説明

廃棄物溶融処理方法

【課題】ガス化溶融炉において、木材チップを前処理することなく廃棄物と共に炉内に投入してコークスの使用量削減を可能とする。
【解決手段】シャフト炉式廃棄物溶融炉1に廃棄物をコークス、石灰石とともに装入し、炉底部送風口3から酸素もしくは酸素富化空気を吹き込んで、廃棄物を乾燥、熱分解、燃焼、溶融する廃棄物溶融処理方法において、木材チップを廃棄物に混合して炉内に装入し、木材チップを炭化させてコークスベット4の上に炭化物粒子層を形成してコークスと固定炭素量で等価に代替する。木材チップの水分含有量を投入するごみ総量の2.5質量%以下、木材チップ寸法の最大部を100mm以下とし、炭化物粒子層の厚みが40mm〜80mmとなるように形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シャフト炉式ガス化溶融炉による廃棄物溶融処理方法において、木材チップを投入してコークス使用量を削減する廃棄物溶融処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シャフト炉式ガス化溶融炉(以下「ガス化溶融炉」という。)では、一般廃棄物、産業廃棄物、焼却灰、掘り起こした埋立ごみあるいは汚泥等の各種廃棄物が溶融処理される。ガス化溶融炉では、廃棄物が炉内にコークス等の副原料とともに投入され、ガス化溶融炉内の乾燥・予熱帯、熱分解帯、燃焼・溶融帯を下降する過程で乾燥、予熱、熱分解、燃焼、溶融されてスラグやメタルとして排出される。
【0003】
図4に示す一般的なガス化溶融炉の炉本体1は、シャフト部1aと下部の朝顔部5とを備え、朝顔部5の下端には燃焼・溶融帯用の下段羽口3を設けると共に、その上方には熱分解帯用の上段羽口2を設けている。下段羽口3からは酸素又は酸素富化空気を供給し、上段羽口2からは燃焼ガスとして空気を供給する。
【0004】
炉本体1の上部から廃棄物、助燃剤としてコークス、塩基度調整剤として石灰石等が炉内に装入される。この装入のために炉本体1の上部にはシール弁を備えた装入装置9が設けられ、また、炉本体1の下端部には廃棄物を溶融処理した後のスラグやメタルの出湯口11が設けられている。
【0005】
上記構成において、炉内に装入された廃棄物1bは、炉本体1の上層から乾燥・予熱帯6、熱分解帯7、燃焼・溶融帯8を下降する。下段羽口3から供給した酸素又は酸素富化空気によってコークスの火格子であるコークスベッド4や熱分解残渣12を高温で燃焼して、これが溶融熱源となる。一方、上段羽口2からは空気を供給して主に廃棄物の熱分解残渣12を燃焼し、発生したガスで廃棄物の乾燥・予熱及び熱分解を行う。溶融した廃棄物はスラグやメタルの溶融物となって出湯口11より排出される。
【0006】
ガス化溶融炉内で発生する高温の熱分解ガスは、炉本体1上部のガス管10から可燃ガスとして燃焼室へ導入されて燃焼され、その燃焼排ガスは、排ガス管を通ってボイラへ導入され、廃熱が回収された後、減温塔で温度を調整して集じん機に通し、さらには、触媒反応塔で公害物質を除去した後、煙突から排出される。
【0007】
ガス化溶融炉では、化石燃料に由来するコークスにより炉底部にコークスベッドを形成して溶融熱源として用いるが、地球温暖化防止の観点から石炭などの化石燃料に由来するCO削減のため、ガス化溶融炉においてもコークスの使用量を削減する技術が提案されている。
【0008】
例えば、特許文献1には、廃棄物の溶融処理に使用されている化石燃料であるコークスの代替としてバイオマスを利用して、コークス使用量の削減をするとともに、環境に対するCO負荷を削減する廃棄物溶融処理方法が開示されている。この処理方法は、加圧成形されたバイオマス固形物を炉上部から廃棄物と共に投入し、炉底部送風羽口から送風する酸素もしくは酸素富化空気で廃棄物と共に還元燃焼することによって発生した無酸素の燃焼ガスで、バイオマス固形物をシャフト炉内で乾燥、乾留することによって炭化物化させてシャフト炉下部で炭火物層を形成して燃焼を行い、溶融用熱源とするものである。この方法により、コークス消費量が抑制できるので化石燃料起源のCO発生を抑制できるというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平2005−274122号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、前記特許文献1の技術では、粉状の木材等のバイオマスにバインダーを混ぜ、加圧成形して固めたバイオマス固形物が必要である。そのため、バイオマスの加圧成形のために新たな設備が必要となり、バイオマスの前処理に手間がかかるとともに、処理コストも増加するという問題がある。
【0011】
そこで、本発明は、ガス化溶融炉において、木材チップを前処理することなく廃棄物と共に炉内に投入してコークスの使用量削減を可能とする廃棄物溶融処理方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の廃棄物溶融処理方法は、シャフト炉式廃棄物溶融炉に廃棄物をコークス、石灰石とともに装入し、炉底部送風口から酸素もしくは酸素富化空気を吹き込んで、廃棄物を乾燥、熱分解、燃焼、溶融する廃棄物溶融処理方法において、木材チップを廃棄物に混合して炉内に装入し、木材チップを炭化させてコークスベットの上に炭化物粒子層を形成してコークスと固定炭素量で等価に代替することを特徴とする。
【0013】
前記構成において、木材チップの水分含有量を投入するごみ総量の2.5質量%以下とし、木材チップ寸法の最大部を100mm以下とし、木材チップを廃棄物に対して30質量%以下の割合で混合することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
廃棄物と共に木材チップをガス化溶融炉内に単に投入しても、木材チップの性状のばらつきにより、充分なコークス削減効果が得られない状況が見られたが、本発明では、完全に炭化した木材チップ炭化物を生成することにより、コークスのみの運転時と同等の溶融スラグ温度を確保して、コークスを木材チップの固定炭素量で等価の割合で削減することができる。
【0015】
木材チップ水分含有率を25%以下、廃棄物との混合率を10〜30%とすることで、ガス化溶融炉内を下降していく過程での木材チップの水分蒸発時間が短くなり、炉下部到達までに木材チップが速やかに昇温され、完全に炭化した木材チップ炭化物を生成可能となった。
【0016】
加えて、木材チップ寸法の最長部を100mm以下とすることで、木材チップ内部まで充分に加熱・昇温され、チップ内部まで完全に炭化された木材チップ炭化物を生成可能となった。このように、本発明は、適正な性状の木材チップを廃棄物と適正割合で混合して投入することで、完全に炭化された木材チップ炭化物の生成が可能となり、コークスを木材チップの固定炭素量で等価の割合で削減することができる。
【0017】
また、完全に炭化された炭化物が炉内を降下し、ガス化溶融炉下部にて形成される炭化物粒子層が通気抵抗層として機能するため、炉内ガスが充填物層を吹き抜ける現象抑制効果も確実に得られる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】ガス化溶融炉に炭化物粒子層が形成された状態を示す模式図である。
【図2】木材チップ中水分と溶融スラグ温度の関係を示すグラフである。
【図3】木材チップと炭化物粒子層との関係を示すグラフである。
【図4】従来のガス化溶融炉の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1に示すガス化溶融炉は、図4に示した従来のガス化溶融炉と実質的に同一であり、同一構成には同一符号を付して、その説明は省略する。本発明による廃棄物溶融処理方法は、図4に示す従来の廃棄物溶融処理方法と比較すると、本発明は適正な性状の木材チップを廃棄物と適正割合で混合して投入する点で従来の廃棄物溶融処理方法と異なるが、その他は実質的に変わるところはない。
【0020】
ガス化溶融炉で廃棄物を処理する場合、所定量のコークス、石灰石の副原料と共に炉内に投入された廃棄物と木材チップは、炉内を降下するに従い、対向して流れる高温ガスにより乾燥、熱分解される。廃棄物の乾燥、熱分解のための熱源は、上段羽口2から吹き込まれた空気による廃棄物の燃焼熱と、下段羽口3から吹き込まれた空気又は酸素富化空気によるコークスの燃焼熱が使われる。
【0021】
廃棄物や木材チップが熱分解・ガス化することによる乾留残渣は、灰分や不燃成分とともにコークスベッド4の上面に堆積して炭化物粒子層13を形成する。通気抵抗層として機能する炭化物粒子層13は、下段羽口3から吹き込まれるガスや乾留ガスなどの炉内ガスが局所的に吹き抜けることを妨げ、ガスの流れを整流化する。
【0022】
コークス及び可燃性乾留残渣の燃焼ガスは炉下部に形成されるコークスベッド4の上端で最高温度となり、この領域で灰分が溶融され、溶融物は火格子を形成するコークスベッド4の空隙を滴下する。滴下した溶融物は炉底部の液溜まりに一時的に貯留され、出湯口11を開放することで間欠的に排出される。
【0023】
本発明において、ガス化溶融炉で処理する廃棄物は、一般廃棄物、産業廃棄物、掘り起こしごみ、焼却灰、汚泥などの単体又は混合物など従来から溶融処理されている廃棄物である。
【0024】
木材チップは、特に限定されるものではなく、チップの製造メーカにおいて、カッティングされた切削チップ、破砕され棒状になった破砕チップ、あるいはチップを生産した際の副産物としてできる1mm程度のオガコも利用できる。木材チップは、最大部寸法100mm以下が好ましい。
【0025】
表1は各種炭化物の固定炭素濃度を示し、運転実績サンプルは最大部寸法100mm以下の木材チップを廃棄物との混合率10質量%(以下「%」は「質量%」である。)で運転を実施した例である。
【0026】
【表1】

【0027】
表1において、木材チップ炭化物の運転実績サンプル及び乾留試験サンプルの固定炭素は77〜84質量%であり、コークスとほぼ同等の固定炭素濃度となっており、木材チップの最大部の寸法が100mm以下であれば完全に炭化でき、コークスと同等の熱源機能を代替できると考えられる。
【0028】
【表2】

【0029】
表2は、コークスのみの運転実績であるコークス固定炭素3.4%運転時と同等の溶融スラグ温度(1350℃以上)を確保できる木材チップの条件について検討した結果を示すものである。
【0030】
表2の安定運転実績限界(ベース条件)に示すように、コークス固定炭素を2%(投入量2.5%×固定炭素量割合(0.808)=2%)とし、木材チップ混合率10%とした試験条件において、木材チップ含水率を10%、20%、25%に変化させて、溶融スラグ温度を確認した。
【0031】
その結果、木材チップ含水率が25%で、木材チップの固定炭素量が1.4%(木材チップ中固定炭素13.6%×投入量割合0.1=1.4%)の時に、コークス固定炭素3.4%運転時と同等の溶融スラグ温度を確保できた。
【0032】
このことから、木材チップの固定炭素1.4%は(3.4%−コークス固定量2%=木材チップの固定炭素量1.4%=コークスの固定炭素1.4%)より、コークスの固定炭素1.4%と同量で代替できたことになるので、木材チップとコークスとは、固定炭素を等量で置換できることが分かった。
【0033】
木材チップ混合率10質量%(100mm以下のサイズ)での運転を実施して木材チップ中水分と溶融スラグ温度の関係を求めた図2において、木材チップ中の水分は、チップ性状が変化して水分が25質量%超えると溶融スラグ管理温度を下回り、安定運転に支障が出る状況が見られており、木材チップを完全に炭化して熱源代替効果を得るには、水分25質量%以下を維持することが必要である。これは、木材チップ混合率10%での値なので、木材チップ中の水分量は25%×10%=投入するごみ総量の2.5%まで含有しても問題ないことが分かる。
【0034】
木材チップは、図3に示すように、木材チップの投入量を、投入する廃棄物に対して30質量%以下の混合率にすることが好ましい。但し、廃棄物自体に乾留残渣を生成する成分が含まれている場合、廃棄物の種類(特に、廃棄物に含まれる固定炭素の量)に応じて、炭化物粒子層の層厚が変動する場合がある。従って、図3に一例を示すように、廃棄物の種類等に基づく層厚の変動幅を考慮し、投入する廃棄物に対して10〜30質量%の混合率とすることが好ましい。図3は、木材チップの投入量に対応付けて、固定炭素量が多い廃棄物の場合と、固定炭素量が少ない廃棄物の場合の炭化物粒子層の厚み(固定炭素量ベース)を例示したものであり、実際に試験を行って確認した結果の一例である。この結果から示されるように、木材チップを投入しない場合においても、廃棄物の種類等によって層厚25〜40mmに相当する乾留残渣量の生成変動があるので、この生成変動を考慮した木材チップ投入量の適正範囲は10〜30質量%である。
【0035】
炭化物粒子層13は、図1の模式図に示されているように、炉下部に形成されるコークスベッド4の上面に形成されることが好ましい。コークスベッド4には酸素あるいは酸素富化空気が吹き込まれるので、炭化物粒子層13は下段羽口3よりも上方に位置するように形成される。
【0036】
コークスベッドの上に形成される炭化物粒子層13は、炭化した木材チップの乾留残渣は微細で空隙が少ない炭化物粒子層であるため、炉内ガスが通過する際に通気抵抗層として機能することとなる。
【0037】
可燃性である炭化物粒子層13は、このコークスベッド4によって層下部側から順次燃焼される。本実施形態において、炭化物粒子層13が炉内ガスの通気抵抗層として効果的に機能するには、層厚が40〜80mmであることが好ましい。図2に示すように、層厚が40mmよりも小さい場合には、炉内ガスの吹き抜け現象を充分に抑えることができない。反対に、層厚が80mmよりも大きい場合には、充填物層の圧力損失が増大し、羽口からの送風が困難となる。
【0038】
以上のように、本発明の廃棄物溶融処理方法によれば、廃棄物及びコークスなどの副原料とともに、木材チップを廃棄物に混合して投入し、炉内に形成される充填物層中に炭化物粒子層を形成することにより、この炭化物粒子層が通気抵抗層として機能し、炉内ガスの流れが整流化されることにより、炉内ガスと廃棄物との接触がより均一化され、熱交換効率が向上する。その結果、熱源であるコークスを過剰に投入しなくとも、廃棄物の熱分解残渣の持つ熱量と少量のコークスの熱量によって完全溶融を達成することが可能となる。すなわち、炭化物粒子層によるガスの整流化によって熱交換効率が向上するため、灰分等の溶融以外の廃棄物の乾燥や乾留のために使用されていたコークスの使用量を低減することが可能である。
【0039】
また、炭化物粒子層の形成により炉内ガスの流れが整流化されるので、炉内ガスの吹き抜け現象の発生を抑制することが可能となる。すなわち、従来において発生する吹き抜け現象は、廃棄物の乾燥・乾留が効率的に行われない結果として発生すると考えるが、これに対し、本発明では、所定の水分含有率以下の木材チップを廃棄物に所定量混合投入して炭化物粒子層6を形成してガスを整流化することにより、廃棄物の乾燥・乾留が効率的に行われ、その結果、吹き抜け現象の発生を抑制することも可能となる。
【符号の説明】
【0040】
1:炉本体
1a:シャフト部
1b:廃棄物
2:上段羽口
3:下段羽口
4:コークスベッド
5:朝顔部
6:乾燥・予熱帯
7:熱分解帯
8:燃焼・溶融帯
9:装入装置
10:ガス管
11:出湯口
12:熱分解残渣
13:炭化物粒子層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シャフト炉式廃棄物溶融炉に廃棄物をコークス、石灰石とともに装入し、炉底部送風口から酸素もしくは酸素富化空気を吹き込んで、廃棄物を乾燥、熱分解、燃焼、溶融する廃棄物溶融処理方法において、
木材チップを廃棄物に混合して炉内に装入し、木材チップを炭化させてコークスベットの上に炭化物粒子層を形成してコークスと固定炭素量で等価に代替することを特徴とする廃棄物溶融処理方法。
【請求項2】
木材チップの水分含有量を投入するごみ総量の2.5質量%以下とすることを特徴とする請求項1記載の廃棄物溶融処理方法。
【請求項3】
木材チップ寸法の最大部を100mm以下とすることを特徴とする請求項1又は2に記載の廃棄物溶融処理方法。
【請求項4】
木材チップを廃棄物に対して30質量%以下の割合で混合することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の廃棄物溶融処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−145291(P2012−145291A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−4990(P2011−4990)
【出願日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【出願人】(306022513)新日鉄エンジニアリング株式会社 (897)
【出願人】(506000128)日鉄環境プラントソリューションズ株式会社 (11)
【Fターム(参考)】