説明

延伸仮撚機

【課題】延伸仮撚する際の加熱ゾーンの距離を変更するための手段を設けた仮撚機を提供する。
【解決手段】延伸仮撚機100において、走行する糸条Yに対して撚りを付与する撚糸装置111と、この撚糸装置111の上流側に配され、前記撚糸装置111によって撚りが付与された上記糸条Yを加熱する一次ヒータ109とを備え、前記一次ヒータ109内で上記糸条Yを前記一次ヒータ109の長手方向に沿って往復走行させるための糸道を形成する第1の糸道形成手段と、前記一次ヒータ109内で上記糸条Yを前記一次ヒータ109の長手方向に沿って片道走行させるための糸道を形成する第2の糸道形成手段と、を設けた延伸仮撚機。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、延伸仮撚機に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の技術として特許文献1(特開2001−295151号公報)は、ツイスタの上流側に、長手方向に沿って糸条加熱空間を形成するテクスチャリング用のヒータ手段を備え、このヒータ手段によって被処理糸条を加熱するようにした延伸仮撚機を開示する。この延伸仮撚機では、上記のヒータ手段によって被処理糸条を予熱処理した後、加熱処理するべく被処理糸条をヒータ手段内に往復通過させるようにしており、これによってヒータ手段の短縮化を図っている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、糸条のデニール値が異なれば、糸条を加熱するために必要となる加熱ゾーンの距離も異なる。即ち、太デニール(例えば150D以上)の糸条であれば相対的に長い加熱ゾーンを要し、一方で、細デニール(例えば75D以下)は短い加熱ゾーンで十分とされる。
【0004】
しかし、上記特許文献1の構成では、特許文献1の図1〜図4から判る通り、上記加熱ゾーンの距離を一切変更することができない。
【0005】
本発明は斯かる諸点に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、上記加熱ゾーンの距離を変更するための技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0006】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0007】
本願発明の観点によれば、以下のように構成される、延伸仮撚機が提供される。即ち、延伸仮撚機は、走行する糸条に対して撚りを付与する撚糸装置と、この撚糸装置の上流側に配され、前記撚糸装置によって撚りが付与された上記糸条を加熱する糸条加熱装置と、を備える。前記糸条加熱装置内で上記糸条を前記糸条加熱装置の長手方向に沿って往復走行させるための糸道を形成する第1の糸道形成手段と、前記糸道加熱装置内で上記糸条を前記糸条加熱装置の長手方向に沿って片道走行させるための糸道を形成する第2の糸道形成手段と、を設けた。以上の構成で、前記第1の糸道形成手段の糸道と、前記第2の糸道形成手段の糸道と、の何れかを選択し採用することで加熱ゾーンの距離を変更することができる。従って、例えば、太デニールの糸条を仮撚加工したい場合は、前記第1の糸道形成手段の糸道を採用し、糸条を十分に加熱する。一方、細デニールの糸条を仮撚加工したい場合は、前記第2の糸道形成手段の糸道を採用して、糸条の加熱を抑える。このように上記の構成によれば、異なるデニール値の糸条の各々に最も適した加熱の態様が実現されるので、太デニールの糸条でも細デニールの糸条でも、問題なく仮撚加工できる。
【0008】
上記の延伸仮撚機は、更に、以下のように構成される。即ち、前記糸条加熱装置内には二つの糸条加熱室を形成する。前記第1の糸道形成手段の糸道は上記二つの糸条加熱室を含み、前記第2の糸道形成手段の糸道は上記二つの糸条加熱室のうち何れか一方のみを含む。上記の構成によれば、簡素な構成で、各糸道の前記糸条加熱装置内における形成が実現される。
【0009】
上記の延伸仮撚機は、更に、以下のように構成される。即ち、前記二つの糸条加熱室の間に仕切りを設けると共に、前記第1の糸道形成手段の糸道の上流側に相当する前記糸条加熱室に、加熱により上記糸条から発生する油剤ガスを排煙するための排煙手段を設けた。このように前記二つの糸条加熱室の間に仕切りを設けると共に、特に油剤ガスが発生し易い糸条加熱室に対して積極的に排煙手段を設けることで、効率のよい排煙が実現する。また、下流側に相当する前記糸条加熱室には油剤ガスが舞い込んでこないので、その分、メンテナンスが楽になる。
【0010】
上記の延伸仮撚機は、更に、以下のように構成される。即ち、前記二つの糸条加熱室の夫々に別個の加熱源を設けた。以上の構成によれば、前記第2の糸道形成手段の糸道を採用する際の消費電力削減に寄与する。
【0011】
上記の延伸仮撚機は、更に、以下のように構成される。即ち、前記第1の糸道形成手段の糸道のうち、上流側の前記糸条加熱室から出て下流側の前記糸条加熱室に至る間の糸道に、上記糸条を加熱するための加熱源を設けた。以上の構成によれば、前記第1の糸道形成手段の糸道を採用した際に、上流側の前記糸条加熱室から出て下流側の前記糸条加熱室に至る間に上記糸条が冷えてしまうのを抑制できる。
【0012】
上記の延伸仮撚機は、更に、以下のように構成される。即ち、前記第1の糸道形成手段の糸道のうち、上流側の前記糸条加熱室から出て下流側の前記糸条加熱室に至る間の糸道に、上記糸条の走行方向を反転するためのガイドローラーを設けた。このガイドローラーには、その回転の許容と禁止を切り換えるための回転制御手段を設けた。即ち、前記ガイドローラーの回転を許容すると、前記撚糸装置によって上記糸条に対して付された撚りの伝播が前記ガイドローラーによって阻害される。一方で、前記ガイドローラーの回転を禁止すると、前記ガイドローラーを挟んで上流側と下流側の上記糸条の張力に大きな差が発生する。このように前記ガイドローラーの回転を許容するか禁止するかは撚りの伝播と張力差に相当の影響を与える。そこで、上記の構成によれば、前記ガイドローラーがその回転の許容と禁止を切り換え可能になっているので、糸種によって異なる優先順位にフィットした選択が実現する。
【0013】
上記の延伸仮撚機は、更に、以下のように構成される。即ち、前記第1の糸道形成手段の糸道のうち、上流側の前記糸条加熱室から出て下流側の前記糸条加熱室に至る間の糸道に、上記糸条の走行方向を反転するためのガイドローラーを設けた。前記ガイドローラーの軸受を空気軸受又は磁気軸受にした。以上の構成では、前記ガイドローラーの軸受が前記の加熱源によって加熱されることとなるが、この軸受を空気軸受か磁気軸受とすることで、前記ガイドローラーの回転が熱により影響を受け難くなる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本願発明の第一実施形態に係る延伸仮撚機の全体概略図
【図2】図1のA−A線矢視断面図
【図3】図1のB線矢視図
【図4】本願発明の第二実施形態に係る延伸仮撚機の全体概略図
【図5】図4のC線矢視図
【図6】本願発明の第三実施形態に係る延伸仮撚機の全体概略図
【図7】本願発明の第三実施形態に係り、図5に類似する図
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態を説明する。図1は、本願発明の第一実施形態に係る延伸仮撚機の全体概略図である。
【0016】
本実施形態において延伸仮撚機100は、給糸パッケージ101から糸条Yを供給する給糸部102と、この給糸部102から供給される糸条Yに対して延伸仮撚処理を施す糸加工処理部103と、糸加工処理部103により延伸仮撚処理が施された糸条Yを巻き取って所定径の巻取パッケージPを形成する巻取部104と、を含んで構成される錘105を複数で備える。複数の錘105は、図1の紙面垂直方向に並べて設けられる。延伸仮撚機100をコンパクトとすることを目的として、図1に示されるように、給糸部102や巻取部104は上下に重ねて配される。
【0017】
給糸パッケージ101は、複数の錘105で共通のクリールスタンド106のペグ107に保持される。
【0018】
糸加工処理部103は、糸条Yの走行方向に沿って順に、第一フィードローラ108と、一次ヒータ109(糸条加熱装置)と、冷却器110と、撚糸装置111と、第二フィードローラ114と、インタレースノズル115と、二次ヒータ116と、第三フィードローラ117と、を備えて構成される。第一フィードローラ108と第二フィードローラ114の間で糸条Yが延伸されるように、第二フィードローラ114の糸送り速度は、第一フィードローラ108の糸送り速度と比較して大きく設定される。一方、第二フィードローラ114と第三フィードローラ117の間で糸条Yが弛緩されるように、第三フィードローラ117の糸送り速度は、第二フィードローラ114の糸送り速度と比較して小さく設定される。
【0019】
撚糸装置111は、走行する糸条Yに撚りを付与するものであって、この糸条Yに付与された撚りは撚糸装置111から糸条Yの走行方向上流側へ向かって伝播する。糸条Yは、延伸されつつ撚りが付与された状態で一次ヒータ109で熱セットされた後、冷却器110で冷却され、撚糸装置111を通過する際に解撚される。この延伸仮撚処理が施された糸条Yには、インタレースノズル115において適宜に交絡部が形成されることで、加撚糸と同程度の集束性が付与される。その後、糸条Yは、弛緩された状態で二次ヒータ116において所定の熱処理が施され、巻取部104において巻取パッケージPとして巻き取られる。
【0020】
本実施形態において冷却器110と一次ヒータ109は斜め上方へ向かって略一直線となるようにレイアウトされる。また、各錘105は、対称軸Cに関して左右対称となるように、紙面左側にも配置される。そして、対称軸Cに関して左右対称にレイアウトされた冷却器110と一次ヒータ109がアルファベットの「V」を想起させるので、本実施形態に係る延伸仮撚機100はV型と称される。
【0021】
本実施形態において一次ヒータ109の下端部109bの近傍にはガイドローラーG1が設けられる。また、一次ヒータ109の上端部109aにはガイドローラーG2が設けられる。また、一次ヒータ109の上端部109aの近傍にはガイドローラーG3が設けられる。この構成で、本実施形態に係る延伸仮撚機100では、糸条Yの糸道が二通り形成される。
【0022】
即ち、一方は、図1において実線で示され、一次ヒータ109内で糸条Yを一次ヒータ109の長手方向に沿って往復走行させるための太デニール向けの糸道(以下、単に太デニール用糸道と称する。)である。この場合、第一フィードローラ108を通過した糸条Yは、ガイドローラーG1を介して一次ヒータ109内に導かれ、この一次ヒータ109内をガイドローラーG2へ向かって走行し、ガイドローラーG2に至るとガイドローラーG2によって走行方向が180度反転され、再度、一次ヒータ109内を冷却器110へ向かって走行し、やがて、一次ヒータ109を抜けて冷却器110内へと導かれる。
【0023】
そして、他方は、図1において二点鎖線で示され、一次ヒータ109内で糸条Yを一次ヒータ109の長手方向に沿って片道走行させるための細デニール向けの糸道(以下、単に細デニール用糸道と称する。)である。この場合、第一フィードローラ108を通過した糸条Yは、ガイドローラーG3とガイドローラーG2とを順に介して一次ヒータ109内に導かれ、この一次ヒータ109内を冷却器110へ向かって走行し、やがて、一次ヒータ109を抜けて冷却器110内へと導かれる。
【0024】
本実施形態において、第1の糸道形成手段は、上記の太デニール用糸道を形成し、少なくともガイドローラーG1とガイドローラーG2を含んで構成される。また、第2の糸道形成手段は、上記の細デニール用糸道を形成し、少なくともガイドローラーG2を含んで構成される。
【0025】
次に、図2〜3を参照しつつ、上記の一次ヒータ109の構成や各糸道を説明する。図2は、図1のA−A線矢視断面図である。図3は、図1のB線矢視図である。
【0026】
図2及び図3に示されるように、一次ヒータ109内には、二つの糸加熱室1a・1b(糸条加熱室)が形成される。そして、図3において実線で示されるように第一フィードローラ108から冷却器110へ至る間の太デニール用糸道は、上記二つの糸加熱室1a・1bを含んで形成される。一方、図3において破線で示されるように第一フィードローラ108から冷却器110へ至る間の細デニール用糸道は、上記二つの糸加熱室1a・1bのうち糸加熱室1aはバイパスし、糸加熱室1bのみを含んで形成される。
【0027】
この一次ヒータ109は、図2に示されるように、糸加熱室1a用の加熱源2aと、糸加熱室1b用の加熱源2bと、これらの加熱源2a・2bを取り囲むように二重に形成される断熱材3・4と、を主たる構成として備える。そして、上記の断熱材3・4が一方向に二箇所で開口することで、断熱材3と加熱源2aの間に上記の糸加熱室1aが形成され、断熱材3と加熱源2bの間に上記の糸加熱室1bが形成される。この構成で、符号Y1と符号Y2は太デニール用糸道を示し、符号Y1と符号Y3は細デニール用糸道を示す。そして、糸加熱室1a内の雰囲気温度は加熱源2aによって制御されるよう、また、糸加熱室1b内の雰囲気温度は加熱源2bによって制御されるようになっている。端的に言えば、糸加熱室1aと糸加熱室1bには夫々別個の加熱源2a・2bが設けられ、各糸加熱室1a・1b内の雰囲気温度は別個独立した二つの加熱源2a・2bによって自在に制御可能となっている。なお、符号5で示すのは加熱源2a・2bが有する例えばニクロム線などの発熱体である。
【0028】
また、上記の糸加熱室1a・1bの間には仕切り壁6(仕切り)が形成され、糸加熱室1a・1bは互いに空間的に独立する。本実施形態において仕切り壁6は、一対の加熱源2a・2bと、断熱材4の一部に相当する断熱材部分4aと、から成る。そして、太デニール用糸道のうち上流側に相当する糸加熱室1aには、加熱により上記糸条Y(Y2)から発生する油剤ガスを排煙するための排煙機構7(排煙手段)が設けられる。この排煙機構7は、一端が糸加熱室1aの内壁面8aにそして他端が断熱材4の外壁面8bに開口する複数の排気流路9と、この複数の排気流路9を図3に略示の排気ブロワ11と連通させるための連絡流路10と、排気ブロワ11と、を備えて構成される。上記複数の排気流路9は、図3に示されるように糸加熱室1aの長手方向に沿って等間隔に、かつ、満遍なく形成される。図3において連絡流路10内に描かれる矢印は、連絡流路10内における油剤ガスの流れをイメージしたものである。ただし、等間隔である必要はないが、ガイド片12近傍に排気流路9が位置していることが望ましい。ガイド片12で糸条Yの随伴流が乱され煙が剥離するからである。
【0029】
また、図2及び図3に示されるように本実施形態に係る一次ヒータ109は、非接触式に構成される。即ち、この一次ヒータ109は、撚りが付与された状態で一次ヒータ109内で延伸されつつ走行する糸条Yを支持するガイド片12を複数備える。このガイド片12は、図2に示されるように糸加熱室1a内に配され、図3に示されるように糸加熱室1aの長手方向に沿って等間隔にレイアウトされる。同様に、このガイド片12は糸加熱室1b内に配されて、糸加熱室1bの長手方向に沿って等間隔にレイアウトされる。そして、各ガイド片12には図2に示されるように糸加熱室1a・1bの開口方向と同一の方向に開口する糸条収容溝12aが形成され、この糸条収容溝12a内に糸条Yが収容されることで、撚りが付与された状態で一次ヒータ109内で延伸されつつ走行する糸条Yのバタツキが防止されるように、ひいては、一次ヒータ109内における糸条Yの糸切れが防止されるようになっている。そして、上述した排気流路9の糸加熱室1a側開口9aは、図3に示されるように、上記各ガイド片12の極めて近傍となるように形成され、もって、ガイド片12に対する油剤ガスの付着を最大限抑制できるようになっている。
【0030】
次に、ガイドローラーG1〜G3について説明する。即ち、図3に示されるように、上記のガイドローラーG1は、一次ヒータ109の下端部109bの近傍に設けられ、第一フィードローラ108から送糸される糸条Yを一次ヒータ109内の糸加熱室1aへと案内する。
【0031】
また、上記のガイドローラーG2は、図3に示されるように太デニール用糸道のうち上流側の糸加熱室1aから出て下流側の糸加熱室1bに至る間の糸道に配置され、糸条Yの走行方向を紙面上方向から紙面下方向へと反転するのに用いられる。このガイドローラーG2は、破線で略示の軸受13を介して回転可能に一次ヒータ109に支持される。この軸受13は、本実施形態において空気軸受又は磁気軸受によって構成される。そして、このガイドローラーG2には、その回転の許容と禁止を切り換えるためのブレーキ機構14(回転制御手段)が設けられる。本実施形態において上記ブレーキ機構14は、摩擦部材と、この摩擦部材をガイドローラーG2の外周面に対して押圧するための例えば圧縮ばねなどの押圧手段と、この押圧手段による上記押圧を禁止する押圧禁止手段と、を備えて構成される。そして、ガイドローラーG2の外周面に対する上記摩擦部材の押圧を許容したり或いは押圧禁止手段を用いて禁止したりすることで、ガイドローラーG2の回転の許容と禁止を切り換えられるようになっている。更に、図3に示されるように、太デニール用糸道のうち上流側の糸加熱室1aから出て下流側の糸加熱室1bに至る間の糸道には、上記糸条Yを加熱するための加熱源15が設けられる。本実施形態において上記加熱源15は、上流側の糸加熱室1aから出て下流側の糸加熱室1bに至る間の糸道の近傍に配置されることで、この糸道における糸条Yを、ガイドローラーG2を加熱することで間接的に加熱するようになっている。なお、上記のガイドローラーG2は、一次ヒータ109の上端部109a内に配置され、断熱材16によって取り囲まれる。
【0032】
また、ガイドローラーG3は、本実施形態において一次ヒータ109の上端部109aの近傍に配置され、第一フィードローラ108とガイドローラーG2との間の細デニール用糸道が一次ヒータ109に対して干渉するのを防止する。
【0033】
以上の構成で、本実施形態に係る第1の糸道形成手段は、ガイドローラーG1とガイドローラーG2を含んで構成される。また、第2の糸道形成手段は、ガイドローラーG2とガイドローラーG3を含んで構成される。
【0034】
次に、本実施形態に係る延伸仮撚機100の作動を説明する。ここでは、特に、一次ヒータ109周辺の作動を説明する。
【0035】
即ち、太デニール用糸道を採用した場合は、図3において実線で示すように、糸条Yを、第一フィードローラ108と、ガイドローラーG1と、ガイドローラーG2と、冷却器110と、に順に糸掛けする。また、ブレーキ機構14によるガイドローラーG2の回転の禁止は予め解除しておく。更に、図2に示される加熱源2a・2bを用いて糸加熱室1a・1b内の雰囲気を夫々十分に加熱しておく。そして、図1に示すように撚糸装置111を用いて糸条Yに撚りを付与し、第一フィードローラ108と第二フィードローラ114を用いて糸条Yを延伸させた状態で糸条Yを走行させると、撚糸装置111で付与された撚りは、図3のガイドローラーG1に至るまで遡上する。このガイドローラーG1から下流側へ向かって走行する糸条Yは糸加熱室1a内に導かれて加熱され、この糸加熱室1a内で糸条Yに予め染み込ませた油剤が蒸発気化する。この蒸発気化により発生した油剤ガスは排煙機構7によって効率よく排煙される。そして、糸加熱室1aを通過した糸条Yは、ガイドローラーG2に至ると、ガイドローラーG2によって走行方向が紙面上方向から紙面下方向へと180度反転された上で、糸加熱室1b内に導入される。糸条Yは、この糸加熱室1b内で更に加熱され、やがて、糸加熱室1bを通過して冷却器110へと送糸される。
【0036】
一方、細デニール用糸道を採用した場合は、図3において破線で示すように、糸条Yを、第一フィードローラ108と、ガイドローラーG3と、ガイドローラーG2と、冷却器110と、に順に糸掛けする。また、ブレーキ機構14によるガイドローラーG2の回転の禁止は予め解除しておく。更に、図2に示される加熱源2bを用いて糸加熱室1b内の雰囲気のみを十分に加熱しておく。そして、図1に示すように撚糸装置111を用いて糸条Yに撚りを付与し、第一フィードローラ108と第二フィードローラ114を用いて糸条Yを延伸させた状態で糸条Yを走行させると、撚糸装置111で付与された撚りは、図3のガイドローラーG2に至るまで遡上する。これは、細デニールの糸条Yに付与された撚りは、ガイドローラーを越えて遡上することが難しいという性質による。そして、第一フィードローラ108から下流側へ向かって走行する糸条YはガイドローラーG3とガイドローラーG2とを介して糸加熱室1b内に導かれて加熱される。なお、細デニールの糸条Yは、太デニールの糸条Yと比較して、加熱による油剤の蒸発気化が著しく少ないとされる。従って、細デニールの糸条Yが糸加熱室1b内で加熱されても糸加熱室1b内では油剤ガスが殆ど発生しない。そして、糸加熱室1bを通過した糸条Yは、やがて、冷却器110へと送糸される。なお、この細デニール用糸道を採用した場合は、従来技術にあるように、一次ヒータ109の上流側あるいは下流側あるいは両方に排煙吸引口を設置してもよい。
【0037】
(まとめ)
(請求項1)
以上説明したように上記の第一実施形態において延伸仮撚機100は、以下のように構成される。即ち、延伸仮撚機100は、走行する糸条Yに対して撚りを付与する撚糸装置111と、この撚糸装置111の上流側に配され、前記撚糸装置111によって撚りが付与された上記糸条Yを加熱する一次ヒータ109と、を備える。前記一次ヒータ109内で上記糸条Yを前記一次ヒータ109の長手方向に沿って往復走行させるための糸道を形成する第1の糸道形成手段と、前記一次ヒータ109内で上記糸条Yを前記一次ヒータ109の長手方向に沿って片道走行させるための糸道を形成する第2の糸道形成手段と、を設けた。以上の構成で、前記第1の糸道形成手段の糸道と、前記第2の糸道形成手段の糸道と、の何れかを選択し採用することで加熱ゾーンの距離を変更することができる。従って、例えば、太デニールの糸条Yを仮撚加工したい場合は、前記第1の糸道形成手段の糸道である太デニール用糸道を採用し、糸条Yを十分に加熱する。一方、細デニールの糸条Yを仮撚加工したい場合は、前記第2の糸道形成手段の糸道である細デニール用糸道を採用して、糸条Yの加熱を抑える。このように上記の構成によれば、異なるデニール値の糸条Yの各々に最も適した加熱の態様が実現されるので、太デニールの糸条Yでも細デニールの糸条Yでも、問題なく仮撚加工できる。
【0038】
(請求項2)
上記の延伸仮撚機100は、更に、以下のように構成される。即ち、一次ヒータ109内には二つの糸加熱室1a・1bを形成する。太デニール用糸道は上記二つの糸加熱室1a・1bを含み、細デニール用糸道は上記二つの糸加熱室1a・1bのうち糸加熱室1bを含む。上記の構成によれば、簡素な構成で、各糸道の前記一次ヒータ109内における形成が実現される。
【0039】
(請求項3)
上記の延伸仮撚機100は、更に、以下のように構成される。即ち、前記二つの糸加熱室1a・1bの間に仕切り壁6を設けると共に、太デニール用糸道の上流側に相当する前記糸加熱室1aに、加熱により上記糸条Yから発生する油剤ガスを排煙するための排煙機構7を設けた。このように前記二つの糸加熱室1a・1bの間に仕切りを設けると共に、特に油剤ガスが発生し易い糸加熱室1aに対して積極的に排煙機構7を設けることで、効率のよい排煙が実現する。また、下流側に相当する前記糸加熱室1bには油剤ガスが舞い込んでこないので、その分、メンテナンスが楽になる。
【0040】
(請求項4)
上記の延伸仮撚機100は、更に、以下のように構成される。即ち、前記二つの糸加熱室1a・1bの夫々に別個の加熱源2a・2bを設けた。以上の構成によれば、細デニール用糸道を採用する際の消費電力削減に寄与する。即ち、細デニール用糸道を採用する場合、加熱源2aの通電を問題なく停止できるからである。
【0041】
(請求項5)
上記の延伸仮撚機100は、更に、以下のように構成される。即ち、太デニール用糸道のうち、上流側の糸加熱室1aから出て下流側の糸加熱室1bに至る間の糸道に、上記糸条Yを加熱するための加熱源15を設けた。以上の構成によれば、太デニール用糸道を採用した際に、上流側の糸加熱室1aから出て下流側の糸加熱室1bに至る間に上記糸条Yが冷えてしまうのを抑制できる。
【0042】
(請求項6)
上記の延伸仮撚機100は、更に、以下のように構成される。即ち、太デニール用糸道のうち、上流側の糸加熱室1aから出て下流側の糸加熱室1bに至る間の糸道に、上記糸条Yの走行方向を反転するためのガイドローラーG2を設けた。このガイドローラーG2には、その回転の許容と禁止を切り換えるためのブレーキ機構14を設けた。即ち、前記ガイドローラーG2の回転を許容すると、前記撚糸装置111によって上記糸条Yに対して付された撚りの伝播が前記ガイドローラーG2によって阻害される。一方で、前記ガイドローラーG2の回転を禁止すると、前記ガイドローラーG2を挟んで上流側と下流側の上記糸条Yの張力に大きな差が発生する。このように前記ガイドローラーG2の回転を許容するか禁止するかは撚りの伝播と張力差に相当の影響を与える。そこで、上記の構成によれば、前記ガイドローラーG2がその回転の許容と禁止を切り換え可能になっているので、糸種によって異なる優先順位にフィットした選択が実現する。
【0043】
(請求項7)
上記の延伸仮撚機100は、更に、以下のように構成される。即ち、太デニール用糸道のうち、上流側の糸加熱室1aから出て下流側の糸加熱室1bに至る間の糸道に、上記糸条Yの走行方向を反転するためのガイドローラーG2を設けた。前記ガイドローラーG2の軸受13を空気軸受又は磁気軸受にした。以上の構成では、前記ガイドローラーG2の軸受13が前記の加熱源15によって加熱されることとなるが、この軸受13を空気軸受か磁気軸受とすることで、前記ガイドローラーG2の回転が熱により影響を受け難くなる。
【0044】
次に、本願発明の第二実施形態を説明する。図4は、本願発明の第二実施形態に係る延伸仮撚機の全体概略図である。図5は、図4のC線矢視図である。以下、本実施形態が上記第一実施形態と相違する点を中心に説明し、重複する部分については適宜、その説明を割愛する。
【0045】
上記第一実施形態において一次ヒータ109は、図1に示されるように冷却器110と略一直線となるようにレイアウトされるとしたが、これに対し、本実施形態に係る一次ヒータ109は、図4に示されるように冷却器110との間で鋭角を成すように、略垂直に立てた状態でレイアウトされる。本実施形態においても、上記第一実施形態と同様に、各錘105は、対称軸Cに関して左右対称となるように、紙面左側にも配置される。また、対称軸Cに関して左右対称にレイアウトされた冷却器110と一次ヒータ109がアルファベットの「M」を想起させるので、本実施形態に係る延伸仮撚機100はM型と称される。
【0046】
本実施形態において一次ヒータ109の下端部109dにはガイドローラーG4が設けられる。また、一次ヒータ109の上端部109cの近傍にはガイドローラーG5とガイドローラーG6が設けられる。この構成で、本実施形態に係る延伸仮撚機100でも、上記第一実施形態と同様に、糸条Yの糸道が二通り形成される。即ち、上記第一実施形態に係る太デニール用糸道は図5において実線で示され、同様に、細デニール用糸道は図5において破線で示される。
【0047】
即ち、本実施形態において、太デニール用糸道を採用した場合、第一フィードローラ108を通過した糸条Yは、ガイドローラーG6とガイドローラーG5を介して一次ヒータ109内に導かれ、この一次ヒータ109内をガイドローラーG4へ向かって走行し、ガイドローラーG4に至るとガイドローラーG4によって走行方向が180度反転され、再度、一次ヒータ109内を冷却器110へ向かって走行し、やがて、一次ヒータ109を抜けて冷却器110内へと導かれる。
【0048】
一方、本実施形態において、細デニール用糸道を採用した場合、第一フィードローラ108を通過した糸条Yは、そのまま一次ヒータ109内に導かれ、この一次ヒータ109内を冷却器110へ向かって走行し、やがて、一次ヒータ109を抜けて冷却器110内へと導かれる。
【0049】
本実施形態において、第1の糸道形成手段は、上記の太デニール用糸道を形成し、少なくともガイドローラーG5とガイドローラーG4を含んで構成される。また、第2の糸道形成手段は、上記の細デニール用糸道を形成する。この第2の糸道形成手段は、一次ヒータ109の上端部109cと下端部109dと第一フィードローラ108が略一直線に並ぶレイアウトそのものによって実現される。
【0050】
次に、本願発明の第三実施形態を説明する。図6は、本願発明の第三実施形態に係る延伸仮撚機の全体概略図である。以下、本実施形態が上記第一実施形態と相違する点を中心に説明し、重複する部分については適宜、その説明を割愛する。
【0051】
上記第一実施形態において冷却器110と一次ヒータ109は斜め上方に向かって略一直線となるようにレイアウトされるとしたが、これに対し、本実施形態に係る冷却器110と一次ヒータ109は、略水平方向に向かって略一直線となるようにレイアウトされる。本実施形態においても、上記第一実施形態と同様に、各錘105は、対称軸Cに関して左右対称となるように、紙面左側にも配置される。また、対称軸Cに関して左右対称にレイアウトされた冷却器110と一次ヒータ109と前述の巻取部104がアルファベットの「T」を想起させるので、本実施形態に係る延伸仮撚機100はT型と称される。
【0052】
本実施形態において一次ヒータ109の右端部109eにはガイドローラーG7が設けられ、右端部109eの近傍には糸ガイド118が設けられる。また、一次ヒータ109の左端部109fの近傍にはガイドローラーG8が設けられる。この構成で、本実施形態に係る延伸仮撚機100でも、上記第一実施形態と同様に、糸条Yの糸道が二通り形成される。即ち、上記第一実施形態に係る太デニール用糸道は図7において実線で示され、同様に、細デニール用糸道は図7において破線で示される。
【0053】
即ち、本実施形態において、太デニール用糸道を採用した場合は、第一フィードローラ108を通過した糸条Yは、ガイドローラーG8を介して一次ヒータ109内に導かれ、この一次ヒータ109内をガイドローラーG7に向かって走行し、ガイドローラーG7に至るとガイドローラーG7によって走行方向が180度反転され、再度、一次ヒータ109内を冷却器110へ向かって走行し、やがて、一次ヒータ109を抜けて冷却器110内へと導かれる。
【0054】
一方、本実施形態において、細デニール用糸道を採用した場合は、第一フィードローラ108を通過した糸条Yは、糸ガイド118を介して一次ヒータ109内へ導かれ、この一次ヒータ109内を冷却器110へ向かって走行し、やがて、一次ヒータ109を抜けて冷却器110内へと導かれる。
【0055】
本実施形態において、第1の糸道形成手段は、上記の太デニール用糸道を形成し、少なくともガイドローラーG8とガイドローラーG7を含んで構成される。また、第2の糸道形成手段は、上記の細デニール用糸道を形成し、少なくとも糸ガイド118を含んで構成される。
【0056】
以上に本発明の好適な実施形態を説明したが、上記の実施形態は以下のように変更して実施することができる。
【0057】
即ち、例えば、上記各実施形態において一次ヒータ109は、図3に示されるように、一次ヒータ109内を走行する糸条Yを、一次ヒータ109の長手方向に沿って等間隔にレイアウトした複数のガイド片12によって支持する、所謂非接触式とした。しかし、これに代えて、一次ヒータ109は、一次ヒータ109内を走行する糸条Yを、一次ヒータ109の長手方向に沿って敷いた断面U字状の図示しないガイドレールによって支持する、所謂接触式としてもよい。
【符号の説明】
【0058】
100 延伸仮撚機
109 一次ヒータ
111 撚糸装置
Y 糸条

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行する糸条に対して撚りを付与する撚糸装置と、
この撚糸装置の上流側に配され、前記撚糸装置によって撚りが付与された上記糸条を加熱する糸条加熱装置と、
を備える延伸仮撚機であって、
前記糸条加熱装置内で上記糸条を前記糸条加熱装置の長手方向に沿って往復走行させるための糸道を形成する第1の糸道形成手段と、
前記糸道加熱装置内で上記糸条を前記糸条加熱装置の長手方向に沿って片道走行させるための糸道を形成する第2の糸道形成手段と、
を設けたことを特徴とする延伸仮撚機。
【請求項2】
請求項1に記載の延伸仮撚機であって、
前記糸条加熱装置内には二つの糸条加熱室を形成し、
前記第1の糸道形成手段の糸道は上記二つの糸条加熱室を含み、
前記第2の糸道形成手段の糸道は上記二つの糸条加熱室のうち何れか一方のみを含む、
ことを特徴とする延伸仮撚機。
【請求項3】
請求項2に記載の延伸仮撚機であって、
前記二つの糸条加熱室の間に仕切りを設けると共に、
前記第1の糸道形成手段の糸道の上流側に相当する前記糸条加熱室に、加熱により上記糸条から発生する油剤ガスを排煙するための排煙手段を設けた、
ことを特徴とする延伸仮撚機。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の延伸仮撚機であって、
前記二つの糸条加熱室の夫々に別個の加熱源を設けた、
ことを特徴とする延伸仮撚機。
【請求項5】
請求項2〜4の何れかに記載の延伸仮撚機であって、
前記第1の糸道形成手段の糸道のうち、上流側の前記糸条加熱室から出て下流側の前記糸条加熱室に至る間の糸道に、上記糸条を加熱するための加熱源を設けた、
ことを特徴とする延伸仮撚機。
【請求項6】
請求項2〜5に記載の延伸仮撚機であって、
前記第1の糸道形成手段の糸道のうち、上流側の前記糸条加熱室から出て下流側の前記糸条加熱室に至る間の糸道に、上記糸条の走行方向を反転するためのガイドローラーを設け、
このガイドローラーには、その回転の許容と禁止を切り換えるための回転制御手段を設けた、
ことを特徴とする延伸仮撚機。
【請求項7】
請求項5に記載の延伸仮撚機であって、
前記第1の糸道形成手段の糸道のうち、上流側の前記糸条加熱室から出て下流側の前記糸条加熱室に至る間の糸道に、上記糸条の走行方向を反転するためのガイドローラーを設け、
前記ガイドローラーの軸受を空気軸受又は磁気軸受にした、
ことを特徴とする延伸仮撚機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−159499(P2010−159499A)
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−538(P2009−538)
【出願日】平成21年1月6日(2009.1.6)
【出願人】(502455511)TMTマシナリー株式会社 (91)
【Fターム(参考)】