説明

幼畜用代用乳組成物

【課題】 植物性油脂を使用し、抗固結性や流動性が優れるとともに、粉末あるいは顆粒が温水へ迅速になじみ、速やかに温水中に沈降すること、沈降した粉末あるいは顆粒が、ダマを形成せず、温水中に均一に分散すること、分散した粉末あるいは顆粒が温水にミクロなレベルで完全に水和、あるいは油脂ならば完全に乳化すること、及び水和あるいは乳化した代用乳成分が水溶液中で分離せず安定的に存在する特性を合わせて有する幼畜用代用乳組成物を提供すること。
【解決手段】 代用乳原料中に、0.1〜10重量%のトレハロースを含有させることによって、温水に溶解する際の水への沈降性、分散性が非常に優れた幼畜用代用乳組成物が得られる。この代用乳組成物は、温水に溶解して給与するに当たって、代用乳組成物が温水に速やかに沈降、分散、溶解するので、特に大型の哺育農家の場合、哺育作業の手間と労働力を大幅に短縮、軽減することができる。
【添付図】 なし。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶解性に優れた幼畜のための代用乳組成物に関する。更に詳しくは、授乳に当たって、温水に溶解する際に温水への沈み込みがよく、温水中へ速やかに分散する代用乳組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
子牛、子豚、子羊、子山羊等の幼畜類の生産やその他の幼動物の飼育に当っては、母乳の代替に人工的に造られた代用乳組成物を給与して飼育することが広く行われている。
この代用乳組成物は、通常、脱脂粉乳、乾燥ホエー、ホエー蛋白質濃縮物(WPC)等の乳成分を主原料とし、これに油脂類、糖類、穀類、ミネラル、ビタミン、抗生物質などを配合した粉末或いは顆粒状の固形物であり、使用に当たって、水又は温水に溶解或いは乳化分散させて給与されている。
【0003】
この代用乳組成物は、油脂原料として、30〜80重量%の油脂と脱脂粉乳、ホエー類、カゼイン、必要によりデキストリンやコーンシロップなどの糖質基材、乳化剤及びその他の助剤、安定剤などから構成される粉末油脂を使用し、他の原料と単に混合して粉末状にしたもの、顆粒状に造粒したもの、あるいは、油脂以外の成分を油脂でコーティングした顆粒状のものなどが多く使用されている。
【0004】
このような代用乳組成物に求められる品質特性は、サラサラして流動性に優れ、保存時に固結しない、また使用に当たっては温水に速やかに沈降、分散、溶解すること、哺乳器具に汚れがつきにくく洗いやすいこと、などが要求される。特に大型の哺育農家の場合は、代用乳を毎日数百リットル調製し子牛に給与しなければならないため、代用乳組成物が速やかに溶解することは、哺育作業の手間と労働力を考える際に非常に重要な品質特性となる。
【0005】
代用乳組成物の溶解という物理特性を考えた場合、以下の4つの物理特性に分けて検討することが重要である。すなわち、代用乳組成物が油脂原料として10〜35重量%と云う高い比率で油脂を含むにも拘らず、第一に粉末あるいは顆粒が温水へ迅速になじみ、速やかに温水中に沈降すること(沈降性)、第二に沈降した粉末あるいは顆粒が、ダマを形成せず、温水中に均一に分散すること(分散性)、第三に分散した粉末あるいは顆粒が温水にミクロなレベルで完全に水和、あるいは油脂ならば完全に乳化すること(溶解性)、第四に水和あるいは乳化した代用乳成分が水溶液中で分離せず安定的に存在すること(溶液安定性)である。
【0006】
これら四つの物理特性のうち、第二の分散性については、先に本発明者らによって、粉末状の代用乳原料を造粒し顆粒化する方法を提案した(特願2004−281081)。また第三の溶解性については、用いる乳化剤の種類に着目した検討や(特開平10−84868)、油脂の物理特性を改変する検討(特開2005−218307)、などが行われてきた。また、第四の溶液安定性については、本発明者らによって、用いる油脂の種類を詳細に検討することで優れた溶液安定性を示す代用乳組成物が提案されている(特願2005−362916)。
【特許文献1】特願2004−281081
【特許文献2】特開平10−84868
【特許文献3】特開2005−218307
【特許文献4】特願2005−362916
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、植物性油脂を使用し、抗固結性や流動性が優れるとともに、粉末あるいは顆粒が温水へ迅速になじみ、速やかに温水中に沈降すること、沈降した粉末あるいは顆粒が、ダマを形成せず、温水中に均一に分散すること、分散した粉末あるいは顆粒が温水にミクロなレベルで完全に水和、あるいは油脂ならば完全に乳化すること、及び水和あるいは乳化した代用乳成分が水溶液中で分離せず安定的に存在する特性を合わせて有する幼畜用代用乳組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討の結果、代用乳原料中に、0.1〜10重量%のトレハロースを含有させることによって、10〜35重量%と云う高い植物性油脂の含有率であるにも拘らず、温水に溶解する際の水への沈降性、分散性が非常に優れた幼畜用代用乳組成物が得られることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成した。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、代用乳組成物を温水に溶解して給与するに当たって、代用乳組成物が温水に速やかに沈降、分散、溶解するので、特に大型の哺育農家の場合、従来の製品に比べて哺育作業の手間と労働力を大幅に短縮、軽減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本願の発明を実施するに当たっては、通常の代用乳原料中に0.1〜10重量%のトレハロースを含有させる。この代用乳原料は、植物性油脂の含有量が10〜35重量%、乳成分原料が50〜80重量%、及び糖類、ミネラル、ビタミン類並びに乳化剤の含有量が2〜35重量%含むものが使用される。植物性油脂としては、(イ)ヨウ素価が55.0〜67.0であるパーム油を50%以上用いた植物性混合油脂、(ロ)ヤシ油、パーム核油、あるいはそれらの混合油脂の含量が50%以上である植物性混合油脂又は(ハ)パーム油の分画混合油脂を50%以上含有し、かつパーム核油、ヤシ油、あるいはそれらの混合油脂を50%以下含有する植物性混合油脂であり、パーム核油、ヤシ油、あるいはそれらの混合油脂の含量をA%としたとき、パーム油の分画混合油脂のヨウ素価が(55.0−0.05A)〜55.0となるような植物性混合油脂が有利に使用される。
【0011】
又、この代用乳組成物が、サラサラして流動性に優れ、保存時に固結しない、また使用に当たっては温水に速やかに沈降、分散、溶解すること、哺乳器具に汚れがつきにくく洗いやすいこと、などの品質特性を有するように、トレハロース及びその他の代用乳原料をミキサーで混合して製造したもの、代用乳原料に、水、油脂又は乳化液を噴霧したもの、攪拌造粒機を用いて造粒したもの、流動層造粒機を用いて造粒したもの、代用乳原料に、トレハロースの水溶液を噴霧しながら製造したもの、或いは代用乳原料に、トレハロース、油脂及び水を含む乳化液を噴霧して製造したものなどが有利に用いられる。
【0012】
特に、トレハロース含量が0.1〜10重量%、植物性油脂の含有量が10〜35重量%、乳成分原料が50〜80重量%、及び糖類、ミネラル、ビタミン類並びに乳化剤の含有量が5〜35重量%からなる代用乳用原料混合物を通常の造粒方法によって造粒し、レーザー回折粒度測定器による50%径(メジアン径)が140〜500μmである造粒物は、特に温水への沈降性、分散性に優れ、その他代用乳に要求される諸特性において優れた幼畜用代用乳組成物である。
【実施例】
【0013】
以下、本発明の幼畜用代用乳組成物を実施例を用いて更に詳細に説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。また、以下の例において、特にことわらない限り、%は重量%を示す。
実施例1
表1に粉末油脂AおよびBの配合割合を、表2−1および表2−2に各実施例を、表3に比較例の配合割合を示す。
【0014】
【表1】

【0015】
【表2−1】

【0016】
【表2−2】

【0017】
【表3】

【0018】
実施例1〜4では、粉末油脂Aを噴霧乾燥法を用いて製造し、その後粉末油脂およびその他の原料を混合することで代用乳を製造した。
粉末油脂Aの配合割合を表1に示した。まず粉末油脂重量に対して33%のパームオレイン油(ニチユソリューション株式会社製)、15.4%のパーム核油(ニチユソリューション株式会社製)を混合し、60℃に加熱した後、レシチン1.0%、ソルビタン脂肪酸エステル0.5%、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル0.1%を加え、よく混和し、レシチンと乳化剤を含む油脂混合物を調製した。
一方、脱脂粉乳50%を60℃の温水100重量部に混合溶解し、さらに上に調製した60℃の植物性混合油脂組成物を加え、60℃に保持しながらモーター攪拌機にて均一になるまで混合し、O/W混合乳化溶液を調製した。
【0019】
得られた混合乳化溶液を高圧ホモジナイザー15MR−8TA(米国、APV GAULIN Inc製)によって200kg/cmの圧力をかけ、均質化処理(ホモジナイズ)を行った。この均質化処理した混合乳化液の脂肪球の球径を光学顕微鏡を用いて測定したところ、1μm〜2μmと非常に小さく、均質化処理によって乳化液中の脂肪球が微細化されたことが確認された。
均質化処理した混合乳化液は、デンマーク、ニロ社製スプレードライヤー・モバイル・マイナー(Niro Co.Ltd.Mobile Minor)を用いて180℃の熱風にて噴霧乾燥処理を行った。
噴霧乾燥後に得られた粉体はバットに薄く広げ、室温で一晩放冷し、粗蛋白質含有率が17%、脂肪含有率が49%である粉末油脂を製造した。粉末油脂の性状はサラサラした白色の粉末状となった。
【0020】
上記方法によって得られた粉末油脂を用いて、表2−1に示す代用乳組成物配合を用意した。ここで用いた脱脂粉乳、ブドウ糖、ビタミン・ミネラル混合物は、一般的な粉末状のものを使用した。濃縮ホエー蛋白質は、粗蛋白質含量が75%の一般的な粉末状のものを使用した。トレハロースは、株式会社林原商事販売の含水結晶トレハロースを使用した。
【0021】
表2−1に示した各原料を万能混合機にて均一になるまで十分混合し、粗蛋白質含有率25%、脂肪含有率21%の混合粉末を調製した。
調製した混合粉末6kgを、流動層造粒機(MGD−0.5、株式会社大川原製作所製)に投入し、90℃の熱風で混合粉末を流動させながら、常温(約25℃)の水を50g/分の噴霧速度で噴霧し造粒を行った。噴霧した水の総量は450g、すなわち混合粉末の重量に対して7.5%となるまで噴霧した。水噴霧終了後、10分間追加乾燥した後流動層から排出した。
得られた造粒物はバットに薄く広げ、4℃の冷蔵庫にて1時間冷却した後、目開き1.4mmのふるいにて篩分し、篩下したものを代用乳組成物とした。代用乳組成物の外観性状はサラサラした顆粒状を呈しており、レーザー粒度分布測定器(シスメックス株式会社製)による平均粒径(50%径)は195μmであった。
【0022】
この代用乳組成物について、水への沈降性の評価を行った。
沈降性の評価方法を以下に述べる。1リットルビーカーに、45℃の温水700mlを入れ、その上に、製造した代用乳組成物100gを静かに入れた。その後、90秒間室温にて放置し、90秒後に液面に露出している代用乳組成物の割合を、液面全体を100%として目視評価した。すなわち、得られる結果のパーセントが小さいほど沈降性が良く、大きいほど沈降性が悪いことになる。
実施例1の代用乳組成物の沈降性は40%となり、60%の代用乳組成物が水面下に沈むことがわかった。
比較例1
【0023】
比較例1は、表3のとおり実施例1からトレハロースを抜き、ブドウ糖に置換した配合割合にて、実施例1と全く同じ方法で代用乳組成物を製造した。代用乳組成物の外観性状は実施例1と同じサラサラした顆粒状を呈しており、トレハロースを添加することによる外観性状の変化は全く認められなかった。レーザー粒度分布測定器による平均粒径(50%径)は201μmであった。
【0024】
比較例1の代用乳組成物を、実施例1と同様の沈降性評価方法にて評価したところ、沈降性は90%となった。つまり、ビーカー液面はほとんどが代用乳組成物で覆われる結果となった。実施例1の代用乳組成物よりも粒度がやや粗いにも関わらず、沈降性は低いことがわかった。
実施例2
【0025】
実施例2では、表2−1に示した配合割合を用意した。これは実施例1のトレハロースを2.5%まで増量した配合割合である。代用乳の製造は、実施例1と全く同じ方法を用いた。得られた代用乳の50%径は207μmとなった。この代用乳組成物について、実施例1と同様の沈降性評価方法にて評価したところ、沈降性は15%となった。
実施例3
【0026】
実施例3では、表2−1に示した配合割合を用意した。これは実施例1のトレハロースを5%まで増量した配合割合である。代用乳の製造は、実施例1と全く同じ方法を用いた。得られた代用乳の50%径は199μmとなった。この代用乳組成物について、実施例1と同様の沈降性評価方法にて評価したところ、沈降性は0%となった。つまり、代用乳組成物を温水に浮かべ、90秒を待たずに全てが水面下に沈降した。沈降時間は、代用乳投入から約30秒であった。
【0027】
実施例1〜3の結果、および比較例1の結果から、同じ製造方法による代用乳組成物の沈降性は、トレハロースの添加濃度が多いほど良好になることが分かった。また実施例1の結果から、トレハロースの添加量は、代用乳組成物あたり0.5%という少量でも沈降性に影響を与えることが確認された。なお、実施例1〜3および比較例1で沈降性を確認した代用乳溶液について、薬さじで20回〜25回攪拌し、1分間静置した後、目開き0.5mmのフルイに溶液を通して残渣を確認したところ、いずれの溶液でも残渣はほとんど認められなかった。すなわち、トレハロース添加により、代用乳の分散性や溶解性には影響を及ぼさないことが確認された。
実施例4
【0028】
実施例4では、トレハロースの水溶液を原料に添加する方法で代用乳を製造し、得られた組成物の沈降性を調査した。原料は、代用乳組成物6kgに相当する量をそれぞれ用意した。表2−1に示した原料のうち、トレハロース以外の原料を万能混合機にて均一になるまで十分混合し、粗蛋白質含有率25%、脂肪含有率21%の混合粉末を調製した。また、トレハロース90gを450mlの水に溶解し、16.7%のトレハロース水溶液540gを調製した。
調製した混合粉末5.91kgを、流動層造粒機(MGD−0.5、株式会社大川原製作所製)に投入し、90℃の熱風で混合粉末を流動させながら、先に調製した16.7%トレハロース水溶液を50g/分の噴霧速度で噴霧し造粒を行った。水溶液噴霧終了後、10分間追加乾燥した後流動層から排出した。造粒物を常温で30分放冷後、目開き1.4mmのフルイにて篩分し、篩下したものを代用乳組成物とした。代用乳組成物の外観性状は実施例1と同じサラサラした顆粒状を呈しており、トレハロースを添加することによる外観性状の変化は全く認められなかった。レーザー粒度分布測定器による平均粒径(50%径)は191μmであった。
この代用乳組成物について、実施例1と同様の沈降性評価方法にて評価したところ、沈降性は20%となり、対照区である比較例1と比べて沈降性が明らかに向上していることが確認された。
このように、トレハロースの添加方法は、粉末自体に混合する場合、水に溶解して水溶液として添加する場合、いずれの方法においても得られた代用乳組成物の沈降性を高めることが分かった。
実施例5
【0029】
実施例5では、実施例1〜4のように流動層造粒機を用いることがない場合に、トレハロースが組成物の沈降性を高めることが出来るかどうかを調べた。トレハロースは代用乳組成物重量あたり9%を添加した。表2−2に示した代用乳配合割合にて各原料を万能混合機で均一になるまで十分混合し、粗蛋白質含有率25%、脂肪含有率21%の混合粉末を調製し、これを代用乳組成物とした。得られた代用乳組成物は、軽いパウダー状であり、レーザー粒度分布測定器による平均粒径(50%径)は107μmであった。
この代用乳組成物について、実施例1と同様の沈降性評価方法にて評価したところ、沈降性は20%と良好であることが分かった。
比較例2
【0030】
実施例5の対照区となるように、比較例2を実施した。比較例2の配合割合を表3に示した。原料は、代用乳組成物6kgに相当する量をそれぞれ用意した。このように実施例5のトレハロースをブドウ糖に全て置換した代用乳配合割合にて、各原料を万能混合機にて均一になるまで十分混合し、粗蛋白質含有率25%、脂肪含有率21%の混合粉末を調製し、これを代用乳組成物とした。得られた代用乳組成物の外観性状は、実施例5と全く同様であった。レーザー粒度分布測定器による平均粒径(50%径)は101μmであった。
この代用乳組成物について、実施例1と同様の沈降性評価方法にて評価したところ、沈降性は100%となった。すなわち、温水に浮かべた代用乳組成物はほとんど沈降せず、90秒間静置している間に若干下層の粉末が沈降するのがビーカー側面から観察されたものの、液面は完全に代用乳組成物に占められている状態であった。
このように、実施例5と比較例2の試験結果から、トレハロースによる沈降性向上効果は、単に配合原料をミキサーで混合しただけでも顕著に表れることが分かった。
実施例6
【0031】
実施例6では、トレハロースを含む粉末油脂Bを噴霧乾燥法にて製造し、その後粉末油脂及びその他の原料を混合することで代用乳を製造した。
粉末油脂Bの配合割合を表1に示した。使用原料は全て粉末油脂Aと同じものを使用した。まず粉末油脂重量に対して33%のパームオレイン油、15.4%のパーム核油を混合し、60℃に加熱した後、レシチン1.0%、ソルビタン脂肪酸エステル0.5%、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル0.1%を加え、よく混和し、レシチンと乳化剤を含む油脂混合物を調製した。
一方、脱脂粉乳42.5%、およびトレハロース7.5%を60℃の温水100%に混合溶解し、さらに上に調製した60℃の植物性混合油脂組成物を加え、60℃に保持しながらモーター攪拌機にて均一になるまで混合し、O/W混合乳化溶液を調製した。その後、混合乳化液は粉末油脂Aと同様の方法で均質化処理及び噴霧乾燥を行った。得られた粉末油脂Bは、粉末油脂Aと同様、サラサラの粉末状であった。
【0032】
上記方法によって得られた粉末油脂Bを用いて、表2−2に示す代用乳組成物配合を用意した。原料は、代用乳組成物6kgに相当する量をそれぞれ用意した。粉末油脂Bを含む各原料を万能混合機にて均一になるまで十分混合して得られた混合粉末は、実施例1と同様の設備、条件にて水を噴霧しながら造粒した。得られた代用乳組成物のサラサラ感や外観性状は、実施例1で製造した代用乳組成物と何ら変わらなかった。
得られた代用乳組成物の沈降性を実施例1と同様の方法で評価したところ、沈降性は30%となり、対照区である比較例1と比べて沈降性が明らかに向上していることを確認した。
実施例7
【0033】
実施例7では、流動層造粒機を用いて乳化油脂を吹きつけながら造粒する製造方法のときに、トレハロースが沈降性に影響するかどうかを確認した。配合割合を表2−2に示す。原料は、代用乳組成物6kgに相当する量をそれぞれ用意した。
【0034】
まず、代用乳重量に対して14%のパームオレイン油、6%のパーム核油を混合し、60℃に加熱した後、レシチン0.5%、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル0.5%を加え、よく混和し、レシチンと乳化剤を含む油脂混合物を調製した。次に、代用乳組成物重量に対して20%の水、および3%のトレハロースを混合し、60℃まで加熱した後、先に調製した油脂混合物を水溶液中に少しずつ入れながら良く混合して、トレハロースを含む乳化水溶液を調製した。
【0035】
次に、脱脂粉乳、濃縮ホエー蛋白質、ブドウ糖、ビタミン・ミネラルを万能混合機にて均一になるまで十分混合した。これらの粉末混合物を流動層造粒機(MGD−0.5、株式会社大川原製作所製)に投入し、90℃の熱風で流動させながら、先に調製したトレハロースを含む乳化水溶液を100g/分の噴霧速度で噴霧し造粒を行った。噴霧終了後、10分間追加乾燥した後流動層から排出した。造粒物を常温で30分放冷後、目開き1.4mmのフルイにて篩分し、篩下したものを代用乳組成物とした。得られた代用乳組成物は、若干シットリした顆粒状となり、レーザー粒度分布測定器による平均粒径(50%径)は210μmであった。
この代用乳組成物について、実施例1と同様の沈降性評価方法にて評価したところ、沈降性は0%となった。つまり、代用乳組成物を温水に浮かべ、90秒を待たずに全てが水面下に沈降した。沈降時間は、代用乳投入から約40秒であった。
比較例3
【0036】
実施例7に対し、対照区として比較例3を実施した。比較例3の配合割合を表3に示した。表3に示すように、実施例7からトレハロースを除き、ブドウ糖に置換した配合割合である。原料は、代用乳組成物6kgに相当する量をそれぞれ用意した。
まず、代用乳重量に対して14%のパームオレイン油、6%のパーム核油を混合し、60℃に加熱した後、レシチン0.5%、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル0.5%を加え、よく混和し、実施例7と同様のレシチンと乳化剤を含む油脂混合物を調製した。次に、代用乳組成物重量に対して20%の水を60℃まで加熱した後、先に調製した油脂混合物を水溶液中に少しずつ入れながら良く混合して、乳化水溶液を調製した。その後、実施例7と同様に、粉末原料を流動層造粒機に入れて乳化水溶液を噴霧し、造粒した。ただし、乳化液の噴霧速度は95g/分とした。得られた代用乳組成物の外観性状は、実施例7と全く同様であった。レーザー粒度分布測定器による平均粒径(50%径)は203μmであった。
この代用乳組成物について、実施例1と同様の沈降性評価方法にて評価したところ、沈降性は60%となった。
【0037】
実施例7と比較例3の沈降性を比較した結果、乳化水溶液中にトレハロースを添加し、そのトレハロース入り乳化水溶液を用いて原料を造粒することによっても、代用乳組成物の沈降性を高めることができることがわかった。
実施例8
【0038】
実施例8では、攪拌造粒法を用いて代用乳を製造した場合に、トレハロースが沈降性に効果的かどうかを検討した。配合割合を表2−2に示す。原料は、代用乳組成物1.5kgに相当する量をそれぞれ用意した。トレハロースは代用乳組成物重量に対して3%を用意した。
まず、代用乳重量に対して14%のパームステアリン(ニチユソリューション株式会社製)、6%のパーム核油を混合し、60℃に加熱した後、レシチン0.5%、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル0.5%を加え、よく混和し、レシチンと乳化剤を含む油脂混合物を調製した。一方、脱脂粉乳63%、濃縮ホエー蛋白質5%、ブドウ糖7%、ビタミン・ミネラル1%、トレハロース3%を攪拌造粒機(FM−VG−10、株式会社パウレック製)に投入し、攪拌しながら先に調製した油脂混合物を流しいれ、30秒間造粒を行った。その後、流動層(NFLO−1、フロイント産業株式会社製)に造粒物を入れ、70℃の熱風で3分乾燥させた後、バットに薄く広げ、4℃の冷蔵庫で1時間冷却した。
冷却した造粒物を目開き1.4mmのフルイにて篩分し、篩下したものを代用乳組成物とした。この代用乳組成物について、実施例1と同様の沈降性評価方法にて評価したところ、沈降性は0%となった。つまり90秒を待たずに全てが水面下に沈降した。沈降時間は、代用乳投入から約30秒であった。
【0039】
比較例4
比較例4は実施例8の対照区となるように実施した。比較例4の配合割合を表3に示した。表に示したとおり、比較例4は実施例8のトレハロースをブドウ糖に全て置換した配合割合を用いて製造した。製造方法も実施例8と全く同様の方法で製造した。得られた代用乳組成物の外観性状は、実施例8と全く同様であった。
この代用乳組成物について、実施例1と同様の沈降性評価方法にて評価したところ、沈降性は75%となった。
【0040】
実施例8と比較例4の沈降性を比較した結果、攪拌造粒法で油脂を添加しながら代用乳組成物を製造する場合に関しても、原料にトレハロースが含まれることで、代用乳組成物の沈降性を高めることが分かった。
【0041】
全ての比較例および実施例の結果を表4に示す。以上の実施例で示したように、トレハロース及びその他の代用乳原料をミキサーで混合して製造したもの、代用乳原料に、水、油脂又は乳化液を噴霧したもの、攪拌造粒機を用いて造粒したもの、あるいは流動層造粒機を用いて造粒したもの、代用乳原料にトレハロースの水溶液を噴霧しながら製造したもの、代用乳原料にトレハロース、油脂及び水を含む乳化液を噴霧して製造したもの、或いはトレハロースを含む粉末油脂をあらかじめ製造し、これを代用乳原料と混合、造粒したものにおいて、代用乳組成物の沈降性を高めることが出来た。
なお、実施例1〜8および比較例1〜3で沈降性を確認した代用乳溶液について、薬さじで20回〜25回攪拌し、1分間静置した後、目開き0.5mmのフルイに溶液を通して残渣を確認したところ、いずれの溶液でも残渣はほとんど認められなかった。また、1分間静置後の油脂分離なども観察されず、いずれの実施例および比較例の溶液安定性も良好であることが分かった。すなわち、トレハロース添加は、代用乳の分散性、溶解性、溶液安定性に悪い影響を及ぼさないことが確認された。
これにより、代用乳の沈降性、分散性、溶解性、溶液安定性を合わせて有する幼畜用代用乳組成物を提供することが可能になった。
【0042】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
代用乳原料中に、0.1〜10重量%のトレハロースを含有する、温水に溶解する際の水への沈降性、分散性に優れた幼畜用代用乳組成物。
【請求項2】
トレハロース含量が0.1〜10重量%、植物性油脂の含有量が10〜35重量%、乳成分原料が50〜80重量%、及び糖類、ミネラル、ビタミン類並びに乳化剤の含有量が2〜35重量%からなる代用乳用原料混合物を造粒し、レーザー回折粒度測定器による50%径(メジアン径)が140〜500μmである、水への沈降性に優れるとともに、温水中への分散性にも優れた、請求項1に記載の幼畜用代用乳組成物。
【請求項3】
トレハロース及びその他の代用乳原料をミキサーで混合して製造することを特徴とする請求項1又は2に記載の幼畜用代用乳組成物の製造方法。
【請求項4】
代用乳原料に、水、油脂又は乳化液を噴霧することを特徴とする請求項1〜3に記載の幼畜用代用乳組成物の製造方法。
【請求項5】
攪拌造粒機を用いて造粒することを特徴とする請求項4に記載の幼畜用代用乳組成物の製造方法。
【請求項6】
流動層造粒機を用いて造粒することを特徴とする請求項4に記載の幼畜用代用乳組成物の製造方法。
【請求項7】
代用乳原料に、トレハロースの水溶液を噴霧しながら製造することを特徴とする請求項4〜6に記載の幼畜用代用乳組成物の製造方法。
【請求項8】
代用乳原料に、トレハロース、油脂及び水を含む乳化液を噴霧することを特徴とする請求項4〜6に記載の幼畜用代用乳組成物の製造方法。
【請求項9】
油脂含量が30〜80%であり、かつトレハロースを0.5%〜20%含み、噴霧乾燥法を用いて製造した、水への沈降性に優れるとともに、温水中への分散性にも優れた粉末油脂をあらかじめ製造し、これを代用乳原料として使用することを特徴とする幼畜用代用乳組成物の給餌方法。