説明

建築用鋼管杭のジョイント

【課題】 建築現場での連結作業及び工場での溶接作業が容易であり、かつ規模が小さくて済む建築用鋼管杭のジョイントを提供する。
【解決手段】 鋼管を上下からジョイント10に挿入していくと、鋼管はリング20に当接する。同時に各鋼管の内側面に溶接されたコマが上方ストッパ34及び下方ストッパ44を押し込んでおり、この状態で鋼管をオーガにより回転貫入方向に回転させると、各コマがそれぞれ上方コマ収納溝50及び下方コマ収納溝60に収納されるとともに、上方ストッパ34及び下方ストッパ44がそれぞれ上方ストッパ案内溝30及び下方ストッパ案内溝40を閉鎖する。上方ストッパ案内溝30及び下方ストッパ案内溝40は、リング20の上下の軸方向に延びており、これによりジョイント10の長さ及びリング20の厚さをそれぞれ小さくすることが可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物の基礎として利用される回転貫入式の建築用鋼管杭を必要な長さになるまで継ぎ足すための建築用鋼管杭のジョイントに関し、特に建築現場での連結作業及び工場での溶接作業が容易であり、かつ規模が小さくて済むジョイントに関する。
【背景技術】
【0002】
回転貫入式の建築用鋼管杭は、搬送可能な長さの鋼管を建築現場で継ぎ足して必要な長さに延長して使用される。先に羽根が設けられた一本目の鋼管をオーガで把持して回転貫入し、途中まで貫入させたら、一本目の鋼管の上端に二本目の鋼管の下端を連結する。連結作業は建築現場にて行われるが、溶接を伴う場合には、作業に時間がかかり、特殊な技能が要求され、また悪天候下では作業がストップしてしまうので、工期に影響を及ぼし、建築コストを嵩ませていた。現場での溶接を要さず、且つオーガの回転力を利用することにより特別な設備がなくとも連結可能なジョイントが提案されている。特開2003−90034公報には、上下2本の杭1、2に嵌合する雄部3と雌部4とを設け、嵌合して回転させると、雄部3の突起7が雌部4の溝6の軸方向溝部分6aを通って、周方向溝部分6bに嵌入するとともに、バネを利用した回転阻止部材8が溝6内を進行して入口を閉鎖することにより固定される構成が開示されている。特開昭63−40088号公報には、第1ケーシングスクリュー20と第2ケーシングスクリュー30にはそれぞれ爪22a、22b、32c、32dが設けられ、ジョイント部材40の外筒嵌合穴42a〜dに嵌合し、廻り止め部材50を挿入して固定される構成が開示されている。特開2003−90034公報に記載のタイプのジョイントは、予め鋼管に雄部3及び雌部4を接合しておく必要があり、工場内で横倒しにされた重い長尺の鋼管に一周にわたって溶接を施すには相当の手間がかかり、且つ特殊な設備を要していた。またこれらのジョイントは、鋼管と鋼管の間のジョイント部分が鋼管と同様の圧縮応力に耐えるように構成しなければならず、製造コストが高価になっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−90034公報
【特許文献2】特開昭63−40088号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
よって本発明の目的は、建築現場での連結作業及び工場での溶接作業が容易であり、かつ規模が小さくて済む建築用鋼管杭のジョイントを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために本発明は、鋼管の端近くの内周面上に配置された少なくとも1つのコマを利用して地中に回転貫入する鋼管杭を適当な長さに達するまで継ぎ足すために、少なくとも一部が地中に貫入された下方の鋼管に上方の鋼管を接続する建築用鋼管杭のジョイントであって、径のサイズが前記鋼管の外径と略同一であり、前記下方の鋼管の上端面及び前記上方の鋼管の下端面が、それぞれ下面及び上面に当接する円形の当接板と、前記当接板の上方及び下方に配置され、前記鋼管の内径と略同一の外径を有する外周面を備えた挿入筒部と、前記当接板よりも中心軸寄りに、前記当接板の上方から下方まで軸方向に延び、前記上方の鋼管のコマが挿入可能な開孔が上端に設けられている少なくとも1つの上方ストッパ案内溝と、前記上方ストッパ案内溝とは周方向にずれた位置で、前記当接板よりも中心軸寄りに、前記当接板の上方から下方まで軸方向に延び、前記下方の鋼管のコマが挿入可能な開孔が下端に設けられている少なくとも1つの下方ストッパ案内溝と、前記上方ストッパ案内溝に沿って移動可能であり、前記上方ストッパ案内溝の前記開孔に向かう方向に附勢されている上方ストッパと、前記下方ストッパ案内溝に沿って移動可能である下方ストッパと、前記上方ストッパ案内溝の前記開孔近くから鋼管杭の回転貫入方向と同一の周方向に連続して設けられ、前記上方の鋼管の下端面が前記当接板の上面に当接しているときに前記上方の鋼管のコマが収納可能な上方コマ収納溝と、前記下方ストッパ案内溝の前記開孔近くから鋼管杭の回転貫入方向と反対の周方向に連続して設けられ、前記下方の鋼管の上端面が前記当接板の下面に当接しているときに前記下方の鋼管のコマが収納可能な下方コマ収納溝とを含んで建築用鋼管杭のジョイントを構成した。
【0006】
本発明に係る建築用鋼管杭のジョイントは、少なくとも一部が地中に貫入された状態の下方の鋼管の上端と、その上に継ぎ足される上方の鋼管の下端とを接続するために、まず、最も簡単には、下方の鋼管の上端開口からジョイントの下方の挿入筒部が、両者の中心軸を一致させた姿勢で挿入されて接続作業が開始される。ジョイントは、小型であれば人手にて、大型であればクレーン等の機器により吊り下げて下方の鋼管の上端にセットされる。その際、下方の鋼管の上端近くの内周面上に配置されているコマが、下方ストッパ案内溝の開孔に対し軸方向に一致するように下方の鋼管とジョイントとの間の角度を調整して挿入する。ジョイントを下降させていくと、下方ストッパ案内溝の開孔を通り抜けたコマが、下方ストッパ案内溝の中を下方ストッパを押し上げながら進む。下方の鋼管の上端面が当接板の下面に当接すると、ジョイントは停止する。下方の挿入筒部は下方の鋼管の内径とほぼ同一の外径を有する外周面を備えているので、下方の鋼管とジョイントとは半径方向についてほぼ固定される。
【0007】
次に、上方の鋼管をジョイントにセットする。典型的には、上方の鋼管の上端をオーガにて把持し、下方の鋼管の上端にセットされたジョイントの直上から上方の鋼管を下降させて、上方の鋼管の下端開口からジョイントの上方の挿入筒部を挿入させる。その際にも、上方の鋼管の下端近くの内周面上に配置されているコマが、上方ストッパ案内溝の開孔に対し軸方向に一致するように上方の鋼管とジョイントとの間の角度が調整される。これにより、コマは上方ストッパ案内溝の開孔を通り抜け、上方ストッパを下方に押し込みつつ下方ストッパ案内溝の中を進み、上方の鋼管の下端面が当接板の上面に当接すると上方の鋼管は停止する。これにより上方の鋼管とジョイントとは半径方向について固定される。
【0008】
下方の鋼管の上端面と上方の鋼管の下端面により当接板が挟まれた状態で、オーガを作動させて上方の鋼管を鋼管杭の回転貫入方向に回転させると、上方の鋼管に取り付けられたコマも回転貫入方向に回転し、上方ストッパ案内溝の開孔近くから鋼管杭の回転貫入方向と同一の周方向に連続して設けられた上方コマ収納溝の中に入り込む。これにより、コマにより押し込まれていた上方ストッパが附勢により開孔に向かう方向にスライドし、上方コマ収納溝と上方ストッパ案内溝との境界を塞いで、コマが上方ストッパ案内溝側に戻ることを阻止する。コマがコマ収納溝の中に収納され、且つ上方ストッパ案内溝側にも戻れないように上方ストッパが蓋をすることにより、上方の鋼管とジョイントとは軸方向(上下方向)及び周方向(中心軸周りに回転する方向)について固定される。
【0009】
さらにオーガにより上方の鋼管を回転貫入方向に回転させると、上方の鋼管に固定されたジョイントも回転貫入方向に回転する。ジョイントが回転貫入方向に回転すると、下方の鋼管に取り付けられたコマは、ジョイントに対し、相対的に回転貫入方向とは反対の周方向に回転し、下方ストッパ案内溝の開孔近くから回転貫入方向と反対の周方向に連続して設けられた下方コマ収納溝の中に入り込む。そうするとコマにより押し上げられていた下方ストッパが落下し、コマは上方ストッパ案内溝側に戻れなくなる。これにより、ジョイントと下方の鋼管とも軸方向及び周方向について固定され、よって上方の鋼管と下方の鋼管とはジョイントを介して軸方向、周方向及び半径方向の何れについても固定されて連結される。なお以上の連結の手順は一例であり、例えば小径の建築用鋼管杭の場合には、ジョイントを下方の鋼管にセットして回転させてジョイントを下方の鋼管に固定するまでの作業を建築作業員が手動で先に行い、その後上方の鋼管をジョイントの上にセットして上方の鋼管を回転させる作業をオーガにより行うようにしてもよい。
【0010】
このように本発明に係る建築用鋼管杭のジョイントにおいては、連結される鋼管に施される加工は、鋼管の端近くの内周面上へのコマの取付作業のみで、工場(または建築現場)における作業が容易である。且つ、各ストッパ案内溝を当接板の上方から下方まで軸方向に延びるように構成したので、上方の鋼管の下端と下方の鋼管の上端とをごく近接した位置で連結することができる。これにより鋼管杭に係る圧縮応力を受ける当接板の厚さをなるべく薄くすることができ、よってジョイントの大きさを抑えるとともに、当接板以外の部材には高い強度を必要としない。当接板は、本発明に係るジョイントにおいて、唯一圧縮応力がかかる部分であり、従ってSS材(一般構造用圧延鋼材)やSTK材(一般構造用炭素鋼管)等の強度の高い材料を用いる必要があるので、当接板を薄くできることにより、製造費を節約できる。当接板の厚さは、鋼管杭の規模にもよるが、ジョイントを下方の鋼管の上端上に載せたときにジョイントの重量に耐えられれば十分であり、例えば0.5〜2.0cm程度で足りる。好ましくは、上方ストッパ案内溝と下方ストッパ案内溝とは、それぞれの両端の軸方向における高さが略重複している。このように上方ストッパ案内溝と下方ストッパ案内溝との位置及び長さを調整することにより、ジョイントの大きさを最小にすることができ、特に当接板の厚さを最小限に抑えることができる。
【0011】
コマは、鋼管の近接する端に向かって開口したU字状に形成された鉄棒であり、U字状の内側部分に溶接が施されるように構成してもよい。コマの外側で溶接すると、コマの外形をはみ出して溶着金属が外側に盛り上がり、コマ収納溝に収納できなくなったりストッパが戻れなくなる不具合の生ずる可能性がある。コマのU字状が鋼管の近接する端に向かって開口していれば、鋼管の開口端から溶接作業を行うことができる。当接板は、外縁から中心に向かって厚みが徐々に薄くなるように形成されていてもよく、このように形成することで、鋼管の内周面により近い部分でより大きい圧縮応力を受けることになる。よって鋼管杭に大きな圧縮応力が加わった場合に、当接板に当接している鋼管の端が半径方向外側に広がる変形・破断が生じにくい。また当接板は、ジョイントを構成する他の部材とは別体であって、交換可能であり、これにより肉厚の異なる鋼管にも対応することができる。交換可能な当接板は、例えばCリング状である。さらに、当接板は外縁から上下の軸方向に突設した筒状の袋部を備えていてもよく、これにより上下方の鋼管とジョイントとの間にクリアランス(すなわち鋼管の内周面とジョイントの挿入筒部との間のクリアランス)を設けていることによるガタつきを抑止することができる。
【発明の効果】
【0012】
以上のように、本発明に係る建築用鋼管杭のジョイントによると、建築現場及び工場での作業が容易であり、かつジョイントの規模が小さくて済むので、作業効率を向上させることができ、コストを軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、本発明に係る建築用鋼管杭のジョイントの一つの実施の形態を示す斜視図である。
【図2】図2は、図1の建築用鋼管杭のジョイントを反対側から視た斜視図である。
【図3】図3は、図1の建築用鋼管杭のジョイントを示す平面図である。
【図4】図4は、図3のIV−IV断面図である。
【図5】図5は、図3のV−V断面図である。
【図6】図6は、図3のVI−VI断面図である。
【図7】図7は、図1の建築用鋼管杭のジョイントに適合する鋼管を示す斜視図であり、長さを短くして示してある。
【図8】図8は、図7の鋼管を示す平面図である。
【図9】図9(a)(b)はそれぞれ、図1の他の実施の形態におけるリングを示す拡大横断面図であり、各部材の厚さは発明の説明の便宜ために誇張して表してある。
【図10】図10(a)〜(i)はそれぞれ、図1のジョイントによる鋼管接続の工程を説明するための斜視図であり、鋼管の一部を省略して示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しつつ本発明に係る建築用鋼管杭のジョイントの最良の形態について詳細に説明する。なお、以下の説明は発明をより深く理解するためのものであって、特許請求の範囲を限定するためのものではない。
【0015】
図1〜6は、本発明に係る建築用鋼管杭のジョイントの一つの実施の形態を示す。各図において、ジョイント10は回転貫入タイプの鋼管杭を適当な長さに達するまで継ぎ足すために、上端部を残して地中に貫入された下方の鋼管に上方の鋼管を接続するために利用される。最下端の鋼管の先端には羽根が装着されており、羽根を回転させることにより地中に貫入していく。図7、8に本実施の形態に係るジョイントにより接続される鋼管を示す。鋼管70の両端近くの内周面上には、それぞれ180度角度をずらした位置で、鋼管70の内周面に溶接されている。溶接作業は、建築現場に運ばれる前に、工場で行われるのが通例であるが、建築現場で行われることもある。各コマ72、74は、鋼管70の近接する端に向かって開口したU字状に形成された鉄棒製であり、U字状の内側部分に溶接が施されるている。これは、例えばコマを方形の板とした場合、コマの外縁で溶接すると、コマの外形をはみ出して溶着金属が外側に盛り上がり、その結果コマがコマ収納溝に収納できなくなったりストッパが戻れなくなる不具合の生ずる可能性がある。また各コマ72、74のU字状が鋼管の近接する端に向かって開口していれば、鋼管の開口端から容易に溶接作業を行うことができる。コマ72、74は、図示しないオーガにより鋼管杭を回転貫入する際に利用される。ジョイント10は鋳鉄製である。
【0016】
ジョイント10の軸方向の中心に断続的に周設されたリング溝12には、リング20が嵌め込まれている。リング20の外径のサイズは鋼管70の外径とほぼ同一であり、下方の鋼管の上端面及び上方の鋼管の下端面が、それぞれ下面及び上面に当接する。リング20は、いわゆるCリングであって、リング状の一カ所が切り欠かれている。リング20はSS材製であって弾性を有するため、切欠部を広げて全体の内径を大きくしてジョイント10を通し、リング溝12に一致する位置まで移動させてから切欠部を元に戻すことにより、リング溝12に嵌め込むことができる。リング20の横断面は方形であり、上面及び下面は鋼管70の平坦な端面に当接して圧縮応力を均等に支えるために、平坦に形成されている。
【0017】
リング20の、リング溝12から突出した半径方向の幅は、ジョイント10により連結される鋼管70の肉厚とほぼ同一である。本実施の形態においては、リング20は交換可能であるから、鋼管70の肉厚に応じて、リング20の内径と外径との差を適宜選択することができ、従って、ある程度の範囲の鋼管70の肉厚に対応することができる。また他の実施の形態においては、図9(a)に示すようにリング22の横断面は、外縁から中心に向かって軸線方向の厚みが徐々に薄くなるように形成されている。これにより鋼管70の内周面により近い部分でより大きい圧縮応力を受け、よって鋼管杭に大きな圧縮応力が加わった場合に、リング22に当接している鋼管70の端が半径方向外側に広がる変形・破断が生じにくい。さらに他の実施の形態においては、図9(b)に示すように、リング24は、外縁から上下の軸方向に突設した筒状の袋部26を含む。袋部26の内周面の径は鋼管70の外周面の径にほぼ一致しており、これによりジョイント10と鋼管70との間のガタつきを抑制することができる。
【0018】
ジョイント10には、リング20の上方及び下方に挿入筒部14が配置されている。ジョイント10の概形は円筒形であり、鋼管70の内径とほぼ同一の(すなわちジョイント10を鋼管70に挿入する際のクリアランスを確保するために鋼管70の内径よりやや小さい)外径を有する外周面を備えた部分が挿入筒部14に該当する。挿入筒部14は、後述する各ストッパ案内溝や各コマ収納溝等の設けられていない部分の外周面に、断続的に配置されている。ジョイント10の中心軸に近い部分は中空であり、上面及び下面は開口している。
【0019】
リング20よりも中心軸寄りに、リング20の上方から下方まで、上方ストッパ案内溝30が軸方向に延びている。上方ストッパ案内溝30には、上方の鋼管70の一方のコマ72が挿入可能な開孔32が上端に設けられている。下方ストッパ案内溝40は、上方ストッパ案内溝30とは周方向にずれた位置で、リング20よりも中心軸寄りに、リング20の上方から下方まで軸方向に延びており、下方の鋼管70のコマ72が挿入可能な開孔42が下端に設けられている。各ストッパ案内溝30、40は、それぞれの軸方向のほぼ中心にリング20が配置されており、またそれぞれの軸方向の上端及び下端はほぼ同じ高さにある。
【0020】
上方ストッパ34は上方ストッパ案内溝30に沿って移動可能であり、スプリング36により、上方ストッパ案内溝30の開孔32に向かう方向に附勢されている。スプリング36の両端は、上方ストッパ案内溝30の開孔32が設けられている端とは逆の端に設けられた穴16と、上方ストッパ34の穴16に対向する下端に開口した穴38とに嵌め込まれて固定されている。図3に表されているように、上方ストッパ34の幅は、上方ストッパ案内溝30の開孔32の幅よりもやや小さく、従って上方ストッパ34が開孔32を通り抜けることはない。
【0021】
下方ストッパ44は下方ストッパ案内溝40に沿って移動可能であり、また下方ストッパ44の幅は、下方ストッパ案内溝40の開孔42の幅よりもやや小さく形成されている。なお下方ストッパ44は引力に引かれて下方に落下するので、下方ストッパ44を下方ストッパ案内溝40の開孔42に向かう方向に附勢するスプリングは備えられていないが、他の実施の形態においては確実に下方ストッパ44を復帰させるためにスプリングが取り付けられていてもよい。
【0022】
上方コマ収納溝50は上方ストッパ案内溝30の開孔32近くから鋼管杭の回転貫入方向と同一の周方向に連続して設けられている。上方コマ収納溝50は、上方の鋼管70の下端面がリングの上面に当接した位置で上方の鋼管70のコマ72を収納可能であり、すなわち上方コマ収納溝50の高さ及び幅は、コマ72とほぼ同一に形成されている。よって上方コマ収納溝50にコマ72が入り込み、かつ上方ストッパ34が上方ストッパ案内溝30の開孔32近くに復帰してコマ72が上方ストッパ案内溝30の方に戻ることを阻止している状態では、コマ72は上方コマ収納溝50内に固定され、軸方向及び周方向について相対的にほとんど移動することができない。
【0023】
下方コマ収納溝60は、下方ストッパ案内溝40の開孔42近くから鋼管杭の回転貫入方向と反対の周方向に連続して設けられている。下方コマ収納溝60は、下方の鋼管のコマ72が収納可能であり、下方ストッパ44により下方ストッパ案内溝40との間が塞がれた状態では、コマ72は下方コマ収納溝60内に固定される。もちろん実際には、各コマ72と各コマ収納溝50、60との間には必要な大きさのクリアランスが設けられており、多少のガタつきは生じるが、建築用鋼管杭に主として求められるのは圧縮応力であるから、両者のサイズに過度の厳密さが要求されないことは当業者には明らかである。
【0024】
図2に示されているように、ジョイント10の各ストッパ案内溝30、40から180度ずれた位置には、コマ72とは180度ずれた位置の鋼管70の内周面に配置されたコマ74が連結作業の邪魔をせず進行できるように、L字型のコマ通路溝16及び逆L字型のコマ通路溝18が設けられている。
【0025】
次に、図10を参照しつつ、図1の実施の形態の作用について説明する。なお図10においては、説明のために下方の鋼管には80の符号を付し、下方の鋼管80に取り付けられたコマには82の符号を付す。
【0026】
まず、図10(a)に示すように、ジョイント10を下方の鋼管80の直上に配置する。下方の鋼管80は、図示しない地面にその下部が回転貫入され、上部が地面の上に1mほど突出している状態にある。下方の鋼管80又はそのさらに下方に接続された鋼管の下端には回転貫入のための羽根が取り付けられており、図示しないオーガにより軸線周りに回転させることにより、地中に貫入される。回転方向は平面視時計回りであり、この回転方向を回転貫入方向と称する。
【0027】
ジョイント10は、鋼管80と中心軸を一致させるとともに、下方ストッパ案内溝40の開孔42とコマ82とが軸方向に重なるような相互の角度関係で、鋼管80の直上に配置された後、ジョイント10を下降させる。図10(a)においては、コマ82は開孔42を通り抜け、コマ82の上向きU字状の上端が下方ストッパ44の下端に当接している。なお図10におけるジョイント10は小型のもので、建築作業員が手作業で持ち上げ、鋼管80の直上に位置させ、下降させ、回転させることができる重量及びサイズである。
【0028】
図10(b)は、ジョイント10を下降させていき、ジョイント10の下部が鋼管80の上端から鋼管80内に挿入され、リング20の下面が鋼管80の上端面に当接して、ジョイント10が停止した状態を示す。コマ82は下方ストッパ案内溝40内に入り込み、コマ82に押し上げられた下方ストッパ44は下方ストッパ案内溝40の上端近くにまでスライドしている。この状態では、コマ82と下方コマ収納溝60とはほぼ同じ高さに位置している。挿入筒部14は鋼管80の内周面の径とほぼ同一の外周面を有するので、ジョイント10と鋼管80とは半径方向について固定される。
【0029】
図10(c)に示すように、ジョイント10を図10(b)の状態から、軸線周りに回転貫入方向に回転させると、コマ82はジョイント10に対して回転貫入方向とは逆方向に回転するので、コマ82は下方コマ収納溝60の中に入り込んでいく。さらにジョイント10を回転させると、図10(d)に示すように、コマ82が完全に下方コマ収納溝60の中に収納される。同時に、支えを失った下方ストッパ44は、下方ストッパ案内溝40内を落下する。図10(e)は下方ストッパ44が下方ストッパ案内溝40の下端に到達するまでスライドして停止した状態を示す。この状態では、コマ82は軸方向の上下端及び周方向の左右側が、それぞれ下方コマ収納溝60の上下端及び右側と下方ストッパ44の右側にほぼ当接しており、これによりジョイント10と鋼管80とは、軸方向及び周方向について固定されている。なおコマ82の180度ずれた反対側のコマ84は、図示していないが、コマ通路溝18内を通って、逆L字型の水平方向の通路の奥に収まっている。
【0030】
次に、下方の鋼管80にその下部が挿入された固定されたジョイント10の上部に、上方の鋼管70が固定される。図10(f)に示すように、上方の鋼管70の上端は図示しないオーガにより把持されて吊り下げられ、ジョイント10の直上から、下降される。その際、ジョイント10と鋼管70の軸線が共通し、かつコマ72が上方ストッパ案内溝30の開孔34に上下方向の位置が一致するように両者の相対的な角度が調整される。
【0031】
オーガを操作して図10(f)の位置から鋼管70を下降させ、開孔34を通り抜けたコマ72が、スプリング36の附勢に抗して上方ストッパ34を押し下げる。さらに鋼管70を下降させていくと、図10(g)に示すように、鋼管70の下端面がリング20の上面に当接して、鋼管70の下降は停止する。このとき、上方ストッパ34は上方ストッパ案内溝30の下端に到達するまでスライドし、コマ72は上方コマ収納溝50と同じ高さに位置している。鋼管70の内周面の径とほぼ同一の外周面を有する挿入筒部14により、ジョイント10と鋼管70とは半径方向について固定される。
【0032】
続いてオーガを操作することにより、鋼管70を回転貫入方向に回転させると、コマ72も回転貫入方向に移動し、図10(h)に示すように、上方コマ収納溝50の中に入り込む。コマ72が完全に上方コマ収納溝50中に収納されると、図10(i)に示すように、コマ72が押さえつけていた上方ストッパ34がスプリング36により押し上げられて、上方ストッパ案内溝30の開孔32近くの元の位置にまでスライドして戻される。この上方ストッパ34により、コマ72は上方ストッパ案内溝30の方に移動することが制限され、よってジョイント10と鋼管70とは軸方向及び軸周りに回転する周方向の相対的な移動が制限される。なおコマ72とは180度ずれた位置に配置されているコマ74は、コマ通路溝17内を移動してL字型の水平方向の通路の奥に至っている。
【0033】
本実施の形態に係るジョイント10によれば、上記のような工程を経ることにより、上方の鋼管70と下方の鋼管80とは、ジョイント10を介して接続され、オーガにより回転貫入され、必要に応じて上方の鋼管70の上端にさらに鋼管が連結される。連結作業前に鋼管70、80に施される加工は、各コマ72、74、82、84の溶接のみで、例えば従来のように鋼管の開孔端に一周にわたってジョイントの雄型や雌型を溶接する作業に比して、遙かに容易であり、短時間で行える。もちろん、コマの溶接作業を建築現場で行うこともできるが、いずれにせよ容易且つ短時間で済み、例えば鋼管の開孔端に嵌め込むことによりコマの溶接位置を確定するガイドを利用すれば、容易且つ正確に溶接することができる。リング20はジョイント10において、唯一圧縮応力がかかる部分であり、SS材製であるのに対し、ジョイント10の他の部材(スプリング36を除く)は鋳鉄製である。その他、リング20はSTK材やSM材(溶接構造用圧延鋼材)等の建築物の構造部材として使用できる高品質の鋼材を使用しなければならないが、その他の部材は鋳鉄や鋳鋼などでもよい。リング20の厚さは、鋼管杭の規模にもよるが、ジョイント10を下方の鋼管80の上端上に載せたときにジョイント10の重量を支持できれば十分であり、例えば0.5〜2.0cm程度で足りる。
【0034】
またジョイント10によれば、上方ストッパ案内溝30及び下方ストッパ案内溝40はリング20の上方から下方まで軸方向に延びており、上方の鋼管70の下端と下方の鋼管80の上端とはリング20を挟んだのみの、ごく近接した位置で連結されている。従って鋼管杭にかかる圧縮応力を受けるリング20は、その厚さをできるだけ薄くしてジョイント10全体の大きさを抑えるとともに、リング20以外の部材には高い強度を必要としないという利点がある。これによりジョイント10の規模が小さくて済むので、作業効率を向上させることができ、製造及び作業コストを軽減することができることは明らかである。
【0035】
ジョイント10の軸方向の長さを最小にするために、本実施の形態においては上方ストッパ案内溝30と下方ストッパ案内溝40とを、それぞれの両端の軸方向における高さが略重複しているように設計されている。このように上方ストッパ案内溝30と下方ストッパ案内溝40との位置及び長さを調整すれば、ジョイントの大きさを最小にすることができ、特に上方の鋼管70と下方の鋼管80との間で圧縮応力を支持するリング20の厚さを最小限に抑えることができる。各ストッパ案内溝30、40が各ストッパ34、44及び各コマのほぼ倍の軸方向の長さを有していること、及び各ストッパ案内溝30、40の軸方向のほぼ中心にリング20が配置されていることもダウンサイジングについて寄与する設計の一つである。なお鋼管杭に生ずる引張応力及び捻り応力に対する耐力に関しては、コマ72の溶接の強度や各コマ収納溝40、50や各ストッパ34、44の強度を設計することにより調整することが可能である。
【0036】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は上記実施の形態によって限定されることはなく、本発明の要旨の範囲内において、適宜変形実施が可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0037】
10 ジョイント
14 挿入筒部
20 リング
30 上方ストッパ案内溝
32 開孔
34 上方ストッパ
36 スプリング
40 下方ストッパ案内溝
42 開孔
44 下方ストッパ
50 上方コマ収納溝
60 下方コマ収納溝
70 鋼管
72、74 コマ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼管の端近くの内周面上に配置された少なくとも1つのコマを利用して地中に回転貫入する鋼管杭を適当な長さに達するまで継ぎ足すために、少なくとも一部が地中に貫入された下方の鋼管に上方の鋼管を接続する建築用鋼管杭のジョイントであって、
径のサイズが前記鋼管の外径と略同一であり、前記下方の鋼管の上端面及び前記上方の鋼管の下端面が、それぞれ下面及び上面に当接する円形の当接板と、
前記当接板の上方及び下方に配置され、前記鋼管の内径と略同一の外径を有する外周面を備えた挿入筒部と、
前記当接板よりも中心軸寄りに、前記当接板の上方から下方まで軸方向に延び、前記上方の鋼管のコマが挿入可能な開孔が上端に設けられている少なくとも1つの上方ストッパ案内溝と、
前記上方ストッパ案内溝とは周方向にずれた位置で、前記当接板よりも中心軸寄りに、前記当接板の上方から下方まで軸方向に延び、前記下方の鋼管のコマが挿入可能な開孔が下端に設けられている少なくとも1つの下方ストッパ案内溝と、
前記上方ストッパ案内溝に沿って移動可能であり、前記上方ストッパ案内溝の前記開孔に向かう方向に附勢されている上方ストッパと、
前記下方ストッパ案内溝に沿って移動可能である下方ストッパと、
前記上方ストッパ案内溝の前記開孔近くから鋼管杭の回転貫入方向と同一の周方向に連続して設けられ、前記上方の鋼管の下端面が前記当接板の上面に当接しているときに前記上方の鋼管のコマが収納可能な上方コマ収納溝と、
前記下方ストッパ案内溝の前記開孔近くから鋼管杭の回転貫入方向と反対の周方向に連続して設けられ、前記下方の鋼管の上端面が前記当接板の下面に当接しているときに前記下方の鋼管のコマが収納可能な下方コマ収納溝とを含むことを特徴とする建築用鋼管杭のジョイント。
【請求項2】
前記コマは、前記鋼管の近接する端に向かって開口したU字状に形成された鉄棒であり、U字状の内側部分に溶接が施されている請求項1に記載の建築用鋼管杭のジョイント。
【請求項3】
前記上方ストッパ案内溝と前記下方ストッパ案内溝とは、それぞれの両端の軸方向における高さが略重複している請求項1に記載の建築用鋼管杭のジョイント。
【請求項4】
前記当接板は、外縁から中心に向かって厚みが徐々に薄くなるように形成されている請求項1に記載の建築用鋼管杭のジョイント。
【請求項5】
前記当接板は、ジョイントを構成する他の部材とは別体であって、交換可能である請求項1に記載の建築用鋼管杭のジョイント。
【請求項6】
前記当接板は、Cリング状である請求項5に記載の建築用鋼管杭のジョイント。
【請求項7】
前記当接板は、外縁から上下の軸方向に突設した筒状の袋部を含む請求項1に記載の建築用鋼管杭のジョイント。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−11136(P2013−11136A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−145645(P2011−145645)
【出願日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(503142887)
【出願人】(503141503)
【出願人】(511103878)
【Fターム(参考)】