説明

建物用排水システム

【課題】 階高の増加を抑制し、全体として単純な配置で、平面プランの自由度を保ちつつ、他の器具排水管への逆流や排水トラップの封水切れのない合理的でローコストな排水システムを提供する。
【解決手段】 従来は各排水器具からの雑排水や汚水を、排水横管23を介して排水立て管1に流しており、便器Tからの汚水は排水横管23において合流させないのが原則である。これに対し、本発明では住戸内に排水横枝管2を配置し、キッチンK、便器T、ユニットバスU、洗面化粧台Sなどの排水器具からの雑排水や汚水を、器具排水管3を介して排水横枝管2で合流させ、排水横枝管2を排水立て管1につなぐ。器具排水管3と排水横枝管2との接続部については、全部またはほぼ全部について器具排水管3側が所定高さだけ高くなるように鉛直方向の落差を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物用排水システムに関するものであり、適用対象は主としてSI(スケルトン・インフィル)建築物、高層建築物等、階高の抑制が求められる建築物であるが、これらに限定されず、一般の建築物にも適用可能である。
【背景技術】
【0002】
従来の一般的な住宅の排水システムは、住戸に設置される台所流し、浴室、洗面化粧台、洗濯機用防水パン、便器等の排水器具に接続される排水横管(排水横枝管または器具排水管)を、建物の上下方向に設けられる排水立て管に直接つなぐ方式で、広く一般に採り入れられている。
【0003】
その場合、他の器具排水管への逆流や排水横管と排水器具との間に設けられる排水トラップでの封水切れが問題となるが、排水器具の配置や排水の流量、配管の径などの工夫で、器具排水管への逆流や排水トラップの封水切れを完全に防止することが難しい。また、専用部内の排水経路として、汚水は雑排水との合流を避けるという考え方が一般的であり、配管の利用効率が悪い。
【0004】
また、骨格(スケルトン)と内装、設備(インフィル)を別々に施工することにより、設備の更新を容易にし、かつ、排水器具を任意に配置することを可能としたSI建築物の場合、従来は一般の建築物と同様の手法で排水設備が設計されていた。その場合、一般の建築物と比較し階高が200〜400mm程度大きくなってしまい、それがSI建築物の導入の妨げになっていた。
【0005】
また、高層建築物においても上下階で平面プランが異なる場合には、従来の一般の建築物と同様の手法で排水設備を設計すると、上述SI建築物の場合と同様に一般の建築物が必要とする以上の階高となる。
【0006】
上述のような場合において階高を抑制することは、建築コストの観点から一般的に多く採り入れられている手法であるが、それにより意匠面での制約や排水計画の複雑化による排水設備のコストアップという問題がある。
【0007】
排水システムに関する改良技術としては、例えば、特許文献1に、配管のメンテナンスに別の住人の住戸内での工事が不要で、階高を高くすることのない配管が可能な集合住宅の配管構造を提供することを目的として、各排水器具から排水立て管に向かう排水横管の一部を床スラブに形成した配管ピット内に収納するようにしたものが記載されている。
【0008】
非特許文献1には、SI住宅用の排水システムとして、各排水器具から器具排水管を通じて送られてくる雑排水および汚水を、共用部分に設置した排水ヘッダを介して排水立て管に流し込むようにした排水システムとその設計手法が記載されている。
また、特許文献2には、非特許文献1と同様の排水システムに対し、強制排水管路を合流させるようにしたものが記載されている。
【0009】
【特許文献1】特開2001−254413号公報
【特許文献2】特開2005−113416号公報
【非特許文献1】「SI住宅用排水ヘッダ設計技術ガイド(2005年度版)」、独立行政法人都市再生機構監修、JwKT排水ヘッダ開発コンソーシアム発行、2005年6月1日
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述した従来の一般的な排水システムの問題点としては、排水横管において汚水と雑排水の合流を避ける配管手法が一般的であるため、その分、排水立て管の数や排水横管を多く必要とするという問題がある。
【0011】
また、排水横管を迂回させたり、立体交差させる場合、配管こう長の増加による材料コスト増に加え、配管施工の複雑化による施工コスト増という問題がある。
【0012】
特に、階高の抑制や平面プランに高い自由度が要求されるSI建築物や高層建築物の場合、排水横管が長くなると排水横管の勾配を確保するために床下空間の必要高さが増し、排水横管配管どうしの立体交差があるとさらにその高さが増すため、階高の抑制と平面プランの高い自由度の両立は極めて難しいという問題がある。
【0013】
特許文献1記載の発明は、集合住宅の階高の抑制を図ったものではあるが、排水システム自体は従来からの排水立て管と排水横管の組み合わせからなるものであり、排水横管の配置制限の問題、汚水と雑排水の分流という配管の利用効率の問題、他の器具排水管への逆流や排水トラップの封水切れの問題に関し、根本的な解決にはならない。
【0014】
非特許文献1記載の排水システムは、SI住宅用の排水システムとして開発されたものであるが、排水立て管とともに共用部分に設置される排水ヘッダに各器具排水管を接続する構成となっている。SI住宅において任意の位置に設置または移動される排水器具に対し、各器具排水管どうしが交差しないように接続するためには、交差や迂回といった複雑な配管経路が必要となる場合がある。特許文献2記載の排水システムも非特許文献1のものと同様の課題を有している。
【0015】
本発明は、階高の増加を抑制し、平面プランの自由度を保ちつつ、他の器具排水管への逆流や排水トラップの封水切れのないシステム全体として単純な配置でスムーズな流れが形成されるローコストの排水システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本願の請求項1に係る建物用排水システムは、建物の上下方向に設けられる排水立て管と、前記排水立て管に接続される排水横枝管と、住戸内に設置される複数の排水器具と、前記複数の排水器具を前記排水横枝管に接続する複数の器具排水管とからなり、前記器具排水管と前記排水横枝管との接続部の全部またはほぼ全部について器具排水管側が所定高さだけ高くなるように鉛直方向の落差を設けてあることを特徴とするものである。
【0017】
排水立て管の配置については、一般の建築物の場合、SI建築物の場合、高層建築物の場合とで、また平面プランとの関係でも異なるが、例えば、建物の上下方向に連続するパイプシャフト内などに設置される。
【0018】
また、台所流し、浴室、洗面化粧台、洗濯機用防水パン、便器等の排水器具は基本的には従来と同様であり、特にSI建築物の場合はインフィル部分の改装による排水器具の移設や新設が可能であることが前提となる。
【0019】
本発明においては、排水横管として、排水横枝管と、各排水器具と排水横枝管をつなぐ複数の器具排水管を用いている。排水横枝管は、通常、1本または複数本設けられ、器具排水管どうしを交差させることなく、各排水器具をそれぞれ器具排水管で排水横枝管に直交するようにつなげば、必要最小限の配管長さで接続することができる。
【0020】
器具排水管どうしを交差させることなく、短距離でつなぐことで、配管のコストや施工コストが低減される他、器具排水管および排水横枝管内の雑排水あるいは汚水の流れもスムーズとなり、さらにSI建築物や高層建築物の場合、階高の抑制効果も得られる。
【0021】
本発明において、排水横枝管で汚水と雑排水の合流を前提としているが、雑排水の用に供する器具排水管への汚水の逆流に関しては、排水横枝管と器具排水管の接合点に以下のように所定の落差を設けることで、逆流を抑えることができる。
【0022】
すなわち、社団法人 空気調和・衛生工学会のHASS206で規定されている特殊排水継手方式の場合、排水横枝管の配管の径は、通常、排水深が排水横枝管芯以下となるように設計されている。この場合器具排水管の管端の管底部を排水横枝管の管芯以上に接続して、器具排水管からの雑排水や汚水を落差を確保して合流させる限りは、他の器具排水管への逆流することは極めて少ない。
【0023】
落差は器具排水管と排水横枝管との接合点の全部について設けてもよいが、排水器具の種類や配置その他の条件によっては、必ずしも全ての接合点としなくてもよい。例えば、雑排水の用に供する器具排水管への汚水の逆流は極力避けなければならないが、汚水の発生源となる便器等の器具排水管に関しては、他の器具排水管からの逆流に関する問題が少ないため必ずしも落差を設けなくてもよい。排水横枝管との接続部に落差を設けないようにすれば、その部分については従来の接続構造を用いることができ、配管スペースとして必要な高さも低減できる。
【0024】
請求項2は、請求項1に係る建物用排水システムにおいて、前記器具排水管のうち少なくとも一部の器具排水管について、前記排水横枝管への接続端の管軸が前記排水横枝管の上半部分に位置し、かつ前記鉛直方向の落差に加え、前記器具排水管の接続端部を水平面内でも湾曲または屈曲させて接続してあることを特徴とするものである。
【0025】
器具排水管は、排水器具と排水横枝管をできるだけ最短距離でつなぐように設置することで、直線区間についてはスムーズな流れが期待できるが、排水横枝管へ放流する流量大き過ぎると、他の排水器具で排水トラップの封水切れの可能性が考えられる。これに対し、接続端部を水平面内で湾曲または屈曲させて接続することで排水流に対して方向性を与え、つまり排水横枝管に対して直交方向の流速を落とすことにより、他の排水器具の排水トラップの封水切れの問題が解消できる。
【0026】
請求項3は、請求項1または2に係る建物用排水システムにおいて、前記排水横枝管の径を便器が接続されている器具排水管との接続部より上流側で絞ってあることを特徴とするとするものである。
【0027】
レジューサを用いるなどをして、排水横枝管の径を便器が接続されている器具排水管との接続部より上流側で絞るようにすると、排水横枝管内での汚水の上流側への逆流が抑制され排水立て管への排水もスムーズとなる。
【0028】
請求項4は、請求項1、2または3に係る建物用排水システムにおいて、前記排水横枝管の全長またはほぼ全長が建物の住戸専用部内に設置されていることを特徴とするものである。
【0029】
背景技術の項で挙げた非特許文献1や特許文献2の排水システムにおける排水ヘッダという器具排水管の合流点は基本的には共用部分の排水立て管付近に配設置され、住戸専用部内における器具排水管の迂回や交差、住戸専用部内汚雑分流であるゆえの、便器からの汚水管のルート確保なども含め煩雑となり、また配管距離も長くなる。
【0030】
これに対し、本発明における器具排水管の合流点である排水横枝管は基本的にはその全長またはほぼ全長を建物の住戸専用部内にし、専用部内の排水器具を器具排水管で直線的に、短距離で、交差することなく整然とつなぐことができる。
【0031】
請求項5は、請求項1〜5に係る建物用排水システムにおいて、前記排水横枝管が建物躯体に形成された溝内に設置されていることを特徴とするものである。
【0032】
器具排水管については、排水器具との関係で、改修時において増設や移設が必要となる場合があるのに対し、排水横枝管は排水立て管との関係でも基本的には移設しないので、あらかじめ建物躯体のスラブに溝を形成し、その中に納めるようにすれば、落差の立ち上がり分の全部または一部の床下空間において必要高さの緩和ができ、その分、階高の増加が抑制できる。特に、SI建築物や高層建築物に適用する場合に有効である。
【0033】
ただし、建物躯体の溝が耐力上の弱点になったり、躯体の大幅なコスト増にならないようにする必要がある。例えば、排水横枝管を納める溝を戸境壁に沿って設ける場合には、梁とスラブとの接合関係によって耐力面での対処が比較的容易であり、下階天井部分が戸境壁に沿って若干勾配または凹凸が生じるとしても目立った影響は避けることができる。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、住戸内の各種排水器具を排水横枝管に、交差や迂回をほとんど必要とせずに、直線的に短距離で配管することができ、配管のための床下空間の必要高さを最小限に抑えつつ、全体として単純で効率的な排水システムを形成することができる。
【0035】
特に、SI建築物や高層建築物に適用した場合には、階高の増加を抑制する効果が、大きく、建築コストの抑制という観点から貢献する。
【0036】
また、器具排水管から排水横枝管への合流部分の全部またはほぼ全部について、落差を設けてあることで、器具排水管内の排水と排水横枝管の排水の流れに落差が生じ、(排水横枝管に排水負荷流量に応じた適切な径を選定することで、)他の器具排水管への逆流や排水トラップにおける封水切れのないスムーズな流れが形成される。
【0037】
さらに、他の器具排水管への逆流や排水トラップにおける封水切れがないことで、雑排水と汚水を同じ排水横枝管へ合流させる場合の問題がほぼ解消され、一般の建築物に適用した場合においても排水立て管の本数を削減できるなど、合理的なコストの削減が図れる。
【0038】
請求項2の構成においては、器具排水管の接続端部を水平面内で湾曲または屈曲させてあることで、排水横枝管へ合流する流量を抑制あるいは排水方向を調整することができ、他の器具排水管への逆流や排水トラップの封水切れの問題がほぼ解消される。また、器具排水管の接続端の管軸が前記排水横枝管の上半部分に位置することで、器具排水管への逆流水の浸入が阻止される。
【0039】
請求項3の構成においては、排水横枝管の径を便器からの器具排水管の直近上流側で絞ってあることで、排水横枝管内での汚水について上流側への逆流が抑制され排水立て管への排水もスムーズとなる。
【0040】
請求項4の構成においては、排水横枝管の全長またはほぼ全長が建物の住戸専用部内に設置されていることで、本願発明の適用に当たり、住戸専用部内の排水器具を配管横枝管で直線的に、短距離で、整然とつなぐことができる。
【0041】
請求項5の構成においては、排水横枝管が建物躯体に形成された溝内に設置されていることで、その分、階高の増加が抑制でき、特に、SI建築物や高層建築物に適用する場合に有効である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0042】
図1は、SI住宅(建築物)場合を例として、本発明の排水システムの基本概念を従来技術と対比して示したものである。
【0043】
(a)が従来の一般的な配管方式であり、この例では住戸の玄関ドア横のメータボックス内に建物上下方向に連続する排水立て管1を設置し、キッチンK、便器T、ユニットバスU、洗面化粧台Sなどの排水器具からの雑排水や汚水を、排水横管23を介して、排水立て管1に流している。
【0044】
この例で、ユニットバスUと洗面化粧台Sからの雑排水については排水横管23どうしを接続し、合流させて排水立て管1につないでいるが、キッチンK、便器Tは、個別に、排水横管23で排水立て管1につないでいる。
【0045】
排水横管23については、排水立て管1に向けて、例えば1/50〜1/75程度の下り勾配を付与することで、排水を誘導するようにしている。また、背景技術の項でも述べたように、便器Tからの汚水は他の雑排水と合流させず、直接、排水立て管1に誘導している。
【0046】
これに対し、(b)が本発明の排水システムの場合であり、この例では住戸外廊下31側とバルコニー32側の共用部パイプシャフト内に隣接する住戸と共用の排水立て管1を設置し、各排水器具を、直接、排水立て管1につなぐのではなく、戸境壁33に沿って排水横枝管2を配置し、キッチンK、便器T、ユニットバスU、洗面化粧台Sなどの排水器具からの雑排水や汚水を、器具排水管3を介して排水横枝管2で合流させ、排水横枝管2を排水立て管1につないでいる。
【0047】
このような排水横枝管2での合流を可能とするため、本発明では器具排水管3と排水横枝管2との接続部の全部またはほぼ全部について器具排水管3側が所定高さだけ高くなるように鉛直方向の落差を設けてある。
【0048】
なお、この例では外廊下31側に向けて下り勾配とした排水横枝管2と、バルコニー32側に向けて下り勾配とした排水横枝管2を設置し、外廊下31側の排水立て管1にはユニットバスUおよび洗面化粧台S、バルコニー32側の排水立て管1にはキッチンKおよび便器Tというように配管器具を梁間方向中央付近で分けて接続している。
【0049】
(a)の従来の一般的な配管プランに比べ、配管経路が単純で整然とした形となり、既存の配管がほとんど妨げとならないので、排水器具の移設や新設に伴う配管の変更、増設も容易である。また、各排水器具から排水立て管1までのトータルの距離が短くなれば、排水管のための床下空間の必要高さも抑えることができる。
【0050】
図2は、本発明をSI建築物に適用した場合として、その配管例をパターン化して示したものである。
【0051】
(a)では、排水立て管1を、図1(b)のケースと同様に、住戸外廊下側とバルコニー側の共用部パイプシャフト内に、隣接する住戸と共用する形で設置してあり、排水横枝管2は住戸両側の戸境壁に沿ってそれぞれ2本ずつ、計4本配置し、住戸内を4つのゾーンに分ける形で、4本の排水横枝管2がそれぞれ下り勾配で別々の排水立て管1に接続されている。
【0052】
排水器具との関係では、各排水器具がそれぞれ異なる器具排水管3で排水横枝管2に接続されている。
【0053】
図中の矢印は配管の勾配方向(下り方向)を示したものである。また、図中、排水器具Eは将来増設される可能性のある排水器具として示したものである。
【0054】
さらに、排水横枝管2については、(a)の下部に鉛直断面で示すように建物躯体に溝4を形成し、その中に設置するようにすれば、さらに階高を抑えることができる。
【0055】
(b)では、1本の排水横枝管2を住戸片側の戸境壁に沿って設置し、1本の排水横枝管2に全ての排水器具からの器具排水管3を合流させている。なお、この例では近接するユニットバスUおよび洗面化粧台Sについては器具排水管3でも合流させている。
【0056】
また、この例では、排水横枝管2は梁間方向の中央部で最も高く、住戸外廊下側とバルコニー側の排水立て管1に向けて下り勾配となっている。この場合、図1(b)のケースと同様に、排水横枝管2を住戸外廊下側とバルコニー側に分け、2本としてもよい。
【0057】
(c)では、排水立て管1を、従来例として示した図1(a)と同様に、住戸の玄関ドア横のメータボックス内に設置し、梁間方向に延び、この排水立て管1に向けて下り勾配で接続される排水横枝管2と、その桁行き方向両側に位置する各排水器具をほぼ桁行き方向にほぼ直線的に延びる器具排水管3で接続している。
【0058】
図3は、本発明を高層建築物に適用した場合の配管例を従来技術と対比して示した図である。
【0059】
(a)が高層建築物の標準階の平面プランを示し、廊下35を挟んだエレベータコア34の外周に住戸が配置されている。(b)は従来技術、(c)は本発明の場合であり、(a)の平面プランにおける、符号Aで示した住戸内の配管を想定している。
【0060】
(b)では各排水器具を、排水横管23で、直接、排水立て管1につないでいるため、排水横管23の配管が複雑となり、勾配の配管の立体交差がないとしても、迂回等による延長距離が大きくなり、配管スペースとして距離と勾配に応じた高さが必要となる。
【0061】
これに対し、(c)では勾配で排水立て管1に接続される排水横枝管2に対し、各排水器具からの勾配の器具排水管3が、ほぼ直線的に、かつ全部またはほぼ全部について落差をもって接続される形態となっている。
【0062】
整然とした配管により、立体交差や迂回がほとんど必要ない。また、建物躯体に排水横枝管2を納めるための溝を設ければ、階高かなり抑えることができる。
【0063】
図4は、本発明を一般の建築物に適用した場合の配管例を、従来技術と対比して示した図である。(a)が従来技術、(b)が本発明の場合である。
【0064】
一般の建築物場合、通常、SI住宅(建築物)のような自由な間取りや排水器具の移動、増設を考慮していないため、(a)のように住戸内を貫通する複数の排水立て管1に、排水横管23をつなぎ、便器T等は他の雑排水用の配管器具と分けている。
【0065】
これに対し、本発明の場合、(b)のように排水立て管1につないだ排水横枝管2に対し、落差を有する器具排水管3で各排水器具からの雑排水や汚水を合流させ、排水立て管1に流すため、配管距離は増す可能性があるが、建物を上下方向に貫通する排水立て管1の本数を減らすことができるため、排水システム全体としてのコスト低減が図れる。
【0066】
図5は、本発明における排水横枝管2と器具排水管3の取り合いの一例を概念的に示したものであり、(a)が上からみた図、(b)が鉛直断面である。
【0067】
図中、中央が排水横枝管2であり、右側の器具排水管3は雑排水用の配管、左側の器具排水管3aは便器からの汚水用の配管を想定している。また、作図上、勾配等は誇張して示している。
【0068】
一例として、SI住宅等のSI建築物に適用する場合における設計例を挙げると、排水横枝管2の径が100mm、雑排水用の器具排水管3の径が50mmとなる。器具排水管3は、(b)の右側に示すように、その管底部が排水横枝管2の上半部分にくるように、あるいは少なくとも管軸が排水横枝管2の上半部分にくるようにするのが望ましい。
【0069】
最適な寸法関係は、雑排水や汚水の性質、量や各排水器具の配置、間取り、その他種々の条件で異なるが、一般的には排水横枝管2の径が100mm程度あれば、落差との関係で逆流の恐れがほとんどなく、1/100程度の勾配は排水システムとして一般的な勾配であり、勾配によりスムーズな流れを確保することができる。
【0070】
排水横枝管2の径100mm程度に対し、器具排水管3の径が50mm程度とした場合、器具排水管3の接続端が半満水状態の排水に触れない接続が可能となり逆流抑止効果が大きい。
【0071】
この落差部分については(a)に示すように、器具排水管3の接続端部を水平面内で湾曲または屈曲させることで、排水横枝管2へ合流する流速を抑制あるいは調整することができる。
【0072】
図中、左側の器具排水管3aについて落差を設けていないのは、汚水の発生源となる便器等からの器具排水管3aに関しては、仮に若干の逆流があったとしても問題が少ないためである。なお、便器等からの汚水は比較的流量が大きいため、図中、右側の器具排水管3の接続端部と同様に水平面内で湾曲または屈曲させることで排水流に対して方向性を与え、つまり排水横枝管に対して直交方向の流速を低下させて排水横枝管2へ合流させることが望ましい。
【0073】
図6は、本発明における排水横枝管2の径を便器Tからの器具排水管3aの直近上流側で絞った場合の配管どうしの関係を概念的に示したものである。
【0074】
この例では、仮の配置例として、排水横枝管2に対し、便器Tからの器具排水管3aの上流側でキッチンKと洗面化粧台Sからの器具排水管3が合流し、下流側にユニットバスUと洗濯機Lからの器具排水管3が合流する場合を想定している。
【0075】
このように、汚水を合流させる便器Tから器具排水管3aの直近上流側の径を、レジューサ5を用いるなどして絞り、落差を与えることで、汚水が上流側に逆流したり滞留したりするのを防止し、スムーズな排水機能を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明の排水システムの基本概念を従来技術と対比して示した配管の平面図である。
【図2】本発明をSI建築物に適用した場合の3つの配管例をパターン化して示した図である。
【図3】本発明を高層建築物に適用した場合の配管例を従来技術と対比して示した図である。
【図4】本発明を一般の建築物に適用した場合の配管例を、従来技術と対比して示した図である。
【図5】排水横枝管と器具排水管の取り合いを示す概念図である。
【図6】排水横枝管の径を便器からの器具排水管の直近上流側で絞った場合の配管どうしの関係を示す概念図である。
【符号の説明】
【0077】
1…排水立て管、2…排水横枝管、3…器具排水管、4…溝、5…レジューサ、
23…排水横管(排水横枝管または器具排水管)、
31…外廊下、32…バルコニー、33…戸境壁、34…エレベータコア、35…廊下、
K…キッチン、T…便器、U…ユニットバス、S…洗面化粧台、L…洗濯機、E…将来増設の排水器具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物の上下方向に設けられる排水立て管と、前記排水立て管に接続される排水横枝管と、住戸内に設置される複数の排水器具と、前記複数の排水器具を前記排水横枝管に接続する複数の器具排水管とからなり、前記器具排水管と前記排水横枝管との接続部の全部またはほぼ全部について器具排水管側が所定高さだけ高くなるように鉛直方向の落差を設けてあることを特徴とする建物用排水システム。
【請求項2】
前記器具排水管のうち少なくとも一部の器具排水管について、前記排水横枝管への接続端の管軸が前記排水横枝管の上半部分に位置し、かつ前記鉛直方向の落差に加え、前記器具排水管の接続端部を水平面内でも湾曲または屈曲させて接続してあることを特徴とする請求項1記載の建物用排水システム。
【請求項3】
前記排水横枝管の径を便器が接続されている器具排水管との接合部より上流側で絞ってあることを特徴とする請求項1または2記載の建物用排水システム。
【請求項4】
前記排水横枝管の全長またはほぼ全長が建物の住戸専用部内に設置されていることを特徴とする請求項1、2または3記載の建物用排水システム。
【請求項5】
前記排水横枝管が建物躯体に形成された溝内に設置されていることを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載の建物用排水システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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