説明

廃水の処理方法、処理装置及び廃水処理用微生物剤

【課題】添加剤による経費の問題がなく、効率よく安定的にアンモニアの酸化及び脱窒を実施可能な廃水の処理技術を提供する。
を提供する。
【解決手段】硝化細菌及び脱窒細菌の存在下で廃水に酸素を供給して、硝化細菌によって廃水に含まれるアンモニア態窒素を亜硝酸態窒素に変換する酸化処理と、脱窒細菌によって亜硝酸態窒素及びアンモニア態窒素から窒素ガスへ変換する脱窒処理とを進行させる。硝化細菌の亜硝酸態窒素生成速度が脱窒細菌の処理能力以下となるように廃水への酸素の供給を制御して酸化処理及び脱窒処理が同時に進行し、硝化細菌の処理速度が律速となる。廃水の溶存酸素濃度の測定に基づいて処理の終了を検知する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンモニアを含む廃水の処理方法、処理装置及び廃水処理用微生物剤に関し、特に、アンモニアを含む廃水に微生物を作用させて酸化(硝化)及び脱窒を行う際の、窒素への変換の安定性及び確実性が向上し、効率よく処理を進行可能な廃水の処理方法、処理装置及び廃水処理用微生物剤に関する。
【背景技術】
【0002】
微生物を用いた廃水処理においては、アンモニア態窒素の酸化(硝化)及び酸化態窒素(硝酸、亜硝酸)の脱窒を活性汚泥の細菌によって進行することによって廃水に含まれるアンモニアを窒素ガスに変換することができる。この処理方法は、以下のように分類することができる。
【0003】
A)硝化細菌によってアンモニアを酸化態窒素に変換し、メタノール等の有機物を電子供与体として用いて酸化態窒素を窒素ガスに変換する方法(活性汚泥変法。例えば、下記特許文献1参照)。
【0004】
B)硝化細菌によってアンモニアを酸化態窒素に変換した後、硫黄を酸化して酸化態窒素を還元する細菌群によって酸化態窒素を窒素ガスに変換する方法。
【0005】
C)硝化細菌によってアンモニアを亜硝酸態窒素に酸化する工程と、脱窒細菌に属するアナモックス(ANAMMOX)細菌によってアンモニア態窒素及び亜硝酸態窒素から窒素ガスを生成する(NH+NO→N+2HO)工程とによってアンモニアを窒素ガスに変換する方法(下記特許文献2参照)。
【特許文献1】特開平8−267087号公報
【特許文献2】特表2001−506535
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の処理法法のうちで、広く世界的に普及しているのはA)の処理方法であり、多くの経験に基づいて安定性の高い処方が確立されているが、この処理方法は、酸化態窒素の還元に有機物を必要とするので、実際の処理においては、概して、廃水に含まれる有機物を利用するために廃水を循環させるように応用された形態で実施されている。しかし、この場合、酸化態窒素が必然的に残留するので、この濃度を低くするには廃水を循環させる割合を高める必要があり、処理の繰り返し度合が高くなるため、稼動費用がかさむ。また、処理を繰り返しても酸化態窒素は完全には除去されないので、処理を完遂させる場合には、外部から廃水に有機物を添加する必要があり、供給する有機物の費用が生じる。
【0007】
上記B)の処理方法は、硫黄の添加を必須とするので、この薬剤使用による経費が必要となる。
【0008】
上記C)の処理方法は、有機物や添加薬剤を必要とせず、処理に必要な酸素供給量も処理開始時のアンモニア態窒素の半分を酸化する量であるので、稼動に要する消費エネルギー及び負荷が少ない。しかし、アナモックス細菌は、増殖速度が極めて遅いため、事故等により菌体が死滅又は流失した場合、処理系の再生に非常に時間を要し、一旦低下した活性を復活させる場合にも回復に時間を要する。又、処理系の状態によって、亜硝酸態窒素の還元・脱窒が進行せずに酸化による硝酸態窒素の生成が進行することもあり、処理の確実性が低い。
【0009】
本発明は、費用のかかる薬剤や有機物の添加を必要とせず、効率よく安定的に廃水のアンモニアの酸化及び脱窒を実施可能な廃水の処理方法、処理装置及びこれに用いる廃水処理用微生物剤を提供することを課題とする。
【0010】
又、本発明は、処理に用いられる設備の構造が簡易で、廃水のアンモニアの酸化及び脱窒が同時に進行し、脱窒細菌の活性を低下させずに処理を繰り返し実施可能な廃水の処理方法、処理装置及びこれに用いる廃水処理用微生物剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、廃水へ供給する酸素量の制御によって、脱窒細菌の活性低下又は死滅を生じることなく廃水の処理を進行させることが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
本発明の一態様によれば、廃水の処理方法は、硝化細菌及び脱窒細菌の存在下で廃水に酸素を供給して、前記硝化細菌によって廃水に含まれるアンモニア態窒素を亜硝酸態窒素に変換する酸化処理と、前記脱窒細菌によって亜硝酸態窒素及びアンモニア態窒素から窒素ガスへ変換する脱窒処理とを進行させる廃水の処理方法であって、前記硝化細菌の亜硝酸態窒素生成速度が前記脱窒細菌の処理能力以下となるように廃水への酸素の供給を制御することを要旨とする。
【0013】
又、本発明の他の態様によれば、廃水の処理方法は、硝化細菌及び脱窒細菌の存在下で廃水に酸素を供給して、前記硝化細菌によって廃水に含まれるアンモニア態窒素を亜硝酸態窒素に変換する酸化処理と、前記脱窒細菌によって亜硝酸態窒素及びアンモニア態窒素から窒素ガスへ変換する脱窒処理とを同時に進行させる廃水の処理方法であって、前記硝化細菌の処理速度が律速となるように廃水への酸素の供給を制限することを要旨とする。
【0014】
更に、本発明の一態様によれば、廃水の処理装置は、廃水、前記廃水に含まれるアンモニア態窒素を亜硝酸態窒素に変換する硝化細菌、及び、前記廃水に含まれるアンモニア態窒素及び亜硝酸態窒素から窒素ガスへ変換する脱窒細菌を収容するための処理槽と、前記処理槽に収容される廃水に酸素を供給するための酸素供給装置と、前記酸素供給装置による廃水への酸素の供給を制御するための制御機構と、前記廃水の溶存酸素濃度を測定するための測定装置とを有することを要旨とする。
【0015】
又、本発明の一態様によれば、廃水処理用微生物剤は、アンモニア酸化細菌及びアナモックス細菌を、前記アナモックス細菌の処理能力[mol-N/h]が前記アンモニア酸化細菌の亜硝酸態窒素生成能力[mol-N/h]より大きくなる割合で有することを要旨とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、脱窒細菌が常に好適に増殖・活動可能なように廃水の状態が制御され、脱窒細菌の活性回復のための時間が不要であるので、効率的に廃水処理を進行でき、廃水処理の繰り返しが遅滞なく行え、安定的に処理が行える廃水の処理方法及び処理装置が提供される。又、外部から処理系に添加する有機物や薬剤等の費用が嵩まないので、処理コストの点でも有利であり、処理に要する設備の構造も簡易である。又、アンモニアや亜硝酸態窒素の連続モニタリングが不要であるので、これらのための高価なセンサー等の機器を装備する必要がない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
微生物を用いた廃水処理において、酸素が供給されると、アンモニアは硝化細菌によって酸化態窒素(亜硝酸及び硝酸)に変換される(概して硝化と称する)が、このプロセスでは、アンモニア酸化細菌がアンモニアを亜硝酸態窒素に変換する処理(亜硝酸化、2NH+3O→2NO+4H+2HO)と、硝酸化を行う硝化細菌が亜硝酸態窒素を硝酸態窒素に変換する処理(硝酸化)とが進行する。この系に、脱窒細菌であるアナモックス細菌が存在すると、アナモックス細菌は、アンモニア及び亜硝酸から窒素ガスを生成する(NH+NO→N+2HO)ので、この処理が良好に進行すれば、アンモニアの殆ど(約90%)を窒素ガスに変換できる(4NH+3O+4HCO→2N+4CO+10HO.実際には、NH+1.32NO+0.066HCO+0.13H→1.02N+0.26NO+0.066CH0.50.15+2.03HO、Appl. Microbiol. Biotechnol.(1998) 50, 589-596参照)。しかし、実際には脱窒工程の確実性が低く、処理条件によってアナモックス細菌の活性が低下し、硝酸化反応が進行する。本願発明者は、アナモックス細菌の挙動について調査した結果、亜硝酸濃度によってアナモックス細菌の活性が変動し、廃水への酸素供給を適切に制御することによってアナモックス細菌が脱窒を好適に進行させる状態を維持できることを見出した。本発明では、硝化細菌であるアンモニア酸化細菌と脱窒細菌であるアナモックス細菌との存在下で廃水に酸素を供給して廃水に含まれるアンモニアの亜硝酸化及び亜硝酸の窒素ガスへの変換を進行させる廃水の処理において、アナモックス細菌が亜硝酸態窒素を窒素ガスに変換する処理能力に応じて酸素の供給が適切に制御される。これにより、アンモニアの酸化及び脱窒が同時に進行し、この間、アナモックス細菌の活性状態は良好に維持されるので、細菌の活性を回復するための準備時間や手間は不要となる。
【0018】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0019】
アンモニアを含有する廃水に酸素(通常、空気を用いる)を供給すると、アンモニア酸化細菌は、アンモニアを亜硝酸態窒素に変換する。この反応で生成する亜硝酸態窒素の量は、供給される酸素の量に応じて増加するが、酸素の供給がアンモニア酸化細菌の処理能力(最大酸素消費速度[mol-O/h])を超えると、処理速度を超える過剰分の酸素は消費されずに廃水の溶存酸素濃度を増加させる。一方、アナモックス細菌は、生成した亜硝酸態窒素とアンモニア態窒素とから窒素ガスを生成するので、アンモニア酸化細菌が生成する亜硝酸態窒素量がアナモックス細菌の処理能力(最大亜硝酸態窒素消費速度[mol-N/h])を超えない限り、生成する亜硝酸態窒素は全てアナモックス細菌に消費されるので、系内の亜硝酸濃度は増加しない。しかし、アナモックス細菌の活性は系内の溶存酸素濃度が高まると低下し、又、系内の亜硝酸濃度が増加すると細菌は被毒する(亜硝酸濃度が20mg-N/Lを超えると最終的に死滅する)ので、過剰量の酸素を供給すると、溶存酸素濃度の上昇による活性低下及びそれに伴う亜硝酸濃度の増加による被毒によってアナモックス細菌の失活及び脱窒の減退を生じ、更に亜硝酸態窒素濃度を昂進させる。しかも、亜硝酸を硝酸に酸化する硝化細菌が増殖し易くなる。これに対し、酸素の供給が適量に制限されれば、廃水の溶存酸素濃度も亜硝酸濃度も増加せず、アナモックス細菌は有効に作用する。溶存酸素による活性低下及び亜硝酸による被毒を生じない条件は、廃水の亜硝酸濃度が20mg-N/L以下、好ましくは10mg-N/L以下、溶存酸素濃度が1mg-O/L以下、好ましくは0.51mg-O/L以下であるので、この条件が満たされれば、アナモックス細菌は有効に作用する。処理開始時の廃水の溶存酸素濃度が上記条件を満たす限り、アンモニア酸化細菌の処理能力を超えない範囲で酸素を供給することによって溶存酸素濃度の上昇を防止できるが、亜硝酸濃度の増加も防止するには、アナモックス細菌の処理能力を考慮する必要がある。具体的には、アンモニア酸化細菌による亜硝酸態窒素の生成速度がアナモックス細菌による亜硝酸態窒素の処理能力以下となるように酸素の供給速度を調整する。これにより、亜硝酸態窒素の生成段階が律速となり、生成する亜硝酸は直ちにアナモックス細菌によって消費されるので、アンモニア酸化細菌による酸化処理速度がアナモックス細菌による脱窒処理速度と実質的に等しくなり、廃水の亜硝酸濃度の上昇は防止される。従って、このような酸素供給の制御によって、廃水の処理環境がアナモックス細菌にとって良好な状態に保たれるので、アンモニア酸化細菌とアナモックス細菌とは共存状態で同時に反応してアンモニアの酸化及び脱窒が連動的に進行する。従って、両者を物理的に分断したり反応を段階的に個別進行させる必要が無い。そして、アンモニアが無くなった時点で両細菌の活動は同時に終了するので、処理が終了した廃液にアンモニアや亜硝酸態窒素が残留するのを排除できる。
【0020】
適正な酸素の供給速度の範囲は、両細菌の処理能力のバランスによって異なる。詳細には、適正な酸素の供給速度[mol-O/h]は、(a)アナモックス細菌の処理能力[mol-N/h]がアンモニア酸化細菌の亜硝酸態窒素生成能力[mol-N/h]を超えるような割合で細菌が添加されている場合は、アンモニア酸化細菌の処理能力(最大酸素消費速度)[mol-O/h]以下、(b)アナモックス細菌の処理能力がアンモニア酸化細菌の亜硝酸態窒素生成能力以下となる場合は、アナモックス細菌の処理能力に対して当量以下となる酸素供給速度であり、このように調節することによってアンモニア酸化細菌の処理速度(酸素消費速度)がアナモックス細菌の処理能力以下となる。尚、1モルの亜硝酸態窒素Nは1.5モルの酸素Oと当量であり、亜硝酸態窒素生成能力[mol-N/h]は、アンモニア酸化細菌の処理能力[mol-O/h]の値の1.5倍である。
【0021】
酸素の供給速度の設定に関し、処理系の細菌の菌体量及び活性から予め適正値を想定することは重要である。具体的には、培養アナモックス細菌及びアンモニア酸化細菌の活性(例えばスラッジ質量当たりの処理能力)を測定し、これに基づいて、処理系に投入される各細菌の菌体量及び割合から上記(a)又は(b)に従って酸素の供給速度を想定する。既に使用中の処理系については、処理系からサンプリングで抽出されるアンモニア酸化細菌及びアナモックス細菌の活性から上記(a)又は(b)のように想定する。菌体量のバランスは廃水処理中の増殖によって変動し得るので、処理毎に回収される菌体をサンプリングして確認することが望ましく、必要に応じて菌体の追加により処理能力を調節するとよい。被毒に関する安全性を考慮すると、細菌の処理能力のバランスが上記(a)である方が好ましく、アナモックス細菌の処理能力[mol-N/h]がアンモニア酸化細菌の亜硝酸態窒素生成能力[mol-N/h]の1.5倍以上であると更に好ましい。上記(b)の場合は、アナモックス細菌の処理能力がアンモニア酸化細菌の亜硝酸態窒素生成能力の0.8倍以上であるのが望ましく、アナモックス細菌の処理能力に対して0.5当量以下となる酸素供給速度であることが望ましい。
【0022】
酸素の供給速度は、アンモニア酸化細菌又はアナモックス細菌の処理能力に応じて設定されるので、廃水のアンモニア濃度が異なれば処理に要する時間は変動する。処理時間を短縮するには、アナモックス細菌の処理能力(菌体量、活性)を増大させて酸素の供給速度を増加する。
【0023】
上述のように、廃水への酸素の供給速度は細菌の菌体量及び活性に応じて想定される。
【0024】
実際の酸素の供給速度の適否を判断してズレを修正するには、廃水の亜硝酸濃度を常時測定して亜硝酸態窒素の生成を監視することによる直接的な方法があるが、上記(a)の形態に各細菌の投入量を調整した場合、廃水の溶存酸素濃度の測定に基づいて酸素の供給速度の適否を判断することができる。詳細には、アナモックス細菌の処理能力がアンモニア酸化細菌の亜硝酸態窒素の生成能力より大きい場合、酸素の供給がアンモニア酸化細菌の処理能力を超えた時に溶存酸素濃度は増加するが、亜硝酸の生成は過剰ではないので、処理開始時に、想定される酸素の適正供給速度付近において、酸素の供給速度と溶存酸素濃度の上昇の有無との対応を調べることによって、より正確に酸素の適正な供給速度を定めることができる。又、酸素の供給制御に異常が生じた場合や微生物汚染による細菌の処理能力のバランスが変化した場合にも、これを溶存酸素濃度の上昇によって検知でき、亜硝酸濃度が上昇する前に対処可能である。従って、上記(a)に従ってアンモニア酸化細菌の処理能力の範囲内で酸素を供給する形態では、溶存酸素濃度の増加によって処理完了を検知できるだけでなく、処理開始時に酸素の適量供給を確認する手段として溶存酸素濃度の測定を利用でき、異常時の亜硝酸による被毒を避けられる点で有利である。
【0025】
上述のように、適正範囲の供給速度で酸素(空気)を処理系つまり廃水に吹き込むと、アンモニア及び酸素が消費され、その結果として生成する亜硝酸態窒素は、アンモニアと共に直ちにアナモックス細菌に消費されて窒素ガスに変換されるので、溶存酸素濃度及び亜硝酸濃度は実質的に増加しない。つまり、不均一さによる微小な変動は生じ得ても、明らかな変動や継続的な増加はない。酸素の供給速度は、適正範囲内で変動可能であるが、変動が激しいと、溶存酸素濃度が不均一になって測定が不正確になったり菌体に影響を及ぼす。従って、一定の供給速度である方が好ましい。
【0026】
廃水のアンモニアが枯渇すると亜硝酸態窒素の生成反応は停止するので、消費されない酸素によって溶存酸素濃度が増加し始める。従って、処理の終了を廃水の溶存酸素濃度の監視によって検知でき、溶存酸素濃度が増加したら酸素の供給を停止すればよい。処理終了の時点では、溶存酸素の上昇によるアナモックス細菌の活性低下は多少は有り得るが、亜硝酸態窒素は消費されているので被毒は防止される。溶存酸素濃度が上昇した時、従来の連続式反応装置ではアンモニア及び酸素によってアンモニア酸化細菌が過剰に増殖するが、本発明では酸素濃度が上昇した時にはアンモニアがないのでアンモニア酸化細菌は増殖しない。処理を終了した廃水は、沈降分離によって菌体を分離し、回収した菌体に新たな廃水を供給することによって、亜硝酸の被毒を受けていない菌体によって直ちに次の処理を開始可能な状態になる。処理後の廃水は、処理前のアンモニウム濃度の約10モル%程度の硝酸を含み、又、有機物が消費されずに残存するので、必要に応じて、処理後の廃水に活性汚泥処理を用いた脱窒処理及び酸化処理(有機物の分解)を施すと、好適に窒素分及び有機物を除去できる。
【0027】
菌体の分離等の作業面においては、投入されるアンモニア酸化細菌及びアナモックス細菌の廃水単位体積当たりの菌体量は、各々、1000〜10000mg-VSS/L程度、好ましくは2000〜4000mg-VSS/L程度であると都合がよい。廃水への酸素供給速度をアナモックス細菌の菌体量当たりで見積もると、概して、2g-O/(g-VSS・d)程度以下、好ましくは1g-O/(g-VSS・d)程度以下の供給速度が好適であるが、アナモックス細菌の活性によって変動する。
【0028】
前述した酸化・脱窒の反応式から理解されるように、アナモックス細菌を用いた酸化及び脱窒の反応は重炭酸イオン(空気中の炭酸ガスが使用可能)を必要とする。このため、廃水の状態に応じて炭酸水素ナトリウム等の重炭酸塩が添加される。重炭酸塩を構成する塩基は、重金属等の細菌の生育・増殖を阻害するもの以外であれば特に制限はない。添加量は、廃水のアンモニア濃度に応じて、アンモニア1モル当たり重炭酸塩0.1〜2モルとなる量を添加するのが好ましい。廃水中にナトリウム等の金属又は強塩基が含まれている場合には、炭酸ガスの吹き込みよる重炭酸イオンの導入が可能であり、細菌を添加する前の廃水に導入する。炭酸ガスを吹き込んだ水を重炭酸塩の代わりに使用することも可能であり、処理後の廃水の一部を吹き込み用の水として利用してもよい。或いは、酸素を供給する際に同時にCOを供給してもよい。つまり、空気を用いることができる。
【0029】
廃水のpHは、アンモニアの減少及び微量の硝酸態窒素の生成によって若干低下する。亜硝酸態窒素を硝酸態窒素に変換する硝化細菌は、pHが低いと活性が低下するので、硝酸化を抑制する点では中性域以下で処理を行うと良いが、本発明では酸素の供給制御によってアナモックス細菌の活性が良好に維持されるので、廃水のpHはさほど問題とはならず、pH6〜9程度の範囲において好適に実施できる。尚、廃水中の有機物濃度(COD)が高いと、アナモックス細菌は、有機物を消費する細菌群の増殖によって駆逐され易いので、本発明に係る廃水処理は、COD/N比(窒素に対する有機物の質量比)が0.3mg-COD/mg-N以下の廃水に適用することが好ましく、0.3を超える場合には、汚泥や活性炭等の有機物を吸着可能な物質を用いて除去して有機物量を減少させるか、あるいは、背景技術の項で記載した活性汚泥により硝化及び脱窒を行う方法A)を適用するのが適切である。
【0030】
以下に、本発明における廃水処理の実施形態について具体的に説明する。以下の廃水処理は、回分式の廃水処理装置によるものである。
【0031】
廃水処理装置は、廃水を収容する処理槽と、廃水に酸素(空気)を供給する酸素供給器と、廃水の溶存酸素濃度を測定する測定器と、酸素供給装置のガス供給速度をバルブ等を用いて調節する制御機構とを有し、酸素供給器は、処理槽に収容される廃水に吹き込みノズル等を用いて酸素ガス又は空気を吹き込むように構成され、廃水の溶存酸素濃度は測定器によって常時測定される。処理槽は、廃水を入排水する配管と、菌体を回収する場合に使用する底部排出口とを備え、処理槽の形態や容量等によっては必要に応じて廃水を均一にするための攪拌器を付設しても良い。制御機構は、溶存酸素濃度の測定結果に基づいて溶存酸素濃度を監視して、濃度上昇が検出された場合には警告を発するか、酸素供給器の供給を自動的に停止するように設定可能である。
【0032】
廃水処理に際して、予め細菌の培養を行ってアンモニア酸化細菌及びアナモックス細菌を準備するか、市販のものを入手する。各細菌の培養は、従来法に従って公知技術により適宜行うことができ、アンモニアを分解する既存の水処理プラントのスラッジから周知の方法により得られる。アンモニア酸化細菌については、例えば、B. Sorriano及びM. Walkerの文献(J. Applied Bacteriology, 31, 493-497(1968))を参照して単離でき、アナモックス細菌については、特表2001−506535号公報等を参照して用意でき、オランダ国バールンのCentraal Bureau voor Schimmelculturesにより登録番号94987(1987年12月12日)で寄託されるスラッジを利用できる。各培養細菌の菌体量及び活性は下記の文献を参照して調べることができ、これらから各細菌の処理能力が分かる。
【0033】
(アンモニア酸化細菌)
菌体量: Wagner M., Rath G., Amann R., Koops H.-P. and Schleifer K.-H., "In situ identification of ammonia-oxidizing bacteria", Syst. Appl. Microbiol. 18(1995), p251-264.
活性: Grunditz C. and Dalhammar G., "Development of nitrification inhibition assays using pure cultures of nitrosomonas and nitrobacter", Water Research, Vol.35(2001), Issue 2, p433-440.
(アナモックス細菌)
菌体量: Schmid M. et al., "Candidatus "Scalindual brodae", sp. nov., Candidatus "Scalindua Wagneri", sp. nov., Two New Species of Anaerobic Ammonium Oxidizing Bacteria", Syst. Appl. Microbiol., 26(2003), No.4, p529-538.
活性: Sliekers A. et al., "Completely autotrophic nitrogen removal over nitrite in one single reactor", Water Research, Vol.36(2002), Issue 10, p2475-2482.
用意した細菌及び廃水を廃水処理装置に投入する。亜硝酸による被毒を可能な限り避けるためには、上記(a)のようにアンモニア酸化細菌の処理能力よりアナモックス細菌の処理能力が高くなるように細菌の添加割合を設定するのが好ましい。廃水容積当たりの菌体量としては、各々、2000mg-VSS/L程度が好ましい。廃水にアンモニアの0.1〜2モル/L程度の重炭酸塩を添加する。炭酸ガス又は空気を利用する場合は、酸素供給の際に同時に供給すればよい。
【0034】
次に、廃水の溶存酸素濃度を常時測定しながら、酸素又は空気の供給を開始する。必要に応じて、廃水を均一にするために攪拌装置を使用してもよい。酸素の供給速度[mol-O/h]は、前述の(a)又は(b)に従って設定して、アンモニア酸化細菌の処理速度(酸素消費速度)が律速となるようにする。上記(a)の場合は、溶存酸素濃度の測定に基づいて実際の酸素の供給速度と適正値とのズレを解消する。例えば、廃水の溶存酸素濃度を測定しながら、菌体量から想定される適正な供給速度で酸素を廃水に供給し、継続的な濃度増加が見られる場合は酸素の供給速度を低下して、濃度上昇が無い供給速度を適正値とする。上記(b)の場合は、菌体量から想定される適正値より低めの酸素供給速度に設定して安全性を高める。
【0035】
上記のように適正な供給速度を定めて酸素を一定して供給し続け、廃水の溶存酸素濃度が上昇し始めたら、酸素の供給を停止して処理を終了する。廃水を静置し、菌体を沈降させて廃水から分離し、上澄みの廃水を処理槽から排出する。菌体は、新たな廃水を加えれば直ちに次の処理を開始できる。必要に応じて、処理再開前の菌体をサンプリングして細菌の菌量バランスを確認調整するとよい。
【0036】
処理を経た廃水は、開始時のアンモニア濃度の約10モル%の硝酸を含むが、これは、従来の活性汚泥を用いた脱窒処理を行うことによって十分に除去でき、更に曝気による酸化処理を施せば含有有機物が酸化分解し、リン蓄積細菌の取り込みによってリンの除去も可能である。アナモックス細菌は、一旦活動を停止すると再度活性化するのに時間を要するので、本発明に従って酸化反応及び脱窒反応を同時進行させることによってアナモックス細菌を連続して活動させることができるので、作業効率が良く、アナモックス細菌の活性も安定化する。
【0037】
上述のように、アンモニア酸化細菌の亜硝酸態窒素の生成速度をアナモックス細菌の処理能力以下とすることによって、アンモニア酸化細菌によるアンモニアの酸化が律速段階となるため、生成される亜硝酸態窒素は直ちに消費されて窒素ガスに変換され、アンモニア酸化細菌の処理速度とアナモックス細菌の処理速度とが実質的に同等となる。このため、アナモックス細菌の不活性化を避けられので、細菌の養生等のための準備工程が不要になり、処理効率が向上する。又、アナモックス細菌の増殖・活動を安定して継続することができる。有機物の含有量が低いために活性汚泥法によっては処理が難しいような廃水を好適に処理でき、又、廃水のアンモニア濃度が高すぎるために活性汚泥法による処理効率が極めて低くなる場合には、前処理として好適に利用でき、約90%のアンモニアを窒素ガスとして除去できる。
【0038】
本発明の処理方法では、原廃水のアンモニア濃度が変化しても酸素の供給速度や細菌供給量等の処理条件を変更せずに処理が可能であり、複雑な制御やアンモニア及び亜硝酸のモニタリングを必要とせず、処理時間が多少変動するのみで常に廃水処理を完遂させることができる。従って、処理後にアンモニアや亜硝酸が残留することはなく、廃水から菌体を分離する際に窒素ガスの再発生によって菌体の沈降が困難になることはないので、菌体の損失や処理水質の悪化を生じることなく効率よく分離できる。従来法では処理効率を維持するために廃水のモニタリングや複雑な制御が必要であり、特に連続式の処理においては亜硝酸や酸素の残留を避けるために処理後にアンモニアが残留しがちで、菌体の沈降分離時にガス発生による支障が生じ易いことを考えると、本発明の処理方法は、従来のアナモックス処理に比べて非常に優れており、複雑な管理や特別な対処を必要とせずに安定して処理を行える有利な方法であると言える。
【0039】
以下、実施例を参照して、本発明に係る廃水の処理について具体的に説明する。
【実施例】
【0040】
攪拌装置、酸素供給手段としての曝気装置及び溶存酸素濃度測定器を備えた容量5Lの処理槽を用いて、アンモニア濃度500mg-N/L、硝酸・亜硝酸濃度0mg-N/Lの原廃水の処理を以下のようにして行った。
【0041】
(実施例1)
先ず、アンモニア酸化細菌及びアナモックス細菌を前述の文献に従って用意し、得られたアンモニア酸化細菌及びアナモックス細菌の菌対数及び活性を、前述の文献記載の方法に従って測定した。
【0042】
処理槽に原廃水(5L)を投入し、重炭酸ナトリウム400g、アンモニア酸化細菌(200mg-VSS/L、アンモニア消費速度0.2g-N/(g-VSS・h))及びアナモックス細菌(2000mg-VSS/L、アンモニア消費速度0.25g-N/(g-VSS・h))を加えて攪拌装置で細菌を分散させ、溶存酸素濃度測定器を作動させて溶存酸素濃度の測定を開始したところ、0.1mg-O/Lで一定していた。塩酸及び苛性ソーダを用いて廃液のpH値を7.5に調整した。この後、曝気装置を作動させて酸素供給速度が1.5g-O/(L・d)となるように空気の吹き込み速度を調節して原廃水の曝気を開始した。曝気開始によって溶存酸素濃度は僅かに増加したが、その後ほぼ一定であったので曝気を継続した。曝気を開始して24時間後、溶存酸素濃度が上昇し始めたので、酸素の供給を停止して廃水を静置した。菌体スラッジが処理槽底部に沈降した後、上澄みの廃水を処理槽から排出し、排出水4Lを得た。このアンモニア、硝酸及び亜硝酸の濃度を測定したところ、アンモニア濃度は0mg-N/L、硝酸濃度は45mg-N/L、亜硝酸濃度は0mg-N/Lであった。又、排出水のpH値は7弱であった。
【0043】
処理槽中の菌体スラッジをサンプリングしてアンモニア酸化細菌及びアナモックス細菌の活性を調べ、処理能力の比率がさほど変化していないのを確認した。処理槽に新たな原廃水4Lを投入した後、上述と同様の処理操作を繰り返すことによって同様にアンモニアの酸化・脱窒が可能であることを確認した。
【0044】
(実施例2)
実施例1で用意したアンモニア酸化細菌及びアナモックス細菌を用いて以下の操作を行った。
【0045】
処理槽に原廃水(5L)を投入し、重炭酸ナトリウム400g、アンモニア酸化細菌(100mg-VSS/L、アンモニア消費速度0.2g-N/(g-VSS・h))及びアナモックス細菌(3000mg-VSS/L、アンモニア消費速度0.25g-N/(g-VSS・h))を加えて攪拌装置で細菌を分散させた後、溶存酸素濃度測定器を作動させて溶存酸素濃度の測定を開始したところ、0.1mg-O/Lで一定していた。塩酸及び苛性ソーダを用いて廃液のpH値を7.5に調整した。この後、曝気装置を作動させて酸素供給速度が1.5g-O/(L・d)となるように空気の吹き込み速度を調節して原廃水の曝気を開始した。曝気によって溶存酸素濃度は僅かな増加が継続したため、直ちに酸素供給速度を1.0g-O/(L・d)に減少させたところ、溶存酸素濃度は0.3mg-O/Lでほぼ一定となったので、この供給速度で曝気を継続した。曝気を開始して33時間後、溶存酸素濃度が上昇し始めたので、酸素の供給を停止して廃水を静置した。菌体スラッジが処理槽底部に沈降した後、上澄みの廃水を処理槽から排出し、排出水4.1Lを得た。このアンモニア、硝酸及び亜硝酸の濃度を測定したところ、アンモニア濃度は0mg-N/L、硝酸濃度は42mg-N/L、亜硝酸濃度は0mg-N/Lであった。又、排出水のpH値は7弱であった。
【0046】
処理槽中の菌体スラッジをサンプリングしてアンモニア酸化細菌及びアナモックス細菌の活性を調べ、処理能力の比率がさほど変化していないのを確認した。処理槽に新たな原廃水4.1Lを投入した後、上述と同様の処理操作を繰り返すことによって同様にアンモニアの酸化・脱窒が可能であることを確認した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硝化細菌及び脱窒細菌の存在下で廃水に酸素を供給して、前記硝化細菌によって廃水に含まれるアンモニア態窒素を亜硝酸態窒素に変換する酸化処理と、前記脱窒細菌によって亜硝酸態窒素及びアンモニア態窒素から窒素ガスへ変換する脱窒処理とを進行させる廃水の処理方法であって、前記硝化細菌の亜硝酸態窒素生成速度が前記脱窒細菌の処理能力以下となるように廃水への酸素の供給を制御することを特徴とする廃水の処理方法。
【請求項2】
硝化細菌及び脱窒細菌の存在下で廃水に酸素を供給して、前記硝化細菌によって廃水に含まれるアンモニア態窒素を亜硝酸態窒素に変換する酸化処理と、前記脱窒細菌によって亜硝酸態窒素及びアンモニア態窒素から窒素ガスへ変換する脱窒処理とを同時に進行させる廃水の処理方法であって、前記硝化細菌の処理速度が律速となるように廃水への酸素の供給を制限することを特徴とする廃水の処理方法。
【請求項3】
前記硝化細菌はアンモニア酸化細菌を含み、前記脱窒細菌はアナモックス細菌を含む請求項1又は2に記載の廃水の処理方法。
【請求項4】
酸素が供給される間の廃水の溶存酸素濃度を常時測定し、溶存酸素濃度の上昇が検知されたら酸素の供給を停止する請求項1〜3の何れかに記載の廃水の処理方法。
【請求項5】
前記脱窒細菌の処理能力[mol-N/h]は、前記硝化細菌の亜硝酸態窒素生成能力[mol-N/h]より大きく、酸素の供給速度は前記硝化細菌の処理能力[mol-O/h]以下である請求項1〜4の何れかに記載の廃水の処理方法。
【請求項6】
前記脱窒細菌の処理能力[mol-N/h]は、前記硝化細菌の亜硝酸態窒素生成能力[mol-N/h]以下であり、酸素の供給速度は、前記脱窒細菌の処理能力に対して当量以下となる請求項1〜4の何れかに記載の廃水の処理方法。
【請求項7】
前記酸素の供給速度は、酸素の供給による廃水の溶存酸素濃度の上昇の有無に基づいて調節される請求項5記載の廃水の処理方法。
【請求項8】
廃水、前記廃水に含まれるアンモニア態窒素を亜硝酸態窒素に変換する硝化細菌、及び、前記廃水に含まれるアンモニア態窒素及び亜硝酸態窒素から窒素ガスへ変換する脱窒細菌を収容するための処理槽と、
前記処理槽に収容される廃水に酸素を供給するための酸素供給装置と、
前記酸素供給装置による廃水への酸素の供給を制御するための制御機構と、
前記廃水の溶存酸素濃度を測定するための測定装置とを有することを特徴とする廃水の処理装置。
【請求項9】
前記制御機構は、前記硝化細菌の亜硝酸態窒素生成速度が前記脱窒細菌の処理能力以下となるように前記酸素供給装置による酸素の供給を制御する請求項8の廃水の処理装置。
【請求項10】
前記制御機構は、前記硝化細菌の処理速度が律速となるように前記酸素供給装置による酸素の供給を制御する請求項8の廃水の処理装置。
【請求項11】
アンモニア酸化細菌及びアナモックス細菌を、前記アナモックス細菌の処理能力[mol-N/h]が前記アンモニア酸化細菌の亜硝酸態窒素生成能力[mol-N/h]より大きくなる割合で有することを特徴とする廃水処理用微生物剤。

【公開番号】特開2008−155086(P2008−155086A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−344201(P2006−344201)
【出願日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】