説明

弁構造を利用した軽重質油乳化燃料の生成方法とその装置

【課題】エマルションを低エネルギーで短時間に効率よく生成することが可能で、エマルションを量産することができる実用生産プラントレベルにおいてもランニングコストが低く、スリット膜の目詰まり不具合の心配もなくコンパクトでありながら実用生産量の確保も十分可能な現実的で画期的なエマルション生成方法を提供する。
【解決手段】ステンレス製シート2を用い、シート2には横に12行、縦に5列のストレートスリット1を設けて、これを1巻の外径約10mmの筒状のスリット膜とした。本実施例では、連続相液を乳化剤0.5%ドデシル硫酸ナトリウム水溶液とし、分散相液に大豆油を用いたO/W系エマルションを生成した。また、連続相液に乳化剤を添加しないC重油、分散相液に水道水を用いたW/O系エマルション燃料を生成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軽重質油を連続相、水を分散相とする軽重質油中水滴型エマルション(以下、W/O型エマルションという)の生成方法とその装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、エマルションを生成する一般的な方法として高速攪拌式や、高速せん断式のホモジナイザー、送液パイプライン中にねじれ羽根を幾枚も設けて送液しながらせん断するインラインミキサーなどが多く使用されている。また、スリットを利用して乳化を行う方法として、例えば特許文献1のような乳化方法がある。これは周知のマイクロチャネル乳化法に基づいた乳化器の実用的量産器として紹介されている。この特許文献1所載のスリット構造は、板状部材に向きを同じとするスリットAを数箇所設け、重ね合わせるように別の板状部材に前記スリットと交差する向きにスリットBを数箇所設け、スリットAとスリットBの交差する四角の開口部でエマルション粒子を生成するという生成方法である。
【0003】
【特許文献1】特開2002−346352号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、エマルション生成方法における微細粒子径を生成する手段において、攪拌式やせん断式では乳化器としては大型化してしまう。また、前記特許文献1所載のスリット型マイクロ乳化器では、透過乳化させる液体に毛羽やスラッジなどスリットの目詰まり原因と考えられる異物が混入していると、スリットを透過する入口で異物が堆積することになり、目詰まりを起こしてしまうおそれがあり実用的であるとは言い難い。本発明は上記のような課題に鑑みなされたもので、エマルションを低エネルギーで短時間に効率よく生成することが可能で、エマルションを量産することができる実用生産プラントレベルにおいてもランニングコストが低く、スリット膜の目詰まり不具合の心配もなくコンパクトでありながら実用生産量の確保も十分可能な現実的で画期的なエマルション生成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
そこで本発明の軽重質油中水滴型(W/O)エマルション燃料の生成方法は、金属シート又は、プラスチックシートに設けたスリットに分散相の水と連続相の軽重質油を透過して乳化することを第1の特徴とする。また、スリットが弁機能様に作用する弁構造を有することを第2の特徴とする。さらに、断続的に設けたスリットを有する金属シート又は、プラスチックシートに分散相の水と連続相の軽重質油を透過して乳化することを第3の特徴とする。さらにまた、スリットを有する金属シート又は、プラスチックシートを筒状に丸め、分散相の水と連続相の軽重質油を外圧式又は内圧式に透過して乳化することを第4の特徴とする。そして、本発明に係る軽重質油中水滴型(W/O)エマルション燃料の生成装置はこれらのスリット膜を備えたことを第5の特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によるスリットを利用したエマルションの生成方法は、特にC重油などを連続相液とするC重油エマルション燃料を生成する場合、C重油中のスラッジや毛羽など固形微粒子が混入していてスリットを透過する入口で堆積し目詰まりを起こしかけたとしても、目詰まりの原因により透過圧力が加わることでスリットの弁作用により目詰まりが解消されて正常なスリット状態に復帰し正常な透過乳化状態に戻ることが可能で長時間正常なエマルションを生成することが可能である。さらに本発明は、スリットの大きさを選択することによりエマルションの粒子径をコントロールすることが可能で、スリットの形状を選択することにより、スリットの弁が液体透過時に微振動を起こしながら効率よくエマルション粒子を生成することができる。また、スリットを有する金属シート又は、プラスチックシートにスペーサーを挟んでロール状に束ねたスリット膜とし、外圧式又は、内圧式に乳化液体を透過させることで、入口直面の隔壁のスリットから入り込んで混合乳化されたエマルションが次の隔壁のスリットに入り込んで更に混合乳化され、随時各隔壁に設けたスリットを段階的に透過することによりエマルション粒径の均一性を整えていくことが可能である。このように段階的に隔壁を透過することになるロール状に束ねたスリット膜は安価に量産することが可能であり、エマルションを低エネルギーで短時間に効率よく生成することが可能で、長時間安定してエマルションを量産することができる実用生産プラントレベルにおいてもランニングコストが低く、スリット膜の目詰まり不具合の心配もなくコンパクトでありながら実用生産量の確保も十分可能な現実的で画期的なエマルション生成方法が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
次に、本発明の実施の形態を図面に示す実施例に基づいて説明する。
図1は本発明に係るシートに形成される種々のスリットパターンの例を示す平面図、図2は本発明に係るスリットを設けたシートの一実施例を示す斜視図、図3は図2のシートをディスク状に形成し断続的に設けたスリット膜を示す斜視図、図4は図3のスリット膜の間隔を密にした状態を示す斜視図、図5は図2のシートを巻回したロール状のスリット膜を示す斜視図、図6は図5のA矢視断面図、図7は図2のシートを筒状にして間隔を空けて重ね合わせたスリット膜を示す斜視図、図8の本発明に係る乳化方法に使用するデバイスを示す斜視図、図9はクロススリット膜乳化によるエマルション粒度分布を示すグラフ、図10はストレートスリット膜乳化によるエマルション粒度分布を示すグラフ、図11はSPG膜乳化によるエマルション粒度分布を示すグラフ、図12本発明における乳化装置を模式的に示す構成図、図13は本発明により生成したO/Wエマルション粒度分布を示すグラフ、図14は本発明により生成したW/O・C重油エマルション燃料粒度分布を示すグラフである。
【実施例】
【0008】
図1(a)〜(j)に示すように、金属シート又はプラスチックシート2に弁構造を有するとストレートスリット又はクロススリット、ベンツカットスリット、半円弧スリットなど、一定圧力が加わるとスリット1が弁機能様に作用する構造を有するスリット1で微細乳化することが可能な乳化手段であり、連続相と分散相を透過して微細なエマルション粒子を生成させる手段となるスリット1に透過乳化させる液体に毛羽やスラッジなどスリット1の目詰まり原因と考えられる異物が混入していてスリット1を透過する入口で堆積し目詰まりを起こしかけたとしても、目詰まりの原因により透過圧力が加わることで弁機能様な作用により目詰まりが解消されて正常なスリット状態に復帰し正常な透過乳化状態に戻ることを満足する強度、しなりを有する金属シート又はプラスチックシート2を選定するのが好ましい。
【0009】
さらに、スリット1の大きさを選択することによりエマルションの粒子径をコントロールすることが可能で、スリット1の形状を選択することにより、スリット1の弁が液体透過時に微振動を起こしながら効率よくエマルション粒子を生成することができる。図2に示すスリット1を有する金属シート又はプラスチックシート2を図3又は、図4に示すようにディスク状のスリット膜2を断続的に一定あるいは不定間隔に設置し、段階的にスリット1を透過させることで効率よく微細エマルションを生成することができる。また、図2に示すスリット1を有する金属シート又はプラスチックシート2を図5に示すようにスペーサー4を挟んでロール状に捲いたスリット膜3とし、外圧式5又は、内圧式6に乳化液体を透過させることで、入口直面の隔壁のスリット1から入り込んで混合乳化されたエマルションが次の隔壁のスリット1に入り込んで更に混合乳化され、随時各隔壁に設けたスリット1を段階的に透過することによりエマルション粒径の均一性を整えていくことが可能で、段階的に全ての隔壁を経て最遠の隔壁を透過することにより微細な粒子のエマルションを生成することができる。又は、図7に示すように図2に示す金属シート又はプラスチックシート2をパイプ状にして、それぞれ独立したスリットパイプ膜3を間隔空けて重ねた断層膜とすることも可能である。本発明はエマルションを低エネルギーで短時間に効率よく生成することが可能で、エマルションを量産することができる実用生産プラントレベルにおいてもランニングコストが低く、スリット膜3の目詰まり不具合の心配もなくコンパクトでありながら実用生産量の確保も十分可能な現実的で画期的なエマルション生成方法である。
【0010】
本発明は特に液体中の除去できない不純物が乳化手段の一つである膜乳化で用いられるフィルター孔の目詰まりを解消できる弁機能様の構造を有する。すなわち、金属シート又はプラスチックシート2に一定圧力が加わるとスリットが弁機能様に作用する構造を有するスリット1で微細乳化することが可能な乳化手段である。また、分散相と連続相を同時に透過して微細なエマルション粒子を生成することのできる本発明のスリット構造は、透過乳化させる各相液に毛羽やスラッジなどスリットの目詰まり原因と考えられる異物が混入していてスリット1を透過する入口で堆積し目詰まりを起こしかけたとしても、目詰まりの原因により透過圧力が加わることで弁機能様な作用により目詰まりが解消されて正常なスリット状態に復帰し正常な透過乳化状態に戻る弁機能様な構造を有するスリット1を乳化手段とすることができる。
【0011】
本発明によれば、分散相液と連続相液をスリット膜に同時に供給透過させることにより、循環式又は、連続式にスリットの目詰まりを起こすことなく低エネルギーで短時間に効率よくエマルションを生成することができる。
【0012】
本実施例におけるスリット膜として、図3に示すように、ステンレス製の厚み0.2mmの金属板にストレートスリット又はクロススリット1を設けた1段のディスク状のスリット膜2を用いて、図8に示すポンピングコネクター7を介したシリンジスケール8及び9でポンピング乳化を実施した。また、図2に示すように、スリット1を数箇所設けた金属シート又はプラスチックシート2を、図5のように筒状に巻いたスリット膜を用いてステンレス製モジュールに収納し、図12に示す乳化方法で毛羽やスラッジなど固形不純物微粒子の多いC重油を連続相として水を分散相とするW/O系のエマルション燃料の生成を行った。一般にエマルション生成する条件に従い連続相液に乳化剤を添加する。ただし、本実施例のC重油エマルション燃料生成にはC重油の特徴から乳化剤の添加は行わなかった。
【0013】
[試験例1]
本実施例のスリット膜2で用いた金属板の形状寸法は、厚み0.2mm、外径6mmのディスク状でこの中央にストレートスリット、クロススリット1を設けている。比較対象として膜乳化法で周知のシラス多孔質ガラス(以下、SPG膜乳化)で生成されるエマルションの粒子径を観察した。図8に本試験例装置の概略を示す。本試験例はシリンジ相液を繰返し交互に押し合うことによるポンピング乳化である。エマルション形態としてO/Wエマルションを生成することとし、分散相には大豆油、連続相水溶液には乳化剤としてドデシル硫酸ナトリウム(以下、SDS)を0.5%添加した。添加する乳化剤は利用目的に適したエマルション組成の乳化剤が用いられ、本発明の膜乳化技術で生成されるエマルションの品質に影響を及ぼすものではない。
【0014】
【表1】

【0015】
表1に示すように、エマルション粒度分布を比較するとSPG膜乳化による図11の単分散性に対しては劣るが、スリット膜乳化による図9、図10に示す単分散性は微細粒子径を得るという目的を考慮すると十分満足するエマルション生成方法であることがわかる。
【0016】
[試験例2]
本試験例のスリット膜乳化は図12に示すように分散相液室10、連続相液室11から同時に送液ポンプ12によりスリット膜モジュール13、さらにスリット膜モジュール14へと送液しながらスリット膜モジュールを連続式に2段階又は、3段階と段階的に透過させることにより微細エマルション粒径を均一に整えていくことが可能なシステムの乳化装置である。本試験例のスリット膜乳化は、図12に示すシステムの1段式スリット膜モジュールで、スリット膜モジュール13には図2示す厚み0.2mm横120mm、縦40mmのステンレス製シートを用い、シートには横に12行、縦に5列のストレートスリットを設けて、これを1巻の外径約10mmの筒状のスリット膜とした。本実施例では、連続相液を乳化剤0.5%ドデシル硫酸ナトリウム水溶液とし、分散相液に大豆油を用いたO/W系エマルション13を生成した。また、連続相液に乳化剤を添加しないC重油、分散相液に水道水を用いたW/O系エマルション燃料を生成した。このC重油は、粘度が高く常温では送液ポンプ12の能力次第で送液不可能であるため本実施例では連続相液タンク11を約60℃に加温しながら膜透過乳化を実施した。また、一般的にC重油は、化石燃料においてスラッジや毛羽など不純物固形微粒子が多い燃料であり、膜乳化で利用される微細孔を有する無機多孔質膜では液体透過すると直ぐに目詰まりを起こす可能性がある。
【0017】
【表2】

【0018】
本試験例では、表2に示すようにスラッジなど固形微粒子が混入していても乳化手段であるスリットは目詰まりすることなく長時間本来の微細エマルション生成を目的とする機能を発揮するものと考えられる。O/W大豆油エマルションの粒度分布を図13に、W/O水エマルションC重油燃料の粒度分布を図14に示す。微細エマルションを生成する目的と考えれば十分満足するものである。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係るシートに形成される種々のスリットパターンの例を示す平面図である。
【図2】本発明に係るスリットを設けたシートの一実施例を示す斜視図である。
【図3】図2のシートをディスク状に形成し断続的に設けたスリット膜を示す斜視図である。
【図4】図3のスリット膜の間隔を密にした状態を示す斜視図である。
【図5】図2のシートを巻回したロール状のスリット膜を示す斜視図である。
【図6】図5のA矢視断面図である。
【図7】図2のシートを筒状にして間隔を空けて重ね合わせたスリット膜を示す斜視図である。
【図8】本発明に係る乳化方法に使用するデバイスを示す斜視図である。
【図9】クロススリット膜乳化によるエマルション粒度分布を示すグラフである。
【図10】ストレートスリット膜乳化によるエマルション粒度分布を示すグラフである。
【図11】SPG膜乳化によるエマルション粒度分布を示すグラフである。
【図12】本発明における乳化装置を模式的に示す構成図である。
【図13】本発明により生成したO/Wエマルション粒度分布を示すグラフである。
【図14】本発明により生成したW/O・C重油エマルション燃料粒度分布を示すグラフである。
【符号の説明】
【0020】
1 スリット
2 ストレートスリットを設けた金属シート又は、プラスチックシート
3 シートをロール状に束ねたスリット膜
4 スペーサー
5 混合液の透過方向(外圧式)
6 混合液の透過方向(内圧式)
7 ポンピングコネクター
8 分散相液室
9 連続相液室
10 送液ポンプ
11 1段目スリット膜モジュール
12 2段目スリット膜モジュール
13 エマルション

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属シート又は、プラスチックシートに設けたスリットに分散相の水と連続相の軽重質油を透過して乳化することを特徴とする軽重質油中水滴型(W/O)エマルション燃料の生成方法。
【請求項2】
スリットが弁機能様に作用する弁構造を有することを特徴とする請求項1記載の軽重質油中水滴型(W/O)エマルション燃料の生成方法。
【請求項3】
断続的に設けたスリットを有する金属シート又は、プラスチックシートに分散相の水と連続相の軽重質油を透過して乳化することを特徴とする請求項1又は請求項2記載の軽重質油中水滴型(W/O)エマルション燃料の生成方法。
【請求項4】
スリットを有する金属シート又は、プラスチックシートを筒状に丸め、分散相の水と連続相の軽重質油を外圧式又は内圧式に透過して乳化することを特徴とする請求項1又は請求項2記載の軽重質油中水滴型(W/O)エマルション燃料の生成方法。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4記載のスリット膜を備えたことを特徴とする軽重質油中水滴型(W/O)エマルション生成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2007−105678(P2007−105678A)
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−300748(P2005−300748)
【出願日】平成17年10月14日(2005.10.14)
【出願人】(597011566)エス・ピー・ジーテクノ株式会社 (13)
【Fターム(参考)】