説明

建築物の遮熱・断熱構造及びその施工法

【課題】建築物の遮熱・断熱性能を向上でき、その施工も簡易で、施工コストも低く抑えることが出来、建築物表面としての美しい塗膜を形成する。
【解決手段】建築物の表面基材1に断熱効果を有する添加剤を混入した断熱塗料2を表面基材上に塗布して断熱層を形成し、前記断熱層の上に、紫外線を反射する遮熱顔料を混入した遮熱塗料3を塗布して遮熱層を形成する。断熱効果を有する添加剤として、ガラスバルーンを使用する。ガラスバルーンは、断熱塗料全体を100重量部としたとき、そのうち、0.5重量部〜1.0重量部が好適である。前記遮熱塗料及び断熱塗料は、溶剤として水を使用した水溶性塗料である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物の外壁や屋根などの表面に形成する遮熱・断熱構造及びその施工法であって、特に建築物基材表面に塗布することによって形成可能な遮熱・断熱構造及びその施工法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
屋外の外気温や日光照射による昇温が及ぼす建築物の屋内の温度への影響を少なくするために、外壁厚内に断熱材を入れたり、断熱効果を有するサイディングボードなどの外壁材を建築物表面に張ったりすることが採用されている。
これら断熱手段は、通常は建築物の新築時に採用される手段であって、壁などの解体などの工事が大がかりとなって、既存の建築物の断熱効果を更に高める工事としてはコストがかかりすぎ、工期も長くなる。
【0003】
近年取上げられている外断熱という手段として、特開2007−146400号公報に記載されたような外断熱構造も提案されている。
同公報などに記載されている発明は、発泡スチロールなどの断熱効果を有するパネルの表面に着色したり化粧材を張ったパネルを、建築物の表面に外壁などとして張っていくものである。
このような工法も、やはり外壁や屋根に合わせてパネルを切断して組み合わせていく方法であって、その施工は非常に難しく、工期も長くかかる。
【0004】
他方、建物表面に塗布することで断熱効果を発揮する断熱塗料や、日光を反射して日光照射による昇温を抑える遮熱塗料も開発されている。
これら塗料は、ハケやローラーを使って、或いは吹付けガンなどを使って塗布するだけという極めて施工が容易であって、既存の建築物の遮熱・断熱効果を高めるリフォーム工事などには極めて適していた。
しかしながら、従来の工法では、遮熱塗料と断熱塗料を併用する例はなかった。
【0005】
また、断熱塗料において、塗料の中に断熱材料を添加して混入することが採用されているが、保管時に沈殿したり浮遊したりして、添加剤が塗料の一部側に偏ってしまっては好ましくない。
塗料とほぼ同比重で、断熱効果を得られる添加剤として、シラス(火山灰)、フライアッシュ、樹脂などが考えられるが、塗膜に凹凸を形成したり、塗膜の性能を損なうものであっては好ましくない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−146400号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
解決しようとする課題は、建築物の遮熱・断熱性能を向上でき、その施工も簡易で、施工コストも低く抑えることが出来、建築物表面としての美しい塗膜の遮熱・断熱構造とその施工法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、建築物の表面基材に塗布して形成する遮熱・断熱構造及びその施工法であって、断熱効果を有する添加剤を混入した断熱塗料を表面基材上に塗布して断熱層を形成し、前記断熱層の上に、紫外線を反射する遮熱顔料を混入した遮熱塗料を塗布して遮熱層を形成するものである。
本発明では、断熱塗料の上に遮熱塗料を塗るものであって、遮熱塗料が日光を反射して、その下への影響を出来るだけ排除し、断熱塗料は熱の伝導を抑え、屋内側の気温への影響を極力抑えるものである。
ここでいう建築物とは、広く建築されたものを指し、木造建築物、鉄骨建築物、鉄筋コンクリート造建築物など様々な建築構造物を言う。
またその建築物も、住居や事務所や工場などの、人が居住や就労する場所に限らず、家畜を飼育するための厩舎などであってもよい。
要するに、外気から内部を保護する建築物ならば、どのような施設や設備であっても本発明を実施できる。
前記した基材とは、建築物の外表面にあって、建築構造物の一部となる部材ならば広く指し示し、モルタル外壁、サイディングボード、屋根材、屋上コンクリートなど、建築物の外表面に位置する様々な部材を指す。
また、本発明を実施する建築物とは、新設の建築物に限らず、既存の建築物にも実施できるもので、特に既存の建築物の遮熱・断熱構造を向上させるリフォーム工事には最適な施工となる。
【0009】
本発明で使用する断熱塗料には、断熱材料を添加して混入する。
前記したように、塗料の中に添加する断熱材料としては、塗料の保管時に添加剤が沈殿したり浮き上がらない、塗料とほぼ同等の比重を有する材料が選択でき、それらの材料としては、シラス、フライアッシュ、樹脂、ガラスなどの材料が考えられる。
シラス、フライアッシュ、樹脂、ガラスは、中空状のバルーン形状のものが好適である。
それら材料の中で、本発明で使用する添加剤としては、ガラスバルーンが最適である。
シラスバルーンやフライアッシュバルーンは、気泡が生じやすく、塗膜表面にクレーター状の凹凸が生じ易い。
樹脂バルーンであると、塗膜には柔軟性があるが、下地となる基材のパターンが出にくいという課題がある。
ガラスバルーンは、ガラスを主成分とする材料を中空のバルーンとした材料であって、これまではコンクリートの軽量化材料として使用されているのが、その最も知られた使用例である。
ガラスバルーンを添加剤として使用すると気泡が生じ難く、塗膜としての硬度も好適で、下地のパターンも出やすいという特徴を備える。
添加剤であるガラスバルーンは、断熱塗料全体を100重量部として、そのうちの0.5重量部〜1.0重量部が好適である。
ガラスバルーンは内部に空隙を有し、及びガラスバルーン同士の間にも空隙が生ずるもので、塗料と比して、その比重が非常に軽い。
塗料の比重が1.0に近く、高くとも精々1.2程度であるのに対し、ガラスバルーンの比重は0.1〜0.08程度である。
従って、重量部で言えば0.5〜1.0重量部しか占めないが、空隙を含めた嵩で言えば、断熱塗料全体の8〜10%程度に当る。
ガラスバルーンは、比重としては軽いが、塗料に混ぜるにはそれほどの困難はなく、ストックしてガラスバルーンが浮き上がっても、軽く混ぜれば塗料中に均一に混ざり、作業に支障はない。
【0010】
前記遮熱塗料及び断熱塗料としては、溶剤として水を使用した水溶性塗料を採用する。
本発明で使用する塗料は、ナノテクノロジーにより製造した樹脂を塗膜の主成分とするものである。
特に遮熱塗料には、無機成分であるシリカの周囲に有機成分であるアクリルシリコン樹脂などの樹脂をまとわせた樹脂粒子が配合されている。
樹脂粒子の直径は、50〜60ナノメートルという極めて細かい微粒子であって、塗料が乾燥硬化して塗膜となった状態では、樹脂がシリカ同士の間に架橋して連続塗膜を形成する。
つまりは、樹脂やシリカが塗膜として密に基材表面を覆うため、塗膜として極めて強靱で、汚れが付着しにくく、耐候性が良好で、防カビ性が高く、難燃性であるという特徴を有する。
更には、水溶性塗料であるため、人体や環境にやさしい環境性能も備える。
【発明の効果】
【0011】
本発明は以上のような構成を有し、以下の効果を得ることができる。
〈a〉本発明では、断熱塗料の上に遮熱塗料を塗るもので、遮熱塗料によって日光を反射してその下への影響を極力排除し、その下の断熱塗料によって熱の屋内側への伝導を抑え、屋内側の気温への影響を極力抑える。
〈b〉塗料はハケやローラー、或いは吹付けガンにより塗布するだけであるため、施工は著しく容易で、工期も極めて短くなり、施工コストも極めて安価となる。
また、既存の建築物ならば、建築物そのものの解体は一切不要であって、既存の断熱性能の向上を図るリフォーム工事には最適な方法となる。
〈c〉断熱塗料の中に断熱材料としてガラスバルーンを添加したため、塗料の中への分散・維持も良好で、極めて高い断熱性能を発揮するとともに、下地のパターンも明確に出て、更に表面にクレーター状の凹凸も生じない。
〈d〉水溶性の塗料を使用するため、人体にも、環境にも影響の少ない建築材料となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】基材の上に形成した遮熱・断熱構造の断面図。
【図2】本発明にかかる遮熱・断熱構造と、他の塗膜による構造との性能を比較したグラフ。
【実施例1】
【0013】
図1に示すのは、実施例において形成した塗膜構造の断面図である。
実施例では、塗料はローラーによって基材であるモルタル外壁1の上に断熱塗料2、遮熱塗料3を塗った。
断熱塗料2は、二回塗りしたもので、その塗膜の厚みは0.8〜1.2mm程度である。
遮熱塗料3も二回塗りしたもので、その塗膜厚みは0.14〜0.18mm程度である。
【0014】
次に示す表は、断熱塗料2に添加した断熱材料として、シラスバルーン、ガラスバルーン、フライアッシュバルーン、樹脂バルーンを使用した塗料をその基本的性能を比較した例である。
【0015】
【表1】

【0016】
バルーンの種類による基本塗膜物性の差はなかった。
フライアッシュバルーンとシラスバルーンとは貯蔵性能の安定性が欠け、貯蔵中に泡が生じた。
遮熱性能においては、ガラスバルーンが最も良好で、貯蔵安定性も高い。
樹脂バルーンは、塗膜に柔軟性があるが、下地のパターンが出にくいという性質を持つ。
上記比較から、ガラスバルーンがその遮熱性能を初めとして、貯蔵安定性、塗膜の硬度においても最も好ましいことが理解できる。
【0017】
図2に示すのは、各種バルーンを配合した断熱塗料を使用した断熱性能を比較した実験のグラフである。
実験は、基材1表面の遮熱・断熱構造の前に赤外線ランプを配置し、基材1の反対側、つまりは裏面側の温度の上昇を比較したものである。
これによると、ガラスバルーンが最ものその遮熱・断熱性能が良好であり、フライアッシュバルーンとの混入よりも良好であることが理解できる。
実験例において各実験例の温度差は、20分以上経過時においても最大5℃程度であり、その差が小さいときでは1・2℃程度である。
しかしながら、屋内側の温度が1℃低くなるということは、冷房効果の大幅は向上や、省エネを実現することとなり、その効果は極めて大きいと考える。
つまりはガラスバルーンの単独の添加が最良であることが理解できる。
尚、実験にて使用した各バルーンの量は、断熱塗料全体を100重量部としたとき、そのうち、0.8重量部であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建築物の表面基材に塗布して形成する遮熱・断熱構造であって、
断熱効果を有する添加剤を混入した断熱塗料を表面基材上に塗布して断熱層を形成し、
前記断熱層の上に、紫外線を反射する遮熱顔料を混入した遮熱塗料を塗布して遮熱層を形成してなる、
建築物の遮熱・断熱構造。
【請求項2】
前記断熱効果を有する添加剤として、ガラスバルーンを使用してなる、
請求項1記載の建築物の遮熱・断熱構造。
【請求項3】
前記添加剤であるガラスバルーンは、断熱塗料全体を100重量部としたとき、そのうち0.5重量部〜1.0重量部であることを特徴とする、
請求項1又は2記載の建築物の遮熱・断熱構造。
【請求項4】
前記遮熱塗料及び断熱塗料は、溶剤として水を使用した水溶性塗料であることを特徴とする、
請求項1乃至3のいずれか1項に記載した建築物の遮熱・断熱構造。
【請求項5】
請求項1乃至4にかかる建築物の遮熱・断熱構造の施工法であって、
断熱効果を有する添加剤を混入した断熱塗料を、建築物の表面基材上に塗布して断熱層を形成し、
前記断熱層の上に、紫外線を反射する遮熱顔料を混入した遮熱塗料を塗布して遮熱層を形成してなる、
建築物の遮熱・断熱構造の施工法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−248711(P2010−248711A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−96543(P2009−96543)
【出願日】平成21年4月11日(2009.4.11)
【出願人】(509106061)
【Fターム(参考)】