説明

平板型固体酸化物形燃料電池スタック

【課題】破綻した発電ユニットの交換に伴って交換せざるをえない正常な発電ユニットの数の低減を可能とする平板型固体酸化物形燃料電池スタックを提供すること。
【解決手段】1枚の平板型固体酸化物形燃料電池及び複数枚のセパレータから構成される発電ユニット1が重ね合わされてなる平板型固体酸化物形燃料電池スタックにおいて、重ね合わされた2枚の金属板である、重ね合わされたトップ分割板2とボトム分割板3とが、隣接する発電ユニット1の間に挿入されていることを特徴とする平板型固体酸化物形燃料電池スタックを構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は平板型固体酸化物形燃料電池スタックに関する。
【背景技術】
【0002】
図6に、従来の平板型固体酸化物形燃料電池スタック(以下、平板型SOFCスタックとする)を示す。図6において、1は1枚の平板型固体酸化物形燃料電池及び複数枚のセパレータから構成される発電ユニットであり、この発電ユニット1が重ね合わされて平板型SOFCスタックが構成されている(下記非特許文献1参照)。
【0003】
発電ユニット1を構成するセパレータは、例えば、エッチング、切削加工、プレス加工によって様々なパターンを設けた金属板である。
【0004】
発電ユニット1においては、前記パターンを組み合わせることによって、平板型固体酸化物形燃料電池を収納する空間、燃料を供給・排出する空間、空気を供給・排出する空間を設け、且つ、平板型固体酸化物形燃料電池から電気を取り出す経路を設ける。
【0005】
従来の平板型SOFCスタックは、単に、発電ユニット1を多数積層することによって構築される。図6に示す平板型SOFCスタックにおける発電ユニット1の積層数は30である。全ての発電ユニット1は、電気的に直列に接続されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】松崎良雄、他、“東京ガスにおける平板支持膜式SOFCの開発”、第12回SOFC研究発表会 講演要旨集、pp. 2-5、2003.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の平板型SOFCスタックでは、全ての発電ユニットは、電気的に直列に接続されている為、発電ユニットが1つでも破綻すると、平板型SOFCスタック全体が破綻することとなる。このため、1つの発電ユニットのみが破綻したような場合にも、平板型スタック全体を交換する必要があるという問題があった。
【0008】
本発明は上記の問題に鑑みてなされたものであり、本発明が解決しようとする課題は、破綻した発電ユニットの交換に伴って交換せざるをえない正常な発電ユニットの数の低減を可能とする平板型固体酸化物形燃料電池スタックを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明においては、上記課題を解決するために、請求項1に記載のように、
1枚の平板型固体酸化物形燃料電池及び複数枚のセパレータから構成される発電ユニットが重ね合わされてなる平板型固体酸化物形燃料電池スタックにおいて、少なくとも1組の重ね合わされた2枚の金属板が、隣接する前記発電ユニットの間に挿入されていることを特徴とする平板型固体酸化物形燃料電池スタックを構成する。
【0010】
また、本発明においては、請求項2に記載のように、
請求項1に記載の平板型固体酸化物形燃料電池スタックにおいて、前記重ね合わされた2枚の金属板の間に、導電性セラミック層またはグラファイト層を例とする、導電性でありかつ該平板型固体酸化物形燃料電池スタックの発電温度に耐える非金属層を有することを特徴とする平板型固体酸化物形燃料電池スタックを構成する。
【0011】
また、本発明においては、請求項3に記載のように、
請求項1または2に記載の平板型固体酸化物形燃料電池スタックにおいて、少なくとも1枚の前記金属板が、前記重ね合わされた2枚の金属板を引き離すための力が印加される部位である金属板分離機構部位を有することを特徴とする平板型固体酸化物形燃料電池スタックを構成する。
【0012】
また、本発明においては、請求項4に記載のように、
請求項3に記載の平板型固体酸化物形燃料電池スタックにおいて、前記金属板分離機構部位が、前記重ね合わされた2枚の金属板の重ね合わせ部位における前記金属板の一方または両方に設けられた切りかけであることを特徴とする平板型固体酸化物形燃料電池スタックを構成する。
【0013】
また、本発明においては、請求項5に記載のように、
請求項3に記載の平板型固体酸化物形燃料電池スタックにおいて、前記金属板分離機構部位が、前記重ね合わされた2枚の金属板のそれぞれに、前記発電ユニットの外形よりも外に張り出し、前記発電ユニットを積層する軸方向から見たときに互いに重なり合うように設けられた飛び出し部分であることを特徴とする平板型固体酸化物形燃料電池スタックを構成する。
【0014】
また、本発明においては、請求項6に記載のように、
請求項1に記載の平板型固体酸化物形燃料電池スタックにおいて、前記2枚の金属板の互いに相対する側のそれぞれに、該2枚の金属板に設けられたガス供給・排気用の貫通孔の周縁を囲んで環状の溝部が形成され、該2枚の金属板が重ね合わされたときに、重なり合う該貫通孔それぞれの周縁を囲んで形成された該溝部も重なり合うことを特徴とする平板型固体酸化物形燃料電池スタックを構成する。
【0015】
また、本発明においては、請求項7に記載のように、
請求項6に記載の平板型固体酸化物形燃料電池スタックにおいて、前記溝部が重なり合うことによって形成される環状の空間内に、金属製の環状構造体が、該溝部の壁面に接して収納されていることを特徴とする平板型固体酸化物形燃料電池スタックを構成する。
【0016】
また、本発明においては、請求項8に記載のように、
請求項7に記載の平板型固体酸化物形燃料電池スタックにおいて、前記環状構造体の高さhは、前記溝部の深さdに対して、d<h<2dの関係にあることを特徴とする平板型固体酸化物形燃料電池スタックを構成する。
【0017】
また、本発明においては、請求項9に記載のように、
請求項7に記載の平板型固体酸化物形燃料電池スタックにおいて、前記環状構造体は前記2枚の金属板と同じ、またはより大きい熱膨張係数を有することを特徴とする平板型固体酸化物形燃料電池スタックを構成する。
【0018】
また、本発明においては、請求項10に記載のように、
請求項1または6に記載の平板型固体酸化物形燃料電池スタックにおいて、前記2枚の金属板の接合面に、銀、銀パラジウム合金、白金のうち少なくとも一種類の金属を含むペーストを塗布したことを特徴とする平板型固体酸化物形燃料電池スタックを構成する。
【0019】
また、本発明においては、請求項11に記載のように、
請求項1ないし6のいずれかに記載の平板型固体酸化物形燃料電池スタックにおいて、前記金属板は、前記発電ユニットを構成する前記平板型固体酸化物形燃料電池及び複数枚のセパレータの数に応じて決定される所定の厚さを有することを特徴とする平板型固体酸化物形燃料電池スタックを構成する。
【0020】
また、本発明においては、請求項12に記載のように、
請求項1ないし6のいずれかに記載の平板型固体酸化物形燃料電池スタックにおいて、2枚の前記金属板の間に10枚の前記発電ユニットが挟持されている場合に、該金属板の厚さが2mm以上5mm以下であることを特徴とする平板型固体酸化物形燃料電池スタックを構成する。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る平板型SOFCスタックにおいては、少なくとも1組の重ね合わされた2枚の金属板が、隣接する発電ユニットの間に挿入されていて、これによって、発電ユニットが、発電ユニット全数よりも小さい数の発電ユニットからなる発電ユニットセットに分割されているから、発電ユニットを1セット毎に交換することが可能となり、破綻した発電ユニットの交換に伴って交換せざるをえない正常な発電ユニットの数の低減を可能とする平板型固体酸化物形燃料電池スタックを提供することができる。
【0022】
また、前記2枚の金属板に設けられたガス供給・排気用の貫通孔からガスが漏洩した場合に、2枚の金属板が重ね合わされる部分に環状空間を形成し、さらに、この環状空間中に、漏洩ガス遮蔽用の金属製環状構造体を収納することによって、漏洩ガスが金属板外部に漏れ出すことを防止(ガスシール)することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施形態を示す図である。
【図2】本発明の実施形態を示す図である。
【図3】本発明の実施形態を示す図である。
【図4】本発明の実施形態を示す図である。
【図5】本発明の実施形態を示す図である。
【図6】従来の平板型SOFCスタックを示す図である。
【図7】セル間に不適切な分割板を挿入した場合の開回路電圧の変化を示す図である。
【図8】セル間に適切な分割板を挿入した場合の開回路電圧を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1は、本発明の一実施形態例を示す図である。図1において、2はトップ分割板、3はボトム分割板であり、重ね合わされた2枚の金属板として、トップ分割板2とボトム分割板3とが重ね合わされている。
【0025】
本発明に係る平板型SOFCスタックにおいては、ある段数(重ね合わされた発電ユニット1の数、図1では10段)毎に、1組の重ね合わされた2枚の金属板である、重ね合わされたトップ分割板2とボトム分割板3とが挿入され、これによりスタック分割機構が構成されている点が従来の平板型SOFCスタックと大きく異なる。図1に示す平板型SOFCスタックでは、重ね合わされた10段の発電ユニット1(これを1セットとする)毎に、1組のトップ分割板2とボトム分割板3を挿入してあるが、これは、何段毎であっても構わない。
【0026】
図1を用いて、本発明に係る平板型SOFCスタックについて説明する。本発明に係る平板型SOFCスタックは、重ね合わされたトップ分割板2とボトム分割板3とを分離することによって、何セットかの(図1においては3セットの)発電ユニットセットに分割することが可能である。このため、例えば、発電ユニット1が1つだけ破綻したような場合には、破綻した発電ユニット1を含む発電ユニットセットだけを交換するだけで、平板型SOFCスタック全体を復帰させることができる。
【0027】
トップ分割板2とボトム分割板3とを金属で製造すれば、これらを平板型SOFCスタックに挿入しても、それによる電気抵抗の増大は大きな問題にならない。しかし、金属同士は、固体酸化物形燃料電池の発電温度である700〜l000℃程度の温度では、原子拡散により強固に接続されてしまうので、以下に示す分離を容易にする方策を設けることが望ましい。このとき、一つの方策だけを設けても構わないし、幾つか又は全てを組み合わせても構わない。
【0028】
例えば、トップ分割板2とボトム分割板3との接触面に、導電性セラミックペースト、または、コロイダル・グラファイト(膠質黒鉛)分散液の塗布によって、導電性セラミック層またはグラファイト層(これも導電性である)を形成しておけば、一度700〜1000℃程度で発電を行った後にも、容易にトップ分割板2とボトム分割板3とを分離することが可能である。一般に、このような層としては、導電性でありかつ平板型SOFCスタックの発電温度に耐える非金属層を用いることができる。
【0029】
また、図1に示す本発明に係る平板型SOFCスタックのように、トップ分割板2とボトム分割板3の接触面に、重ね合わされた2枚の金属板(トップ分割板2とボトム分割板3)を引き離すための力が印加される部位である金属板分離機構部位として、切りかけ4を設けておけば、ここに、ドライバー等を挿入して容易にトップ分割板2とボトム分割板3を分離することが可能である。図1に示す本発明に係る平板型SOFCスタックでは、トップ分割板2とボトム分割板3の両方に切りかけ4を設けてあるが、どちらか一方のみに切りかけ4を設けるだけでも構わない。
【0030】
さらに、図1に示す本発明に係る平板型SOFCスタックのように、前記金属板分離機構部位として、重ね合わされたトップ分割板2とボトム分割板3のそれぞれに、発電ユニット1の外形よりも外に張り出し、発電ユニット1を積層する軸方向(発電ユニット1の主面に垂直な方向)から見たときに互いに重なり合う飛び出し部分5を持たせ、図2に示すように、ボトム分割板3の飛び出し部分5には発電ユニット1を積層する軸方向の貫通ネジ穴を設け、トップ分割板2の飛び出し部分5には穴を設けないでおけば、このネジ穴にボルトを挿入してボルトを回転させることにより、ネジの推進力を利用して、容易にトップ分割板2とボトム分割板3を分離することが可能である。
【0031】
図1及び図2に示す本発明に係る平板型SOFCスタックでは、ボトム分割板3の飛び出し部分5のみに貫通ネジ穴を設けてあるが、これは、トップ分割板2のみに設けても構わないし、トップ分割板2とボトム分割板3の両方に設けても構わない。トップ分割板2とボトム分割板3の両方に、貫通ネジ穴を設ける場合は、どちらか一方のネジ穴に予めボルトを挿入し貫通ネジ穴を埋めておけば良い。なお、下記の実施形態例においては、上記の貫通ネジ穴を設ける必要は無い。
【0032】
図3は、切りかけ4を飛び出し部分5に設けた場合を示している。図3においては、切りかけ4がトップ分割板2の飛び出し部分5のみに設けられているが、切りかけ4を、トップ分割板2の飛び出し部分5とボトム分割板3の飛び出し部分5の両方に設けてもよいし、あるいはボトム分割板3の飛び出し部分5のみに設けてもよい。この切りかけ4にドライバー等を挿入して、容易にトップ分割板2とボトム分割板3とを分離することが可能である。
【0033】
さらに、図4に示すように、飛び出し部分5の形状をピン形状としてもよい。この場合には、発電ユニット1を積層する軸方向から見たときに互いに重なり合う2本の飛び出し部分5の間に、くさびを挿入するなどして、容易にトップ分割板2とボトム分割板3とを分離することが可能である。
【0034】
本発明においては、トップ分割板2とボトム分割板3の厚さを、発電ユニットを構成するセルの段数に応じて決定する。
【0035】
例えば、発電ユニットを構成するセルの段数が10段である場合に、トップ分割板2とボトム分割板3の厚さを2mm以上5mm以下とするのが良い。
【0036】
トップ分割板2とボトム分割板3の厚さが2mm未満の場合には、分離作業において発電ユニットからトップ分割板2とボトム分割板3にかかる力により、トップ分割板2とボトム分割板3が変形してしまい、隣接するトップ分割板2をボトム分割板3と再び接合することが出来なくなるので、以降の発電ユニットの交換が不可能となる。
【0037】
トップ分割板2とボトム分割板3の厚さが5mmを超えると、発電ユニット1を構成するセパレータの厚さと大きく異なるために、荷重をかけた際の変形の大きさがセパレータと分割板とで著しく異なり、トップ分割板2とボトム分割板3を挟んだ箇所に隙間を生じ、そこから燃料ガス及び空気が漏れてしまう。
【0038】
図7に、セルを10段積み重ねてスタックにした時の5段目と6段目の間に厚さ
7.5 mm のトップ分割板2のみを挿入した場合の、開回路電圧(OCV: Open Circuit Voltage)の分布を示す。比較として、トップ分割板2もボトム分割板3も挿入しない場合のOCVの分布も示した。図7において、●がトップ分割板2のみを挿入した場合の結果であり、○がトップ分割板2もボトム分割板3も挿入しない場合の結果である。トップ分割板2を挿入した場合には、スタック中心付近の発電ユニットにおけるOCVの低下が顕著であり、トップ分割板2を挿入した箇所から燃料が漏れていることが分かる。発電終了後には、トップ分割板2を挿入した箇所に燃料が漏れた形跡が見られた。燃料が漏れれば、発電時の性能が低下してしまう。このように、7.5 mm 厚のトップ分割板を挿入すると、上記理由により燃料が漏れるような空隙が生じてしまう。
【0039】
これに対し、トップ分割板2とボトム分割板3の厚さが例えば
2.5 mm の場合には、挿入箇所から燃料が漏れることはない。図8に、50段スタックの10段目と11段目の間、20段目と21段目の間、30段目と31段目の間、及び40段目と41段目の間に厚さ
2.5 mm のトップ分割板2及びボトム分割板3を挿入した場合の、OCVの分布を示す。分割板の挿入箇所でも顕著なOCVの低下は見られず、挿入箇所において燃料の漏れの発生はなかった。発電終了後に、トップ分割板2及びボトム分割板3を挿入した箇所に燃料が漏れた形跡が見られなかった。このように、トップ分割板とボトム分割板の厚さをともに
2.5 mm にすれば、分割板の変形による燃料の漏れは生じない。
【0040】
分割板の厚さが2mm以上5mm以下の範囲内にあれば、上記同様、問題は見られなかった。
【0041】
上記では、トップ分割板とボトム分割板の間に10段のセルを挿入した場合の両分割板の最適な厚さの範囲を示したが、本願発明はこの数値範囲に限定されるものではなく、要は、発電ユニットを構成するセルの段数に応じてこれを挟持するトップ分割板とボトム分割板の厚さには許容数値範囲があることである。厚さの数値自体は、前もって適宜所定の厚さに設定すればよい。
【0042】
図5は、トップ分割板2とボトム分割板3に設けられたガス供給・排気用の貫通孔からのガスの漏洩を低減する構造を備えたトップ分割板2とボトム分割板3を示す断面図であり、図5の(a)は、重ね合わされる前のトップ分割板2とボトム分割板3とを示し、図5の(b)は、両者が重ね合わされた状態を示している。
【0043】
図5において、トップ分割板2とボトム分割板3には、各セルの空気極と燃料極に、それぞれ、酸化剤ガスと燃料ガスを供給するために、ガス供給・排気用の貫通孔6が設けられている。そして、トップ分割板2の上面とボトム分割板3の下面のそれぞれには、貫通孔6の周縁を囲んで環状の溝部7が形成され、トップ分割板2とボトム分割板3とが重ね合わされたときに、それぞれの溝部7も、図5の(b)に示したように、重なり合うようにしてある。貫通孔6を通過するガスが、トップ分割板2とボトム分割板3との間から漏れた場合、少なくとも、溝部7の重ね合わせで形成された環状の空間によって塞ぎ止められる。よって、ガス供給・排出部からのガス漏れの影響を小さくすることができる。
【0044】
さらに、図5の(b)に示したように、溝部7の重ね合わせで形成された環状の空間に、金属製の環状構造体8を、溝部7の壁面に接して収納することによって、よりガスの漏れを小さくすることができる。この環状構造体8の高さは溝部7の深さよりも高く、トップ分割板2とボトム分割板3とを重ね合わせたときに、環状構造体8とボトム分割板3との間に隙間Gができる程度とする。すなわち、環状構造体8の高さhを、溝部7の深さdに対して、d<h<2dの関係にあるようにする。このようにすれば、トップ分割板2とボトム分割板3とが面で接触でき、それによって気密性が維持される。また、環状構造体8の熱膨張係数を、トップ分割板2とボトム分割板3の熱膨張係数と同じ、または同等以上とすることで、より強固なガス漏れ防止(ガスシール)ができる。
【0045】
このように、環状構造体8を用いることにより、トップ分割板2とボトム分割板3は単純な形状でも、十分なガスシール性を実現させることができる。
【0046】
このトップ分割板2とボトム分割板3は、例えばCr含有のフェライト系ステンレス鋼で構成されている。また、環状構造体8は、例えばCr含有のフェライト系ステンレス鋼や熱膨張係数が比較的大きいオーステナイト系ステンレス鋼で構成されている。
【0047】
さらに、トップ分割板2とボトム分割板3との接合面に、銀、銀パラジウム合金、白金といった電気伝導度の高いペーストを塗布することによって、トップ分割板2とボトム分割板3の接触抵抗を低減することができる。中でも、銀ペーストは低コストであり、電気伝導度も高いため、好ましいペースト材料である。しかも、トップ分割板2とボトム分割板3とが圧力によって重ね合わされた場合に、圧力が十分に高ければ、銀ペーストは、塑性変形を起こして、トップ分割板2とボトム分割板3との間の密着性をさらに向上させるので、ガスシール性の向上にも役立つ。
【0048】
なお、上記電気伝導度の高いペーストを塗布することによって、トップ分割板2とボトム分割板3の接触抵抗を低減することは、トップ分割板2とボトム分割板3とに溝部7が形成されていない場合においても有効である。
【0049】
以上に説明したように、本発明に係る平板型SOFCスタックにおいては、少なくとも1組の重ね合わされた2枚の金属板が、隣接する発電ユニットの間に挿入されていて、これによって、発電ユニットが、発電ユニット全数よりも小さい数の発電ユニットからなる発電ユニットセットに分割されているから、発電ユニットを1セット毎に交換することが可能となり、破綻した発電ユニットの交換に伴って交換せざるをえない正常な発電ユニットの数の低減を可能とする平板型固体酸化物形燃料電池スタックを提供することができる。
【0050】
このように、本発明に係る平板型SOFCスタックにおいては、1つの発電ユニットのみが破綻したような場合にも、従来よりも格段に少ない数の発電ユニットを交換するだけで足りるから、本発明に係る平板型SOFCスタックは、平板型スタック全体を交換する必要のある従来の平板型SOFCスタックに対して、強い優位性を持つ。
【符号の説明】
【0051】
1:発電ユニット、2:トップ分割板、3:ボトム分割板、4:切りかけ、5:飛び出し部分、6:貫通孔、7:溝部、8:環状構造体、G:隙間。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1枚の平板型固体酸化物形燃料電池及び複数枚のセパレータから構成される発電ユニットが重ね合わされてなる平板型固体酸化物形燃料電池スタックにおいて、
少なくとも1組の重ね合わされた2枚の金属板が、隣接する前記発電ユニットの間に挿入されていることを特徴とする平板型固体酸化物形燃料電池スタック。
【請求項2】
請求項1に記載の平板型固体酸化物形燃料電池スタックにおいて、
前記重ね合わされた2枚の金属板の間に、導電性セラミック層またはグラファイト層を例とする、導電性でありかつ該平板型固体酸化物形燃料電池スタックの発電温度に耐える非金属層を有することを特徴とする平板型固体酸化物形燃料電池スタック。
【請求項3】
請求項1または2に記載の平板型固体酸化物形燃料電池スタックにおいて、
少なくとも1枚の前記金属板が、前記重ね合わされた2枚の金属板を引き離すための力が印加される部位である金属板分離機構部位を有することを特徴とする平板型固体酸化物形燃料電池スタック。
【請求項4】
請求項3に記載の平板型固体酸化物形燃料電池スタックにおいて、
前記金属板分離機構部位が、前記重ね合わされた2枚の金属板の重ね合わせ部位における前記金属板の一方または両方に設けられた切りかけであることを特徴とする平板型固体酸化物形燃料電池スタック。
【請求項5】
請求項3に記載の平板型固体酸化物形燃料電池スタックにおいて、
前記金属板分離機構部位が、前記重ね合わされた2枚の金属板のそれぞれに、前記発電ユニットの外形よりも外に張り出し、前記発電ユニットを積層する軸方向から見たときに互いに重なり合うように設けられた飛び出し部分であることを特徴とする平板型固体酸化物形燃料電池スタック。
【請求項6】
請求項1に記載の平板型固体酸化物形燃料電池スタックにおいて、
前記2枚の金属板の互いに相対する側のそれぞれに、該2枚の金属板に設けられたガス供給・排気用の貫通孔の周縁を囲んで環状の溝部が形成され、該2枚の金属板が重ね合わされたときに、重なり合う該貫通孔それぞれの周縁を囲んで形成された該溝部も重なり合うことを特徴とする平板型固体酸化物形燃料電池スタック。
【請求項7】
請求項6に記載の平板型固体酸化物形燃料電池スタックにおいて、
前記溝部が重なり合うことによって形成される環状の空間内に、金属製の環状構造体が、該溝部の壁面に接して収納されていることを特徴とする平板型固体酸化物形燃料電池スタック。
【請求項8】
請求項7に記載の平板型固体酸化物形燃料電池スタックにおいて、
前記環状構造体の高さhは、前記溝部の深さdに対して、d<h<2dの関係にあることを特徴とする平板型固体酸化物形燃料電池スタック。
【請求項9】
請求項7に記載の平板型固体酸化物形燃料電池スタックにおいて、
前記環状構造体は前記2枚の金属板と同じ、またはより大きい熱膨張係数を有することを特徴とする平板型固体酸化物形燃料電池スタック。
【請求項10】
請求項1または6に記載の平板型固体酸化物形燃料電池スタックにおいて、
前記2枚の金属板の接合面に、銀、銀パラジウム合金、白金のうち少なくとも一種類の金属を含むペーストを塗布したことを特徴とする平板型固体酸化物形燃料電池スタック。
【請求項11】
請求項1ないし6のいずれかに記載の平板型固体酸化物形燃料電池スタックにおいて、
前記金属板は、前記発電ユニットを構成する前記平板型固体酸化物形燃料電池及び複数枚のセパレータの数に応じて決定される所定の厚さを有することを特徴とする平板型固体酸化物形燃料電池スタック。
【請求項12】
請求項1ないし6のいずれかに記載の平板型固体酸化物形燃料電池スタックにおいて、
2枚の前記金属板の間に10枚の前記発電ユニットが挟持されている場合に、該金属板の厚さが2mm以上5mm以下であることを特徴とする平板型固体酸化物形燃料電池スタック。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−161053(P2010−161053A)
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−111936(P2009−111936)
【出願日】平成21年5月1日(2009.5.1)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【出願人】(000183369)住友精密工業株式会社 (336)
【Fターム(参考)】