帯電防止性光硬化型樹脂組成物を塗工処理した物品を提供する。
本発明に係る物品においては、前記帯電防止性光硬化型樹脂組成物の硬化膜において、前記共重合体(A)が当該硬化膜表面に偏在していることが、優れた透明性と耐擦傷性及び高度な帯電防止性を兼ね備える点から好ましい。
また本発明に係る物品においては、前記帯電防止性光硬化型樹脂組成物を塗工処理した物品のJIS K7136:2000に準じたヘイズ値(%)と、前記帯電防止性光硬化型樹脂組成物を塗工処理する前の物品のヘイズ値(%)との差が0.3以下であることが、元来の物品の色や透明性を損なわない点から好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の帯電防止性光硬化型樹脂組成物は、優れた透明性と耐擦傷性及び高度な帯電防止性を兼ね備えた帯電防止膜を形成可能であるという効果を奏する。
本発明の帯電防止膜は、優れた透明性と耐擦傷性及び高度な帯電防止性を兼ね備えるという効果を奏する。
本発明の物品は、元来の物品の色や透明性を損なうことなく、耐擦傷性と帯電防止性を有するという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下において本発明を詳しく説明する。なお、本明細書中において(メタ)アクリロイルはアクリロイル及びメタクリロイルを表し、(メタ)アクリレートはアクリレート及びメタクリレートを表す。また本発明において光には、可視及び非可視領域の波長の電磁波、さらには放射線が含まれ、放射線には、例えばマイクロ波、電子線が含まれる。具体的には、波長5μm以下の電磁波、及び電子線のことを言う。
本発明は、帯電防止性光硬化型樹脂組成物と、それを用いた帯電防止膜、及び物品に関するものである。以下、帯電防止性光硬化型樹脂組成物と、それを用いた帯電防止膜及び物品について順に説明する。
【0015】
I.帯電防止性光硬化型樹脂組成物
まず、本発明の帯電防止性光硬化型樹脂組成物について説明する。本発明の帯電防止性光硬化型樹脂組成物は、4級アンモニウム塩基を有する繰り返し単位からなるセグメント(a1)とオルガノポリシロキサンを有するセグメント(a2)とを少なくとも含有するブロック共重合体(A)、及び2個以上のエチレン性不飽和結合を有する重合性化合物(B)を含むことを特徴とするものである。
本発明によれば、4級アンモニウム塩基を有する繰り返し単位からなるセグメント(a1)とオルガノポリシロキサンを有するセグメント(a2)とを少なくとも含有するブロック共重合体(A)、及び2個以上のエチレン性不飽和結合を有する重合性化合物(B)が組み合わせて用いられていることにより、優れた透明性と耐擦傷性及び高度な帯電防止性を兼ね備えた帯電防止膜を形成可能な帯電防止性光硬化型樹脂組成物を得ることができる。
【0016】
4級アンモニウム塩基を有する重合体と光重合性化合物とを組み合わせた光硬化性材料は、帯電防止性を付与すると共に、ある程度の透明性を実現するという利点を有するが、従来、帯電防止性を付与する4級アンモニウム塩基を有する重合体を多量に添加しないと充分な帯電防止性能が得られなかったため、ヘイズが大きくなったり耐擦傷性が悪くなり、高度な帯電防止性と優れた透明性と耐擦傷性を兼ね備えることは困難であるという問題があった。
この点、本発明によれば、4級アンモニウム塩基を有する重合体が4級アンモニウム塩基を有する繰り返し単位からなるセグメント(a1)とオルガノポリシロキサンを有するセグメント(a2)とを少なくとも含有するブロック共重合体(A)であることにより、優れた透明性と耐擦傷性及び高度な帯電防止性を兼ね備えた帯電防止膜を形成可能な帯電防止性光硬化型樹脂組成物を得ることができる。
【0017】
本発明に用いられる4級アンモニウム塩基を有する重合体が、4級アンモニウム塩基を有する繰り返し単位からなるセグメント(a1)とオルガノポリシロキサンを有するセグメント(a2)とを少なくとも含有するブロック共重合体(A)であることにより、優れた透明性と耐擦傷性及び高度な帯電防止性を兼ね備えた帯電防止膜を形成できるのは次のような理由によるものと考えられる。
すなわち、従来、帯電防止性を付与する4級アンモニウム塩基を有する重合体を多量に添加しないと充分な帯電防止性能が得られなかったのは、帯電防止性を付与する4級アンモニウム塩基を有する重合体は、通常、光硬化性材料の硬化膜に均一に分散されてしまうことに起因するものと考えられる。
それに対し、本発明に用いられる4級アンモニウム塩基を有する重合体は、4級アンモニウム塩基を有する繰り返し単位からなるセグメント(a1)とオルガノポリシロキサンを有するセグメント(a2)とを少なくとも含有するブロック共重合体(A)であるため、オルガノポリシロキサンを有するセグメント(a2)の作用により硬化膜表面に偏在することが可能になる。更に、4級アンモニウム塩基を有する繰り返し単位からなるセグメント(a1)の作用により、4級アンモニウム塩基を有する繰り返し単位をランダムに含有する共重合体に比べて、より高度な帯電防止性能を実現する。
本発明においては、セグメントとしての4級アンモニウム塩基を有する重合体が、硬化膜の表面に偏在することが可能で且つより効率的に高い帯電防止性能を発揮する性質を有する結果、帯電防止性を付与する4級アンモニウム塩基を有する重合体を少量添加するだけで、高度な帯電防止性を実現する。このように、本発明においては特定のブロック共重合体を少量しか添加しなくても良いため、得られた硬化膜の透明性や耐擦傷性等の膜強度を犠牲にすることなく、優れた透明性と耐擦傷性及び高度な帯電防止性を兼ね備えることが実現可能になると考えられる。
【0018】
本発明の帯電防止性光硬化型樹脂組成物は、少なくとも4級アンモニウム塩基を有する繰り返し単位からなるセグメント(a1)とオルガノポリシロキサンを有するセグメント(a2)とを少なくとも含有するブロック共重合体(A)、及び2個以上のエチレン性不飽和結合を有する重合性化合物(B)とを含有するものであり、必要に応じて他の化合物を含有しても良いものである。
以下、このような本発明の帯電防止性光硬化型樹脂組成物の各構成について順に詳細に説明する。
【0019】
[ブロック共重合体(A)]
本発明に用いられるブロック共重合体(A)は、少なくとも4級アンモニウム塩基を有する繰り返し単位からなるセグメント(a1)とオルガノポリシロキサンを有するセグメント(a2)とを少なくとも含有するブロック共重合体(A)であり、帯電防止性付与剤として機能する成分である。
【0020】
4級アンモニウム塩基を有する繰り返し単位からなるセグメント(a1)は、4級アンモニウム塩基を有する重合性単量体を重合するか、アミノ基を有する重合性単量体を重合させた後に、当該アミノ基をアルキル化剤で4級アンモニウム化することにより得ることができる。
4級アンモニウム塩基の構造を次に挙げるが、本発明はこれに限られるものではない。
【0021】
【化1】

(上記式において、R1、R、R3、Rは炭素数1〜8の置換あるいは未置換のアルキル基又はアリール基を表わし、R1、R、R3とR4より選択される2種以上がそれぞれ結合して環を形成していてもよい。Xはアニオンである。また、A、B及びJはそれぞれ炭素数2〜10の置換あるいは未置換のアルキレン基、アリーレン基、アルケニレン基、アリーレンアルキレン基、−R7COR8−、−R9COOR10OCOR11−、−R12OCR13COOR14−、−R15−(OR16)n−、−R17CONHR18NHCOR19−、−R20OCONHR21NHCOR22−または−R25NHCONHR24NHCONHR25−を表す。R7、R8、R9、R11、R12、R14、R15、R16、R17、R19、R20、R22およびR25はアルキレン基、R10、R13、R18、R21およびR24はそれぞれ置換または未置換のアルキレン基、アルケニレン基、アリーレン基、アリーレンアルキレン基、アルキレンアリーレン基から選ばれる連結基である。nは1〜4の正の整数を表す。)
【0022】
炭素数1〜8の置換あるいは未置換のアルキル基又はアリール基としては、特に限定されず、直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を用いることができ、具体的には、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、フェニル基、ベンジル基等が挙げられる。また、R1、R、R3とR4より選択される2種以上がそれぞれ結合して環を形成していてもよい。更に、R1とR及び/またはR3とRが結合してピペラジンなどの含窒素複素環を形成してもよい。
【0023】
また、アニオンXとしては、Cl、Br、I、F、HSO、SO2−、NO、PO3−、HPO2−、HPO、C、SO、OHなどが挙げられる。中でもXとしては、4級アンモニウムとの結合のし易さの点から、ハロゲンイオンであることが好ましく、特にClであることが好ましい。
【0024】
4級アンモニウム塩基を有する繰り返し単位からなるセグメント(a1)を形成するのに用いられる4級アンモニウム塩基を有する重合性単量体として、好ましくは例えば以下の一般式(1)で表される構造を挙げることができる。しかしながら、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0025】
【化2】

(上記式において、R’は水素原子又はメチル基である。R1、R、R3は炭素数1〜8の置換あるいは未置換のアルキル基又はアリール基を表わし、R1、R及び/またはR3が結合して環を形成してもよい。Xはアニオンである。mは1以上の整数である。)
【0026】
式(1)においてmは好ましくは1〜3である。また、R1、R、R3は上記と同様のものを用いることができるが、好ましくは、メチル基である。
【0027】
4級アンモニウム塩基を有する繰り返し単位からなるセグメント(a1)を形成するのに用いられるアミノ基を有する重合性単量体としては、例えばアミノ基を有する(メタ)アクリレート等が挙げられる。具体的には、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノブチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノブチル(メタ)アクリレート、N,N−ジヒドロキシエチルアミノエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0028】
アミノ基を有する重合性単量体を重合させた後に、当該アミノ基を4級アンモニウム化するために用いるアルキル化剤としては、例えばジメチル硫酸、ジエチル硫酸、ジプロピル硫酸等のアルキル硫酸類;p−トルエンスルホン酸メチル、ベンゼンスルホン酸メチル等のスルホン酸エステル類;トリメチルホスファイト等のアルキル燐酸類;アルキルベンジルクロライド、ベンジルクロライド、アルキルクロライド、アルキルブロマイド、アルキルアイオダイド等の各種ハライド類が挙げられる。
【0029】
本発明に用いられるブロック共重合体(A)においては、4級化されていないN,N−ジアルキルアミノ基等を実質的に含有しないことが、高度な帯電防止性と透明性を兼ね備える点から好ましい。ここで、実質的に含有しないとは、N,N−ジアルキルアミノ基の作用を実用上発現するとはいえない極わずかな量しか許容しない意味であり、具体的には共重合体(A)中に5重量%以下であることをいう。
【0030】
一方、オルガノポリシロキサンを有するセグメント(a2)は、オルガノポリシロキサンを繰り返し単位に有する重合体からなるものであっても良いし、オルガノポリシロキサン自体からなるものであっても良い。
オルガノポリシロキサンを有するセグメント(a2)は、1分子中に1個以上のラジカル重合性基又はラジカル重合反応開始基を有するオルガノポリシロキサン化合物を用いて形成される。ここでラジカル重合性基としては、例えば(メタ)アクリロイル基、スチリル基等が挙げられるが、特に(メタ)アクリロイル基が好ましい。ラジカル重合反応開始基としては、例えば下記一般式(2)、(3)で表されるものが挙げられる。また、オルガノポリシロキサンは下記一般式(4)で表されるものが好ましい。
【0031】
【化3】

(上記式において、R31、R32は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜20の置換あるいは未置換のアルキル基又はアリル基、或いは炭素数6〜20の置換あるいは未置換のアリール基又はアルキルアリール基を表す。Yはハロゲン原子を表す。)
【0032】
【化4】

(上記式において、R33、R34は、それぞれ独立して、メチル基又はフェニル基を表す。nは5以上の整数を表す。)
【0033】
本発明に用いられるブロック共重合体(A)は、更に、別のセグメントを有していても良い。例えば、炭化水素基を有する繰り返し単位からなるセグメント(a3)を更に有する場合には、後述の重合性化合物(B)との相溶性や溶剤への溶解性が向上したり、帯電防止膜の耐久性や耐溶剤性が向上する点から好ましい。
【0034】
炭化水素基を有する繰り返し単位からなるセグメント(a3)としては、特に炭素数1〜18の直鎖、分岐鎖又は脂環式炭化水素、芳香族炭化水素を有することが好ましい。炭化水素基は置換されていても良く、例えば水酸基を有していても良い。炭化水素基を有する繰り返し単位からなるセグメント(a3)を形成するための重合性単量体としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート;ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート;ベンジル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート、エチルカルビトール(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、シアノエチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート等の各種(メタ)アクリレートの他、スチレン、メチルスチレン、更に末端に(メタ)アクリロイル基、スチリル基を有するポリメチルメタクリレート、ポリスチレン等のマクロモノマー等が挙げられる。これらの中でも、メチルメタクリレートが透明性の点から好ましく用いられる。
【0035】
本発明に用いられるブロック共重合体(A)は、4級アンモニウム塩基を有する重合性単量体とオルガノポリシロキサンを有する重合性単量体とその他の共重合可能な重合性単量体をリビングラジカル重合、リビングアニオン重合等の手法を用いて、順番に重合させるか、アミノ基を有する重合性単量体とオルガノポリシロキサンを有する重合性単量体とその他の共重合可能な重合性単量体をリビングラジカル重合、リビングアニオン重合等の手法を用いて、順番に重合させた後に、アルキル化剤でアミノ基を4級アンモニウム化を行うことにより得ることができる。
【0036】
ブロック共重合体(A)中における前記4級アンモニウム塩基を有する繰り返し単位からなるセグメント(a1)の割合は、20〜80重量%が好ましく、更に30〜70重量%が好ましい。4級アンモニウム塩基を有する繰り返し単位からなるセグメント(a1)の割合が20重量%未満の場合は帯電防止性が不充分となる傾向があり、80重量%を超える場合は塗膜の透明性が劣る傾向がある。またブロック共重合体(A)中における前記オルガノポリシロキサンを有するセグメント(a2)の割合は、1〜70重量%が好ましく、更に5〜60重量%が好ましい。オルガノポリシロキサンを有するセグメント(a2)の割合が1重量%未満の場合は塗膜中の共重合体(A)の表面への偏在が不十分となる傾向があり、70重量%を超える場合は帯電防止性が不充分となる傾向がある。また、ブロック共重合体(A)中に炭化水素基を有する繰り返し単位からなるセグメント(a3)を含む場合の割合は1〜70重量%が好ましく、更に5〜60重量%が好ましい。そしてブロック共重合体(A)の数平均分子量は、1000〜1000000が好ましく、更に5000〜500000であることが好ましい。ここで本発明における数平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィーのポリスチレン換算により求められるものである。
【0037】
本発明に用いられる前記ブロック共重合体(A)は、中でも4級アンモニウム塩基を有する繰り返し単位からなるセグメント(a1)を20〜80重量%、オルガノポリシロキサンを有するセグメント(a2)を1〜70重量%、炭化水素基を有する繰り返し単位からなるセグメント(a3)を1〜70重量%含有することが好ましく、更に、30〜70重量%の4級アンモニウム塩基を有する繰り返し単位からなるセグメント(a1)と、5〜60重量%のオルガノポリシロキサンを有するセグメント(a2)と、5〜60重量%の炭化水素基を有する繰り返し単位からなるセグメント(a3)からなるトリブロック共重合体であることが耐久性の点から好ましい。
【0038】
ブロック共重合体(A)は、1種又は2種以上混合して用いられる。また、本発明に用いられるブロック共重合体(A)は、当該樹脂組成物の全固形分中に0.05〜20重量%、中でも0.1〜10重量%含有されていることが、高度な帯電防止性能を実現しながら透明性や耐擦傷性等の膜物性を実現する点から好ましい。ここで組成物の固形分とは、溶剤を除く全ての成分を含み、液状の重合性化合物等も固形分に含まれる。
【0039】
[重合性化合物(B)]
本発明に用いられる重合性化合物(B)は、2個以上のエチレン性不飽和結合を有する重合性化合物(B)であり、塗膜の耐擦傷性、耐溶剤性、強度等の膜の耐久性や透明性を実現する成分である。
【0040】
本発明に用いられる重合性化合物(B)は、2個以上のエチレン性不飽和結合を有するので、光照射を受けた時に分子間で架橋結合が生じる。エチレン性不飽和結合としては、(メタ)アクリロイル基、ビニル基、アリル基等が挙げられる。エチレン性不飽和結合を有する場合には、紫外線や電子線等の光照射により、直接または開始剤の作用を受けて間接的に、光ラジカル重合反応を生じさせることができるため、光硬化工程を含む取り扱いが比較的容易である。これらの中でも(メタ)アクリロイル基は生産性に優れるため好ましい。
【0041】
2個の(メタ)アクリロイル基を有する2官能(メタ)アクリル酸エステルの具体例としては、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート等のポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート;ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。3個の(メタ)アクリロイル基を有する3官能(メタ)アクリル酸エステルの具体例としては、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、グリセロールトリ(メタ)アクリレート、アルキレンオキシド変性グリセロールトリ(メタ)アクリレート、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリアクリレート等が挙げられる。更に、4個の(メタ)アクリロイル基を有する4官能(メタ)アクリル酸エステルの具体例としては、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、アルキレンオキシド変性ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート等、同様に5官能(メタ)アクリル酸エステルの具体例としては、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート等、同様に6官能(メタ)アクリル酸エステルの具体例としては、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等が挙げられる。また、2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する重合性化合物としては、分子中にウレタン結合と2個以上の(メタ)アクリロイル基を有するウレタンアクリレート等が挙げられる。
【0042】
これらの中でも、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートが耐擦傷性、ポリマーとの相容性の点から好ましい。
重合性化合物(B)は、1種又は2種以上混合して用いられる。また、本発明に用いられる重合性化合物(B)は、当該樹脂組成物の全固形分中に80〜99.95重量%、中でも90〜99.9重量%含有されていることが、透明性や耐擦傷性等の膜物性を実現する点から好ましい。なお、本発明に係る組成物に、上記共重合体(A)及び当該重合性化合物(B)以外の他の成分を含有する場合には、重合性化合物(B)は、バランス量(100重量%から差し引いた残量)となっても良い。
【0043】
[光重合開始剤]
本発明に係る帯電防止性光硬化型樹脂組成物には、更に光重合開始剤が含有されることが好ましい。光重合開始剤としては、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインプロピルエーテル、α−メチルベンゾイン、α−フェニルベンゾイン、アントラキノン、メチルアントラキノン、アセトフェノン、2,2−ジエトキシアセトフェノン、2,2−ジメトキシ2−フェニルアセトン、ベンジルジアセチルアセトフェノン、ベンゾフェノン、p−クロロベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオフェノン、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニルケトン、ジフェニルジスルフィド、テトラメチルチウラムモノスルフィド、テトラメチルチウラムジスルフィド、α−クロロメチルナフタレン、アントラセン、ヘキサクロロブタジエン、ペンタクロロブタジエン、ミヒラーズケトン、2−クロロチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、ベンジルジメチルケタール、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド、2−メチル−1[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オン、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1,2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン等が挙げられる。光重合開始剤としては、最新UV硬化技術(P.159,発行人;高薄一弘,発行所;(株)技術情報協会,1991年発行)にも種々の例が記載されており、これらの光重合開始剤も本発明に用いることができる。
上記の光重合開始剤は、一種であっても二種以上の混合物であってもよく、その使用量は通常、当該樹脂組成物の全固形分中に0.1〜10重量%である。
【0044】
[その他の成分]
本発明に係る帯電防止性光硬化型樹脂組成物には、本発明の効果が損なわれない範囲内で、更に他の成分が含まれていても良い。他の成分としては、例えば、必要に応じて、架橋剤、紫外線遮蔽剤、紫外線吸収剤、表面調整剤(レベリング剤)などを用いることができる。
【0045】
[溶剤]
本発明に係る帯電防止性光硬化型樹脂組成物には、塗布性を付与するために通常、溶剤が含有される。
溶剤としては、トルエン、キシレン等の炭化水素系溶剤、メタノール、エタノール、イソプロパノール、イソブタノール等のアルコール系溶剤、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶剤、メチルエチルケトン等のケトン系溶剤、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチルセロソルブ等のグリコールエーテル系溶剤、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、水などが挙げられる。
溶剤の使用量は、本発明の樹脂組成物の全固形分100重量部に対して、通常、100〜1000重量部で用いられる。
【0046】
[物性]
本発明に係る帯電防止性光硬化型樹脂組成物によれば、膜厚が0.1〜15μmの時に、静電荷が帯電するがすぐ減衰する範囲1.0×1012Ω/□〜1.0×1010Ω/□や、より好ましくは帯電しない範囲1.0×1010Ω/□以下となる塗膜を形成し得るが耐擦傷性を持たせるためには1μm以上の膜厚とすることが好ましい。
【0047】
II.帯電防止膜
次に、本発明に係る帯電防止膜について説明する。
本発明に係る帯電防止膜は、前記本発明に係る帯電防止性光硬化型樹脂組成物の硬化膜からなるものである。
本発明に係る帯電防止膜においては、4級アンモニウム塩基を有する繰り返し単位からなるセグメント(a1)とオルガノポリシロキサンを有するセグメント(a2)とを少なくとも含有するブロック共重合体(A)が、オルガノポリシロキサンを有するセグメント(a2)の作用により硬化膜表面に偏在し、更に、4級アンモニウム塩基を有する繰り返し単位からなるセグメント(a1)の作用により、4級アンモニウム塩基を有する繰り返し単位をランダムに含有する共重合体に比べて、より高度な帯電防止性能を実現する。
【0048】
本発明に係る帯電防止膜は、前記帯電防止性光硬化型樹脂組成物の硬化膜において、前記ブロック共重合体(A)が当該硬化膜表面に偏在している。すなわち、前記共重合体(A)の含有濃度が、当該硬化膜の厚み方向に濃度勾配を有しており、硬化膜形成時の被塗布体側を裏面、被塗布体の反対側を表面とすると、硬化膜表面における前記共重合体(A)の含有濃度が、硬化膜内部乃至裏面に比べて高くなっている。ここで濃度勾配とは、厚み方向の任意の2点において濃度が異なるものであれば、ある一部の領域において共重合体(A)が存在し、他の領域において共重合体(A)が存在しない場合をも含むものである。
【0049】
前記ブロック共重合体(A)が当該硬化膜表面に偏在しているかどうかは、例えば、X線光電子分光法等で測定できる。具体的には例えば、硬化膜の表面の4級アンモニウム塩基を有する繰り返し単位からなるセグメント(a1)由来の窒素原子、及びオルガノポリシロキサンを有するセグメント(a2)由来のケイ素原子の量をX線光電子分光分析装置(例えば、Kratos社製 ESCA−3400)等で測定し、ブロック共重合体(A)が硬化膜中に均一に分散されていると仮定した場合に算出される窒素原子の量及びケイ素原子の量に比べて有意に多いことで確認できる。
【0050】
前記ブロック共重合体(A)が当該硬化膜表面に偏在しているかどうかは、或いは、膜の断面を飛行時間型二次イオン質量分析装置等により測定することで、ケイ素原子、窒素原子の膜深さ方向の分布を調べることにより確認することができる。
【0051】
本発明に係る帯電防止膜は、前記本発明に係る帯電防止性光硬化型樹脂組成物を基材又は後述するような物品上に塗布し、塗布後に乾燥し、乾燥と同時に又は乾燥後に加熱等の前記ブロック共重合体(A)の表面偏在を促進する工程を経て、得られた乾燥塗膜を光照射して硬化させることにより製造される。
【0052】
塗布後の乾燥、乃至、前記ブロック共重合体(A)の表面偏在促進のための加熱は、25℃〜150℃で1分間〜60分間程度保持することにより行うことが好ましい。また、光硬化は、紫外線や電子線照射により行うことが好ましい。紫外線で硬化する場合の硬化に必要な照射エネルギーは、合計10mJ/cm2〜1000mJ/cm2であることが好ましい。電子線の照射による硬化の場合、通常加速電圧70〜300kV程度で硬化させることが好ましいが、さらに上記範囲より低い加速電圧による硬化でもかまわない。この場合硬化の完了まで時間がかかるものの、電子線の透過力が弱くなるため、塗布される基材が電子線により崩壊する材料の場合、照射による基材の劣化を軽減しやすくなる。硬化までの照射線量は特に限定されないが5〜300kGy(0.5〜30Mrad)程度あれば良い。
なお、光硬化工程は、複数回に分けて行われても良く、その光硬化工程の間に、加熱等の前記ブロック共重合体(A)の表面偏在促進工程が行われても良い。但し、光硬化を電子線照射により行う場合には、瞬時に硬化反応が進行するため、前記ブロック共重合体(A)の表面偏在が充分に行われた後に行うようにすることが好ましい。
【0053】
塗布される基材としては、特に制限されないが、例えば透明なガラス、又は樹脂からなるシート又は板状成形体などを挙げることができる。樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、トリアセチルセルロース(TAC)、ジアセチルセルロース、アセテートブチレートセルロース、ポリエーテルサルホン、アクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリエーテル、ポリエーテルケトン、(メタ)アクリロニトリル等が挙げられる。
【0054】
塗布法の具体例としては、スピンコート法、ディップ法、スプレー法、スライドコート法、バーコート法、ロールコーター法、メニスカスコーター法、フレキソ印刷法、スクリーン印刷法、ピードコーター法等の各種方法を用いることができる。
乾燥後の膜厚は、特に限定されないが、通常1〜15μmである。
【0055】
光照射としては上記定義した光を照射すれば特に限定されない。適宜、紫外線、電子線、X線、放射線、あるいは高周波等を照射することによって硬化させる。これらのうちでも1800〜5000Åの波長を有する紫外線が好ましく、その光源としては、紫外線レーザー、水銀ランプ、キセノンランプ、ナトリウムランプ、アルカリ金属ランプ、メタルハライドランプ等が使用できる。特に好ましい光源としては水銀ランプ及びメタルハライドランプである。
【0056】
以上のようにして得られた帯電防止膜は、膜厚が0.1〜15μmの時に、静電荷が帯電するがすぐ減衰する範囲1.0×1012Ω/□〜1.0×1010Ω/□や、より好ましくは帯電しない範囲1.0×1010Ω/□以下を達成可能であるが耐擦傷性を持たせるためには1μm以上の膜厚とすることが好ましい。
【0057】
また、本発明に係る帯電防止膜は、JIS K7136:2000に準じたヘイズ値が0.3%以下であることが好ましい。ここで、基材上に形成された帯電防止膜のヘイズ値は、基材及び帯電防止膜のJIS K7136:2000に準じたヘイズ値と、前記基材だけのヘイズ値との差により求めることができる。
【0058】
更に、本発明に係る帯電防止膜は、耐擦傷性として、#0000番のスチールウールを用いて10回擦ったときに、傷が認められない最低荷重量が500g以上であることが好ましい。
【0059】
III.物品
次に、本発明に係る物品について説明する。
本発明に係る物品は、前記本発明に係る帯電防止性光硬化型樹脂組成物を塗工処理したものであることを特徴とする。
本発明に係る物品は、前記本発明に係る帯電防止性光硬化型樹脂組成物を塗工処理されているため、前記本発明に係る帯電防止性光硬化型樹脂組成物の硬化膜からなる帯電防止膜を備える。当該前記帯電防止性光硬化型樹脂組成物の硬化膜においては、上述のように、前記共重合体(A)が当該硬化膜表面に偏在していることが特徴的である。
【0060】
前記本発明に係る帯電防止性光硬化型樹脂組成物は、シート状、フィルム状、ロッド状および各種射出成型品等に塗工処理して使用できる。被塗布物となる物品の材質としては、上述の基材と同様に特に限定されることなく、PET,アクリル、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート、アクリロニトリル‐ブタジエン‐スチレン共重合体、ポリスチレン、ポリイミド、ポリアリレート、TAC、セルロースアセテートブチレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン、ポリ塩化ビニル、アモルファスポリオレフィン、エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0061】
塗布方法としては上述と同様の方法を用いることができる。本発明は、被塗布物となる物品にそのまま塗工することもできるし、被塗布物を洗浄、エッチング、コロナ放電処理、活性エネルギー線処理、染色、印刷等の前処理を施した後に塗工する事も可能である。
【0062】
本発明の物品としては、各種ディスプレイに使用される光学フィルムや、光学フィルムが使用された電化製品等が挙げられる。具体的には例えば、パソコン用材料(ペン入力パソコン、タッチパネル、ディスプレイカバー)、家電製品(テレビ、ラジカセ、ステレオ、コンピュータゲーム機のケースやディスプレイ等)、自動車用材料(ヘッドライト、グレージング、計器類のカバー)、光ディスク、光学用レンズ(カメラ、ビデオカメラ、虫メガネ)、メガネレンズ(矯正用、サングラス、ファッショングラス)、スポーツ用品(スキー板、テニスラケット)、有機板ガラス、看板、交通標識、ネームプレート、装飾用ケース、時計用レンズ、化粧品容器、住宅部材、転写箔、転写フィルム、ドライフィルムレジスト、反射鏡等が挙げられる。
【0063】
また、本発明に係る物品においては、前記帯電防止性光硬化型樹脂組成物を塗工処理した物品のJIS K7136:2000に準じたヘイズ値と、前記帯電防止性光硬化型樹脂組成物を塗工処理する前の物品のヘイズ値との差が0.3以下であることが好ましい。
【0064】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0065】
以下、実施例を挙げて、本発明を更に具体的に説明する。これらの記載により本発明を制限するものではない。
<合成例1:ブロック共重合体(A)の合成>
反応容器にテトラヒドロフラン35g、sec−ブチルリチウム6.7mg、1,1−ジフェニルエチレンの付加物28.7mg、及び塩化リチウム21.5mgを入れ、−78℃に冷却した。そこへメチルメタクリレート0.81gを添加し、10分反応させた後、ジメチルアミノエチルメタクリレート1.06gを添加して1時間反応させた。次に片末端にメタクリレート基を有するポリジメチルシロキサン(信越化学製「X−24−8201」)0.35gを添加し反応させた。メタノールで重合を停止した後、ヘキサンに再沈殿することにより、ブロック共重合体A’を得た。
【0066】
反応容器へブロック共重合体A’0.9g、テトロヒドロフラン33gを入れ溶解させた。そこへヨードメタン2.2gをテトロヒドロフラン14gに溶解させた溶液を滴下し、室温で24時間撹拌した。これをヘキサンに再沈殿した後、アセトン/メタノール/水(2:2:1重量比)の混合溶媒に溶解させ、アニオン交換樹脂(三菱化学 製「DIAION SA20A」)を通した。溶媒を減圧除去することによりブロック共重合体Aを得た。
NMR法により算出したブロック共重合体Aにおけるポリメチルメタクリレートの割合は32重量%、ポリジメチルアミノエチルメタクリレート4級化物の割合は54重量%、ポリジメチルシロキサンの割合は14重量%であった。
【0067】
<合成例2:ブロック共重合体(B)の合成>
(マクロイニシエーターの合成)
撹拌機、還流冷却管を取り付けた反応容器に、片末端にヒドロキシル基を有するポリジメチルシロキサン(信越化学製「X−22−170BX」)10g、テトラヒドロフラン10g、トリエチルアミン746μLを入れ、窒素気流下、反応容器を氷冷した。そこに2−ブロモイソブチリルブロミド661μLを滴下して加え1時間撹拌した後、室温で4時間撹拌した。析出した白色固体をろ過した後、テトラヒドロフランを減圧除去した。残留物をクロロホルムに溶解させ、飽和炭化水素ナトリウム水溶液で2回、純水で2回洗浄した後、クロロホルム層を硫酸ナトリウムで乾燥、ろ過した。クロロホルムを減圧除去した後、メタノールを加えて撹拌した。静置して相分離した上澄みを捨て、残ったオイルを真空乾燥させてポリジメチルシロキサンマクロイニシエーター8gを得た。
【0068】
反応容器へポリジメチルシロキサンマクロイニシエーター1g、メチルメタクリレート2.7g、キシレン3.7g、4,4’−ジノニル−2,2’−ビピリジル221mgを入れ、反応容器内をアルゴン雰囲気とした。そこへ塩化第一銅26.7mgを加え90℃で18時間撹拌した。冷却後、テトラヒドロフランに溶解してアルミナカラムを通した後、メタノールに再沈殿してポリジメチルシロキサン−ポリメチルメタクリレートブロック共重合体を得た。
【0069】
反応容器へポリジメチルシロキサン−ポリメチルメタクリレートブロック共重合体1g、ジメチルアミノエチルメタクリレート1g、o−ジクロロベンゼン2g、ヘキサメチルトリエチレンテトラミン18.5μLを入れ、反応容器内をアルゴン雰囲気とした。そこへ塩化第一銅26.7mgを加え90℃で24時間撹拌した。冷却後、テトラヒドロフランに溶解してアルミナカラムを通した後、ヘキサンに再沈殿してポリジメチルシロキサン−ポリメチルメタクリレート−ポリジメチルアミノエチルメタクリレートブロック共重合体B’を得た。
ブロック共重合体B’を合成例1と同様にヨードメタンと反応させた後、アニオン交換をしてブロック共重合体Bを得た。
【0070】
NMR測定により算出したブロック共重合体Bにおけるポリメチルメタクリレートの割合は36重量%、ポリジメチルアミノエチルメタクリレート4級化物の割合は49重量%、ポリジメチルシロキサンの割合は15重量%であった。
【0071】
<合成例3:ブロック共重合体(C)の合成>
反応容器へ合成例2と同様に合成したポリジメチルシロキサンマクロイニシエーター1g、ジメチルアミノエチルメタクリレート4.7g、キシレン5.2g、4,4’−ジノニル−2,2’−ビピリジル221mgを入れ、反応容器内をアルゴン雰囲気とした。そこへ塩化第一銅26.7mgを加え90℃で18時間撹拌した。冷却後、テトラヒドロフランに溶解してアルミナカラムを通した後、メタノールに再沈殿してポリジメチルシロキサン−ポリジメチルアミノエチルメタクリレートブロック共重合体を得た。
【0072】
反応容器へポリジメチルシロキサン−ポリジメチルアミノエチルメタクリレートブロック共重合体1.36g、メチルメタクリレート1g、o−ジクロロベンゼン3g、ヘキサメチルトリエチレンテトラミン21.8μLを入れ、反応容器内をアルゴン雰囲気とした。そこへ塩化第一銅7.9mgを加え90℃で17時間撹拌した。冷却後、テトラヒドロフランに溶解してアルミナカラムを通した後、ヘキサンに再沈殿してポリジメチルシロキサン−ポリメチルメタクリレート−ポリジメチルアミノエチルメタクリレートブロック共重合体C’を得た。
ブロック共重合体C’を合成例1と同様にヨードメタンと反応させた後、アニオン交換をしてブロック共重合体Cを得た。
【0073】
NMR測定により算出したブロック共重合体Cにおけるポリメチルメタクリレートの割合は45重量%、ポリジメチルアミノエチルメタクリレート4級化物の割合は45重量%、ポリジメチルシロキサンの割合は10重量%であった。
【0074】
<比較合成例1:ランダム共重合体(D)の合成>
撹拌機、還流冷却管を取り付けた反応容器に、メチルメタクリレート2.5g、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート4級化物(共栄社化学社製「ライトエステルDQ-100」)3.3g、イソプロピルアルコール10g、メチルエチルケトン5gを入れ溶解させた。窒素気流下、アゾビスイソブチロニトリル50mgを加え80℃で5時間撹拌した。この溶液をヘキサンに再沈殿することにより、ランダム共重合体Dを得た。
【0075】
NMR測定により算出したランダム共重合体Dにおけるポリメチルメタクリレートの割合は43重量%、ポリジメチルアミノエチルメタクリレート4級化物の割合は57重量%であった。
【0076】
<比較合成例2:ランダム共重合体(E)の合成>
撹拌機、還流冷却管を取り付けた反応容器に、メチルメタクリレート1g、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート4級化物(共栄社化学社製「ライトエステルDQ-100」)3.3g、片末端メタクリレートポリジメチルシロキサン(信越化学製「X−24−8201」)1.5g、イソプロピルアルコール10g、メチルエチルケトン5g、2−メトキシエタノール5gを入れ溶解させた。窒素気流下、アゾビスイソブチロニトリル50mgを加え80℃で5時間撹拌した。この溶液をヘキサンに再沈殿することにより、ランダム共重合体Eを得た。
【0077】
NMR測定により算出したランダム共重合体Eにおけるポリメチルメタクリレートの割合は18重量%、ポリジメチルアミノエチルメタクリレート4級化物の割合は68重量%、ポリジメチルシロキサンの割合は14重量%であった。
【0078】
<実施例1〜6、比較例1〜5>
(1)帯電防止性光硬化型樹脂組成物の調製
合成例1〜3で得られたブロック共重合体A〜Cをメチルエチルケトン/メタノール(1:1重量比)混合溶媒に固形分が10質量%になるように溶解した。
比較合成例1〜2で得られたランダム共重合体D,Eをメチルエチルケトン/メタノール(1:1重量比)混合溶媒に固形分が10質量%になるように溶解した。
ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPHA)、ペンタエリスリトールトリアクリレート(PETA)を、それぞれメチルエチルケトン/メタノール/イソプロピルアルコール(1:1:2重量比)混合溶媒に固形分が30質量%になるように溶解した。
【0079】
光重合開始剤1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(チバスペシャルティケミカルズ製「IRUGACURE184」)をイソプロピルアルコールに固形分が10質量%となるように溶解した。
これらの溶液を表1に示す固形分の割合になるように混合し、実施例1〜6及び比較例1〜5の樹脂組成物を調製した。
【0080】
(2)帯電防止膜の作製
厚さ100μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ製「ルミラーU34」)上に、乾燥後の膜厚が4μmとなるように(1)で調製した各帯電防止性光硬化型樹脂組成物をバーコーターで塗布、100℃で1分間乾燥した後、高圧水銀灯で積算照射線量200mJ/cm2になるように紫外線照射して硬化させ、帯電防止膜を作製した。当該帯電防止膜付フィルムについて、下記のように表面抵抗率、塗膜の透明性、耐擦傷性について評価した。これらの結果を下記の表1に示す。
【0081】
[評価方法]
(1)表面抵抗率
表面抵抗率(Ω/□)の測定は、高抵抗率計(Hiresta Model HT−210、三菱油化 (株)製)を用い、印加電圧100V、10秒にて帯電防止膜の最表面の表面抵抗率を測定した。
【0082】
(2)塗膜の透明性
JIS K 7136:2000「プラスチック ― 透明材料のヘーズの求め方」に準じて、濁度計(日本電色工業(株)製、「NDH2000」)を用いてヘイズ値を測定した。
【0083】
(3)耐擦傷性
各帯電防止膜の表面について、#0000のスチールウールを用い、荷重500g/cm2で10往復した時の傷の有無を目視により確認した。評価基準は以下の通りとした。
○:全く傷が認められないもの
×:傷が認められるもの
【0084】
(4)X線光電子分光(XPS)測定
各帯電防止膜の表面について、XPS(Kratos社製、ESCA−3400)を用いて窒素原子(N)及びケイ素原子(Si)を測定した。表2に測定結果を示す。
【0085】
【表1】

【0086】
【表2】

【0087】
<結果のまとめ>
表1の結果から、本発明に係る実施例1〜6の帯電防止膜は、高度な帯電防止性能を有すると共に、透明性が高く、耐擦傷性に優れることが明らかになった。 これに対し、4級アンモニウム塩基を有するがオルガノポリシロキサンを有しないランダム共重合体を、実施例と同様に少量しか用いなかった比較例1〜2の帯電防止膜では、表面抵抗率が1.0×1013Ω/□を超えてしまい、帯電防止性は殆ど有しなかった。また、比較例1では、透明性についても劣っていた。更に、4級アンモニウム塩基とオルガノポリシロキサンを共に有するランダム共重合体を、実施例と同様に少量用いた比較例3〜4の帯電防止膜では、帯電防止性は有するものの、その性能は実施例に比べて劣るものであった。一方、4級アンモニウム塩基を有するがオルガノポリシロキサンを有しないランダム共重合体を従来通り多く用いた比較例5の帯電防止膜は、表面抵抗率は実施例と同様の109オーダーとなったが、白濁して透明性が劣化し、更に耐擦傷性も悪かった。
【0088】
また、比較例1〜2の帯電防止膜では、4級アンモニウム塩基を有する共重合体がオルガノポリシロキサンを有しておらず硬化膜中に均一に存在していると考えられるが、表2の結果から、この場合の硬化膜表面の窒素原子(N)の値は0と、検出下限になることが明らかにされた。一方、実施例1〜6の帯電防止膜の表面には、4級アンモニウム塩基を有するブロック共重合体が硬化膜中に均一に存在した場合に検出されるはずの窒素原子(N)及びケイ素原子(Si)の値に比べて、著しく大きな値が得られており、窒素原子(N)及びケイ素原子(Si)が表面に偏在していることが明らかにされた。
【0089】
4級アンモニウム塩基とオルガノポリシロキサンを共に有するランダム共重合体を、実施例と同様に少量用いた比較例3〜4の帯電防止膜では、ケイ素原子(Si)は、実施例1〜6と同様の値が得られたが、窒素原子(N)の値としては、実施例1〜6よりも低い値が検出された。これにより、ランダム共重合体の場合には、共重合体が表面に偏在していても、4級アンモニウム塩基を有する繰り返し単位をランダムに含有するので、表面により多くの4級アンモニウム塩基が偏在し難いことが示唆された。すなわち、本発明のように4級アンモニウム塩基を有する繰り返し単位からなるセグメント(a1)とオルガノポリシロキサンを有するセグメント(a2)を含有するブロック共重合体を用いることにより、オルガノポリシロキサンの作用によって表面に偏在する共重合体が、より効率的に4級アンモニウム塩を表面に偏在させることができ、その結果少量の帯電防止剤の添加で高度な帯電防止性能が得られることが明らかになった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
4級アンモニウム塩基を有する繰り返し単位からなるセグメント(a1)とオルガノポリシロキサンを有するセグメント(a2)とを少なくとも含有するブロック共重合体(A)、及び2個以上のエチレン性不飽和結合を有する重合性化合物(B)を含む、帯電防止性光硬化型樹脂組成物。
【請求項2】
前記ブロック共重合体(A)が、N,N−ジアルキルアミノ基を実質的に含有しない、請求項1に記載の帯電防止性光硬化型樹脂組成物。
【請求項3】
前記ブロック共重合体(A)が当該樹脂組成物の全固形分中に0.05〜20重量%含有されている、請求項1又は2に記載の帯電防止性光硬化型樹脂組成物。
【請求項4】
前記ブロック共重合体(A)が、4級アンモニウム塩基を有する繰り返し単位からなるセグメント(a1)を20〜80重量%、オルガノポリシロキサンを有するセグメント(a2)を1〜70重量%、炭化水素基を有する繰り返し単位からなるセグメント(a3)を1〜70重量%含有する、請求項1乃至3のいずれかに記載の帯電防止性光硬化型樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の帯電防止性光硬化型樹脂組成物の硬化膜からなる帯電防止膜。
【請求項6】
前記帯電防止性光硬化型樹脂組成物の硬化膜において、前記ブロック共重合体(A)が当該硬化膜表面に偏在している、請求項5に記載の帯電防止膜。
【請求項7】
JIS K7136:2000に準じたヘイズ値が1.8%以下である、請求項5又は6に記載の帯電防止膜。
【請求項8】
請求項1乃至4のいずれかに記載の帯電防止性光硬化型樹脂組成物を塗工処理した物品。
【請求項9】
前記帯電防止性光硬化型樹脂組成物の硬化膜において、前記共重合体(A)が当該硬化膜表面に偏在している、請求項8に記載の物品。
【請求項10】
前記帯電防止性光硬化型樹脂組成物を塗工処理した物品のJIS K7136:2000に準じたヘイズ値(%)と、前記帯電防止性光硬化型樹脂組成物を塗工処理する前の物品のヘイズ値(%)との差が0.3以下である、請求項8又は9に記載の物品。

【公開番号】特開2008−69270(P2008−69270A)
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−249244(P2006−249244)
【出願日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】