説明

座標入力装置及びその製造方法

【課題】耳障りな摺動音が発生しないと共に、透明性の高い長寿命の座標入力装置及びその製造方法を提供する。
【解決手段】第1の透光性基板10と、一方の面が操作面側とされ可撓性を有する第2の透光性基板20とが、所定間隔を有して対向配置され、各透光性基板の対向面に透明導電膜11、21と電極12a、22aとが形成され、第1の透光性基板10と第2の透光性基板20の少なくとも一方の対向面に、パーフルオロポリエーテル化合物を塗布してなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明導電膜を備えた抵抗膜型の座標入力装置とそれを備えた表示装置及びその製造方法に関し、特に電極間の絶縁のため透明導電膜に切欠を設けた座標入力装置及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話やPDA、PCなどの情報端末は、液晶表示パネル等の表示画面を備えており、その表面をタッチペンや指で押圧することにより、メニューの選択やデータの入力を行うことができるように、表示画面の表面を覆うように座標入力装置が設けられることがある。座標入力装置を備えた機器は、最近ではさらにデジタルカメラや携帯ゲーム機などにも広がっている。
【0003】
座標入力装置は、表示画面の表面に設けられるため、それ自身は透明である必要がある。透明な入力部を備えた座標入力装置としては、抵抗膜型のものが知られている。抵抗膜型の座標入力装置は、表示画面側に例えばITO(Indium Tin Oxide)等の透明導電材料からなる透明導電膜を表面に形成した樹脂板またはガラス板からなる第1の透光性基板を配置し、操作側に透明導電膜が形成された透明なフィルムからなる第2の透光性基板を配置し、これら透光性基板の各透明導電膜が対向するように、間に絶縁層を設けて構成されている。第2の透光性基板は可撓性を有しており、タッチペンや指で押圧することにより撓んで、対向する透明導電膜同士が接触する。
【0004】
透光性基板間に所定の間隔を持たせるため、第1の透光性基板の表面には、樹脂等からなり半球状の形状をした構造体を一定ピッチで配置しており、具体的には、直径約数10μm、高さ約4〜10μmのドットスペーサ群が使用されている。
【0005】
透光性基板の各外周部には、それぞれ一対の電極が形成されており、押圧操作された際の透明導電膜の抵抗による分圧比を、互いに直交するX方向とY方向についてそれぞれ測定することで、入力部における押圧位置を特定することができる。このような座標入力装置としては、例えば特許文献1に挙げるようなものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−309990号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
座標入力装置に対する入力に、入力ペンを用いた場合、5万回以上といった多数の繰り返し摺動を行うと、第2の透光性基板の表面に機械的損傷が発生し、座標入力装置としての寿命劣化、つまり面内の抵抗値の線形性が悪化してしまい、座標入力装置として正常な入力ができなくなる。
【0008】
このような問題を解決するために、従来からいくつかの工夫が提案されている。上記特許文献1においては、第2の透光性基板の最表面に、鉛筆硬度2H以上で、ペンに対する動摩擦係数が0.02〜0.3となるような表面処理層を形成することが開示されている。この表面処理層としては、熱硬化型ポリシロキサン、紫外線硬化型不飽和ポリエステル、不飽和アクリル樹脂、不飽和ポリウレタン、ポリアミド等が挙げられている。
【0009】
しかしながら、これらの技術を用いても、座標入力装置の摺動寿命を改善することは、はなはだ困難である。座標入力装置に対する繰り返し入力により、ドットスペーサには第2の透光性基板から上下方向、あるいは面方向に沿って大きなせん断力が繰り返し加わることとなる。その結果、ドットスペーサが変形・つぶれを起こしたり、極端な場合にはドットスペーサが破砕されてしまい、上下電極間が常時導通して、タッチパネルとしての機能を果さなくなる。あるいは、破砕したドットスペーサのかけらが、面内を摺動によって移動し、各透光性基板に損傷を与える結果、第2の透光性基板の抵抗を変化させ、位置のデータと抵抗値の線形関係がくずれ、やはり座標入力装置としての機能が果せなくなってしまう。
【0010】
このように、第2の透光性基板の最表面の摩擦係数を小さくすることは、表面の擦傷を低減するには一定の効果があるものの、座標入力装置の基本構造であるドットスペーサと電極面との間の摺動・擦傷の改善にはつながらない。このため、10万回〜20万回のような摺動負荷に対しては効果がほとんどない。その結果、座標入力装置としての長期寿命の改善には効果が少ないものとなる。
【0011】
また、第1の透光性基板と第2の透光性基板の摺動部分では、第2の透光性基板とドットスペーサあるいは第1の透光性基板との間で、大きな摩擦力が発生するために、摩擦音が発生することがある。また第1の透光性基板には一定ピッチでドットスペーサを配置しているため、摩擦が一定の繰り返し周期で起こって摩擦音が発生する。この摩擦音は、耳障りなもので、座標入力装置の使用感を損なう。たとえば、ゲーム用の座標入力装置では、ペン摺動を高速で繰り返し行うことがあり、この摩擦音が顕著になる。
【0012】
さらに、座標入力装置は、表示部分の表面を構成するものであり、その透明性と耐久性が強く要求されるため、表面に低摩擦係数を有するハードコート層や処理層の材料の選択や処理工程の選択には制約が大きく、有効なものが得にくいという問題がある。たとえば従来からよく使用されているシリコーン系の材料では、初期には透明性が高く潤滑性が高いが、ペン摺動により、削れや凝集が起きて、徐々に透明性を失い、また不要な凝集固形物等により、電極面の抵抗値が不均一となって線形性を失ってしまう。
【0013】
以上のように、抵抗膜型の座標入力装置においては、上記のような大きな摺動、せん断力に耐え、透明性が高くかつタッチパネルの長寿命化を実現すると共に、摩擦音の発生も少ないものがほとんどないというのが実情である。
【0014】
本発明は前記課題を鑑みてなされたものであり、耳障りな摺動音が発生しないと共に、透明性の高い長寿命の座標入力装置及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記課題を解決するため、本発明に係る座標入力装置は、第1の透光性基板と、一方の面が操作面側とされ可撓性を有する第2の透光性基板とが、所定間隔を有して対向配置され、各透光性基板の対向面に透明導電膜と電極とが形成された座標入力装置において、
前記第1の透光性基板と第2の透光性基板の少なくとも一方の前記対向面に、パーフルオロポリエーテル化合物を塗布してなることを特徴として構成されている。
【0016】
また、本発明に係る座標入力装置は、前記パーフルオロポリエーテル化合物は、6フッ化プロピレンより合成される側鎖を有する化合物であることを特徴として構成されている。
【0017】
さらに、本発明に係る座標入力装置は、前記パーフルオロポリエーテル化合物は、分子量2000未満であることを特徴として構成されている。
【0018】
さらにまた、本発明に係る座標入力装置は、前記第1の透光性基板の対向面には、ドットスペーサが所定間隔毎に配置され、該ドットスペーサの表面にも前記パーフルオロポリエーテル化合物が塗布されてなることを特徴として構成されている。
【0019】
そして、本発明に係る座標入力装置の製造方法は、第1の透光性基板と、一方の面が操作面側とされ可撓性を有する第2の透光性基板とが、所定間隔を有して対向配置され、各透光性基板の対向面に透明導電膜と電極とが形成された座標入力装置の製造方法において、
前記第1の透光性基板と第2の透光性基板の少なくとも一方の前記対向面に、パーフルオロポリエーテル化合物による表面処理をなすことを特徴として構成されている。
【0020】
また、本発明に係る座標入力装置の製造方法は、前記パーフルオロポリエーテル化合物による表面処理は、ハイドロフルオロポリエーテル化合物が希釈された溶液を前記対向面に塗布することでなされることを特徴として構成されている。
【0021】
さらに、本発明に係る座標入力装置の製造方法は、前記パーフルオロポリエーテル化合物は、6フッ化プロピレンより合成される側鎖を有する化合物であることを特徴として構成されている。
【0022】
さらにまた、本発明に係る座標入力装置の製造方法は、前記パーフルオロポリエーテル化合物は、分子量2000未満であることを特徴として構成されている。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係る座標入力装置によれば、第1の透光性基板と第2の透光性基板の少なくとも一方の対向面に、パーフルオロポリエーテル化合物を塗布してなることにより、入力部に対するペン書き摺動に対する寿命が改善され、かつ不要な摩擦音を低減すると共に、透明性を高く維持することができる。
【0024】
また、本発明に係る座標入力装置によれば、パーフルオロポリエーテル化合物は、6フッ化プロピレンより合成される側鎖を有する化合物であることにより、電気的、化学的に非常に安定かつ不活性で、低蒸気圧性を有する物質を低コストに合成することができる。
【0025】
さらに、本発明に係る座標入力装置によれば、パーフルオロポリエーテル化合物は、分子量2000未満であることにより、液体状となるので、塗布性・散布性を良好にすることができる。
【0026】
さらにまた、本発明に係る座標入力装置によれば、第1の透光性基板の対向面には、ドットスペーサが所定間隔毎に配置され、ドットスペーサの表面にもパーフルオロポリエーテル化合物が塗布されてなることにより、入力ペンの繰り返し摺動によるドットスペーサの破損を防止することができる。
【0027】
そして、本発明に係る座標入力装置の製造方法によれば、第1の透光性基板と第2の透光性基板の少なくとも一方の前記対向面に、パーフルオロポリエーテル化合物による表面処理をなすことにより、入力部に対するペン書き摺動に対する寿命が改善され、かつ不要な摩擦音を低減すると共に、透明性を高く維持した座標入力装置を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本実施形態における座標入力装置の概念的な分解斜視図である。
【図2】座標入力装置の動作原理を表した模式図である。
【図3】座標入力装置の断面図である。
【図4】分子量約1500のパーフルオロポリエーテル化合物の赤外分光スペクトルである。
【図5】入力部を入力ペンで摺動した際に生じる摩擦音の周波数特性である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の実施形態について図面に沿って詳細に説明する。以下の説明で用いる図面では、特徴をわかりやすくするために、便宜上、特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と異なっている場合がある。図1には、本実施形態における座標入力装置の概念的な分解斜視図を示している。この図に示すように、座標入力装置1は、大まかには平面状に形成された第1の透光性基板10と、該第1の透光性基板10と略同形状で平面状の第2の透光性基板20とが絶縁層40を介し、所定間隔(10〜100μm)を有して対向配置され、第1の透光性基板10の第2の透光性基板20側と反対側面には、出力用電極部31を備えたフレキシブル基板30が取付けられて構成される。
【0030】
第1の透光性基板10は、透明な硬質性の樹脂板によって形成されており、第2の透光性基板20と対向する面には透明導電膜11が形成されている。また、第2の透光性基板20は、可撓性を有する透明なフィルムによって形成されており、第1の透光性基板10と対向する面には透明導電膜21が形成されている。透明導電膜11、21は、例えば透明無機材料としては、ITO(Indium Tin Oxide)、ZnO、透明有機材料としてはカーボンナノチューブを含んだ樹脂フィルムなどの透明導電材料が用いられており、面内で均一な抵抗値を有している。また、第2の透光性基板20を構成するフィルムには、例えばPET(ポリエチレンテレフタレート)樹脂などが用いられる。これらにより、第2の透光性基板20の第1の透光性基板10側と反対側面が、押圧操作を行うことのできる入力部1aとされている。
【0031】
また、第1の透光性基板10の透明導電膜11が形成された面の外周部には、第2の方向である図中Y方向において対向し、Y方向と直交する第1の方向である図中X方向に伸びる二辺に沿って、一対の電極部12a、12aが形成されている。一方、第2の透光性基板20の透明導電膜21が形成された面の外周部には、図中X方向において対向し、図中Y方向に伸びる二辺に沿って、一対の電極部22a、22aが形成されている。これらの電極部12a、22aは、フレキシブル基板30の出力用電極部31と電気的に接続されている。また、これら電極部12a、22aに四方を囲まれた領域が、押圧座標位置を特定可能な操作領域となる。
【0032】
第2の透光性基板20の外周部には、加飾印刷層23が全周に渡る枠形状に形成されていて、入力部1aを取り囲んでいる。入力部1aの領域は透明で、その下部に配置される表示装置に表示される文字や画像などを透過して見ることができるのに対し、加飾印刷層23は、着色されて光を透過せず、表示装置の額縁として座標入力装置1が取付けられる電子機器におけるデザインの一部を構成する。また、加飾印刷層23には、着色の他に、模様、文字、マーク、絵柄等を加えることができる。
【0033】
次に、座標入力装置1の動作原理について説明する。図2には、座標入力装置1の動作原理を表した模式図を示している。座標入力装置1においては、入力部1aからの押圧操作時において、X方向とY方向のそれぞれについて押圧座標位置を特定する動作を行う。図2(a)は、X方向について押圧座標位置を特定する際の動作原理を示している。
【0034】
図2(a)に示すように、例えば第2の透光性基板20の点Sをタッチペン等で押圧操作したとすると、可撓性を有する第2の透光性基板20が撓むことによって、点Sにおいて第2の透光性基板20の透明導電膜21と第1の透光性基板10の透明導電膜11とが接触し導通する。
【0035】
X方向における座標を検出する際には、第2の透光性基板20の電極部22a、22a間に電圧が印加される。これにより、第2の透光性基板20の表面に形成された透明導電膜21には、点Sと各電極22aとの間に、それぞれの距離に応じた抵抗値RX1、RX2でX方向に電位勾配が形成される。この点Sにおける電位を、第1の透光性基板10に形成された電極12aから取り出し、A/D変換することにより、X方向における座標を検出することができる。
【0036】
Y方向における座標を検出する際には、図2(b)に示すように、第1の透光性基板10の電極部12a、12a間に電圧が印加される。これにより、第1の透光性基板10の表面に形成された透明導電膜11には、点Sと各電極12aとの間に、それぞれの距離に応じた抵抗値RY1、RY2でY方向に電位勾配が形成される。そして、点Sにおける電位を、第2の透光性基板20に形成された電極22aから取り出し、A/D変換することにより、Y方向における座標を検出することができる。
【0037】
図3には、座標入力装置1の断面図を示している。この図に示すように、座標入力装置1は、前述のように第1の透光性基板10と第2の透光性基板20とが、絶縁層40を介して対向配置されている。第1の透光性基板10の両面のうち、第2の透光性基板20と対向する側の面の表面には、透明導電膜11と電極部12a及びドットスペーサ13が形成されている。ドットスペーサ13は、樹脂材からなり、直径約数10μm、高さ約4〜10μmの半球状に形成される。また、ドットスペーサ13は、第1の透光性基板10の操作領域略全域に渡って、一定ピッチで多数が配置されている。
【0038】
第2の透光性基板20には、第1の透光性基板10と対向する面側に、透明導電膜21と印刷回路部22を構成する電極部22aが形成されており、それと反対側の面はタッチペン4等により押圧操作される入力部1aとなっている。また、第2の透光性基板20の操作面側の外周部には、加飾印刷層23が形成されている。加飾印刷層23の内周側領域には、透明な樹脂材からなる透明加厚層24が形成されている。さらに、加飾印刷層23及び透明加厚層24を覆うように、透明な被覆膜25が最表面に設けられている。第2の透光性基板20に形成される透明導電膜21は、操作領域よりも外方まで延出して形成されている。これにより、第2の透光性基板20の積層構造を均一に近づけ、積層応力による反りの発生を低減することができる。
【0039】
第1の透光性基板10の透明導電膜11と第2の透光性基板20の透明導電膜21の表面、すなわち各透光性基板の対向面には、それぞれパーフルオロポリエーテル化合物が塗布されている。この化合物は、6フッ化プロピレンから合成されるもので、その構造は、下記(1)で表される。なお、m,nは整数である。
CF3-〔-(O-CF(CF3)-CF2)n-(O-CF2)m-〕-O-CF3 ・・・・・(1)
【0040】
上記化合物では、一般的なパーフルオロアルキル化合物とは異なり、(-O-CF(CF3)n-CF2-)-(O-CF2)mの繰り返し単位の中に、側鎖CF3が存在することが特徴的である。このような構造のため、合成コストが安い上に、電気的、化学的に非常に安定かつ不活性で、低蒸気圧性を有する。このような化合物の例としては、たとえば商品名フォンブリン(ソルベイ・ソレクシス社の登録商標)シリーズを挙げることができる。
【0041】
本実施形態では、パーフルオロポリエーテル化合物を希釈溶剤に溶解させ、濃度0.01〜0.5wt%、好ましくは0.01〜0.1wt%の濃度とし、塗布、ノズル散布あるいはインクジェット塗布等を行うことができる。このようにして表面処理された透明導電膜面には、500nm以下の薄膜が形成される。パーフルオロポリエーテル化合物の塗布は、第1の透光性基板10と第2の透光性基板20の両方、あるいは少なくとも一方になされるが、特に第1の透光性基板10のドットスペーサ13の表面に塗布されることで、摺動寿命を大きく伸ばすことができる。
【0042】
希釈溶剤としては、一般のエーテル系、エステル系溶剤が使用できるが、アクリル系あるいはウレタン変性アクリル樹脂等からなるドットスペーサ13をアタックしない透明性の高いものを選定する必要がある。このような溶剤の例としては、特に上記(1)に類似の構造を有するハイドロフルオロポリエーテル(2)が好ましく利用できる。なお、p,qは整数である。
HCF2O-(CF2O-)p(CF2CF2O-)q-CF2H ・・・・・・・・・・(2)
【0043】
上記(2)の構造を有するハイドロフルオロポリエーテルは、パーフルオロポリエーテル化合物(1)の溶解性が高く、電気的・熱的安定性が高く、不活性で安全性が高い。そして特に分解率が高く、オゾン破壊性がないため、環境負荷が低い化合物であるので、いわゆるフロン問題が発生しないという点でも産業上好ましい溶剤である。このような化合物の例としては、商品名H−ガルデンシリーズ(ソルベイ・ソレクシス社の登録商標)を挙げることができる。
【0044】
本実施形態では、(1)式で表されるパーフルオロポリエーテルのうち、分子量が3000以下好ましくは2000以下のものが、塗布性・散布性が良く、かつ処理後の透明性を高くできるため好適に用いられる。すなわち(1)式におけるn,mは、それぞれn<13、m<28の整数であるものが好ましく利用できる。図4には、分子量約1500のパーフルオロポリエーテル化合物の赤外分光スペクトルを示している。
【0045】
上記パーフルオロポリエーテルを塗布することにより、座標入力装置における摺動寿命が長くなる理由は、透光性基板10、20あるいはドットスペーサ13の表面に存在するパーフルオロポリエーテルのF原子が存在する側鎖CF3により、第1の透光性基板10と第2の透光性基板20あるいはドットスペーサ13間の動摩擦係数が下がることと関係があると思われる。
【0046】
また、パーフルオロポリエーテル化合物の塗布により、第1の透光性基板10と第2の透光性基板20あるいはドットスペーサ13との動摩擦係数を小さくしたことによって、摺動時に発生する摺動摩擦音が防止されるという効果もある。図5には、入力部1aを入力ペンで摺動した際に生じる摩擦音の周波数特性を示している。これは、入力部1aを先端径0.8mmのポリアセタール製の入力ペンを用いて、繰り返し摺動した際の音をピックアップマイクで記録(摺動面との距離約10mm)したものである。
【0047】
図5に示すように、パーフルオロポリエーテル化合物による表面処理を行った場合、表面処理を行っていない場合に比べ、周波数750Hz以上から3kHz近傍の音圧が低下し、摺動音が大幅に低下している。
【0048】
(実施例1)
以下、実施例1にかかる座標入力装置について、さらに具体的に説明する。本実施例では、ポリオレフィン系樹脂基板にスパッタ成膜法により透明導電膜11を形成したものを第1の透光性基板10、透明導電膜21とハードコートフィルムの積層体の、透明導電膜21にAgパターンを、またAgパターン上を覆うように絶縁レジストパターンを、それぞれ印刷形成して第2の透光性基板20とした。
【0049】
第1の透光性基板10上には、所定パターンのAg電極線を形成し、またメタル版を用いた印刷により、ウレタンアクリル系樹脂からなるドットスペーサ13を形成し、直ちにメタルハライドランプのUV光で硬化させた(365nm、照度約200mW/cm2、積算光量約2500mJ/cm2)。第1の透光性基板10と第2の透光性基板20の操作領域に対し、フォンブリンY04を0.02%濃度でH−ガルデン(ZT150)に溶解させた溶液を、スプレー法により塗布して常温で乾燥させた。そして、第1の透光性基板10と第2の透光性基板20を、絶縁層となる額縁状の両面テープ(厚み約60μm)で貼り合わせるとともに、フレキシブルケーブル30を接続して、座標入力装置を完成させた。なお、完成した座標入力装置の透過率は、パーフルオロポリエーテル化合物を塗布しないものと全く同じである。
【0050】
この座標入力装置の入力部1aを、先端φ0.8mmのポリアセタール製の入力ペンで、垂直荷重1.5kgを印加しながら、同一箇所を摺動幅40mmで繰り返し摺動した。摺動回数10万回後に電気検査を行ったところ、摺動音はほとんど発生しなかった。また、表面のハードコート層にはひっかき傷が発生したものの、抵抗値変化は1.7%、抵抗の線形性の変化は1.8%であった。また摺動回数15万回後についても、抵抗値変化は2.3%、抵抗の線形性の変化は2.5%と極めて低かった。なお、ドットスペーサ13には、剥がれ、変形、かけ等は発生しなかった。
【0051】
(実施例2)
第1の透光性基板10の表面に、0.03%のフォンブリン−Y04溶液を、パッドに含浸させて塗布し、それ以外は実施例1と同様にして座標入力装置を作成した。得られた座標入力装置を、実施例1と同様の入力ペンにより、荷重1.5kgを印加して約30mm×40mmの矩形エリアを、入力ペンの摺動位置を変えながら摺動させた。この場合にも、摺動音は発生しなかった。
【0052】
摺動回数10万回後、表面のハードコート層に摺動跡が見られたが、抵抗値の変化は1.5%、抵抗値の線形性の変化は1.6%であった。また、ドットスペーサ13は、わずかに半球状から変形が見られたが、剥がれ、かけ等は全く発生していなかった。さらに、15万回まで摺動を継続したところ、抵抗値の変化は2.1%、抵抗値の線形性の変化は2.3%程度であった。ドットスペーサ13は楕円状になっていたが、剥がれ、ワレは発生していなかった。ただし、ハードコート層には削れ痕が発生していた。
【0053】
(実施例3〜6)
パーフルオロポリエーテル化合物の種類、濃度を表1のように変える以外は、実施例2と同様にして座標入力装置を作成した。得られた座標入力装置に入力ペン摺動テストを行ったところ、同様に良好な結果が得られた。なお、フォンブリン−Y04は分子量1500、フォンブリン−Y04MTは分子量1950である。
【0054】
【表1】

【0055】
(比較例1、2)
第1の透光性基板10上に、パーフルオロアルキルシランを塗布、あるいはなにも塗布しないこと以外は、上記実施例と同様の方法で座標入力装置を作成し、同様の入力ペン摺動テストを行った結果を表2に示す。パーフルオロアルキルシランを塗布した場合、10万回までは若干の効果が認められたが、15万回以上では、入力ペンの摺動相当部分にペン書き跡が見られ、透明性が悪化した。また、抵抗値の変化率、線形性の変化も大きくなった。
【0056】
【表2】

【0057】
このように、第1の透光性基板10及びまたは第2の透光性基板20の対向面にパーフルオロポリエーテル化合物を塗布したことにより、塗布しない場合に比べて入力ペンの繰り返し摺動に対して長寿命化を図ることができ、また摺動音も防止できると共に、透明度も十分確保することができる。
【0058】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の適用は本実施形態には限られず、その技術的思想の範囲内において様々に適用されうるものである。
【符号の説明】
【0059】
1 座標入力装置
1a 入力部
10 第1の透光性基板
11 透明導電膜
12 印刷回路部
12a 電極部
13 ドットスペーサ
20 第2の透光性基板
21 透明導電膜
22 印刷回路部
22a 電極部
23 加飾印刷層
24 透明加厚層
25 被覆膜
30 フレキシブルケーブル
31 接続電極
40 絶縁層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の透光性基板と、一方の面が操作面側とされ可撓性を有する第2の透光性基板とが、所定間隔を有して対向配置され、各透光性基板の対向面に透明導電膜と電極とが形成された座標入力装置において、
前記第1の透光性基板と第2の透光性基板の少なくとも一方の前記対向面に、パーフルオロポリエーテル化合物を塗布してなることを特徴とする座標入力装置。
【請求項2】
前記パーフルオロポリエーテル化合物は、6フッ化プロピレンより合成される側鎖を有する化合物であることを特徴とする請求項1記載の座標入力装置。
【請求項3】
前記パーフルオロポリエーテル化合物は、分子量2000未満であることを特徴とする請求項1または2記載の座標入力装置。
【請求項4】
前記第1の透光性基板の対向面には、ドットスペーサが所定間隔毎に配置され、該ドットスペーサの表面にも前記パーフルオロポリエーテル化合物が塗布されてなることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の座標入力装置。
【請求項5】
第1の透光性基板と、一方の面が操作面側とされ可撓性を有する第2の透光性基板とが、所定間隔を有して対向配置され、各透光性基板の対向面に透明導電膜と電極とが形成された座標入力装置の製造方法において、
前記第1の透光性基板と第2の透光性基板の少なくとも一方の前記対向面に、パーフルオロポリエーテル化合物による表面処理をなすことを特徴とする座標入力装置の製造方法。
【請求項6】
前記パーフルオロポリエーテル化合物による表面処理は、ハイドロフルオロポリエーテル化合物が希釈された溶液を前記対向面に塗布することでなされることを特徴とする請求項5記載の座標入力装置の製造方法。
【請求項7】
前記パーフルオロポリエーテル化合物は、6フッ化プロピレンより合成される側鎖を有する化合物であることを特徴とする請求項5または6記載の座標入力装置の製造方法。
【請求項8】
前記パーフルオロポリエーテル化合物は、分子量2000未満であることを特徴とする請求項5〜7のいずれか1項に記載の座標入力装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−186983(P2011−186983A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−54186(P2010−54186)
【出願日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【出願人】(000010098)アルプス電気株式会社 (4,263)
【Fターム(参考)】