説明

建設機械の潤滑油供給装置

【課題】可及的に短い時間と少ない労力で機器への潤滑油の供給作業を行なうことが可能になり、その結果、建設機械の稼働率を向上させることが可能になると共に、潤滑油コストや給油配管の設備コストも削減できる構成の建設機械の潤滑油供給装置を提供する。
【解決手段】複数の減速機11を同じ高さに設置する。外部潤滑油供給装置接続用カプラ12aに、複数の減速機11に共通の給油配管13を設ける。共通の給油配管13から分岐して各減速機11に潤滑油を供給する分岐配管14を設ける。各分岐配管14に、共通の給油配管への潤滑油の逆流を防止する逆止弁15を設ける。各分岐配管14における潤滑油供給時の管路抵抗による圧力損失と、その分岐配管14に設けた逆止弁15のクラッキング圧との和を等しくする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧ショベル等の建設機械に備える機器に潤滑油を供給する装置に係り、特に大型の建設機械に好適なものに関する。
【背景技術】
【0002】
油圧ショベル等の建設機械において、旋回装置の減速機やエンジンで使用するための潤滑油は、建設機械の稼働時間の経過によって劣化するので所定の稼働時間(例えば1000時間)ごとに交換する必要がある。このような潤滑油の交換を行なうため、油圧ショベル等の建設機械においては、例えば特許文献1に記載のように、タンクローリー等の外部の潤滑油供給装置からの潤滑油の供給を受けるカプラを取付けたパネルを上部旋回体の底面に備え、そのカプラを介して各対象機器に潤滑油を送るための給油配管を設けている。
【0003】
油圧ショベルにおいては、旋回装置の旋回用油圧モータを複数台備える。そして、図6に示すように、各旋回用油圧モータの減速機11に対してそれぞれ潤滑油9を供給するための給油配管2が、パネル1に設けたカプラ1aと各減速機11との間に、減速機の台数と同じ本数(図示例は2本)設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−325159号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述のように、従来の建設機械においては、前記減速機11等複数台の機器に対して潤滑油を供給するため、機器と同数の給油配管2が設けられているので、潤滑油9の交換を行なう場合、上部旋回体の下面において、作業員が各機器ごとに潤滑油の供給作業を行なう必要がある。この潤滑油の供給作業は、カプラ1aに対する外部の潤滑油供給装置のホースの接続、潤滑油供給開始と停止、ホースの分離作業が含まれる。その上、対象機器ごとに、潤滑油が供給されたことを、機器が搭載された上部旋回体上に上って確認する必要がある。この潤滑油が供給されたことを確認する作業は、各機器内に棒状のレベルゲージを差し込んで液面レベルを確認することによって行なっている。
【0006】
このように、機器に対して潤滑油が供給されたことを確認するため、作業員は、各機器を搭載した上部旋回体の機器搭載位置と地面との間で上り下りする必要がある。特に大型の建設機械の場合、上部旋回体の高さが高いため、作業員は高低差の大きい地面と上部旋回体上の機器搭載位置の間を上り下りしてこの確認作業を行なう必要があり、このため、潤滑油の交換作業に時間と労力がかかる。
【0007】
ところで、特に大型の油圧ショベル等の建設機械は、稼働率を上げるため、昼夜通して稼働させる場合が多く、休車する時間は、エンジンの燃料を供給する短時間だけに限られるという作業環境で使用される場合が多い。ところが、前述のように潤滑油の交換のために時間を費やすと、建設機械の稼働率を低下させてしまうという問題点があった。
【0008】
また、各減速機11等の機器ごとにそれぞれ給油配管2を設けているので、潤滑油供給後に給油配管2に残留する潤滑油が多くなり、潤滑油コストが高くなるという問題点があった。さらに、各機器ごとに給油配管2を備えているので、給油配管2の設備コストが高くなるという問題点もあった。
【0009】
本発明は、上記の問題点に鑑み、可及的に短い時間と少ない労力で機器への潤滑油の供給作業を行なうことが可能になり、その結果、建設機械の稼働率を向上させることが可能になると共に、潤滑油コストや給油配管の設備コストも削減できる構成の建設機械の潤滑油供給装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の建設機械の潤滑油供給装置は、
潤滑油を使用する複数の機器が設置される作業機の潤滑油供給装置において、
複数の機器を同じ高さに設置すると共に、
前記複数の機器に対して共通に設けられ、外部潤滑油供給装置接続用カプラに一端が接続された給油配管と、
前記共通の給油配管の他端と各機器との間に設けられた分岐配管と、
各分岐配管に設けられ、前記機器側から前記共通の給油配管への潤滑油の逆流を防止する逆止弁とを備え、
各分岐配管における潤滑油供給時の管路抵抗による圧力損失と、その分岐配管に設けた逆止弁のクラッキング圧との和の圧力を等しくしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、複数の機器を同高に設置し、複数の機器に対して共通の給油配管を設けると共に、給油配管から各機器へと分岐した分岐配管に逆止弁を設け、各分岐配管における潤滑油供給時の管路抵抗による圧力損失と、その分岐配管に設けた逆止弁のクラッキング圧との和の圧力を等しくしたので、各機器について潤滑油を排出させた後、外部の潤滑油供給装置からカプラおよび共通の給油配管を経て潤滑油を供給する際に、分岐配管および各分岐配管の逆止弁を通して複数の機器に対して同時に等しい流量で潤滑油が供給され、同時供給が可能となる。
【0012】
このため、複数の機器に対する潤滑油の供給作業が1回で済む上、供給レベル確認のための上部旋回体上への昇降も1回で済み、作業時間や労力が大幅に削減できる。また、このような潤滑油供給、確認作業に要する時間が大幅に削減されることにより、建設機械の稼働率を向上させることができる。
【0013】
また、複数の機器に対して潤滑油を供給する給油配管として共通のものを備えたので、分岐配管を含めたトータルの給油配管の内容積が小さくなり、潤滑油供給後の潤滑油の残留量が少なくなるので、潤滑油コストが削減できる。また、潤滑油を供給する給油配管の一部を共通化したので、給油配管が削減でき、給油配管の設備コストを削減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の潤滑油供給装置の一実施の形態を示す建設機械の本体部の側面図である。
【図2】図1の建設機械の本体部の平面図である。
【図3】本実施の形態における潤滑油の供給回路を示す回路図である。
【図4】本発明の潤滑油供給装置の他の実施の形態を示す建設機械の本体部の側面図である。
【図5】図4の建設機械の本体部の平面図である。
【図6】従来の潤滑油の供給回路を示す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は潤滑油供給装置の一実施の形態を示す建設機械の本体部を示す側面図、図2はその平面図、図3はその潤滑油供給回路を示す回路図である。図1、図2において、4は建設機械の履帯式下部走行体、5aはこの下部走行体4上に旋回装置6を介して設置した旋回フレーム、7は旋回フレーム5a上に搭載したエンジン7aを含むパワーユニット、8は旋回フレーム5aに搭載した運転室である。旋回フレーム5aとパワーユニット7と運転室8などにより上部旋回体5が構成される。この建設機械が油圧ショベルとして構成される場合、旋回フレーム5aには不図示の多関節構造の作業用フロントが取付けられる。
【0016】
旋回装置6は、2台の旋回用油圧モータ10を備えると共に、各油圧モータ10ごとにそれぞれ減速機11を備えている。減速機11は同じサイズを有し、同じ潤滑油収容スペースを有するものであって、旋回フレーム5a上の同じ高さに設置する。12は旋回フレーム5aの底部に取付けられた給油用のパネルであり、タンクローリー等の潤滑油のみならず、作動油、燃料等の供給装置に接続するカプラを有するものである。図3には、減速機11に対する潤滑油の供給を行なうカプラ12aのみが示されているが、前述のような作動油や燃料の供給を行なうための不図示のカプラも設けられる。
【0017】
図1〜図3において、13は複数(本例は2台)の減速機11に共通に設けた給油配管である。この給油配管13は、一端をパネル12上のカプラ12aに接続し、他端は分岐配管14を介して各減速機11に接続する。各分岐配管14には逆止弁15を設ける。各逆止弁15は、減速機11から共通の給油配管13への潤滑油の逆流を防止するものである。16は減速機11内の潤滑油を排出するための排出管である。
【0018】
この潤滑油供給装置において、各分岐配管14における潤滑油供給時の管路抵抗による圧力損失と、その分岐配管に設けた逆止弁15のクラッキング圧との和の圧力が等しくなるように、分岐配管14の構成および逆止弁15のクラッキング圧の設定を行なう。
【0019】
ここで、一般的に、配管における圧力損失は下記のハーゲン−ボアズイエの式で与えられる。
ΔP=γ・λ・(L/D)・(V/2g)
ここで、ΔP:圧力損失(Pa)、γ:液体密度(N/m)、λ:管摩擦係数、L:管路長(m)、D:管内径(m)、V:管内流速(m/sec)、g:重力加速度(9.8m/sec)である。
【0020】
上記式によって配管における圧力損失が与えられるため、本実施の形態においては、2台の減速機11にそれぞれ接続される分岐配管14を同じ内径の管路により構成すると共に、長さを同じに形成している。また、各分岐配管14に設ける逆止弁15のクラッキング圧Pcを等しくしている。したがって、各分岐配管14における圧力損失ΔPとクラッキング圧Pcとの和(ΔP+Pc)は互いに等しくなる。
【0021】
本実施の形態においては、このような給油配管の構成としたので、各減速機について排出管16から潤滑油を排出させた後、外部の潤滑油供給装置(図示せず)からカプラ12a、共通の給油配管13、分岐配管14および逆止弁15を経て潤滑油を供給する際に、2台の減速機11に対して同時に等しい流量で潤滑油が供給され、同時供給が可能となる。また、2台の減速機11において、潤滑油9の液面レベルに多少の差が生じた場合は、液面レベルが高い側の水頭圧が高くなるので、液面レベルの低い側の減速機に潤滑油9が多く流れ、2台の減速機11の液面レベルは等しくなる。
【0022】
このため、地上における複数の減速機11に対する潤滑油の供給作業、すなわちカプラ12aにおけるホース接続、分離作業や潤滑油の供給開始、停止操作が1回ですむ。また、作業員が上部旋回体5上に上ってレベルゲージにより供給レベルを確認する作業の行なうための昇降も1回ですみ、作業時間や労力が大幅に削減できる。その結果、このような潤滑油供給、確認作業に要する時間が大幅に削減されることにより、建設機械の稼働率を向上させることができる。
【0023】
また、複数の減速機11に対して潤滑油を供給する給油配管として共通の給油配管13を備えたので、分岐配管14を含めた給油配管全体の内容積が小さくなり、潤滑油供給後の潤滑油の残留量が少なくなるので、潤滑油コストを削減することができる。また、潤滑油を供給する給油配管の一部を共通の給油配管13により共通化したので、給油配管が削減でき、給油配管の設備コストを削減することができる。
【0024】
また、図1から分かるように、給油配管13の長さを分岐配管14の長さよりも長くすることにより、潤滑油供給の際の分岐配管14,14の圧力損失を小さくすると共に、分岐配管14,14間の圧力損失の差を小さくすることができ、各減速機11に対する潤滑油の同量供給がより容易に行なえる。また、給油配管13に分岐配管14を加えた内容積をより小さくすることができるので、前述した潤滑油コスト削減効果や、設備コスト削減効果が助長される。
【0025】
なお、本実施の形態においては、2台の減速機11にそれぞれ接続される分岐配管14を同じ内径により構成すると共に、同じ長さに形成し、かつ各分岐配管14に設ける逆止弁15のクラッキング圧を等しくしたことにより、各分岐配管14について、圧力損失ΔPとクラッキング圧Pcとの和が等しくなるように構成したが、逆止弁15にクラッキング圧が調整可能なものを使用し、各分岐配管14における圧力損失ΔPに合わせてクラッキング圧Pcを調整することにより、各分岐配管14についての前記圧力の和が等しくなるように構成してもよい。
【0026】
図4は本発明の他の実施の形態を示す建設機械の側面図、図5はその平面図である。この建設機械においては、旋回装置6に旋回用油圧モータ10および減速機11をそれぞれ4台備えると共に、2台のエンジン7aを備えている。本実施の形態においては、旋回装置6の4台の減速機11のうち、2台ずつ共通の給油配管13と分岐配管14で接続すると共に、2台のエンジン7aに対して、共通の給油配管13Aと、分岐配管14Aと、各分岐配管14Aに設けた逆止弁15Aとにより潤滑油の供給装置を構成している。
【0027】
図4、図5の実施の形態においては、減速機11を4台備えると共に、エンジン7aを2台備えたので、パネル12から減速機11やエンジン7aへの給油配管は、従来構成を採用する場合、合計6本となる。一方、本発明を適用した場合、共通の給油配管13Aは3本となり、前記潤滑油の交換作業に要する時間や労力の削減効果と、建設機械の稼働率向上効果、潤滑油コスト削減、設備コスト削減効果が大となる。
【0028】
以上本発明を実施の形態により説明したが、本発明を実施する場合、上記実施の形態に限らず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の変更、付加を行なうことが可能である。
【符号の説明】
【0029】
4:履帯式下部走行体、5:上部旋回体、5a:旋回フレーム、6:旋回装置、7:パワーユニット、7a:エンジン、8:運転室、9:潤滑油、10:旋回用油圧モータ、11:減速機、12:パネル、12a:カプラ、13,13A:共通の給油配管、14,14A:分岐配管、15,15A:逆止弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
潤滑油を使用する複数の機器が設置される作業機の潤滑油供給装置において、
複数の機器を同じ高さに設置すると共に、
前記複数の機器に対して共通に設けられ、外部潤滑油供給装置接続用カプラに一端が接続された給油配管と、
前記共通の給油配管の他端と各機器との間に設けられた分岐配管と、
各分岐配管に設けられ、前記機器側から前記共通の給油配管への潤滑油の逆流を防止する逆止弁とを備え、
各分岐配管における潤滑油供給時の管路抵抗による圧力損失と、その分岐配管に設けた逆止弁のクラッキング圧との和の圧力を等しくしたことを特徴とする建設機械の潤滑油供給装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−36223(P2013−36223A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−172843(P2011−172843)
【出願日】平成23年8月8日(2011.8.8)
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)
【Fターム(参考)】