説明

廃シリコンからのハロシランの製造方法

【課題】シリコンウェハ製造用シリコンインゴットを砥粒として炭化ケイ素又はダイヤモンドを用いた砥粒方式により切削する際に発生する砥粒含有廃シリコンの処理物から高い収率でハロシランを製造する方法を提供すること。
【解決手段】炭化ケイ素又はダイヤモンドからなる砥粒を含有する廃シリコン処理物を用いる方法であって、砥粒含有廃シリコンスラリーから砥粒を主成分とする固形分を分離することなくハロゲン化水素と反応させるハロシランの製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハロシラン(ハロゲン化シラン)の製造方法に関し、例えば、シリコンウェハ製造用シリコンインゴットの切削時に発生する廃シリコンを用いてブロモシランを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体・太陽電池のシリコン産業の発展に伴って、多結晶・単結晶シリコンの需要が増加している。一般に、シリコンウェハは、切削油(クーラント)と炭化ケイ素(SiC)砥粒、ダイヤモンド砥粒等の硬質遊離砥粒からなる研磨剤との混合物を供給しながらワイヤーで切断する遊離砥粒方式(例えば、特許文献1参照)、又は切削油(クーラント)を供給しながらダイヤモンド砥粒等の硬質砥粒を固定したワイヤーを用いて切断する固定砥粒方式(例えば、特許文献2参照)により、シリコンインゴットを切断した後、さらに研磨剤で研磨することにより製造されている。このシリコンウェハ製造過程において発生するスラリー中には、高純度シリコンに加えて、砥粒(SiC,ダイヤモンド砥粒等)、ワイヤソーからの摩耗金属(Fe,Al,Ni,Ti等)、インゴット中のドープ剤(B,P,As等)が分散している。
【0003】
従来、これらのスラリー中の廃シリコンスラッジは特に利用されず、産業廃棄物として処理されているのが現状である。この廃シリコンスラッジは、高純度シリコンと共に有機化合物である切削油を含んでいることから、単純な焼却処分はできずにセメントで固める等の特別な処理が行われており、コスト及び手間がかかるために、処理コストが機能性シリコン製造のコストに跳ね返る結果、価格の上昇にもつながっている。
【0004】
他方で、このような廃シリコンスラリーに含まれる高純度シリコンを回収する方法が提案されており、このような方法としては、シリコン混合物から遷移金属やドーパント元素などの不純物成分を取り除くことで純度を高める冶金学的手法と、シリコンとハロゲン化水素等の直接反応により、シリコン混合物からハロシランとしてシリコンを抽出する化学的手法がある。
【0005】
冶金学的手法としては、例えば、前処理(砥粒,クーラント,摩耗金属の除去)の後に試料を溶解し、真空精錬(P除去)、酸化精錬(B除去)、その後、偏析を利用した一方向性凝固をすることにより残留不純物元素を除去することで高純度シリコンを得る方法が提案されている(例えば、特許文献3参照)。この冶金学的手法を廃シリコンの再生利用に用いる場合、上記のように、前処理として砥粒などの不純物の除去が望まれるため、不純物の混入を大幅に減らすことができるダイヤモンド砥粒をワイヤーに固定する固定砥粒方式が提案されているが、依然として砥粒を固定する遷移金属等が残存するため、溶融による廃シリコンの再生に大きな課題として残り、その解決が望まれている。
【0006】
また、化学的手法としては、例えば、廃シリコンスラリーを低遠心力で1次遠心分離し、砥粒(SiC)が主成分の固形物Aと液分Aに分離して、続いて、この液分Aを高遠心力で2次遠心分離し、分散媒であるクーラントを主成分とする液分Bと切屑シリコン及び砥粒を主成分とするスラッジBとに分離して、さらに、液分Bの一部とスラッジBを混合し、粉砕後に真空蒸留することでクーラント成分を完全に除去した後に、HClを用いて塩化シランを合成することで分離回収する方法が提案されている(例えば、特許文献4参照)。
【0007】
しかしながら、上記特許文献4記載の方法では、塩化シランを合成する前に、廃シリコンスラリーに含まれる炭化ケイ素を除去しており、この除去工程が非常に煩雑で処理時間がかかり、したがってコスト増を招いていた。また、例えば、上記の遠心分離による除去方法の他に、フィルター手段と酸化処理を併用し炭酸ガスとして除去する方法(例えば、特許文献5参照)、有機化合物である補収剤と起泡剤とを併用しpHを調整することで除去する方法(例えば、特許文献6参照)、さらには、磁気分離手段等を利用して機械的に除去する方法(例えば、特許文献7参照)等が提案されているが、工程が煩雑で処理時間がかかり、やはりコスト増を招いていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−159642号公報
【特許文献2】特開2008−126341号公報
【特許文献3】特開2007−332001号公報
【特許文献4】特許第4160930号公報
【特許文献5】特開平5−270814号公報
【特許文献6】特開2004−223321号公報
【特許文献7】特開平9−165212号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、高い収率でハロシランを製造する方法を提供することにあり、特に、簡便かつ低コストに、廃シリコンを用いて高い収率でハロシランを製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、廃シリコンの再生利用の研究を行う中で、これまで除去されてきた砥粒に着目した。従来、化学的手法においては、廃シリコンスラリー中のシリコン以外の不純物はできる限り除去する方が望ましいという認識の下、種々の不純物を除去した後に、廃シリコン処理物を塩化水素等と反応させていたが、本発明者らは、発想を転換し、廃シリコンスラリー中に含まれる砥粒を除去することなく反応させることに着想し、炭化ケイ素砥粒又はダイヤモンド砥粒の存在下において、シリコン及びハロゲン化水素を反応させたところ、意外にも、ハロゲン化反応になんら影響を与えるものでないばかりか、砥粒が存在しない場合に比して高い収率でハロシランを得ることができることを見いだし、本発明を完成するに至った。以下、便宜上、炭化ケイ素砥粒及び/又はダイヤモンド砥粒を単に砥粒と称す場合がある。
【0011】
すなわち、上記課題を解決するための本発明は、(1)シリコンに対して35質量%以上の炭化ケイ素又はシリコンに対して0.5質量%以上のダイヤモンドの存在下で、シリコン及びハロゲン化水素を反応させることを特徴とするハロシランの製造方法や、(2)ハロゲン化水素として臭化水素を用い、ブロモシランを製造することを特徴とする上記(1)記載のハロシランの製造方法や、(3)炭化ケイ素をシリコンに対して35〜1000質量%存在させることを特徴とする上記(1)又は(2)記載のハロシランの製造方法や、(4)ダイヤモンドをシリコンに対して0.5〜1000質量%存在させることを特徴とする上記(1)又は(2)記載のハロシランの製造方法や、(5)シリコン供給源として、シリコンウェハ製造用シリコンインゴットの切削時に発生する廃シリコンスラリーを処理した廃シリコン処理物を用いることを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれか記載のハロシランの製造方法や、(6)廃シリコン処理物が、砥粒として炭化ケイ素又はダイヤモンドを用いた砥粒方式による切削時に発生する砥粒含有廃シリコンスラリーを処理したものであることを特徴とする上記(5)記載のハロシランの製造方法や、(7)廃シリコンスラリーの処理が、炭化ケイ素又はダイヤモンドを主成分とする固形分を分離する処理を含まないことを特徴とする上記(6)記載のハロシランの製造方法や、(8)廃シリコンスラリーの処理が、炭化ケイ素又はダイヤモンドを実質的に除去する処理を含まないことを特徴とする上記(6)又は(7)記載のハロシランの製造方法や、(9)廃シリコンスラリーの処理が、廃シリコンスラリーを固形スラッジとする処理と、該固形スラッジからクーラントを除去する処理とを含むことを特徴とする上記(5)〜(8)のいずれか記載のハロシランの製造方法や、(10)固形スラッジとする処理が、遠心分離又は凝集剤を用いた処理であることを特徴とする上記(9)記載のハロシランの製造方法や、(11)シリコン及びハロゲン化水素の反応終了後に炭化ケイ素又はダイヤモンドの回収を行うことを特徴とする上記(5)〜(10)のいずれか記載のハロシランの製造方法や、(12)シリコンウェハ製造用シリコンインゴットを砥粒として炭化ケイ素又はダイヤモンドを用いた砥粒方式により切削する際に発生する砥粒含有廃シリコンスラリーを処理した廃シリコン処理物とハロゲン化水素とを反応させてハロシランを製造する方法であって、前記砥粒含有廃シリコンスラリーの処理が、炭化ケイ素又はダイヤモンドを主成分とする固形分を分離する処理を含まないことを特徴とするハロシランの製造方法に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の製造方法によれば、ハロシランを高い収率で得ることができる。特に、廃シリコンの再生利用時においては、砥粒を除去する工程を簡略化若しくは省略して簡便かつ低コストでハロシランを回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】シリコン供給源として、シリコンウェハ製造用シリコンインゴットの切削時に発生する炭化ケイ素含有廃シリコン処理物を用いた本発明の方法の一例を示す図である。
【図2】炭化ケイ素砥粒量に対する、臭化水素の転換率及びトリブロモシラン/テトラブロモシランの選択率の結果を示す図である。
【図3】炭化ケイ素砥粒量に対する、臭化水素の転換率及びトリブロモシラン/テトラブロモシランの選択率の結果を示す図である。
【図4】炭化ケイ素砥粒量に対する、臭化水素の転換率及びトリブロモシラン/テトラブロモシランの選択率の結果を示す図である。
【図5】ダイヤモンド砥粒量に対する、臭化水素の転換率及びトリブロモシラン/テトラブロモシランの選択率の結果を示す図である。
【図6】反応前後の石英反応管内に充填した炭化ケイ素含有廃シリコン処理物と二酸化ケイ素(SiO)を主成分とする白色粉末の赤外吸収スペクトルの結果を示す図である。
【図7】反応前のSi/SiC混合物の粉末X線回折結果を示す図である。
【図8】反応後のSiOを主成分とする白色粉末の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のハロシランの製造方法としては、炭化ケイ素又はダイヤモンドの存在下で、シリコン及びハロゲン化水素を反応させる方法であれば特に制限されるものではなく、炭化ケイ素の混合割合としては、シリコンに対して35質量%以上であることが好ましく、35〜1000質量%であることがより好ましく、40〜900質量%であることがさらに好ましく、80〜900質量%であることが特に好ましい。ダイヤモンドの混合割合としては、シリコンに対して0.5質量%以上であることが好ましく、0.5〜1000質量%であることがより好ましく、0.8〜400質量%であることがさらに好ましく、1〜100質量%であることが特に好ましい。炭化ケイ素又はダイヤモンドの存在下でハロゲン化反応を行うことにより、ハロゲン化水素の転換率が向上し、ハロシランを高い収率で得ることができる。また、トリブロモシランを高い選択率で得たい場合には、炭化ケイ素の存在量は、シリコンに対して80〜400質量%であることが好ましく、ダイヤモンドの存在量は、シリコンに対して1〜50質量%であることが好ましい。なお、本発明の方法は、炭化ケイ素及びダイヤモンドの両者の存在下で反応を行う場合も含む。
【0015】
ハロゲン化水素としては、フッ化水素、塩化水素、臭化水素、ヨウ化水素等を例示することができ、塩化水素、臭化水素が好ましく、臭化水素が特に好ましい。臭化水素を用いた場合に生成されるトリブロモシラン及びテトラブロモシランは、両化合物ともに有用な物質であり、トリブロモシランは、例えば、半導体シリコンインゴットや太陽電池シリコンインゴット等に利用することができ、このトリブロモシランを出発原料とした多結晶シリコンの析出プロセスは、従来のトリクロロシランを出発原料としたプロセスに比して、対応する各反応のギブズエネルギーが小さく、低温で操業できるという利点がある。また、トリブロモシランは、クロロシラン系に比べ、シリコンの高析出収率の達成が可能であり、また、爆発性重合体やシリコンダストの形成が少ないという利点もある。また、テトラブロモシランは、合成石英ガラスやステッパー用のレンズや光ファイバー等に利用することができる。
【0016】
本発明の製造方法におけるシリコン供給源としては、例えば、純度98〜99%程度の金属グレードシリコンや、シリコンウェハ製造用シリコンインゴットの切削時又はシリコンウェハのラッピング時に発生する廃シリコンスラリーの処理物(廃シリコン処理物)を用いることができ、砥粒として炭化ケイ素又はダイヤモンドを用いた砥粒方式による切削時に発生する砥粒含有廃シリコンスラリーの処理物を用いることが、別途炭化ケイ素又はダイヤモンドを添加する必要がないことから特に好ましい。
【0017】
シリコン供給源として廃シリコン処理物を用いる場合の処理としては、廃シリコンスラリーを固形スラッジとする処理、及び該固形スラッジから、真空乾燥等によりクーラント(エチレングリコール類)を除去する処理を含むことが好ましい。シリコンスラリーを固形スラッジとする方法としては、例えば、遠心分離による方法や凝集剤を用いる方法を挙げることができる。本発明の遠心分離は、砥粒のみを取り除くといった遠心力の微調整は必要なく、高遠心力で容易に固形分を一括して分離することができる。また、凝集剤としては、例えば、塩化鉄、ポリ鉄、ポリシリカ鉄、ポリ塩化アルミニウム等を用いることができ、含まれる金属イオンの臭化化合物の沸点が生成するハロゲン化シランの沸点より高い温度を示す凝集剤であることが好ましい。
【0018】
本発明における反応形式としては、固定床、流動床、移動床のいずれの方式であってもよいが、シリコン及びハロゲン化水素を効率的に接触させるべく、流動床方式であることが好ましい。すなわち、シリコン粒子が収容された縦型反応器の下部からハロゲン化水素を導入して、シリコン粒子を流動させながら反応させることが好ましい。なお、原料シリコンは反応器に随時追装されるので、通常反応器内のシリコン量はほぼ一定に保たれている。
【0019】
反応温度としては、300〜500℃程度が好ましく、400〜450℃であることがより好ましい。また、ハロゲン化水素は、希釈することなく反応器に導入してもよいが、窒素ガス、アルゴンガス等の不活性ガスで希釈させて反応器に導入することが、不活性ガスのキャリア性により反応を停滞させることなくハロゲン化水素を効率的にシリコンに接触させて、ハロゲン化水素の転換率を向上させることができることから好ましい。例えば、ハロゲン化水素割合が、5〜35%であることが好ましく、5〜15%であることがより好ましい。
【0020】
シリコン及びハロゲン化水素を反応させた後、主としてトリハロゲン化シラン及びテトラハロゲン化シランが生成するが、これらの混合物は、蒸留により分離回収することができる。特に、シリコン及び臭化水素を反応させた場合には、トリブロモシラン及びテトラブロモシランを生成するが、トリブロモシラン及びテトラブロモシランは常温で液体であり、塩素系に比較して沸点差も大きいため、蒸留により容易に分離することができる。
【0021】
また、ハロゲン化反応を終了後に、炭化ケイ素又はダイヤモンド(砥粒)を分離して回収することが好ましい。反応後の反応器内部は高純度の炭化ケイ素又はダイヤモンドが残留しており、これらは、フッ化水素、硝酸、硫酸等に対する安定性が高いため、反応器内部の混合原料を無機酸若しくは気流分級装置等を用いることで、炭化ケイ素又はダイヤモンドと未反応シリコンとを分離回収できる。回収した炭化ケイ素又はダイヤモンドは、反応系に戻して再利用することができ、また、砥粒として再利用することもできる。
【0022】
シリコン供給源として、砥粒として炭化ケイ素又はダイヤモンドを用いた砥粒方式による切削時に発生する砥粒含有廃シリコンスラリーの処理物を用いる場合、廃シリコンスラリーから炭化ケイ素又はダイヤモンドを主成分とする固形分を分離することなく用いることができ、廃シリコンスラリーに含まれる炭化ケイ素又はダイヤモンドを実質的に除去することなく用いることが可能である。これにより、非常に煩雑な砥粒の除去工程を省略ないしは簡略化することができ、作業効率の向上及びコストの低減を実現することができると共に、ハロシランを効率的に製造することが可能となる。
【0023】
すなわち、本発明は、シリコンウェハ製造用シリコンインゴットを砥粒として炭化ケイ素又はダイヤモンドを用いた砥粒方式により切削する際に発生する砥粒含有廃シリコンスラリーを処理した廃シリコン処理物とハロゲン化水素とを反応させてハロシランを製造する方法であって、砥粒含有廃シリコンスラリーの処理が、炭化ケイ素又はダイヤモンドを主成分とする固形分を分離する処理を含まないことを特徴とする方法を提供する。ここで、炭化ケイ素又はダイヤモンドを主成分とする固形分とは、例えば、炭化ケイ素等(両者を含む場合は合計量)が固形分全体の50質量%以上のものをいい、好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80%質量以上のものをいう。
【0024】
上記のような砥粒含有廃シリコン処理物を用いた方法の一例を図1に示す。図1に示すように、本発明の方法は、廃シリコンスラリーを遠心分離し、廃シリコン、砥粒(炭化ケイ素砥粒又はダイヤモンド砥粒)、磨耗金属を含む固形分を分離した後、かかる固形分からクーラントを除去し、クーラントを除去した固形分をHBr等のハロゲン化水素と反応させ、ブロモシラン等のハロゲン化シランを精留するものである。
【実施例1】
【0025】
内径20mmの石英ガラス管反応容器(縦型)に、金属グレードシリコン(鉄0.04質量%,アルミニウム0.029質量%,カルシウム0.002質量%含有)1gと所定量の炭化ケイ素砥粒とを充填し、反応器を400℃に保持した。続いて、臭化水素ガス(10ml/min)及び窒素ガス(30ml/min)からなる混合ガスを反応器底部から流通させ金属シリコンと接触させた。反応系に組み込んだガスクロマトグラフで反応器出口ガスをサンプリング、分析し、その経時変化を調べた。臭化水素ガスの減少量に基づいて臭化水素の転換率(%)を決定した。トリブロモシランとテトラブロモシランのガスクロピークのエリア比に基づいて選択率(%)を見積もった。反応器出口から排出されたブロモシランガスは、コールドトラップ付きのコンデンサー容器によりブロモシラン溶液として凝集回収された。未反応のHBrおよび不活性ガスはコンデンサーに回収されずドラフト内で中和分解された。反応は、臭化水素との混合ガスの反応器への供給を開始した30分後にほぼ定常状態に達した。
また、比較として、炭化ケイ素砥粒を加えない場合及び炭化ケイ素砥粒のみの場合も同様に試験を行った。
【0026】
反応開始から30分後の臭化水素転化率とトリブロモシラン/テトラブロモシランの選択率の結果を表1、図2に示す。試験例1〜3は、それぞれ炭化ケイ素砥粒を0.80g,4.0g,9.0g添加した例である。
【0027】
【表1】

【0028】
表1及び図2から明らかなように、炭化ケイ素の存在下で反応させることにより、HBr転換率が向上することがわかる。また、炭化ケイ素のみの場合では、臭化水素と反応しないことがわかる。この転換率が向上するメカニズムは明らかではないが、炭化ケイ素の高い熱伝導性のために、反応温度およびSiとHBrによる発熱反応の熱が炭化ケイ素を介して反応するシリコン全体に効率よく伝搬するためと考えられる。また、炭化ケイ素を添加することで反応が定常状態に達するまでの時間が早くなることがわかった。
【0029】
試験例1において、試薬グレードシリコンを、炭化ケイ素砥粒を使用しない固定砥粒方式ワイヤソースラッジからなる廃シリコンスラリーの処理物(鉄0.012質量%,アルミニウム0.422質量%,ニッケル0.015質量%,インジウム0.013質量%,リン0.008質量%,カリウム0.070質量%含有)に変更する以外は、実施例1と同様にして臭化水素との反応を行った。また、比較として、炭化ケイ素砥粒を加えない場合及び炭化ケイ素砥粒のみの場合も同様に試験を行った。なお、反応管に充填する廃シリコンは、クーラント成分の除去操作として、両親媒性アセトン溶媒に含浸し、遠心分離を行い上澄み溶液と沈殿層とに分離した。この操作を3回行った沈殿層を回収し、1日真空乾燥した後、反応に用いた。
【0030】
反応が定常状態に達した後の臭化水素転換率とトリブロモシラン/テトラブロモシランの選択率の結果を表2及び図3に示す。試験例6〜8は、それぞれ炭化ケイ素砥粒を1.0g,4.0g,9.0g添加した例である。
【0031】
【表2】

【0032】
表2及び図3から明らかなように、廃シリコン処理物を用いた場合にも、炭化ケイ素の存在下で反応させることにより、HBr転換率が向上することがわかる。
【0033】
また、反応温度を420℃に変更する以外は、試験例6(炭化ケイ素1.0g)及び試験例7(炭化ケイ素4.0g)と同様にして臭化水素との反応を行った。また、比較として、反応温度420℃における炭化ケイ素砥粒を加えない場合及び炭化ケイ素砥粒のみの場合も同様に試験を行った。反応が定常状態に達した後の臭化水素転換率とトリブロモシラン/テトラブロモシランの選択率の結果を表3及び図4に示す。
【0034】
【表3】

【0035】
表3及び図4から明らかなように、反応温度を高く設定してもHBr転換率が向上することがわかる。
【0036】
試験例1と同様にして、炭化ケイ素砥粒を使用しない固定砥粒方式ワイヤソースラッジからなる廃シリコンスラリーの処理物(鉄0.012質量%,アルミニウム0.422質量%,ニッケル0.015質量%,インジウム0.013質量%,リン0.008質量%,カリウム0.070質量%含有)1gと所定量のダイヤモンド砥粒を充填し、反応温度400℃で臭化水素との反応を行った。比較として、ダイヤモンド砥粒を加えない場合及びダイヤモンド砥粒のみの場合も同様に試験を行った。
【0037】
反応が定常状態に達した後の臭化水素転換率とトリブロモシラン/テトラブロモシランの選択率の結果を表4及び図5に示す。試験例15、16、17は、それぞれダイヤモンド砥粒を0.01g,0.5g,1.0g添加した例である。
【0038】
【表4】

【0039】
表4及び図5から明らかなように、ダイヤモンド砥粒を用いた場合も、HBr転換率が向上することがわかる。また、ダイヤモンドのみの場合では、臭化水素と反応しないことがわかる。この転換率が向上するメカニズムは明らかではないが、炭化ケイ素の場合と同様に、ダイヤモンドの高い熱伝導性のために、反応温度およびSiとHBrによる発熱反応の熱がダイヤモンドを介して反応するシリコン全体に効率よく伝搬するためと考えられる。また、ダイヤモンドを添加することで反応が定常状態に達するまでの時間が早くなることがわかった。さらに、ダイヤモンドの場合は、炭化ケイ素に比較して少ない量で効果を得られることがわかった。これは、ダイヤモンドの熱伝導率(600〜2000W・m-1・K-1)が、炭化ケイ素(100〜350 W・m-1・K-1)よりも高いことによるものと考えられ、上記推定したメカニズムとも符合する。
【実施例2】
【0040】
表1〜表4に示したように、炭化ケイ素砥粒又はダイヤモンド砥粒は臭化水素とは反応しないことは明らかであるが、さらに、炭化ケイ素が臭化水素と反応しないことを以下の方法で確認した。すなわち、仮に、炭化ケイ素が臭化水素と反応した場合には、炭化ケイ素の炭素成分はハロゲン化シランに相当するブロモカーバイド(CHBr,CBr等)を生成すると考えられることから、このブロモカーバイドの生成が起きていないことを次に示す赤外吸収スペクトル分析を行い確認した。
【0041】
試験例6で得られたブロモシラン溶液を、特に精製操作等を行わずに反応終了後すぐに加水分解を行い、二酸化ケイ素(SiO)を主成分とする白色粉末を得た。この白色粉末を、吸引濾過後に真空乾燥を1日行い、KBrペレットによる赤外吸収スペクトル法により分析した。反応前後の石英反応管内に充填した炭化ケイ素含有廃シリコン処理物と二酸化ケイ素(SiO)を主成分とする白色粉末の赤外吸収スペクトルの結果を図6に示す。
【0042】
図6から明らかなように、反応前後の石英反応管内に充填した炭化ケイ素含有廃シリコン処理物と二酸化ケイ素(SiO)を主成分とする白色粉末の赤外吸収スペクトルの結果からは、ブロモカーバイドに由来する鋭いピーク(3020,1143,671,666cm-1)は観測されず、廃シリコン処理物の表面酸化物層(SiO)と白色粉末(SiO)に由来するブロードなピーク(1100,460cm-1)が観測された。このことは、炭化ケイ素が臭化水素と反応しないことを示す。また、ダイヤモンド砥粒を用いた試験例においても同様の結果を得た。
【0043】
さらに、凝集されたブロモシラン溶液内に炭化ケイ素が混入していないか確認するために、次のX線分析を行った。試験例6で得られたブロモシラン溶液を、特に精製操作等を行わずに反応終了後すぐに加水分解を行い、二酸化ケイ素(SiO)を主成分とする白色粉末を得た。この白色粉末を、吸引濾過後に真空乾燥を1日行い、粉末X線回折により分析した。反応前の石英反応管内に充填した炭化ケイ素含有廃シリコン処理物の粉末X線回折結果を図7に示し、二酸化ケイ素(SiO)を主成分とする白色粉末の結果を図8に示す。
【0044】
図7及び図8から明らかなように、炭化ケイ素含有廃シリコン処理物に臭化水素を反応させ、ブロモシランとして凝集回収した後、加水分解した白色粉末からは、炭化ケイ素に由来する回折パターン(34.0,35.3,37.8,41.3,45.2,59.8°)は観測されず、その代わりにSiOに由来する回折パターン(22.9°)のみが観測された。このことは、凝集回収されたブロモシラン溶液に炭化ケイ素が混入しないことを示す。また、ダイヤモンド砥粒を用いた試験例においても同様の結果を得た。
【0045】
これらのことから、炭化ケイ素砥粒及びダイヤモンド砥粒は臭化水素(HBr)とは反応せず、また得られるブロモシランにこれらの砥粒が混入することなく炭素不純物によるシリコン純度低下を引き起こすことなく、シリコンと臭化水素の反応を促進する効果があることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は、シリコンウェハ製造用シリコンインゴットを切削する際に発生する廃シリコンスラリーからシリコンを回収する方法を提供するものであり、産業上の有用性は高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコンに対して35質量%以上の炭化ケイ素又はシリコンに対して0.5質量%以上のダイヤモンドの存在下で、シリコン及びハロゲン化水素を反応させることを特徴とするハロシランの製造方法。
【請求項2】
ハロゲン化水素として臭化水素を用い、ブロモシランを製造することを特徴とする請求項1記載のハロシランの製造方法。
【請求項3】
炭化ケイ素をシリコンに対して35〜1000質量%存在させることを特徴とする請求項1又は2記載のハロシランの製造方法。
【請求項4】
ダイヤモンドをシリコンに対して0.5〜1000質量%存在させることを特徴とする請求項1又は2記載のハロシランの製造方法。
【請求項5】
シリコン供給源として、シリコンウェハ製造用シリコンインゴットの切削時に発生する廃シリコンスラリーを処理した廃シリコン処理物を用いることを特徴とする請求項1〜4のいずれか記載のハロシランの製造方法。
【請求項6】
廃シリコン処理物が、砥粒として炭化ケイ素又はダイヤモンドを用いた砥粒方式による切削時に発生する砥粒含有廃シリコンスラリーを処理したものであることを特徴とする請求項5記載のハロシランの製造方法。
【請求項7】
廃シリコンスラリーの処理が、炭化ケイ素又はダイヤモンドを主成分とする固形分を分離する処理を含まないことを特徴とする請求項6記載のハロシランの製造方法。
【請求項8】
廃シリコンスラリーの処理が、炭化ケイ素又はダイヤモンドを実質的に除去する処理を含まないことを特徴とする請求項6又は7記載のハロシランの製造方法。
【請求項9】
廃シリコンスラリーの処理が、廃シリコンスラリーを固形スラッジとする処理と、該固形スラッジからクーラントを除去する処理とを含むことを特徴とする請求項5〜8のいずれか記載のハロシランの製造方法。
【請求項10】
固形スラッジとする処理が、遠心分離又は凝集剤を用いた処理であることを特徴とする請求項9記載のハロシランの製造方法。
【請求項11】
シリコン及びハロゲン化水素の反応終了後に炭化ケイ素又はダイヤモンドの回収を行うことを特徴とする請求項5〜10のいずれか記載のハロシランの製造方法。
【請求項12】
シリコンウェハ製造用シリコンインゴットを砥粒として炭化ケイ素又はダイヤモンドを用いた砥粒方式により切削する際に発生する砥粒含有廃シリコンスラリーを処理した廃シリコン処理物とハロゲン化水素とを反応させてハロシランを製造する方法であって、
前記砥粒含有廃シリコンスラリーの処理が、炭化ケイ素又はダイヤモンドを主成分とする固形分を分離する処理を含まないことを特徴とするハロシランの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2013−103872(P2013−103872A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−250812(P2011−250812)
【出願日】平成23年11月16日(2011.11.16)
【出願人】(304020177)国立大学法人山口大学 (579)
【Fターム(参考)】