説明

廃蛍光管の処理方法と廃蛍光管処理装置

【課題】廃蛍光管からの回収に関し、最も再利用に適している「金属水銀」の状態で水銀を、効率良く、確実に、回収する技術を提供すること。
【解決手段】廃蛍光管に含まれる水銀を除去するための方法であり、粉砕された状態の廃蛍光管を還元熱で処理する還元熱処理工程と、前記工程から得られる水銀含有ガスを金属水銀の沸点以上の条件で移送する工程と、前記水銀含有ガスを冷却して金属水銀を回収する冷却回収工程と、を少なくとも行うようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃蛍光管の処理技術に関する。より詳しくは、廃蛍光管に含まれる水銀を、再利用に適する金属水銀の状態で確実に回収する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
照明具として使用される蛍光管には、水素ガス、アルゴンガス、水銀が封入されており、その管内壁面には蛍光物質が塗布されている。したがって、廃棄された蛍光管(以下、「廃蛍光管」)には、水銀などの有害な物質が含まれていることになる。特に、蛍光管内面に塗布されている蛍光物質(燐酸蛍光物質)中には水銀が含まれている。このため、例えば、米国環境保護局は、廃蛍光管を有害廃棄物に指定し、廃蛍光管に関して、埋め立て処理する場合やガラスの再利用を行う場合には、水銀の除去処理を義務付けている。
【0003】
現在知られている典型的な廃蛍光管の処理技術は、廃蛍光管を粉砕した後に、弗酸と硝酸の混合酸を用いて蛍光管に塗布されている蛍光物質を除去し、この工程を経て得られるスラッジに所定のキレート剤を投入し、それをセメントと混合して固め、埋め立て廃棄処理するという技術である。
【0004】
また、特許文献1には、廃蛍光管の粉砕する工程、粉砕された廃蛍光管を燃焼させて水銀を気化させる工程、その水銀蒸気を冷却して回収する工程などを連続的に行う技術が開示されている。
【特許文献1】特開2001−205246号公報。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
現在、廃蛍光管の水銀除去に係わる新規な代替技術が関連産業界から要請されている。また、廃蛍光管から除去した水銀や同廃蛍光管を構成するガラスを再利用するニーズも高まっている。
【0006】
しかしながら、上記した典型的従来技術によって埋め立て用に形成されたセメント固化物からの水銀溶出を完全に阻止することは困難である。場合によっては、埋め立て基準(0.005mg/L)を超える水銀溶出が発生してしまう場合もある。また、上記特許文献1に記載された先行技術は、水銀を金属水銀の状態で回収するためには改良の余地が多い。なお、「水銀」は、常温で液状の金属であり、多様な化合物形態(例えば、HgCl、HgCl、HgS、HgOなど)があるが、水銀の再利用には毒性の低い「金属水銀」として回収されることが望ましい。
【0007】
そこで、本発明は、廃蛍光管からの回収に関し、最も再利用に適している「金属水銀」の状態で水銀を、効率良く、確実に、回収する技術を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記目的を達成することができる廃蛍光管の処理方法と廃蛍光管処理装置を提供する。
まず、本発明は、廃蛍光管に含まれる水銀を除去するための方法であって、粉砕された状態の廃蛍光管を還元熱で処理する還元熱処理工程と、前記工程から得られる水銀含有ガスを金属水銀の沸点以上の条件で移送する工程と、前記水銀含有ガスを冷却して金属水銀を回収する冷却回収工程と、を少なくとも行う廃蛍光管の処理方法を提供する。さらに、本方法においては、前記冷却回収工程に続いて、該冷却回収工程からのガスを活性炭に通し、該活性炭に残存水銀を吸着させる工程を行うように工夫することもできる。
次に、本発明では、粉砕処理された廃蛍光管に還元熱を接触させる還元熱処理部と、前記還元熱処理部から得られる水銀含有ガスを金属水銀の沸点以上の条件で送るガス移送部と、前記ガス移送部から送り込まれてくる前記水銀含有ガスを冷却処理して金属水銀を回収する冷却回収部と、を少なくとも備える廃蛍光管処理装置を提供し、さらに、本装置では、前記冷却回収部から送られてくるガスを活性炭に通過させて残存水銀を吸着させるように工夫することもできる。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る廃蛍光管の処理方法や装置は、廃蛍光管中に含まれる水銀を、再利用に最も適する金属水銀の形態で、効率よく(ロスなく)、確実に回収することができるという主たる効果を奏する。
【実施例】
【0010】
以下、添付図面を参照しながら、本発明に係る方法及び装置の好適な実施形態について説明する。
【0011】
まず、図1は、本発明に係る廃蛍光管の処理方法や装置の好適な実施形態を簡易に示す図である。図1中の符号Fは、粉砕処理が施された廃蛍光管(以下、「粉砕廃蛍光管)という。)を示しており、本発明では、この粉砕廃蛍光管を直接処理対象とするものであり、粉砕廃蛍光管に対して酸処理は一切行われていない。
【0012】
仮に、酸処理された粉砕廃蛍光管を処理対象とすると、後述する還元熱処理装置4内の炉壁面を腐食(特に、弗酸による腐食)させるおそれがあるが、本発明では、粉砕廃蛍光管を直接処理対象とすることが前提であるので、この腐食発生の心配がない。なお、本発明において、廃蛍光管の粉砕状態(例えば、粉砕サイズ)は、後続の処理工程や装置構成に適するものであればよく、粉砕の具体的方法も特に限定されない。
【0013】
この粉砕廃蛍光管Fは、まず、ホッパ1に供給され、ホッパ1下部の供給路2内に設けられたダンパー3部分を通過して、連続的に還元熱処理装置(炉)4に導入される。なお、ダンパー3の形状、サイズ、配置位置などは、処理対象の粉砕廃蛍光管Fの粉砕状態に対応して適宜決定すればよい。
【0014】
還元熱処理装置4は、還元熱を利用して粉砕廃蛍光管Fに含まれている水銀を蒸気ガス化(気化)するための装置であり、例えば、外熱式ロータリーキルンなどを採用することができる。本発明では、還元熱処理装置4の入り口41へ、プレッシャースイング(PSA)などの窒素発生器5によって生成させた窒素ガスNを、予熱装置7を介して強制的に導入し、嫌気状態下で燃焼処理することによって、水銀の酸化反応を確実に防止しながら、粉砕廃蛍光管Fに含まれている水銀を金属水銀として蒸気ガス化する。なお、図1中の符号6は、窒素ガスの一次貯留槽を示している。
【0015】
本発明において、このような還元熱処理工程を採用した理由は、好気状態での燃焼処理を行なってしまった場合には、水銀が酸化されて酸化水銀(HgO)が生成したり、無機水銀化合物(例えば、塩化水銀HgClなど)が生成したりするので、目的の金属水銀(Hg)の回収ができなくなってしまうからである。
【0016】
また、酸化水銀の沸点は500℃であるのに対して、金属水銀の沸点356.58℃よりも高い。このため、還元熱処理装置4の後続の配管等で水銀の凝縮を防止するための温度設定(下限温度設定)条件がより厳しくなってしまうからである。さらに、酸化水銀は、金属水銀よりも毒性が強く、水銀の再利用も行い難い。
【0017】
ここで、還元熱処理装置4の温度条件設定は、水銀の蒸気ガス化が可能な温度以上であり、かつ、蛍光管の材料であるガラスの融解が起こる温度未満とする。例えば、400〜800℃未満の範囲、特に、500〜700度の範囲が望ましい。
【0018】
なお、800度以上で還元熱処理を行った場合では、(蛍光管の)ガラスの溶解が始まってしまう。このガラスの溶解が起こると、溶解したガラス中に蛍光物質が混在してしまうことになるため、ガラス中からの蛍光物質の除去が難しくなり、ガラスを再利用する際の障害となる。一方、350℃程度の温度では、酸化水銀が発生し易くなる。
【0019】
なお、還元熱処理装置4は、図1中に符号8で示す熱源から供給される熱エネルギーを利用することによって、同装置4を構成する炉(チャンバー)内に導入された粉砕廃蛍光管Fに対して嫌気状態で加熱処理を行う。加熱処理時間は、処理対象の粉砕廃蛍光管Fの量などを勘案し適宜決定する。
【0020】
還元熱処理装置4の出口42においては、同装置4から排出されてくる還元熱処理された粉砕廃蛍光管Fを物理的に下方のコンベア9上に落下させるとともに、同出口42から排出された水銀含有ガスGを、配管10を介して、サイクロン分離器11へ導入する。
【0021】
このサイクロン分離器11では、水銀含有ガスG中に含まれる微細なガラス粉体F等と蒸気ガス(水銀含有)Gとに分離する。分離された該蒸気ガス成分Gは、後続の冷却回収部13に導入され、分離されたガラス粉体F等は下方のベルトコンベア9に落下する。
【0022】
ここで、還元熱処理装置4の出口42から排出された水銀含有ガスG(G)の移送経路となる配管10、サイクロン分離器11、配管12に係わる装置部分が、金属水銀の沸点(356.58℃)よりも低い温度条件設定となると、金属水銀がこれらの設備の内壁面に凝縮して残ることになる。これは、金属水銀の回収率を低下させる重大な原因となる。なお、サイクロン分離器11は、気流の作用によってガス中に含まれる粉体や塵を分離し集める装置であり、一般に、集塵、プラスチックペレットからのフロス除去、脱臭などの分野で使用されている。
【0023】
そこで、本発明では、配管10、サイクロン分離器11、配管12に係わるガス移送部における温度条件を金属水銀の沸点以上の条件となるようにして、金属水銀がこれらの設備の内壁面に凝縮して残らないように工夫している。この工夫により、金属水銀の回収率を非常に向上させることができる。なお、図1では特に示さないが、例えば、配管10、サイクロン分離器11、配管12に係わる部分を閉塞し、所定温度以上を維持する構成とする。
【0024】
冷却回収部(冷却塔)13は、高温の蒸気ガスGを一気に冷却して凝縮することにより、液体状の金属水銀に戻して、該金属水銀を冷却回収部13の下方に配置された水銀回収槽14に回収する役割を担う。
【0025】
ここで、図1中の符号15は、冷却水製造装置であり、例えば、工業用水を冷媒によって冷却し、これにより得られた冷却水W1を、ポンプ17を介して、前記冷却回収部13に送り込む構成となっている。なお、冷却回収部13で使用されて温度が上昇した温水Wは、再び冷却水製造装置15に返送され、冷却水Wとして再生される。なお、図1中のWはブロー水を表している。
【0026】
次に、図1中の符号18は、活性炭充填槽(カラム)を示している。この活性炭充填槽18は、前段の冷却回収部13からの排出ガスG中に残存している可能性がある水銀(水銀化合物やその他の有害物質を含む。)を活性炭に吸着(凝縮)させて除去する役割を担う。この活性炭充填槽18を設けることによって、大気中へ排出するガス(窒素ガス)G中の水銀その他の有害物質の含有量は安全レベルにまで低減することができる。
【0027】
活性炭充填槽18の後段には、硝酸水溶液槽19を配置することが望ましい。この硝酸水溶液槽19は、前記活性炭充填槽18から送られてくるガスG中に含まれている可能性がある金属水銀の量を調べ、活性炭の取替え時期を判断するために利用することができる。
【0028】
具体的には、前記硝酸水溶液槽19では、例えば、2.5%濃度の硝酸水溶液を貯留しておくことにより、前段の活性炭充填槽18おいて活性炭に吸着されずにそのまま通過してしまった金属水銀の存在量を水銀-硝酸間の化学反応の発色によって容易に確認することができる。なお、符号20は、送風機を示しており、符号21は排気用煙突を示している。
【0029】
上記工程によって、コンベア9上に導入された還元熱処理装置4で処理された粉砕廃蛍光管Fや(サイクロン分離器11からの)微細なガラス粉体F等は、同コンベア9によって搬送し、ホッパ22に一時収容する。
【0030】
以上のような方法によって、水銀除去が実施された廃蛍光管(F、F)については、必要に応じて、所定のガラス再生処理を施す。例えば、洗浄や弗酸と硝酸の混合酸を用いて蛍光管に塗布されている蛍光物質を除去する。また、この工程を経て得られるスラッジについては、所定のキレート剤を投入し、それをセメントと混合して固め、埋め立て等により廃棄処理することができる。なお、このセメント固化物は、水銀溶出の心配がない。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明は、廃蛍光管の水銀除去技術として利用することができる。また、除去回収された水銀は、金属水銀の形態であるので、安全性が高く、再利用もし易い。したがって、本発明は廃蛍光管に含まれる水銀回収・再利用技術として有用である。また、廃蛍光管を構成するガラスから水銀を高レベルで除去できるので、本発明は、廃蛍光管の再利用技術としても有用である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明に係る廃蛍光管の処理方法の工程フローも兼ねる、廃蛍光管処理装置の構成を簡易に示す図である。
【符号の説明】
【0033】
4 還元熱処理装置
11 サイクロン分離器
13 冷却回収部
14 水銀回収槽
18 活性炭充填槽(カラム)
19 硝酸水溶液貯留槽
F 粉砕処理された廃蛍光管
G(G,G) 水銀含有ガス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
廃蛍光管に含まれる水銀を除去するための方法であって、
粉砕された状態の廃蛍光管を還元熱で処理する還元熱処理工程と、
前記工程から得られる水銀含有ガスを金属水銀の沸点以上の条件で移送する工程と、
前記水銀含有ガスを冷却して金属水銀を回収する冷却回収工程と、
を少なくとも行う廃蛍光管の処理方法。
【請求項2】
前記冷却回収工程に続いて、
該冷却回収工程からのガスを活性炭に通し、該活性炭に残存水銀を吸着させる工程を行うことを特徴とする請求項1に記載の廃蛍光管の処理方法。
【請求項3】
粉砕処理された廃蛍光管に還元熱を接触させる還元熱処理部と、
前記還元熱処理部から得られる水銀含有ガスを金属水銀の沸点以上の条件で送るガス移送部と、
前記ガス移送部から送り込まれてくる前記水銀含有ガスを冷却処理して金属水銀を回収する冷却回収部と、
を少なくとも備える廃蛍光管処理装置。
【請求項4】
前記冷却回収部から送られてくるガスを活性炭に通過させて残存水銀を吸着させることを特徴とする請求項3記載の廃蛍光管処理装置。

【図1】
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【公開番号】特開2008−178791(P2008−178791A)
【公開日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−13600(P2007−13600)
【出願日】平成19年1月24日(2007.1.24)
【出願人】(500527720)株式会社バイオキャリアテクノロジー (4)
【出願人】(000163419)株式会社きんでん (37)
【Fターム(参考)】