説明

床部の構築方法

【課題】床下の底部コンクリート板2上の地中梁3間に形成された湧水ピット4の上方に、地中梁3と一体に床スラブ5が形成された床部の構築において、狭い空間内で支保工及び型枠の解体撤去作業を行う負担を解消する。
【解決手段】通水部7が形成された合成樹脂発泡体製の単位板材を井桁状に組んだ井桁体6を、底部コンクリート2上の湧水ピット領域に並べると共に、並べた井桁体6の集合体の外周縁部には、地中梁形成領域を区画する合成樹脂発泡体製の地中梁型枠板8を設け、しかも井桁体6の集合体上には、地中梁形成領域上を開放した状態で、合成樹脂発泡体製の床型枠板9を敷設した後、地中梁型枠板8で仕切られた地中梁形成領域中及び床型枠板9上にコンクリートを打設して地中梁3と一体に床スラブ5を構築し、井桁体6、地中梁型枠板8及び床型枠板9を床下に捨て置く。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物の最下層の床部の構築方法、特に床下の地中梁間に設けられた湧水ピットの上方に、地中梁と一体に床スラブが形成された床部の構築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、建物のコンクリートスラブの構築に際し、合成樹脂発泡体製の板材を井桁状に組んだ井桁体を支保工として型枠を支えることで、支保工及び型枠の設置及び撤去を容易にすることが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開平11−93409号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、床下の地中梁間が浅型の湧水ピットとなる床部の場合、床下の高さが45〜1200cm程度しかなく、床スラブや地中梁を形成するための支保工及び型枠の解体撤去作業は、狭い空間に作業者が入り込んで行わなければならない。このため、上記従来の軽量な合成樹脂発泡体製の井桁体を支保工としても、作業者の負担が大きい問題がある。また、狭い空間内での作業となるので、解体撤去の作業性も悪く、工期を長引かせる一因ともなる。
【0005】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みてなされたもので、床下の底部コンクリート板上の地中梁間に形成された湧水ピットの上方に、地中梁と一体に床スラブが形成された床部の構築において、狭い空間内で支保工及び型枠の解体撤去作業を行う負担を解消することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、支保工及び型枠を捨て置きできるようにすることで上記目的を達成したものである。すなわち、本発明は、床下の底部コンクリート板上の地中梁間に形成される湧水ピットの上方に、地中梁と一体に構築される床スラブの構築方法において、通水部が形成された合成樹脂発泡体製の単位板材を井桁状に組んだ井桁体を、底部コンクリート上の湧水ピット領域に並べると共に、並べた井桁体の集合体の外周縁部には、地中梁形成領域を区画する合成樹脂発泡体製の地中梁型枠板を設け、しかも井桁体の集合体上には、地中梁形成領域上を開放した状態で、合成樹脂発泡体製の床型枠板を敷設した後、地中梁型枠板で仕切られた地中梁形成領域中及び床型枠板上にコンクリートを打設して地中梁と一体に床スラブを構築し、井桁体、地中梁型枠板及び床型枠板を床下に捨て置くことを特徴とする床スラブの構築方法を提供するものである。
【0007】
また、上記本発明は、地中梁型枠板を底部コンクリート板に固定すること、
地中梁型枠板の底部コンクリート板への固定を、底部コンクリート板に固定された断面上向きコ字形の固定部と、地中梁型枠板の下部との嵌め合わせで行うこと、
をその好ましい態様として含むものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、支保工である井桁体と、型枠である地中梁型枠板及び床型枠板とが、総て腐食しにくい合成樹脂発泡体で構成されているので、これらを湧水ピットとなる床下に捨て置いても、経時的に腐食して建物に悪影響を及ぼすことがない。また、井桁体を構成する合成樹脂発泡体製の板材には通水部が形成されているので、井桁体によって水の流れがせき止められることがなく、湧水ピットとしての機能が損なわれることもない。そして、本発明では、井桁体、地中梁型枠板及び床型枠板を床下に捨て置いてしまうので、その解体撤去作業が不要で、解体撤去に伴う負担を無くすことができる。
【0009】
本発明で用いる合成樹脂発泡体製の地中梁型枠板及び床型枠板は、打設されたコンクリートに接着され、構築される床スラブに断熱性を付与することができる。また、施工に際して、地中梁型枠は、井桁体によって所定位置に支持されるので、通常の型枠相互の間隔保持に必要なセパレーターが不要となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図面に基づいて本発明を更に説明する。
【0011】
図1は本発明に係る床部の構築方法で構築した床部の断面図、図2は井桁体を地中梁形成領域間の底部コンクリート板上に並べた状態の断面図、図3は図2の状態の平面図、図4は井桁体の分解斜視図、図5は地中梁型枠板を設置した状態の断面図、図6は図5の状態の平面図、図7は地中梁型枠板の取り付け状態の一例を示す断面図、図8は地中梁型枠板の取り付け状態の他の例を示す断面図、図9は床型枠板を敷設した状態の断面図、図10は図9の状態の平面図である。なお、図1〜図10において同じ符号は同じ部材又は部位を示す。
【0012】
まず、本発明に係る床部の構築方法で構築した床部の概略について図1で説明する。
【0013】
図1に示されるように、通常地盤1上に形成される底部コンクリート板2上の地中梁3と3の間には、湧水ピット4が形成されており、その上方に、地中梁3と一体に床スラブ5が構築されている。湧水ピット4内には、複数の井桁体6が並べられた状態で残留している。湧水ピット4内は、この残留している井桁体6によって複数の空間に仕切られているが、井桁体6に形成された通水部7によって各空間同士が連通されている。また、地中梁3形成用の型枠である地中梁型枠板8と、床スラブ5形成用の型枠である床型枠板9もそれぞれ地中枠3及び床スラブ5と一体となって残留している。なお、10は地中梁配筋である。底部コンクリート板2及び床スラブ5にも配筋を施すが、これらについては図面上省略してある。
【0014】
次に、上記床部の構築手順と共に、各部材についてもさらに説明する。
【0015】
まず、図2及び図3に示されるように、底部コンクリート板2上の地中梁形成領域3’と3’間の湧水ピット領域4’に井桁体6を並べる。井桁体6は、間隔をあけて並べることもできるが、後述する地中梁型枠板8や床型枠板9を安定して支持することができるようにするため、湧水ピット領域4’の全体に亘って連続して並べることが好ましい。ここで、地中梁形成領域3’とは、地中梁3(図1参照)を形成するコンクリートが充填される領域をいう。また、湧水ピット領域4’とは、湧水ピット4(図1参照)の貯水空間として残される領域をいう。
【0016】
図4に示されるように、井桁体6は、単位板材11を、嵌合溝12部分同士を嵌め合わせ、上面と下面が面一になるように井桁状に組んだものとなっている。本発明における井桁体6は、上下2枚ずつの単位板材11を、上面と下面が面一になるように「井」の字型に組みあわせただけでなく、上下2枚以上の単位板材11を、上面と下面が面一になるように交差させて組みあわせたものであればよく、上下の単位板材11の枚数が異なるものでもよい。
【0017】
井桁体6を構成する単位板材11は、それぞれ合成樹脂発泡体で構成されている。単位板材11を構成する合成樹脂発泡体としては、例えばポリスチレン、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、フェノール樹脂などの発泡体を用いることができる。単位板材11としては、これらの押出発泡成形板又はビーズ発泡成形板を用いることができるが、最も好ましくは、機械的強度に優れ、吸水性も小さくいことから、ポリスチレンの押出発泡成形板である。
【0018】
井桁体6を構成する各単位板材11には、通水部7が形成されている。この通水部7は、井桁体6によって仕切られる各空間を相互に連通させ、井桁体6を湧水ピット4(図1参照)内に残留させた時に水の流れが妨げられないようにするためのものである。図4に示される通水部7は、単位板材11の下辺に形成された切り欠き部であるが、単位板材11の下部に設けた貫通孔とすることもできる。
【0019】
次に、図5及び図6に示されるように、湧水ピット領域4’に並べた井桁体6の集合体の外周縁部に、片面を井桁体6の縁部に宛って立てた状態で、地中梁形成領域3’を区画する合成樹脂発泡体製の地中梁型枠板8を設ける。地中梁型枠板8を構成する合成樹脂発泡体は、前記前記井桁体6の単位板材11を構成する合成樹脂発泡体と同様のもので、これらの押し出し又はビーズ発泡成形板を地中梁型枠板8として用いることができる。
【0020】
地中梁型枠板8は、上記のように地中梁形成領域3’を区画するもので、この地中梁形成領域3’中にコンクリートを充填した時にずれないよう、下部を底部コンクリート板2に固定しておくことが好ましい。この地中梁型枠板8の固定は、例えば図7及び図8に示されるように、断面上向きコ字形の固定具13を用いた嵌め合わせで行うことができる。固定具13の左右から上方に突き出た腕部15は、先端が内側に折り返された形状となっている。この固定具13は、腐食しないよう、例えば合成樹脂や銅で構成することが好ましい。
【0021】
図7に示される例は、固定具13をコンクリート用の釘又はビス14で底部コンクリート板2に上向きに固定し、この固定具13の腕部15の位置に対応させて地中梁型枠板8の下面に開口させた差し込み溝16に腕部15嵌め込み、地中梁型枠板8の下部を固定具と嵌め合わせることで、地中梁型枠板8を底部コンクリート板2に固定したものとなっている。図8に示される例は、同様に固定具13をコンクリート用の釘又はビス14で底部コンクリート板2に上向きに固定し、この固定具13の腕部15間に地中梁型枠板8の下部を挟持させるように嵌め込むことで、地中梁型枠板8を底部コンクリート板2に固定したものとなっている。
【0022】
上記地中梁型枠板8の設置後又は上記地中梁型枠板8の設置と並行して、図9及び図10に示されるように、湧水ピット領域4’に並べた井桁体6の集合体上を覆い、地中梁形成領域3’上を開放した状態で、合成樹脂発泡体製の床型枠板9を敷設する。床型枠板9としては、前記地中梁型枠板8と同様の合成樹脂発泡体の押し出し又はビーズ発泡成形板を用いることができる。また、床型枠板9同士の合わせ目は、下方へのノロの侵入を防止するために、テープなどで目地止めしておくことが好ましい。
【0023】
上記床型枠板9の敷設で、支保工及び型枠の設置を完了する。本発明の場合、支保工である井桁体6と、型枠である地中梁型枠板8及び床型枠板9のいずれもが合成樹脂発泡体製で軽量であることから、設置作業が容易で、迅速な施行が可能である。そして、床型枠板9の敷設完了後、地中梁型枠板8で仕切られた地中梁形成領域3’中及び床型枠板9上にコンクリートを打設し、図1に示されるように、地中梁3と、これと一体の床スラブ5形成する。
【0024】
通常の施工においては、コンクリートの硬化後、床スラブ5の一部に残した開口部から作業員が床下に入って支保工及び型枠の解体撤去を行うことになる。
【0025】
しかしながら、本発明においては、前述のように、井桁体6、地中梁型枠板8及び床型枠板9のいずれもが合成樹脂発泡体製で腐食の心配がなく、しかも井桁体6には通水部7が設けられていることによって湧水ピット4中の水の流れも妨げられることがないので、これらを解体撤去することなく捨て置くことができる。そして、この捨て置きによって、特に床下の高さが低い、浅型の湧水ピット4とした場合に、作業者の負担を大きく軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明に係る床部の構築方法で構築した床部の断面図である。
【図2】井桁体を地中梁形成領域間の底部コンクリート板上に並べた状態の断面図である。
【図3】図2の状態の平面図である。
【図4】井桁体の分解斜視図である。
【図5】地中梁型枠板を設置した状態の断面図である。
【図6】図5の状態の平面図である。
【図7】地中梁型枠板の取り付け状態の一例を示す断面図である。
【図8】地中梁型枠板の取り付け状態の他の例を示す断面図である。
【図9】床型枠板を敷設した状態の断面図である。
【図10】図9の状態の平面図である。
【符号の説明】
【0027】
1 地盤
2 底部コンクリート板
3 地中梁
3’ 地中梁形成領域
4 湧水ピット
4’ 湧水ピット領域
5 床スラブ
6 井桁体
7 通水部
8 地中梁型枠板
9 床型枠板
10 地中梁配筋
11 単位板材
12 嵌合溝
13 固定具
14 釘又はビス
15 腕部
16 差し込み溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
床下の底部コンクリート板上の地中梁間に形成された湧水ピットの上方に、地中梁と一体に床スラブが形成された床部の構築方法において、
通水部が形成された合成樹脂発泡体製の単位板材を井桁状に組んだ井桁体を、底部コンクリート上の湧水ピット領域に並べると共に、並べた井桁体の集合体の外周縁部には、地中梁形成領域を区画する合成樹脂発泡体製の地中梁型枠板を設け、しかも井桁体の集合体上には、地中梁形成領域上を開放した状態で、合成樹脂発泡体製の床型枠板を敷設した後、
地中梁型枠板で仕切られた地中梁形成領域中及び床型枠板上にコンクリートを打設して地中梁と一体に床スラブを構築し、井桁体、地中梁型枠板及び床型枠板を床下に捨て置くことを特徴とする床部の構築方法。
【請求項2】
地中梁型枠板を底部コンクリート板に固定することを特徴とする請求項1に記載の床部の構築方法。
【請求項3】
地中梁型枠板の底部コンクリート板への固定を、底部コンクリート板に固定された断面上向きコ字形の固定具と、地中梁型枠板の下部との嵌め合わせで行うことを特徴とする請求項2に記載の床部の構築方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−108536(P2009−108536A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−280190(P2007−280190)
【出願日】平成19年10月29日(2007.10.29)
【出願人】(000109196)ダウ化工株式会社 (69)
【Fターム(参考)】