説明

廃液処理方法

【課題】水中に含まれ、金属イオンとキレートを形成する性質を有する化合物を効率良く除去できる処理方法を提供することを目的とする。
【解決手段】金属イオンとキレートを形成する性質を有する化合物を含有する廃液を磁性材料と接触させる工程と、磁性材料を磁気分離により回収する工程とを有する廃液処理方法であって、該磁性材料が金属イオンに対するキレート形成基を含有してなり、該キレート形成基に予め金属イオンが担持されてなることを特徴とする廃液処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属イオンを担持しており、外部磁場の働きにより容易に分散と凝集を制御できる新規な磁性吸着材料を利用して、水中に含まれるキレート形成性化合物を分離除去する廃液処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
水中に微量含まれる物質の除去には多くの困難が伴い、従って、この目的のためにさまざまな方法が提案されている。例えば金属イオンの場合には、金属イオンを水酸化物や硫化物に変換して、沈殿分離する方法がある。しかしながら、この沈殿分離法ではスラッジの発生が避けられない(例えば、特許文献1参照)。抽出試薬を用いる溶媒抽出法、イオン交換樹脂やキレート樹脂を用いる方法も提案されているが、溶媒抽出法では有害な有機廃液が多量に発生し、イオン交換樹脂やキレート樹脂を用いる方法は、通液速度を上げると捕捉効率が低下するため、大量の水を処理するには向かないという問題がある(例えば、特許文献2参照)。
【0003】
近年、水中に微量含まれる物質の一つとして、人畜用の医薬物、抗菌薬、ホルモン製剤等が新たな環境汚染物質として注目されている。これら医薬物等による汚染が及ぼす影響はまだ詳しくは分かっていないものの、薬剤耐性菌の発生と拡大につながる可能性が懸念されている。
【0004】
このような問題を解決する技術が、特許文献3〜5に開示されている。特許文献3には、電気分解を用いて、水中に含まれる医薬物の化学構造の少なくとも一部を分解または変形させることにより、該医薬物の薬理学的活性を消滅または減少させることを特徴とする処理方法が開示されている。この方法は幅広い医薬物に対して有効であるが、限られた面積のアノード電極において、該医薬物が直接的に酸化されるか、あるいは添加した塩化物イオンが酸化されて発生する次亜塩素酸が活性種として働く必要があるため、処理時間が長くなることは避けられない。
【0005】
特許文献4には、処理対象の物質を含む水に乳化剤を加えホモジナイザで均一化し、さらに電気分解を行う処理方法が開示されている。この方法によれば、水に難溶性の物質であっても、ミセルとして被処理水中に存在させることができるため、焼却法よりも低コストで処理が可能となるが、電極反応に頼る以上、処理に長い時間を必要とする問題は避けられない。
【0006】
特許文献5には、鉄等のイオンとキレート形成性がある抗菌薬を含有する廃液に鉄等のイオンを溶出させてキレートを形成させた後、磁性粉を添加し、次に磁性粉を磁気分離により回収する除去方法が開示されている。この方法によれば、極めて短時間にキレート形成性抗菌薬を除去できるが、処理には磁気分離装置に加えて、直流電源や電極が必要となり、装置面での複雑さが問題である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−299952号公報
【特許文献2】特開2007−313391号公報
【特許文献3】特開2004−181363号公報
【特許文献4】特開2006−218400号公報
【特許文献5】特開2009−183906号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記のような問題を解決することを企図し、抗菌薬、ホルモン製剤等の多くが金属イオンとキレートを形成する性質を有することに着目してなされたものであって、水中に含まれ、金属イオンとキレートを形成する性質を有する化合物を複雑な装置を用いることなく、短時間に効率良く除去できる廃液処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は上記課題を鋭意研究し、金属イオンとキレートを形成する性質を有する化合物を含有する廃液を磁性材料と接触させる工程と、磁性材料を磁気分離により回収する工程とを有する廃液処理方法であって、該磁性材料が金属イオンに対するキレート形成基を含有してなり、該キレート形成基に予め金属イオンが担持されてなることを特徴とする廃液処理方法が、前記課題の解決に極めて有効なことを見出して本発明に到達した。
【0010】
本発明において用いられる磁性材料は、磁性材料が、ストロンチウムフェライトまたはバリウムフェライトを含有してなる疎水性樹脂粒子を活性基含有モノマーの重合膜で被覆し、次いで金属イオンに対するキレート形成基を有する化合物と該活性基との反応によりキレート形成基を導入し、さらにこのキレート形成基に金属イオンを担持させることによって製造されてなることが好ましい。担持される金属イオンが、銅、アルミニウム、マグネシウムから選択された一種以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明においては、金属イオンに対するキレート形成基を含有してなり、該キレート形成基に予め金属イオンが担持されてなる磁性材料を用いる。従って、該磁性材料に担持された金属イオンとキレートを形成する性質を有する化合物であれば、廃液中に微量含まれている場合であっても、効率良く吸着することができる。また、金属イオンとキレートを形成する性質を有する化合物を吸着した後の磁性材料は、充填塔方式の使用形態や複雑な装置を用いることなく、外部磁場を加えることにより、容易に集めることができる。従って、目詰まりに伴う流量低下や逆洗の必要といった問題を避けることができ、大量の廃液を効率良く短時間で処理することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係わる磁性材料は、磁力により捕集できる磁気応答性の無機材料あるいは無機/有機複合材料を含有していれば特に制限はない。無機材料としては具体的には、三酸化二鉄、四酸化三鉄のような酸化鉄、ニッケルフェライト、バリウムフェライト、ストロンチウムフェライトのようなフェライト、鉄、ニッケル、マンガン、コバルトのような金属、またはこれらの合金等がある。無機/有機複合材料としては具体的には、多孔性ポリマー粒子の孔中に無機材料を析出させたもの、無機材料と溶融した有機材料を混合後に海島型粒子にしたもの、無機材料をラジカル重合膜や界面重合膜で被覆したもの、無機材料と有機材料をカップリング剤により結合させたもの、無機材料の存在下にモノマーを懸濁重合させたもの等を挙げることができる。これらの中で、ストロンチウムフェライトまたはバリウムフェライトを含有してなる疎水性樹脂粒子を活性基含有モノマーの重合膜で被覆した無機/有機複合材料は、耐酸性が高く、廃液のpHが低い場合や、酸を用いて磁性材料から金属イオンを脱着する場合でも磁性の劣化が少ないため好ましい。
【0013】
疎水性樹脂とは、疎水性モノマーが51質量%以上含まれる組成物が重合された樹脂をいう。疎水性モノマーとは、25℃におけるイオン交換水に対する溶解度が1質量%未満のモノマーである。疎水性モノマーの具体例としては、例えばスチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、t−ブチルスチレンおよびクロロメチルスチレンなどのスチレン系モノマー、イソプロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、n−アミルアクリレート、イソアミルアクリレート、n−ヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、n−オクチルアクリレート、デシルアクリレートおよびドデシルアクリレートなどのアクリル酸エステル類、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、n−アミルメタクリレート、n−ヘキシルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、n−オクチルメタクリレート、デシルメタクリレートなどのメタクリル酸エステル類などが挙げられる。上記の疎水性モノマーは、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。本発明における検討によれば、最終的に得られる磁性キレート材料の耐酸性が高くなることから、疎水性モノマーとしてはスチレンが含まれていることが好ましい。
【0014】
疎水性樹脂粒子を被覆するために用いられる活性基含有モノマーとは、エポキシ基、ビニル基、カルボキシル基、エステル基、ヒドロキシル基、アミノ基、ハロゲン原子等のキレート形成基を導入するための基を有するモノマーである。具体的な例としては、エポキシ基含有モノマーとしては、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、アリルグリシジルエーテル等を挙げることができる。ビニル基含有モノマーとしては、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート等を挙げることができる。カルボキシル基含有モノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸等を挙げることができる。エステル基含モノマーとしては、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート等を挙げることができる。ヒドロキシル基含有モノマーとしては、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、グリセロールアクリレート、グリセロールメタクリレート等を挙げることができる。アミノ基含有モノマーとしては、アミノメチルアクリレート、アミノメチルメタクリレート、アミノエチルアクリレート、アミノエチルメタクリレート、ビニルピリジン等を挙げることができる。ハロゲン原子含有化合物としては、クロロメチルスチレン等を挙げることができる。これらの中で、エポキシ基含有モノマーが好ましい。また活性基含有モノマーは単独で用いても良いが、2種以上組み合わせて用いても良い。
【0015】
金属イオンに対するキレート形成基を磁性材料に含有させるには、磁性材料表面の官能基にキレート形成基を有する有機物を化学反応で結合する方法、磁性材料をキレート形成基含有モノマーの重合により被覆する方法、磁性材料を活性基含有モノマーの重合膜で被覆し、次いでキレート形成基を有する化合物と反応させる方法、磁性材料とキレート形成基含有ポリマーの混合物を粒子化する方法、磁性材料と活性基含有ポリマーの混合物を粒子化し、次いでキレート形成基を有する化合物と反応させる方法等を挙げることができる。これらの中で、磁性材料を活性基含有モノマーの重合膜で被覆し、次いでキレート形成基を有する化合物と反応させる方法が、キレート形成基を選択する自由度が高く、またキレート形成基の導入効率が高いため好ましい。
【0016】
本発明で用いられるキレート形成基の具体例としては、イミノジ酢酸、イミノジホスホノメタン、ニトリロトリ酢酸、エチレンジアミンテトラ酢酸、1,3−プロパンジアミンテトラ酢酸、ジエチレントリアミンペンタ酢酸、イミノジエタノール等から誘導される基を挙げることができる。また、エチレンジアミン、1,3−ジアミノプロパン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ポリエチレンイミン等の各種多価アミンから誘導される基、フェニルアラニン、リジン、ロイシン、バリン、プロリン等の各種アミノ酸から誘導される基、グルカミン、N−メチルグルカミン等の各種糖類から誘導される基、8−ヒドロキシキノリンから誘導される基等を挙げることができる。これらの中で、銅イオンやアルミニウムイオン等の金属イオンと安定なキレートを形成するイミノジ酢酸から誘導される基が好ましい。
【0017】
本発明で用いられる金属イオンとしては、二価以上の価数を有する金属イオンであれば特に制限はない。具体例としては、マグネシウムイオン、マンガンイオン、鉄イオン、カルシウムイオン、アルミニウムイオン、銅イオン、ニッケルイオン、コバルトイオン、亜鉛イオン等を挙げることができる。中でも、金属イオンとキレートを形成する性質を有する種々の化合物と安定なキレートを形成する銅イオン、ニッケルイオン、亜鉛イオン、アルミニウムイオン、マグネシウムイオンが好ましい。
【0018】
キレート形成基を含有してなる磁性材料に対して、金属イオンを担持させる方法については特に制限はない。具体例としては、金属イオン水溶液にキレート形成基が導入された磁性材料を添加し、一定時間攪拌後に磁性材料を磁気分離し水洗する方法がある。磁性材料に含有されているキレート形成基の量に対して、金属イオンの量が当量以上になるように、金属イオン水溶液の濃度と液量を設定すれば良い。担持させるための攪拌時間は、30分〜2時間が好ましい。
【0019】
磁性材料の形状に関して特に制限はなく、球状、楕円球状、板状、針状、または、立方体状などの多面体状であっても良いが、球状であることが、単位質量当たりの比表面積が大きくなり、かつ攪拌等により、処理を施す廃液中に均一に懸濁、分散させることが可能であるために好ましい。球状の場合の直径としては1〜500μmが好ましい。直径が1μmより小さいと、磁気分離性が弱くなる場合がある。直径が500μmより大きい場合には、比表面積が小さくなるため、単位質量あたりの金属イオン捕集能力が小さくなってくる場合がある。なお、これら磁性材料の直径は、マイクロトラックMT3300EX(商品名、日機装(株)製)を使用して求めることができる。
【0020】
金属イオンとキレートを形成する性質を有する化合物としては、染料、植物の分解生成物、抗菌薬、ホルモン製剤等を挙げることができる。色素の例としては、アゾ染料、アントラキノン染料、アゾメチン染料、キノリン染料、ニトロ染料、ニトロソ染料等がある。植物の分解生成物の例としては、フルボ酸やフミン酸と称されている無定型高分子有機酸を挙げることができる。抗菌薬は抗菌性抗生物質と合成抗菌薬の総称であり、前者の例としてはテトラサイクリン系抗生物質と第一〜第四世代にわたるセフェム系抗生物質がある。後者の例としてはピリドンカルボン酸系(キノロン系、ニューキノロン系)抗菌薬とサルファ剤がある。本発明の廃液処理方法で対象となる抗菌薬、ホルモン製剤の具体例としては、オキシテトラサイクリン、クロルテトラサイクリン、テトラサイクリン、ドキシサイクリン、ミノサイクリン、メタサイクリン等のテトラサイクリン系抗生物質、セファゾリン、セファロチン、セファピリン、セファレキシン、セフマンドール、セフロキシム、セフォニシド、セフォラニド、セフトリアキソン、セフォタキシム、セフェピム、セフピロム等のセフェム系抗生物質、ノルフロキサシン、エノキサシン、塩酸シプロフロキサシン、オフロキサシン、塩酸ロメフロキサシン、トスフロキサシントシル酸塩、スパルフロキサシン、レボフロキサシン、ガチフロキサシン、モキシフロキサシン、ガレノキサシン、フレロキサシン、シタフロキサシン等の合成抗菌薬、リオチロニンナトリウム塩、レボチロキシンナトリウム塩等のホルモン製剤を挙げることができる。
【0021】
金属イオンとキレートを形成する性質を有する化合物の廃液中の濃度に特に制限はないが、1mg/l〜1000mg/lの濃度の廃液を処理するのに特に適している。一方、廃液への磁性材料の添加量は、処理すべき金属イオンとキレートを形成する性質を有する化合物の量に応じて決められる。金属イオンとキレートを形成する性質を有する化合物と磁性材料に担持された金属イオンが1:1のキレートを形成する場合、添加量は金属イオンとキレートを形成する性質を有する化合物と金属イオン担持磁性材料に担持された金属イオンとのモル比が1:1〜1:1000となるようにすることが好ましい。モル比が1:1を下回る場合は、金属イオンとキレートを形成する性質を有する化合物の除去が不十分となることがあり、1:1000を上回る場合は、磁性材料の磁気分離に困難が伴う場合がある。
【0022】
本発明において処理される廃液のpHは、金属イオンとキレートを形成する性質を有する化合物が担持された金属イオンと安定なキレートを形成するように調整する必要がある。例えば、テトラサイクリン系抗生物質の場合はpH3〜7となるように調整することが好ましい。pHの調整に用いる薬品に制限はなく、例えば塩酸、硫酸、水酸化ナトリウム等を用いることができる。固形物が廃液に含まれている場合には、予め固形物を除去しておくことが好ましい。
【0023】
キレートを形成させて、金属イオンとキレートを形成する性質を有する化合物を磁性材料に固定する方法については特に制限はない。具体例としては、金属イオンとキレートを形成する性質を有する化合物を含有する廃液に磁性材料を添加し、一定時間攪拌後に磁性材料を磁気分離し水洗する方法がある。キレート形成のための攪拌時間は、30分〜2時間が好ましい。
【0024】
本発明においては、金属イオンとキレートを形成する性質を有する化合物が磁性材料とキレートを形成した後、磁性材料を磁気分離することにより、金属イオンとキレートを形成する性質を有する化合物が廃液から除去される。磁気分離には、公知の磁気分離方法を使用することができる。磁石としては、例えばネオジム磁石、フェライト磁石等の永久磁石、電磁石、超電導磁石、円筒形状の先端から強磁場を発生する超電導バルク磁石等の磁石を使用できる。大量の廃液処理を行う場合には、磁性材料の回収効率を高めるため、超電導磁石または超電導バルク磁石を使用することが好ましい。
【0025】
磁気分離を行う場合には、任意に選択した磁石の磁場空間内部に設けられた磁性フィルタに廃液を通じさせる方法を採用しても良い。この方法では、廃液が通過することになる磁性フィルタの空間に勾配磁場が増大することによって、磁性体の捕捉性能が向上することになるから、目詰まりが生じることがない程度の大きな目開きの磁性フィルタを選択しても、磁性体を回収することが可能である。
【0026】
本発明の廃液処理方法においては、磁気分離工程の前に固液分離工程を加えても良い。具体例として、重力による重力沈降を利用する回収方法や遠心力による遠心沈降を利用する回収方法を挙げることができる。固液分離工程を設けた場合、磁性体の一部が廃液から除去され、磁気分離の負担が軽減されることがある。
【実施例】
【0027】
以下に、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明は実施例に限定されるものでない。なお、実施例中の部数や百分率は、特にことわりのない場合、質量基準である。
【0028】
<磁性材料1の製造>
磁性流体((株)シグマハイケミカル製、商品名:E−600;磁性成分80%)20g、ノルボルネンジイソシアネート8.6g、酢酸エチル50g、スチレン−無水マレイン酸共重合体のナトリウム塩8g、水90gの混合物をホモミキサーで20秒間攪拌混合して、平均粒径6μmの油滴粒子を含むO/Wエマルションを得た。ここへ、ジエチレントリアミン4.5gを水100gに溶かした溶液を加え、80℃にて3時間加熱攪拌して、磁性流体内包粒子のスラリーを得た。仕込みに用いた磁性流体はほぼ全量内包されており、走査型電子顕微鏡の観察によれば、直径5〜10μm程度の陥没構造を持つ磁性流体内包粒子であった。
【0029】
磁性流体内包粒子のスラリー6.8gを蒸留水40mlで希釈し、メタクリル酸グリシジル1.2gとドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.1gを加えて、窒素雰囲気下にて攪拌した。ここへ、硝酸二アンモニウムセリウム(IV)0.24gを0.1規定硝酸20mlに溶かした溶液を室温にて滴下し、さらに2時間攪拌した。この反応物へさらに、イミノジ酢酸ナトリウム3.54gとエタノール30mlを加えて、3.5時間環流した。冷却後、蒸留水70mlを加え、15分間攪拌後、永久磁石で固形分を引き寄せつつ、上澄みをデカンテーションで除いた。蒸留水200mlを用いて、同様の操作を2回繰り返し、最後に固形物を濾過して、キレート形成基を含有してなる磁性材料を1.5g得た。キレート形成基を含有してなる磁性材料1.0gを濃度7.8mMの硫酸銅水溶液250mlへ加え、室温で1時間攪拌した後、磁石を用いて固形分と母液を分離し、固形分を濾取、水洗して、金属イオンとして銅イオンが担持された磁性材料1を1.0g得た。磁性材料1を除いた後の硫酸銅水溶液に残った銅イオン濃度とキレート形成基を含有してなる磁性材料添加前の硫酸銅水溶液の初期濃度とを比較することにより、金属イオン(銅イオン)担持量は0.9mmol/gであることが分かった。
【0030】
<磁性材料2の製造>
ボールミルにて予め混練しておいたスチレン(水に対する溶解度0.03%)45部、ブチルアクリレート(水に対する溶解度0.14%)5部、ジビニルベンゼン(水に対する溶解度<0.01%)1部、表面疎水化処理したバリウムフェライト15部、過酸化ベンゾイル1部の混合物を、ポリビニルアルコール(ケン化度98%、重合度1700)5部を溶解したイオン交換水500部に添加し、ホモミキサーで6000rpm×10分間の分散を行った。この分散物をフラスコに移し、窒素気流下にて80℃、8時間加熱攪拌した。生成物は、水洗後、磁石により集めて乾燥し、疎水性樹脂粒子を得た。
【0031】
疎水性樹脂粒子3gを、水180ml、グリシジルメタクリレート5.2g、ソルビタンモノオレエート(商品名;Span80、東京化成工業(株)製)0.26g、硫酸アンモニウム鉄(II)六水和物0.35gの混合物に加え、窒素気流下にて1時間攪拌した。ここへ、30%過酸化水素0.61gを水4mlに溶かした溶液を室温で加え、さらに2時間攪拌した。生成物は水200mlで希釈し、反応容器の底に磁石を当てた状態で、非磁性分をデカンテーションによって除去した。水200mlを加えてはデカンテーションを行う操作をさらに3回繰り返し、最後に磁石を当てて容器内に残った成分を濾取した。収量は4.9gであった。このもの1.0gをイミノジ酢酸ナトリウム2.0g、エタノール8.6ml、水18mlとともに4時間還流した。生成物は水50mlで希釈し、反応容器の底に磁石を当てた状態で、上澄みをデカンテーションによって除去した。水50mlを加えてはデカンテーションを行う操作をさらに2回繰り返し、最後に磁石を当てて容器内に残ったキレート形成基を含有してなる磁性材料を濾取した。収量は1.2gであった。走査型電子顕微鏡で観察したところ、粒径が5〜20μmの球状構造であることが分かった。
【0032】
キレート形成基を含有してなる磁性材料1.0gを濃度7.8mMの硫酸銅水溶液250mlへ加え、室温で1時間攪拌した後、磁石を用いて固形分と母液を分離し、固形分を濾取、水洗して、金属イオンとして銅イオンが担持された磁性材料2を1.0g得た。磁性材料2を除いた後の硫酸銅水溶液に残った銅イオン濃度とキレート形成基を含有してなる磁性材料添加前の硫酸銅水溶液の初期濃度とを比較することにより、金属イオン(銅イオン)担持量は0.9mmol/gであることが分かった。
【0033】
<磁性材料3の製造>
バリウムフェライト15部の替わりに、ストロンチウムフェライト15部を用いる他は、磁性材料2の製造と同様に操作した。キレート形成基を含有してなる磁性材料は、走査型電子顕微鏡で観察したところ、粒径が5〜20μmの球状構造であった。また、磁性材料3の金属イオン(銅イオン)担持量は0.9mmol/gであった。
【0034】
<磁性材料4の製造>
濃度7.8mMの硫酸銅水溶液250mlの替わりに、同濃度の塩化マグネシウム水溶液250mlを用いる他は、磁性材料2の製造と同様に操作して、金属イオンとしてマグネシウムイオン担持が担持された磁性材料4を得た。金属イオン(マグネシウムイオン)担持量は0.9mmol/gであった。
【0035】
<磁性材料5の製造>
濃度7.8mMの硫酸銅水溶液250mlの替わりに、同濃度の硫酸カリウムアルミニウム水溶液250mlを用いる他は、磁性材料2の製造と同様に操作して、金属イオンとしてアルミニウムイオンが担持された磁性材料5を得た。金属イオン(アルミニウムイオン)担持量は0.8mmol/gであった。
【0036】
<磁性材料6の製造>
濃度7.8mMの硫酸銅水溶液250mlの替わりに、同濃度の塩化第二鉄マグネシウム水溶液250mlを用いる他は、磁性材料2の製造と同様に操作して、金属イオンとして鉄(III)イオンが担持された磁性材料6を得た。金属イオン(鉄(III)イオン)担持量は0.8mmol/gであった。
【0037】
実施例1
テトラサイクリン塩酸塩1mM水溶液50mlへ、磁性材料1を0.20g加え、室温にて30分攪拌後、表面磁束密度0.45Tのネオジム磁石を用いたデカンテーションにより、固形分と母液を分離した。母液を水で10倍希釈して357nmの吸光度を求めたところ、処理前の吸光度1.50が0.25に低下しており、テトラサイクリンの83%が除去されていることが分かった。磁石に引きつけられた固形分を再生して使うため、1規定硫酸50ml中で30分攪拌したところ、気体の発生が見られた。また、磁石を用いたデカンテーションにより、1規定硫酸と固形分の分離を試みたが、固形分の一部は流出し、磁性材料1の磁性が低下していることが観察された。磁石により止まった磁性材料1を濃度7.8mMの硫酸銅水溶液50mlへ加え、室温で1時間攪拌した後、磁石を用いて固形分と母液を分離した。磁性材料1は、0.15g再生された。
【0038】
実施例2
磁性材料1の替わりに、同量の磁性材料2を用いる以外は、実施例1と同様に操作したところ、テトラサイクリンの85%が除去されていることが分かった。また、磁石に引きつけられた固形分を再生するため、1規定硫酸50ml中で30分攪拌しても、気体の発生や磁性材料2の磁性低下は観察されなかった。磁石により1規定硫酸から分離した磁性材料2を濃度7.8mMの硫酸銅水溶液50mlへ加え、室温で1時間攪拌した後、磁石を用いて固形分と母液を分離することにより、磁性材料2が0.20g再生された。この再生された磁性材料2を用いて、再度実施例1と同様に操作すると、テトラサイクリンの82%を除去することができた。
【0039】
実施例3
磁性材料1の替わりに、同量の磁性材料3を用いる以外は、実施例1と同様に操作したところ、テトラサイクリンの82%が除去されていることが分かった。また、磁石に引きつけられた固形分を再生するため、1規定硫酸50ml中で30分攪拌しても、気体の発生や磁性材料3の磁性低下は観察されなかった。磁石により1規定硫酸から分離した磁性材料3を濃度7.8mMの硫酸銅水溶液50mlへ加え、室温で1時間攪拌した後、磁石を用いて固形分と母液を分離することにより、磁性材料3が0.20g再生された。この再生された磁性材料3を用いて、再度実施例1と同様に操作すると、テトラサイクリンの81%を除去することができた。
【0040】
実施例4
磁性材料1の替わりに、同量の磁性材料4を用いる以外は、実施例1と同様に操作したところ、テトラサイクリンの75%が除去されていることが分かった。また、磁石に引きつけられた固形分を再生するため、1規定硫酸50ml中で30分攪拌しても、気体の発生や磁性材料4の磁性低下は観察されなかった。磁石により1規定硫酸から分離した磁性材料4を濃度7.8mMの塩化マグネシウム水溶液50mlへ加え、室温で1時間攪拌した後、磁石を用いて固形分と母液を分離することにより、磁性材料4が0.20g再生された。この再生された磁性材料4を用いて、再度実施例1と同様に操作すると、テトラサイクリンの71%を除去することができた。
【0041】
実施例5
磁性材料1の替わりに、同量の磁性材料5を用いる以外は、実施例1と同様に操作したところ、テトラサイクリンの66%が除去されていることが分かった。また、磁石に引きつけられた固形分を再生するため、1規定硫酸50ml中で30分攪拌しても、気体の発生や磁性材料5の磁性低下は観察されなかった。磁石により1規定硫酸から分離した磁性材料5を濃度7.8mMの硫酸カリウムアルミニウム水溶液50mlへ加え、室温で1時間攪拌した後、磁石を用いて固形分と母液を分離することにより、磁性材料5が0.20g再生された。この再生された磁性材料5を用いて、再度実施例1と同様に操作すると、テトラサイクリンの65%を除去することができた。
【0042】
実施例6
磁性材料1の替わりに、同量の磁性材料6を用いる以外は、実施例1と同様に操作したところ、テトラサイクリンの40%が除去されていることが分かった。また、磁石に引きつけられた固形分を再生するため、1規定硫酸50ml中で30分攪拌しても、気体の発生や磁性材料6の磁性低下は観察されなかった。磁石により1規定硫酸から分離した磁性材料6を濃度7.8mMの塩化第二鉄マグネシウム水溶液50mlへ加え、室温で1時間攪拌した後、磁石を用いて固形分と母液を分離することにより、磁性材料6が0.20g再生された。この再生された磁性材料6を用いて、再度実施例1と同様に操作すると、テトラサイクリンの36%を除去することができた。
【0043】
実施例7
磁性材料1の替わりに、磁性材料4と磁性材料5の当量混合物を、磁性材料1と同量用いる以外は実施例1と同様に操作したところ、テトラサイクリンの70%が除去されていることが分かった。
【0044】
比較例1
磁性材料1の製造において、7.8mMの硫酸銅水溶液中で攪拌する工程だけを省略して、金属イオン(銅イオン)を担持していない磁性材料を製造した。この磁性材料を磁性材料1の替わりに用いる以外は、実施例1と同様に操作したところ、テトラサイクリンは全く除去されなかった。
【0045】
比較例2
テトラサイクリン塩酸塩1mM水溶液50mlの替わりに、金属イオンとキレートを形成する性質を有さない化合物であるセファゾリン1mM水溶液50ml用いる以外は、実施例1と同様に操作した。処理前後のセファゾリン濃度をキャピラリー電気泳動システムによって求めたところ、除去率が5%であることが分かった。
【0046】
実施例8
テトラサイクリン塩酸塩1mM水溶液50mlの替わりに、ノルフロキサシン1mM水溶液50mlを用いる以外は、実施例1と同様に操作した。処理前後のノルフロキサシンの量変化をキャピラリー電気泳動システムによって求めたところ、除去率が60%であることが分かった。
【0047】
比較例3
磁性材料1の製造において、7.8mMの硫酸銅水溶液中で攪拌する工程だけを省略して、金属イオン(銅イオン)を担持していない磁性材料を製造した。この磁性材料を磁性材料1の替わりに用いる以外は、実施例8と同様に操作したところ、ノルフロキサシンは全く除去されなかった。
【0048】
実施例9
4−(4−ニトロフェニルアゾ)レゾルシノール1mM水溶液50mlへ、磁性材料1を0.2g加え、室温にて1時間攪拌後、表面磁束密度0.45Tのネオジム磁石を用いて固形分と母液を分離した。母液を水で20倍希釈して440nmの吸光度を求めたところ、処理前の吸光度1.28が0.02に低下しており、4−(4−ニトロフェニルアゾ)レゾルシノールの全量が除去されていることが分かった。
【0049】
比較例4
4−(4−ニトロフェニルアゾ)レゾルシノール1mM水溶液50mlの替わりに、金属イオンとキレート構造を形成する性質を有さない化合物である4−(4−ニトロフェニルアゾ)フェノール1mM水溶液50mlを用いる以外は、実施例9と同様に操作した。処理前後の4−(4−ニトロフェニルアゾ)フェノールの濃度を、420nmの吸光度変化で求めたところ、全く変化せず、4−(4−ニトロフェニルアゾ)フェノールは全く除去されていないことが分かった。
【0050】
実施例と比較例を比べると、本発明によれば金属イオンとキレートを形成する性質を有する化合物を溶液から除く作業が、この溶液を磁性材料と接触させたのち、磁石を当ててデカンテーションするだけという、極めて簡単な操作により実施できることが分かる。これらの操作においては、直流電源や電極等の複雑な装置は不要であり、処理に必要な時間は短く、除去率が高い。また、実施例1〜3の比較から、ストロンチウムフェライトまたはバリウムフェライトを含有してなる疎水性樹脂粒子を活性基含有モノマーの重合膜で被覆し、次いで金属イオンに対するキレート形成基を有する化合物と該活性基との反応によりキレート形成基を導入し、さらにこのキレート形成基に金属イオンを担持させることによって製造されてなる磁性材料が好ましいことが分かる。さらに、実施例3〜5、7と実施例6の比較から、金属イオンとしては銅イオン、アルミニウムイオン、マグネシウムイオンが好ましいことが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属イオンとキレートを形成する性質を有する化合物を含有する廃液を磁性材料と接触させる工程と、磁性材料を磁気分離により回収する工程とを有する廃液処理方法であって、該磁性材料が金属イオンに対するキレート形成基を含有してなり、該キレート形成基に予め金属イオンが担持されてなることを特徴とする廃液処理方法。
【請求項2】
磁性材料が、ストロンチウムフェライトまたはバリウムフェライトを含有してなる疎水性樹脂粒子を活性基含有モノマーの重合膜で被覆し、次いで金属イオンに対するキレート形成基を有する化合物と該活性基との反応によりキレート形成基を導入し、さらにこのキレート形成基に金属イオンを担持させることによって製造されてなる請求項1記載の廃液処理方法。
【請求項3】
磁性材料に担持される金属イオンが、銅イオン、アルミニウムイオン、マグネシウムイオンから選択された一種以上である請求項1または2記載の廃液処理方法。

【公開番号】特開2011−147835(P2011−147835A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−8688(P2010−8688)
【出願日】平成22年1月19日(2010.1.19)
【出願人】(000005980)三菱製紙株式会社 (1,550)
【Fターム(参考)】