説明

常温流通型密封容器詰めシャーベット

【課題】常温での保管・流通を可能とするとともに、喫食時、冷凍庫で凍結して通常のシャーベットに比較して遜色のないソフトな食感のシャーベットを形成することが可能な、常温流通型密封容器詰めシャーベット、及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】シャーベットミックスを陽圧缶に充填、密封し、凍結によってシャーベット状とする密封容器詰めシャーベットの製造において、該シャーベットミックスのアルコール含量と炭酸ガス濃度、或いは、シャーベットミックスのゲル化剤の濃度と炭酸ガス濃度を設定することにより、常温流通型密封容器詰めシャーベットを製造する。本発明の密封容器詰めシャーベットの製造方法は、酒類や醸造用アルコールを含むものに適用することができる。また、果汁含有シャーベットミックスに適用して、嗜好性のある容器詰めシャーベットを提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シャーベットミックスを陽圧缶に充填、密封し、常温での保管・流通を可能とするとともに、喫食時、冷凍庫で凍結してソフトな食感のシャーベットを形成することが可能な、常温流通型密封容器詰めシャーベット、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、主要な冷菓製品として、アイスクリームと共にシャーベットが挙げられる。通常、シャーベットは、糖類や、果汁、有機酸、牛乳及び乳製品、香料、嗜好料等のシャーベット原料をミックスとして、これを撹拌、凍結することによって、シャーベット状の冷菓を調製している。すなわち、(1)まず、氷菓ミックスの調製を行う工程、(2)氷菓ミックスを加熱し、殺菌する工程、(3)殺菌後、急速に冷却し、0℃付近で保持し、ミックスを安定化させるエージング工程、(4)凍結と同時に激しく攪拌しながら空気を吹き込み、微細な空気の泡を分散させるオーバーラン工程、(5)増大した容量(1.8〜2倍)の氷菓をカップへ充填し硬化させる工程、により調製されている。
【0003】
近年、シャーベットをソフトな冷菓とするために、炭酸ガスを含有させる方法が開示されている。例えば、特公昭47−19号公報、特公昭48−6788号公報、或いは特公昭53−5388号公報には、糖類、有機酸、牛乳、乳製品、果汁、香料、嗜好料等の冷菓原料に、安定剤を添加し、殺菌、冷却した溶液に15℃で2kg/cm(ゲージ圧力)以上、1.3〜2.0kg/cmと或いは1.0〜2.3kg/cmとなるように加圧、溶解して、缶に密封、凍結し、喫食事に開缶すると、シャーベットが炭酸ガスの膨張拡散により、缶の開口部から柱状をなして緩徐に隆起するような形態のシャーベットが開示されている。
【0004】
また、特開昭60−2151号公報には、水分量に対し、糖類及び/又は糖アルコール10〜65重量%を含有する組成物を容器に充填後、15℃でガス圧が、0.2〜0.9kg/cmになるように加圧溶解して、密封後、冷凍庫で冷凍する方法が開示されている。該公報に記載のものでは、炭酸ガス圧と凍結物のスプーンの通り易さの関係についても示されている。更に、特開平5−276864号公報には、乳酸、糖アルコール、ポリデキストロースに、乳酸菌、乳糖非発酵性酵母を添加した後、発酵させたものを密閉雰囲気下で、撹拌凍結するフローズンヨーグルトが開示されている。
【0005】
これら従来開示されているものは、炭酸ガスを圧入し、密封雰囲気下で凍結を行うものであるが、喫食事に開缶すると、シャーベットが溶解炭酸ガスの膨張拡散により、缶の開口部から柱状をなして緩徐に隆起するような特殊の形態のシャーベットであったり、又その凍結に際して、特別な撹拌や振とう手段を必要としたりして、例えば、常温で保管、流通して、その喫食時に家庭の冷蔵庫で凍結することにより、通常のシャーベットに比較して遜色のないソフトなシャーベットを形成して、喫食に供することができるというものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公昭47−19号公報。
【特許文献2】特公昭48−6788号公報。
【特許文献3】特公昭53−5388号公報。
【特許文献4】特開昭60−2151号公報。
【特許文献5】特開平5−276864号公報。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、シャーベットミックスを陽圧缶に充填、密封し、常温での保管・流通を可能とするとともに、喫食時、冷凍庫で凍結して通常のシャーベットに比較して遜色のないソフトな食感のシャーベットを形成することが可能な、常温流通型密封容器詰めシャーベット、及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討する中で、シャーベットミックスを陽圧缶に充填、密封し、凍結によってシャーベット状とする密封容器詰めシャーベットの製造において、該シャーベットミックスのアルコール含量と炭酸ガス濃度、或いは、シャーベットミックスのゲル化剤の濃度と炭酸ガス濃度を適切な範囲に設定することにより、喫食時一般家庭等にある冷凍庫での凍結によっても、通常のシャーベットに比較して遜色のないソフトな食感のシャーベットを形成することが可能なことを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、シャーベットミックスを陽圧缶に充填、密封し、凍結によってシャーベット状とする密封容器詰めシャーベットの製造において、該シャーベットミックスのアルコール含量と炭酸ガス濃度、或いは、シャーベットミックスのゲル化剤の濃度と炭酸ガス濃度を適切な範囲に設定することにより、喫食時冷凍庫で凍結してソフトな食感のシャーベットを形成することが可能な、常温流通型密封容器詰めシャーベット、及びその製造方法からなる。
【0010】
本発明において、シャーベットミックスのアルコール含量及び炭酸ガス濃度は、ミックス全量に対して、アルコール濃度が4〜6重量%であり、炭酸ガス濃度が0.4〜0.5重量%であるように設定される。また、本発明において、シャーベットミックスのゲル化剤の濃度と炭酸ガス濃度は、ゼラチン、ローカストビーンガム及びカラギーナンから選択される1又は2以上をゲル化剤とし、ミックス全量に対して、該ゲル化剤が1〜2重量%であり、炭酸ガス濃度が0.4〜0.5重量%であるように設定される。これらのシャーベットミックスにおけるアルコール濃度又はゲル化剤の濃度と、炭酸ガス濃度の設定により、密封容器詰めシャーベットの形態において、特別の攪拌や振とうのような手段を用いることなく、一般家庭にある冷蔵庫による凍結によっても、ソフトな食感のシャーベットを形成することができる。
【0011】
本発明の常温流通型密封容器詰めシャーベットの製造方法は、アルコール含量及び炭酸ガス濃度を調整したシャーベットミックスの場合には、酒類及び/又は醸造用アルコールを含むものであって良い。前記酒類は、ワイン、清酒などの醸造酒、ウイスキー、ジン、ウォッカなどの蒸留酒、甘味果実酒やリキュールなどの混成酒から適宜選択することができる。また、ゲル化剤の濃度と炭酸ガス濃度を調整したシャーベットミックスの場合には、果汁含有シャーベットミックスに適用して、嗜好性のある容器詰めシャーベットを提供することができる。
【0012】
本発明は、本発明のシャーベットの製造方法によって製造された、冷凍庫で凍結してソフトな食感のシャーベットを形成することが可能な、常温流通型密封容器詰めシャーベット自体の発明を包含する。
【0013】
すなわち具体的には本発明は、[1]シャーベットミックスを陽圧缶に充填、密封し、凍結によってシャーベット状とする密封容器詰めシャーベットの製造において、シャーベットミックスのアルコール含量と炭酸ガス濃度、或いは、シャーベットミックスのゲル化剤の濃度と炭酸ガス濃度を設定することを特徴とする、常温流通型密封容器詰めシャーベットの製造方法(請求項1)や、[2]シャーベットミックスのアルコール含量及び炭酸ガス濃度の設定が、ミックス全量に対して、アルコール濃度が4〜6重量%であり、炭酸ガス濃度が0.4〜0.5重量%であることを特徴とする上記[1]記載の常温流通型密封容器詰めシャーベットの製造方法(請求項2)や、[3]シャーベットミックスのゲル化剤の濃度と炭酸ガス濃度の設定が、ゼラチン、ローカストビーンガム及びカラギーナンから選択される1又は2以上をゲル化剤とし、ミックス全量に対して、該ゲル化剤が1〜2重量%であり、炭酸ガス濃度が0.4〜0.5重量%であることを特徴とする上記[1]記載の常温流通型密封容器詰めシャーベットの製造方法(請求項3)からなる。
【0014】
また本発明は、[4]アルコール含量及び炭酸ガス濃度を調整したシャーベットミックスが、酒類及び/又は醸造用アルコールを含むものである上記[1]記載の常温流通型密封容器詰めシャーベットの製造方法(請求項4)や、[5]シャーベットミックスが、果汁含有シャーベットミックスであることを特徴とする上記[1]記載の常温流通型密封容器詰めシャーベットの製造方法(請求項5)や、[6]上記[1]〜[5]のいずれか記載のシャーベットの製造方法によって製造された、冷凍庫で凍結してソフトな食感のシャーベットを形成することが可能な、常温流通型密封容器詰めシャーベット(請求項6)からなる。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、常温での保管・流通を可能とするとともに、喫食時、冷凍庫で凍結して通常のシャーベットに比較して遜色のないソフトな食感のシャーベットを形成することが可能な、常温流通型密封容器詰めシャーベットを提供する。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、シャーベットミックスを陽圧缶に充填、密封し、凍結によってシャーベット状とする密封容器詰めシャーベットの製造において、該シャーベットミックスのアルコール含量及び炭酸ガス濃度を調整するか、或いは、シャーベットミックスのゲル化剤の濃度と炭酸ガス濃度を調整することにより、喫食時冷凍庫で凍結してソフトな食感のシャーベットを形成することが可能な、常温流通型密封容器詰めシャーベット、及びその製造方法からなる。
【0017】
本発明において、シャーベットミックスのアルコール含量及び炭酸ガス濃度は、ミックス全量に対して、アルコール濃度が4〜6重量%であり、炭酸ガス濃度が0.4〜0.5重量%であるように設定される。また、本発明において、シャーベットミックスのゲル化剤の濃度と炭酸ガス濃度は、ゼラチン、ローカストビーンガム及びカラギーナンから選択される1又は2以上をゲル化剤とし、ミックス全量に対して、該ゲル化剤が1〜2重量%であり、炭酸ガス濃度が0.4〜0.5重量%であるように設定される。これらのシャーベットミックスにおけるアルコール濃度又はゲル化剤の濃度と、炭酸ガス濃度の設定の点を除いて、その他の成分においては、通常のシャーベットミックスにおいて用いられる成分と変わることはない。
【0018】
例えば、果糖ぶどう糖液糖、上白糖、グラニュー糖、果糖、ぶどう糖、オリゴ糖、水飴等の糖質や各種の果汁、及び/又は、スクラロース、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、ステビア、フコース、ミラクリン、ラカンカ、グリチルリチン等の高甘味度甘味料、及び/又は、赤キャベツ、アナトー、カロチノイド、フラボノイド、アントシアニン等の着色料、及び/又は、クエン酸、クエン酸ナトリウム、リンゴ酸、乳酸、リン酸、酒石酸、フィチン酸等の酸味料や各種の香料、及び/又は、グルタミン酸、タウリン、アルギニン、アスパラギン、イノシン酸ナトリウム、乳精ミネラル等の調味料、及び/又は、グリセリン脂肪酸エステル等の乳化剤、及び/又は、ビタミンA、カロチン、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンE、葉酸等のビタミン強化剤、及び/又は、食物繊維等の食品素材や食品添加物等の飲食可能な物質が使用可能である。
【0019】
これらの原材料を全て所定の量添加したシロップに対して従来のカーボネーションの方法を用いて炭酸ガスを本件発明の開示する範囲の濃度に含有させ、陽圧缶に充填し、巻締めする。この密封容器詰めシャーベットは、喫食時に冷凍庫にて凍結し、嗜好性のある容器詰めシャーベットを提供することができる。
【0020】
以下、実施例を挙げて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらによってなんら限定されるものではない。
【実施例1】
【0021】
[アルコール含量及び炭酸ガス濃度を調整した密封容器詰めシャーベットの製造]
【0022】
パイロットラインにて、表1の処方でアルコール濃度、炭酸ガス量の条件を違えたサンプルを作成し、その凍結状態の違いについて検討した。
【0023】
【表1】

【0024】
(添加方法)
(1)果糖ぶどう糖液糖、原料アルコール及び水を所定量タンクへ投入し、均一なシロップを調製した。
(2)該シロップに炭酸ガスを規定濃度含有させ、缶に充填、巻き締めした。
【0025】
(評価)
上記処方及び添加方法により缶に充填し、凍結させたサンプルについて、官能評価、及びゲージでの固さ測定を実施した。評価は、表2の評価基準を用いて、専門検査員3名が官能評価を実施した。表3に基づいて集計した表記を用いて、結果を表4に示す。
【0026】
【表2】

【0027】
【表3】

【0028】
【表4】

【0029】
更に、凍結サンプルについて株式会社テクロック製のプッシュプルテンションゲージ(Q−029)を用い、プッシュ側を1.5cmサンプルへ押し込む時にかかるテンションを測定した。結果を表5に示す。
【0030】
【表5】

【0031】
上記評価結果から、アルコール濃度4〜6重量%、炭酸ガス濃度0.4〜0.5重量%の組合せによって、望ましい固さのシャーベットを得ることができることが示された。
【実施例2】
【0032】
[ゲル化剤含有液における炭酸ガス濃度を調整した密封容器詰めシャーベットの製造]
【0033】
<ゲル化剤含有液における炭酸ガス濃度による凍結状態の検証>
手詰めにて表6の処方でサンプルを調製し、凍結状態の違いを検討した。炭酸ガスは0.17%、0.5%の2水準とした。
【0034】
【表6】

【0035】
(評価)
表6に示した処方のものを凍結させたサンプルについて、実施例1の表2の評価基準を用いて、専門検査員4人により官能評価を実施した。表7の集計に基づいた表記を用いて、評価結果を表8に示す。
【0036】
【表7】

【0037】
【表8】

【0038】
上記結果に示されるように、ゲル化剤としては、ゼラチン及びローカストビーンガムが優れ、該ゲル化剤1〜2重量%と、炭酸ガス濃度0.4〜0.5重量%の場合を組み合わせることにより、望ましい固さのシャーベットを得ることができることが示された。なお、ゲル化剤として、カラギーナンを用いた場合にも、同様の結果が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、常温での保管・流通を可能とするとともに、喫食時、冷凍庫で凍結して通常のシャーベットに比較して遜色のないソフトな食感のシャーベットを形成することが可能な、常温流通型密封容器詰めシャーベットを提供する。本発明の常温流通型密封容器詰めシャーベットをワイン風味、清酒風味、或いはリキュール類の風味のような低アルコール飲料風味のシャーベットミックスの場合に適用して、また、果汁含有シャーベットミックスに適用して、嗜好性のある容器詰めシャーベットを提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シャーベットミックスを陽圧缶に充填、密封し、凍結によってシャーベット状とする密封容器詰めシャーベットの製造において、シャーベットミックスのアルコール含量と炭酸ガス濃度、或いは、シャーベットミックスのゲル化剤の濃度と炭酸ガス濃度を設定することを特徴とする、常温流通型密封容器詰めシャーベットの製造方法。
【請求項2】
シャーベットミックスのアルコール含量及び炭酸ガス濃度の設定が、ミックス全量に対して、アルコール濃度が4〜6重量%であり、炭酸ガス濃度が0.4〜0.5重量%であることを特徴とする請求項1記載の常温流通型密封容器詰めシャーベットの製造方法。
【請求項3】
シャーベットミックスのゲル化剤の濃度と炭酸ガス濃度の設定が、ゼラチン、ローカストビーンガム及びカラギーナンから選択される1又は2以上をゲル化剤とし、ミックス全量に対して、該ゲル化剤が1〜2重量%であり、炭酸ガス濃度が0.4〜0.5重量%であることを特徴とする請求項1記載の常温流通型密封容器詰めシャーベットの製造方法。
【請求項4】
アルコール含量及び炭酸ガス濃度を調整したシャーベットミックスが、酒類及び/又は醸造用アルコールを含むものである請求項1記載の常温流通型密封容器詰めシャーベットの製造方法。
【請求項5】
シャーベットミックスが、果汁含有シャーベットミックスであることを特徴とする請求項1記載の常温流通型密封容器詰めシャーベットの製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか記載のシャーベットの製造方法によって製造された、冷凍庫で凍結してソフトな食感のシャーベットを形成することが可能な、常温流通型密封容器詰めシャーベット。