説明

建築物外壁用エマルジョン配合物及び建築物外壁

【解決手段】(1)ラジカル反応性基又はSH基を含む有機基を含有するオルガノポリシロキサンの1種又は2種以上の水中油型エマルジョンに、
(2)アクリル系単量体及びメタクリル系単量体から選択される1種又は2種以上の単量体を(2)成分全量の70質量%以上含む単量体又は混合単量体
を添加して前記オルガノポリシロキサンに(2)成分を乳化グラフト共重合させてなるグラフト共重合エマルジョンを主剤とするエマルジョンにシリコーン樹脂含有エマルジョンを配合してなる外壁用エマルジョン配合物。
【効果】本発明の外壁用エマルジョン配合物は、弾性及び柔軟性に富み、耐水性、耐候性、撥水性、密着性、耐熱性に優れた被膜を形成し、長期間に亘ってその性能を保持することが可能であり、塗料、コーティング剤の基本材料に幅広く使用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オルガノポリシロキサンに(メタ)アクリル系単量体又はこれを主体とする混合単量体成分を乳化グラフト共重合させたグラフト共重合エマルジョンにシリコーン樹脂含有エマルジョンを配合してなる、耐水性に優れた建築物外壁用エマルジョン配合物に関するものであり、特には、弾性及び柔軟性に富み、耐水性、耐候性、撥水性、密着性、耐熱性に優れた被膜を形成し、長期間に亘ってその性能を保持する耐水性に優れた建築物外壁用エマルジョン配合物に関するものである。また、本発明はこのエマルジョン配合物を塗工してなる建築物外壁に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境汚染、安全な作業環境の確保の観点から、塗料あるいはコーティング剤の分野では有機溶剤から水系へと分散媒の変更が求められている。この要求に基づき、アクリル樹脂系に代表されるラジカル重合性ビニルモノマーを乳化重合したエマルジョンは、優れた被膜を形成し、塗料、コーティング剤の基本材料として幅広く採用されているが、本質的に耐水性及び耐候性が不足するという欠点を有している。
【0003】
そこで、これらの欠点を改良する目的で種々の試みがなされている。例えば、ビニル重合性官能基含有アルコキシシランをラジカル重合性ビニルモノマーと共に乳化重合してエマルジョンを作製する方法(特許文献1:特開昭61−9463号公報、特許文献2:特開平8−27347号公報)が提案されている。また、アルコキシシラン化合物あるいはその部分加水分解・縮合物を、各種界面活性剤を用いて乳化し水性エマルジョンとする方法(特許文献3:特開昭58−213046号公報、特許文献4:特開昭62−197369号公報、特許文献5:特開平3−115485号公報)や、更に重合性ビニルモノマーを乳化重合したエマルジョンを混合した系(特許文献6:特開平6−344665号公報)も提案されている。
【0004】
しかし、前者の場合、ビニル重合性官能基含有アルコキシシランをラジカル重合性ビニルモノマーと共に乳化重合しており、アルコキシ基の加水分解も抑制・保存されるが、被膜中にシリコーン樹脂成分を大量に含有させることは難しく、そのため、耐候性等の特性を向上させることはできず、外装用途を考えた場合、満足できる水準ではない。また、後者の場合は、活性なアルコキシ基が経時で加水分解しやすいため、有機溶剤であるアルコールが系内に副生し、加えて重合度が経時で変化するため、良好な被膜特性が得られない。
【0005】
以上のように、従来公知の各方法では満足しうる被膜性能は得られず、弾性及び柔軟性に富み、耐水性、耐候性、撥水性、密着性、耐熱性に優れた被膜を形成し、長期間に亘ってその性能を保持する建築物外壁用エマルジョン配合物の開発が望まれていた。
【0006】
【特許文献1】特開昭61−9463号公報
【特許文献2】特開平8−27347号公報
【特許文献3】特開昭58−213046号公報
【特許文献4】特開昭62−197369号公報
【特許文献5】特開平3−115485号公報
【特許文献6】特開平6−344665号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記事情を改善するためになされたもので、弾性及び柔軟性に富み、耐水性、耐候性、撥水性、密着性、耐熱性に優れた被膜を形成し、長期間に亘ってその性能を保持する建築物外壁用エマルジョン配合物及び建築部外壁を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記の課題を解決するため鋭意検討を行った結果、ラジカル反応性基及び/又はSH基を含む有機基を有するオルガノポリシロキサンのエマルジョンと、アクリル系及び/又はメタクリル系単量体又はこれを主体とする混合単量体との混合物を用い、前記オルガノポリシロキサンに前記単量体又は混合単量体を乳化グラフト重合して得られたグラフト共重合エマルジョンに、更にシリコーン樹脂含有エマルジョンを配合し、外壁建材用途として使用した場合、弾性及び柔軟性に富む被膜を形成し、耐水性、耐候性、撥水性、密着性、耐熱性を付与することができ、更に、長期間に亘ってこれらの性能を保持し得るものであり、このエマルジョン配合物を用いることにより、上述した従来の問題点を解決し得ることを知見し、本発明をなすに至った。
【0009】
従って、本発明は、
[A](1)下記一般式(I)
【化1】

〔式中、R1,R2,R3はそれぞれ炭素数1〜20の1価炭化水素基又は1価のハロゲン化炭化水素基であり、Yはラジカル反応性基又はSH基を含む有機基であり、Xは水素原子、1価の低級アルキル基又は式R124Siで示される基(R4はR1又はYであり、R1,R2,Yは前記と同じである)であり、mは1〜10,000の整数、nは1以上の整数である。〕
で表されるオルガノポリシロキサンの1種又は2種以上の水中油型エマルジョンに
(2)下記一般式(II)
【化2】

(式中、R5は水素原子又はメチル基、R6は炭素数1〜18のアルキル基又はアルコキシ置換アルキル基である。)
で表されるアクリル系単量体及びメタクリル系単量体から選択される1種又は2種以上の単量体を(2)成分全量の70質量%以上含む単量体又は混合単量体を、(1)成分のオルガノポリシロキサンと(2)成分の単量体又は混合単量体とが5:95〜95:5の質量比となるように添加して前記オルガノポリシロキサンに(2)成分を乳化グラフト共重合させてなるグラフト共重合エマルジョンに、
[B]下記平均組成式(i)
7a8bSi(OH)p(OX)q(4-a-b-p-q)/2 (i)
(但し、R7は炭素数1〜10の非置換の1価炭化水素基を表し、R8は炭素数1〜10の置換の1価炭化水素基を表し、Xは炭素数1〜6の1価炭化水素基を表す。a,b,p,qは各々0.50≦a≦1.80、0≦b≦1.00、0<p≦1.50、0≦q≦0.50、0.50≦a+b≦1.80、0<p+q≦1.50、0.50<a+b+p+q≦2.0の範囲を満たす正数を表す。)
で示されるシリコーン樹脂とラジカル重合性ビニルモノマーを混合し、乳化重合して得られるシリコーン樹脂含有エマルジョンを
配合してなることを特徴とする建築物外壁用エマルジョン配合物を提供する。
この場合、(2)成分が、
(イ)下記一般式(II)
【化3】

(式中、R5は水素原子又はメチル基、R6は炭素数1〜18のアルキル基又はアルコキシ置換アルキル基である。)
で表されるアクリル系単量体及びメタクリル系単量体から選択される1種又は2種以上の単量体 70〜98質量%
(ロ)エチレン性不飽和アミド、エチレン性不飽和アミドのアルキロール又はアルコキシアルキル置換化合物、オキシラン基,ヒドロキシル基,カルボキシル基,アミノ基,スルホン酸基,燐酸基,ポリアルキレンオキシド基又は第4級アンモニウム塩基含有エチレン性不飽和単量体、多価アルコールとアクリル酸又はメタクリル酸との完全エステル、アリルアクリレート、アリルメタクリレート及びジビニルベンゼンの群から選択される1種又は2種以上の官能性単量体 2〜10質量%
(ハ)上記(イ)及び(ロ)成分以外のエチレン性不飽和単量体 0〜20質量%
からなる混合単量体であることが好ましい。
また、(2)成分である単量体又は混合単量体のポリマー化物のガラス転移点が0℃以下であることが好ましく、更に、架橋剤として1分子中に少なくとも3個のけい素原子に結合した水素原子を含有する液状オルガノポリシロキサン、及び架橋反応用触媒を配合することが好ましい。
本発明は、また、前記エマルジョン配合物を塗工してなる建築物外壁を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の建築物外壁用エマルジョン配合物は、弾性及び柔軟性に富み、耐水性,耐候性,撥水性,密着性,耐熱性に優れた被膜を形成し、長期間に亘ってその性能を保持することが可能であり、塗料、コーティング剤の基本材料に幅広く使用できる。更には、架橋剤及び架橋反応用触媒を配合することによって、より一層の弾性,柔軟性及び耐水性,耐候性,撥水性,耐熱性を向上させることが可能である。この特性により、本発明の建築物外壁用エマルジョン配合物は、実用的に極めて有利である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の建築物外壁用エマルジョン配合物に用いる(1)成分のオルガノポリシロキサンは、下記一般式(I)で表されるものである。
【化3】

【0012】
上記式(I)中、R1,R2,R3はそれぞれメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等のアルキル基、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基、ベンジル基等のアラルキル基などの炭素数1〜20、特に1〜8の1価炭化水素基、又はこれらの基の炭素原子に結合した水素原子の一部又は全部をハロゲン原子で置換した基であり、Yはγ−アクリロキシプロピル基、γ−メタクリロキシプロピル基、γ−メルカプトプロピル基、ビニル基、アリル基等のラジカル反応性基又はSH基含有有機基であり、XはR124Siで示されるトリオルガノシリル基(R4はR1又はYであり、R1,R2,Yは前記と同じ)、水素原子、又はメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等の好ましくは炭素数1〜5の低級アルキル基である。また、mは1〜10,000の整数であり、nは1以上の整数であり、好ましくは500≦m≦8,000、1≦n≦500の範囲の整数であり、更に好ましくは2,000≦m≦8,000、5≦n≦200の範囲の整数である。
【0013】
一般式(I)で示されるオルガノポリシロキサンの原料としては、下記式
【化4】

(式中、pは3〜6の整数である。)
で示される環状オルガノポリシロキサン、下記式
【0014】
【化5】

(式中、qは正の整数である。)
で示される分子鎖両末端が水酸基で封鎖された液状ジメチルポリシロキサン、下記式
【0015】
【化6】

(式中、rは正の整数である。)
で例示される分子鎖両末端がアルコキシ基で封鎖された液状ジメチルポリシロキサン、及び下記式
【0016】
【化7】

(式中、sは0又は正の整数である。)
で示される分子鎖両末端がトリメチルシリル基で封鎖されたジメチルポリシロキサン等が例示される。
【0017】
また、ラジカル反応性基及びSH基を導入するための原料としては、下記式
【化8】

等のシラン類及びこれらの加水分解生成物として、下記式で示されるものが例示される。
【0018】
【化9】

(式中、tは3〜6の整数である。)
【0019】
なお、本発明の目的を妨げない程度の量であれば、3官能性であるトリアルコキシシラン及びその加水分解生成物も使用可能である。
【0020】
一般式(I)で示されるオルガノポリシロキサンの水中油型エマルジョンの製造については公知の方法に従えばよく、その一つの方法は、原料として、例えば上記したオクタメチルシクロテトラシロキサンの如き環状低分子シロキサンと、ラジカル反応性基又はSH基を含有するジアルコキシシラン化合物及び/又はその加水分解物とを用い、強アルカリ性触媒あるいは強酸性触媒の存在下に重合して高分子量のオルガノポリシロキサンを得、しかる後に適当な乳化剤の存在下に水中に乳化分散することにより得られるものである。
【0021】
また、他の方法としては、原料として、例えば上記した低分子オルガノポリシロキサンと、ラジカル反応性基又はSH基を含有するジアルコキシシラン及び/又はその加水分解物とを用い、スルホン酸系界面活性剤及び/又は硫酸エステル系界面活性剤の存在下に水中で乳化重合させることにより得られるものである。
【0022】
また、この乳化重合の場合、同様な原料を用い、アルキルトリメチルアンモニウムクロライドあるいはアルキルベンジルアンモニウムクロライドの如きカチオン系界面活性剤により水中に乳化分散させた後、適量の水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等の強アルカリ性物質を添加して重合させることもできる。
【0023】
上記したオルガノポリシロキサンのエマルジョンの製造方法において、あらかじめ高分子量のオルガノポリシロキサンを得る場合の強アルカリ性重合触媒としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化セシウム、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルホスホニウムヒドロキシド等が、また、強酸性重合触媒としては、硫酸、トリフロロメタンスルホン酸等が例示され、いずれも重合終了後に中和して触媒活性をなくせば、その後の使用に供することができる。
【0024】
得られた高分子量のオルガノポリシロキサンを乳化するための界面活性剤としては、非イオン系の各種ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル等が、アニオン系のラウリル硫酸ソーダ、ポリオキシエチレンドデシル硫酸ソーダ等が、カチオン系のアルキルトリメチルアンモニウムクロライド、アルキルベンジルアンモニウムクロライド、ジアルキルジメチルアンモニウムクロライド等が例示される。
【0025】
また、乳化重合法によりオルガノポリシロキサンのエマルジョンを製造する場合、上記したスルホン酸系界面活性剤及び硫酸エステル系界面活性剤は、乳化剤と重合触媒を兼ね備えるものであり、これには
【化10】

817(OC242OSO3H,C1021(OC24)OSO3H,ラウリル硫酸ソーダ,ポリオキシエチレンドデシルフェニル硫酸ソーダ等が例示される。
【0026】
これらのうち、硫酸エステル塩類は、乳化終了後に陽イオン交換樹脂と接触させることで相当する酸に変り、重合触媒として機能するようになる。乳化重合終了後は、酸型となっている界面活性剤を中和して触媒活性を消失させればよい。
【0027】
また、カチオン系乳化剤としては、上記の如き第4級アンモニウム塩系を主として用い、乳化重合後は塩基型となっている界面活性剤を中和して触媒活性を消失させればよい。
【0028】
一般式(I)で示されるオルガノポリシロキサンは、その分子量が小さいと目的とする被膜の弾性及び柔軟性の付与効果が乏しいので、分子量はできるだけ大きい方が望ましい。このため、あらかじめ重合して得たオルガノポリシロキサンを乳化分散する場合、このオルガノポリシロキサンを高分子量のものとしておくことが好ましく、乳化重合による場合は、重合後に行う熟成の際の温度を低くすればオルガノポリシロキサンの分子量が大きくなるので、熟成温度を望ましくは30℃以下、より望ましくは15℃以下とし、更に熟成時間を望ましくは24〜72時間、より望ましくは48〜72時間とするのがよい。なお、このオルガノポリシロキサンの分子量としては、式(I)において、m+nが500〜8,500、特に2,000〜7,000であることが好ましい。
【0029】
次に、(2)成分について説明すると、これは上記(1)成分のオルガノポリシロキサンにグラフト共重合させるための重合性単量体又はその混合単量体であって、下記一般式(II)で表されるアクリル系単量体及びメタクリル系単量体から選択される1種又は2種以上の単量体を(2)成分全量の70質量%以上含むものである。この場合、下記一般式(II)のアクリル系単量体及びメタクリル系単量体以外の単量体としては、下記(ロ)、(ハ)成分を挙げることができ、(2)成分としては、下記の(イ)、(ロ)成分又は(イ)〜(ハ)の3成分からなるものであることが好ましい。
【0030】
(イ)成分は下記一般式(II)で表される(メタ)アクリル系単量体〔ここで、(メタ)アクリルなる表現は、アクリル及びメタクリルの両者をまとめて表すもので、以下同
様である。〕である。
【0031】
【化11】

(式中、R5は水素原子又はメチル基、R6は炭素数1〜18のアルキル基又はアルコキシ置換アルキル基である。)
【0032】
上記式(II)中、R6は炭素数1〜18、特に1〜8のアルキル基又はアルコキシ置換アルキル基であり、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ヘキシル基、オクチル基等のアルキル基、メトキシエチル基、エトキシエチル基、ブトキシエチル基等のアルコキシ置換アルキル基などが例示される。
【0033】
このような式(II)で表される(メタ)アクリル系単量体としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート、及びメトキシエチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート等のアルコキシアルキル(メタ)アクリレートなどが例示され、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用される。
【0034】
上記一般式(II)で表される単量体は、(2)成分全量の70質量%以上であり、好ましくは70〜98質量%、より好ましくは80〜95質量%である。式(II)で表される単量体が(2)成分全量の70質量%未満では、アクリルの特性、特に機械的強度、耐オゾン性、密着性の性能の付与が不十分となる。
【0035】
(ロ)成分は、エチレン性二重結合と、オキシラン基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アミノ基、スルホン酸基、燐酸基、第4級アンモニウム塩基等の官能基とを有する官能性単量体である。このような官能性単量体としては、エチレン性不飽和アミド、エチレン性不飽和アミドのアルキロール又はアルコキシアルキル置換化合物、オキシラン基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アミノ基、スルホン酸基、燐酸基、ポリアルキレンオキシド基又は第4級アンモニウム塩基含有エチレン性不飽和単量体、多価アルコールとアクリル酸又はメタクリル酸との完全エステル、アリルアクリレート、アリルメタクリレート、及びジビニルベンゼンの群から選択される1種又は2種以上の官能性単量体が挙げられ、好ましくは、エチレン性不飽和アミド、エチレン性不飽和アミドのアルキロール又はアルコキシアルキル置換化合物、オキシラン基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アミノ基、ポリアルキレンオキシド基含有エチレン性不飽和単量体、多価アルコールとアクリル酸又はメタクリル酸との完全エステル、アリルアクリレート、アリルメタクリレート、及びジビニルベンゼンの群から選択される1種又は2種以上の官能性単量体がよい。
【0036】
上記官能性単量体において、エチレン性不飽和アミド、エチレン性不飽和アミドのアルキロール又はアルコキシアルキル置換化合物として、(メタ)アクリルアミド、ダイアセトン(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−メトキシメチル(メタ)アクリルアミド等、オキシラン基含有エチレン性不飽和単量体として、グリシジル(メタ)アクリレート、グリシジルアリルエーテル等、ヒドロキシル基含有エチレン性不飽和単量体として、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等、カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体として、(メタ)アクリル酸、無水マレイン酸、クロトン酸、イタコン酸等、アミノ基含有エチレン性不飽和単量体として、N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート等が挙げられ、スルホン酸基含有エチレン性不飽和単量体としては、下記式の単量体が挙げられる。
【0037】
【化12】

(式中、R9は炭素数1〜18のアルキル基、R10は水素原子又はメチル基、ZはH,Na,K又はNH4である。)
【0038】
燐酸基含有エチレン性不飽和単量体としては、下記式の単量体が挙げられる。
【化13】

(式中、R10は前記に同じ、vは1以上の整数である。)
【0039】
ポリアルキレンオキシド基含有エチレン性不飽和単量体としては、下記式の単量体が挙げられる。
【化14】

(式中、R10は前記に同じ、wは2以上の整数である。)
【0040】
第4級アンモニウム塩基含有エチレン性不飽和単量体としては、下記式の単量体が挙げられる。
【化15】

【0041】
多価アルコールと(メタ)アクリル酸との完全エステルとしては、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート等が挙げられ、アリル(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼン等も官能性単量体として例示され、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0042】
これらの官能性単量体は、密着性を付与する目的で使用されるものであり、使用量を増すと密着性等は向上するが、反対に被膜の弾性及び柔軟性は損なわれる。従って、官能性単量体の使用量は、(2)成分中2〜10質量%であることが好ましく、より好ましくは2〜7質量%であり、10質量%を超えると弾性及び柔軟性が著しく損なわれる場合があり、2質量%未満であると密着性が損なわれ、均一な被膜が形成されない場合がある。
【0043】
(ハ)成分は、その他のエチレン性不飽和単量体であり、これらの単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、アクリロニトリル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バーサチック酸ビニルなどが例示される。
【0044】
(ハ)成分は、必要に応じて(2)成分中好ましくは0〜20質量%、より好ましくは2〜15質量%の範囲で配合することができ、一般式(II)で表される単量体や官能性単量体だけでは発現できない密着性等が付与されるが、20質量%を超えるとアクリルの特性が損なわれる場合がある。
【0045】
本発明において、被膜に柔軟性を付与させるには、この(2)成分である単量体又は混合単量体のポリマー化物を柔らかくすればよく、これにはこの単量体又は混合単量体のポリマー化物のガラス転移点を0℃以下、好ましくは−10℃以下とすることが望ましい。従って、上記の各単量体の選択にあたっては、このガラス転移点を考慮することが望ましい。なお、本発明において、(2)成分の単量体又は混合単量体のポリマー化物のガラス転移点は、1956年発行のBull.Am.Phys.Soc.第1巻123頁に記載のT.G.Foxの方法によって計算で求められる数値を示すものである。
【0046】
(1)成分のオルガノポリシロキサンと(2)成分の比率については、(1)成分のオルガノポリシロキサン:(2)成分=5:95〜95:5(質量部)であり、20:80〜80:20(質量部)であることが好ましい。(1)成分のオルガノポリシロキサンが5質量部未満ではアクリル系ポリマーの欠点である粘着感が生じ、柔軟性が乏しくなり、また、(1)成分のオルガノポリシロキサンが95質量部を超えると皮膜の強靱さ、密着性、更には耐久性等が損なわれて実用的でない。
【0047】
(1)成分のオルガノポリシロキサンと(2)成分の乳化グラフト共重合は、通常のラジカル開始剤を用いて、公知の乳化重合法により通常の乳化重合条件、例えば不飽和基含有単量体及びラジカル開始剤、界面活性剤、pH調整剤、各種消泡剤等の重合助剤を一括添加してもよく、また連続的に添加してもよい。更に、その一部を重合中に連続又は分割添加して行うこともできる。
【0048】
ここで使用されるラジカル開始剤としては、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩、過硫酸水素水、t−ブチルハイドロパーオキサイド、アゾビスアミジノプロパンのHCl塩等の水溶性タイプ、ベンゾイルパーオキサイド、キュメンハイドロパーオキサイド、ジブチルパーオキサイド、ジイソプロピルパーオキシカーボネート、クミルパーオキシネオデカノエート、クミルパーオキシオクトエート、アゾビスイソブチロニトリル等の油溶性タイプが挙げられる。必要に応じ、酸性亜硫酸ナトリウム、ロンガリット、L−アスコルビン酸、糖類、アミン類などの還元剤を併用したレドックス系も使用することができる。
【0049】
乳化剤は、(1)成分のエマルジョン中に乳化剤が含有されているので必ずしも新たに使用しなくてよいが、重合中の擬塊発生防止やエマルジョンの安定性向上のため、必要量の乳化剤を添加することができる。ここで、使用される乳化剤としては、例えば、アルキル又はアルキルアリル硫酸塩もしくはスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩などのアニオン性乳化剤、アルキルトリメチルアンモニウムクロライド、アルキルベンジルアンモニウムクロライド等のカチオン性乳化剤、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンカルボン酸エステル等のノニオン性乳化剤等を好適に使用することができる。
【0050】
本発明においては、上記主剤であるグラフト共重合エマルジョンに、架橋剤及び架橋反応用触媒を配合することが好ましい。以下に、配合される架橋剤及び架橋反応用触媒について説明する。
【0051】
架橋剤成分としては、1分子中に少なくとも3個のけい素原子に結合した水素原子を有する液状オルガノポリシロキサンを使用することが好ましく、これには下記式で示されるもの等が例示される。
【0052】
【化16】

(式中、x、yは正の整数で、但しx≧3である。)
【0053】
また、(CH32HSiO1/2単位、(CH33SiO1/2単位及びSiO2単位の共重合シロキサンも使用可能であり、このものは少量の(CH3)HSiO単位あるいは(CH32SiO単位を含んでいてもよく、トリオルガノシロキシ単位とSiO2単位のモル比は0.5〜2.0の範囲で設定すればよい。
【0054】
なお、架橋剤の粘度は、液状であれば特に制限されるものではないが、25℃において10〜500mPa・s、特に50〜250mPa・sであることが好ましい。
【0055】
この架橋剤成分は、(1)成分であるオルガノポリシロキサンのけい素原子に結合した水酸基あるいはアルコキシ基と反応することによって架橋した被膜を形成し、弾性及び柔軟性効果を更に高めるものである。
【0056】
架橋反応用触媒としては、ジブチル錫及びジオクチル錫の酢酸塩、オクチル酸塩、ラウリン酸塩等の有機酸塩、チタン酸エステル等が例示される。
【0057】
架橋剤の配合量は、上記(1)成分及び(2)成分の共重合物100質量部に対して0〜50質量部、特に5〜40質量部であることが好ましい。また、架橋反応用触媒の配合量も同様に、上記(1)成分及び(2)成分の共重合物100質量部に対して0〜50質量部、特に2〜25質量部であることが好ましく、架橋剤成分、架橋反応用触媒ともに、前記したような乳化剤を用いて水中に乳化分散させることにより、エマルジョンとして配合することができる。
【0058】
本発明は、上記(1)成分のオルガノポリシロキサンの水中油型エマルジョンに(2)成分の単量体を添加して乳化グラフト共重合させてなるグラフト共重合エマルジョン[A]に、更に下記平均組成式(i)のシリコーン樹脂とラジカル重合性ビニルモノマーを混合し、乳化重合して得られるシリコーン樹脂含有エマルジョン[B]を配合するものである。
【0059】
ここで、シリコーン樹脂は、下記平均組成式(i)で表される。
7a8bSi(OH)p(OX)q(4-a-b-p-q)/2 (i)
(但し、R7は炭素数1〜10の非置換の1価炭化水素基を表し、R8は炭素数1〜10の置換の1価炭化水素基を表し、Xは炭素数1〜6の1価炭化水素基を表す。a,b,p,qは各々0.50≦a≦1.80、0≦b≦1.00、0<p≦1.50、0≦q≦0.50、0.50≦a+b≦1.80、0<p+q≦1.50、0.50<a+b+p+q≦2.0の範囲を満たす正数を表す。)
【0060】
更に、詳しくは、R7は炭素数1〜10のアルキル基、アリール基、アラルキル基等の非置換の1価炭化水素基を表し、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、t−ブチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、デシル基、フェニル基などを具体例として示すことができる。この中でも、メチル基、プロピル基、ヘキシル基、フェニル基が好ましい。特に耐候性が要求される場合にはメチル基が好ましく、撥水性が求められる場合には長鎖アルキル基を使用するのが好ましく、被膜に可撓性を付与する場合にはフェニル基を適用するのがよい。
【0061】
8は炭素数1〜10の置換の1価炭化水素基であり、アルキル基、アリール基、アラルキル基等の非置換の1価炭化水素基の炭素原子結合水素原子の一部を置換基で置換したものである。
置換基としては、(i)フッ素、塩素などのハロゲン原子、(ii)ビニル基などのアルケニル基、(iii)グリシジロキシ基、エポキシシクロヘキシル基などのエポキシ官能基、(iv)メタクリル基、アクリル基などの(メタ)アクリル官能基、(v)アミノ基、アミノエチルアミノ基、フェニルアミノ基、ジブチルアミノ基などのアミノ基、(vi)メルカプト基、テトラスルフィド基などの含硫黄官能基、(vii)(ポリオキシアルキレン)アルキルエーテル基などのアルキルエーテル基、(viii)カルボキシル基、スルフォニル基などのアニオン性基、(ix)第4級アンモニウム塩構造含有基などが適当可能である。
【0062】
この置換された有機基の具体例としては、トリフルオロプロピル基、パーフルオロブチルエチル基、パーフルオロオクチルエチル基、3−クロロプロピル基、2−(クロロメチルフェニル)エチル基、ビニル基、5−ヘキセニル基、9−デセニル基、3−グリシジロキシプロピル基、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル基、5,6−エポキシヘキシル基、9,10−エポキシデシル基、3−(メタ)アクリロキシプロピル基、(メタ)アクリロキシメチル基、11−(メタ)アクリロキシウンデシル基、3−アミノプロピル基、N−(2−アミノエチル)アミノプロピル基、3−(N−フェニルアミノ)プロピル基、3−ジブチルアミノプロピル基、3−メルカプトプロピル基、2−(4−メルカプトメチルフェニル)エチル基、ポリオキシエチレンオキシプロピル基、3−ヒドロキシカルボニルプロピル基、3−トリブチルアンモニウムプロピル基等を挙げることができる。基材との密着性を向上させる場合には、エポキシ、アミノ、メルカプト官能性基などを適用するのがよい。ビニル重合体との緊密なブロック化を目指す場合、ラジカル共重合が可能な(メタ)アクリル官能性基、あるいは連鎖移動剤としての機能を有するメルカプト官能性基を使用するのが好ましい。また、ビニル重合体とシロキサン結合以外の結合で架橋を試みる場合、ビニル重合体中に含有される有機官能基を反応可能な官能基を導入しておけばよく、例えばエポキシ基(ヒドロキシ基、アミノ基、カルボキシ基などとの反応)、アミノ基(エポキシ基、酸無水物基などとの反応)などを挙げることができる。
【0063】
OX基は加水分解性基を表し、Xは炭素数1〜6のアルキル基、アリール基、アルケニル基等の1価炭化水素基を表す。加水分解性基OXの具体例としては、メトシキ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、sec−ブトキシ基、t−ブトキシ基、イソプロペノキシ基、フェノキシ基等を挙げることができる。加水分解・縮合反応性、エマルジョン中での安定性から、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基を用いるのがよい。
【0064】
a、b、p、qは各々、0.50≦a≦1.80、0≦b≦1.00、0<p≦1.50、0≦q≦0.50、0.50≦a+b≦1.80、0<p+q≦1.50、0.5<a+b+p+q≦2.0の範囲を満たす正数を表す。aが0.50未満では、無官能有機基の含有率が低く、被膜が硬く成り過ぎ、硬化被膜にクラックが発生しやすい。aが1.80を超過すると、鎖状単位が多くなる結果、硬化被膜がゴム性を帯び、耐擦傷性が不足する。より好ましいのは、aが0.60以上1.50以下の範囲を満たすのがよい。bが1.00を超えると、嵩高い有機官能基の含有量が多くなるため、硬度を維持するのが難しく、耐候性も低下するため好ましくない。前述した有機官能基による機能の付与が不要ならば、この有機官能基は含有されなくてもよい。また、設定されているa+bの最適範囲も、aの説明理由と同様である。シラノール基は必須成分であるが、シラノール基の含有率を表すpが1.50を超えると、シリコーン樹脂が不安定となる。保存安定性が良好で、同時に高い硬化性も確保するためには、pのより好ましい範囲は0.05〜0.80である。更に好ましくは、0.20〜0.70の範囲を満たしているのがよい。シラノール基以外に、架橋可能な加水分解性基が存在してもよく、その存在量は0.50以下でなければならない。この範囲を超えると、水中で加水分解しやすく、系内に有機溶剤であるアルコールが副生するため、好ましくない。また、架橋可能な置換基の総数を表す(p+q)は、0<p+q≦1.50の範囲を満たしている必要があり、0であっては硬化せず、1.50を超えると分子が小さくなり、水溶性が優るようになるため好ましくない。
【0065】
なお、a+b+p+qは、0.50以下の場合は膜の透明性が不足し、2.0より大きい場合は膜の硬度低下、硬化性低下が起こる。
【0066】
本発明に適用可能なシリコーン樹脂は、上記条件を満たしていると同時に、シラノール基を含有し、単独では水に溶解しないことが必要である。水に溶解すると乳化重合時、粒子中に完全には取り込まれないため、好ましくない。従って、加水分解性シラン化合物を水中で単純に加水分解するだけでは不十分である。
【0067】
次に、ラジカル重合性ビニルモノマーについて述べる。ラジカル重合が可能なものであれば、以下に示す従来公知のものを適用できる。(a)アクリル酸又はメタクリル酸のメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、オクチル、2−エチルヘキシル、ラウリル、ステアリル又はシクロヘキシルエステルなどの(メタ)アクリル酸エステル、(b)アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸などのカルボキシル基又はその無水物含有ビニルモノマー、(c)2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートなどのヒドロキシル基含有ビニルモノマー、(d)(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、ダイアセトン(メタ)アクリルアミドなどのアミド基含有ビニルモノマー、(e)ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレートなどのアミノ基含有ビニルモノマー、(f)メトキシエチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレートなどのアルコキシル基含有ビニルモノマー、(g)グリシジル(メタ)アクリレート、グリシジルアリルエーテルなどのグリシジル基含有ビニルモノマー、(h)酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどのビニルエステル系モノマー、(i)スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレンなどの芳香族ビニルモノマー、(j)(メタ)アクリロニトリルなどのシアン化ビニルモノマー、(k)塩化ビニル、臭化ビニルなどのハロゲン化ビニルモノマー、(l)ジビニルベンゼン、アリル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートなどの1分子中にラジカル重合性不飽和基を2個以上含有するビニルモノマー、(m)エチレンオキサイド基の数が1〜100個の(ポリ)オキシエチレンモノ(メタ)アクリレートなどの(ポリ)オキシエチレン鎖含有ビニルモノマー等を具体例として例示することができる。これらの中で、炭素数1〜18のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルは必須成分であり、その含有量は1〜100モル%であることが好ましい。1モル%未満の含有量では、耐薬品性などの特性が得られず好ましくない。更に好ましくは、30〜99モル%の範囲を満たすのが好ましい。また、シリコーン樹脂100質量部に対して、このラジカル重合性ビニルモノマーは10〜1,000質量部の範囲で使用するのが好ましい。10質量部未満では、造膜性及び耐薬品性が不十分となるため好ましくなく、1,000質量部を超過すると、耐候性及び耐水性が不足するため適当ではない。更に好ましくは、このラジカル重合性ビニルモノマーを30〜500質量部の範囲で使用するのがよい。
【0068】
次に、乳化重合に使用する界面活性剤について述べる。従来公知のノニオン系、カチオン系、アニオン系各種界面活性剤、及びラジカル重合可能な官能基を含有する反応性乳化剤が適用可能である。ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンカルボン酸エステル、ソルビタンエステル、ポリオキシエチレンソルビタンエステルなどのノニオン系界面活性剤、アルキルトリメチルアンモニウムクロライド、アルキルベンジルアンモニウムクロライドなどのカチオン系界面活性剤、アルキル又はアルキルアリル硫酸塩、アルキル又はアルキルアリルスルフォン酸塩、ジアルキルスルフォコハク酸塩などのアニオン系界面活性剤、アミノ酸型、ベタイン型などの両性イオン型界面活性剤、特開平8−27347号公報中に記されている、分子中にスルフォン酸塩、ポリオキシエチレン鎖、第4級アンモニウム塩などの親水性基を含有するラジカル重合可能な(メタ)アクリレート、スチレン、マレイン酸エステル化合物などの誘導体を含む各種反応性界面活性剤を示すことができる。これらの界面活性剤は1種類又は2種類以上を使用してもよい。界面活性剤は、ポリマーの0.5〜15質量%使用するのが好ましく、特には、1〜10質量%使用するのがよい。
【0069】
次に、本発明で使用されるラジカル重合開始剤としては、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩、過酸化水素水、t−ブチルハイドロパーオキサイド、t−ブチルパーオキシマレイン酸、コハク酸パーオキサイド、2,2−アゾビス〔2−N−ベンジルアミジノ〕プロパン塩酸塩等の水溶性タイプ、ベンゾイルパーオキサイド、キュメンハイドロパーオキサイド、ジブチルパーオキサイド、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、クミルパーオキシネオデカノエート、クミルパーオキシオクトエート、アゾイソブチロニトリル等の油溶性タイプ、酸性亜硫酸ナトリウム、ロンガリット、アスコルビン酸等の還元剤を併用したレドックス系などを使用することができる。この重合開始剤の使用量は、ラジカル重合性ビニルモノマーに対して、0.1〜10質量%使用すればよく、好ましくは0.5〜5質量%使用するのがよい。
【0070】
ラジカル重合条件としては、通常の条件を採用することができ、例えば重合温度は通常10〜90℃、好ましくは50〜80℃で、重合時間は2〜20時間、窒素ガス等の不活性ガスの雰囲気中で反応を行うことができる。
【0071】
このようにして得られるエマルジョン[B]の配合量は適宜選定されるが、エマルジョン[A]の固形分100質量部に対し、エマルジョン[B]の固形分10〜70質量部、特に20〜60質量部とすることが好ましい。エマルジョン[B]の配合量が少なすぎると耐水性及び殺傷性が乏しくなり、多すぎると柔軟性が乏しくなる場合がある。
【0072】
また、本発明の建築物外壁用エマルジョン配合物は、目的に応じて他の添加剤を加えることができる。例えば、艶消被膜を得るためには、無水珪酸、含水珪酸等の珪酸類、珪酸アルミニウム、珪酸マグネシウム、クレー、タルク等の珪酸塩化合物、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、石膏、タルク、アルミナホワイト、合成樹脂粉末などの艶消剤を添加し、その後、ボールミル、コロイドミル、ホモミキサー、サンドミル、ディスパー等の分散機で艶消剤を分散させる。着色被膜を得るには染料、顔料などを添加すればよい。
【0073】
また、建築物外壁用エマルジョン配合物の粘度調整を必要とする場合には、ポリビニルアルコール、ゼラチン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなどのセルロース誘導体、ザンタンガム、ポリアクリル酸ソーダ、ポリアクリルアミドなどを適当量添加すればよい。
【0074】
その他、本発明の目的を損なわない範囲で消泡剤、防腐剤、防カビ剤などを必要に応じて添加することができる。
【0075】
本発明の建築物外壁用エマルジョン配合物は、主剤であるグラフト共重合エマルジョン[A]にエマルジョン[B]、更に、必要に応じて上記各成分を添加、混合することにより得ることができる。
【0076】
なお、本発明の建築物外壁用エマルジョン配合物中の固形分量は、30〜70質量%、特に40〜60質量%であることが好ましい。
【0077】
上記建築物外壁用エマルジョン配合物は、各種外壁建材等に、硬化後の膜厚が10〜800μm、特に20〜500μmとなるように塗工し、これを硬化することにより用いることができる。この場合、硬化条件としては、温度100〜180℃、特に130〜160℃で、2〜30分間、特に2〜20分間とすることができる。
【0078】
[塗装方法]
被塗面としては、無機基材面、プラスチック面等が挙げられる。
具体的には無機基材面が望ましく、コンクリート面、サイディング材面、磁器タイル面、モルタル面、煉瓦面、石材面等が挙げられる。
塗装手段は、特には限定されないが、スプレー塗り、ローラー塗り、刷毛塗り、流し塗り、浸漬塗り等の手段で行うことができ、硬化後の膜厚は10〜800μm、特に20〜500μmとなるように塗工する。
【実施例】
【0079】
次に、本発明を実施例及び比較例を示して具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、例中の部及び%はそれぞれ質量部と質量%を示す。
【0080】
[実施例1〜14、比較例1〜4]
<オルガノポリシロキサンエマルジョンの調製>
オクタメチルシクロテトラシロキサン1,500部、メタクリロキシプロピルメチルシロキサン3.8部、及びイオン交換水1,500部を混合し、これにラウリル硫酸ナトリウム15部、ドデシルベンゼンスルホン酸10部を添加してからホモミキサーで撹拌して乳化した後、圧力3,000barのホモジナイザーに2回通して安定なエマルジョンを作った。次いで、これをフラスコに仕込み、70℃で12時間加熱し、25℃まで冷却して24時間熟成した後、炭酸ナトリウムを用いてこのエマルジョンのpHを7に調整し、4時間窒素ガスを吹き込んでから水蒸気蒸留して揮発性のシロキサンを留去し、次にイオン交換水を加えて不揮発分を45%に調整したところ、メタクリル基を0.1モル%含有するポリシロキサンのエマルジョンが得られた(以下これをE−1と略記する)。
【0081】
また、表1に示すようにシロキサンの種類、量及び熟成条件を変えた他は、E−1と同様の方法でポリシロキサンエマルジョンE−2〜E−7を得た。
【0082】
【表1】

【0083】
<共重合エマルジョン>
撹拌機、コンデンサー、温度計及び窒素ガス導入口を備えた2リットルの三ッ口フラスコに、上記で得たエマルジョンE−1を333部(シロキサン分150部)とイオン交換水517部を仕込み、窒素ガス気流下に器内を30℃に調整した後、t−ブチルヒドロパーオキサイド1.0部、L−アスコルビン酸0.5部、硫酸第一鉄7水和物0.002部を加え、次いで器内温を30℃に保ちながら、ブチルアクリレート328.6部、アクリル酸10.5部、メタクリル酸5.3部の混合物、及びN−メチロールアクリルアミドの10%水溶液56部を3時間かけて滴下した。滴下終了後、更に1時間撹拌を続けて反応を完結させた。得られた共重合エマルジョン(以下これをP−1と略記)は固形分濃度39.2%、アクリル系単量体等のポリマー化物のガラス転移点計算値は−46℃であった。
上記と同様にして、表2に示されるポリシロキサンエマルジョン及びアクリル系単量体等の種類、量で共重合し、エマルジョンP−2〜P−13を得た。
【0084】
【表2】

《( )内の数字はポリシロキサン分を表す》
【0085】
<シリコーン樹脂の調製>
2リットルのフラスコに、メチルトリメトキシシラン408g(3.0モル)を仕込み、窒素雰囲気下、0℃で水786gを加えてよく混合した。ここに、氷冷下、0.05Nの塩酸水溶液216gを40分間かけて滴下し、加水分解反応を行わせた。滴下終了後、10℃以下で1時間撹拌して加水分解反応を完結させた。
次いで、生成したメタノール及び水を、70℃×60Torrの条件下で減圧溜去し、溜出液中にメタノールが検出されなくなるまで継続した。初期の88%まで濃縮した時点で、メタノールは検出されなくなり、同時に液は白濁し始めた。この溶液を1昼夜静置したところ、2層に分離し、シリコーン樹脂は沈降した。
この溶液から一部サンプリングし、沈降したシリコーン樹脂をメチルイソブチルケトンを用いて溶解させ、水から分離した。脱水処理後、グレミア反応させシラノール基を定量したところ、シラノール基の含有量は8.2%(対シリコーン樹脂)であった。またGPC測定の結果、このシリコーン樹脂の数平均分子量は1.8×103であった。赤外吸収スペクトル分析の結果、メトキシ基は残存していないので、得られたシリコーン樹脂は以下の平均組成式で表すことができる。従って、このシリコーン樹脂から有機溶剤は全く副生しない。
(CH31.0Si(OH)0.341.33
次に、この水溶液にメタクリル酸メチル(MMA)300g(3モル)を加え、沈降したシリコーン樹脂を溶解し、シリコーン樹脂含有MMA溶液として水層から単離した。不揮発分40.2%(105℃×3時間)のMMA溶液(A)が505g得られた。
【0086】
<シリコーン樹脂含有エマルジョン>
撹拌機、コンデンサー、温度計及び窒素ガス導入口を備えた重合容器に、脱イオン水を730部、PF緩衝剤として炭酸ソーダを0.47部、ホウ酸を4.70部仕込み、撹拌しながら60℃に昇温した後窒素置換した。これにロンガリット1.75部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウムの1%水溶液0.12部、硫酸第1鉄の1%水溶液0.04部を添加すると同時に、シリコーン樹脂含有MMA溶液560部、アクリル酸ブチル140部、t−ブチルハイドロパーオキサイド(純分69%)2.1部、反応性界面活性剤アクアロンRN−20(第一工業製薬(株)製/商品名)14.0部、アクアロンHS−10(第一工業製薬(株)製/商品名)7.0部からなる混合液を、重合容器内の温度を60℃に保持しながら2.5時間かけて均一に添加し、更に60℃にて2時間反応させて重合を完了させた。
得られたエマルジョンの固形分濃度は、50.1%、pH7.0であった。
【0087】
<評価>
共重合エマルジョンP−1〜P−13について、表3に示す如き処理液を調製し、表面が清浄な磨き鋼板に、硬化後の膜厚が500μmになるように塗工した。塗工後の加熱キュア条件は150℃,5分にて実施し、外壁材を形成させた。
【0088】
なお、表3中の架橋剤は、下記式
【化4】

で示される粘度150mPa・sのメチルハイドロジェンポリシロキサン30部をポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル5部を用いてイオン交換水65部の中に乳化分散せしめたエマルジョンであり、触媒は、ジブチル錫ジラウレート30部をポリオキシエチレンアルキルエーテル3部を用いてイオン交換水67部中に乳化分散せしめたエマルジョンである。
また、シラノール基含有シリコーン樹脂は、シリコーン樹脂100部に対し、メチルメタアクリル酸エステル148.8部、アクリル酸ブチル62.2部のものを添加した。
【0089】
【表3】

《表中の部数は有効成分(固形分)質量部を表す》
【0090】
〔評価試験方法〕
(弾性)
手触により下記基準で評価した。
○:反発性、ねじり復元性良好。
×:反発性、ねじり復元性不良。
(柔軟性)
手触により下記基準で評価した。
○:折り曲げ復元性良好。
×:折り曲げ復元性不良。
(鉛筆硬度)
JIS K−5400に準ずる硬化被膜の鉛筆硬度を測定した。
(三菱鉛筆(株)製ユニ鉛筆使用)
(光沢の持続性)
目視により下記基準で評価した。
○:1年間の屋外暴露後の試験片の光沢が未暴露と同様。
△:1年間の屋外暴露後の試験片の光沢が未暴露の試験片に比べて
劣っている。
×:1年間の屋外暴露後の試験片に光沢がない。
(耐水性)
20℃の蒸留水に72時間浸漬した後の塗膜の状態を目視により下記基準で判定した。
○:塗膜の状態に変化なし。
△:塗膜の一部にフクレ、白化現象あり。
×:塗膜の全面にフクレ、白化現象あり。
(水の接触角)
協和界面科学社製接触角計CA−D型を用いて、塗膜上にイオン交換水滴下後30秒の接触角を測定した。
(密着性)
JIS K−5400の碁盤目試験により測定し、下記に示す観察で評価点を付けた。
100点:切り傷の1本ごとが細くて、切り傷の交点と正方形の
1目1目が剥がれない。
80点:切り傷の交点にわずかな剥がれがあり、欠損部の面積は
全正方形面積の10%未満。
60点:切り傷の両側と交点に剥がれがあり、欠損部の面積は
全正方形面積の20%未満。
40点:切り傷による剥がれの幅が広く、欠損部の面積は
全正方形面積の40%未満。
20点:切り傷による剥がれの幅が広く、欠損部の面積は
全正方形面積の60%未満。
0点:剥がれの面積は、全正方形面積の60%以上。
(耐熱性)
乾燥機中で100℃×48時間熱処理して塗膜の変色を目視により観察し、下記基準で評価した。
○:熱変色なし。
△:熱変色若干あり。
×:熱変色が著しい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
[A](1)下記一般式(I)
【化1】

〔式中、R1,R2,R3はそれぞれ炭素数1〜20の1価炭化水素基又は1価のハロゲン化炭化水素基であり、Yはラジカル反応性基又はSH基を含む有機基であり、Xは水素原子、1価の低級アルキル基又は式R124Siで示される基(R4はR1又はYであり、R1,R2,Yは前記と同じである)であり、mは1〜10,000の整数、nは1以上の整数である。〕
で表されるオルガノポリシロキサンの1種又は2種以上の水中油型エマルジョンに
(2)下記一般式(II)
【化2】

(式中、R5は水素原子又はメチル基、R6は炭素数1〜18のアルキル基又はアルコキシ置換アルキル基である。)
で表されるアクリル系単量体及びメタクリル系単量体から選択される1種又は2種以上の単量体を(2)成分全量の70質量%以上含む単量体又は混合単量体を、(1)成分のオルガノポリシロキサンと(2)成分の単量体又は混合単量体とが5:95〜95:5の質量比となるように添加して前記オルガノポリシロキサンに(2)成分を乳化グラフト共重合させてなるグラフト共重合エマルジョンに、
[B]下記平均組成式(i)
7a8bSi(OH)p(OX)q(4-a-b-p-q)/2 (i)
(但し、R7は炭素数1〜10の非置換の1価炭化水素基を表し、R8は炭素数1〜10の置換の1価炭化水素基を表し、Xは炭素数1〜6の1価炭化水素基を表す。a,b,p,qは各々0.50≦a≦1.80、0≦b≦1.00、0<p≦1.50、0≦q≦0.50、0.50≦a+b≦1.80、0<p+q≦1.50、0.50<a+b+p+q≦2.0の範囲を満たす正数を表す。)
で示されるシリコーン樹脂とラジカル重合性ビニルモノマーを混合し、乳化重合して得られるシリコーン樹脂含有エマルジョンを
配合してなることを特徴とする建築物外壁用エマルジョン配合物。
【請求項2】
(2)成分が、
(イ)下記一般式(II)
【化3】

(式中、R5は水素原子又はメチル基、R6は炭素数1〜18のアルキル基又はアルコキシ置換アルキル基である。)
で表されるアクリル系単量体及びメタクリル系単量体から選択される1種又は2種以上の単量体 70〜98質量%
(ロ)エチレン性不飽和アミド、エチレン性不飽和アミドのアルキロール又はアルコキシアルキル置換化合物、オキシラン基,ヒドロキシル基,カルボキシル基,アミノ基,スルホン酸基,燐酸基,ポリアルキレンオキシド基又は第4級アンモニウム塩基含有エチレン性不飽和単量体、多価アルコールとアクリル酸又はメタクリル酸との完全エステル、アリルアクリレート、アリルメタクリレート及びジビニルベンゼンの群から選択される1種又は2種以上の官能性単量体 2〜10質量%
(ハ)上記(イ)及び(ロ)成分以外のエチレン性不飽和単量体 0〜20質量%
からなる混合単量体である請求項1記載の建築物外壁用エマルジョン配合物。
【請求項3】
(2)成分である単量体又は混合単量体のポリマー化物のガラス転移点が0℃以下である請求項1又は2記載の建築物外壁用エマルジョン配合物。
【請求項4】
更に、架橋剤として1分子中に少なくとも3個のけい素原子に結合した水素原子を含有する液状オルガノポリシロキサン、及び架橋反応用触媒を配合してなる請求項1,2又は3記載の建築物外壁用エマルジョン配合物。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項記載の建築物外壁用エマルジョン配合物を塗工した建築物外壁。

【公開番号】特開2007−99953(P2007−99953A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−293106(P2005−293106)
【出願日】平成17年10月6日(2005.10.6)
【出願人】(000226666)日信化学工業株式会社 (40)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】