説明

床材用水系接着剤

【課題】耐水性に優れ、且つ、貼付可能時間が比較的長い床材用水系接着剤を提供する。
【解決手段】重量平均分子量20万以上のアクリル系樹脂を含むアクリル系エマルションと、粘着付与剤と、を含んでいる床材用水系接着剤。前記粘着付与剤は、軟化点100℃以上のロジン系樹脂を含んでいることが好ましく、前記ロジン系樹脂が、アクリル系樹脂100質量部に対し、10質量部〜100質量部配合されていることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、床材を施工面に接着するときに用いられる床材用水系接着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、合成樹脂製床材などの床材は、一般的に、接着剤を介して、施工面(モルタル面やコンクリート面など)に接着されている。
溶剤系接着剤は、有機溶剤が揮発するので、環境上好ましくない。従って、近年、有機溶剤を使用しないエマルション型の水系接着剤が、床材の分野にも多く使用されている。
【0003】
しかしながら、一般に水系接着剤は耐水性が低いため、水分率が高い施工面に接着された床材が剥離する場合がある。
この剥離は、工期との関係上、乾燥が不十分な施工面に対して床材を接着した場合などに、しばしば発生し得る。このような水分率が高い施工面に対する接着剤として、耐水性の低い水系接着剤を用いると、接着強度が十分に得られないので、施工後、床材の剥離が生じやすい。
さらに、床タイル(タイル状床材)を施工する場合、効率的であることから、接着剤を施工面の広範囲に塗布した後、床材を1枚ずつ並べて接着するという手順で、床タイルは施工される。従って、塗布後、比較的長時間にわたって、ぬれ性(床材に付着し得る性質)を有する、貼付可能時間の長い接着剤が求められる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の第1の目的は、耐水性に優れた床材用水系接着剤を提供することである。
また、本発明の第2の目的は、耐水性に優れ、更に、貼付可能時間が比較的長い床材用水系接着剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の床材用水系接着剤は、重量平均分子量20万以上のアクリル系樹脂を含むアクリル系エマルションと、粘着付与剤と、を含む。
【0006】
好ましい床材用水系接着剤は、上記粘着付与剤が、軟化点100℃以上のロジン系樹脂を含む。
【0007】
他の好ましい床材用水系接着剤は、上記ロジン系樹脂が、アクリル系樹脂100質量部に対し、10質量部〜100質量部含まれている。
【0008】
他の好ましい床材用水系接着剤は、上記アクリル系エマルションが、重量平均分子量の異なる2種以上のアクリル系樹脂を含む。
【0009】
他の好ましい床材用水系接着剤は、上記アクリル系エマルションが、重量平均分子量40万以上のアクリル系樹脂と、重量平均分子量20万以上40万未満のアクリル系樹脂と、を含み、重量平均分子量40万以上のアクリル系樹脂と重量平均分子量20万以上40万未満のアクリル系樹脂の含有比(質量比)が、80:20〜20:80である。
【0010】
他の好ましい床材用水系接着剤は、アクリル系樹脂が、(メタ)アクリル酸2エチルヘキシルと(メタ)アクリル酸ブチルの共重合体を含む。
【発明の効果】
【0011】
本発明の床材用水系接着剤は、耐水性に優れているので、これを用いて床材を接着することにより、床材の浮きや剥離などを防止できる。
さらに、本発明の好ましい床材用水系接着剤は、充分な初期タック力を有するので、施工時に床材が位置ズレを生じ難く、床材を確実に所定位置に接着できる。
また、本発明の好ましい床材用水系接着剤は、貼付可能時間が長いので、床材を効率的に施工することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例の貼付可能時間の測定に用いた、くし目ゴテを示す要部拡大端面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の床材用水系接着剤は、重量平均分子量(Mw)が20万以上のアクリル系樹脂を含むアクリル系エマルションと、粘着付与剤と、を含む。
【0014】
[アクリル系エマルション]
アクリル系エマルションは、通常、(メタ)アクリル酸エステル等のアクリル系モノマーの乳化重合法により得ることができる。
乳化重合法としては、モノマーを一括して仕込む一括仕込み重合法、モノマーを連続的に滴下する滴下法、モノマーと水と乳化剤とを予め混合乳化し且つこれらを滴下するプレエマルション法、これらを組み合わせる方法等が挙げられる。
【0015】
アクリル系モノマーとしては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸2エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸n−オクチル、(メタ)アクリル酸n−ノニル、(メタ)アクリル酸イソノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ラウリル等が挙げられる。なお、「(メタ)アクリル」とは、「アクリル」又は「メタクリル」のいずれかを意味する。
【0016】
これらアクリル系モノマーは、1種単独で又は2種以上を併用できる。すなわち、アクリル系エマルションに含まれるアクリル系樹脂は、単独重合体又は共重合体の何れでもよい。中でも、該アクリル系樹脂は、共重合体であることが好ましく、(メタ)アクリル酸2エチルヘキシルと他の(メタ)アクリル酸アルキルとを共重合させた共重合体、又は、(メタ)アクリル酸メチルと他の(メタ)アクリル酸アルキルとを共重合させた共重合体がさらに好ましい。前記他の(メタ)アクリル酸アルキルは、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル及び(メタ)アクリル酸ヘキシルから選ばれる少なくとも1種が好ましく、(メタ)アクリル酸ブチルがさらに好ましい。
【0017】
上記(メタ)アクリル酸2エチルヘキシルと他の(メタ)アクリル酸アルキルの共重合体は、その重合比(モル比)が、90:10〜40:60(つまり、(メタ)アクリル酸2エチルヘキシル:他の(メタ)アクリル酸アルキル=90:10〜40:60)であることが好ましい。
また、上記(メタ)アクリル酸メチルと他の(メタ)アクリル酸アルキルの共重合体は、その重合比(モル比)が、60:40〜10:90(つまり、(メタ)アクリル酸メチル:他の(メタ)アクリル酸アルキル=60:40〜10:90)であることが好ましい。
【0018】
さらに、アクリル系エマルションに含まれるアクリル系樹脂には、必要に応じて、上記アクリル系モノマー以外に、アクリル系モノマーと共重合可能なモノマーが共重合されていてもよい。該共重合可能なモノマーとしては、酢酸ビニル、スチレンなどが挙げられる。
【0019】
なお、アクリル系エマルションに用いられる乳化剤としては、アニオン系乳化剤、ノニオン系乳化剤、カチオン系乳化剤、両性乳化剤等が挙げられる。
具体的には、乳化剤としては、ラウリル硫酸ナトリウム等の脂肪酸塩、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル硫酸塩、ポリオキシノニルフェニルエーテルスルホン酸塩、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレングリコールエーテル硫酸塩等のアニオン系界面活性剤;ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロック共重合体等のノニオン系界面活性剤;アルキルアミン塩、第四級アンモニウム塩等のカチオン系界面活性剤;などが挙げられる。
乳化剤の配合量は、アクリル系樹脂100質量部に対して、0.1質量部〜5質量部、好ましくは0.5質量部〜3質量部である。
【0020】
上記アクリル系エマルションを乳化重合する際に使用される重合開始剤としては、ラジカル重合開始剤等が挙げられる。ラジカル重合開始剤としては、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素、t−ブチルハイドロパーオキサイド、2,2−アゾビスイソブチロニトリル等が挙げられる。
【0021】
本発明のアクリル系エマルション中におけるアクリル系樹脂(分散質)の平均粒子径は、0.1μm〜1.0μmであることが好ましい。
アクリル系エマルション中におけるアクリル系樹脂の含有量は、20質量%〜80質量%が好ましく、30質量%〜70質量%が更に好ましい。
【0022】
アクリル系エマルションに含まれるアクリル系樹脂の重量平均分子量(Mw)は、20万以上であり、40万以上が好ましく、50万以上がさらに好ましい。該アクリル系樹脂の重量平均分子量の上限は、特に限定されない。もっとも、余りに分子量が大き過ぎると、良好なエマルションを形成できないことから、その上限は、150万である。
重量平均分子量が20万以上、好ましくは40万以上のアクリル系樹脂を含むアクリル系エマルションを用いることにより、耐水性に優れた水系接着剤を提供できる。
また、重量平均分子量が20万以上40万未満の範囲のアクリル系樹脂を含むアクリル系エマルションを用いた場合、比較的長時間にわたってぬれ性を維持できる。かかるエマルションを含む水系接着剤は、貼付可能時間が比較的長くなるので好ましい。
【0023】
また、上記アクリル系エマルションには、1種のアクリル系樹脂が含まれていてもよいし、重量平均分子量及び/又は構造の異なる2種以上のアクリル系樹脂が含まれていてもよい。
【0024】
アクリル系エマルションが、2種以上のアクリル系樹脂を含む場合、重量平均分子量40万以上のアクリル系樹脂(以下、「第1アクリル系樹脂」という場合がある)と重量平均分子量20万以上40万未満のアクリル系樹脂(以下、「第2アクリル系樹脂」という場合がある)とを含むアクリル系エマルションが好ましい。
前記第1アクリル系樹脂は、重量平均分子量45万以上70万以下であることがさらに好ましく、重量平均分子量50万以上60万以下であることがより好ましい。
前記第2アクリル系樹脂は、重量平均分子量25万以上35万以下であることがさらに好ましい。
第1アクリル系樹脂は、耐水性に優れた接着力を接着剤に付与する。第2アクリル系樹脂は、比較的長時間にわたるぬれ性を接着剤に付与する。
このため、分子量の高い第1アクリル系樹脂と分子量の低い第2アクリル系樹脂を含有させることにより、耐水性に優れ、貼付可能時間が比較的長い水系接着剤を構成できる。
【0025】
上記第1及び第2アクリル系樹脂を併用する場合、アクリル系エマルション中におけるそれらの含有比は、特に限定されない。第1アクリル系樹脂と第2アクリル系樹脂の含有比(質量比)は、80:20〜20:80が好ましく、80:20〜40:60がさらに好ましく、60:40〜40:60がより好ましい。
【0026】
なお、本発明において、重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)法によって求められる値をいう。アクリル系樹脂の重量平均分子量の具体的な測定方法は、下記実施例を参照されたい。
【0027】
[粘着付与剤]
粘着付与剤としては、ロジン系樹脂、石油系樹脂、テルペン系樹脂等が挙げられる。
ロジン系樹脂としては、トールロジン、ガムロジン、ウッドロジンなどの天然ロジン;天然ロジンに水素添加した水添ロジン;不均一化ロジン;天然ロジンを多価アルコールでエステル化したロジンエステル化物;ロジンフェノール変性物;天然ロジンを不飽和酸で変性したロジン不飽和酸変性物等が挙げられる。
【0028】
ロジンエステル化物は、天然ロジンと多価アルコールとのエステル化物である。多価アルコール類としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコールなどの2価アルコール;グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパンなどの3価アルコール;ペンタエリスリトール、ジグリセリンなどの4価アルコール;ジペンタエリスリトールなどの6価アルコール等が挙げられる。
【0029】
ロジンフェノール変性物としては、天然ロジンにフェノールやアルキルフェノールなどのフェノール類を付加させた付加物、該付加物を多価アルコールでエステル化したエステル化物等が挙げられる。
【0030】
ロジン不飽和酸変性物としては、天然ロジンを不飽和酸で変性した変性物、該変性物を多価アルコールでエステル化したエステル化物等が挙げられる。不飽和酸としては、マレイン酸、フマル酸、アクリル酸、メタクリル酸等が挙げられる。
【0031】
石油系樹脂としては、C5系石油樹脂、C9系石油樹脂、C5−C9共重合系石油樹脂、ジシクロペンタジエン系石油樹脂、及び、これらの水素化物等が挙げられる。
【0032】
テルペン系樹脂としては、α−ピネン樹脂、β−ピネン樹脂、芳香族変性のテルペン系樹脂、及び、これらの水素化物等が挙げられる。
【0033】
粘着付与剤は、1種単独で又は2種以上を併用できる。
上記粘着付与剤の中では、好ましくはロジン系樹脂が用いられ、更に好ましくはロジンエステル化物が用いられる。
粘着付与剤の配合量は特に限定されないが、余りに少ないとタック力が生じず、一方、余りに多いと耐水性が低下するおそれがある。これを考慮すると、ロジン系樹脂などの粘着付与剤の配合量は、アクリル系樹脂100質量部に対し、5〜70質量部が好ましく、10〜50質量部がさらに好ましい。
【0034】
粘着付与剤は、軟化点100℃以上のロジン系樹脂が好ましく、さらに、軟化点120℃以上のロジン系樹脂がさらに好ましく、軟化点140℃以上のロジン系樹脂がより好ましい。軟化点が比較的高いロジン系樹脂を配合することにより、耐水性を低下させることなく、充分な初期タック力を有する水系接着剤を構成できる。
なお、前記ロジン系樹脂の軟化点の上限は、特に限定されないが、余りに高いと粘着強度が低下するおそれがある。このため、前記ロジン系樹脂の軟化点は、200℃以下が好ましく、180℃以下がさらに好ましい。
【0035】
なお、上記軟化点は、環球法によって求められる値をいう。ロジン系樹脂の軟化点の具体的な測定方法は、下記実施例を参照されたい。
【0036】
上記粘着付与剤は、通常、溶剤に溶解させて溶液形態に調製するか、或いは、エマルション形態に調製して使用される。粘着付与剤を、溶液化或いはエマルション化することにより、粘着付与剤をアクリル系エマルションに配合し易くなる。もっとも、常温で、液状又は水飴状となっている粘着付与剤については、これを溶液化或いはエマルション化せずにアクリル系エマルションに配合することもできる。
【0037】
粘着付与剤をエマルション化するために用いられる乳化剤としては、アニオン系乳化剤、ノニオン系乳化剤等が挙げられる。該乳化剤の配合量は、粘着付与剤100質量部に対し、1〜5質量部程度が好ましい。
粘着付与剤をエマルション化するための乳化方法は特に限定されず、例えば、高圧乳化法、反転乳化法、超音波乳化法、溶剤乳化法等が挙げられる。
【0038】
上記粘着付与剤のエマルション中における平均粒子径は、好ましくは、1〜5μm程度である。
【0039】
[床材用水系接着剤]
本発明の床材用水系接着剤は、上記アクリル系エマルションに、粘着付与剤を配合することにより得ることができる。
【0040】
本発明の床材用水系接着剤には、アクリル系エマルジョン及び粘着付与剤以外に、他の成分が配合されていてもよい。
他の成分としては、充填材、造膜助剤、分散剤、増粘剤、防腐剤、防黴剤、防錆剤、凍結防止剤、界面活性剤、消泡剤、可塑剤、顔料等が挙げられる。
充填材としては、無機充填材、有機充填材が挙げられ、好ましくは、無機充填材である。無機充填材としては、炭酸カルシウム(例えば、重質炭酸カルシウム)、酸化チタン、酸化ケイ素、タルク、クレー等が挙げられる。充填材は、1種単独で又は2種以上を併用できる。充填材を配合する場合、その配合量は、アクリル系樹脂100質量部に対し、100質量部〜400質量部が好ましい。
造膜助剤としては、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ等のセロソルブ類;プロピレングリコール、ソルビトール等のグリコール類等が挙げられる。
【0041】
本発明の床材用水系接着剤中における上記アクリル系樹脂及び粘着付与剤の含有量は、接着強度及び粘度を考慮して、適宜設定される。
床材用水系接着剤中におけるアクリル系樹脂の含有量は、10質量%〜50質量%が好ましく、10質量%〜40質量%が更に好ましい。
また、床材用水系接着剤中における粘着付与剤の含有量は、1質量%〜25質量%が好ましく、2質量%〜15質量%が更に好ましい。
アクリル系樹脂及び粘着付与剤の含有量が前記範囲である水系接着剤は、適度な粘度を有し、耐水性及び接着強度に優れている。
【0042】
[床材用水系接着剤の使用法]
本発明の床材用水系接着剤は、床材を施工面に接着させるために使用される。
床材は、特に限定されず、塩化ビニル系樹脂などの合成樹脂を主成分とする床シート又は床タイル、ゴムを主成分とする床シート又は床タイル、木質系床材、石材系床タイル、タイルカーペットなどのカーペット類等が挙げられる。
また、床材を施工する施工面としては、特に限定されず、一般には、建物のモルタル面、廊下、ベランダ、屋上等が挙げられる。また、本発明の床材用水系接着剤は、床材接着用途以外に使用することも可能である。例えば、本発明の床材用水系接着剤は、建物の屋根や外壁に施工するシートを接着させるために使用することもできる。
【0043】
上記床材用水系接着剤を施工面に塗布した後、この上に床材を載せていくことによって、床材を施工面に接着できる。
本発明の床材用水系接着剤は、耐水性に優れているので、施工後、床材の浮きや剥離などが生じ難い。特に、水分率が高い施工面に床材を接着するために、本発明の床材用水系接着剤は好適に利用できる。
また、本発明の床材用水系接着剤は、初期タック力にも優れているので、施工時に床材が位置ズレを生じ難く、又、施工時に床材の浮きなども生じ難い。
さらに、本発明の床材用水系接着剤は、貼付可能時間が比較的長い。このため、本発明の水系接着剤を施工面のより広い範囲に塗布し、その後、床材を1枚ずつ接着する工程を採用でき、床材を効率的に施工することができる。
【実施例】
【0044】
本発明の実施例及び比較例について説明する。なお、本発明は、下記実施例のみに限定されるものではない。
実施例及び比較例で使用した材料、並びに試験方法などは、次の通りである。
【0045】
[アクリル系エマルション]
以下、「2EHA」は、アクリル酸2エチルヘキシルを表し、「BA」は、アクリル酸ブチルを表し、「MMA」は、メタクリル酸メチルを表し、「ST」は、スチレンを表し、「AN」は、アクリロニトリルを表す。
【0046】
(1)エマルションA−1
重量平均分子量(Mw)が56万のアクリル酸2エチルヘキシル−アクリル酸ブチルの共重合体(2EHA:BA(モル比)=60:40)を含むアクリル系エマルション。
このアクリル系エマルションA−1の組成は、水50質量部、2EHA−BA共重合体(Mw=56万)50質量部、アニオン系乳化剤1質量部からなる。
【0047】
(2)エマルションA−2
重量平均分子量(Mw)が48万のアクリル酸2エチルヘキシル−アクリル酸ブチルの共重合体(2EHA:BA(モル比)=60:40)を含むアクリル系エマルション。
このアクリル系エマルションA−2の組成は、水50質量部、2EHA−BA共重合体(Mw=48万)50質量部、アニオン系乳化剤1質量部からなる。
【0048】
(3)エマルションA−3
重量平均分子量(Mw)が31万のアクリル酸2エチルヘキシル−アクリル酸ブチルの共重合体(2EHA:BA(モル比)=60:40)を含むアクリル系エマルション。
このアクリル系エマルションA−3の組成は、水50質量部、2EHA−BA共重合体(Mw=31万)50質量部、アニオン系乳化剤1質量部からなる。
【0049】
(4)エマルションA−4
重量平均分子量(Mw)が28万のアクリル酸2エチルヘキシル−アクリル酸ブチルの共重合体(2EHA:BA(モル比)=60:40)を含むアクリル系エマルション。
このアクリル系エマルションA−4の組成は、水50質量部、2EHA−BA共重合体(Mw=28万)50質量部、アニオン系乳化剤1質量部からなる。
【0050】
(5)エマルションB−1
重量平均分子量(Mw)が66万のメタクリル酸メチル−アクリル酸ブチルの共重合体(MMA:BA(モル比)=40:60)を含むアクリル系エマルション。
このアクリル系エマルションB−1の組成は、水50質量部、MMA−BA共重合体(Mw=66万)50質量部、アニオン系乳化剤1質量部からなる。
【0051】
(6)エマルションB−2
重量平均分子量(Mw)が55万のメタクリル酸メチル−アクリル酸ブチルの共重合体(MMA:BA(モル比)=40:60)を含むアクリル系エマルション。
このアクリル系エマルションB−2の組成は、水50質量部、MMA−BA共重合体(Mw=55万)50質量部、アニオン系乳化剤1質量部からなる。
【0052】
(7)エマルションC−1
重量平均分子量(Mw)が18万のアクリル酸ブチル−メタクリル酸メチル−スチレン−アクリロニトリルの共重合体(BA:MMA:ST:AN(モル比)=60:30:5:5)を含むアクリル系エマルション。
このアクリル系エマルションC−1の組成は、水50質量部、BA−MMA−ST-AN共重合体(Mw=18万)50質量部、アニオン系乳化剤1質量部からなる。
【0053】
(8)エマルションC−2
重量平均分子量(Mw)が16万のアクリル酸ブチル−メタクリル酸メチル−スチレンの共重合体(BA:MMA:ST(モル比)=60:25:15)を含むアクリル系エマルション。
このアクリル系エマルションC−2の組成は、水50質量部、BA−MMA−ST共重合体(Mw=16万)50質量部、アニオン系乳化剤1質量部からなる。
【0054】
[ロジン系樹脂(粘着付与剤)]
(1)ロジンA
軟化点160℃、酸価12の重合ロジンエステル。ただし、該重合ロジンエステルが水に分散されたロジンエマルション(ロジンエステルの固形分濃度50質量%。荒川化学工業株式会社製、商品名「スーパーエステルE−865NT)を使用した。
【0055】
(2)ロジンB
軟化点78℃、酸価4.7の水素化ロジンエステル。ただし、該水素化ロジンエステルが少量の有機溶剤に溶解されたもの(荒川化学工業株式会社製、商品名「エステルガムH」)を使用した。
【0056】
[その他の使用材料]
(1)充填材A:炭酸カルシウム。
(2)充填材B:クレー。
(3)添加剤:分散剤及び増粘剤(適量配合)。
【0057】
[アクリル系樹脂の重量平均分子量の測定方法]
上記アクリル系エマルジョンに含まれるアクリル系樹脂の重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)分析により決定した。
GPC分析においては、溶媒としてテトラヒドロフランを用い、分子量は、ポリスチレン換算の値である。
【0058】
GPCの具体的な測定条件は、下記の通りである。
装置名:WATERS社製、製品名「410」。
カラム:昭和電工株式会社製、製品名「KF805」。
移動相:テトラヒドロフラン。
流速:1.0mL/分。
検出器:赤外検出器(WATERS社製、製品名「410示差屈折計」)。
温度:40℃。
試料量:10μl。
試料濃度:約1質量%。
【0059】
[ロジン系樹脂の軟化点の測定方法]
軟化点は、環球法によって測定した。
具体的には、試料を蒸発皿中において、気泡が生じないようにして低温で溶融させた。溶融させた試料を、予め適温に加熱したリング中に満たし、放冷した。その後、加熱した小刀を用い、前記リングの上端を含む平面から盛り上がった部分を切り取った。次に、ガラス容器(105mm×120mm、高さ145mm)の中に支持器を入れた。支持器の所定の孔に、試料を満たした前記リングを嵌め込んだ。このリング中の試料の表面中央に鋼球を載せ、これを支持器上の定位置に置き、自動軟化点測定装置(第一理化株式会社製、製品名「EX−285PD−4型」)で軟化点を測定した。
【0060】
[浸水後の引張接着強度の測定方法]
浸水後の引張接着強度は、供試接着剤を用いて、試験用床タイル(塩化ビニル製床タイル。東リ株式会社製、商品名「メルストーン」)をモルタル板表面に貼り合わせて2日間養生し、さらに、これを水中に7日間浸漬した後、引張試験を行い、接着面が破断するまでの最大荷重(N/mm)である。前記引張試験の具体的な測定方法は、JIS A 5536(2007年)の水中浸せき引張接着強さに準じて行った。
【0061】
[浸水後の90度剥離強度の測定方法]
浸水後の90度剥離強度は、供試接着剤を用いて、試験用床シート(塩化ビニル製床シート。東リ株式会社製、商品名「FLプレーン」)をモルタル板表面に貼り合わせて2日間養生し、さらに、これを水中に7日間浸漬した後、試験用床シートを90度方向に剥離したときの強度(N/25mm)である。前記90度剥離の具体的な測定方法は、JIS A 5536(2007年)の水中浸せきはく離接着強さに準じて行った。
【0062】
[貼付可能時間の測定方法]
貼付可能時間は、供試接着剤を塗布後、接着力を維持している時間(被着体が接着しうる接着力を塗布後の接着剤が有している時間)である。
【0063】
貼付可能時間の測定方法は、次の通りである。
23℃±2℃、湿度50±10%下で、供試接着剤を繊維強化セメント板(JIS A 5403に規定される、厚さ8mm、縦横50×300mmのセメント板)の表面に、くし目ゴテを用いて塗布した。このくし目ゴテは、図1に示すように、突起部1の突出高さxが、2.0±0.2mm、突起部1の基部の幅yが、2.0±0.2mm、突起部1の間隔zが、5.0±0.5mmであり、8個の突起部1が幅方向に並んで突設されている。従って、該くし目ゴテを用いて供試接着剤を上記セメント板の長手方向に塗布すると、セメント板の表面に、8本の線状の接着剤がセメント板の表面に付着する。
【0064】
供試接着剤を塗布した後、10分待ち、その後、接着剤の上に塩化ビニル製床タイル(東リ株式会社製、商品名「メルストーン」)を貼り合わせ、この床タイルの上から1kgの荷重を5秒間加えた。
その後、直ちに、前記床タイルの両端部に一対の針金の下端をそれぞれ係止し、60mm/分で床タイルの法線方向に針金を引き上げて、床タイルを剥離した。
剥離後の床タイルの接着面を目視で観察し、床タイルの接着面に転写された線状の接着剤の本数を数えた。
【0065】
接着剤を塗布した後、20分後、30分後というように、10分ずつ待ち時間を増やしたこと以外は、上記同様の操作を行い、各待ち時間ごとの転写接着剤の本数を調べた。
【0066】
剥離した床タイルの転写接着剤の本数が、くし目ゴテの突起部の本数(8本)と一致する場合を、「○」と評価し、同転写接着剤の本数が、5本〜7本である場合を、「△」と評価し、同転写接着剤の本数が、0本〜4本(くし目ゴテの突起部の本数の半分未満)である場合を、「×」と評価した。
なお、剥離した床タイルの転写接着剤の本数が、4本未満(半分未満)となったときに、供試接着剤が貼着不可となったと判断し、その時点で、試験を終了した。
【0067】
[初期タック力]
初期タック力は、供試接着剤を塗布後、時間の経過に伴う接着力の推移である。
初期タック力の測定方法は、次の通りである。
23℃±2℃、湿度50±10%下で、供試接着剤を市販のスレート板(縦横70×150mm)の表面に、上記くし目ゴテ(貼付可能時間の測定で用いたくし目ゴテ)を用いて塗布した。これを20分放置した後、接着剤の上に試験用床シート(塩化ビニル製床シート。東リ株式会社製、商品名「FLプレーン」)を貼り付け、ローラーで圧着した。その後、直ちに、前記床シートの一端部に、針金を引掛け、床シートの法線方向に針金を引き上げて、床シートを剥離した(90度剥離)。剥離時の最大荷重を、針金に繋いでいたデジタルフォースゲージ(株式会社イマダ製、商品名「DPS-5」)を用いて測定した。
【0068】
供試接着剤を塗布後、10分ずつ放置時間を増やしたこと(30分間放置、40分放置、50分放置、60分放置、70分放置、80分放置、90分放置)以外は、上記と同様にして、各放置時間毎における剥離時の最大荷重を測定した。
【0069】
[実施例1〜13及び比較例1〜2]
表1〜表3に示す配合割合で、所定量の水に各材料を混合し、実施例1〜13及び比較例1〜2の水系接着剤を調製した。
なお、表1〜表3において、実施例及び比較例の成分における各材料は、質量部で表している。
【0070】
【表1】

【0071】
【表2】

【0072】
【表3】

【0073】
実施例1〜13及び比較例1〜2の各水系接着剤について、引張接着強度及び90度剥離強度を測定した。
その結果を、表1〜表3に示す。この結果から明らかなように、重量平均分子量20万以上のアクリル系樹脂を含む水系接着剤は、浸水後においても、引張接着強度及び90度剥離強度が高く、耐水性に優れていることが判る。
【0074】
さらに、実施例1、実施例7、及び実施例11〜13の各水系接着剤について、上記貼付可能時間を測定した。
その結果を、表4に示す。
【0075】
【表4】

【0076】
表4から明らかなとおり、実施例1の水系接着剤(エマルションA−1のみを含む接着剤)に比して、実施例7及び実施例11〜13の水系接着剤(エマルションA−1とエマルションA−4を含む接着剤)は、貼付可能時間が長いことが判る。特に、実施例7及び実施例13の水系接着剤の貼付可能時間が長い。このことから、エマルションA−1のアクリル系樹脂とエマルションA−4のアクリル系樹脂の含有比(質量比)は、40〜60:60〜40であることが特に好ましいと言える。
なお、実施例8〜10については、エマルションA−1とエマルションB−1の配合量が同じであるため、実施例7と同様に貼付可能時間が長いと推定される。
【0077】
さらに、実施例7〜10の各水系接着剤について、上記初期タック力を測定した。
その結果を、表5に示す。なお、表5中の初期タック力の単位は、N/25mmである。
【0078】
【表5】

【0079】
表5から明らかなとおり、実施例7〜10の水系接着剤は、接着作用を有するのに必要とされる、接着塗布から30分までの間、充分なタック力を維持しており、初期タック力が良好である。また、実施例7と実施例8との対比、及び、実施例9と実施例10との対比から、ロジン系樹脂の含有量を増やすと、初期タック力を更に向上させることができる。もっとも、実施例9及び10が比較的高い引張接着強度を有しているのに対し、実施例7及び8の引張接着強度は、これらに比して低い(表2参照)。この違いは、実施例7及び8が、比較的軟化点の低いロジン系樹脂を配合しているのに対し、実施例9及び10は、比較的軟化点の高いロジン系樹脂を配合していることに起因すると考えられる。
【0080】
以上のことから、軟化点の高いロジン系樹脂を配合することにより、引張接着強度及び90度剥離強度を低下させずに、充分な初期タック力を有する水系接着剤を得ることができることが判る。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明の床材用水系接着剤は、合成樹脂製、ゴム製、エラストマー製などの各種の床材を施工面に接着させるために利用できる。特に、本発明の床材用水系接着剤は、水分率の高い施工面(十分に乾燥していないモルタル面など)に床材を接着させるときに、好適に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量平均分子量20万以上のアクリル系樹脂を含むアクリル系エマルションと、粘着付与剤と、を含む床材用水系接着剤。
【請求項2】
粘着付与剤が、軟化点100℃以上のロジン系樹脂を含む請求項1に記載の床材用水系接着剤。
【請求項3】
ロジン系樹脂が、アクリル系樹脂100質量部に対し、10質量部〜100質量部含まれている請求項2に記載の床材用水系接着剤。
【請求項4】
アクリル系エマルションが、重量平均分子量の異なる2種以上のアクリル系樹脂を含む請求項1〜3の何れかに記載の床材用水系接着剤。
【請求項5】
アクリル系エマルションが、重量平均分子量40万以上のアクリル系樹脂と、重量平均分子量20万以上40万未満のアクリル系樹脂と、を含み、重量平均分子量40万以上のアクリル系樹脂と重量平均分子量20万以上40万未満のアクリル系樹脂の含有比(質量比)が、80:20〜20:80である請求項4に記載の床材用水系接着剤。
【請求項6】
アクリル系樹脂が、(メタ)アクリル酸2エチルヘキシルと(メタ)アクリル酸ブチルの共重合体を含む請求項1〜5の何れかに記載の床材用水系接着剤。

【図1】
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【公開番号】特開2010−265370(P2010−265370A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−117106(P2009−117106)
【出願日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【出願人】(000222495)東リ株式会社 (94)
【Fターム(参考)】