延伸PTFE物品及びその製造方法
下地の延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)構造体に付着したPTFEの島を含む新規PTFE構造体、及びそのような構造体の製造方法を開示する。ePTFE材料は、アモルファスロック温度に暴露されるか否かは問わない。これらの新規構造体は、延伸PTFE構造体に付着しかつそこから隆起したPTFEの島を有している。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は独自の延伸PTFE物品に関し、より詳細には、延伸PTFEの新規構造体及びその構造体を作るための新規方法を対象とする。
【背景技術】
【0002】
延伸PTFE(「ePTFE」)の構造体は、Goreの米国特許第3953566号及び第4187390号が教示するように、フィブリルによって相互連結されたノードに特徴があることが周知であり、これらの特許はePTFE材料を対象とする研究の重要な実体の基礎となっている。ePTFE構造体のノード及びフィブリルの特徴は、これらの特許に最初に記載されて以来、多くの方法で変更されている。例えば、高強度繊維の場合のような高延伸材料では、非常に長いフィブリル及び比較的小さいノードが見られる。他の処理条件では、例えば物品の厚み全体に延在するノードを有する物品を生産できる。
【0003】
ePTFE構造体を改質するために、様々な手法を用いてePTFE構造体の表面処理が行われている。Okita(米国特許第42308745号)は、チューブの外側と比べてより微細な構造を内側にもたらすために、ePTFEチューブ、特に人工血管の外表面を内表面と比べてより厳しい(すなわち高温の)熱処理に暴露することを教示している。当業者であれば、Okitaの処理が従来技術のアモルファスロック(amorphous locking)処理と一致し、唯一の相違点が、より大きい熱エネルギーに優先的に暴露されるのがePTFE構造体の外表面である、ということを理解するであろう。
【0004】
Zukowski(米国特許第5462781号)は、フィブリルによって相互連結されていない独立したノードを表面上に有する構造を得るために、プラズマ処理を用いて多孔質ePTFE表面からフィブリル除去を有効に行うことを教示している。プラズマ処理後のさらなる処理は、この教示に開示又は想定されていない。
【0005】
Martakosら(米国特許第6573311号)は、ポリマー樹脂加工中の様々な段階にて、ポリマー物品のプラズマエッチングを含むプラズマグロー放電処理を教示している。Martakosらは、従来技術の手法が、完成した、作製済みの及び/又は最終処理した材料に行われるものであって、「多孔性及び透過性のようなバルク基材特性の改質に有効ではない」と注記することによって、従来処理と区別している。Martakosらは6つの可能なポリマー樹脂加工段階におけるプラズマ処理を教示しているが、アモルファスロックと同時又はアモルファスロックに続いて行われるそのような処理は、記載又は示唆されていない。また、Martakosらが注目していたのは、完成した物品における多孔性及び/又は化学品質のようなバルク特性に影響を及ぼすことである。
【0006】
多孔質PTFEに新しい表面を作製して多孔質PTFEの表面を処理する他の方法は、先行技術に多く見られる。Butters(米国特許第5296292号)は、改質して耐摩耗性を改良できる多孔質PTFE被覆を備えたコアからなる、フライフィッシング用釣り糸を教示している。耐摩耗性材料の被膜を追加する、又は多孔質PTFE被覆を高密度化することのいずれかにより外部被覆が改質されて、釣り糸の耐摩耗性が改良される。
【0007】
別の例では、Campbellら(米国特許第5747128号)は、多孔質PTFE物品全体に高及び低バルク密度の領域を作製する手段を教示している。さらに、Kowligiら(米国特許第5466509号)は、ePTFE表面にパターンを施すことを教示しており、Seilerら(米国特許第4647416号)は外部にリブを設けるため、作製中に筋を付けたPTFEチューブを教示している。
【0008】
しかしながらいずれの先行技術文献も、これまで見られなかった独特の表面をPTFEに作製するための、出願人が開示する独特の処理方法の組み合わせを教示していない。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、下地の延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)構造体に付着したPTFEの島を含んでなる独特のPTFE構造体を対象とし、またそのような構造体の作製方法を対象とする。このePTFE材料は、アモルファスロック温度に暴露されるか否かを問題としない。これらの独特な構造体は、延伸PTFE構造体に付着し、かつその上に隆起したPTFEの島を有している。「隆起した」とは、物品の横断面の顕微鏡写真のように、物品を横断面で見たときに、下地のノード−フィブリル構造体の外表面によって定義されるベースラインより、島が長さ「h」だけ上に隆起して見えることを意味する。島12を備えた延伸PTFE繊維10の横断面図を示す図1を参照すると、島12の高さは下地のePTFE構造体の表面14、すなわち「ベースライン」より、高さ「h」だけ上に高くなっている。
【0010】
これらの隆起領域、すなわち島は、下地のePTFE構造体にその基部で結合している。この島はかなり大きいため、下地のノード及びフィブリルと区別可能である。最も大きい島の長さは、下地のノードについて同じ次元で測った長さの少なくとも2倍である。この長さの違いは下地のノードの長さの100倍を超えてもよい。さらに、島の形態(morphology)によって、島が下地のePTFE構造体から区別されることが多い。この島構造は物品の表面に独特であって、表面下には存在しない。
【0011】
また本発明のPTFE構造体の形態は、所定の表面積に存在する島の数に関係して様々に変化していてもよい。多くの場合、島は大きく相互連結していない。他の実施態様では、島が相互連結して、ePTFE構造体上の多孔質被覆又はウェブとして見える場合がある。ウェブの広がりについていえば、その大きさは下地のノードの大きさを大幅に超える。
【0012】
本発明の物品及び処理に独特な特徴によって、これまでに見られなかった改良された製品の形成が可能となる。例えば、本発明によれば、デンタルフロス、釣り糸、縫合糸などのような分野において改良された性能を有するPTFE繊維を作製できる。膜、チューブ、シート及び他の形状のPTFE物品もまた、完成した製品に独特の特徴を付与することができる。本発明のこれら及び他の独特の特徴を、以下より詳細に記載する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明のPTFE物品は、下地のePTFE構造体に付着したPTFEの島を含む。先行技術の材料で、下地のePTFE材料に付着した、このような独特のPTFEの島構造を有するものはない。この島材料の存在は様々な手法によって確認することができる。例えば、カミソリの刃、又は他の適当な手段を用いて、表面から島材料の破片をほんの少し掻き取り、次にそのサンプルを熱分析することによって、島材料を評価することができる。本明細書で後述する、島の示差走査熱量測定(DSC)分析によれば、ノード及びフィブリル構造がないことが示唆されている。
【0014】
本発明の物品は、島のPTFEの分子量が、下地のePTFE構造体のPTFEより低いという点でも独特である。この分子量の違いは、示差走査熱量測定から得られる冷却曲線の発熱の測定及び比較から推測することができる。さらに加熱曲線は、下地のePTFE材料が、327℃及び380℃、又は約327℃及び約380℃の融点を有することを示唆している。隆起した島は380℃又は約380℃の融点を示さない。
【0015】
本発明を実施するための基本的な処理は、第1に前駆体ePTFE物品を高エネルギー表面処理し、その後加熱工程を経て、下地のePTFE材料の表面に独特のPTFEの島を得ることである。単に便宜のため、「プラズマ処理」とは任意の高エネルギー表面処理、例えば以下に限られないが、グロー放電プラズマ、コロナ、イオンビームなどを指すために使用する。当然のことながら、処理時間、温度及び他の処理条件は、ある範囲の島の大きさ及び外観を得るために変化させてもよい。例えば、PTFE表面をアルゴン気体中または他の適当な環境中でプラズマエッチして、次に熱処理工程を経てもよい。ePTFEの熱処理単独、又はその後に熱処理を伴わないプラズマ処理単独ではいずれも、本発明の物品が得られない。
【0016】
本発明の処理は、幅広い種類の型及び形状を有する物品に適用可能であり、その物品には、以下に限られないが、チューブ、ねじれた、丸い、平らな及び引っぱられた繊維に限られない繊維を含む繊維、膜、テープ、シート、ロッドなどが含まれ、それぞれが任意の様々な横断面形状を有している。前駆体ePTFE材料の形態に応じて、島の外観を顕著に変化させることができ、ある種の前駆体材料においてはこの処理がより劇的な効果を生み出す。例えば、本発明の教示に従って処理した場合、長いフィブリルと小さいノードを有する前駆体材料ではより長い島が生成するようである。
【0017】
さらなる実施態様では、本発明にはePTFEの表面だけを他の材料で充填する工程も含まれる。プラズマ処理工程の後で、熱処理工程の前に、フィラー粒子をePTFE物品の表面に適用してもよい。この処理を表面充填と呼び、フィラー材料をPTFEとブレンド又は共凝固すること、フィラーで空孔を含浸すること、及び表面を改質してその表面に他の材料を接着することのような手法が含まれうる、多孔質ePTFE物品の空孔を充填する従来の方法とは区別される。熱処理工程前ではそのまま表面に乗っていたのと対照的に、粒子は表面に主に島の内部に含まれていた。
【0018】
本発明の物品は、これまでに得られなかった驚くべきかつ価値ある特徴を有している。ある実施態様では、PTFEから本質的になるデンタルフロス材料は、握りやすさ及び研磨特性が非常に向上していることが分かっている。握りやすさとは、フロスが使用者の指の間を滑らないように、使用中にフロスをしっかりと握れることを指す。研磨性は、改善された洗浄を提供しない場合であっても、使用者に改善された洗浄感を同様に提供する。従来のPTFEフロス材料では、これらの特徴がここまで実現されなかった。
【0019】
研磨性といった特徴は、滑らかさを伴わずにPTFE及びePTFEの利点の全てを有する、PTFEから本質的になる物品の作製を可能にする。滑らかさは全ての用途で望ましくない特徴である。
【0020】
驚くべきことに、本発明の物品は、引きずり係数の増大によって示される、増大した研磨性、及び摩耗試験における改良された耐久性によって示される、改良された耐摩耗性を同時に示しうる。ここに記載する耐久試験は物品の摩滅抵抗を定量する。当業者であれば物品の耐摩耗性を損なうと予想するであろうプラズマ処理工程を前駆体材料に施しているにも拘わらず、後の熱処理工程のおかげで、本発明の物品は前駆体物品より驚くほど耐摩耗性が高い。このような程度の耐摩耗性は、これまでにバルク密度が約0.8g/cc未満のePTFEフロス材料で実現されたのみであった。
【0021】
また、耐摩耗性は、ePTFE繊維、特にePTFE釣り糸に関連する摩滅の問題を解決するのに特に有用である。
【0022】
PTFEの島は、本発明の処理に従って作製した縫合糸材料の、結び目保持強度を改良することが示されている。
【0023】
また島の存在は、他の物品、特にパーフルオロポリマー物品、とりわけPTFE物品への、本発明の物品の接着もまた高めうる。
【0024】
本発明を、以下提供する非限定的な例と関連させてさらに説明する。
【実施例】
【0025】
引きずり抵抗試験:動的引きずり抵抗は、剛直な梁に取り付けられた3つの直径12.7mm(0.50インチ)の円筒形シャフトを用いた、図2に示すような固定具180を用いて決定した。その剛直な梁は、標準的な引張り試験機である、INSTRON Company(Canton, MA)の型式5567から片持ちされていた。3つの円筒物170、172及び174(McMaster-Carr Supply Company, Dayton, NJ、品番8524−K24、オフホワイト、公称直径12.7mmのG−7 Garolite Glass Silicon Rod材料、公称長さ25mmに分断)を固定具の腕支持部に隙間嵌めするために、固定具の腕支持部176は、ドリルで穴が開けられ、リーマーで公称直径12.7mm(公称直径0.5000インチ)に広げられた。円筒物−支持部の界面で円筒物に半径方向の圧縮力を与える位置決めねじを用いて、これらの円筒物は固定された。円筒物は、反復試験中に回転しないように固定され、試験固定具からおよそ17mm飛び出して延在していた。全ての3つの円筒物は互いに平行であり、かつ片持ちされた固定具の腕支持部176に対して垂直であった。
【0026】
3つの円筒物の表面粗さ(Ra)を、Perthometer 型式M4P(Feinpruef Perthen, GmbH, Postfach 1853, D-3400 Goettingen, Germany)を用いて軸方向及び半径方向の両方について測定した。Raは、ストローク0.03インチを用い、90度間隔の4つの象限にて円筒物の軸方向について測定した。円筒物の半径方向におけるRaについては、円筒物の長さに沿って無作為にストローク0.01インチを用いて、3〜4点測定した。結果を下表に示す。
【0027】
【表1】
【0028】
各サンプルを試験する前に、円筒物を固定具から取り外し、99.9%イソプロパノールを入れたビーカーに1分間完全に沈めて、試験固定具の元の位置に戻し、完全に空気乾燥した。
【0029】
INSTRON 5567 引張り試験機には、引張り荷重モードで測定中にフィラメントサンプルを固定するのに適した、1つのヤーン式クランプあご部が取り付けられていた。あご部は、試験機のクロスヘッド上に固定された定格100ニュートンのロードセル(不図示)と連結していた。引張り試験機のクロスヘッド速度は30.48cm/分であり、(ヤーンクランプの当接点から下方に、3つの円筒物のうち第1の170に掛かっている試験サンプルの当接点までを測定した)ゲージ長は50mmであった。固定具176は、クランプあご部に固定された試験サンプルが円筒物170の軸と直交するように、引張り試験機に固定された。
【0030】
試験する物品を、図2に描くように3つの円筒物170、172及び174の周りを通した。その結果、サンプルは円筒物170の周りに半周、円筒物172及び174の周りに1/4周巻き付けられた。従って、合計累積巻き角度は完全な1周(すなわち2πラジアン)となった。
【0031】
円筒物170及び172の中心点(当接点)間の垂直距離は25.4mmであった。同じ2つの円筒物の中心点間の水平距離は12.7mmであった。円筒物172及び174の中心点間の水平距離は360.4mmであった。
【0032】
本発明の材料は、材料の片側のみに島を付与するように製造できるため、全ての3つの円筒物表面に同じ側が接触するように、サンプルは全てねじられた。そのため、円筒物170及び172の間で全ての試験サンプルについて1回ねじることとなった。試験サンプルは円筒物172及び174の間でねじらなかった。300gの重り186を試験サンプルの端部に固定した。円筒物174を過ぎてぶら下がった300gの重り186まで下方に延在する試験サンプルの長さは、少なくとも110mmであったが510mm以下であった。
【0033】
サンプルの引きずり抵抗を測定するために、試験を行うのに十分長い5つのサンプルを無作為に選択して試験した。試験を始めるにあたり、引張り試験機のクロスヘッドを上方に移動するように設定し、こうして300gの重りも同様に上方に移動するようにした。試験サンプルを、移動長を少なくとも80mmで510mm以下として、3つの円筒物上を滑らせた。クロスヘッドが上方に移動している間に円筒物上を試験サンプルが滑るときに生じる荷重を、少なくとも10データ点/秒の割合で記録するように、ロードセルをデータ収集システムに接続した。データ収集システムは、試験中に対応するクロスヘッド変位も同様に記録した。次に各クロスヘッド変位での引きずり抵抗を下式によって計算した。
e(δθ)=T2/T1、変換すると、δ=[ln(T2/T1)]/θ
δ=引きずり抵抗
θ=累積巻き角度(ラジアン)=2πラジアン
T1=平均入力張力=300グラム
T2=データ収集によって記録された平均出力張力(グラム重量)
(注:lnはe=2.71828を底とする自然対数)
【0034】
変位0mm〜76mmについてデータを得た。動的引きずり抵抗は、変位25.4〜50.8mmにわたって算術平均を計算した引きずり抵抗を用いて決定した。
【0035】
ワックス又は他の被膜を有するサンプルを、被膜材料を除去した後に試験できることに注意する。例えば、60℃に加熱した試薬等級のイソプロパノール浴に10分間フロスを浸し、その後軟らかいコットンクロスを用いてワックスを拭き取ることによって、ワックス被膜を除去できる。
【0036】
縫合糸についての結び目保持能力試験:サンプルを以下の方法で用意した。ある長さのサンプル縫合糸材料を、直径2インチの滑らかな表面(例えばDelrin)の円筒物の周りに2回巻き付けた。4つのスライドスロー(sliding throw)を用いて両端を一緒に結び、1つの交互スライドスロー(alternate-sliding throw)を用いて固定した。結び目が円筒物に接触して位置するようにスローを引っ張った。「耳」(耳とは、結び目を結んだ後の、縫合糸の2つの自由な端部である)を、1/8〜3/16インチの長さに切り揃えた。サンプルを円筒物から滑らせて外し、輪を結び目の反対位置で半分に切断した。
【0037】
クロスヘッド速度を200mm/分、ゲージ長を229mmとし、INSTRON 型式5500R試験機を用いてサンプルを試験した。ヤーングリップ及び10kgのロードセルを使用した。少なくとも10サンプルを試験し、(最大力が結び目の破断又は滑りのいずれによって生じたかに関係なく)得られた最大力を平均した。全てのサンプルを温度範囲22〜24℃で試験した。
【0038】
島の高さ測定:島の高さは、サンプルの長手方向の横断面についての、走査型電子顕微鏡写真から測定した。ノード−フィブリルePTFE構造体から上を覆う島の最高点までの最も短い距離として、島の高さの個々の値を測定した。島と隣接するノード−フィブリル構造体の上面全体に線を引いた。次に島の最高点からノード−フィブリル構造体表面の線へ垂線を下ろした。
【0039】
下ろした線の長さが島の高さである。写真の下部隅にある縮尺線の倍率を考慮して、高さを明確に決定可能なほど十分に高倍率で撮影された顕微鏡写真から測定を行うのが好ましい。個々の測定は無作為に選択した5つの島について行い、これらを全ての島の代表値とした。報告した島の高さの値は、これら5つの個々の測定の平均である。
【0040】
示差走査熱量測定に基づく、ポリテトラフルオロエチレン材料の結晶相を決定するための試験方法:示差走査熱量測定(DSC)を、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の結晶相を同定するために使用できる。およそ320〜340℃での、加熱走査中の吸熱ピークの存在は、典型的なPTFEの溶融相を示す。さらに、およそ380℃の吸熱は、延伸されてノード−フィブリル構造体が作られたPTFEに起因する。このピーク(又は吸熱)は、試験サンプルにフィブリルが存在することを示唆するものとして広く認識されている。
【0041】
この試験は、TA Instruments Q1000 DSC、及び示差走査熱量測定(DSC)用のTA Instruments 標準アルミニウムパン及びふたを用いて行った。TA Instruments Sample Encapsulation Press(品番900680−902)を使用して、ふたをパンに圧着した。質量測定を、Sartorius MC 210P 微量天秤で行った。
【0042】
Q1000の校正は、装置と一緒に提供されたThermal Advantage ソフトウェアによって可能となる、Calibration Wizardを利用して行った。全ての校正及び得られた走査は、25mL/分と一定のヘリウム流量下で行った。
【0043】
サンプルは、繊維の小片(6mm以下)にそれぞれ切断するか、又は(本明細書に別途記載する)掻き取り法を用いてあらかじめ調製した表面及びコア材料を装填して準備した。1つのパン及びふたを天秤で0.01mgの精度で秤量した。サンプル材料をパンに装填し、同様に0.01mgの精度で記録した。このときのサンプルは、表面掻き取りサンプルについては1.0mgを若干下回り、いくつかの繊維サンプルについては大体3.0mgといった範囲であった。これらの値をQ1000用のThermal Advantage 制御ソフトウェアに入力した。ふたをパンに置き、プレスを用いて圧着した。サンプル材料が、ふた及びパンの間の圧着部に確実に挟まれていないように注意した。サンプル物品を除いた同様のパンを対照用に用意し、その質量を同様にソフトウェアに入力した。サンプル物品を入れたパンをQ1000のサンプルセンサーに装填し、空のパンを対照センサーに装填した。その後サンプルは以下の手順を経た。
1.−30.00℃で平衡状態
2.400.00℃まで10.00℃/分で昇温
3.サイクル0終点の印
4.等温で5.00分間
5.サイクル0終点の印
6.200.00℃まで10.00℃/分で降温
7.測定終了
【0044】
Universal Analysis 2000 v.4.0C(TA Instruments)を用いてデータを変更せずに分析した。(ピークの存在及び温度位置について)定性的にデータを分析する場合、T4Pモードで動作する走査を使用した。(特にエンタルピー測定について)結晶化ピークの定量的な解釈をする場合、走査はT1モードで行った。
【0045】
膜の例における引張り破断荷重及びマトリクス引張強度(MTS):引張り破断荷重は、平面グリップと10kNのロードセルを装備したINSTRON 5567 引張り試験機を用いて測定した。ゲージ長は2.54cmであり、クロスヘッド速度は25.4cm/分であった。サンプル寸法は6.35cm×0.635cmであった。長手方向のMTS測定の場合、サンプルの長い方の次元を機械方向(ダウンウェブ方向としても知られている)に向けた。横方向のMTS測定の場合、サンプルの長い方の次元を、クロスウェブ方向としても知られている、機械方向と垂直の方向に向けた。A&D天秤(Milpitas, CA)、型式番号FR−300を用いて各サンプルを秤量し、次にHeidenhain厚さゲージ、型式番号MT−60M(Schaumburg, IL)を用いてサンプルの厚さを測定した。その後、サンプルを個別に引張り試験機で試験した。各サンプル5つの異なる部分を測定した。5つの破断荷重(すなわち最大力)測定の平均を使用した。長手方向及び横方向のMTSは次式を用いて計算した。
MTS=(破断荷重/横断面積)×(PTFE密度)/多孔質物品のバルク密度
(PTFE密度は2.2g/cc)
【0046】
繊維及び縫合糸の例におけるMTS計算及び強力(tenacity)測定:繊維材料の場合、マトリクス引張強度は強力値に由来した。強力は破断荷重及びサンプル質量のデータを用いて計算した。引張り試験の前に、分析天秤(型式AA160、Denver Instruments. Inc., Goettingen, Germany)を用いて9m長の繊維サンプルを秤量することにより、繊維のデニールを決定した。繊維の質量(グラム)を1000倍してデニール値を得た。続く破断荷重試験のために、9m長の繊維サンプルを5つに切断した。引張り試験は、サンプル長を269mmに設定し、繊維グリップと10kNロードセルとを装備したINSTRON 5567 引張り試験機で周囲温度にて行った。サンプルをグリップに装填し締め付けて固定した。グリップを速度254mm/分で離れるように移動させながら、破断荷重を記録した。破断荷重(g)をファイバーのデニール値で割って、各繊維サンプルの強力(g/デニール)を計算した。5つのサンプルについて強力値を計算し平均した。次にマトリクス引張強度を、強力値(g/デニール)に26019を掛けて計算した。
【0047】
密度測定:繊維密度は2つの手法のうち1つを用いて決定した。繊維密度が1より大きいものについては、「浮力の原理」、すなわちアルキメデスの原理を使用した。これは、流体に沈められた物体は、置き換えられた流体の重量と等しい浮力を受けるというものである。浮力、すなわち置き換えられた流体の重量は、最初の繊維サンプルの質量と、流体に完全に沈めている間の繊維サンプルの質量とから計算される。置き換えられた流体の質量と流体の密度から置き換えられた流体の体積を計算でき、それが繊維の全体積を表す。繊維の最初の「乾燥」質量及び繊維体積を用いて、繊維サンプルの密度を計算できる。
【0048】
Duranガラスの体積標準器を使用して水の密度を決定した。このガラス標準器は、体積が10±0.001立方センチメートル(cc)であることが保証されていた。試験中、記録した室温は71°F(22℃)であった。あらかじめゼロに風袋引きしてあって一体型浸漬濃度計を装備した、Mettler−Toledo AG204シリーズ天秤に、ガラス標準器を置いた。その質量は30.0409gを示した。脱イオン水容器を、天秤に接触させずに天秤の上方に配置できるように、天秤の基部上に支持物を配置した。次に支持るつぼを天秤の中央から水容器の中に吊り下げて、容器の側面に接触しないようにした。穏やかに揺らしてるつぼに付着した気泡を除去した。その後天秤をゼロに風袋引きした。そしてガラス標準器をるつぼに慎重に配置し、容器の側面に接触させずに水容器中に完全に浸漬した。水容器に浸漬した後にガラス標準器に付着した気泡は、るつぼ上のガラス標準器を穏やかに揺らして除去した。完全に浸漬したガラス標準器の質量は20.0465gを示した。水の密度を以下のように計算した。
10ccガラス標準器の浮力=30.0409g−20.0465g=9.9944g
水の密度=9.9944/10cc=0.9994g/cc
【0049】
密度が1より大きい全ての繊維は、以下の手順を用いて試験した。一体型浸漬濃度計を装備したMettler−Toledo AG204シリーズ天秤に繊維サンプルを置き、その質量をグラムで記録した(A)。
【0050】
水の密度決定について上述したように、水容器を天秤に接触させずに天秤の上方に配置できるように、天秤の基部上に支持物を配置した。次に支持るつぼを天秤の中央から水容器の中に吊り下げて、容器の側面に接触しないようにした。水容器に浸漬した後にるつぼに付着した気泡は、穏やかに揺らして除去した。その後天秤をゼロに風袋引きした。そして繊維サンプルをるつぼに慎重に配置し、容器の側面に接触させずに水容器中に完全に浸漬した。水容器に浸漬した後に繊維に付着した気泡は、るつぼ上の繊維を穏やかに揺らして除去した。完全に浸漬した繊維の質量をグラムで記録した(B)。繊維サンプルの密度を以下のように計算した。
繊維サンプルの密度(g/cc)=A/((A−B)/0.9994)
【0051】
繊維密度が1未満のものについては、繊維体積を固定長の繊維の厚さ及び幅の平均値から計算し、密度を繊維体積及び繊維質量から計算した。密度が1未満の繊維の場合、長さ1.8mの繊維をA&D FR−300天秤に置き、質量をグラムで記録した(C)。次に繊維サンプルの厚さを、Heindenhain厚さゲージを用いて繊維に沿って4点測定した。繊維の幅も同様に、目盛り付の接眼レンズ(Edmund Scientific Co.)を用いて繊維に沿って4点測定した。次に厚さ及び幅の平均値を計算し、繊維サンプルの体積を決定した(D)。繊維サンプルの密度を以下のように計算した。
繊維サンプルの密度(g/cc)=C/D
【0052】
寸法測定:他に記載のない限り、厚さはMitutoyo/MACマイクロメータの2枚の板の間で測定した。3つの異なる部分を各サンプルについて測定した。3つの測定値の平均を用いた。
【0053】
シングルビームレーザー測定装置(LaserMike 光学マイクロメータ 型式番号60−05−06)を用いて直径を測定した。5つの異なる部分を各サンプルについて測定した。5つの測定値の平均を用いた。
【0054】
幅はデジタルキャリパーを用いて測定した。3つの異なる部分を各サンプルについて測定した。3つの測定値の平均を用いた。
【0055】
掻き取り手順:DSC分析用にPTFEの島を掻き取ったものを以下のようにして得た。サンプルの一部をガラススライドの周りに巻き付け、島が上を向くように配置し、サンプルが動かないように両端をテープでスライドに固定した。拡大して見ながら(立体顕微鏡で20〜30倍)、新しいカミソリ刃を用いてサンプルから島のみを掻き取った。島の材料のみを確実に収集するために、掻き取りを行った各部分に島材料が残存するかを視覚的に確認した。このように視覚的に確認して、掻き取りが下地のノード及びフィルリル構造体内部まで到達していないことを確かめた。掻き取ったものがDSC分析用におよそ1mg集まるまで、複数のサンプルを掻き取って島材料を収集した。
【0056】
繊維摩滅試験方法の説明:引きずり抵抗試験について使用した図2の固定具を用いて繊維サンプルを試験した。引きずり抵抗試験は既に説明してあり、この固定具の詳細も説明されている。各サンプルを試験する前に、円筒物を固定具から取り外し、99.9%イソプロパノールを入れたビーカーに1分間完全に沈めて、試験固定具の元の位置に戻し、完全に空気乾燥した。
【0057】
試験する物品を、図2に描くように3つの円筒物170、172及び174の周りを通した。その結果、サンプルは円筒物170の周りに半周、円筒物172及び174の周りに1/4周巻き付けられた。従って、合計累積巻き角度は完全な1周(すなわち2πラジアン)となった。サンプルは円筒物間でねじらなかった。
【0058】
1つのヤーン式クランプあご部が取り付けられた、INSTRON 型式5567 引張り試験機を使用した。(ヤーンクランプの当接点から下方に、3つの円筒物のうち第1の170に掛かっている試験サンプルの当接点までを測定した)ゲージ長は50mmであった。固定具180は、ヤーン式クランプに固定された試験サンプルが円筒物170の軸と直交するように、引張り試験機に固定された。
【0059】
400gの重りの周りにループ結びして、400gの重り186を試験サンプルの端部に固定した。円筒物174を過ぎてぶら下がった400gの重り186まで下方に延在する試験サンプルの長さは、少なくとも150mmであった。引張り試験機は、3つの円筒物上にあるサンプルを、距離50.8mm、クロスヘッド速度50.8cm/分で引っ張り、その後開始位置に復帰して1つのサイクルを完了した。5つの連続サイクルをサンプル毎に行った。
【0060】
円筒物170を過ぎてヤーン式あご部に向かって12mmのサンプル位置にテープの小片を固定し、さらに円筒物172を過ぎて円筒物174に向かって63mmのサンプル位置にテープの別の小片を固定して、サンプルの試験位置に印を付けた。
【0061】
試験に耐えるのに十分な引張強度を持たない繊維については、試験方法を変更しなければならない。もし5回のサイクル中に所望数のサンプルのうちいずれかが破断したら、減少分を100gとして重りを軽くして、5回のサイクル中に所望数のサンプルのうちいずれも破断させない重さに到達するまで、試験をやり直さなければならない。
【0062】
試験完了時にヘアー(hairing)が発生していないか、試験サンプルを2片のテープ間で調べた。ヘアーとは、サンプルから摩滅してほつれているが、依然として一端でくっついているサンプルの部分である。倍率2倍のレンズ又は顕微鏡(倍率10倍)のいずれかと一緒に光の輪を用いて、サンプルの表面を調べた。キャリパーはヘアーの長さ、すなわちヘアーの自由端から、そのヘアーがサンプルの残りにくっついている点までの長さを測定するのに使用した。使用する倍率は、ヘアーの長さを正確に検出し測定する能力により選択した。
【0063】
各サンプルについて繊維摩滅スコアを、次式を用いてサンプルから発生したヘアーの長さから計算した。
繊維摩滅スコア=ヘアーの長さの合計(ミリメートル)
【0064】
釣り糸摩滅試験:試験する釣り糸を約7.62メートルの長さに切断した。試験するサンプルの一端を、釣り用の二重のユニ−ノットを用いて、Shakespeare Tidewater 10LA ベイトキャスティングリール(Shakespeare Fishing Tackle, Inc., Columbia, SC)に巻かれた典型的な12ポンド試験用ナイロン釣り糸の自由端に結んだ。ナイロン糸はリールの糸巻きの1/4を満たすような長さであった。市販の釣り竿(7フィートのGold Cup Inshore ロッド、12〜25ポンドの釣り糸と3/4−3オンスのルアーを指定、Bass Pro Model GC171225、Springfield, MO)のリールホルダーにリールをしっかりと取り付けた。竿をおよそ10度の角度で固定した。竿を最後の小穴の後ろ(竿のリール端に向かって)20mmでリールの前(竿の先端に向かって)90mmに固定した。従って先端は、実際の釣りの状況のように、釣り糸の張力及び竿固有の剛性により動いて振動する。竿は、試験中に釣り糸が固定具と接触しないように固定した。
【0065】
試験するサンプル釣り糸の他端は、竿のガイドを通して、直径16.83cm、幅約50mmのシリコーン被覆巻き取りホイールと、試験中に釣り糸が滑らないように、あるいは破断しないように結んだ。ホイールの中心は、竿先端を超えて15.24cm(水平方向)、竿先端の下方34.3cm(垂直方向)に位置していた。ホイールの50mm幅の部分を、糸がその50mm幅の表面に巻き取られるように釣り竿と垂直に配置した。この巻き取りホイールを、およそ1/4秒で1750rpmに加速するDCモーターに取り付けた。モーターの回転数は、シリコーン巻き取りホイールの外面に付与された、デジタルハンドタコメーター(Ametek 型式1726、Largo, FL)を用いて測定した。
【0066】
リールをキャスティング、すなわち開放位置に設定した。モーターを作動させ、糸を巻き取りホイールの50mm幅の部分に巻き取った。これは、釣りの最中の糸のキャスティングを模擬することを意図していた。サンプル全体が巻き取りホイールに巻き取られた後に、モーターを停止した。巻き取りホイールが減速している間にスプールがスピンし過ぎないように、PTFEテープの小片とスポンジを用いて手でスプールの露出した金属面に圧力を与えた。リールを閉止、すなわちリール位置に切り替えた。糸を再スプールするためにリールのハンドルに取り付けられたエアドリル(Matco Model MT1889、Stow, OH)を作動させた。ドリルは、ホイールのシリコーン面にあるデジタルハンドタコメーター(Ametek 型式1726、Largo, FL)で測定したところ85〜88フィート/分の速度、ホイールに与えられた逆張力が1800〜2000gで、糸を再スプールした。逆張力は糸にかかった魚の抵抗を模擬することを意図したものであり、Saxl Tension Meter Model TR−4000(Tensitron, Inc., Harvard, MA)をリールと最初の小穴との間でサンプル上に配置して、サンプルがエアドリルによって巻き上げられているときに測定した。ロッドを通して張られている分とホイールに結ばれている分を差し引いて、サンプル釣り糸がリールに再スプールされた時点で、サイクルが完了した。エアドリルを停止した。それぞれの糸をそのような試験サイクルに5回通した。
【0067】
試験完了時にヘアーが発生していないか、試験サンプルをその全長にわたって調べた。ヘアーとは、摩滅して糸から分離しているが、依然として一端でくっついている糸の部分である。倍率2倍のレンズ又は顕微鏡(倍率10倍)のいずれかと一緒に光の輪を用いて、サンプルの表面を調べた。キャリパーはヘアーの長さ、すなわちヘアーの自由端から、そのヘアーがサンプルの残りにくっついている点までの長さを測定するのに使用した。使用する倍率は、ヘアーの長さを正確に測定する能力により選択した。
【0068】
その後、各サンプルについて釣り糸摩滅スコアを、次式を用いてサンプルから発生したヘアーの長さから計算した。
釣り糸摩滅スコア=長さ4mm全体での、ヘアーの長さの合計(ミリメートル)
【0069】
水蒸気透過率(MVTR):(直径が6.5cmより大きい)サンプルを、23℃、相対湿度50%±2%の試験室に置いた。口の内径が6.5cmの4.5オンスポリプロピレンカップに酢酸カリウム塩スラリー70gを入れて、試験カップを準備した。このスラリーは結晶酢酸カリウム53g及び水17gからなっていた。不溶固体が存在しない状態にスラリーを完全に混合し、23℃の密閉容器で16時間保管した。W.L. Gore and Associates, Incorporated, Elkton, MDから入手可能な延伸PTFE膜(ePTFE)を、カップのへりにヒートシールして、塩溶液をカップ内に保持する、ぴんと張った漏れ防止の微孔質バリアを形成した。同様のePTFE膜を12.7cmの刺繍枠の内部にぴんと張って取り付け、試験室の水浴表面に浮かべた。水浴と試験室の両方とも温度を23℃に制御した。
【0070】
測定するサンプルを浮かんでいる膜の上に載せ、塩のカップを逆さにして各サンプルの上に配置した。塩のカップを放置して10分間慣らした。次にそれぞれの塩のカップを秤量し、逆さにし、サンプルの上に戻した。15分後、それぞれの塩のカップを取り除いて秤量し、水蒸気透過率を以下のようにカップの吸収質量から計算した。
MVTR(g/(m2×24時間))=カップの水分吸収質量(g)/[カップの口面積(m2)×試験時間(日)](5回の試験の平均を使用した)
【0071】
従来技術の表面及び処理と比較して、本発明の材料に独特の表面を説明するために、多くの場合、以下の3つの「比較」材料のそれぞれ及び本発明の材料について、表面及び長手方向の横断面の走査電子顕微鏡写真を撮影した。これらの材料とは、(A)前駆体材料、(B)プラズマ処理のみの材料、(C)熱処理のみの材料、(D)本発明の材料に独特の表面を得るために、プラズマ処理後に熱処理を行う独特の組み合わせを経た本発明の材料である。図3は、あくまでも参考であるが、以下の例で説明する様々な比較サンプル及び本発明のサンプルの概要である。低倍率画像を撮影した同じ領域で、より高倍率の画像を撮影した。画像がサンプルを確実に描写するように、サンプル全体を走査した。
【0072】
例1 前駆体材料:米国特許第5518012号の教示に従って作製した延伸PTFEデンタルフロス材料を、以下(a)及び(b)として説明する、本例で行う2つの連続処理技術のための前駆体とした。このデンタルフロスは以下の特性を有するePTFE扁平繊維であった:バルク密度 1.52g/cc、厚さ 0.05mm、幅 1.2mm、マトリクス引張強度 81401psi(長さ方向)、引きずり抵抗 0.148、繊維摩滅スコア 200より大きい(ヘアー多数につき正確な数字は計算していない)。全て500倍で撮影した前駆体材料の代表的な走査電子顕微鏡写真は、図4から6に見られる。本明細書で示すこれら及び全ての他の顕微鏡写真の下部右にある破線は、倍率目盛りを示す。例えば図4において、破線の最初と最後の点間の距離は100ミクロンの長さに相当する。前駆体材料は、加熱した板上でPTFEを引き伸ばすことによって作製した。図4及び5は、前駆体材料の両方の表面、すなわち板と接触した表面及び板と接触しなかった表面をそれぞれ示す。PTFEの島はこれら顕微鏡写真のいずれにも見られない。前駆体材料の横断面を示す図6からも、前駆体材料に島がないことが確認される。前駆体材料のこれら3枚の顕微鏡写真は、長手方向に非常に延伸された材料の代表である、ePTFE構造体を表現するものである。
【0073】
試験手順:(a)長い前駆体材料を、Plasma Treatment System PT−2000P(Tri-star Technologies, El Segundo, CA)とつなぎアルゴンガスを用いて、最初にプラズマ処理した。T−セクションをユニットのノズル端部に取り付けた。プラズマ処理はT−セクションの直線長さの範囲内で行った。前駆体フロス材料を直線部分に通し、その直線部分の長さは59cm、内径は3.7mmであった。フロス材料を線速度30フィート/分でユニットを通して引き出し、ユニットの前面にある「Plasma Current」ディスプレイに従って出力を2.1〜2.2に設定した。アルゴン流量は約25SCFHに設定した。次に、設定390℃の加熱した板の上を線速度60フィート/分で通過させることによって、プラズマ処理した材料は次の熱処理工程を経た。加熱した板の長さは86インチ(2.2m)であった。
【0074】
プラズマ処理後に加熱処理した材料の顕微鏡写真が、図7から10に見られる。図7は倍率200倍で撮影し、図8から10は500倍で撮影した。図7及び8は材料の板側から撮影した表面写真であり、図9は材料の板側と反対から撮影した表面写真であり、図10は横断面の顕微鏡写真である。表面の画像は、下地のePTFEフロス材料のノード−フィブリル構造体の上に、滑らかな島状の外観のPTFE材料があることを示している。これらの画像は、個々の島の表面積が、下地のノード−フィブリルePTFE構造体のノードより非常に大きいことを示している。島の高さを測定したところ、約17ミクロンであった。
【0075】
本発明の物品は以下の特性を備えていた:バルク密度 1.52g/cc、長手方向のマトリクス引張強度 62113psi、幅 1.1mm、厚さ 0.05mm。本発明の材料の引きずり抵抗は0.196であり、本発明の材料の取り扱い及び使用時に経験する、握りやすさの向上及び洗浄感の改善といった感触と整合した。3つの本発明のサンプルに繊維摩滅試験を行ったところ、目で見えるヘアーはなく、従って繊維摩滅スコアは0であった。
【0076】
(b)前駆体材料の他のサンプルを、プラズマ処理及びその後の熱処理の両方について、200フィート/分とより速い線速度を使用した他は、手順(a)で上述したのと同様に処理した。得られた本発明の材料の引きずり係数は0.192であり、島の高さは6ミクロンであった。
【0077】
比較例1A:例1で上述したのと同じ前駆体材料をこの比較例でも使用した。長い前駆体材料を、Plasma Treatment System PT−2000P(Tri-star Technologies, El Segundo, CA)とつなぎアルゴンガスを用いてプラズマ処理した。T−セクションをユニットのノズル端部に取り付けた。プラズマ処理はT−セクションの直線長さの範囲内で行った。前駆体フロス材料を直線部分に通し、その直線部分の長さは59cm、内径は3.7mmであった。フロス材料を線速度30フィート/分でユニットを通して引き出し、ユニットの前面にある「Plasma Current」ディスプレイに従って出力を2.1〜2.2に設定した。アルゴン流量は約25SCFHに設定した。
【0078】
このプラズマ処理により、以下の特性を有する材料を得た:バルク密度 1.52g/cc、厚さ 0.1mm、幅 1.2mm、マトリクス引張強度 69998psi。図11はこのプラズマ処理のみの材料の顕微鏡写真であり、島のない表面を示している。
【0079】
比較例1B:例1で上述したのと同じ前駆体材料をこの比較例でも使用した。長い前駆体材料を、設定390℃の加熱した板の上を線速度60フィート/分で通過させることによって熱処理行程に通した。加熱した板の長さは86インチ(2.2m)であった。図12は、この熱処理した材料の板側と反対から500倍で撮影した顕微鏡写真である。この画像は、材料表面に島がないことを示している。
【0080】
例2:例1で説明したのと同じ前駆体材料をこの例でも使用した。前駆体材料サンプルは、例1に記載したのと同じプラズマ処理(a)を経て、次にプラズマ処理したサンプルを軸方向に拘束して、設定335℃の強制空気オーブンに約10分間置いた。
【0081】
この本発明の材料について、表面及び長手方向の横断面の走査電子顕微鏡写真を得た。図13は、倍率1000倍で撮影した、フロス材料サンプルの表面顕微鏡写真である。本発明の物品に特徴的な島がこの顕微鏡写真にはっきりと見える。例1で観察した島と同様に、島の表面は滑らかに見え、個々の島の表面積は下地のノードよりも大きい。
【0082】
本発明の物品は以下の特性を備えていた:バルク密度 1.46g/cc、長手方向のマトリクス引張強度 64345psi、幅 1.1mm、厚さ 0.17mm。本発明のフロス材料をいくつか試してみると、前駆体材料と比較して改善された握りやすさ及び洗浄感といった感触を受けた。
【0083】
例3 前駆体材料:米国特許第6539951号の教示に従って作製した延伸PTFEデンタルフロスをこの例の前駆体材料とした。このデンタルフロスは本質的にePTFEからなり、以下の特性を備えていた:バルク密度 0.80g/cc、厚さ 0.08mm、幅 1.9mm、マトリクス引張強度 63949psi、引きずり係数 0.172。この前駆体材料の表面及び横断面の顕微鏡写真は、それぞれ図14(500倍)及び15(1000倍)である。
【0084】
試験手順:この例については、例1に記載した工程(a)に従って、前駆体材料をプラズマ処理し、その後熱処理した。図16(表面、200倍)、図17(表面、500倍)、及び図18(横断面、1000倍)は、本発明の材料の微細構造についての顕微鏡写真である。これまでの例と同様に、個々の島の表面積は下地のノード−フィブリルePTFE構造体のノードよりもかなり大きく、また島が滑らかな表面を示していることが分かる。本発明の材料は以下の特性を備えていた:バルク密度 0.82g/cc、長手方向のマトリクス引張強度 36707psi、幅 1.8mm、厚さ 0.08mm。
【0085】
本発明の材料について島の平均高さを測定したところ約13ミクロンであった。本発明の材料の引きずり係数を測定したところ0.220であり、このことは、本発明の物品が前駆体の物品よりも握りやすく、かつ洗浄感が改善されていることを示す。
【0086】
示差走査熱量測定(DSC)を用いて、この例で作製した材料の島及び下地のコア、すなわち島以外の成分に、PTFEの結晶相が複数存在しているかを決定した。本明細書に記載した掻き取り手順に従って島を掻き取った。本出願の図19には、本発明の材料全体に加えて、掻き取り物単体及び下地のコア単体のDSC走査が含まれる。この結果は、比較例3A及び3Bの材料の走査と比較して、本明細書で後程より詳細に説明する。
【0087】
比較例3A:例3で説明した前駆体材料をこの比較例でも使用した。この前駆体材料に、比較例1Aで説明したのと同じプラズマ処理を行った。
【0088】
比較例3B:例3に記載した前駆体材料をこの比較例でも使用した。この前駆体材料に、比較例1Bで説明したのと同じ熱処理を行った。
【0089】
図19に、例3の本発明の材料(図中(1)、(2)及び(3)で示す)、例3の前駆体材料((4)で示す)、比較例3A((5)で示す)、及び比較例3B((6)で示す)についての、6つのDSC加熱走査を示す。全てのサンプルを、示差走査熱量測定に基づく、ポリテトラフルオロエチレン材料の結晶相を決定するための試験方法に記載したように試験した。曲線を同じグラフに重ね書きし、分かり易くするためにy軸についてずらした。本発明のサンプルに対応する曲線を(1)と印した。掻き取り手順に従ってこのサンプルのある部分の表面から島を掻き取り、この島材料の加熱走査を(2)と印した。本発明の材料サンプルの中心からコア材料を得ることによって走査を行った。この走査では全ての島材料は確実に除去されており、このコア材料の曲線を(3)と印した。
【0090】
この図19の走査の1つを除いて全て、加熱曲線においておよそ380℃のピークを示した。このピークを示さなかった唯一のサンプルは、掻き取りによって得た島材料であった(走査(2))。このDSC曲線においてこの吸熱がないことは、他の全ての材料に存在するノード及びフィブリル構造が、島には含まれていないことを示唆する。この結果は、顕微鏡写真で確認された、識別可能なフィブリルが島に存在しないことと整合する。
【0091】
DSC冷却走査から、およそ316℃のピーク面積によって表される発熱エンタルピー(単位J/g)は、PTFEの分子量に関する情報を提供する。低分子量PTFEは、高分子量PTFEよりも冷却中に容易に再結晶化しうるため、その低分子量PTFEはより高いエンタルピー値を有する。およそ316℃のピーク面積で表される、島が全くない本発明の材料のコアの発熱エンタルピーは33.5J/gであった。およそ316℃のピーク面積によって表される、掻き取った島の発熱エンタルピーは60.5J/gであった。コアと比較して島の発熱エンタルピーが高かったため、島はコアと比べて低分子量のPTFEから構成されていたことが示唆された。
【0092】
例4:延伸PTFE繊維(品番V112765、W.L. Gore and Associates, Inc., Elkton, MDから入手可能)を入手し、その繊維を2本一緒によじってこの例の前駆体材料を用意した。この前駆体材料は以下の特性を備えていた:バルク密度 1.29g/cc、長手方向のマトリクス引張強度 138278psi、直径 0.483mm。図20(100倍)は前駆体材料の表面の顕微鏡写真である。
【0093】
この例では、プラズマ処理の線速度を100フィート/分に設定し、設定が全て440℃、全長9フィートの、3枚一組の加熱した板の上で熱処理を行って、全体の引き伸ばし比を0.92:1として適度に収縮させた他は、例1に記載した(a)と同じように前駆体材料をプラズマ処理及び熱処理した。
【0094】
本発明の物品は以下の特性を備えていた:バルク密度 2.17g/cc、長手方向のマトリクス引張強度 92285psi、直径 約0.41mm。物品の横断面は長円(oblong)形状であった。島の高さを測定したところ約6ミクロンであった。図21(100倍)及び図22(1000倍)は本発明の材料の表面顕微鏡写真である。両図とも隆起した滑らかな表面の島を示している。
【0095】
さらに、本発明の釣り糸材料の3本のサンプルに釣り糸摩滅試験を行ったところ、本発明の釣り糸全てについて、ヘアーは長さ0.5mm〜6mmの範囲といったごく少量であった。これら3本のサンプルについての釣り糸摩滅スコアはそれぞれ4、5及び10であった。
【0096】
比較例4A:例4で説明した前駆体材料をこの比較例でも使用した。比較用釣り糸材料は、設定が全て440℃の、3枚一組の加熱した板の上で前駆体を熱処理し、全体の引き伸ばし比を0.92:1として適度に収縮させて作製した。
【0097】
3つの比較用釣り糸サンプルに釣り糸摩滅試験を行った。3つのサンプルには、いずれも0.5mmから38mmといった様々な長さの大量のヘアーがあり、長さ10mmを超えるヘアーが少なくとも10本、長さ20mmを超えるヘアーが少なくとも2本あった。これらのサンプルについての釣り糸摩滅スコアは全て160を超えた(ヘアー多数につき正確な数字は得ていない)。
【0098】
例5:この例の前駆体材料は、以下の特性を有する延伸PTFE縫合糸材料であった:バルク密度 1.13g/cc、長手方向のマトリクス引張強度 56382psi、直径 0.3mm。図23は前駆体材料を200倍で撮影した顕微鏡写真である。
【0099】
この前駆体材料を例1の(a)で説明したのと同様にプラズマ処理したが、続く熱処理は連続法で行い、プラズマ処理した物品を、線速度約15フィート/分で設定415℃の92インチ長強制空気オーブンを通して引っ張った。得られた本発明の物品は以下の特性を有していた:バルク密度 1.07g/cc、長手方向のマトリクス引張強度 44986psi、直径 0.33mm。島の高さを測定したところ約11ミクロンであった。図24は本発明の材料を200倍で撮影した顕微鏡写真である。
【0100】
図23及び24は、前駆体材料と本発明の材料との表面外観の違いをそれぞれ示すものである。本発明の材料はPTFEの隆起した島をはっきりと示しており、その島は滑らかで下地の構造体のノードよりも大きい。ここに含まれる全ての画像と同様に、画像がサンプルを確実に描写するように、サンプル全体を走査した。
【0101】
本発明の材料に結び目保持能力試験を行い、結んだ本発明の物品はその材料の最大力の59%を維持しており、本発明の縫合糸は試験した70%が結び目にて破断した。
【0102】
比較目的で、結んだ前駆体縫合糸材料のサンプルに結び目保持能力試験を行ったところ、材料の最大力のわずか27%を維持するのみであって、各試験とも縫合糸の破断を伴わずに結び目が滑った。
【0103】
例6:この例の前駆体材料は、縫合糸として使用するのに適した直径が0.023mmの延伸PTFE繊維材料であった。図25はこの前駆体材料を500倍で撮影した顕微鏡写真である。
【0104】
前駆体材料を、最初にPlasma Treatment System PT−2000P(Tri-star Technologies, El Segundo, CA)とつなぎアルゴンガスを用いてプラズマ処理した。T−セクションをユニットのノズル端部に取り付けた。プラズマ処理はT−セクションの直線長さの範囲内で行った。前駆体フロス材料を直線部分に通し、その直線部分の長さは59cm、内径は3.7mmであった。フロス材料を線速度5フィート/分でユニットを通して引き出し、ユニットの前面にある「Plasma Current」ディスプレイに従って出力を1.8に設定した。アルゴン流量は約25SCFHに設定した。次にプラズマ処理した材料を金属枠に結んで収縮しないようにし、その後設定335℃の強制空気オーブンに10分間入れて熱処理工程を行った。500倍で撮影された顕微鏡写真である図26に示すように、PTFEの島が本発明の材料に見られる。
【0105】
例7:この例の前駆体材料は以下の特性を有する延伸PTFE膜であった:水蒸気透過率 68149g/(m2・日)、厚さ 0.023mm、バルク密度 0.80g/cc、長手方向のマトリクス引張強度 8740psi、横方向のマトリクス引張強度 15742psi。図27及び28はそれぞれ前駆体膜の表面及び横断面の顕微鏡写真であり、両方とも倍率2000倍で撮影されている。
【0106】
次に膜材料を加工して本発明の物品を提供した。前駆体膜は、出力2.5キロワットに設定された大気プラズマ処理ユニットに膜を通すことにより、アルゴンガスを用いてプラズマ処理した。膜をユニットに速度5メートル/分で通し、アルゴンガス流量は50リットル/分であった。次にプラズマ処理した膜をピンフレームに固定して収縮しないようにし、設定335℃の強制空気オーブンで約10分間熱処理した。
【0107】
得られた本発明の材料は以下の特性を有していた:バルク密度 0.81g/cc、長手方向のマトリクス引張強度 10070psi、横方向のマトリクス引張強度 14375psi、厚さ 0.023mm。図29及び30はそれぞれ、2000倍で撮影された本発明の材料の表面及び横断面の顕微鏡写真であり、滑らかで隆起した島を示している。本発明の材料の島の高さを測定したところ約3ミクロンであった。
【0108】
例8:例7で説明したのと同じ前駆体膜材料をこの例でも使用した。円形シリカ粒子(製品番号SO−E2、Admatechs, Seto, Japan)を振りかけてプラズマ処理した膜の表面に適用し、次に手袋を着用した手で粒子を広げて、熱処理工程前に薄くて実質的に均一な被膜をこの前駆体膜に形成したことを除き、例7で説明したのと同様に前駆体を処理した。
【0109】
2000倍で撮影した本発明の物品表面の顕微鏡写真が図31に見られる。顕微鏡写真を調べると、隆起した島がシリカ粒子を内含していることが観察された。
【0110】
例9:例7で説明した前駆体膜材料をこの例でも使用した。実質的に規則的な間隔の穴のパターンを有する、ゴム系接着剤を備えたポリエステルフィルムテープ(3M(登録商標) Polyester Protective Tape 335、Minnesota Mining and Manufacturing, Inc., St. Paul, MN)を含むマスク材料を、プラズマ処理工程前に前駆体材料の表面に貼り付けたことを除き、例7で説明したのと同様に膜を処理した。マスクはプラズマ処理後で、熱処理工程の前に取り除いた。
【0111】
図32及び33はそれぞれ、この例で得られた物品の70倍及び2000倍で撮影された表面写真である。図32は、プラズマ処理工程中にPTFEをマスクして得られたドットパターンを示している。特にドット(暗部)501として見える領域は、プラズマ処理後に熱処理した領域であって、つまりこれらの領域は本発明に従って処理されていた。マスクした(明部)領域502は熱処理のみを経ていた。マスクした領域502及びマスクしていない領域501の境界の、代表的な高倍率画像が図33に示されている。マスクした領域502と比較して、プラズマ処理及び熱処理した領域に滑らかな島503があることが注目される。
【0112】
例10:以下の特性を有する、アモルファスロック温度に曝されたことのない延伸PTFE繊維を含む前駆体材料を入手した:バルク密度 1.2g/cc、長手方向のマトリクス引張強度 71000psi、幅 1.2mm、厚さ 0.2mm。
【0113】
前駆体材料を例1の(a)と同様に処理した。得られた本発明の物品は以下の特性を有していた:バルク密度 1.4g/cc、長手方向のマトリクス引張強度 64400psi、幅 0.9mm、厚さ 0.2mm。得られた本発明の材料表面の、500倍で撮影された顕微鏡写真が図34に見られる。この図ではPTFEの隆起した島が材料の上に見られ、従って、アモルファスロック温度に曝されたことのないePTFE前駆体材料を用いた場合であっても、本発明の物品が作製されることが示されている。
【0114】
特定の実施態様及び細部の説明と関連させて本発明をここに開示したが、そのような細部の変更又は変形は本発明の主旨を逸脱することなく行うことができ、またそのような変更又は変形が以下ここに請求する、特許請求の範囲内にあるとみなされることは、当業者にとって明らかなことである。
【図面の簡単な説明】
【0115】
【図1】下地のePTFE構造体表面にあるPTFEの島を示す、本発明の繊維の横断面透視図である。
【図2】本明細書でより詳細に記載する、本発明の材料の機械的特性を測定するための固定具配置の斜視図である。
【図3】例及び比較例で言及されている、様々な比較サンプル及び本発明のサンプル、並びにこれらの処理の概要である。
【図4】例1で使用した、先行技術の前駆体材料の顕微鏡写真である。
【図5】例1で使用した、先行技術の前駆体材料の顕微鏡写真である。
【図6】例1で使用した、先行技術の前駆体材料の顕微鏡写真である。
【図7】例1に従って作製した、本発明の材料の顕微鏡写真である。
【図8】例1に従って作製した、本発明の材料の顕微鏡写真である。
【図9】例1に従って作製した、本発明の材料の顕微鏡写真である。
【図10】例1に従って作製した、本発明の材料の顕微鏡写真である。
【図11】比較例1Aに従って作製した、先行技術のプラズマ処理のみを行った材料の顕微鏡写真である。
【図12】比較例1Bに従って作製した、先行技術の熱処理のみを行った材料の顕微鏡写真である。
【図13】例2に従って作製した、本発明の材料の顕微鏡写真である。
【図14】例3で使用した前駆体材料の顕微鏡写真である。
【図15】例3で使用した前駆体材料の顕微鏡写真である。
【図16】例3に従って作製した、本発明の材料の顕微鏡写真である。
【図17】例3に従って作製した、本発明の材料の顕微鏡写真である。
【図18】例3に従って作製した、本発明の材料の顕微鏡写真である。
【図19】本明細書でより詳細に説明されており、本発明の材料の特徴を先行技術の材料と比較する、示差走査熱量測定(DSC)の走査を示すグラフである。
【図20】例4で使用した前駆体材料の顕微鏡写真である。
【図21】例4に従って作製した、本発明の材料の顕微鏡写真である。
【図22】例4に従って作製した、本発明の材料の顕微鏡写真である。
【図23】例5で使用した前駆体材料の顕微鏡写真である。
【図24】例5に従って作製した、本発明の材料の顕微鏡写真である。
【図25】例6で使用した前駆体材料の顕微鏡写真である。
【図26】例6に従って作製した、本発明の材用の顕微鏡写真である。
【図27】例7で使用した前駆体材料の顕微鏡写真である。
【図28】例7で使用した前駆体材料の顕微鏡写真である。
【図29】例7に従って作製した、本発明の材料の顕微鏡写真である。
【図30】例7に従って作製した、本発明の材料の顕微鏡写真である。
【図31】例8に従って作製した、本発明の材料の顕微鏡写真である。
【図32】例9に従って作製した、本発明の材料の顕微鏡写真である。
【図33】例9に従って作製した、本発明の材料の顕微鏡写真である。
【図34】例10に従って作製した、本発明の材料の顕微鏡写真である。
【技術分野】
【0001】
本発明は独自の延伸PTFE物品に関し、より詳細には、延伸PTFEの新規構造体及びその構造体を作るための新規方法を対象とする。
【背景技術】
【0002】
延伸PTFE(「ePTFE」)の構造体は、Goreの米国特許第3953566号及び第4187390号が教示するように、フィブリルによって相互連結されたノードに特徴があることが周知であり、これらの特許はePTFE材料を対象とする研究の重要な実体の基礎となっている。ePTFE構造体のノード及びフィブリルの特徴は、これらの特許に最初に記載されて以来、多くの方法で変更されている。例えば、高強度繊維の場合のような高延伸材料では、非常に長いフィブリル及び比較的小さいノードが見られる。他の処理条件では、例えば物品の厚み全体に延在するノードを有する物品を生産できる。
【0003】
ePTFE構造体を改質するために、様々な手法を用いてePTFE構造体の表面処理が行われている。Okita(米国特許第42308745号)は、チューブの外側と比べてより微細な構造を内側にもたらすために、ePTFEチューブ、特に人工血管の外表面を内表面と比べてより厳しい(すなわち高温の)熱処理に暴露することを教示している。当業者であれば、Okitaの処理が従来技術のアモルファスロック(amorphous locking)処理と一致し、唯一の相違点が、より大きい熱エネルギーに優先的に暴露されるのがePTFE構造体の外表面である、ということを理解するであろう。
【0004】
Zukowski(米国特許第5462781号)は、フィブリルによって相互連結されていない独立したノードを表面上に有する構造を得るために、プラズマ処理を用いて多孔質ePTFE表面からフィブリル除去を有効に行うことを教示している。プラズマ処理後のさらなる処理は、この教示に開示又は想定されていない。
【0005】
Martakosら(米国特許第6573311号)は、ポリマー樹脂加工中の様々な段階にて、ポリマー物品のプラズマエッチングを含むプラズマグロー放電処理を教示している。Martakosらは、従来技術の手法が、完成した、作製済みの及び/又は最終処理した材料に行われるものであって、「多孔性及び透過性のようなバルク基材特性の改質に有効ではない」と注記することによって、従来処理と区別している。Martakosらは6つの可能なポリマー樹脂加工段階におけるプラズマ処理を教示しているが、アモルファスロックと同時又はアモルファスロックに続いて行われるそのような処理は、記載又は示唆されていない。また、Martakosらが注目していたのは、完成した物品における多孔性及び/又は化学品質のようなバルク特性に影響を及ぼすことである。
【0006】
多孔質PTFEに新しい表面を作製して多孔質PTFEの表面を処理する他の方法は、先行技術に多く見られる。Butters(米国特許第5296292号)は、改質して耐摩耗性を改良できる多孔質PTFE被覆を備えたコアからなる、フライフィッシング用釣り糸を教示している。耐摩耗性材料の被膜を追加する、又は多孔質PTFE被覆を高密度化することのいずれかにより外部被覆が改質されて、釣り糸の耐摩耗性が改良される。
【0007】
別の例では、Campbellら(米国特許第5747128号)は、多孔質PTFE物品全体に高及び低バルク密度の領域を作製する手段を教示している。さらに、Kowligiら(米国特許第5466509号)は、ePTFE表面にパターンを施すことを教示しており、Seilerら(米国特許第4647416号)は外部にリブを設けるため、作製中に筋を付けたPTFEチューブを教示している。
【0008】
しかしながらいずれの先行技術文献も、これまで見られなかった独特の表面をPTFEに作製するための、出願人が開示する独特の処理方法の組み合わせを教示していない。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、下地の延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)構造体に付着したPTFEの島を含んでなる独特のPTFE構造体を対象とし、またそのような構造体の作製方法を対象とする。このePTFE材料は、アモルファスロック温度に暴露されるか否かを問題としない。これらの独特な構造体は、延伸PTFE構造体に付着し、かつその上に隆起したPTFEの島を有している。「隆起した」とは、物品の横断面の顕微鏡写真のように、物品を横断面で見たときに、下地のノード−フィブリル構造体の外表面によって定義されるベースラインより、島が長さ「h」だけ上に隆起して見えることを意味する。島12を備えた延伸PTFE繊維10の横断面図を示す図1を参照すると、島12の高さは下地のePTFE構造体の表面14、すなわち「ベースライン」より、高さ「h」だけ上に高くなっている。
【0010】
これらの隆起領域、すなわち島は、下地のePTFE構造体にその基部で結合している。この島はかなり大きいため、下地のノード及びフィブリルと区別可能である。最も大きい島の長さは、下地のノードについて同じ次元で測った長さの少なくとも2倍である。この長さの違いは下地のノードの長さの100倍を超えてもよい。さらに、島の形態(morphology)によって、島が下地のePTFE構造体から区別されることが多い。この島構造は物品の表面に独特であって、表面下には存在しない。
【0011】
また本発明のPTFE構造体の形態は、所定の表面積に存在する島の数に関係して様々に変化していてもよい。多くの場合、島は大きく相互連結していない。他の実施態様では、島が相互連結して、ePTFE構造体上の多孔質被覆又はウェブとして見える場合がある。ウェブの広がりについていえば、その大きさは下地のノードの大きさを大幅に超える。
【0012】
本発明の物品及び処理に独特な特徴によって、これまでに見られなかった改良された製品の形成が可能となる。例えば、本発明によれば、デンタルフロス、釣り糸、縫合糸などのような分野において改良された性能を有するPTFE繊維を作製できる。膜、チューブ、シート及び他の形状のPTFE物品もまた、完成した製品に独特の特徴を付与することができる。本発明のこれら及び他の独特の特徴を、以下より詳細に記載する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明のPTFE物品は、下地のePTFE構造体に付着したPTFEの島を含む。先行技術の材料で、下地のePTFE材料に付着した、このような独特のPTFEの島構造を有するものはない。この島材料の存在は様々な手法によって確認することができる。例えば、カミソリの刃、又は他の適当な手段を用いて、表面から島材料の破片をほんの少し掻き取り、次にそのサンプルを熱分析することによって、島材料を評価することができる。本明細書で後述する、島の示差走査熱量測定(DSC)分析によれば、ノード及びフィブリル構造がないことが示唆されている。
【0014】
本発明の物品は、島のPTFEの分子量が、下地のePTFE構造体のPTFEより低いという点でも独特である。この分子量の違いは、示差走査熱量測定から得られる冷却曲線の発熱の測定及び比較から推測することができる。さらに加熱曲線は、下地のePTFE材料が、327℃及び380℃、又は約327℃及び約380℃の融点を有することを示唆している。隆起した島は380℃又は約380℃の融点を示さない。
【0015】
本発明を実施するための基本的な処理は、第1に前駆体ePTFE物品を高エネルギー表面処理し、その後加熱工程を経て、下地のePTFE材料の表面に独特のPTFEの島を得ることである。単に便宜のため、「プラズマ処理」とは任意の高エネルギー表面処理、例えば以下に限られないが、グロー放電プラズマ、コロナ、イオンビームなどを指すために使用する。当然のことながら、処理時間、温度及び他の処理条件は、ある範囲の島の大きさ及び外観を得るために変化させてもよい。例えば、PTFE表面をアルゴン気体中または他の適当な環境中でプラズマエッチして、次に熱処理工程を経てもよい。ePTFEの熱処理単独、又はその後に熱処理を伴わないプラズマ処理単独ではいずれも、本発明の物品が得られない。
【0016】
本発明の処理は、幅広い種類の型及び形状を有する物品に適用可能であり、その物品には、以下に限られないが、チューブ、ねじれた、丸い、平らな及び引っぱられた繊維に限られない繊維を含む繊維、膜、テープ、シート、ロッドなどが含まれ、それぞれが任意の様々な横断面形状を有している。前駆体ePTFE材料の形態に応じて、島の外観を顕著に変化させることができ、ある種の前駆体材料においてはこの処理がより劇的な効果を生み出す。例えば、本発明の教示に従って処理した場合、長いフィブリルと小さいノードを有する前駆体材料ではより長い島が生成するようである。
【0017】
さらなる実施態様では、本発明にはePTFEの表面だけを他の材料で充填する工程も含まれる。プラズマ処理工程の後で、熱処理工程の前に、フィラー粒子をePTFE物品の表面に適用してもよい。この処理を表面充填と呼び、フィラー材料をPTFEとブレンド又は共凝固すること、フィラーで空孔を含浸すること、及び表面を改質してその表面に他の材料を接着することのような手法が含まれうる、多孔質ePTFE物品の空孔を充填する従来の方法とは区別される。熱処理工程前ではそのまま表面に乗っていたのと対照的に、粒子は表面に主に島の内部に含まれていた。
【0018】
本発明の物品は、これまでに得られなかった驚くべきかつ価値ある特徴を有している。ある実施態様では、PTFEから本質的になるデンタルフロス材料は、握りやすさ及び研磨特性が非常に向上していることが分かっている。握りやすさとは、フロスが使用者の指の間を滑らないように、使用中にフロスをしっかりと握れることを指す。研磨性は、改善された洗浄を提供しない場合であっても、使用者に改善された洗浄感を同様に提供する。従来のPTFEフロス材料では、これらの特徴がここまで実現されなかった。
【0019】
研磨性といった特徴は、滑らかさを伴わずにPTFE及びePTFEの利点の全てを有する、PTFEから本質的になる物品の作製を可能にする。滑らかさは全ての用途で望ましくない特徴である。
【0020】
驚くべきことに、本発明の物品は、引きずり係数の増大によって示される、増大した研磨性、及び摩耗試験における改良された耐久性によって示される、改良された耐摩耗性を同時に示しうる。ここに記載する耐久試験は物品の摩滅抵抗を定量する。当業者であれば物品の耐摩耗性を損なうと予想するであろうプラズマ処理工程を前駆体材料に施しているにも拘わらず、後の熱処理工程のおかげで、本発明の物品は前駆体物品より驚くほど耐摩耗性が高い。このような程度の耐摩耗性は、これまでにバルク密度が約0.8g/cc未満のePTFEフロス材料で実現されたのみであった。
【0021】
また、耐摩耗性は、ePTFE繊維、特にePTFE釣り糸に関連する摩滅の問題を解決するのに特に有用である。
【0022】
PTFEの島は、本発明の処理に従って作製した縫合糸材料の、結び目保持強度を改良することが示されている。
【0023】
また島の存在は、他の物品、特にパーフルオロポリマー物品、とりわけPTFE物品への、本発明の物品の接着もまた高めうる。
【0024】
本発明を、以下提供する非限定的な例と関連させてさらに説明する。
【実施例】
【0025】
引きずり抵抗試験:動的引きずり抵抗は、剛直な梁に取り付けられた3つの直径12.7mm(0.50インチ)の円筒形シャフトを用いた、図2に示すような固定具180を用いて決定した。その剛直な梁は、標準的な引張り試験機である、INSTRON Company(Canton, MA)の型式5567から片持ちされていた。3つの円筒物170、172及び174(McMaster-Carr Supply Company, Dayton, NJ、品番8524−K24、オフホワイト、公称直径12.7mmのG−7 Garolite Glass Silicon Rod材料、公称長さ25mmに分断)を固定具の腕支持部に隙間嵌めするために、固定具の腕支持部176は、ドリルで穴が開けられ、リーマーで公称直径12.7mm(公称直径0.5000インチ)に広げられた。円筒物−支持部の界面で円筒物に半径方向の圧縮力を与える位置決めねじを用いて、これらの円筒物は固定された。円筒物は、反復試験中に回転しないように固定され、試験固定具からおよそ17mm飛び出して延在していた。全ての3つの円筒物は互いに平行であり、かつ片持ちされた固定具の腕支持部176に対して垂直であった。
【0026】
3つの円筒物の表面粗さ(Ra)を、Perthometer 型式M4P(Feinpruef Perthen, GmbH, Postfach 1853, D-3400 Goettingen, Germany)を用いて軸方向及び半径方向の両方について測定した。Raは、ストローク0.03インチを用い、90度間隔の4つの象限にて円筒物の軸方向について測定した。円筒物の半径方向におけるRaについては、円筒物の長さに沿って無作為にストローク0.01インチを用いて、3〜4点測定した。結果を下表に示す。
【0027】
【表1】
【0028】
各サンプルを試験する前に、円筒物を固定具から取り外し、99.9%イソプロパノールを入れたビーカーに1分間完全に沈めて、試験固定具の元の位置に戻し、完全に空気乾燥した。
【0029】
INSTRON 5567 引張り試験機には、引張り荷重モードで測定中にフィラメントサンプルを固定するのに適した、1つのヤーン式クランプあご部が取り付けられていた。あご部は、試験機のクロスヘッド上に固定された定格100ニュートンのロードセル(不図示)と連結していた。引張り試験機のクロスヘッド速度は30.48cm/分であり、(ヤーンクランプの当接点から下方に、3つの円筒物のうち第1の170に掛かっている試験サンプルの当接点までを測定した)ゲージ長は50mmであった。固定具176は、クランプあご部に固定された試験サンプルが円筒物170の軸と直交するように、引張り試験機に固定された。
【0030】
試験する物品を、図2に描くように3つの円筒物170、172及び174の周りを通した。その結果、サンプルは円筒物170の周りに半周、円筒物172及び174の周りに1/4周巻き付けられた。従って、合計累積巻き角度は完全な1周(すなわち2πラジアン)となった。
【0031】
円筒物170及び172の中心点(当接点)間の垂直距離は25.4mmであった。同じ2つの円筒物の中心点間の水平距離は12.7mmであった。円筒物172及び174の中心点間の水平距離は360.4mmであった。
【0032】
本発明の材料は、材料の片側のみに島を付与するように製造できるため、全ての3つの円筒物表面に同じ側が接触するように、サンプルは全てねじられた。そのため、円筒物170及び172の間で全ての試験サンプルについて1回ねじることとなった。試験サンプルは円筒物172及び174の間でねじらなかった。300gの重り186を試験サンプルの端部に固定した。円筒物174を過ぎてぶら下がった300gの重り186まで下方に延在する試験サンプルの長さは、少なくとも110mmであったが510mm以下であった。
【0033】
サンプルの引きずり抵抗を測定するために、試験を行うのに十分長い5つのサンプルを無作為に選択して試験した。試験を始めるにあたり、引張り試験機のクロスヘッドを上方に移動するように設定し、こうして300gの重りも同様に上方に移動するようにした。試験サンプルを、移動長を少なくとも80mmで510mm以下として、3つの円筒物上を滑らせた。クロスヘッドが上方に移動している間に円筒物上を試験サンプルが滑るときに生じる荷重を、少なくとも10データ点/秒の割合で記録するように、ロードセルをデータ収集システムに接続した。データ収集システムは、試験中に対応するクロスヘッド変位も同様に記録した。次に各クロスヘッド変位での引きずり抵抗を下式によって計算した。
e(δθ)=T2/T1、変換すると、δ=[ln(T2/T1)]/θ
δ=引きずり抵抗
θ=累積巻き角度(ラジアン)=2πラジアン
T1=平均入力張力=300グラム
T2=データ収集によって記録された平均出力張力(グラム重量)
(注:lnはe=2.71828を底とする自然対数)
【0034】
変位0mm〜76mmについてデータを得た。動的引きずり抵抗は、変位25.4〜50.8mmにわたって算術平均を計算した引きずり抵抗を用いて決定した。
【0035】
ワックス又は他の被膜を有するサンプルを、被膜材料を除去した後に試験できることに注意する。例えば、60℃に加熱した試薬等級のイソプロパノール浴に10分間フロスを浸し、その後軟らかいコットンクロスを用いてワックスを拭き取ることによって、ワックス被膜を除去できる。
【0036】
縫合糸についての結び目保持能力試験:サンプルを以下の方法で用意した。ある長さのサンプル縫合糸材料を、直径2インチの滑らかな表面(例えばDelrin)の円筒物の周りに2回巻き付けた。4つのスライドスロー(sliding throw)を用いて両端を一緒に結び、1つの交互スライドスロー(alternate-sliding throw)を用いて固定した。結び目が円筒物に接触して位置するようにスローを引っ張った。「耳」(耳とは、結び目を結んだ後の、縫合糸の2つの自由な端部である)を、1/8〜3/16インチの長さに切り揃えた。サンプルを円筒物から滑らせて外し、輪を結び目の反対位置で半分に切断した。
【0037】
クロスヘッド速度を200mm/分、ゲージ長を229mmとし、INSTRON 型式5500R試験機を用いてサンプルを試験した。ヤーングリップ及び10kgのロードセルを使用した。少なくとも10サンプルを試験し、(最大力が結び目の破断又は滑りのいずれによって生じたかに関係なく)得られた最大力を平均した。全てのサンプルを温度範囲22〜24℃で試験した。
【0038】
島の高さ測定:島の高さは、サンプルの長手方向の横断面についての、走査型電子顕微鏡写真から測定した。ノード−フィブリルePTFE構造体から上を覆う島の最高点までの最も短い距離として、島の高さの個々の値を測定した。島と隣接するノード−フィブリル構造体の上面全体に線を引いた。次に島の最高点からノード−フィブリル構造体表面の線へ垂線を下ろした。
【0039】
下ろした線の長さが島の高さである。写真の下部隅にある縮尺線の倍率を考慮して、高さを明確に決定可能なほど十分に高倍率で撮影された顕微鏡写真から測定を行うのが好ましい。個々の測定は無作為に選択した5つの島について行い、これらを全ての島の代表値とした。報告した島の高さの値は、これら5つの個々の測定の平均である。
【0040】
示差走査熱量測定に基づく、ポリテトラフルオロエチレン材料の結晶相を決定するための試験方法:示差走査熱量測定(DSC)を、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の結晶相を同定するために使用できる。およそ320〜340℃での、加熱走査中の吸熱ピークの存在は、典型的なPTFEの溶融相を示す。さらに、およそ380℃の吸熱は、延伸されてノード−フィブリル構造体が作られたPTFEに起因する。このピーク(又は吸熱)は、試験サンプルにフィブリルが存在することを示唆するものとして広く認識されている。
【0041】
この試験は、TA Instruments Q1000 DSC、及び示差走査熱量測定(DSC)用のTA Instruments 標準アルミニウムパン及びふたを用いて行った。TA Instruments Sample Encapsulation Press(品番900680−902)を使用して、ふたをパンに圧着した。質量測定を、Sartorius MC 210P 微量天秤で行った。
【0042】
Q1000の校正は、装置と一緒に提供されたThermal Advantage ソフトウェアによって可能となる、Calibration Wizardを利用して行った。全ての校正及び得られた走査は、25mL/分と一定のヘリウム流量下で行った。
【0043】
サンプルは、繊維の小片(6mm以下)にそれぞれ切断するか、又は(本明細書に別途記載する)掻き取り法を用いてあらかじめ調製した表面及びコア材料を装填して準備した。1つのパン及びふたを天秤で0.01mgの精度で秤量した。サンプル材料をパンに装填し、同様に0.01mgの精度で記録した。このときのサンプルは、表面掻き取りサンプルについては1.0mgを若干下回り、いくつかの繊維サンプルについては大体3.0mgといった範囲であった。これらの値をQ1000用のThermal Advantage 制御ソフトウェアに入力した。ふたをパンに置き、プレスを用いて圧着した。サンプル材料が、ふた及びパンの間の圧着部に確実に挟まれていないように注意した。サンプル物品を除いた同様のパンを対照用に用意し、その質量を同様にソフトウェアに入力した。サンプル物品を入れたパンをQ1000のサンプルセンサーに装填し、空のパンを対照センサーに装填した。その後サンプルは以下の手順を経た。
1.−30.00℃で平衡状態
2.400.00℃まで10.00℃/分で昇温
3.サイクル0終点の印
4.等温で5.00分間
5.サイクル0終点の印
6.200.00℃まで10.00℃/分で降温
7.測定終了
【0044】
Universal Analysis 2000 v.4.0C(TA Instruments)を用いてデータを変更せずに分析した。(ピークの存在及び温度位置について)定性的にデータを分析する場合、T4Pモードで動作する走査を使用した。(特にエンタルピー測定について)結晶化ピークの定量的な解釈をする場合、走査はT1モードで行った。
【0045】
膜の例における引張り破断荷重及びマトリクス引張強度(MTS):引張り破断荷重は、平面グリップと10kNのロードセルを装備したINSTRON 5567 引張り試験機を用いて測定した。ゲージ長は2.54cmであり、クロスヘッド速度は25.4cm/分であった。サンプル寸法は6.35cm×0.635cmであった。長手方向のMTS測定の場合、サンプルの長い方の次元を機械方向(ダウンウェブ方向としても知られている)に向けた。横方向のMTS測定の場合、サンプルの長い方の次元を、クロスウェブ方向としても知られている、機械方向と垂直の方向に向けた。A&D天秤(Milpitas, CA)、型式番号FR−300を用いて各サンプルを秤量し、次にHeidenhain厚さゲージ、型式番号MT−60M(Schaumburg, IL)を用いてサンプルの厚さを測定した。その後、サンプルを個別に引張り試験機で試験した。各サンプル5つの異なる部分を測定した。5つの破断荷重(すなわち最大力)測定の平均を使用した。長手方向及び横方向のMTSは次式を用いて計算した。
MTS=(破断荷重/横断面積)×(PTFE密度)/多孔質物品のバルク密度
(PTFE密度は2.2g/cc)
【0046】
繊維及び縫合糸の例におけるMTS計算及び強力(tenacity)測定:繊維材料の場合、マトリクス引張強度は強力値に由来した。強力は破断荷重及びサンプル質量のデータを用いて計算した。引張り試験の前に、分析天秤(型式AA160、Denver Instruments. Inc., Goettingen, Germany)を用いて9m長の繊維サンプルを秤量することにより、繊維のデニールを決定した。繊維の質量(グラム)を1000倍してデニール値を得た。続く破断荷重試験のために、9m長の繊維サンプルを5つに切断した。引張り試験は、サンプル長を269mmに設定し、繊維グリップと10kNロードセルとを装備したINSTRON 5567 引張り試験機で周囲温度にて行った。サンプルをグリップに装填し締め付けて固定した。グリップを速度254mm/分で離れるように移動させながら、破断荷重を記録した。破断荷重(g)をファイバーのデニール値で割って、各繊維サンプルの強力(g/デニール)を計算した。5つのサンプルについて強力値を計算し平均した。次にマトリクス引張強度を、強力値(g/デニール)に26019を掛けて計算した。
【0047】
密度測定:繊維密度は2つの手法のうち1つを用いて決定した。繊維密度が1より大きいものについては、「浮力の原理」、すなわちアルキメデスの原理を使用した。これは、流体に沈められた物体は、置き換えられた流体の重量と等しい浮力を受けるというものである。浮力、すなわち置き換えられた流体の重量は、最初の繊維サンプルの質量と、流体に完全に沈めている間の繊維サンプルの質量とから計算される。置き換えられた流体の質量と流体の密度から置き換えられた流体の体積を計算でき、それが繊維の全体積を表す。繊維の最初の「乾燥」質量及び繊維体積を用いて、繊維サンプルの密度を計算できる。
【0048】
Duranガラスの体積標準器を使用して水の密度を決定した。このガラス標準器は、体積が10±0.001立方センチメートル(cc)であることが保証されていた。試験中、記録した室温は71°F(22℃)であった。あらかじめゼロに風袋引きしてあって一体型浸漬濃度計を装備した、Mettler−Toledo AG204シリーズ天秤に、ガラス標準器を置いた。その質量は30.0409gを示した。脱イオン水容器を、天秤に接触させずに天秤の上方に配置できるように、天秤の基部上に支持物を配置した。次に支持るつぼを天秤の中央から水容器の中に吊り下げて、容器の側面に接触しないようにした。穏やかに揺らしてるつぼに付着した気泡を除去した。その後天秤をゼロに風袋引きした。そしてガラス標準器をるつぼに慎重に配置し、容器の側面に接触させずに水容器中に完全に浸漬した。水容器に浸漬した後にガラス標準器に付着した気泡は、るつぼ上のガラス標準器を穏やかに揺らして除去した。完全に浸漬したガラス標準器の質量は20.0465gを示した。水の密度を以下のように計算した。
10ccガラス標準器の浮力=30.0409g−20.0465g=9.9944g
水の密度=9.9944/10cc=0.9994g/cc
【0049】
密度が1より大きい全ての繊維は、以下の手順を用いて試験した。一体型浸漬濃度計を装備したMettler−Toledo AG204シリーズ天秤に繊維サンプルを置き、その質量をグラムで記録した(A)。
【0050】
水の密度決定について上述したように、水容器を天秤に接触させずに天秤の上方に配置できるように、天秤の基部上に支持物を配置した。次に支持るつぼを天秤の中央から水容器の中に吊り下げて、容器の側面に接触しないようにした。水容器に浸漬した後にるつぼに付着した気泡は、穏やかに揺らして除去した。その後天秤をゼロに風袋引きした。そして繊維サンプルをるつぼに慎重に配置し、容器の側面に接触させずに水容器中に完全に浸漬した。水容器に浸漬した後に繊維に付着した気泡は、るつぼ上の繊維を穏やかに揺らして除去した。完全に浸漬した繊維の質量をグラムで記録した(B)。繊維サンプルの密度を以下のように計算した。
繊維サンプルの密度(g/cc)=A/((A−B)/0.9994)
【0051】
繊維密度が1未満のものについては、繊維体積を固定長の繊維の厚さ及び幅の平均値から計算し、密度を繊維体積及び繊維質量から計算した。密度が1未満の繊維の場合、長さ1.8mの繊維をA&D FR−300天秤に置き、質量をグラムで記録した(C)。次に繊維サンプルの厚さを、Heindenhain厚さゲージを用いて繊維に沿って4点測定した。繊維の幅も同様に、目盛り付の接眼レンズ(Edmund Scientific Co.)を用いて繊維に沿って4点測定した。次に厚さ及び幅の平均値を計算し、繊維サンプルの体積を決定した(D)。繊維サンプルの密度を以下のように計算した。
繊維サンプルの密度(g/cc)=C/D
【0052】
寸法測定:他に記載のない限り、厚さはMitutoyo/MACマイクロメータの2枚の板の間で測定した。3つの異なる部分を各サンプルについて測定した。3つの測定値の平均を用いた。
【0053】
シングルビームレーザー測定装置(LaserMike 光学マイクロメータ 型式番号60−05−06)を用いて直径を測定した。5つの異なる部分を各サンプルについて測定した。5つの測定値の平均を用いた。
【0054】
幅はデジタルキャリパーを用いて測定した。3つの異なる部分を各サンプルについて測定した。3つの測定値の平均を用いた。
【0055】
掻き取り手順:DSC分析用にPTFEの島を掻き取ったものを以下のようにして得た。サンプルの一部をガラススライドの周りに巻き付け、島が上を向くように配置し、サンプルが動かないように両端をテープでスライドに固定した。拡大して見ながら(立体顕微鏡で20〜30倍)、新しいカミソリ刃を用いてサンプルから島のみを掻き取った。島の材料のみを確実に収集するために、掻き取りを行った各部分に島材料が残存するかを視覚的に確認した。このように視覚的に確認して、掻き取りが下地のノード及びフィルリル構造体内部まで到達していないことを確かめた。掻き取ったものがDSC分析用におよそ1mg集まるまで、複数のサンプルを掻き取って島材料を収集した。
【0056】
繊維摩滅試験方法の説明:引きずり抵抗試験について使用した図2の固定具を用いて繊維サンプルを試験した。引きずり抵抗試験は既に説明してあり、この固定具の詳細も説明されている。各サンプルを試験する前に、円筒物を固定具から取り外し、99.9%イソプロパノールを入れたビーカーに1分間完全に沈めて、試験固定具の元の位置に戻し、完全に空気乾燥した。
【0057】
試験する物品を、図2に描くように3つの円筒物170、172及び174の周りを通した。その結果、サンプルは円筒物170の周りに半周、円筒物172及び174の周りに1/4周巻き付けられた。従って、合計累積巻き角度は完全な1周(すなわち2πラジアン)となった。サンプルは円筒物間でねじらなかった。
【0058】
1つのヤーン式クランプあご部が取り付けられた、INSTRON 型式5567 引張り試験機を使用した。(ヤーンクランプの当接点から下方に、3つの円筒物のうち第1の170に掛かっている試験サンプルの当接点までを測定した)ゲージ長は50mmであった。固定具180は、ヤーン式クランプに固定された試験サンプルが円筒物170の軸と直交するように、引張り試験機に固定された。
【0059】
400gの重りの周りにループ結びして、400gの重り186を試験サンプルの端部に固定した。円筒物174を過ぎてぶら下がった400gの重り186まで下方に延在する試験サンプルの長さは、少なくとも150mmであった。引張り試験機は、3つの円筒物上にあるサンプルを、距離50.8mm、クロスヘッド速度50.8cm/分で引っ張り、その後開始位置に復帰して1つのサイクルを完了した。5つの連続サイクルをサンプル毎に行った。
【0060】
円筒物170を過ぎてヤーン式あご部に向かって12mmのサンプル位置にテープの小片を固定し、さらに円筒物172を過ぎて円筒物174に向かって63mmのサンプル位置にテープの別の小片を固定して、サンプルの試験位置に印を付けた。
【0061】
試験に耐えるのに十分な引張強度を持たない繊維については、試験方法を変更しなければならない。もし5回のサイクル中に所望数のサンプルのうちいずれかが破断したら、減少分を100gとして重りを軽くして、5回のサイクル中に所望数のサンプルのうちいずれも破断させない重さに到達するまで、試験をやり直さなければならない。
【0062】
試験完了時にヘアー(hairing)が発生していないか、試験サンプルを2片のテープ間で調べた。ヘアーとは、サンプルから摩滅してほつれているが、依然として一端でくっついているサンプルの部分である。倍率2倍のレンズ又は顕微鏡(倍率10倍)のいずれかと一緒に光の輪を用いて、サンプルの表面を調べた。キャリパーはヘアーの長さ、すなわちヘアーの自由端から、そのヘアーがサンプルの残りにくっついている点までの長さを測定するのに使用した。使用する倍率は、ヘアーの長さを正確に検出し測定する能力により選択した。
【0063】
各サンプルについて繊維摩滅スコアを、次式を用いてサンプルから発生したヘアーの長さから計算した。
繊維摩滅スコア=ヘアーの長さの合計(ミリメートル)
【0064】
釣り糸摩滅試験:試験する釣り糸を約7.62メートルの長さに切断した。試験するサンプルの一端を、釣り用の二重のユニ−ノットを用いて、Shakespeare Tidewater 10LA ベイトキャスティングリール(Shakespeare Fishing Tackle, Inc., Columbia, SC)に巻かれた典型的な12ポンド試験用ナイロン釣り糸の自由端に結んだ。ナイロン糸はリールの糸巻きの1/4を満たすような長さであった。市販の釣り竿(7フィートのGold Cup Inshore ロッド、12〜25ポンドの釣り糸と3/4−3オンスのルアーを指定、Bass Pro Model GC171225、Springfield, MO)のリールホルダーにリールをしっかりと取り付けた。竿をおよそ10度の角度で固定した。竿を最後の小穴の後ろ(竿のリール端に向かって)20mmでリールの前(竿の先端に向かって)90mmに固定した。従って先端は、実際の釣りの状況のように、釣り糸の張力及び竿固有の剛性により動いて振動する。竿は、試験中に釣り糸が固定具と接触しないように固定した。
【0065】
試験するサンプル釣り糸の他端は、竿のガイドを通して、直径16.83cm、幅約50mmのシリコーン被覆巻き取りホイールと、試験中に釣り糸が滑らないように、あるいは破断しないように結んだ。ホイールの中心は、竿先端を超えて15.24cm(水平方向)、竿先端の下方34.3cm(垂直方向)に位置していた。ホイールの50mm幅の部分を、糸がその50mm幅の表面に巻き取られるように釣り竿と垂直に配置した。この巻き取りホイールを、およそ1/4秒で1750rpmに加速するDCモーターに取り付けた。モーターの回転数は、シリコーン巻き取りホイールの外面に付与された、デジタルハンドタコメーター(Ametek 型式1726、Largo, FL)を用いて測定した。
【0066】
リールをキャスティング、すなわち開放位置に設定した。モーターを作動させ、糸を巻き取りホイールの50mm幅の部分に巻き取った。これは、釣りの最中の糸のキャスティングを模擬することを意図していた。サンプル全体が巻き取りホイールに巻き取られた後に、モーターを停止した。巻き取りホイールが減速している間にスプールがスピンし過ぎないように、PTFEテープの小片とスポンジを用いて手でスプールの露出した金属面に圧力を与えた。リールを閉止、すなわちリール位置に切り替えた。糸を再スプールするためにリールのハンドルに取り付けられたエアドリル(Matco Model MT1889、Stow, OH)を作動させた。ドリルは、ホイールのシリコーン面にあるデジタルハンドタコメーター(Ametek 型式1726、Largo, FL)で測定したところ85〜88フィート/分の速度、ホイールに与えられた逆張力が1800〜2000gで、糸を再スプールした。逆張力は糸にかかった魚の抵抗を模擬することを意図したものであり、Saxl Tension Meter Model TR−4000(Tensitron, Inc., Harvard, MA)をリールと最初の小穴との間でサンプル上に配置して、サンプルがエアドリルによって巻き上げられているときに測定した。ロッドを通して張られている分とホイールに結ばれている分を差し引いて、サンプル釣り糸がリールに再スプールされた時点で、サイクルが完了した。エアドリルを停止した。それぞれの糸をそのような試験サイクルに5回通した。
【0067】
試験完了時にヘアーが発生していないか、試験サンプルをその全長にわたって調べた。ヘアーとは、摩滅して糸から分離しているが、依然として一端でくっついている糸の部分である。倍率2倍のレンズ又は顕微鏡(倍率10倍)のいずれかと一緒に光の輪を用いて、サンプルの表面を調べた。キャリパーはヘアーの長さ、すなわちヘアーの自由端から、そのヘアーがサンプルの残りにくっついている点までの長さを測定するのに使用した。使用する倍率は、ヘアーの長さを正確に測定する能力により選択した。
【0068】
その後、各サンプルについて釣り糸摩滅スコアを、次式を用いてサンプルから発生したヘアーの長さから計算した。
釣り糸摩滅スコア=長さ4mm全体での、ヘアーの長さの合計(ミリメートル)
【0069】
水蒸気透過率(MVTR):(直径が6.5cmより大きい)サンプルを、23℃、相対湿度50%±2%の試験室に置いた。口の内径が6.5cmの4.5オンスポリプロピレンカップに酢酸カリウム塩スラリー70gを入れて、試験カップを準備した。このスラリーは結晶酢酸カリウム53g及び水17gからなっていた。不溶固体が存在しない状態にスラリーを完全に混合し、23℃の密閉容器で16時間保管した。W.L. Gore and Associates, Incorporated, Elkton, MDから入手可能な延伸PTFE膜(ePTFE)を、カップのへりにヒートシールして、塩溶液をカップ内に保持する、ぴんと張った漏れ防止の微孔質バリアを形成した。同様のePTFE膜を12.7cmの刺繍枠の内部にぴんと張って取り付け、試験室の水浴表面に浮かべた。水浴と試験室の両方とも温度を23℃に制御した。
【0070】
測定するサンプルを浮かんでいる膜の上に載せ、塩のカップを逆さにして各サンプルの上に配置した。塩のカップを放置して10分間慣らした。次にそれぞれの塩のカップを秤量し、逆さにし、サンプルの上に戻した。15分後、それぞれの塩のカップを取り除いて秤量し、水蒸気透過率を以下のようにカップの吸収質量から計算した。
MVTR(g/(m2×24時間))=カップの水分吸収質量(g)/[カップの口面積(m2)×試験時間(日)](5回の試験の平均を使用した)
【0071】
従来技術の表面及び処理と比較して、本発明の材料に独特の表面を説明するために、多くの場合、以下の3つの「比較」材料のそれぞれ及び本発明の材料について、表面及び長手方向の横断面の走査電子顕微鏡写真を撮影した。これらの材料とは、(A)前駆体材料、(B)プラズマ処理のみの材料、(C)熱処理のみの材料、(D)本発明の材料に独特の表面を得るために、プラズマ処理後に熱処理を行う独特の組み合わせを経た本発明の材料である。図3は、あくまでも参考であるが、以下の例で説明する様々な比較サンプル及び本発明のサンプルの概要である。低倍率画像を撮影した同じ領域で、より高倍率の画像を撮影した。画像がサンプルを確実に描写するように、サンプル全体を走査した。
【0072】
例1 前駆体材料:米国特許第5518012号の教示に従って作製した延伸PTFEデンタルフロス材料を、以下(a)及び(b)として説明する、本例で行う2つの連続処理技術のための前駆体とした。このデンタルフロスは以下の特性を有するePTFE扁平繊維であった:バルク密度 1.52g/cc、厚さ 0.05mm、幅 1.2mm、マトリクス引張強度 81401psi(長さ方向)、引きずり抵抗 0.148、繊維摩滅スコア 200より大きい(ヘアー多数につき正確な数字は計算していない)。全て500倍で撮影した前駆体材料の代表的な走査電子顕微鏡写真は、図4から6に見られる。本明細書で示すこれら及び全ての他の顕微鏡写真の下部右にある破線は、倍率目盛りを示す。例えば図4において、破線の最初と最後の点間の距離は100ミクロンの長さに相当する。前駆体材料は、加熱した板上でPTFEを引き伸ばすことによって作製した。図4及び5は、前駆体材料の両方の表面、すなわち板と接触した表面及び板と接触しなかった表面をそれぞれ示す。PTFEの島はこれら顕微鏡写真のいずれにも見られない。前駆体材料の横断面を示す図6からも、前駆体材料に島がないことが確認される。前駆体材料のこれら3枚の顕微鏡写真は、長手方向に非常に延伸された材料の代表である、ePTFE構造体を表現するものである。
【0073】
試験手順:(a)長い前駆体材料を、Plasma Treatment System PT−2000P(Tri-star Technologies, El Segundo, CA)とつなぎアルゴンガスを用いて、最初にプラズマ処理した。T−セクションをユニットのノズル端部に取り付けた。プラズマ処理はT−セクションの直線長さの範囲内で行った。前駆体フロス材料を直線部分に通し、その直線部分の長さは59cm、内径は3.7mmであった。フロス材料を線速度30フィート/分でユニットを通して引き出し、ユニットの前面にある「Plasma Current」ディスプレイに従って出力を2.1〜2.2に設定した。アルゴン流量は約25SCFHに設定した。次に、設定390℃の加熱した板の上を線速度60フィート/分で通過させることによって、プラズマ処理した材料は次の熱処理工程を経た。加熱した板の長さは86インチ(2.2m)であった。
【0074】
プラズマ処理後に加熱処理した材料の顕微鏡写真が、図7から10に見られる。図7は倍率200倍で撮影し、図8から10は500倍で撮影した。図7及び8は材料の板側から撮影した表面写真であり、図9は材料の板側と反対から撮影した表面写真であり、図10は横断面の顕微鏡写真である。表面の画像は、下地のePTFEフロス材料のノード−フィブリル構造体の上に、滑らかな島状の外観のPTFE材料があることを示している。これらの画像は、個々の島の表面積が、下地のノード−フィブリルePTFE構造体のノードより非常に大きいことを示している。島の高さを測定したところ、約17ミクロンであった。
【0075】
本発明の物品は以下の特性を備えていた:バルク密度 1.52g/cc、長手方向のマトリクス引張強度 62113psi、幅 1.1mm、厚さ 0.05mm。本発明の材料の引きずり抵抗は0.196であり、本発明の材料の取り扱い及び使用時に経験する、握りやすさの向上及び洗浄感の改善といった感触と整合した。3つの本発明のサンプルに繊維摩滅試験を行ったところ、目で見えるヘアーはなく、従って繊維摩滅スコアは0であった。
【0076】
(b)前駆体材料の他のサンプルを、プラズマ処理及びその後の熱処理の両方について、200フィート/分とより速い線速度を使用した他は、手順(a)で上述したのと同様に処理した。得られた本発明の材料の引きずり係数は0.192であり、島の高さは6ミクロンであった。
【0077】
比較例1A:例1で上述したのと同じ前駆体材料をこの比較例でも使用した。長い前駆体材料を、Plasma Treatment System PT−2000P(Tri-star Technologies, El Segundo, CA)とつなぎアルゴンガスを用いてプラズマ処理した。T−セクションをユニットのノズル端部に取り付けた。プラズマ処理はT−セクションの直線長さの範囲内で行った。前駆体フロス材料を直線部分に通し、その直線部分の長さは59cm、内径は3.7mmであった。フロス材料を線速度30フィート/分でユニットを通して引き出し、ユニットの前面にある「Plasma Current」ディスプレイに従って出力を2.1〜2.2に設定した。アルゴン流量は約25SCFHに設定した。
【0078】
このプラズマ処理により、以下の特性を有する材料を得た:バルク密度 1.52g/cc、厚さ 0.1mm、幅 1.2mm、マトリクス引張強度 69998psi。図11はこのプラズマ処理のみの材料の顕微鏡写真であり、島のない表面を示している。
【0079】
比較例1B:例1で上述したのと同じ前駆体材料をこの比較例でも使用した。長い前駆体材料を、設定390℃の加熱した板の上を線速度60フィート/分で通過させることによって熱処理行程に通した。加熱した板の長さは86インチ(2.2m)であった。図12は、この熱処理した材料の板側と反対から500倍で撮影した顕微鏡写真である。この画像は、材料表面に島がないことを示している。
【0080】
例2:例1で説明したのと同じ前駆体材料をこの例でも使用した。前駆体材料サンプルは、例1に記載したのと同じプラズマ処理(a)を経て、次にプラズマ処理したサンプルを軸方向に拘束して、設定335℃の強制空気オーブンに約10分間置いた。
【0081】
この本発明の材料について、表面及び長手方向の横断面の走査電子顕微鏡写真を得た。図13は、倍率1000倍で撮影した、フロス材料サンプルの表面顕微鏡写真である。本発明の物品に特徴的な島がこの顕微鏡写真にはっきりと見える。例1で観察した島と同様に、島の表面は滑らかに見え、個々の島の表面積は下地のノードよりも大きい。
【0082】
本発明の物品は以下の特性を備えていた:バルク密度 1.46g/cc、長手方向のマトリクス引張強度 64345psi、幅 1.1mm、厚さ 0.17mm。本発明のフロス材料をいくつか試してみると、前駆体材料と比較して改善された握りやすさ及び洗浄感といった感触を受けた。
【0083】
例3 前駆体材料:米国特許第6539951号の教示に従って作製した延伸PTFEデンタルフロスをこの例の前駆体材料とした。このデンタルフロスは本質的にePTFEからなり、以下の特性を備えていた:バルク密度 0.80g/cc、厚さ 0.08mm、幅 1.9mm、マトリクス引張強度 63949psi、引きずり係数 0.172。この前駆体材料の表面及び横断面の顕微鏡写真は、それぞれ図14(500倍)及び15(1000倍)である。
【0084】
試験手順:この例については、例1に記載した工程(a)に従って、前駆体材料をプラズマ処理し、その後熱処理した。図16(表面、200倍)、図17(表面、500倍)、及び図18(横断面、1000倍)は、本発明の材料の微細構造についての顕微鏡写真である。これまでの例と同様に、個々の島の表面積は下地のノード−フィブリルePTFE構造体のノードよりもかなり大きく、また島が滑らかな表面を示していることが分かる。本発明の材料は以下の特性を備えていた:バルク密度 0.82g/cc、長手方向のマトリクス引張強度 36707psi、幅 1.8mm、厚さ 0.08mm。
【0085】
本発明の材料について島の平均高さを測定したところ約13ミクロンであった。本発明の材料の引きずり係数を測定したところ0.220であり、このことは、本発明の物品が前駆体の物品よりも握りやすく、かつ洗浄感が改善されていることを示す。
【0086】
示差走査熱量測定(DSC)を用いて、この例で作製した材料の島及び下地のコア、すなわち島以外の成分に、PTFEの結晶相が複数存在しているかを決定した。本明細書に記載した掻き取り手順に従って島を掻き取った。本出願の図19には、本発明の材料全体に加えて、掻き取り物単体及び下地のコア単体のDSC走査が含まれる。この結果は、比較例3A及び3Bの材料の走査と比較して、本明細書で後程より詳細に説明する。
【0087】
比較例3A:例3で説明した前駆体材料をこの比較例でも使用した。この前駆体材料に、比較例1Aで説明したのと同じプラズマ処理を行った。
【0088】
比較例3B:例3に記載した前駆体材料をこの比較例でも使用した。この前駆体材料に、比較例1Bで説明したのと同じ熱処理を行った。
【0089】
図19に、例3の本発明の材料(図中(1)、(2)及び(3)で示す)、例3の前駆体材料((4)で示す)、比較例3A((5)で示す)、及び比較例3B((6)で示す)についての、6つのDSC加熱走査を示す。全てのサンプルを、示差走査熱量測定に基づく、ポリテトラフルオロエチレン材料の結晶相を決定するための試験方法に記載したように試験した。曲線を同じグラフに重ね書きし、分かり易くするためにy軸についてずらした。本発明のサンプルに対応する曲線を(1)と印した。掻き取り手順に従ってこのサンプルのある部分の表面から島を掻き取り、この島材料の加熱走査を(2)と印した。本発明の材料サンプルの中心からコア材料を得ることによって走査を行った。この走査では全ての島材料は確実に除去されており、このコア材料の曲線を(3)と印した。
【0090】
この図19の走査の1つを除いて全て、加熱曲線においておよそ380℃のピークを示した。このピークを示さなかった唯一のサンプルは、掻き取りによって得た島材料であった(走査(2))。このDSC曲線においてこの吸熱がないことは、他の全ての材料に存在するノード及びフィブリル構造が、島には含まれていないことを示唆する。この結果は、顕微鏡写真で確認された、識別可能なフィブリルが島に存在しないことと整合する。
【0091】
DSC冷却走査から、およそ316℃のピーク面積によって表される発熱エンタルピー(単位J/g)は、PTFEの分子量に関する情報を提供する。低分子量PTFEは、高分子量PTFEよりも冷却中に容易に再結晶化しうるため、その低分子量PTFEはより高いエンタルピー値を有する。およそ316℃のピーク面積で表される、島が全くない本発明の材料のコアの発熱エンタルピーは33.5J/gであった。およそ316℃のピーク面積によって表される、掻き取った島の発熱エンタルピーは60.5J/gであった。コアと比較して島の発熱エンタルピーが高かったため、島はコアと比べて低分子量のPTFEから構成されていたことが示唆された。
【0092】
例4:延伸PTFE繊維(品番V112765、W.L. Gore and Associates, Inc., Elkton, MDから入手可能)を入手し、その繊維を2本一緒によじってこの例の前駆体材料を用意した。この前駆体材料は以下の特性を備えていた:バルク密度 1.29g/cc、長手方向のマトリクス引張強度 138278psi、直径 0.483mm。図20(100倍)は前駆体材料の表面の顕微鏡写真である。
【0093】
この例では、プラズマ処理の線速度を100フィート/分に設定し、設定が全て440℃、全長9フィートの、3枚一組の加熱した板の上で熱処理を行って、全体の引き伸ばし比を0.92:1として適度に収縮させた他は、例1に記載した(a)と同じように前駆体材料をプラズマ処理及び熱処理した。
【0094】
本発明の物品は以下の特性を備えていた:バルク密度 2.17g/cc、長手方向のマトリクス引張強度 92285psi、直径 約0.41mm。物品の横断面は長円(oblong)形状であった。島の高さを測定したところ約6ミクロンであった。図21(100倍)及び図22(1000倍)は本発明の材料の表面顕微鏡写真である。両図とも隆起した滑らかな表面の島を示している。
【0095】
さらに、本発明の釣り糸材料の3本のサンプルに釣り糸摩滅試験を行ったところ、本発明の釣り糸全てについて、ヘアーは長さ0.5mm〜6mmの範囲といったごく少量であった。これら3本のサンプルについての釣り糸摩滅スコアはそれぞれ4、5及び10であった。
【0096】
比較例4A:例4で説明した前駆体材料をこの比較例でも使用した。比較用釣り糸材料は、設定が全て440℃の、3枚一組の加熱した板の上で前駆体を熱処理し、全体の引き伸ばし比を0.92:1として適度に収縮させて作製した。
【0097】
3つの比較用釣り糸サンプルに釣り糸摩滅試験を行った。3つのサンプルには、いずれも0.5mmから38mmといった様々な長さの大量のヘアーがあり、長さ10mmを超えるヘアーが少なくとも10本、長さ20mmを超えるヘアーが少なくとも2本あった。これらのサンプルについての釣り糸摩滅スコアは全て160を超えた(ヘアー多数につき正確な数字は得ていない)。
【0098】
例5:この例の前駆体材料は、以下の特性を有する延伸PTFE縫合糸材料であった:バルク密度 1.13g/cc、長手方向のマトリクス引張強度 56382psi、直径 0.3mm。図23は前駆体材料を200倍で撮影した顕微鏡写真である。
【0099】
この前駆体材料を例1の(a)で説明したのと同様にプラズマ処理したが、続く熱処理は連続法で行い、プラズマ処理した物品を、線速度約15フィート/分で設定415℃の92インチ長強制空気オーブンを通して引っ張った。得られた本発明の物品は以下の特性を有していた:バルク密度 1.07g/cc、長手方向のマトリクス引張強度 44986psi、直径 0.33mm。島の高さを測定したところ約11ミクロンであった。図24は本発明の材料を200倍で撮影した顕微鏡写真である。
【0100】
図23及び24は、前駆体材料と本発明の材料との表面外観の違いをそれぞれ示すものである。本発明の材料はPTFEの隆起した島をはっきりと示しており、その島は滑らかで下地の構造体のノードよりも大きい。ここに含まれる全ての画像と同様に、画像がサンプルを確実に描写するように、サンプル全体を走査した。
【0101】
本発明の材料に結び目保持能力試験を行い、結んだ本発明の物品はその材料の最大力の59%を維持しており、本発明の縫合糸は試験した70%が結び目にて破断した。
【0102】
比較目的で、結んだ前駆体縫合糸材料のサンプルに結び目保持能力試験を行ったところ、材料の最大力のわずか27%を維持するのみであって、各試験とも縫合糸の破断を伴わずに結び目が滑った。
【0103】
例6:この例の前駆体材料は、縫合糸として使用するのに適した直径が0.023mmの延伸PTFE繊維材料であった。図25はこの前駆体材料を500倍で撮影した顕微鏡写真である。
【0104】
前駆体材料を、最初にPlasma Treatment System PT−2000P(Tri-star Technologies, El Segundo, CA)とつなぎアルゴンガスを用いてプラズマ処理した。T−セクションをユニットのノズル端部に取り付けた。プラズマ処理はT−セクションの直線長さの範囲内で行った。前駆体フロス材料を直線部分に通し、その直線部分の長さは59cm、内径は3.7mmであった。フロス材料を線速度5フィート/分でユニットを通して引き出し、ユニットの前面にある「Plasma Current」ディスプレイに従って出力を1.8に設定した。アルゴン流量は約25SCFHに設定した。次にプラズマ処理した材料を金属枠に結んで収縮しないようにし、その後設定335℃の強制空気オーブンに10分間入れて熱処理工程を行った。500倍で撮影された顕微鏡写真である図26に示すように、PTFEの島が本発明の材料に見られる。
【0105】
例7:この例の前駆体材料は以下の特性を有する延伸PTFE膜であった:水蒸気透過率 68149g/(m2・日)、厚さ 0.023mm、バルク密度 0.80g/cc、長手方向のマトリクス引張強度 8740psi、横方向のマトリクス引張強度 15742psi。図27及び28はそれぞれ前駆体膜の表面及び横断面の顕微鏡写真であり、両方とも倍率2000倍で撮影されている。
【0106】
次に膜材料を加工して本発明の物品を提供した。前駆体膜は、出力2.5キロワットに設定された大気プラズマ処理ユニットに膜を通すことにより、アルゴンガスを用いてプラズマ処理した。膜をユニットに速度5メートル/分で通し、アルゴンガス流量は50リットル/分であった。次にプラズマ処理した膜をピンフレームに固定して収縮しないようにし、設定335℃の強制空気オーブンで約10分間熱処理した。
【0107】
得られた本発明の材料は以下の特性を有していた:バルク密度 0.81g/cc、長手方向のマトリクス引張強度 10070psi、横方向のマトリクス引張強度 14375psi、厚さ 0.023mm。図29及び30はそれぞれ、2000倍で撮影された本発明の材料の表面及び横断面の顕微鏡写真であり、滑らかで隆起した島を示している。本発明の材料の島の高さを測定したところ約3ミクロンであった。
【0108】
例8:例7で説明したのと同じ前駆体膜材料をこの例でも使用した。円形シリカ粒子(製品番号SO−E2、Admatechs, Seto, Japan)を振りかけてプラズマ処理した膜の表面に適用し、次に手袋を着用した手で粒子を広げて、熱処理工程前に薄くて実質的に均一な被膜をこの前駆体膜に形成したことを除き、例7で説明したのと同様に前駆体を処理した。
【0109】
2000倍で撮影した本発明の物品表面の顕微鏡写真が図31に見られる。顕微鏡写真を調べると、隆起した島がシリカ粒子を内含していることが観察された。
【0110】
例9:例7で説明した前駆体膜材料をこの例でも使用した。実質的に規則的な間隔の穴のパターンを有する、ゴム系接着剤を備えたポリエステルフィルムテープ(3M(登録商標) Polyester Protective Tape 335、Minnesota Mining and Manufacturing, Inc., St. Paul, MN)を含むマスク材料を、プラズマ処理工程前に前駆体材料の表面に貼り付けたことを除き、例7で説明したのと同様に膜を処理した。マスクはプラズマ処理後で、熱処理工程の前に取り除いた。
【0111】
図32及び33はそれぞれ、この例で得られた物品の70倍及び2000倍で撮影された表面写真である。図32は、プラズマ処理工程中にPTFEをマスクして得られたドットパターンを示している。特にドット(暗部)501として見える領域は、プラズマ処理後に熱処理した領域であって、つまりこれらの領域は本発明に従って処理されていた。マスクした(明部)領域502は熱処理のみを経ていた。マスクした領域502及びマスクしていない領域501の境界の、代表的な高倍率画像が図33に示されている。マスクした領域502と比較して、プラズマ処理及び熱処理した領域に滑らかな島503があることが注目される。
【0112】
例10:以下の特性を有する、アモルファスロック温度に曝されたことのない延伸PTFE繊維を含む前駆体材料を入手した:バルク密度 1.2g/cc、長手方向のマトリクス引張強度 71000psi、幅 1.2mm、厚さ 0.2mm。
【0113】
前駆体材料を例1の(a)と同様に処理した。得られた本発明の物品は以下の特性を有していた:バルク密度 1.4g/cc、長手方向のマトリクス引張強度 64400psi、幅 0.9mm、厚さ 0.2mm。得られた本発明の材料表面の、500倍で撮影された顕微鏡写真が図34に見られる。この図ではPTFEの隆起した島が材料の上に見られ、従って、アモルファスロック温度に曝されたことのないePTFE前駆体材料を用いた場合であっても、本発明の物品が作製されることが示されている。
【0114】
特定の実施態様及び細部の説明と関連させて本発明をここに開示したが、そのような細部の変更又は変形は本発明の主旨を逸脱することなく行うことができ、またそのような変更又は変形が以下ここに請求する、特許請求の範囲内にあるとみなされることは、当業者にとって明らかなことである。
【図面の簡単な説明】
【0115】
【図1】下地のePTFE構造体表面にあるPTFEの島を示す、本発明の繊維の横断面透視図である。
【図2】本明細書でより詳細に記載する、本発明の材料の機械的特性を測定するための固定具配置の斜視図である。
【図3】例及び比較例で言及されている、様々な比較サンプル及び本発明のサンプル、並びにこれらの処理の概要である。
【図4】例1で使用した、先行技術の前駆体材料の顕微鏡写真である。
【図5】例1で使用した、先行技術の前駆体材料の顕微鏡写真である。
【図6】例1で使用した、先行技術の前駆体材料の顕微鏡写真である。
【図7】例1に従って作製した、本発明の材料の顕微鏡写真である。
【図8】例1に従って作製した、本発明の材料の顕微鏡写真である。
【図9】例1に従って作製した、本発明の材料の顕微鏡写真である。
【図10】例1に従って作製した、本発明の材料の顕微鏡写真である。
【図11】比較例1Aに従って作製した、先行技術のプラズマ処理のみを行った材料の顕微鏡写真である。
【図12】比較例1Bに従って作製した、先行技術の熱処理のみを行った材料の顕微鏡写真である。
【図13】例2に従って作製した、本発明の材料の顕微鏡写真である。
【図14】例3で使用した前駆体材料の顕微鏡写真である。
【図15】例3で使用した前駆体材料の顕微鏡写真である。
【図16】例3に従って作製した、本発明の材料の顕微鏡写真である。
【図17】例3に従って作製した、本発明の材料の顕微鏡写真である。
【図18】例3に従って作製した、本発明の材料の顕微鏡写真である。
【図19】本明細書でより詳細に説明されており、本発明の材料の特徴を先行技術の材料と比較する、示差走査熱量測定(DSC)の走査を示すグラフである。
【図20】例4で使用した前駆体材料の顕微鏡写真である。
【図21】例4に従って作製した、本発明の材料の顕微鏡写真である。
【図22】例4に従って作製した、本発明の材料の顕微鏡写真である。
【図23】例5で使用した前駆体材料の顕微鏡写真である。
【図24】例5に従って作製した、本発明の材料の顕微鏡写真である。
【図25】例6で使用した前駆体材料の顕微鏡写真である。
【図26】例6に従って作製した、本発明の材用の顕微鏡写真である。
【図27】例7で使用した前駆体材料の顕微鏡写真である。
【図28】例7で使用した前駆体材料の顕微鏡写真である。
【図29】例7に従って作製した、本発明の材料の顕微鏡写真である。
【図30】例7に従って作製した、本発明の材料の顕微鏡写真である。
【図31】例8に従って作製した、本発明の材料の顕微鏡写真である。
【図32】例9に従って作製した、本発明の材料の顕微鏡写真である。
【図33】例9に従って作製した、本発明の材料の顕微鏡写真である。
【図34】例10に従って作製した、本発明の材料の顕微鏡写真である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィブリルで相互連結されたノードによって特徴付けられる微細構造を有する第1のPTFE材料、及び
該第1のPTFE材料の表面にある第2のPTFE材料の島
を含む、物品。
【請求項2】
繊維状である、請求項1に記載の物品。
【請求項3】
膜状である、請求項1に記載の物品。
【請求項4】
さらに少なくとも1種のフィラー材料を含む、請求項1に記載の物品。
【請求項5】
前記少なくとも1種のフィラーが前記第1のPTFE材料の中にある、請求項4に記載の物品。
【請求項6】
前記少なくとも1種のフィラーが前記第2のPTFE材料の中にある、請求項4に記載の物品。
【請求項7】
前記第2のPTFE材料の前記島が、あるパターンの配置で前記第1のPTFEに配列している、請求項1に記載の物品。
【請求項8】
延伸PTFE物品をプラズマ処理し、及び
そのプラズマ処理した材料を熱処理する
ことを含む、PTFE物品の形成方法。
【請求項9】
フィブリルで相互連結されたノードによって特徴付けられる微細構造を有する第1のPTFE材料、及び
該第1のPTFE材料の表面にある第2のPTFE材料の島
を含み、デンタルフロスの形状であることを特徴とする、物品。
【請求項10】
前記デンタルフロスの引きずり抵抗が少なくとも0.17である、請求項9に記載の物品。
【請求項11】
フルオロポリマーを含み、引きずり抵抗が少なくとも0.175である、デンタルフロス。
【請求項12】
前記デンタルフロスの引きずり抵抗が少なくとも0.190である、請求項11に記載のデンタルフロス。
【請求項13】
前記デンタルフロスに少なくとも1種のフィラーが組み合わされている、請求項9に記載の物品。
【請求項14】
フィブリルで相互連結されたノードによって特徴付けられる微細構造を有する第1のPTFE材料、及び
該第1のPTFE材料の表面にある第2のPTFE材料の島
を含み、釣り糸形状であることを特徴とする、物品。
【請求項15】
前記釣り糸の、釣り糸摩滅スコアが100未満である、請求項14に記載の物品。
【請求項16】
前記釣り糸がモノフィラメント繊維を含む、請求項14に記載の物品。
【請求項17】
前記釣り糸がマルチフィラメント繊維を含む、請求項14に記載の物品。
【請求項18】
前記釣り糸がねじれた繊維を含む、請求項14に記載の物品。
【請求項19】
前記釣り糸の密度が少なくとも1.9g/ccである、請求項14に記載の物品。
【請求項20】
釣り糸摩滅スコアが50未満である、PTFEを含む釣り糸。
【請求項21】
フィブリルで相互連結されたノードによって特徴付けられる微細構造を有する第1のPTFE材料、及び
該第1のPTFE材料の表面にある第2のPTFE材料の島
を含み、縫合糸の形状である、物品。
【請求項22】
前記縫合糸の直径が約0.025mmである、請求項21に記載の物品。
【請求項23】
前記縫合糸の直径が約0.015mmである、請求項21に記載の物品。
【請求項24】
密度が1g/ccより大きく、かつ繊維摩滅スコアが約100未満である、モノフィラメントフルオロポリマー繊維を含む物品。
【請求項25】
前記モノフィラメントフルオロポリマー繊維の繊維摩滅スコアが約20未満である、請求項24に記載の物品。
【請求項26】
ねじれた配置で組み合わされた複数の前記モノフィラメントフルオロポリマー繊維をさらに含む、請求項24に記載の物品。
【請求項27】
フルオロポリマーを含み、密度が1g/ccより大きく、かつ繊維摩滅スコアが約100未満である、デンタルフロス。
【請求項1】
フィブリルで相互連結されたノードによって特徴付けられる微細構造を有する第1のPTFE材料、及び
該第1のPTFE材料の表面にある第2のPTFE材料の島
を含む、物品。
【請求項2】
繊維状である、請求項1に記載の物品。
【請求項3】
膜状である、請求項1に記載の物品。
【請求項4】
さらに少なくとも1種のフィラー材料を含む、請求項1に記載の物品。
【請求項5】
前記少なくとも1種のフィラーが前記第1のPTFE材料の中にある、請求項4に記載の物品。
【請求項6】
前記少なくとも1種のフィラーが前記第2のPTFE材料の中にある、請求項4に記載の物品。
【請求項7】
前記第2のPTFE材料の前記島が、あるパターンの配置で前記第1のPTFEに配列している、請求項1に記載の物品。
【請求項8】
延伸PTFE物品をプラズマ処理し、及び
そのプラズマ処理した材料を熱処理する
ことを含む、PTFE物品の形成方法。
【請求項9】
フィブリルで相互連結されたノードによって特徴付けられる微細構造を有する第1のPTFE材料、及び
該第1のPTFE材料の表面にある第2のPTFE材料の島
を含み、デンタルフロスの形状であることを特徴とする、物品。
【請求項10】
前記デンタルフロスの引きずり抵抗が少なくとも0.17である、請求項9に記載の物品。
【請求項11】
フルオロポリマーを含み、引きずり抵抗が少なくとも0.175である、デンタルフロス。
【請求項12】
前記デンタルフロスの引きずり抵抗が少なくとも0.190である、請求項11に記載のデンタルフロス。
【請求項13】
前記デンタルフロスに少なくとも1種のフィラーが組み合わされている、請求項9に記載の物品。
【請求項14】
フィブリルで相互連結されたノードによって特徴付けられる微細構造を有する第1のPTFE材料、及び
該第1のPTFE材料の表面にある第2のPTFE材料の島
を含み、釣り糸形状であることを特徴とする、物品。
【請求項15】
前記釣り糸の、釣り糸摩滅スコアが100未満である、請求項14に記載の物品。
【請求項16】
前記釣り糸がモノフィラメント繊維を含む、請求項14に記載の物品。
【請求項17】
前記釣り糸がマルチフィラメント繊維を含む、請求項14に記載の物品。
【請求項18】
前記釣り糸がねじれた繊維を含む、請求項14に記載の物品。
【請求項19】
前記釣り糸の密度が少なくとも1.9g/ccである、請求項14に記載の物品。
【請求項20】
釣り糸摩滅スコアが50未満である、PTFEを含む釣り糸。
【請求項21】
フィブリルで相互連結されたノードによって特徴付けられる微細構造を有する第1のPTFE材料、及び
該第1のPTFE材料の表面にある第2のPTFE材料の島
を含み、縫合糸の形状である、物品。
【請求項22】
前記縫合糸の直径が約0.025mmである、請求項21に記載の物品。
【請求項23】
前記縫合糸の直径が約0.015mmである、請求項21に記載の物品。
【請求項24】
密度が1g/ccより大きく、かつ繊維摩滅スコアが約100未満である、モノフィラメントフルオロポリマー繊維を含む物品。
【請求項25】
前記モノフィラメントフルオロポリマー繊維の繊維摩滅スコアが約20未満である、請求項24に記載の物品。
【請求項26】
ねじれた配置で組み合わされた複数の前記モノフィラメントフルオロポリマー繊維をさらに含む、請求項24に記載の物品。
【請求項27】
フルオロポリマーを含み、密度が1g/ccより大きく、かつ繊維摩滅スコアが約100未満である、デンタルフロス。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【公表番号】特表2008−510900(P2008−510900A)
【公表日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−529897(P2007−529897)
【出願日】平成17年8月5日(2005.8.5)
【国際出願番号】PCT/US2005/027878
【国際公開番号】WO2006/026069
【国際公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【出願人】(598123677)ゴア エンタープライズ ホールディングス,インコーポレイティド (279)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年8月5日(2005.8.5)
【国際出願番号】PCT/US2005/027878
【国際公開番号】WO2006/026069
【国際公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【出願人】(598123677)ゴア エンタープライズ ホールディングス,インコーポレイティド (279)
【Fターム(参考)】
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