説明

帯電防止性樹脂組成物及びこれを成形してなる精密部品

【課題】寸法安定性、耐熱性、耐衝撃性、帯電防止性、成形性に優れた樹脂組成物、および、それを成形してなる精密部品において、使用時に該部品からの樹脂または充填材の脱落が問題とならず、外部からの塵埃吸着も少ない精密部品を提供する。
【解決手段】(A)樹脂組成物40〜95質量%、(B)球状フィラー60〜5質量%からなるフィラー強化樹脂組成物100質量部に対し、式(I)で示される(C)スルホン酸ホスホニウム塩を0.1〜20質量部を配合してなる帯電防止性樹脂組成物であって、(A)樹脂組成物がポリアリレート樹脂10〜90質量%とポリカーボネート樹脂90〜10質量%からなり、(B)球状フィラーが平均粒径10μm以下のシリカ及び/又はアルミナから選ばれる球状フィラーであることを特徴とする帯電防止性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、寸法安定性、耐衝撃性、耐熱性、帯電防止性に優れた樹脂組成物、およびこれを成形してなる精密部品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、デジタルカメラのレンズ部品、光ディスクドライブのディスクセンタリング部品などの寸法安定性が必要とされる精密部品には、ガラス強化ポリカーボネート樹脂が多用されている。一方で、近年のデジタル家電の小型化、高機能化にともない、光ディスクドライブ部品では、ディスクの高密度化、多層化が進んでおり、高度な読み取り精度が期待できる寸法安定性の高い材料が必要となってきた。また、ディスク回転速度の高速化による、モータ発熱量が増大に対し、熱変形しにくい耐熱性の高い材料が求められている。
【0003】
このような要求に対し、従来のガラス強化ポリカーボネート樹脂では寸法安定性、耐熱性が不足し、放熱設計や、熱変形に強い形状にする等の工夫が必要で、設計の自由度が制限されるといった問題があった。さらに、成形部品を組み付け後、電子回路をはんだ付け
する際、はんだ熱によって成形部品が変形する等、ガラス強化ポリカーボネート樹脂では成形部品としての耐熱性自体が低い問題もあった。
【0004】
このような課題に対し、本発明者は、ポリアリレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、ガラスフレークおよびガラスビーズ等の無機充填材からなる、耐熱性、寸法安定性に優れた樹脂組成物を見出した(特許文献1)。しかしながら、ガラスフレークでは、ガラス繊維よりもアスペクト比は小さいものの板状のため異方性が顕著となり、成形の異方性により成形品に変形が生じ、寸法安定性には限界があった。一方、ガラスビーズでは、球状のため異方性は小さく成形品の寸法安定性が高いものの、繊維状強化材に比べ耐衝撃性に劣り、携帯電話の部品として組み込んだ場合、過って落下させた際には部品が破損しやすく実用的に問題があった。
【0005】
また、デジタルカメラは、カメラ画素数を増やすことで、より鮮明な写真が得られるよう機能の向上が図られているが、画素数の増加とともに、カメラに用いるCCD素子の細密化が進み、また、CCD素子を覆うレンズおよび周辺部材の清浄度に求める要求がより厳しくなっている。このような要求に対し、特許文献1の樹脂組成物では、成形品のゲートカット跡から配合した無機充填材の一部が脱落し、それがダストとなってレンズ素子を隠蔽し、撮影の障害になるなどの問題が発生している。
【0006】
本発明者は、さらに、ポリカーボネートとポリアリレートと平均粒径10μm以下の球状シリカからなる樹脂組成物で、寸法安定性、耐熱性、滞留安定性、耐衝撃性、成形性に優れる樹脂組成物を見出し、平均粒径10μm以下の球状シリカを用いることで耐衝撃性を低下させずに、寸法安定性を高めることができ、また、配合無機充填材が平均粒径10μm以下と小さくすることで、ダストとなった場合のレンズ隠蔽の懸念が低下した(特許文献2)。しかしながら、樹脂成形品は一般的に絶縁特性に優れる反面、発生する静電気で帯電しやすい傾向があり、外部からの塵埃が付着するばかりか、デジタルカメラのレンズ部品に用いた際には塵埃がレンズを隠蔽し、撮影の障害となることがあった。
【0007】
このような成形品の帯電トラブルに対しては、ポリカーボネート樹脂とスルホン酸ホスホニウム塩からなる帯電防止性を付与した樹脂組成物が提示されているが、耐熱性や機械物性が低下するという問題があった(特許文献3)。
【0008】
また帯電防止性能を付与するために、導電性カーボンブラックや金属粉末、金属繊維、炭素繊維などの導電性充填材を配合して導電性を付与する方法もあるが、粉末状の充填材の場合、多量に配合しなければならず、充填剤の脱落の問題や機械物性が低下するという問題があり、また繊維状の充填剤を配合すると、ガラス繊維と同様に成形品に異方性が発生し、寸法安定性が低下するという問題があった。
【特許文献1】特開2003−113296号公報
【特許文献2】国際公開第2007063795号パンフレット
【特許文献3】特開平5−171024号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、寸法安定性、耐熱性、耐衝撃性、帯電防止性、成形性に優れた樹脂組成物、および、それを成形してなる精密部品において、使用時に該部品からの樹脂または充填材の脱落が問題とならず、外部からの塵埃吸着も少ない精密部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、このような課題を解決するために鋭意検討した結果、ポリアリレート樹脂とポリカーボネート樹脂からなる樹脂組成物に対し、球状フィラーと特定のスルホン酸ホスホニウム塩を配合することで、上記目的を達成できることを見出し、本発明に到達した。
【0011】
すなわち、本発明の要旨は下記の通りである。
【0012】
(1)(A)樹脂組成物40〜95質量%、(B)球状フィラー60〜5質量%からなるフィラー強化樹脂組成物100質量部に対し、下記一般式(I)で示される(C)スルホン酸ホスホニウム塩を0.1〜20質量部を配合してなる帯電防止性樹脂組成物であって、(A)樹脂組成物がポリアリレート樹脂10〜90質量%とポリカーボネート樹脂90〜10質量%からなり、(B)球状フィラーが平均粒径10μm以下の球状シリカ、平均粒径10μm以下の球状アルミナから選ばれる一種以上の球状フィラーであることを特徴とする帯電防止性樹脂組成物。
【0013】
【化1】

(式中、R1は炭素数1〜40のアルキル基又はアリール基であり、R2〜Rは水素原子、炭素数1〜10のアルキル基又はアリール基であり、これらは同じでも異なっていてもよい。)
(2)(C)スルホン酸ホスホニウム塩のR1が炭素数6〜40のアリール基であることを特徴とする(1)の帯電防止性樹脂組成物。
(3)(1)または(2)の帯電防止性樹脂組成物を用いて成形された精密部品。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ポリアリレート樹脂とポリカーボネート樹脂からなる樹脂組成物、球状フィラーからなるフィラー強化樹脂組成物100質量部に対し、特定のスルホン酸ホスホニウム塩を0.1〜20質量部を配合することで、デジタル家電に要求される寸法安定性、耐熱性、耐衝撃性、帯電防止性、成形性に優れた帯電防止性樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の樹脂組成物(A)は、ポリアリレート樹脂とポリカーボネート樹脂を配合してなる樹脂組成物である。好ましい配合比としては、ポリアリレート樹脂10〜90質量%に対し、ポリカーボネート樹脂90〜10質量%であり、ポリアリレート樹脂80〜20質量%がさらに好ましい。ポリアリレート樹脂が10質量%未満では、耐熱性向上において効果が乏しく、ポリアリレート樹脂が90質量%を超えると流動性が低下する。
【0016】
本発明の樹脂組成物(A)に用いるポリアリレート樹脂は、ビスフェノール残基単位と芳香族ジカルボン酸残基単位で構成される。
【0017】
ビスフェノール残基単位を導入するためのポリアリレート原料はビスフェノール類であり、その具体例として、例えば2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(以下、ビスフェノールAと略称する)、2,2−ビス(4−ヒドロキシー3,5―ジメチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシー3,5−ジブロモフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジクロロフェニル)プロパン、4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4′−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4′−ジヒドロキシジフェニルケトン、4,4′−ジヒドロキシジフェニルメタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン等が挙げられる。これらの化合物は単独で使用してもよいし、あるいは、2種類以上を混合して使用してもよい。とりわけ、ビスフェノールAが経済的に好ましい。
【0018】
芳香族ジカルボン酸残基単位を導入するための原料の好ましい例としては、テレフタル酸およびイソフタル酸が挙げられる。本発明においては両者を混合使用して得られるポリアリレート樹脂組成物が溶融加工性、および、寸法安定性や機械的特性の面で特に好ましい。その混合比率(テレフタル酸/イソフタル酸)は任意に選択することができるが、モル分率で90/10〜10/90の範囲であることが好ましく、より好ましくは70/30〜30/70、最適には50/50である。テレフタル酸の混合モル分率が10モル%未満であっても、90モル%を超えていても界面重合法で重合する場合は十分な重合度を得にくくなる場合がある。
【0019】
本発明の樹脂組成物(A)に用いるポリカーボネート樹脂は、ビスフェノール類残基単位とカーボネート残基単位で構成される。
【0020】
ビスフェノール残基単位を導入するための原料のビスフェノール類としては、例えばビスフェノールA、2,2−ビス(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)デカン、1,4−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロドデカン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジチオジフェノール、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジクロロジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシ−2,5−ジヒドロキシジフェニルエーテル等が挙げられる。その他にも米国特許明細書第2,999,835号、米国特許明細書第3,028,365号、米国特許明細書第3,334,154号、米国特許明細書第4,131,575号に記載されているジフェノールが使用できる。これらは単独で使用してもよいし、あるいは2種類以上混合して使用してもよい。
【0021】
カーボネード残基単位を導入するための前駆物質としては、ホスゲンなどのカルボニルハライド、ジフェニルカーボネートなどの炭酸エステルが使用できる。
【0022】
本発明におけるポリアリレート樹脂とポリカーボネート樹脂からなる樹脂組成物(A)の製造方法であるが、ポリアリレート樹脂単体とポリカーボネート樹脂単体を溶融混練してもよいし、ポリアリレート樹脂とポリカーボネート樹脂の共重合体を使用してもよい。
【0023】
ポリアリレート樹脂の重合方法、ポリカーボネート樹脂の重合方法、ポリアリレートとポリカーボネートの共重合樹脂の重合方法であるが、本発明の目的を満足するものであれば、界面重合法でも溶融重合法でも特に限定されず、公知の方法を使用してよい。
【0024】
本発明の球状フィラー(B)は、平均粒径10μm以下の球状シリカおよび/または球状アルミナから選ばれる一種以上の球状フィラーである。球状シリカ、球状アルミナのいずれかを単体で用いても良いし、併用して用いてもよい。また、複数の球状シリカを混合して使用してもよいし、複数の球状アルミナを混合して用いてもよい。複数の球状フィラーを混合する場合は、粒子径が異なるもの、表面処理の有り無しで異なるもの等を所望する目的に合うよう適宜混合して用いることができる。
【0025】
樹脂組成物(A)と球状フィラー(B)の配合は、樹脂組成物(A)と球状フィラー(B)からなるフィラー強化樹脂組成物100質量%に対し、球状フィラー(B)5〜60質量%である必要があり、球状フィラー(B)10〜50質量%とすることがさらに好ましく、球状フィラー(B)20〜40質量%とすることがより好ましい。球状フィラー(B)の配合量が5質量%未満であると寸法安定性が不十分であり、球状フィラー(B)の60質量%を超えると溶融混練押出しによるペレット化が困難になるなど製造における工程通過時に不都合が生じる。
【0026】
球状フィラー(B)として用いる球状シリカおよび球状アルミナの平均粒径は、細かいほどダストとなった場合に製品の機能を阻害しにくいが、実用上10μm以下、好ましくは5μm以下である。平均粒径が10μmを超えると、カメラレンズ部品として使用される場合、樹脂組成物から脱落したシリカやアルミナがダストとして、撮影を阻害する場合があり、寸法安定性も不十分になる。なお、本発明での平均粒径とはレーザー散乱粒度分布計等の粒度分布測定装置を用いて粒子径分布を測定した場合の、重量累積50%の時の粒径値で定義される。
【0027】
球状フィラー(B)として用いる球状シリカは、本発明の目的である寸法安定性、滞留安定性、耐衝撃性、耐熱性、帯電防止性を満足するものであれば、その製法は限定されず、公知の方法で製造できる。例えば、シリカ微小粉末を高温火炎中に投入して、溶融、流動化させ、表面張力を利用して球状になったところで、急冷して製造する方法、酸素を含む雰囲気内において着火用バーナーにより化学炎を形成し、この化学炎中にシリコン粉末を粉塵雲が形成される程度の量投入し、爆発を起こさせてシリカ超微粒子を製造する方法、アルコキシシランをアルカリ下で加水分解・凝集してゾル−ゲル法で製造する方法などが知られている。
【0028】
球状フィラー(B)として用いる球状アルミナは、本発明の目的である寸法安定性、滞留安定性、耐熱性、耐衝撃性を満足するものであれば、その製法は限定されず、公知の方法で製造できる。例えば、アルミナ原料粉末を火炎中に溶射して球状化して冷却する方法、水酸化アルミニウムや金属アルミニウム粉末を含むスラリーを噴霧ガスによって火炎に供給し、水酸化アルミニウムや金属アルミニウム粉末を酸化させ、さらに溶融して球状化して、冷却固化する方法などが知られている。
【0029】
さらに球状シリカおよび球状アルミナは、イオン性不純物の含有量が少ないものが好ましい。これらの不純物は、溶融加工時に樹脂組成物の樹脂成分の熱分解・加水分解を促進し、滞留安定性が悪くなる場合がある。イオン性不純物としてはナトリウムイオン、鉄イオン、塩素イオンなどが挙げられる。
【0030】
また球状シリカ、球状アルミナと樹脂マトリックスの接着性を改良するために、球状シリカや球状アルミナにシランカップリング処理剤による表面処理をしてもよい。
【0031】
また球状シリカや球状アルミナを樹脂マトリックス中に均一に分散させるために、分散剤を使用してもよい。例えば、脂肪酸エステルやその誘導体、脂肪酸アマイドやその誘導体が使用できる。脂肪酸アマイドとしては、エチレンビスヒドロキシステアリン酸アマイド、エチレンビスステアリン酸アマイドなどが挙げられる。球状シリカや球状アルミナが、樹脂マトリックス中に均一に分散することによって、成形収縮率、線膨張係数が小さくなり、より寸法安定性が向上する。添加量はポリアリレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、球状シリカ、球状アルミナからなるフィラー強化樹脂組成物100質量部に対して、0.01〜0.5質量部が望ましい。
【0032】
本発明で配合するスルホン酸ホスホニウム塩(C)は下記一般式(I)で表される。
【0033】
【化2】

【0034】
ここにR1は炭素数1〜40のアルキル基又はアリール基、R2〜R5は水素、炭素数1〜10のアルキル基、またはアリール基(これらは同じでも異なっていてもよい)である。R1は、アルキル基又はアリール基であるが、透明性や耐熱性、への影響などの点からアリール基(すなわち炭素数6〜40のアリール基)の方がより望ましく、例えばアルキルベンゼン、アルキルナフタリン環などから誘導される基が挙げられる。具体的な化合物としては、ドデシルスルホン酸ホスホニウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ホスホニウム等が挙げられる。
【0035】
前記一般式(I)で示されるスルホン酸ホスホニウム塩化合物(C)の配合量は、ポリアリレート樹脂とポリカーボネート樹脂からなる樹脂組成物(A)と球状フィラー(B)の合計100質量部に対し、0.1〜20質量部、好ましくは0.5〜10質量部である。0.1質量部未満では、帯電防止の効果は得られず、20質量部を越えると耐熱性や機械物性が低下する場合がある。
【0036】
本発明では、スルフォン酸のホスホニウム塩を用いることが熱安定性の面で必要であり、例えばスルフォン酸のナトリウム塩でも帯電防止性能は付与できるが、熱安定性に劣り、熱環境下で成形品を使用した場合、外観不良などが生じる場合がある。
【0037】
この他に、特性を損なわない範囲であれば、顔料、染料、耐候剤、酸化防止剤、熱安定剤、難燃剤、離型剤、耐衝撃改良剤、超高分子量ポリエチレン、フッ素樹脂等の摺動剤等を添加することができる。
【0038】
本発明の帯電防止性樹脂組成物の製造方法において、ポリアリレート樹脂とポリカーボネート樹脂、球状シリカ、球状アルミナ、スルホン酸ホスホニウム塩、その他添加剤を配合する方法は特に限定されるものではなく、樹脂組成物中に各成分が均一に分散されている状態になればよい。具体的にはポリアリレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、球状シリカ、球状アルミナ、スホン酸ホスホニウム塩、その他添加剤をタンブラーあるいはヘンシェルミキサーを用いて均一にブレンドした後に押出機に供給して、溶融混練してペレット化する方法が挙げられるし、各原料を別々の供給機を使用して、所定の比率で押出機に連続供給してもよい。
【0039】
液状の添加剤の場合は、ブレンドしにくいため、別途プランジャポンプなどで、押出機に供給する方法があげられる。また液状添加剤の粘度が高い場合は加温して粘度を下げて供給しても良い。
【0040】
本発明の帯電防止性樹脂組成物の混練において、得られる帯電防止性樹脂組成物の極限粘度は0.45〜0.65であることが好ましい。0.65を上回ると溶融粘度が高くなり、射出成形が困難になる。0.45を下回ると、得られる成形品の衝撃強度が不足する傾向にある。
【0041】
本願発明の帯電防止性樹脂組成物の用途としては、デジタル家電の樹脂製部品として用いることができ、特に寸法精度の要求される光学用途でその機能を十分に発揮することができる。とりわけ、角型の部品よりは、真円度の要求される、レンズ周り、回転軸に装着する部品で好適に用いることができる。そのような部品の一例としては、デジタルカメラ、携帯電話内蔵カメラのモバイル家電のレンズ部品、帯電防止性能に加えて、耐衝撃性、耐候性に優れるため、赤外線カメラ、視界補助カメラ、画像認識カメラ、事故時の画像を記録するためのドライブ・レコーダー等の自動車用の車載カメラのレンズ部品として用いることができる。その他、顕微鏡、一眼レフカメラ、双眼鏡、望遠鏡の鏡筒、CD、DVD、ブルーレイディスク等の光ディスクドライブのディスクセンタリング部品、ハードディスク、各種記録媒体の、回転軸周りに装着するリング部品に適用できる。
【実施例】
【0042】
以下に実施例および比較例をあげ、本発明を具体的に説明する。
【0043】
1.原料
(a)樹脂組成物
(a−1)ポリアリレート樹脂
PAR:U−パウダー(ユニチカ社製;極限粘度0.55)
(a−2)ポリカーボネート樹脂
PC:カリバーK200−13(住友ダウ社製;極限粘度0.49)
(b)球状フィラー
(b−1)球状シリカ
SB1:FB−5SDC(電気化学社製;平均粒径5μm)
SB2:SFP―30M(電気化学社製;平均粒径0.7μm)
SB3:FB−945 (電気化学社製;平均粒径15μm)
(b−2)球状アルミナ
AB:DAW―03 (電気化学社製;平均粒径3μm)
(b−3)ガラスビーズ
GB:EMB−10 (ポッターズ・バロティーニ社製;平均粒径5μm)
(b−4)タルク
タルク:ミクロエースK−1(日本タルク社製;平均粒径7μm)
(c)帯電防止剤
(c−1)アルキルベンゼンスルホン酸ホスホニウム塩
S418:エレカットS−418(竹本油脂社製)
(c−2)アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム塩
S412:エレカットS−412−2(竹本油脂社製)
【0044】
2.評価方法
(1)溶融混練操業性
溶融混練時の操業性を次のように判定した。
○:押出機のノズルから出た樹脂が問題なくストランド状に引き取ることができる。
×:ノズルから出た樹脂がすぐ切れて引き取れない。
(2)極限粘度
1,1,2,2−テトラクロロエタンを溶媒として用い、25℃における溶液粘度から求めた。
(3)曲げ強度
ASTM D790に準じて測定した。
(4)アイゾッド衝撃強度
ASTM D256に準じて測定した。これが低いと製品落下時に割れのおそれがある。60J/m以上を良好とする。
(5)DTUL(荷重たわみ温度)
ASTM D648に準じ、荷重1.8MPaにて測定した。耐熱クリープ性、耐はんだ性の面から、DTULが130℃以上あれば、製品の設計自由度が大きく向上する。
(6)成形収縮率
ASTM D790に準じた曲げ試験片の長辺方向の寸法を測定し、(成形品長辺方向の寸法―金型寸法)/金型寸法×100と計算して成形収縮率を評価した。寸法安定性の面からは、成形収縮率0.7以下を良好とする。
(7)寸法安定性
断面形状2mm×2mmの方形、内径26mmのリング型試験片(サイドゲート1点)の最大内径、最小内径、平均内径を測定し、((最大内径−最小内径)/平均内径)×100で評価した。値が小さいほど、寸法安定性がよく、0.2以下を良好とする。
(8)流動性
フローテスター(島津製作所 MFR)を用いて、樹脂温度340℃、せん断速度1000 (1/s) のときの溶融粘度を測定した。この値が低いほど、流動性がよく成形加工性に優れるが、実用上500Pa・s以下が好ましい。
(9)帯電防止性
厚さ1.6mm、直径100mmの円板状成形品を使用して、IEC60093に準じて23℃、50%RHの環境下で表面固有抵抗率を測定した。表面固有抵抗率が1014未満を良好とする。
(10)平均粒子径から計算される隠蔽度
1/2.5型CCD(サイズ5.7mm×4.3mm),500万画素を仮定し、一粒の無機充填材が何個の画素を隠蔽するかを、無機充填材の平均粒径(μm)×5/(5.7×4.3)で計算した。2種以上の無機充填材を併用する場合、その比率の加重平均とした。この数値が10以上は望ましくない。
(11)熱安定性
厚さ1.6mm、直径100mmの円板状成形品を使用して、100℃×3h熱処理したあとの外観を調べ、次のように判定した。
○:特に処理前後で外観に変化はない。
×:熱処理後に膨張などの外観の変化がある。
【0045】
実施例1
ポリアリレート樹脂(PAR)7kg、ポリカーボネート樹脂(PC)1kg、球状シリカ(SB−1)2kgを混合し、その合計10kgに対し、アルキルベンゼンスルホン酸ホスホニウム塩を300g配合し、均一にブレンドした後、同方向2軸押出機(東芝機械社製TEM‐37BS)の主ホッパーに仕込み、バレル温度320℃で溶融混練を行った。ノズルからストランド状に引き取った樹脂組成物を水浴に浸漬し冷却固化し、ペレタイザーでカッティングした後、120℃で12時間熱風乾燥することによって帯電防止性樹脂組成物のペレットを得た。
【0046】
次いで、得られた帯電防止性樹脂組成物ペレットを、射出成形機(東芝機械社製IS100E−3S)を用いて樹脂温度340℃、金型温度100℃、成形サイクル30sで成形し、各種試験片を作製した。各種試験片は23℃、50%RH環境下で、1日以上放置した後に、これらについて、曲げ強度、Izod衝撃強度、DTUL、成形収縮率、寸法安定性、表面固有抵抗値、熱安定性を評価した。その結果を表1に示す。
【0047】
【表1】

【0048】
実施例2〜9
表1に記載の原料の配合としたほかは、実施例1と同様に帯電防止性樹脂組成物の作成を行い、各種評価を行なった。その結果を表1に示す。
【0049】
比較例1
表2に記載の原料の配合としたほかは、実施例1と同様に帯電防止性樹脂組成物の作成を行い、各種評価を行なった。その結果を表2に示す。
【0050】
【表2】

【0051】
比較例2〜4
表2に記載の原料の配合としたほかは、実施例1と同様に帯電防止性樹脂組成物の作成を行い、各種評価を行なった。その結果を表2に示す。
【0052】
比較例5
表2に記載の原料の配合としたほかは、実施例1と同様に帯電防止性樹脂組成物の作成を行った。しかしながら、ノズルから出た樹脂が切れ切れになって、ストランド状に引くことができず、樹脂ペレットを得ることができなかった。
【0053】
比較例6〜8
表2に記載の原料の配合としたほかは、実施例1と同様に帯電防止性樹脂組成物の作成を行い、各種評価を行なった。その結果を表2に示す。
【0054】
比較例9〜12
表3に記載の原料の配合としたほかは、実施例1と同様に帯電防止性樹脂組成物の作成を行い、各種評価を行なった。その結果を表3に示す。
【0055】
【表3】

【0056】
本発明の実施例1〜9は、曲げ強度、Izod衝撃強度、DTUL、成形収縮率、流動性、において優れ、また、60sサイクル成形品の溶液粘度の低下も少なく滞留安定性にも優れていることがわかる。
【0057】
比較例1の樹脂組成物はPARの配合量が本発明の範囲を下方に外れていたため、DTULが低い。
【0058】
比較例2の樹脂組成物は、SBの代りにGBを使用したため、Izod衝撃強度が低い。
【0059】
比較例3の樹脂組成物は、SBの代りにタルクを使用したため、Izod衝撃強度が低く、寸法安定性もやや悪い。
【0060】
比較例4の樹脂組成物は、SBの配合量が本発明の範囲を下方に外れていたため、成形収縮率が大きい。
【0061】
比較例5の樹脂組成物は、SBの配合量が本発明の範囲を上方に外れていたため、溶融混練押出し時の操業性が悪く、樹脂ペレットを得ることができなかった。
【0062】
比較例6の樹脂組成物は球状シリカの平均粒子径が大きいために隠蔽度が高い。
【0063】
比較例7、8の樹脂組成物はPARの配合量が本発明の範囲を上方に外れていたため、
流動性が悪い。
【0064】
比較例9の樹脂組成物はアルキルベンゼンスルホン酸ホスホニウム塩の代わりにアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム塩を使用したが、熱処理後に試験片の一部に膨張が生じ、熱安定性が悪い。
【0065】
比較例10の樹脂組成物はアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム塩を使用していないため、表面固有抵抗率が高い。
【0066】
比較例11の樹脂組成物はアルキルベンゼンスルホン酸ホスホニウム塩の配合量が少なすぎるため、表面固有抵抗率が高い。
【0067】
比較例12の樹脂組成物はアルキルベンゼンスルホンさんホスホニウム塩の配合量が多すぎるため、アイゾッド衝撃強度、DTULが低く、熱安定性も悪い。































【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)樹脂組成物40〜95質量%、(B)球状フィラー60〜5質量%からなるフィラー強化樹脂組成物100質量部に対し、下記一般式(I)で示される(C)スルホン酸ホスホニウム塩を0.1〜20質量部を配合してなる帯電防止性樹脂組成物であって、(A)樹脂組成物がポリアリレート樹脂10〜90質量%とポリカーボネート樹脂90〜10質量%からなり、(B)球状フィラーが平均粒径10μm以下の球状シリカ、平均粒径10μm以下の球状アルミナから選ばれる一種以上の球状フィラーであることを特徴とする帯電防止性樹脂組成物。
【化1】

(式中、R1は炭素数1〜40のアルキル基又はアリール基であり、R2〜Rは水素原子、炭素数1〜10のアルキル基又はアリール基であり、これらは同じでも異なっていてもよい。)
【請求項2】
(C)スルホン酸ホスホニウム塩のR1が炭素数6〜40のアリール基であることを特徴とする請求項1に記載の帯電防止性樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の帯電防止性樹脂組成物を用いて成形された精密部品。

【公開番号】特開2009−263573(P2009−263573A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−117391(P2008−117391)
【出願日】平成20年4月28日(2008.4.28)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】