建物構築方法
【課題】建物を建て替える際、設備系統を円滑に切り替えできる建物構築方法を提供すること。
【解決手段】本発明は、新築建物30を既存建物10と同じ位置に構築する建物構築方法である。新築建物30を、下から順に区分される下側構造部32、設備フロア33、上側構造部34と、これら3つの構造部32〜34の側面に設けられて鉛直方向に延びる設備コア35と、を含んで構成する。建物構築方法は、既存建物10の側面に沿って設備コア35を構築するとともに、既存建物10を覆うように設備フロア33を構築する工程と、上側構造部34を設備フロア33上に下層から構築する作業と、既存建物10を上層から解体しつつ、この解体した空間に下側構造部32を構築する作業とを並行して行う工程と、を備える。
【解決手段】本発明は、新築建物30を既存建物10と同じ位置に構築する建物構築方法である。新築建物30を、下から順に区分される下側構造部32、設備フロア33、上側構造部34と、これら3つの構造部32〜34の側面に設けられて鉛直方向に延びる設備コア35と、を含んで構成する。建物構築方法は、既存建物10の側面に沿って設備コア35を構築するとともに、既存建物10を覆うように設備フロア33を構築する工程と、上側構造部34を設備フロア33上に下層から構築する作業と、既存建物10を上層から解体しつつ、この解体した空間に下側構造部32を構築する作業とを並行して行う工程と、を備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物構築方法に関する。詳しくは、新築建物を既存建物と同じ位置に構築する建物構築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、建物の老朽化や用途変更等により、建物の建替工事が行われる(特許文献1参照)。この建替工事では、テナントの一時的な移転先を確保しておき、建替工事を開始する直前にテナントを移転先に移転させ、建替工事が完了した後に、再び、新築した建物にテナントを移転させる。工事期間中、テナントは移転先で業務を行う。
しかしながら、工事を開始するまでにテナントの業務を停止させなければならず、また、テナントを2度移転させることになるので、移転に伴うテナント側の負担が増大する、という問題があった。
【0003】
これらの問題を解決するため、既存建物を使用しつつ、新築建物を構築する建物構築方法が提案されている(特許文献2、3参照)。
これらの建物構築方法では、既存建物に隣接してあるいは既存建物を貫通して第1の構造部を新築し、この第1の構造部に支持させて既設建物の上に第2の構造部を新築する。次に、既存建物を完全に解体し、その後、この既存建物が存在していた空間に、第3の構造部を新築する。
これらの提案によれば、工事を開始してもテナントの業務を停止する必要がなく、また、テナントの一時的な移転先を確保する必要がないので、移転に伴うテナント側の負担を軽減できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−30038号公報
【特許文献2】特開2003−120049号公報
【特許文献3】特開2007−9642号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述の特許文献1〜3では、既存建物を完全に解体した後に、この既存建物が存在していた空間に構造部を新築するので、工期が長くなる上に、既存建物を跨いで設けられた第1の構造部がその上部の第2の構造部の荷重を全て支持しなければならないため、施工および構造の両面で、コストが高くなる、という問題があった。
【0006】
本発明は、建物を建て替える際、コストを低減できる建物構築方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明は、新築建物を既存建物と同じ位置に構築する建物構築方法であって、新築建物を、下から順に区分される下側構造部、水平構造部、上側構造部と、これら3つの構造部の側面に設けられて鉛直方向に延びる鉛直構造部と、を含んで構成し、前記既存建物の側面に沿って前記鉛直構造部を構築するとともに、前記既存建物を覆うように水平構造部を構築する工程と、前記上側構造部を前記水平構造部上に下層から構築する作業と、前記既存建物を上層から解体しつつ、当該解体した空間に前記下側構造部を構築する作業とを並行して行う工程と、を備えることを特徴とする。
【0008】
この発明によれば、上側構造部を下層から順番に構築し、この構築した上側構造部に、既存建物のテナントを上層から順番に移転させる。すると、既存建物が上層から順番に空室となるので、この空室となった層から順番に解体する。したがって、建替工事を開始しても既存建物を使用できるので、テナントの一時的な移転先を設ける必要がなく、移転に伴うテナント側の負担を軽減できる。
また、既存建物を上層から順番に解体しつつ、この既存建物が存在していた空間に下側構造部を順番に構築した。よって、下側構造部を構築する際に、まだ解体していない既存建物の一部を支保工として利用できるので、コストを低減できる。
【0009】
また、テナントの移転が容易になるので、什器、備品、設備機器など、既存建物から排出される資材を新しい建物に転用しやすい。よって、工事現場から排出される産業廃棄物を大幅に低減して、環境負荷を低減できる。
【0010】
また、既存建物の一部を残しながらこの既存建物の上に構造部を構築することで、既存建物を新築する構造部の仮支承に利用することができる。
【0011】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の建物構築方法において、前記水平構造部に、既存建物、下側構造部、および上側構造部にエネルギを供給する設備機器を設けることを特徴とする。
【0012】
既存の建物を使用しながら新しい建物を構築する場合、設備系統の切り替えを考慮する必要があるが、上述の特許文献1〜3には、構造的な建替方法のみが示されており、設備系統の切り替えに関して全く開示されていない。
【0013】
本発明では、水平構造部に、既存建物、下側構造部、および上側構造部にエネルギを供給する設備機器を設けた。よって、水平構造部を先行して構築し、この水平構造部の設備機器から、電気、ガス、水道などのエネルギを、既存建物や新たに構築した構造部に供給することで、設備系統の切り替えを円滑に行いつつ、既存建物を継続して使用できる。
【0014】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の建物構築方法において、前記鉛直構造部は、鉛直移動手段および給排水設備を備えることを特徴とする。
【0015】
ここで、鉛直移動手段とは、例えば、エレベータや階段である。
また、給排水設備とは、例えば、トイレや給湯設備である。
【0016】
この発明によれば、鉛直構造部に、鉛直移動手段および給排水設備を設けた。よって、鉛直構造部の施工手間が多くなるが、この鉛直構造部を先行して構築するので、下側構造部および上側構造部の施工期間を短縮できる。
また、エレベータを利用して既存建物から鉛直方向に移動するだけで、容易に上側構造部に移転できるから、テナントをより容易に移転でき、移転費用をさらに低減できる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、建替工事を開始しても既存建物を使用できるので、テナントの一時的な移転先を設ける必要がなく、移転に伴うテナント側の負担を軽減できる。また、既存建物を上層から順番に解体しつつ、この既存建物が存在していた空間に下側構造部を順番に構築した。よって、下側構造部を構築する際に、まだ解体していない既存建物の一部を支保工として利用できるので、コストを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態に係る既存建物の立面図である。
【図2】前記実施形態に係る新築建物の平面図および立面図である。
【図3】前記実施形態に係る設備コアの一例を示す平面図である。
【図4】前記実施形態に係る新築建物を構築する手順を説明するための平面図および立面図(その1)である。
【図5】前記実施形態に係る新築建物を構築する手順を説明するための平面図および立面図(その2)である。
【図6】前記実施形態に係る新築建物の設備コアの既存建物に接続する部分の断面図である。
【図7】前記実施形態に係る新築建物を構築する手順を説明するための平面図および立面図(その3)である。
【図8】前記実施形態に係る新築建物を構築する手順を説明するための平面図および立面図(その4)である。
【図9】前記実施形態に係る既存建物を解体する具体的な手順を説明するための断面図である。
【図10】前記実施形態に係る新築建物の梁および床を構築する具体的な手順を説明するための断面図である。
【図11】前記実施形態に係る新築建物を構築する手順を説明するための平面図および立面図(その5)である。
【図12】本発明の変形例に係る設備コアの配置を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
本発明は、既存建物10を解体して、この既存建物10と同じ位置に新築建物30を構築するものである。
【0020】
図1は、既存建物10の立面図である。
既存建物10は、平面視で矩形状であり、地下1階、地上4階建てである。この既存建物10は、既存基礎11と、その上に設けられた既存構造部12と、を備える。
【0021】
既存基礎11は、複数本の杭111、フーチン112、および基礎梁113などで構成される。この既存基礎11には、湧水槽が設けられている。
既存構造部12は、地下1階および地上1階から4階までの5フロアで構成される。
【0022】
既存建物10の地下1階には、設備機器121が設けられている。
既存建物10の屋上階には、キュービクルやクーリングタワーなどの設備機器122が設けられている。
【0023】
図2は、新築建物30の平面図および立面図である。
新築建物30は、地下1階、地上11階建てである。この新築建物30は、基礎31と、その上に設けられた下側構造部32と、この下側構造部32の上に設けられた水平構造部としての設備フロア33と、この設備フロア33の上に設けられた上側構造部34と、これら下側構造部32、設備フロア33、および上側構造部34の一側面に亘って設けられて鉛直方向に延びる鉛直構造部としての設備コア35と、を備える。
下側構造部32は、既存建物10の存在していた位置に構築され、設備フロア33は、既存建物10を覆うように構築される。
【0024】
基礎31は、既存建物10の既存基礎11に加えて、その周囲に設けられた杭311と、これら杭311同士を連結する矩形枠状の基礎梁312と、で構成される。
【0025】
下側構造部32は、事務所ゾーンであり、1階から5階までの5フロアで構成される。各フロアの階高は、既存建物10の各フロアの階高と同じである。なお、これに限らず、下側構造部32の各フロアの階高を、既存建物10と異ならせてもよい。
【0026】
上側構造部34は事務所ゾーンで、7階から11階までの5フロアで構成される。
設備フロア33は6階に相当し、この設備フロア33には、各種の設備機器が設置されている。
新築建物30には、1階から11階まで鉛直方向に延びるサブシャフト331が2箇所に設けられる。設備フロア33の設備機器の配管や配線は、メインの設備配管・配線の他に、下側構造部32、上側構造部34の24時間対応などの特殊用途をまかなうものであり、このサブシャフト331を通して、各階まで延びている。
【0027】
図3は、設備コア35の一例を示す平面図である。
設備コア35には、2つの鉛直移動手段としての非常階段351、2基の鉛直移動手段としての高層用エレベータ352、2基の鉛直移動手段としての低層用エレベータ353、エレベータホール354、給排水設備としてのトイレ355、給排水設備としての給湯室356などが設けられる。なお、1階の設備コア35には、防災センターが設けられる。なお、設備コア35に非常用エレベータを設けてもよい。
【0028】
高層用エレベータ352は、機械室がエレベータシャフトの上に設けられるタイプである。
低層用エレベータ353は、機械室がないタイプである。
設備コア35の既存建物10側には、2つの通路357が設けられる(図6参照)。
【0029】
図2に戻って、以上の新築建物30は、新築建物30の軸力を支持し、耐震要素となっている構造体フレーム40を備えている。この構造体フレーム40は、基礎31から新築建物30の上端まで略鉛直に延びる4本の鉛直フレーム41と、基礎31から新築建物30の途中の高さまで略鉛直に延びる4本の鉛直フレーム42と、これら鉛直フレーム41、42同士を水平に連結する11本の水平フレーム43と、からなる。
【0030】
鉛直フレーム41は、杭311の直上に位置しており、基礎31の基礎梁312から屋上階の床の高さまで延びている。鉛直フレーム42は、杭311の直上でかつ4本の鉛直フレーム41の間に位置しており、基礎31の基礎梁312から7階の床の高さまで延びている。これら鉛直フレーム41、42は、新築建物30の外周側の柱となる。
水平フレーム43は、各階の床の高さに設けられており、鉛直フレーム41、42同士を矩形枠状に連結する。これら水平フレーム43は、新築建物30の外周側の梁となる。
【0031】
設備フロア33には、構造体フレーム40を補強するため、隣り合う鉛直フレーム41、42同士の中間位置に中間鉛直フレーム44が設けられ、さらに、鉛直フレーム41、42、44間には、ブレース45が設けられる。このブレース45は、適宜、必要な位置に設けられてよい。
【0032】
次に、上述の既存建物10を解体して、この既存建物10と同じ位置に新築建物30を建築する手順について説明する。
ステップS1では、図4に示すように、新築建物30の基礎31を施工する。
具体的には、まず、敷地の外周に沿って仮囲い20を設置する。ここで、既存建物10の図4中上側を、既存建物10を使用するテナント関係者の出入口21とする。一方、既存建物10の図4中右側にパネルゲート22を設けて、工事関係者や工事車両の出入口23とする。これにより、テナント関係者の動線が工事関係者の動線と交わらないので、テナント関係者は工事の進行と関係なく既存建物10を使用できる。
【0033】
次に、泥水処理プラント24や鉄筋の加工場25などを敷地内に設置するとともに、杭打機26を組み立てて、杭を打設するための準備を行う。そして、杭打機26および生コン車27を移動させながら、杭311を打設し、続いて、基礎梁312を構築する。
また、新築建物30に対応するため、ガス、電力、給排水、通信回線などの引込インフラ設備の容量を増大させる。
したがって、この状態では、既存建物10の全フロアが使用中となっている。
【0034】
ステップS2では、図5に示すように、1階から設備フロア33までの設備コア35、設備フロア33、設備フロア33を支持するための構造体フレーム40を構築する。
まず、既存建物10の屋上階の設備機器122の上面を足場板などで覆って、これら設備機器122を保護する。さらに、テナント関係者の出入口21に屋根211を設けて、テナント関係者の安全を確保する。また、既存建物10の近傍に揚重クレーン28を設置し、さらに、設備コア35および構造体フレーム40を囲むように設備フロア33までの高さの足場29を設ける。なお、図5、図7、図8、および図11では、設備コア35の周囲の足場のみを示し、構造体フレーム40の周囲の足場の表示を省略する。
【0035】
次に、揚重クレーン28を利用して、1階から設備フロア33までの設備コア35、設備フロア33、設備フロア33を支持するための構造体フレーム40を構築する。
ここで、図6に示すように、1階から5階までの設備コア35の既存建物10側の壁面に、新築建物30の梁やスラブに接続するためのジョイント部359Aや梁・スラブ受け359Bを設ける。
【0036】
設備コア35の低層用エレベータ353は、1階から6階までの設備コア35を構築した状態で、稼働可能となっているので、これを利用して資材を揚重する。
【0037】
また、2箇所にサブシャフト331を、24時間対応などの特殊用途や仮設対応が可能なように設け、この設備フロア33に、新築建物30だけではなく、既存建物10を稼働するための設備機器を設置する。
また、設備フロア33の角部には、上下に貫通する駄目開口332を設ける。
【0038】
ステップS3では、図7に示すように、既存建物10の設備系統を切り替えて、既存建物10の各階に、設備フロア33の設備機器から電力、ガス、水道などを供給する。
具体的には、まず、図7中矢印で示すように、1階から5階までの設備コア35の設備配管を水平に延長するとともに、設備フロア33からサブシャフト331を通して設備配管を下方に延長し、既存建物10の各階の設備に接続する。
【0039】
次に、設備コア35の防災センター、低層用エレベータ353、トイレ355、給湯室356などを使用可能とする。そして、既存建物10の設備系統を切り替えて、設備フロア33および設備コア35の設備機器を稼働し、既存建物10の屋上階や地下1階の設備機器の稼働を停止する。
このように設備系統を切り替えると、地下1階および屋上階の設備機器121、122が不要となるため、これら設備機器121、122を撤去する。また、既存建物10の外壁貫通処理を行い、テナント関係者が設備コア35を使用できるようにする。
【0040】
次に、駄目開口332を通して、解体用のミニ重機51を屋上に配置する。ミニ重機51を屋上に投入した後、この駄目開口332を塞いでおく。
また、設備コア35および設備フロア33の漏水を防止するため、設備フロア33の上の7階の床面で仮防水処理を行う。
【0041】
次に、既に設けた足場29を上方に延長して、屋上階の床までの高さとし、この足場29を利用して、7階から屋上階までの設備コア35を構築する。
【0042】
ステップS4では、図8に示すように、上側構造部34の7階〜9階を構築し、これら7階〜9階の漏水を防止するため、10階の床面で仮防水処理を行う。そして、設備フロア33の設備機器により、これら7階〜9階の設備を稼働する。
次に、図8中矢印で示すように、既存建物10の3階、4階のテナントを、上側構造部34に移転させる。
よって、この状態では、新築建物30の7階〜9階、および、既存建物10の1階、2階が使用中となる。
【0043】
次に、図9に示すように、既存建物10の屋上階から4階立上りまでを解体する。
具体的には、既存建物10の3階の床面に仮防水処理を行い、その後、この3階にサポート52を設置して重機用に4階の床を補強する。
次に、騒音および振動を防止するため、ワイヤーソウで切断し、複数のブロックに分割する。このとき、3階の床面には仮防水処理が施されているので、切断作業の際に水が排出されても、既存建物10の1階、2階が漏水するのを防止できる。
続いて、この分割したブロックをミニ重機51で1階まで下ろし、その後、圧砕して解体する。なお、地下1階は空きスペースとなっているので、地下1階を解体材の再生処理工場として利用する。
【0044】
次に、図10に示すように、既存建物10の4階の床上に型枠支保工53を設置して、既存建物10の4階および屋上階が存在していた空間に、下側構造部32の4階立上りおよび5階の床を構築する。このとき、設備コア35のジョイント部を利用して、設備コア35に新築建物30の梁やスラブを接続する。
なお、4階立上りおよび5階の床を構築した後、5階の立上りを構築しておく。
【0045】
ステップS5では、図11に示すように、上側構造部34の10階、11階を構築し、屋上階の床面で本防水処理を行う。そして、設備フロア33の設備機器により、これら10階、11階の設備を稼働する。
次に、既存建物10の1階、2階のテナントを、上側構造部34の10階、11階に移転させる。
よって、この状態では、新築建物30の7階〜11階が使用中である。
【0046】
次に、既存建物10の2階にサポートを設置して3階の床を補強し、ワイヤーソウとミニ重機を用いて、既存建物10の4階の床から3階の立上りまでの部分を解体する。
次に、既存建物10の3階の床上に型枠支保工を設置して、既存建物10の3階、4階が存在していた空間に、下側構造部32の3階立上りおよび4階の床を構築する。
【0047】
次に、既存建物10の1階にサポートを設置して2階の床を補強し、ワイヤーソウとミニ重機を用いて、既存建物10の3階の床から2階の立上りまでの部分を解体する。
次に、既存建物10の2階の床上に型枠支保工を設置して、既存建物10の2階、3階が存在していた空間に、下側構造部32の2階立上りおよび3階の床を構築する。
【0048】
次に、地下1階にサポートを設置して1階の床を補強し、ワイヤーソウとミニ重機を用いて、既存建物10の2階の床から1階の立上りまでの部分を解体する。
次に、既存建物10の1階の床上に型枠支保工を設置して、既存建物10の1階、2階が存在していた空間に、下側構造部32の1階立上りおよび2階の床を構築する。
【0049】
本実施形態によれば、以下のような効果がある。
(1)上側構造部34を下層から順番に構築し、この構築した上側構造部34に、既存建物10を上層から順番にテナント関係者、什器、備品を移転させる。すると、既存建物10が上層から順番に空室となるので、この空室となった層から順番に解体する。したがって、建替工事を開始しても既存建物10を使用できるので、テナントの一時的な移転先を設ける必要がなく、移転に伴うテナント側の負担を軽減できる。
また、既存建物10を上層から解体しつつ、この既存建物10が存在していた空間に下側構造部32を順番に構築した。よって、下側構造部32を構築する際に、まだ解体していない既存建物10の一部を支保工として利用できる。
【0050】
(2)テナントの移転が容易になるので、什器、備品、設備機器など、既存建物10から排出される資材を新築建物30に転用しやすい。よって、工事現場から排出される産業廃棄物を大幅に低減して、環境負荷を低減できる。
【0051】
(3)既存建物10と同じ位置に新築建物30を構築するため、容積率を容易に増大できる。よって、容積率を増大させる事業に適している。
【0052】
(4)既存建物10の地下階および基礎を残しておいたので、この既存建物10の地下階および基礎を有効利用することで、コストを低減できる。例えば、新築建物30の施工中、既存建物10の地下階を利用して解体材を処理してもよい。また、新築建物30の完成後、既存建物10の地下1階をテナントスペースとして利用してもよいし、地下1階の湧水槽を消火用水槽として利用してもよい。
【0053】
(5)設備フロア33に、既存建物10、下側構造部32、および上側構造部34にエネルギを供給する設備機器を設けた。そして、設備フロア33を先行して構築し、この設備フロア33の設備機器から、電気、ガス、水道などのエネルギを、既存建物10や新たに構築した下側構造部32および上側構造部34にも供給する。よって、設備系統の切り替えを円滑に行いつつ、既存建物10を継続して使用できる。
【0054】
(6)設備コア35には、非常階段351、2基の高層用エレベータ352、2基の低層用エレベータ353、エレベータホール354、トイレ355、給湯室356などを設けた。よって、この設備コア35の施工手間が多くなるが、この施工手間の多い設備コア35を先行して構築するので、事務所ゾーンである下側構造部32および上側構造部34の施工期間を短縮できる。
また、高層用エレベータ352を利用して、既存建物10から鉛直方向に移動するだけで、容易に上側構造部34に移転できるから、テナントをより容易に移転でき、移転費用をさらに低減できる。
【0055】
(7)既存建物10の地下1階で解体材を処理したので、敷地内に解体材を処理するスペースを設ける必要がなく、敷地を有効利用できる。
【0056】
(8)サブシャフト331を設けて、このサブシャフト331を利用して設備配管を設置したので、事務所ゾーンのレイアウト変更や24時間対応などの特殊用途に容易に対応できる。
【0057】
(9)設備コア35にジョイント部359Aおよびスラブ受け359Bを設け、これらジョイント部359Aおよびスラブ受け359Bを利用して設備コア35に新築建物30の梁やスラブを接続したので、下側構造部32を容易に構築できる。
【0058】
なお、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
例えば、本実施形態では、設備フロア33を1つ設けたが、建物の規模が大きくなる場合には、設備フロアを複数設けてもよい。
【0059】
また、本実施形態では、設備コア35を一側面に設けたが、これに限らず、設備コアを互いに背中合わせとなる二側面に設けてもよい。例えば、図12(a)に示すように、2つの設備コア35Aを互いに対向するように設けてもよいし、図12(b)に示すように、2つの設備コア35Bを互いに対向しないように設けてもよい。また、図12(c)に示すように、構造体フレーム40の四隅に4つの設備コア35Cを設けてもよい。
また、設備コアを複数設けた場合には、工事用に仮設使用してもよい。
【0060】
また、設備フロア33の上の上側構造部34と設備フロア33の下の下側構造部32とで、異なる利用方法としてもよい。例えば、24時間対応の銀行、商社のディーリングルームなど、夜間でも空調設備を利用する業種をどちらか一方にまとめて配置してもよい。
また、既存建物10を構造体フレーム40と連結してもよい。
【符号の説明】
【0061】
10 既存建物
11 既存基礎
12 既存構造部
30 新築建物
31 基礎
32 下側構造部
33 設備フロア(水平構造部)
34 上側構造部
35、35A、35B、35C 設備コア(鉛直構造部)
40 構造体フレーム
41、42 鉛直フレーム
43 水平フレーム
111 杭
112 フーチン
113 基礎梁
121、122 設備機器
311 杭
312 基礎梁
331 サブシャフト
351 非常階段(鉛直移動手段)
352 高層用エレベータ(鉛直移動手段)
353 低層用エレベータ(鉛直移動手段)
354 エレベータホール
355 トイレ(給排水設備)
356 給湯室(給排水設備)
359A ジョイント部
359B スラブ受け
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物構築方法に関する。詳しくは、新築建物を既存建物と同じ位置に構築する建物構築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、建物の老朽化や用途変更等により、建物の建替工事が行われる(特許文献1参照)。この建替工事では、テナントの一時的な移転先を確保しておき、建替工事を開始する直前にテナントを移転先に移転させ、建替工事が完了した後に、再び、新築した建物にテナントを移転させる。工事期間中、テナントは移転先で業務を行う。
しかしながら、工事を開始するまでにテナントの業務を停止させなければならず、また、テナントを2度移転させることになるので、移転に伴うテナント側の負担が増大する、という問題があった。
【0003】
これらの問題を解決するため、既存建物を使用しつつ、新築建物を構築する建物構築方法が提案されている(特許文献2、3参照)。
これらの建物構築方法では、既存建物に隣接してあるいは既存建物を貫通して第1の構造部を新築し、この第1の構造部に支持させて既設建物の上に第2の構造部を新築する。次に、既存建物を完全に解体し、その後、この既存建物が存在していた空間に、第3の構造部を新築する。
これらの提案によれば、工事を開始してもテナントの業務を停止する必要がなく、また、テナントの一時的な移転先を確保する必要がないので、移転に伴うテナント側の負担を軽減できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−30038号公報
【特許文献2】特開2003−120049号公報
【特許文献3】特開2007−9642号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述の特許文献1〜3では、既存建物を完全に解体した後に、この既存建物が存在していた空間に構造部を新築するので、工期が長くなる上に、既存建物を跨いで設けられた第1の構造部がその上部の第2の構造部の荷重を全て支持しなければならないため、施工および構造の両面で、コストが高くなる、という問題があった。
【0006】
本発明は、建物を建て替える際、コストを低減できる建物構築方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明は、新築建物を既存建物と同じ位置に構築する建物構築方法であって、新築建物を、下から順に区分される下側構造部、水平構造部、上側構造部と、これら3つの構造部の側面に設けられて鉛直方向に延びる鉛直構造部と、を含んで構成し、前記既存建物の側面に沿って前記鉛直構造部を構築するとともに、前記既存建物を覆うように水平構造部を構築する工程と、前記上側構造部を前記水平構造部上に下層から構築する作業と、前記既存建物を上層から解体しつつ、当該解体した空間に前記下側構造部を構築する作業とを並行して行う工程と、を備えることを特徴とする。
【0008】
この発明によれば、上側構造部を下層から順番に構築し、この構築した上側構造部に、既存建物のテナントを上層から順番に移転させる。すると、既存建物が上層から順番に空室となるので、この空室となった層から順番に解体する。したがって、建替工事を開始しても既存建物を使用できるので、テナントの一時的な移転先を設ける必要がなく、移転に伴うテナント側の負担を軽減できる。
また、既存建物を上層から順番に解体しつつ、この既存建物が存在していた空間に下側構造部を順番に構築した。よって、下側構造部を構築する際に、まだ解体していない既存建物の一部を支保工として利用できるので、コストを低減できる。
【0009】
また、テナントの移転が容易になるので、什器、備品、設備機器など、既存建物から排出される資材を新しい建物に転用しやすい。よって、工事現場から排出される産業廃棄物を大幅に低減して、環境負荷を低減できる。
【0010】
また、既存建物の一部を残しながらこの既存建物の上に構造部を構築することで、既存建物を新築する構造部の仮支承に利用することができる。
【0011】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の建物構築方法において、前記水平構造部に、既存建物、下側構造部、および上側構造部にエネルギを供給する設備機器を設けることを特徴とする。
【0012】
既存の建物を使用しながら新しい建物を構築する場合、設備系統の切り替えを考慮する必要があるが、上述の特許文献1〜3には、構造的な建替方法のみが示されており、設備系統の切り替えに関して全く開示されていない。
【0013】
本発明では、水平構造部に、既存建物、下側構造部、および上側構造部にエネルギを供給する設備機器を設けた。よって、水平構造部を先行して構築し、この水平構造部の設備機器から、電気、ガス、水道などのエネルギを、既存建物や新たに構築した構造部に供給することで、設備系統の切り替えを円滑に行いつつ、既存建物を継続して使用できる。
【0014】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の建物構築方法において、前記鉛直構造部は、鉛直移動手段および給排水設備を備えることを特徴とする。
【0015】
ここで、鉛直移動手段とは、例えば、エレベータや階段である。
また、給排水設備とは、例えば、トイレや給湯設備である。
【0016】
この発明によれば、鉛直構造部に、鉛直移動手段および給排水設備を設けた。よって、鉛直構造部の施工手間が多くなるが、この鉛直構造部を先行して構築するので、下側構造部および上側構造部の施工期間を短縮できる。
また、エレベータを利用して既存建物から鉛直方向に移動するだけで、容易に上側構造部に移転できるから、テナントをより容易に移転でき、移転費用をさらに低減できる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、建替工事を開始しても既存建物を使用できるので、テナントの一時的な移転先を設ける必要がなく、移転に伴うテナント側の負担を軽減できる。また、既存建物を上層から順番に解体しつつ、この既存建物が存在していた空間に下側構造部を順番に構築した。よって、下側構造部を構築する際に、まだ解体していない既存建物の一部を支保工として利用できるので、コストを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態に係る既存建物の立面図である。
【図2】前記実施形態に係る新築建物の平面図および立面図である。
【図3】前記実施形態に係る設備コアの一例を示す平面図である。
【図4】前記実施形態に係る新築建物を構築する手順を説明するための平面図および立面図(その1)である。
【図5】前記実施形態に係る新築建物を構築する手順を説明するための平面図および立面図(その2)である。
【図6】前記実施形態に係る新築建物の設備コアの既存建物に接続する部分の断面図である。
【図7】前記実施形態に係る新築建物を構築する手順を説明するための平面図および立面図(その3)である。
【図8】前記実施形態に係る新築建物を構築する手順を説明するための平面図および立面図(その4)である。
【図9】前記実施形態に係る既存建物を解体する具体的な手順を説明するための断面図である。
【図10】前記実施形態に係る新築建物の梁および床を構築する具体的な手順を説明するための断面図である。
【図11】前記実施形態に係る新築建物を構築する手順を説明するための平面図および立面図(その5)である。
【図12】本発明の変形例に係る設備コアの配置を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
本発明は、既存建物10を解体して、この既存建物10と同じ位置に新築建物30を構築するものである。
【0020】
図1は、既存建物10の立面図である。
既存建物10は、平面視で矩形状であり、地下1階、地上4階建てである。この既存建物10は、既存基礎11と、その上に設けられた既存構造部12と、を備える。
【0021】
既存基礎11は、複数本の杭111、フーチン112、および基礎梁113などで構成される。この既存基礎11には、湧水槽が設けられている。
既存構造部12は、地下1階および地上1階から4階までの5フロアで構成される。
【0022】
既存建物10の地下1階には、設備機器121が設けられている。
既存建物10の屋上階には、キュービクルやクーリングタワーなどの設備機器122が設けられている。
【0023】
図2は、新築建物30の平面図および立面図である。
新築建物30は、地下1階、地上11階建てである。この新築建物30は、基礎31と、その上に設けられた下側構造部32と、この下側構造部32の上に設けられた水平構造部としての設備フロア33と、この設備フロア33の上に設けられた上側構造部34と、これら下側構造部32、設備フロア33、および上側構造部34の一側面に亘って設けられて鉛直方向に延びる鉛直構造部としての設備コア35と、を備える。
下側構造部32は、既存建物10の存在していた位置に構築され、設備フロア33は、既存建物10を覆うように構築される。
【0024】
基礎31は、既存建物10の既存基礎11に加えて、その周囲に設けられた杭311と、これら杭311同士を連結する矩形枠状の基礎梁312と、で構成される。
【0025】
下側構造部32は、事務所ゾーンであり、1階から5階までの5フロアで構成される。各フロアの階高は、既存建物10の各フロアの階高と同じである。なお、これに限らず、下側構造部32の各フロアの階高を、既存建物10と異ならせてもよい。
【0026】
上側構造部34は事務所ゾーンで、7階から11階までの5フロアで構成される。
設備フロア33は6階に相当し、この設備フロア33には、各種の設備機器が設置されている。
新築建物30には、1階から11階まで鉛直方向に延びるサブシャフト331が2箇所に設けられる。設備フロア33の設備機器の配管や配線は、メインの設備配管・配線の他に、下側構造部32、上側構造部34の24時間対応などの特殊用途をまかなうものであり、このサブシャフト331を通して、各階まで延びている。
【0027】
図3は、設備コア35の一例を示す平面図である。
設備コア35には、2つの鉛直移動手段としての非常階段351、2基の鉛直移動手段としての高層用エレベータ352、2基の鉛直移動手段としての低層用エレベータ353、エレベータホール354、給排水設備としてのトイレ355、給排水設備としての給湯室356などが設けられる。なお、1階の設備コア35には、防災センターが設けられる。なお、設備コア35に非常用エレベータを設けてもよい。
【0028】
高層用エレベータ352は、機械室がエレベータシャフトの上に設けられるタイプである。
低層用エレベータ353は、機械室がないタイプである。
設備コア35の既存建物10側には、2つの通路357が設けられる(図6参照)。
【0029】
図2に戻って、以上の新築建物30は、新築建物30の軸力を支持し、耐震要素となっている構造体フレーム40を備えている。この構造体フレーム40は、基礎31から新築建物30の上端まで略鉛直に延びる4本の鉛直フレーム41と、基礎31から新築建物30の途中の高さまで略鉛直に延びる4本の鉛直フレーム42と、これら鉛直フレーム41、42同士を水平に連結する11本の水平フレーム43と、からなる。
【0030】
鉛直フレーム41は、杭311の直上に位置しており、基礎31の基礎梁312から屋上階の床の高さまで延びている。鉛直フレーム42は、杭311の直上でかつ4本の鉛直フレーム41の間に位置しており、基礎31の基礎梁312から7階の床の高さまで延びている。これら鉛直フレーム41、42は、新築建物30の外周側の柱となる。
水平フレーム43は、各階の床の高さに設けられており、鉛直フレーム41、42同士を矩形枠状に連結する。これら水平フレーム43は、新築建物30の外周側の梁となる。
【0031】
設備フロア33には、構造体フレーム40を補強するため、隣り合う鉛直フレーム41、42同士の中間位置に中間鉛直フレーム44が設けられ、さらに、鉛直フレーム41、42、44間には、ブレース45が設けられる。このブレース45は、適宜、必要な位置に設けられてよい。
【0032】
次に、上述の既存建物10を解体して、この既存建物10と同じ位置に新築建物30を建築する手順について説明する。
ステップS1では、図4に示すように、新築建物30の基礎31を施工する。
具体的には、まず、敷地の外周に沿って仮囲い20を設置する。ここで、既存建物10の図4中上側を、既存建物10を使用するテナント関係者の出入口21とする。一方、既存建物10の図4中右側にパネルゲート22を設けて、工事関係者や工事車両の出入口23とする。これにより、テナント関係者の動線が工事関係者の動線と交わらないので、テナント関係者は工事の進行と関係なく既存建物10を使用できる。
【0033】
次に、泥水処理プラント24や鉄筋の加工場25などを敷地内に設置するとともに、杭打機26を組み立てて、杭を打設するための準備を行う。そして、杭打機26および生コン車27を移動させながら、杭311を打設し、続いて、基礎梁312を構築する。
また、新築建物30に対応するため、ガス、電力、給排水、通信回線などの引込インフラ設備の容量を増大させる。
したがって、この状態では、既存建物10の全フロアが使用中となっている。
【0034】
ステップS2では、図5に示すように、1階から設備フロア33までの設備コア35、設備フロア33、設備フロア33を支持するための構造体フレーム40を構築する。
まず、既存建物10の屋上階の設備機器122の上面を足場板などで覆って、これら設備機器122を保護する。さらに、テナント関係者の出入口21に屋根211を設けて、テナント関係者の安全を確保する。また、既存建物10の近傍に揚重クレーン28を設置し、さらに、設備コア35および構造体フレーム40を囲むように設備フロア33までの高さの足場29を設ける。なお、図5、図7、図8、および図11では、設備コア35の周囲の足場のみを示し、構造体フレーム40の周囲の足場の表示を省略する。
【0035】
次に、揚重クレーン28を利用して、1階から設備フロア33までの設備コア35、設備フロア33、設備フロア33を支持するための構造体フレーム40を構築する。
ここで、図6に示すように、1階から5階までの設備コア35の既存建物10側の壁面に、新築建物30の梁やスラブに接続するためのジョイント部359Aや梁・スラブ受け359Bを設ける。
【0036】
設備コア35の低層用エレベータ353は、1階から6階までの設備コア35を構築した状態で、稼働可能となっているので、これを利用して資材を揚重する。
【0037】
また、2箇所にサブシャフト331を、24時間対応などの特殊用途や仮設対応が可能なように設け、この設備フロア33に、新築建物30だけではなく、既存建物10を稼働するための設備機器を設置する。
また、設備フロア33の角部には、上下に貫通する駄目開口332を設ける。
【0038】
ステップS3では、図7に示すように、既存建物10の設備系統を切り替えて、既存建物10の各階に、設備フロア33の設備機器から電力、ガス、水道などを供給する。
具体的には、まず、図7中矢印で示すように、1階から5階までの設備コア35の設備配管を水平に延長するとともに、設備フロア33からサブシャフト331を通して設備配管を下方に延長し、既存建物10の各階の設備に接続する。
【0039】
次に、設備コア35の防災センター、低層用エレベータ353、トイレ355、給湯室356などを使用可能とする。そして、既存建物10の設備系統を切り替えて、設備フロア33および設備コア35の設備機器を稼働し、既存建物10の屋上階や地下1階の設備機器の稼働を停止する。
このように設備系統を切り替えると、地下1階および屋上階の設備機器121、122が不要となるため、これら設備機器121、122を撤去する。また、既存建物10の外壁貫通処理を行い、テナント関係者が設備コア35を使用できるようにする。
【0040】
次に、駄目開口332を通して、解体用のミニ重機51を屋上に配置する。ミニ重機51を屋上に投入した後、この駄目開口332を塞いでおく。
また、設備コア35および設備フロア33の漏水を防止するため、設備フロア33の上の7階の床面で仮防水処理を行う。
【0041】
次に、既に設けた足場29を上方に延長して、屋上階の床までの高さとし、この足場29を利用して、7階から屋上階までの設備コア35を構築する。
【0042】
ステップS4では、図8に示すように、上側構造部34の7階〜9階を構築し、これら7階〜9階の漏水を防止するため、10階の床面で仮防水処理を行う。そして、設備フロア33の設備機器により、これら7階〜9階の設備を稼働する。
次に、図8中矢印で示すように、既存建物10の3階、4階のテナントを、上側構造部34に移転させる。
よって、この状態では、新築建物30の7階〜9階、および、既存建物10の1階、2階が使用中となる。
【0043】
次に、図9に示すように、既存建物10の屋上階から4階立上りまでを解体する。
具体的には、既存建物10の3階の床面に仮防水処理を行い、その後、この3階にサポート52を設置して重機用に4階の床を補強する。
次に、騒音および振動を防止するため、ワイヤーソウで切断し、複数のブロックに分割する。このとき、3階の床面には仮防水処理が施されているので、切断作業の際に水が排出されても、既存建物10の1階、2階が漏水するのを防止できる。
続いて、この分割したブロックをミニ重機51で1階まで下ろし、その後、圧砕して解体する。なお、地下1階は空きスペースとなっているので、地下1階を解体材の再生処理工場として利用する。
【0044】
次に、図10に示すように、既存建物10の4階の床上に型枠支保工53を設置して、既存建物10の4階および屋上階が存在していた空間に、下側構造部32の4階立上りおよび5階の床を構築する。このとき、設備コア35のジョイント部を利用して、設備コア35に新築建物30の梁やスラブを接続する。
なお、4階立上りおよび5階の床を構築した後、5階の立上りを構築しておく。
【0045】
ステップS5では、図11に示すように、上側構造部34の10階、11階を構築し、屋上階の床面で本防水処理を行う。そして、設備フロア33の設備機器により、これら10階、11階の設備を稼働する。
次に、既存建物10の1階、2階のテナントを、上側構造部34の10階、11階に移転させる。
よって、この状態では、新築建物30の7階〜11階が使用中である。
【0046】
次に、既存建物10の2階にサポートを設置して3階の床を補強し、ワイヤーソウとミニ重機を用いて、既存建物10の4階の床から3階の立上りまでの部分を解体する。
次に、既存建物10の3階の床上に型枠支保工を設置して、既存建物10の3階、4階が存在していた空間に、下側構造部32の3階立上りおよび4階の床を構築する。
【0047】
次に、既存建物10の1階にサポートを設置して2階の床を補強し、ワイヤーソウとミニ重機を用いて、既存建物10の3階の床から2階の立上りまでの部分を解体する。
次に、既存建物10の2階の床上に型枠支保工を設置して、既存建物10の2階、3階が存在していた空間に、下側構造部32の2階立上りおよび3階の床を構築する。
【0048】
次に、地下1階にサポートを設置して1階の床を補強し、ワイヤーソウとミニ重機を用いて、既存建物10の2階の床から1階の立上りまでの部分を解体する。
次に、既存建物10の1階の床上に型枠支保工を設置して、既存建物10の1階、2階が存在していた空間に、下側構造部32の1階立上りおよび2階の床を構築する。
【0049】
本実施形態によれば、以下のような効果がある。
(1)上側構造部34を下層から順番に構築し、この構築した上側構造部34に、既存建物10を上層から順番にテナント関係者、什器、備品を移転させる。すると、既存建物10が上層から順番に空室となるので、この空室となった層から順番に解体する。したがって、建替工事を開始しても既存建物10を使用できるので、テナントの一時的な移転先を設ける必要がなく、移転に伴うテナント側の負担を軽減できる。
また、既存建物10を上層から解体しつつ、この既存建物10が存在していた空間に下側構造部32を順番に構築した。よって、下側構造部32を構築する際に、まだ解体していない既存建物10の一部を支保工として利用できる。
【0050】
(2)テナントの移転が容易になるので、什器、備品、設備機器など、既存建物10から排出される資材を新築建物30に転用しやすい。よって、工事現場から排出される産業廃棄物を大幅に低減して、環境負荷を低減できる。
【0051】
(3)既存建物10と同じ位置に新築建物30を構築するため、容積率を容易に増大できる。よって、容積率を増大させる事業に適している。
【0052】
(4)既存建物10の地下階および基礎を残しておいたので、この既存建物10の地下階および基礎を有効利用することで、コストを低減できる。例えば、新築建物30の施工中、既存建物10の地下階を利用して解体材を処理してもよい。また、新築建物30の完成後、既存建物10の地下1階をテナントスペースとして利用してもよいし、地下1階の湧水槽を消火用水槽として利用してもよい。
【0053】
(5)設備フロア33に、既存建物10、下側構造部32、および上側構造部34にエネルギを供給する設備機器を設けた。そして、設備フロア33を先行して構築し、この設備フロア33の設備機器から、電気、ガス、水道などのエネルギを、既存建物10や新たに構築した下側構造部32および上側構造部34にも供給する。よって、設備系統の切り替えを円滑に行いつつ、既存建物10を継続して使用できる。
【0054】
(6)設備コア35には、非常階段351、2基の高層用エレベータ352、2基の低層用エレベータ353、エレベータホール354、トイレ355、給湯室356などを設けた。よって、この設備コア35の施工手間が多くなるが、この施工手間の多い設備コア35を先行して構築するので、事務所ゾーンである下側構造部32および上側構造部34の施工期間を短縮できる。
また、高層用エレベータ352を利用して、既存建物10から鉛直方向に移動するだけで、容易に上側構造部34に移転できるから、テナントをより容易に移転でき、移転費用をさらに低減できる。
【0055】
(7)既存建物10の地下1階で解体材を処理したので、敷地内に解体材を処理するスペースを設ける必要がなく、敷地を有効利用できる。
【0056】
(8)サブシャフト331を設けて、このサブシャフト331を利用して設備配管を設置したので、事務所ゾーンのレイアウト変更や24時間対応などの特殊用途に容易に対応できる。
【0057】
(9)設備コア35にジョイント部359Aおよびスラブ受け359Bを設け、これらジョイント部359Aおよびスラブ受け359Bを利用して設備コア35に新築建物30の梁やスラブを接続したので、下側構造部32を容易に構築できる。
【0058】
なお、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
例えば、本実施形態では、設備フロア33を1つ設けたが、建物の規模が大きくなる場合には、設備フロアを複数設けてもよい。
【0059】
また、本実施形態では、設備コア35を一側面に設けたが、これに限らず、設備コアを互いに背中合わせとなる二側面に設けてもよい。例えば、図12(a)に示すように、2つの設備コア35Aを互いに対向するように設けてもよいし、図12(b)に示すように、2つの設備コア35Bを互いに対向しないように設けてもよい。また、図12(c)に示すように、構造体フレーム40の四隅に4つの設備コア35Cを設けてもよい。
また、設備コアを複数設けた場合には、工事用に仮設使用してもよい。
【0060】
また、設備フロア33の上の上側構造部34と設備フロア33の下の下側構造部32とで、異なる利用方法としてもよい。例えば、24時間対応の銀行、商社のディーリングルームなど、夜間でも空調設備を利用する業種をどちらか一方にまとめて配置してもよい。
また、既存建物10を構造体フレーム40と連結してもよい。
【符号の説明】
【0061】
10 既存建物
11 既存基礎
12 既存構造部
30 新築建物
31 基礎
32 下側構造部
33 設備フロア(水平構造部)
34 上側構造部
35、35A、35B、35C 設備コア(鉛直構造部)
40 構造体フレーム
41、42 鉛直フレーム
43 水平フレーム
111 杭
112 フーチン
113 基礎梁
121、122 設備機器
311 杭
312 基礎梁
331 サブシャフト
351 非常階段(鉛直移動手段)
352 高層用エレベータ(鉛直移動手段)
353 低層用エレベータ(鉛直移動手段)
354 エレベータホール
355 トイレ(給排水設備)
356 給湯室(給排水設備)
359A ジョイント部
359B スラブ受け
【特許請求の範囲】
【請求項1】
新築建物を既存建物と同じ位置に構築する建物構築方法であって、
新築建物を、下から順に区分される下側構造部、水平構造部、上側構造部と、これら3つの構造部の側面に設けられて鉛直方向に延びる鉛直構造部と、を含んで構成し、
前記既存建物の側面に沿って前記鉛直構造部を構築するとともに、前記既存建物を覆うように水平構造部を構築する工程と、
前記上側構造部を前記水平構造部上に下層から構築する作業と、前記既存建物を上層から解体しつつ、当該解体した空間に前記下側構造部を構築する作業とを並行して行う工程と、を備えることを特徴とする建物構築方法。
【請求項2】
請求項1に記載の建物構築方法において、
前記水平構造部に、既存建物、下側構造部、および上側構造部にエネルギを供給する設備機器を設けることを特徴とする建物構築方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の建物構築方法において、
前記鉛直構造部は、鉛直移動手段および給排水設備を備えることを特徴とする建物構築方法。
【請求項1】
新築建物を既存建物と同じ位置に構築する建物構築方法であって、
新築建物を、下から順に区分される下側構造部、水平構造部、上側構造部と、これら3つの構造部の側面に設けられて鉛直方向に延びる鉛直構造部と、を含んで構成し、
前記既存建物の側面に沿って前記鉛直構造部を構築するとともに、前記既存建物を覆うように水平構造部を構築する工程と、
前記上側構造部を前記水平構造部上に下層から構築する作業と、前記既存建物を上層から解体しつつ、当該解体した空間に前記下側構造部を構築する作業とを並行して行う工程と、を備えることを特徴とする建物構築方法。
【請求項2】
請求項1に記載の建物構築方法において、
前記水平構造部に、既存建物、下側構造部、および上側構造部にエネルギを供給する設備機器を設けることを特徴とする建物構築方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の建物構築方法において、
前記鉛直構造部は、鉛直移動手段および給排水設備を備えることを特徴とする建物構築方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2010−248822(P2010−248822A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−100637(P2009−100637)
【出願日】平成21年4月17日(2009.4.17)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年4月17日(2009.4.17)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【Fターム(参考)】
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