説明

建物地下階の機械式駐車場

【課題】建物地下部分の階高が高い地下室に、立体構造に構築された機械式駐車場を提供する。
【解決手段】建物の地下階床より下方の地下外壁に作用する土圧、水圧等の水平力に抵抗し支持させるべき深さ位置に、水平力に抵抗し支持する構造の歩廊板が少なくとも1層構築され、歩廊板の上下の空間に、機械式駐車場が上下に共通する配置で立体構造に設置され、且つ、機械式駐車場の支柱は、同機械式駐車場の自重および積載荷重を歩廊板へ負担させない構造で基礎部分の耐圧盤又は基礎梁などへ伝達する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、建物地下部分の階高が高い(深い)地下室に、立体構造に構築された機械式駐車場の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
機械式駐車場を建物の地下部分に構築する場合、必要充分な駐車場スペース(駐車台数)を確保するためには、階高の高い地下室を用意し立体構造とすることが必要である。その場合は、図7に例示したように、地下外壁3に作用する大きな土圧、水圧等の水平力に抵抗し支持するため、掘削工事の際には、地下の中段に大規模な鋼製切梁20を1段乃至2段以上設置することが必要であり、ひいては前記鋼製切梁20を組むために大規模な支保工足場が必要となる。そして、地下外壁3および耐圧盤6などのいわゆる地下躯体を完成した後には、前記鋼製切梁20や支保工足場を解体、撤去し、その後に機械式駐車場5の設置工事を行うことになるから、作業手順が多くなり、機械式駐車場5の設置工事は危険な高所作業となる。また、深い地下外壁3は、これに作用する水平力に耐えるように、その壁厚を例えば1m以上に厚くする必要がある、等々の問題点が知られている。更に、鋼製切梁20を入れた段数だけ地下外壁3の打ち継ぎ箇所が多くなり、地下躯体の品質が低下する欠点も知られている。
【0003】
従来、上述した建物地下部分の機械式駐車場の車両収納部を構成する骨組みを、掘削時の山留め部材(切梁など)として構築し、地下躯体と機械式駐車場を並行して構築する方法も、下記の特許文献1および2に開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開平6−117130号(特許第3016215号)公報
【特許文献2】特開平9−291719号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の特許文献1、2に開示された機械式駐車場については、次のような問題点が認められる。
(a)いわゆる逆打ち工法と同様な工法で構築することになるが、掘削に利用する切梁は、その設置時に、緩みやなじみ等を吸収、除去するためプレロードを作用させるのが一般的である。しかし、機械式駐車場の柱、梁などにプレロードを与えた場合、機械式駐車場に変形を発生する不都合がある。
(b)機械式駐車場の梁を切梁として利用するためには、それなりに充分大きな剛性(断面積)が必要であり、通常機械式駐車場に使用されている梁材をそのまま利用することは難しい。そこで機械式駐車場の梁材を大きくすることで対応することも可能であるが、そのようにすると、梁材の断面積の大きさ分だけ階高が大きくなり、地下室に大きな階高を要求することになる。
【0006】
本発明の目的は、機械式駐車場を立体構造に設置するために必要な階高が高い(深い)地下室の地下躯体を合理的、経済的な構造に構築すると共に、地下外壁に作用する土圧、水圧等の水平力に抵抗し支持する構造の歩廊板を、逆打ち工法の実施に必要な鉄筋コンクリート造切梁(以下、RC切梁と略す場合がある)として恒久的構造で設置し、もって地下外壁を薄く構築すること、そして、前記歩廊板の上側に機械式駐車場の設置を先行させることで工期短縮を図り、しかも歩廊板を機械式駐車場の組み立て、調整、および保守、点検の足場に利用することを可能にした建物地下階の機械式駐車場を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した従来技術の課題を解決するための手段として、請求項1に記載した発明に係る建物地下階の機械式駐車場は、建物地下部分に構築された機械式駐車場であって、
建物1の地下階床12より下方の地下外壁3に作用する土圧、水圧等の水平力Fに抵抗し支持させるべき深さ位置に、前記水平力Fに抵抗し支持する構造の歩廊板4が少なくとも1層構築されており、
前記歩廊板4の上下の空間に、機械式駐車場5が上下に共通する配置で立体構造に設置されており、前記機械式駐車場5の支柱5aは、同機械式駐車場5の自重および積載荷重を前記歩廊板4へ負担させない構造で基礎部分の耐圧盤6又は基礎梁へ伝達する構成とされていることを特徴とする。
【0008】
請求項2に記載した発明は、請求項1に記載した建物地下階の機械式駐車場において、
歩廊板4は、建物1の地下階床12より下方の地下外壁3に囲まれた水平面の全面に、又は負担するべき土圧、水圧等の水平力Fに抵抗し支持する必要のある部位に部分的に、鉄筋コンクリート造の切梁として設置されていることを特徴とする。
【0009】
請求項3に記載した発明は、請求項1又は2に記載した建物地下階の機械式駐車場において、
歩廊板4は、建物1の地下室の深さに応じて、同深さ方向に、地下外壁3に作用する土圧、水圧等の水平力Fに抵抗し支持させる必要がある深さ位置毎に、2層或いは3層以上の必要数構築され、前記各層の歩廊板4の上下の空間に機械式駐車場5が上下に共通する配置で立体構造に設置されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る建物地下階の機械式駐車場は、地盤の掘削時に地下外壁3に作用する土圧、水圧等の水平力Fに抵抗し支持させる必要がある深さ位置毎に同水平力Fに抵抗し支持する構造の歩廊板4を、例えば鉄筋コンクリート造の切梁として恒久的構造で設置する(いわゆる本設とする。)から、地下外壁3の壁厚は例えば0.5m程度に薄くできる。その分だけ地下外壁3の工事費用を節減できるし、また、地下室の有効面積を拡大できる。
しかも、歩廊板4を完成した時点で、同歩廊板4より上方の空間に設置するべき機械式駐車場5の組み立て、設置の作業は、下方の地盤の掘削工事と並行して進めることができ、工期の短縮を図れる。また、機械式駐車場5の組み立て、設置、調整などの作業は歩廊板4を足場に利用して行えるから、危険な高所作業を回避できる。
前記歩廊板4は、機械式駐車場5の自重および積載荷重を負担しない構造なので、可及的に薄厚に経済的に設置できる。そして、この歩廊板4は機械式駐車場5の組み立て、調整の作業床として利用できるほか、他に仮設、点検用の足場を構築する必要がないので、仮設材の節減を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
建物地下部分に構築された機械式駐車場である。
建物1の地下階床12より下方の地下外壁3に作用する土圧、水圧等の水平力Fに抵抗し支持させるべき深さ位置に、前記水平力Fに抵抗し支持する構造の歩廊板4を少なくとも1層、恒久的構造で構築する。
前記歩廊板4の上下の空間に、機械式駐車場5を上下に共通する配置で立体的に設置する。そして、前記機械式駐車場5の支柱5aは、同機械式駐車場5の自重および車両21などの積載荷重を前記歩廊板5に負担させない構造で、基礎部分の耐圧盤6又は基礎梁へ伝達する構成とする。
歩廊板4は、建物1の地下階床12より下方の地下外壁3に囲まれた水平面の全面に、又は負担するべき土圧、水圧等の水平力Fに抵抗し支持する必要のある部位に部分的に、鉄筋コンクリート造の切梁として設置する。
歩廊板4は、建物1の地下室の深さに応じて、同深さ方向に、地下外壁3に作用する土圧、水圧等の水平力Fに抵抗し支持させる必要がある深さ位置毎に、2層或いは3層以上の必要数構築し、前記各層の歩廊板4の上下の空間に機械式駐車場5を上下に共通する配置で立体構造に設置する。
【実施例1】
【0012】
以下に、本発明を図示した実施例に基づいて説明する。
図1は、本発明に係る建物地下階の機械式駐車場の垂直断面を概念図として示したもので、建物1の地下部分に構築された機械式駐車場である。
建物1の地下階床12より下方の地下外壁3に作用する土圧、水圧等の水平力Fに抵抗しこれを支持させるべき深さ位置に、同水平力Fに抵抗し支持する構造の歩廊板4が、図1の場合は1層だけ、恒久的な本設部材として構築されている。即ち、前記の歩廊板4は、一例として鉄筋コンクリート造切梁として構築し設置されている。
そして、前記歩廊板4の上下の空間に、機械式駐車場5が上下に共通する配置で立体構造(積層構造)に設置されている。前記機械式駐車場5の支柱5aは、当該機械式駐車場5の自重および車両などの積載荷重を前記歩廊板4に負担させない下記構造で基礎部分の耐圧盤6(又は基礎梁など)へ伝達する構成とされている。
図1中の符号7は地下室の柱を示す。
【0013】
因みに、上記した機械式駐車場5の自重および車両などの積載荷重を、支柱5aが前記歩廊板4へ負担させない構造で基礎部分の耐圧盤6などへ伝達する構成とは、具体的には図2のIII部分を、図3Aに示すように、上下に共通する配置で積層構造に設置された機械式駐車場5、5の支柱5a、5a同士を、歩廊板4の上下面を挟んで相対峙させ、もって鉛直荷重Nの伝達経路を上下方向に一連に連続させた構成、或いは図3Bに示すように、機械式駐車場5の支柱5aの位置に、歩廊板4を上下方向に貫通する孔8を設け、上下の機械式駐車場5、5に共通する支柱5aを、前記孔8の中へ貫通させた構成などで実施する構造を意味する。
【0014】
次に、建物1の地下2階に、上記構成の機械式駐車場を構築する施工手順を概説する。
具体的には図4が分かりやすいように、先ず建物1の地下室外周に山留め壁10を構築し、構真柱を設置する。しかる後に地面レベル(G・L)に1階床11を構築するのに必要な深度まで地盤を掘削し、1階床11を構築する。
続いて、地下1階床12を構築するのに必要な深度まで地盤を掘削し、地下1階床12および同レベルまでの地下外壁13並びに柱7を構築する。
その後、前記地下1階床12より下方の地下外壁3を歩廊板4(いわゆる切梁)で支持する必要のある深度まで地盤の掘削を進め、歩廊板4を、例えば鉄筋コンクリート造切梁として恒久的構造に構築する。また、同レベルまでの地下外壁3並びに柱7を並行して構築する。つまり、鉄筋コンクリート造の歩廊板4の構築は、既に公知の工法である、地盤の掘削底面を型枠代用として、支保工などを格別必要とすることなく、軽便に施工し構築することができる。
図4のように歩廊板4を上下に2層構築する場合は、前記の工程を繰り返すことになる。すなわち、歩廊板4は、建物の地下室の深さに応じて、同深さ方向に、地下外壁3に作用する土圧、水圧等の水平力Fに抵抗し支持させる必要がある深さ位置毎に、2層或いは3層以上の必要数を構築する。
その後、最終的には地盤の掘削を最終掘削底まで進め、その掘削底に、基礎部分となる耐圧盤6(又は基礎梁など)を構築する。また、同レベルまでの地下外壁3並びに柱7の構築を完成する。
【0015】
なお、上記の歩廊板4の構築は、図5に例示したように、建物の地下外壁3に囲まれた水平面の全面に一枚板状に設置する場合と、図6に示したように、負担するべき土圧、水圧等の水平力Fに抵抗し支持する必要のある部位に部分的に、つまり、他の部分には上下方向に貫通する開口部15を残して設置する場合とがある。そのいずれであれ、前記各層の歩廊板4の上下の空間に機械式駐車場5が上下に共通する配置で立体構造に設置されることは同様である。図5及び図6中の符号22は車両を上下方向へ輸送する機械装置用の開口である。
【0016】
以上に本発明を図示した実施例に基いて説明したが、もちろん、本発明の技術的思想は上記実施例の限りではない。本発明の要旨、技術的思想を逸脱しない範囲で、当業者が通常行う設計変更ないし応用変形を含めて、多様に実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る機械式駐車場を概念的に示した断面図である。
【図2】機械式駐車場と歩廊板との関係を示した部分拡大図である。
【図3】Aは機械式駐車場の支柱が歩廊板に対し非貫通型の構成、Bは貫通型の構成を示す部分拡大図である。
【図4】本発明に係る機械式駐車場の構築構造を概念的に示した断面図である。
【図5】図4のV矢視に相当する平面図である。
【図6】図4のV矢視に相当する異なる構成例の平面図である。
【図7】従来の機械式駐車場を概念的に示した断面図である。
【符号の説明】
【0018】
1 建物
12 地下階床
3 地下外壁
F 水平力
4 歩廊板
5 機械式駐車場
5a 支柱
6 耐圧盤













【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物地下部分に構築された機械式駐車場であって、
建物の地下階床より下方の地下外壁に作用する土圧、水圧等の水平力に抵抗し支持させるべき深さ位置に、前記水平力に抵抗し支持する構造の歩廊板が少なくとも1層構築されており、
前記歩廊板の上下の空間に、機械式駐車場が上下に共通する配置で立体構造に設置されており、前記機械式駐車場の支柱は、同機械式駐車場の自重および積載荷重を前記歩廊板へ負担させない構造で基礎部分の耐圧盤又は基礎梁へ伝達する構成とされていることを特徴とする、建物地下階の機械式駐車場。
【請求項2】
歩廊板は、建物の地下階床より下方の地下外壁に囲まれた水平面の全面に、又は負担するべき土圧、水圧等の水平力に抵抗し支持する必要のある部位に部分的に、鉄筋コンクリート造の切梁として設置されていることを特徴とする、請求項1に記載した建物地下階の機械式駐車場。
【請求項3】
歩廊板は、建物の地下室の深さに応じて、同深さ方向に、地下外壁に作用する土圧、水圧等の水平力に抵抗し支持させる必要がある深さ位置毎に、2層或いは3層以上の必要数構築され、前記各層の歩廊板の上下の空間に機械式駐車場が上下に共通する配置で立体構造に設置されていることを特徴とする、請求項1又は2に記載した建物地下階の機械式駐車場。





























【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−154503(P2007−154503A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−350624(P2005−350624)
【出願日】平成17年12月5日(2005.12.5)
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【Fターム(参考)】