説明

廃液処理方法、廃液処理装置及び水素発生器

【課題】 例えば水素化ホウ素錯化合物のアルカリ水溶液を燃料電池あるいは水素発生に用いた後の廃液を中和剤により中和処理するに当たって、中和剤による当該廃液の増加の程度を抑えることで廃液を収納する収納容器の大型化を抑えること。
【解決手段】 廃液であるアルカリ水溶液に対して、飽和溶液としたときにpHが3以下になる固形の有機酸例えば粉末状のクエン酸、酒石酸及び酢酸を用いる。この中和剤を、廃液を収納する収納部と隔離して収納し、その隔離を解除することで両者が混合されるように廃液処理装置あるいは水素発生器を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素化ホウ素錯化合物のアルカリ水溶液を燃料電池あるいは水素発生に用いた後の廃液であるアルカリ水溶液を中和処理する廃液処理方法、廃液処理装置及び使用済みのアルカリ水溶液を中和処理できる水素発生器に関する。
【背景技術】
【0002】
テトラヒドロホウ酸塩例えば水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)などの金属水素錯化合物は、水酸化ナトリウム(NaOH)などのアルカリ水溶液中において性状が安定しているため、ボロハイドライド燃料電池(以下、燃料電池という。)に供給する燃料液として用いられ(例えば、特許文献1参照。)、あるいは触媒体に接触させて水素を発生させるための液体の水素発生剤として用いられている(例えば、特許文献2参照。)。この種の燃料電池や水素発生器としては、小型で使い勝手のよいものが要求されている。燃料電池については、通常燃料電池本体とその外部の容器との間で燃料液を循環させているが、反応が進んで使用できなくなった廃液は前記容器に回収され、新しい燃料液が入った容器と交換される。また水素発生器については、アルカリ水溶液を収納する収納部と触媒体収納部とを組み合わせた小型の使い捨て水素発生器が検討されている。
【0003】
ところで水素化ホウ素錯化合物のアルカリ水溶液を燃料として用いる燃料電池から排出される廃液であるアルカリ水溶液及び水素化ホウ素錯化合物のアルカリ水溶液を前記触媒体に接触させて加水分解反応により水素を発生させた後のアルカリ水溶液からなる廃液は、危険有害物質であり、取り扱い及び保管上の注意を要し、廃棄物としての処理に毒物及び劇物の法律規制を受ける。そのためこれらアルカリ水溶液は、一般に塩酸及び硫酸などの中和溶液で中和して廃棄処理される。
【0004】
しかしながら、塩酸及び硫酸などの中和溶液による中和処理では、使用済みのアルカリ水溶液に対してかなり高い比率で中和溶液を加える必要があるため、中和された廃液の量が多くなってしまう。このため燃料電池の燃料を溜める上述の容器が大型化してしまうので燃料電池(燃料電池本体と燃料電池循環系とからなるもの)の小型化が阻まれてしまう。また使い捨ての水素発生器についても水素化ホウ素錯化合物のアルカリ水溶液を収納する収納部の容積として中和溶液の注入量を見込んで設計しなければならないため、やはり小型化が困難になる。そしてまたこうした機器における課題に限らず、例えば上記の容器や収納部内の廃液を別途貯留容器に移し替えて例えば一括して中和処理する場合においても中和後の廃液量が多くなることから、貯留容器が大型化し、広い設置スペースが必要になるし、移動などの取り扱い上においても不便である。以上のような課題は、廃液に対する中和溶液の注入比率が高いところから派生している。さらにまた塩酸や硫酸などの中和溶液は液垂れが起り易いことから取り扱いが不便であるという不利益もある。
【0005】
【特許文献1】特開2002−246039(請求項1、請求項2、段落0025〜0029)
【特許文献2】特開2001−19401(段落0005、段落0015、段落0025〜0026)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、例えば水素化ホウ素錯化合物のアルカリ水溶液を燃料電池または水素発生器に用いた後の廃液を中和処理するに当たって、取り扱いが簡単であり且つ中和処理に伴う廃液の増加の程度が小さい廃液処理方法及び廃液処理装置を提供することにある。また他の目的は、水素化ホウ素錯化合物のアルカリ水溶液を触媒に接触させて水素ガスを発生させる水素発生器において、コンパクトで且つ水素発生器内において簡単に中和処理することができる水素発生器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の廃液処理方法は、水素化ホウ素錯化合物のアルカリ水溶液を燃料液として用いる燃料電池から排出される廃液であるアルカリ水溶液を、飽和溶液としたときにpHが3以下となる固形の有機酸により中和処理することを特徴とする。
【0008】
また本発明の廃液処理方法は、水素化ホウ素錯化合物のアルカリ水溶液から水素を発生させた後のアルカリ水溶液からなる廃液を、飽和溶液としたときにpHが3以下となる固形の有機酸により中和処理することを特徴とする。
【0009】
本発明の廃液処理装置は、上述の廃液処理方法に記載の廃液を収納する収納容器と、この収納容器とは隔離して設けられ、飽和溶液としたときにpHが3以下になる固形の有機酸を収納する有機酸収納部と、前記廃液と有機酸とを接触させて当該廃液を中和処理するために、前記収納容器と有機酸との隔離を解除する解除手段と、を備えたことを特徴とする。
【0010】
さらに本発明の水素発生器は、密閉容器内に設けられ、水素化ホウ素錯化合物のアルカリ水溶液を収納する水溶液収納部と、
前記密閉容器内に前記水溶液収納部とは区画されて設けられ、前記アルカリ水溶液と接触して水素を発生させる触媒が収納された触媒収納部と、
前記アルカリ水溶液と前記触媒とを接触させて水素を発生させる状態と、前記アルカリ水溶液と前記触媒とを隔離する状態とを切り替えるための切り替え手段と、
発生した水素を放出するための水素放出口と、
前記水溶液収納部及び触媒収納部とは隔離されて前記密閉容器内に設けられ、飽和溶液としたときにpHが3以下になる固形の有機酸を収納する有機酸収納部と、
前記アルカリ水溶液と前記触媒とを接触させて水素を発生させた後のアルカリ水溶液からなる廃液を有機酸に接触させて中和させるために、前記水溶液収納部と有機酸媒収納部との隔離を解除するための解除手段と、を備えたことを特徴とする。なお、上述した有機酸は、例えばクエン酸、酒石酸及び酢酸より選ばれた少なくとも1種を挙げることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、水素化ホウ素錯化合物のアルカリ水溶液を燃料電池あるいは水素発生に用いた後の廃液であるアルカリ水溶液を中和処理するに当たって、飽和溶液としたときにpHが3以下になる固形の有機酸例えば粉末状のクエン酸を用いているので、液体の中和剤に比べて取り扱いが便利であるし、また廃液に対して中和剤が少量で済むことから中和処理による廃液の増加の程度が小さく、このため廃液が収納される容器の大型化が抑えられる。
【0012】
このように中和剤の量が少なく、中和処理による廃液の増加量も抑えられることから廃液の容器に中和剤を収納する収納部(有機酸収納部)を取り付けて小型の廃液処理装置を構成することができ、そのことによって廃液処理作業が簡単になる。さらにまた携帯用の水素発生器に有機酸収納部を備えた構成を採用することができ、水素発生器の中で廃液を中和処理できることから、使い捨ての水素発生器を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明に係る廃液処理方法の一実施の形態について説明する。ここで説明する実施の形態は、ボロハイドライド燃料電池(以下、燃料電池という。)において、この燃料電池の燃料として用いられた使用済みの水素化ホウ素錯化合物のアルカリ水溶液の廃液処理に関するものである。図1において当該燃料電池の基本構成を示してある。図1中の2は角型の例えば絶縁材からなるケース体であり、このケース体2内は高分子電解質膜からなる透過膜21により酸化剤(正極)室30と燃料極(負極)室40とに区画されている。前記酸化剤極室30には、板状の酸化剤極31がその一面側を透過膜21に接触するように設けられると共に、酸化剤極31の他面側とケース体2との間には、酸化剤の流路部32をなす空間が形成されている。この流路部32には、酸化剤供給路33及び排出路34が接続されており、酸化剤供給路33には、上流側から酸化剤供給源35、供給ポンプ36、加湿手段37及び加熱手段38がこの順に設けられている。
【0014】
前記燃料極室40には、板状の燃料極41がその一面側を透過膜21に接触するように設けられると共に、燃料極41の他面側とケース体2との間には、燃料の流路部42をなす空間が形成されている。この流路部42の一端側には、廃液処理装置5、バルブ43及び供給ポンプ44が介設された燃料の循環路45が接続されている。
【0015】
燃料極41に供給される(流路部42を通流する)燃料としては、水素化ホウ素錯化合物のアルカリ水溶液が用いられ、水素化ホウ素錯化合物として具体的には水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)、水素化ホウ素カリウム(KBH4)、または水素化ホウ素リチウム(LiBH4)などを挙げることができる。またアルカリ水溶液としては、例えば水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物を用いることができる。アルカリ水溶液の濃度は、あまり高濃度にすると水素化ホウ素錯化合物が溶解し難くなるので、例えば30重量%の範囲で選択することが好ましく、例えば20重量%に調製される。水素化ホウ素錯化合物は、目的とする発電容量及びアルカリ水溶液に対する溶解性を考慮して例えば0.1〜50重量%の濃度で用いるのが好ましい。
【0016】
続いて図2に基づいて前記廃液処理装置5について詳細に説明する。この廃液処理装置は円筒状の密閉容器をなす金属製の収納容器50と、この収納容器50の上面側に設けられた前記収納容器50よりも小さい円筒状の密閉容器をなす金属製の有機酸収納部51とから構成されている。前記有機酸収納部51内にはゴムなどの隔膜あるいは樹脂プレートからなる区画部材52の外縁部分が前記有機酸収納部51の側壁に止着するようにして形成されている。この例えばゴムなどからなる隔膜52により前記収納容器50と前記有機酸収納部51とが区画されるようになっている。前記収納容器50には、燃料電池に供給する燃料液である水素化ホウ素錯化合物のアルカリ水溶液53が収納されており、前記有機酸収納部51には、飽和溶液としたときにpHが3以下となる固形の有機酸54が収納されている。
【0017】
前記有機酸収納部51の上端面の中央部には円筒管55が挿設されており、前記円筒管55の先端部は前記隔膜52の近傍に位置している。この円筒管55内には、押圧により撓むフレキシブルな部位56が形成されていて、当該部位を介して円筒状の針部材57が密に嵌合されている。また前記有機酸収納部51の上端面には、前記針部材57を塞ぐように保護キャップ58が装着されている。即ち、この例では収納容器50と有機酸収納部51とを区画する隔膜52と円筒管55内に備えたフレキシブルな部位56と針部材57とにより、収納容器50と有機酸収納部51との隔離を解除する解除手段が構成されている。
【0018】
また前記収納容器50の上面部には、固形の有機酸と使用済みの水素化ホウ素錯化合物のアルカリ水溶液との反応により生成した水素ガスが放出するための図示しない水素排出部が形成されており、この水素排出部には中和処理時に大気中に水素ガスを放出させないように例えば当該水素ガスを吸引排気する装置などを備えた処理設備に繋がる水素排出管などを接続するようにしてもよい。
【0019】
さらに前記収納容器50の上面部には接続部材59、60が設けられており、前記接続部材59には燃料液供給管61が接続され、前記接続部材60には燃料液排出管62が接続されている。なお、燃料液供給管61及び燃料液排出管62は前記循環路45の一部分である。また前記収納容器50内には、接続部材59に位置する部位に吸引管63が接続されており、前記吸引管63の先端部が収納容器50の底面に近接するように設けられている。このように収納容器50の上面部に形成された接続部材59、60により廃液処理装置5を循環路45に対して着脱できるように構成されている。
【0020】
また前記有機酸収納部51に収納される飽和溶液としたときにpHが3以下となる固形の有機酸54とは、具体的には例えば粉末状のクエン酸、酒石酸及び酢酸などを挙げることができる。なお酢酸は常温では液体であるが、16.6℃以下では結晶となることから固体として使用することができる。この場合、寒冷地での使用が有効と思われる。また、これらの固形の有機酸はその使用目的に合わせてペレット状など所望の形状にして前記有機酸収納部51に収納してもよい。
【0021】
次に上述した実施の形態の作用について説明する。酸化剤供給源35からの酸化剤例えば空気を供給ポンプ36により酸化剤極室30の流路部32に供給する。ここで酸化剤を流路部32に供給する前に加湿器37により例えば絶対温度で30〜70%程度に加湿し、更に加熱器38で必要な温度、例えば40〜90℃に加熱する。流路部32を通流した空気は排出路34から排出される。
【0022】
一方前記廃液処理装置5において、前記収納容器50に所定量蓄えられている水酸化ホウ素ナトリウムを水酸化ナトリウム水溶液に溶解させてなる燃料液53を供給ポンプ44により吸引管63を介して吸い上げて燃料極室40の流路部42に供給する。この例では流路部42から排出された使用済みの水素化ホウ素ナトリウムのアルカリ水溶液は収納容器50に戻され、当該アルカリ水溶液が燃料電池の燃料として使用できなくなるまで循環される。即ち、使用後の廃液処理装置5の収納容器50には、このアルカリ水溶液の廃液が蓄えられることになる。燃料液は多孔質体である燃料極41内に浸透して行き、このとき下記の(1)式に示される8電子反応が主として起こり、また(2)式で示される4電子反応も起こっていると考えられる。
【0023】
NaBH4+8NaOH→NaBO2+6H2O+8Na+8e……(1)
NaBH4+4NaOH→NaBO2+2H2O+2H2+4Na+4e……(2)
このようにして燃料極41から電子が、外部に接続された回路に取り出されると共に、燃料中のナトリウムイオンが透過膜21を通って酸化剤極室30側に移動し、下記の(3)式に示すようにナトリウムイオンと酸素及び水分とから水酸化ナトリウムが生成される。
【0024】
2O2+4H2O+8Na+8e→8NaOH……(3)
次に廃液処理装置5の収納容器50に蓄えられている廃液であるアルカリ水溶液の中和処理を行う。先ず、使用済みの廃液処理装置5を循環路45から取り外す。このとき接続部材59、60は接続部材59、60内に設けられた開閉弁により閉じられる。そして収納容器50の上面部に形成された図示しない水素排出部に例えば上述した水素排出管を接続する。続いて有機酸収納部51の上端面に設けられた保護キャップ58を外して、例えば人の指で前記針部材57を下方向に押し込み前記隔膜52を突き破ることで、上述したように前記隔膜52は収縮性のあるゴムであるため、破れた中央部の膜は外方に向かって引っ張られ、隔膜52の中央部に穴が開く。この穴から有機酸収納部51に蓄えられている所定量の固形の有機酸54例えば粉末状のクエン酸が重力により落下し、収納容器50に蓄えられている廃液が中和され、中和反応により水素ガスが生成される。当該水素ガスは、図示しない水素排出管を介して処理設備へ吸引廃棄される。中和処理された廃液処理装置5は例えば回収業者により回収されて例えばリサイクルされる。そして新しい廃液処理装置5が循環路45に取り付けられ、同様にして燃料電池に燃料液が供給されることになる。
【0025】
この実施の形態によれば、水素化ホウ素ナトリウムのアルカリ水溶液を燃料液として用いる燃料電池から排出された廃液であるアルカリ水溶液を、飽和溶液としたときにpHが3以下になる固形の有機酸例えば粉末状のクエン酸により中和させているので、後述する実施例に示すように従来から使用されている塩酸や硫酸などの中和溶液に比べて取り扱いが便利であり、しかも廃液を中和するよりも中和剤が少量で済むことから中和処理により廃液の増加の程度が小さく、このため廃液が収納される容器の大型化を抑えることができる。
【0026】
このように中和剤の量が少なく、中和処理による廃液の増加量も抑えられることから、廃液の容器に中和剤(固体の有機酸)を収納する収納部(有機酸収納部51)を取り付けて小型の廃液処理装置5として構成することができる。そのことによって、廃液処理作業が簡単になり例えば回収業者が回収するのに非常に便利である。
【0027】
上述の実施の形態では、固形の有機酸を格納する有機酸収納部51を廃液処理装置5内に取付けた構成であるが、廃液処理装置内に有機酸収納部を取り付けない構成とし、この廃液処理装置を別途貯留タンクに移し替えて、この貯留タンク内に直接作業者が固形の有機酸を投入して中和処理を行ってもよい。このようにしても上述と同様の効果があると共に固形の中和剤であるため液体の中和剤に比べて作業者にとって中和作業が非常に便利である。
【0028】
続いて本発明に係る水素発生器の一実施の形態について説明する。先ず、当該水素発生器を組み込んだ燃料電池システム7の概略について図3を用いて述べておく。この燃料電池システム7は、水素が供給される水素極(負極)と例えば酸素、過酸化水素などの酸化剤が供給される酸化剤極(正極)とを備えると共に電極反応により電気エネルギーを得ることで発電可能な燃料電池71と、この水素極に水素を供給する水素発生器72と、例えば空気を供給することにより燃料電池71の酸化剤極に酸素を供給する酸素供給手段である給気手段73とを備えており、例えば配管などの流路74を介して燃料電池71と水素発生器72及び、燃料電池71と給気手段73とが夫々接続されている。この燃料電池システム7は例えば電気機器の電源として着脱可能に構成され、この水素発生器72で発生した水素ガスが流路74を介して燃料電池71の水素極に供給されると共に、給気手段73からの空気が燃料電池71の正極に供給され、電極反応が進行することにより燃料電池71が発電して電気機器に電気を供給する。
【0029】
次に本発明の実施の形態に係る水素発生器について図4〜図6を参照しながら説明する。図中8は例えば直径及び高さが夫々60mm及び100mmの円筒状の密閉容器をなすステンレス製の反応容器であり、この反応容器8内には水素化ホウ素錯化合物の水素発生反応を促進させるための反応助剤である触媒が充填された(収納された)例えば縦に伸びる筒状体をなす触媒収納部81が設けられている。更に反応容器8内には、ガスを通過させるが、液体は通過させないガス透過部材であるガス透過膜82例えばフッ素系樹脂が触媒収納部81を囲むようにして仕切り壁として設けられ、このガス透過膜82により区画された内側領域は既述した所定量の水素化ホウ素錯化合物のアルカリ水溶液が満たされて水溶液収納部83として形成されている。即ち、触媒収納部81はアルカリ水溶液中に浸漬するように設けられている。
【0030】
また水溶液収納部83の底面には、飽和溶液としたときにpHが3以下となる固形の有機酸を収納する有機酸収納部84が設けられている。前記有機酸収納部84の上面部分は例えば収縮性のあるゴムや樹脂プレートなどからなる区画部材85により形成されている。また水溶液収納部83に位置する反応容器8の上端面には、押圧により撓むフレキシブルな部位86、86が形成されていて、当該部位を介して円筒状の針部材87、87が挿設されており、前記針部材87、87の先端部は前記区画部材85の面の近傍に位置している。また前記反応容器8の上端面には、前記針部材87、87を塞ぐように保護キャップ88、88が装着されている。即ち、この例では水溶液収納部83と有機酸収納部84とを区画する区画部材85と反応容器8の上端面に設けられたフレキシブルな部位86、86と針部材88、88とにより、水溶液収納部83と有機酸収納部84との隔離を解除する解除手段が構成される。
【0031】
また水溶液収納部83と有機酸収納部84との外側の空間領域は水素発生空間92として形成されており、反応容器8の上面には、水素を排出するための例えば取り出し可能なキャップ付きの水素放出口93が水素発生空間92に対応する位置に設けられている。
【0032】
前記触媒収納部81は、図5及び図6に示すように内筒体94及び、この内筒体94の周面を囲む外筒体95を備えており、この内筒体94の一端側は反応容器8の一端側に固定されると共に、他端側は外筒体95の側端面により塞がれている。この側端面には回転軸96が設けられ、更に当該回転軸96は有機酸収納部84及び反応容器8を貫通して外部に突出しており、この回転軸96が回転して外筒体95が内筒体94の中心軸回りに回転可能なように構成されている。
【0033】
また詳しくは図5及び図6に示すように、内筒体94の外周面には、例えば断面でみて一端縁から他端縁に亘る半円領域において周方向に分割して触媒を充填するために、各々長手方向に伸びる複数の例えば4個の溝状の触媒充填部98が並んで設けられており、各触媒充填部98内には例えば固体状の棒状の触媒が充填されて触媒層が形成され、更に触媒層の表面を覆うようにして触媒が脱落するのを防止するネット体99が設けられている。また外筒体95の表面には当該筒体の両端部を残して開口部100が形成されており、外筒体95は、回転することにより触媒充填部98の表面に対して開口部100の投影領域を重ねて水溶液収納部83と触媒収納部81とが連通する状態つまり触媒収納部81をアルカリ水溶液中に開放する状態と、重ならないようにして水溶液収納部83と触媒収納部81とを隔離する状態と、を切り替え可能なように開閉部材として構成されている。
【0034】
更に前記触媒としては、水素発生触媒能を有する例えばニッケル、コバルトなどの金属、水素吸蔵合金、それらのフッ化処理物から選択される。
【0035】
続いて、上述の水素発生器で水素ガスを発生させる手法について、図3記載の燃料電池システム7に搭載した例を一例に挙げて説明する。先ず、本発明の水素発生器72の水素放出口93と燃料電池71とを流路74を介して接続する。そして例えば手動であるいは図示しない駆動機構により外筒体95が内筒体94の中心軸回りに所定の角度回転し、触媒充填部98の表面に対して外筒体95の開口部100に投影領域を重ねることにより触媒収納部81がアルカリ水溶液中に開放され、例えば水圧によりアルカリ水溶液が触媒収納部81内に流れ込んでアルカリ水溶液と触媒とが接触する。このとき触媒の活性作用により水素化ホウ素錯化合物とアルカリ水溶液の水とが反応し、例えば一例として以下の反応式(4)に示すような加水分解反応が促進されて水素ガスが発生されると共に、金属酸化物が生成されてアルカリ水溶液が劣化して行く。
【0036】
NaBH4+2H2O→NaBO2+4H2……(4)
反応容器8内で発生した水素ガスは、例えば気泡状で水溶液収納部83内を上昇し、ガス透過膜82を通過することによりアルカリミストが分離されて水素発生空間92に供給される。このときガスのリフト効果により水溶液収納部83内のアルカリ水溶液が攪拌されてアルカリ水溶液の濃度分布が生じるのが抑えられる。そして水素放出口93を介して外部に排出された水素ガスは、流路74内を通って燃料電池71の水素極に供給され発電用燃料として使用されることになる。
【0037】
次に水素発生器72の水溶液収納部83に蓄えられている水素化ホウ素錯化合物のアルカリ水溶液から水素を発生させた後のアルカリ水溶液からなる廃液の中和処理を行う。先ず、使用済みの水素発生器72を燃料電池システム7から取り外す。続いて反応容器8の上端面に設けられた保護キャップ88、88を外して、例えば人の指で前記針部材87、87を下方向に押し込み前記区画部材85を突き破ることで、例えば前記区画部材85が収縮性のあるゴムであれば破れた中央部の膜は外方に向かって引っ張られて破裂し、あるいは樹脂プレートであれば破砕されて穴が開く。この穴から水溶液収納部83に蓄えられている廃液が重力により落下し、有機酸収納部84に蓄えられている所定量の固形の有機酸例えば粉末状のクエン酸により中和される。中和反応により水素ガスが若干生成されるため、例えば水素放出口93に上述した水素排出管を接続して処理設備へ吸引廃棄されるようにすることが好ましい。中和処理された水素発生器72は例えば回収業者により回収されて例えば廃棄処理される。そして新しい水素発生器72が流路74に取り付けられ、同様にして燃料電池71の水素極に水素ガスが供給されることになる。
【0038】
この実施の形態によれば、上述した固形の有機酸を水素発生器72内に設けられた有機酸収納部84に収納としておくことで、水素発生器72内で簡単に中和処理が行えると共に固形の有機酸は中和溶液に比べて中和された廃液の容量(体積)が小さいので水素発生器72を小さく設計することができ、携帯用の水素発生器として用いるのに非常に便利である。
【実施例】
【0039】
次に本発明の効果を確認するために行った実験について述べる。
【0040】
A.実験例
(実施例1)
平均粒径5μmのラネーNi粉末0.5gを収納した130mlの反応容器に、平均粒径300μmの水素化ホウ素ナトリウム1.4gを溶解した10重量%の水酸化ナトリウム水溶液100mlを滴下して、加水分解反応により発生した水素ガスを固体高分子型燃料電池の燃料として供給した。
【0041】
水素ガス発生後、反応容器に残存する生成物である2.4gの平均粒径500μmのNaBO2を含有する10重量%の水酸化ナトリウム水溶液(廃液)に、平均粒径100μmの粉末状のクエン酸20.5gを添加して、反応容器内の溶液のpHを約7に中和処理した。中和処理した後の当該反応容器内の溶液の容量(体積)は125mlであった。なお、クエン酸の添加量は後述の実施例3の結果に基づいて設定した。
【0042】
(実施例2)
反応容器に平均粒径100μmの粉末状の酒石酸21gを添加した他は、実施例1と同様の条件で中和処理を行った。中和処理した後の当該反応容器内の溶液の容量(体積)は128mlであった。なお、酒石酸の添加量は後述の実施例4の結果に基づいて設定した。
【0043】
(実施例3)
メタホウ酸ナトリウム(NaBO2)5.0gを溶解させた10重量%の水酸化ナトリウム水溶液100mlが入った反応容器に、粉末状のクエン酸を反応容器内のアルカリ水溶液が中和されるまで、即ちpHが略7になるまで少しずつ添加した。その結果を図7に示す。図7の縦軸はpHであり、横軸はクエン酸の添加量である。図7に示すように、クエン酸を20.5g添加することで、反応容器内のアルカリ水溶液を中和性の水溶液に変えることができた。なお、この例ではNaOH溶液にNaBO2を加えた溶液を用いているが、燃料電池や水素発生器に用いられた実際の廃液と同等であることを把握している。
【0044】
(実施例4)
反応容器に粉末状の酒石酸を添加する他は、実施例1と同様の条件で実験を行った。その結果を図8に示す。図8の縦軸はpHであり、横軸は酒石酸の添加量である。図8に示すように、酒石酸を21g添加することで、反応容器内のアルカリ水溶液を中和性の水溶液に変えることができた。
【0045】
(比較例1)
実施例1と同じ条件で水素ガスを発生させた後、反応容器に残存する生成物である2.4gのNaBO2を含有する10重量%の水酸化ナトリウム水溶液(廃液)に、10重量%のHCl水溶液を添加して中和処理した。中和処理した後の当該反応容器内の溶液の容量(体積)は195mlとなり、130mlの反応容器をオーバーしてしまった。
【0046】
B.結果及び考察
このように上述の実験結果によれば、アルカリ水溶液からなる廃液を粉末状のクエン酸あるいは酒石酸で中和処理することで、中和した後の廃液の容量(体積)の増加をかなり抑えられることが理解できる。このように粉末状のクエン酸あるいは酒石酸はHCl水溶液に比べて中和された廃液の容量(体積)が小さいので既述したように例えば廃液処理装置及び水素発生器内で中和処理する場合において、極めて有効であることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明に係る廃液処理方法の一実施の形態を示す概略構成図である。
【図2】上記実施の形態に係る廃液処理装置を示す概略断面図である。
【図3】本発明の水素発生器を組み込んだ電池システムを示す説明図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る水素発生器を示す縦断面図及び側面図である。
【図5】上記水素発生器の触媒収納部を示す斜視図である。
【図6】上記水素発生器の触媒収納部を示す断面図である。
【図7】本発明の効果を確認するために行った実験例の結果を示す特性図である。
【図8】本発明の効果を確認するために行った実験例の結果を示す特性図である。
【符号の説明】
【0048】
5 廃液処理装置
50 収納容器
51 有機酸収納部
52 隔膜
53 燃料液
54 固形の有機酸
55 円筒管
57 針部材
58 保護キャップ
8 反応容器
81 触媒収納部
82 ガス透過膜
83 水溶液収納部
84 有機酸収納部
92 水素発生空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素化ホウ素錯化合物のアルカリ水溶液を燃料液として用いる燃料電池から排出された廃液であるアルカリ水溶液を、飽和溶液としたときにpHが3以下となる固形の有機酸により中和することを特徴とする廃液処理方法。
【請求項2】
水素化ホウ素錯化合物のアルカリ水溶液から水素を発生させた後のアルカリ水溶液からなる廃液を、飽和溶液としたときにpHが3以下となる固形の有機酸により中和することを特徴とする廃液処理方法。
【請求項3】
前記有機酸は、クエン酸、酒石酸及び酢酸より選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする請求項1または2に記載の廃液処理方法。
【請求項4】
請求項1または2に記載の廃液を収納する収納容器と、この収納容器とは隔離して設けられ、飽和溶液としたときにpHが3以下になる固形の有機酸を収納する有機酸収納部と、前記廃液と有機酸とを接触させて当該廃液を中和処理するために、前記収納容器と有機酸収納部との隔離を解除する解除手段と、を備えたことを特徴とする廃液処理装置。
【請求項5】
前記有機酸は、クエン酸、酒石酸及び酢酸より選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする請求項4に記載の廃液処理装置。
【請求項6】
密閉容器内に設けられ、水素化ホウ素錯化合物のアルカリ水溶液を収納する水溶液収納部と、
前記密閉容器内に前記水溶液収納部とは区画されて設けられ、前記アルカリ水溶液と接触して水素を発生させる触媒が収納された触媒収納部と、
前記アルカリ水溶液と前記触媒とを接触させて水素を発生させる状態と、前記アルカリ水溶液と前記触媒とを隔離する状態とを切り替えるための切り替え手段と、
発生した水素を放出するための水素放出口と、
前記水溶液収納部及び触媒収納部とは隔離されて前記密閉容器内に設けられ、飽和溶液としたときにpHが3以下になる固形の有機酸を収納する有機酸収納部と、
前記アルカリ水溶液と前記触媒とを接触させて水素を発生させた後のアルカリ水溶液からなる廃液を有機酸に接触させて中和させるために、前記水溶液収納部と有機酸収納部との隔離を解除するための解除手段と、を備えたことを特徴とする水素発生器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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