説明

平行回転翼を利用した流体機械

【課題】鳥の羽ばたき運動を平行回転運動に置換えた翼輪と翼輪飛行機の提供。
【解決手段】鳥の羽ばたき運動を、円筒状に配置した複数の回転翼8を周期的に遥動させながら基本的に平行回転させて回転運動に置換える翼輪4で、その回転翼8の後方部分を上から押し下げたときに曲がり易く、下から押し上げたときに曲がり難い非線形バネ特性を持つ構造とする。又、回転翼8の後方部分を上から押し下げたときに重ねられたはみ出し部分に隙が生じ、下から押し上げたときに重ねられたはみ出し部分が密着される弁を形成する。これにより翼輪4を高速で回転できるようにした。翼輪飛行機は、飛行中のエンジン停止に際しては、飛行機の滑空とヘリコプターのオートローテーションを組み合わせて汎翔しながら空き地を探して軟着陸する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平行回転翼を利用した流体機械に関するものである。
【背景技術】
【0002】
左右軸周りに回転する円筒の稜線上に回転自在に取り付けた一本の翼を周期的に揺動させながら基本的に平行回転させることにより鳥の羽ばたき運動が模擬できる。しかし、一本の翼では回転バランスが崩れ、大きな振幅の脈動になってしまう。そこで、回転円筒上に等分に配置した複数の回転翼が前の回転翼を1分割ピッチ遅れで追いかけて、一本の翼の場合と同じ迎角変化を辿るようにした。こうすることにより、一本の翼の1往復の運動を分割数倍の脈動に平準化できる。この方式の平行回転翼を、本明細書では翼輪と呼ぶ。
【0003】
この翼輪の原理については、特許文献4に示すように、1975年に、フランスで特許出願されている。また、これを飛行機に応用した特許は、特許文献3に示すように、1991年にフランス人によって日本に外国出願されている。
【0004】
翼輪の原理は、水流発電機/送水機、風力発電機/送風機、空中作業ロボット、船、洋上滑空機、飛行機など、様々な流体機械に応用できるが、その中でも技術的に最も難しい応用分野は飛行機である。そこで、本発明では、早めに技術的な課題を見つけ出すために、応用目標を飛行機に設定した。従って、以下の記述は、飛行機への応用の形で進める。また、説明の容易のために、回転する回転翼の翼輪上の角度位置については、左側面図における上向きの垂直線をゼロ度とし、前下げ回転方向を正と定義する。
【0005】
人類は鳥の飛行原理を模擬して、飛行機とヘリコプターを発明し実用化してきた。しかし、有史以来の開発テーマであった羽ばたき翼飛行機については、原理は発明されているがまだ実用化できていない。
【0006】
鳥の翼は肩の関節に結合された腕の部分と、その先の腕の関節に結合された手の部分とから構成されている。鳥の羽ばたき運動中の腕と手は、肩の関節によって支えられて、前後軸周りに往復ローリング回転をしながら、左右軸周りに往復ピッチング回転を、上下軸周りに往復ヨーイング回転をしている。そして、この往復ローリング回転の間に、腕と手の間にはピッチング回転角のズレによる捻りを発生している。この捻りがあるために、鳥達は、腕の部分で主として揚力を、手の部分で主として推力を発生することができる。
【0007】
鳥達は、ジャンプ、羽ばたき、空中停止、弾道、滑空、汎翔、落下などの飛行モードを使い分けて飛行している。この内の羽ばたきモードでは、翼は、主として、打ち下ろしと跳ね上げの2ストロークの運動をしている。
【0008】
ヘリコプターは複数の翼を回転円面状に配置し、上下軸周りに回転させることにより空気力を得ているが、これは、体を上に向けた姿勢で翼をひっくり返しながら前後に羽ばたくハチドリの翼の往復運動を回転運動に置換えて模擬しているように見える。
飛行機は高速で助走することにより静止翼で揚力を得て離陸しているが、推力は前後軸回りに回転するプロペラによって得ている。この運動は、ハクチョウが翼の羽ばたき運動と足の水かき運動によって推力を発生して加速して離水し、その後の翼の羽ばたき運動で翼に揚力と推力を発生する動きを模擬しているように見える。
しかし、両者とも、周囲の気流とその変化をみると鳥達の翼の運動とは少し違っている。
【0009】
翼輪では、左右軸を回転軸とする円筒面の稜線上に配置した複数の回転翼を、基本的に平行を保ったまま、上・前・下・後の位置を追って回転させると、各回転翼には、上にきた時に前進、前にきた時に打ち下ろし、下にきた時に後退、後にきた時に跳ね上げの4ストロークの運動が発生する。この運動を利用して鳥の羽ばたき運動を模擬した翼輪を応用した飛行機が、フランスで発明され、試作機まで作られたと聞いている。しかし、その後のニュースが聞かれないので、実用化のプロセスは進んでいないと推測される。
【0010】
特許文献2では、歯車機構により、複数の回転翼に基本的に平行運動をさせながら、回転に同期した揺動運動を重ねて回転羽ばたき運動を発生させる機構が示された。
【0011】
また、特許文献1では、特許文献2の発明をベースに検討を重ねた結果、飛行機に応用された翼輪には、運転条件により過大なピッチング回転モーメントが発生する問題があることが明らかにされた。そして、その問題に対する具体的な解決策の一つが示された。また、従来の飛行機と比較して、静的安定性を確保するための機能要件が検討され、追加すべき機能が示された。
その後、特許文献1で示された機能構成案の検証と基礎的な設計検討を進めながら、翼輪飛行機の商品化の可能性と発展性についても検討を重ねてきた。その結果を、本明細書に纏めた。
【0012】
特許文献1までは飛行機とのラフな比較から商品構想と技術構想を描いていた。この段階では、回転翼により発生できる空気力の計算値を踏まえて、重量を半減した軽乗用車を軽飛行機の半分程度の主翼スパンの翼輪で離陸させることができると推定していた。しかし、その後は、商品構想を形状模型により、技術構想を部分的な機能模型により検証しながら、基礎設計のための設計構想を練り直してきた。
【0013】
翼輪を回転すると複数の回転翼が上下と同時に前後にも往復運動をする。この複合運動は鳥の羽ばたき運動の中にも含まれているが、その運動軌跡は少し違っている。即ち、鳥の羽ばたき運動における翼の動きは、上下に大きく1往復する間に、前後に小さく2往復する8の字運動になっている。従って、鳥の8の字往復羽ばたき運動と翼輪の円回転羽ばたき運動との間には、無視できない原理的な違いがある。即ち、翼輪では、回転翼が一定の公転半径で回転するため、前進、打ち下ろし、後退、跳ね上げの4ストロークが同じ回転速度を持って進む。そのために、運転条件によっては過大なピッチング回転モーメントが翼輪に発生してしまう。これは8の字往復運動を円回転運動に置換えたことに起因する、鳥には発生しない現象なので、技術的な手段を講じて解決する必要がある。
【0014】
一方、前進飛行中には、前進ストロークの回転翼に回転速度と飛行速度を加えた大きな相対速度が発生するため、大きな空気力が発生する。これは、鳥には期待できない、翼輪飛行機の大きな魅力である。
【0015】
翼輪飛行機の特徴を明らかにするためには、静止翼にプロペラを加えた飛行機と、ヨーイング回転翼に横向きの回転尾翼を加えたヘリコプターと、翼輪飛行機の3者の間で飛行メカニズムの違いを比較する必要がある。更に、鳥の羽ばたき翼と翼輪飛行機の翼輪の間でメカニズムの違いを確認する必要がある。
【0016】
飛行動作を見ると、飛行機はハクチョウの様であり、ヘリコプターはハチドリの様である。鳥類の中ではハクチョウは最重量級を、ハチドリは最軽量級を代表する種であるが、これらで鳥達の全てを代表している訳ではない。重さでみると、この間には、スズメ、ハト、タカ、サギ、カモと、数えきれないほど多くの多彩な鳥達がおり、それぞれが独特の飛行術を駆使して空を泳いでいる。そして、これらは全て、羽ばたき翼という同じ原理から進化した特徴ある機構を持っていて、ヘリコプターのように舞い上がり、飛行機のように飛行している。図43を見よ。
【0017】
飛行機はプロペラの推力で機体を加速し、流入する気流によって静止翼に揚力を発生させて飛行している。ヘリコプターは竜巻を逆さまにしたような気流を吹き降ろし、その反力で飛行している。両者とも、人類が発明した最高傑作であるが、これらだけでは、ピンポイントから舞い上がり、羽ばたき、風に乗って帆翔する鳥達のように自在に飛行モードを切り替えて飛行する機能は模擬できていない。
最近は日本でトンボの羽ばたき翼の空気力学の研究が盛んになり、その商品開発への応用も始まっているので、一例を揚げておく。この分野の研究は、今後の平行回転翼の解析にも応用できそうである。非特許文献1を見よ。
【0018】
2011年3月11日に東日本大震災が発生し、地震に起因して、津波と原発事故が発生し、戦後最大の災害となり、死者と行方不明者の合計は3万人弱に上った。急速な復興が図られる中で、2度と同じ災害を繰り返さないために、今回の災害を教訓にした様々な対策が講じられようとしている。しかし、今回の被災状況を見ると、自動車、船、飛行機、ヘリコプターなどの既存の移動手段は殆ど無力であった。50年掛けてでも、鳥達のようにピンポイントで離陸して飛行に移れる、安価で実用的な飛行機を開発できないだろうか。
今回の悲惨な被害をインパクトに、翼輪飛行機の商品構想を描き直しているが、翼輪飛行機には実用化の前例が無いので先行商品は参照できない。そこで、今の段階では、商品構想を幾つかの切り口で切った商品アイデアの記述の形で描いておく。
【0019】
1.定点垂直離陸と定点傾斜離陸と滑走離陸の間で色々な方法で離陸できる翼輪飛行機
水面を助走して離陸する最重量級の鳥のハクチョウは飛行機に似ている。花を吹き飛ばさずに精度良く空中に停止して蜜を吸う最軽量級の鳥のハチドリはヘリコプターに似ている。しかし、飛行機やヘリコプターは、発生する気流をみると、鳥達とは同じとは言えない。飛行機とヘリコプターは機械としては確かに合理的で高性能であるが、飛行機は100m/s(時速で360km/h)の助走を必要とし、ヘリコプターは、竜巻を逆さまにしたような風を吹き降ろして、その反動で空中に舞い上がっている。これに対して、多くの鳥達は羽ばたきながらジャンプして離陸し、羽ばたき翼で空中に泳ぎ出し、相対気流に乗って飛行する。翼輪飛行機は、理論上は、ヒバリのように、翼輪によって周囲の空気を前方から吸い込み斜め後方に吹き出して定点離陸し、空中で停止し、飛行に移れる。助走できる場合は、その速度の分だけ翼輪の回転速度は小さくできる。翼輪飛行機は、定点垂直離陸もできるが、時と場合に応じて、傾斜離陸や助走離陸を自由に選べる。
【0020】
ハクチョウとハチドリの両極端の間には、定点静止、ジャンプ、飛び込み、数歩の助走など、様々な始動手段を併用して羽ばたいて離陸する鳥達がいる。離陸は、鳥達にとっては、地上の天敵から逃れるための命掛けの技である。腹に張り付いていて見えない鳥達の腿には、一見、理解し難い程に大きな筋肉が付いている。そんな鳥達のように、様々な離陸方法を臨機応変に使い分けられるのが翼輪飛行機の特徴の一つである。
【0021】
2.オートローテーション操作によってカラスのように軟着陸できる翼輪飛行機
軽飛行機は、エンジンが故障した時には滑空しながら滑走路を探し、飛行速度を限界速度にまで落として着地し、滑走して停止できる。一方、ヘリコプターはエンジンが停止した時には、降下中に回転翼の中心部に下から入る気流でローターを回転させ、そのローターで外周部に上部から流入する空気を切って揚力を発生させるオートローテーション操作により降下速度を調節して最寄りの空き地に軟着陸できる。
【0022】
これに対し、翼輪飛行機は、エンジンが故障した時には、回転翼に入る気流による翼輪の空転状態を操作して、速度や高さのエネルギーを回収して飛行速度と翼輪の回転速度の調節に利用しながら滑走路や空き地に着陸することができる。着陸の瞬間には機体を起こして降下速度を一瞬ゼロにしてカラスのようにピンポイントで軟着陸することもできる。
【0023】
3.緊急時には水面に着水し、暫く浮いて救助を待てる翼輪飛行機
翼輪飛行機も事故時には緊急着陸しなければならないので、地上に着陸点が見つからない時は洋上にも着水しなければならない。最近の自動車の車体は水密性が高く、濁流に飲み込まれても暫くは浮いている。洋上不沈化の可能性を見ようとすると、先ずは、自動車の車体構造をベースに改造する試作を考えてしまう。閉断面骨格部材のシール性能を向上させ、ドアー構造のシール性を高め、ドアーガラスを樹脂化し、床や壁の空間には発泡材を詰めて、内装クッション材は全て独立発泡材料に変え、電気自動車の動力用バッテリーなどの重い搭載ユニットはできるだけ中央寄りにレイアウトする。そんな自動車ベースの改造試作はアイデア項目の効果の確認には確かに有効であろう。
【0024】
しかし、自動車と翼輪飛行機とでは、哺乳類と鳥類の比較から類推できるような軽量化へのチャレンジに違いがあり、基本的に重量の半減を前提条件にするので、自動車ベースの改造試作が翼輪飛行機の量産設計には結び付くとは考え難い。
翼輪飛行機の機体設計へのチャレンジは、不沈化部品を構造部材とするカヤックのような新しい機体構造概念の構築から始めなければならない。不時着時の浸水破損防止と数日間の浮沈化は、厳しい軽量化目標を達成する機体開発プロセスの要件としなければならないので、先行して技術構想を開発するプロセスの設定が必要になる。
【0025】
4.公道を走行できる翼輪飛行機
東北関東大震災では多くの人達が自動車で避難しようとして渋滞に巻き込まれて津波に飲み込まれた。沿岸にはもう人は住めないとは言うものの、河口の平野での農作業は止められない。水産関係の仕事では港を離れることはできない。仕事には自動車で通勤しても津波の時には待った無しに高台に逃げなければならない。従ってこの地方の通勤用自動車には翼を付なければならない。
【0026】
一方、翼輪飛行機を将来の交通手段とするためには、自動車社会とのマッチングを図る必要があるが、これは容易ではない。これまでの商品構想では、仮に、機体は4人乗りの軽乗用車並みと想定してきたが、現行の公道の法規要件の下では、この機体で翼輪飛行機にすることは極めて困難であることが分かってきた。
自動車として公道を自走できるためには、現行の法規上では機体幅を2.5m以下に納めなければならない。しかも、操縦安全性を考えると、機体幅は、現在の乗用車の副に相当する1.8m以下としなければ実用性はない。
【0027】
最近は世界中で「空飛ぶ自動車」の試作研究が盛んになってきているが、2010年に米国でテスト飛行に成功した「空飛ぶ自動車」は、公道走行時には主翼を2段に折り畳む設計になっている。そして、F1レーサーのように前方翼と後方翼を付けている。翼を畳んだ状態でガレージから滑走路へ移動し、翼を展開して軽飛行機に変身し、滑走して離陸するコンセプトである。
翼輪飛行機を緊急時に路上から定点離陸できる「空飛ぶ自動車」に応用することはできないか。どの様に公道の法規要件を変えたらその可能性が出てくるか。翼の付いた自動車での津波からの避難を可能にするにはそこまで踏み込んで考えてみる必要がある。
自動車の使用状況をみると、1人で乗っている場合が大半である。そこで、翼輪飛行機の「空飛ぶ自動車」の商品構想は、「緊急時には最寄りの駐機場から定点離陸でき、ドライバーと荷物または1名のパッセンジャーを乗せられる翼輪飛行機」に修正した。公道上での機体副は5.0m以内で、7.0m幅の広幅道路であれば自動車並の速度と操縦性で走行でき、機体総重量は300kg程度と想定した。
翼輪飛行機は、人が翼輪に接触する危険を避けるために、路上では翼輪を停止して、30km/h以下の速度で車輪走行し、それ以上の速度では翼輪でも駆動して走行する。離着陸には10.0m幅の許可された公道や最寄りの駐機場や小空港や広幅道路やビルの屋上ヘリポートを利用する。
【0028】
自動車の限界を超えたいという現代人の夢には捨てがたいものがあり、自動車の未来技術として研究を進めるのも面白い。自動車は高速走行ではダウンフォースを発生させて浮き上がりを防止しているが、翼輪飛行機は翼輪で発生する揚力を制御してタイヤ―に最適な接地荷重を掛けながら、翼輪と車輪の推力で駆動して滑走する。姿勢は翼輪と補助翼によって制御され、カーブでは機体を内側に傾ける。走行の操縦はステアリング機構による。
【0029】
5.最高飛行速度を500km/hにした翼輪飛行機
軽飛行機の速度は音速が限度であるが、ヘリコプターの速度はローターの原理から音速の半分が限度である。翼輪飛行機は、飛行中は飛行機であるため、原理的には音速に近い900m/h程度にまで飛行速度を上げられる。しかし、実際には、利便性と操縦の容易さを重視して、将来の超新幹線並みの速度である500km/hで十分であろう。
最寄りの駐機場や小空港やヘリポートや水上ヘリポート(無形の指定スペース)を利用して離着陸し、海、森林、草原、砂漠などの上空に設定した無形のスカイウエー網を利用すれば、過疎地や離島へも縦横無尽に飛行できる。
【0030】
6.タカのように強力な翼を持ち、多様な空中作業ができる翼輪飛行機
タカは、力強く羽ばたいて飛行中の鳥に追いつき、足で肩の関節を外して飛行能力を奪って落下させて捕捉する。ワシ・タカ類は鳥の中で最も優れた飛行能力を持ち、食物連鎖の頂点に立っている。タカは通常の飛行では省エネ飛行に徹しているが、攻撃するときには、強力な筋肉を働かせる。空中作業用翼輪飛行機は、多様なモードの飛行だけでなく、タカのようにコンパクトな機体でありながら高い機動力を持ち、様々な作業能力を付加できるように設計したい。飛行機やヘリコプターには、出来そうで出来ない作業が沢山あるが、その多くが翼輪飛行機に期待される空中作業となる。
翼輪で発生される空気力は翼輪の回転速度の二乗に比例する。従って、軽量な機体と高い回転速度をもった翼輪は、多様な空中作業を可能にする。それには、翼輪の軽量化と高速化と同時に、軽量でコンパクトで強力なモーターと電池の調達が重要な課題となる。
【0031】
7.トンビのように風のエネルギーを利用して汎翔できる翼輪飛行機
トンビは上昇気流を捉えて、羽ばたかずに旋回上昇を繰り返して、その後、別の上昇気流のある場所へ高度を下げながら滑空して移動する。トンビは、最高の飛行性能を持つワシ・タカ類の一種であるが、汎翔と滑空を繰り返して風から貰ったエネルギーを位置エネルギーに変換して蓄積し、エネルギーを殆ど使わずにどこまでも飛行してゆける。
しかし、汎翔できない鳥も多い。汎翔の可否は日常的に発生する程度の低速の上昇気流で体重を支える揚力を発生できる高性能の翼を獲得できているかどうかに掛かっている。トンビは、0.3m程度の翼で、日常的に得られる5〜10m/s程度の上昇気流で、1kg程度の体重を支える揚力を得ているので、このような低速でも翼面加重は3kg/m程度が確保されていると推定される。従って、トンビ並みの翼面加重の翼を持つ翼輪飛行機ができれば、トンビのように帆翔できることになる。
一方、帆翔できる飛行機としてはグライダーやパラグライダーがあるが、機体重量は極めて軽く、長大な主翼スパンと大きな翼面積を持っている。軽く、翼面積が大きく、空力抵抗の小さい翼を獲得することも帆翔を可能にする方向であるが、このような高性能な翼を獲得するには桁外れの資金と努力が必要になる。従って、このような贅沢な仕様はスポーツ用の翼輪飛行機に限られよう。
【0032】
翼輪飛行機が翼輪の回転を停止して滑空するときの回転翼の翼面積は、回転翼ピッチ円径の翼弦の翼を3枚重ねた複葉翼に相当するが、風を受けて空転する時にはオートローテーション効果も利用できるので、発生できる揚力はそれ以上にできる。従って、翼輪飛行機の翼輪のスパンは飛行機の静止翼のスパンと比べて半減できる。帆翔性能の獲得は翼輪飛行機にとって最も大きな技術的チャレンジであるが、ワシ・タカ類は進化の過程で、大形の水鳥のように翼面積の拡大の方向に走らずに、別の方向で帆翔を可能にするための課題をクリヤーして、鳥類の王者の地位を獲得している。
【0033】
8.駐機中に回生モーターを利用して風力発電できる翼輪飛行機
太陽の位置が南北に移動すると、太陽の恵みである餌の繁殖場が南北にシフトするので、鳥達は餌を求めて渡りを敢行する。これに対して、飛行機やヘリコプターは地球に蓄積された化石燃料を消費して飛行している。これからの交通手段には、地球環境の持続的可能性への寄与が求められているが、20年後に世に出す商品にはそれへの対応が前提条件となろう。
【0034】
翼輪は小さな受風面で強い風を起せるコンパクトな送風機である。これを逆に使えば、駐機中に風力発電できる。発電された電力は自分のバッテリーに蓄電するだけでなく、余剰分は駐機場の電池にも蓄えられる。翼輪を応用すれば、太陽エネルギーの変形である風を利用して、化石燃料の補給なしに飛行と駐機を繰り返して、ゆっくりで良ければ地球を渡り歩くことも可能になるかも知れない。
そのためには、翼輪駆動の電動化が前提になるが、最近、本格化している自動車の電動化の動きは大いに期待される。自動車の電動化を踏まえた超軽量パワーユニットの開発は、翼輪飛行機にとって最も重要な技術開発課題になる。
【0035】
9.翼輪をフライホイールにして慣性回転エネルギーを蓄えられる翼輪飛行機
翼輪で発生される空気力は翼輪の回転速度の2乗と迎角の積に比例する。従って同じ空気力を発生するのに回転速度を上げて迎角を小さくしてもよいが、回転速度を下げて迎角を大きくしても良い。図44を見よ。
この性質を利用すると、減速時に発生する制動トルクで翼輪の回転速度を上げながら迎角を小さくすることによって必要な揚力を維持したまま、制動エネルギーを翼輪の慣性回転エネルギーに変換して蓄えることができる。
回生モーターで発電したエネルギーを電池に蓄えることは化学反応なので瞬時には効率良く増減できない。その点、慣性回転エネルギーであれば、瞬時に効率良く変換できる。着陸時に高速回転している翼輪の回転エネルギーは、着陸後、速やかに回生モーターによって制動されて回収される。
【0036】
10.災害救助鳥ロボットに転換できる翼輪飛行機
優れた機動性を持つ鳥達を模擬した翼輪飛行機は、飛行先で様々な現地作業ができるように設計できる。現地作業として最も緊急性が高いのは、災害救助作業である。
地震、洪水、噴火、豪雪、森林火災、被爆、工場火災、津波、雪崩、がけ崩れ、飛行機の墜落、電車の脱線、原発事故など、自然災害や大事故は、年中、どこかで発生している。
災害の救助作業には、状況調査、被害調査、現場への急行、人や救助物資の搬送、被害者の救助、発電、現場照明、障碍物の撤去など、多様な作業が必要になる。現在の飛行機やヘリコプターは、技術的にはコンピューターにより自動操縦できるところまで進歩しているが、現地ではドライバーを下ろして無人化し、それをドライバーが無線操縦して現地作業をする使い方はできないか。これができると、対応できる作業の種類と作業容量は大幅に拡大できる。先ず、60kg程度のドライバー重量は、荷物重量や作業装備重量に当てられる。また、上空を飛行する場合の空調や気圧コントロールの機能が省略できれば、そのためのエネルギーを利用できる。乗員コクピットを脱着可能にすればその重量とスペースも作業用に振り向けられる。
付加する空中作業道具には、救助隊員が使う道具がそのまま使えるようにするのが理想であろう。
【0037】
鳥達は、外敵から逃げるために様々な飛び立ち能力を獲得している。また、採餌や休息や繁殖のために様々な飛行モードで移動し、様々な現地作業をこなしている。飛行機やヘリコプターの飛行は移動が目的であるが、鳥の場合は飛行先での作業が目的であって、飛行はそのための手段に過ぎない。
実際、鳥達は究極的には種の保存と繁殖のために生きている。翼を使って飛行するのは生きて繁殖するために不可欠な行為なのである。参考に鳥の現地作業を見てみると、狩りをして栄養をとり体力を付け、巣作りをして交尾して受精し、卵を産み抱卵してヒナを孵し、餌を取ってきてヒナを養い、教育して独立させている。水鳥の翼は衣服とレインコートと家とボートを兼ねている。鳥達は様々な現地作業のために、口と足だけでなく、体の全ての機能を駆使している。
【0038】
鳥達は、作業の邪魔になるので、翼は着陸と同時に畳んでしまう。翼輪飛行機は鳥の手の部分と腕の部分の動きを翼輪の前後の回転翼と上下の回転翼の動きに変換した機構になっている。これにより、完全ではないが、一種の折り畳み翼か形成されているため、飛行機やヘリコプターと比較して翼のスパンを半減できる。そのために、翼輪飛行機を用いると、高速道路への緊急着陸、ガレージへの格納、小スペースでの駐機、小さなスポット空港での離着陸など、従来の飛行機械の限界を超えた様々な利便性の獲得が可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0039】
【特許文献1】特開2011−11614 公報
【特許文献1】特開2009−23417 公報
【特許文献3】特開平3−57796 公報
【特許文献4】仏国特許出願公開第2309401号明細書
【非特許文献】
【0040】
【非特許文献1】芸術科学会論文誌Vol.2 No.4 pp.146− 155
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0041】
上記の背景を踏まえて、特許文献1で示した翼輪飛行機の機能要件を検証し、その具体化のために基礎的な設計構想を固めるための具体的な設計課題の抽出を進めた。
【0042】
翼輪飛行機は、飛行機とヘリコプターの両方の機能を併せ持つが、その機能構成は、両者を混ぜ合わせたものではなく、鳥達の進化のルーツを模擬した基本的な機能構成となることが分かってきた。そこで、この視点を持って、様々な鳥達を模擬する翼輪飛行機の機能構成を分析してきた。その作業の中で、羽ばたき翼を翼輪に置き換えたために発生した技術的な問題も見えてきた。そして、それを解決するためには、鳥には無い新たな機能の追加が必要なことも分かってきた。
【0043】
一方、技術的な課題の過不足をチェックするために、同じ爬虫類から進化した移動のメカニズムなので、両者の機能構成は対応しているかも知れないと考えて比較してきた。即ち、哺乳類の歩行を模擬した回転輪である車輪を用いた自動車と、鳥の羽ばたき翼を模擬した翼輪を用いた翼輪飛行機との間で機能構成を比較した。この作業による発見から、様々なアイデアが生まれ、その中から重要な課題が抽出できた。
【0044】
重要な課題かどうかは、予想される要件を掲げながらそれに応えるアイデアを盛り込んだ翼輪飛行機のレイアウト図を描いてみることによっても検証された。
最初の課題はその時代の交通システムへの適合であった。そこで、初めに現在の交通システムへの適合の可能性を調べ、その後、その限界を踏まえて、将来の可能性として、翼輪飛行機が織り込まれた新しい交通システムを予測し、それに適合させるための要件を定義した。
【0045】
最近は、世界中で「空飛ぶ自動車」の研究が再燃しており、飛行機、ヘリコプター、オートジャイロなどをベースにした試作研究が進められているが、翼輪飛行機をベースにした研究は見られない。しかし、現在の法規では、空飛ぶ自動車を公道で走行させるためには、機体幅を2.5m、高さを3.8m以下にしなければならない。更に、乗用車に順ずれば、操縦安全性を確保するためには、1.8m以下にする必要がある。翼輪飛行機の機体幅をこの範囲内に納めながら、空気力の発生を最大にするためには、翼輪の駆動機構を内蔵する回転ディスクの幅を極力短縮して、その分、回転翼の幅を大きくし、翼輪の外径を最大化し、回転速度を上げることが基礎的な設計課題であることが分かった。それにより、翼輪の設計方針が明確になり、具体的な設計課題も明らかになってきた。
【0046】
一方、鳥は哺乳類ではないので、地上での走行は苦手である。その点から見ると、鳥を模擬した翼輪飛行機を、哺乳類を模擬した自動車と同じ道路で走らせるのには無理がある。しかし、既存の交通システムがある限り、先ずはそれへの適合を図ってみる必要がある。
【0047】
先ず、翼輪飛行機に必要な翼輪幅を飛行機との比較で試算してみる。翼輪飛行機は翼輪の回転を止めた状態で、静止した回転翼を飛行機の主翼のように使って滑空できるので、滑空モードでの比較から、翼輪飛行機の回転翼の必要幅を試算できる。
静止した翼輪は回転翼のピッチ円径を翼弦とする翼を3枚重ねた複葉翼に相当する。ピッチ円直径が1.6mで回転翼幅が1.7mの翼輪を左右に張り出して搭載し、胴体幅を1mとすると、翼輪飛行機の主翼スパンは4.4m(=1.7×2+1)となる。比較される飛行機の胴体幅を1m、主翼スパンを11m、翼弦長を1.6mとすると、揚力の確保だけでみれば、翼輪にすると機体幅は半減できる。
【0048】
一方、翼輪飛行機は、飛行機の滑空機能とヘリコプターのオートローテーション機能を合わせ持っているが、翼輪の空転を停止して滑空するのがエンジンストール時の最も厳しい状態なので、必要な翼面積は滑空性能で決めておけば良い。
【0049】
そこで、翼輪飛行機のレイアウトは、軽飛行機並みの滑空を可能にすることを前提にして、次の項目に配慮して描いた。
・ 前面投影面積の縮小
・ 空気抵抗の低減
・ 機能構成の簡素化
・ 機体サイズの公道走行要件(仮定幅;5.0m、高さ;3.8m)への適合
・ エンジンストール時の滑空に必要な翼面積の確保
・ 機体のピッチング回転制御に必要な尾翼面積の確保
・ 乗員と荷物の重さと配置
・ エンジンと駆動系とバッテリーの配置
・ 翼輪の種類とサイズと配置
・ 補助翼の種類とサイズと配置
【0050】
様々な翼輪飛行機の可能性を検討した結果、本発明では、新たに、外延翼の追加、尾翼の翼輪化、翼組外枠の形成が設計課題となった。従って、主な設計課題は次の通りとなった。
(1)回転翼の設計課題
・回転翼の製造方法
・フレキシブルキャンバー回転翼の構造
・リードバルブ付き回転翼の構造
・自動高揚力メカニズムの定性的な考察
(2)翼輪と回転ディスクの設計課題
・翼輪幅の法規許容機体幅内での最大化
・翼輪径の法規許容機体高さ内での最大化
・翼輪の回転抵抗の低減
・回転ディスクの幅の短縮とその分の回転翼幅の増大
・翼輪構造の軽量化と剛性アップ
(3)下方静止翼の設計課題
・下死点付近の回転翼周りの流れへの影響を考慮した配置と形と大きさ
・翼組外枠を構成するクロスメンバーとしての剛性の確保と配置
・静止外延翼を取り付けるための形と構造
(4)外延翼の設計課題
・静止外延翼の設計
・回転外延翼の設計
・回転外延翼と中央静止外延翼の併用
・折畳み静止外延翼の設計
(5)尾翼の設計課題
・尾翼の方式選定
・簡易翼輪尾翼の設計
・正規の翼輪の機能を持った翼輪尾翼の設定
(6)翼組外枠の設計課題
・下方静止翼と中央静止翼取付け軸と尾翼の3点の外側端を結合する部材の設計
・回転外延翼付き翼輪をローラーでサポートしながら翼組外枠を形成する部材の設計
(7)翼輪飛行機の設計課題
・飛行機に近い翼輪飛行機の設計
・ヘリコプターに近い翼輪飛行機の設計
・自動車に近い翼輪飛行機の設計
【0051】
(1)回転翼の設計課題
翼輪飛行機を普及価格で商品化するには翼輪飛行機の部品を自動車並みの部品コストで作る必要がある。翼輪飛行機の部品の多くは自動車の部品と対応しているが、中には自動車にない部品もある。その中で代表的なのは回転翼である。そこで、回転翼を自動車並みのコストで作ることが最初にチャレンジすべき設計課題となった。
鳥達の翼は羽根を重ねて形成されているが、一枚の羽根は羽軸の両側に枝羽根を絡ませた部分を形成した弾性体となっている。この羽根の絡ませた部分を隣り合う羽根の絡ませた部分と重ねることにより、非線形バネ特性や弁機能を持った翼型が形成されている。しかし、このように複雑で繊細な鳥の羽ばたき翼をそのまま模擬することはできないので、鳥の羽根の構造をやや複雑なままに模擬した回転翼の設計方法を製造方法にまで遡って探すことにした。
【0052】
回転翼の形状は、プロペラのように断面形状を変えながら長手方向に大きく捻る必要がないので比較的単純な形状にできる。しかし、複数の回転翼が回転ディスクに嵌着されて自転しながら公転するため、回転翼には遠心力と空気力と慣性力が発生し、それらの合力は周期的に大きく変動する。しかし、複数の回転翼に発生する力の総和として翼輪主軸に発生する空気力は、その瞬間の回転状態での総和値となる。従って総和値の振動波形は、翼輪の回転に同期した長周期の振動に、回転翼の個数で分割された短周期の脈動を重ねた振動をすることになる。そのため、振幅の発生は避けられないが、過大になると迎角の制御は困難になる。
【0053】
このように、振動成分には2つあり、一つ目は総和値の翼輪の回転に同期した振動成分である。二つ目は、総和値の翼輪の回転に翼輪数を掛けた振動数に同期した振動成分である。これらは共に回転翼の色々なバラツキに依るものであるが、翼輪を強制的に振動させる。従って、これらの加振力を小さくするためには、それぞれの回転翼を、重量バラツキが少なく、形状精度が高く、剛性のバラツキが小さく、互換性があり、しかも、低コストで量産できる部品にしなければならない。ただし、二つ目の振動成分は翼輪の分割に依る脈動でもあるので、回転翼の本数を増やすことも効果的である。翼輪の回転振動の滑らかさは、商品の成立性を左右する性能であるので、回転翼の製造方法と設計方法については最も先行して開発を進める必要がある。
【0054】
回転翼の製造方法としては、自動車のドアー類の製造方法を参考にして、絞り成型されたインナーパネルに曲げ成型されたアウターパネルを被せて溶接して作ることにした。成型パネルの回転翼の採用によって、有限要素法による回転翼の構造解析計算も容易になり、構造の最適化と軽量化も進め易くなる。また、フレキシブルキャンバー回転翼やリードバルブ付き回転翼の設計も容易になる。
【0055】
請求項1の発明の課題は、翼輪の高速化を計るために軽量で剛性の高い回転翼の製造方法と設計方法を見つけ出し、鳥達の翼を模擬したフレキシブルキャンバー回転翼の実用的な構造を設計することである。
翼輪の作動中には、回転翼に過大な正の迎角や負の迎角が発生することがあるが、柔軟性に乏しい回転翼ではその時に過大な荷重や過敏な荷重変動が発生して、構造の破壊や制御困難を引き起こし、最悪の場合、翼輪飛行機を飛行不能にしてしまう。この問題を解決するための具体的な課題は、回転翼の後方部分を上から押し下げたときに曲がり易く、下から押し上げたときに曲がり難い非線形バネ特性を持つ回転翼構造とすることである。
このような非線形バネ特性を持たせた場合には、翼輪の回転速度を上げた時に、前方の打ち下ろしストロークに回った回転翼は、後部の弾性変形により後端を上げてキャンバーを小さくし、発生する空気力の方向を前に倒すので、自動的に推力成分を増大させる。一方、翼輪の回転速度を下げた時には、上方の前進ストロークに回った回転翼は、発生する空気力を減少させ、後部の弾性変形により後端を下げてキャンバーを大きくし、発生する空気力の方向を後に倒して迎角を増大させ、減速による揚力成分の減少を自動的に補う。これは一種の自動高揚力機構であるが、フレキシブル回転翼には、派生的にこのメカニズムが発生する。この自動高揚力機構もフレキシブルキャンバー回転翼の構造の設計課題である。
ちなみに、鳥達の羽ばたき飛行では、翼の弾性変形を利用してキャンバーを変えることにより、突風による過大な空気力の発生を抑制したり、着陸間際の低速になってもギリギリまで揚力をキープしたりしていることが観察される。
また、ちなみに、自動車の場合は、車輪に入る過大な荷重や過敏な荷重変動はサスペンションやタイヤ―の柔軟性によって緩和されている。
【0056】
請求項2の発明の課題は、翼輪の高速化を計るために軽量で剛性の高い回転翼の製造方法と設計方法を見つけ出し、鳥の翼を模擬したリードバルブ付き回転翼の実用的な構造を設計することである。
翼輪の作動中には、弾性変形の少ない回転翼では過大な迎角や負の迎角が発生した時に、過大で有害な空気力が発生することがある。この問題を解決するための具体的な課題は、回転翼の後方部分を上から押し下げたときに隙が生じ、下から押し上げたときに密着される弁を形成した回転翼構造とすることである。
このような弁付き回転翼とした場合には、翼輪の回転速度を上げた時に、前方の打ち下ろしストロークに回った回転翼は、後部の弁を閉じて後端を上げてキャンバーを小さくし、発生する空気力の方向を前に倒すので、自動的に推力成分を増大させる。一方、翼輪の回転速度を下げた時には、上方の前進ストロークに回った回転翼は、発生する空気力を減少させ、後部の弁を緩めて後端を下げてキャンバーを大きくし、発生する空気力の方向を後に倒して迎角を増大させ、減速による揚力成分の減少を自動的に補う。これも一種の自動高揚力機構であるが、リードバルブ付き回転翼には、派生的にこのメカニズムが発生する。この自動高揚力機構もリードバルブ付き回転翼の構造の設計課題である。
ちなみに、この現象に対して鳥達は、一枚の羽根の羽軸の両側に形成した枝羽根を絡ませた部分の一部を、隣り合う羽根の絡ませた部分の一部と重ね合わせて成立させた弁機構を自動的に開閉させて、突風による過大な負の空気力の発生を抑制したり、着陸間際の低速になってもギリギリまで揚力をキープしたりしていることが観察される。
ちなみに自動車の場合は、車輪に入る過敏な荷重変動はタイヤ―やダンパーの減衰性によって吸収されている。
【0057】
(2)翼輪と回転ディスクの設計課題
翼輪は高速化できれば、矩形の受風面積を効率良く使って、大きな空気力を発生できるが、高速化するためには、駆動抵抗と空気抵抗を低減し、軽量化しながら剛性を上げて翼輪の固有振動数を上げる必要がある。
【0058】
矩形の受風面積を効率良く使って大きな空気力を発生するためには、与えられた翼輪スパンの間で、回転ディスクの幅を小さくして、その分、回転翼の幅を大きくする必要がある。
【0059】
また、駆動抵抗を低減するためには、回転ディスクの中の、平行回転に揺動回転を付加する遊星歯車を用いた機構に使われている歯車の潤滑と、歯車軸の軸受けの潤滑が最も肝要な設計課題となった。歯車軸の軸受けには、コンパクトな転がり軸受けとしてニードルベアリングの採用が必要になった。
外に、翼輪を転がり軸受けを用いて支持し、適切に潤滑することも、重要な設計課題となった。
【0060】
更に、翼輪の高速化のためには、翼輪の振動系の1次固有振動数が危険速度になるので、基本的に軽量化を図りながら動剛性を高め、1次固有振動数を高めるように回転ディスクの内部構造とそれを含む翼輪を設計することが必要になった。
【0061】
また、軽量でコンパクトな翼輪を目指す設計の流れの中で、翼輪の中心部には、回転翼の迎角と中央静止翼の迎角を制御するための機構をコンパクトに組み込むことも必要となった。
【0062】
請求項3の発明の課題は、翼輪の高速化を計るために、回転ディスクのカバーの中に、操作可能に偏心リング割出し機構を包み込みながら、翼輪の動剛性を高めるように回転ディスクの支持構造を設計することである。
【0063】
請求項4の発明の課題は、翼輪の高速化を計るために、回転ディスクに内蔵される伝導機構の軸受けを選定し、潤滑方法とシール方式を最適化し、軽量化しながら剛性を高められるように配慮して回転ディスクの構造を設計することである
【0064】
請求項5の発明の課題は、翼輪で発生できる空気力の増大を計るために、回転翼の幅を広げて回転ディスクの幅を縮小するために、回転ディスクに内包されている偏心リング割り出し機構の幅を短縮できる構造を設計することである。
【0065】
請求項6の発明の課題は、翼輪の高速化を計るために、中央静止翼取付け軸を翼輪主軸と一体化する構造を設計することである
【0066】
(3)下方静止翼の設計課題
翼輪飛行機の飛行速度が小さく翼輪の回転速度がそれを超える場合は、回転翼が下側に回り後退ストロークに入ったときに、回転翼が後ろ向きに風を切り、流れが剥離し、大きな抗力が発生することが懸念されていた。
この現象は、正の迎角を持って前下がりに回転する回転翼では最初に下死点で発生するが、実際にどのような現象が起こり、どの様な問題が発生するのかは、今の段階では、定量的な解析による予測や実験的な確認はできていない。
【0067】
翼輪の回転速度は鳥の羽ばたき速度に相当するが、猛禽類の羽ばたき飛行を観察して見ても飛行中に飛行速度を超える羽ばたき速度を取ることは稀と思われる。鳥の羽ばたき運動でも過度に羽ばたき速度を上げると、打ち下ろしストロークの下端での迎角の切り返しが遅れて風切り羽の枝羽根の絡みが外れるのかも知れない。
翼輪飛行機でも、通常の飛行状態では、後向きに風を切るような条件は取る必要はなく、これが翼輪の成立性を損なう問題になるとは考え難い。しかし、地上で翼輪を始動する瞬間には起こる状態なので、今後の解析的、ならびに、実験的な研究は必須である。図46を見よ。
【0068】
一方、下方静止翼は、揚力の発生を分担する補助翼の他に、様々な目的で利用できる便利な補助翼である。例えば、下方静止翼の外側端を中央静止翼取付け軸の外側端と2点ステーを介して結合すれば、翼組外枠を形成して翼組の剛性を高めることができる。また、下方静止翼の内部には、静止外延翼のフラップ操作のためのリンクを通すこともできる。そのため、できれば利用したい補助翼である。
そこで、今の時点では、全体の設計を進めるために、下方静止翼の形状と大きさと配置の設計が下側に回る回転翼の周りの気流にどのような影響を与えるかについての定性的な検討と考察だけをしておくことにした。
【0069】
(4)外延翼の設計課題
翼輪の回転翼を回転ピッチ円上に干渉しないように並べると翼弦長の総和は最大でピッチ円の周長(ピッチ円直径×3.14)となるから、翼輪の翼面積は、概ね、翼輪のピッチ円直径に等しい翼弦の翼を3枚重ねた複葉翼に匹敵する。
翼輪で発生する揚力は翼輪の回転速度の2乗に比例するので、回転速度の上昇により著しく改善できる。しかし、回転翼の幅方向の長さが片側で1m程度しか取れず、翼輪の回転速度が十分に高くできなければ、機体重量を支えられる揚力は得られない。
また、揚力は確保できても揚力の作用点が中央寄りにある場合は、ローリングに対する安定性が十分に確保できなくなる。
【0070】
水平飛行中の翼輪飛行機の翼輪の回転速度を上げると、上側の回転翼に流入する気流速度は増大し、下側の回転翼に流入する気流速度は減少する。しかし、翼に発生する空気力は流入速度の2乗に比例するので、増速される上側の回転翼に発生する揚力の増加分は、減速される下側の回転翼に発生する揚力の減少分より大きくなる。従って、翼輪を回転した時に上・下の回転翼に発生する空気力の和は、翼輪を止めて滑空する時に上・下の静止した回転翼に発生する空気力の和よりも大きくなる。
【0071】
ローリングに対する姿勢安定性の不足を補うためには、静止外延翼や回転外延翼を追加してそれに上反り角を付ける設計が有効である。また、翼輪を機体重心より高い位置に配置し、機体を吊り上げるように空気力の作用点を高くしても改善される。
【0072】
請求項7の発明の課題は、翼輪飛行機の仕様により、翼輪のみでは必要な空気力やローリング安定性が得られない場合に、静止翼面積を拡大して不足を補うための静止翼を設計することである。
【0073】
また、静止外延翼でも十分でない場合は、回転翼の外側に回転外延翼を付加する設計も選択できる。
また、中央静止翼取付け軸の外側に中央静止外延翼を設け、その外側の回転翼にも回転外延翼を付加する設計も選択できる。しかし、その場合は、中央静止外延翼の周辺で、回転外延翼が、大きく変形しながら回転するので、干渉の危険性を十分にチェックする必要がある。
【0074】
回転外延翼は基本的に回転翼と同じ回転運動をするが、オーバーハングして回転するので、両端支持されて回転する回転翼と同じ挙動にはならない。軽量化の面から限界設計される回転外延翼は、片持ち梁で荷重を受けて、曲げ方向にも捩じり方向にも大きく弾性変形しながら回転することになる。ちなみにツルの一次風切り羽の挙動をみると、外側に向けて隙間を取って並んだ風切り羽根が、曲げ方向にも捩じり方向にも弾性変形しながら運動をしている。これを見ると、回転外延翼には、曲げと捩じりの弾性変形特性を利用する設計の可能性があることが推察される。
【0075】
エンジンが故障した時には、飛行機は滑空しながら緊急滑走路を見つけて着陸できるが、それが見つからなければ不時着を免れない。
一方、ヘリコプターは、オートローテーション操作により最寄りの空き地に着陸できるが、故障発生時の飛行状態によってはオートローテーション操作に入れずに落下する。
これに対して、翼輪飛行機は、回転の止まった時には翼輪を止めて静止翼として、飛行機のように滑空して緊急滑走路に着陸することもできる。しかし、ヘリコプターのように翼輪を空転させながら滑空して、オートローテーション作用により揚力を獲得しながら最寄りの空き地に着陸することもできる。
【0076】
翼輪飛行機では滑空とオートローテーションは併用されておりその状態は連続的に変えられる。この操作は通常の飛行時にも利用できるので、翼輪飛行機は、トンビが上昇気流を受けてそれを推力に変えて飛行するように、翼輪で上昇気流を受けながらそれを推力に変えて飛行することができる。また、カラスのように、機体の減速エネルギーを利用して翼輪の回転速度を加速して揚力を回復して軟着陸することもできる。
【0077】
請求項8の発明の課題は、翼輪飛行機の仕様により、翼輪のみでは必要な空気力や安定性が得られない場合に、回転翼面積を拡大し、空気力の増大と安定性の確保を図るための追加的な回転翼を設計することである。
【0078】
(5)尾翼の設計課題
カラスは、垂直尾翼は備えていないが、シャープにユーターンしている。また、制動時には尾翼の幅を大きく広げて下げてフラッピング容量を拡大して、体のピッチング回転を止めている。汎翔中のタカは尾翼を微妙に捻りながら横方向の空気力成分を発生させ、飛行中の外乱による姿勢角の変化を防いでいる。
【0079】
しかし、鳥達のように尾翼を拡張でき、捩れる機構の静止尾翼を実際に設計してみるとその機構はかなり複雑になってしまう。また、上下羽ばたき運動を円運動に置換えた翼輪は過大なピッチング回転モーメントを発生することがある。そのような過大なモーメントを打ち消すためには、静止尾翼には大きな平面投影翼面積が必要となる。色々と模索した結果、姿勢制御用に割り切って翼輪を簡略化する方がコンパクトで簡潔な設計ができることが分かってきた。
【0080】
そこで、翼輪飛行機用の尾翼には、飛行機のような静止尾翼に代えて、翼輪を用いた尾翼を付けることにした。そして、多様な鳥達を模擬した多様な翼輪飛行機の仕様に対応できるように2種類の翼輪尾翼を設計し使い分けることにした。
【0081】
揚力の分担を期待しない尾翼用の翼輪は、主翼用のような大きな回転速度は必要としないが、制御に適した簡易な翼輪にする必要がある。また、外乱を吸収する姿勢制御のためにはクッション性や減衰性の付与も必要になるの。そのような場合には、成型パネルを用いたフレキシブルキャンバー回転翼やリードバルブ付き回転翼の応用も必要になる。
【0082】
しかし、タンデムローターのヘリコプターのように尾翼にも機体重量を分担させる翼輪飛行機には主翼用と同じ機能を持った翼輪を尾翼にも搭載することが必要になる。
【0083】
請求項9の発明の課題は、遥動付加機構を省略しながら、小さな平面投影翼面積で大きな制御容量と多様な制御能力を持つ簡易翼輪尾翼の構造を設計することである。
【0084】
(6)翼組外枠の設計課題
必要な翼輪の回転速度を確保するためには、軽量化を計りながら支持剛性を高めて、危険速度となる1次固有振動数を高める必要がある。そのためには、翼輪に発生する荷重を分散させながら翼輪の支持剛性を高める翼組外枠の形成が効果的であるが、そのための追加構造の設計が必要となる。
【0085】
請求項10の発明の課題は、翼組外枠の形成により翼輪の支持剛性を向上させることである。しかし、翼輪は機体の側方にオーバーハングして取り付けられるので翼輪の支持剛性を高めることが難しい。それを補って翼輪の支持剛性を上げるために、翼輪の重量と幅寸法の増大を最小に抑えながら荷重の分散と支持剛性の増大が計れる翼組外枠の設計が必要となった。
【0086】
請求項11の発明の課題は、外側回転ディスクを支持することによって回転外延翼を付けた翼輪の支持剛性を向上させる構造を設計することである。
即ち、翼輪飛行機により鳥達の多様な羽ばたき翼の模擬が可能になるが、回転外延翼を付けた場合は重量と荷重が増加し、回転性能の低下は免れない。それを補うためには、翼輪の外側回転ディスクの支持剛性を上げるために、重量と幅寸法の増大を最小に抑えながら荷重の分散が計れる翼組外枠の設計が必要となった。
【0087】
(7)翼輪飛行機の設計課題
ハチドリを模擬したヘリコプターとハクチョウを模擬した飛行機の間には多様な鳥を模擬した様々な翼輪飛行機が考えられるが、その多様性を分類するファクターとして、*1翼輪の高さ、*2翼輪のスパン、*3外延翼の有無と方式、*4尾翼の方式を選んだ。今回検討された様々な翼輪飛行機の中から代表的な事例を選び、これらのファクターで比較してみた。その結果、鳥達の多様性ファクターと翼輪飛行機の多様性ファクターは次のように対比された。
【0088】
*1 滑空時の翼の高さ・・・翼輪の高さ
*2 翼の開き幅・・・・・・翼輪のスパン
*3 初列風切り羽の形・・・外延翼の有無と方式
*4 尾翼の大きさと形・・・・・尾翼の方式
【0089】
翼輪飛行機の多様性展開の中で最も魅力的な機種は空飛ぶ自動車であろう。その課題は、地上では自動車として走行でき、空中では、走る・曲がる・止まるに加えて昇降機能を持ち、ヘリコプターのように舞い上がり、飛行機のように飛行できる空飛ぶ自動車の基本機能構成とレイアウトを設計することである。
【0090】
最後に、成型部品の溶接によって製造する翼設計はこれまでの常識から大きく離れた設計コンセプトになる。しかし、成型部品の採用によって、精度と量産性の他に、これまで難しいと思われていた2つの鳥の翼の機能の模擬が可能であることが分かってきた。そこで、その可能性について、改めてクローズアップして具体的に確認しておくことが必要となった。
【0091】
請求項12に記載の発明は、請求項1に記載の発明の具体的な構造に関する請求である。
この発明の課題は、成型されたアウターパネルに、成型されたインナーパネルを接合することにより回転翼の後方に形成される2次元閉断面の形状によって、回転翼の後方部分を上から押し下げたときに曲がり易く、下から押し上げたときに曲がり難い非線形バネ特性を持つ回転翼構造とし、フレキシブルキャンバー回転翼を設計することである。
【0092】
請求項13に記載の発明は、請求項2に記載の発明を回転外延翼に応用した構造に関する請求である。
この発明の課題は、外向きに波状に切れ込みの入った回転外延翼に弁を形成する時には翼の前縁形状と弁機構の設計に特別の工夫が必要なことが分かったことから、回転翼用とは別に、リードバルブ付き回転外延翼を設計することである。



【課題を解決するための手段】
【0093】
本発明は、上記課題を解決するために、特許文献1の発明をベースにして、必要な機能を見直し、翼輪と翼輪飛行機の基礎的な設計課題の解決を図ったものである。
【0094】
先ず、回転翼の構造について、自動車のドアー類の製造方法を参考にして、プレス成型されたパネルを用いた回転翼の構造を設計した。
【0095】
請求項1に記載の発明では、高い形状精度と量産性が得られるプレス成型技術で製造されたインナーパネルとアウターパネルを溶接する製造方法を採用した。そして、上下非対称な形状のアウターパネルとインナーパネルを上下非対称な溶接部位で接合することによって、回転翼の後方部分を上から押し下げたときに曲がり易く、下から押し上げたときに曲がり難い非線形バネ特性を持つフレキシブルキャンバー回転翼の構造が設計できた。
【0096】
請求項2に記載の発明では、高い形状精度と量産性が確保できるプレス成型技術で製造されたアウターパネルとインナーパネルを溶接する製造方法を採用した。そして、前端で曲げ返された、上方と下方の両後端部に波形の切れ込み形状を持ったアウターパネルに、絞り成型されたインナーパネルを挿入して溶接し、アウターパネルの上方の後端の外縁部の一部にアウターパネルの下方の後端の外縁部の一部を重ねる構造とした。アウターパネルとインナーパネルの形状とその溶接部位の設定により、回転翼の後方部分を上から押し下げたときに重ねられたはみ出し部分に隙が生じ、下から押し上げたときに重ねられたはみ出し部分が密着される弁機構を持つリードバルブ付き回転翼の構造が設計された。
【0097】
次に、翼輪については、高速化を計るために、下記の解決策を織り込んだ設計にした。
・回転運動する歯車と翼輪の支持には、全て、転がり軸受けを用い、駆動抵抗を低減する。
・回転ディスク内を減速歯車列室、増速ベルト室、回転翼駆動ベルト室、揺動機構室の4室に仕切り、各室を互いにシールして、それぞれに最適な潤滑条件を取れるようにし、駆動抵抗の低減を図る。
・減速歯車列室内の複数の減速歯車列を取り付ける複数の穴は一つの部品に加工し、寸法と形状の精度と剛性とシールの完全性を確保する。
・機体に形成した翼輪取り付け台に固定した翼輪主軸に、回転ディスクの内側の転がり軸受けの外輪と、外側の転がり軸受けの内輪を固定し、これらの2個の転がり軸受けに与圧を掛けて回転ディスクを支持し、回転ディスクの支持剛性を確保する。
・偏心リング割り出し機構を構成する2つの偏心ディスク部品を同一幅内に納め、偏心リング割り出し機構の幅を短縮する。
・迎角制御用のリンク部品の円筒部分は、翼輪主軸と回転ディスクカバーの間に設けた隙間を通して回転ディスクの中央側に突き出し、制御リンクをコンパクトに組み込む。
・回転翼取り付け軸は、回転翼と回転翼ディスクとの結合剛性を高めるために、与圧の掛かった2個の転がり軸受けを介して回転翼ディスクに取り付けられる。
・中央静止翼取付け軸は、両端を中央静止翼ディスクA、中央静止翼ディスクBに結合して一体化して翼輪主軸に固定し、外側端の転がり軸受けを介して外側回転ディスクを支持する。
・中央静止翼の回転位置は、翼輪主軸の穴に組み込まれた中央静止翼迎角調節歯車軸を介して調節される。
・翼輪の迎角操作リンクは中央側のリンケージスペースに組み込む。
【0098】
請求項3に記載の発明では、機体に結合された翼輪取り付け台に翼輪主軸を取り付け、その翼輪主軸で回転ディスクの内側と外側を与圧が掛けられた転がり軸受けを介して支持し、内側軸受けの外輪は翼輪取り付け台のハウジング部分に、内輪は回転ディスクカバーの中央側の円筒部分の外径面に嵌合し、外側軸受けの内輪は翼輪主軸の軸部分に、外輪はセンターギアーケースに固定し、回転ディスクカバーの中央側の円筒部分の内径面と翼輪主軸の外径面との間に隙間を設け、偏心リング割り出し操作用の2個の部品である偏心リング駆動歯車と中心側偏心ディスクのスリーブ部分を貫通させる構造にし、回転ディスクの駆動抵抗を低減し、翼輪の高速化を図った。
【0099】
請求項4に記載の発明では、回転ディスクの内部の回転翼を駆動する機構の空間を、歯車列室、増速ベルト駆動室、回転翼ベルト駆動室、偏心-遥動変換室の4つの空間に仕切り、各室の軸受けと歯車の潤滑条件を最適化した。各室の仕切りや軸受けやシールの取り付け構造は、回転ディスクの軽量化と剛性の向上に寄与するように配慮して設計し、翼輪の高速化を図った。
【0100】
請求項5に記載の発明では、偏心リング割り出し機構を形成している2個の偏心ディスク部品である中心側偏心ディスクと偏心リングを同一円筒スペース内の中央側と外周側に配置し、偏心リング割り出し機構の幅を短縮し、回転ディスクの幅を短縮し、その分回転翼の幅を拡大し、翼輪で発生する空気力の増大を図った。
【0101】
請求項6に記載の発明では、翼輪主軸の外側端に中央静止翼ディスクAを固定し、そのディスクの外側端に中央静止翼軸を結合し、その軸に中央静止翼を回動自在に嵌着し、中央静止翼の角度位置を翼輪主軸の穴に通した軸と歯車列を介して調節できるようにし、中央静止翼軸の外側端に中央静止翼ディスクBを結合し、中央静止翼ディスクBは外側回転翼ディスクを転がり軸受けを介して支持する中央静止翼外側主軸に結合し、中央静止翼取付け軸と翼輪主軸との一体化を図り、翼輪の支持剛性を高めて高速化を図った。
【0102】
請求項7に記載の発明では、翼輪の中央外側部に出ている中央静止翼外側主軸の外側端に取り付けた3点ステーに静止外延翼を取り付け、翼面積の拡大を計り、空気力の増大を図りながら、静止外延翼に上反り角や後退角を付けることにより翼輪飛行機として必要な安定性を確保できる構造にした。また、静止外延翼の一部を分割して姿勢制御用の可動フラップにすることも可能にした。
【0103】
請求項8に記載の発明では、回転翼の外側端の外側回転翼取り付軸の外側端に回転外延翼の内側端を結合して、回転する翼の翼面積を拡大し、飛行機と比べて機体幅を減少しながら、翼輪で発生できる空気力の増大を図った。
また、片持ち梁で取り付けられる回転外延翼の形状や曲げと捩じりの弾性変形特性や弁機構の付与などにより操縦安定性の最適化が図れるようにした。
【0104】
請求項9に記載の発明では、翼輪が1回転する間に回転翼を逆方向に1回転戻す歯車列を、複数、太陽歯車に噛み合わせた簡易翼輪ギアーケースにおいて、翼輪主軸の外側端に中央静止翼取付け軸を取り付け、翼輪主軸の穴に太陽歯車の角度を調節するリンクと中央静止翼の傾斜角を調節するリンクを納めたことにより、遥動付加機構を省略しながら、小さな平面投影翼面積で大きな翼面積を確保でき、大きな制御容量と多様な制御能力を持つ簡易翼輪尾翼の構造が設計できた。
即ち、同じ平面投影面積の固定尾翼と比べて約3倍の翼面積を持つ簡易翼輪尾翼の採用により、翼輪飛行機のピッチング回転モーメントの制御容量を拡大できた。また、駆動に回生モーターを用いて、左・右独立に揚力と抗力または推力を制御することにより、鳥の尾翼の開閉による翼面積の調節と、捩じりによる尾翼角度の調節の模擬を可能にした。これらの簡易翼輪尾翼の機能と翼輪の機能との連動によって、鳥達の多彩な姿勢制御機能の模擬が全て可能となった。
制御ファクターは、翼輪の回転速度、回転翼の平行傾斜角、中央静止翼の傾斜角である。制御量である空気力と回転モーメントの調節により機体の姿勢と速度が制御される。
【0105】
請求項10に記載の発明では、下方静止翼と中央静止翼取付け軸と簡易翼輪尾翼の外側端を結ぶ3点ステーを形成し、翼輪の支持剛性の向上を図った。
即ち、回転翼と中央静止翼に生じる空気力と回転モーメントの反力の一部が、翼輪の外側回転ディスクを支持する転がり軸受けが装着される中央静止翼外側主軸に掛かる。従って、翼輪の限界回転速度を高めようとすると、翼輪主軸の外側端に結合された中央静止翼取付け軸の外側端を形成する中央静止翼外側主軸の部分での剛性を高めるのが効果的である。もし、これを中央静止翼取付け軸に頼って剛性を上げる設計にすると、片持ち梁のたわみの設計になるので、重量とスペースのかなりの増大が避けられない。そこで、中央静止翼外側主軸と下方静止翼と簡易翼輪尾翼の外側端を3点ステーで結合して翼組外枠を形成し、荷重の分散も計りながら中央静止翼外側主軸の部分での剛性を高める構造とした。
【0106】
請求項11に記載の発明では、翼輪の外側回転ディスクの外周部分を、下方静止翼の外側端と簡易翼輪尾翼の外側端を結んだ2点ステーに取り付けた2個のサポートローラーで支持し、重量増加を抑えながら翼輪の支持剛性を高め、限界回転速度の低下を少なくし、併せて翼輪の回転ブレを抑制する構造とした。
【0107】
鳥達の多様性を参考にすると、翼輪飛行機の機能構成とレイアウトは多種多様に展開される。その一例は、F1レーサーの車輪を翼輪に代えて羽根を付けたようなレイアウトになった。
機能構成としては、前方の低い位置に小径の前方翼輪を置き、後方の高い位置には大径の後方翼輪を置き、後方翼輪の外側端に結合された2点ステーの上部には折下げて畳める折畳み静止外延翼を取り付け、上部後端には固定翼を設けた。これに3輪の走行用車輪を付けると、地上では自動車として走行でき、空中では、走る・曲がる・止まるに加えて昇降機能を持ち、ヘリコプターのように舞い上がり、飛行機のように飛行できる空飛ぶ自動車にできそうなレイアウトが描けた。
【0108】
請求項12に記載の発明は、請求項1に記載の発明の具体的な構造に関する請求であるが、この発明では、成型されたアウターパネルに、成型されたインナーパネルを接合することにより翼の後方に形成された2次元閉断面の形状において、アウターパネルの後方上部とインナーパネルの接合で3角閉断面を形成し、その後方に、折れてから斜め後・下方に湾曲するインナーパネルと平面部から斜め後・下方に湾曲するアウターパネルの後方下部によって湾曲クサビ状閉断面を形成し、3角閉断面を形成するインナーパネルの平面部に湾曲クサビ状閉断面の前側の接合線を設け、アウターパネルの後方上部とインナーパネルとアウターパネルの後方下部とで重ね板ばねを形成し、回転翼の後方部分を上から押し下げたときに曲がり易く、下から押し上げたときに曲がり難い非線形バネ特性を持った構造とすることにより、フレキシブルキャンバー回転翼の構造が設計できた。
【0109】
請求項13に記載の発明は、請求項2に記載の発明を応用した回転外延翼の詳細構造に関する請求であるが、この回転外延翼は、波状に切れ込みの入った、成型されたアッパーアウターパネルとロアーアウターパネルとインナーパネルとモールからなり、アッパーアウターパネルとロアーアウターパネルは波型の前端の両アウターパネルのフランジ部で接合して一体化し、インナーパネルはロアーアウターパネルのフランジ部の後ろの底面でロアーアウターパネルと接合し、インナーパネルの後方へのはみ出し部分の端を、フランジ部に取り付けられたモールの下面に接触させて弁を形成したことにより、リードバルブ付き回転外延翼の構造が設計できた。


【発明の効果】
【0110】
請求項1に記載の発明に関しては、高い形状精度と量産性が得られるプレス成型技術で製造されたアウターパネルとインナーパネルを溶接し、回転翼の後方部分を上から押し下げたときに曲がり易く、下から押し上げたときに曲がり難い非線形バネ特性を持った回転翼が設計できた。これにより、回転翼に過大な負の迎角が発生するのを防ぐことができた。
また、回転翼の加速回転時の高速打ち下ろし回転翼の空気力の方向を自動的に前方に傾けたり、回転翼の低速回転時の迎角を自動的に大きくしたりする高揚力機構も得られた。図47、図48を見よ。
【0111】
この非線形バネ特性によって低速飛行時や空中停止時の翼輪の回転速度の増速割合を低減できる。図48の第3象限の流入気流速度制御ラインは、与えられた揚力係数の回転翼で必要な揚力を発生するために必要な流入気流速度をプロットしたラインである。硬いバネ特性の回転翼と比べて、柔らかいバネ特性の回転翼は低速では自動的に揚力係数が大きくなるので、その分、回転速度の増速を少なくできる。このことは制御容量の縮小や制御装置のコンパクト化や軽量化に寄与する。
【0112】
請求項2に記載の発明に関しては、高い形状精度と量産性が確保できるプレス成型技術で製造されたインナーパネルとアウターパネルを溶接する製造方法を採用し、アウターパネルの上方後端の外縁部の一部にアウターパネルの下方後端の外縁部の一部を重ねる構造とし、アウターパネルとインナーパネルの形状とその溶接部位の設計により、回転翼の後方部分を上から押し下げたときに開き、下から押し上げたときに閉じる弁機構を持った回転翼が得られたことにより、回転翼における過大な負の迎角の発生を防ぎ、過大な抗力や負の揚力の発生を緩和し、翼輪の高速化を計ることができた。
また、回転翼の加速回転時に弁を閉めて、高速打ち下ろし回転翼の空気力の方向を、弁の弾性を利用して自動的に前方に傾けて固めたり、回転翼の停止時に弁を開き迎角を自動的に過大にして軟着陸したりする高揚力機構も得られた。
【0113】
弁特性を持たせるための重なり部には、摩擦減衰効果による振動抑制効果も期待できる。軽量化を追求すると部品の剛性が低下するため振動が大きくなるのは免れないが、鳥達も羽根の重なり部分の摩擦減衰効果で振動を抑制しているように見える。
【0114】
請求項3に記載の発明に関しては、回転ディスクに偏心リング割り出し機構をコンパクトに組み込みながら回転ディスクを与圧の掛かった大きめの転がり軸受けで支持し、翼輪の支持剛性を高めて、翼輪の高速化を計ることができた。
【0115】
請求項4に記載の発明に関しては、回転ディスク内の転動面の抵抗を低減できるように軸受け方式を選定し、潤滑条件を最適化できるように回転ディスクの内部空間を4つの潤滑空間に分け、各室間の仕切りや軸受けとシールの取り付け構造も利用して剛性の高い回転ディスク構造が設計できたので、翼輪の高速化を計ることができた。
【0116】
請求項5に記載の発明に関しては、偏心リング割り出し機構の幅を短縮する設計ができたことにより、その分回転翼の幅を拡大でき、翼輪で発生できる空気力の増大を計ることができた。
【0117】
請求項6に記載の発明に関しては、中央静止翼取付け軸の翼輪主軸との一体化を図り、外側端の中央静止翼外側主軸に装着された転がり軸受けを介して外側回転ディスクを支持する構造にできたので、翼輪の支持剛性を高めて高速化を計ることができた。
【0118】
請求項7に記載の発明に関しては、翼輪の中央外側部に出ている中央静止翼外側主軸の外側端に取り付けた3点ステーに静止外延翼を取り付けたことにより、翼輪飛行機の仕様により、翼輪のみでは必要な空気力や安定性が得られない場合に、静止翼の面積を拡大して空気力の増大と必要な安定性の確保を図るための追加的な静止翼を設計できた。
また、必要に応じて、静止外延翼の一部を分割して姿勢制御用可動フラップにすることにより、翼輪の姿勢制御能力の不足を補うことも可能になった。
【0119】
請求項8に記載の発明に関しては、回転翼の外側端の外側回転翼取り付軸の外側端に回転外延翼の内側端を結合して、回転する翼の翼面積の拡大を図ったことにより、翼輪飛行機の仕様により、翼輪のみでは必要な空気力や安定性が得られない場合に、翼輪の空気力の増大と必要な安定性の確保を図るために追加できる回転外延翼を設計できた。
【0120】
請求項9に記載の発明に関しては、遥動付加機構を省略しながら、回転翼を平行回転させるための歯車列を納めた簡易翼輪ギアーケースに中央静止翼取付け軸と回転翼の傾斜角度を調節するリンクと中央静止翼の傾斜角を調節するリンクをコンパクトに納めたことにより、小さな平面投影翼面積で大きな制御容量と多様な制御能力を持つ簡易翼輪尾翼の構造を設計できた。
即ち、3葉の複葉翼に匹敵する翼面積を持つ簡易翼輪尾翼の採用により、鳥の尾翼を広げて制御容量を拡大する機能と尾翼を捩って発生する空気力の方向を調節する機能を模擬できた。これらの機能は、回生モーターを用いて、左右の簡易翼輪尾翼の回転速度と駆動トルクを独立に制御することにより得られた。そして、翼輪と簡易翼輪尾翼の機能を連携させることにより、鳥のような多彩な姿勢制御が可能となった。
【0121】
回転翼を周期的に遥動させる機構を省くことにより駆動系を大幅に簡素化して軽量化しながら駆動抵抗の低減も計ることができた。簡易翼輪尾翼の迎角は回転速度の変化で調節する機構となったが、機体重量を分担させない場合は、回転速度は主翼用の翼輪のように大きくする必要はない。
しかし、乱気流からの脱出のような危険回避操作で回転速度を上げる場合は、回転翼の翼面に剥離や失速が発生し、迎角の制御が難しくなる。そのような場合の操縦安全性上のマージンを十分にとるためにはフレキシブルキャンバー回転翼やリードバルブ付き回転翼の応用が効果的である。これらの工夫により、コンパクト化を計りながら、低速でも効率良くしなやかな姿勢制御ができる簡易翼輪尾翼が設計できた。
【0122】
請求項10に記載の発明に関しては、翼組外枠を形成する3点ステーを設定することによって翼輪の支持剛性の向上を図った。
即ち、下方静止翼と中央静止翼取付け軸と簡易翼輪尾翼のそれぞれの外側端を結ぶ3点ステーを設定し、翼輪の外側回転ディスクを支える転がり軸受が装着される中央静止翼取付け軸の中央静止翼外側主軸に加えて、下方静止翼と簡易翼輪尾翼にも荷重を分担させるようにしたため、重量とスペースの増大を抑えながら翼輪の支持剛性の向上が計れた。
【0123】
請求項11に記載の発明に関しては、下側静止翼の外側端と簡易翼輪尾翼の外側端を結んだ2点ステーに取り付けたサポートローラーよって外側回転ディスクの外周を支持することによって、回転外延翼を付けた翼輪の荷重の分散と支持剛性の増大を図る翼組外枠が設計できた。
【0124】
請求項12に記載の発明は、請求項1に記載の発明の具体的な構造に関する請求であるが、この発明に関しては、成型されたアウターパネルに、成型されたインナーパネルを接合することによりフレキシブルキャンバー回転翼の後方に形成された2次元閉断面の形状において、前上の3角閉断面の後下に湾曲クサビ状閉断面を形成し、前上の3角閉断面で形成される重ね板ばねの非線形性と、後下の湾曲クサビ状閉断面の形状による非線形性の相乗効果によって、翼の後方部分を上から押し下げたときに曲がり易く、下から押し上げたときに曲がり難い非線形バネ特性を持たせた回転翼が設計できたことにより、回転翼に過大な負の迎角が発生するのを防ぐことができた。
また、加速時に打ち下ろしストロークの回転翼の揚力の方向を自動的に前向きに傾斜させたり、減速時の前進ストロークの回転翼の迎角を自動的に大きくしたりする自動高揚力機構を翼輪に付与することができた。
この高揚力機構は、翼輪の回転速度の変化に応じてキャンバーを自動的に調節してくれるので、迎角の制御容量を小さくできるため、その分、翼輪を軽量でコンパクトにでき、結果的に翼輪の高速化も計ることができた。
【0125】
請求項13に記載の発明は、請求項2に記載の発明を回転外延翼に応用した構造に関する請求であるが、この発明に関しては、波状に切れ込みの入った、成型されたアッパーアウターパネルとロアーアウターパネルとインナーパネルとモールからなり、インナーパネルの後方へのはみ出し部分の端を、フランジ部に取り付けられたモールの下面に接触させて、回転外延翼の後方部分を上から押し下げたときに接触部分に隙が生じ、下から押し上げたときに接触部分が密着される弁を形成したリードバルブ付き回転外延翼の構造が設計できたことにより、翼輪の回転外延翼に過大な負の迎角が発生するのを防ぎ、過大な抗力や負の揚力の発生を緩和し、翼輪の高速化を計ることができた。
また、加速時に打ち下ろしストロークの回転翼の揚力の方向を自動的に前向きに傾斜させて固定したり、減速時の前進ストロークの回転翼の迎角を自動的に過大にして失速させて軟着陸させたりする自動高揚力機構を翼輪に付与することができた。
この高揚力機構は、翼輪の回転速度の変化に応じて、弁の開閉度合いを連続的に変化させてキャンバーを自動的に調節してくれるので、迎角の制御容量を小さくできるため、その分、翼輪を軽量でコンパクトにでき、結果的に翼輪の高速化も計ることができた。
本発明は、かなり複雑な制御機構にはなったが、鳥に準じたローリング、ピッチング、ヨーイング安定性とその制御能力を備え、更に、Uターンやピンポイント着陸のような鳥達の持つ多彩な飛行性能と操縦性能の開発に備えることができた。
【0126】
即ち、本発明により、翼輪と尾翼翼輪の、前・後・左・右の翼輪に独立に発生する空気力と回転モーメントを自在に調節することにより、始動から助走、離陸、上昇、加速、水平、減速、降下、着陸、停止に至る全ての運動モードにおいて、滑らかに安定的に飛行モードを切り替えながら操縦できる翼輪飛行機を基礎的に設計できた。

【図面の簡単な説明】
【0127】
【図1】フレキシブルキャンバー回転翼の平面図
【図2】フレキシブルキャンバー回転翼の側面図
【図3】リードバルブ付き回転翼の平面図
【図4】リードバルブ付き回転翼の側面図
【図5】フレキシブルキャンバー回転外延翼の平面図
【図6】フレキシブルキャンバー回転外延翼の側面図
【図7】フレキシブルキャンバー回転外延翼の正面図
【図8】リードバルブ付き回転外延翼の平面図
【図9】リードバルブ付き回転外延翼の側面図
【図10】リードバルブ付き回転外延翼の正面図
【図11】翼輪の断面図
【図12】回転ディスク内の偏心リング割り出し機構の正面図
【図13】回転ディスクの正面図
【図14】簡易翼輪尾翼の断面図
【図15】簡易翼輪尾翼のD−D断面矢視図
【図16】簡易翼輪尾翼の正面図
【図17】翼組の外枠の説明図
【図18】飛行中の簡易翼輪尾翼の作動1/2
【図19】飛行中の簡易翼輪尾翼の作動2/2
【図20】簡易翼輪尾翼の歯車の回転角
【図21】簡易翼輪尾翼の歯車列
【図22】左右の簡易翼輪尾翼の作動1/2
【図23】左右の簡易翼輪尾翼の作動2/2
【図24】翼輪飛行機の種類
【図25】簡易翼輪尾翼機の平面図
【図26】簡易翼輪尾翼機の側面図
【図27】簡易翼輪尾翼機の正面図
【図28】タンデム吊り上げ機の平面図
【図29】タンデム吊り上げ機の側面図
【図30】タンデム吊り上げ機の正面図
【図31】回転外延翼機の平面図
【図32】回転外延翼機の側面図
【図33】回転外延翼機の正面図
【図34】静止外延翼機の平面図
【図35】静止外延翼機の側面図
【図36】静止外延翼機の正面図
【図37】低前方翼輪機の平面図
【図38】低前方翼輪機の側面図
【図39】低前方翼輪機の正面図
【図40】折畳み静止外延翼機の平面図
【図41】折畳み静止外延翼機の側面図
【図42】折畳み静止外延翼機の正面図
【図43】鳥達の離陸角
【図44】回転翼の迎角と回転速度
【図45】回転翼のオフセットの影響
【図46】下方の回転翼の周りの循環流と剥離流れのイメージ
【図47】翼輪の翼面荷重
【図48】フレキシブルキャンバー回転翼の高揚力効果
【図49】ホバリング中に発生する揚力
【図50】翼輪速度を固定して流入気流を加速した時に発生する空気力
【発明を実施するための形態】
【0128】
発明を実施するために、以下の具体的形態をとった。
翼輪飛行機1は飛行機とヘリコプターの両者の機能を併せ持つが、その機能構成は、両者の機能を混ぜ合わせたものではなく、また、どちらかの機能をベースに変更を加えたものでもなく、多様な鳥達の進化ツリーの幹を模擬するような基本的な機能構成に纏まってきた。従って、鳥達の多様性を追って発想される様々な翼輪飛行機1の構想は、この基本的な機能構成の展開上に位置づけられる。
【0129】
機構的には鳥の羽ばたき機構をやや複雑なままに模擬したが、羽ばたき翼を人為的に翼輪4に置換えたために、新たな人為的な機能の追加も必要となった。更に、それに起因して新たな技術的な課題も発生し、その解決策の発明も必要となった。
【0130】
翼輪飛行機1の基礎設計は、色々な翼輪飛行機1の全体像を描きながら、回転翼8、翼輪4、各種補助翼、翼組と設計構成を分析しながら進めた。検討材料となる具体的なアイデアについては、適宜、模型試作によりその有効性を確認した。
【0131】
近年、世界中で空飛ぶ自動車の研究が再燃しているが、その殆どは、飛行機、ヘリコプター、オートジャイロなどの既存の飛行原理をベースにしており、翼輪飛行機1のように新しい飛行原理をベースにした研究は見られない。鳥の羽ばたき翼をやや複雑なままに模擬した翼輪4は、大雑把に言えば、上と下の回転翼8によって鳥の揚力翼である腕の部分を、前と後の回転翼8によって鳥の推力翼である手の部分を模擬し、それらを一つの輪に組み込んだ機構になっている。
【0132】
鳥達は翼を折り畳んで地上を走行し、翼を展開して空を泳いでいるが、空飛ぶ自動車を公道で走らせるためには、現行の法規上は、機体幅を2.5m以内に納めなければならない。そのためには、機体幅の縮小、翼輪幅の短縮、翼輪径の拡大、補助翼の付加などが必要となった。また、乗員と手荷物の重さ、機体重量、外観寸法などの基本仕様の見直しも必要になった。
乗員は水鳥に丸呑みされた大きな餌のように翼輪4の前方に配置し、ペイロードは、1名のドライバーと50kgの手荷物とした。
【0133】
翼輪を用いた空飛ぶ自動車は、エンジンが故障した時に翼輪4の駆動を停止して最寄りの滑走路を探せるように、滑空に必要な翼面積を持たせておく必要がある。そこで、飛行機との比較で必要な翼輪幅を推定してみた。
先ず、比較の基準を1人乗りの軽飛行機にとり、主翼スパンを11m、機体幅を約1mとすると、片側の翼の長さは5mとなる。これに対して、翼輪4の翼面積は3葉の複葉翼に相当するので、片側の翼輪幅を1.7mにすると、一枚翼に換算すると片側翼幅は、5m(1.7×3=5.1)となる。(ちなみに、この参照機の翼弦長は1.3m。エアロスバルの翼弦長は1.5m弱。本発明で設計中の回転翼8のピッチサークル径は1.6m。)
【0134】
従って、翼輪飛行機1の翼輪スパンは4.4m(1.7×2+1=4.4)となり、従来の飛行機と比べると半減しているが、現在の車両規制幅の2.5mは遥かに超えている。このことから、将来、車両幅の規制値が見直されないかぎり、翼輪飛行機1をもってしても空飛ぶ自動車への応用は無理であることが分かる。しかし、まだ軟な新技術である翼輪飛行機1の可能性と課題を早めに見通すために、前提条件に譲歩しながら更に検討を進めてみる。
【0135】
一方、翼輪飛行機1は翼輪4の駆動力を失った場合でもオートローテーション機能を働かせてヘリコプターのように翼輪4を空転させて空き地を探して舞い降りることができる。ただし、翼輪飛行機1の場合は、回転翼8を空転させた時に発生できる揚力が、回転翼8を停止させて滑空した時に発生できる揚力より大きくなるので、翼輪幅は滑空性能で決めておけば安全サイドと言える。
【0136】
鳥を模擬した翼輪飛行機1で哺乳類を模擬した自動車のために作られた道路を走ろうとするのは、本来、無理な話なのであろう。しかし、自動車の限界を克服し、自動車社会の行詰まりを打開したいと願う現代人の野望には押えがたいものがある。一方、翼輪4や翼輪飛行機1の開発は未だテーマ提案の段階であり、その可能性はまだ実機を持って明らかにされてはいない。
【0137】
将来、今の道路の2車線分の幅(7.2m)の道路が与えられれば、4.4mの幅の翼輪飛行機1を空飛ぶ自動車として地上走行させることは可能になる。3車線分の幅(10.8m)の道路が設けられれば、路面からの離着陸も可能になろう。将来、自動車と翼輪飛行機1が共存する社会を作るためには、公道の道路基準は大きく見直す必要がある。
そこで、ここからは、機体幅の制約を5.0mにまで広げて、翼輪飛行機1の可能性の検討を進めてゆく。現時点での翼輪飛行機1の基礎的な設計要件には、公道走行時の外観寸法規制(幅;5.0m、高さ;3.8m)、滑空できる翼面積の確保、ピッチング回転モーメントの制御に必要な尾翼面積の確保の3要件が加わった。
【0138】
具体的な構造設計に入る前に、翼輪4で発生する揚力だけで翼輪飛行機1を吊り上げるのに必要な翼輪4の翼面積を求める。その前に、翼面荷重と飛行速度と回転翼8の公転速度の関係を具体的な数値で当たっておく。
翼面荷重は翼で発生される揚力を翼面積で割った値であるが、300m/sの速度で飛行中のジャンボジェットの翼面荷重は900kg/m 程度である。揚力は流速の2乗に比例するので、100m/sの速度では100kg/m 、70m/sの速度では50kg/m 、50m/sの速度では25kg/m となる。
翼輪4の翼面荷重にもこの値を用いて必要な翼面積を推定してみる。翼面積が1m の回転翼8を4枚取り付けた翼輪4に発生する揚力は、上側の前進ストロークと前側の打ち下ろしストロークと下側の後退ストロークと後側の跳ね上げストロークの、4枚の回転翼8が発生する揚力の総和である。
翼輪4を停止して滑空している状態を考えると、左右の翼輪4の8枚の回転翼8に発生する揚力は、100m/sの飛行速度では800kg、70m/sの速度では400kg/m、50m/sの速度では200kgとなる。従って、200kgの機体であれば、50m/s(=180km/h)の滑空速度で着陸できることになる。
【0139】
定点着陸の前のホバリングでは、必要な揚力を飛行速度ではなく翼輪4の回転速度によって発生する必要がある。翼輪飛行機1のホバリングでは、ヒバリのホバリングのように前側と後側の回転翼8では、自ら前方から吸い込み後方に吹き出して気流を起こし、その気流を曲げながら加速することで揚力を発生する。その他に、上側の回転翼8でも回転速度に等しい相対速度の気流を受けて揚力が発生する。下側の回転翼8は回転速度で後退しており、前側で空気を引き込みながら後端部では剥離しながら空気を切り裂いているので負の揚力を発生する。しかし、剥離しているのと、後向きの気流の発生により相対気流速度も小さくなっているので、大きな負の揚力は発生しないと考えて無視しておく。回転翼8の公転速度を80m/s、加速された気流の速度を40m/sと仮定すると上側、前側、下側、後側のそれぞれの回転翼8に発生する揚力は、64kg、36kg、0、36kgとなり、左右8枚の回転翼8の合計は272kgとなる。翼輪4の回転速度をこの程度に上げられれば250kg程度の機体を滑走せずに吊り上げられることになる。
定点離着陸できる翼輪飛行機1を実現するためには、基本的に、大幅な軽量化と空気抵抗の低減と翼輪4の高速化が必要なことは明らかである。図49を見よ。
【0140】
翼輪4は可変ピッチ回転翼であるので、迎角を適正に維持するように制御してゆけば、翼輪4の回転速度を固定したままで、どこまでも流入気流を加速してゆける。この時、推力と同時に揚力も増加するので、水平飛行を保つためには、平行傾斜角を下げて、上と下の回転翼の迎角を小さくして揚力を下げる操作が必要になる。その時には上と下の回転翼8の抗力が減少する。この点は、飛行速度を上がるとプロペラの回転速度も上げないと加速できなくなる飛行機の固定ピッチプロペラの動きとは異なるが、ゆっくりと羽ばたいて高速飛行中に加速するツルの翼の動きに良く似ている。図50を見よ。
【0141】
また、低速での滑走離着陸や定点離着陸は高揚力機構が開発できると容易になる。飛行機は、高揚力機構の開発により離着陸時の翼面荷重を上げて、あの程度の低速で離着陸できるようになっている。静かに定点着陸するシラサギの様子を見ると、羽ばたきを止めて、翼をほぼ水平にして滑空し、着地点に近づくと翼の後部を下げて迎角を大きくして揚力を確保しながら減速し、最後にもう一度ゆっくり羽ばたきながら位置を選んで着地している。
【0142】
翼輪飛行機1もシラサギのように定点軟着陸できるよう設計したい。フレキシブルキャンバー回転翼49は発生する空気力が小さい時には翼断面の後部が下ってキャンバーが大きくなるが、この特性は、過大な入力に対するクッション効果に止まらず、高揚力機構としても有効である。低速時に自動的に揚力係数を上げられる高揚力機構は、翼輪4の回転速度の制御も容易にしよう。翼輪飛行機1の実用化のためには、フレキシブルキャンバー回転翼49の高揚力機構の研究は極めて興味深い技術開発課題となろう。図48を見よ。
【0143】
基礎的な設計項目は次の通りとなった。
(1)回転翼8の製造方法の見直しと回転翼8の構造の設計
回転翼8と回転外延翼60は、回転中に迎角を調節して発生する空気力を変えている。鳥達も、羽ばたき運動中に、翼の捩じりだけでなく、羽根の弾性変形も利用して迎角を調節している。この鳥達の羽ばたき翼の構造をやや複雑なままに模擬するために、製造方法にまで遡って回転翼8の構造を見直した。
具体的には、過大な迎角や負の迎角になった時に回転翼8に発生する過大な空気力を、非線形弾性変形によるキャンバー変化や、弁機構による空気の逃がしにより緩和する回転翼8の設計を試みた。
【0144】
・ 翼輪4の設計
翼輪4は鳥の揚力翼である腕の部分と推力翼である手の部分を一つの輪に組み込んで回転させている。そのため、翼輪4の回転速度を上げることで、発生する空気力を増大できる。
そこで、翼輪4の回転速度を上げるために、使われている軸受けと歯車の抵抗を低減し、回転ディスク5の幅を短縮して空気抵抗を低減しながら軽量化し、支持剛性と構造剛性を上げて回転軸系の動剛性を上げて翼輪4の限界回転速度(一次固有振動数)の増大を図った。図11、図12、図13を見よ。
【0145】
一方、翼輪4を用いると飛行機と比べて主翼スパンを半減できる特徴を生かして、色々な翼輪飛行機1を発想して、そのレイアウト図を描いてみた。
その際、飛行機やヘリコプターとの違いや、同じ爬虫類から進化した哺乳類の足を模擬した車輪を利用した自動車との違いをチェックし、機能構成の完全性を確認した。
また、同じ原理機構から多様な羽ばたき翼を進化させている鳥達の翼について、重さと離陸角度の関係を探ってみた。その中で、最重量級の鳥であるハクチョウの、翼をあまり捩じらずに上下に緩やかに羽ばたくほぼ水平の飛行と、最軽量の鳥であるハチドリの真上を向いて翼を180°捩って激しく羽ばたく滞空飛行の著しい違いに注目した。そして、これらの両極端の飛行モードが同じ原理の羽ばたき機構から進化していることを再発見して驚かされた。
【0146】
翼をあまり捩じらないハクチョウの飛行では、打ち下ろしストロークと跳ね上げストロークでの迎角変化には翼の弾性変形が巧みに利用されているようにみえる。この様な飛行は、翼の弾性変形が巧く利用できれば、周期的に回転翼8を揺動させる機構を使わなくても迎角のコントロールが可能になることを示唆している。しかし、そのような飛行モードに特化した翼輪飛行機1は、ハクチョウのように助走無しには離水できなくなるであろう。ただし、水平飛行に特化して人類が発明した飛行機は、ハクチョウを遥かに超えた水平飛行能力を獲得している。
【0147】
同じように空中で立ち泳ぎをするハチドリとヘリコプターを比較してみると、真上に向けたローターで空気を吹き降ろす反力で浮上するティルトローターヘリコプターはハチドリの飛行メカニズムを殆ど完全に模擬しているように見える。しかし、ハチドリの飛行の巧妙さと比べるとまだ操縦安定性においてかなりのぎこちなさを残している。ただし、垂直飛行に特化して人類が発明したヘリコプターは、ハチドリを遥かに超えた垂直飛行能力を獲得している。
【0148】
そんな視点で翼輪飛行機1のポジションを考えてみると、最重量級のハクチョウと最軽量級のハチドリの間に位置する様々な鳥達の種類の数だけ、助走無しに舞い上がりそのまま飛行に移れる様々な翼輪飛行機1が展開されると推察される。鳥達の羽ばたき翼の多様性は鳥達の羽ばたき離陸角の多様性に現れている。図43を見よ。
【0149】
飛行機の主翼の揚力の作用点は、翼に発生する回転モーメントの変化を最小化する翼弦の前縁から25%の空力中心に取られている。翼輪4では、回転翼8自身の回転モーメントの他に、回転翼8に発生する空気力の回転方向成分に回転半径を掛けた回転モーメントが発生するので、翼輪中心周りには、それらの総和の回転モーメントが発生する。
回転翼8自身の回転モーメントの変動は迎角の制御を難しくするのでできるだけ小さくしておきたい。また、回転翼8の回転中心位置を空力中心の前後に移動させてみると、翼輪飛行機1の回転翼8でも翼弦の前縁から25%の空力中心は、空気力によって発生する回転モーメントの変動を最小化する点であることが分かる。図45を見よ。
【0150】
(3)下方静止翼85の設計
下方静止翼85は、色々な機能が盛り込める大変便利な補助翼であるが、大きくすれば空気抵抗も増大させるので安易に大きくはできない。一方、翼輪4の下側にまわる回転翼8は、回転速度が飛行速度より大きくなったときには、外気に対して後退することになり、回転翼8の後端に流入する気流が剥離し剥離層を形成する。また、小さな半径の曲面を持つ回転翼8の前縁では気流が剥離し剥離渦を発生する。これらの渦は翼輪4の回転抵抗を増大させるが、逆に見れば、前方から空気を引き寄せて翼輪4の下部の気流を後方に加速するかもしれない。図46を見よ。
下死点を通過する回転翼8の周りには循環が発生するが、回転翼8の下死点からの移動は、後退移動と上昇移動と回転移動に分解できる。翼輪4で発生する空気力のシミュレーション解析には、回転移動の影響は無視できず、この回転移動によって循環がどのように変わるのかは大変興味深いテーマであるが、何が起こるのかは今後の研究を待たなければならない。
今は、下方静止翼85は、後退運動する回転翼8へ入る気流の影響を定性的に推定しながら、担わせる他の機能も考慮して、必要と思われる形とサイズと配置に仮に設計しておくに止めた。
【0151】
(4)外延翼の設計
鳥達は、手の部分の初列風切り羽の動きと腕の部分の次列風切り羽の動きを連係させて上反り角や迎角を調節しながら、低速時には翼のスパンを一杯に広げて羽ばたいているが、この動きが、揚力と推力を発生しながら、飛行の操縦・安定性を保証している。このような鳥の翼の挙動と翼輪飛行機1の翼輪4の挙動の比較から、回転翼8のみでは操縦・安定性が十分に保証できない場合があることが推定された。そこで、その場合に不足を補うための機構として、翼輪の外側に翼組外枠74を形成し、そこに静止外延翼58を取り付ける設計を採用した。また、回転翼8の外側端に直に付ける回転外延翼60も設定した。また、中央静止翼取付け軸7の外側端に直に取り付ける中央静止外延翼56も設定した。これらの外延翼の選定によって、鳥達の多様な飛行形態を模擬した様々な翼輪飛行機1の展開が可能になる。
【0152】
(5)尾翼の設計
特許文献1の発明までは飛行機の尾翼に順じた静止尾翼で対応できると考えてきたが、尾翼面積の不足は感じていた。今は、従来の飛行機の特殊性を考えると、静止尾翼でカバーできる翼輪飛行機1の仕様はかなり限定されると推定している。そして、鳥達の飛行の観察から羽ばたき翼と尾翼の関係を改めて読み解き、また、羽ばたき運動を回転運動に人為的に変えた翼輪4の特性を勘案すると、尾翼も翼輪4にマッチさせた翼輪尾翼にするのが妥当と考えるようになった。ただし、尾翼には機体の吊り上げ荷重を分担させなくてよいが制御のし易さが要求されるので、主翼用の翼輪とは別の設計が必要になる。また、翼輪尾翼は静止尾翼と比べて制御容量を大幅に増大できる。そのような考察から尾翼用には、全ての機能を備えた正規翼輪尾翼73の他に揺動付加機構11を省いた簡易翼輪尾翼68も用意した。
回転翼95の平行回転は同じ歯数の太陽歯車94と回転翼歯車96の間に任意の歯数の中間歯車を挟むことで得られる。図14、図15、図16、図20、図21を見よ。
【0153】
回転翼95の平行傾斜角は太陽歯車94の回転位置の調節によって変えられる。回転翼95の迎角は、回転速度と飛行速度のベクトル和である流入気流ベクトルと回転翼95の翼弦の方向との交角として決められる。機体2の姿勢角、機体2の飛行方向、簡易翼輪尾翼68の回転速度、回転翼95の平行傾斜角、中央静止翼72の傾斜角の5つの制御ファクターにより、簡易翼輪尾翼68に発生する空気力と回転モーメントが調節される。回転速度は回生モーターの制動トルクや駆動トルクにより制御される。
機体を水平にして、滑空する場合の、低速飛行中や加速飛行中の制御ファクターの位置を模式的に示しておく。ただし、停止速度は十分に小さいアイドリング速度で示している。図18、図19を見よ。
【0154】
(6)翼組外枠74の設計
翼輪飛行機1には仕様により翼輪4の他に幾つかの補助翼が組み合わされる。その中で、回転翼8と回転外延翼60は振れ回り振動する回転軸の一部として周期的に弾性変形しながら回転する。この運動は、単純化した振動系モデルとしては、2自由度の曲げ振動と2自由度の捩じり振動が連成した強制振動と見ることができる。この系の振動特性は支持剛性や結合部剛性の大きさによって大きく変わる。また、この翼輪の曲げ振動は回転軸の振れ回り運動となり、ベアリングを焼き付かせてしまうので危険速度は乗り越えられない。
一方、翼輪4は、翼輪4に発生する回転速度に同期した周波数の加振モーメントによって強制捩じり振動をさせられながら回転する。そのため、回転速度が1次の捩じり固有振動数に達すると共振を起こして、迎角制御が不可能になる。
そのために、振動系の支持剛性や構造剛性を高めるための構造的な工夫を基本構造に確実に織り込むことが設計の第一歩となる。
曲げと捩じりの振動に対する回転翼8の支持剛性と曲げ剛性の影響と、捩じり振動に対する駆動系の弾性変形と翼輪4の回転慣性モーメントの影響については、今後の解析と実験による早めの設計理論の確認が必要である。
構造的な工夫の一つとして、下方静止翼85と中央静止翼取付け軸7と簡易翼輪尾翼68のそれぞれの外側端を3点ステー76で結び、翼組外枠74を形成した。
また、回転外延翼60を用いる場合は、下方静止翼85と簡易翼輪尾翼68の側端を結ぶ2点ステー75に2つのサポートローラー86を付け、それらで外側回転ディスク6の外周を支えることで翼組外枠74を形成した。
【0155】
(7)翼輪飛行機1の設計
ここまでに用意した部分設計を組み合わせると、多様な翼輪飛行機1が設計できる。その例として、これまでに描かれた翼輪飛行機1の中から代表的な機種を幾つかピックアップしてみた。図24、図25〜図42を見よ。

・ 簡易翼輪尾翼機77・・・・尾翼を簡易翼輪尾翼68にした翼輪飛行機1
・ タンデム吊り上げ機78・・前後に翼輪を持つタンデムヘリのような翼輪飛行機1
・ 回転外延翼機79・・・・・翼輪4に回転外延翼60を取り付けた翼輪飛行機1
・ 静止外延翼機80・・・・・翼輪4に静止外延翼58を取り付けた翼輪飛行機1
・ 低前方翼輪付き機81・・・低い前方翼輪83付の自動車のような翼輪飛行機1
・ 折畳み静止外延翼機82・・折畳み静止外延翼89付の自動車のような翼輪飛行機1
【0156】
自動車は人類が作り出した乗り物であるが、飛行に移れないところに限界がある。これまで、この限界を破る乗り物として、コンパクトで、安価で、操縦が容易で、安全な空飛ぶ自動車を求めて具体的な構想を練ってきた。その中間的な結果として、地上では自動車として走行でき、空中では、走る・曲がる・止まるに加えて昇降機能を持ち、ヘリコプターのように舞い、飛行機のように飛行できる空飛ぶ自動車の概念を折畳み静止外延翼機82の機能構成をレイアウト図に表現してみた。


【実施例1】
【0157】
具体的な設計項目は次の通りとなった。
(1)成型部品を用いた回転翼8の設計
・フレキシブルキャンバー回転翼49の設計
・リードバルブ付き回転翼53の設計
・フレキシブルキャンバー回転外延翼61の設計
・リードバルブ付き回転外延翼65の設計
(2)翼輪4の設計
・翼輪4の全体設計
・回転ディスク5の幅の短縮
・翼輪4の潤滑方式の選定と支持構造の設計
(3)下方静止翼85の設計
・機能の確認と形状・サイズ・配置の設計
(4)外延翼の設計
・静止外延翼58の設計
・回転外延翼60の設計
・中央静止外延翼56の設計
・折畳み静止外延翼89の設計
(5)翼輪尾翼の設計
・簡易翼輪尾翼68の設計(揺動付加機能を省略)
・正規翼輪尾翼73の設定(揚力も分担するフルスペックの補助翼輪)
(6)翼組外枠の設計
・下方静止翼85と中央静止翼取付け軸7と簡易翼輪尾翼68の側端部を結ぶ翼組外枠74の形成
・回転外延翼60を用いた翼輪4の外側を支えるための、下方静止翼85と簡易翼輪尾翼68の側端を結ぶ翼組外枠74の形成
(7)翼輪飛行機の機種展開
【0158】
(1)成型部品を用いた回転翼8の設計
回転翼8は翼輪4を代表する部品である。鳥の翼は複数の羽根を重ねて形成されているが、一枚の羽根は羽軸の両側に羽弁とよばれる編状部分を広げた非線形バネ特性を持った弾性体となっている。また、風切り羽では、隣り合う羽根の羽弁の一部を重ねることにより弁機構が形成されている。そこで、やや複雑なままに鳥の羽ばたき翼を模擬するために、翼の構造を製造方法にまで遡って見直し、フレキシブルキャンバー回転翼49とリードバルブ付き回転翼53を設計した。
【0159】
翼輪4の回転翼8の形状はプロペラのように断面を長手方向に捻る必要がないので比較的単純な形状にできる。しかし、複数の回転翼8を円筒の外周面に回動自在に嵌着して自転しながら公転させるために大きな荷重変動が発生するが、ある時点で翼輪4に掛かる荷重は複数の回転翼8の荷重の総和になるので、総和は大きくなるが、振動は総和の変動分となる。
【0160】
変動分を小さくするためには、回転翼8の数を増やす他に、形状精度が高く、軽量で剛性の高い回転翼8にして、それらを精度良く組みつけて駆動しなければならない。更に、商品開発の段階では、回転翼8は定期交換部品に指定されるので、低コストで大量生産することを求められる。従って、回転翼8の製造法と設計については、今の段階から、従来の少量生産部品を用いた設計から、プレス成型品のような大量生産部品を用いた設計に切り替える方向で検討を始めた。
今は金属板のプレス成型部品を想定して回転翼8の設計を進めているが、次の段階では、樹脂化と静止翼への展開が検討課題となろう。
【0161】
フレキシブルキャンバー回転翼49は、請求項1と請求項12の発明を踏まえて設計した。図1、図2を見よ。
高い形状精度と量産性が得られるプレス成型技術で製造されたインナーパネル51とアウターパネル50を溶接する製造方法を採用した。これらの2枚のパネルの形状と合わせ面と接合部の設計によって、様々な非線形バネ特性を有する回転翼8が設計できる。
その一例として、上下非対称な形状のアウターパネル50とインナーパネル51を上下非対称な溶接部位で接合することによって、回転翼の後方部分を上から押し下げたときに曲がり易く、下から押し上げたときに曲がり難い非線形バネ特性を持つフレキシブルキャンバー回転翼49を設計した。
【0162】
翼の上面と下面を形成するアウターパネル50は曲げ加工によって成型される。インナーパネル51は、絞り加工によって形成されるが、張り出し部分に形成された翼型断面ゲージ形状をアウターパネル50との接合面とし、法面によって形成された半円状の溝断面形状をトルクチューブ52との接合面とした。インナーパネル51は、弾性的に広げられたアウターパネル50に挿入され、翼型断面ゲージ形状を持った上・下の接合面で接合した。翼の後端部はアウターパネル50の上部とインナーパネル51、および、インナーパネル51とアウターパネル50の下部の2列で接合した。
【0163】
翼の後方には、アウターパネル50の後方上部とインナーパネル51との接合で3角形の2次元閉断面を形成し、その後方に、折れてから斜め後・下方に湾曲するインナーパネル51と平面部から斜め後・下方に湾曲するアウターパネル50によって湾曲クサビ状閉断面を形成し、3角形の2次元閉断面を形成するインナーパネル51の平面部に湾曲クサビ状閉断面の前側の接合線を設け、アウターパネル50の後方上部とインナーパネル51の後方部とアウターパネル50の後方下部で重ね板ばねを形成し、翼の後方部分を上から押し下げたときに曲がり易く、下から押し上げたときに曲がり難い非線形バネ特性を持たせた回転翼8の構造とした。
【0164】
他の設計例としては、フレキシブルキャンバー回転外延翼61を設計した。図5、図6、図7を見よ。
【0165】
リードバルブ付き回転翼53は、請求項2の発明を踏まえて設計した。その一例として、回転翼の後方部分を上から押し下げたときに重ねられたはみ出し部分に隙が生じ、下から押し上げたときに重ねられたはみ出し部分が密着される弁機構を持ったリードバルブ付き回転翼53を設計した。図3、図4を見よ。
【0166】
アウターパネル54とインナーパネル55の2点のプレス成型部品を接合して回転翼を形成した。インナーパネル55は、絞り加工で張り出された上の部分と下の部分で部分的な翼型断面ゲージ形状を形成してアウターパネル54との接合面とし、インナーパネル55の前方上部に形成された半円状の溝形状の法面をトルクチューブ52との接合面とした。翼の上面と下面を形成するアウターパネル54は曲げ加工によって成型される。インナーパネル55は、弾性的に広げられたアウターパネル54に挿入され、翼型断面ゲージ形状を形成している接合面で接合される。
【0167】
アウターパネル54の波形状のはみ出し部分を隣り合う波形状のはみ出し部分に重ねた状態で、アウターパネル54のはみ出し部分でない合わせ面でインナーパネル55を挟んで接合することによって弁が形成される。2枚のパネルの形状と合わせ面と接合部の設計によって、様々なリードバルブ付き回転翼53が設計できる。
【0168】
他の設計例としては、リードバルブ付き回転外延翼64を設計した。ただし、この設計ではリードバルブの方向はタカの初列風切り羽のように外側に向けた。
【0169】
構成部品は、アウターパネル66、インナーパネル67、硬質ラバーモール65の3点である。ただし、アウターパネル66は、上下に2分割した。両者は前縁のフランジ部で2枚溶接され、そのフランジ部には翼型の前縁曲面断面を持った射出成型品の硬質ラバーモール65を嵌めて接着した。後縁のフランジ部では上下2枚の間にインナーパネル67を挟んで3枚溶接とした。インナーパネル67の前端はアウターパネル66の下側の前方のフランジ部の後の底面に溶接し、後端は後方に付きだして弁板とし、後方の分割翼の前縁の硬質ラバーモール65の下面に接触させて、弁機能を成立させた。インナーパネル67には絞り成型により凹凸を付け、アウターパネル66との接触面となる翼型断面ゲージ形状を形成し、そこでも両者を接合した。図8、図9、図10を見よ。
【0170】
(2)翼輪4の設計
翼輪4は、飛行機と比べて主翼スパンを小さくできるが、この特徴を生かすために、与えられた翼輪幅の中で回転ディスク5の幅を小さくし、回転翼8の幅を大きくした。回転ディスク5が占める前面投影面積は翼輪飛行機1の空力抵抗を低減するためにもできるだけ小さくする必要があった。
【0171】
回転ディスク5内の揺動付加機構11の遥動アームローラー24と偏心リング20とランナーリング98の間の接触点はオイル潤滑が必要であった。また、平行回転歯車機構13の中の歯車の噛みあい接触点にもオイル潤滑が必要であった。そこで、回転ディスク5内の歯車と遥動アームローラー24の転動面とそれらの回転軸の支持軸受けについて適切な、軸受け方式、潤滑方式、シール方式を選定し、潤滑環境によって仕切り、室を形成した。合わせて、回転ディスク5の軽量化とコンパクト化と高剛性化を図った。
【0172】
軽量で動剛性の高い構造を持ち、コンパクトで駆動抵抗の小さい翼輪4ができれば、翼輪4を高速で回転できる。翼輪4が高速化できれば、回転翼8の翼面積に余裕が出るので、翼輪4のコンパクト化も進め易くなる。そこで、回転ディスク5の設計に当たっては、具体的には次の課題の解決を図った。
・ 回転ディスク5の幅の短縮
・ 回転ディスク5の支持剛性の増大と軽量化
・ 転がり接触面での転がり抵抗の低減
・ 回転バランスの最小化とバランスの取り易さの配慮
・ 制御リンクのコンパクトな組み込み
【0173】
回転ディスク5の支持構造は、請求項3の発明を踏まえて設計した。即ち、翼輪主軸9を機体2に固定した翼輪取り付け台3に取り付け、回転ディスク5の内側と外側を転がり軸受け18と19で支持し、内側の転がり軸受け18の外輪は翼輪取り付け台3のハウジング部分17に、内輪は回転ディスク5の内側に固定し、外側の転がり軸受け19の内輪は翼輪主軸9に、外輪は回転ディスク5の外側に固定し、 回転ディスク5の内側の転がり軸受け18の内輪が嵌合される回転ディスクカバー15の内側円筒部分16の内径面と翼輪主軸9の外径面との間に隙間を設け、その隙間に偏心リング割り出し機構10を操作する偏心リング駆動歯車21と中心側偏心ディスク22の2つのスリーブ部分を貫通させた。
【0174】
翼輪4の回転ディスク5内を潤滑環境によって仕切った室は、請求項4の発明を踏まえて設計した。即ち、回転ディスク5内の歯車列の全ての軸受けに転がり軸受けを採用し、特に、回転スリーブ部品の支持には針状コロ軸受け26、28、43を採用した。そして、回転ディスク5内を減速歯車列室29、増速ベルト室34、回転翼駆動ベルト室35、遥動機構室23の4室に仕切り、各室毎に適切な潤滑条件を設定できるようにした。減速歯車列室29は全ての回転翼8の減速歯車列27を納めるために複数の穴を形成した一つのセンターギアーケースの中央側の空間であるが、センターギアーケース30の外周壁で回転翼駆動ベルト室35との隔壁を形成し、センターギアーケースカバー31で遥動機構室23との隔壁を形成し、センターギアーケース30の外側フランジで増速ベルト室34との隔壁を形成した。これらの隔壁や回転ディスクカバー15は、回転ディスク5の構造の剛性を高めることも配慮して設計した。
【0175】
翼輪4の回転ディスク5内の偏心リング割り出し機構10は、請求項5の発明を踏まえて設計した。即ち、偏心リング割り出し機構10に含まれる2個の偏心ディスク部品である中心側偏心ディスク22と偏心リング20を同じ幅スペース内の中央側と外周側に配置し、偏心リング割り出し機構10の幅を短縮し、回転ディスク5の幅方向のコンパクト化を図った。
【0176】
回転ディスク5の中央に中央静止翼取付け軸7を取付ける構造は、請求項6の発明を踏まえて設計した。即ち、中央静止翼を取付ける中央静止翼ディスクA39を翼輪主軸9の外側端に固定し、そのディスクに結合した中央静止翼軸36に中央静止翼駆動歯車37と一体化された中央静止翼42を回動自在に嵌着し、中央静止翼42の角度位置を、翼輪主軸9の穴に装着した中央静止翼迎角調節歯車列38を介して調節できるようにした。中央静止翼軸36の外側端は中央静止翼ディスクB40に固定した。中央静止翼ディスクB40は外側回転ディスク6を支持する中央静止翼外側主軸41に結合した。
【0177】
これにより、翼輪主軸9と中央静止翼取付け軸7を一体化することができた。また、翼輪主軸9の穴のスペースを利用して、中央静止翼取付け軸7と中央静止翼42の傾斜角を調節するリンクとを翼輪4にコンパクトに組み込むことができた。
【0178】
(3)下方静止翼85の設計
回転速度が流入気流速度より大きくなる場合には、正の迎角を持って前下がりに回転する翼輪4の、下死点を通過する回転翼8は、相対的に、後ろ向きに風を切ることになる。このような状態の回転翼8の後端には剥離層が形成され再付着し、前端には剥離渦が生成されて流れ去るので大きな抗力が発生するが、潤還流は断ち切られるので、大きな負の揚力は発生しない。しかし、翼輪4の下方に下方静止翼85を適切に配置した場合には、下方静止翼85の上部の気流が回転翼8の下方の気流を整流し、加速する可能性もある。しかし、そのような流れの状態の確認は現時点ではできないので、下方静止翼85は、この現象の流れの状態についての模式的なイメージを描くことによって仮設計とした。図46を見よ。
【0179】
実際の翼輪飛行機1の運転状態を考えると、回転翼8が後ろ向きに風を切る現象は流入気流速度が翼輪4の回転速度より大きくなる殆どの飛行状態では発生しない。発生する可能性があるのは始動時とホバリング開始時であるが、定常ホバリング中は遥動角を大きくして空気を前方から掻き込み、後下方に吐き出しているので回転翼8が後ろ向きに風を切る現象は消えている。
【0180】
始動時には初期の気流を発生させるために一瞬は回転翼8が後ろ向きに風を切る現象が生じるが、その後は前方から掻き込まれた気流を加速してゆくのでこの現象は消える。ただし、この一瞬の現象は地上に停機中の現象なので安全上の問題はない。一方、地上に停止して始動する時には揚力の発生が不要なので平行迎角をゼロまたは少しマイナス目にすることにより回転翼8の後端に発生する剥離を少なくできる。従って、この現象は完全に発生しなくなるまで改善しなければならない安全上の問題ではない。鳥達の羽ばたき運動の中にも似たような問題が生じていて、進化の過程でその影響を実用上問題ないレベルにまで克服してきているように見える。図50を見よ。
【0181】
しかし、この現象を抑えることは騒音性能や燃費効率や信頼性や商品クオリティーを高めるためには重要であり、商品開発においては重要な性能となろう。従って、下方静止翼85の翼断面形状と配置は開発プロセスの中で解析とテストを繰り返して育成するべき設計項目となろう。
【0182】
下方静止翼85の潤還流を考慮すると、下方静止翼85の上部に流れる気流を、下死点に近づく回転翼8の下部に流入させるように、下方静止翼85の断面形状と配置を設計できれば、回転翼8に発生する抗力を小さくできるかも知れない。即ち、右回りに大きな循環流を発生するように大きめのキャンバーを付けた下方静止翼85を、下方静止翼85の上面を通過した空気が、翼輪4の下死点を通過する回転翼8の前下方に、その迎角に近い角度で流れ込むように、小さめまたは少し負の迎角を付けて、翼輪4の前下方に配置する設計が考えられる。
しかし、回転翼8に発生する現象を限定的なものと考えて、下方静止翼85の上部の気流と回転翼8の下部に入る気流が干渉しないように、十分な距離をとって配置する設計も考えられる。
また、回転翼8をリードバルブ付き回転翼53にして、鳥達のように、後ろ向きに風を切る時に弁を開き、翼弦を短縮し、キャンバーを自動的に小さくすることも有効な解決策になろう。
【0183】
下方静止翼85は、補助的な静止翼としての利用だけでなく、3点ステー76に結合して翼輪飛行機1の翼組外枠74の形成にも利用した。また、下方静止翼85の内部空間は、静止外延翼58の可動フラップ59を動かすためのリンクを通すのにも利用することにした。
【0184】
(4)外延翼の設計
回転翼8の幅方向の長さが片側で1m程度にしかできない場合は、滑空のための翼面積としては十分ではない。それを補うための方策の一つとして、静止外延翼58を取り付ける設計が考えられる。
【0185】
静止外延翼58は、請求項7の発明を踏まえて設計した。即ち、翼輪4の外側に出ている中央静止翼取付け軸7の外側端に取り付けた3点ステー76に静止外延翼58を結合し、翼面積の拡大を計り、併せて、静止外延翼58に上反り角や後退角を付けることにより翼輪飛行機1の操縦安定性の改善を計る設計とした。また、静止外延翼58の一部を分割して姿勢制御用の可動フラップ59にするオプションも用意した。この設計により、翼輪4のみでは揚力や姿勢制御容量が不足する場合にそれらを補う手段を用意できた。
【0186】
翼輪4の持つ翼面積の不足を補うための別の方策としては、翼輪4の回転翼8の外側に回転外延翼60を付加することもできる。回転外延翼60は、請求項8を踏まえて設計した。即ち、翼輪4の翼面積が十分ではない場合にその不足を補うために回転翼8の外側に回転外延翼60を取り付けた。回転外延翼60にはフレキシブルキャンバー回転外延翼61やリードバルブ付き回転外延翼64もオプションとして用意した。
回転外延翼60に加えて中央静止翼取付け軸7の外側に中央静止外延翼56を取り付ける設計もオプションとして用意した。
【0187】
ローリング安定性は、翼輪4を機体の重心に対して高く搭載して空気力の作用点を高くし、翼輪4で機体を吊り上げるようにしても高められる。更に、中央静止外延翼56や回転外延翼60に上反り角を付けることによっても改善される。
【0188】
翼輪4の回転を止めて回転翼8を停止すると、翼輪飛行機1は、同じ主翼スパンの3葉の複葉飛行機に匹敵する揚力を発生して滑空できる。その後、翼輪4の停止を解除し、回生モーターにより速度を調節しながら回転翼8を回転させると、翼輪4の回転速度の上昇により上部にくる前進ストロークの回転翼8に流入する気流の速度が増大するが、翼に発生する空気力が流入気流速度の2乗に比例して増幅されるので、翼輪に発生する空気力を滑空時よりも大きくできる。
【0189】
一方、ヘリコプターは、エンジンが故障した場合には、オートローテーション操作によりローターを空転させて揚力を維持しながら緩降下できる。また、機体の飛行速度エネルギーや位置エネルギーをローターの回転エネルギーに変換して、飛行速度を調節することもできる。
このような速度エネルギーや位置エネルギーを利用した飛行状態の調節は鳥達が巧妙に行っている。ハクチョウは滑空して着水する直前には、必要に応じて制動や加速のための羽ばたきを追加している。
鳥達が当たり前にやっているように、翼輪飛行機1も機体の減速エネルギーを利用して翼輪4の回転を加速して揚力を増大させて軟着陸することができる。飛行機の滑空機能とヘリコプターのオートローテーション機能を同時に働かせて自由自在に飛行できるのが翼輪飛行機1の特徴の一つである。
【0190】
(5)翼輪尾翼の設計
鳥達は垂直尾翼を持っていないが、シャープなユーターンを演じている。カラスは、着陸制動時に尾翼の幅を大きく広げて下げて、フラップ効果を効かせ、体がピッチング回転するのを防いでいる。
鳥達の尾翼は大きく広げて過大なピッチング回転モーメントによる体の回転を抑える機能と、飛行中の機体の姿勢角を調節して維持する機能の両方を備えている。また、尾翼を捻ることにより横方向に空気力の成分を発生させ、飛行中の外乱によるローリング方向やヨーイング方向の姿勢角の変化を防いでいる。しかし、鳥のように水平尾翼を開閉する機構と、捻って横方向の空気力成分を生み出す機構を、静止翼への機能追加の方向で設計してみると機構はかなり複雑になってしまう。

【0191】
ところが、翼輪飛行機1は、左右の翼輪4の揚力と推力または抗力を独立に調節して、ピッチングとローリングとヨーイングの3方向の回転モーメントを分離して発生し、制御できるので、原理的には、鳥達の垂直尾翼無しに水平尾翼だけで旋回する飛行も模擬できている。
【0192】
また、翼輪4は、上下往復の羽ばたき運動を回転運動に変えているために過大なピッチング回転モーメントを発生することがあるが、その場合には飛行機並みの水平尾翼面積ではピッチング回転方向の姿勢制御容量が十分に取れない。そこで、翼輪飛行機1の尾翼も翼輪にした。翼輪は3葉の複葉翼に相当するので、同じ平面投影尾翼面積の静止翼に比べて尾翼面積を大幅に増やすことができるので、ピッチング回転方向の制御容量を大幅に増大できた。先行技術を見ると、特許文献1の中でも、小さな翼輪を機体2の前方に搭載している。
【0193】
簡易翼輪尾翼68は、請求項9を踏まえて設計した。即ち、簡易翼輪尾翼68を姿勢制御用に設計し、従来の飛行機の尾翼に置き換えることによって、翼輪飛行機1に過大なピッチング回転モーメントが発生した時のピッチング回転の制御を容易にした。
回転翼95を周期的に遥動させる機構を省いた歯車列にして駆動抵抗を低減し、迎角は回転速度と中央静止翼72の傾斜角と太陽歯車94の傾斜角の調節により制御される。
【0194】
回転翼95の平行回転は簡易翼輪尾翼68を1回転させる間に回転翼95を逆方向に1回転させる歯車列で得られるが、そこに含まれる全ての歯車の回転軸は転がり軸受けで支持した。転がり軸受けは封入されたグリースで潤滑されるが、歯車の噛み合い部は簡易翼輪ギアーケース70内のオイルで飛沫潤滑される。
簡易翼輪尾翼68の回転翼95にフレキシブルキャンバー回転翼49やリードバルブ付き回転翼53を応用すると、過大な回転モーメントの発生が自動的に抑えられるので、制御性能が改善される。
【0195】
簡易翼輪尾翼68には、翼輪飛行機1の揚力や推力は分担させずに、姿勢制御と操縦・安定性の制御だけを担わせればよいので、回転翼95と中央静止翼72の翼型は迎角変化に対する感度に中立性を持たせるために対称翼とした。
回転翼95の静止状態は回転を止めても良いが、敏捷で微妙な姿勢制御のためには歯車列をゆっくりと回転させてアイドリング状態にしておく方が良いかも知れない。図18、図19を見よ。
【0196】
鳥達は尾翼の捩じり量と上下に傾ける量を調節してロールモーメントとヨーモーメントを発生してローリング方向とヨーイング方向の姿勢制御をしている。しかし、簡易翼輪尾翼68には、尾翼を捩じり、上下に傾ける機構は付いていないが、左右の揚力を変えてロールモーメントを、左右の抗力または推力を変えてヨーモーメントを発生することによりロール回転とヨー回転に対する姿勢制御ができる。
また、翼輪飛行機1は、主翼用の翼輪4でもピッチング、ローリング、ヨーイングの3方向の回転角度を調節できるので、簡易翼輪尾翼68と合わせて4輪での姿勢制御が可能なり、これで鳥達の姿勢制御機能が模擬できたことになる。図22、図23を見よ。
【0197】
簡易翼輪尾翼68の平行傾斜角は太陽歯車94の設定角度によって調節される。迎角は、回転速度と飛行速度のベクトル和である流入気流ベクトルと機体2の姿勢角によって決められる。
簡易翼輪尾翼68は、回転翼95に発生する空気力とピッチング回転モーメントを受けて、簡易翼輪尾翼68の回転速度、回転翼95の平行傾斜角、中央静止翼72の傾斜角の3つの制御ファクターを調節して機体2の姿勢角と飛行方向と飛行速度を制御する機構に設計できた。
【0198】
一方、翼輪と同じ機能を持つ正規翼輪尾翼73を、もう一つのオプションとして用意した。この翼輪73は、主翼用の翼輪4と連携して翼輪飛行機1の揚力や推力の発生を分担しながら、機体2の姿勢と操縦・安定性を制御できる。この方式は、ヘリコプターではタンデムローター方式に相当し、車では4輪駆動車に相当する。制御ファクターは、主翼用の翼輪4と同じ、回転速度、平行迎角、遥動角(偏心角と偏心量)、中央静止翼72の傾斜角となる。
【0199】
(6)翼組外枠の設計
翼輪4の中央静止翼外側主軸41に入る荷重の分散を図るために、翼組外枠74を形成した。中央静止翼外側主軸41には回転翼8と中央静止翼42に発生する空気力と回転モーメントの反力の外側分担成分が入る。この荷重は機体2から外側に張り出して回転している回転翼8と中央静止翼軸36の曲げ剛性によって支えられるが、この剛性は、翼輪4の機能設計では軽量化と空気抵抗低減のためにできるだけ薄く設計されるので、十分な剛性は得られない。しかし、この剛性は翼輪4の限界回転速度を決めるので必要な剛性は確保しなければならない。そこで、剛性の不足を補うために、追加的な荷重伝達経路として翼組外枠74を形成した。図17を見よ。
【0200】
翼組外枠74に関しては、請求項10の発明を踏まえて設計した。即ち、下方静止翼85と中央静止翼取付け軸7と簡易翼輪尾翼68のそれぞれの外側端を結ぶ3点ステー76を設定し、回転翼8と中央静止翼42に生じる荷重と回転モーメントを下方静止翼85と簡易翼輪尾翼68にも分担させる構造にした。
【0201】
回転外延翼60を用いた場合には、回転翼8に加え、回転外延翼60によっても空気力が発生できるが回転体の重量も増すため翼輪4の限界回転速度は低下する。翼輪4の外側回転ディスク6は中央静止翼取付け軸7の外側端の中央静止翼外側主軸41で支持されるが、限界回転速度の低下を補う手段として、翼輪4の中央静止翼外側主軸41の支持剛性を上げるために外側回転ディスク6をサポートローラー86で支持する別の構造を設計した。
【0202】
外側回転ディスク6を支持する構造は、請求項11の発明を踏まえて設計した。即ち、この場合は下方静止翼85と中央静止翼取付け軸7と簡易翼輪尾翼68の外側端を結ぶ3点ステー76は使えないので、別の支持方法を取って、下方静止翼85と簡易翼輪尾翼68の外側端を結ぶ2点ステー75に取り付けた2個のサポートローラー86を翼輪4の外側回転ディスク6の外周に嵌めた外側翼輪タイヤ―88に当てて支持する設計とした。
【0203】
(7)翼輪飛行機の機種展開
翼輪飛行機1は鳥の種類の数だけ考えられるが、これまでに検討されたレイアウトの中から代表例として折畳み静止外延翼機82を紹介しておく。
この翼輪飛行機1は、F1レーシングカーを高くしたようなシルエットになっている。前方には前方視界を確保するために小径の前方翼輪83を低く配置し、後方には大径の後方翼輪84を高く配置し、更に、上部後端には固定翼90を設定し、後方翼輪84の外側には2点ステー75を取り付け、そこに、地上では下方に折り畳める折畳み静止外延翼89を取りつけた。
【0204】
地上走行用には3輪の走行用車輪91を備え、自動車の走る・曲がる・止まるに加えて飛行用に昇降機能を追加し、ヘリコプターのように舞い、飛行機のように飛行できる空飛ぶ自動車とした。
実現のために越えるべき技術の壁は、基本的に、翼輪4の高速化と機体の軽量化と空気抵抗の低減である。ドライバーのアイポイントは前方翼輪83より高くとり、機体重量の大半は、ドライバーの後方に置いた大径の後方翼輪84の揚力で担わせる。重量のある搭載ユニットはできるだけ後方下部に搭載して機体の重心を下げ、揚力の作用点と機体の重心との高さの差を大きくする。
離陸には、前後の翼輪だけによる定点上昇離陸と傾斜発進離陸に加えて、折畳み静止外延翼89も展開した形での滑走離陸も選べる。着陸には空中ブレーキ動作でエネルギーを回収しながらの傾斜定点着陸が主として選ばれる。
【0205】
静止外延翼を折り畳んだ状態でも現在の公道は走行できない。しかし、将来、幹線道路のレーン幅を7m(翼輪の幅5.0mプラス操縦余裕幅2.0m)にし、歩道橋や照明や信号機を路上空間から撤去できれば、公道を地上走行に使用できる。ただし、離着陸には10m幅の短い滑走路が必要になる。このような道路網が整備され、翼輪飛行機1が自動車並みの価格で普及していたら、巨大な津波を伴った東日本大震災でも、多くの人々が自動車で避難できていたかも知れない。
【0206】
なお、本発明に係る翼輪と翼輪飛行機1は、以上、説明した実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。



【産業上の利用可能性】
【0207】
鳥の飛行機構は生物としての進化の結果であるが、内外での空飛ぶ自動車の模索は、人間の自動車の限界からの脱皮の試みでもあろう。東日本大震災の津波のような自然災害に襲われた時には鳥のように空に舞い上がることが決定的な避難回避手段となる。
【0208】
哺乳類の足の往復運動は、3000年前から車輪により円運動に置換えられて馬車に応用されてきたが、自動車に応用されたのは約200年前からである。一方、鳥達の羽ばたき運動の模擬は、一見、プロペラとローターの発明によって円運動に置換えられ、約100年前から飛行機とヘリコプターに応用されてきたように見える。
【0209】
しかし、これらの発明は本当に翼の羽ばたき運動を円運動に置換えた翼輪になっているのだろうか。鳥達は羽ばたき翼を使ってヘリコプターのように舞い上がり、飛行機のように滑空するが、その飛行術は実に多彩である。鳥達の羽ばたき飛行のメカニズムの研究は、コンピューターによる数値解析技術によって空気力学が使える力学になってきたことにより新たな発展を遂げているが、助走の要らない飛行機や車のように利用できるヘリコプターは、まだ開発されていない。
【0210】
ヘリコプターのホバリング飛行では、空気は上方から吸い込まれてローターで加速されて円柱状に下に吐き出されるため、ヘリコプターは、どの方向にも同じように移動できる。これに対して、翼輪飛行機の水平ホバリング飛行では空気は前から吸い込まれ斜め後下方に吐き出されるので、翼輪飛行機は、方向によって移動の挙動は同じにはならない。翼によって発生する気流の状態からみると両者のホバリング飛行のメカニズムには原理的に大きな違いがある。
【0211】
翼輪飛行機は、原理的には、翼輪を90度回転させて上に向ける方式にすれば、ハチドリのように、あるいは人間の立ち泳ぎのようにホバリング飛行ができる。しかし、このモードでは、乗員はホバリング中は上向きに着座しなければならない。しかも、気流が左右に分かれて流れ下るのでヘリコプターのような等方向性を持ったホバリングできない。ヘリコプターのホバリングとハチドリのホバリングは、一見似ているが別物である。
【0212】
一方、飛行機はプロペラによって限界速度にまで機体速度を上げなければ離陸できない。これに対して、翼輪飛行機は定点離陸ができ、空気を前から吸い込み斜め後下方に排出しながら翼輪の回転速度を上げることにより、垂直上昇を含む、色々な離陸角度での定点離陸ができる。助走できる場合は助走速度と翼輪の回転速度を合わせた速度で翼輪を作動させて、飛行機より短い滑走路で離陸できる。助走無しでは離陸できない飛行機と助走無しでも離陸できる翼輪飛行機も、一見似ているが別物である。
【0213】
最軽量のハチドリから最重量のハクチョウの間には、多種多彩な方法で離陸して飛行する多くの鳥達がおり、翼輪を応用すれば、それらを模擬した多様な利便性を持った夢の翼輪飛行機が開発できる。そんな夢物語のいくつかを揚げておく。
【0214】
1.空中作業ロボットへの応用
津波で流された街は瓦礫に覆われた。津波に流される現場を現場で詳しく観察していたのはカモメ達だけであった。カモメのような空撮鳥ロボットがあったら、地震発生直後に震源の方向に向けた津波偵察のためのスクランブル発進ができたであろう。
【0215】
鳥ロボットの日常の仕事は空中軽作業であるが、高架橋(高速道路、大型船舶、高圧線、鉄塔など)の空中点検や空中保守作業を無線操縦で行える。大型建造物の保守点検が足場を組まずに、クレーンを持ち込まずにできれば、工事コストは大幅に低減される。人が乗らず、使用場所も特定されるので、製品安全上や航空法規上の制約も少なくできるので、大きくはないが強いニーズを持った多様なマーケットが見込まれる。
【0216】
2.分散型風力発電ネットワーク
翼輪は風力発電機への応用も有望である。3葉の複葉翼に匹敵するコンパクトな受風容積を持ち、迎角を最適に制御する機能を持っているので、微風での揚力発電も期待できる。風の吹く場所に駐機できれば、翼輪飛行機は駐機中に発電する。自分の充電を賄って余れば、駐機ステーションの電池も蓄電する。翼輪飛行機の電池を利用すれば送電線なしで電力を輸送することも可能になる。
【0217】
東北関東大震災での原発の崩壊は巨大システムの脆さを見せつけた。見掛けの運転コストの安さを重視した巨大な発電プラントは災害事故時の際には巨大な損失を生んだ。一方、無数に分散された小さな発電ユニットはリスクも分散する。集中か分散かではなく集中と分散を上手に使い分けることが必要なのかも知れない。
【0218】
翼輪は流れの運動エネルギーで発電する方式の潮流発電にも利用できるが、翼輪式潮流発電機を設置した翼輪飛行機用の洋上駐機場を沿岸に配備すれば、沿岸の洋上を空中ハイウエーとして利用できる。日本の沿岸と近隣の島々は自然エネルギーだけで交通できるようになる。必要なエネルギーを現地で調達して、それを消費して活動し、更に調達して蓄えたエネルギーを使って移動するのは、渡り鳥達の生き方である。
【0219】
3.空飛ぶ自動車への応用
津波から車で逃れようとした人は多かった。しかし、多くの人達が逃げ切れずに津波に飲まれてしまった。車に翼が付いていたらと思わずにはいられない。
しかし、ヨーコントロールとロールコントロールとジャイロ効果に苦しみながら現在の飛行技術を確立したヘリコプターの開発の歴史を思うと、やや複雑ではあるが、翼輪飛行機の空飛ぶ自動車への応用は、不可能とは思われない。
【0220】
高度技術社会である現代に新たな飛行機械として空飛ぶ自動車を開発して導入するためには最短で20年は掛かるであろう。開発プロセスとしては、自動車を下敷きにして、安全、重量、コスト、燃費、資源リスク、騒音性能、デザインなどについて性能目標を設定し、見直しながら基礎設計から進めることになるが、実用安全性が最重要課題となる。
【0221】
翼輪飛行機はオートローテーションと滑空を混ぜて飛行できるので、動力系が故障しても別系統の補助動力系によって機体の姿勢制御と翼輪の空転状態の制御は可能にしておきたい。想定内でのシンプルイズベストに徹するのではなく、想定外を配慮した冗長さと複雑さを持った機能構成と制御システムを持った実用安全を重視した設計が必要であろう。重量を軽減するために柔構造になるので、振動特性を十分にチューニングした動剛性設計となる。コストは車と同じ程度に押さえたい。
【0222】
最近の自動車のエコ対応への挑戦は先行技術開発として大いに期待される。20年後を考えると、自動車は電気自動車が主流になっているが、自動車用のバッテリーやモーターが翼輪飛行機用にそのまま流用できるとは考えられない。そのための研究開発が必要であるが、発電用エンジンを無くせるところまでバッテリーの軽量化を進めるのは極めて困難であろう。バックアップ用の補助電源として、排気ガスの運動エネルギーを翼輪発電機で回収するバイオ燃料ロータリーエンジン発電機を開発しておくか。
【0223】
タイヤ―音は無くなるが、風切り音が発生する。しかし、翼型も機体形状も限りなく鳥に近づけてゆけるので空力性能の向上を図りながら風切り音を低減してゆける。外観デザインは、必然的に鳥のような流線型となる。
【0224】
翼輪飛行機を空飛ぶ自動車とする場合は、公道での対人安全を考えると、停止中から30km/hまでは翼輪は回転させずに、それを超える走行速度から翼輪を回転させて滑走する。そのために、翼輪飛行機には、30km/hまでの車輪走行機能は備える必要がある。また、既存の規格の公道を走るのは、翼輪スパンを1.8m以下にしなければならないので無理である。しかし、将来的に、翼輪飛行機の効果が認められ、幅の広い道路が規定されれば、翼輪飛行機も公道を走行できるようになる。
【0225】
一方、翼輪飛行機を応用した空飛ぶ自動車は、小さな定点離着陸スポットを設定すれば、そこから定点離着陸し、洋上や樹海上を自由に利用できる。従って、既存のインフラの制約を強く受けない国や地域であれば、規制緩和を待つまでもなく、飛行ルートを導入した格安の建設コストのインフラ整備を前提にして技術開発を進めることができる。
【0226】
空飛ぶ自動車は2点間の自動操縦を可能にしておきたい。ボタンを押すだけで、自動的に離陸し飛行し着陸できる。機体整備状況、飛行ルートの気象、飛行ルートの安全、事故時の対応などの全てのチェックを自動的にしてくれる。そんな空飛ぶ自動車ができれば、津波が来ても鳥達のように避難できる。それを前提にできれば、三陸海岸の市街地をワーキングエリヤにし、住宅地は高台に移す規制も本当に有効となる。
【0227】
翼輪は車輪と比較できる。翼輪飛行機は自動車と比較できる。車輪は、有史以来、開発され、車に応用されてきた。これに対して、翼輪は、まだ、開発されてもおらず、当然、翼輪飛行機は飛んでいない。
車輪には、ラジアル荷重と駆動トルクが発生するが、翼輪には、空気力(揚力と推力または抗力)と駆動トルクが発生する。車輪は駆動トルクだけを制御すればよいが、翼輪は空気力と駆動トルクを制御しなければならない。
【符号の説明】
【0228】
1 翼輪飛行機
2 機体
3 翼輪取り付け台
4 翼輪
5 回転ディスク
6 外側回転ディスク
7 中央静止翼取付け軸
8 回転翼
9 翼輪主軸
10 偏心リング割り出し機構
11 揺動付加機構
12 遊星歯車
13 平行回転歯車機構
14 回転翼ディスク
15 回転ディスクカバー
16 回転ディスクカバーの内側円筒部分
17 翼輪取り付け台のハウジング部分
18 内側の転がり軸受け
19 外側の転がり軸受け
20 偏心リング
21 偏心リング駆動歯車
22 中心側偏心ディスク
23 揺動機構室
24 遥動アームローラー
25 偏心リング駆動中間歯車
26 針状コロ軸受けA
27 減速歯車列
28 針状コロ軸受けB
29 減速歯車列室
30 センターギアーケース
31 センターギアーケースカバー
32 太陽歯車
33 太陽歯車駆動スリーブ
34 増速ベルト室
35 回転翼駆動ベルト室
36 中央静止翼軸
37 中央静止翼駆動歯車
38 中央静止翼迎角調節歯車列
39 中央静止翼ディスクA
40 中央静止翼ディスクB
41 中央静止翼外側主軸
42 中央静止翼
43 針状コロ軸受けC
44 中央静止翼迎角調節歯車軸
45 回転翼取り付け軸
46 外側回転翼取り付軸
47 中央側のリンケージスペース
48 偏心リング割出しリンケージスペース
49 フレキシブルキャンバー回転翼
50 フレキシブルキャンバー回転翼アウターパネル
51 フレキシブルキャンバー回転翼インナーパネル
52 トルクチューブ
53 リードバルブ付き回転翼
54 リードバルブ付き回転翼アウターパネル
55 リードバルブ付き回転翼インナーパネル
56 中央静止外延翼
58 静止外延翼
59 可動フラップ
60 回転外延翼
61 フレキシブルキャンバー回転外延翼
62 フレキシブルキャンバー回転外延翼アウターパネル
63 フレキシブルキャンバー回転外延翼インナーパネル
64 リードバルブ付き回転外延翼
65 硬質ラバーモール
66 リードバルブ付き回転外延翼アウターパネル
67 リードバルブ付き回転外延翼インナーパネル
68 簡易翼輪尾翼
69 簡易翼輪回転ディスク
70 簡易翼輪ギアーケース
71 簡易翼輪外側回転ディスク
72 簡易翼輪尾翼の中央静止翼
73 正規翼輪尾翼
74 翼組外枠
75 2点ステー
76 3点ステー
77 簡易翼輪尾翼機
78 タンデム吊上げ機
79 回転外延翼機
80 静止外延翼機
81 低前方翼輪付き機
82 折畳み静止外延翼機
83 前方翼輪
84 後方翼輪
85 下方静止翼
86 サポートローラー
87 中央静止翼外側主軸取り付け軸
88 外側翼輪タイヤ―
89 折畳み静止外延翼
90 固定翼
91 走行用車輪
92 簡易翼輪尾翼用の翼輪主軸
93 簡易翼輪尾翼用の中央静止翼取付け軸
94 簡易翼輪尾翼の太陽歯車
95 簡易翼輪尾翼の回転翼
96 簡易翼輪尾翼の回転翼歯車
97 簡易翼輪尾翼の中間歯車
98 ランナーリング
99 駆動用タイヤ―

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下非対称形状に一体成型されたアウターパネルと上下非対称形状に一体成型されたインナーパネルを、上下非対称の接合部分で接合し、回転翼の後方部分を上から押し下げたときに曲がり易く、下から押し上げたときに曲がり難い非線形バネ特性を持つ構造としたことを特徴とする回転翼を用いた翼輪を利用した流体機械。
【請求項2】
上下非対称形状に一体成型され、前端で折り返されて波状に切れ込みの入った上面と切れ込みの入った下面を持ったアウターパネルと上下非対称形状に一体成型され、波状に切れ込みの入ったインナーパネルを、アウターパネルの上面のはみ出し部分の一部に、隣接するアウターパネルの下面のはみ出し部分の一部を重ねた状態で、はみ出し部分でない部分で上下のアウターパネルとインナーパネルを接合し、回転翼の後方部分を上から押し下げたときに重ねられたはみ出し部分に隙が生じ、下から押し上げたときに重ねられたはみ出し部分が密着される弁を形成したことを特徴とする回転翼を用いた翼輪を利用した流体機械。
【請求項3】
機体に結合した翼輪取り付け台に取り付けた翼輪主軸で、回転ディスクの内側と外側を転がり軸受けを介して支持し、内側軸受けの外輪は翼輪取り付け台のハウジング部分に、内輪は回転ディスクカバーの内側円筒部分の外周面に嵌合し、外側軸受けの内輪は翼輪主軸の軸部分に、外輪はセンターギアーケースの穴に固定し、回転ディスクカバーの中央側の円筒部分の内径面と翼輪主軸の外径面との間に隙間を設け、その隙間に偏心リング割り出し機構の2個の部品の円筒形状部分を貫通させたことを特徴とする翼輪を利用した流体機械。
【請求項4】
回転ディスクの内部の回転翼を駆動する伝動機構の構造空間を、潤滑条件の違いに合わせて、歯車列室、増速ベルト駆動室、回転翼ベルト駆動室、偏心-遥動変換室の4つの空間に分けたことを特徴とする翼輪を利用した流体機械。
【請求項5】
偏心リング割り出し機構を形成している2個の偏心ディスク部品を同一円筒スペース内の中央側と外周側に配置したことを特徴とする偏心リング割り出し機構を用いて回転ディスクの幅を短縮した翼輪を利用した流体機械。
【請求項6】
翼輪主軸の外側端に、中間に中央静止翼を回転自在に嵌着するための中央静止翼軸と、その外側に外側回転ディスクを支える転がり軸受けを取り付ける軸部を形成した中央静止翼取付け軸を取り付けて一体化したことを特徴とする翼輪を利用した流体機械。
【請求項7】
翼輪の中央外側部の中央静止翼外側主軸の外側端に取り付けたステーに静止外延翼を取り付けたことを特徴とする翼輪を利用した流体機械。
【請求項8】
回転翼の外側端の外側回転翼取り付軸の外側端に回転外延翼を取り付け、回転する翼面積を拡大したことを特徴とする翼輪を利用した流体機械。
【請求項9】
翼輪が1回転する間に回転翼を逆方向に1回転戻す歯車列を、複数、太陽歯車に噛み合わせた簡易翼輪ギアーケースにおいて、翼輪主軸の外側端に中央静止翼取付け軸を取り付け、翼輪主軸の穴に太陽歯車の角度を調節するスリーブと中央静止翼の傾斜角を調節するリンクを納めた簡易翼輪を左右独立に装着したことを特徴とする流体機械。
【請求項10】
下方静止翼と中央静止翼取付け軸と尾翼の静止外側端の3点を結ぶステーを取り付け、翼組外枠を形成したことを特徴とする流体機械。
【請求項11】
翼輪の外側回転ディスクの外周を、下側静止翼と簡易翼輪尾翼の外側端の2点を結んだステーに取り付けたサポートローラーで支持し、翼組外枠を形成したことを特徴とする流体機械。
【請求項12】
成型されたアウターパネルに、成型されたインナーパネルを接合することにより回転翼の後方に形成される2次元閉断面の形状において、アウターパネルの後方上部とインナーパネルの接合で3角閉断面を形成し、その後方に、折れてから後方に斜め下方に湾曲するインナーパネルと平面部から後方に斜め下方に湾曲するアウターパネルの後方下部によって湾曲クサビ閉断面を形成し、3角閉断面を形成するインナーパネルの平面部に湾曲クサビ閉断面の前側の接合線を設け、アウターパネルの後方上部とインナーパネルの結合、および、インナーパネルとアウターパネル後方下部の結合により重ね板ばねを形成し、翼の後方部分を上から押し下げたときに曲がり易く、下から押し上げたときに曲がり難い非線形バネ特性を持つ構造としたことを特徴とする回転翼を用いた翼輪を利用した流体機械。
【請求項13】
波形に切れ込みの入った形状を持ったアッパーアウターパネルとロアーアウターパネルとインナーパネルと、射出断面形状を持ったモールからなり、アッパーアウターパネルとロアーアウターパネルは波形の前端の上・下フランジ部で接合され、インナーパネルはロアーアウターパネルのフランジ部の後の底面に接合され、インナーパネルの後方へのはみ出し部分の端を、フランジ部に取り付けられたモールの下面に接触させて、回転翼の後方部分を上から押し下げたときに接触部分に隙が生じ、下から押し上げたときに接触部分が密着される弁を形成したことを特徴とする弁付き回転外延翼を用いた翼輪を利用した流体機械。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【図39】
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【図40】
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【図41】
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【図42】
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【図43】
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【図44】
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【図45】
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【図46】
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【図47】
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【図48】
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【図49】
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【図50】
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【公開番号】特開2011−255892(P2011−255892A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【公開請求】
【出願番号】特願2011−169430(P2011−169430)
【出願日】平成23年8月2日(2011.8.2)
【出願人】(307023616)