説明

廃水処理における加圧浮上分離装置、汚泥濃縮システム及び加圧浮上分離方法

【課題】 廃水処理における加圧浮上分離装置において、より微細な気泡を発生させることにより、固形分回収率を向上させることにある。
【解決手段】 加圧浮上分離装置1は、槽内の気相部51が外気と遮断されたまたは本質的に遮断された気密状態になるように構成された浮上分離槽5を備えている。そうして、加圧浮上分離装置1は、浮上分離槽5内において大気圧よりも高い圧力状態の気相部51の下で気泡が発生するように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃水処理における加圧浮上分離装置、汚泥濃縮システム及び加圧浮上分離方法に関する。
更に詳しくは、廃水処理における加圧浮上分離装置において、より微細な気泡を発生させることにより、固形分回収率を向上させることができるようにしたもの等に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、廃水処理の分野において「浮上分離方法」と呼ばれる固液分離法が知られている。この方法は、廃液に含まれている固体粒子に微細気泡を付着させ、付着した気泡の浮力によって懸濁物質を浮上濃縮させるものである。この微細気泡は、加圧条件下で空気を液体に溶解させ、この液体を外気に開放されている浮上分離槽内で廃液中に開放し、大気圧に戻すことによって発生させることができる(例えば非特許文献1参照)。
【非特許文献1】岩井重久等 編者、「廃水・廃棄物処理 廃水編」、講談社、1980年9月1日、p.113
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、従来の浮上分離方法では、浮上させる微細気泡の大きさが十分に小さいとは言い切れず、微細気泡よりも小さな固体粒子まで浮上濃縮させることは困難であった。このため、浮上分離槽に小さな固形粒子が残留し、その結果、固形分の回収率の低下を招いていた。また気泡が浮上する際には、気泡の周りに付着した水分も一部同伴して浮上してしまうが、気泡が大きいと付着する水分量が多くなり、その結果、浮上分離した後の固形分濃度が低下することになる。
【0004】
このようなことから、実際の現場では、浮上濃縮前や浮上濃縮時に高分子凝集剤を添加して、固形粒子の粒径を大きくすることが一般的に行われている。しかし、分離後の濃縮汚泥を堆肥化する場合には、化学合成物質である高分子凝集剤を添加することはできないため、依然として上記したような課題が残っていた。
【0005】
(本発明の目的)
そこで本発明の目的は、廃水処理における加圧浮上分離装置において、より微細な気泡を発生させることにより、固形分回収率を向上させることにある。
【0006】
本発明の他の目的は、廃水処理における加圧浮上分離装置において、より微細な気泡を発生させることにより、気泡に付着する水分量を少なくして、分離した固形分濃度の低下を防止することにある。
【0007】
本発明の他の目的は、高分子凝集剤を使用することなく、原水中の懸濁物質を浮上濃縮させることによって、分離後の濃縮汚泥をコンポスト施設等で堆肥化できるようにした加圧浮上分離装置を提供することにある。
【0008】
更に本発明の他の目的は、上記した目的を達成できる加圧浮上分離装置を備えた汚泥濃縮システム及び加圧浮上分離方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために本発明が講じた手段は次のとおりである。
なお、後述する作用の説明の理解を助けるため、図面において使用した符号を括弧を用いて記載しているが、各構成要件を図面記載のものに限定するものではない。
【0010】
第1の発明にあっては、
廃水処理における加圧浮上分離装置であって、
槽内の気相部(51)が外気と遮断されたまたは本質的に遮断された気密状態になるように構成された浮上分離槽(5)を備えていることを特徴とする、
加圧浮上分離装置である。
【0011】
第2の発明にあっては、
廃水処理における加圧浮上分離装置であって、
槽内の気相部(51)が外気と遮断されたまたは本質的に遮断された気密状態になるように構成された浮上分離槽(5)を備え、
該浮上分離槽(5)内において、大気圧よりも高い圧力状態の気相部(51)の下で気泡が発生するように構成されていることを特徴とする、
加圧浮上分離装置である。
【0012】
第3の発明にあっては、
加圧下で液体中に気体を混合して第一気液混合流体を得る気液混合手段(6)と、
浮上分離槽(5)内に第二気液混合流体を供給して気泡を発生させる微細気泡発生装置(7)と、
を備え、
該微細気泡発生装置(7)は、上記気液混合手段(6)で得られた第一気液混合流体に更に気体を取り込ませることができるエゼクタ式のノズル(71)を備えていることを特徴とする、
第1または第2の発明に係る加圧浮上分離装置である。
【0013】
第4の発明にあっては、
エゼクタ式のノズル(71)は第一気液混合流体を噴出させる気液流体噴出部(712)と、該第一気液混合流体の噴出によって発生した負圧により、第一気液混合流体に吸引される気体を連通させる気体連通部(715)とを有し、
該気体連通部(715)は、気液流体噴出部(712)の外周全体に渡って連通する空間部(716)を備えていることを特徴とする、
第3の発明に係る加圧浮上分離装置である。
【0014】
第5の発明にあっては、
第1,2,3または第4の発明に係る浮上分離装置(1)を備えたことを特徴とする、
汚泥濃縮システムである。
【0015】
第6の発明にあっては、
廃水処理における加圧浮上分離方法であって、
浮上分離槽における槽内の気相部を外気と遮断または本質的に遮断して気密状態にすることにより、大気圧よりも高い圧力状態の気相部(51)の下で上記浮上分離槽内で気泡を発生させるようにしたことを特徴とする、
加圧浮上分離方法である。
【0016】
(作 用)
本発明に係る加圧浮上分離装置(1)は次のように作用する。
浮上分離槽(5)における槽内の気相部(51)が外気と遮断されたまたは本質的に遮断された気密状態になっているので、外気に開放されている従来の浮上分離槽と相違して、廃水の液面上から気相部(51)へに浮上した気泡は外気へ逃げず、気相部(51)内は大気圧(外気)よりも高い圧力状態に保たれる。その結果、廃水中の液圧も、通常の液圧(浮上分離槽が外気に開放されている場合の廃水の液圧)よりも高い状態におかれる。そうして、加圧された気液混合流体は、浮上分離槽(5)内の廃水中に開放されることで圧力低下状態になり気泡化するが、上記したように通常の液圧よりも高い圧力状態下で気泡化するため、大気圧下の浮上分離槽で発生する気泡よりも微細な気泡が発生する。
【0017】
また発生後、浮上分離槽(5)内を浮上する微細気泡は、通常の液圧よりも高い圧力状態におかれているため、上昇に伴って大きくなることが防止され、その大きさを本質的に維持しながら浮上する。
【0018】
このように、上記した浮上分離槽(5)の気密構造によって、より微細な気泡を発生させると共に、発生後の微細気泡の大きさを本質的に維持した状態で浮上させることが可能となるため、従来法では困難であった小さな固体粒子までも浮上濃縮させることができる。
【0019】
加圧下で液体中に気体を混合して第一気液混合流体を得る気液混合手段(6)と、浮上分離槽(5)内に第二気液混合流体を供給して気泡を発生させる微細気泡発生装置(7)と、を備え、該微細気泡発生装置(7)が上記気液混合手段(6)で得られた第一気液混合流体に更に気体を取り込ませることができるエゼクタ式のノズル(71)を備えている加圧浮上分離装置(1)では、次のように作用する。
気液混合手段(6)により、加圧下で液体中に気体が混合され第一気液混合流体が得られる。更に、微細気泡発生装置(7)のエゼクタ式のノズル(71)により、上記気液混合手段(6)で得られた第一気液混合流体に更に多くの量の気体が取り込まれ、第一気液混合流体は第二気液混合流体となる。そして、微細気泡発生装置(7)によって、この多くの量の気体を取りこんだ第二気液混合流体が浮上分離槽(5)内に供給され、大量の微細気泡が発生する。
【0020】
エゼクタ式のノズル(71)が第一気液混合流体を噴出させる気液流体噴出部(712)と、該第一気液混合流体の噴出によって発生した負圧により、第一気液混合流体に吸引される気体を連通させる気体連通部(715)とを有し、該気体連通部(715)は、気液流体噴出部(712)の外周全体に渡って連通する空間部(716)を備えているものでは、次のように作用する。
即ち、エゼクタ式のノズル(71)に送られた第一気液混合流体は、気液流体噴出部(712)から噴出する。この第一気液混合流体の噴出によって気液流体噴出部(712)の出口近傍に負圧(低圧)が発生する。この負圧により気体連通部(715)から気体が吸引され、噴出している第一気液混合流体に更に気体が混合または混合溶解されることによって、第一気液混合流体は第二気液混合流体となる。そして、気体連通部(715)が気液流体噴出部(712)の外周全体に渡って連通する空間部(716)を備えているので、気体連通部(715)が気液流体噴出部(712)の外周の一部と連通している場合と比べて、気液流体噴出部(712)から噴出する第一気液混合流体に対する気体の接触面積が広い。これにより、第一気液混合流体により多くの気体が混合または混合溶解し、その結果、大量の微細気泡が発生する。
【発明の効果】
【0021】
本発明は上記構成を備え、次の効果を有する。
(a)本発明に係る加圧浮上分離装置及び加圧浮上分離方法によれば、浮上分離槽における槽内の気相部が外気と遮断されたまたは本質的に遮断された気密状態となっているので、大気圧下の浮上分離槽で発生する気泡よりも微細な気泡を発生させることができる。これにより、外気に開放されている浮上分離槽を使用した従来の浮上分離方法では困難だった小さな固体粒子まで浮上濃縮させることができる。その結果、固形分回収率が向上するため、高分子凝集剤を使用する必要がなく、分離後の濃縮汚泥はコンポスト施設等で堆肥化することができる。
【0022】
(b) また、本発明に係る加圧浮上分離装置及び加圧浮上分離方法によれば、より微細な気泡を発生させることにより、気泡に付着する水分量も少なくなり、分離した固形分濃度が低下することを防止できる。
【0023】
(c)加圧下で液体中に気体を混合して第一気液混合流体を得る気液混合手段と、 浮上分離槽内に第二気液混合流体を供給して気泡を発生させる微細気泡発生装置と、を備え、該微細気泡発生装置が上記気液混合手段で得られた第一気液混合流体に更に気体を取り込ませることができるエゼクタ式のノズルを備えているものでは、気液混合手段とエゼクタ式のノズルを採用することにより、浮上分離槽に供給する気液混合流体により多くの量の気体を混合または混合溶解させることができるので、より微細な気泡を浮上分離槽内に大量に発生させることができる。その結果、固形分回収率をより向上させることができる。
【0024】
(d)エゼクタ式のノズルが第一気液混合流体を噴出させる気液流体噴出部と、該第一気液混合流体の噴出によって発生した負圧により、該第一気液混合流体に吸引される気体を連通させる気体連通部とを有し、該気体連通部が気液流体噴出部の外周全体に渡って連通する空間部を備えているものでは、気体連通部が気液流体噴出部の外周の一部と連通している場合と比べて、気液流体噴出部から噴出する第一気液混合流体に対する気体の接触面積が広い。これにより、浮上分離槽に供給する第一気液混合流体により多くの気体を混合または混合溶解させることができ、その結果、微細気泡を大量に発生させることができる。
【0025】
(e)上記した効果を奏する加圧浮上分離装置を備えた汚泥濃縮システムによれば、加圧浮上分離装置によって固形回収率が向上し、高分子凝集剤の使用が不要となるので、分離後の濃縮汚泥はコンポスト施設等で堆肥化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明に係る加圧浮上分離装置の実施の形態を図面に基づき説明する。
[実施の形態]
図1は、本発明に係る加圧浮上分離装置を備えた汚泥濃縮システムの実施の形態を説明するための概略説明図である。
図1に示す汚泥濃縮システムは、破線で囲んだ部分で示される加圧浮上分離装置1と、加圧浮上分離装置1に導入する廃水が貯留される廃水槽2及び貯留槽3と、加圧浮上分離装置1で浮上分離させた懸濁物質(SS)を更に濃縮汚泥と分離水に分ける分離タンク4とを備えている。
【0027】
加圧浮上分離装置1は、一次浮上分離槽5と、二次浮上分離槽8と、二点鎖線で囲んだ部分で示される気液混合装置6と、一次浮上分離槽5内に設けてある微細気泡発生装置7と、消泡装置9とを備えている。
【0028】
一次浮上分離槽5には、被処理水である廃水が導入される。気液混合装置6は、微細気泡発生装置7に供給する第一気液混合流体を得るための気液混合手段を構成する。微細気泡発生装置7は、上記気液混合装置6で得られた第一気液混合流体に更に気体を取りこませて第二気液混合流体を得ることができるエゼクタ式のノズル71(以下、単に「エゼクタノズル」と略す。)を備えている。微細気泡発生装置7は、この第二気液混合流体を一次浮上分離槽5内に供給して気泡を発生させる装置である。
【0029】
以下、加圧浮上分離装置1を備えた汚泥濃縮システムの各構成部分について、順を追って詳しく説明する。
一次浮上分離槽5に導入される廃水は、上記した廃水槽2に予め貯留されている。そして、廃水は廃水槽2内に設けられた揚水ポンプ21により、沈殿物等の固形分が除かれた状態で貯留槽3に送られ、一時的に貯留される。
【0030】
貯留槽3は、廃水導入管31を介して一次浮上分離槽5と連結されている。符号312は、廃水導入管31の基端部に設けてあるフランジを備えた接続部を示している。この接続部312に貯留槽3から延びた廃水を送るための配管が接続されている。廃水導入管31には吸込ポンプ32と定量供給器33が設けられ、所定量の廃水が連続的に一次浮上分離槽5に送られるようになっている。廃水導入管31の先端は、一次浮上分離槽5に入れられた廃水の内部(液相部)に導出されている。
【0031】
一次浮上分離槽5は、槽内の気相部51が外気と遮断されたまたは本質的に遮断された気密構造で構成されている。一次浮上分離槽5は、連結管52によって二次浮上分離槽8と連通している。二次浮上分離槽8も、一次浮上分離槽5と同様に、槽内の気相部81が外気と遮断されたまたは本質的に遮断された気密構造で構成されている。
【0032】
気液混合装置6は、上記したように微細気泡発生装置7に供給する第一気液混合流体を得るための装置である。気液混合装置6は、液体中に空気を加圧混合する加圧ポンプ61と、空気溶解槽62を備えている。
【0033】
一次浮上分離槽5から加圧ポンプ61への液体の取り込みは給水管53によって行われ、その液体として一次浮上分離槽5で分離操作が行われた後の分離水(処理水)が使用される。給水管53の基端側は、取込口531が一次浮上分離槽5の底部よりもやや上方に位置するように、一次浮上分離槽5の底部から上方にやや立ち上げて設けてある。これにより、仮に一次浮上分離槽5の底に浮上濃縮させることが不可能な程の大きな固形物が沈殿していた場合でも、この固形物が給水管53を通って加圧ポンプ61に混入することを防いで、加圧ポンプ61が故障することを防止できる。加圧ポンプ61によって空気が加圧混合された分離液は、連結管64を通って空気溶解槽62を通り、例えば3kgf/cmに加圧された第一気液混合流体となる。
【0034】
第一気液混合流体は、気液混合装置6から圧送管63を通って一次浮上分離槽5内に設けてある微細気泡発生装置7に送られる。そして、第一気液混合流体はエゼクタノズル71によって更に気体が取りこまれて第二気液混合流体となった後、一次浮上分離槽5に供給されて微細気泡を大量に発生させる。この微細気泡は廃水中の懸濁物質に付着し、付着した微細気泡の浮力によって懸濁物質は浮上濃縮される。
【0035】
図2は微細気泡発生装置7を示す側面視説明図、図3は図2に示す微細気泡発生装置7の底面視説明図である。
図2及び図3を参照して、微細気泡発生装置7の構造について説明する。微細気泡発生装置7は、第二気液混合流体を気泡化する略円筒状のエゼクタノズル71を所要数(本実施例では四箇所)備えている。
【0036】
図1に示すように、微細気泡発生装置7は一次浮上分離槽5内の底部寄りに設けてあり、気泡がより底部側から浮上するように、複数のエゼクタノズル71の噴出口が底部側に向けられた状態で配置されている。エゼクタノズル71は、微細気泡発生装置本体72の先端面721から噴出口を外部へ突出した状態で設けてある。微細気泡発生装置本体72の基部側には、上記したように第一気液混合流体が送られる圧送管63が接続されている。なお、微細気泡発生装置7は第二気液混合流体を一次浮上分離槽5に供給できる構造となっていれば、一次浮上分離槽5の外に設置しても良い。
【0037】
図3に示すように、微細気泡発生装置本体72の先端面721は底面視で円形であり、エゼクタノズル71はその先端面721の中央部を中心とする円周上に等間隔で四箇所配置されている。そして、図2に示した圧送管63から送られた第一気液混合流体は、加圧された状態で微細気泡発生装置本体72の気液流体流通部722を通って各エゼクタノズル71から一次浮上分離槽5側へ高速で噴出する。
【0038】
図4は、図2に示す微細気泡発生装置7に設けてあるエゼクタノズル71を拡大した側面視断面図である。
エゼクタノズル71は略円筒状に形成されている。エゼクタノズル71は、その基部側(図4で左端側)に図2で示した気液流体流通部722と接続される気液流体通路711を備えている。気液流体通路711の先端部中央は、基端部の孔径が約3〜10mmの気液流体噴出部である気液流体噴出孔712と繋がっている。本実施例では、気液流体通路711は同じ内径を保ちながら気液流体噴出孔712と繋がっているが、その先部側(図4で右側)を気液流体噴出孔712に向かってすぼまるようにテーパー状に形成することもできる。
【0039】
上記したように、気液流体噴出孔712の基部側(図4で左側)は孔径が約3〜10mmであるが、先部側(図4で右側)はその孔径が約5〜12mmと気液流体噴出孔712よりも拡がった噴出拡張部713を構成している。この噴出拡張部713は、後述する気体連通経路715から吸引される空気と、気液流体通路711から噴出される第一気液混合流体とを混合または混合溶解させる混合部を構成する。
【0040】
そして、気液流体噴出孔712の先部側である噴出拡張部713は、エゼクタノズル71の先部側に設けてある気泡噴出部である気泡噴出孔714と繋がっている。気泡噴出孔714は、その内径が噴出拡張部713から先端側に向かって拡がるようにテーパー状に形成され、一次浮上分離槽5内へ微細気泡を噴出させる。
【0041】
気液流体噴出孔712の途中には、第一気液混合流体の噴出によって発生した負圧により、第一気液混合流体に吸引される気体を連通させる気体連通手段である気体連通経路715が繋がっている。気体連通経路715は、エゼクタノズル71の外から導出された空気流通部である空気流通管716が接続されている。
【0042】
図3に示すように、空気流通管716の先端部は、各エゼクタノズル71の気体連通経路715とそれぞれ繋がっている。そして、空気流通管716の基端側は、他の空気流通管716に接続され、微細気泡発生装置本体72の外から導かれた空気通気部である通気管73の先端部と接続されている。通気管73の基端側は、図1に示す一次浮上分離槽5の外へ導出され外気と連通している。
【0043】
図4に示すように、エゼクタノズル71の気体連通経路715は、気液流体噴出孔712の外周全体に渡って連通する空間部718を備えている。空間部718は、第一気液混合流体の流れ方向に所要の厚さ(例えば約5mm)を有する正面視円形状の空間である。気液流体噴出孔712と連通する空間部718の連通部717は、空間部718の厚さ約5mmよりも狭い隙間から構成されている。連通部717は、上記した気液流体噴出孔712の基部側よりもやや広がった噴出拡張部713に繋がっている。
【0044】
図5はエゼクタノズル71から発生する微細気泡の発生メカニズムを模式的示す拡大断面説明図である。
以上のような構成により、図1に示す気液混合装置6で混合された第一気液混合流体は、加圧された状態で微細気泡発生装置7に導入され、エゼクタノズル71に送られる。図5に示すエゼクタノズル71に送られた第一気液混合流体は、気液流体通路711を通って気液流体噴出孔712から高速で噴出する。
【0045】
この第一気液混合流体の高速噴出によって気液流体噴出孔712の出口近傍に負圧(低圧)が発生し、この負圧により気体連通経路715から噴出拡張部713へ空気が吸引される。これにより、第一気液混合流体に更に空気を取りこませて第二気液混合流体となる。更に空気が多く混合または混合溶解された第二気液混合流体は、噴出拡張部713を抜けて気泡噴出孔714から一次浮上分離槽5内の廃水中へ噴出される。そうして、加圧された第二気液混合流体は一次浮上分離槽5に開放されることで圧力低下状態におかれ(加圧状態から開放され)、大量の微細気泡を発生させる。
【0046】
この微細気泡発生の詳細なメカニズムは定かではないが、一応次のように考えられる。
即ち、第一気液混合流体Aは気液流体噴出孔712から直進方向に噴出する。この第一気液混合流体の噴流によって、一次浮上分離槽5側からエゼクタノズル71内に逆流水Bが気泡噴出孔714の内壁に沿って逆流してくる。
【0047】
そして、気体連通経路715の狭い連通部717を抜けて高速状態で吸引される空気Cは、第一気液混合流体Aの噴流の周りを取り囲んだ状態で気液流体噴出孔712から気泡噴出孔714へ引きずり込まれていく。そして、第一気液混合流体Aと上記した逆流水Bの間に挟まれた状態で空気Cは吸引され、この空気Cの噴流と第一気液混合流体Aの噴流の摩擦によって空気Cが剪断され、より微細な気泡が大量に発生する。
【0048】
しかも、上記したように、図1に示す一次浮上分離槽5は、槽内の気相部51が外気と遮断されたまたは本質的に遮断された気密構造で構成されているので、外気に開放されている従来の浮上分離槽と相違して、廃水の液面上から気相部51へに浮上した気泡は外気へ逃げず、気相部51内は大気圧(外気)よりも高い圧力状態に保たれる。その結果、廃水中の液圧も、通常の液圧(浮上分離槽が外気に開放されている場合の廃水の液圧)よりも高い状態におかれる。そうして、加圧された第二気液混合流体は、浮上分離槽5内の廃水中に開放されることで圧力低下状態になり気泡化するが、上記したように通常の液圧よりも高い圧力状態下で気泡化するため、大気圧下の浮上分離槽で発生する気泡よりも微細な気泡が発生する。
【0049】
また発生後、一次浮上分離槽5内を浮上する微細気泡は、通常の液圧よりも高い圧力下におかれているため、上昇に伴って大きくなることはなく、その大きさを本質的に維持しながら浮上する。
【0050】
このように、微細気泡発生装置7と一次浮上分離槽5の気密構造によって、より微細な気泡を大量に発生させることができるので、従来法では浮上濃縮させることが困難であった小さな固体粒子まで浮上濃縮させることができる。その結果、固形分回収率が向上するため、高分子凝集剤を使用する必要がなく、分離後の濃縮汚泥はコンポスト施設等で堆肥化することができる。また、より微細な気泡を発生させることにより、気泡に付着する水分量も少なくなり、分離した固形分濃度の低下も防止できる。
【0051】
図1を参照する。
微細気泡によって水面上に浮上分離された懸濁物質は、水面付近に配置された逆円錐形状の集泥器54によって集められる。そして、排出管541を通って消泡装置9に送られる。消泡装置9は、所要数の撹拌羽根91を備えた回転軸92を有している。そして、モータ等の動力源によって撹拌羽根91を回転させることで、懸濁物質に含まれる微細気泡を物理的に破壊して消泡させる。符号94は一次浮上分離槽5の気相部51及び後述の二次浮上分離槽8の気相部81の内圧を調整する圧力調整弁を示している。
【0052】
上記したように、一次浮上分離槽5は、二次浮上分離槽8と連結管52によって連通している。そして、連結管52からは、一次浮上分離槽5で分離操作が行われた後の分離水が送られる。一次浮上分離槽5で分離した懸濁物質が二次浮上分離槽8に流れないように、連結管52の基端側は一次浮上分離槽5の水面下よりも低い位置に接続されている。
【0053】
また連結管52には、微細気泡発生装置7から発生した微細気泡の一部が分離水と一緒に二次浮上分離槽8へ流れ込むようになっている。これにより、二次浮上分離槽8側でも、微細気泡による懸濁物質の浮上分離が行われる。そして、この微細気泡が二次浮上分離槽8の底部側から浮上するように、連結管52の先端部は二次浮上分離槽8の底部側まで導入されている。また、二次浮上分離槽8で分離操作が行われた後の分離水(処理水)は、排出管83を通って外へ排出される。排出管83の先端には、フランジを備えた接続部831が設けてあり、この接続部831に分離水を貯留するタンク等に送るための配管(図示省略)が接続される。
【0054】
二次浮上分離槽8の水面上にも同様に逆円錐形状の集泥器82が設けてある。そして、集泥器82から導出された排出管821は、一次浮上分離槽5側の排出管541と連結し、上記した消泡装置9に接続されている。
【0055】
なお、本実施例では微細気泡発生装置7を二次浮上分離槽8側には設けていないが、一次浮上分離槽5の処理能力によっては、二次浮上分離槽8側にも微細気泡発生装置7を設けても良い。
【0056】
消泡装置9で処理された懸濁物質は、排出管93を通って分離タンク4に送られる。分離タンク4では、更に上層の濃縮汚泥と下層の分離水とに分けられ、濃縮汚泥は既存のコンポスト施設等で堆肥化される。符号931は、排出管93の先端部に設けてあるフランジを備えた接続部931を示しており、この接続部931に分離タンク4から延びた配管が接続されている。
【0057】
なお、一次浮上分離槽5には、開閉弁501を備えたドレーン管502が接続されている。二次浮上分離槽8にも同様に、開閉弁801を備えたドレーン管802が接続されている。各ドレーン管502,802は連結管503に連結されている。連結管503の先端部分には、フランジを備えた接続部504が設けてあり、この接続部504に排水用の配管(図示省略)が接続される。
【0058】
[実施例]
図6ないし図9は、図1で破線で囲んだ部分で示される加圧浮上分離装置1を一体型に構成した場合の説明図である。
図6は加圧浮上分離装置1を示す正面視説明図、
図7は図6に示す加圧浮上分離装置1の平面視説明図、
図8は図6に示す加圧浮上分離装置1の背面視説明図、
図9は図6に示す加圧浮上分離装置1の左側面視説明図である。
【0059】
図6ないし図9に示す加圧浮上分離装置1の各構成部材の作用は、図1を基に既に説明しているため、ここではその説明を省略する。また、図6ないし図9には図1で付した符号と同一符号を付している。なお、本実施例で示す加圧浮上分離装置1の左右方向及び正面・背面方向は、図6を基に説明している。
【0060】
以下、図1及び図6ないし図9を参照しながら、加圧浮上分離装置1について説明する。
加圧浮上分離装置1の大きさは、図6において横が約1460mm、高さが1650mm、奥行きが約750mmである。この大きさは、あくまでも一例にすぎず、要求される廃水の処理能力に応じて適宜設定される。
【0061】
加圧浮上分離装置1は、一次浮上分離槽5及び二次浮上分離槽8を載置する台部材10を備えている。台部材10は、図7に示すように、その上面に平面視長方形の天板101を備えている。この天板101上に、平面視円形状で樽のような形をした一次浮上分離槽5と二次浮上分離槽8が並設されている。
【0062】
図6に示すように、一次浮上分離槽5及び二次浮上分離槽8の上方には、左右方向に伸びた定量供給器33を有する廃水導入管31の先部側が配設されている。廃水導入管31の先端側は、図9に示すように、導入口311を下に向けた状態で一次浮上分離槽5内の廃水中に導入されている。
【0063】
更に図6に示すように、廃水導入管31の基部側(図6で右端側)は下方に曲げられた後、二次浮上分離槽8の背面側を通って台部材10の中に入り、更に図7に示すように、台部材10内の底部側で水平方向に曲げられて、最後は台部材10の左側面部から外へ突出している。そして、その突出部分にフランジを備えた接続部312が設けてあり、この接続部312に廃水槽2や貯留槽3から延びた廃水を送るための配管(図示省略)が接続される。
【0064】
気液混合装置6を構成する加圧ポンプ61と空気溶解槽62は、台部材10の内部に収容されている。一次浮上分離槽5から下方の加圧ポンプ61へ分離水を送る給水管53と、加圧ポンプ61と空気溶解槽62を繋ぐ連結管64についても、台部材10の内部に収容されている。
【0065】
空気溶解槽62から第一気液混合流体を一次浮上分離槽5に送る圧送管63は、台部材10の上部から一次浮上分離槽5と二次浮上分離槽8の間(図7及び図9参照)を上方へ抜け、更に一次浮上分離槽5の天井部から一次浮上分離槽5内に導出されている。そして、圧送管63の先端側に図2に示した微細気泡発生装置7が接続されている。
【0066】
一次浮上分離槽5で分離した懸濁物質を消泡装置9へ排出する排出管541(図7参照)は、一次浮上分離槽5の正面側から台部材10の長さ方向(図7で右方向)へ約90度の角度で曲げられた後、消泡装置9の正面側に接続されている。
【0067】
消泡装置9は、一次浮上分離槽5と二次浮上分離槽8で挟まれた正面側の隣接スペースS(図7参照)に配置されている。二次浮上分離槽8で分離した懸濁物質を排出する排出管821も同様に、二次浮上分離槽8の正面側から台部材10の長さ方向(図7で左方向)へ約90度の角度で曲げられた後、消泡装置9の正面側に接続されている。
【0068】
消泡装置9には圧力調整弁94が設けられている。消泡装置9で処理された懸濁物質を排出する排出管93(図1参照)は、消泡装置9の下部から台部材10の中に入り、更に台部材10内の天井部側で水平方向(左方向)に曲げられて、最後は台部材10の左側面部から外へ突出している。そして、その突出部分にフランジを備えた接続部931が設けてあり、この接続部931に分離タンク4等から延びた懸濁物質を排出するための配管(図示省略)が接続される。
【0069】
二次浮上分離槽8で得られた分離水を排出する排出管83は、二次浮上分離槽8の正面側から下方に伸びて台部材10の中に入り、更に台部材10内の底部側で水平方向(左方向)に曲げられて、最後は台部材10の左側面部から外へ突出している。そして、その突出部分にフランジを備えた接続部831が設けてあり、この接続部831に分離水を貯留するタンク等に送るための配管(図示省略)が接続される。
【0070】
図8に示すように、一次浮上分離槽5の背面側には、開閉弁501を備えたドレーン管502が接続されている。二次浮上分離槽8の背面側にも同様に、開閉弁801を備えたドレーン管802が接続されている。各ドレーン管502,802は連結管503に連結されている。連結管503は、下方に伸びて台部材10の中に入り、更に台部材10内の底部側でL字状に二回曲げられて、最後は台部材10の左側面部の略中央(図7参照)から外へ突出している。そして、その突出部分にフランジを備えた接続部504が設けてあり、この接続部504に排水用の配管(図示省略)が接続される。
【0071】
また図8に示すように、台部材10の内部には、加圧浮上分離装置1の各ポンプを制御する制御盤102が収容されている。制御盤102によって加圧浮上分離装置1を自動運転と手動運転に切り替えることができる。
【0072】
(実験例)
図6に示す加圧浮上分離装置1を使用して、家畜舎の糞尿貯留施設から発生した活性汚泥を浮上濃縮し、処理前の廃水と処理後の分離液の水質検査を行った。下記表1にその水質検査の結果と、その分析結果から算出した除去率(%)を示す。
【0073】
【表1】

【0074】
表1の結果から明らかなとおり、非常に高い除去率で活性汚泥の濃縮分離が可能なことが分かる。
【0075】
なお、本明細書で使用している用語と表現はあくまで説明上のものであって、限定的なものではなく、上記用語、表現と等価の用語、表現を除外するものではない。また、本発明は図示の実施例に限定されるものではなく、技術思想の範囲内において種々の変形が可能である。
【0076】
更に、特許請求の範囲には、請求項記載の内容の理解を助けるため、図面において使用した符号を括弧を用いて記載しているが、特許請求の範囲を図面記載のものに限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】本発明に係る加圧浮上分離装置を備えた汚泥濃縮システムの実施の形態を説明するための概略説明図。
【図2】微細気泡発生装置7を示す側面視説明図。
【図3】図2に示す微細気泡発生装置7の底面視説明図。
【図4】図2に示す微細気泡発生装置7に設けてあるエゼクタノズル71を拡大した側面視断面図。
【図5】エゼクタノズル71から発生する微細気泡の発生メカニズムを模式的示す拡大断面説明図。
【図6】加圧浮上分離装置1を示す正面視説明図。
【図7】図6に示す加圧浮上分離装置1の平面視説明図。
【図8】図6に示す加圧浮上分離装置1の背面視説明図。
【図9】図6に示す加圧浮上分離装置1の左側面視説明図。
【符号の説明】
【0078】
1 加圧浮上分離装置
2 廃水槽
3 貯留槽
4 分離タンク
5 一次浮上分離槽
6 気液混合装置
7 微細気泡発生装置
8 二次浮上分離槽
9 消泡装置
10 台部材
21 揚水ポンプ
31 廃水導入管
32 吸込ポンプ
33 定量供給器
51 気相部
52 連結管
53 給水管
54 集泥器
61 加圧ポンプ
62 空気溶解槽
63 圧送管
64 連結管
71 エゼクタノズル
72 微細気泡発生装置本体
73 通気管
81 気相部
82 集泥器
83 排出管
91 撹拌羽根
92 回転軸
93 排出管
94 圧力調整弁
101 天板
102 制御盤
311 導入口
312 接続部
501 開閉弁
502 ドレーン管
802 ドレーン管
503 連結管
504 接続部
531 取込口
541 排出管
711 気液流体通路
712 気液流体噴出孔
713 噴出拡張部
714 気泡噴出孔
715 気体連通経路
716 空気流通管
717 連通部
718 空間部
721 先端面
722 気液流体流通部
801 開閉弁
802 ドレーン管
821 排出管
831 接続部
931 接続部
A 一次気液混合流体
B 逆流水
C 空気
S 隣接スペース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
廃水処理における加圧浮上分離装置であって、
槽内の気相部(51)が外気と遮断されたまたは本質的に遮断された気密状態になるように構成された浮上分離槽(5)を備えていることを特徴とする、
加圧浮上分離装置。
【請求項2】
廃水処理における加圧浮上分離装置であって、
槽内の気相部(51)が外気と遮断されたまたは本質的に遮断された気密状態になるように構成された浮上分離槽(5)を備え、
該浮上分離槽(5)内において、大気圧よりも高い圧力状態の気相部(51)の下で気泡が発生するように構成されていることを特徴とする、
加圧浮上分離装置。
【請求項3】
加圧下で液体中に気体を混合して第一気液混合流体を得る気液混合手段(6)と、
浮上分離槽(5)内に第二気液混合流体を供給して気泡を発生させる微細気泡発生装置(7)と、
を備え、
該微細気泡発生装置(7)は、上記気液混合手段(6)で得られた第一気液混合流体に更に気体を取り込ませることができるエゼクタ式のノズル(71)を備えていることを特徴とする、
請求項1または2記載の加圧浮上分離装置。
【請求項4】
エゼクタ式のノズル(71)は第一気液混合流体を噴出させる気液流体噴出部(712)と、該第一気液混合流体の噴出によって発生した負圧により、第一気液混合流体に吸引される気体を連通させる気体連通部(715)とを有し、
該気体連通部(715)は、気液流体噴出部(712)の外周全体に渡って連通する空間部(716)を備えていることを特徴とする、
請求項3記載の加圧浮上分離装置。
【請求項5】
請求項1,2,3または4記載の浮上分離装置(1)を備えたことを特徴とする、
汚泥濃縮システム。
【請求項6】
廃水処理における加圧浮上分離方法であって、
浮上分離槽における槽内の気相部を外気と遮断または本質的に遮断して気密状態にすることにより、大気圧よりも高い圧力状態の気相部(51)の下で上記浮上分離槽内で気泡を発生させるようにしたことを特徴とする、
加圧浮上分離方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−297239(P2006−297239A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−120413(P2005−120413)
【出願日】平成17年4月18日(2005.4.18)
【出願人】(505144913)
【Fターム(参考)】