説明

平衡化回路及び同回路を用いるインピーダンスボンド

【課題】可及的に簡単で安価な構成で、2導体の不平衡な電流を平衡化し、インピーダンスの増大も可能な平衡化回路を提供する。軌道回路のノイズ成分の低減と、軌道回路の短絡感度を向上させるインピーダンスボンドを提供する。
【解決手段】2導体に等しい交流電流が流される条件で所定動作を正常に行う電気回路などにおいて、2導体を流れる電流により各導体に対応して起電力を発生するループ部を有する起電力発生体を設け、各ループを起電力が大きいループから起電力が小さいループに電流が流れるように電気的に接続して、平衡化回路を構成した。インピーダンスボンドは、第1半コイルの一端と一方のレールとの間及び第2半コイルの一端と他方のレールとの間にそれぞれ延長部を設け、その延長部に前記平衡化回路を挿入した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2つの導体を流れる電流の平衡化を図る回路及びその回路を利用するインピーダンスボンドに関する。
【背景技術】
【0002】
交流電化区間の複軌条式軌道回路の境界に設けられ、左右のレールに流れる電気車の帰線電流と信号電流を振り分ける機能を有するものとして、インピーダンスボンドが用いられている。
【0003】
図5及び図6に示すように、インピーダンスボンドZBは、鉄心1に巻回されてともに交流電流である帰線電流Iと信号電流isを重畳して流される1次コイル21と、前記鉄心1に巻回されて信号電流isを結合させる2次コイル22とを有している。そして、1次コイル21は一方向に巻回された第1半コイル部21aと逆方向に巻回された第2半コイル部21bとを有して、各コイル部21a,21bに流れる帰線電流I1,I2により発生する磁束は互いに打ち消すように構成されている。これにより、I1=I2ならば、帰線電流と信号電流が相互に干渉することなく分離され、帰線電流(I1+I2)は後続の軌道回路TR2に供給されるとともに、図4に示すように、送電端TTからレール31,32に送出された信号電流isは2次コイル22を経て受電端に設けられた軌道リレーTRに供給されるようになっており、当該軌道回路に列車が存在しないときは、受電端において受信される信号電流isに基づき軌道リレーTRが動作し、当該軌道回路に列車が進入したときは、列車の車軸による軌道短絡により受信端において信号電流isを受信しなくなるため、軌道リレーTRが落下するように構成されている。
【特許文献1】特になし
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記インピーダンスボンドの帰線電流と信号電流の正常な振り分け機能及び軌道リレーの正常な動作・落下は、種々の原因によって影響を受ける。その原因の一つには、左右のレールに流れる電車電流(帰線電流)の不平衡がある。通常の状態では、左右のレールに流れる帰線電流は、様々な要因により均等にならず、不平衡の状態になっている。
【0005】
不平衡がある場合は、1次コイル21の第1半コイル部21aと第2半コイル部21bに発生する磁束の差により、1次コイル21に信号電流が流れると、2次コイル22に平衡時の電圧よりも低い電圧esが現れて、軌道リレーのTR受電電圧が低下する。また、鉄心1の磁束密度が過大になった場合は、鉄心が飽和するため、インピーダンスボンドの励磁インピーダンスが低下し、軌道リレーの受電電圧が低下する。従って、インピーダンスボンドが正常に機能しなくなる。
【0006】
このように、不平衡な軌道回路では、左右レールに流れる帰線電流の大きさが異なるため、信号電流が区間外に流出したり、帰線電流がインピーダンスボンドのインピーダンスを低下させて、動作すべき軌道リレーが落下したり、落下すべきときに軌道リレーが動作するといった不具合が発生するほか、受信器側にノイズを発生させたりする。
【0007】
すなわち、軌道回路の受電端側のインピーダンスボンドに流れる帰線電流には、様々な要因によりノイズ(妨害電流)が重畳する場合がある。左右のレールの帰線電流が平衡している場合は、帰線電流のノイズ成分がキャンセルされる。しかし、不平衡がある場合は、キャンセルされずに、受電端にノイズ成分として電圧を誘起する。そのため、軌道リレーが正常に機能しないことがある。
【0008】
従来、上記軌道回路の不平衡の対策として、インピーダンスボンドの中に平衡化回路を設けることが提案された。しかし、その提案に係る平衡化回路は高価であるから、全軌道回路に具備することは不経済である。また、従来の平衡化回路を設けても、短絡感度が向上する作用効果は得られない。
【0009】
軌道回路において、短絡感度は、軌道回路の列車検知性能を左右する重要な要素である。従来、短絡感度の向上のため、次のような対策が提案されている。
(1)信号電圧の増大。(2)レール間電圧上昇。(3)軌道インピーダンスの増大。 (1)(2)は、電源系統などの改善が必要であり、(3)はインピーダンスボンド内又はレール間にコンデンサの設置を必要とするため、経済的に困難性がある。また、これらの対策を施しても、短絡感度は向上するが、ノイズの問題は解消されない。
【0010】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、解決しようとする第一の課題は、可及的に簡単で安価な構成で、2つの導体を流れる不平衡な電流を平衡化することができると同時に、併せてインピーダンスの増大も可能な平衡化回路を提供することにある。第二の課題は、その平衡化回路を用いて、軌道回路に生じるノイズ成分の低減と、軌道回路の短絡感度の向上を図ることができるインピーダンスボンドを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
第一の課題を解決するための本発明は、2導体に接続され、その2導体にともに等しい交流電流が流されることにより、所定の動作を正常に行う電気回路又は電気機器(本明細書では「電気回路など」という。)に適用される平衡化回路であって、2導体のそれぞれに各導体に流れる電流により起電力を発生するループ部を巻回し、それらのループ部を起電力が大きいループ部から起電力が小さいループ部に電流が流れるように電気的に接続して、平衡化回路を構成したことを特徴としている。
【0012】
二つのループ部と接続部とは、8の字状のコイルで構成しても良いし、二つのリング状のコアと導線とで構成しても良い。
【0013】
第二の課題を解決するため、本発明は、一端が一方のレールに接続された第1半コイルと一端が他方のレールに接続された第2半コイルとを他端同士において直列に接続してなり、鉄心に巻回されて、前記両レールからいずれも交流の帰線電流及び信号電流が流れる1次コイルと、前記鉄心に巻回され、前記1次コイルに流れる電流により誘起される信号電流が流れ、これを軌道リレーに与える2次コイルとを有するインピーダンスボンドにおいて、前記第1半コイルの一端と前記一方のレールとの間及び第2半コイルの一端と前記他方のレールとのにそれぞれ延長部を設け、それらの延長部に、延長部のそれぞれに巻回され、各延長部に流れる電流により起電力を発生するループ部と、それらのループ部を起電力が大きいループ部から起電力が小さいループ部に電流が流れるように電気的に接続する接続部とからなる平衡化回路を設けたことを特徴としている。
【0014】
上記インピーダンスボンドにおける平衡化回路における二つのループ部と接続部は、8の字状のコイルで構成しても良いし、二つのリング状のコアと導線とで構成しても良い。
【発明の効果】
【0015】
請求項1の発明によれば、2導体に電流が流れる場合、その電流が等しいとき、すなわち平衡しているときは、各ループ部に発生する磁束の向きが逆になるため、磁束が互いに打ち消し合う。従って、2導体に流れる電流は平衡化回路の作用を受けずに平衡状態を維持する。これに対し、2導体に流れる電流が不平衡である場合は、大きい電流が流れる導体に巻回されているループ部に発生する磁束の密度は、小さい電流が流れる導体に巻回されているループ部に発生する磁束の密度よりも大きい。そのため、磁束密度の大きいループ部から磁束密度の小さいループ部の方向に電流が流れる。従って、大きい電流が流れる導体に巻回されているループ部には、その導体の電流を流れにくくする起電力(逆起電力)が発生し、小さい電流が流れる導体に巻回されているループ部には、その導体の電流を流れやすくする起電力(順起電力)が発生する。従って、2導体の電流が平衡化される。従って、また、2導体に流れてきたノイズがキャンセルされる。
【0016】
請求項2の発明によれば、構成が簡単で安価な製造が可能である。
【0017】
請求項3の発明によれば、2導体の電流の差が事前に知っている場合、又は予測可能な場合は、その差に対応する大きさの異なるコアを容易に組み合わせて使用することができる。
【0018】
請求項4の発明によれば、両レールに流れる帰線電流に不平衡がある場合は、インピーダンスボンドに設けた平衡化回路により平衡化される。従って、レールに流れるノイズ(妨害電流)がキャンセルされる。また、平衡化回路は軌道回路の受電端のインピーダンスを増大させる。従って、インピーダンスボンドに簡単な構成を付加するだけで、軌道回路の短絡感度を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
次に、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。
図1は本発明に係る平衡化回路の一の実施の形態を示す回路図、図2は同じく他の実施の形態を示す回路図である。
【0020】
本発明に係る平衡化回路10は、図1及び図2に示すように、2導体21,22に接続され、その2導体にともに等しい交流電流が流れることにより、所定の動作を正常に行う電気回路など30に結合して用いられる。2導体21,22は、例えば電源供給線や信号線、あるいは軌道回路を構成するレールなど、駆動電流や信号電流が流されるいかなる形態のものでも良い。電気回路など30は、例えば、インピーダンスボンドに限らず、2導体から等しい交流電流を供給されることを前提として正常に動作するいかなる種類の電気機器を含む。
【0021】
そして、本発明に係る平衡化回路10は、2導体21,22に一つの起電力発生体40A又は40Bを装着してなっている。起電力発生体40A又は40Bは、2導体21,22を流れる電流により各導体21,22の周囲に発生する磁界によってそれぞれの電流の大きさに対応して起電力を発生する二つのループ部40a,40bを有する。そのループ部40a,40bは、接続部40cにより起電力が大きいループ部から起電力が小さいループ部に電流が流れるように電気的に接続して構成されている。
【0022】
図1に示す平衡化回路10は、起電力発生体40Aが、1つのループを中間位置において1回ひねって8字形に形成し、中央部分の接続部40cの両側に二つのループ部40a,40bを一体に備えているものであり、各ループ部40a,40bが導体21,22にそれぞれ巻回されている。
【0023】
上記構成により、導体21,22に電気回路30方向に流れる電流I1,I2が平衡している場合は、各ループ部40a,40bに互いに反対方向の等しい密度の磁束が発生するため、その磁束は互いに打ち消し合う。従って、いずれの導体に対しても逆起電力が発生しないので、平衡化回路10は設けられていないに等しく、2導体21,22から電気回路など30に供給される電流は平衡状態を維持される。
【0024】
これに対して、導体21,22に電気回路など30の方向に流れる電流I1,I2が不平衡である場合は、両導体のループ部に発生する磁束密度に差があるため、これが等しくなるように、磁束密度の大きいループ部(40a又は40b)から磁束密度の小さいループ部(40b又は40a)に電流が流れる。その結果、大きい電流が流れる導体側のループ部(40a又は40b)には不平衡率に応じた逆起電力が発生し、その導体に流れる電流に対するインピーダンスが大きくなるため、その導体の電流が抑制される。一方、小さい電流が流れる導体側のループ部(40b又は40a)には、大きい電流が流れる導体側のループ部(40a又は40b)から流れる電流による起電力によって、小さい電流が流れる導体の電流が促進される。その結果、平衡化回路10の挿入位置よりも後方の2導体に流れる電流は平衡化される。
従って、電気回路など30は、2導体に何らかの原因により不平衡が発生しても、その影響を受けること無く、正常に動作することができるため、信頼性が向上する。
【0025】
図2に示す平衡化回路10は、起電力発生体40Bが、2導体21,22のそれぞれに巻回されたリング状のコア40a’,40b’を導線40cにより電気的に接続してなるものである。この起電力発生体40Bも、図1の起電力発生体40Aと同様の作用効果を発揮する。
【0026】
図3は、本発明に係るインピーダンスボンドの一実施の形態を概略的に示す回路図、図4は他の実施の形態を示す要部の回路図である。
図3において、31,32はレールであり、ZB1,ZB2は、図5及び図6のZB1,ZB2と同一の構成を有するインピーダンスボンドである。従って、以下に記述され、図3又は図4に示されている部材の詳細は、図5及び図6を参照されたい。
【0027】
本発明の係るインピーダンスボンドZB1は、軌道回路の受電端側に設けられるものであり、一端が一方のレール31に接続された第1半コイル21aと一端が他方のレール32に接続された第2半コイル21bとを他端同士において直列に接続してなり、鉄心1に巻回されて、両レール31,32からいずれも交流の帰線電流及び信号電流が流れる1次コイル21と、鉄心1に巻回され、1次コイル21に流れる電流により誘起される信号電流が流れ、これを軌道リレーTRに与える2次コイル22とを有している。そして、新規に付加された構成として、第1半コイル21aの一端と一方のレール31との間及び第2半コイル21bの一端と他方のレール32との間にそれぞれ延長部21a’,21b’を設け、それらの延長部21a’,21b’に、図1に示された起電力発生体40Aを有する平衡化回路10を挿入したものである。
【0028】
図4は、延長部21a’,21b’に図2に示された起電力発生体40Bを有する平衡化回路10を挿入した例である。
【0029】
いずれの例においても、左右のレール31,32に流れる帰線電流I1,I2に不平衡がある場合は、平衡化回路10により平衡化されるので、第1に、レールを流れる電流に含まれるノイズ成分が除去される。第2に、平衡化回路10のループ部により、レールから見たインピーダンスボンドのインピーダンスが大きくなるので、軌道回路の短絡感度が向上する。
【0030】
軌道回路の短絡感度は、数式1で与えられる。ここで、Zは受信側インピーダンス、VTRは軌道リレーの平常電圧、VTRMは軌道リレー落下電圧である。
【数1】

つまり、軌道回路に使用する送信器、受信器のスペックが決まると、受信側インピーダンスを上げることが、短絡感度の上昇に結びつくが、本発明のインピーダンスボンドは、左右レールを不平衡して流れる電流成分(軌道回路電波を含む。)に対して、高いインピーダンスを持っているので、本発明のインピーダンスボンドを用いることにより、短絡感度を向上させることができる。これにより、列車検知性能が向上し、軌道リレーの不正動作といった危険側の誤動作が発生しにくくなる。
【0031】
以上のように、本発明によれば、電源系統などの大規模な改善をすることなく、従来使用されているインピーダンスボンドの一部に、ループのみ又はコアを導線で接続した単純な構成の平衡化回路を1個挿入するだけで、ノイズ解消と短絡感度向上の効果を一挙に得ることができるので、本発明は、非常に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明に係る平衡化回路の一の実施の形態を示す回路図。
【図2】同じく他の実施の形態を示す回路図。
【図3】本発明に係るインピーダンスボンドの一実施の形態を概略的に示す回路図。
【図4】他の実施の形態を示す要部の回路図。
【図5】軌道回路とインピーダンスボンドの配置状態を説明する図。
【図6】従来のインピーダンスボンドの構成を示す等価回路図。
【符号の説明】
【0033】
ZB1,ZB2 インピーダンスボンド
1 鉄心
21 第1コイル
21a 第1半コイル部
21b 第2半コイル部
21a’,21b’ 延長部
31,32 レール
10 平衡化回路
40A,40B 起電力発生体
40a,40b ループ部
40c 接続部
40a’,40b’コア
40c 導線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2導体に接続され、その2導体にともに等しい交流電流が流されることにより、所定の動作を正常に行う電気回路などに適用される平衡化回路であって、
前記2導体のそれぞれに巻回され、各導体に流れる電流により起電力を発生するループ部と、それらのループ部を起電力が大きいループ部から起電力が小さいループ部に電流が流れるように電気的に接続する接続部とからなる平衡化回路。
【請求項2】
請求項1に記載の平衡化回路において、二つのループ部と接続部とが8の字状のコイルで構成されていることを特徴とする平衡化回路。
【請求項3】
請求項1に記載の平衡化回路において、二つのループ部と接続部とがそれぞれ二つのリング状のコアと導線とで構成されていることを特徴とする平衡化回路。
【請求項4】
一端が一方のレールに接続された第1半コイルと一端が他方のレールに接続された第2半コイルとを他端同士において直列に接続してなり、鉄心に巻回されて、前記両レールからいずれも交流の帰線電流及び信号電流が流れる1次コイルと、前記鉄心に巻回され、前記1次コイルに流れる電流により誘起される信号電流が流れ、これを軌道リレーに与える2次コイルとを有するインピーダンスボンドにおいて、前記第1半コイルの一端と前記一方のレールとの間及び前記第2半コイルの一端と前記他方のレールとの間にそれぞれ延長部を設け、それらの延長部に、前記延長部のそれぞれに巻回され、各延長部に流れる電流により起電力を発生するループ部と、それらのループ部を起電力が大きいループ部から起電力が小さいループ部に電流が流れるように電気的に接続する接続部とからなる平衡化回路を設けたことを特徴とするインピーダンスボンド。
【請求項5】
請求項4に記載のインピーダンスボンドにおいて、平衡化回路の二つのループ部と接続部とが8の字状のコイルで構成されていることを特徴とするインピーダンスボンド。
【請求項6】
請求項4に記載のインピーダンスボンドにおいて、平衡化回路の二つのループ部と接続部とがそれぞれ二つのリング状のコアと導線とで構成されていることを特徴とするインピーダンスボンド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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