説明

床または壁用伸縮継手装置

【課題】 各建物が地震などによって近接および離反する方向に相対変位を生じても、支持部材に偏荷重が負荷されるのを回避することにより、支持部材の変形を防止して、円滑な伸縮を実現できる床または壁用伸縮継手装置を提供する。
【解決手段】 各対向部23a,23bの近接および離反する方向の相対変位に追従して回動自在な複数の回動支持手段27に、前記方向に同一面上で直交する方向への相対移動を自在に複数の支持部材28を取付け、各支持部材28で前記直交する方向への相対移動および該直交する方向に平行な軸線まわりの回動を自在に被支持部材29を支持し、各被支持部材29にカバー体31を固定する。カバー体31は、隣接する被支持部材29の上方を超えて前記幅方向一方側にのび、相互に隣接するカバー体31は部分的に重なった状態で目地部21を覆う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物の隣接する2つ躯体間の空隙を塞いだ状態で、地震などによる各躯体の相対変位を許容することができる床または壁用伸縮継手装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図13は、従来の技術の床用伸縮継手装置1を示す平面図、図14は、図13の鉛直断面図であり、この従来の技術の床用伸縮継手装置1は、特許文献1に記載されている。すなわち、床用伸縮継手装置1は、空隙である目地部2を介して建てられた左右の建物3a,3bの目地部2側の床躯体4a,4bに取付けられる一対のレール5a,5bと、この一対のレール5a,5bに両端部がローラ6a,6bによってスライド移動可能に支持される複数の支持バー7と、各支持バー7に所定間隔で枢支ピン8で枢支された複数の目地プレート支持体9と、目地プレート支持体9の上端部に形成された上向きC字状断面の軸受部10に所定量回動可能、かつ図13では上下方向(矢印Y1,Y2方向)、図14では紙面方向の相対移動を可能に取付けられる玉縁形状の軸部11が下向きに形成された複数の目地プレート12とを有する。
【0003】
前記構成の床用伸縮継手装置1は、各建物3a,3bが地震などによって近接(図13の矢印X1方向)および離反(図13の矢印X2方向)する方向に相対変位を生じたとき、各支持バー7は回動し、この回動に追従して各目地プレート支持体9は図13の上下方向(矢印Y1,Y2方向)に変位するとともに、各建物3a,3bの近接および離反する方向の間隔が縮小または拡大される。
【0004】
一方、各目地プレート12には、床躯体4b側の端部に、玉縁形状の軸部11が下向きに形成され、この玉縁形状の軸部11が目地プレート支持体9の上端部に形成された上向きC字状断面の軸受部10に所定量回動可能、かつ図13では上下方向(矢印Y1,Y2方向)、図14では紙面方向の相対移動を可能に取付けられているので、各目地プレート支持体9が図13の上下方向に変位しても、各目地プレート12は、図13の上下方向に変位することなく、各目地プレート支持体9の前記間隔の縮小または拡大のみに追従して、各建物3a,3bの近接および離反する方向に変位するとともに、玉縁形状の軸部11を回動中心に上下に回動することにより、目地部2を塞いだ状態に維持することができる。
【0005】
【特許文献1】特開2002−38612号公報。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、従来の技術の床用伸縮継手装置1では、図13において、各建物3a,3bが近接(図13の矢印X1方向)する方向に相対変位すると、各支持バー7は、その長手方向の中央部を回動中心にして反時計まわりに回動し、各建物3a,3bが離反(図13の矢印X2方向)する方向に相対変位すると、各支持バー7は、その長手方向の中央部を回動中心にして時計まわりに回動する。したがって、各建物3a,3bが近接(図13の矢印X1方向)する方向に相対変位した場合には、各支持バー7の長手方向の中央部よりも右側に枢支された複数の目地プレート支持体9は上方向(図13の矢印Y1方向)に変位して、長手方向の中央部よりも右側の各目地プレート12の支持位置が図13の矢印Y1方向に偏り、各支持バー7の長手方向の中央部よりも右側に枢支された各目地プレート支持体9に偏荷重が負荷され、各支持バー7の長手方向の中央部よりも左側に枢支された複数の目地プレート支持体9は下方向(図13の矢印Y2方向)に変位して、長手方向の中央部よりも左側の各目地プレート12の支持位置が図13の矢印Y2方向に偏り、各支持バー7の長手方向の中央部よりも左側に枢支された各目地プレート支持体9にも偏荷重が負荷されることになる。
【0007】
一方、各建物3a,3bが離反(図13の矢印X2方向)する方向に相対変位した場合には、各支持バー7の長手方向の中央部よりも右側に枢支された複数の目地プレート支持体9は下方向(図13の矢印Y2方向)に変位して、長手方向の中央部よりも右側の各目地プレート12の支持位置が図13の矢印Y2方向に偏り、各支持バー7の長手方向の中央部よりも右側に枢支された各目地プレート支持体9に偏荷重が負荷され、各支持バー7の長手方向の中央部よりも左側に枢支された複数の目地プレート支持体9は上方向(図13の矢印Y1方向)に変位して、長手方向の中央部よりも左側の各目地プレート12の支持位置が図13の矢印Y1方向に偏り、各支持バー7の長手方向の中央部よりも左側に枢支された各目地プレート支持体9にも偏荷重が負荷されることになる。
【0008】
このように、各目地プレート支持体9に偏荷重が負荷されると、各目地プレート支持体9に大きな応力が発生して変形するおそれを有し、複数の目地プレート支持体9が変形すると、床用伸縮継手装置1の円滑な伸縮作動が妨げられる。しかも、前記の変位量は、複数の目地プレート支持体9の枢支位置が支持バー7の長手方向両端部に近付くにつれて漸次大きくなるので、複数の目地プレート支持体9は、左右の建物3a,3bの目地部2側の床躯体4a,4bに近付く程大きい偏荷重が負荷されることになって、変形の危険度が高くなる。
【0009】
すなわち、従来の技術の床用伸縮継手装置1では、各建物3a,3bが地震などによって近接および離反する方向に相対変位すると、各目地プレート12および各目地プレート12に形成された玉縁形状の軸部11の重量を支える支持部材として機能する複数の目地プレート支持体9に偏荷重が負荷されて、複数の目地プレート支持体9が変形するおそれを有し、複数の目地プレート支持体9が変形すると、床用伸縮継手装置1の円滑な伸縮が妨げられる難点を有する。
【0010】
本発明は、このような問題を解決するものであって、その目的とするところは、各建物が地震などによって近接および離反する方向に相対変位を生じても、支持部材に偏荷重が負荷されるのを回避することにより、支持部材の変形を防止して、円滑な伸縮を実現できる床または壁用伸縮継手装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、建物の隣接する2つの躯体の相互に対向する対向部に長手方向両端部が支持されて、各対向部の近接および離反する方向の相対変位に追従して回動自在な複数の回動支持手段と、
各回動支持手段に、前記近接および離反する方向に間隔をあけて配置されるとともに、該近接および離反する方向に同一面上で直交する方向への相対移動を自在に取付けられる複数の支持部材と、
各支持部材に、前記直交する方向への相対移動および該直交する方向に平行な軸線まわりの回動を自在に支持される複数の被支持部材と、
各被支持部材に固定され、前記近接および離反する方向に平行な幅方向一方側に隣接する被支持部材の上方を超えて前記幅方向一方側にのびるカバー部を有する複数のカバー体とを備えることを特徴とする床または壁用伸縮継手装置である。
【0012】
これによれば、各支持部材は、各建物の近接および離反する方向の相対変位に追従して回動する複数の回動支持手段に対して、前記近接および離反する方向に同一面上で直交する方向(以下の説明では、単に「直交する方向」という)への相対移動を自在に取付けられているので、各支持部材は、各回動支持手段の回動に追従して前記直交する方向に変位しなくなる。したがって、各支持部材に偏荷重が負荷されなくなって各支持部材の変形を防止できる。
【0013】
また、複数のカバー体に固定された被支持部材は、前記直交する方向に平行な軸線まわりの回動を自在に各支持部材に支持されるので、各建物が近接および離反する方向に相対変位しても、各カバー体は前記軸線を回動中心に上下に回動することにより、各カバー体が各建物の近接および離反する方向に伸縮して、各カバー体で目地部を塞いだ状態を維持して、通行者の安全を確保する。
【0014】
さらに、複数のカバー体に固定された被支持部材は、前記直交する方向への相対移動を自在に各支持部材に支持されるので、万一、何らかの原因で、各回動支持手段の回動に追従して各支持部材が前記直交する方向に僅かに移動したとしても、各カバー体の前記直交する方向への移動が回避されて、各カバー体で目地部を塞いだ状態を維持して、通行者の安全を確保する。
【0015】
本発明は、前記各回動支持手段の長手方向両端部を、前記2つの躯体の各対向部に固定されて各対向部の延在方向に沿って平行にのびる一対のレールに移動自在に支持したことを特徴とする。これによると、各建物の近接および離反する方向の相対変位に追従して回動支持手段を円滑に回動させることができる。
【0016】
本発明は、前記各回動支持手段の長手方向一端部を、前記2つの躯体の各対向部の一方の対向部に固定されて該一方の対向部の延在方向に沿ってのびるレールに移動自在に支持されるとともに、各回動支持手段の長手方向他端部は、前記2つの躯体の各対向部の他方の対向部に枢支したことを特徴とする。これによっても、各建物の近接および離反する方向の相対変位に追従して回動支持手段を円滑に回動させることができる。
【0017】
また本発明は、建物の隣接する2つの躯体の相互に対向する対向部に長手方向両端部が支持されて、各対向部の近接および離反する方向の相対変位に追従して拡縮自在な複数の拡縮支持手段と、
各拡縮支持手段に、前記近接および離反する方向に間隔をあけて配置されるとともに、前記直交する方向への相対移動を自在に取付けられる複数の支持部材と、
各支持部材に、前記直交する方向への相対移動および該直交する方向に平行な軸線まわりの回動を自在に支持される複数の被支持部材と、
各被支持部材に固定され、前記近接および離反する方向に平行な幅方向一方側に隣接する被支持部材の上方を超えて前記幅方向一方側にのびるカバー部を有する複数のカバー体とを備えることを特徴とする床または壁用伸縮継手装置である。
【0018】
これによれば、各支持部材は、各建物の近接および離反する方向の相対変位に追従して拡縮する複数の拡縮支持手段に対して、前記直交する方向への相対移動を自在に取付けられているので、各支持部材は、各拡縮支持手段の拡縮に追従して前記直交する方向に移動しなくなる。したがって、各支持部材に偏荷重が負荷されなくなって各支持部材の変形を防止できる。
【0019】
また、各カバー体に固定された被支持部材は、前記直交する方向に平行な軸線まわりの回動を自在に各支持部材に支持されるので、各建物が近接および離反する方向に相対変位しても、各カバー体は前記軸線を回動中心に上下に回動することにより、各カバー体が各建物の近接および離反する方向に伸縮して、各カバー体で目地部を塞いだ状態を維持して、通行者の安全を確保する。
【0020】
さらに、複数のカバー体に固定された被支持部材は、前記直交する方向への相対移動を自在に各支持部材に支持されるので、万一、何らかの原因で、各拡縮支持手段の拡縮に追従して各支持部材が前記直交する方向に僅かに移動したとしても、各カバー体の前記直交する方向への移動が回避されて、各カバー体で目地部を塞いだ状態を維持して、通行者の安全を確保する。
【0021】
本発明は、前記各拡縮支持手段を、複数のリンク部材をパンタグラフ状に角変位自在に枢支したリンク機構によって構成し、その長手方向両端部を、前記2つの躯体の各対向部に枢支したことを特徴とする。これによると、簡単な構造で支持強度が高められた各拡縮支持手段を、各建物の近接および離反する方向の相対変位に追従して円滑に拡縮させることができる。
【0022】
本発明の前記各支持部材は、前記各回動支持手段側または前記各拡縮支持手段側の端部に前記直交する方向にのびる係合溝を有し、前記各回動支持手段または前記各拡縮支持手段は、各支持部材に向かって突出する係合突起を備え、該係合突起と前記係合溝との相互係合により、前記各支持部材は前記各回動支持手段または前記各拡縮支持手段に前記直交する方向への相対移動を自在に取付けられることを特徴とする。これによると、各支持部材が各回動支持手段の回動または各拡縮支持手段の拡縮に追従して前記直交する方向に移動するのを確実に回避できる。したがって、各支持部材に偏荷重が負荷されなくなって各支持部材の変形を確実に防止できる。
【0023】
本発明の前記各支持部材は、前記各被支持部材側の端部に前記直交する方向にのびる断面略円形の嵌合溝を有し、前記各被支持部材は、前記各支持部材側の端部に前記直交する方向にのびる断面略円形の嵌合頭部を備え、該嵌合頭部と前記嵌合溝との相互嵌合により、前記各被支持部材と前記各カバー体は前記各支持部材に前記直交する方向への相対移動および該直交する方向に平行な軸線まわりの回動を自在に支持されることを特徴とする。これによると、複数のカバー体に固定された被支持部材は、前記直交する方向に平行な軸線まわりの回動を自在に各支持部材に支持されるので、各建物が近接および離反する方向に相対変位しても、各被支持部材と各カバー体は前記軸線を回動中心に上下に回動することにより、各カバー体が各建物の近接および離反する方向に伸縮して、各カバー体で目地部を塞いだ状態を確実に維持し、通行者の安全を確保する。
【0024】
また、複数のカバー体に固定された被支持部材は、前記直交する方向への相対移動を自在に各支持部材に支持されるので、万一、何らかの原因で、前記各回動支持手段の回動または前記各拡縮支持手段の拡縮に追従して各支持部材が前記直交する方向に僅かに移動したとしても、各カバー体の前記直交する方向への移動が確実に回避されて、各カバー体で目地部を塞いだ状態を維持して、通行者の安全を確保する。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、各建物が地震などによって近接および離反する方向に相対変位を生じても、支持部材に偏荷重が負荷されるのを回避できるので、支持部材に大きな応力が発生しなくなって、その変形を防止することができる。そのため、地震などによる各建物の近接および離反する方向の相対変位に追従して、床または壁用伸縮継手装置の円滑な伸縮を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の第1の発明に係る床または壁用伸縮継手装置の好ましい一実施形態を図面に基づいて説明する。図1は床用伸縮継手装置を示す平面図、図2は図1の切断面線II−IIから見た床用伸縮継手装置の鉛直断面図である。
【0027】
図1,図2において、床用伸縮継手装置20は、空隙である目地部21を介して建てられた左右の建物22a,22bの目地部21側で相互に対向する対向部23a,23bに取付けられる一対のレール24a,24bと、この一対のレール24a,24bに両端部が摺動部材25,26によってスライド移動可能に支持される複数の回動支持手段27と、各回動支持手段27の上面に、その長手方向(各対向部23a,23bの近接および離反する方向)に間隔をあけて配置されるとともに、該近接および離反する方向に同一面上で直交する方向、つまり、図1では上下方向(矢印Y1,Y2方向)、図2では紙面方向への相対移動を自在に取付けられる複数の支持部材28と、各支持部材28に、前記直交する方向への相対移動および該直交する方向に平行な軸線まわりの回動を自在に支持される複数の被支持部材29と、各被支持部材29に固定され、前記近接(図1,図2の矢印X1方向)および離反(図1,図2の矢印X2方向)する方向に平行な幅方向一方側(図2の左側)に隣接する被支持部材29の上方を超えて図2の左側にのびるカバー部30を有する断面が略L字状の複数のカバー体31とを備える。
【0028】
図3は、対向部23aに固定される一方のレール24a付近の拡大断面図である。この一方のレール24aは、断面が略L字状の鋼材からなり、対向部23aの目地部21に臨む鉛直な壁面に複数のアンカー体32によって固定され、紙面に垂直な水平方向に対向部23aの鉛直な壁面に沿って延在する。
【0029】
各回動支持手段27は、中空部材である角型パイプからなり、その長手方向一端部の下面には、摺動部材25がボルト34、座金35,36およびナット37によって、ボルト34の軸線まわりに回動自在に連結される。摺動部材25は、断面が略横L字状であって、レール24aの底部によって支持される下フランジ25aと、下方の座金36およびナット37によって挟着される上フランジ25bと、上フランジ25bおよび下フランジ25aに直角に連なり、レール24aの立ち上がり部によって案内されるウエブ25cとを有する。
【0030】
前記一方のレール24aにおいて、その上部には補助支持部材38が皿ボルト39およびナット40によって固定される。補助支持部材38は、断面が略L字状であり、かつ紙面に垂直な水平方向に長尺な鋼材からなり、その上面には、対向部23aに最も近接するカバー体31におけるカバー部30が皿ビス41によって固定される。
【0031】
図4は、対向部23bに固定される他方のレール24b付近の拡大断面図である。この他方のレール24bは、断面が略L字状の鋼材からなり、その鉛直上向きの立上がり部は、複数のアンカー体42によって対向部23bに固定されたアングル43における目地部21に臨む鉛直上向きのフランジ43aに溶接によって固定され、紙面に垂直な水平方向に前記フランジ43aに沿って延在する。
【0032】
各回動支持手段27の長手方向他端部の下面には、摺動部材26がボルト34、座金35,36およびナット37によって、ボルト34の軸線まわりに回動自在に連結される。摺動部材26は、断面が略L字状であって、レール24bの底部によって支持される水平方向のフランジ26aと、鉛直上向きのフランジ26bとを有し、この鉛直上向きのフランジ26bは、他方のレール24bの鉛直上向きの立上がり部と、スペーサ45a,45bを介してボルト46およびナット47によって前記鉛直上向きの立上がり部に対向して固定されて紙面に垂直な水平方向に前記フランジ26bに対向して延在する案内板48との間に摺動自在に下側から差し込まれる。
【0033】
前記他方のレール24bにおいて、その上部には補助支持部材49が前記ボルト46およびナット47を利用して固定される。補助支持部材49は、断面が略L字状であり、かつ紙面に垂直な水平方向に長尺な鋼材からなり、その上面には、対向部23bに最も近接するカバー体31の上面を覆う化粧カバー体50が皿ビス51によって固定される。
【0034】
図1〜図5において、各支持部材28は、その下端部に図1では上下方向(矢印Y1,Y2方向)にのび図2〜図5では紙面方向にのびる下向きの係合溝28aを有し、この係合溝28aにボルト34の頭部34aが係合突起として係合することで、各支持部材28は各回動支持手段27の上面に前記直交する方向への相対移動を自在に取付けられる。また、その上端部に図1では上下方向(矢印Y1,Y2方向)にのび図2〜図5では紙面方向にのびる断面略円形で上向きの嵌合溝28bを有する。そして、各支持部材28の前記直交する方向の長さは、各回動支持手段27への取付位置が、その長手方向の中央部から両端部側に近くなるのにしたがって漸次長寸になる様に設定される。
【0035】
各カバー体31の対向部23b側端部の下面(図2〜図5では右側端部の下面)には、前記直交する方向にのびる断面略円形の嵌合頭部29aを備えた図2〜図5の紙面方向に長尺の被支持部材29が皿ボルト33によって固定され、嵌合頭部29aと前記嵌合溝28bとの相互嵌合により、各被支持部材29と各カバー体31は、各支持部材28に前記直交する方向への相対移動および該直交する方向に平行な軸線まわりの回動を自在に支持される。このように、各カバー体31に固定された被支持部材29が前記直交する方向に平行な軸線まわりの回動を自在に各支持部材28に支持されることで、各建物22a,22bが近接および離反する方向に相対変位しても、各被支持部材29と各カバー体31は前記軸線を回動中心に上下に回動することにより、各カバー体31が各建物22a,22bの近接および離反する方向に伸縮して、各カバー体31で目地部21を塞いだ状態を確実に維持し、通行者の安全を確保する。
【0036】
前記構成の床用伸縮継手装置20によれば、各支持部材28は、各建物22a,22bの近接および離反する方向の相対変位に追従して回動する各回動支持手段27に対して、前記近接および離反する方向に同一面上で直交する方向への相対移動を自在に取付けられているので、各支持部材28は、各回動支持手段27の回動に追従して前記直交する方向に移動しなくなる。したがって、各支持部材28に偏荷重が負荷されなくなって、各目地プレート支持体9に発生する応力が抑制される。その結果、各支持部材28の変形が防止されるので、地震などによる各建物22a,22bの近接および離反する方向の相対変位に追従して、床用伸縮継手装置20の円滑な伸縮を実現できる。
【0037】
また、各カバー体31に固定された被支持部材29は、前記直交する方向に平行な軸線まわりの回動を自在に各支持部材28に支持されるので、各建物22a,22bが近接および離反する方向に相対変位しても、各カバー体31は前記軸線を回動中心に上下に回動することにより、各カバー体31が各建物22a,22bの近接および離反する方向に伸縮して、各カバー体31で目地部21を塞いだ状態を維持し、通行者の安全を確保することができる。
【0038】
さらに、各カバー体31に固定された被支持部材29は、前記直交する方向への相対移動を自在に各支持部材28に支持されるので、万一、何らかの原因で、各回動支持手段27の回動に追従して各支持部材28が前記直交する方向に僅かに移動したとしても、各カバー体31の前記直交する方向への移動が回避されて、各カバー体31で目地部を塞いだ状態を維持して、通行者の安全を確保することができる。
【0039】
前記各回動支持手段27の長手方向両端部は、摺動部材25,26を介して一対のレール24a,24bに摺動自在に支持されているので、各建物22a,22bの近接および離反する方向の相対変位に追従して各回動支持手段27を円滑に回動させることができる。
【0040】
各回動支持手段27は、図4,図6に示すように、その長手方向他端部に摺動部材26取付け、この摺動部材26を他方のレール24bで摺動自在に支持し、長手方向一端端部は、図6,図7に示すように、アングル43における目地部21に臨む鉛直上向きのフランジ43aに溶接によって固定された断面が略L字状の鋼材からなる固定板52に、ボルト34、座金35,36およびナット37を介して、ボルト34の軸線まわりに回動自在に連結した構造、つまり、各回動支持手段27の長手方向一端部を一方の対向部23aに取付けた一方のレール24aで移動自在に支持し、各回動支持手段27の長手方向他端部を他方の対向部23bに枢支した構造であってもよい。このような構造では、各支持部材28の前記直交する方向の長さは、各回動支持手段27への取付位置が、その長手方向の一端部から他端部側に近くなるのにしたがって漸次長寸になる様に設定される。なお、図6において図1と同一部分には、同一符号を付し、図7において図4と同一部分には、同一符号を付して重複する説明は省略する。
【0041】
つぎに、本発明の第2の発明に係る床または壁用伸縮継手装置の好ましい一実施形態を図面に基づいて説明する。図8は、第2の発明に適用される拡縮支持手段を示す平面図、図9は図8の矢視線IX−IXから見た床用伸縮継手装置の鉛直断面図である。
【0042】
図8,図9に示す床用伸縮継手装置20が前記図1〜図6で説明した第1の発明に係る床用伸縮継手装置20と異なる構成は、第1の発明に係る床用伸縮継手装置20の回動支持手段27に代えて、拡縮支持手段53を採用した点にある。
【0043】
図8,図9において、拡縮支持手段53は、複数のリンク部材をパンタグラフ状に角変位自在に枢支したリンク機構によって構成され、その長手方向両端部を各対向部23a,23bに枢支している。
【0044】
拡縮支持手段53は、中空部材である角型パイプからなる複数のリンク部材53a〜53jと、リンク部材53a,53dに平行にリンク部材53b,53cに架設されるリンク部材53k,53lと、リンク部材53d,53fに平行にリンク部材53c,53eに架設されるリンク部材53m,53nと、リンク部材53f,53hに平行にリンク部材53e,53gに架設されるリンク部材53o,53pおよびリンク部材53h,53jに平行にリンク部材53g,53iに架設されるリンク部材53q,53rとを備える。
【0045】
また、リンク部材53aの一端部とリンク部材53bの一端部、リンク部材53aの他端部とリンク部材53cの一端部、リンク部材53bの他端部とリンク部材53dの一端部、リンク部材53cの他端部とリンク部材53fの一端部、リンク部材53dの他端部とリンク部材53eの一端部、リンク部材53fの他端部とリンク部材53gの一端部、リンク部材53eの他端部とリンク部材53hの一端部、リンク部材53gの他端部とリンク部材53jの一端部、リンク部材53hの他端部とリンク部材53iの一端部およびリンク部材53iの他端部とリンク部材53jの他端部のそれぞれを、長寸のピンボルト54とナット55によって枢支し、リンク部材53cとリンク部材53dの交点P2、リンク部材53eとリンク部材53fの交点P3およびリンク部材53gとリンク部材53hの交点P4のそれぞれを、長寸のピンボルト54とナット55によって枢支する。
【0046】
さらに、リンク部材53kの一端部とリンク部材53lの一端部のそれぞれを長寸のピンボルト54とナット55によってリンク部材53bに枢支し、リンク部材53kの他端部とリンク部材53lの他端部のそれぞれを長寸のピンボルト54とナット55によってリンク部材53cに枢支し、リンク部材53mの一端部とリンク部材53nの一端部のそれぞれを長寸のピンボルト54とナット55によってリンク部材53cに枢支し、リンク部材53mの他端部とリンク部材53nの他端部のそれぞれを長寸のピンボルト54とナット55によってリンク部材53eに枢支する。また、リンク部材53oの一端部とリンク部材53pの一端部のそれぞれを長寸のピンボルト54とナット55によってリンク部材53eに枢支し、リンク部材53oの他端部とリンク部材53pの他端部のそれぞれを長寸のピンボルト54とナット55によってリンク部材53gに枢支し、リンク部材53qの一端部とリンク部材53rの一端部のそれぞれを長寸のピンボルト54とナット55によってリンク部材53gに枢支するとともに、リンク部材53qの他端部とリンク部材53rの他端部のそれぞれを長寸のピンボルト54とナット55によってリンク部材53iに枢支する。
【0047】
一方、リンク部材53aとリンク部材53bの枢支点P1、リンク部材53cとリンク部材53dの交点P2、リンク部材53eとリンク部材53fの交点P3、リンク部材53gとリンク部材53hの交点P4およびリンク部材53aとリンク部材53bの枢支点P5を通る直線C(図7参照)上において、リンク部材53k,53l,53m,53n,53o,53p,53q,53rに短寸のピンボルト56とナット57(前記第1の発明の実施形態で説明したボルト34とナット37に相当する)を枢着し、このピンボルト56の頭部に前記第1の発明の実施形態のボルト34の頭部34aと同様の構成で支持部材28の係合溝28aを係合するとともに、支持部材28の嵌合溝28bに被支持部材29の下向きの嵌合頭部29aを嵌合して支持することで、前記第1の発明の実施形態と同様に被支持部材29を介して複数のカバー体31を支持している。
【0048】
他方、前記P1,P2,P3.P4,P5の各長寸のピンボルト54の頭部には、前記各短寸のピンボルト56の頭部と同様に、支持部材28の係合溝28aを係合するとともに、支持部材28の嵌合溝28bに被支持部材29の下向きの嵌合頭部29aを嵌合して支持することで、被支持部材29を介して複数のカバー体31を支持している。各支持部材28の前記直交する方向の長さは、図1で説明した第1実施形態と同様に、各回動支持手段27への取付位置が、その長手方向の中央部から両端部側に近くなるのにしたがって漸次長寸になる様に設定される。
【0049】
拡縮支持手段53の長手方向一端部は、図10に示すように対向部23aに枢支される。すなわち、対向部23aの目地部21に臨む鉛直な壁面に複数のアンカー体58によってアングル59を紙面に垂直な水平方向に延在して固定し、このアングル59に水平方向の軸線を有するヒンジ60を介して断面がL字状の鋼材からなる固定板61の鉛直部を取付け、該固定板61の水平部で拡縮支持手段53の長手方向一端部を支持するとともに、長寸のピンボルト54とナット55により、ピンボルト54の軸線まわりに回動自在に連結する。
【0050】
拡縮支持手段53の長手方向他端部は、図11に示すように対向部23bに枢支される。すなわち、対向部23bの目地部21に臨む鉛直な壁面に複数のアンカー体62によってアングル63を紙面に垂直な水平方向に延在して固定し、このアングル63に水平方向の軸線を有するヒンジ64を介して断面がL字状の鋼材からなる固定板65の鉛直部を取付け、該固定板65の水平部で拡縮支持手段53の長手方向他端部を支持するとともに、長寸のピンボルト54とナット55により、ピンボルト54の軸線まわりに回動自在に連結する。50は化粧カバー体を示す。
【0051】
前記図8〜図11で説明した床用伸縮継手装置20によれば、各支持部材28は、各建物22a,22bの近接および離反する方向の相対変位に追従して拡縮する各拡縮支持手段53に対して、前記近接および離反する方向に同一面上で直交する方向への相対移動を自在に取付けられているので、各支持部材28は、各拡縮支持手段53の回動に追従して前記直交する方向に移動しなくなる。したがって、各支持部材28に偏荷重が負荷されなくなって、各目地プレート支持体9に発生する応力が抑制される。その結果、各支持部材28の変形が防止されるので、地震などによる各建物22a,22bの近接および離反する方向の相対変位に追従して、床用伸縮継手装置20の円滑な伸縮を実現できる。
【0052】
また、各カバー体31に固定された被支持部材29は、前記直交する方向に平行な軸線まわりの回動を自在に各支持部材28に支持されるので、各建物22a,22bが近接および離反する方向に相対変位しても、各カバー体31は前記軸線を回動中心に上下に回動することにより、各カバー体31が各建物22a,22bの近接および離反する方向に伸縮して、各カバー体31で目地部21を塞いだ状態を維持して、通行者の安全を確保することができる。
【0053】
さらに、各カバー体31に固定された被支持部材29は、前記直交する方向への相対移動を自在に各支持部材28に支持されるので、万一、何らかの原因で、各拡縮支持手段53の拡縮に追従して各支持部材29が前記直交する方向に僅かに移動したとしても、各カバー体31の前記直交する方向への移動が回避されて、各カバー体31で目地部を塞いだ状態を維持して、通行者の安全を確保することができる。
【0054】
前述のように、各拡縮支持手段53を、複数のリンク部材をパンタグラフ状に角変位自在に枢支したリンク機構によって構成し、その長手方向両端部を、2つの躯体の各対向部23a,23bに枢支したことにより、簡単な構造で支持強度が高められた各拡縮支持手段53を、各建物22a,22bの近接および離反する方向の相対変位に追従して円滑に拡縮させることができる。
【0055】
なお、前記第1,第2の発明において、各支持部材28の前記直交する方向の長さを図12に示すように全て長寸に設定してもよい。前記第1の発明の実施形態および第2の発明の実施形態では、床用伸縮継手装置20で説明しているが、この床用伸縮継手装置20を起立して設置することによって、壁用伸縮継手装置として適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】第1の発明に係る床または壁用伸縮継手装置の一実施形態を示す床用伸縮継手装置の平面図である。
【図2】図1の切断面線II−IIから見た鉛直断面図である。
【図3】一実施形態の一方のレール付近の拡大断面図である。
【図4】一実施形態の他方のレール付近の拡大断面図である。
【図5】回動支持手段,支持部材,被支持部材およびカバ−体の関係を示す拡大断面図である。
【図6】第1の発明に係る床または壁用伸縮継手装置の他の実施形態を示す床用伸縮継手装置の平面図である。
【図7】他の実施形態の回動支持手段の支持構造を示す拡大断面図である。
【図8】第2の発明に係る床または壁用伸縮継手装置の一実施形態を示す床用伸縮継手装置の平面図である。
【図9】図7の矢視線IX−IXから見た床用伸縮継手装置の鉛直断面図である。
【図10】第2の発明に係る床または壁用伸縮継手装置の一方の対向部付近の床用伸縮継手装置の拡大断面図である。
【図11】第2の発明に係る床または壁用伸縮継手装置の他方の対向部付近の床用伸縮継手装置の拡大断面図である。
【図12】支持部材の変形例を示す平面図である。
【図13】従来例の平面図である。
【図14】図13の切断面線A−Aから見た鉛直断面図である。
【符号の説明】
【0057】
20 床用伸縮継手装置
21 空隙である目地部
22a 左側の建物
22b 右側の建物
23a 対向部
23b 対向部
24a レール
24b レール
27 回動支持手段
28 支持部材
28a 係合溝
28b 嵌合溝
29 被支持部材
29a 嵌合頭部
30 カバー部
31 カバー体
34 ボルト
34a ボルトの頭部(係合突起)
53 拡縮支持手段
53a〜53j 複数のリンク部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物の隣接する2つの躯体の相互に対向する対向部に長手方向両端部が支持されて、各対向部の近接および離反する方向の相対変位に追従して回動自在な複数の回動支持手段と、
各回動支持手段に、前記近接および離反する方向に間隔をあけて配置されるとともに、該近接および離反する方向に同一面上で直交する方向への相対移動を自在に取付けられる複数の支持部材と、
各支持部材に、前記直交する方向への相対移動および該直交する方向に平行な軸線まわりの回動を自在に支持される複数の被支持部材と、
各被支持部材に固定され、前記近接および離反する方向に平行な幅方向一方側に隣接する被支持部材の上方を超えて前記幅方向一方側にのびるカバー部を有する複数のカバー体とを備えることを特徴とする床または壁用伸縮継手装置。
【請求項2】
請求項1に記載の床または壁用伸縮継手装置において、
前記各回動支持手段の長手方向両端部は、前記2つの躯体の各対向部に固定されて各対向部の延在方向に沿って平行にのびる一対のレールに移動自在に支持されることを特徴とする床または壁用伸縮継手装置。
【請求項3】
請求項1に記載の床または壁用伸縮継手装置において、
前記各回動支持手段の長手方向一端部は、前記2つの躯体の各対向部の一方の対向部に固定されて該一方の対向部の延在方向に沿ってのびるレールに移動自在に支持されるとともに、各回動支持手段の長手方向他端部は、前記2つの躯体の各対向部の他方の対向部に枢支されることを特徴とする床または壁用伸縮継手装置。
【請求項4】
建物の隣接する2つの躯体の相互に対向する対向部に長手方向両端部が支持されて、各対向部の近接および離反する方向の相対変位に追従して拡縮自在な複数の拡縮支持手段と、
各拡縮支持手段に、前記近接および離反する方向に間隔をあけて配置されるとともに、該近接および離反する方向に同一面上で直交する方向への相対移動を自在に取付けられる複数の支持部材と、
各支持部材に、前記直交する方向への相対移動および該直交する方向に平行な軸線まわりの回動を自在に支持される複数の被支持部材と、
各被支持部材に固定され、前記近接および離反する方向に平行な幅方向一方側に隣接する被支持部材の上方を超えて前記幅方向一方側にのびるカバー部を有する複数のカバー体とを備えることを特徴とする床または壁用伸縮継手装置。
【請求項5】
請求項4に記載の床または壁用伸縮継手装置において、
前記各拡縮支持手段は、複数のリンク部材をパンタグラフ状に角変位自在に枢支したリンク機構からなり、その長手方向両端部は、前記2つの躯体の各対向部に枢支されることを特徴とする床または壁用伸縮継手装置。
【請求項6】
請求項1,請求項2,請求項3,請求項4または請求項5に記載の床または壁用伸縮継手装置において、
前記各支持部材は、前記各回動支持手段側または前記各拡縮支持手段側の端部に前記直交する方向にのびる係合溝を有し、前記各回動支持手段または前記各拡縮支持手段は、各支持部材に向かって突出する係合突起を備え、該係合突起と前記係合溝との相互係合により、前記各支持部材は前記各回動支持手段または前記各拡縮支持手段に前記直交する方向への相対移動を自在に取付けられることを特徴とする床または壁用伸縮継手装置。
【請求項7】
請求項1,請求項2,請求項3,請求項4,請求項5または請求項6に記載の床または壁用伸縮継手装置において、
前記各支持部材は、前記各被支持部材側の端部に前記直交する方向にのびる断面略円形の嵌合溝を有し、前記各被支持部材は、前記各支持部材側の端部に前記直交する方向にのびる断面略円形の嵌合頭部を備え、該嵌合頭部と前記嵌合溝との相互嵌合により、前記各被支持部材と前記各カバー体は前記各支持部材に前記直交する方向への相対移動および該直交する方向に平行な軸線まわりの回動を自在に支持されることを特徴とする床または壁用伸縮継手装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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