説明

廃液からの硝酸回収方法

【課題】加水分解能を上げて、硝酸の回収率を上げる。
【解決手段】硝酸塩を含有する廃液から硝酸を分離して回収する廃液からの硝酸回収方法であって、前記廃液を亜臨界水状態にして加水分解し、前記廃液の加水分解により生成した硝酸と金属酸化物を含む混合液から固液分離手段により硝酸を分離して回収する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は硝酸塩を含有する廃液から硝酸を分離して回収する廃液からの硝酸回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば硝酸鉄などの硝酸塩を含有する廃液から硝酸を回収するには、廃液に硝酸を添加して濃度調整し、その混合液を蒸留により硝酸を気化させて回収する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】USP3852412号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した従来の方法においては、廃液中の硝酸鉄を添加する硝酸により加水分解させて酸化鉄を生成し、廃液中の硝酸の濃度を上げることが行われているのであるが、廃液中に添加する硝酸がかなり多く必要で、廃液中から回収できる硝酸の回収率が悪いという問題点がある。
【0005】
従って、本発明の目的は、上記問題点を解消し、加水分解能を上げて、硝酸の回収率を上げるところにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の特徴構成は、硝酸塩を含有する廃液から硝酸を分離して回収する廃液からの硝酸回収方法であって、前記廃液を亜臨界水状態にして加水分解し、前記廃液の加水分解により生成した硝酸と金属酸化物を含む混合液から固液分離手段により硝酸を分離して回収するところにある。
【0007】
本発明の第1の特徴構成によれば、廃液を亜臨界水状態にすることにより、廃液中の硝酸塩の加水分解が効率よく進行する。その結果、硝酸塩は、特に薬品を添加しなくとも硝酸と金属酸化物とに変換され、固液分離手段により容易に分離でき硝酸を回収できる。
【0008】
本発明の第2の特徴構成は、前記混合液に濃硫酸を添加するところにある。
【0009】
本発明の第2の特徴構成によれば、本発明の第1の特徴構成による上述の作用効果を叶えることができるのに加えて、濃硫酸により亜臨界水状態の廃液の加水分解が進行しやすく、遊離硝酸が増える。また、濃硫酸の存在により、加水分解能が上がるために、亜臨界状態の反応温度や圧力が下げられるという利点もある。
従って、硝酸の回収率がより向上すると共に、硝酸回収のためのエネルギー効率も向上できる。
【0010】
本発明の第3の特徴構成は、硝酸塩を含有する廃液から硝酸を分離して回収する廃液からの硝酸回収方法であって、前記廃液に濃硫酸を添加して硝酸と硫酸塩とを生成させ、前記生成した硝酸と硫酸塩を含む混合液から固液分離手段により硝酸を分離して回収することにある。
【0011】
本発明の第3の特徴構成によれば、廃液に濃硫酸を添加することで硝酸塩が、その一部を構成する硝酸基が硫酸基と置換されて硫酸塩に変換される。その結果、硝酸が液中に遊離し固液分離手段により硫酸塩から分離して回収できるようになる。
【0012】
本発明の第4の特徴構成は、第3の特徴構成の前記混合液を亜臨界水状態にした後、前記固液分離手段により硝酸を分離して回収することにある。
【0013】
本発明の第4の特徴構成によれば、混合液中の未反応の硝酸塩が亜臨界水状態になることにより、加水分解して硝酸と金属酸化物に変換される。
従って、より一層硝酸の回収率が上がる。
【0014】
本発明の第5の特徴構成は、前記亜臨界水状態は、100℃〜200℃で飽和蒸気圧以上にすることにある。
【0015】
本発明の第5の特徴構成によれば、100℃〜200℃で飽和蒸気圧以上にすることで、加水分解効率を上げられる。つまり、100℃より低ければ加水分解が困難になるためであり、また、200℃より高くなれば、分解反応が平衡状態になり、エネルギーの無駄になるばかりか、硝酸が分解して回収率が上がらなくなる傾向にあるからである。
【0016】
本発明の第6の特徴構成は、前記固液分離手段は、蒸留法により分離する手段であるところにある。
【0017】
本発明の第6の特徴構成によれば、前記混合液は、揮発成分としての硝酸と、不揮発成分としての酸化金属や金属硫酸塩からなるものであるために、単純な蒸留装置により分離でき、しかも、高価な消耗品を必要とせず低コストで硝酸を回収できる。
【0018】
本発明の第7の特徴構成は、前記廃液中の硝酸塩の一部を構成する金属元素は、鉄、ニッケル、コバルトからなる鉄族金属の少なくとも1種であることにある。
【0019】
本発明の第7の特徴構成によれば、廃液中の鉄族金属からなる硝酸塩は、加水分解により生成される金属酸化物又は、濃硫酸との反応により生じる硫酸塩が水に不溶性のものになり易く、固液分離手段による硝酸との分離が容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】第1実施形態の反応フロー図である。
【図2】亜臨界水処理の概念図である。
【図3】第2実施形態の反応フロー図である。
【図4】硫酸の濃度変化と加水分解率との関係を示すグラフである。
【図5】反応温度と加水分解率との関係を示すグラフである。
【図6】反応時間と加水分解率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
例えば、鉄鋼材洗浄等で使用された硝酸は、酸化金属の溶解によって金属硝酸塩が生成して硝酸の洗浄力が低下する。
その酸洗浄から排出される廃液には、硝酸、硝酸鉄、水分などが含まれ、その廃液は、一般的にはアルカリ剤で中和した後に環境中へ排出される。
そこで、前記廃液から有価物としての硝酸を分離して回収することによって、硝酸製造によるエネルギー消費や温室効果ガス発生による環境負荷を抑制するために、次の方法が考えられる。
【0022】
〔第1実施形態〕
本発明の廃液からの硝酸回収方法は、図1のフローに示すように、前記廃液を100℃以上の処理温度に加熱すると共に、圧力を飽和蒸気圧以上の亜臨界水状態にして加水分解を行う
つまり、図2に示すように、廃液中の水分が、HとOHの活性種になり硝酸鉄(FeNO3)の硝酸基(NO)が水酸基(OH)と置換して水酸化鉄(Fe(OH)3)に変換され、更に水に不溶の酸化鉄(Fe23)と水(H2O)になると共に、硝酸基(NO3)は、硝酸(HNO3)として水に溶解した状態になる。
【0023】
図1に示すように、亜臨界水状態にして加水分解して生成した硝酸(HNO3)と酸化鉄(Fe23)との混合液を、固液分離手段の一例として蒸留して固液分離するのであるが、前記混合液に濃硫酸(H2SO4)を12質量%添加することにより、更に加水分解して遊離硝酸を生成させることができる。
前記混合液の蒸留により、硝酸(HNO3)と水(H2O)を含む硝酸水溶液が回収され、残渣として、酸化鉄(Fe23)、硫酸鉄(Fe2(SO43)、水(H2O)を含むものが残る。
回収した硝酸水溶液は、蒸留により最大で約60質量%の濃度まで濃縮でき、再度酸洗浄液として再資源化できる。蒸留処理の残渣は、アルカリ(NaOH)により中和してセメント原料等に使用できる。
【0024】
〔第2実施形態〕
図3のフローに示すように、前記廃液(硝酸、硝酸鉄、水等を含む)に96%の濃度の濃硫酸(H2SO4)を添加して硝酸(HNO3)と硫酸鉄(Fe2(SO43)等の硫酸塩とを生成させ、前記生成した硝酸(HNO3)と硫酸塩を含む混合液から蒸留等の固液分離手段により硝酸(HNO3)を分離して回収する。
尚、廃液に添加する濃硫酸(H2SO4)は、全体の10質量%以上で作用し、含有する金属元素の濃度に相当する量以上に投入するのが良い。
上記方法では、廃液1000kgに対して、濃硫酸(H2SO4)250kgを添加することで、留出液としての硝酸水溶液が800kg回収でき、残渣分は400kg、Loss分は、50kgに分かれた。
【0025】
尚、濃硫酸を添加後、固液分離する前に前記混合液を亜臨界水状態にすることで、加水分解効率を上げることも良い。
【実施例1】
【0026】
蒸留による硫酸添加率と硝酸鉄の加水分解率との関係を測定して、図4に示した。
硝酸鉄を含んだ廃液(硝酸鉄32質量%、硝酸5質量%、水分63質量%)に97%濃度の濃硫酸を添加させた後、150℃の亜臨界水廃酸処理を1時間行って、亜臨界水中で硝酸鉄の加水分解を行った。
硝酸鉄の反応(加水分解)は、下式で表され、反応の進行と共に、廃酸溶液中の鉄イオンは沈殿(オキシ水酸化鉄や三酸化二鉄)となる。
Fe(NO33+2H2O→FeO(OH)(沈殿)+3HNO3
2FeO(OH)→Fe23(沈殿)+H2
この反応において、硫酸の添加による反応促進効果を検討した結果を図4に示した。
その結果、硫酸が反応触媒として作用し、硝酸鉄の加水分解は促進される事が分かった。
例えば、約20%の硫酸の添加で約80%以上の硝酸鉄が加水分解された。しかし、約30%以上では、加水分解率は上限に達してこれ以上上がらず、硫酸の添加が無駄になる事が分かる。
尚、硝酸鉄の進行度を、反応液中に残存する未反応の鉄イオン濃度を測定することで行った。
【実施例2】
【0027】
硝酸鉄を含んだ廃酸(硝酸鉄32質量%、硝酸5質量%、水分63質量%)を、反応時間1時間の条件で亜臨界水処理を行い、反応温度を変えることで加水分解の温度依存性についての測定をして図5に示した。
その結果、硝酸鉄の加水分解は、反応温度に依存することが分かった。反応時間1時間では、反応温度200℃で加水分解率が8割に達し、それより上げても殆ど改善は見られなかった。つまり、100℃〜200℃で飽和蒸気圧以上にすることで加水分解効率を上げられ、これは、100℃より低ければ加水分解が困難になるためであり、また、200℃より高くなれば、分解反応が平衡状態になり、エネルギーの無駄になるばかりか、硝酸が分解して回収率が上がらなくなる傾向にある。
また、硫酸を20%添加して加水分解を行った結果も合わせて示した。いずれの温度領域においても硫酸による反応促進効果は得られ、特に、150℃程度の低温領域では、触媒効果が大きく、約50%の加水分解率向上が得られた。一方、200℃以上では、その効果は小さくなった。これは、硝酸鉄の加水分解は、1種の平衡反応であり、本反応系では、約90%の加水分解率が限界値であると考えられる。
【実施例3】
【0028】
硝酸鉄を含んだ廃酸(硝酸鉄32質量%、硝酸5質量%、水分63質量%)を、150℃と200℃との2種類の条件で、亜臨界水中での硝酸鉄の加水分解を行い、反応時間を変えることで加水分解の時間依存性について検討し、図6に示した。
その結果、200℃で1時間後には80%を越える加水分解率が得られるが、1時間を越えて処理しても回収率は変わらないことが分かる。
また、150℃の場合、4時間処理すれば、約80%の加水分解率が得られ、処理温度が低温になれば、より長時間の処理により、加水分解率が向上して平衡状態にまでできることが分かる。
【0029】
以上より、廃酸中の硝酸金属塩の加水分解を効率よく行う手段として、
1. 反応温度を上げる。
2. 反応時間を長くする。
3. 触媒として硫酸を添加する。
事が有効である。つまり、
前記1.では、200℃、反応時間1時間。
前記2.では、150℃、反応時間4時間。
前記3.では、150℃、反応時間1時間、硫酸20%添加。
の何れか、もしくはこれらの条件を組み合わせることによって、化学平衡の限界まで加水分解を行うことができる。
【0030】
〔別実施形態〕
以下に他の実施の形態を説明する。
【0031】
〈1〉 廃液中の硝酸塩の一部を構成する金属元素は、鉄以外に、ニッケル、コバルトからなる鉄族金属を対象とした廃液の処理に効果的で、他に、銅、マンガン、クロームなどの硝酸化合物であっても良い。
〈2〉 前記廃液の処理法としては、硝酸の他にフッ化水素を含む混酸廃液にも利用できる。
〈3〉 反応後の混合液から硝酸を分離回収するのに、固液分離手段としては、沈殿分離、膜分離、蒸留等が可能で、それらを単独で行ったり、又は、組み合わせたりしても良い。つまり、組み合わせにより沈殿分離や膜分離で大まかに水溶液とスラリーとに分離した後、水溶液を蒸留して、硝酸を優先的に気化させて分離回収すると、効率的に行える場合がある。なお蒸留によると、濃硫酸を添加した廃液は、特に共沸点が上昇して、混合液中の液体成分で水より沸点の低い硝酸が分離回収し易くなる。従って、回収する硝酸の濃度を高くしやすくできる。蒸留の中でも、単蒸留は、前記混合液が、揮発成分としての硝酸と、不揮発成分としての酸化金属や金属硫酸塩からなるものであるために、単純な蒸留装置により分離でき、しかも、高価な消耗品を必要とせず低コストで硝酸を回収できる。そして、分離回収する揮発成分には、水が含まれるために、その水との分離効率を上げるには、多段蒸留が望ましい。また、膜分離法によると、蒸留に比べて低エネルギーで硝酸溶液を回収できるが、分離膜が高価になる虞がある。特に、逆浸透膜では、金属と硝酸の分離が難しく、不純物による劣化により高価な分離膜の交換頻度が必要となるために、高コストであることがネックとなり、亜臨界水処理生成物の分離法としては不適当と思われる。
【0032】
尚、上述のように、図面との対照を便利にするために符号を記したが、該記入により本発明は添付図面の構成に限定されるものではない。また、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得ることは勿論である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硝酸塩を含有する廃液から硝酸を分離して回収する廃液からの硝酸回収方法であって、前記廃液を亜臨界水状態にして加水分解し、
前記廃液の加水分解により生成した硝酸と金属酸化物を含む混合液から固液分離手段により硝酸を分離して回収する廃液からの硝酸回収方法。
【請求項2】
前記混合液に濃硫酸を添加する請求項1に記載の廃液からの硝酸回収方法。
【請求項3】
硝酸塩を含有する廃液から硝酸を分離して回収する廃液からの硝酸回収方法であって、前記廃液に濃硫酸を添加して硝酸と硫酸塩とを生成させ、
前記生成した硝酸と硫酸塩を含む混合液から固液分離手段により硝酸を分離して回収する廃液からの硝酸回収方法。
【請求項4】
前記混合液を亜臨界水状態にした後、前記固液分離手段により硝酸を分離して回収する請求項3に記載の廃液からの硝酸回収方法。
【請求項5】
前記亜臨界水状態は、100℃〜200℃で飽和蒸気圧以上にする請求項1、2、4のいずれかに記載の廃液からの硝酸回収方法。
【請求項6】
前記固液分離手段は、蒸留法により分離する手段である請求項1〜5のいずれか1項に記載の廃液からの硝酸回収方法。
【請求項7】
前記廃液中の硝酸塩の一部を構成する金属元素は、鉄、ニッケル、コバルトからなる鉄族金属の少なくとも1種である請求項1〜6のいずれかに記載の廃液からの硝酸回収方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−93786(P2011−93786A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−217305(P2010−217305)
【出願日】平成22年9月28日(2010.9.28)
【出願人】(599023107)リマテック株式会社 (9)
【Fターム(参考)】