説明

廃水からの窒素の回収方法及び回収装置

【課題】エネルギー効率の高いやり方で廃水中から窒素を除去するとともに、除去した窒素を再利用が容易な物質に変換して回収することによって、環境保全と、省エネルギーと、資源リサイクルとを一挙に実現することができる技術を開発する。
【解決手段】本発明は廃水からの窒素の回収方法を提供する。本発明の廃水からの窒素の回収方法は、(1)窒素を含む廃水中でシアノフィシン生産菌を培養するステップと、(2)培養後のシアノフィシン生産菌からシアノフィシンを回収するステップとを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シアノフィシン生産菌を利用する廃水からの窒素の回収方法及び回収装置に関する。
【背景技術】
【0002】
廃水処理技術において、廃水からの窒素除去は廃水の富栄養化を阻止するために重要な課題である。従来技術では、活性汚泥等のような複合微生物系を利用してアンモニア態窒素を硝酸態窒素に変換し最終的には窒素ガスとして大気中に放出する。しかし、アンモニア態窒素を硝酸態窒素に変換する際には酸素を供給する必要があり、多大なエネルギーを必要とする。また、最終的に窒素は大気中に放出されてしまうため、資源循環の観点からも効率が悪い。
【非特許文献1】環境と微生物―環境浄化と微生物生存のメカニズム、中村 和憲 著、産業図書、東京、1998年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
エネルギー効率の高いやり方で廃水中から窒素を除去するとともに、除去した窒素を再利用が容易な物質に変換して回収することによって、環境保全と、省エネルギーと、資源リサイクルとを一挙に実現することができる技術を開発することが本発明の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、廃水からの窒素の回収方法を提供する。本発明の廃水からの窒素の回収方法は、(1)窒素を含む廃水中でシアノフィシン生産菌を培養するステップと、(2)培養後のシアノフィシン生産菌からシアノフィシンを回収するステップとを含む。
【0005】
本発明の廃水からの窒素の回収方法において、前記シアノフィシン生産菌は自然界でシアノフィシンを生産する能力を有する微生物の場合がある。
【0006】
本発明の廃水からの窒素の回収方法において、前記シアノフィシン生産菌は、
(a)配列番号1のアミノ酸配列からなるサーモシネココッカス・エロンガタスBP−1(Thermosynechococcus elongatus BP-1)由来のシアノフィシン合成酵素と、
(b)配列番号1のアミノ酸配列に1個若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、シアノフィシン合成酵素活性を有するタンパク質と、
(c)配列番号1のアミノ酸配列と80%以上の相同性を示すアミノ酸配列からなり、かつ、シアノフィシン合成酵素活性を有するタンパク質と、
(d)配列番号2のヌクレオチド配列と80%以上の相同性を示すヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドによってエンコードされるアミノ酸配列からなり、かつ、シアノフィシン合成酵素活性を有するタンパク質と、
(e)配列番号2のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによってエンコードされるアミノ酸配列からなり、かつ、シアノフィシン合成酵素活性を有するタンパク質と、
(f)特異的結合タグペプチドが前記(a)ないし(e)のいずれかのタンパク質に連結した融合タンパク質とからなるグループから選択されるタンパク質とを含む微生物の場合がある。
【0007】
本発明は、本発明の廃水からの窒素の回収方法を実行する、廃水からの窒素の回収装置を提供する。
【0008】
本発明は、廃水からの窒素の除去方法を提供する。本発明の廃水からの窒素の除去方法は、(1)窒素を含む廃水中でシアノフィシン生産菌を培養するステップと、(2)培養後のシアノフィシン生産菌からシアノフィシンを回収するステップとを含む。
【0009】
本発明の廃水からの窒素の回収方法の実施により、シアノフィシンが生産される。シアノフィシンは、シアノバクテリアが菌体内に合成及び蓄積するポリペプチド(分子量:25〜100kDa)である。シアノフィシンは、L−アスパラギン酸がα−ペプチド結合をした骨格に、L−アルギニンがL−アスパラギン酸のβ−カルボキシル基においてペプチド結合した構造を有する。シアノバクテリアの菌体内でのシアノフィシン合成では、L−アスパラギン酸同士のペプチド重合反応と、L−アスパラギン酸のβ−カルボキシル基へのL−アルギニンのペプチド結合反応とが、単一のシアノフィシン合成酵素分子(EC6.3.2.29及びEC6.3.2.30)により触媒される。したがって、シアノフィシンは、前記シアノフィシン合成酵素が存在しさえすれば無細胞系であっても合成することができる場合がある。
【0010】
シアノフィシンはアスパラギン酸の骨格を有するため、精製後にアルギニンを化学的に脱離することによりポリアスパラギン酸を得ることができる。ポリアスパラギンは、生分解性を有することから、ポリアクリル酸の代替化合物としての利用や、医薬分野での利用が見込まれる有用な高分子化合物である(Annu.Rev.Biochem.74,433−480(2005))。シアノフィシンは、窒素含量が非常に高く、一般のタンパク質のように容易に分解されるものではない。また、シアノフィシンは、微生物の菌体内に蓄積されるために、回収も比較的容易である。そのためシアノフィシンを回収することにより、効率的に窒素を回収することができるので、窒素回収という点で特に優位である。
【0011】
本明細書において「廃水」とは、本発明のシアノフィシン生産菌が生育することが可能で、かつ、除去されるべき窒素を含む溶液をいう。前記廃水は、生活廃水及び工業廃水のように人間の活動により生じた窒素を含む環境と、人間の活動によらずに自然界で生じた生物又は無生物由来の窒素を含む環境とを含むがこれらに限定されない。また前記窒素を含む環境は、例えば屋外の貯水槽内に貯められた廃水のような開放系の環境、例えば屋内にて温度等を制御される培養槽内に充填された廃水のような準閉鎖系の環境を含む。前記除去されるべき窒素は、シアノフィシン生産菌が生育に利用可能なものであれば有機態窒素でもよく、アンモニア態窒素又は硝酸態窒素のような無機態窒素でもよい。前記窒素を含む環境は前記窒素源の他に、シアノフィシン生産菌の生育を促進するためのマグネシウム等のミネラル成分、炭素源等を含む場合がある。
【0012】
本明細書において「シアノフィシン生産菌」とは、生育に伴いシアノフィシンを合成し体内に蓄積する菌である。前記シアノフィシン生産菌は、シアノバクテリア(藍藻類)のような自然界でシアノフィシンを生産する能力を有する微生物の場合がある。また前記シアノフィシン生産菌は、自然界ではシアノフィシンを生産する能力を有さない宿主微生物に外来シアノフィシン合成酵素の遺伝子を発現させた遺伝子組換え生物の場合がある。前記宿主微生物は、大腸菌、枯草菌、酵母等を含むがこれらに限られない。前記シアノフィシン合成酵素は、サーモシネココッカス・エロンガタスBP−1(Thermosynechococcus elongatus BP-1)由来のシアノフィシン合成酵素の場合があるが、他のいかなる生物種由来のシアノフィシン合成酵素であってもかまわない。
【0013】
前記シアノバクテリアは、2008年1月26日に出願された「シアノフィシンの製造方法」という名称の特許出願(特願2008−015690、発明者:木野邦器、新井利信、出願人:学校法人早稲田大学)においても説明されるサーモシネココッカス・エロンガタスBP−1(Thermosynechococcus elongatus BP-1)の場合がある。サーモシネココッカス・エロンガタスBP−1は好熱性シアノバクテリアの一種である。本菌株の全ゲノムの塩基配列はGenBankのデータベースにアクセッション番号BA000039として登録されている。本菌株のゲノムはかずさDNA研究所より分譲を受けることができる。本菌株の培養は、当業者に周知のいかなる培養条件をもちいてもかまわないが、例えば、0.15g/LのMgSO4・7H2O、0.25g/LのKH2PO4、0.50g/Lのトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、0.50g/LのNaNO3、0.50g/LのKNO3、0.06g/LのCaCl2、0.034g/LのH3BO3、0.03g/Lのエチレンジアミン四酢酸三ナトリウム、0.022g/Lの(NH4)6Mo724・4H2O、0.004g/LのFeCl3・6H2O、0.004g/LのMnCl2・4H2O、0.00066g/LのZnSO4・7H2O、15μg/LのCo(NO32・6H2O及び4.7μg/LのCuSO4・5H2Oからなる組成でpH7.5に調整された液体培地を用いることができる。
【0014】
好ましくは本発明のシアノフィシン生産菌は、サーモシネココッカス・エロンガタスBP−1由来のシアノフィシン合成酵素を含む微生物である。前記サーモシネココッカス・エロンガタスBP−1由来のシアノフィシン合成酵素は、タンパク質データベースSwiss−Protにアクセッション番号Q9F2I7として登録されている。前記サーモシネココッカス・エロンガタスBP−1由来のシアノフィシン合成酵素のアミノ酸配列を配列番号1に示す。前記シアノフィシン合成酵素をエンコードする遺伝子のコーディング領域のヌクレオチド配列を配列番号2に示す。
【0015】
本明細書において「タンパク質」、「ペプチド」、「オリゴペプチド」又は「ポリペプチド」とは、2個以上のアミノ酸がペプチド結合で連結した化合物である。「タンパク質」、「ペプチド」、「オリゴペプチド」又は「ポリペプチド」は、メチル基を含むアルキル基、リン酸基、糖鎖、及び/又は、エステル結合その他の共有結合による修飾を含む場合がある。また、「タンパク質」、「ペプチド」、「オリゴペプチド」又は「ポリペプチド」は、金属イオン、補酵素、アロステリックリガンドその他の原子、イオン、原子団か、他の「タンパク質」、「ペプチド」、「オリゴペプチド」又は「ポリペプチド」か、糖、脂質、核酸等の生体高分子か、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリビニル、ポリエステルその他の合成高分子かを共有結合又は非共有結合により結合又は会合している場合がある。
【0016】
本明細書においてヌクレオチド配列の相同性は、本発明のヌクレオチド配列と、比較対象のヌクレオチド配列との間でヌクレオチド配列が一致する部分が最も多くなるように整列させて、ヌクレオチド配列が一致する部分のヌクレオチドの数を本発明のヌクレオチド配列のヌクレオチドの総数で割った商の百分率で表される。同様に、本明細書においてアミノ酸配列の相同性は、本発明のアミノ酸配列と、比較対象のアミノ酸配列との間で配列が一致するアミノ酸残基の数が最も多くなるように整列させて、配列が一致するアミノ酸残基の数の合計を本発明のアミノ酸配列のアミノ酸残基の総数で割った商の百分率で表される。本発明のヌクレオチド配列及びアミノ酸配列の相同性は、当業者に周知の配列整列プログラムCLUSTALWを使用することにより算出することができる。
【0017】
本明細書において「ストリンジェントな条件」とは、Sambrook、J.及びRussell、D.W.、Molecular Cloning A Laboratory Manual 3rd Edition,Cold Spring Harbor Laboratory Press(2001)に説明されるサザンブロット法で以下の実験条件で行うことを指す。比較対象のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドをアガロース電気泳動によりバンドを形成させた上で毛管現象又は電気泳動によりニトロセルロースフィルターその他の固相に不動化する。6× SSC及び0.2% SDSからなる溶液で前洗浄する。本発明のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドを放射性同位元素その他の標識物質で標識したプローブと前記固相に不動化された比較対象のポリヌクレオチドとの間のハイブリダイゼーション反応を6× SSC及び0.2% SDSからなる溶液中で65°C、終夜行う。その後前記固相を1× SSC及び0.1% SDSからなる溶液中で65°C、各30分ずつ2回洗浄し、0.2× SSC及び0.1% SDSからなる溶液中で65°C、各30分ずつ2回洗浄する。最後に前記固相に残存するプローブの量を前記標識物質の定量により決定する。本明細書において「ストリンジェントな条件」でハイブリダイゼーションをするとは、比較対象のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドを不動化した固相に残存するプローブの量が、本発明のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドを不動化した陽性対照実験の固相に残存するプローブの量の少なくとも25%、好ましくは少なくとも50%、より好ましくは少なくとも75%以上であることを指す。
【0018】
本発明の融合タンパク質は、特異的結合タグペプチドが前記(a)ないし(e)のいずれかのタンパク質のアミノ末端又はカルボキシル末端に連結したものである。
【0019】
本発明の特異的結合タグペプチドは、前記(a)ないし(e)のいずれかのタンパク質を調製する際に、発現したタンパク質の検出、分離又は精製をより容易に行うことを可能にするために、他のタンパク質、多糖類、糖脂質、核酸及びこれらの誘導体、樹脂等と特異的に結合するポリペプチドである。特異的結合タグと結合するリガンドは、水溶液中に溶解した遊離状態の場合も固体支持体に不動化される場合もある。そこで、本発明の融合タンパク質は固体支持体に不動化されたリガンドに特異的に結合するため、発現系の他の成分を洗浄除去することができる。その後、遊離状態のリガンドを添加したり、pH、イオン強度その他の条件を変えることにより、固体支持体から前記融合タンパク質を分離して回収することができる。本発明の特異的結合タグは、Hisタグ、mycタグ、HAタグ、インテインタグ、MBP、GSTその他これらに類するポリペプチドが含まれるが、これらに限定されない。本発明の特異的結合タグは、融合タンパク質がシアノフィシン合成酵素活性を保持することを条件としていかなるアミノ酸配列を有してもかまわない。
【0020】
前記シアノフィシン生産菌は、本発明の窒素の回収方法及び除去方法のステップ(1)の培養の前培養液として提供される場合があり、また、凍結乾燥粉末菌体として提供される場合もある。また、前記シアノフィシン生産菌は、ポリエチレングリコール等の高分子に包括固定された状態、ウレタンスポンジ、ポリエステル不織布等のような固定化用担体に吸着固定された状態等で提供される場合もある。
【0021】
本発明の窒素の回収方法及び除去方法のステップ(1)は、前記窒素を含む環境中に前記シアノフィシン生産菌を添加及び混合し培養液を調製するステップと、前記培養液をインキュベーションするステップとを含む。前記インキュベーション条件は、20°C〜45℃、好ましくは25°C〜40°C、より好ましくは30°C〜40°Cのインキュベーション温度と、20時間〜60時間、好ましくは30時間〜50時間のインキュベーション時間とのような条件を含む。前記インキュベーション条件は当業者による試験により容易に最適化される場合がある。
【0022】
本発明の窒素の回収方法及び除去方法のステップ(2)は、培養後のシアノフィシン生産菌を培養液から回収するステップと、該シアノフィシン生産菌菌体からシアノフィシンを回収するステップとを含む。前記シアノフィシン生産菌を培養液から回収するステップは、酸性条件下でのアップフロー式分離、フィルタープレスによる固液分離、連続遠心分離等の当業者に周知の操作により実施される場合がある。前記シアノフィシン生産菌菌体からシアノフィシンを回収するステップは、菌体破砕処理、酸抽出処理等の当業者に周知の操作により実施される場合がある。回収されたシアノフィシンは、HPLC、HPLC/MS等の当業者に周知の分析技術を使用してその生産量及び純度が評価される場合がある。
【0023】
本発明は、廃水からの窒素の回収装置を提供する。本発明の廃水からの窒素の回収装置は、本発明の廃水からの窒素の回収方法を実施する。本発明の廃水からの窒素の回収装置は、シアノフィシン生産菌を培養するための培養槽と、該培養槽に、窒素を含む廃水とシアノフィシン生産菌とを供給するための供給ユニットと、前記培養槽から培養液を排出するための排出ユニットと、温度調節のための加熱冷却ユニットと、培養液を撹拌するための撹拌ユニットと、菌体からシアノフィシンを回収するための菌体回収ユニットと、シアノフィシン精製ユニットと、これらの制御のための制御ユニットとを含む場合がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明の実施態様は以下の実施例によって説明されるが、本発明の特許請求の範囲は以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0025】
1.シアノフィシン合成酵素を発現した形質転換体の取得
1−1.方法
(目的遺伝子の増幅)
サーモシネココッカス・エロンガタスBP−1由来のシアノフィシン合成酵素の遺伝子をPCRにより増幅した。PCRに使用するセンスプライマーは、配列番号3のヌクレオチド配列からなり、アンチセンスプライマーは、配列番号4のヌクレオチド配列からなる。プライマーの配列は、目的のタンパク質のC末端にHis x6タグが付加されるように設計された。
【0026】
(組換えプラスミドの取得及び導入)
PCR産物及びベクターpET21a(+)を、制限酵素NdeI及びSalIを使用して切断した。前記シアノフィシン合成酵素遺伝子の5’末端側の制限酵素にはNdeI(制限部位:CATATG)を、3’末端側の制限酵素にはSalI(制限部位:GTCGAC)を使用した。次いで切断産物の連結反応を行い、組換えプラスミドを取得した。取得した組換えプラスミドを大腸菌BL21(DE3)株に導入し、組換え大腸菌を得た。
【0027】
(目的遺伝子の発現、及び、菌体の回収)
前記組換え大腸菌について、アンピシリン100μg/mLを添加した3mLのLB培地中で、37°C、160rpmで5時間前培養を行い前培養液を得た。次いでアンピシリン100μg/mLを添加した100mLのLB培地に前記前培養液を添加し、37°C、120rpmで1時間程度培養した後、終濃度0.1mMとなるようにイソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド(IPTG)を添加し、25°C、120rpmで19時間本培養を行った。その後遠心分離により菌体を回収した。
【0028】
1−2.結果
上述のように、シアノフィシン合成酵素をエンコードする遺伝子の増幅、導入及び発現の操作を行うことにより、前記遺伝子を含む組換えプラスミドと、該組換えプラスミドを有しシアノフィシン合成酵素を発現した形質転換体とを作製することができた。
【実施例2】
【0029】
2.シアノフィシン合成酵素を発現した形質転換体の培養
2−1.方法
実施例1で取得されたシアノフィシン合成酵素を発現した形質転換体を、アンピシリン100μg/mLを添加した3mLのLB培地中で、37°C、160rpmで5時間前培養を行い前培養液を得た。次いでアンピシリン100μg/mLを添加した200mLのLB培地に前記前培養液を添加し、37°C、120rpmで1時間程度培養した後、終濃度0.1mMとなるようにイソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド(IPTG)を添加し、25°C、120rpmで19時間本培養を行った。培養後遠心分離により菌体を回収し、100mMのTris−HCl緩衝液(pH8.0)に懸濁した後遠心分離を行って洗菌した。洗菌後の菌体のペレットを−80°Cで凍結させ、凍結乾燥機(EYELAFDU−830、東京理化機械株式会社)を用いて終夜凍結乾燥処理を行い、凍結乾燥菌体を取得した。
【0030】
2−2.結果
LB培地を使用して、シアノフィシン合成酵素を発現した形質転換体を培養し、菌体を回収することができた。LB培地200mLを使用する培養から回収された凍結乾燥菌体重量は282.7mgであった。
【実施例3】
【0031】
3.シアノフィシン合成酵素を発現した形質転換体からのシアノフィシンの回収
3−1.方法
実施例2で回収された凍結乾燥菌体から以下のとおりの手順でシアノフィシンを回収及び精製した。まず、凍結乾燥菌体をアセトン洗浄した。凍結乾燥菌体約10mgに1mLのアセトンを添加し、ボルテックス処理により混合した。15,000rpm、10分間、室温での遠心分離の後、上清を除去し、ペレットを得た。ペレットに1mLのアセトンを添加してさらに1回同様のアセトン洗浄を行った。2回のアセトン洗浄後のペレットを第1溶液(100mM Tris−HCl、pH7.5)で洗浄した。前記ペレットに1mLの第1溶液を添加し、ボルテックス処理により混合して、15,000rpm、10分間、室温での遠心分離によってペレットを回収した。さらに1回同様に第1溶液で洗浄した。その後、前記ペレットからシアノフィシンの酸抽出を行った。前記ペレットに550μLの0.1N HClを添加して、30分間混合してシアノフィシンを溶解させ、残渣を15,000rpm、10分間、室温での遠心分離によって除去し、上清を得た。次に、前記酸抽出したシアノフィシン溶液を中和してシアノフィシンを析出させた。前記上清500μLを新しい試験管に移し、500μlの第2溶液(100mM Tris−HCl、pH12.0)を添加し、シアノフィシンを析出させた。析出したシアノフィシンは15,000rpm、10分間、室温での遠心分離によってペレットとして回収した。得られた精製シアノフィシンを減圧乾燥機により乾燥させて、その重量を測定した。
【0032】
3−2.結果
アセトン洗浄、酸抽出等の精製操作により、培養したシアノフィシン合成酵素を発現した形質転換体の凍結乾燥菌体10mgあたり約2.3mgのシアノフィシンが精製された。これは乾燥菌体重量百分率にして約23%のシアノフィシンが乾燥菌体内に蓄積していたことを意味する。また、200mLのLB培地を使用する培養から回収された乾燥菌体重量は282.7mgであった。シアノフィシンのアミノ酸組成は等モルのアルギニン及びアスパラギン酸残基から構成されることを考えると、シアノフィシンとして回収された窒素は15.5mgと計算される。Difco社のカタログに記載のデータによれば、トリプトン及びイースト抽出物の窒素含量はそれぞれ13.0%及び10.9%である。すると、LB培地200mg中の総窒素量は369mgであるから、培地中に含まれる窒素の約4.2%をシアノフィシンとして回収することができた計算になる(微生物の窒素含量は乾燥菌体重量の約7.5%)。本発明は単に微生物によって窒素を除去するだけでなく、シアノフィシンという窒素含量の高い化合物として窒素を回収する。したがって本発明は、従来の廃水からの脱窒とは考え方もその方法も全く異なる独創的な発明である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)窒素を含む廃水中でシアノフィシン生産菌を培養するステップと、(2)培養後のシアノフィシン生産菌からシアノフィシンを回収するステップとを含むことを特徴とする、廃水からの窒素の回収方法。
【請求項2】
前記シアノフィシン生産菌は自然界でシアノフィシンを生産する能力を有する微生物であることを特徴とする、請求項1に記載の廃水からの窒素の回収方法。
【請求項3】
前記シアノフィシン生産菌は、
(a)配列番号1のアミノ酸配列からなるサーモシネココッカス・エロンガタスBP−1(Thermosynechococcus elongatus BP-1)由来のシアノフィシン合成酵素と、
(b)配列番号1のアミノ酸配列に1個若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、シアノフィシン合成酵素活性を有するタンパク質と、
(c)配列番号1のアミノ酸配列と80%以上の相同性を示すアミノ酸配列からなり、かつ、シアノフィシン合成酵素活性を有するタンパク質と、
(d)配列番号2のヌクレオチド配列と80%以上の相同性を示すヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドによってエンコードされるアミノ酸配列からなり、かつ、シアノフィシン合成酵素活性を有するタンパク質と、
(e)配列番号2のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによってエンコードされるアミノ酸配列からなり、かつ、シアノフィシン合成酵素活性を有するタンパク質と、
(f)特異的結合タグペプチドが前記(a)ないし(e)のいずれかのタンパク質に連結した融合タンパク質とからなるグループから選択されるタンパク質とを含む微生物であることを特徴とする、請求項1に記載の廃水からの窒素の回収方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載の廃水からの窒素の回収方法を実行することを特徴とする、廃水からの窒素の回収装置。
【請求項5】
(1)窒素を含む廃水中でシアノフィシン生産菌を培養するステップと、(2)培養後のシアノフィシン生産菌からシアノフィシンを回収するステップとを含むことを特徴とする、廃水からの窒素の除去方法。

【公開番号】特開2010−4754(P2010−4754A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−164669(P2008−164669)
【出願日】平成20年6月24日(2008.6.24)
【出願人】(899000068)学校法人早稲田大学 (602)
【Fターム(参考)】