説明

幹細胞の濃縮装置及び濃縮方法

本発明の目的は、各種細胞の混じった細胞集団から幹細胞又は前駆細胞を濃縮して抽出するにあたり、幹細胞にダメージを与えることなく高度に濃縮した幹細胞又は前駆細胞を取得するための手段を提供することである。本発明によれば、(a)上部に開口部を有し、下部に穴を有する少なくとも一つの容器と、(b)該容器の外周に配置した磁気発生部とから構成される、幹細胞を濃縮するための装置;並びに、当該装置を用いて分化細胞を上記容器内に捕捉し、残留物を少なくとも濃縮幹細胞または濃縮前駆細胞の一方として回収することを含む濃縮幹細胞または濃縮前駆細胞の作製方法が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、幹細胞の濃縮装置及び濃縮方法に関する。より詳細には、本発明は、口腔粘膜上皮内の分化細胞を識別し、除外することにより幹細胞を濃縮するための濃縮装置及び濃縮方法に関する。
【背景技術】
現代は高齢社会であり、数年後には日本国民人口の約20%が65歳以上の高齢者になることが予想されている。これら高齢者の大多数は、何らかの理由により一部又は全部の歯牙を喪失しており、多くの人は可綴式義歯(いわゆる入れ歯)を使用している。従来の義歯は、着脱が必要で装着感もよくないなどの実際的問題のみならず、心理的にも老化の象徴といった印象があり、できれば義歯を使用したくないというのが患者の一般的認識である。さらに、全ての歯牙を喪失した場合に、総義歯を装着すると、その咀嚼能力は通常の天然歯牙の約5分の1となることが知られている。多くの高齢者にとって楽しみの一つである食事が歯の喪失のため苦痛となる場合も少なくない。さらに、脳に対する咀嚼刺激は痴呆防止の効果があり、咀嚼力の低下は痴呆の促進になることが明らかになってきている。
患者の顎骨へ再生歯胚を移植する方法が考えられる。すなわち、患者の細胞を採取し、tissue engineeringの手法により発生過程に見られる何らかの段階の歯胚を再生し、患者の顎骨内へ戻し、萌出させ歯牙を形成させる治療方法が考えられる。この方法は、歯槽膿漏やう蝕などの歯科疾患により歯牙を欠損又は損傷した患者に対する究極の治療になりうるものである。
歯胚の発生過程においては、神経堤由来の上皮系細胞と、神経堤由来の間葉系細胞との相互作用が必須であることから、歯胚の再生においても同じくこの2種類の細胞の相互作用が必要であると予想される。特に、細胞レベルから歯胚を再生させるには上皮系および間葉系それぞれの幹細胞あるいは幹細胞に近い前駆細胞が必要と考えられるが、特に上皮系幹細胞が形態形成上重要と考えられている。
細胞の分離方法としては特定の細胞との親和性を有するマイクロビーズなどに不要細胞を吸着させて残存した目的細胞を利用するネガティブセレクションと呼ばれる手法が特開2002−25322号公報などにおいて知られている。また特開平11−230965号公報には磁気ビーズに吸着させた細胞をポジティブセレクションする方法が開示される。しかし、特開2002−25322号公報の手法では目的幹細胞以外に対して特異的な吸着性を有するマイクロビーズがないため、目的幹細胞を濃縮することはできず、マイクロビーズを経由させるため濃縮の効率が悪いという問題があった。また、特開平11−230965号公報の手法では目的細胞が接着されるアクティブセレクションのため、接着を剥離するためのトリプシン等による細胞へのダメージが大きいという問題があった。
【発明の開示】
本発明の目的は、上記の従来技術の問題点を解消することである。即ち、本発明の目的は、各種細胞の混じった細胞集団から幹細胞又は前駆細胞を濃縮して抽出するにあたり、幹細胞にダメージを与えることなく高度に濃縮した幹細胞又は前駆細胞を取得するための手段を提供することである。特に、本発明は、歯槽膿漏やう蝕などの歯科疾患により歯牙を欠損又は損傷した患者を治療することを可能にする歯胚の再生方法を提供するために、上皮系の幹細胞あるいは前駆細胞を濃縮して採取するための手段を提供することである。
本発明者らは、上記課題を解決するために、Harada、H.et al.:J.Oral Pathol.Med.、22、145−52、1993、Monoclonal antibody G6K12 specific for membrane−associated differentiation marker of human stratified squamous epithelia and squamous cell carcinomaに記載の知見を基に、本発明の実施可能性を実験により確認した結果、分化した表皮細胞の細胞膜上に特異的に発現する複合糖質を認識するモノクローナル抗体G6K12により、口腔粘膜上皮の分化細胞を選択的に識別でき、さらにこの分化細胞に付着したG6K12はIgM経由で磁気ビーズに充分な強さをもって付着することを見出した。本発明はこの知見に基づいて完成したものである。
すなわち、本発明によれば、(a)上部に開口部を有し、下部に穴を有する少なくとも一つの容器と、(b)該容器の外周に配置した磁気発生部とから構成される、幹細胞を濃縮するための装置が提供される。
好ましくは、本発明の装置では、上記容器の開口部から上記穴に向かって、幹細胞または前駆細胞の少なくとも一方と、少なくとも一つの分化細胞とを含む細胞集団、分化細胞に特異的に結合するマーカー、及び該マーカーに付着する磁性体を懸濁した液を通過させることにより、上記磁気発生部に吸着された上記磁性体、これに付着するマーカー、および該分化細胞を上記容器内に捕捉し、残留物を少なくとも濃縮幹細胞または濃縮前駆細胞の一方として回収することにより、幹細胞を濃縮する。
本発明の別の側面によれば、(a)上部に開口部を有し、下部に穴を有する少なくとも一つの容器と、(b)該容器の外周に配置した磁気発生部とから構成される、幹細胞を濃縮するための装置を使用し、上記容器の開口部から上記穴に向かって、幹細胞または前駆細胞の少なくとも一方と、少なくとも一つの分化細胞とを含む細胞集団、分化細胞に特有なマーカー、及び該マーカーに付着する磁性体を懸濁した液を通過させることにより、上記磁気発生部に吸着された上記磁性体、これに付着するマーカー、および該分化細胞を上記容器内に捕捉し、残留物を少なくとも濃縮幹細胞または濃縮前駆細胞の一方として回収することを含む、濃縮幹細胞または濃縮前駆細胞の作製方法が提供される。
好ましくは、分化細胞は、口腔粘膜上皮の分化細胞である。
好ましくは、上記マーカーは、複数のマーカーから構成されている。
好ましくは、上記マーカーは、上記分化細胞に接着されるG6K12抗体とこれと上記磁性体を付着するIgM抗体である。
好ましくは、上記磁性体は磁気ビーズである。
【図面の簡単な説明】
図1は、口腔粘膜上皮の構造を模式的に示す。
図2は、表面マーカーを用いて非目的細胞を磁性粒子に捕集させる装置の構造を示す概略図である。
図3は、磁性微粒子上に捕集された分化細胞を磁気カラムで吸着することにより、幹細胞を濃縮する原理を示す。
図4は、実験に用いた扁平上皮がん細胞のフローサイトメーターによる分析結果を示す図である。
図5は、本発明の一実施例による幹細胞濃縮方法を説明するためのフローチャートを示す。
図6は、扁平上皮がん細胞を試料に用い、G6K12マーカーと磁気カラムにより幹細胞分画を濃縮した結果を示すフローサイトメーターの分析結果を示し、(a)は抗体を作用させ磁気捕集しない場合、(b)は抗体を作用させ磁気捕集した場合、(c)は抗体を反応させていない場合を示す。
図7は、複数の上記容器を上記流路方向に複数段繋げ、連続して液を流す構成の容器を示す概略図である。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明は、(a)上部に開口部を有し、下部に穴を有する少なくとも一つの容器と、(b)該容器の外周に配置した磁気発生部とから構成される、幹細胞を濃縮するための装置、並びに、上記装置を使用し、上記容器の開口部から上記穴に向かって、幹細胞または前駆細胞の少なくとも一方と、少なくとも一つの分化細胞とを含む細胞集団、分化細胞に特有なマーカー、及び該マーカーに付着する磁性体を懸濁した液を通過させることにより、上記磁気発生部に吸着された上記磁性体、これに付着するマーカー、および該分化細胞を上記容器内に捕捉し、残留物を少なくとも濃縮幹細胞または濃縮前駆細胞の一方として回収することを含む、濃縮幹細胞または濃縮前駆細胞の作製方法に関する。
本発明の一実施態様においては、口腔粘膜上皮細胞を酵素処理などにより単離し、溶液中へ分散させ、該溶液へ分化細胞を特異的に認識する抗体を付着させた磁性微粒子を添加し、抗原抗体反応により該抗体マーカー陽性細胞を選択的に該磁性微粒子へ付着させ、磁石を配置したカラムへ該磁性微粒子を通すことにより、該抗体マーカー陽性細胞を選択的にカラムへ保持し、該抗体マーカー陰性細胞をカラムから流出させる。これにより流出分画中に口腔粘膜上皮幹細胞を濃縮することができる。
上皮系幹細胞はげっ歯類においては切歯の根元(apical bud)に存在することが見出されているが、霊長類ではマーカーの未知等の理由で未だ発見されていない。歯胚再生のためには、上皮系の幹細胞ないし幹細胞に近い前駆細胞を入手することが重要であり、短期間の歯胚再生のためにはできるだけ多くの数を集めることが必要と考えられる。上皮細胞の細胞源としては、未萌出の智歯が考えられるが、より一般性がある細胞源として、口腔粘膜上皮が挙げられる。
本発明による上皮系幹細胞の濃縮方法は、上記のような細胞源から採取された幹細胞を含む細胞中、分化細胞に特有のマーカーを用いて分化細胞を標識し、これを除去することにより幹細胞を濃縮することを特徴としている。
図1に口腔粘膜上皮の模式的な構造を示す。通常の口腔粘膜は10〜20層の細胞からなる。口腔粘膜上皮は、粘膜固有層の上方にあり、最深部の基底細胞の中に少数の幹細胞が存在すると予想されているが、幹細胞のマーカーが未知のため、その存在はこれまで特定されていない。幹細胞から分化した前駆細胞は上方へ移動しつつ有棘細胞、顆粒細胞、角化細胞へ分化する。分化が進んだ細胞は培養皿への接着性が消失するため、接着性のアッセイで除外することができるが、幹細胞と幹細胞に近い分化細胞は接着性の差で選別することはできない。
図2は分化細胞の細胞膜上のマーカー部位を認識する抗体を利用して、分化細胞を磁性微粒子上へ捕集する原理を示す。細胞膜上の複合糖質を認識するモノクローナル抗体G6K12はHarada、H.et al.:J.Oral Pathol.Med.、22、145−52、1993、に記載されている。本発明において、G6K12は口腔粘膜上皮の分化細胞に特異的なマーカーとして使用可能であることを見出した。この抗体はマウス扁平上皮ガン細胞の細胞膜成分をマウス膵臓細胞へ感作させることによりin vitroで作り出されたもので、正常なヒト粘膜上皮においては、盛んに分裂している基底細胞、有棘細胞層の上層部とも弱く反応するが、特に有棘細胞層の下層に存在する細胞と強く反応することが示されている。顆粒細胞、角化細胞とはほとんど反応しない。また、上皮由来でない細胞や赤血球とは反応しない。また、免疫学的電子顕微鏡解析から、G6K12抗体が認識する部位は細胞膜表面上にあることが示されている。さらに、細胞をトリプシンなどのタンパク質分解酵素で処理しても抗体反応が低下しないが、glycoendoceramidazeで2時間処理すると反応が半減することから、G6K12抗体が認識する部位は分化した上皮細胞に特異的な複合糖質であることも示唆されている。
このG6K12抗体で分化した上皮細胞を標識し、さらにIgM抗体などを2次抗体として用いて、分化細胞を磁性微粒子上に捕集する。磁気微粒子へIgM抗体などを結合させる方法は既存の方法による。また、磁気微粒子の大きさは細胞よりも小さくてもよいし大きくてもよい。磁性微粒子による細胞捕集では、大きな磁性微粒子を用いた場合に細胞への機械的な損傷が生じるおそれがあるが、本発明の選別方法は目的細胞をネガティブセレクションで濃縮するため、磁性微粒子へ捕集された細胞への損傷は問題にならない。従って、大きな磁性微粒子を用いて一つの磁性微粒子へ多くの細胞を捕集することも問題ない。
また、濃縮された細胞には抗体が付いていないため、酸などを用いた抗体を除去する操作が不要であり、細胞をそのままティッシュエンジニアリングに利用する上で好都合である。
基底細胞層の特定の細胞を選択する別の方法として、例えば細胞膜上の接着因子であるβ−インテグリンを標識し、セルソーターで分取する方法も考えられる。このようなポジティブセレクションでは、細胞を培養皿からはがす際に用いるトリプシンなどの酵素処理で表面マーカーが破壊されるため、選択性が低下し回収が不十分になりやすいという問題があるが、本発明の濃縮方法ではこのような問題も避けることができる。
図3は幹細胞の濃縮方法を示す概念図である。試料懸濁液内には、図2に示した、分化細胞を捕集した磁性微粒子が存在する。この懸濁液を磁気カラムに通すことにより、磁性微粒子と分化細胞をカラムへ磁気的に吸着させ、磁性微粒子上に捕集されていない細胞を流出させ回収する。
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【実施例】
[実施例1]
磁気微粒子を用いた濃縮について説明する。
扁平上皮がん細胞株SCC25を試料とした。この細胞はコロニーを形成させると分化マーカーを発現することが知られている。
扁平上皮がん細胞株SCC−25はAmerican Type Culture Collection(Rockville、Md)から入手した。この細胞はHamのF12培地とDulbeccoのmodified Eagle培地(Gibco、Grand Island、NY)の1:1混合物中で、0.4μg/mlヒドロコルチゾン、10%ウシ胎仔血清、ペニシリン(100units/ml)およびストレプトマイシン(100μg/ml)を添加して維持した。
図4はコロニー形成後の同細胞をセルソーターにかけて細胞の大きさと密度の分布を予備的に調べた結果である。分散がみられるので以後の実験には図中に示す円内の分画を用いた。
以下図5にもとづき説明する。上記で回収した中から分画を選別し、4℃で30分間、15ml遠心チューブ中でローラーを用いて回転させながらG6K12モノクローナル抗体と反応させた(ステップ1)。PBSで細胞を2度洗浄し(ステップ2)、4℃で30分間、15ml遠心チューブ中でローラーを用いて回転させながら抗マウスIgM抗体磁性ビーズと反応させた(ステップ3)。PBSで細胞を2度洗浄し(ステップ4)、MACS磁性選択カラム(第一化学、25LDカラム使用)を通過させて分化細胞を吸着、除去した(ステップ5)。通過細胞を1000rpmで10分間で遠心分離して回収した(ステップ6)。
回収した細胞をセルソーターにかけた結果を図6に示す。横軸はG6K12に対する蛍光強度である。図6(a)は抗体を作用させ磁気捕集しない場合、図6(b)は抗体を作用させ磁気捕集した場合である。この結果から磁気捕集によりG6K12でマーキングされた分画が除去されていることが分かる。なお、図6(c)は抗体を反応させていないコントロール、すなわち元の試料分布である。
扁平上皮がん細胞では抗原の発現量が弱いため細胞の濃縮の度合いは低いが、口腔粘膜上皮では抗原の発現量が多く、濃縮度が高い。
口腔粘膜からの上皮細胞の採取は次のように行う。口腔粘膜組織を採取し、2%コラゲナーゼ溶液(DMEM培地中)4℃で6時間処理する。機械的に上皮と結合組織を分離し、上皮組織のみを0.25%トリプシン、1mM EDTA(PBS溶液中)で37℃で15分間処理する。トリプシンインヒビターで反応停止後、ピペッティングで細胞を分散させる。40μmポアフィルターを用いて不要組織や細胞塊を除去した後、PBSで細胞を洗浄する。
G6K12以外の上皮細胞の分化マーカーを併用してさらに幹細胞の濃縮度を上げることもできる。例えば、基底細胞はサイトケラチンK5、K14を発現する。また、基底細胞層の上層ではサイトケラチンK1、K2、K10、K11が発現する。また、口蓋の上皮細胞ではトランスグルタミナーゼtransglutaminazeが、有棘細胞の上層ではinvolucrinなどのマーカータンパクがそれぞれ発現する。血液組織学的抗原も上皮の分化マーカーとして使用できる。この場合、磁性微粒子上に異なる抗原を認識する複数の抗体を付着させておけば、一度のカラム操作で複数の分化マーカーによって細胞を選別できる。あるいは、異なる抗原を認識する抗体を1種類ずつ付けた磁性微粒子を複数種類併用してもよい。
以上のように濃縮した口腔粘膜上皮細胞は歯胚再生のために利用できるばかりでなく、口腔粘膜上皮自体の再生のための細胞供給源としても利用できる。この場合、in vitroで細胞を一旦増幅してから患者へ戻してもよく、また、in vitroで粘膜上皮シートへ分化誘導するなどの処理を行った後移植してもよい。また、口腔粘膜幹細胞を皮膚や角膜の再生のための細胞源として利用することもできる。また、歯以外にも腎臓や胃など、発生の過程で上皮系細胞と間葉系細胞の相互作用を経る臟器の再生に応用することも考えられる。
[実施例2]
実施例1と同様に、扁平細胞株SCC25を試料とする。本実施例では基本的に実施例1と同様の処理をするが、図2の非目的細胞捕集部が複数段となっている点が異なる。このように構成することにより、目的細胞の濃縮率をさらに向上可能である。
またさらに、G6K12以外の上皮細胞の分化マーカーを併用してさらに幹細胞の濃縮度を上げることもできる。例えば、基底細胞はサイトケラチンK5、K14を発現する。また、基底細胞層の上層ではサイトケラチンK1、K2、K10、K11が発現する。また、口蓋の上皮細胞ではトランスグルタミナーゼtransglutaminazeが、有棘細胞の上層ではinvolucrinなどのマーカータンパクがそれぞれ発現する。血液組織学的抗原も上皮の分化マーカーとして使用できる。この場合、磁性微粒子上に異なる抗原を認識する複数の抗体を付着させておけば、一度のカラム操作で複数の分化マーカーによって細胞を選別できる。あるいは、異なる抗原を認識する抗体を1種類ずつ付けた磁性微粒子を複数種類併用してもよい。
こうして構成した非目的細胞捕集部を数段積み重ねてネガティブセレクションすれば、より完全に目的細胞を分離できる。
濃縮した口腔粘膜上皮細胞は歯胚再生のために利用できるばかりでなく、口腔粘膜上皮自体の再生のための細胞供給源としても利用できる。この場合、in vitroで細胞を一旦増幅してから患者へ戻してもよく、また、in vitroで粘膜上皮シートへ分化誘導するなどの処理を行った後移植してもよい。また、口腔粘膜幹細胞を皮膚や角膜の再生のための細胞源として利用することもできる。また、歯以外にも腎臓や胃など、発生の過程で上皮系細胞と間葉系細胞の相互作用を経る臓器の再生に応用することも考えられる。
【産業上の利用可能性】
本発明によれば口腔粘膜上皮等の幹細胞や前駆細胞を濃縮することができる。方法はネガティブセレクションであるため、目的幹細胞へ抗体や磁性微粒子を付着させることなく、剥離剤を用いることなく、また機械的な損傷を与えることもないので、濃縮された幹細胞を完全な状態でティッシュエンジニアリングに利用できる。また、磁性微粒子と磁気カラムを用いているため、セルソーターに比べて短時間に大量の濃縮細胞が得られる。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)上部に開口部を有し、下部に穴を有する少なくとも一つの容器と、(b)該容器の外周に配置した磁気発生部とから構成される、幹細胞を濃縮するための装置。
【請求項2】
上記容器の開口部から上記穴に向かって、幹細胞または前駆細胞の少なくとも一方と、少なくとも一つの分化細胞とを含む細胞集団、分化細胞に特異的に結合するマーカー、及び該マーカーに付着する磁性体を懸濁した液を通過させることにより、上記磁気発生部に吸着された上記磁性体、これに付着するマーカー、および該分化細胞を上記容器内に捕捉し、残留物を少なくとも濃縮幹細胞または濃縮前駆細胞の一方として回収することにより、幹細胞を濃縮する、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
分化細胞が、口腔粘膜上皮の分化細胞である、請求項2に記載の装置。
【請求項4】
上記マーカーが、複数のマーカーから構成されている、請求項2又は3に記載の装置。
【請求項5】
上記マーカーが、上記分化細胞に結合するG6K12抗体とこれと上記磁性体を付着するIgM抗体である、請求項2又は3に記載の装置。
【請求項6】
上記磁性体が磁気ビーズである、請求項2から5のいずれかに記載の装置。
【請求項7】
(a)上部に開口部を有し、下部に穴を有する少なくとも一つの容器と、(b)該容器の外周に配置した磁気発生部とから構成される、幹細胞を濃縮するための装置を使用し、上記容器の開口部から上記穴に向かって、幹細胞または前駆細胞の少なくとも一方と、少なくとも一つの分化細胞とを含む細胞集団、分化細胞に特有なマーカー、及び該マーカーに付着する磁性体を懸濁した液を通過させることにより、上記磁気発生部に吸着された上記磁性体、これに付着するマーカー、および該分化細胞を上記容器内に捕捉し、残留物を少なくとも濃縮幹細胞または濃縮前駆細胞の一方として回収することを含む、濃縮幹細胞または濃縮前駆細胞の作製方法。
【請求項8】
分化細胞が、口腔粘膜上皮の分化細胞である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
上記マーカーが、複数のマーカーから構成されている、請求項7又は8に記載の方法。
【請求項10】
上記マーカーが、上記分化細胞に接着されるG6K12抗体とこれと上記磁性体を付着するIgM抗体である、請求項7又は8に記載の方法。
【請求項11】
上記磁性体が磁気ビーズである、請求項7から10のいずれかに記載の方法。

【国際公開番号】WO2005/056751
【国際公開日】平成17年6月23日(2005.6.23)
【発行日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−516256(P2005−516256)
【国際出願番号】PCT/JP2004/018872
【国際出願日】平成16年12月10日(2004.12.10)
【出願人】(000153498)株式会社日立メディコ (1,613)
【出願人】(503458799)
【Fターム(参考)】