弁輪形成用リング
【課題】シースと、弓形の補強要素と、引張部材とを含んでいる弁輪形成リングを提供する。
【解決手段】補強要素は、シース内に配置されており、或る横方向間隔だけ離して配置されている別々の第1端部と第2端部を画定している。引張部材は、補強要素の両端部の間を伸張している。引張部材は、補強要素より可撓性が高いことを特徴とし、引張部材が実質的に伸びず、横方向間隔が拡がるのを防ぐ、ピンと張った状態を提供するように構成されている。この構成では、補強要素は、弁輪を所望の形状に改造するように働き、一方、引張部材は、(ピンと張った状態で)体内の力による弁輪の拡張の程度(例えば、補強部材の第1端部と第2端部の明白な横方向の分離)を制限しながら、弁輪が自然な運動を行えるだけの可撓性を呈する。
【解決手段】補強要素は、シース内に配置されており、或る横方向間隔だけ離して配置されている別々の第1端部と第2端部を画定している。引張部材は、補強要素の両端部の間を伸張している。引張部材は、補強要素より可撓性が高いことを特徴とし、引張部材が実質的に伸びず、横方向間隔が拡がるのを防ぐ、ピンと張った状態を提供するように構成されている。この構成では、補強要素は、弁輪を所望の形状に改造するように働き、一方、引張部材は、(ピンと張った状態で)体内の力による弁輪の拡張の程度(例えば、補強部材の第1端部と第2端部の明白な横方向の分離)を制限しながら、弁輪が自然な運動を行えるだけの可撓性を呈する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2006年6月2日出願の米国仮特許出願第60/810,600号「弁輪形成リング及び形成術」の恩典を請求し、その開示全体を、参考文献としてここに援用する。
【0002】
本発明は、概括的には、弁輪形成プロテーゼ、及び心臓弁を修復するための方法に関する。より具体的には、患者の心臓の弁輪、例えば僧帽弁輪を手術で再建するための弁輪形成リングと、それに関連する器具及び処置に関する。
【背景技術】
【0003】
弁輪形成プロテーゼは、一般的に弁輪形成リング又は弁輪形成バンドの何れかに分類されるが、弁再建術と組み合わせて用いられ、狭窄症及び弁不全の様な心臓弁欠陥の矯正を支援する。心臓には、2つの房室弁がある。僧帽弁は心臓の左側に位置しており、三尖弁は右側に位置している。解剖学的に言えば、各弁型式は、弁輪と弁尖を形成又は画定している。このため、僧帽弁と三尖弁は、解剖学的には相当に異なっている。例えば、僧帽弁の弁輪は「D」字形に近いのに対して、三尖弁の弁輪は円形に近い。
【0004】
両方の弁は、当該弁を修復又は置換しなければならないほどの損傷を受け、又は被ることもある。弁の機能不全の影響は様々である。例えば、末期心筋症の合併症である僧帽弁の逆流は、三尖弁の逆流に比べ、患者への生理学的影響がより過酷である。ではあるが、多くの欠陥は、弁輪の拡張を伴っている。この拡張は、心弁の完全な機能を妨げるのみならず、弁開口部の正常な形を歪める結果となる。従って、殆どの僧帽弁再建処置の中心になるのが、弁輪の改造である。この点に関し、臨床経験は、弁の修復が技術的に可能であれば、そうする方が、弁を取り替えるより長期的に良好であることを示している。
【0005】
弁尖及びそれらに付帯する腱索と乳頭筋の病状を治すために、数多くの処置が述べられてきた。例えば、僧帽弁では、小さい前尖と接合又は相接するのは、大きい後尖を有する二尖弁である。僧帽弁輪の、前尖に取り付けられている部分は、前面と呼ばれ、後尖に取り付けられている部分は、後面と呼ばれる。前面をほぼ跨いでいるのが、2つの線維三角である。僧帽弁の修復では、これを念頭において、2つの三角の間の正常な距離を保つことが重要であると考えられている。三角間の距離が手術で大幅に減少すると、左心室の流出障害の起こることがある。従って、僧帽弁修復手術中及び手術後も、自然な三角間距離を維持することが望ましい。
【0006】
僧帽弁が手術で修復されると、一般的に、僧帽弁輪の後面が小さくなる。代表的な僧帽弁修復の一環として、弁が閉じたときに弁尖が正しく接合するように、弁輪を小さくする(即ち、収縮させる)か、或いは、手術後に拡張が起きないように、しばしば、プロテーゼリング又はバンドの何れかを輪の上方の位置に移植することにより、弁輪又はその区画(例えば、前面又は後面)を安定させる。リング又はバンドの目的は、弁の機能不全を補正及び/又は防止するために、弁輪を制約し及び/又は支援することである。しかしながら、許容できない弁の狭窄が起こる恐れがあるので、弁輪を過剰に制約しないことが重要である。三尖弁の修復では、通常は、バンドの一部を後尖区画に、一部を隣接する前尖区画の小さな部分に配置することにより、弁輪の収縮が起こる。通常は、中隔尖区画を短くする必要は無い。
【0007】
先に述べた様に、弁輪形成リングと弁輪形成バンドは、共に、房室弁の修復に利用することができる。弁輪形成リングの例は、米国特許第5,306,296号、第5,669,919号、第5,716,397号、及び第6,159,240号に示されており、その教示を参考文献としてここに援用する。一般に、弁輪形成リングは、弁輪の前面及び後面の両方を完全に包み込み、剛性(又は半剛性)設計か、又は可撓性設計になっている。一方、弁輪形成バンドは、主に、弁輪の一部分だけを包み込むよう特別に設計されている。弁輪形成リングは、剛性又は半剛性構造で、機能不全弁輪を、弁の正常な収縮期の形状に似た所望の形状に改造する役目を果たす。この点で、僧帽弁に関して、最近の研究は、健康な僧帽弁輪が、収縮期に拡大する自然なサドル形を有していることを確認している。このサドル形状に更に良く似た剛性のある弁輪形成リングを提供する努力がなされてきており、例えば、米国特許第6,858,039号と米国特許公告第2003/0093148号に示されており、その教示を参考文献としてここに援用する。この改造/剛性弁輪支持は、実用的であるが、拡張期及び収縮期の間に機能しているときに、特に僧帽弁の前面で、Parrish, L. M.らが「The Dynamic Anterior Mitral Annulus」(Annals. Of Thoracic Surgery 2004、78:1248−55)で示唆している様に、僧帽弁輪の自然な動きを明白に制約する恐れがある。
【0008】
提案されているサドル形状の弁輪形成リングは、健康な弁輪の自然な形状に非常に良く似せた弁輪改造の実現を支援するが、他にも懸念はある。例えば、弁を修復するのに適した寸法のサドル形弁輪形成リングを正確に見積もることは難しい。具体的には、従来の弁輪形成リングの移植処置では、先ず心臓バイパス手術を行い、次いで採寸器具を使用して当該弁輪の寸法を見積もる必要がある。一般的には、外科医は、多数の異なる大きさの弁輪形成リングを、それぞれ手元の弁輪形成リングの一つ一つに対応する寸法形状を有する多数のサイザー本体と共に、使用することができなければならない。心臓は、心臓バイパス形成手術中は弛緩しているので、当該弁輪は、拡張期の形状になる(例えば、基本的に非サドル形状か、又は平坦である)。対照的に、サドル形の弁輪形成リングと、従って、それに対応するサイザー本体は、収縮末期の弁輪形状を反映している。従って、サドル形のサイザー本体を比較的平坦な弁輪と比べると、拡張末期状態は、正確な採寸見積もりを提供しない。更に、提案されているサドル形僧帽弁の弁輪形成リングは、拡張型心筋症と虚血性僧帽弁逆流の症例では、弁尖を束縛する恐れもある。更に、弁輪形成リングが、弁輪を剛性又は半剛性改造するために、収縮末期状態に関係付けられたサドル形状に作られている場合、既存の弁尖では歪んでしまい、更に、弁が収縮状態と拡張状態の間を移行するときに、弁輪形成リングは相当な力を受けるので、破裂又は裂開の様な、疲労から来る長期の弁輪形成リングの劣化に繋がる恐れがある。
【0009】
弁輪形成リングとは対照的に、弁輪形成バンドは、主に弁輪の一部分だけを包み込むように特別に設計されている。例えば、僧帽弁の弁輪形成バンドは、通常、僧帽弁輪の後面だけを包み込み、而して、前面の自然な動きを促すように構成されている。弁輪形成バンドの例は、米国特許第5,824,066号、第6,786,924号、及びPCT国際特許公告WO00/74603号に示されており、それらの教示を参考文献としてここに援用する。弁輪形成バンドは、非常に実用的ではあるが、他の懸念もある。先ず、或る種の弁輪形成バンドの外形(例えば、厚さ)は、理論的には、血流を制約又は乱すほどに大きい。更に、弁輪形成バンドは、バンドで包み込まれていない弁輪面(例えば、僧帽弁輪の前面)に起こり得る拡張を十分に制約できるほどではない。虚血性僧帽弁逆流と拡張型心筋症の2つは、何もしなければ前方拡張の可能性もあるこれらの現象の臨床例である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国仮特許第60/810,600号
【特許文献2】米国特許第5,306,296号
【特許文献3】米国特許第5,669,919号
【特許文献4】米国特許第5,716,397号
【特許文献5】米国特許第6,159,240号
【特許文献6】米国特許第6,858,039号
【特許文献7】米国特許公告第2003/0093148号
【特許文献8】米国特許第5,824,066号
【特許文献9】米国特許第6,786,924号
【特許文献10】PCT国際特許公告WO00/74603号
【特許文献11】米国特許第6,786,924号
【特許文献12】本出願と同日出願の米国特許出願第XX/XXX,XXX号「ANNULOPLASTY PROSTHESIS WITH IN VIVO SHAPE IDENTIFICATION AND RELATED METHOD OF USE」
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Parrish, L. M.他「The Dynamic Anterior Mitral Annulus」(Annals. Of Thoracic Surgery 2004、78:1248−55)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記に鑑み、僧帽弁輪の様な健康な弁輪の形状及び機能の両方をより正確に反映する、改良された弁輪形成リングの設計、及び関係する手術器具と技法が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の原理による幾つかの態様は、弁輪を有する房室弁を修復するための弁輪形成リングに関する。リングは、シースと、弓形補強要素と、引張部材とを含んでいる。弓形補強要素は、シース内に配置されており、或る横方向間隔だけ離して配置された、別々の第1端部と第2端部を画定している。引張部材は、補強要素の両端部間の横方向間隔に沿って伸張している。この点に関し、引張部材は、補強要素より可撓性が高いことを特徴とし、ピンと張った状態を提供するように構成されている。ピンと張った状態では、引張部材は、実質的に伸びず、弁輪形成リングに外部の力が掛かったときに、補強部材の第1端部と第2端部の間の横方向間隔が拡がるのを防ぐ。この構成では、補強要素は、弁輪を所望の形状に改造するように働き、一方、引張部材は、(ピンと張った状態で)体内の力による弁輪の拡張の程度(例えば、補強要素の第1端部と第2端部の明白な横方向の分離)を制限しながら、弁輪が自然な運動を行えるだけの可撓性を呈する。更に、前面が、その自然な収縮期のサドル形状を取れるようにする。或る実施形態では、引張部材は、伸張方向を除く全ての方向で可撓性を提供するように構成されている。別の実施形態では、引張部材は、ピンと張った状態で、弁輪形成リングに約1ポンドの横方向引張荷重又は力を掛けたときに、第1端部と第2端部の間の横方向間隔が、0.2インチ以上増すことのないように構成されている。別の実施形態では、引張部材は、補強要素の第1端部と第2端部の間に輪を掛け、複数の区画リンクを画定している縫合糸を含んでいる。
【0014】
本発明の原理による他の態様は、外科医が、患者の心臓弁に弁輪形成手術を行って弁輪を画定する際に使用するための弁輪形成リングとホルダーの組み合わせに関する。組み合わせは、弁輪形成リングとホルダーを含んでいる。弁輪形成リングは、シース、弓形補強要素、及び引張部材を含んでいる。弓形補強要素は、シース内に配置されており、或る横方向間隔だけ離して配置されている別々の第1端部と第2端部を画定している。引張部材は、補強部材の両端の間の横方向間隔に沿って伸張しており、補強要素より可撓性が高いことを特徴としている。更に、引張部材は、引張部材が、実質的に伸びず、補強要素の第1端部と第2端部の間の横方向間隔が拡がるのを防ぐ、ピンと張った状態を提供するよう構成されている。ホルダーは、弁輪形成リングを選択的に保持し、リング保持プレートを含んでいる。プレートは、第1面内に、補強要素の曲率に概ね一致する第1曲率を形成し、第1面とは異なる第2面内に、第2曲率を形成するのが望ましい。最終組み付けの際には、弁輪形成リングは、リングの第1区画(補強要素に相当する)が第1曲率に組み付けられ、リングの第2区画(引張部材に相当する)が、リング保持プレートの第2曲率に組付けられるように、リング保持プレートに取り付けられる。従って、リング保持プレートは、弁輪形成リングの第2区画、即ち、引張部材を湾曲した状態に維持する。或る実施形態では、第2面は、第1面に概ね垂直なので、弁輪形成リングリングは、保持プレートに取り付けられると、サドル形状になる。別の実施形態では、リング保持プレートは、平坦であり、弁輪形成リングを平坦な形状に維持する。
【0015】
本発明の原理による更に別の態様は、僧帽弁を修復するために僧帽弁輪に移植するための弁輪形成リングに関する。弁輪形成リングは、シース、弓形補強要素、及び引張部材を含んでいる。弓形補強要素は、シース内に配置されており、或る横方向間隔だけ離して配置されている別々の第1端部と第2端部を画定している。引張部材は、補強部材の両端の間の横方向間隔に沿って伸張しており、補強要素より可撓性が高いことを特徴としている。これを念頭において、リングは、引張部材に相当する領域に沿って前方区画を画定し、補強要素に相当する領域に沿って後方区画を画定する。前方区画は、僧帽弁輪の前面に移植されるようになっており、一方、後方区画は、僧帽弁輪の後面に移植されるようになっている。最後に、補強要素は、僧帽弁輪の後面を改造するようになっており、引張部材は、前面の自然な構造に沿うように構成されている。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の原理による弁輪形成リングの上面図であり、一部を剥いで示している。
【図2】図1の2−2線に沿う断面図である。
【図3】図1の弁輪形成リングに使用されている補強要素の上面図である。
【図4】図1の一部分の拡大図であり、弁輪形成リング上の下に隠れている目穴の位置を示すために設けられたマークを示している。
【図5】図4と同様の図であり、目穴を示すために布製シースの一部が破られている。
【図6】本発明の原理による補強要素の1つの実施形態を、X−Y面とZ方向に関して示す斜視図である。
【図7】図6に示す補強要素の、X−Y面とZ方向の側面図であり、Z方向にサドル形状の湾曲を含んでいる実施形態を示している。
【図8】図1の弁輪形成リングに使用されている補強要素に適用された、本発明の原理による引張部材の実施形態の上面図である。
【図9】図1の弁輪形成リングの、9−9線に沿う断面図である。
【図10】本発明の原理による1つの実施形態の弁輪形成リングと、市販されている弁輪形成バンドに引っ張り試験を実施した結果を示すグラフである。
【図11】本発明の原理による、図1の弁輪形成リングと、それに組み合わせられるホルダーの分解斜視図である。
【図12A】図11のホルダーのリング保持プレート部分の上面図である。
【図12B】図12Aのリング保持プレートの端面図である。
【図13】図1の弁輪形成リングを、図12A及び図12Bのリング保持プレートに組み合せているところを示す分解斜視図である。
【図14A】図13の弁輪形成リングとリング保持プレートのアッセンブリの上面図である。
【図14B】図14Aのアッセンブリの底面図である。
【図14C】図14Aのアッセンブリの端面図である。
【図15】僧帽弁の上面図である。
【図16】図15の僧帽弁の弁輪に取り付けられている、本発明の原理による弁輪形成リングの上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の原理の態様による弁輪形成リング30を図1に示している。弁輪形成リング30は、特に、僧帽弁や三尖弁の様な房室弁の1つを修復するために作られている。指摘しておくべき点として、図1に示す弁輪形成リング30は、僧帽弁輪を修復するために作られており、他の弁輪構造(例えば、三尖弁輪)用の他の形状も含まれるものと理解されたい。従って、本発明は、僧帽弁輪形成に限定されるものではない。
【0018】
弁輪形成リング30は、補強ワイヤの様な補強要素32と、引張部材34と、補強要素32及び引張部材34を包み込む布製シース36と、を含んでいる。様々な構成要素の細部については以下に述べる。しかしながら、一般的には、補強要素32は、弁輪形成リング30に弓形を付与し、当該弁輪(図示せず)を所望の形状及び/又は寸法に改造できるように作られている。引張部材34は、引張力の下で伸張が制限されることによって補強要素32の両端が離れるのを制限するように作用し(下記)、補強要素32の両端部間を好適に伸張しており、補強要素32より可撓性が高いことを特徴としている。その様な可撓性は、可能性として、引張部材34を、移植するときに形を整え、圧縮運動(即ち、補強要素32の両端を互いに向けて撓ませるときの様に)を行わせることができるようにするが、両端が例えばゼロ又はそれ以上という所定の限界を超えて互いに離れる場合には、補強要素32の撓みを制限することができるようにして、作り出される。この様に、引張部材34は、移植後の弁輪の運動と共に動き、自然な弁輪の機能に順応することができる。更に、引張部材34は、引張部材34が実質的に伸びることの無いピンと張った状態を提供し、而して、補強要素32/弁輪形成リング30が口開き拡張するのを防ぐ働きをする。この様に、引張部材34は、弁の拡張によって体内に加わる荷重の様な、弁輪形成リング30を開くか又は拡張させることになりかねない、荷重又は力に抵抗するように働く。
【0019】
或る実施形態では、補強要素32は、米国特許第6,786,924号に記載されている補強要素の実施形態と同類であり、同特許の教示を参考文献としてここに援用する。これを念頭において、更に図2を見ると、補強要素32は、1つの実施形態では、エラストマー熱可塑性ポリマー(例えば、ポリウレタン)又はシリコン(例えば、液体シリコンゴム(LSR))の様な、生体適合性の、生体安定性の、移植可能な、医療等級のエラストマー保護被覆42で被覆成形された、補強ワイヤ40であるか、又はそれを含んでいてもよい。代わりに、保護被覆42は、補強ワイヤ40が中に配置されている、エラストマー熱可塑性ポリマー(例えば、ポリウレタン)又はシリコン(例えば、液体シリコンゴム(LSR))の様な、生体適合性の、生体安定性の、移植可能な、医療等級のエラストマーで構成されているチューブであってもよい。別の実施形態では、保護被覆42は無くてもよい。
【0020】
図3に示す様に、補強要素32(例えば、補強ワイヤ40)は、別々の第1及び第2端部46、48を画定し、或る実施形態では、第1及び第2端部46、48に、それぞれ、目穴50、52を含んでいる。例えば、補強要素32がワイヤ40によって形成されているか、又はワイヤ40を含んでいる場合は、ワイヤ40の互いに反対側の端部46と48を曲げ戻して、目穴50、52を形成すれば、補強要素32を単一長のワイヤで構成することができる。ここで用いる「目穴」は、周囲が実質的に閉じた開口を意味しているが、特定の形状である必要はない(例えば、目穴は、円形、方形、長方形、台形、六角形、涙形、楕円形、長円形、又は他の何れの適した形状でもよいが、応力集中が低く、丸みを帯びた輪郭の形状が一般に望ましい)。補強要素32がワイヤ40を含んでいる実施形態では、ワイヤ40が各目穴50、52を形成した後でスプリングバックするために、目穴50、52の外周には、例えば約0.5mmの隙間がある。何れにしろ、図4と図5に示している様に、目穴50と52は、少なくとも1つの縫合糸61を通して、弁輪形成リング30を、僧帽弁、三尖弁などの様な心臓弁の弁輪(図示せず)に固定するようになっている。しかしながら、代わりに、補強要素32は、他の構造であってもよいし、目穴50及び/又は52の一方又は両方を含んでいなくてもよい。或いは、1つ又は複数の追加構成要素を使って、目穴を追加してもよい。
【0021】
補強要素32として使用できる形状について、以下に詳細に述べる。しかしながら、一般的に言えば、補強要素32は、弁輪形成リング30を取り付けようとする弁輪の生来の又は自然な形状に、少なくとも修正又は矯正された輪又は輪の部分の所望の寸法に関して、合致する形に作られるのが望ましい。而して、補強要素32は、僧帽弁輪修復では、概ね、生来の自然な僧帽弁後方弁輪構造に似た形(即ち、概ね対称的で、馬蹄形に似た形状)に作られ、或いは、概ね、生来の自然な三尖弁輪構造(即ち、非対称的にオフセットした曲線)に似た形に作られる。
【0022】
図3に戻るが、弁輪形成リング30が僧帽弁(図示せず)を修復するように作られている或る実施形態では、補強要素32の弓形は、僧帽弁輪の自然な後面構造と一致するように作られている。より具体的には、弁輪形成リング30は、移植後に、補強要素32が、前外側三角に隣接する点から後弁尖を越えて伸張し、第2端部48が後内側三角に隣接するように作られているのが望ましい。更に、目穴50と52(設けられている場合)は、前外側三角と後内側三角で弁輪に固定されるように配置されるように作られており、第1目穴50が弁輪の下交連を包み込むように配置されて維持され、第2目穴52が弁輪の上交連を包み込むように配置されて維持されるように、両方の三角及び隣接する交連を包み込むことができるほど大きいのが望ましい。何れにしろ、補強要素32は、単独で弓形を画定して維持し、別々の第1及び第2端部46と48が、自由な又は自然な状態で横方向間隔LNだけ離れているように作られている。つまり、外部の力又は応力が補強要素52に加わらなければ、端部46と48は、横方向間隔LNだけ離れている。
【0023】
図6は、二次元で画定された弁輪形成リング30を示しており、手術中にそうである様に、比較的平坦で、緩んだ又は弛緩している弁輪形状に相応している。図7は、補強ワイヤ40の或る実施形態の三次元の形状を示しており、X−Y面内で概ね弓形(例えば、C字形)であり、Z方向では概ねサドル形状である。この構成も、図6に示す様な平坦な形状に組み込むことができると考えられ、一般的には、僧帽弁輪の後面の期待されている自然な形状に合致するよう設計することができる。この構成では、補強ワイヤ40は、X−Y面内で複雑な曲線を形成し(例えば、図3と図6参照)、(a)第1曲率半径R1を有する中間部分66と、(b)第2曲率半径R2を有する互いに反対側の端部68を含んでおり、第1曲率半径R1は、第2曲率半径R2より大きい。例えば、互いに反対側の各端部68は、(i)中間部66から外向きに伸張している、X−Y面内で第2曲率半径R2を有する移行区画70と、(ii)移行区画70から伸張している、X−Y面内で第3曲率半径R3を有する末端区画72を含んでいる。この僧帽弁修復のための1つの実施形態では、第1曲率半径R1は、第2曲率半径R2より大きく、第2曲率半径R2は、第3曲率半径R3より大きい。各半径R1、R2、及びR3の好適な大きさは、この制約の中で、修復する僧帽弁の大きさによって変わる。代わりに、補強ワイヤ40は、僧帽弁輪の修復に適した別の形状であってもよく、先に述べた1つ又は複数のX−Y面曲率を含んでいてもいなくてもよい。補強ワイヤ40/補強要素32は、これらの方針に沿って、Z方向に、より明白な或いはそれほど明白でない曲率を提供し、Z方向に複雑な曲率を画定していてもよい。更に、補強ワイヤ40と、従って補強要素32は、完全に異なる形状をしていてもよく、その形状に、例えば、生来の三尖弁構造に望ましい様なサドル形又はZ方向構成要素が含まれていてもいなくてもよい。
【0024】
補強要素32/補強ワイヤ40の形状は、図7に示しているものだけでなく、他の形状でも構わない。例えば、補強要素32を、収縮末期状態(即ち、僧帽弁が閉じているとき)の僧帽弁の自然な形状に似せて形成してもよい。代わりに、補強要素32は、自然な収縮末期形状と拡張末期形状の間の僧帽弁輪形状に対応して高さ(即ち、Z方向の曲率)が変化することを反映して、それほど明白でないサドル形状を有していてもよい。しかしながら、ここでも、補強要素32は、目下知られているか、又は今後開発される様な異なるリング設計が必要とする様々な他の形状を取ることができる。更に、リングを構成する材料が許せば、様々な形状も可能である。
【0025】
上記形状特性を提供するのに加え、補強要素32には、或る実施形態では、移植後に、X線、MRI、超音波図などを含め様々な既存の技法又は将来開発される何れかの技法を使って容易に視認できるように、放射線不透過性、エコー源性、及び/又は他の画像化強化策が施されている。「放射線不透過性」とは、材料又は要素が、放射線の通過を阻止することである。「放射線」は、電磁エネルギー、光などを含んでいる。「エコー源性」とは、音波を反射することである。例えば、金属ワイヤは、放射線不透過性である。補強要素32がワイヤ40を含んでいるか、又は備えている場合、ワイヤ40は、どの様な医療的に受容可能な、移植可能な、生体適合性金属で形成してもよく、例えば、MP35N合金、チタン、ステンレス鋼、ニチノールの様な形状記憶材料、或いは他の同様な不活性生体適合性金属が該当する。例えば、適切なワイヤは、ペンシルベニア州ワイオミッシングのCarpenter Technology社からMP35Nとして市販されている、鍛造コバルト−35ニッケル−20クロム−10モリブデン合金である。弁理士事件整理番号MTI0033/USの、本出願と同日出願の米国特許出願第XX/XXX,XXX号「ANNULOPLASTY PROSTHESIS WITH IN VIVO SHAPE IDENTIFICATION AND RELATED METHOD OF USE」は、「画像化要素」と呼ばれる放射線不透過性、エコー源性、及び/又は他の画像化強化要素を組み込んだ弁輪形成リングを教示している。同出願全体を、参考文献としてここに援用する。
【0026】
或いは、補強要素32は、モールド成形されたポリマー要素を備えていてもよい(例えば、基本的にこれで構成されていてもよい)。これらの代替実施形態では、モールド成形されたポリマー要素は、限定するわけではないが、硫酸バリウムの様な、電磁エネルギーを透過させない放射線不透過性被覆又はフィラーを含んでいるのが望ましい。目穴50、52(設けられている場合)は、補強要素32の残りと一体モールド成形してもよいし、別々に成形した後で、モールド成形された要素に組み付けてもよい。
【0027】
図1に戻るが、引張部材34は、(概略的に言えば)補強要素32の第1端部46と第2端部48の間を伸張しており、補強要素32より可撓性が高いことを特徴としている。引張部材34は、移植後は、弁輪の運動と共に動き、可撓性の度合いに応じて、自然な弁賃の機能に順応することができ、所定の限界を越えて伸張することだけが制限されているのが望ましい。加えて、引張部材34は、弁輪形成リング30の拡張、特に、第1端部46と第2端部48が、ピンと張った状態に達した後で互いに対し横方向に離れ又は運動するのを制限又は防止する。従って、引張部材34は、ピンと張った状態では、実質的に伸びず、以下に述べる様に、弁輪形成リング30を閉じる(例えば圧縮する)か、又は捩る荷重が掛かった場合にのみ可撓性を発揮する。
【0028】
引張部材34の「引張」という用語は、引張部材は、弁輪形成リング30に張力を加えることもできるが、実際に張力を加えるという意味ではない。引張部材34は、主に、第1端部46と第2端部48が離れるのを効果的に制限し、引張部材34がピンと張った状態に達したときに両端が離れないように保持する。自由な状態では、引張部材34は、所定量だけ離れてゆき可撓性を増す余地があり、その様な可撓性の結果、引張部材はより大きな形状を呈することができるようになる。可撓性は、更に、両端46と48が互いに向かって動けるようにすることによって、引張部材34が或る形状を取れる様にし、その効果で、引張部材34に働く張力が減るか又は無くなり、その可撓性に余裕ができる。両端46と48の互いに向いた運動は、移植後の弁輪運動の結果である場合もあるし、移植過程の一部(即ち、リング30を適所に縫合することによる)としてもたらされる場合もある。その様な移植は、望ましく形成するために以下に述べるホルダーを使用することによって制御することができる。
【0029】
上記の一般的な説明を念頭において、図8は、曲げ戻して目穴50、52を第1端部46と第2端部48それぞれに形成したワイヤ40の形態をしている補強要素32に装着されている引張部材34の1つの実施形態を示している。これを念頭において、図8に示している引張部材34の1つの実施形態は、第1端部46と第2端部48、具体的には目穴50と52の間に輪を掛け又は巻き付けられた縫合糸90である。この巻き付け構造によって、縫合糸90は、5個、7個又は9個の区画リンク92の様な複数の区画リンク92を画定する(これより多いか又は少ない数のリンク92を形成又は提供してもよい)。縫合糸90は、第1及び第2の滑動結び目94、96を、目穴50、52それぞれの内側に隣接して形成するように、補強要素32に取り付けられている。更に、縫合糸90の互いに反対側の端部98、100は、それぞれ、固定結び目102、104によって、補強要素32に固定されている。1つの実施形態では、滑動結び目94と96は、ループ状の縫合糸90が引っ張られると(即ち、引張り荷重Tが、第1端部46と第2端部48を互いに横方向に離す方向に引くか又はこれに力を加えると)自己締め付けする片結びの結び目である。代わりに、滑動結び目94、96は、様々な他の形態を取ることができ、或る実施形態では、省くこともできる。同様に、固定結び目102、104も様々な形態を取ることができ、1つの実施形態では、こま結びである。縫合糸90も様々な形態を取ることができ、或る実施形態では、編組ポリエステル3−0又は4−0縫合糸であり、代わりに、もっと大きい寸法の縫合糸(例えば、0から2−0)或いはもっと小さい縫合糸(例えば、5−0から6−0)を利用してもよい。別の実施形態では、引張部材34は、同様の一般的な構造を有しているが、1つ又は複数の実質的に伸びないポリマー又は布糸、金属ワイヤ糸などで形成されている。加えて又は代わりに、複数の縫合糸又は他の材料の糸であってもよい。更に別の実施形態では、単一の縫合糸90が、1つの固定結び目によって補強要素32に固定されている(即ち、固定結び目102、104の一方が無い)。更に別の実施形態では、引張部材34が、縁曲げ、滑り/圧入嵌合、接着剤などの様々な他の技法を使って補強要素32に固定されている。
【0030】
引張部材34は、アッセンブリの正確な形態又は方法に関係無く、図8のピンと張った状態に移行することができる。指摘すべき点として、図3に関して先に述べた様に、補強要素32は、自然に湾曲形又は弓形を呈する剛性又は半剛性の材料で形成されている。横方向間隔LN(図3)は、この自然な形状又は状態で、第1端部46と第2端部48の間に確立される。これを念頭において、或る実施形態では、引張部材34は、補強要素32が自然な状態にあるときにピンと張るように、補強要素32に取り付けられている。言い換えると、区画リンク92の長さLTは、自然な横方向間隔LNと同じなので、引張部材34は、両端46、48を互いに向けて押し付けることはない。別の実施形態では、引張部材34は、補強要素32を、具体的には第1端部46と第2端部48を、自然な状態から引っ張るか又は内向きに撓ませるように作られ、及び/又は補強要素32に取り付けられている。この代替構造では、第1端部46と第2端部48が横方向間隔LNより短い横方向間隔LTとなるように、引張部材34が補強要素32を僅かに引き締める。補強要素32は、引張り荷重又は力を引張部材34に効果的に印加して、弁輪形成リング30が他の外部の力を受けていない状況の下で、確実に、引張部材34をピンと張った状態にする。逆に、補強要素32が自然な状態にあるときは、引張部材34は比較的弛緩している(即ち、弁輪形成リング30(図1)が外部の力を受けていないときは、区画リンク92に張力が働かないように、区画リンク92の長さLTは、補強要素32が確立する自然な横方向間隔LNより大きい)ように、引張部材34を構成し、及び/又は補強要素32に取り付けてもよい。この構造では、引張部材34は、ピンと張った状態に達するまでに、横方向間隔LNが制御された量だけ拡張できるようにする。何れにしろ、以下に詳細に述べる様に、引張部材34は、補強要素32の両端46、48が互いに向けて容易に内向きに撓むことができるだけの可撓性を呈し、しかも、引張部材34がピンと張った状態にあるときは、両端46、48が拡張又は伸張して互いに離れるのを実質的に防止する。
【0031】
図1に戻るが、布製シース36は、補強要素32と引張部材34の両方の回りに形成されているのが望ましい。或る実施形態では、布製シース36は、編物ポリエステル布(例えば、Dacron)を備えているが、織物、不織物(例えば、スパンボンド、メルトブロー、短繊維マトリクスなど)又は編組布、並びに、採取された生物組織(例えば、心膜組織)で形成されたシースも考えられる。随意的に、布製シース36に、どの様な各種生物適合性被覆を設けてもよい。
【0032】
布製シース36には、シース36に包み込まれている目穴50、52の配置又は場所を示すマークが付けられているのが望ましい(第2目穴52が図1に概略示されている)。例えば、シース36に、布製シース36とは対照的な色の縫合糸110で、目穴の配置の目印を付けてもよい。縫合糸で、目穴50及び/又は52を覆っている布に「X」を形成してもよい。代わりに、シース36に、各目穴50又は52の位置を示す何らかの生体適合性マークを付けてもよい。或る実施形態では、長手方向縫い目112(補強要素32を取り巻くシース36を示している図2に記している)を、シース36に沿って形成し、使用時は弁輪形成リング30の下側に向くようにして、移植されると、縫い目112が、弁組織に相対して、血流路の外側に配置されるようになっている。長手方向縫い目112は、シース36の領域に沿って続いており、図9で分かる様に、引張部材34を包み込んでいる。この点で、シース36は、補強要素32と引張部材34の全体を取り囲む連続構造として形成してもよい。しかしながら、他の実施形態では、シース36を、2つ以上の部分で構成し、その内の少なくとも一方を補強要素32に被せ、他方を引張部材34に被せている。何れにしろ、図9で分かるように、或る実施形態では、シース36は、引張部材34の領域では折り重ねられ、例えば、1つ又は複数の連続針目114a、114bによって比較的平坦な形状に保持されている。この構成では、弁輪形成リング30は、引張部材34の領域では平坦になっており、弁輪形成リング30の最大厚さ又は外形は、補強要素32に沿って画定される(図2)ことを特徴としている。更に、図1に示す様に、或る実施形態では、弁輪形成リング30は、更に、針目116と118が、シース36の引張部材34領域内に、補強要素32の各端部46と48に近接して形成されている。この様に構成すれば、針目116と118は、外科医が誤ってシース36を切断したときに、シース36がほつれるのを防ぐ。更に、これは、考えられる切断点近くで針目端部が切断された場合に、補強材目穴が布を貫通するのを防ぐ。
【0033】
或る実施形態では、先に述べた弁輪形成リング30の構造は、背が低いという属性を提供するのが望ましい。より具体的には、弁輪形成リング30は、或る実施形態では、最大断面厚さが約3mm以下であり、約2.7mm以下であるのが望ましく、約2.5mm以下であるのが更に望ましい。更に別の実施形態では、僧帽弁輪を修復する際に使用する弁輪形成リング30は、虚血性及び拡張性心筋症に対処するために、寸法/比率が小さくなっている。参考までに、僧帽弁に適用する場合、弁輪形成リング30は、長軸直径Dmaj(例えば、補強要素の両端46、48に近接している弁輪形成リング30の相対する側部間の距離)と、短軸直径Dmin(例えば、引張部材34に沿う弁輪形成リング30の領域と、引張部材34と真反対の領域との間の距離)を有していると言える。これらの約定を念頭において、或る実施形態では、短軸直径Dmin/長軸直径Dmajの比率は0.6より小さく、或る実施形態では、0.4から0.6である。それに比べて、最近入手できる弁輪形成リングと剛性の弁輪形成バンドは、短軸直径Dmin/長軸直径Dmajの比率(しばしばA/P比と呼ばれる)が0.6より大きく、例えば、0.618から0.711である。しかしながら、代わりに、本発明の原理による弁輪形成リング30は、多種多様な他の寸法を取ることもできる。
【0034】
先に述べた様に、引張部材34は、ピンと張った状態では、実質的に伸びない。ここでも、「ピンと張った状態」とは、引張部材34が、弁輪形成リング30に加えられる力による張力の働いている状態に置かれており、補強要素の端部46、48に横方向に伸ばそうとする荷重を付与していることを示している。引張部材34がピンと張った状態にあるときでも、両端46と48が互いに向かって動けるだけの可撓性はある。或る実施形態では、「実質的に伸びない」とは、引張部材34がピンと張った状態にあるときには、引っ張り荷重が掛かっても、引張部材34は、長手方向に僅かしか伸張しないということである。このため、以下に述べる様に、弁輪形成リング30に引っ張り試験を課してみると、引張部材34が実質的に伸びないという特徴が証明される。
【0035】
例えば、モデル1011インストロン試験機(較正第52147号)の様な適切な引っ張り荷重印加システムを用いて、弁輪形成リング30の引張部材34に、引っ張り荷重を掛けることができる。この方法では、引張試験固定具を、試験機の顎部にクランプし、次いで、弁輪形成リング30を、その固定具に取り付ける。次に、弁輪形成リング30に、引っ張り力が、弁輪形成リング30の引張部材34の互いに反対の側に付与されるように(即ち、引っ張り力が、長軸直径Dmajに沿って効果的に加えられるように、補強要素32の第1端部46と第2端部48に隣接して)加えられる。従って、加えられた引っ張り荷重は、第1端部46と第2端部48を互いに引き離す方向に引っ張る。引張部材34の実質的に伸びない特性は、上記引っ張り荷重を受けたときに、弁輪形成リング30が変位する量で特徴付けられる。これを念頭において、或る実施形態では、引張部材34の実質的に伸びない特性は、(上記)引っ張り荷重1ポンドを掛けたときの、弁輪形成リング30の横方向変位(又は補強要素32の第1端部46と第2端部48の間の横方向間隔LNの増加)は0.2インチ以下であることによって示される。別の実施形態では、実質的に伸びない特徴は、引張試験の引っ張り荷重が1ポンドのときの横方向変位が0.15インチ以下であることによって特徴付けられている。別の実施形態では、引張部材34の実質的に伸びない性質は、引張試験の荷重が2ポンドのときの輪形成リング30の変位が0.2インチ以下であることによって特徴付けられている。これらの方向に沿って、実質的に伸びない特性は、引張部材34を取り除くか又は切断し、修正された弁輪形成リング30を上記引張試験に再び掛けると明らかになる。この状態の下では、本発明の原理による弁輪形成リング30の横方向変位は、1ポンドの引張試験荷重で、引張部材34がそのままの(ピンと張った状態にある)場合は、0.2インチ以下であり、引張部材34を取り除くか切断した場合は、0.3インチ以上である。
【0036】
以上、本発明の具体的な実施形態を、代表的な弁修復処置で使用する場合に関して説明してきたが、形状、部品の配置、及び許容される伸びの程度の修正を含め、必要であれば弁の大きさ又は今後開発される技法に関係する様々な用途に応じて、様々な修正を施せるものと理解頂きたい。
【0037】
上記引張試験を基準にして、サンプルの弁輪形成リング(長軸直径24mm)を、本発明の原理に従って(即ち、MP35NワイヤにLSRシリコン材料を被せた補強要素と、補強要素の互いに反対側の端部の間に4−0縫合糸を輪掛けして7個の区画リンクを形成した引張部材と、編んだポリエステル布製シースとで)作り、引張試験に供した。同様の補強要素(即ち、MP35NワイヤにLSRシリコン材料を被せたもの)とシースで構成されているが、補強要素の両端を相互接続する引張部材を含んでいないFuture Band TMという商標名で(ミネソタ州フリドリーのメドトロニック(Medtronic)社から)市販されている幾つかの弁輪形成バンド(長軸直径26mm)も、同じ引張試験に供した。図10は、引張試験の結果を示すグラフである。弁輪形成リング(即ち、引張部材を含んでいる)の荷重対変位のデータを、図10に「R」で示し、弁輪形成バンド(即ち、引張部材を含んでいない)のデータを「B」で示している。図示の通り、引張部材が在る場合(R)は、弁輪形成バンドの場合(B)に比べて、横方向変位に対する抵抗が顕著である。比較するために代表的な弁輪形成リングについて述べているに過ぎず、本発明の範囲を本事例に限定するものではない旨申し述べておく。
【0038】
弁輪形成リング30と共に使用するためのホルダーの1つの実施形態を図11に示しており、その全体を参照番号130で示している。ホルダー130は、細長いハンドル132と、ハンドル132に選択的に取り付けられるリング保持プレート134とを含んでいる。リング保持プレート134は、弁輪形成リング30を移植する間、弁輪形成リング30を保持するようになっている。従って、僧帽弁を修復するための弁輪形成リング30が形成されている図示の実施形態によれば、リング保持プレート134の全体的な周囲形状は、僧帽弁輪の形状(図示せず)と概ね一致している。代わりに、勿論、リング保持プレート134の周囲形状は、図の形状とは異なっていてもよく、代わりに作られた弁輪形成リング30(例えば、三尖弁の弁輪形成リング)の形状と同じであってもよい。しかしながら、図示の1つの実施形態では、リング保持プレート134は、概括的には第1部分136と第2部分138を画定しており、各部分は、弁輪形成リング30の周囲形状の一方又は両方と概ね合致するように作られた周囲形状を画定しており、及び/又は、弁輪形成リング30又はその或る区画を所望の形状に矯正するように作られている。
【0039】
より具体的には、図12Aと図12Bに示すように、第1部分136の周囲は、第1面(即ち、図12Aの頁の面)例えば、X−Y面内に、曲率C1を画定するのが望ましい。曲率C1は、補強要素32(図1)によって画定される曲率に近似していて、弁輪形成リング30(図1)をリング保持プレート134に組み付けた(以下に述べる)ときに、第1部分136の曲率C1が、補強要素32の領域に沿った弁輪形成リング30の所定の曲率と一致するか又はそれに近似するようになっている。弁輪形成リング30の引張部材34は可撓性であるのが望ましいので、移植の目的で、リング保持プレート134で成形してもよい。参考までに、補強要素32がサドル形をしている実施形態では、リング保持プレート134は同様の形状をしていてもよい(即ち、第1部分136が、Z方向の形状又は曲率の変化を画定していてもよい)。又更に、弁輪形成リング30を僧帽弁修復に用いる場合は、補強要素32と、従って第1部分136は、僧帽弁輪の後面に対応している。
【0040】
第1部分136の周囲の正確な形状とは関係無く、或る実施形態では、図12Bで良く分かる様に、第2部分138の周囲が、第2面内で曲率C2を画定している。第2部分138の周囲の曲率C2は、Z方向(又は図12BのX−Z面)の変化として画定され、最終組み立て段階で、弁輪形成リング30の対応する領域をサドル形状に成形する役割を果たす(図1)。1つの実施形態では、第2曲率C2は、0.4から0.1インチの範囲の高さHの変化を画定するが、他の寸法でも同様に構わない。それとは別に、第2曲率C2は、第1曲率C1の面とは異なる面にあり(図12A)、或る実施形態では、第1曲率C1の面に実質的に垂直な面にある。
【0041】
或る実施形態では、特に図12Aに示すように、リング保持プレート134は、弁輪形成リング30(図1)をリング保持プレート134に固定するのに用いられる1つ又は複数の繰りひも又は縫合糸140(例えば、図13を参照)を受け入れるように作られている。例えば、リング保持プレート134は、複数の間隔を空けて配置された通路対142a−142kを形成している。各通路対142a−142kは、リング保持プレート134を横断貫通して伸張する2つの穴144(通路対142bについては、図12Aで良く分かる)を含んでいる。各穴144は、繰りひも縫合糸140を通せるように作られている。更に、何れかの通路対142a−142kを備えている穴144は、リング保持プレート134の一部によって分離されている。つまり、通路対142a−142kのそれぞれは、2つの別々の穴144を含んでおり、連続したスロットではない。この構成では、繰りひも縫合糸140は、図示の様に、リング保持プレート134の回りに通され、リング保持プレート134に係合される。或る実施形態では、通路対142c、142f、及び142jは、更に、リング保持プレート134の上面148から突き出ている2つのフィンガ146を含んでいる。フィンガ146は、それぞれの穴144の間に位置し、互いに間隔を空けて配置され、スロット150を画定している。更に、各フィンガ146は、繰りひも縫合糸140を受け入れるためのチャネル152を形成している。この構成では、以下に詳細に述べる様に、フィンガ146は、繰りひも縫合糸140を上面148から離れる方向に持ち上げて、繰りひも縫合糸140を切断するための空間(即ち、スロット150)を提供する。最後に、或る実施形態では、リング保持プレート134は、以下に述べる理由で、切り欠き154を形成している。
【0042】
上記を念頭において、弁輪形成リング30は、図13に示す様に、1つ又は複数の繰りひも縫合糸140を通路対142a−142kに通すことによって、リング保持プレート134に固定される。1つの実施形態では、第1繰りひも縫合糸140aは、第1通路対142aから(結び目160aを形成して)下向きに伸びて弁輪形成リング30の周りを回り、弁輪形成リング30から上向きに第2通路対142bまで伸びて、リング保持プレート134の下に達し、次に、第3通路対142cまで上向きに伸びて各フィンガの周りを回り、リング保持プレート134から下向きに伸びて弁輪形成リング30の周りを回り、弁輪形成リング30から上向きに伸びて第4通路対142dの周りを回り、最後に、結び目160bで終結している。同様に、第2繰りひも縫合糸140を用いて、弁輪形成リング30が、第5から第8通路対142e−142hを介して(結び目162aと162bの形成も含む)リング保持プレート134に接続されている。代わりに、1本の繰りひも縫合糸140を使用して、弁輪形成リング30を、第1から第8通路対142a−142hを介してリング保持プレート134に接続してもよい。それとは別に、第3繰りひも縫合糸140cを設けて、第9通路対142iから下向きに伸び(結び目164aを形成し)て弁輪形成リング30の周りを回り、弁輪形成リング30から第10通路対142jまで上向きに伸びて各フィンガ146の周りを回り、第10通路対142jから下向きに伸びて弁輪形成リング30の周りを回り、弁輪形成リング30から上向きに伸びて第11通路対142kの周りを回り、最後に、結び目164bで終結するようにしてもよい。1本の繰りひも縫合糸140を利用している実施形態もあれば、4本以上の繰りひも縫合糸140を利用している実施形態もある。「上」「上向き」「下向き」「下」などの方向を示す用語は、分かり易くするために、図13の方向に関係付けて用いている。弁輪形成リング30及び/又はリング保持プレート134は、他の様々な方向に配置することもできるので、方向を示す用語は、何ら限定を課すものではない。
【0043】
上記取付技法は、弁輪形成リング30をリング保持プレート134に固定するのに利用できる1つの技法に過ぎない。代替実施形態では、繰りひも縫合糸140を、弁輪形成リング30に別々の間隔を空けた場所で縫いつけている。
【0044】
弁輪形成リング30をリング保持プレート134に取り付ける最終組み付け段階を、図14A−図14Cに示している。図14Aの上面図で示している様に、切り欠き154は、目穴50、52(図14Aでは隠れているが、シース36のマーク110によって容易に識別できる)の回りに間隙を提供している。更に、繰りひも縫合糸140は、フィンガ146によって設けられているスロット150を介して容易に切断される。図14Bの底面を見ると、弁輪形成リング30は、リング保持プレート134の底面170に巧く取り付けられている。1つの実施形態では、底面170には、更に、タブ172、174、及び176が間隔を空けて形成されていて、リング保持プレート134への最終組み付けの際に、弁輪形成リング30の形状を概ね支持する働きをする。
【0045】
タブ172−176は、弁輪形成リング30を受け入れるための溝又は他の側壁曲率を形成していないのが望ましく、或る実施形態では、弁輪形成リング30の円周外形に沿っていない。代わりに、タブ172−176は、或る実施形態では、底面170の面に対して垂直に伸張し、弁輪形成リング30の外形に3つの点で接しており、これによって、リング保持プレート134が容易に製造できるようになり、同時に、弁輪形成リング30をプレート134から容易に外せるようになる。タブ172−176は、弁輪形成リング30との接点を提供し、別の実施形態では、これらのタブ172−176は、数がもっと多くても少なくてもよく、形も異なっている。
【0046】
先に述べた様に、弁輪形成リング30をリング保持プレート134に選択的に取り付けるのに別の構成/技法を利用することもできる。このために、繰りひも縫合糸140を必要としない様式で弁輪形成リング30を維持できるように、リング保持プレート134を構成してもよい。例えば、1つの代替実施形態では、タブ172−176は改造され、それぞれにリブ(又は半径方向に外向きの突起)が、底面170から間隔を空けて配置されている。組み合わせると、これらのリブは、弁輪形成リング30によって画定される曲率半径より僅かに大きい曲率半径を構成する。この構成では、弁輪形成リング30をリング保持プレート134に組み付ける際に、先ず、弁輪形成リング30を延ばす(即ち、両端46、48を互いに引き離す)ことになるので、弁輪形成リング30をリブ越に設置することができる。弁輪形成リング30は、一旦正しく配置されると、その延びが解消されて弁輪形成リング30とタブ172−176が接触するようになるので、弁輪形成リング30は、タブ172−176によって、リブと底面170の間に保持される。弁輪形成リング30は、弁輪に移植された後、操作してリング保持プレート134を引っ張り弁輪形成リング30から離すだけで、リング保持プレート134から解放することができる。
【0047】
図14Cの端面図では、繰りひも縫合糸140cが、弁輪形成リング30の対応する領域を、リング保持プレート134の第2部分138によって画定される曲率C2に、少なくとも概略一致させている。或る実施形態では、弁輪形成リング30の対応する領域は、引張部材34(図14Cでは隠れているが、図1に示されている)に沿って画定されているので、引張部材34が可撓性である場合は、引張部材34と弁輪形成リング30は、リング保持プレート134によって画定される形状に容易に沿うことになる。弁輪形成リング30は、最終組み付け時に、リング保持プレート134の少なくとも第2部分138に沿ってサドル形状になることが分かっている。リング保持プレート134から解放される(例えば、第3繰りひも縫合糸140cの切断により)と、引張部材34と、従ってそれに対応する領域内の弁輪形成リング30は、リング保持プレート134によって付与された形状から容易に変化することができる。以下に述べる別の実施形態では、引張部材34は、剛性が僅かに高い構造を含んでおり、これらの状況下では、リング保持プレート134、特にその第2部分138は、この剛性が高い構造によって画定される形状に対応する形状となっているので、引張部材34と、従って弁輪形成リング30は、リング保持プレート134から解放された際に、所定の形状を維持することになる。
【0048】
弁輪形成リング30の移植処置の一部として有用な追加構成要素は、サイザー装置である。この装置は、ハンドルとサイザー本体を含んでいる。サイザー本体は、ハンドルに選択的に組み付けられるように構成されており、弁輪形成リング30の形状(図1)に概ね合致する外周を画定している。
【0049】
外科医には、大きさは異なるが形状が同様な複数のサイザーを提供して、僧帽弁又は三尖弁の様な処置対象の弁によって異なるものを使えるようにするのが望ましい。大きさが異なるサイザーは、それぞれ、市販の弁輪形成リング30と対応しているのが望ましい。使用中に、外科医は、幾つかの異なる大きさのサイザーを使って(個々に)、修復する弁輪を見積もる。弁構造に最も近いサイザーが識別されると、そのサイザーに対応する弁輪形成リング30が、その患者用に選択される。
【0050】
例えば、本発明の原理によるホルダー130(図11)を使って、弁輪形成リング30を移植し、様々な心臓弁、特に房室弁を修復するのは、或る実施形態では、米国特許第6,786,924号に記載されている例に似ており、その教示を参考文献としてここに援用する。一般的には、サイザー、特にサイザー本体を利用して、対象の弁輪を見積もり、その見積に基づいて、適切な大きさの弁輪形成リング30(図1)を選択する。
【0051】
所望の弁輪形成リングの大きさを念頭において、選択された弁輪形成リング30を、図11に示している様にホルダー130に組み付ける。次に、ホルダー130を操作して、弁輪形成リング30を移植部位に進め、移植用縫合糸を使用して、弁輪形成リング30を弁輪に接続する。参考として、図15は、弁輪222、前外側三角224、後弁尖226、後内側三角228、下交連230、及び上交連232を含む僧帽弁220の構造の一部を示している。これらの約定を念頭において、僧帽弁輪222は、後面234と前面236を画定するか、又はそれらによって画定される。図16は、移植用縫合糸238によって僧帽弁輪222に固定又は移植された弁輪形成リング30を示している。
【0052】
図16の弁輪222に対する移植の向きに照らし、弁輪形成リング30は、後方区画240と前方区画242を含んでいる、又は画定していると言える。後方区画240は、僧帽弁輪222の後面234に対応し、補強要素32の領域(図16では隠れているが、図1に示されている)に沿って画定されている。前方区画242は、僧帽弁輪222の前面236に対応し、引張部材34の領域(図16では隠れているが、図1に示されている)に沿って画定されている。従って、最終的に移植されると、弁輪形成リング30の後方区画240、特に、これに付帯する補強要素32は、後面234の形状を、所望する程度に剛性又は半剛性的に作り変える役目を果たす。これに対し、前方区画242は、前面236の自然の運動と共に撓み、又は動き、補強要素の両端46、48が離れるのを制限することによって、前面236の明白な拡張を防ぐ(図1に全体的に示す)。別の実施形態では、弁輪形成リング30の前方区画242は、もう少し剛性のある構成になっている(例えば、引張部材34は、比較的細いワイヤを含んでおり、このワイヤは、補強要素32より可撓性は高いが、前面236の形を或る程度変える際に支援するように働く所定の形状を有している)。この代替構成では、前方区画242は、なお、前面236の自然な運動と共に動くことができ、ピンと張った状態にあるときは、弁輪形成リング30、特に補強要素32の明白な拡張を防ぐ。
【0053】
本発明の原理による弁輪形成リングは、今迄の設計に優る著しい改良を提供している。従来の弁輪形成リングとは異なり、本発明の原理による弁輪形成リングは、修復が行われる弁輪の対応する面が自然な運動を容易に行えるようにし、同時に、修復された弁の明白な拡張に対し十分に抵抗する。
【0054】
以上、本発明について好適な実施形態を参照しながら説明してきたが、当業者には理解頂けるように、本発明の精神及び範囲から逸脱すること無く、形態及び細部に変更を加えることができる。
【0055】
本発明の第1の態様は、弁輪を有する房室弁を修復するための弁輪形成リングであって、シースと、シース内の弓形の補強要素であって、或る横方向間隔だけ離して配置されている別々の第1端部と第2端部を画定している補強要素と、補強要素の両端部の間を伸張している引張部材とを備え、引張部材は補強要素より可撓性が高いことを特徴とし、引張部材が実質的に伸びず、弁輪形成リングに外部の力が掛かったときに第1端部と第2端部との間の横方向間隔が拡がるのを防ぐ、ピンと張った状態を提供するように構成されている。
【0056】
本発明の第2の態様は、第1の態様の弁輪形成リングにおいて、リングは、最終組み付け時に引張部材が自然にピンと張った状態になるように構成されている。
【0057】
本発明の第3の態様は、第2の態様の弁輪形成リングにおいて、引張部材は、ピンと張った状態で第1端部と第2端部の間の横方向間隔を圧縮できるように構成されている。
【0058】
本発明の第4の態様は、第3の態様の弁輪形成リングにおいて、引張部材は、ピンと張った状態から引張部材がサドル形状を画定する撓んだ状態に移行することができる。
【0059】
本発明の第5の態様は、第1の態様の弁輪形成リングにおいて、引張部材は、ピンと張った状態で、弁輪形成リングに1ポンドの横方向張力荷重が掛かったときに第1端部と第2端部の間の横方向間隔が0.2インチより大きく増すことのないように構成されている。
【0060】
本発明の第6の態様は、第5の態様の弁輪形成リングにおいて、弁輪形成リングは、引張部材が無い状態で、1ポンドの横方向引っ張り荷重が掛かったときに、横方向間隔が0.3インチより大きく増すことを特徴とする。
【0061】
本発明の第7の態様は、第1の態様の弁輪形成リングにおいて、引張部材は、補強要素の第1端部及び第2端部に接続されている縫合糸を含んでいる。
【0062】
本発明の第8の態様は、第7の態様の弁輪形成リングにおいて、縫合糸は、補強要素の第1端部と第2端部との間に輪掛けされて、複数の区画リンクを画定している。
【0063】
本発明の第9の態様は、第8の態様の弁輪形成リングにおいて、縫合糸は、補強要素に組み付けられて、少なくとも1つの自己締め付け式の結び目を形成している。
【0064】
本発明の第10の態様は、第8の態様の弁輪形成リングにおいて、縫合糸の第1端部は第1結び目によって補強要素の第1端部に固定されており、縫合糸の第2端部は第2結び目によって補強要素の第2端部に固定されている。
【0065】
本発明の第11の態様は、第7の態様の弁輪形成リングにおいて、引張部材は、複数の縫合糸を含んでいる。
【0066】
本発明の第12の態様は、第7の態様の弁輪形成リングにおいて、補強要素は第1端部と第2端部のそれぞれに目穴を形成しているワイヤを含み、縫合糸は目穴のそれぞれに接続されている。
【0067】
本発明の第13の態様は、第1の態様の弁輪形成リングにおいて、引張部材は、全体がシース内に配置されている。
【0068】
本発明の第14の態様は、第13の態様の弁輪形成リングにおいて、シースは、補強要素を包み込む第1部分と、第1端部と第2端部との間を伸張し、引張部材の大部分を包み込む第2部分であって、第1端部に隣接する第1区画と第2端部に隣接する第2区画とを有する第2部分と、を画定しており、弁輪形成リングは、更に、シースの第1区画を貫く第1針目と、シースの第2区画を貫く第2針目と、を備えており、針目はシースのほつれを制限するように構成されている。
【0069】
本発明の第15の態様は、第1の態様の弁輪形成リングにおいて、補強要素は、サドル形状を有している。
【0070】
本発明の第16の態様は、第1の態様の弁輪形成リングにおいて、弁輪形成リングは、長軸直径を補強要素の両端に隣接して画定し、短軸直径を引張部材と補強要素の引張部材とは反対側の点との間に画定し、短軸直径/長軸直径の比率は0.6より大きくない。
【0071】
本発明の第17の態様は、第16の態様の弁輪形成リングにおいて、比率は、0.4から0.6の範囲内にある。
【0072】
本発明の第18の態様は、第1の態様の弁輪形成リングにおいて、引張部材は、引張部材に自然な状態で補強要素が画定する主平面に対して面外の曲率を付与する可撓性ワイヤを含んでいる。
【0073】
本発明の第19の態様は、患者の心臓弁に弁輪形成手術を行って弁輪を画定する際に外科医が使用するための弁輪形成リングとホルダーの組み合わせであって、組み合わせは、弁輪形成リングと弁輪形成リングを選択的に維持するホルダーを備えており、弁輪形成リングは、シースと、シース内の弓形の補強要素であって、或る横方向間隔だけ離して配置されている別々の第1端部と第2端部を画定している補強要素と、補強要素の両端部の間を伸張している引張部材とを含んでおり、引張部材は補強要素より可撓性が高いことを特徴とし、引張部材が実質的に伸びず、弁輪形成リングに外部の力が掛かったときに横方向間隔が拡がるのを防ぐ、ピンと張った状態を提供するように構成されており、ホルダーは、補強要素の曲率と概ね同じ第1曲率を第1面内に形成し、引張部材を湾曲した配置に保持するための第2曲率を第1面とは異なる第2面内に形成するリング保持プレートを含んでいる。
【0074】
本発明の第20の態様は、第19の態様の組み合わせにおいて、第2面は、第1面に概ね垂直である。
【0075】
本発明の第21の態様は、第19の態様の組み合わせにおいて、引張部材は、第2曲率に沿うよう構成されている。
【0076】
本発明の第22の態様は、第21の態様の組み合わせにおいて、引張部材は、リング保持プレートから解放されると第2曲率から変化することができるように構成されている。
【0077】
本発明の第23の態様は、僧帽弁輪に移植するための弁輪形成リングであって、シースと、シース内の弓形の補強要素であって、或る横方向間隔だけ離して配置されている第1端部と第2端部を画定している補強要素と、補強要素の両端部の間を伸張している引張部材であって、補強要素より可撓性が高いことを特徴とする引張部材とを備え、弁輪形成リングは、引張部材に対応する領域に沿う前方区画であって、僧帽弁輪の前面に移植されるようになっている前方区画と、補強要素に対応する領域に沿う後方区画であって、僧帽弁輪の後面に移植されるようになっている後方区画と、を画定しており、補強要素は僧帽弁輪を改造するようになっており、引張部材は僧帽弁輪の前面の自然な構造に沿うように構成されている。
【0078】
本発明の第24の態様は、第23の態様の弁輪形成リングにおいて、引張部材は、引張部材が実質的に伸びず、弁輪形成リングに外部の力が掛かったときに補強要素の第1端部と第2端部との間の横方向間隔が拡がるのを防ぐ、ピンと張った状態を提供するように構成されている。
【0079】
本発明の第25の態様は、第23の態様の弁輪形成リングにおいて、引張部材は、僧帽弁輪の前面の運動と共に動くように構成されている。
【0080】
本発明の第26の態様は、第23の態様の弁輪形成リングにおいて、補強要素は、僧帽弁輪の後面の自然な収縮期の形状に概ね沿う形状を有している。
【0081】
本発明の第27の態様は、第23の態様の弁輪形成リングにおいて、補強要素は、サドル形状を有している。
【技術分野】
【0001】
本出願は、2006年6月2日出願の米国仮特許出願第60/810,600号「弁輪形成リング及び形成術」の恩典を請求し、その開示全体を、参考文献としてここに援用する。
【0002】
本発明は、概括的には、弁輪形成プロテーゼ、及び心臓弁を修復するための方法に関する。より具体的には、患者の心臓の弁輪、例えば僧帽弁輪を手術で再建するための弁輪形成リングと、それに関連する器具及び処置に関する。
【背景技術】
【0003】
弁輪形成プロテーゼは、一般的に弁輪形成リング又は弁輪形成バンドの何れかに分類されるが、弁再建術と組み合わせて用いられ、狭窄症及び弁不全の様な心臓弁欠陥の矯正を支援する。心臓には、2つの房室弁がある。僧帽弁は心臓の左側に位置しており、三尖弁は右側に位置している。解剖学的に言えば、各弁型式は、弁輪と弁尖を形成又は画定している。このため、僧帽弁と三尖弁は、解剖学的には相当に異なっている。例えば、僧帽弁の弁輪は「D」字形に近いのに対して、三尖弁の弁輪は円形に近い。
【0004】
両方の弁は、当該弁を修復又は置換しなければならないほどの損傷を受け、又は被ることもある。弁の機能不全の影響は様々である。例えば、末期心筋症の合併症である僧帽弁の逆流は、三尖弁の逆流に比べ、患者への生理学的影響がより過酷である。ではあるが、多くの欠陥は、弁輪の拡張を伴っている。この拡張は、心弁の完全な機能を妨げるのみならず、弁開口部の正常な形を歪める結果となる。従って、殆どの僧帽弁再建処置の中心になるのが、弁輪の改造である。この点に関し、臨床経験は、弁の修復が技術的に可能であれば、そうする方が、弁を取り替えるより長期的に良好であることを示している。
【0005】
弁尖及びそれらに付帯する腱索と乳頭筋の病状を治すために、数多くの処置が述べられてきた。例えば、僧帽弁では、小さい前尖と接合又は相接するのは、大きい後尖を有する二尖弁である。僧帽弁輪の、前尖に取り付けられている部分は、前面と呼ばれ、後尖に取り付けられている部分は、後面と呼ばれる。前面をほぼ跨いでいるのが、2つの線維三角である。僧帽弁の修復では、これを念頭において、2つの三角の間の正常な距離を保つことが重要であると考えられている。三角間の距離が手術で大幅に減少すると、左心室の流出障害の起こることがある。従って、僧帽弁修復手術中及び手術後も、自然な三角間距離を維持することが望ましい。
【0006】
僧帽弁が手術で修復されると、一般的に、僧帽弁輪の後面が小さくなる。代表的な僧帽弁修復の一環として、弁が閉じたときに弁尖が正しく接合するように、弁輪を小さくする(即ち、収縮させる)か、或いは、手術後に拡張が起きないように、しばしば、プロテーゼリング又はバンドの何れかを輪の上方の位置に移植することにより、弁輪又はその区画(例えば、前面又は後面)を安定させる。リング又はバンドの目的は、弁の機能不全を補正及び/又は防止するために、弁輪を制約し及び/又は支援することである。しかしながら、許容できない弁の狭窄が起こる恐れがあるので、弁輪を過剰に制約しないことが重要である。三尖弁の修復では、通常は、バンドの一部を後尖区画に、一部を隣接する前尖区画の小さな部分に配置することにより、弁輪の収縮が起こる。通常は、中隔尖区画を短くする必要は無い。
【0007】
先に述べた様に、弁輪形成リングと弁輪形成バンドは、共に、房室弁の修復に利用することができる。弁輪形成リングの例は、米国特許第5,306,296号、第5,669,919号、第5,716,397号、及び第6,159,240号に示されており、その教示を参考文献としてここに援用する。一般に、弁輪形成リングは、弁輪の前面及び後面の両方を完全に包み込み、剛性(又は半剛性)設計か、又は可撓性設計になっている。一方、弁輪形成バンドは、主に、弁輪の一部分だけを包み込むよう特別に設計されている。弁輪形成リングは、剛性又は半剛性構造で、機能不全弁輪を、弁の正常な収縮期の形状に似た所望の形状に改造する役目を果たす。この点で、僧帽弁に関して、最近の研究は、健康な僧帽弁輪が、収縮期に拡大する自然なサドル形を有していることを確認している。このサドル形状に更に良く似た剛性のある弁輪形成リングを提供する努力がなされてきており、例えば、米国特許第6,858,039号と米国特許公告第2003/0093148号に示されており、その教示を参考文献としてここに援用する。この改造/剛性弁輪支持は、実用的であるが、拡張期及び収縮期の間に機能しているときに、特に僧帽弁の前面で、Parrish, L. M.らが「The Dynamic Anterior Mitral Annulus」(Annals. Of Thoracic Surgery 2004、78:1248−55)で示唆している様に、僧帽弁輪の自然な動きを明白に制約する恐れがある。
【0008】
提案されているサドル形状の弁輪形成リングは、健康な弁輪の自然な形状に非常に良く似せた弁輪改造の実現を支援するが、他にも懸念はある。例えば、弁を修復するのに適した寸法のサドル形弁輪形成リングを正確に見積もることは難しい。具体的には、従来の弁輪形成リングの移植処置では、先ず心臓バイパス手術を行い、次いで採寸器具を使用して当該弁輪の寸法を見積もる必要がある。一般的には、外科医は、多数の異なる大きさの弁輪形成リングを、それぞれ手元の弁輪形成リングの一つ一つに対応する寸法形状を有する多数のサイザー本体と共に、使用することができなければならない。心臓は、心臓バイパス形成手術中は弛緩しているので、当該弁輪は、拡張期の形状になる(例えば、基本的に非サドル形状か、又は平坦である)。対照的に、サドル形の弁輪形成リングと、従って、それに対応するサイザー本体は、収縮末期の弁輪形状を反映している。従って、サドル形のサイザー本体を比較的平坦な弁輪と比べると、拡張末期状態は、正確な採寸見積もりを提供しない。更に、提案されているサドル形僧帽弁の弁輪形成リングは、拡張型心筋症と虚血性僧帽弁逆流の症例では、弁尖を束縛する恐れもある。更に、弁輪形成リングが、弁輪を剛性又は半剛性改造するために、収縮末期状態に関係付けられたサドル形状に作られている場合、既存の弁尖では歪んでしまい、更に、弁が収縮状態と拡張状態の間を移行するときに、弁輪形成リングは相当な力を受けるので、破裂又は裂開の様な、疲労から来る長期の弁輪形成リングの劣化に繋がる恐れがある。
【0009】
弁輪形成リングとは対照的に、弁輪形成バンドは、主に弁輪の一部分だけを包み込むように特別に設計されている。例えば、僧帽弁の弁輪形成バンドは、通常、僧帽弁輪の後面だけを包み込み、而して、前面の自然な動きを促すように構成されている。弁輪形成バンドの例は、米国特許第5,824,066号、第6,786,924号、及びPCT国際特許公告WO00/74603号に示されており、それらの教示を参考文献としてここに援用する。弁輪形成バンドは、非常に実用的ではあるが、他の懸念もある。先ず、或る種の弁輪形成バンドの外形(例えば、厚さ)は、理論的には、血流を制約又は乱すほどに大きい。更に、弁輪形成バンドは、バンドで包み込まれていない弁輪面(例えば、僧帽弁輪の前面)に起こり得る拡張を十分に制約できるほどではない。虚血性僧帽弁逆流と拡張型心筋症の2つは、何もしなければ前方拡張の可能性もあるこれらの現象の臨床例である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国仮特許第60/810,600号
【特許文献2】米国特許第5,306,296号
【特許文献3】米国特許第5,669,919号
【特許文献4】米国特許第5,716,397号
【特許文献5】米国特許第6,159,240号
【特許文献6】米国特許第6,858,039号
【特許文献7】米国特許公告第2003/0093148号
【特許文献8】米国特許第5,824,066号
【特許文献9】米国特許第6,786,924号
【特許文献10】PCT国際特許公告WO00/74603号
【特許文献11】米国特許第6,786,924号
【特許文献12】本出願と同日出願の米国特許出願第XX/XXX,XXX号「ANNULOPLASTY PROSTHESIS WITH IN VIVO SHAPE IDENTIFICATION AND RELATED METHOD OF USE」
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Parrish, L. M.他「The Dynamic Anterior Mitral Annulus」(Annals. Of Thoracic Surgery 2004、78:1248−55)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記に鑑み、僧帽弁輪の様な健康な弁輪の形状及び機能の両方をより正確に反映する、改良された弁輪形成リングの設計、及び関係する手術器具と技法が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の原理による幾つかの態様は、弁輪を有する房室弁を修復するための弁輪形成リングに関する。リングは、シースと、弓形補強要素と、引張部材とを含んでいる。弓形補強要素は、シース内に配置されており、或る横方向間隔だけ離して配置された、別々の第1端部と第2端部を画定している。引張部材は、補強要素の両端部間の横方向間隔に沿って伸張している。この点に関し、引張部材は、補強要素より可撓性が高いことを特徴とし、ピンと張った状態を提供するように構成されている。ピンと張った状態では、引張部材は、実質的に伸びず、弁輪形成リングに外部の力が掛かったときに、補強部材の第1端部と第2端部の間の横方向間隔が拡がるのを防ぐ。この構成では、補強要素は、弁輪を所望の形状に改造するように働き、一方、引張部材は、(ピンと張った状態で)体内の力による弁輪の拡張の程度(例えば、補強要素の第1端部と第2端部の明白な横方向の分離)を制限しながら、弁輪が自然な運動を行えるだけの可撓性を呈する。更に、前面が、その自然な収縮期のサドル形状を取れるようにする。或る実施形態では、引張部材は、伸張方向を除く全ての方向で可撓性を提供するように構成されている。別の実施形態では、引張部材は、ピンと張った状態で、弁輪形成リングに約1ポンドの横方向引張荷重又は力を掛けたときに、第1端部と第2端部の間の横方向間隔が、0.2インチ以上増すことのないように構成されている。別の実施形態では、引張部材は、補強要素の第1端部と第2端部の間に輪を掛け、複数の区画リンクを画定している縫合糸を含んでいる。
【0014】
本発明の原理による他の態様は、外科医が、患者の心臓弁に弁輪形成手術を行って弁輪を画定する際に使用するための弁輪形成リングとホルダーの組み合わせに関する。組み合わせは、弁輪形成リングとホルダーを含んでいる。弁輪形成リングは、シース、弓形補強要素、及び引張部材を含んでいる。弓形補強要素は、シース内に配置されており、或る横方向間隔だけ離して配置されている別々の第1端部と第2端部を画定している。引張部材は、補強部材の両端の間の横方向間隔に沿って伸張しており、補強要素より可撓性が高いことを特徴としている。更に、引張部材は、引張部材が、実質的に伸びず、補強要素の第1端部と第2端部の間の横方向間隔が拡がるのを防ぐ、ピンと張った状態を提供するよう構成されている。ホルダーは、弁輪形成リングを選択的に保持し、リング保持プレートを含んでいる。プレートは、第1面内に、補強要素の曲率に概ね一致する第1曲率を形成し、第1面とは異なる第2面内に、第2曲率を形成するのが望ましい。最終組み付けの際には、弁輪形成リングは、リングの第1区画(補強要素に相当する)が第1曲率に組み付けられ、リングの第2区画(引張部材に相当する)が、リング保持プレートの第2曲率に組付けられるように、リング保持プレートに取り付けられる。従って、リング保持プレートは、弁輪形成リングの第2区画、即ち、引張部材を湾曲した状態に維持する。或る実施形態では、第2面は、第1面に概ね垂直なので、弁輪形成リングリングは、保持プレートに取り付けられると、サドル形状になる。別の実施形態では、リング保持プレートは、平坦であり、弁輪形成リングを平坦な形状に維持する。
【0015】
本発明の原理による更に別の態様は、僧帽弁を修復するために僧帽弁輪に移植するための弁輪形成リングに関する。弁輪形成リングは、シース、弓形補強要素、及び引張部材を含んでいる。弓形補強要素は、シース内に配置されており、或る横方向間隔だけ離して配置されている別々の第1端部と第2端部を画定している。引張部材は、補強部材の両端の間の横方向間隔に沿って伸張しており、補強要素より可撓性が高いことを特徴としている。これを念頭において、リングは、引張部材に相当する領域に沿って前方区画を画定し、補強要素に相当する領域に沿って後方区画を画定する。前方区画は、僧帽弁輪の前面に移植されるようになっており、一方、後方区画は、僧帽弁輪の後面に移植されるようになっている。最後に、補強要素は、僧帽弁輪の後面を改造するようになっており、引張部材は、前面の自然な構造に沿うように構成されている。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の原理による弁輪形成リングの上面図であり、一部を剥いで示している。
【図2】図1の2−2線に沿う断面図である。
【図3】図1の弁輪形成リングに使用されている補強要素の上面図である。
【図4】図1の一部分の拡大図であり、弁輪形成リング上の下に隠れている目穴の位置を示すために設けられたマークを示している。
【図5】図4と同様の図であり、目穴を示すために布製シースの一部が破られている。
【図6】本発明の原理による補強要素の1つの実施形態を、X−Y面とZ方向に関して示す斜視図である。
【図7】図6に示す補強要素の、X−Y面とZ方向の側面図であり、Z方向にサドル形状の湾曲を含んでいる実施形態を示している。
【図8】図1の弁輪形成リングに使用されている補強要素に適用された、本発明の原理による引張部材の実施形態の上面図である。
【図9】図1の弁輪形成リングの、9−9線に沿う断面図である。
【図10】本発明の原理による1つの実施形態の弁輪形成リングと、市販されている弁輪形成バンドに引っ張り試験を実施した結果を示すグラフである。
【図11】本発明の原理による、図1の弁輪形成リングと、それに組み合わせられるホルダーの分解斜視図である。
【図12A】図11のホルダーのリング保持プレート部分の上面図である。
【図12B】図12Aのリング保持プレートの端面図である。
【図13】図1の弁輪形成リングを、図12A及び図12Bのリング保持プレートに組み合せているところを示す分解斜視図である。
【図14A】図13の弁輪形成リングとリング保持プレートのアッセンブリの上面図である。
【図14B】図14Aのアッセンブリの底面図である。
【図14C】図14Aのアッセンブリの端面図である。
【図15】僧帽弁の上面図である。
【図16】図15の僧帽弁の弁輪に取り付けられている、本発明の原理による弁輪形成リングの上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の原理の態様による弁輪形成リング30を図1に示している。弁輪形成リング30は、特に、僧帽弁や三尖弁の様な房室弁の1つを修復するために作られている。指摘しておくべき点として、図1に示す弁輪形成リング30は、僧帽弁輪を修復するために作られており、他の弁輪構造(例えば、三尖弁輪)用の他の形状も含まれるものと理解されたい。従って、本発明は、僧帽弁輪形成に限定されるものではない。
【0018】
弁輪形成リング30は、補強ワイヤの様な補強要素32と、引張部材34と、補強要素32及び引張部材34を包み込む布製シース36と、を含んでいる。様々な構成要素の細部については以下に述べる。しかしながら、一般的には、補強要素32は、弁輪形成リング30に弓形を付与し、当該弁輪(図示せず)を所望の形状及び/又は寸法に改造できるように作られている。引張部材34は、引張力の下で伸張が制限されることによって補強要素32の両端が離れるのを制限するように作用し(下記)、補強要素32の両端部間を好適に伸張しており、補強要素32より可撓性が高いことを特徴としている。その様な可撓性は、可能性として、引張部材34を、移植するときに形を整え、圧縮運動(即ち、補強要素32の両端を互いに向けて撓ませるときの様に)を行わせることができるようにするが、両端が例えばゼロ又はそれ以上という所定の限界を超えて互いに離れる場合には、補強要素32の撓みを制限することができるようにして、作り出される。この様に、引張部材34は、移植後の弁輪の運動と共に動き、自然な弁輪の機能に順応することができる。更に、引張部材34は、引張部材34が実質的に伸びることの無いピンと張った状態を提供し、而して、補強要素32/弁輪形成リング30が口開き拡張するのを防ぐ働きをする。この様に、引張部材34は、弁の拡張によって体内に加わる荷重の様な、弁輪形成リング30を開くか又は拡張させることになりかねない、荷重又は力に抵抗するように働く。
【0019】
或る実施形態では、補強要素32は、米国特許第6,786,924号に記載されている補強要素の実施形態と同類であり、同特許の教示を参考文献としてここに援用する。これを念頭において、更に図2を見ると、補強要素32は、1つの実施形態では、エラストマー熱可塑性ポリマー(例えば、ポリウレタン)又はシリコン(例えば、液体シリコンゴム(LSR))の様な、生体適合性の、生体安定性の、移植可能な、医療等級のエラストマー保護被覆42で被覆成形された、補強ワイヤ40であるか、又はそれを含んでいてもよい。代わりに、保護被覆42は、補強ワイヤ40が中に配置されている、エラストマー熱可塑性ポリマー(例えば、ポリウレタン)又はシリコン(例えば、液体シリコンゴム(LSR))の様な、生体適合性の、生体安定性の、移植可能な、医療等級のエラストマーで構成されているチューブであってもよい。別の実施形態では、保護被覆42は無くてもよい。
【0020】
図3に示す様に、補強要素32(例えば、補強ワイヤ40)は、別々の第1及び第2端部46、48を画定し、或る実施形態では、第1及び第2端部46、48に、それぞれ、目穴50、52を含んでいる。例えば、補強要素32がワイヤ40によって形成されているか、又はワイヤ40を含んでいる場合は、ワイヤ40の互いに反対側の端部46と48を曲げ戻して、目穴50、52を形成すれば、補強要素32を単一長のワイヤで構成することができる。ここで用いる「目穴」は、周囲が実質的に閉じた開口を意味しているが、特定の形状である必要はない(例えば、目穴は、円形、方形、長方形、台形、六角形、涙形、楕円形、長円形、又は他の何れの適した形状でもよいが、応力集中が低く、丸みを帯びた輪郭の形状が一般に望ましい)。補強要素32がワイヤ40を含んでいる実施形態では、ワイヤ40が各目穴50、52を形成した後でスプリングバックするために、目穴50、52の外周には、例えば約0.5mmの隙間がある。何れにしろ、図4と図5に示している様に、目穴50と52は、少なくとも1つの縫合糸61を通して、弁輪形成リング30を、僧帽弁、三尖弁などの様な心臓弁の弁輪(図示せず)に固定するようになっている。しかしながら、代わりに、補強要素32は、他の構造であってもよいし、目穴50及び/又は52の一方又は両方を含んでいなくてもよい。或いは、1つ又は複数の追加構成要素を使って、目穴を追加してもよい。
【0021】
補強要素32として使用できる形状について、以下に詳細に述べる。しかしながら、一般的に言えば、補強要素32は、弁輪形成リング30を取り付けようとする弁輪の生来の又は自然な形状に、少なくとも修正又は矯正された輪又は輪の部分の所望の寸法に関して、合致する形に作られるのが望ましい。而して、補強要素32は、僧帽弁輪修復では、概ね、生来の自然な僧帽弁後方弁輪構造に似た形(即ち、概ね対称的で、馬蹄形に似た形状)に作られ、或いは、概ね、生来の自然な三尖弁輪構造(即ち、非対称的にオフセットした曲線)に似た形に作られる。
【0022】
図3に戻るが、弁輪形成リング30が僧帽弁(図示せず)を修復するように作られている或る実施形態では、補強要素32の弓形は、僧帽弁輪の自然な後面構造と一致するように作られている。より具体的には、弁輪形成リング30は、移植後に、補強要素32が、前外側三角に隣接する点から後弁尖を越えて伸張し、第2端部48が後内側三角に隣接するように作られているのが望ましい。更に、目穴50と52(設けられている場合)は、前外側三角と後内側三角で弁輪に固定されるように配置されるように作られており、第1目穴50が弁輪の下交連を包み込むように配置されて維持され、第2目穴52が弁輪の上交連を包み込むように配置されて維持されるように、両方の三角及び隣接する交連を包み込むことができるほど大きいのが望ましい。何れにしろ、補強要素32は、単独で弓形を画定して維持し、別々の第1及び第2端部46と48が、自由な又は自然な状態で横方向間隔LNだけ離れているように作られている。つまり、外部の力又は応力が補強要素52に加わらなければ、端部46と48は、横方向間隔LNだけ離れている。
【0023】
図6は、二次元で画定された弁輪形成リング30を示しており、手術中にそうである様に、比較的平坦で、緩んだ又は弛緩している弁輪形状に相応している。図7は、補強ワイヤ40の或る実施形態の三次元の形状を示しており、X−Y面内で概ね弓形(例えば、C字形)であり、Z方向では概ねサドル形状である。この構成も、図6に示す様な平坦な形状に組み込むことができると考えられ、一般的には、僧帽弁輪の後面の期待されている自然な形状に合致するよう設計することができる。この構成では、補強ワイヤ40は、X−Y面内で複雑な曲線を形成し(例えば、図3と図6参照)、(a)第1曲率半径R1を有する中間部分66と、(b)第2曲率半径R2を有する互いに反対側の端部68を含んでおり、第1曲率半径R1は、第2曲率半径R2より大きい。例えば、互いに反対側の各端部68は、(i)中間部66から外向きに伸張している、X−Y面内で第2曲率半径R2を有する移行区画70と、(ii)移行区画70から伸張している、X−Y面内で第3曲率半径R3を有する末端区画72を含んでいる。この僧帽弁修復のための1つの実施形態では、第1曲率半径R1は、第2曲率半径R2より大きく、第2曲率半径R2は、第3曲率半径R3より大きい。各半径R1、R2、及びR3の好適な大きさは、この制約の中で、修復する僧帽弁の大きさによって変わる。代わりに、補強ワイヤ40は、僧帽弁輪の修復に適した別の形状であってもよく、先に述べた1つ又は複数のX−Y面曲率を含んでいてもいなくてもよい。補強ワイヤ40/補強要素32は、これらの方針に沿って、Z方向に、より明白な或いはそれほど明白でない曲率を提供し、Z方向に複雑な曲率を画定していてもよい。更に、補強ワイヤ40と、従って補強要素32は、完全に異なる形状をしていてもよく、その形状に、例えば、生来の三尖弁構造に望ましい様なサドル形又はZ方向構成要素が含まれていてもいなくてもよい。
【0024】
補強要素32/補強ワイヤ40の形状は、図7に示しているものだけでなく、他の形状でも構わない。例えば、補強要素32を、収縮末期状態(即ち、僧帽弁が閉じているとき)の僧帽弁の自然な形状に似せて形成してもよい。代わりに、補強要素32は、自然な収縮末期形状と拡張末期形状の間の僧帽弁輪形状に対応して高さ(即ち、Z方向の曲率)が変化することを反映して、それほど明白でないサドル形状を有していてもよい。しかしながら、ここでも、補強要素32は、目下知られているか、又は今後開発される様な異なるリング設計が必要とする様々な他の形状を取ることができる。更に、リングを構成する材料が許せば、様々な形状も可能である。
【0025】
上記形状特性を提供するのに加え、補強要素32には、或る実施形態では、移植後に、X線、MRI、超音波図などを含め様々な既存の技法又は将来開発される何れかの技法を使って容易に視認できるように、放射線不透過性、エコー源性、及び/又は他の画像化強化策が施されている。「放射線不透過性」とは、材料又は要素が、放射線の通過を阻止することである。「放射線」は、電磁エネルギー、光などを含んでいる。「エコー源性」とは、音波を反射することである。例えば、金属ワイヤは、放射線不透過性である。補強要素32がワイヤ40を含んでいるか、又は備えている場合、ワイヤ40は、どの様な医療的に受容可能な、移植可能な、生体適合性金属で形成してもよく、例えば、MP35N合金、チタン、ステンレス鋼、ニチノールの様な形状記憶材料、或いは他の同様な不活性生体適合性金属が該当する。例えば、適切なワイヤは、ペンシルベニア州ワイオミッシングのCarpenter Technology社からMP35Nとして市販されている、鍛造コバルト−35ニッケル−20クロム−10モリブデン合金である。弁理士事件整理番号MTI0033/USの、本出願と同日出願の米国特許出願第XX/XXX,XXX号「ANNULOPLASTY PROSTHESIS WITH IN VIVO SHAPE IDENTIFICATION AND RELATED METHOD OF USE」は、「画像化要素」と呼ばれる放射線不透過性、エコー源性、及び/又は他の画像化強化要素を組み込んだ弁輪形成リングを教示している。同出願全体を、参考文献としてここに援用する。
【0026】
或いは、補強要素32は、モールド成形されたポリマー要素を備えていてもよい(例えば、基本的にこれで構成されていてもよい)。これらの代替実施形態では、モールド成形されたポリマー要素は、限定するわけではないが、硫酸バリウムの様な、電磁エネルギーを透過させない放射線不透過性被覆又はフィラーを含んでいるのが望ましい。目穴50、52(設けられている場合)は、補強要素32の残りと一体モールド成形してもよいし、別々に成形した後で、モールド成形された要素に組み付けてもよい。
【0027】
図1に戻るが、引張部材34は、(概略的に言えば)補強要素32の第1端部46と第2端部48の間を伸張しており、補強要素32より可撓性が高いことを特徴としている。引張部材34は、移植後は、弁輪の運動と共に動き、可撓性の度合いに応じて、自然な弁賃の機能に順応することができ、所定の限界を越えて伸張することだけが制限されているのが望ましい。加えて、引張部材34は、弁輪形成リング30の拡張、特に、第1端部46と第2端部48が、ピンと張った状態に達した後で互いに対し横方向に離れ又は運動するのを制限又は防止する。従って、引張部材34は、ピンと張った状態では、実質的に伸びず、以下に述べる様に、弁輪形成リング30を閉じる(例えば圧縮する)か、又は捩る荷重が掛かった場合にのみ可撓性を発揮する。
【0028】
引張部材34の「引張」という用語は、引張部材は、弁輪形成リング30に張力を加えることもできるが、実際に張力を加えるという意味ではない。引張部材34は、主に、第1端部46と第2端部48が離れるのを効果的に制限し、引張部材34がピンと張った状態に達したときに両端が離れないように保持する。自由な状態では、引張部材34は、所定量だけ離れてゆき可撓性を増す余地があり、その様な可撓性の結果、引張部材はより大きな形状を呈することができるようになる。可撓性は、更に、両端46と48が互いに向かって動けるようにすることによって、引張部材34が或る形状を取れる様にし、その効果で、引張部材34に働く張力が減るか又は無くなり、その可撓性に余裕ができる。両端46と48の互いに向いた運動は、移植後の弁輪運動の結果である場合もあるし、移植過程の一部(即ち、リング30を適所に縫合することによる)としてもたらされる場合もある。その様な移植は、望ましく形成するために以下に述べるホルダーを使用することによって制御することができる。
【0029】
上記の一般的な説明を念頭において、図8は、曲げ戻して目穴50、52を第1端部46と第2端部48それぞれに形成したワイヤ40の形態をしている補強要素32に装着されている引張部材34の1つの実施形態を示している。これを念頭において、図8に示している引張部材34の1つの実施形態は、第1端部46と第2端部48、具体的には目穴50と52の間に輪を掛け又は巻き付けられた縫合糸90である。この巻き付け構造によって、縫合糸90は、5個、7個又は9個の区画リンク92の様な複数の区画リンク92を画定する(これより多いか又は少ない数のリンク92を形成又は提供してもよい)。縫合糸90は、第1及び第2の滑動結び目94、96を、目穴50、52それぞれの内側に隣接して形成するように、補強要素32に取り付けられている。更に、縫合糸90の互いに反対側の端部98、100は、それぞれ、固定結び目102、104によって、補強要素32に固定されている。1つの実施形態では、滑動結び目94と96は、ループ状の縫合糸90が引っ張られると(即ち、引張り荷重Tが、第1端部46と第2端部48を互いに横方向に離す方向に引くか又はこれに力を加えると)自己締め付けする片結びの結び目である。代わりに、滑動結び目94、96は、様々な他の形態を取ることができ、或る実施形態では、省くこともできる。同様に、固定結び目102、104も様々な形態を取ることができ、1つの実施形態では、こま結びである。縫合糸90も様々な形態を取ることができ、或る実施形態では、編組ポリエステル3−0又は4−0縫合糸であり、代わりに、もっと大きい寸法の縫合糸(例えば、0から2−0)或いはもっと小さい縫合糸(例えば、5−0から6−0)を利用してもよい。別の実施形態では、引張部材34は、同様の一般的な構造を有しているが、1つ又は複数の実質的に伸びないポリマー又は布糸、金属ワイヤ糸などで形成されている。加えて又は代わりに、複数の縫合糸又は他の材料の糸であってもよい。更に別の実施形態では、単一の縫合糸90が、1つの固定結び目によって補強要素32に固定されている(即ち、固定結び目102、104の一方が無い)。更に別の実施形態では、引張部材34が、縁曲げ、滑り/圧入嵌合、接着剤などの様々な他の技法を使って補強要素32に固定されている。
【0030】
引張部材34は、アッセンブリの正確な形態又は方法に関係無く、図8のピンと張った状態に移行することができる。指摘すべき点として、図3に関して先に述べた様に、補強要素32は、自然に湾曲形又は弓形を呈する剛性又は半剛性の材料で形成されている。横方向間隔LN(図3)は、この自然な形状又は状態で、第1端部46と第2端部48の間に確立される。これを念頭において、或る実施形態では、引張部材34は、補強要素32が自然な状態にあるときにピンと張るように、補強要素32に取り付けられている。言い換えると、区画リンク92の長さLTは、自然な横方向間隔LNと同じなので、引張部材34は、両端46、48を互いに向けて押し付けることはない。別の実施形態では、引張部材34は、補強要素32を、具体的には第1端部46と第2端部48を、自然な状態から引っ張るか又は内向きに撓ませるように作られ、及び/又は補強要素32に取り付けられている。この代替構造では、第1端部46と第2端部48が横方向間隔LNより短い横方向間隔LTとなるように、引張部材34が補強要素32を僅かに引き締める。補強要素32は、引張り荷重又は力を引張部材34に効果的に印加して、弁輪形成リング30が他の外部の力を受けていない状況の下で、確実に、引張部材34をピンと張った状態にする。逆に、補強要素32が自然な状態にあるときは、引張部材34は比較的弛緩している(即ち、弁輪形成リング30(図1)が外部の力を受けていないときは、区画リンク92に張力が働かないように、区画リンク92の長さLTは、補強要素32が確立する自然な横方向間隔LNより大きい)ように、引張部材34を構成し、及び/又は補強要素32に取り付けてもよい。この構造では、引張部材34は、ピンと張った状態に達するまでに、横方向間隔LNが制御された量だけ拡張できるようにする。何れにしろ、以下に詳細に述べる様に、引張部材34は、補強要素32の両端46、48が互いに向けて容易に内向きに撓むことができるだけの可撓性を呈し、しかも、引張部材34がピンと張った状態にあるときは、両端46、48が拡張又は伸張して互いに離れるのを実質的に防止する。
【0031】
図1に戻るが、布製シース36は、補強要素32と引張部材34の両方の回りに形成されているのが望ましい。或る実施形態では、布製シース36は、編物ポリエステル布(例えば、Dacron)を備えているが、織物、不織物(例えば、スパンボンド、メルトブロー、短繊維マトリクスなど)又は編組布、並びに、採取された生物組織(例えば、心膜組織)で形成されたシースも考えられる。随意的に、布製シース36に、どの様な各種生物適合性被覆を設けてもよい。
【0032】
布製シース36には、シース36に包み込まれている目穴50、52の配置又は場所を示すマークが付けられているのが望ましい(第2目穴52が図1に概略示されている)。例えば、シース36に、布製シース36とは対照的な色の縫合糸110で、目穴の配置の目印を付けてもよい。縫合糸で、目穴50及び/又は52を覆っている布に「X」を形成してもよい。代わりに、シース36に、各目穴50又は52の位置を示す何らかの生体適合性マークを付けてもよい。或る実施形態では、長手方向縫い目112(補強要素32を取り巻くシース36を示している図2に記している)を、シース36に沿って形成し、使用時は弁輪形成リング30の下側に向くようにして、移植されると、縫い目112が、弁組織に相対して、血流路の外側に配置されるようになっている。長手方向縫い目112は、シース36の領域に沿って続いており、図9で分かる様に、引張部材34を包み込んでいる。この点で、シース36は、補強要素32と引張部材34の全体を取り囲む連続構造として形成してもよい。しかしながら、他の実施形態では、シース36を、2つ以上の部分で構成し、その内の少なくとも一方を補強要素32に被せ、他方を引張部材34に被せている。何れにしろ、図9で分かるように、或る実施形態では、シース36は、引張部材34の領域では折り重ねられ、例えば、1つ又は複数の連続針目114a、114bによって比較的平坦な形状に保持されている。この構成では、弁輪形成リング30は、引張部材34の領域では平坦になっており、弁輪形成リング30の最大厚さ又は外形は、補強要素32に沿って画定される(図2)ことを特徴としている。更に、図1に示す様に、或る実施形態では、弁輪形成リング30は、更に、針目116と118が、シース36の引張部材34領域内に、補強要素32の各端部46と48に近接して形成されている。この様に構成すれば、針目116と118は、外科医が誤ってシース36を切断したときに、シース36がほつれるのを防ぐ。更に、これは、考えられる切断点近くで針目端部が切断された場合に、補強材目穴が布を貫通するのを防ぐ。
【0033】
或る実施形態では、先に述べた弁輪形成リング30の構造は、背が低いという属性を提供するのが望ましい。より具体的には、弁輪形成リング30は、或る実施形態では、最大断面厚さが約3mm以下であり、約2.7mm以下であるのが望ましく、約2.5mm以下であるのが更に望ましい。更に別の実施形態では、僧帽弁輪を修復する際に使用する弁輪形成リング30は、虚血性及び拡張性心筋症に対処するために、寸法/比率が小さくなっている。参考までに、僧帽弁に適用する場合、弁輪形成リング30は、長軸直径Dmaj(例えば、補強要素の両端46、48に近接している弁輪形成リング30の相対する側部間の距離)と、短軸直径Dmin(例えば、引張部材34に沿う弁輪形成リング30の領域と、引張部材34と真反対の領域との間の距離)を有していると言える。これらの約定を念頭において、或る実施形態では、短軸直径Dmin/長軸直径Dmajの比率は0.6より小さく、或る実施形態では、0.4から0.6である。それに比べて、最近入手できる弁輪形成リングと剛性の弁輪形成バンドは、短軸直径Dmin/長軸直径Dmajの比率(しばしばA/P比と呼ばれる)が0.6より大きく、例えば、0.618から0.711である。しかしながら、代わりに、本発明の原理による弁輪形成リング30は、多種多様な他の寸法を取ることもできる。
【0034】
先に述べた様に、引張部材34は、ピンと張った状態では、実質的に伸びない。ここでも、「ピンと張った状態」とは、引張部材34が、弁輪形成リング30に加えられる力による張力の働いている状態に置かれており、補強要素の端部46、48に横方向に伸ばそうとする荷重を付与していることを示している。引張部材34がピンと張った状態にあるときでも、両端46と48が互いに向かって動けるだけの可撓性はある。或る実施形態では、「実質的に伸びない」とは、引張部材34がピンと張った状態にあるときには、引っ張り荷重が掛かっても、引張部材34は、長手方向に僅かしか伸張しないということである。このため、以下に述べる様に、弁輪形成リング30に引っ張り試験を課してみると、引張部材34が実質的に伸びないという特徴が証明される。
【0035】
例えば、モデル1011インストロン試験機(較正第52147号)の様な適切な引っ張り荷重印加システムを用いて、弁輪形成リング30の引張部材34に、引っ張り荷重を掛けることができる。この方法では、引張試験固定具を、試験機の顎部にクランプし、次いで、弁輪形成リング30を、その固定具に取り付ける。次に、弁輪形成リング30に、引っ張り力が、弁輪形成リング30の引張部材34の互いに反対の側に付与されるように(即ち、引っ張り力が、長軸直径Dmajに沿って効果的に加えられるように、補強要素32の第1端部46と第2端部48に隣接して)加えられる。従って、加えられた引っ張り荷重は、第1端部46と第2端部48を互いに引き離す方向に引っ張る。引張部材34の実質的に伸びない特性は、上記引っ張り荷重を受けたときに、弁輪形成リング30が変位する量で特徴付けられる。これを念頭において、或る実施形態では、引張部材34の実質的に伸びない特性は、(上記)引っ張り荷重1ポンドを掛けたときの、弁輪形成リング30の横方向変位(又は補強要素32の第1端部46と第2端部48の間の横方向間隔LNの増加)は0.2インチ以下であることによって示される。別の実施形態では、実質的に伸びない特徴は、引張試験の引っ張り荷重が1ポンドのときの横方向変位が0.15インチ以下であることによって特徴付けられている。別の実施形態では、引張部材34の実質的に伸びない性質は、引張試験の荷重が2ポンドのときの輪形成リング30の変位が0.2インチ以下であることによって特徴付けられている。これらの方向に沿って、実質的に伸びない特性は、引張部材34を取り除くか又は切断し、修正された弁輪形成リング30を上記引張試験に再び掛けると明らかになる。この状態の下では、本発明の原理による弁輪形成リング30の横方向変位は、1ポンドの引張試験荷重で、引張部材34がそのままの(ピンと張った状態にある)場合は、0.2インチ以下であり、引張部材34を取り除くか切断した場合は、0.3インチ以上である。
【0036】
以上、本発明の具体的な実施形態を、代表的な弁修復処置で使用する場合に関して説明してきたが、形状、部品の配置、及び許容される伸びの程度の修正を含め、必要であれば弁の大きさ又は今後開発される技法に関係する様々な用途に応じて、様々な修正を施せるものと理解頂きたい。
【0037】
上記引張試験を基準にして、サンプルの弁輪形成リング(長軸直径24mm)を、本発明の原理に従って(即ち、MP35NワイヤにLSRシリコン材料を被せた補強要素と、補強要素の互いに反対側の端部の間に4−0縫合糸を輪掛けして7個の区画リンクを形成した引張部材と、編んだポリエステル布製シースとで)作り、引張試験に供した。同様の補強要素(即ち、MP35NワイヤにLSRシリコン材料を被せたもの)とシースで構成されているが、補強要素の両端を相互接続する引張部材を含んでいないFuture Band TMという商標名で(ミネソタ州フリドリーのメドトロニック(Medtronic)社から)市販されている幾つかの弁輪形成バンド(長軸直径26mm)も、同じ引張試験に供した。図10は、引張試験の結果を示すグラフである。弁輪形成リング(即ち、引張部材を含んでいる)の荷重対変位のデータを、図10に「R」で示し、弁輪形成バンド(即ち、引張部材を含んでいない)のデータを「B」で示している。図示の通り、引張部材が在る場合(R)は、弁輪形成バンドの場合(B)に比べて、横方向変位に対する抵抗が顕著である。比較するために代表的な弁輪形成リングについて述べているに過ぎず、本発明の範囲を本事例に限定するものではない旨申し述べておく。
【0038】
弁輪形成リング30と共に使用するためのホルダーの1つの実施形態を図11に示しており、その全体を参照番号130で示している。ホルダー130は、細長いハンドル132と、ハンドル132に選択的に取り付けられるリング保持プレート134とを含んでいる。リング保持プレート134は、弁輪形成リング30を移植する間、弁輪形成リング30を保持するようになっている。従って、僧帽弁を修復するための弁輪形成リング30が形成されている図示の実施形態によれば、リング保持プレート134の全体的な周囲形状は、僧帽弁輪の形状(図示せず)と概ね一致している。代わりに、勿論、リング保持プレート134の周囲形状は、図の形状とは異なっていてもよく、代わりに作られた弁輪形成リング30(例えば、三尖弁の弁輪形成リング)の形状と同じであってもよい。しかしながら、図示の1つの実施形態では、リング保持プレート134は、概括的には第1部分136と第2部分138を画定しており、各部分は、弁輪形成リング30の周囲形状の一方又は両方と概ね合致するように作られた周囲形状を画定しており、及び/又は、弁輪形成リング30又はその或る区画を所望の形状に矯正するように作られている。
【0039】
より具体的には、図12Aと図12Bに示すように、第1部分136の周囲は、第1面(即ち、図12Aの頁の面)例えば、X−Y面内に、曲率C1を画定するのが望ましい。曲率C1は、補強要素32(図1)によって画定される曲率に近似していて、弁輪形成リング30(図1)をリング保持プレート134に組み付けた(以下に述べる)ときに、第1部分136の曲率C1が、補強要素32の領域に沿った弁輪形成リング30の所定の曲率と一致するか又はそれに近似するようになっている。弁輪形成リング30の引張部材34は可撓性であるのが望ましいので、移植の目的で、リング保持プレート134で成形してもよい。参考までに、補強要素32がサドル形をしている実施形態では、リング保持プレート134は同様の形状をしていてもよい(即ち、第1部分136が、Z方向の形状又は曲率の変化を画定していてもよい)。又更に、弁輪形成リング30を僧帽弁修復に用いる場合は、補強要素32と、従って第1部分136は、僧帽弁輪の後面に対応している。
【0040】
第1部分136の周囲の正確な形状とは関係無く、或る実施形態では、図12Bで良く分かる様に、第2部分138の周囲が、第2面内で曲率C2を画定している。第2部分138の周囲の曲率C2は、Z方向(又は図12BのX−Z面)の変化として画定され、最終組み立て段階で、弁輪形成リング30の対応する領域をサドル形状に成形する役割を果たす(図1)。1つの実施形態では、第2曲率C2は、0.4から0.1インチの範囲の高さHの変化を画定するが、他の寸法でも同様に構わない。それとは別に、第2曲率C2は、第1曲率C1の面とは異なる面にあり(図12A)、或る実施形態では、第1曲率C1の面に実質的に垂直な面にある。
【0041】
或る実施形態では、特に図12Aに示すように、リング保持プレート134は、弁輪形成リング30(図1)をリング保持プレート134に固定するのに用いられる1つ又は複数の繰りひも又は縫合糸140(例えば、図13を参照)を受け入れるように作られている。例えば、リング保持プレート134は、複数の間隔を空けて配置された通路対142a−142kを形成している。各通路対142a−142kは、リング保持プレート134を横断貫通して伸張する2つの穴144(通路対142bについては、図12Aで良く分かる)を含んでいる。各穴144は、繰りひも縫合糸140を通せるように作られている。更に、何れかの通路対142a−142kを備えている穴144は、リング保持プレート134の一部によって分離されている。つまり、通路対142a−142kのそれぞれは、2つの別々の穴144を含んでおり、連続したスロットではない。この構成では、繰りひも縫合糸140は、図示の様に、リング保持プレート134の回りに通され、リング保持プレート134に係合される。或る実施形態では、通路対142c、142f、及び142jは、更に、リング保持プレート134の上面148から突き出ている2つのフィンガ146を含んでいる。フィンガ146は、それぞれの穴144の間に位置し、互いに間隔を空けて配置され、スロット150を画定している。更に、各フィンガ146は、繰りひも縫合糸140を受け入れるためのチャネル152を形成している。この構成では、以下に詳細に述べる様に、フィンガ146は、繰りひも縫合糸140を上面148から離れる方向に持ち上げて、繰りひも縫合糸140を切断するための空間(即ち、スロット150)を提供する。最後に、或る実施形態では、リング保持プレート134は、以下に述べる理由で、切り欠き154を形成している。
【0042】
上記を念頭において、弁輪形成リング30は、図13に示す様に、1つ又は複数の繰りひも縫合糸140を通路対142a−142kに通すことによって、リング保持プレート134に固定される。1つの実施形態では、第1繰りひも縫合糸140aは、第1通路対142aから(結び目160aを形成して)下向きに伸びて弁輪形成リング30の周りを回り、弁輪形成リング30から上向きに第2通路対142bまで伸びて、リング保持プレート134の下に達し、次に、第3通路対142cまで上向きに伸びて各フィンガの周りを回り、リング保持プレート134から下向きに伸びて弁輪形成リング30の周りを回り、弁輪形成リング30から上向きに伸びて第4通路対142dの周りを回り、最後に、結び目160bで終結している。同様に、第2繰りひも縫合糸140を用いて、弁輪形成リング30が、第5から第8通路対142e−142hを介して(結び目162aと162bの形成も含む)リング保持プレート134に接続されている。代わりに、1本の繰りひも縫合糸140を使用して、弁輪形成リング30を、第1から第8通路対142a−142hを介してリング保持プレート134に接続してもよい。それとは別に、第3繰りひも縫合糸140cを設けて、第9通路対142iから下向きに伸び(結び目164aを形成し)て弁輪形成リング30の周りを回り、弁輪形成リング30から第10通路対142jまで上向きに伸びて各フィンガ146の周りを回り、第10通路対142jから下向きに伸びて弁輪形成リング30の周りを回り、弁輪形成リング30から上向きに伸びて第11通路対142kの周りを回り、最後に、結び目164bで終結するようにしてもよい。1本の繰りひも縫合糸140を利用している実施形態もあれば、4本以上の繰りひも縫合糸140を利用している実施形態もある。「上」「上向き」「下向き」「下」などの方向を示す用語は、分かり易くするために、図13の方向に関係付けて用いている。弁輪形成リング30及び/又はリング保持プレート134は、他の様々な方向に配置することもできるので、方向を示す用語は、何ら限定を課すものではない。
【0043】
上記取付技法は、弁輪形成リング30をリング保持プレート134に固定するのに利用できる1つの技法に過ぎない。代替実施形態では、繰りひも縫合糸140を、弁輪形成リング30に別々の間隔を空けた場所で縫いつけている。
【0044】
弁輪形成リング30をリング保持プレート134に取り付ける最終組み付け段階を、図14A−図14Cに示している。図14Aの上面図で示している様に、切り欠き154は、目穴50、52(図14Aでは隠れているが、シース36のマーク110によって容易に識別できる)の回りに間隙を提供している。更に、繰りひも縫合糸140は、フィンガ146によって設けられているスロット150を介して容易に切断される。図14Bの底面を見ると、弁輪形成リング30は、リング保持プレート134の底面170に巧く取り付けられている。1つの実施形態では、底面170には、更に、タブ172、174、及び176が間隔を空けて形成されていて、リング保持プレート134への最終組み付けの際に、弁輪形成リング30の形状を概ね支持する働きをする。
【0045】
タブ172−176は、弁輪形成リング30を受け入れるための溝又は他の側壁曲率を形成していないのが望ましく、或る実施形態では、弁輪形成リング30の円周外形に沿っていない。代わりに、タブ172−176は、或る実施形態では、底面170の面に対して垂直に伸張し、弁輪形成リング30の外形に3つの点で接しており、これによって、リング保持プレート134が容易に製造できるようになり、同時に、弁輪形成リング30をプレート134から容易に外せるようになる。タブ172−176は、弁輪形成リング30との接点を提供し、別の実施形態では、これらのタブ172−176は、数がもっと多くても少なくてもよく、形も異なっている。
【0046】
先に述べた様に、弁輪形成リング30をリング保持プレート134に選択的に取り付けるのに別の構成/技法を利用することもできる。このために、繰りひも縫合糸140を必要としない様式で弁輪形成リング30を維持できるように、リング保持プレート134を構成してもよい。例えば、1つの代替実施形態では、タブ172−176は改造され、それぞれにリブ(又は半径方向に外向きの突起)が、底面170から間隔を空けて配置されている。組み合わせると、これらのリブは、弁輪形成リング30によって画定される曲率半径より僅かに大きい曲率半径を構成する。この構成では、弁輪形成リング30をリング保持プレート134に組み付ける際に、先ず、弁輪形成リング30を延ばす(即ち、両端46、48を互いに引き離す)ことになるので、弁輪形成リング30をリブ越に設置することができる。弁輪形成リング30は、一旦正しく配置されると、その延びが解消されて弁輪形成リング30とタブ172−176が接触するようになるので、弁輪形成リング30は、タブ172−176によって、リブと底面170の間に保持される。弁輪形成リング30は、弁輪に移植された後、操作してリング保持プレート134を引っ張り弁輪形成リング30から離すだけで、リング保持プレート134から解放することができる。
【0047】
図14Cの端面図では、繰りひも縫合糸140cが、弁輪形成リング30の対応する領域を、リング保持プレート134の第2部分138によって画定される曲率C2に、少なくとも概略一致させている。或る実施形態では、弁輪形成リング30の対応する領域は、引張部材34(図14Cでは隠れているが、図1に示されている)に沿って画定されているので、引張部材34が可撓性である場合は、引張部材34と弁輪形成リング30は、リング保持プレート134によって画定される形状に容易に沿うことになる。弁輪形成リング30は、最終組み付け時に、リング保持プレート134の少なくとも第2部分138に沿ってサドル形状になることが分かっている。リング保持プレート134から解放される(例えば、第3繰りひも縫合糸140cの切断により)と、引張部材34と、従ってそれに対応する領域内の弁輪形成リング30は、リング保持プレート134によって付与された形状から容易に変化することができる。以下に述べる別の実施形態では、引張部材34は、剛性が僅かに高い構造を含んでおり、これらの状況下では、リング保持プレート134、特にその第2部分138は、この剛性が高い構造によって画定される形状に対応する形状となっているので、引張部材34と、従って弁輪形成リング30は、リング保持プレート134から解放された際に、所定の形状を維持することになる。
【0048】
弁輪形成リング30の移植処置の一部として有用な追加構成要素は、サイザー装置である。この装置は、ハンドルとサイザー本体を含んでいる。サイザー本体は、ハンドルに選択的に組み付けられるように構成されており、弁輪形成リング30の形状(図1)に概ね合致する外周を画定している。
【0049】
外科医には、大きさは異なるが形状が同様な複数のサイザーを提供して、僧帽弁又は三尖弁の様な処置対象の弁によって異なるものを使えるようにするのが望ましい。大きさが異なるサイザーは、それぞれ、市販の弁輪形成リング30と対応しているのが望ましい。使用中に、外科医は、幾つかの異なる大きさのサイザーを使って(個々に)、修復する弁輪を見積もる。弁構造に最も近いサイザーが識別されると、そのサイザーに対応する弁輪形成リング30が、その患者用に選択される。
【0050】
例えば、本発明の原理によるホルダー130(図11)を使って、弁輪形成リング30を移植し、様々な心臓弁、特に房室弁を修復するのは、或る実施形態では、米国特許第6,786,924号に記載されている例に似ており、その教示を参考文献としてここに援用する。一般的には、サイザー、特にサイザー本体を利用して、対象の弁輪を見積もり、その見積に基づいて、適切な大きさの弁輪形成リング30(図1)を選択する。
【0051】
所望の弁輪形成リングの大きさを念頭において、選択された弁輪形成リング30を、図11に示している様にホルダー130に組み付ける。次に、ホルダー130を操作して、弁輪形成リング30を移植部位に進め、移植用縫合糸を使用して、弁輪形成リング30を弁輪に接続する。参考として、図15は、弁輪222、前外側三角224、後弁尖226、後内側三角228、下交連230、及び上交連232を含む僧帽弁220の構造の一部を示している。これらの約定を念頭において、僧帽弁輪222は、後面234と前面236を画定するか、又はそれらによって画定される。図16は、移植用縫合糸238によって僧帽弁輪222に固定又は移植された弁輪形成リング30を示している。
【0052】
図16の弁輪222に対する移植の向きに照らし、弁輪形成リング30は、後方区画240と前方区画242を含んでいる、又は画定していると言える。後方区画240は、僧帽弁輪222の後面234に対応し、補強要素32の領域(図16では隠れているが、図1に示されている)に沿って画定されている。前方区画242は、僧帽弁輪222の前面236に対応し、引張部材34の領域(図16では隠れているが、図1に示されている)に沿って画定されている。従って、最終的に移植されると、弁輪形成リング30の後方区画240、特に、これに付帯する補強要素32は、後面234の形状を、所望する程度に剛性又は半剛性的に作り変える役目を果たす。これに対し、前方区画242は、前面236の自然の運動と共に撓み、又は動き、補強要素の両端46、48が離れるのを制限することによって、前面236の明白な拡張を防ぐ(図1に全体的に示す)。別の実施形態では、弁輪形成リング30の前方区画242は、もう少し剛性のある構成になっている(例えば、引張部材34は、比較的細いワイヤを含んでおり、このワイヤは、補強要素32より可撓性は高いが、前面236の形を或る程度変える際に支援するように働く所定の形状を有している)。この代替構成では、前方区画242は、なお、前面236の自然な運動と共に動くことができ、ピンと張った状態にあるときは、弁輪形成リング30、特に補強要素32の明白な拡張を防ぐ。
【0053】
本発明の原理による弁輪形成リングは、今迄の設計に優る著しい改良を提供している。従来の弁輪形成リングとは異なり、本発明の原理による弁輪形成リングは、修復が行われる弁輪の対応する面が自然な運動を容易に行えるようにし、同時に、修復された弁の明白な拡張に対し十分に抵抗する。
【0054】
以上、本発明について好適な実施形態を参照しながら説明してきたが、当業者には理解頂けるように、本発明の精神及び範囲から逸脱すること無く、形態及び細部に変更を加えることができる。
【0055】
本発明の第1の態様は、弁輪を有する房室弁を修復するための弁輪形成リングであって、シースと、シース内の弓形の補強要素であって、或る横方向間隔だけ離して配置されている別々の第1端部と第2端部を画定している補強要素と、補強要素の両端部の間を伸張している引張部材とを備え、引張部材は補強要素より可撓性が高いことを特徴とし、引張部材が実質的に伸びず、弁輪形成リングに外部の力が掛かったときに第1端部と第2端部との間の横方向間隔が拡がるのを防ぐ、ピンと張った状態を提供するように構成されている。
【0056】
本発明の第2の態様は、第1の態様の弁輪形成リングにおいて、リングは、最終組み付け時に引張部材が自然にピンと張った状態になるように構成されている。
【0057】
本発明の第3の態様は、第2の態様の弁輪形成リングにおいて、引張部材は、ピンと張った状態で第1端部と第2端部の間の横方向間隔を圧縮できるように構成されている。
【0058】
本発明の第4の態様は、第3の態様の弁輪形成リングにおいて、引張部材は、ピンと張った状態から引張部材がサドル形状を画定する撓んだ状態に移行することができる。
【0059】
本発明の第5の態様は、第1の態様の弁輪形成リングにおいて、引張部材は、ピンと張った状態で、弁輪形成リングに1ポンドの横方向張力荷重が掛かったときに第1端部と第2端部の間の横方向間隔が0.2インチより大きく増すことのないように構成されている。
【0060】
本発明の第6の態様は、第5の態様の弁輪形成リングにおいて、弁輪形成リングは、引張部材が無い状態で、1ポンドの横方向引っ張り荷重が掛かったときに、横方向間隔が0.3インチより大きく増すことを特徴とする。
【0061】
本発明の第7の態様は、第1の態様の弁輪形成リングにおいて、引張部材は、補強要素の第1端部及び第2端部に接続されている縫合糸を含んでいる。
【0062】
本発明の第8の態様は、第7の態様の弁輪形成リングにおいて、縫合糸は、補強要素の第1端部と第2端部との間に輪掛けされて、複数の区画リンクを画定している。
【0063】
本発明の第9の態様は、第8の態様の弁輪形成リングにおいて、縫合糸は、補強要素に組み付けられて、少なくとも1つの自己締め付け式の結び目を形成している。
【0064】
本発明の第10の態様は、第8の態様の弁輪形成リングにおいて、縫合糸の第1端部は第1結び目によって補強要素の第1端部に固定されており、縫合糸の第2端部は第2結び目によって補強要素の第2端部に固定されている。
【0065】
本発明の第11の態様は、第7の態様の弁輪形成リングにおいて、引張部材は、複数の縫合糸を含んでいる。
【0066】
本発明の第12の態様は、第7の態様の弁輪形成リングにおいて、補強要素は第1端部と第2端部のそれぞれに目穴を形成しているワイヤを含み、縫合糸は目穴のそれぞれに接続されている。
【0067】
本発明の第13の態様は、第1の態様の弁輪形成リングにおいて、引張部材は、全体がシース内に配置されている。
【0068】
本発明の第14の態様は、第13の態様の弁輪形成リングにおいて、シースは、補強要素を包み込む第1部分と、第1端部と第2端部との間を伸張し、引張部材の大部分を包み込む第2部分であって、第1端部に隣接する第1区画と第2端部に隣接する第2区画とを有する第2部分と、を画定しており、弁輪形成リングは、更に、シースの第1区画を貫く第1針目と、シースの第2区画を貫く第2針目と、を備えており、針目はシースのほつれを制限するように構成されている。
【0069】
本発明の第15の態様は、第1の態様の弁輪形成リングにおいて、補強要素は、サドル形状を有している。
【0070】
本発明の第16の態様は、第1の態様の弁輪形成リングにおいて、弁輪形成リングは、長軸直径を補強要素の両端に隣接して画定し、短軸直径を引張部材と補強要素の引張部材とは反対側の点との間に画定し、短軸直径/長軸直径の比率は0.6より大きくない。
【0071】
本発明の第17の態様は、第16の態様の弁輪形成リングにおいて、比率は、0.4から0.6の範囲内にある。
【0072】
本発明の第18の態様は、第1の態様の弁輪形成リングにおいて、引張部材は、引張部材に自然な状態で補強要素が画定する主平面に対して面外の曲率を付与する可撓性ワイヤを含んでいる。
【0073】
本発明の第19の態様は、患者の心臓弁に弁輪形成手術を行って弁輪を画定する際に外科医が使用するための弁輪形成リングとホルダーの組み合わせであって、組み合わせは、弁輪形成リングと弁輪形成リングを選択的に維持するホルダーを備えており、弁輪形成リングは、シースと、シース内の弓形の補強要素であって、或る横方向間隔だけ離して配置されている別々の第1端部と第2端部を画定している補強要素と、補強要素の両端部の間を伸張している引張部材とを含んでおり、引張部材は補強要素より可撓性が高いことを特徴とし、引張部材が実質的に伸びず、弁輪形成リングに外部の力が掛かったときに横方向間隔が拡がるのを防ぐ、ピンと張った状態を提供するように構成されており、ホルダーは、補強要素の曲率と概ね同じ第1曲率を第1面内に形成し、引張部材を湾曲した配置に保持するための第2曲率を第1面とは異なる第2面内に形成するリング保持プレートを含んでいる。
【0074】
本発明の第20の態様は、第19の態様の組み合わせにおいて、第2面は、第1面に概ね垂直である。
【0075】
本発明の第21の態様は、第19の態様の組み合わせにおいて、引張部材は、第2曲率に沿うよう構成されている。
【0076】
本発明の第22の態様は、第21の態様の組み合わせにおいて、引張部材は、リング保持プレートから解放されると第2曲率から変化することができるように構成されている。
【0077】
本発明の第23の態様は、僧帽弁輪に移植するための弁輪形成リングであって、シースと、シース内の弓形の補強要素であって、或る横方向間隔だけ離して配置されている第1端部と第2端部を画定している補強要素と、補強要素の両端部の間を伸張している引張部材であって、補強要素より可撓性が高いことを特徴とする引張部材とを備え、弁輪形成リングは、引張部材に対応する領域に沿う前方区画であって、僧帽弁輪の前面に移植されるようになっている前方区画と、補強要素に対応する領域に沿う後方区画であって、僧帽弁輪の後面に移植されるようになっている後方区画と、を画定しており、補強要素は僧帽弁輪を改造するようになっており、引張部材は僧帽弁輪の前面の自然な構造に沿うように構成されている。
【0078】
本発明の第24の態様は、第23の態様の弁輪形成リングにおいて、引張部材は、引張部材が実質的に伸びず、弁輪形成リングに外部の力が掛かったときに補強要素の第1端部と第2端部との間の横方向間隔が拡がるのを防ぐ、ピンと張った状態を提供するように構成されている。
【0079】
本発明の第25の態様は、第23の態様の弁輪形成リングにおいて、引張部材は、僧帽弁輪の前面の運動と共に動くように構成されている。
【0080】
本発明の第26の態様は、第23の態様の弁輪形成リングにおいて、補強要素は、僧帽弁輪の後面の自然な収縮期の形状に概ね沿う形状を有している。
【0081】
本発明の第27の態様は、第23の態様の弁輪形成リングにおいて、補強要素は、サドル形状を有している。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
弁輪を有する房室弁を修復するための弁輪形成リングであって、
シースと、
前記シース内の弓形の補強要素であって、或る横方向間隔だけ離して配置されている別々の第1端部と第2端部を画定している補強要素と、
前記補強要素の両端部の間を伸張している引張部材と、を備え、
前記引張部材は前記補強要素より可撓性が高いことを特徴とし、当該引張部材が実質的に伸びず、前記弁輪形成リングに外部の力が掛かったときに前記第1端部と前記第2端部との間の前記横方向間隔が拡がるのを防ぐ、張力が働いている状態を提供するように構成され、
前記補強要素は、剛性又は半剛性の金属ワイヤを含み、
前記引張部材は、編組ポリエステル、ポリマー又は布糸、金属ワイヤ糸のいずれか一つから形成された縫合糸を含み、
前記リングは、最終組み付け時に前記引張部材が自然に前記張力が働いている状態になるように構成され、
前記引張部材は、前記張力が働いている状態で前記第1端部と前記第2端部の間の横方向間隔を圧縮できるように構成され、
前記引張部材は、前記張力が働いている状態から当該引張部材がサドル形状を画定する撓んだ状態に移行することができる、弁輪形成リング。
【請求項2】
前記引張部材は、前記張力が働いている状態で、前記弁輪形成リングに1ポンドの横方向張力荷重が掛かったときに前記第1端部と前記第2端部の間の横方向間隔が0.2インチより大きく増すことのないように構成されている、請求項1に記載の弁輪形成リング。
【請求項3】
前記弁輪形成リングは、前記引張部材が無い状態で、1ポンドの横方向引っ張り荷重が掛かったときに、前記横方向間隔が0.3インチより大きく増すことを特徴とする、請求項2に記載の弁輪形成リング。
【請求項4】
前記引張部材は、前記補強要素の前記第1端部及び前記第2端部に接続されている縫合糸を含んでいる、請求項1に記載の弁輪形成リング。
【請求項5】
前記縫合糸は、前記補強要素の前記第1端部と前記第2端部との間に輪掛けされて、複数の区画リンクを画定している、請求項4に記載の弁輪形成リング。
【請求項6】
前記縫合糸は、前記補強要素に組み付けられて、少なくとも1つの自己締め付け式の結び目を形成している、請求項5に記載の弁輪形成リング。
【請求項7】
前記縫合糸の第1端部は第1結び目によって前記補強要素の当該第1端部に固定されており、
前記縫合糸の第2端部は第2結び目によって当該補強要素の前記第2端部に固定されている、請求項5に記載の弁輪形成リング。
【請求項8】
前記引張部材は、複数の縫合糸を含んでいる、請求項4に記載の弁輪形成リング。
【請求項9】
前記補強要素は前記第1端部と前記第2端部のそれぞれに目穴を形成しているワイヤを含み、
前記縫合糸は前記目穴のそれぞれに接続されている、請求項4に記載の弁輪形成リング。
【請求項10】
前記引張部材は、全体が前記シース内に配置されている、請求項1に記載の弁輪形成リング。
【請求項11】
前記シースは、前記補強要素を包み込む第1部分と、前記第1端部と前記第2端部との間を伸張し、前記引張部材の大部分を包み込む第2部分であって、前記第1端部に隣接する第1区画と前記第2端部に隣接する第2区画とを有する第2部分と、を画定しており、
前記弁輪形成リングは、更に、
前記シースの前記第1区画を貫く第1針目と、
前記シースの前記第2区画を貫く第2針目と、を備えており、
前記針目は前記シースのほつれを制限するように構成されている、請求項10に記載の弁輪形成リング。
【請求項12】
前記補強要素は、サドル形状を有している、請求項1に記載の弁輪形成リング。
【請求項13】
前記弁輪形成リングは、長軸直径を前記補強要素の両端に隣接して画定し、短軸直径を前記引張部材と当該補強要素の当該引張部材とは反対側の点との間に画定し、
前記短軸直径/長軸直径の比率は0.6より大きくない、請求項1に記載の弁輪形成リング。
【請求項14】
前記比率は、0.4から0.6の範囲内にある、請求項13に記載の弁輪形成リング。
【請求項15】
前記引張部材は、前記引張部材に自然な状態で前記補強要素が画定する主平面に対して面外の曲率を付与する可撓性ワイヤを含んでいる、請求項1に記載の弁輪形成リング。
【請求項16】
患者の心臓弁に弁輪形成手術を行って弁輪を画定する際に外科医が使用するための弁輪形成リングとホルダーの組み合わせであって、当該組み合わせは、弁輪形成リングと当該弁輪形成リングを選択的に維持するホルダーを備えており、
前記弁輪形成リングは、
シースと、
前記シース内の弓形の補強要素であって、或る横方向間隔だけ離して配置されている別々の第1端部と第2端部を画定している補強要素と、
前記補強要素の両端部の間を伸張している引張部材と、を含んでおり、
前記引張部材は前記補強要素より可撓性が高いことを特徴とし、当該引張部材が実質的に伸びず、前記弁輪形成リングに外部の力が掛かったときに前記横方向間隔が拡がるのを防ぐように構成され、
前記補強要素は、剛性又は半剛性の金属ワイヤを含み、
前記引張部材は、編組ポリエステル、ポリマー又は布糸、金属ワイヤ糸のいずれか一つから形成された縫合糸を含み、
前記ホルダーは、前記補強要素の曲率と概ね同じ第1曲率を第1面内に形成し、前記引張部材を湾曲した配置に保持するための第2曲率を前記第1面とは異なる第2面内に形成するリング保持プレートを含んでいる、組み合わせ。
【請求項17】
前記第2面は、前記第1面に概ね垂直である、請求項16に記載の組み合わせ。
【請求項18】
前記引張部材は、前記第2曲率に沿うよう構成されている、請求項16に記載の組み合わせ。
【請求項19】
前記引張部材は、前記リング保持プレートから解放されると前記第2曲率から変化することができるように構成されている、請求項18に記載の組み合わせ。
【請求項20】
僧帽弁輪に移植するための弁輪形成リングであって、
シースと、
前記シース内の弓形の補強要素であって、或る横方向間隔だけ離して配置されている第1端部と第2端部を画定している補強要素と、
前記補強要素の両端部の間を伸張している引張部材であって、前記補強要素より可撓性が高いことを特徴とする引張部材と、を備え、
前記弁輪形成リングは、
前記引張部材に対応する領域に沿う前方区画であって、前記僧帽弁輪の前面に移植されるようになっている前方区画と、
前記補強要素に対応する領域に沿う後方区画であって、前記僧帽弁輪の後面に移植されるようになっている後方区画と、を画定しており、
前記補強要素は、前記僧帽弁輪の前記後面の自然な収縮期の形状に概ね沿う形状を有し、
前記引張部材は前記僧帽弁輪の前記前面の自然な構造に沿うように構成されており、
前記引張部材は、前記第1端部と前記第2端部との間で張力が働いている状態から当該引張部材がサドル形状を画定する撓んだ状態に移行することができる、弁輪形成リング。
【請求項21】
前記引張部材は、前記前記引張部材が実質的に伸びず、前記弁輪形成リングに外部の力が掛かったときに前記補強要素の第1端部と第2端部との間の前記横方向間隔が拡がるのを防ぐように構成され、
前記補強要素は、剛性又は半剛性の金属ワイヤを含み、
前記引張部材は、編組ポリエステル、ポリマー又は布糸、金属ワイヤ糸のいずれか一つから形成された縫合糸を含む、請求項20に記載の弁輪形成リング。
【請求項22】
前記引張部材は、前記僧帽弁輪の前記前面の運動と共に動くように構成されている、請求項20に記載の弁輪形成リング。
【請求項23】
前記補強要素は、サドル形状を有している、請求項20に記載の弁輪形成リング。
【請求項1】
弁輪を有する房室弁を修復するための弁輪形成リングであって、
シースと、
前記シース内の弓形の補強要素であって、或る横方向間隔だけ離して配置されている別々の第1端部と第2端部を画定している補強要素と、
前記補強要素の両端部の間を伸張している引張部材と、を備え、
前記引張部材は前記補強要素より可撓性が高いことを特徴とし、当該引張部材が実質的に伸びず、前記弁輪形成リングに外部の力が掛かったときに前記第1端部と前記第2端部との間の前記横方向間隔が拡がるのを防ぐ、張力が働いている状態を提供するように構成され、
前記補強要素は、剛性又は半剛性の金属ワイヤを含み、
前記引張部材は、編組ポリエステル、ポリマー又は布糸、金属ワイヤ糸のいずれか一つから形成された縫合糸を含み、
前記リングは、最終組み付け時に前記引張部材が自然に前記張力が働いている状態になるように構成され、
前記引張部材は、前記張力が働いている状態で前記第1端部と前記第2端部の間の横方向間隔を圧縮できるように構成され、
前記引張部材は、前記張力が働いている状態から当該引張部材がサドル形状を画定する撓んだ状態に移行することができる、弁輪形成リング。
【請求項2】
前記引張部材は、前記張力が働いている状態で、前記弁輪形成リングに1ポンドの横方向張力荷重が掛かったときに前記第1端部と前記第2端部の間の横方向間隔が0.2インチより大きく増すことのないように構成されている、請求項1に記載の弁輪形成リング。
【請求項3】
前記弁輪形成リングは、前記引張部材が無い状態で、1ポンドの横方向引っ張り荷重が掛かったときに、前記横方向間隔が0.3インチより大きく増すことを特徴とする、請求項2に記載の弁輪形成リング。
【請求項4】
前記引張部材は、前記補強要素の前記第1端部及び前記第2端部に接続されている縫合糸を含んでいる、請求項1に記載の弁輪形成リング。
【請求項5】
前記縫合糸は、前記補強要素の前記第1端部と前記第2端部との間に輪掛けされて、複数の区画リンクを画定している、請求項4に記載の弁輪形成リング。
【請求項6】
前記縫合糸は、前記補強要素に組み付けられて、少なくとも1つの自己締め付け式の結び目を形成している、請求項5に記載の弁輪形成リング。
【請求項7】
前記縫合糸の第1端部は第1結び目によって前記補強要素の当該第1端部に固定されており、
前記縫合糸の第2端部は第2結び目によって当該補強要素の前記第2端部に固定されている、請求項5に記載の弁輪形成リング。
【請求項8】
前記引張部材は、複数の縫合糸を含んでいる、請求項4に記載の弁輪形成リング。
【請求項9】
前記補強要素は前記第1端部と前記第2端部のそれぞれに目穴を形成しているワイヤを含み、
前記縫合糸は前記目穴のそれぞれに接続されている、請求項4に記載の弁輪形成リング。
【請求項10】
前記引張部材は、全体が前記シース内に配置されている、請求項1に記載の弁輪形成リング。
【請求項11】
前記シースは、前記補強要素を包み込む第1部分と、前記第1端部と前記第2端部との間を伸張し、前記引張部材の大部分を包み込む第2部分であって、前記第1端部に隣接する第1区画と前記第2端部に隣接する第2区画とを有する第2部分と、を画定しており、
前記弁輪形成リングは、更に、
前記シースの前記第1区画を貫く第1針目と、
前記シースの前記第2区画を貫く第2針目と、を備えており、
前記針目は前記シースのほつれを制限するように構成されている、請求項10に記載の弁輪形成リング。
【請求項12】
前記補強要素は、サドル形状を有している、請求項1に記載の弁輪形成リング。
【請求項13】
前記弁輪形成リングは、長軸直径を前記補強要素の両端に隣接して画定し、短軸直径を前記引張部材と当該補強要素の当該引張部材とは反対側の点との間に画定し、
前記短軸直径/長軸直径の比率は0.6より大きくない、請求項1に記載の弁輪形成リング。
【請求項14】
前記比率は、0.4から0.6の範囲内にある、請求項13に記載の弁輪形成リング。
【請求項15】
前記引張部材は、前記引張部材に自然な状態で前記補強要素が画定する主平面に対して面外の曲率を付与する可撓性ワイヤを含んでいる、請求項1に記載の弁輪形成リング。
【請求項16】
患者の心臓弁に弁輪形成手術を行って弁輪を画定する際に外科医が使用するための弁輪形成リングとホルダーの組み合わせであって、当該組み合わせは、弁輪形成リングと当該弁輪形成リングを選択的に維持するホルダーを備えており、
前記弁輪形成リングは、
シースと、
前記シース内の弓形の補強要素であって、或る横方向間隔だけ離して配置されている別々の第1端部と第2端部を画定している補強要素と、
前記補強要素の両端部の間を伸張している引張部材と、を含んでおり、
前記引張部材は前記補強要素より可撓性が高いことを特徴とし、当該引張部材が実質的に伸びず、前記弁輪形成リングに外部の力が掛かったときに前記横方向間隔が拡がるのを防ぐように構成され、
前記補強要素は、剛性又は半剛性の金属ワイヤを含み、
前記引張部材は、編組ポリエステル、ポリマー又は布糸、金属ワイヤ糸のいずれか一つから形成された縫合糸を含み、
前記ホルダーは、前記補強要素の曲率と概ね同じ第1曲率を第1面内に形成し、前記引張部材を湾曲した配置に保持するための第2曲率を前記第1面とは異なる第2面内に形成するリング保持プレートを含んでいる、組み合わせ。
【請求項17】
前記第2面は、前記第1面に概ね垂直である、請求項16に記載の組み合わせ。
【請求項18】
前記引張部材は、前記第2曲率に沿うよう構成されている、請求項16に記載の組み合わせ。
【請求項19】
前記引張部材は、前記リング保持プレートから解放されると前記第2曲率から変化することができるように構成されている、請求項18に記載の組み合わせ。
【請求項20】
僧帽弁輪に移植するための弁輪形成リングであって、
シースと、
前記シース内の弓形の補強要素であって、或る横方向間隔だけ離して配置されている第1端部と第2端部を画定している補強要素と、
前記補強要素の両端部の間を伸張している引張部材であって、前記補強要素より可撓性が高いことを特徴とする引張部材と、を備え、
前記弁輪形成リングは、
前記引張部材に対応する領域に沿う前方区画であって、前記僧帽弁輪の前面に移植されるようになっている前方区画と、
前記補強要素に対応する領域に沿う後方区画であって、前記僧帽弁輪の後面に移植されるようになっている後方区画と、を画定しており、
前記補強要素は、前記僧帽弁輪の前記後面の自然な収縮期の形状に概ね沿う形状を有し、
前記引張部材は前記僧帽弁輪の前記前面の自然な構造に沿うように構成されており、
前記引張部材は、前記第1端部と前記第2端部との間で張力が働いている状態から当該引張部材がサドル形状を画定する撓んだ状態に移行することができる、弁輪形成リング。
【請求項21】
前記引張部材は、前記前記引張部材が実質的に伸びず、前記弁輪形成リングに外部の力が掛かったときに前記補強要素の第1端部と第2端部との間の前記横方向間隔が拡がるのを防ぐように構成され、
前記補強要素は、剛性又は半剛性の金属ワイヤを含み、
前記引張部材は、編組ポリエステル、ポリマー又は布糸、金属ワイヤ糸のいずれか一つから形成された縫合糸を含む、請求項20に記載の弁輪形成リング。
【請求項22】
前記引張部材は、前記僧帽弁輪の前記前面の運動と共に動くように構成されている、請求項20に記載の弁輪形成リング。
【請求項23】
前記補強要素は、サドル形状を有している、請求項20に記載の弁輪形成リング。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12A】
【図12B】
【図13】
【図14A】
【図14B】
【図14C】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12A】
【図12B】
【図13】
【図14A】
【図14B】
【図14C】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2012−61364(P2012−61364A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−289398(P2011−289398)
【出願日】平成23年12月28日(2011.12.28)
【分割の表示】特願2009−513291(P2009−513291)の分割
【原出願日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【出願人】(507020152)メドトロニック,インコーポレイテッド (20)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年12月28日(2011.12.28)
【分割の表示】特願2009−513291(P2009−513291)の分割
【原出願日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【出願人】(507020152)メドトロニック,インコーポレイテッド (20)
【Fターム(参考)】
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